- 1 -平成24年10月29日判決言渡平成24年(行ケ)第10076号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年10月10日判決 原告アルベマール・コーポレーション 訴訟代理人弁理士小嶋勝藤井幸喜 被告特許庁長官指定代理人小石真弓 中島庸子星野紹英田村正明 主文 特許庁が不服2008-14384号事件について平成23年10月11日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた判決主文同旨 - 2 -第2 事案の概要本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,特許法36条6項1号該当性(サポート要件)の有無である。 1 特許庁における手続の経緯エチル・コーポレーションは,2001年(平成13年)3月23日の優先権(米国)を主張して,平成14年3月15日,名称を「ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物」とする発明について特許出願(特願2002-72173)をしたが(請求項の数3,公開公報は甲1),拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした(不服2008-14384)。 その中でエチル・コーポレーションは平成23年9月5日付で特許請求の範の変更の補正(本件補正,甲2)をしたが,特許庁は,平成23年10月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),その謄本は平成2 年9月5日付で特許請求の範の変更の補正(本件補正,甲2)をしたが,特許庁は,平成23年10月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),その謄本は平成23年10月31日エチル・コーポレーションに送達された。 原告は,エチル・コーポレーションから2003年(平成15年)6月5日に本願発明の特許を受ける権利を譲り受けたが,平成24年2月14日,本件出願に係る出願人名義変更届を特許庁長官に届け出た。 2 本願発明の要旨【本件補正後の請求項1】(本願発明)「化合物の混合物を含んで成るヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物であって,該化合物の混合物が,式【化1】 - 3 -式中,nは少なくとも0,1,2,および3であり,場合により3より多い,の複数の化合物を含んで成り;そして組成物が非希釈基準で,(a)3.0 重量%未満のオルソ-tert-ブチルフェノール,(b)3.0 重量%未満の2,6-ジ-tert-ブチルフェノール,および(c)50ppm 未満の2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールを含む,上記組成物。」 3 審決の理由の要点発明の詳細な説明には,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤よりも,「向上した酸化安定性,向上した油溶解性,低い揮発性及び低い生物蓄積性」を有することを課題とし,「非常に低レベルの単環ヒンダードフェノール化合物を含有する新規なヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物」である本願発明によれば,上記課題を解決できると記載されているものと認められる。 しかし,発明の詳細な説明には,本願発明の組成物を具体的に製造し,その酸化安定性,油溶解性,揮発性及び生物蓄積性について確認し,上記課題を解決で 解決できると記載されているものと認められる。 しかし,発明の詳細な説明には,本願発明の組成物を具体的に製造し,その酸化安定性,油溶解性,揮発性及び生物蓄積性について確認し,上記課題を解決できることを確認した例は記載されていないから,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により,上記課題を解決できると認識できるものとはいえない。 また,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤よりも低レベルの単環ヒンダードフェノール化合物,すなわち,「(a)3.0 重量%未満のオルソ-tert-ブチルフェノール,(b)3.0 重量%未満の2,6-ジ-tert-ブチルフェノール,および (c)50ppm未満の2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールを含む」ことにより,「酸化安定性,油溶解性,揮発性及び生物蓄積性」が改良されることが,当業者であれば,出願時の技術常識に照らし認識できるといえる根拠も見あたらない。そうすると,具体的に確認した例がなくとも,当業者が出願時の技術常識に照らし,本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。 本願発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認め - 4 -られないし,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから,この出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に適合しない。 第3 原告主張の審決取消事由審決には,次のとおり,本件出願に係る特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定された要件に適合するかについて判断の誤りがある。 本件願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【00 審決には,次のとおり,本件出願に係る特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定された要件に適合するかについて判断の誤りがある。 