- 1 -平成24年5月23日判決言渡平成23年(行ケ)第10296号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年4月25日判決 原告株式会社山田工作所 訴訟代理人弁理士濱田俊明 被告特許庁長官指定代理人熊倉 強 栗林敏彦 石川好文 田村正明 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告が求めた判決特許庁が不服2011-5560号事件について平成23年7月26日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件訴訟は,特許出願拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決 - 2 -の取消訴訟である。争点は,補正の適否及び本願発明の進歩性(容易想到性)の有無である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成18年8月17日,名称を「食品等の小分け容器,その打ち抜き方法及び打ち抜き装置」とする発明につき,特許出願したが(特願2006-222480号,請求項の数は4),平成22年12月1日,特許庁から本件出願につき拒絶査定を受けたので,平成23年3月14日,不服審判請求をするとともに(不服2011-5560号),特許請求の範囲の一部及び発明の詳細な説明の一部をそれぞれ改める旨の本件補正をした。 特許庁は,平成23年7月26日,本件補正を却下する決定とともに「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年8月15日に原告に送達された。 2 本願発明の要旨本願発明は,食品等の小分け容器等に関する発明で,本件補正後及び本件補正前の請求項1の特許請求の範囲は以下のとおりである。 【請求項1( 同年8月15日に原告に送達された。 2 本願発明の要旨本願発明は,食品等の小分け容器等に関する発明で,本件補正後及び本件補正前の請求項1の特許請求の範囲は以下のとおりである。 【請求項1(本件補正後のもの,補正発明)】「複数の食品の収納凹部を備え,各収納凹部をフランジで連設する連設部に設けた分離線で切り離し可能とした小分け容器であって,分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状の切り込み部を設けたことを特徴とする食品等の小分け容器。」(下線部が補正個所である。)【請求項1(本件補正前のもの,補正前発明)】「複数の食品の収納凹部を備え,各収納凹部をフランジで連設する連設部に設けた分離線で切り離し可能とした小分け容器であって,分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続 - 3 -曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が互いに向かい合って対称形に接する略V字の形状の切り込み部を設けたことを特徴とする食品等の小分け容器。」 3 審決の理由の要点(1) 請求項1の特許請求の範囲において,「切り込み部」が「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が互いに向かい合って対称形に接する略V字の形状」としていたのを,「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互い 」としていたのを,「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状」と改める本件補正は,願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものではなく,本件補正は,平成18年法律第55号「意匠法等の一部を改正する法律」附則3条1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第3項に違反する。 (2) 補正前発明は,本件出願当時,下記引用文献に記載された発明(引用発明)に周知技術を適用することで,当業者が容易に発明できたものとして進歩性を欠く。 仮に,「その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状」が願書に最初に添付された明細書及び図面に記載の範囲内のものであるとしても,かかる特定事項は周知技術にすぎず,補正発明は進歩性を欠く。 【引用文献】登録実用新案第3052161号公報(甲2の1)【引用発明】「食品を収納する凹部を備えた複数のトレーの上周縁を,切り離し可能に連設して連結縁部を形成した小分けトレー体であって,前記連結縁部に切り離し線を設け,前記切り離し線の始端(終端)に,当該切り離し線を挟んだ両側のトレーの上周縁の外周線と切り離し線とを曲線で結んだ切り欠きを設けた,各トレーを切り離し可 - 4 -能な小分けトレー体。」