- 1 -主文 被告が平成15年6月16日原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文同旨第2事案の概要本件は,勤務先での業務中に急性心筋梗塞を発症して死亡したP1の妻である原告がP1の死亡は業務に起因するとして被告に対し労働者災害補償保険法以下労,,(「災保険法」という)に基づき遺族補償年金の支払を請求したところ,被告がこれを。 支給しない旨の処分(以下「本件処分」という)をしたので,その取消しを求めた。 事案である。 争いのない事実(1)日本光研工業株式会社(以下「本件会社」という)は,パール顔料,化粧品。 基材,人工オパールの製造を主たる業務とする従業員約50名の会社であり,東京都立川市<以下略>に製造工場を有しており(以下「本件工場」という,同工。)場(一部)の概略図は別紙図面のとおりである。 (2)P1(昭和○年○月○日生)は,昭和42年10月,本件会社に入社し,一貫,(「」。)して製造部門の仕事に従事し平成11年9月16日以下本件当日という,。 ,当時技術部技術担当製造一課長の地位にあったP1の課長としての職務内容は生産計画の立案,実施の責任者としての職務を行うとともに,混合機を使用してのパール関係製品の製造業務にも携わっていた。また,P1は,平成6年2月17日,(),に本件会社の全体的業務に関して危険物保安監督者消防法13条に任命され消防関係の責任者として同業務を遂行していた。 (3)本件会社は,消防法10条1項に基づき規制される指定数量以上の危険物を貯蔵し取り扱う施設を有する事業所であり,同法16条の5に基づく立入検査の対象となっていた。本件 て同業務を遂行していた。 (3)本件会社は,消防法10条1項に基づき規制される指定数量以上の危険物を貯蔵し取り扱う施設を有する事業所であり,同法16条の5に基づく立入検査の対象となっていた。本件会社は,平成6年以降2度,消防署から同法4条及び16条の5に基づく立入検査(以下「査察」という)をされ,改善指導を受けていた。本。 件会社は,危険物を別紙図面記載の危険物倉庫(以下「危険物倉庫」という)に。 保管していたが,本件当日時点で,消防署長に届け出ていた指定数量を超える量の危険物(樹脂原料)を保管していた。 (4)本件会社の危険物保安監督者であるP1は,本件当日午前8時45分ころ,立川消防署から,同日中に査察を行う旨の電話連絡を受けた。本件会社は,立川消防署と交渉の末,査察の予定時刻を同日午前11時にしてもらい,それまでの間に,本件会社に整備・保管しておくべき書類の整理や,指定数量を超えて危険物倉庫に大量に保管していた危険物であるポリサイダーKD29(1缶当たり18リットル入り,約19キログラム,以下「本件危険物」又は「一斗缶」という)を同倉庫。 から運び出すなどして,体裁を整えることにした。 (5)P1は,同日午前9時ころから書類の整理を行った後,引き続き同日午前10- 2 -時ころから危険物の運び出し作業を開始し,前記一斗缶を両手に持って運ぶ作業を約30分行った(以下「本件作業」という。 。)(6)P1は,同日午前10時30分過ぎころ,別紙図面記載の事務所(以下「本件事務所」という)に戻ってから間もなく,顔が青くなり,手足を震えさせ,身体。 を硬直させるなどの症状が現れた。その後,P1は,救急車で東大和病院へ搬送され,右冠状動脈完全閉塞について手術を受けたが,同日午後7時ころ死亡し,死因は急性心筋梗塞とされた。 (7)P ,身体。 を硬直させるなどの症状が現れた。その後,P1は,救急車で東大和病院へ搬送され,右冠状動脈完全閉塞について手術を受けたが,同日午後7時ころ死亡し,死因は急性心筋梗塞とされた。 (7)P1の妻である原告は,平成14年12月20日,被告に対し,遺族補償年金の支払請求をしたが,被告は,P1の死亡は業務上の事由によるものとは認められないとして,同15年6月16日付けで,原告に対し,遺族補償年金を支給しない旨の本件処分をした。 (8)これに対し,原告は,平成15年7月17日,東京労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが,同審査官は,同16年1月7日付けで同審査請求を棄却する旨の決定をした。原告は,平成16年1月30日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,いまだ裁決はされていない。 本件の争点P1の死亡は業務に起因するものか否か 争点に関する当事者の主張【原告の主張】(1)本件当日の業務による精神的負荷本件会社に対する消防署の査察で違反が認められた場合には,消防法の規定により罰則が科され,最悪の場合,本件会社は,危険物貯蔵所等の設置許可が取り消されるなど,業務の存続に重大な影響が出かねない。本件工場は,2年ないし3年に1度の頻度で消防署による査察を受けていたものの,従前は実施の1週間から10。 ,日ほど前に消防署から本件工場の危険物保安監督者に対し連絡があったところが本件当日に行われた査察は,従前とは異なり事前に連絡がなく,当日になって,突如として直ちに査察する旨の連絡が本件工場の危険物保安監督者となっていたP1のもとに入った。しかも,本件会社では,前回の査察で消防署から改善するよう指導されていた点につき是正していなかった上,危険物倉庫には届け出ていた貯蔵量を超える量の危険物を保管しており,消防署から何ら のもとに入った。しかも,本件会社では,前回の査察で消防署から改善するよう指導されていた点につき是正していなかった上,危険物倉庫には届け出ていた貯蔵量を超える量の危険物を保管しており,消防署から何らかの処分を受ける可能性も十分にあった。このため,P1は,精神的に衝撃を受け,本件会社に整備・保管しておくべき書類を整理し,さらに違反の摘発を避けるため,査察が開始される午前11時までに本件作業を終えなければならなかった。 このような事情からすると,本件当日の業務によって,P1が強度の精神的負荷を受けたことは明らかである。 (2)本件当日の業務による身体的負荷P1は,本件当日午前9時ころから書類の整理作業をし,それを終えた後の午前10時ころ,本件作業を開始し,合計で2パレット分(80個)の一斗缶を,両手に1缶ずつ(合計約38キログラム)持ち,本件危険物の所在場所からパレットの置かれている場所まで約5メートルの距離を往復し,休憩することなく30分間運- 3 -び続け,一斗缶を3段(約1メートル20センチ)の高さに積み上げた。この際,気温及び湿度は高く,P1は,本件作業を終え本件事務所に戻った午前10時30分ころ,大量の汗をかいていた。 循環系が定常状態をある程度持続することのできる労作の強さは,一般人ではエネルギー代謝率(RMR)4前後である。ところが,本件作業は,RMR4ないし5程度の作業であり,作業継続可能時間が極めて短く,身体的負荷が極めて大きいものであった。また,P1が日常業務で行っていた危険物倉庫内の荷物の運搬作業は,フォークリフトなど機械に頼っていた部分が大きく,最大でも,20キログラム入りの製品詰め18箱を2時間半程度の時間をかけて,本人の意思で作業を区切りながら運搬する程度のものであった。 したがって,P1は,本件当日の業務によ 頼っていた部分が大きく,最大でも,20キログラム入りの製品詰め18箱を2時間半程度の時間をかけて,本人の意思で作業を区切りながら運搬する程度のものであった。 したがって,P1は,本件当日の業務により,日常業務とは異なる大きな身体的負荷を受けた。 (3)P1の基礎疾患について心筋梗塞は,多くの場合,冠状動脈硬化性粥腫(アテローム)の破綻による血栓の形成によって発症するところ,冠状動脈硬化に関しては,高血圧,高脂血症,喫煙が三大危険因子として挙げられているほか,肥満,高尿酸血症,糖尿病等も危険因子として挙げられている。しかし,P1は,喫煙については本件会社で昼食後や休憩時に時々吸っていた程度であり,高血圧についても,仮に認められたとしてもその程度は軽度に過ぎず,いずれも危険因子として重視すべきではない。その他の危険因子は,本件当日のP1には認められない。 また,P1には,虚血性心臓疾患を発症させるほど重篤な基礎疾患があったことを裏付けるような左室肥大,動脈硬化及び側副血行路も認められない。 