令和6(う)1127 殺人

裁判年月日・裁判所
令和7年9月12日 大阪高等裁判所 棄却
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判決文本文21,167 文字)

令和7年9月12日宣告令和6年(う)第1127号殺人被告事件 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中280日を原判決の刑に算入する。 理由 (略称は、原判決の例による。)第1 弁護人の控訴理由 1 訴訟手続の法令違反被告人が原判示の殺人(以下「本件殺人」という。)の犯人であると認めて被告人を有罪とした原審の訴訟手続には審理不尽があり、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。 2 事実誤認被告人が本件殺人の犯人であると認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 第2 控訴理由に対する判断 1 訴訟手続の法令違反及び事実誤認の各主張について(1) 弁護人は、原審の訴訟手続には審理不尽の違法がある旨主張するが、その具体的な内容は、原判決が、被告人が本件殺人の犯人であることに整合しない間接事実や証拠について、不十分で偏頗な説明や判断をしているなどと指摘するにとどまるものであり、原審がすべきであった証拠調べ等についての具体的な指摘はない。弁護人の主張の実質は、被告人が本件殺人の犯人であると認めた原判決の事実認定を論難するものであって、原審の訴訟手続の瑕疵を主張するものとは解されない。 そうすると、訴訟手続の法令違反の主張は理由がないことに帰着する。 (2) したがって、以下、事実誤認の主張について検討する。 2 原判決の認定、判断の要旨 原判決は、争点に対する判断の項において、本件殺人の犯人が被告人であるか否かの争点に 原判決は、争点に対する判断の項において、本件殺人の犯人が被告人であるか否かの争点について、要旨、以下のとおり認定、判断した。 (1) 前提となる事実ア本件犯行現場を含む本件住宅街は、不特定多数の者が利用する公共施設や大きな店舗等はなく、幹線道路の抜け道ともなっていない。本件犯行現場を含む道路(東西道路)に接する北側のA方に駐車された自動車には、駐車中も録画される機能を有するドライブレコーダー(A方ドラレコ)が設置されており、東西道路東端は、南北に延びる道路(東側南北道路)と交差して丁字路(東丁字路)を形成し、同交差点の北東側に位置するB方に駐車された自動車には、前記同様の機能を有し、東丁字路から東西道路を西側に見通して同道路を広範囲に捕捉するドライブレコーダー(B方ドラレコ)が設置されていた。東西道路を本件犯行現場から西側に進むと、南側に延びる道路(西側南北道路)と接して丁字路(西丁字路)を形成しており、西側南北道路を南下して初めに接する道路が、東側に延びる袋小路(本件袋小路)である。その北側に接して住宅が3軒あり、その一番奥が被告人方、その西隣りがC方である。本件袋小路の東側突き当りが被告人方のガレージとなっており、C方の駐車場には、本件袋小路を通る人物等に反応するセンサーライト(本件センサーライト)が設置されていた。 イ本件当日(以下、同日については時刻のみを示す。)午後9時22分57秒頃、被害者の乗った自動車(被害者車両)がC方前に停車し、その後、被害者車両は、午後9時24分39秒頃、東西道路を東に進み、東側南北道路と接する駐車場(本件東側駐車場)に入り、午後9時25分20~21秒頃、本件東側駐車場内南西 者車両)がC方前に停車し、その後、被害者車両は、午後9時24分39秒頃、東西道路を東に進み、東側南北道路と接する駐車場(本件東側駐車場)に入り、午後9時25分20~21秒頃、本件東側駐車場内南西側の駐車枠に駐車し、その際にブレーキランプが点灯し、同分23秒頃、消灯した。午後9時43分36秒頃、被害者車両が施錠され、その非常点滅灯が1回点灯した。被害者は、午後9時44分23秒頃、本件東側駐車場を出て、東西道路を西に進み、同分34秒から36秒頃までの間に犯人と すれ違い、同分40秒頃、A方前を通過した。その直後、犯人も、刃物様のものを手に持って被害者に追随し、A方前を通過し、その後間もなくの同分45秒頃、背後から被害者の左胸背部を刃物で1回突き刺す行為(本件犯行)に及んだ。 (2) 被害者車両が本件東側駐車場に駐車してから本件発生に至るまでの間に、A方ドラレコ及びB方ドラレコには、次のとおり、東西道路及び東側南北道路に出現した延べ3人(人定不詳者と犯人)の行動等が記録されている。 ア午後9時25分23秒頃、本件東側駐車場に駐車した被害者車両のブレーキランプが消灯し、その約1分37秒後である午後9時27分00秒頃から、本件センサーライトが約6秒間点灯し(点灯①)、その約26秒後である同分26秒頃、B方ドラレコに、西丁字路付近にある本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影(影①)が映り、同分36秒頃、B方ドラレコ上、人定不詳者①が東西道路に現れ東進し、同分41秒頃、A方ドラレコ上、人定不詳者①が東西道路に現れ東進した。その後、B方ドラレコには、人定不詳者①が東丁字 影①)が映り、同分36秒頃、B方ドラレコ上、人定不詳者①が東西道路に現れ東進し、同分41秒頃、A方ドラレコ上、人定不詳者①が東西道路に現れ東進した。その後、B方ドラレコには、人定不詳者①が東丁字路に至り東側南北道路を北進する姿が映り、同分59秒頃、その撮影範囲から外れ、それから約4分5秒後の午後9時32分04秒頃、南進人定不詳者が東側南北道路を北から南に小走りで進行する姿が現れた(以上、出現①)。 イ午後9時33分51秒頃、B方ドラレコに、本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影(影②)が映り、午後9時34分00秒頃、B方ドラレコに、人定不詳者②が東西道路を東進する姿が現れ、同分06秒頃、A方ドラレコに、人定不詳者②が東西道路を東進する姿が現れた。