平成14(ネ)1674 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成16年9月7日 大阪高等裁判所 棄却 大阪地方裁判所 平成10(ワ)9698
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判決文本文23,378 文字)

判決 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 〔国立大学法人法(平成15年法律第112号),国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(同年法律第117号)に基づき,平成16年4月1日に国立大学法人が成立し,それに伴い,国立大学法人の成立の際現に国が有する権利及び義務のうち,各国立大学法人が行う業務に関するものは,その時において当該国立大学法人が承継することとなった〔国立大学法人法附則9条,同法施行令(平成15年政令第478号)附則4条〕から,本件訴訟における被控訴人たる地位も国立大学法人大阪大学が当然に承継したものと解される。なお,以下において「被控訴人」というときは,便宜上訴訟承継前の被控訴人である国を指すことがある。〕第1 申立て 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,1億5507万2520円及びこれに対する平成10年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。 (4) 仮執行宣言 2 被控訴人(1) 主文同旨(2) 仮執行免脱宣言第2 事案の概要等 1 以下のとおり付加,訂正,削除するほか,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁8行目の「後遺障害が生じた」の次に「など」を加える。 (2) 同3頁17行目の「(ア)(イ)」を「(ア),(イ)」に改める。 (3) 同5頁16行目の「オトガイ下」を「左顎下」に改める。 (4) 同7頁10行目末尾を改行して以下のとおり加える。 「クまた,仮にオトガイ下リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤が存在したとしても,腫瘍の病期段階〔CT検 イ下」を「左顎下」に改める。 (4) 同7頁10行目末尾を改行して以下のとおり加える。 「クまた,仮にオトガイ下リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤が存在したとしても,腫瘍の病期段階〔CT検査の結果(乙1の2の304頁)は,アメリカ癌協会の頸部リンパ節の病期分類(甲48の283頁)中の最低ランクのN0段階(描出されたすべてのリンパ節が1.5㎝未満で,CTあるいはMRIで中心部に低濃度あるいは低信号強度の成分を有さない。)であった。〕や下顎骨への浸潤がないこと(乙1の2の311頁)からすると,安全域も含めて,予防的に広範囲に全頸部を郭清し,下顎骨を部分切除するまでの必要性はなかった。」(5) 同頁14行目の「当該病変」を「上記節外浸潤部分」に改める。 (6) 同頁23行目の「オトガイ下リンパ節」から24行目の「すれば,」までを削除し,同行の「オトガイ下リンパ節への癌転移」を「左顎下部の腫瘤」に改める。 (7) 同9頁2行目の「オトガイ下リンパ節への転移癌」を「左顎下部の腫瘤」に改める。 (8) 同頁3行目の「過失がある。」の次に「また,仮に,被控訴人病院医師らが白板症であって癌化することはあり得ないとして軽視していた控訴人の舌縁部に癌があり,同年2月4日までにそれがオトガイ下リンパ節に転移していたとすると,A医師は,舌癌を見逃したことになり,その点について過失がある。」を加える。 (9) 同11頁8行目の「上記病変」を「上記リンパ節」に改め,13行目の「迅速病理検査」の次に「及び同手術後の一般病理検査」を加える。 (10) 同12頁8行目の「オトガイ下リンパ節」から9行目の「れば,」までを削除する。 (11) 同頁12行目から14行目までを以下のとおりに改める。 「ア扁平上皮癌の頸部リンパ節転移に対しては,術後の放射線照射を行わないの トガイ下リンパ節」から9行目の「れば,」までを削除する。 (11) 同頁12行目から14行目までを以下のとおりに改める。 「ア扁平上皮癌の頸部リンパ節転移に対しては,術後の放射線照射を行わないのが平成4年当時の医療水準であった。」(12) 同頁25行目の「オトガイ下リンパ節はもちろん,節外浸潤部分の腫瘍」を「左顎下部の腫瘤」に改める。 (13) 同14頁11行目の「被告病院医師のオトガイ下リンパ節の転移癌」を「左顎下部の腫瘤」に,14行目の「腫瘍」を「腫瘤」に,それぞれ改める。 (14) 同頁15行目の「行わざるを得ず」を「行うことになり」に,19行目から20行目にかけての「転移前に原発巣を含めて腫瘍を」を「上記腫瘤を」に,それぞれ改める。 (15) 同15頁6行目の「節外転移」を「節外浸潤」に改め,14行目の「オトガイ下リンパ節」から15行目の「れば,」までを削除する。 (16) 同17頁3行目の「骨髄抑制」を「骨髄機能抑制」に改める。 (17) 同23頁14行目の「再建術が」を「再建術を行うことが」に改め,25行目の「平成6年以降」を削除する。 (18) 同24頁22行目の「設立した」を「設立された」に,同行の「設計管理及び」を「設計管理,」に,それぞれ改める。 2 原審は,平成4年2月4日の手術中に迅速病理検査が行われ,その結果,控訴人の左オトガイ下に存在した径5ミリメートルのリンパ節に転移性の扁平上皮癌が確認され,これが節外浸潤を起こして顎下部に径10ミリメートル大の腫瘍を形成していることが確認されたのであるから,争点(1)に関する控訴人の主張は前提を欠くものである,A医師は,平成3年6月24日から同年11月26日までの各診察日において,リンパ節の異常がないかを触診で確認したが,異常を認めなかったのであるから,これらの診察日において 張は前提を欠くものである,A医師は,平成3年6月24日から同年11月26日までの各診察日において,リンパ節の異常がないかを触診で確認したが,異常を認めなかったのであるから,これらの診察日において,超音波,CT及びMRI検査等の精密検査を行うべき義務があったということはできない,同年12月24日時点において,翌年1月10日まで経過観察するとのA医師の判断が,医師としての合理的な裁量の範囲を逸脱しているということはできないし,被控訴人病院医師に,上記リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤の発見が遅れた過失があるということはできない,控訴人の生命にかかわるという癌の性質,放射線性骨壊死が生じる確率からすると,被控訴人病院における控訴人に対する放射線照射量が,医師としての合理的な裁量の範囲を逸脱したものであったということはできない,B医師は,控訴人に対し,放射線の術後照射の必要性の程度とその理由,骨髄炎等の後遺症が発生する可能性があること,場合によっては下顎骨の部分切除が必要となり得ることなどについて説明をしたことが認められるから,被控訴人病院医師は説明義務を尽くしたということができる,被控訴人病院医師は,控訴人に対し,下顎再建術の実施に当たり,手術の必要性,患者の症状及び希望に照らし,最も適応があると判断された手術方法の内容及び成功の確率,他に適応があると判断した代替的治療方法の内容及びその予後等について説明をしたことが認められるから,医師としての説明義務を尽くしたものというべきであり,その義務に違反したとすることはできないなどとして,控訴人の請求を棄却する内容の判決を言い渡した。 