以上からすると,P1には,本件当日の業務直前の時点においては,自然的経過によって心筋梗塞を発症させるほど重篤な冠状動脈硬化等の基礎疾患があったとはいえない。 (4)本件の業務起因性脳・心臓疾患に関する行政庁の業務起因性の認定基準である平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について(以下「新認定基準」という)によれば,業務に。 」。 よって,発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的場所的に明確にし得る「異常な出来事」に遭遇したことによる明らかな過重負荷を受けたことにより脳・心臓疾患を発症した場合には,業務起因性が認められるとしている。そして,「異常な出来事」の具体的内 間的場所的に明確にし得る「異常な出来事」に遭遇したことによる明らかな過重負荷を受けたことにより脳・心臓疾患を発症した場合には,業務起因性が認められるとしている。そして,「異常な出来事」の具体的内容として,①「極度の緊張,興奮,恐怖,驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態,②「緊急に強」度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態,③「急激で激し」い作業環境の変化」の3類型が挙げられている。 本件に関しては,本件当日に突然連絡を受けてからの査察に対応するためのP1の業務が前記①及び②の類型に該当することは明らかであり,それによる明らかな過重負荷を受けたことによりP1は心筋梗塞を発症したものとして,業務起因性が認められる。 - 4 -【被告の主張】(1)業務起因性の判断基準労災保険法上,労働者の死亡等を業務上のものというためには,当該労働者の業務と当該死亡等の結果との間に相当因果関係が肯定されることが必要であり,そのためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると認められることが必要である。 ところで,脳・心臓疾患は,基礎となる病変が種々の要因により徐々に進行・増悪して発症に至るのが通常であることからすると,脳・心臓疾患の発症が業務に内在する危険が現実化したものであると認められるためには,①平均的な労働者を基準として,当該業務による負荷が,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められること(危険性の要件,②当該業務による負荷が,当該労働者の私的危険因子などの業務外の要)因に比して相対的に有力な原因となって当該脳・心臓疾患を発症させたと認められること(現実化の要件)が必要である。 さらに,具体的事案にお 業務による負荷が,当該労働者の私的危険因子などの業務外の要)因に比して相対的に有力な原因となって当該脳・心臓疾患を発症させたと認められること(現実化の要件)が必要である。 さらに,具体的事案において業務起因性の有無を適正に判断するためには,最新の医学的知見を踏まえた上で,上記にいう危険性の要件及び現実化の要件を具体化する必要がある。このような観点から,厚生労働省において,臨床,法律学等の専門家で構成される専門検討会の検討成果を踏まえて策定されたのが新認定基準であり,本件はこれによって判断するのが相当である。 新認定基準においては,①発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る「異常な出来事」に遭遇したこと,②発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと,③発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したことによる明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号に該当する疾病として扱っている。 以上の枠組みに従い,危険性の要件が認められることに加え,労働者の私的な危険因子等の内容及び評価を勘案して,現実化の要件も認められることによって,初めて業務起因性が肯定されることになる。 (2)P1の本件当日の業務の危険性について本件工場は,2年から3年ごとに定期的に消防署の査察を受けている。本件工場の危険物保安監督者であるP1は,そのことを知っており,実際に査察への対応も経験している。また,消防署の査察で違反を指摘されても後日改善報告を提出すれ,。 ,,ぱ罰則が適用されることはないしたがって本件当日の査察に対応する業務が突発的で予測困難な事態であるとか,本件会社の存続に重大な影響を与えかねないものであるとはいえず,P1 を提出すれ,。 ,,ぱ罰則が適用されることはないしたがって本件当日の査察に対応する業務が突発的で予測困難な事態であるとか,本件会社の存続に重大な影響を与えかねないものであるとはいえず,P1が「異常な出来事」に遭遇したとは認められない。 また,P1は,日常業務においても,危険物倉庫内の危険物を運搬する作業を行っていた。本件作業も,搬出距離にして約4メートル程度,時間は約20から30分,個数は48缶程度のもので,非常にゆっくり休み休み行ったものである。したがって,本件当日のP1の業務は,日常業務と異なるものではなく,P1が発症に近接した時期において特に過重な業務に就労したとは認められない。さらに,P1- 5 -が,発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したとも認められない。 以上によれば,新認定基準に照らし,P1が従事した発症直前の業務は,客観的にみて,過重な精神的,身体的負荷を与えるものとは評価し得ず、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得る危険を内在した業務であったとはいえない。 (3)P1の基礎疾患等についてア虚血性心臓疾患の危険因子虚血性心臓疾患は,冠状動脈の粥状動脈硬化を基盤にして起こるところ,その最も重要な危険因子は加齢であり,性(男性であること)も関連するほか,三大,,,危険因子と呼ばれる高血圧高脂血症喫煙さらには他の危険因子として糖尿病肥満,家族歴,高尿酸血症等が挙げられている。これら危険因子が複数,特に3因子以上が集積することにより,虚血性心臓疾患の発症の危険は著しく増大するとされている。 イP1が虚血性心臓疾患の危険因子を有していたこと血圧の最大値が140mmHgを超えているとき,又は最小値が90mmHgを超えているときは高 性心臓疾患の発症の危険は著しく増大するとされている。 イP1が虚血性心臓疾患の危険因子を有していたこと血圧の最大値が140mmHgを超えているとき,又は最小値が90mmHgを超えているときは高血圧とされている(高血圧の意義等については後記第3の1(2)ウ(イ)記載のとおりである。 。)本件会社で実施した健康診断において,P1は,平成9年1月29日以降,血圧の最大値が140mmHgを超えるようになり,最小値も,同8年7月23日に90mmHgを超え,同9年1月29日以降は常に90mmHgを超えるようになった。本件当日直前の平成11年3月9日の健康診断において,P1の血圧は,いずれも過去最高となる最大値177mmHg,最小値112mmHgを記録している。これらP1の血圧値の推移によれば,P1は,平成9年1月29日には軽症の高血圧,同10年3月31日と本件当日直前の同11年3月9日には中等症の高血圧であった。 また,P1の健康診断に際して測定された心電図によれば,P1には左室肥大の疑いがあり,その原因は高血圧である可能性が高い。 P1の家族歴を見ると,父親は脳卒中,母親は脳出血,姉のうち2名は急性心筋梗塞及びクモ膜下出血でそれぞれ死亡しているが,心筋梗塞に脳梗塞を合併する例も多いとされていることからすると,P1の家系は血管に係る負の遺伝素因を有していると考えられる。 さらに,P1は,30年間にわたり1日約20本から30本のたばこを吸っており,本件当時は家庭で喫煙することは止めていたものの,本件会社内では喫煙を続けていた。 