人定不詳者②は、その頃から同分35秒頃までの間、東西道路において、立ち止まったり、足踏みをしてゆっくり進んだり、本件東側駐車場方向を見たりした後、同駐車場に入り、午後9時35分31秒頃、同駐車場から出て、東西道路を走って西進した(以上、出現②)。 ウ午後9時43分36秒頃、被害者車両の非常点滅灯が1回点灯し、その約20秒後の同分56秒頃から、本件センサーライトが約6秒間点灯し(点灯②)、その約24秒後である午後9時44分20秒頃、B方ドラレコに、本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影(影③)が映り、同分33秒頃、はためくのぼり旗に大きく視界を遮られたB方ドラレコ、及び、A方ドラレコに、東西道路を東進する犯人が現れた。犯人は、同分34秒から36秒頃の間、東西道路で西進する被害者とすれ違った後、U 33秒頃、はためくのぼり旗に大きく視界を遮られたB方ドラレコ、及び、A方ドラレコに、東西道路を東進する犯人が現れた。犯人は、同分34秒から36秒頃の間、東西道路で西進する被害者とすれ違った後、Uターンして被害者の後を追い、同分36秒から41秒頃までの間、被害者がA方前を西進して通行した直後、本件犯行に及んだ。その後、同分46秒頃、A方ドラレコに、犯人が後ろを振り返りながらA方前を東進する姿が、同分48秒から53秒頃までの間、B方ドラレコに、犯人が走って東丁字路から東側南北道路に入り北進する姿がそれぞれ映った(以上、出現③)。 (3) 人定不詳者②は、本件東側駐車場の北側路上において立ち止まったり、足踏みをしたりした後、被害者しかいないと考えられる同駐車場に入り、1分弱程度の間滞在するなどしており、その行動から、被害者を付け狙っていたことは明らかであり、その行動と犯人の行動との共通性から、人定不詳者②と犯人は同一人物である。 A方ドラレコに映る人定不詳者①、②及び犯人は、その着用する帽子の種類、同種の帽子のうちでの形状、マスクの着用、着用する上下の着衣それぞれの種類、色合い、形状、履いている靴の種類、形状のほか、姿勢や大方の身長、体格まで、一見して類似した特徴を有し、明らかに異なる様相を呈する特徴が見当たらないこと、不特定多数の者が利用する公共施設や大きな店舗等もなく、幹線道路の抜け道ともなっていない本件住宅街内のうち、A方ドラレコの撮影範囲内という、更に限定した場所を、午後9時27分41秒頃から、午後9時44分33秒頃までの約17分間という短時間に通行したものであること、本件犯行現場付近の東西道路及び東側南北道路を、当日午後8時から犯行時刻で いう短時間に通行したものであること、本件犯行現場付近の東西道路及び東側南北道路を、当日午後8時から犯行時刻で ある午後9時44分までの間に通った人物は、人定不詳者ら及び犯人の他には本件住宅街の住民5名のみであったことからすれば、人定不詳者①、②及び犯人は同一人物であると認められる。人定不詳者①と南進人定不詳者も、おおよその身体的特徴が一致していることや、人定不詳者①がB方ドラレコの撮影範囲から外れた後、南進人定不詳者が同ドラレコの撮影範囲に出現するまでの間は4分5秒程度と、時間的にかなり近接していること、人通りが少なく、住民以外の通行も想定し難い本件住宅街で、このように全身の特徴の類似した別人物が、約4分間という短時間に同じ場所に現れるという偶然は想定し難いことから、同一人物であると推認される。 (4) 以上の人定不詳者①、②、南進人定不詳者及び犯人は、いずれも同一人物であり、被害者を付け狙う犯人の動きをしていたという認定を前提として、犯人の行動を検討すると、A方ドラレコへの出現①ないし③の場面における犯人の東西道路への出現と、影①ないし③の場面、点灯①、②には連動がある。 すなわち、出現①の際には、点灯①の約26秒後に影①が出現し、その約15秒後に、犯人(人定不詳者①)がA方ドラレコの撮影範囲に現れた。出現②の際には、本件センサーライトの点灯はなかったが、影②が出現した約15秒後に、犯人(人定不詳者②)がA方ドラレコの撮影範囲に現れた。出現③の際には、点灯②の約24秒後に影③が出現し、その約13秒後に、犯人がA方ドラレコの撮影範囲に現れた。以上のように、本件センサーライト に、犯人(人定不詳者②)がA方ドラレコの撮影範囲に現れた。出現③の際には、点灯②の約24秒後に影③が出現し、その約13秒後に、犯人がA方ドラレコの撮影範囲に現れた。以上のように、本件センサーライトの点灯、影の出現、犯人のA方ドラレコ撮影範囲への出現という三者間の経過時間は、おおむね合致しているといえる。そして、本件センサーライトの各点灯位置から、影①ないし③としてB方ドラレコに捕捉される地点までは、通常歩く速度であれば25秒ないし30秒程度で到達できる距離である。加えて、影①、②の映像からは、人の頭部及び肩の上部とみられる部分が動いているのが確認できることなどから、人が歩く姿とみるほかない。 そうすると、出現①及び出現③のいずれの機会においても、本件センサーラ イトを点灯させた(すなわち、点灯①、②をもたらした)犯人が西側南北道路を北上して影①、③としてB方ドラレコに捕捉され、その後西丁字路を右折東進し、東西道路のA方前に至ったとみるのが合理的である。そして、原審弁護人が指摘する、小動物の通過等による本件センサーライトの誤作動の可能性を踏まえて検討しても、点灯①、②は、影①、③のB方ドラレコへの映り込みや、人定不詳者①及び犯人のA方ドラレコへの映り込みとおおむね連動しており、たまたま小動物等の通過等による点灯の結果が時間的に連動したものとなったとは、常識的にみて考え難い。点灯①、②が犯人の通過によるものであるとの結論は覆らない。 なお、出現②の機会に、本件東側駐車場を出た犯人が、東西道路を西進した後、西丁字路を左折南下して西側南北道路を南進したことを示す証拠はないが、本件 犯人の通過によるものであるとの結論は覆らない。 