本件願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】~【0005】には,請求項1に記載された【化1】の構造式を有する化合物の混合物を含んでなる多環フェノール性酸化防止剤組成物が記載され,段落【0018】には,該組成物中のオリゴマーが二量体,三量体,四量体および高分子量フェノールのオリゴマー(すなわち【化1】の構造式においてn=0,n=1,n=2およびn=3であり場合によって3より大きい)の複数の化合物から成ることが記載され,段落【0010】には,該組成物が3.0重量%未満のオルソ-tert-ブチルフェノールおよび3.0重量%未満の2,6-ジ-tert-ブチルフェノールおよび50ppm 未満の2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールを含むことが記載されている。したがって,「特許請求の範囲」に記載された技術的事項は,その全範囲にわたって「発明の詳細な説明」に記載されている。 また,審決の6頁1行目~下から4行目で認められているとおり,発明の詳細な説明には,本願発明が「向上した酸化安定性,向上した油溶解性,低い揮発性及び低い生物蓄積性」を有することを課題とし,本願発明の組成物によって上記課題を解決できることが記載されている。単環フェノールが,ポリフェノール化合物よりもより揮発性であり,より水溶性であり,そして油溶解性が低いということは,当業者の技術常識から明らかである。当業者は,技術常識から,ポリフェノール化合物の大きな疎水性領域は単環芳香族よりもより低い水溶性そしてより油溶性の分子をもたらすと認識し,大きいポリフェノール化合物は単環フェノールのように揮発 - 5 -性ではないと認 リフェノール化合物の大きな疎水性領域は単環芳香族よりもより低い水溶性そしてより油溶性の分子をもたらすと認識し,大きいポリフェノール化合物は単環フェノールのように揮発 - 5 -性ではないと認識し,そして重合が増大すれば揮発性は減少すると認識するものである。かかる技術常識は,段落【0008】にも示されているとおりである。さらに,当業者は,単環フェノールおよびポリフェノール化合物の混合物は,単環フェノールの溶解性及び揮発性とポリフェノール化合物の溶解性及び揮発性の中間の溶解性および揮発性を有すると認識し,単環フェノールおよびポリフェノール化合物の混合物中における単環フェノール成分の減少は,混合物にポリフェノール化合物に近い特性を与えると認識するものである。すなわち,単環化合物がポリフェノール化合物の混合物中に含有されたときに,より揮発性でより水溶性でより油溶解性が低いという影響をもたらすことが技術常識であることに鑑みれば,当業者は,請求項1の(a)~(c)に定義されるような少量の単環ヒンダードフェノールを含むことを特徴とする本願発明の組成物が,向上した油溶解性および低い揮発性を有すると認識し,潤滑油の使用期間中に失われる揮発性成分が少ない向上した酸化防止剤であると認識するものである。低い揮発性を有する組成物が向上した酸化防止剤の課題を解決できることについては段落【0022】の記載によっても裏付けられている。したがって,特許請求の範囲に記載された発明は,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 よって,本件出願に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。 よって,本件出願に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。 第4 被告の反論 1 「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明であるか」につき「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明」であるといえるためには,単に特許請求の範囲に記載された発明が,形式的に発明の詳細な説明に記載されているだけでは足りず,実質的に発明の詳細な説明に記載されていることが必要である。しかし,本願明細書の発明の詳細な説明には,①本願 - 6 -発明の課題である「向上した酸化安定性,向上した油溶解性,低い揮発性及び低い生物蓄積性」を達成し得ること,及び②本願発明の組成物の具体的な製造,を確認した例は記載されておらず,これらが技術常識により当然に予想できるとする技術的根拠も記載されていないのであるから,本件出願の「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明」であるということはできない。 すなわち,上記①については,発明の詳細な説明に実質的に記載されていない。 上記②については,詳細な説明には,「少量の2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(DTBP)およびオルソ-tert-ブチルフェノール(OTBP),および痕跡量の2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール(TTBP)を含有するヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物は,超高純度DTBP,超高純度OTBPおよびホルムアルデヒド源の特定の混合物を,触媒の存在下で溶媒中で反応させることにより得られる。」(段落【0011】。なお「『超高純度』とは0~10ppm のトリ-tert- TBP,超高純度OTBPおよびホルムアルデヒド源の特定の混合物を,触媒の存在下で溶媒中で反応させることにより得られる。」(段落【0011】。なお「『超高純度』とは0~10ppm のトリ-tert-ブチルフェノールの混入物を含むOTBPおよびDTBP単量体を称する。」段落【0009】)と記載されてはいる。 しかし,詳細な説明には,「超高純度DTBP」及び「超高純度OTBP」というような極めて純度の高い本願発明の原料をどのようにして得ることができるのか,どのような「触媒」を用いるのか,又,どのような反応条件を設定すれば良いのかなど,「本願発明の組成物の具体的な製造」方法は全く不明である。