したがって,P1は,高血圧,喫煙及び家族歴という,虚血性心臓疾患の三大危険因子を含む複数の危険因子を有していたといえる。 ウP1が本件当日以前から右冠状動脈の動脈硬化と閉塞を起こしていたことP1の死因となった閉塞が生じ 圧,喫煙及び家族歴という,虚血性心臓疾患の三大危険因子を含む複数の危険因子を有していたといえる。 ウP1が本件当日以前から右冠状動脈の動脈硬化と閉塞を起こしていたことP1の死因となった閉塞が生じた右冠状動脈には,本件当日以前から動脈硬化が存在した上,左冠状動脈についても,血管内径には凹凸が認められ,動脈硬化- 6 -が存在したことがうかがわれる。 また,P1が本件当日に搬送された病院での検査結果によれば,P1の左冠状動脈の前下行枝の末梢動脈から右冠状動脈にかけて側副血行路が認められ,その太さからして,本件当日以前から繰り返し短時間の右冠状動脈閉塞を起こしていた可能性があり,P1には本件以前から右冠状動脈の高度狭窄又は閉塞による狭心症があったことが疑われる。 エ小括以上のとおり,P1は,虚血性心臓疾患の危険因子を複数持っていた上,同人には,本件当日以前から,右冠状動脈の硬化及び閉塞が生じていたことが認められる。 (4)業務起因性についての結論以上からすると,P1は,自然経過によって右冠状動脈の閉塞を起こして死亡した可能性が高い。その上,本件当日のP1の業務は,新認定基準や社会通念に照らしても,過重なものと評価することはできない。したがって,P1の死亡は,同人の基礎疾患がたまたま本件当日の業務直後に自然経過により増悪した結果発症したものであり,業務起因性は否定されるべきである。 第3当裁判所の判断 前提事実前記争いのない事実に加え,証拠(文中又は文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)P1の本件当日の業務等についてアP1の通常業務P1は,平成11年9月16日当時,技術部技術担当製造一課長の地位にあった。P1は,パール関係製品や化粧品関係製品の製造を担当し,自らも,主として P1の本件当日の業務等についてアP1の通常業務P1は,平成11年9月16日当時,技術部技術担当製造一課長の地位にあった。P1は,パール関係製品や化粧品関係製品の製造を担当し,自らも,主としてパール・グレイズ工場(以下「PG工場」という)において行われる製造作。 業に携わっていた。その際,P1は,20ないし25キログラム入りの原料箱から混合機等へ原料を投入したり,製品を10ないし20キログラム単位に梱包したり,スラリー原料を混合するなどの手作業も行っていたが,連続作業ではないので本人の意思である程度作業を区切ることができ,最大の作業量となるのは,製品を20キログラム入りの箱18個に詰めて梱包する作業であった。また,20キログラムの箱詰めの製品を運んでパレットに乗せる作業を行うこともあった(乙28の1,証人P2【14,15頁)。 】イ本件会社に対する査察について立川消防署では,本件当時,内部の訓令に従い,2年から3年に1回程度の頻,()。 度で危険物を取り扱う施設を有する事業所に対し査察を実施していた乙11本件工場についても,平成6年から同11年にかけての期間には,本件当日のほか,平成6年2月15日及び同8年11月11日に消防署による査察が実施された(乙20ないし22,28の4,6,8。本件当日以前に実施された査察で)は,1週間から10日ほど前に,消防署から査察を行う旨の連絡があるのが通例となっており,本件会社では,連絡を受けてから査察の実施までの間に査察に対- 7 -処するための準備を行っていた(乙9,証人P2【5頁。 】)なお,本件工場に対する平成8年の査察では,一般取扱所(パール顔料製造工場)に関し,ジャケット付撹拌機等の増設についての無許可変更,保有空地不確保(建築物,第5種消火設備撤去(基数不足)の各点につ なお,本件工場に対する平成8年の査察では,一般取扱所(パール顔料製造工場)に関し,ジャケット付撹拌機等の増設についての無許可変更,保有空地不確保(建築物,第5種消火設備撤去(基数不足)の各点につき違反が指摘され,)(),(,),屋内貯蔵所危険物倉庫に関しては許可届出以外危険物不適数量倍数保有空地不確保(建築物,第5種消火設備撤去(基数不足)の各点につき違反)が指摘されていた(乙28の6。 )ウ本件当日に査察の連絡が入ってからの状況本件当日に先立ち,本件会社内では,本件当日には隣接する別の会社の工場に対して査察が行われる旨の情報が流れていた(甲14,乙8,9,証人P2【5ないし6頁。なお,乙11号証には,本件当日の2日以上前に本件会社に対し】査察を実施する旨の事前連絡をしていたと思うとの立川消防署査察係長の供述があるが,上記各供述に反する上,本件当日当時の担当者に確認した上での供述ではないことに照らすと,これを採用することはできない。 。)ところが,本件当日午前8時45分ころ,立川消防署から本件会社に対し,同日中に本件工場に対する査察を行う旨の電話連絡があった(甲14,乙9,証人P2【1頁。立川消防署からの電話に出たP1は「え,うちですか「隣で】),」,はないのですか」と問い返すなどした(甲14,証人P2【6頁。この様子】)を隣で見ていたP1の上司であるP2には,電話でやりとりをしているP1の顔つきが変わり,顔色が青くなったように見えた(甲14,証人P2【6頁1。 】P2は,電話を終えたP1に対し「隣に来るのではなかったか」と聞いたと,ころ,P1は「うちの会社に立ち入り検査に来るようだ」と答えた。P2には,P1は気が動転していて通常の状態ではなく,自分の方から動き出せないような様子に し「隣に来るのではなかったか」と聞いたと,ころ,P1は「うちの会社に立ち入り検査に来るようだ」と答えた。P2には,P1は気が動転していて通常の状態ではなく,自分の方から動き出せないような様子に見えたので,P2からP1に対し,前回の査察に際して指摘された問題については大丈夫なのかどうかを確認した。これに対し,P1は,違反事項(無許可変更)として指摘された攪拌機の変更につき未だに申請をしていないこと,希釈タンク2基及び反応タンク1基を新設したのに申請を怠っていたこと,溶剤分離槽の完成検査を受けていないこと等の問題点があると述べた(甲14,証人。 P2【7頁)】P2も,P1の話を聞いて動揺し,P1に対し,査察開始時刻を午前11時に延ばしてもらって対策を取るよう指示し,これに従い,P1が立川消防署と電話で交渉し,前記査察開始時刻について同消防署の了解を得ることができた(甲14,証人P2【8頁。 】)エ本件作業を開始するまでの状況P1は,P2からの指示を受け,同日午前9時ころから,本件工場の研究・事務棟の2階で,本件会社に整備・保管しておくべき書類の整理を行い,その後,同所にいた他の従業員に対し,トラックの手配を指示した。 また,P2も,査察に対応するため,急遽,現場関係者のみならず事務関係の職員にも呼びかけ,社員の総力で緊急事態に対応する必要があることを説明し,従業員らに対し各種の作業を指示した。 - 8 -P1は,書類の整理を終えてからPG工場前に来て,同所にいたP2に対し,「危険物倉庫にもまだちょっと余計なものがたまたまオーダーの関係で入っているが,あれをどうしょうか「P2君,時間がなくてだめだ。このままの状態」,でいってしまおうか」などと話をした。P2には,その際のP1が,同人が焦。 った時に見せる,言葉が思いどおりに で入っているが,あれをどうしょうか「P2君,時間がなくてだめだ。このままの状態」,でいってしまおうか」などと話をした。P2には,その際のP1が,同人が焦。 った時に見せる,言葉が思いどおりに出てこないような状態を見せており,時間の切迫から気が動転して自分では適正な判断ができないほどうろたえているように感じられた。 P2は,P1に対し「時間はまだあるので,できるところまで体裁を整えよ,う。私は工場の方をやるから,P1,おまえは危険物倉庫の方をやってくれ」と述べ,P1自身が危険物保安監督者として責任者となっている危険物倉庫の対応に当たるよう指示した(甲14,証人P2【9,17頁)。 】オ本件作業の状況P2の上記指示を受けて,P1は,引き続き同日午前10時ころから,同僚のP3と2名で本件作業を開始した。