主文 1 甲事件被告は,甲事件原告・乙事件被告に対し,471万4519円及びこれに対する平成13年10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 甲事件原告・乙事件被告のその余の請求及び乙事件原告の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,甲事件,乙事件を通じて,これを10分し,その7を甲事件被告の負担とし,その3を乙事件原告の負担とする。 4 この判決は,1,3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求(甲事件)甲事件被告は,甲事件原告・乙事件被告に対し,471万4519円及びこれに対する平成13年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (乙事件)甲事件原告・乙事件被告は,乙事件原告に対し,197万6600円及びこれに対する平成15年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要甲事件は,甲事件被告(以下「被告A」という)と建築請負契約を締結した甲事件原告・乙事件被告(以下「原告会社」という)が,被告Aに対し,同被告が同契約を一方的に破棄したと主張して,債務不履行に基づく損害の賠償を求めると共に,これに対する訴状送達日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。 乙事件は,本件請負代金の内金等を出捐した乙事件原告(以下「原告B」という)が,原告会社に対して,事業者である原告会社が契約締結に際して必要な調査や情報の開示を怠ったことが契約締結上の過失に当たると主張して,不法行為に基づく損害の賠償及びこれに 告(以下「原告B」という)が,原告会社に対して,事業者である原告会社が契約締結に際して必要な調査や情報の開示を怠ったことが契約締結上の過失に当たると主張して,不法行為に基づく損害の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。 1 争いのない事実(1) 当事者原告会社は土木建築工事の請負等を目的とする株式会社である。 原告B(昭和4年11月8日生)は,住所地において,妻C(昭和10年5月12日生),長男D(昭和34年10月16日生),二男被告A(昭和36年6月30日生)と同居し,農業を営む者である(以下,原告Bと被告Aを合わせて「B父子」という)。 (2) 請負契約の締結B父子は,被告Aが独立して生活するための新居を新築することを計画していた。 そこで,被告Aは,原告会社との間で,平成10年7月12日,以下のとおりの建設工事請負契約(以下「本件請負契約」という)を締結し,同日,原告Bが100万円を支払った(ただし,契約の有効性については後記のとおり争いがある)。 工事名 A邸新築工事工事場三木市甲建築面積 101.74平方メートル(30.83坪)工期着手工事許認可から60日以内完成着手から150日以内引渡完成から60日以内請負代金 1840万円支払方法契約成立時 100万円引渡時 1740万円( 完成から60日以内請負代金 1840万円支払方法契約成立時 100万円引渡時 1740万円(3) その後の経緯本件請負工事予定地が農地であったため,農地転用手続に長期間を要し,平成12年7月14日になって建築確認が得られた。 原告Bは,原告会社代表者が紹介した一級建築士のE(以下「E建築士」という)に対し,平成12年6月19日,都市計画法60条証明及び農地法4条許可申請の手数料として27万6600円を支払い,また,平成12年7月24日,建築確認申請手数料として20万円を支払った。 原告Bの長男が工事予定地に土砂を置いていたため,原告会社は本件工事に着手することができなかったが,平成13年5月ころ土砂が撤去されたので,原告会社はB父子と本件工事着工のための協議に入った。 ところが,B父子は,本件工事代金の減額を要求し始め,原告会社と折り合いがつかなくなったため,原告Bは,平成13年7月30日,本件請負契約の破棄を通告した。 2 争点本件の争点は,①本件請負契約の有効性,②被告Aが本件請負契約を中途解約したことによって原告会社が被った損害額,③原告会社に,B父子が不測の損害を被らないように配慮すべき義務又はB父子に不正確な事実を告知しない義務の違反という契約締結上の過失が認められるかどうかである。 (1) 本件請負契約の有効性ア契約内容の確定性,明確性(ア) 原告会社の主張被告Aは,建物の構造,仕様等が不明確,不特定であるという。 しかしながら,建物の構造等は,建築確 定性,明確性(ア) 原告会社の主張被告Aは,建物の構造,仕様等が不明確,不特定であるという。 しかしながら,建物の構造等は,建築確認済証添付の設計図面のとおりであった。また,仕様については,平成12年7月に建築確認を取得した際に,当事者間で協議が成立していた仕様の詳細は甲11号証記載のとおりであって,未定の箇所は,工事着工前又は工事進行中に必要に応じて協議の上で確定することになっていた。 (イ) 被告Aの認否反論本件請負契約は,請負の目的となる仕事の内容・範囲が特定されておらず,建物の構造・仕様・部材等について一切特定されていなかったし,後日の合意によってこれらが補充された事実もないのであるから,内容が不明確・不特定であり,無効である。 イ契約内容に関する錯誤,詐欺(ア) 被告Aの主張原告会社代表者は,B父子に対して,坪60万円の工事代金(建築面積30坪強であるから1840万円)で全てをまかなう,電灯,カーテンまでも備え付ける,建築に必要な行政手続も代行する,それ以外には一切費用はかからないと力説し執拗に勧誘したので,B父子は断り切れなくなって被告A名で本件請負契約を締結した。 ところが,原告会社は,各種行政手続,補強基礎工事,浄化槽(水洗便所)工事,水道本管割という,建物完成に必要不可欠な部分について,本件請負契約の範囲外であり,別途費用負担を要すると主張する。これは,被告Aにとって想像を絶する主張であり,仮に,原告会社が虚言を弄しているのでなければ,契約の内容,範囲について,原告会社と被告Aの認識が全く食い違っていることになり,錯誤があるから 張する。これは,被告Aにとって想像を絶する主張であり,仮に,原告会社が虚言を弄しているのでなければ,契約の内容,範囲について,原告会社と被告Aの認識が全く食い違っていることになり,錯誤があるから,本件請負契約は無効である。 また,原告会社は,被告Aが錯誤に陥るように不正確な事実を敢えて断定的に告知したのであるから,これは詐欺に当たる。よって,被告Aは,本件契約を本訴において取り消す。 (イ) 原告会社の認否反論たしかに,各種行政手続,べた基礎工事,浄化槽(水洗便所)工事,水道本管割工事は本件請負契約の範囲外であり,別途,B父子の費用負担を要する。 しかしながら,本件契約書の12条2項には,「外構工事,各負担金は別途とする」旨定められているし,原告会社は,B父子に対して,これらの事実を説明し,被告Aも納得して本件請負契約を締結しているのであるから,被告Aに契約の内容や代金について錯誤はない。 ウ契約の原始的不能(ア) 被告Aの主張B父子は,被告Aが実家から独立して単身で生活するための新居を設けるつもりで,被告A名で本件請負契約を締結した。 しかしながら,本件建築予定地(兵庫県三木市a字bc,同d,同c)は市街化調整地域であるから,農業を営む者ではない被告Aが居住建物を建築するためには,都道府県知事による都市計画法29条1項の開発許可又は同法43条1項の建築許可を得なければならない。ところが,兵庫県のこれらの許可基準として「兵庫県開発許可制度の運用基準」があり,これによれば,婚姻や出産によって世帯分離が必要になる場合には分家住宅の許可が認められるが,単に本家の子であると い。ところが,兵庫県のこれらの許可基準として「兵庫県開発許可制度の運用基準」があり,これによれば,婚姻や出産によって世帯分離が必要になる場合には分家住宅の許可が認められるが,単に本家の子であるというだけでは分家住宅は認められないこととされており,被告Aが単身で生活するための居宅の建築は許可を受ける余地がないのであるから,本件請負契約に基づく建物を合法的に建築することはもともと不可能であった。 したがって,本件請負契約は実現が原始的に不能という意味で無効であると共に,これを有効と信じた原告Bには錯誤があるので,その意味でも無効である。 (イ) 原告会社の認否反論争う。 分家住宅であるとか,農家住宅であるとかいった,使用目的を限定する建物を建築することが本件請負契約の内容になっていたわけではない。 たしかに,B父子は,本件新築建物に主として二男の被告Aが住むつもりであったであろうが,実質的には,旧宅と新築建物の双方を家族で使用するつもりで,本件請負契約を締結したものである。そこで,原告会社は,原告Bの納得を得て,本件建築予定建物について,農家住宅の建築許可申請をしたのである。