【補正前発明と引用発明の一致点】「複数の食品の収納凹部を備え,各収納凹部をフランジで連設する連設部に設けた分離線で切り離し可能とした小分け容器であって,分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周 引用発明の一致点】「複数の食品の収納凹部を備え,各収納凹部をフランジで連設する連設部に設けた分離線で切り離し可能とした小分け容器であって,分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ曲線で結んだ切り込み部を設けた食品等の小分け容器」である点。 【補正前発明と引用発明の相違点】補正前発明では,切り込み部が,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が互いに向かい合って対称形に接する略V字の形状のものであるのに対して,引用発明では,曲線及び切り欠きの形状についてこのような規定のない点。 【補正前発明と引用発明の相違点に係る構成の容易想到性判断等(5頁)】「上記相違点について検討すると,各収納凹部をフランジで連設する連設部に設けた分離線で切り離し可能とした小分け容器において,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が互いに向かい合って対称形に接するV字の形状の『切り込み部』を設けることは,例えば,実願昭56-77060号(実開昭57-188614号)のマイクロフィルム(甲3)に記載されており,周知の技術である(第1図又は第3図の説明として,明細書第2頁第16~19行及び第3頁第17~20行に『連結する外縁部(1)に底部側に屈曲するV形溝(3)を設けると共に,このV形溝(3)に複数の排出孔(4)を穿設する。』,『この排出孔(4)は連結状容器を細分化する為に各容器(2)を切離す際の屈折又は切断の案内となる実効も併有する。』と記載され,当該V形溝及び排出孔が外縁部(本願の連設部に相当)に設けられる分離線に相当すると認められることから,分離線を挟んだ両側の容器の 2)を切離す際の屈折又は切断の案内となる実効も併有する。』と記載され,当該V形溝及び排出孔が外縁部(本願の連設部に相当)に設けられる分離線に相当すると認められることから,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状の連続曲線で結び,その円弧状の曲線が互いに向かい合って対称形に接するV字の形状の切り込み部を形成しているものと認められる。また,同様な例として,他にも実願昭60-87251号(実開昭61-202363号)のマイクロフィルム(甲10)の第11図,登録実用新案第3075056号公報(甲11)も参照することができる)。 よって,上記相違点に係る補正前発明の構成は引用発明及び周知技術より当業者が容易になし得たものと認める。 また,補正前発明の作用効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものと認められない。 - 5 -したがって,補正前発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」 第3 原告主張の審決取消事由 1 補正の適否の判断の誤り(取消事由1)願書に最初に添付された明細書(当初明細書)の段落【0008】には,「円弧又は楕円孤が互いに接して略V字状となる切り込み線をトムソン刃によって貫設する第1工程と,」という記載があるし,図2に平面視で略V字状の切り込みが記載されているから,当初明細書及び図面中に「円弧状又は楕円孤状の曲線で構成された平面視略V字状の切り込み部」が記載されている。 また,接線は,曲線上の2点を結ぶ直線(線分)を想定して,この2点を限りなく近づけたときに,上記直線が近づいていく直線を意味するところ,2つの曲線の互いに重なり合う点における両曲線の各接線が互いに重なり合うときのその接線が,「共通する接線」 を想定して,この2点を限りなく近づけたときに,上記直線が近づいていく直線を意味するところ,2つの曲線の互いに重なり合う点における両曲線の各接線が互いに重なり合うときのその接線が,「共通する接線」に当たる。そして,切り込み部の分離線がこの「共通する接線」と一致する(重なり合う)ことが,本件補正後の特許請求の範囲にいう「その円弧状又は楕円孤状の曲線が前記分離線を共通する接線として・・・接する」に当たる。 しかるに,当初明細書の段落【0016】には,「円弧(楕円孤)が互いに向かい合って対称形に接する」と記載されているし,図面の体裁からも,「切り込み部が分離線を共通する接線として互いに向かい合っていること」が当初明細書及び図面中に記載されているといえる。 そして,当初明細書に添付された図2には,「切り込み部が対称形に漸近して接する」状況が記載されているから,本件補正において改められた「その円弧状又は楕円孤状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字状の切り込み部を設けた」との事項は当初明細書及び図面に記載された範囲内のものであり,改正前の特許法17条の2第3項の要件を満たす。 したがって,上記が新規事項の追加に当たるとして本件補正を却下した決定は違 - 6 -法である。 