P1及びP3は,危険物倉庫内から本件危険物の一斗缶を両手に各1缶ずつ(合計約38キログラム)持って,指定数量を超過していた約72缶程度を,同倉庫入口に置いてあるパレットの位置まで約4メートルの距離を搬出し,これをパレット上に乗せる作業を約30分行った。1つのパレット(1メートル×1.2メートル)には,1段に約12缶として3段,約1.2メートルの高さに積み上げ,2パレット分約72缶を搬出した。なお,P3はフォークリフトを運転して,本件危険物を載せたパレットをトラックに積み込む作業も行っていたので上記約72缶のうち少なくとも約3分の2程度約,(48個前後)はP1が運び出した(甲19,20,乙8,9,31,証人P2。 【10,18頁,弁論の全趣旨)】本件当日前は,最高気温が30度を超える暑い日が続いていたこともあり,本件作業時の危険物倉庫内は暑く,P1,P3両名は,かなりの汗をかいた(甲14,乙8,9,33,証人P2【11頁 の全趣旨)】本件当日前は,最高気温が30度を超える暑い日が続いていたこともあり,本件作業時の危険物倉庫内は暑く,P1,P3両名は,かなりの汗をかいた(甲14,乙8,9,33,証人P2【11頁。 】)カ発作時の様子P1は,本件作業を終えて,同日午前10時30分過ぎころ,汗をたくさんかいた状態で本件事務所に戻り,冷蔵庫からペットボトルを取り出して水を勢いよ,,く飲んだ直後P1同様に別の作業を終えて本件事務所に戻っていたP2に対し「ちょっと調子がおかしい「兄貴と同じ病気かなあ」と言い,そうしている」,うちに,顔面が蒼白になり,手足を震わせ,体が硬直するなどの症状が現れたため,救急車で病院へ搬送された(甲14,証人P2【10,11頁。 】)キ東大和病院での緊急措置とP1の死亡P1は,搬送された東大和病院で,心電図等から,右冠状動脈の急性心筋梗塞の所見が認められ,緊急に頸動脈血管造影を行ったところ,右冠状動脈に完全閉塞が認められ,左冠状動脈は異常がなかったものの,右冠状動脈へ向けて側副血行路が認められた。このため,同病院では,P1に対して,経皮的血管内冠状動脈形成術・ステント留置法を試み,血行を再建した後,集中治療室において心肺蘇生術を施したが,心室細動が始まるなど容態が悪化した。その結果,P1は,- 9 -同日午後7時10分,同病院で死亡した(乙66の1及び2)。 ()(,,,, 虚血性心臓疾患に関する医学的知見甲3ないし8 21の1乙4953ないし58,61)ア虚血性心臓疾患の概念虚血性心臓疾患は,心筋に血液を供給する冠状動脈の異常によって,心筋の需要に応じた酸素の供給不足が生じ,その結果,心筋が酸素不足(虚血)に陥り,心筋機能に障害が生ずる疾患である。そのうち,虚血が一過性で心筋の障 患は,心筋に血液を供給する冠状動脈の異常によって,心筋の需要に応じた酸素の供給不足が生じ,その結果,心筋が酸素不足(虚血)に陥り,心筋機能に障害が生ずる疾患である。そのうち,虚血が一過性で心筋の障害が一時的な場合を狭心症といい,虚血が持続するために心筋が壊死に陥るものを心筋梗塞という。 冠状動脈の血行障害の原因は,冠状動脈硬化,血栓症,冠状動脈の攣縮(スパズム)などが挙げられているが,成人の場合,大部分が冠状動脈硬化によるものとされている。動脈硬化とは,動脈壁の病的な硬化・肥厚の病態を総称し,中でも,粥状硬化は,冠状動脈硬化症,脳梗塞の一部や大動脈・末梢動脈の閉塞性動脈硬化症などの成因として臨床上重要な病態であり,一般には,動脈硬化は粥状硬化を意味する。 なお,粥状硬化とは,血液中のコレステロールが血管内膜の中に蓄積され,これが血液中の白血球の働きにより血管の内膜の中に泡沫細胞となって粥状に沈着し,粥腫(プラーク)と呼ばれる固まりを形成した結果,血管壁が内腔面の肥厚により狭く硬くなることをいう。 イ心筋梗塞と身体的・精神的負荷との関係一般に,心臓疾患は,多くの場合,加齢,食生活,生活環境,遺伝等の基礎的要因による生体が受ける通常の負荷により,徐々に血管病変等が形成進行及び増悪するという自然経過をたどり発症するものである。しかし他方で,上記のような自然経過の過程において「異常な出来事」に遭遇した場合や,日常業務に比,較して特に過重な精神的・身体的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務に就労した場合に,これらの過重な負荷が急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし,発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,発症する場合があることは医学的に広く認知されているところである。 心筋梗塞に関しては,冠状動脈閉塞の原因として, 管収縮等を引き起こし,発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,発症する場合があることは医学的に広く認知されているところである。 心筋梗塞に関しては,冠状動脈閉塞の原因として,冠状動脈に存在する粥腫に亀裂が生じ,そこに急激に血栓が形成され,それが増大して冠状動脈の閉塞を引き起こすという機序が挙げられている。粥腫が亀裂する原因は,急激で大幅な血圧の上昇などが多いとされ,その血圧上昇の一因として精神的ストレス負荷がある。そのほか,冠状動脈の攣縮(スパズム)による閉塞などが説明されている。 冠状動脈のスパズムは,その発症機序に精神的ストレスが関与しているとされ,冠状動脈の内皮を障害し,血栓形成を促す作用があることが実験的に示されているほか,粥腫に亀裂が生じる原因ともなり得る。 ウ虚血性心臓疾患の危険因子(ア)虚血性心臓疾患の危険因子(リスクファクター)として挙げられているのは,年齢(加齢,性別(男性であること,家族歴,高血圧,高脂血症,))喫煙,糖尿病,肥満,高尿酸血症等であり,そのうち高血圧,高脂血症,喫- 10 -煙は,三大危険因子とされている。 (イ)高血圧a高血圧とは,動脈壁にかかる圧力が高い状態をいい,平成11年2月に発表されたWHO(世界保健機構)の基準を基にした,日本高血圧学会の,(,「」基準によれば収縮期血圧上の血圧あるいは最大血圧以下最大血圧又は「最大」という)が140mmHg未満でかつ拡張期血圧(下の血。 圧あるいは最小血圧,以下「最小血圧」又は「最小」という)が90m。 mHg未満の場合を正常血圧とし,最大血圧が140mmHg以上又は最小血圧が90mmHg以上の場合を高血圧としている。最大血圧が140mmHg以上を「軽症」とし,20mmHg上がるごとに「中等症」から g未満の場合を正常血圧とし,最大血圧が140mmHg以上又は最小血圧が90mmHg以上の場合を高血圧としている。最大血圧が140mmHg以上を「軽症」とし,20mmHg上がるごとに「中等症」から「重症」の高血圧とされ,最小血圧についても,90mmHg以上を「軽症」とし,10mmHg上がるごとに重症度が増加するとされている。 b高血圧と虚血性心臓疾患発症との関連性については,高血圧が長期間継続すると,血管壁へ強い圧力が絶えずかかる結果となり,血行力学的な変化によって血管内皮細胞が傷害され,血管内皮の機能不全が生じる。その結果,冠状動脈においては,LDLコレステロールの透過性が亢進し,血小板が粘着,凝縮しやすくなり,内膜平滑筋細胞の増殖を刺激し,内膜結合細胞の増生を促進する。そして,これに脂質の沈着等が加わり,冠状動脈硬化の進行を助長させることとなる。 (ウ)高脂血症a高脂血症とは,血清総コレステロール値(TC)あるいは血清トリグリセライド(中性脂肪)値(TG)のいずれか又は双方が増加した病態を指す。 b虚血性心臓疾患の危険因子として最も関係が深いのは血清コレステロールであり,血清総コレステロール値(TC)が220mg/dl以上になると虚血性心臓疾患の発症率が増加することが明らかになっている。 c日本動脈硬化学会は,次のとおり,高脂血症の治療を要する基準値を設定している。 