発明の詳細な説明でいう「超高純度DTBP」及び「超高純度OTBP」というのは,トリ-tert-ブチルフェノールの混入量が0~10ppm というものであるが,そのようなOTBPおよびDTBP単量体を入手することは,本件出願日以前より,「DTBP単量体」を得るに際して,不所望の「トリアルキル化生成物」が,通常多い割合で生じ,その分離や精製が困難なことは技術常識であったこと(特開平5-132439号公報,乙1)に照らすと,本件出願時において当業者にとって容易であったとはいえない(ここで,「2,6-ジ- tert-ブチルフェノール」は,上記「DTBP単量体」に相当し,「トリアルキル化生成物」は,上記「トリ-tert-ブチルフェノール」を包含 - 7 -する。)。このような本件出願時の技術常識を考慮すると,0~10ppm のトリ-tert-ブチルフェノールの混入物を含むDTBP単量体,すなわち本願発明の原料成分を入手することは困難なものであったから,該DTBP単量体の具体的入手手段について何ら明らかにされていない発明の詳細な説明の記載に基づいて,本願発明の組 むDTBP単量体,すなわち本願発明の原料成分を入手することは困難なものであったから,該DTBP単量体の具体的入手手段について何ら明らかにされていない発明の詳細な説明の記載に基づいて,本願発明の組成物を具体的に製造できるとは到底いえない。 2 「特許請求の範囲に記載された発明が,当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるか」につき従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤に不純物として含まれる「2,6-ジ-tert-ブチルフェノール」,「オルソ-tert-ブチルフェノール」及び「2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール」,すなわち単環化合物は,もともとごく少量である。そして,本願発明は「非常に低レベルの単環ヒンダードフェノール化合物を含有する新規なヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物」(段落【0001】)であるところ,もともとごく少量しか含まれていない単環化合物の量をさらに低減したからといって,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤と比較して,「向上した油溶解性,及び低い揮発性」について,従来から公知のヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物に対し,有意な差異をもたらし得る程の効果を奏するとまでは認識することはできない。本願発明は,従来公知のヒンダードフェノール性組成物と全く同じ成分からなる組成物について,もともと不純物程度の量の単環化合物の含有量を,特定の範囲となるように減少させたものにすぎないし,本願発明のヒンダードフェノール性酸化防止剤は,潤滑剤等の組成物に添加されてその機能を発揮するものである(段落【0021】)ことから,潤滑剤等の組成物に添加されることによって希釈された状態では,上記のとおりの単環化合物の含有量の減少による影響もさらに薄まるものと解される。そうすると,本願発明に係る組成物は,従来公知の )ことから,潤滑剤等の組成物に添加されることによって希釈された状態では,上記のとおりの単環化合物の含有量の減少による影響もさらに薄まるものと解される。そうすると,本願発明に係る組成物は,従来公知のヒンダードフェノール性組成物と同じ成分からなるものであるから,酸化防止剤としての基本的な性質を有していることは明らかであり,そのような基本的性質を有していた組成物について,揮発性の低下や油溶解性の向上が,実際の使用状態での「酸化防止剤」としての性 - 8 -質に対して,有意な改善効果をもたらすか否かは,当業者にとっても具体的なデータが示されていなければ到底認識し得ないものである。 したがって,単環化合物の量を低減させたことに伴う揮発性の低下や油溶解性の向上による組成物全体の酸化防止剤としての性質に与える影響に関し,単なる定性的な記載に止まる本願発明の詳細な説明の記載では,本願発明の課題,すなわち,従来のヒンダードフェノール性酸化防止剤よりも「向上した酸化安定性,向上した油溶解性,低い揮発性及び低い生物蓄積性」を有する組成物の提供という課題が,本願発明に係る組成物によって解決できると,当業者が認識しうるものとは到底いえない。 また,本願明細書には,揮発性の低下や油溶解性の向上が,従来のヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物に対し,有意な差異をもたらし得る程の効果を奏することについて,技術常識により当然に予想できるとする技術的根拠も記載されていない。 さらに,前記のとおり,本願発明の組成物において,「組成物が非希釈基準で,(a)3.0重量%未満のオルソ-tert-ブチルフェノール,(b)3.0重量%未満の2,6-ジ-tert-ブチルフェノール,および(c)50ppm 未満の2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールを含む」というよ 未満のオルソ-tert-ブチルフェノール,(b)3.0重量%未満の2,6-ジ-tert-ブチルフェノール,および(c)50ppm 未満の2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールを含む」というように極めて高度に精製された組成物を,具体的にいかなる手段で製造できるのかが本願明細書には明らかではなく,当業者に自明でもない。 そして,発明の詳細な説明には,「向上した酸化安定性,及び低い生物蓄積性」という,本願発明の課題を達成し得ることの技術的裏付けも記載されていないし,「向上した酸化安定性,及び低い生物蓄積性」という本願発明の課題を達成し得ることが技術常識により当然に予想できるとする技術的根拠も記載されていない。 