控訴人は,原審の判断を不服とし,前記第1の1記載の判決を求めて本件控訴を提起した。 なお,上記のとおり,当審口頭弁論終結後,国立大学法人大阪大学が本件訴 の請求を棄却する内容の判決を言い渡した。 控訴人は,原審の判断を不服とし,前記第1の1記載の判決を求めて本件控訴を提起した。 なお,上記のとおり,当審口頭弁論終結後,国立大学法人大阪大学が本件訴訟における被控訴人たる地位を承継した。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の請求は棄却すべきものであると判断する。 その理由は,以下のとおり付加,訂正,削除するほか,原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決25頁末行の「20,」の次に「21,」を加える。 (2) 同26頁1行目の「68,」の次に「91,」を加える。 (3) 同27頁16行目の「A医師が」から17行目の「同日に」までを「控訴人について,同年9月3日に」に改める。 (4) 同31頁5行目の「経緯」の次に「等」を加える。 (5) 同頁8行目から14行目までを以下のとおりに改める。 「アまず,左顎下部の腫瘤を周囲から割り出し,同腫瘤を切除して,迅速病理検査に出し,手術を一時停止した。同腫瘤は,大唾液腺(顎下唾液腺)組織に接し,顎二腹筋前腹及び顎舌骨筋上に位置しており,比較的強固な径10ミリメートル大のものであって,周囲の組織や下顎骨とも強固に癒着していた。 イ上記迅速病理検査の結果,扁平上皮癌が存在することが判明し,その結果が電話で手術室に伝えられた。」(6) 同頁15行目の「C医師らは,」の次に「リンパ節転移であると判断して,」を加える。 (7) 同頁18行目末尾を改行して以下のとおり加える。 「エその後,上記ウの切除部分が一般病理検査に出され,同検査の結果,同月6日までに,左オトガイ下の径5ミリメートルのリンパ節に転移性の扁平上皮癌が存在し,それが節外浸潤を起こして,顎下部に径10ミリメートル大の腫 ウの切除部分が一般病理検査に出され,同検査の結果,同月6日までに,左オトガイ下の径5ミリメートルのリンパ節に転移性の扁平上皮癌が存在し,それが節外浸潤を起こして,顎下部に径10ミリメートル大の腫瘤を形成していたことが判明した。」(8) 同40頁7行目及び49頁7行目の各「発生し」をいずれも「発生することがあり」に改める。 (9) 同40頁8行目及び49頁7行目の各「高頻度で起こる」をいずれも「比較的高頻度で起こり得る」に改める。 (10) 同44頁11行目から12行目にかけての「術中に,迅速病理検査が行われ,その結果」を「術中迅速病理検査及びその後の一般病理検査の結果」に改める。 (11) 同45頁8行目の「証拠」から10行目の「認められ,」までを削除する。 (12) 同頁22行目から46頁3行目までを以下のとおりに改める。 「また,証拠(甲21,乙1の2,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,病理組織学的検査(術中迅速)依頼・報告書(甲21)は,術中迅速病理検査の結果を記載したものであること,「腫瘍カルテ」中の病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)は,手術後に行われた手術摘出物中のすべてのリンパ節についての一般病理検査の結果を記載するとともに,術中迅速病理検査に出された標本について,永久標本を作製した後のより詳しい所見を記載したものであることが認められるから,上記手術当日に術中迅速病理検査の結果が判明していなかったということはできないし,病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)の他に病理組織学的検査(術中迅速)依頼・報告書(甲21)が存在すること等をもって,腫瘍カルテ(乙1の2)の記載内容が信用できないものであるということもできない。」(13) 同46頁21行目の「術中迅速病理」の次に「及びその後の一 依頼・報告書(甲21)が存在すること等をもって,腫瘍カルテ(乙1の2)の記載内容が信用できないものであるということもできない。」(13) 同46頁21行目の「術中迅速病理」の次に「及びその後の一般検査」を加える。 (14) 同頁23行目末尾を改行して以下のとおり加える。 「(3) なお,Dの鑑定書(甲98の2)中には,写真(乙1の2の293頁及び294頁)中の骨肉片は控訴人の下顎骨下縁から切り出されたものではない旨の記載がある。しかし,その鑑定手法は,MRI写真やCT写真中の下顎骨の長さ等から拡大計算したものと,上記写真中の骨肉片の長さ等から拡大計算したものとを対比するというものであるところ,元々CT写真上の測定値にはある程度の誤差が生じ得るものである上,上記写真中の骨肉片の長さの読み取りや拡大計算の過程でもある程度の誤差が生じ得るものであること,他方,同鑑定書が指摘する長さの違いは0.02ないし0.12㎝程度にとどまること,下顎骨の幅については,部位によって異なり得ること等に鑑みれば,同鑑定書中の上記記載を採用することはできない。 (4) また,控訴人は,仮にオトガイ下リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤が存在したとしても,腫瘍の病期段階や下顎骨への浸潤がないことからすると,安全域も含めて,予防的に広範囲に全頸部を郭清し,下顎骨を部分切除するまでの必要性はなかった旨主張している(争点(1)に関する控訴人の主張ク)。 しかし,前記認定(前記2(3)イ及びウ)のとおり,頭頸部扁平上皮癌については,一度遠隔転移が生じると致死的であるところ,遠隔転移の頻度は頸部リンパ節転移と有意に相関しており,また,節外浸潤も予後不良因子の一つであること,頸部リンパ節転移に対する根本的な治療法は頸部郭清術であること,舌・口腔癌の手術の場合,1ない ,遠隔転移の頻度は頸部リンパ節転移と有意に相関しており,また,節外浸潤も予後不良因子の一つであること,頸部リンパ節転移に対する根本的な治療法は頸部郭清術であること,舌・口腔癌の手術の場合,1ないし1.5センチメートルの安全域をつけた切除が行われ,下顎骨についても,腫瘍に接していなくとも切除すべき場合があることが認められるから,オトガイ下リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤が存在した以上,左側全頸部郭清術・下顎骨部分切除術を行う必要性がなかったとはいえない。