血清総コレステロール(TC)220mg/dl以上LDLコレステロール130mg/dl以上トリグリセライド(TG)150mg/dl以上HDLコレステロール40mg/dl未満(3)P1の家族歴及び従前の健康状況等ア家族歴P1の父は脳卒中で,母は脳出血で,それぞれ死亡しており,7人いるP1の兄弟のうち,2人の姉は急性心筋梗塞及びクモ膜下出血でそれぞ mg/dl未満(3)P1の家族歴及び従前の健康状況等ア家族歴P1の父は脳卒中で,母は脳出血で,それぞれ死亡しており,7人いるP1の兄弟のうち,2人の姉は急性心筋梗塞及びクモ膜下出血でそれぞれ死亡している,(,ほか兄が心臓疾患で通院してバルーン治療を受けた経験を有している乙2764及び65の各1,原告【3,4頁。 】)イ既往症及び勤務状況等(ア)P1は,平成7年5月に実施した脳ドックの際に,脳血管疾患の指摘を- 11 -受けた。P1は,同月24日,日本赤十字社医療センター(以下「日赤医療センター」という)神経内科を初めて受診したところ,MRI検査により。 左尾状核頭に陳旧性脳梗塞(ラクナ状態)が発見された。そこで,P1は,同年10月11日から同月19日までの間,日赤医療センターに入院し,脳血管造影の所見からウィルス動脈輪閉塞症(もやもや病)と診断され,退院後は通院治療を受けた(乙39,64の1及び2。 )(イ)その後,P1は,平成9年10月20日午前9時ころ頭痛がしたため,同月22日に東京女子医科大学病院(以下「女子医大病院」という)で外。 来受診したところ,CT検査の結果,脳室内出血が認められた。そこで,P1は,即日女子医大病院に入院して手術を受け,退院後は約2か月の間自宅で療養し,平成10年初め頃職場に復帰し,通院治療を受けた(乙28の。 1,同35ないし38,65の1及び2,弁論の全趣旨)(ウ)P1は,平成11年3月から本件当日までの6か月間は,本件会社に通常どおり勤務し,病気による欠勤はない(乙47,弁論の全趣旨。 )ウ健康診断の結果,,,,本件会社は従業員に対し定期的に健康診断を実施しているところP1は平成6年3月25日,同7年4月26日,同8年7月23日,同年9月27日,同9年1月 全趣旨。 )ウ健康診断の結果,,,,本件会社は従業員に対し定期的に健康診断を実施しているところP1は平成6年3月25日,同7年4月26日,同8年7月23日,同年9月27日,同9年1月29日,同年7月31日,同10年3月31日,同年11月4日,同11年3月9日これを受けたP1の健康診断の結果は次のとおりである乙,。 ,(30。 )(ア)血圧関係①平成6年3月25日最高114mmHg,最低78mmHg(1回目)最高120mmHg,最低80mmHg(2回目)②平成7年4月26日最高118mmHg,最低84mmHg(1回目)最高120mmHg,最低82mmHg(2回目)③平成8年7月23日最高139mmHg,最低96mmHg④平成8年9月27日最高110mmHg,最低88mmHg(1回目)最高110mmHg,最低80mmHg(2回目)⑤平成9年1月29日最高151mmHg,最低91mmHg⑥平成9年7月31日最高143mmHg,最低96mmHg「。 。」健康診断結果報告書の総合評価欄には高血圧です治療が必要ですとの記載がされている。 ⑦平成10年3月31日最高170mmHg,最低105mmHg健康診断結果報告書の総合評価欄には,前記⑥と同一の記載がされてい- 12 -る。 ⑧平成10年11月4日最高147mmHg,最低93mmHg健康診断結果報告書には血圧判定として「この検査の範囲では異常はありません」との記載がされている。 ⑨平成11年3月9日最高177mmHg,最低112mmHg健康診断結果報告書の総合評価欄には,前記⑥と同一の記載がされている。 ⑩前記(2)ウ(イ)aの日本高血圧学会の基準によれば,P1は,平成8年7月23日,同9年1月29日,同年 最低112mmHg健康診断結果報告書の総合評価欄には,前記⑥と同一の記載がされている。 ⑩前記(2)ウ(イ)aの日本高血圧学会の基準によれば,P1は,平成8年7月23日,同9年1月29日,同年7月31日,同10年11月4日の各健康診断時には,軽症の高血圧の血圧値であり,同10年3月31日及び同11年3月9日の各健康診断時には,中等症の高血圧の血圧値であった。 (イ)高脂血症関係①平成6年3月25日血清総コレステロール(TC)218mg/dlLDLコレステロール記録なしトリグリセライド(TG)69mg/dlHDLコレステロール52mg/dl②平成7年4月26日血清総コレステロール(TC)208mg/dlLDLコレステロール137mg/dlトリグリセライド(TG)152mg/dlHDLコレステロール41mg/dl③平成8年9月27日血清総コレステロール(TC)169mg/dlLDLコレステロール93mg/dlトリグリセライド(TG)144mg/dlHDLコレステロール47mg/dl④平成10年11月4日血清総コレステロール(TC)181mg/dlLDLコレステロール記録なしトリグリセライド(TG)136mg/dlHDLコレステロール43mg/dl健康診査結果報告書には,この検査の範囲では異常がありませんとの記載がされている。 ⑤前記(2)ウ(ウ)cの日本動脈硬化学会の基準値によれば,P1は,平成7年4月26日の健康診断時のみ,LDLコレステロール,トリグリセライド(TG)の数値が僅かに高かったことが認められるが,それ以外は,高脂血症関係で問題となる点は見当たらない。 (ウ)その他- 13 -P1の肥満度はいずれの健康診断においても正常範囲であり,また,尿酸値,血糖 が僅かに高かったことが認められるが,それ以外は,高脂血症関係で問題となる点は見当たらない。 (ウ)その他- 13 -P1の肥満度はいずれの健康診断においても正常範囲であり,また,尿酸値,血糖検査の結果も正常の範囲であった。 エ喫煙歴P1は,30年間にわたって,1日当たり20本から25本喫煙していたが,平成7年にもやもや病を発症し手術を受けてからは,昼食後や午前・午後各1回ずつある休憩時間に,職場の休憩室で喫煙することがあったものの,その本数は,(,,,【,減り家庭では喫煙をしていなかった甲16乙67 証人P2 13頁,原告【5,6頁。 】】) 争点に対する判断(1)業務起因性の判断基準労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡等について行われるところ(同法7条1項1号,労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには,)業務と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・判例時報837号34頁参照。 )また,労災保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・判例時報1557号58頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・判例時報1564号137頁。 )ところで,本件で問題となっている虚血性心臓疾患は,前記前提事実(2)イのとおり,基礎となる病変が,日常生活上の種々の要因により,徐々に進行・増悪して発症に至るのが通常であるが,他方で,業務による過重負荷が加わると,急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし,発 (2)イのとおり,基礎となる病変が,日常生活上の種々の要因により,徐々に進行・増悪して発症に至るのが通常であるが,他方で,業務による過重負荷が加わると,急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし,発症の基礎となる血管病変等が自然の経過を超えて著しく増悪して発症する場合もあるとされているところである。 そうだとすると,過重な業務によって,著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮が引き起こされた結果,基礎疾患の自然的経過を超えて虚血性心臓疾患を発症したと認められる場合に,当該心臓疾患の発症が,業務に内在する危険が現実化したものと評価し,業務起因性を認めるのが相当である。 