仮に,農家住宅2棟の建築が行政取締法規に形式的に違反しているとしても,行政機関が市民の権利を否定し,強制的に新築建物を収去することはないのであるから,契約の目的が原始的に不能であるという被告Aの主張は失当である。 エ公序良俗違反(ア) 被告Aの主張本件請負契約の内容の不当性,不合理性に加えて,契約締結に至った事情(法令関係の調査不足,契約内容と建築法令に関する説明義務の不履行,協議の欠如,訪問販売によ 被告Aの主張本件請負契約の内容の不当性,不合理性に加えて,契約締結に至った事情(法令関係の調査不足,契約内容と建築法令に関する説明義務の不履行,協議の欠如,訪問販売による強引な勧誘と不退去等の押しつけ商法)は,消費者保護の見地から甚だしく不当であり,被告Aの利益を甚だしく損なうものであり,公序良俗に反するから無効である。 (イ) 原告会社の認否前記のとおり,本件請負契約には何の問題もないのであるから,公序良俗違反であるという主張も否認する。 (2) 原告会社の債務不履行に基づく損害賠償請求の可否ア原告会社の主張原告会社は,平成12年7月14日に建築確認が得られたので,同月20日に訴外Z工務店に現場工事を1417万5000円で発注し,同社は直ちに木材の加工に着手したが,そのころ,被告Aが工事場に多量の土砂を持ち込んで放置したので,原告会社は建築工事に着手できず,Z工務店も木工作業を中断した。 原告会社が被告Aに土砂の除去を再三促すと,被告Aは平成13年5月ころようやく土砂を除去して整地したが,被告Aは,請負代金の減額を要求し始め,原告会社がこれに応じないとみるや,平成13年7月30日,価格が合わないという理由で,本件請負契約を破棄する旨通知し,原告会社の工事着工を拒絶した。 原告会社は,被告Aの上記債務不履行により,次のとおり,合計571万4519円の損害を被った。 ① 下請けのZ工務店から原告会社に請求されている木材代及び加工賃合計148万9519円② 本件請負代金1840万円と,原告会社が下請けのZ工務店に発注した1417万5000円との 請けのZ工務店から原告会社に請求されている木材代及び加工賃合計148万9519円② 本件請負代金1840万円と,原告会社が下請けのZ工務店に発注した1417万5000円との差額である得べかりし利益422万5000円そして,既受領額100万円を控除すると,原告会社の損害は471万4519円である。 よって,原告会社は,被告Aに対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として471万4519円の支払いを求めると共に,これに対する平成13年10月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 イ被告Aの認否上記のとおり,本件請負契約は無効であるから,被告Aは債務不履行責任を負わない。 また,原告会社の主張する,原告会社がZ工務店に現場工事を発注した事実,及びZ工務店が木材加工に着手した事実については知らない。 (3) 原告Bの原告会社に対する契約締結上の過失に基づく損害賠償請求の成否ア原告Bの主張原告会社は,事業者として,消費者である原告Bが不測の損害を被らないように配慮すべき義務,不正確な事実を告知しない義務を負う。したがって,原告会社は,契約に先立って,居宅建築が可能かどうか調査の上で原告Bに説明すべきであるし,建設が不可能であるならば,その事情を原告Bに相談して,契約を円満に解消すべく努力すべきである。また,建物の構造・仕様や,契約内容,双方の権利義務については明確にすべきである。 ところが,原告会社は,事業者として要求されるこれらの義務を怠ったのであるから,契約締結上の過失があり,原告Bに発生した損害を賠償す 双方の権利義務については明確にすべきである。 ところが,原告会社は,事業者として要求されるこれらの義務を怠ったのであるから,契約締結上の過失があり,原告Bに発生した損害を賠償する義務がある。 原告Bが現に支出した147万6600円(本件請負契約代金内金100万円,都市計画法60条証明及び農地法4条許可申請手数料27万6600円,建築確認申請手数料20万円)は,原告会社の上記過失と相当因果関係がある損害である。 また,原告Bが訴訟代理人弁護士に支払うべき弁護士費用のうち20万円は,原告会社の上記過失と相当因果関係がある。 さらに,原告Bは,本件請負契約締結後の紛議を経て重大な精神的苦痛を受けており,これに対する慰謝料としては30万円を下らない。 