第5 当裁判所の判断 1 本願発明の課題 - 9 -本願明細書(甲1,2)によれば,本願発明は,非常に低レベルのオルソ-tert-ブチルフェノール(OTBP),2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(DTBP)及び2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール(TTBP)の単環ヒンダードフェノール化合物を含有するヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物に関するものである(【請求項1】,段落【0001】)。そして,本願明細書に,「本発明のヒンダードフェノール性組成物は,本発明の範囲外の量の単環ヒンダードフェノール化合物を含有するヒンダードフェノール性組成物に比べて,本ヒンダードフェノール化合物を含有する・・・燃料および潤滑剤組成物に向上した酸化安定性を与える」(段落【0001】),「【解決すべき課題】 OTBPおよびDTBPは,製造後の生成物中に残る多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤の出発材料である。TTBPは一般に,多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤を調製するために使用されるOTBPおよびDTBP中に混入 BPは,製造後の生成物中に残る多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤の出発材料である。TTBPは一般に,多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤を調製するために使用されるOTBPおよびDTBP中に混入物として見いだされる。これらの単環ヒンダードフェノール化合物は水溶性であり,そして多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤よりも揮発性である。多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤はそのより高い分子量により,水溶性が一層低く,しかも揮発性が低い。」(段落【0008】),「さらにこれらの酸化防止剤は向上した油溶解性を有し,そして適切な・・・プロセス油中にブレンドすることにより液状で容易に取り扱うことができる。」(段落【0010】),「このような条件下で製造した多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤は,潤滑剤中で効果的な酸化防止剤である組成物を与え,低い揮発性および低い生物蓄積性を有し,そして油希釈として・・・容易に取り扱える。」(段落【0020】)と記載されていることからすれば,本願発明の課題は,従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも,向上した酸化安定性,向上した油溶解性,低い揮発性及び低い生物蓄積性を有するものを得ることと認められる。 2 本願明細書の発明の詳細な説明における課題解決の記載発明の詳細な説明には,「これらの単環ヒンダードフェノール化合物は水溶性であり,そして多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤よりも揮発性である。多環ヒン - 10 -ダードフェノール性酸化防止剤はそのより高い分子量により,水溶性が一層低く,しかも揮発性が低い。」(段落【0008】)と記載されているが,この記載は,単環フェノールがメチレン架橋化多環フェノールよりも,より揮発性であり,より水溶性であり,油溶解性が低いという当業者の技術 しかも揮発性が低い。」(段落【0008】)と記載されているが,この記載は,単環フェノールがメチレン架橋化多環フェノールよりも,より揮発性であり,より水溶性であり,油溶解性が低いという当業者の技術常識に沿った記載である。また,発明の詳細な説明には,「低揮発性成分は,潤滑剤の使用期間中に蒸発により失われないのでより効果的な酸化防止剤である。それゆえにそれら(判決注:酸化防止剤組成物のこと)は潤滑剤中に留まり,潤滑剤を…酸化の悪影響から保護する。」(段落【0022】)と記載されているところ,酸化防止作用を示す成分が揮発することによって減少すれば,組成物の酸化防止能も減少するので,組成物中の揮発性の成分の量を減らすことにより組成物の酸化防止能が向上することも,当業者の技術常識に沿った記載である。 このように,発明の詳細な説明には,非常に低レベルのOTBP,DTBP及びTTBPの単環ヒンダードフェノール化合物を含有することによって,従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも向上した油溶解性を有する組成物を得ることができ,また,低い揮発性を有し,その結果,向上した酸化安定性を有する組成物を得ることができる点が記載されているということができるから,発明の詳細な説明の記載から,本願発明の構成を採用することにより本願発明の課題が解決できると当業者は認識することができる。 したがって,発明の詳細な説明は,請求項1に係る発明について,その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されているということができるから,請求項1に係る発明は発明の詳細に記載されているということができる。これとは異なるサポート要件に関する審決の判断には誤りがある。 3 被告の主張に対する個別的判断(1) 被告は,従来のヒンダ ら,請求項1に係る発明は発明の詳細に記載されているということができる。これとは異なるサポート要件に関する審決の判断には誤りがある。 