これを本件に則し換言するならば,P1は,直ちに心筋梗塞を発症するような状,,態になく本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに本件作業に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させて心筋梗塞を発症したものというのか,それとも,P1は,いつ心筋梗塞を発症してもおかしくない状態にあり,本件作業後に発症したのは偶然でしかないというのかによって決定されることになる。すなわち,前者であれば業務起因性が肯定され,後者であれば否定される。本件はいずれであるのかについて,以下検討を進めることにする。 (2)本件における業務起因性の判断ア虚血性心臓疾患の危険因子とP1の基礎疾患(ア)危険因子- 14 -前記前提事実(2)ウによれば,虚血性心臓疾患の危険因子として挙げられているのは,年齢(加齢,性別(男性であること,家族歴,高脂血症,高)),,,,,,,血圧喫煙糖尿病肥満高尿酸血症等でありそのうち高脂血症高血圧喫煙は,三大危険因子とされていることが認められる。 (イ)P1が本件当時有していた危険因子(基礎疾患) ,,,,,,血圧喫煙糖尿病肥満高尿酸血症等でありそのうち高脂血症高血圧喫煙は,三大危険因子とされていることが認められる。 (イ)P1が本件当時有していた危険因子(基礎疾患)前記争いのない事実(2,前記前提事実(3)によれば,次の事実が認め)られる。 aP1は,本件当日当時,54歳の男性であり,父親が脳卒中,姉の1人が急性心筋梗塞で死亡するなど,家族に虚血性脳・心臓疾患で死亡した近親者がいた。 bP1は,30年間にわたって喫煙していたほか,平成9年1月29日以降の健康診断で,軽症ないし中等症の高血圧症に該当する血圧値を示した。も,(【】,,【,っとも 証拠 乙65の142ないし45頁同69証人P4 12頁)及び弁論の全趣旨によれば,①P1は,平成9年10月の女子医】大病院入院時に毎日測定された血圧値が,入院当初の一週間に6度ほど高血圧の数値を示しながら,その合間には正常値を示し,次週以降は殆ど正常値を示していること,②P1は同年10月25日に降圧剤であるアダラートが投与されているものの,その後は投与した形跡がないこと,③P4医師は,P1の血圧値は環境の変化から高値を示したに過ぎない(いわゆる白衣性高血圧)可能性があると証言していることが認められる。以上のようにP1の血圧の測定値の信頼性は必ずしも確かなものとはいえない面があるものの,平成9年1月以降の健康診断における血圧値の推移に照らすと,本件当日において,P1は軽症ないし中等症の高血圧であったと認定するのが相当である。 c他方,P1は,本件当日当時,虚血性心臓疾患の三大危険因子の一つとされている高脂血症ではなく,また,糖尿病,肥満,高尿酸血症等の危険因子は持っていなかった。 (ウ)P1の基礎疾患と心筋梗塞発症との関係a被 ,本件当日当時,虚血性心臓疾患の三大危険因子の一つとされている高脂血症ではなく,また,糖尿病,肥満,高尿酸血症等の危険因子は持っていなかった。 (ウ)P1の基礎疾患と心筋梗塞発症との関係a被告は,P1が死亡したのは,P1の基礎疾患が自然的経過で増悪し,たまたま業務中に心筋梗塞を発症した結果であると主張する。 b確かに,前記(イ)a,bによれば,P1は,本件当日当時,54歳の男性であり,軽症ないし中等症の高血圧であったこと,喫煙の習慣があったこと,近親者に虚血性脳・心臓疾患で死亡した者がいることが認められる。 しかし,高血圧の患者は日本人全体の中で3千数百万人おり,その半数以上が未治療であるとされ,喫煙者は男女平均で30パーセントを占めると言われ,単純計算からすると400万人以上いると思われること(甲12)等を考えると,P1が前記のとおり虚血性心臓疾患の三大危険因子を含む複数の危険因子を有していたことをもって,本件当日当時,P1が既に虚血性心臓疾患をいつでも発症し得る状況にあったと認めることは困難というべきである。 - 15 -cことに,前記前提事実(1(3)によれば,P1は平成11年3月か),ら本件当日までの6か月間は本件会社に通常どおり勤務し病気による欠勤はないこと,本件当日も約38キログラムの一斗缶を持って約4メートルの距離を合計24回にわたって搬出するという作業を約30分にわたり行っていることが認められるのであり,これらの事情をも考慮すると,なおさらのことである。 dところで,前記前提事実(2)イによれば「異常な出来事」に遭遇した,場合や,日常業務に比較して特に過重な精神的・身体的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務に従事した場合に,これらの過重な負荷が急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし,発症の基礎とな 遭遇した,場合や,日常業務に比較して特に過重な精神的・身体的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務に従事した場合に,これらの過重な負荷が急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし,発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,虚血性心臓疾患を発症する場合があるとされていることが認められる。そこで,以下において,本件でもそのような事情が存在したのか否かについて検討することにする。 イ本件当日のP1の業務の過重負荷性について(ア)査察の連絡を受けたことについて前記前提事実(1)イないしエによれば,①P1は,これまでの査察の例と異なり,査察の当日になって消防署から本件工場に対し査察が実施されることを知り,その開始時刻である午前11時までの約2時間の間に,査察を受け入れるための体裁を整えなければならなかったこと,②P1は本件工場における危険物保安監督者として責任を負う立場にあり,前回の査察の際に違反事項として指摘された点についての改善措置をとっていなかったことから,大いに動揺し強い衝撃を受けたこと,③P1の上司であるP2も,P1から,本件当日に査察が行われるが,前回の査察で指摘された事項についての改善措置がされていないと聞いて,P1同様に動揺したことが認められる。 そうすると,本件当日に突然査察が行われることを知ったことは,過去の査察の経過に照らすと,P1はもちろん,P1の立場にあるものであるならば誰もが強い動揺を受ける「異常な出来事」と評価することができ,大きな精神的負荷を与えるものであったと認めるのが相当である。 この点,被告は,本件会社に対しては定期的に査察が行われており,P1もそのことを知っており,従前も査察に対応した経験を有していることや,仮に違反事項を指摘されても改善報告を提出すれば罰則が適用されることはない 告は,本件会社に対しては定期的に査察が行われており,P1もそのことを知っており,従前も査察に対応した経験を有していることや,仮に違反事項を指摘されても改善報告を提出すれば罰則が適用されることはないこと等から,本件当日の査察に対応する業務が「異常な出来事」とはいえない旨主張し,P5医師の意見書(乙73)にも同旨の意見が述べられている。 しかし,本件当日以前に行われた査察では,実施の1週間から10日ほど前には本件会社に対し査察の事前連絡があり,本件会社は査察実施日までに準備を整えた上で査察を受け入れることが通例だったこと,本件当日には以前の査察で指摘された違反事項について改善措置がとられていなかったことは前記前提事実(1)ウのとおりであり,P1がこれまで定期的に査察が行われると認識していたり,過去に査察を受けた経験があったとしても,本件当日の査察とは事情を異にするものであって,この点の被告の主張は理由がない。 - 16 -また,前回の査察で指摘された違反事項の対策,改善措置がとられていない状況下で,本件当日査察を事前の準備なしに受け入れ,果たして,消防署から罰則を受ける可能性がないと断定できるか否かは疑問である。そもそも,繰り返し消防署から違反事項の指摘を受けること自体,本件会社にとっては望ましくなく,危険物保安監督者として査察への対応の責任を負っているP1としては,かかる事態を是非とも避けなければならないと考えたとしても何ら不思議ではない。現に,本件当日,本件会社では,P2の指示により,現場社員から事務職員まで含めて,全社一丸となって同日の査察に対応する準備を急遽実施したことからもうかがうことができる。