なお、出現②の機会に、本件東側駐車場を出た犯人が、東西道路を西進した後、西丁字路を左折南下して西側南北道路を南進したことを示す証拠はないが、本件東側駐車場内に入り込むまでして被害者を付け狙っていた犯人が、本件東側駐車場を出た後にC方に向かうであろう被害者と接触する機会を失いかねない場所に移動するとは考え難い。犯人は、点灯②のあった午後9時43分56秒頃までの間に、西丁字路を南下し、本件袋小路に入ったものと認められる。 (5) 他方で、被告人は、本件当日午後9時22分57秒頃に被害者車両がC方前で停車した後、自宅の外に出たところ、その時に本件東側駐車場に駐車した被害者車両のブレーキランプが点灯するのが見えた(午後9時25分20~21秒頃)。その後少なくとも5分程度は被告人方ガレージにいるなどしたと述べているところ、被告人が帰宅後に妻に対して「散歩」と説明していることや、取調べ時に妻が記載した被告人の散歩の経路からして妻においても被告人の外出には相応の時間を要していたという認識であったことがうかがえることからすれば、被告人の外出時間は5分程度を下回ることはないと判断できる。 (6) 上記(2)ないし(4)の本件発生前後の犯人の動きと、上記(5)の被告人の行動を併せて検討すると、常識的に考えて、被告人以外に犯人を想定することができなくなる。すなわち、 ア犯人は、出現①及び出現③の機会に、いずれも本件センサーライトを点灯させる位置である本件袋小路のC方前路上付近にいたと認められる。本件袋小路は、これに接する住宅の関係者以外の者の ア犯人は、出現①及び出現③の機会に、いずれも本件センサーライトを点灯させる位置である本件袋小路のC方前路上付近にいたと認められる。本件袋小路は、これに接する住宅の関係者以外の者の立入りが目撃されればこれらの住宅の住民等に疑念を生じさせかねず、上記関係者以外の者が本件のような重大犯罪に及ぶ前に繰り返し待機するには適さない場所であるが、被告人が本件袋小路の奥の被告人方付近にいても、特段疑念を持たれるおそれはない。そして、同所から本件東側駐車場内の被害者車両の様子をうかがうことが可能である。 イ被告人が犯人でないのであれば、被告人が自宅の外に出ていた最中に、犯人がC方前を通って点灯①をもたらしたことになるが、被告人は、本件センサーライトの点灯に気付かず、本件袋小路を含めた周辺に不審な人物や人影らしきものも見ておらず、物音等もしなかったという。しかし、被告人が供述するような事態は、想定が極めて困難である。すなわち、㋐犯人が、被害者車両がC方前に停車する前から本件袋小路内の奥付近で被害者を待ち伏せていたとすると、被告人が被告人方付近にいる間に、目撃される危険を冒してその間近を移動してC方前を通過し、本件袋小路を出たことになるが、重大犯罪に及ぼうとする犯人の行動として不自然不合理である。㋑犯人が、被害者車両がC方前に停車した際には本件袋小路の外にいたが、その後本件袋小路に入って、点灯①をもたらし、直ちに本件袋小路を出たという可能性は、一応想定できなくはないが、被害者の様子をうかがうのに適さない場所にいたことになる上、点灯①や被告人の存在に気付き、これを警戒した後も再度本件袋小路に入り点灯②をもたらしたことになるなど、重大犯罪に及ぶ前の行動として不自然不合理である。㋒犯人が、当初は被告人方からやや離れ、かつ、その移動により本件 存在に気付き、これを警戒した後も再度本件袋小路に入り点灯②をもたらしたことになるなど、重大犯罪に及ぶ前の行動として不自然不合理である。㋒犯人が、当初は被告人方からやや離れ、かつ、その移動により本件センサーライトを点灯させ得る場所(C方付近)で被害者の動きを監視していたとすれば、被害者車両がC方前に停車した際に隠れるに適した場所がなく、被害者らに発見されてしまう危険を伴い、犯人の行動として考え難い。 さらに、㋐~㋒いずれの想定においても、犯人は、点灯①をもたらした際に、 被告人方付近にいた被告人の存在に気付かないはずがないのに、それから17分に満たない短時間で、被告人に不審に思われる危険を冒して、再び本件袋小路に入って点灯②をもたらしたというのは想定し難い。結局、点灯①を含む時間帯に自宅を出て本件袋小路に接する被告人方付近にいたという被告人の弁解と両立する、被告人以外の犯人の存在を肯定することは、現実的に困難である。 点灯①を生じさせた者は被告人以外に考えられず、被告人を犯人とみるほかない。 ウ原審弁護人は、被告人が犯人であれば、点灯②の前及び本件犯行後に自宅に帰る際の2度、C方前を通過しなければならないのに、本件センサーライトの点灯がないこと、出現①と出現②の間にも本件センサーライトの点灯がないことからは、被告人が犯人であるとの推認は破綻している旨指摘する。 しかし、前者について、実況見分の結果に照らせば、本件センサーライトは、駆け足で通過すれば点灯しないことがあると認められる。そして、現に、犯人は点灯②の直前の出現②の際に東西道路を西進する際に駆け足であったし、本件犯行 実況見分の結果に照らせば、本件センサーライトは、駆け足で通過すれば点灯しないことがあると認められる。そして、現に、犯人は点灯②の直前の出現②の際に東西道路を西進する際に駆け足であったし、本件犯行後東側南北道路を北進して逃走する際の犯人も駆け足であったことや、出現②の後や本件犯行後の移動は、その状況に照らし焦燥感を伴う移動と想定されることを考慮すれば、犯人が本件センサーライトの前を通過する際に駆け足であったとしても特段不自然ではない。これら2回にわたる本件センサーライトの不点灯は、被告人が犯人であるとする前記の強い推認を覆すほどの事情ではない。後者について、犯人が駆け足であったとも考えられるし、犯人が東側南北道路を南進してB方ドラレコの捕捉範囲から外れてから、西側南北道路を北進する姿が捕捉されるまでの時間がわずか1分47秒程度であることからすれば、犯人が東側南北道路を南進してから本件袋小路に入ることなく西側南北道路を北進したとも考えられるから、後者の不点灯も前記推認に反するものではない。 (7) 以上に加えて、本件の約1年前から被告人方とC方との諍いは継続し、その 程度は徐々に増幅し、最終的には、被告人も妻(当時。以下同じ。)