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。」(15) 同頁24行目の「オトガイ下リンパ節」から25行目の「節外浸潤」までを「控訴人の左顎下部の腫瘤」に改める。 (16) 同47頁9行目の「イないしカ」を「イ,エ及びカ」に改める。 (17) 同48頁1行目の「オトガイ下リンパ節」から2行目の「節外浸潤」までを「左顎下部の腫瘤」に改める。 (18) 同頁8行目末尾を改行して以下のとおり加える。 「(4) また,控訴人は,仮に,被控訴人病院医師らが白板症であって癌化することはあり得ないとして軽視していた控訴人の舌縁部に癌があり,平成4年2月4日までにそれがオトガイ下リンパ節に転移していたとすると,A医師は,舌癌を見逃したことになり,その点について過失がある旨主張している(控訴人の主張ウ)。 しかし,仮に,E大学において舌白板症と診断されていた控訴人の左側舌縁に癌があり,それがオトガイ下リンパ節に転移していたとしても,前記の事実経過(争いのない事実等(2)及び(3)ア,前記1(1)及び(2))等に照らすと,A医師が注意義務に違反して上記舌癌ないしオトガイ下リンパ節への転移を見逃したとはいえないから,控訴人の上記主張を採用することはできない。」(19) 同頁18行目の各「腫 び(2))等に照らすと,A医師が注意義務に違反して上記舌癌ないしオトガイ下リンパ節への転移を見逃したとはいえないから,控訴人の上記主張を採用することはできない。」(19) 同頁18行目の各「腫瘍」(2か所)をいずれも「腫瘤」に改める。 (20) 同頁18行目から19行目にかけての「組織」の次に「及び下顎骨」を加える。 (21) 同50頁14行目から15行目にかけての「放射線性骨壊死が生じる確率(前記2(4)エ(イ))からすると」を「放射線性骨壊死は,放射線照射線量60グレイ程度で発生することがあり,100グレイを超えると比較的高頻度で起こり得るものの,発症確率が非常に高いとまではいえないこと(前記2(4)エ(イ)),放射線性骨髄炎が発症した場合に治癒する確率(前記2(4)エ(ウ)),及び放射線性骨髄炎が進行した場合の下顎骨の部分切除後の下顎骨再建術の成功率(前記2(6))等に鑑みると」に改める。 (22) 同頁18行目の「被告病院医師のオトガイ下リンパ節の転移癌」を「左顎下部の腫瘤」に,20行目から21行目にかけての「オトガイ下リンパ節の転移癌」を「左顎下部の腫瘤」に,それぞれ改める。 (23) 同51頁10行目の「平成4年2月24日,」の次に「放射線治療を行う前に,」を加える。 (24) 同頁22行目の「説明がされたのであるから」を「説明がされており,控訴人が放射線治療を受けることを承諾するか否かを判断するに足りる程度の説明がされたものということができるから」に,23行目の「尽くしたものということができる」を「尽くしたものということができ,説明義務に違反したと解することはできない。」に,それぞれ改める。 (25) 同53頁6行目の「被告は」を「被控訴人病院医師らは」に,16行目の「手術はしたくない」を「顔が変形する手術は受けたくない」に 義務に違反したと解することはできない。」に,それぞれ改める。 (25) 同53頁6行目の「被告は」を「被控訴人病院医師らは」に,16行目の「手術はしたくない」を「顔が変形する手術は受けたくない」に,それぞれ改める。 (26) 同57頁19行目の「及びその予後等について」を「と利害得失,予後等について」に改める。 (27) 同58頁15行目の「指摘」を「主張」に改める。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(補充)(1) 争点(1)(被控訴人病院医師に,平成4年2月4日当時,控訴人のオトガイ下リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤が存在せず,左側全頸部郭清術・左下顎骨部分切除術とその後の放射線照射を行う必要がなかったのに,これを行った過失があるか。)について当審において,控訴人は「平成4年2月4日に実施された手術(左側全頸部郭清術・左下顎骨部分切除術)の際,オトガイ下リンパ節を左右合計10個も取ったのであれば,手術痕として顎の中央部分に相当な凹みができるはずであるが,同手術後の写真(甲17,18,56の5ないし8,乙1の2の295頁及び296頁,1の3の19頁及び53頁)によれば,その形跡は全くない。被控訴人が主張するような切開線(乙1の2の168頁)では,顎中央右側のオトガイ下リンパ節まで切除することは相当困難なはずである。同手術によって摘出された肉塊(同293頁)についても,どれがオトガイ下リンパ節であって,どれが節外浸潤部分及び左顎下の腫瘤部分なのかが不明である。リンパ節転移が径5ミリメートルの段階で節外浸潤を起こすことは通常あり得ない。オトガイ下リンパ節に癌が転移するのは原則として顔面下部ないし口腔前方からしかあり得ない(甲84)ところ,控訴人の原発巣が舌腫瘍であるとすれば,その部位は左舌縁であって,顔面下部でも口腔前 得ない。オトガイ下リンパ節に癌が転移するのは原則として顔面下部ないし口腔前方からしかあり得ない(甲84)ところ,控訴人の原発巣が舌腫瘍であるとすれば,その部位は左舌縁であって,顔面下部でも口腔前方(口底前部,舌尖)でもないから,原発巣の舌から顎下部,頚部へと癌が直接的に浸潤していったと考えられる〔甲92。術中迅速標本の残りを永久標本にしたものの写真(乙54の5,6)に写っているのは,脈管構造の大きさや構造から見て小唾液腺であり,粘膜下組織に存在する小唾液腺に腫瘍が存在したということは,舌部から口腔粘膜を伝って,腫瘍が下顎部に直接浸潤したことを物語っている(甲93)。〕。腫瘍カルテ(乙1の2)の記載は信用できない〔病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)の他に病理組織学的検査(術中迅速)依頼・報告書(甲21)が存在するのは不可解である。また,筆跡鑑定の結果(甲99の2),病理組織学的検査(術中迅速)依頼・報告書(甲21)中の「頚部組織」との記載部分,及び病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)中の「⑨ではリンパ節構造はなく,結合織中あるいは唾液腺組織に接して腫瘍を認める」との記載部分は,いずれも,病理医であるF医師が記載したものではなく,同手術の担当医の1人であったG医師が記載したものであることが判明した。このことは,平成4年2月6日の病理検査結果の判明後,被控訴人病院医師らが同手術を正当化するために作出(甲21)又は記載を付加(乙1の2の310頁)した疑いが濃厚であることを物語っている。〕。これらの事情に鑑みると,オトガイ下リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤は存在しなかったというべきである。