よって,仮に違反事項を指摘されても改善報告を提出すれば罰則が適用されることはないこと等を根拠に,本件当日の査察に対応する業務が「異常な に対応する準備を急遽実施したことからもうかがうことができる。よって,仮に違反事項を指摘されても改善報告を提出すれば罰則が適用されることはないこと等を根拠に,本件当日の査察に対応する業務が「異常な出来事」とはいえないとの被告の主張は採用することができない。 (イ)本件作業について前記前提事実(1)オによれば,P1は,本件当日午前11時までに指定数量を超えて保管されている本件危険物を危険物倉庫内から運び出さなければならない精神的負荷の下,暑い同倉庫内から一斗缶を約48個前後,合計約912キログラムの重量を,一度に2缶(合計約38キログラム)を両手に持って約4メートルの距離を移動することを繰り返し,約30分間の作業時間内に運び出して,パレット2枚の上にそれぞれ3段の高さに積み上げたことが認められる。 重量物の運搬は,筋肉の働き方からすると,骨格筋の働きを伴わない等尺性運動であり,末梢血管の抵抗が増すことで血圧が著しく増加することが特徴であるとされている(甲11。20キログラムのスーツケースを2分半運搬し)たり,保持すると,最大血圧は約45mmHg,最小血圧は約30mmHg上昇したという実験結果や,荷物を運搬する動作について,荷物を背負う,両腕で抱える,片手に提げるという3通りの動作で比較した際に,血圧上昇の度合いは手に提げて運ぶ動作が最も大きいという有意な差が認められたという実験結果がある(甲9,23。 )P6医師の意見書甲21の1によれば本件作業のエネルギー代謝率作(),(()),業時消費熱量-安静時消費熱量/基礎代謝値は4から5程度であるところこれは鑿による木削りのように,上肢全体に力が入り,上肢に力が入っていることがわかるという負荷であり,作業継続可能時間の短い,極めて過酷な負荷のかかる労働であったとされてい 4から5程度であるところこれは鑿による木削りのように,上肢全体に力が入り,上肢に力が入っていることがわかるという負荷であり,作業継続可能時間の短い,極めて過酷な負荷のかかる労働であったとされている。 また,重量物を積み込む作業に際しては,積み込む高さが高くなるほど筋負荷が強くなるとされており,特に20ないし15キログラムの荷を上2段の高さへ積み上げる作業によって,高血圧者の血圧上昇が正常血圧者に比べて2倍近くなったという実験結果がある(甲10。 )以上のような知見及び前記前提事実(2)に照らすと,本件当日に抜き打ち的に消防署の査察が入ることによる前記精神的緊張の中で,約30分の間に,約38キログラムの重量の一斗缶を両手に提げて,約24回にわたって各4メ- 17 -ートルの距離を運び,これを3段に積み上げたという本件作業が,P1のような高血圧症という基礎疾患を有する者にとって,その血圧を著しく急激に上昇させ,粥腫の破綻やスパズムによる冠状動脈閉塞を生じさせ得るものであったと認めるのが相当である。 この点,被告は,P1が日常業務においても重量物を運搬する作業を行っていたことを理由に,特に過重な業務に就労したとは認められないと主張し,P5医師も同旨の意見を述べる(乙73。しかし,そもそも,午前11時に迫)る査察の開始まで1時間を切ったという切迫した状況下で行われた本件作業を,そのような精神的負荷のかからない状況下における日常業務と比較すること自体疑問である。また,本件作業の重負荷性は上記のとおりであり,そのことはP1が日常業務で力仕事を行うことがあったからといって変わるところはない上,P1の日常業務における力仕事と比較しても,それを大幅に上回る重負荷と認めることができる。そうだとすると,被告の上記主張は理由がないというほかない。 ま とがあったからといって変わるところはない上,P1の日常業務における力仕事と比較しても,それを大幅に上回る重負荷と認めることができる。そうだとすると,被告の上記主張は理由がないというほかない。 また,被告は,P1が本件作業を休み休みゆっくり行ったとして,過重な業務ではない旨主張するが,本件作業の重負荷性は既に述べたとおりであり,被(),,告の主張は前記前提事実1オの作業時間作業内容に見合うものではなく理由がない。 (ウ)小括以上みてきたとおり,本件作業は「異常な出来事」に直面した大きな精神,的負荷の下に行われた,日常業務とは異なる重負荷の作業であり,それ自体,著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし得る業務であったと認めることができる。すなわち,P1は,本件当日,直ちに心筋梗塞を発症するような状態にはなく,本件査察の連絡を受け,本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに,本件作業に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させた結果,心筋梗塞を発症したものというのが相当である。 ウ被告の主張に対し(ア)被告は,P1が死亡したのは,P1の基礎疾患が自然的経過で増悪し,たまたま業務中に心筋梗塞を発症した結果であると主張する。そして,そのことを裏付ける事情として,冠状動脈の動脈硬化,心臓の左室肥大,側副血行路という重篤な各基礎疾患等の存在について言及している。そこで,以下では,被告が主張する上記の各点について,検討することにする。 (イ)冠状動脈の動脈硬化被告は,P1の死因となった閉塞が生じた右冠状動脈には本件当日以前から動脈硬化が存在したと主張する。確かに,P1が発作の後に搬送された東大和病院で撮影されたレントゲンフィルム(乙72の12)によれば,右及び左冠状動脈 なった閉塞が生じた右冠状動脈には本件当日以前から動脈硬化が存在したと主張する。確かに,P1が発作の後に搬送された東大和病院で撮影されたレントゲンフィルム(乙72の12)によれば,右及び左冠状動脈の血管内壁に凹凸が認められ,その進行の程度はともかく動脈硬化があったこと自体は,P5医師及びP4医師が一致して述べるところである(乙73,証人P5【10ないし14頁,同P4【7,26,27頁。そうだと】】)- 18 -すると,P1は,本件当日当時,既に右及び左冠状動脈に動脈硬化が生じていたというべきである。 問題は,当該動脈硬化が,本件当日当時,死を招く程度に進行していたのかどうかという点である。P1の動脈硬化の進行の度合いについては,左冠状動脈の動脈硬化によって有意な狭窄は生じていないと認められるところであり(乙73,証人P4【6,7頁,他方,責任病変である右冠状動脈の狭窄】)の度合いが本件当日前の時点でどの程度であったかについては,これを認めるに足りる確かな証拠がない。したがって,冠状動脈の動脈硬化の存在は,前記イの当裁判所の判断を左右する事柄ということはできず,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。 (ウ)左室肥大a被告は,P1の日赤医療センター入院時(平成7年10月)の心電図(乙64の1【32頁。以下「日赤心電図」という)及び女子医大病院受診】。 時(平成9年10月)における心電図(乙65の1【198頁。以下「女】子医大心電図」という)に関するP5医師の意見(乙73)に基づき,左。 ,。 室肥大の疑いを指摘しその原因として高血圧症の可能性があると主張する,,,,,すなわちP5医師は日赤心電図及び女子医大心電図につき各VV Vの波形につき,正常な心電図に比してR波の減高が認められ,その原因 して高血圧症の可能性があると主張する,,,,,すなわちP5医師は日赤心電図及び女子医大心電図につき各VV Vの波形につき,正常な心電図に比してR波の減高が認められ,その原因 として,左室肥大がかなりの程度に疑われるとしている(乙73,78,証人P5【4ないし8頁。しかし,P5医師も,R波の減高と指摘する所】)見が直ちに左室肥大を決定づけるものとは述べておらず,その疑いを抱かせ,,,る所見であるとしているのみであり左室肥大のほかにも心臓の回転異常心臓の前面部の心筋梗塞,その他の代謝性の疾患など,他の原因による可能性を肯定している(証人P5【5,6頁。