2 引用発明との相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)補正発明は,分離線3で切り離された容器の角部が連続した曲線のみで構成されるようにし,鋭角的な部分を残さないようにして,手指を傷つけることを確実に防止するために(段落【0011】参照),切り込み部の形状として,「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が に(段落【0011】参照),切り込み部の形状として,「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状の切り込み部」という構成を採用したものである。他方,引用文献の切り欠き9又は切欠10は,最奥部が半円状に形成されており(図1,3~6参照),円弧状又は楕円弧状の曲線が共通接線を有して対称形に漸近するように接するようには構成されておらず,半円状の切り欠き9と切り離し線16は,直角に交差している。そのため,例えば引用文献の図6の切り離された状態の容器では,切り離された容器の角部には鋭角的な部分が残ってしまい,手指を傷つけるおそれがある。このとおり,引用文献で開示される切り欠き9,切欠き10の構成は,従来技術のものにすぎず,補正発明とは異質である。 審決が周知技術の例として引用する甲第3号証は,複数の容器を相互に連結する外縁部に側面視でV形の溝を設けることに関する文献であって,補正発明にいう「平面視略V字の形状」の切り込み部と全く関係がない。また,甲第3号証には,円弧又は楕円孤が互いに隣り合って対称形に接する構成は全く開示されていないから,「接線」が生じる余地がなく,2つの円弧の交点を結ぶよう分離線が設けられているのみである。 甲第11号証も,抜刃を改良することにより,トゲ状の微小な切断部が残ることを防止するためのものにすぎず,小分け容器の形状については記載がない。甲第10号証も,容器の角部で手指が傷付けられることを防止するという課題を解決し得るものではない。 - 7 -また,被告が本件訴訟で提出する実願平4-76030号(実開平7-26379号)の 第10号証も,容器の角部で手指が傷付けられることを防止するという課題を解決し得るものではない。 - 7 -また,被告が本件訴訟で提出する実願平4-76030号(実開平7-26379号)のCD-ROM(乙1)も,「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周縁と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字状の切り込み部を設け」る構成を何ら開示するものではなく,かかる事項が周知技術であることの裏付けにはならない。 したがって,当業者は,引用発明及び周知技術に基づいて,補正発明と引用発明の相違点に係る構成に容易に想到することができない。 なお,補正の適否の判断においては「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周縁と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字状の切り込み部を設け」る構成が当業者に自明でないとしながら,進歩性判断においては上記事項が「当業者が適宜設計し得る事項」にすぎないとするのは,論理の矛盾がある。 3 審理不尽(取消事由3)請求項2ないし4の発明も,請求項1の発明と同様に,進歩性を有するものであるところ,審決は請求項1の発明の進歩性についてのみ判断し,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断していない。原告はすべての請求項に対応する審判請求手数料を納付しているのであって,請求項2ないし4の発明について判断をしないのは不当,違法である。 第4 取消事由に対する被告の反論 1 取消事由1に対し分離線が共通する接線となるのは,例えば,切り込 しているのであって,請求項2ないし4の発明について判断をしないのは不当,違法である。 第4 取消事由に対する被告の反論 1 取消事由1に対し分離線が共通する接線となるのは,例えば,切り込み線が一定の曲率半径を有する円弧状同士である場合,切り込みが最も深くなるごく一部の態様のときのみである。単に円弧又は楕円弧が互いに向かい合って対称形に接するだけでは,共通の接 - 8 -線とはならない。 当初明細書等の段落【0008】,【0016】には,「接線」自体について何らの記載がないし,図1,図2でも,分離線3は「接線」であるか否かに関わらず,1本だけしか設けられていないから,当該分離線3が接線であるということにはならない。 なお,本件補正により,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ結んだ円弧状又は楕円弧状の連続曲線が「前記分離線を共通する接線として」互いに向かい合って対称形に漸近して接することになるが,これによって,例えば小分け容器を分離させる力が接合部に無理なく効率的に集中し,割れることなくスムーズに切り離すことが可能になるとか,切り込みが深く,分離線が短くなって,短時間で切り離すことができるなど,さまざまな効果が生じることになる。したがって,本件補正は取扱いや切り離し作業に関する新たな技術的意義を新たに導入するもので,不適法である。 