したがって,左全頸部郭清術・左下顎骨部分切除術を行う必要はなかった。」などと主張する。 しかしなが 鑑みると,オトガイ下リンパ節の転移癌及び下顎骨に接した節外浸潤は存在しなかったというべきである。したがって,左全頸部郭清術・左下顎骨部分切除術を行う必要はなかった。」などと主張する。 しかしながら,病理組織学的検査(術中迅速)依頼・報告書(甲21)は,術中迅速病理検査の結果を記載したものであること,「腫瘍カルテ」中の病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)は,手術後に行われた手術摘出物中のすべてのリンパ節についての一般病理検査の結果を記載するとともに,術中迅速病理検査に出された標本について,永久標本を作製した後のより詳しい所見を記載したものであること,腫瘍カルテ(乙1の2)の記載が信用できないとはいえないこと,平成4年2月4日の手術中の迅速病理検査及びその後の一般病理検査の結果,控訴人の左オトガイ下に存在した径5ミリメートルのリンパ節に転移性の扁平上皮癌が確認され,これが節外浸潤を起こして顎下部に径10ミリメートル大の腫瘍を形成していることが確認されたこと,したがって,争点(1)に関する控訴人の主張は前提を欠くものであることは,前記のとおりである。 そして,控訴人の上記主張及び当審において控訴人が提出した証拠〔甲71ないし110(枝番省略)〕を考慮しても,上記の判断が覆ることはないというべきである。 なお,控訴人の上記主張のうち,術中迅速標本の残りを永久標本にしたものの写真(乙54の5,6)に写っているのは小唾液腺であるとの主張については,H医師が,「majorsalivarygland」と記載しており(甲91),大唾液腺であると認めていること等に照らして,採用することができない。また,病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)中の「⑨ではリンパ節構造はなく,結合織中あるいは唾液腺組織に接し 唾液腺であると認めていること等に照らして,採用することができない。また,病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)中の「⑨ではリンパ節構造はなく,結合織中あるいは唾液腺組織に接して腫瘍を認める」との記載部分が,病理医であるF医師が記載したものではなく,同手術の担当医の1人であったG医師が記載したものであるとの主張については,Dの鑑定書(甲99の2)において対照されている文字数が多くないこと,鑑定資料1Yの第3欄の4行目から5行目までの各文字と,鑑定資料1Xの2行目から4行目までの各文字とを対比すると,必ずしも類似しているとはいえないこと等に照らして,採用することはできない。さらに,オトガイ下リンパ節を左右合計10個取った場合には,手術痕として顎の中央部分に相当な凹みができるとの主張,被控訴人が主張するような切開線では,顎中央右側のオトガイ下リンパ節まで切除することは相当困難であるとの主張,原発巣の舌から顎下部,頚部へと癌が直接的に浸潤していったとの主張については,それらを裏付ける的確な証拠はない。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (2) 争点(2)(被控訴人病院医師に,控訴人の左顎下部の腫瘤の発見が遅れた過失があるか。)について当審において,控訴人は「平成4年2月4日に実施された手術で摘出された病理標本の顕微鏡検査の結果,いずれの方向の組織断端にも癌細胞が確認され(甲91),病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)記載のとおり,「断端+」,すなわち,癌の取り残しがあり,かつ,癌細胞の筋層浸潤,脈管浸潤,神経周囲浸潤が見られる等,同手術当時既に進行癌であったことが明らかになった(甲92)。社会保険庁に対する回答(甲83の1)において,C医師は,オトガイ下リンパ節への転移ではなく 層浸潤,脈管浸潤,神経周囲浸潤が見られる等,同手術当時既に進行癌であったことが明らかになった(甲92)。社会保険庁に対する回答(甲83の1)において,C医師は,オトガイ下リンパ節への転移ではなく,「顎下リンパ節への転移」と記載している。平成3年9月3日以降ほぼ1か月に1回の診察間隔となったのは,同年8,9月ころから控訴人がA医師に対して左顎下の腫れ等の異常を訴えていたためであると考えるのが合理的である。同手術で提出された左下顎部の腫瘤が,初診時以来触知され,同年11月26日の外来カルテ(乙1の1の8,9頁)でも経過観察中とされた左顎下リンパ節と別のものだとすると,同リンパ節は同年12月24日にどうなってしまったのかが不明である。腫瘍カルテ(乙1の2)の記載は信用できず〔不自然なメモ(甲31)が後から挿入されている。また,平成4年1月30日から同年2月27日までの入院カルテとレセプトは紛失したとして提出されていない。〕,控訴人が同手術当時から丹念に診察経過等を記載していた日記メモに基づいて作成された陳述書(甲18,19)の方が信用できる。これらの事情に鑑みると,左下顎部の腫瘤について,同年11月26日までの診察において控訴人から腫れの訴えや検査の要求等はなく,同年12月24日になって初めて触知されたものである旨の原判決の認定は誤っている。したがって,同手術で摘出された左下顎部の腫瘤と,初診時以来触知された左顎下リンパ節とは,同じものであり,A医師には左下顎部の腫瘤の発見が遅れた過失があるというべきである。」などと主張する。 しかしながら,腫瘍カルテ(乙1の2)の記載は信用できないとはいえないこと,A医師は,平成3年6月24日から同年11月26日までの各診察日において,リンパ節の異常がないかを触診で確認したが,異常を認めなかったこと, 瘍カルテ(乙1の2)の記載は信用できないとはいえないこと,A医師は,平成3年6月24日から同年11月26日までの各診察日において,リンパ節の異常がないかを触診で確認したが,異常を認めなかったこと,控訴人が同年8月19日以降A医師に対して下顎部の異常を訴えていたとの事実,平成3年12月24日に触知されたリンパ節が初診時に触知されたリンパ節と同一のものであるとの事実,初診時に触知されたリンパ節が同年11月に硬くなっていたとの事実を認めるに足りる証拠はないこと,結論として,同年12月24日時点において,翌年1月10日まで経過観察するとのA医師の判断が,医師としての合理的な裁量の範囲を逸脱しているとはいえないし,被控訴人病院医師に,左顎下部の腫瘤の発見が遅れた過失があるともいえないことは,前記のとおりである。 そして,控訴人の上記主張及び当審において控訴人が提出した証拠〔甲71ないし110(枝番省略)〕を考慮しても,上記の判断が覆ることはないというべきである。 