3 被告の主張に対する個別的判断(1) 被告は,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤に不純物として含まれる単環化合物は,ごく少量であるところ,もともとごく少量しか含まれていない単環化合物の量をさらに低減したからといって,従来のものと比較して,向上した油 - 11 -溶解性及び低い揮発性について,有意な差異をもたらし得る程の効果を奏するとまでは認識できないし,本願発明の組成物は,潤滑剤等の組成物に添加されてその機能を発揮するものなので,組成物に添加されることにより希釈された状態では,単環化合物の含有量の減少による影響もさらに薄まると解されるなどと主張する。 被告の主張は,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤に不純物として含まれる単環化合物(DTBP,OTBP及びTTBP)がごく少量であることを前提とするものである。しかし,発明の詳細な説明には,「従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤は,DTBPおよびOTBPの混合物をホルムアルデヒド源と,反応溶媒中で,そしてアルキル化触媒の存在下で反応させることにより調製される。・・・これら酸化防止剤の調製物中の混入物には,以下に示す単環フェノール化合物:DTBP,TTBPが含まれる。」旨の記載があり(段落【0005】~【0007】),また,「OTBPおよびDTBPは,製造後の生成物中に残る多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤の出発材料である。TTBPは一般に,多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤を調製するために使用されるOTBPおよびDTBP中に混入物として見いだされる。・・・」(段落【0008】)との記載があるところ,これらの記載からすると,従来のヒ 環ヒンダードフェノール性酸化防止剤を調製するために使用されるOTBPおよびDTBP中に混入物として見いだされる。・・・」(段落【0008】)との記載があるところ,これらの記載からすると,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤は,TTBPを不純物として含有するDTBP及びOTBPをその製造原料として使用するものなので,その調製物には一定量以上の未反応のDTBP及びOTBPや不純物のTTBPを含んでいるものと認められる。そうすると,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤が不純物として含む単環化合物(DTBP,OTBP及びTTBP)がごく少量であるとまではいえないというべきであって,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤に不純物として含まれる単環化合物はごく少量であることを前提とする被告の主張は採用することはできない。 (2) 被告は,発明の詳細な説明には,向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性という課題を達成し得ることの技術的裏付けが記載されておらず,また,向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性の課題を達成し得ることが技術常識により当然に予 - 12 -想できるとする技術的根拠も記載されていないと主張する。 しかし,技術常識を参酌して発明の詳細な説明の記載をみた当業者が,本願発明の構成を採用することにより,向上した酸化安定性という本願発明の課題が解決できると認識できることは前記のとおりである。 また,発明の詳細な説明には,生物蓄積性についての課題が解決できることを示す記載はない。しかし,発明の詳細な説明の記載から,本願発明についての複数の課題を把握することができる場合,当該発明におけるその課題の重要性を問わず,発明の詳細な説明の記載から把握できる複数の課題のすべてが解決されると認識できなければ,サポート要件を満たさないとするの の課題を把握することができる場合,当該発明におけるその課題の重要性を問わず,発明の詳細な説明の記載から把握できる複数の課題のすべてが解決されると認識できなければ,サポート要件を満たさないとするのは相当でない。 (3) 被告は,本件出願時の技術常識を考慮すると,0~10ppm のトリ-tert-ブチルフェノールの混入物を含むDTBP単量体,すなわち本願発明の原料成分を入手することは困難なものであったから,該DTBP単量体の具体的入手手段について何ら明らかにされていない発明の詳細な説明の記載に基づいて,本願発明の組成物を具体的に製造できるとは到底いえないとか,本願発明の組成物の具体的な製造を確認した例は記載されておらず,これらが技術常識により当然に予想できるとする技術的根拠も記載されていないのであるから,「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明」であるということはできないと主張する。 しかし,発明の詳細な説明の記載と出願時の技術常識からは本願発明に係る組成物を製造することはできないというのであれば,これは特許法36条4項1号(実施可能要件)の問題として扱うべきものである。審決は,本件出願が特許法36条6項1号(サポート要件)に規定する要件を満たしていないことを根拠に拒絶の査定を維持し,請求不成立との結論を出したものであるから,被告の上記主張は,審決の判断を是認するものとしては採用することができない。なお,被告は本願発明の具体的な製造を確認した例の記載はないと主張するが,サポート要件が充足されるには,具体的な製造の確認例が発明の詳細な説明に記載されていることまでの必 - 13 -要はない。 第6 結論以上によれば,審決のサポート要件の判断には誤りがあり,原告の主張する取消事由には理由がある。 確認例が発明の詳細な説明に記載されていることまでの必要はない。 第6 結論 以上によれば,審決のサポート要件の判断には誤りがあり,原告の主張する取消事由には理由がある。よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官田邉 実
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