よって,原告Bは原告会社に対し,197万6600円の損害賠償の支払いとこれに対する弁済期後である平成15年1月12日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 イ原告会社の認否原告Bの主張は否認する。 第3 争点に対する判断 1 本件請負契約の有効性について(1) 契約内容の明確性,特定性被告Aは,本件請負契約は,請負の目的となる仕事の内容・範囲が特定されておらず,建物の構造・仕様・部材等について一切特定されていなかったし,後日の合意によってこれらが補充された事実もないのであるから,契約内容が不明確不特定であり,無効であると主張する。 たしかに,本件請負契約締結時点においては,見積書(甲10)もなく,また,設計図面や完成予定図面,仕様書などの図面,書面もなかったことが認 不明確不特定であり,無効であると主張する。 たしかに,本件請負契約締結時点においては,見積書(甲10)もなく,また,設計図面や完成予定図面,仕様書などの図面,書面もなかったことが認められるから(原告会社代表者本人,原告B本人),建物の構造,仕様,使用部材等の基本的事項についてほとんど明確になっていなかったと認めることができる。 しかしながら,証拠(甲2,10,11,15,17ないし19,原告B本人(ただし,以下の認定に反する部分を除く),原告会社代表者本人)によれば,原告会社と被告Aは,本件契約締結後,建物の構造,仕様(甲11)等について検討を重ねて決定し,これに基づいてE建築士が設計図(甲16の9,10頁)を作成し,平成12年7月14日,兵庫県社土木事務所宛てに建築確認申請をしたことが認められる。 以上の事実に鑑みると,たしかに,当初の契約内容には特定性,明確性の点で問題があったことが認められるけれども,その後の原告会社とB父子の間の協議を通じて,建築確認申請がなされた平成12年7月ころまでには,不十分だった契約内容が補充され,明確になったと認めることができるから,本件請負契約は有効と認められる。 以上の認定に反して,原告B本人は,本件請負契約締結の前も後も,原告会社から建物の構造等について説明を受けたことも相談を受けたこともないと述べる。しかしながら,原告Bは,モジュール955(床面積30.55坪)の場合とモジュール910(床面積33.75坪)の場合とが記載され,モジュール955に関する記載の下に「こちらの方でお願いします」と記載された書面に自ら署名していることが認められ(原告B本人),このことからすると,B父子は原告会社から建物の構造,仕様等について相応の説明を受けて に関する記載の下に「こちらの方でお願いします」と記載された書面に自ら署名していることが認められ(原告B本人),このことからすると,B父子は原告会社から建物の構造,仕様等について相応の説明を受けていたと推認することができる。 (2) 錯誤,詐欺の有無被告Aは,本件請負契約上の工事代金1840万円(坪60万円)には,その後の行政手続や,補強基礎工事,浄化槽工事,水道本管割工事など建物完成に必要な全ての手続,工事を含むものと理解していたが,原告会社が,これらの手続や工事の費用は別途負担してもらう必要があると主張する以上,両者の認識には食い違いがあり,錯誤があるので本件請負契約は無効であると主張する。 たしかに,本件請負契約契約書(甲1)をみても,行政手続や上記各種工事の費用が含まれるかどうかについて必ずしも明らかでない上に,前記認定のとおり,本件請負契約締結当時,建物の構造,仕様,部材等について明確になっておらず,見積書も示されていなかったのであるから,B父子が,請負契約代金1840万円には建物完成に必要な全ての手続,工事の費用が含まれると認識したとしてもおかしくはない。 しかしながら,証拠(甲10,18,原告B本人)によれば,B父子は原告会社から,平成12年3月ころ,1849万円の本件建築予定建物工事以外に,別途工事費用120万円(地盤改良工事等に40万円,水道引き込み工事80万円),諸経費275万円(登記手続費用,農地転用手続費用,建築確認申請費用等)の合計2244万円を要する旨の見積もり(甲10)を示され,これを調達するために,被告Aが1800万円,原告Bが500万円を農協から住宅ローンとして借りる手続をしかけたところが,そのころ,工務店を経営している原告Bの兄から,「上記代金 (甲10)を示され,これを調達するために,被告Aが1800万円,原告Bが500万円を農協から住宅ローンとして借りる手続をしかけたところが,そのころ,工務店を経営している原告Bの兄から,「上記代金は高すぎる,自分がやれば坪3,40万円で工事ができる」という話を聞かされたため,原告会社に対して値引きを求めたものの,物別れに終わったため,平成13年7月30日,原告会社に対して,本件請負契約を破棄する旨の書面を送付して契約を中途解約したことが認められる。 