なお,控訴人の上記主張のうち,同手術において癌の取り残しがあったとの主張については,病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310頁)中の「断端+」との記載は,術中迅速病理検査に出された腫瘤部分の組織に関するものであって,最終的な手術摘出物に関するものではないこと等に照らして,採用することができない。また,平成3年9月3日以降ほぼ1か月に1回の診察間隔となったのは,同年8,9月ころから控訴人がA医師に対して左顎下の腫れ等の異常を訴えていたためであるとの主張については,それを裏付ける的確な証拠はない。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (3) 争点(3)(被控訴人病院医師に,控訴人に対する放射線の過剰照射を行った過失があるか。)について当審において,控 的確な証拠はない。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (3) 争点(3)(被控訴人病院医師に,控訴人に対する放射線の過剰照射を行った過失があるか。)について当審において,控訴人は「扁平上皮癌に対する放射線の術後照射については,正常な部位を照射する等の危険から反対意見が強かった(甲43)し,有用性について議論が多く,まとまった症例について詳細に解析した報告が少なく,疑問視する意見もあった(鑑定書記載の文献5「癌の臨床」39巻第3号226頁,231頁)。被控訴人病院口腔外科が平成4年以前に対外的に発表した文献においても,「放射線療法が手術との組み合わせにより行われるのは,多くの場合,術前照射としてである。…術後照射は原則的には不完全の場合にのみ適応となる」(甲47の739頁),「術後照射については,あらかじめ予定された治療としてこれを行うことはまれ」(同745頁)などと記載されており,扁平上皮癌の頸部リンパ節転移に対しては,術前照射は行っても,術後照射は行わないのが,同年当時の医療水準であった。また,肉眼で見えない顕微鏡レベルの腫瘍を制圧するための下顎骨に対する腫瘍致死線量(95%コントロール線量)は50ないし60グレイであり,下顎骨の正常組織を守るための組織耐容線量(5年以内に患者の5%に障害発生)は60グレイ(5年以内に患者の50%に障害が発生するのは72グレイ)である(鑑定書記載の文献1「必修放射線医学」527頁,同文献2「がん・放射線治療照射法マニュアル」3頁の表1,甲77の5頁。なお,乙9は,条件付きで70グレイを許容しているものであって,浸潤度の危険性の高い癌について一般的に70グレイを許容しているものではない。)ところ,被控訴人病院医師らが控訴人に対して行った照射量(合計73.8グレイ)は,上記60 イを許容しているものであって,浸潤度の危険性の高い癌について一般的に70グレイを許容しているものではない。)ところ,被控訴人病院医師らが控訴人に対して行った照射量(合計73.8グレイ)は,上記60グレイを超えており,E大学で受けた65グレイの照射を加味すると上記60グレイの倍以上に当たる過大な照射であった。さらに,45グレイ以上の放射線照射を受けた25名の患者が2回目に50ないし70グレイの放射線照射及び化学療法を受けた場合,4名に放射線性骨壊死が認められたとの報告がある(乙49)ように,合計100グレイを超える放射線照射は,高頻度で放射線性骨壊死が起こり得るものである。まして,控訴人の場合には,全頸部郭清術を行っており,口腔内や下顎骨周囲の血流も正常でないため,より潰瘍形成を来しやすい環境にあった上,下顎骨部分切除術も行っていたため,下顎骨の障害の発生リスクは高かった(甲82)。スペーサーは,理論どおり放射線照射線量を半減させるものではない〔甲90。平成4年2月4日に実施された手術で摘出された病理標本の顕微鏡検査の結果,術中迅速標本に組織内放射線照射の影響が残存していることが確認されている(甲92)。〕し,元々歯肉の保護を目的とするものであって,口腔底より下については無防備であり,控訴人に入れられたラジウム針の高さが4センチメートルである(甲42)ことを考慮すると,控訴人の下顎骨及び下縁は放射線を100%浴びたことになる。以上によれば,被控訴人病院医師には,控訴人に対する放射線の過剰照射を行った過失がある。」などと主張する。 しかしながら,控訴人のオトガイ下リンパ節の転移癌は,節外浸潤を起こし,顎下部に腫瘤を形成し,その腫瘤が周囲の組織及び下顎骨と強固に癒着していたこと,したがって,下顎骨とその周辺組織には,細胞レベルでの腫瘍が残 ,控訴人のオトガイ下リンパ節の転移癌は,節外浸潤を起こし,顎下部に腫瘤を形成し,その腫瘤が周囲の組織及び下顎骨と強固に癒着していたこと,したがって,下顎骨とその周辺組織には,細胞レベルでの腫瘍が残存する可能性が高く,控訴人の生命維持のため,癌を制圧するのに有効な程度の放射線照射を行うことが必要であったこと,スペーサーが下顎歯肉の舌側表面の吸収線量を約50パーセントに減じたとされていることを考慮すると,E大学で受けた放射線組織内照射による下顎部分の吸収線量は33グレイ程度であったと推認することができること,被控訴人病院において行われた放射線治療により両側下顎骨及び頸部が受けた照射量は70グレイ程度であり,この放射線照射量は腫瘍制御の観点から必要な線量であったと認められること,その半分以下の照射量では,腫瘍に対する効果としての意義が少ないことが明らかであること,同年当時の医療水準において,術後の放射線治療をすべきでないという知見が一般的であったと認めるに足りる証拠はないこと,結論として,控訴人の生命にかかわるという癌の性質,放射線性骨壊死が発症する確率(放射線照射線量60グレイ程度で発生することがあり,100グレイを超えると比較的高頻度で起こり得るものの,発症確率が非常に高いとまではいえない。),放射線性骨髄炎が発症した場合に治癒する確率(根気よく保存的処置を続けることにより,大部分が治癒する。),及び放射線性骨髄炎が進行した場合の下顎骨の部分切除後の下顎骨再建術の成功率(血管柄付き腸骨皮弁による再建方法の場合,移植組織の生着率が92%以上であった旨が報告されている。)等に鑑みると,被控訴人病院における控訴人に対する放射線照射量が,医師としての合理的な裁量の範囲を逸脱したものであったということはできないことは,前記のとおりである。 った旨が報告されている。)等に鑑みると,被控訴人病院における控訴人に対する放射線照射量が,医師としての合理的な裁量の範囲を逸脱したものであったということはできないことは,前記のとおりである。 そして,同手術の摘出物の病理標本の顕微鏡検査の結果,同標本に組織内放射線照射の影響が残存していることが確認されたからといって,必ずしもスペーサーが理論どおり放射線照射線量を半減させるものではないことが裏付けられるものではないこと〔かえって,H医師は,同標本に対する放射線照射の影響について,「腫瘍の治療効果としては著効とする程の所見ではなく,もしあったとしても軽度の効果の範囲に入るか,と思われます」などと記載している(甲91)。