もローンを組んで購入した自宅からの転居の検討を余儀なくされるほど深刻な状況に追い詰められていたといえ、被告人のC方関係者に対する不満は相当に高まっていたと推認できる。被告人においてCの夫と認識していた被害者にその矛先が向かっても何ら不自然ではなく、被告人には、本件当時、C方関係者に危害を加える犯行に及ぶだけの動機はあったものとみることができる。これは、被 きる。被告人においてCの夫と認識していた被害者にその矛先が向かっても何ら不自然ではなく、被告人には、本件当時、C方関係者に危害を加える犯行に及ぶだけの動機はあったものとみることができる。これは、被告人が犯人であると認めることと整合し、前記の推認を強める事情である。 (8) 検察官の主張するその他の間接事実(①犯人は現場住宅街の住民と認められ、本件当日午後8時以降東西道路を通行したものは犯人以外特定されているところ、被告人が犯行時刻の直前に外出して被害者を監視していたこと、②犯人と被告人の身体的特徴の合致、着衣の類似性、③事件後に犯人であることと整合する行動をしていること、④被害者には被告人方との関係以外にトラブルがなかったこと)はいずれも採用できないが、(7)までに述べた事情によって、合理的疑いを容れることなく、被告人が犯人であると認めることができる。 (9) 以上の認定に反する原審弁護人の種々の主張(①被告人が犯人であれば、被告人の顔を知る近隣住民に出会う可能性の高い経路で、本件現場付近を歩き回るのは不自然であること、②刃物を横向きにして背後から心臓を一突きしたという殺害方法や、犯行後の余裕のある行動、凶器や犯行時の着衣及び目撃者が発見されなかったことからすれば、犯人は緻密な計画を立てた人物で、本件住宅街の外部の者と想定されるが、このような犯人像は被告人と乖離していること、③被告人が本件当日の(本件犯行時刻前の)午後9時30分頃に散歩から帰宅したと説明したという捜査記録があることからすれば、被告人に本件犯行は不可能であること、④本件当日帰宅した被告人の、服を着替えたり、風呂に入り直したりすることもなく、リビングで酒を飲みながら、長女と共に平然とテレビを見続けたという行動は、殺人を犯した直後の者の行動としてあり得ないこと等)を検討 宅した被告人の、服を着替えたり、風呂に入り直したりすることもなく、リビングで酒を飲みながら、長女と共に平然とテレビを見続けたという行動は、殺人を犯した直後の者の行動としてあり得ないこと等)を検討しても、被告人が犯人であるとの認定は揺るがない。 3 当裁判所の判断(1) 上記2記載の原判決の認定・判断はおおむね相当であって、論理則・経験則等に照らして不合理であるとはいえず、被告人が本件殺人の犯人であると認めた原判決に事実の誤認はない。以下、弁護人の指摘を検討しながら、補足して説明する。 (2) 本件センサーライトの点灯①、②が犯人の通過によるものであることについて弁護人は、前記2(4)の、点灯①、②は、いずれも犯人の通過によるものであるとの原判決の認定は、出現①における点灯①から影①が現れるまでの時間と、出現③における点灯②から影③が現れるまでの時間の連動以外に、十分な根拠の説明がなく、「点灯①は被告人によるものであるが、点灯②は犯人によるもので被告人は関係していない」という想定を排斥し得るものではなく、点灯①、②がいずれも犯人の通過によるものとみるには合理的な疑いがあると指摘する。 検討すると、原判決は、出現①における点灯①から影①(これが犯人の影であるという原判決の認定は是認することができる。)が現れるまでの時間(約26秒)と、出現③における点灯②から影③(これが犯人の影であるという原判決の認定も是認することができる。)が現れるまでの時間(約24秒)がおおむね合致すること、また、本件センターライトの点灯位置から影①ないし③としてB方ドラレコに捕捉される地点まで 影であるという原判決の認定も是認することができる。)が現れるまでの時間(約24秒)がおおむね合致すること、また、本件センターライトの点灯位置から影①ないし③としてB方ドラレコに捕捉される地点までは、通常歩く速度であれば、25秒ないし30秒程度で到達できることを挙げて、点灯①、②がいずれも犯人の通過によるものであるとして、これらの時間的な結び付きを重視しているが、この判断が論理則、経験則等に照らして不合理なものとは到底いえない。原判決も指摘するとおり、本件センサーライトの点灯に関しては、4回の実況見分が行われているところ、その4回の全てで小動物の通過等による誤作動は確認されておらず、点灯①と点灯②の間の約17分間の短時間において、本件センサーライトが小動物の通過等で偶然点灯した可能性は、それ自体相当に低いという べきである。その上での上記の時間的な結び付きは、事象の回数こそ2回にとどまるものの、人通りの多くない夜間の本件住宅街の、しかもより通行人の限られる本件袋小路におけるものであることも考慮すれば、点灯①、②が、犯人の通過とは別の人間や物体の通過によってもたらされたとは考え難い上、偶然の小動物等の通過が点灯①、②をもたらし、それが影①、③の出現と時間的に連動することは更に考え難い。これと同旨の原判決には、点灯①、②が犯人の通過によるものとみることの合理性が十分に示されている。 また、弁護人が指摘する、「点灯①は被告人によるものであるが、点灯②は犯人によるもので被告人は関係していない」という想定についてみると、これは、近所に潜んでいた犯人が、被害者の自動車がC方の前に停車し た、弁護人が指摘する、「点灯①は被告人によるものであるが、点灯②は犯人によるもので被告人は関係していない」という想定についてみると、これは、近所に潜んでいた犯人が、被害者の自動車がC方の前に停車し、その後本件東側駐車場に向かったことから、本件袋小路に入って見張ろうとし、又は待ち伏せをしようとしたが、被告人が被告人方から出てきたことから、本件袋小路に入るのをやめ、西側南北道路上に退避して隠れていた、被告人がいつまでも本件袋小路奥でうろうろしており、本件センサーライトが点灯した(点灯①)ことから、あきらめて東側南北道路付近や東西道路上で待ち伏せなどすることにして、西側南北道路を北上し、影①の出現に至った、その後(出現②の後)、犯人は、被告人もいなくなった様子だったので本件袋小路に様子見又は待ち伏せのために入ったところ、本件センサーライトが点灯した(点灯②)ため、東西道路上の犯行に切り替えて、西側南北道路を北上して影③の出現に至った、というものである。 