以上の経緯に照らすと,たしかに本件請負契約締結当時においては工事代金の内訳は明確でなかったが,その後の交渉を通じて,B父子は,総工事代金や諸手続の費用として2300万円程度はかかることを最終的に了解して原告会社と合意し,いったんは2300万円の住宅ローンを組むことまで考えたことが認められる。そうすると,工事代金の内訳や総工事費用に関して両者の認識に不一致があったとは認められないから,錯誤無効や詐欺の主張を認めることはできない。 (3) 契約の原始的不能性ア証拠によれば以下のとおりの事実が認められる。 B父子は,B父子の居住する既存建物から被告Aが独立して居住する建物を建築するために,被告A名義で本件請負契約を締結した(原告B本人)。原告会社も,B父子のかかる建築目的を了解していた(原告会社代表者本人)。 そして,本件建築予定建物の建築予定地(兵庫県三木市a字bc,同d,同e)は市街化調整区域であるため,都市計画法の規制により,開発行為(建築物の建築の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更)を伴う建築の場合は同法29条1項の定める都道府県知事の開発許可を得なければならず,また,開発行為を伴わない建築の場合であっても ,開発行為(建築物の建築の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更)を伴う建築の場合は同法29条1項の定める都道府県知事の開発許可を得なければならず,また,開発行為を伴わない建築の場合であっても同法43条1項の定める都道府県知事の建築許可を得なければならない。ところが,兵庫県の定めるこれらの許可不許可の運用基準である「兵庫県開発許可制度の運用基準」(乙7の6ないし8枚目)によれば,市街化調整区域に存する本家にその世帯構成員として同居している者が,婚姻等により世帯分離(分家)する場合であれば,「分家住宅」として上記開発ないし建築許可を得ることができるが,単に本家の子であるだけでは,一般的に分家住宅の必要性が認められないため,上記許可基準には該当しない。したがって,被告Aが単身で生活するための居宅の建築であれば,上記開発ないし建築許可を得ることはできない可能性が高い(乙7)。 そこで,原告会社は,都市計画法29条1項ただし書き及び43条1項ただし書きが,農家住宅(農業を営む者の居住の用に供する建築物)であれば,開発ないし建築を無許可で認めていることに乗じて,本件建築予定建物について,農業従事者である原告Bの一家が居住するための農家住宅であるという虚偽の届け出をした(乙4)。もっとも,そうすると,原告B一家が現に居住する既存建物をどうするのかを説明しなければならないので,原告会社は,既存建物については老朽化を理由に取り壊す予定である旨の虚偽の理由書を作成し,原告Bに署名押印を求めた(乙4の4枚目)。原告Bは,既存居宅を取り壊す予定であるという記載をみて,そのような理由書に署名押印することを躊躇したが,原告会社から,記載どおりにはならず,既存建物は取り壊さなくてもそのまま使用できると説得されたため,署名押印した(原告B本 定であるという記載をみて,そのような理由書に署名押印することを躊躇したが,原告会社から,記載どおりにはならず,既存建物は取り壊さなくてもそのまま使用できると説得されたため,署名押印した(原告B本人)。 以上の虚偽の用途目的による申請手続の結果,本件建築予定建物については,都市計画法上の開発許可及び建築許可を免れることができた(乙4)。 イ以上の認定に反し,原告会社は,原告Bは本件建築予定建物が農家住宅であることを納得の上で上記届出をしているのであるから,本件建築予定建物を農家住宅として届け出たことに違法はないと主張する。 しかしながら,原告Bが,上記のような都市計画法上の複雑な規制及びその回避の方法について理解していたと認めるに足りる証拠はないこと,現に上記のような届出をしたために,既存建物に下水道が届かないという事態になり,原告Bが市に事情を説明して問題を解決しているのであって(原告B本人),このような事態になることまで原告Bが了解していたとは考えられないこと,B父子としては,被告Aが居住するための分家住宅の建築を予定していたからこそ,被告Aが契約当事者となって本件請負契約を締結したと認められることなどに鑑みると,原告Bが本件建築予定建物を農家住宅であることを納得の上で届出をしたとは認められず,むしろ,原告Bは,その法的な意味内容を十分理解できないのに,原告会社に説明されるままに上記届出をしたとみるべきである。 