令和7(わ)383 殺人

裁判年月日・裁判所
令和7年10月17日 横浜地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-95222.txt

判決文本文1,822 文字)

- 1 -主 文被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中80日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、認知症を患う妻であるAの介護をしていたが、同人及び自身の将来を悲観して無理心中を決意し、令和7年2月25日午後1時30分頃、相模原市a区bc丁目d番e号fg被告人方において、A(当時80歳)に対し、殺意をもって、その頸部を両手で絞め付け、よって、その頃、同所において、同人を扼頸による窒息により死亡させて殺害した。 【量刑の理由】本件においては、被告人が介護疲れを端に無理心中を決意したという経緯・動機に対する非難の程度について争いがある。 本件の直接の契機は、介護施設でのショートステイを終えた被害者が本件約2週間前に歩くこともままならない状態となって帰宅したことに衝撃を受けて同施設への不信感を抱く中、本件当日、担当のケアマネージャーから被害者が数日後に同施設に入所できる予定であることを聞き、被害者の状態の悪化、入所に伴う費用負担や自身の生活維持等について不安を募らせ、無理心中を決意したというものである。 そして、証拠によれば、被告人ら夫婦に対しては介護支援の手は適切に差し伸べられており、同居の長男や金銭的な支援をしてきた長女(別居)がいる上、経済的な面でも数十万円の現金が手元に残っており、本件の数日後には生活保護の相談も予定されていたことが認められる。このような当時の客観的な状況を前提にすれば、被告人には、周囲に自身の懸念や要望を伝えて相談するなど然るべき選択をする余地が十分に残されていたといえる。被告人は、そのような考慮 いたことが認められる。このような当時の客観的な状況を前提にすれば、被告人には、周囲に自身の懸念や要望を伝えて相談するなど然るべき選択をする余地が十分に残されていたといえる。被告人は、そのような考慮をすることなく突如として無理心中を決意し、強い殺意をもって被害者を扼殺するという最悪の選択を - 2 -したのであるから、余りに短絡的との非難を免れない。この点を重視して本件を実刑相当の事案と主張する検察官の意見にも頷ける部分がある。 もっとも、被害者やその介護を巡る被告人の心情等を更にみてみると、被告人自身も高齢でありながら、令和2年頃に認知症を発症した被害者を、介護サービスも一時期受けつつ、主に一人で介護してきたのであり、その様子は周囲が献身的と評価するものであった。本件約1年前の令和6年3月には、食事、洗面や排泄等の全介助を要する状態になるまで被害者の症状が進み、被告人自身も次第に不眠症に悩まされるなど介護の負担が増大し、同年12月には自らも介護中に腰椎圧迫骨折を負い、この件がきっかけとなり、被害者がショートステイを利用し、前述のとおり被告人は帰宅した被害者の状態に衝撃を受けることとなった。このような被害者の病状の推移、被告人の介護の負担等を考えると、被告人が心身ともに疲弊し、将来に強い不安を抱き、悲観したのも無理からぬ面が大きい。このような状況を被告人が周囲に相談することなく一人で抱え込んだ点は誠に悔やまれるが、これとても、家族や介護関係者との関係性や、これ以上迷惑をかけられないと思い詰めた心情に基づくものとして理解できなくはないものであり、短絡的という以上に身勝手であるなどという非難までは当てはまらない。このような経緯や被告人の心情には同情を禁じ得ないところがある。 このほか、被告人や長男ら家族の供述に現れた本件の受け止 のであり、短絡的という以上に身勝手であるなどという非難までは当てはまらない。このような経緯や被告人の心情には同情を禁じ得ないところがある。 このほか、被告人や長男ら家族の供述に現れた本件の受け止め方等も踏まえ、同種事案(介護疲れを原因とする配偶者に対する殺人・同種の罪が1件)との比較において本件をみると、刑の執行を猶予することが許されない事案とまで評価することはできない。被告人に対しては刑の執行を猶予するが、責任の重さに鑑み、その場合における最長の刑期と猶予期間を定めることとした。 (検察官の求刑:懲役5年、弁護人の科刑意見:刑の執行猶予)令和7年10月17日横浜地方裁判所第2刑事部 - 3 -裁判長裁判官丹羽敏彦 裁判官世森ユキコ 裁判官沼田真志

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る