弁護人のいう想定では、㋐犯人は、午後9時22分57秒頃に被害者の自動車がC方前に止まり、その後本件東側駐車場に向けて発進した時点から、被告人が被告人方から玄関の外に出てきたという午後9時25分20~21秒頃とほぼ同時刻頃(本件東側駐車場に駐車した被害者車両のブレーキランプが点灯して消えた時刻頃)までの間の、少なくとも1分間以上、本件袋小路に入ろうと思えば入れたにもかかわらず、入らなかったことになる。しかし、本件東側 駐車場(被害者車両や被害者)の様子を西側から見通すことができるのは、本件袋小路の奥のみであるから(原審甲第83号証 駐車場(被害者車両や被害者)の様子を西側から見通すことができるのは、本件袋小路の奥のみであるから(原審甲第83号証)、これは被害者を付け狙う犯人の行動としてはかなり不自然不合理というほかない(なお、影①~③、人定不詳者①、②、南進人定不詳者、犯人の各出現の順序や時間経過に照らすと、犯人は、被害者車両が駐車される本件東側駐車場を取り巻く東西道路、東側南北道路、西側南北道路を歩き回って、犯行に及ぶタイミングを計っていたものとうかがわれ、犯行場所を本件袋小路のC方前路上に限っていたとは考え難い。 そうすると、犯人が犯行前に本件袋小路に入る理由は、主としてその奥に行って本件東側駐車場(被害者車両や被害者)の様子を見ることであったと考えられる。)。㋑しかも、㋐の想定では、犯人は、付近住民(被告人)の存在と点灯①があったために本件袋小路に入るのを断念したにもかかわらず、出現③の際には、付近住民(被告人)が再び現れたり、本件センサーライトが点灯したりするおそれもあるのに、わざわざ本件袋小路に入って点灯②をもたらしたことになるが、これもまた自身の存在や行動を他人に知られたくない犯人の行動として自然ではない。弁護人の想定は、可能性が相当程度あるようなものとはいえず、抽象的な可能性の指摘にとどまるというべきであり、点灯①、②が犯人の通過によるものとみることの妨げにはならない。 以上の検討結果によれば、点灯①、②が犯人の通過によるものであると断定することまではできず、強く推認されるにとどまるとしても、それを含む犯人の行動状況が被告人の犯人性を推認させる強力な間接事実となることは明らかである。もっとも、被告人が犯人であるかどうかの判断は、他の積極的間接事実や消極的間接事実を検 とどまるとしても、それを含む犯人の行動状況が被告人の犯人性を推認させる強力な間接事実となることは明らかである。もっとも、被告人が犯人であるかどうかの判断は、他の積極的間接事実や消極的間接事実を検討し、総合評価の上で判断するべきものである。この総合評価については、後記(5)で検討する。 (3) 本件センサーライトの点灯①、②が犯人の通過によるものであることと、被告人が本件殺人の犯人であることについて原判決は、点灯①、②が犯人の通過によるものであるとした上で、前記2(6) のとおり、被告人以外の者が犯人であるという想定は極めて困難であるとしているが、この認定、判断に不合理なところはない(なお、前記2(6)の認定、判断の内容は、被告人以外の本件袋小路に接する住宅の住民が犯人ではあり得ないことを前提とするものと解されるが、この前提も、Dの原審証言〔第15回〕等に照らし、是認できる。)。 弁護人の主張に鑑みて補足すると、点灯①、②が犯人の通過によるものであり、被告人が犯人であるとすると、少なくとも、被告人は、㋐点灯②の前及び㋑本件犯行後に自宅に帰る際の2度、C方前を通過する必要があり、その際に本件センサーライトが点灯すると考えられるのに、これに対応する点灯は存在しないこと、また、㋒出現①から出現②までの間に、犯人である被告人が自宅付近まで戻ったとすれば、その際にも本件センサーライトが2度にわたり点灯すると考えられるのに、これに対応する点灯も存在しないことが、前記の原判決の認定、判断の合理性に疑問を差し挟まないかを、慎重に検討する必要がある。 まず、㋐及び㋑の場面について検討す にわたり点灯すると考えられるのに、これに対応する点灯も存在しないことが、前記の原判決の認定、判断の合理性に疑問を差し挟まないかを、慎重に検討する必要がある。 まず、㋐及び㋑の場面について検討すると、証人Eの原審証言及び実況見分調書(原審職第3号証)によれば、本件当時と大きく異ならない約6℃の気温の下で、9分以上外気に触れた状態で(本件センサーライトは、熱感知式のものであり、周囲の気温とセンサーライト前を通過した物の温度差が3℃を超えたことを捉えて点灯する仕組みであって、温かい室内から出た直後であれば、本件センサーライトからの距離が遠くなる本件袋小路の南端を歩行しても点灯し、9分間外気に触れて冷えた状態であっても、本件袋小路の北端から3メートルまでの地点を歩行すれば点灯することが確認されていることからすると、この条件は、本件当時に近い、適切なものと認められる。)、本件センサーライト付近を駆け足で通ると、本件袋小路の北端から1メートルという、本件センサーライトから近い場所を通過しても、本件センサーライトは点灯しなかったことが認められる。そうすると、本件センサーライトは、その検知可能な範 囲を通過しても、通行方法が駆け足であれば点灯しないことがあるといえる。 そして、実際の犯人の動きをみると、原判決も指摘するとおり、点灯②の前の出現②の際、東西道路を西進中(その先西丁字路から西側南北道路を南下すれば本件袋小路の方向に向かうことになる。)の犯人は駆け足であるし、本件犯行後、東側南北道路を北進して逃走する際の犯人も駆け足である。㋐の場面は、犯人にとっては被害者の動きを見逃して犯行 路を南下すれば本件袋小路の方向に向かうことになる。)の犯人は駆け足であるし、本件犯行後、東側南北道路を北進して逃走する際の犯人も駆け足である。