2 取消事由2に対し仮に本件補正が適法であるとしても,補正発明も補正前発明と同様の理由で進歩性を欠く。 すなわち,補正発明も,補正前発明と引用発明の一致点で引用発明と一致し,「補正発明では,切り込み部が,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称 正発明では,切り込み部が,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のものであるのに対して,引用発明では,曲線及び切り欠きの形状についてこのような規定のない点」で引用発明と相違する。 そして,補正前発明に関するのと同様に,引用発明に基づいて,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が互いに向かい合って対称形に接するV字の形状の「切り込み部」を設けることも,周知技術に基づいて当業者が容易に想到すること - 9 -ができるものにすぎない。引用発明のように,分離線で切り離し可能とした小分け容器において,分離線に沿って各容器を切り離した後に,手指等を傷つける問題があることは,当業者に良く認識されていた事項であり,引用発明においても,当業者が当然認識し得ていた技術的課題にすぎない。かかる問題を踏まえ,各容器を切り離した後の各容器の分離線が存在していた部位を含む外周をなす線が滑らかな形態になるようにすることは,登録実用新案第3075056号公報(甲11)や実願平4-76030号(実開平7-26379号)のCD-ROM(乙1)に記載されているように,当業者にとってごく一般的な技術的課題,解決手段にすぎず,審決が引用した周知技術の裏付けとなる文献においても内在していたものである。 また,容器の外周線を分離線と結ぶ円弧状又は楕円弧状の連続曲線は,分割線との連結の仕方によって,分離後に,容器の外周線や分離線との連結点に角部を生じ,手指を傷つける可能性があることは,当業者にとって自明である。分離後の容器外縁部の滑ら 又は楕円弧状の連続曲線は,分割線との連結の仕方によって,分離後に,容器の外周線や分離線との連結点に角部を生じ,手指を傷つける可能性があることは,当業者にとって自明である。分離後の容器外縁部の滑らかさをどの程度にするかは当業者が適宜設計し得る事項にすぎず,当該連続曲線と分離線の連結点について,その角部を小さくしようとすれば,当該連続曲線と分離線をできるだけ滑らかにつなげばよく,そのためには,幾何学上の観点から,当該連続曲線が分離線を共通する接線となるように設計すれば良いことを容易に着想し得る。そうしてみると,引用発明において,切り離し前に分離線が存在していた部分を滑らかな形態にすべく,上記相違点に係る補正発明の発明特定事項を採用することは,補正前発明と同様に当業者にとって容易になし得たものである。 そして,手指等を傷つけることがないという補正発明の効果は,引用発明及び周知技術から当業者において予期し得る範囲内のものにすぎない。 したがって,補正発明も,進歩性を欠くから,この旨をいう審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3に対し審決が請求項2ないし4の発明の進歩性につき判断をしなかったのは,請求項1の発明が進歩性を欠く以上,本件出願を拒絶査定した処分を取り消す理由はないか - 10 -らである。仮に請求項2ないし4の発明が進歩性を有するとしても,審決の結論は左右されるものではない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(補正の適否の判断の誤り)について(1) 当初明細書(甲8)の段落【0008】には,「容器の仮想外周線及び仮想分離線に沿って,円弧又は楕円弧が互いに接して略V字形状となる切り込み線をトムソン刃によって貫設する第1工程と,・・・第2工程とから打ち抜き方法を構成するという手段を採用した。」との記載が,段落【0 分離線に沿って,円弧又は楕円弧が互いに接して略V字形状となる切り込み線をトムソン刃によって貫設する第1工程と,・・・第2工程とから打ち抜き方法を構成するという手段を採用した。」との記載が,段落【0016】にも,「この切り込み部4は,分離線3を挟んだ両側の外周縁5と中間の分離線3をそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結んだ形状に形成する。即ち,円弧(楕円弧)が互いに向かい合って対称形に接する略V字の形状となる。」との記載があるし,当初明細書添付の図1,2には,小分け容器外縁部の分離線の両端付近に,円弧状又は楕円孤状の曲線で構成された平面視略V字状の切り込み部を設け,この切り込み部の曲線の分離線側端部が分離線と滑らかに繋がって連続曲線を成すようにし,上記切り込み部の曲線の分離線側端部における接線を想定した場合にこの接線が分離線と互いに重なり合うようにされている状況が図示されており,また分離線を挟んで両側の小分け容器が対称になる構造を有しているため,両側の小分け容器外縁部の切り込み部の曲線の分離線側端部における接線が,分離線において共通のものになり,したがって小分け容器外縁部の切り込み部の曲線と分離線とが成す連続曲線が接線を共通にして「互いに向かい合って対称形に漸近して接する」状況が図示されている。 