〕,控訴人に入れられたラジウム針の高さが4センチメートルであったからといって,必ずしも控訴人の下顎骨及び下縁は放射線を100%浴びたことが裏付けられるものではないこと等に照らすと,控訴人の上記主張及び当審において控訴人が提出した証拠〔甲71ないし110(枝番省略)〕を考慮しても,上記の判断が覆ることはないというべきである。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (4) 争点(6)(被控訴人病院医師には,放射線治療を行うに当たり,控訴人に対する説明義務違反があったか。)について当審において,控訴人は「合計138.8グレイ(E大学で受けた65グレイに,被控訴人病院で受けた73.8グレイを加えたもの)の放射線照射は,高頻度で放射線性骨壊死が起こり得るものであり,一般的には過線量である(鑑定書3頁,甲63の7頁,77の7頁,82,90の3頁)。まして,控訴人の場合には,全頸部郭清術を行っており,口腔内や下顎骨周囲の血流も正常でないため,より潰瘍形成を来しやすい環境にあったし,左下顎骨部分切除術も行っていたため,下 頁,82,90の3頁)。まして,控訴人の場合には,全頸部郭清術を行っており,口腔内や下顎骨周囲の血流も正常でないため,より潰瘍形成を来しやすい環境にあったし,左下顎骨部分切除術も行っていたため,下顎骨の障害の発生リスクは高かった(甲82)。このような重大な副作用が発生する危険性の高い放射線照射については,仮にそれが腫瘍制御の観点からは必要な線量であるとしても,患者に対して上記のような危険性を十分に説明し,患者において,その危険性を十分に理解した上で,自らその危険を引き受けた場合にのみ,正当化され得るものである(鑑定書)。したがって,被控訴人病院医師らは,控訴人に対し,①正常組織耐容線量60グレイをはるかに超えており,50%の割合で後遺症が生じる72グレイを超え,さらには75グレイ以上ならば骨髄炎や骨壊死等の合併症の危険を伴うので,本来外部照射は許されないこと,②癌の抑圧に必要な腫瘍致死線量は一般に50ないし60グレイであるので,その倍以上の照射をすることを告げた上で,骨髄炎や骨壊死等の重篤な後遺症が高度の確率で発生する危険を自ら引き受けるとの点で了解を得るべきであった。また,放射線治療の癌治療における最大の利点は,機能形態を温存できることにあるが,それを犠牲にすることにつき,控訴人の了解を十分に得るべきであった。さらに,骨壊死が起こる危険性については,照射方法,照射線量,照射部位,照射野の大きさ及び化学療法併用の有無などによって,自覚的及び他覚的症状の発生時期,発生部位,強度等が異なり,個人差もかなり認められる(乙51の747頁)のであるから,控訴人の場合の具体的な副作用の可能性について言及しない限り,上記のような意味での十分な説明を行ったとはいえない。インフォームドコンセントを得たというためには,説明内容から予見可能な事態しか現 ら,控訴人の場合の具体的な副作用の可能性について言及しない限り,上記のような意味での十分な説明を行ったとはいえない。インフォームドコンセントを得たというためには,説明内容から予見可能な事態しか現実に生じていない場合でなければならない。他方,被控訴人病院医師らは,控訴人に対する放射線照射が一般的には過線量であるため,上記のような十分な説明が必要であるという認識を持っていなかったこと〔そのことは,原審における証人I医師の証言内容(E大学における65グレイの組織内照射は,計算上無関係であるとの趣旨のもの)からも明らかである。〕から,被控訴人病院医師らが上記のような意味での十分な説明を行ったはずがない。また,仮にB医師が控訴人に対して論文(乙51)を示しながら説明したとしても,診療室において突然に専門家向けの学術論文を示された素人の患者がその内容を読みこなすことは不可能であるから,十分な説明がなされたとはいえない。診療録(乙1の3)及び看護記録(乙31)中の放射線照射前の説明に関する記述は,「RTの副作用等について説明し,患者の了解を得た」(乙1の3の20頁)との1行のみである〔晩発性障害(合併症)についての記述は全くない。〕,B医師の陳述書(乙34,50)やI医師の陳述書(乙23)は,9年以上が経過してから訴訟対策として作成された書面であって,証拠価値はほとんどないこと,控訴人は,平成4年3月24日午後2時ころに放射線科受診のために病室を出て,4時15分ころには病室に戻っている(乙31の1の407頁)から,同日午後3時ころから1時間以上説明をし,その後に照射した旨のB医師の陳述(乙34)は信用できないこと,同日午後2時から約15分間第1回目の放射線照射が行われたところ,最初の放射線照射が終了した段階で,これから続く治療の危険性を患者が引き その後に照射した旨のB医師の陳述(乙34)は信用できないこと,同日午後2時から約15分間第1回目の放射線照射が行われたところ,最初の放射線照射が終了した段階で,これから続く治療の危険性を患者が引き受けるかどうかの説明をしたとしても,自己決定権を尊重するための説明ではないから,意味はないこと等に鑑みると,被控訴人病院医師らは説明義務を尽くした旨の原判決の判断は誤りである。以上によれば,被控訴人病院医師らには,放射線治療を行うに当たり,控訴人に対する説明義務違反があった。」などと主張する。 しかしながら,控訴人のオトガイ下リンパ節の転移癌は,節外浸潤を起こし,顎下部に腫瘤を形成し,その腫瘤が周囲の組織及び下顎骨と強固に癒着していたこと,したがって,控訴人の下顎骨とその周辺組織には,細胞レベルでの腫瘍が残存する可能性が高く,控訴人の生命維持のためには,癌を制圧するのに有効な程度の放射線照射を行うことが必要であったこと,被控訴人病院において行われた放射線治療により両側下顎骨及び頸部が受けた照射量は70グレイ程度であり,この放射線照射量は腫瘍制御の観点から必要な線量であったと認められること,放射線性骨壊死は,放射線照射線量60グレイ程度で発生することがあり,100グレイを超えると比較的高頻度で起こり得るものの,発症確率が非常に高いとまではいえないこと,放射線性骨髄炎が発症したとしても,根気よく保存的処置を続けることにより,大部分が治癒するとされていること,放射線性骨髄炎が進行したとしても,下顎骨の部分切除後の下顎骨再建術(血管柄付き腸骨皮弁による再建方法の場合)の成功率は,術前に放射線照射を受けていた場合でも高いとされている(移植組織の生着率は92%以上であった旨が報告されている。)こと,B医師は,控訴人に対し,放射線治療を行う前に,A癌を根 方法の場合)の成功率は,術前に放射線照射を受けていた場合でも高いとされている(移植組織の生着率は92%以上であった旨が報告されている。)