㋐の場面は、犯人にとっては被害者の動きを見逃して犯行の機会を逃すおそれのある状況下であったといえるし、㋑の場面は、被告人が犯人であれば本件犯行を終えた後に自宅まで逃げ帰る途中であるから、いずれの場面も、被告人が犯人であれば本件センサーライトの前を通過する際に駆け足であったとしても不自然ではないという原判決の判断に不合理なところはない。そうすると、㋐及び㋑の場面に対応する本件センサーライトの点灯がないことは、被告人以外の者が犯人であるという想定は極めて困難であるとの原判決の判断の合理性を左右しないというべきである。 ㋒の場面、すなわち出現①と出現②の間の場面について検討すると、そもそもこの場面では、犯人が、本件袋小路に入らず、本件センサーライトの前を通過していない可能性が十分にあるというべきである。すなわち、犯人が出現①において東側南北道路を南進してB方ドラレコの捕捉範囲から外れたのが午後9時32分4秒であり、犯人が出現②において影②として西側南北道路を北進する姿がB方ドラレコに捕捉されたのが午後9時33分51秒であって、この間は1分47秒程度である。他方、出現①で犯人がB方ドラレコの捕捉範囲から外れた地点から、東側南北道路を南進して最初の角を右折し、次の角を右折して西側南北道路を北進し、西丁字路に至る経路を、被告人の身長に近い身長180センチメートル前後の警察官が歩行してみた際に要する時間はおおむね1分36秒程度である(Dの原審証言〔第15回〕)。これによれば、犯人が上記経路を進行し、本件袋小路に入らなかった可能性が十分に認められるのである。もちろん、犯人が本件袋小路に入り、本件センサーラ 1分36秒程度である(Dの原審証言〔第15回〕)。これによれば、犯人が上記経路を進行し、本件袋小路に入らなかった可能性が十分に認められるのである。もちろん、犯人が本件袋小路に入り、本件センサーライトの前を通過し た可能性もあるが、その際に駆け足だった場合はやはり本件センサーライトが点灯しないことも十分あり得るということになる。そうすると、㋒の場面に対応する本件センサーライトの点灯がないことも、被告人以外の者が犯人であるという想定は極めて困難であるとの原判決の判断の合理性を左右しないというべきである。 (4) 動機について原判決は、前記2⑺のとおり、被告人には、本件当時、C方関係者に危害を加える犯行に及ぶだけの動機があったことを、被告人が犯人であるという他の間接事実からの推認を強める事情と位置付けているところ、弁護人は、本件犯行は、強固な殺意に基づく計画的な犯行である一方で、原判決が認定した被告人方とC方関係者との諍いは、到底、普通の市民が隣人に対する計画的で強固な殺意を形成するような事情でないことからすれば、原判決のいう被告人の犯行動機は被告人が犯人であるという推認を強める事情とはなり得ないと指摘する。 しかし、被告人方とC方との諍いの内容についての原判決の認定、判断は、その具体的エピソードを含め、証拠関係に照らして不合理なところはない。そして、この1年以上に及ぶ諍いの中で、被告人は、C方に唾を吐きかける行為に及んだり、植木が越境していることを警察官に通報したり、Cあるいは被害者から自分の自動車のドアノブに液体をかける嫌がらせを受けていると考えて、毎日ドアノブを で、被告人は、C方に唾を吐きかける行為に及んだり、植木が越境していることを警察官に通報したり、Cあるいは被害者から自分の自動車のドアノブに液体をかける嫌がらせを受けていると考えて、毎日ドアノブを水で洗い流したりしていたのであって、被告人方とC方の双方に、お互いに対する悪感情があったことは十分認められる。そして、このような隣人宅とのトラブルは、どちらかが転居等しない限り容易に解消し難い性質のものであるところ、被告人は、転居したいとの希望はあるが、ローンの存在等から現実的ではないと考えていたのであり、隣人宅とのトラブルが解消し難い状況にあったことにも疑いはない。 このような被告人方と隣人宅とのトラブルの状況は、同じ状況に置かれた者 なら誰でも必ず殺意を抱くといえるほどの事情ではないとしても、殺人の動機としておよそあり得ないような不自然なものとはいえないし、弁護人が指摘するような、刺突の態様等の犯人の行動に殺意の強さや計画性の高さがうかがわれることと矛盾するものでもない。このような犯行動機の存在は、それのみで被告人が犯人であることを相当程度推認させるような強力な間接事実ではないものの、被告人が本件犯行に及んだとしても何ら不自然ではないという意味で、被告人が犯人であることの推認を補強する積極的な間接事実としての価値は十分あるというべきである。これと同旨の原判決の判断に不合理なところはない。 弁護人は、普通の社会生活を送る家族持ちの市民が、隣人トラブルを動機として、隣人ではなくその交際相手である被害者に対して強い殺意を抱き、予め凶器を準備しておき、家族団らんの場を一時抜け出して本件犯 弁護人は、普通の社会生活を送る家族持ちの市民が、隣人トラブルを動機として、隣人ではなくその交際相手である被害者に対して強い殺意を抱き、予め凶器を準備しておき、家族団らんの場を一時抜け出して本件犯行に及び、そのまま平然と団らんの場に戻るなどということは、常識的にはまず考えられないから、被告人に本件の動機は全くないというべきであるともいうが、この指摘を踏まえて検討しても、原判決の動機に関する認定やその位置付け等の判断が不合理であるということにはならない。そのほかの弁護人の指摘を検討しても、原判決の動機の捉え方等を不当とするものはない。 (5) 被告人が犯人であることの認定(総合評価)について既に述べたとおり、原判決は、点灯①、②は犯人の通過によるものであると認定し、そこから認められる本件前後の犯人の動きと被告人の行動から、被告人が犯人であると推認されるとし、動機の存在がその推認を強めるとして、被告人が犯人であると認定している。 このうち、点灯①、②が犯人の通過によるものであると認定した以降の判断過程、すなわち、そこから認められる本件前後の犯人の動きと被告人の行動の認定からの被告人の犯人性の推認、これに動機の存在を加えた上での被告人の犯人性の認定については、既にみてきたとおり、不合理なところはない。 