また,原告会社代表者本人は,都市計画法上の届出等の行政手続についてはE建築士が全て行っており,原告会社は関与していないと述べる。 しかしながら,E建築士が,本件建築予定建物を農家住宅として届け出るということについては,自分が関与する前か ついてはE建築士が全て行っており,原告会社は関与していないと述べる。 しかしながら,E建築士が,本件建築予定建物を農家住宅として届け出るということについては,自分が関与する前から決まっていたと述べていること(甲22の3・4,乙10の1・2)に照らすと,信用することができない。 ウそうすると,本件建築予定建物は,客観的には,都市計画法上の開発ないし建築許可が必要であるにもかかわらず許可を得ていない違法建築物であることが認められる。 エそして,被告Aは,これを理由に,本件建築予定建物は建築が原始的に不能であるから,本件請負契約は無効であると主張するので,この点を検討する。 公法に違反する内容の契約が私法上も直ちに無効になるかどうかは,当該公法の規制の目的や,違反の程度内容等を総合考慮して判断すべきである。 都市計画法は,都市計画の内容及びその決定手続,都市計画制限,都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする法律である(同法1条)。そして,同法の開発許可制度及び建築許可制度は,都市計画の実効性を担保するために,都市計画区域内の土地利用に対して一定の制限を課し,これにより開発行為の一定水準の確保と市街化調整区域における無秩序な開発の抑制を図るための制度であると解することができる。かかる法の目的及び開発許可制度及び建築許可制度の趣旨に鑑みると,これらの制度に関する規定は国民一般の利害に関するものであり,強行法規と解すべきである。 しかしながら,他方で,B父子が,原告Bの兄から「もっと安い代金で工事ができるはずである」と れらの制度に関する規定は国民一般の利害に関するものであり,強行法規と解すべきである。 しかしながら,他方で,B父子が,原告Bの兄から「もっと安い代金で工事ができるはずである」という話を吹き込まれず,原告会社に値下げを求めることがなかったならば,契約の履行が進み,農家住宅ではないことについて行政庁に気づかれないまま本件建築予定建物が完成し,その後も除去を命じられることのないまま推移した可能性が高いと認められる。 また,本件建築予定建物の場合,居住者は全くの第三者ではなく,被告Aであって,被告Aが後日婚姻により世帯分離すれば,違法状態の瑕疵が治癒される可能性もあるから,本件建築予定建物は,違法建築物であるといっても,その違法性の程度は必ずしも重大ではないとみることができる。 以上の事実に鑑みると,本件建築予定建物は,都市計画法上の開発許可ないし建築許可を得ていない違法建築物であるからといって,建築自体が原始的に不能であるとは認められない。 よって,本件請負契約が無効であると認めることはできない。 (4) 公序良俗違反性上記認定のとおり,被告Aが主張する本件請負契約の無効は認めることができない。 また,本件請負契約締結に当たって,原告会社が,被告Aが主張するような,強引な押しつけ商法を行ったという事実を認めるに足りる証拠もない。 たしかに,証拠(原告会社代表者本人,原告B本人)によれば,本件請負契約締結日において,原告会社代表者が,B父子宅に昼ころから午後5時ころまでいたという事実は認められる。しかしながら,原告Bは,同日,手付けの支払いの必要が生じるであろうと考えて予め100万円を農協の預金から下ろして用意して 社代表者が,B父子宅に昼ころから午後5時ころまでいたという事実は認められる。しかしながら,原告Bは,同日,手付けの支払いの必要が生じるであろうと考えて予め100万円を農協の預金から下ろして用意していた事実が認められるのであって(原告B本人),このことからすると,B父子は,原告会社に押し切られてやむなく契約を締結したというよりは,同日までの原告会社の説明に納得し,自ら積極的に契約を締結したものと推認することができる。 以上の次第で,本件請負契約が公序良俗に反するという主張は認めることができない。 