こと,B医師は,控訴人に対し,放射線治療を行う前に,A癌を根治的に制御するために顎部全体に5週間の放射線治療が必要であり,腫瘍が残存する可能性が高い下顎骨とその周囲組織について追加照射が必要であること,B放射線治療により下顎骨に骨髄炎・骨壊死が生じる可能性があること,C骨髄炎が発症した場合は,保存的処置を続けることにより大部分が治癒するが,保存的処置をしても骨髄炎が発症した場合には下顎骨の部分切除が必要となること,Dこれらの副作用が生じる可能性があるが,腫瘍を制御することを最も優先すべきであることを説明したことが認められること,上記の諸事情に鑑みれば,B医師は,控訴人に対し,放射線の術後照射の必要性の程度とその理由,骨髄炎等の後遺症が発生する可能性があること,場合によっては下顎骨の部分切除が必要となり得ることなどについて説明をし,控訴人が放射線治療を受けることを承諾するか否かを判断するに足りる程度の説明がされたものということができるから,被控訴人病院医師は説明義務を尽くしたということができ,説明義務に違反したと解することはできないことは,前記のとおりである。 そして,控訴人の上記主張及び当審において控訴人が提出した証拠〔甲71ないし110(枝番省略)〕を考慮しても,上記の判断が覆ることはないというべきである。 なお,控訴人の上記主張のうち,被控訴人病院医師らは,控訴人に対する放射線照射が一般的には過線量であるため,十分な説明が必要であるという認識を持っていなかった〔そのことは,原審における証人I医師の証言内容(E大学における65グレイの組織内照射は,計算上無関係であるとの趣旨のもの)からも明らか あるため,十分な説明が必要であるという認識を持っていなかった〔そのことは,原審における証人I医師の証言内容(E大学における65グレイの組織内照射は,計算上無関係であるとの趣旨のもの)からも明らかである。〕との主張については,上記証人I医師の証言内容は,腫瘍致死線量に関するものであって,組織耐容線量に関するものではないと解されること等に照らして,採用することができない。また,インフォームドコンセントを得たというためには,説明内容から予見可能な事態しか現実に生じていない場合でなければならないとの主張については,医療行為の性質上,説明当時において医学的知見に照らして予想され得る範囲の後遺症等を説明したとしても,その後,予想以上に重篤な後遺症が発生することもあり得るのであって,仮に患者にとって説明内容から予見できない事態が現実に生じたとしても,直ちに説明義務違反があったとはいえないこと等に照らして,採用することができない。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (5) 争点(7)(被控訴人病院医師には,下顎再建術施行に当たり,控訴人に対する説明義務違反があったか。)について当審において,控訴人は「一般に,医師が手術の実施に際して行うべき説明は,患者が自らの身に行われようとする療法(術式)につき,その利害得失を理解した上で,当該療法(術式)を受けるか否かについて熟慮し,決断することを助けるために行われるものであり,疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,…などについて説明する義務がある(最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)。平成6年4月12日に実施された手術の内容は,①下顎骨のうち,骨髄炎により腐食した部分を切除するために,顎下を切って骨を出し,顎骨に合わせた 1月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)。平成6年4月12日に実施された手術の内容は,①下顎骨のうち,骨髄炎により腐食した部分を切除するために,顎下を切って骨を出し,顎骨に合わせたフレームで顎間を固定し,②血管柄付き腸骨を採取・移植し,③切除した下顎骨に合わせて腸骨を細工・固定し,④フレームで補強して,血管を縫合し,骨折予防と感染予防対策を行い,下顎再建を図るというものであったところ,同手術の施行前に,控訴人が被控訴人病院医師らから説明された手術失敗の可能性の内容は,移植した腸骨からの皮弁組織が壊死するか否かに関するもののみであって,上記①,③及び④の手技に関わる失敗率やそこから生じる合併症の可能性については,全く説明されなかった。また,感染の伴う部位への移植は禁忌とされているほか,放射線照射が行われた部位へは正着しにくいとされ(甲30の9頁),放射線照射部位や瘢痕部のような血行の悪い移植床に移植された場合には,感染を起こしたり,著明な骨吸収を見ることが多く,成功率が著しく低下するとされている(甲28の48頁)。血管柄付き遊離骨の移植は,生きた骨を利用する点で優れた方法であるが,放射線照射等による骨髄炎を発症している移植床では,やはり失敗例が多いとされている(甲37の926頁,76)。控訴人の場合,下顎骨の一部が切除されて骨膜組織が失われているため,骨量が不十分であること,下顎骨周囲に組織に組織耐容線量60グレイを超える合計138.8グレイの放射線照射を左顎下部に受けていたため,粘膜や軟組織の組織活性が低下しており,手術をしても縫合不全を起こしやすいこと,緑膿菌感染があるため,術後に感染が生じるおそれが大きいこと等の事情があり,通常と同じような成功率が期待できないことは明らかであった。さらに,控訴人に対して施行された ても縫合不全を起こしやすいこと,緑膿菌感染があるため,術後に感染が生じるおそれが大きいこと等の事情があり,通常と同じような成功率が期待できないことは明らかであった。さらに,控訴人に対して施行された手術は左下顎から右下顎に及ぶ広範囲の再建術であるところ,被控訴人病院における下顎骨骨髄炎の治療成績は,病変範囲が1/2顎を超える第4群症例はいずれも予後不良であり,病変が広範囲になるほど予後不良例が増加している(甲76)上,C医師が同手術のような広範囲の切除術を執刀するのは初めての経験であった。このように控訴人に対する下顎再建術の施行は,移植骨の正着が危ぶまれる状況であったのであるから,被控訴人病院医師らは,控訴人に対し,困難な切除術であり,再建術に伴う移植床のリスクが高く,咀嚼や言語等の下顎機能を温存することは困難であることを説明し,それまで被控訴人における成功例がない骨髄炎での顎再建術であること,及び初めて広範囲の切除術を執刀するC医師による手術であることをも率直に告げ(諸外国における成功率が高いとしても,実際に患者に対する手術を行う病院及び執刀医に実績がなければ,十分な承諾とはいえない。),手術をしないで経過する場合との利害得失について十分に説明した上で,控訴人から手術の承諾を得るべきであった。しかし,J医師は,平成6年3月25日,控訴人に対し,成功率は95%であり,失敗しても大胸筋皮弁で対応でき,手術後遺症もない旨のみを説明し(カルテ等には,控訴人の場合には,局所の状態が通常よりも悪いため,成功率が低くなる旨の説明をしたことを裏付ける記載はない。),控訴人はそれを信じて上記手術を承諾してしまった。また,その後も顔貌が元通りになるかどうかを気にしている控訴人に対し,C医師は,付けば何とでもなるし,後遺症はなく,99%心配いらない旨を述 ない。),控訴人はそれを信じて上記手術を承諾してしまった。また,その後も顔貌が元通りになるかどうかを気にしている控訴人に対し,C医師は,付けば何とでもなるし,後遺症はなく,99%心配いらない旨を述べ,同手術による後遺症の存在を積極的に否定した(甲18,19)。