そうすると,本件補正で改められた「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状」との発明特定事項は,当初明細書及び図面に記載された範囲内のものであるということができる。 - 11 -したがって,「円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として 視略V字の形状」との発明特定事項は,当初明細書及び図面に記載された範囲内のものであるということができる。 - 11 -したがって,「円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面略V字の形状」は当初明細書及び図面に記載された事項とは認められず,本件補正は改正前の特許法17条の2第3項の規定に違反するとした審決の判断には誤りがある。 (2) 被告は,本件補正によって,例えば小分け容器を分離させる力が接合部に無理なく効率的に集中し,割れることなくスムーズに切り離すことが可能になるとか,切り込みが深く,分離線が短くなって,短時間で切り離すことができるなどの,取扱いや切り離し作業に関する新たな技術的意義を新たに導入するものであると主張する。しかしながら,かかる効果ないし技術的意義は本件補正後においても本願明細書中に記載されているわけではないし,小分け容器外縁部の切り込みを「円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面略V字の形状」として,切り込みと分離線が滑らかに繋がるようにすれば,容器の切り離しがよりスムーズになる等の効果を奏することができることは当業者に自明であるから,被告の上記主張は前記(1)の結論を左右するものではない。 (3) したがって,取消事由1は理由があるが,審決は3頁で「仮に,この点が本願の図1,2から明らかであるとしたら,下記「第5.」(判決注:補正前発明と引用発明との対比及び進歩性判断)で示す周知例においても,記載されていることが図面から明らかな事項であるといえる。」と説示しているから,補正前発明の進歩性と同様に,本件補正後の発明である補正発明の進歩性についても実質的に判断したものである。そこで,後記 記載されていることが図面から明らかな事項であるといえる。」と説示しているから,補正前発明の進歩性と同様に,本件補正後の発明である補正発明の進歩性についても実質的に判断したものである。そこで,後記2においては,補正発明の進歩性について判断することとするが,以下のとおり,補正発明も,補正前発明と同様に,当業者において引用発明との相違点に係る構成に容易に想到し得るもので,進歩性を欠く。 2 取消事由2(引用発明との相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り)について(1) 補正発明も,補正前発明と引用発明の一致点で引用発明と一致し,補正発 - 12 -明では,「切り込み部が,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のもの」であるのに対して,引用発明では,曲線及び切り欠きの形状についてこのような規定のない点で引用発明と相違するところ,審決が周知例として引用する甲第11号証(実用新案登録第3075056号)には,次のとおりの記載及び図面がある。 ・段落【0001】(考案の属する技術分野)「本考案は,熱成形による容器に関する物で,ミシン刃などで容器を個別化したときの切断周辺が平滑であり,危害性を防止したものである。」・段落【0002】(従来の技術)「熱成形によって製造された容器は,多数が同じ成形シートで成形される為に,商品とする前に打抜き工程が必要であり,雄雌の抜きプレスや刃型で処理されている。」・段落【0003】(考案が解決しようとする課題)「熱成形品の打抜き仕上げの場合,特に飲食用の厚さが薄い熱成形品のうち,個別化するためにミシン刃などで打抜かれた商品はそ 型で処理されている。」・段落【0003】(考案が解決しようとする課題)「熱成形品の打抜き仕上げの場合,特に飲食用の厚さが薄い熱成形品のうち,個別化するためにミシン刃などで打抜かれた商品はその個別化した切断部分にトゲ状の微少な切断部が残り,使用にあたり指や唇部分を傷つける恐れがあった。」・段落【0004】(課題を解決する為の手段)「本考案の商品は,個別化したときのトゲ状部分を無くすように抜刃などの改良により解決したものである。」 - 13 -・図1 ・図3 また,乙第1号証(実願平4-76030号(実開平7-26379号)のCD-ROM)の段落【0001】,【0002】,【0006】ないし【0009】,図1,3にも,分離線であるスリットの両端に略4分の1円状の曲線(円弧)からなる切欠き部を設け,この曲線を直線であるスリットとが滑らかに接続されるようにした,個別の医薬品を包装するシート(ブリスター包装)が記載されており,上記のとおり切欠き部の曲線とスリットが滑らかに接続されるようにした結果,スリットが切欠き部の「円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線と」重なり,切欠き部が「互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のもの」になっている。 - 14 -そうすると,甲第11号証においても,乙第1号証においても,「分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結」んでおり,切り込み部の「円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線」としており,したがって上記切り込み部は「互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のものである」構成が記載されていて,かかる構成は本件出願当時における当業者の周知技術にすぎないということがで ,したがって上記切り込み部は「互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のものである」構成が記載されていて,かかる構成は本件出願当時における当業者の周知技術にすぎないということができる。したがって,補正発明と引用発明の相違点は,本件出願当時における当業者の周知技術にすぎないものである。 ここで,引用発明も,甲第11号証等に記載された周知技術も,食品等の小分け容器の構造に関するものでその技術分野が共通するところ,甲第11号証の段落【0003】,【0004】の記載に照らせば,上記周知技術は小分け容器を分離した後の容器外縁部に残る突出部等で使用者の手指が傷付けられる事態を防止することを目的とするものである。そして,引用文献(甲2の1)には,かかる使用者の手指の傷害の防止という観点は記載されていないが,引用文献の図6(下記参照)を見れば,小分け容器を切り離した後の分離線の両端に突部が残存することにより,使用者が上記突部で手指に怪我をするおそれがあり,不都合であることは,引用文献に接した当業者において極めて容易に理解できる事柄にすぎない。 ・引用文献の図6 - 15 -したがって,当該発明ないし技術的事項によって解決すべき技術的課題の観点からも,引用文献に対する前記周知技術の適用を否定すべき事情は存しない。 そうすると,引用発明に甲第11号証等に記載された周知技術を適用することにより,本件出願当時,当業者において前記相違点に係る構成に想到することは容易である一方,補正発明による作用効果すなわち使用者の手指の傷害の防止という作用効果(本願明細書(甲8)の段落【0005】~【0007】を参照。)は,引用発明及び前記周知技術から当業者が予測し得る程度のものにすぎないから,補正発明は進歩性を欠くものというべきである。 ( 用効果(本願明細書(甲8)の段落【0005】~【0007】を参照。)は,引用発明及び前記周知技術から当業者が予測し得る程度のものにすぎないから,補正発明は進歩性を欠くものというべきである。 (2) 前記(1)のとおり,本件補正後の請求項1の発明(補正発明)は進歩性を欠くものであるから,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断するまでもなく,原告の不服審判請求を不成立とした審決の判断に誤りがあるとはいえない。 したがって,原告が主張する取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(審理不尽)について原告は,審決は請求項1の発明の進歩性についてのみ判断し,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断しておらず,不当,違法であると主張する。 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言や,特許出願分割制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。なお,拒絶査定を受けた出願人が不服審判請求をするために請求項の数に応じた手数料を納付しなければならないのは, - 16 -審判においてすべての請求項につき審理・判断の可能性があることに対応するもので 絶査定を受けた出願人が不服審判請求をするために請求項の数に応じた手数料を納付しなければならないのは, - 16 -審判においてすべての請求項につき審理・判断の可能性があることに対応するものであって,出願拒絶についての可分的な取扱いと結び付くものではない。 したがって,審決が請求項2ないし4の発明の進歩性について判断をしなかったとしても違法ではなく,原告が主張する取消事由3は理由がない。 第6 結論以上によれば,原告が主張する取消事由2,3は理由がなく,したがって本件補正の前後を通じて発明の進歩性が欠如しているというべきところ,本件補正後の発明の進歩性についても判断を加えるときにおいては,本件出願を拒絶すべきであり,原告の不服審判請求を不成立とした審決は,その結論において正当である。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官田邉 実
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