他方、点灯①、②が犯人の通過によるものであることについては、前記(2) で指摘したとおり、そのように断定することまではできず、強く推認されるにとどまるとみる余地があるとも考え得る。 しかし、仮にそのように考えたとしても、先に述べたとおり、点灯①、②が犯人の通過によるものであ たとおり、そのように断定することまではできず、強く推認されるにとどまるとみる余地があるとも考え得る。 しかし、仮にそのように考えたとしても、先に述べたとおり、点灯①、②が犯人の通過によるものであれば、その犯人は被告人以外考えられないという関係が成り立つことや、動機の存在が積極的な間接事実になることには変わりがない。点灯①、②が犯人の通過によるものであることが強く推認されるのであれば、被告人が犯人であることも強く推認されるといえる。 なお、原判決は、間接事実として積極的に位置付けることはしていないものの、本件住宅街は、住民以外の立ち寄り等が想定しにくく、住民以外の者が被害者を待ち伏せなどするに適切な場所であるとはいえないこと、被害者の生活拠点は別の場所であり、本件住宅街以外に居住する者が、わざわざ本件犯行現場での犯行に及ぶのは自然ではないことから、犯人は本件住宅街の住民とみる方が自然であると指摘している。また、原判決は、検察官のF鑑定やG鑑定に基づく、犯人と被告人の身長・頭身が合致し、それは日本人の頭身分布からすると特徴的なものである、また、犯人の着衣等と被告人が所持していた着衣等に類似性が認められるとの指摘を排斥する一方で、F鑑定のうち、犯人の、猫背や足の曲がり、靴底の厚み等の補正のされていない見た目の身長が、おおむね178ないし180センチメートルであるとする部分や、G鑑定のうち、帽子の先端部分、靴の厚みや背中の曲がり等の補正をしない状態で、おおむね180ないし185センチメートル程度の座標軸に頭頂部分が位置するとする部分については、信用性を肯定しており、このことからは、被告人と犯人の体格は類似しており、異なる人物であることを示すような点も特に指摘されていないことが認められる。そして、本件住宅街の住民については、本件犯行時刻頃 用性を肯定しており、このことからは、被告人と犯人の体格は類似しており、異なる人物であることを示すような点も特に指摘されていないことが認められる。そして、本件住宅街の住民については、本件犯行時刻頃の外出状況や身体的特徴について網羅的な捜査が行われており、被告人のほかに、犯人と整合する「身長が180センチメートル程度及びそれ以上で、かつ細身の住民」が、本件犯行時刻の前後にその自宅を出入りした様子はうかがわ れない(原審甲第84号証、Dの原審証言〔第15回〕)。これらの事情は、被告人が犯人であることの推認を一層強固なものにするものというべきであって、この推認を妨げる特段の事情のない限り、被告人が犯人であると認定できるというべきである(原判決も、これらの事情を間接事実として積極的に位置付けてはいないものの、これらの事情の存在を前提にした上で、前記の点灯①、②が犯人の通過によるものであること及び動機の存在から被告人が犯人であることが推認されるとしたものと考えられる。)。 (6) 弁護人が指摘する消極的間接事実について弁護人は、被告人の犯人性に整合しない多くの間接事実が存在するのに、原判決は、これらについて十分な検討をしていないとして、種々の事情を指摘する。しかし、以下に述べるとおり、これらを検討しても、被告人が犯人であるとの認定は揺らがないというべきである。 ア本件当日の被告人の行動について弁護人は、本件当日の被告人は、普段どおり飲酒しながら家族と団らんしており、外出から帰宅した後も、それまでと変わらず、出かける前の服装のまま家族と団らんの時を過ごしており、服装に血痕が付い ついて弁護人は、本件当日の被告人は、普段どおり飲酒しながら家族と団らんしており、外出から帰宅した後も、それまでと変わらず、出かける前の服装のまま家族と団らんの時を過ごしており、服装に血痕が付いているかどうかを気にしたり、それを隠したりする様子もなく、妻や長女も被告人について普段と異なる様子や違和感を感じていなかったと指摘する。 しかし、被告人が本件殺人に及んだとすれば、その前後において一定の興奮、緊張、動揺が見られるのが自然であるとは一応いえるものの、普段と異なる様子や違和感というのは評価である上、これを感じるかどうかは被告人への関心の度合いや観察時の注意深さ等にもよるから、家族が被告人の微細な変化や相違を必ず感じるということはできないし、そのほかの点も、被告人が犯人であるとしても十分説明がつくものであり、以上のいずれについても原判決が指摘するとおりであって、被告人が犯人であるとの認定を揺るがすものとはいえない。 イ被告人が散歩という嘘をついたことやその撤回過程が自然であることについて弁護人は、被告人が本件当日夜の外出について、妻に対して被害者の行動を見張るためとは言いにくかったため、散歩に出ていた旨の嘘の説明をし、警察官の取調べに対しても当初同様の嘘の説明をしていたところ、その後、弁護士を通じて、その説明は嘘であって被害者の見張りをしていたのが事実であるという説明をするに至ったが、そのようにかえって疑いを招くような内容に差し替えることは、警察の追及を受けて窮地にあるはずの真犯人の行動としては不自然で理解し難い旨指摘する。 しかし、被告人が自身の行 いう説明をするに至ったが、そのようにかえって疑いを招くような内容に差し替えることは、警察の追及を受けて窮地にあるはずの真犯人の行動としては不自然で理解し難い旨指摘する。 しかし、被告人が自身の行動についていったん嘘をついたこと自体が、被告人が犯人であると疑わせる方向に考慮される事情となり得るのであって、これを撤回した過程に、弁護人が指摘するような一定の合理性があったとしても、被告人の犯人性に疑いを差し挟む事情になるとはいえない。 