同手術実施に伴って控訴人に実際に生じた合併症は,咀嚼,言語及び嚥下全てにおける高度障害であり,流動食以外の経口摂取は不可能で,言語による意思疎通は極めて困難であるのであって,上記のような合併症の可能性は全く告知されていなかった。 同手術を受けた当時,骨髄炎の進行は落ち着いており,緊急手術が必要であったわけではないから,同手術を受けなかった方がはるかに障害が少なかったはずであって,それにもかかわらず控訴人が同手術を受けることを承諾したのは,上記のような合併症の可能性が告知されていなかったからである。以上によれば,被控訴人病院医師らには,下顎再建術施行に当たり,控訴人に対する説明義務違反があった。」などと主張する。 しかしながら,控訴人の下顎は,平成5年ころには,左側口腔底部潰瘍が拡大し,左側下顎部を中心として腫脹が見られ,左側下顎骨が露出しており,同年末ころには,下顎骨が病的骨折を起こしていたこと,そうすると,平成6年初めころには,控訴人の下顎は高圧酸素療法等の保存療法によって小康状態を保っていたとはいえ,被控訴人病院医師らが控訴人に対して下顎骨区域切除術及び再建術を勧めたことは相当であったこと,下顎骨の部分切除後の下顎骨再建術(血管柄付き腸骨皮弁による再建方法の場合)の成功率は,術前に放射線照射を受けていた場合でも高いとされている(移植組織の生着率は92%以上であった旨が報告されている。)こと,証拠(甲28,30,37,乙11)は,いずれも,感染を伴う部位への移植が禁忌であり, 射線照射を受けていた場合でも高いとされている(移植組織の生着率は92%以上であった旨が報告されている。)こと,証拠(甲28,30,37,乙11)は,いずれも,感染を伴う部位への移植が禁忌であり,放射線照射が行われた部位では生着しにくく,成功率が著しく低下する旨の控訴人の上記主張の根拠となるものとはいえないこと,平成5年1月22日,C医師は,控訴人に対し,将来的に下顎骨区域切除術及び再建術を考えている旨を伝えた上,骨を切除して軟組織を移植し,落ち着いてから最後にプレートを入れる方法について説明したが,控訴人は顔が変形する手術は受けたくない旨の希望を述べていたこと,J医師は,平成6年1月17日,控訴人に対し,下顎骨区域切除術後の再建術について,A腸骨皮弁という血管を付けた骨と軟組織の付いたものを移植する方法では,骨が入り,あごの形ができ,機能も形態もよいものができること,B骨を入れないで金属のプレートで区域切除した両側の骨をつないで金属の板で覆ったところを上から皮弁で覆う方法は,手術手技が簡単で侵襲は少ないが,骨がないため,あごが小さくなり,顔の形や口腔の機能の低下が起こること,金属の板での上から覆う皮弁としては,大胸筋皮弁,腹直筋皮弁,前腕皮弁等があること,骨を加えることもできるが,今回はうまく付かないと考えられること,C金属のプレートを使わないで切除した部分に皮弁だけで再建をする方法は,顔の形が変わったり,機能が落ちたりすることを説明し,控訴人はAの方法を希望する旨述べたこと,同年3月25日,J医師は,控訴人に対し,Aの方法の手術の成功率は95パーセント程度であること,完全な再建はできないこと,失敗した場合には大胸筋皮弁を使用して再建することになることを説明したこと,上記の諸事情に鑑みれば,被控訴人病院医師らは,控訴人に対し,下顎 95パーセント程度であること,完全な再建はできないこと,失敗した場合には大胸筋皮弁を使用して再建することになることを説明したこと,上記の諸事情に鑑みれば,被控訴人病院医師らは,控訴人に対し,下顎再建術の実施に当たり,手術の必要性,患者の症状及び希望に照らし,最も適応があると判断された手術方法の内容及び成功の確率,他に適応があると判断した代替的治療方法の内容と利害得失,予後等について,控訴人が手術(下顎骨区域切除術及び血管柄付き腸骨皮弁移植による再建術)を受けることを承諾するか否かを判断するに足りる程度の説明をしたものということができるから,医師としての説明義務を尽くしたものというべきであり,説明義務に違反したと解することはできないことは,前記のとおりである。 そして,控訴人の上記主張及び当審において控訴人が提出した証拠〔甲71ないし110(枝番省略)〕を考慮しても,上記の判断が覆ることはないというべきである。 なお,控訴人の上記主張のうち,上記①,③及び④の手技に関わる失敗率やそこから生じる合併症の可能性については全く説明されなかったとの主張,初めて広範囲の切除術を執刀するC医師による手術であることをも告げるべきであったとの主張については,控訴人に対する下顎骨区域切除術及び再建術を執刀した被控訴人病院医師ら(C医師を含む。)について,説明義務の対象とすべき程に手技における失敗の危険性があったことを認めるに足りる的確な証拠はないこと等に照らして,採用することができない。また,控訴人の場合,通常と同じような成功率が期待できないことが明らかであり,移植骨の生着が危ぶまれる状況であったとの主張,被控訴人病院における下顎骨骨髄炎の治療成績は,病変範囲が1/2顎を超える第4群症例はいずれも予後不良であり,病変が広範囲になるほど予後不良例が あり,移植骨の生着が危ぶまれる状況であったとの主張,被控訴人病院における下顎骨骨髄炎の治療成績は,病変範囲が1/2顎を超える第4群症例はいずれも予後不良であり,病変が広範囲になるほど予後不良例が増加しているとの主張,顔貌が元通りになるかどうかを気にしている控訴人に対し,C医師が,付けば何とでもなるし,後遺症はなく,99%心配いらない旨を述べ,同手術による後遺症の存在を積極的に否定したとの主張,同手術を受けた当時,骨髄炎の進行は落ち着いており,同手術を受けなかった方がはるかに障害が少なかったはずであるとの主張については,それらを裏付ける的確な証拠はない(甲76においては,下顎区域切除術に至ったものが予後の「不良例」に含められているから,甲76をもって控訴人の主張を裏付ける証拠ということはできない。)。さらに,同手術の実施に伴って控訴人に実際に生じた合併症は,咀嚼,言語及び嚥下全てにおける高度障害であり,流動食以外の経口摂取は不可能で,言語による意思疎通は極めて困難であるのであって,上記のような合併症の可能性は全く告知されていなかったとの主張については,同手術が実施された平成6年4月当時,上記のような合併症が生じる相当程度の危険性があったことを認めるに足りる的確な証拠はないこと等に照らして,採用することができない。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 3 以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第5民事部裁判長裁判官太田幸夫裁判官細島秀勝裁判官大島眞一は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官太田幸夫 島秀勝 裁判官大島眞一は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官太田幸夫

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