そして,日赤心電図について,】)V,VはやはりR波が低いことは低いものの,これを正常といわれれば, 正常と答える旨述べ,正常という診断も可能かもしれないことを認めている(証人P5【6,23頁。その上で,これら心電図の所見に加え,年齢,】)体格やその他の因子を加味して,左室肥大がかなりの程度疑われると結論付けている(証人P5【8頁。 】)b前記aからも明らかなとおり,P5医師の見解自体,日赤心電図及び女子医大心電図の所見を,左室肥大を認めるべき決定的所見であるというものではないといえる。 ,(),cまたP5医師が執筆した心電図の読み方を示す文献甲13によれば左室肥大の例として挙げられている心電図では,VからVにかけてのR波 が正常で減高が認められず,P5医師自身,肥大型心筋症は心電図からある程度診断できるが,心電図だけでの診断は難しいとコメントしていることが認められる。 dさらに,P1の血圧の実測値を見ると,日赤医療センター入院時の血圧の測定値は最高130mmHg,最低90mmHgであり,かろうじて最低値が軽症高血圧 難しいとコメントしていることが認められる。 dさらに,P1の血圧の実測値を見ると,日赤医療センター入院時の血圧の測定値は最高130mmHg,最低90mmHgであり,かろうじて最低値が軽症高血圧の領域に接する程度のごく軽度の高血圧としか評価し難い数値- 19 -である(乙62,64の1【4頁】及び2【2頁。また,前記前提事実】)(3)ウ(ア)によれば平成6年及び7年の健康診断における血圧の数値は正常であるし,上記ア(イ)bによれば女子医大病院入院中は入院2週目以降殆ど正常値を示しており(乙65の1【42ないし45頁,いわゆる】)白衣性高血圧の可能性が考えられるとする医師もいる(証人P4【11,12頁。こうした血圧の実測値に関する事情を前提にすると,P1が日赤】)医療センター及び女子医大病院へ入院した時期に,既に左室肥大を引き起こすほどの高血圧であったとすることには,疑問があるというほかない。 e以上によれば,日赤心電図及び女子医大心電図の所見から,P1の左室肥大,さらには高血圧をかなりの程度疑うというP5医師の推論は,根拠が薄弱といわざるを得ず,この点の被告の主張は理由がなく,採用することができない。 (エ)側副血行路a被告は,東大和病院におけるレントゲン写真では,左冠状動脈の前下行枝の末梢動脈から右冠状動脈にかけて側副血行路が認められ,その太さからして,本件当日以前から繰り返し短時間の右冠状動脈閉塞を起こしていた可能性があり,P1には本件当日以前から右冠状動脈の高度狭窄又は閉塞による,。 狭心症があったことが疑われると主張し証人P5はこれに沿う供述をするbしかし,証拠(乙76,77,証人P4【10,11頁)によれば,①】側副血行路とは,主要血管の閉塞等によって消失した機能を代償するために開通するものであ と主張し証人P5はこれに沿う供述をするbしかし,証拠(乙76,77,証人P4【10,11頁)によれば,①】側副血行路とは,主要血管の閉塞等によって消失した機能を代償するために開通するものであること,②P1の側副血行路は,本件当日の心筋梗塞の発症によって開通したものが,発症後の撮影で認められているという可能性も十分にあることが認められる。そうだとすると,P1に側副血行路が存在すること自体は,本件当日の発作以前に右冠状動脈の狭窄又は閉塞が発生していたことを裏付けるものということはできない。 c被告は,P5医師の意見(乙73)に基づき,側副血行路が比較的太いことを,本件当日以前に生じたものと主張する根拠にしている。しかし,他方で,P5医師は,この側副血行路が本件当日の発作によるものか,以前からあったものかについて,非常に判断は難しく,決定的なことは言えない旨供述している(証人P5【11ないし12頁。その上,同じ側副血行路に】)つき,P4医師は,非常に弱々しいものであるという全く逆の評価をしている(証人P4【9ないし10頁。これらの点からすれば,太さを理由に,】)側副血行路が本件当日の発作以前の狭窄又は閉塞で生じていたことを推認することはできないというべきである。 dまた,証拠(甲12,乙53,55)によれば,①狭心症の主症状は,胸痛ないし胸部圧迫感であるとされていること,②心筋虚血には胸痛や発作などの自覚症状がなく発生するものもあるとされているものの,それは高齢者や糖尿病患者の神経障害による場合が多いとされていることが認められるところ,弁論の全趣旨によれば,P1はそのいずれにも当たらないことが認められる。のみならず,証拠(甲16)によれば,P1の妻である原告は,P- 20 -1から胸の締め付け感などの訴えを聞いたことはな ころ,弁論の全趣旨によれば,P1はそのいずれにも当たらないことが認められる。のみならず,証拠(甲16)によれば,P1の妻である原告は,P- 20 -1から胸の締め付け感などの訴えを聞いたことはないことが認められ,他にP1に狭心症など虚血の自覚症状があったことを窺わせる証拠もない。 eなお,P1の女子医大病院通院中の平成10年9月分診療報酬明細書(乙36)の傷病名欄には「狭心症(疑」と記載されているが,その診断の具)体的根拠は診療録(乙65の1)を見ても不明であり,その前後の時期の診療報酬明細書には同様の記載が一切ないこと等に照らしても,本当にP1に狭心症を疑うべき事情があったか否かは明らかではないというほかない。 f以上によれば,側副血行路の存在から,P1に本件当日以前から右冠状動脈の狭心症が起きていたとする被告の主張は理由がなく,採用することができない。 (オ)その他(もやもや病)前記前提事実(3)イによれば,P1はウィルス輪閉塞症(もやもや病)の既往歴があることが認められる。しかし,証拠(乙52)及び弁論の全趣旨によれば,ウィルス輪閉塞症(もやもや病)は,原因が特定されていない脳血管の病気であること,P1の死因は脳疾患ではなく,心筋梗塞であることが認められ,これらの事実に照らすと,ウィルス輪閉塞症(もやもや病)とP1の死因である心筋梗塞との間には何らの関係もないと認めるのが相当である。 (カ)以上によれば,被告が主張するP1の上記各基礎疾患等をもとに,P1が自然的経過の中で心筋梗塞を発症させたということは困難であるというべきである。 エ小括以上の検討結果によれば,P1は本件当日当時軽症ないし中等症の高血圧症及び左右冠状動脈の動脈硬化という基礎疾患を有するとともに,喫煙習慣があったことが認められるものの,本件当日当時か る。 エ小括以上の検討結果によれば,P1は本件当日当時軽症ないし中等症の高血圧症及び左右冠状動脈の動脈硬化という基礎疾患を有するとともに,喫煙習慣があったことが認められるものの,本件当日当時かかる基礎疾患等が自然的経過の中で心筋梗塞を発症するほどの進行状態にあったということは困難である。むしろ,P1は,本件当日の消防署の査察による精神的負荷の下において行われた本件作業が,著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし得る業務であったことにより,P1の冠状動脈内において粥腫の破綻あるいはスパズムによる冠状動脈閉塞を引き起こし,前記基礎疾患等の自然的経過を超えて心筋梗塞を発症させたものとみるのが相当である。すなわち,P1は,本件当日,直ちに心筋梗塞を発症するような状態にはなく,消防署から本件査察の連絡を受け,本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに,本件作業等に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させ,その結果,心筋梗塞を発症したものと認めるのが相当である。よって,本件においては業務起因性があるというべきである。 結論 以上によれば,P1の死亡が業務に起因するものではないことを前提にして行われた本件処分は違法であり,その取消しを求める原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部- 21 -裁判長裁判官難波孝一裁判官福島政幸裁判官別所卓郎
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