2 原告会社の損害額上記のとおり,本件請負契約は有効であると認められる。 そうすると,被告Aは,原告会社が請負代金の値下げに応じてくれないことから本件請負契約を一方的に解約したものと認めるしかなく,かかる理由による一方的解約を正当化することはできないから,これは,被告Aによる本件請負契約の債務不履行にあたる。 そして,証拠(甲3,12,13の1ないし4,甲18,原告会社代表者本人)によれば,原告会社は,下請のZ工務店から,同工務店が本件工事のために既に出費した木材加工の木材代及び加工賃148万9519円の請求を受けており,これを支払わなければいけないことが認められるところ,かかる債務は被告Aの債務不履行と相当因果関係のある損害と認めることができる。 また,原告会社は,本件請負契約が完了した場合,被告Aから得べかりし請負工事代金1840万円と,下請であるZ工務店に原告会社が支払うべき1417万5000円(甲2)の差額である422万5000円を得ることができたはずのところ,被告Aの債務不履行の結果これを失ったのであるから,同損失は被告Aの債務不履行と相当因果関係のある損害であると認 万5000円(甲2)の差額である422万5000円を得ることができたはずのところ,被告Aの債務不履行の結果これを失ったのであるから,同損失は被告Aの債務不履行と相当因果関係のある損害であると認められる。 したがって,被告Aの債務不履行に基づく原告会社の損害額は571万4519円であると認められる。 一方で,原告会社が,本件請負代金の内金として100万円の支払いを受けていることは争いがない。 よって,原告会社は,被告Aに対し,471万4519円及びこれに対する甲事件訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができる。 なお,原告会社は,遅延損害金について,甲事件訴状送達日を起算日として請求するが,期限の定めのない債務が遅滞に陥るのは履行請求を受けた時からであり(民法412条3項),原告会社は被告Aに対し甲事件訴状をもって損害賠償債務の履行請求をしたと認められるところ,初日不算入の原則(民法140条本文)によれば,遅滞に陥るのは同訴状送達日の翌日からであるから,遅延損害金の起算日は平成13年10月18日である。 3 契約締結上の過失の成否原告Bは,原告会社が,居宅建築が可能かどうか調査し,建設が不可能であるならば,契約を円満に解消すべく努力すべきであるし,建物の構造・仕様や,契約内容,双方の権利義務については明確にすべきであるのに,これらの義務を怠ったことが事業者としての契約締結上の過失に当たると主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,本件建築予定建物が都市計画法上の開発許可ないし建築許可を得ていない違法建築物であるからといって,本件請負契約が原始的に不能であると認めることはできない。 また,たしかに 記認定のとおり,本件建築予定建物が都市計画法上の開発許可ないし建築許可を得ていない違法建築物であるからといって,本件請負契約が原始的に不能であると認めることはできない。 また,たしかに本件請負契約の内容は当初は不明確であったが,その後の原告会社とB父子のやりとりを通じて補充され明確になり,B父子はかかる契約内容について合意したことが認められる。 本件請負契約が中途解約に至った原因は,むしろ,前記認定のとおり,原告Bの兄からもっと安い代金で建築ができるはずだと吹き込まれたB父子が,合意が成立したにもかかわらず,原告会社に対して値下げを求め始めて原告会社と折り合いがつかなくなったためであることが認められるのであって,以上の経緯に照らせば,契約が途中解約に至った原因は,契約の締結過程における問題というよりは,B父子が合意内容を覆すような値下げ要求をしたことによるものということができるから,原告会社に契約締結上の過失を認めることはできない。 よって,原告Bの請求は理由がない。 4 結論以上の次第で,原告会社の甲事件請求を一部認容し,原告Bの乙事件請求を棄却する。 訴訟費用の負担については,原告会社の請求の棄却部分が僅少であること(遅延損害金1日分)に鑑み,民事訴訟法64条ただし書き,61条によりその全部をB父子の負担とする。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官太田敬司
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