ウ被告人の外出時の服装と犯人の服装との不一致について弁護人は、本件当日夜に被告人が被告人方玄関から外に出た際は、フードにファーの付いたダウンジャケットを着用し、その下にフードのない黒色のウインドブレーカーを着用していたが、A方ドラレコ及びB方ドラレコに撮影された犯人は、フードやファーの付いていない黒色のウインドブレーカー風のものを着用しており、被告人と犯人とは服装が明らかに異なるし、犯人の履いていたスニーカーと被告人が当時履いていたスニーカーとは、踵の光沢部分が大きく異なっており、別の物である可能性が高いと指摘する。 しかし、ダウンジャケットについては、脱ぎ着することや、いずれかの場所に置いておき、後に回収等をすることが容易に可能なものであるから、被告人の犯人性に疑いを差し挟む事情とはいえない。スニーカーの踵の光沢については、Fの原審証言は、光沢の違いについて、ドラレコ画像上は白く膨張したように映る可能性も否定されないとしている上、むしろ、犯人のスニーカーと被 告人のスニーカーの踵の光沢のある素材部分と光沢のない素材部分の双方について、 告人のスニーカーの踵の光沢のある素材部分と光沢のない素材部分の双方について、異同識別でいうと「丸」と判定していること(Fの尋問調書69、70頁)に照らすと、積極的に同一であるとまではいえないにしても、違う物である可能性をうかがわせるとはいえない。いずれの点も、被告人の犯人性に疑いを差し挟む事情とはいえない。 エ被告人が本件当日午後9時30分に帰宅したという捜査資料の存在について弁護人は、本件発生後当日中に被告人方を訪問した警察官は、被告人の妻から聴取した内容を捜査メモに「9:30夫さんぽ」とメモし、捜査復命書にも「夫も、9時30分頃散歩をして帰ってきましたが、特に何も言っていませんでした。」と記載しており、上記捜査メモの領置に係る捜査復命書には、上記警察官から「この内容は覚えていて、Hの夫が事件当時の午後9時30分頃に散歩から帰宅したとの意味です。」との説明を受けた旨が記載されているとした上で、被告人は本件犯行時刻(午後9時44分頃)には既に帰宅しており、本件犯行は不可能である旨指摘する。しかし、前記手帳の記載は、被告人の妻が説明した内容として記載されたものであり、妻は、散歩に行ったという被告人の嘘の説明を前提に話をしていたことに照らすと、仮に妻の説明内容が被告人は午後9時30分に帰宅したというものであったとしても、その信用性は低く、被告人の犯人性に疑いを差し挟むものとはいえない。 オ被告人以外に真犯人がいる可能性について弁護人は、①犯人の刺突態様は、1回で左後背部に刃物を体内の奥深くまで刺すというものであり、犯行前後の犯人の行動も、腰の辺りから取り出した刃物を右手で手慣れた様子でもてあそびながら、 能性について弁護人は、①犯人の刺突態様は、1回で左後背部に刃物を体内の奥深くまで刺すというものであり、犯行前後の犯人の行動も、腰の辺りから取り出した刃物を右手で手慣れた様子でもてあそびながら、大股で被害者に迫って犯行に及び、犯行後は、大声で叫ぶ被害者を振り返りながら立ち去るなど、余裕たっぷりであり、刃物の扱いに習熟したプロの手口をうかがわせること、②犯人は、被害者に顔を見せており、犯行前に周辺をうろついて近隣住民にも身を隠そうとしておらず、防犯カメラやドラレコも警戒していないから、被害者の顔見知 りや近隣住民ではないと考えるのが自然であること、③本件犯行は、被告人の自宅のすぐ近くで、近隣の目もある時間帯に行われており、高身長の体形なども知られている被告人があえて計画するものではないこと、④本件犯行に使用された凶器が発見されていないこと、を挙げて犯人像と被告人像が合致しないと指摘し、また、⑤被害者の身辺には、本件犯行につながるかもしれない不審な事情が様々にうかがわれ、被告人以外に真犯人がいる可能性が想定されると指摘する。 しかし、①について、刃物を横向きにして刺突するという態様は、特に高度な知識や技術を要するものではなく(なお、弁護人がI大学医学部法医学教室のJ医師の供述を基に指摘する部分は、原審記録に基づかない主張であって採用できない。)、それだけで犯人が刃物の扱いに習熟しているとか、プロの手口だとかいうことはできないし、刃物の扱いに慣れている様子が見られたとしても、余裕たっぷりの行動であると評価することはできない。むしろ、正面から歩いてきた被害者と一旦すれ違った後に るとか、プロの手口だとかいうことはできないし、刃物の扱いに慣れている様子が見られたとしても、余裕たっぷりの行動であると評価することはできない。むしろ、正面から歩いてきた被害者と一旦すれ違った後に反転して追い掛けて刺突に及んだという犯人の行動には、自身の顔や服装等を被害者に見られる危険を伴う面があり、素人的な手口であるとの見方も可能である。以上と同旨の原判決の指摘に誤りはない。②及び③について、犯人がドラレコの存在やその捕捉範囲を熟知していたことを前提とすることはできないし、夜間で周囲が暗く、被害者は携帯電話を操作するなどしながら歩いていたことや、犯人が黒色の目立ちにくい服装で、マスクを着用していたことからすれば、被告人が本件殺人の犯人であった場合に、本件の時刻、場所で犯行に及んだことが不自然不合理であるとはいえない。④について、原判決が指摘するとおり、本件住宅街の周辺の古墳の堀や池に凶器を投棄することが可能であるし、堀等の中の捜索が行われたのは本件の翌年であり、この間に投棄された凶器が水中の堆積物等の影響で不明となった可能性があるから、凶器の未発見が被告人の犯人性に整合しないとはいえない。⑤について、そもそも弁護人の指摘自体が抽象的な可能性を指摘するもの にとどまっている上、警察は、被害者に関係のある人物を広く対象にして、被害者と紛議があったか、本件時に本件現場付近にいることができたか、犯人の体格と似ているか等について捜査したが、被告人以外に疑わしい人物はいなかったというのであり(甲60、Dの原審証言〔第15回〕)、弁護人指摘の可能性があることをうかがわせる事情も見当たら たか、犯人の体格と似ているか等について捜査したが、被告人以外に疑わしい人物はいなかったというのであり(甲60、Dの原審証言〔第15回〕)、弁護人指摘の可能性があることをうかがわせる事情も見当たらない。被告人以外に真犯人がいるという合理的な疑いは残らない。 (7) 以上のとおり、被告人が本件殺人の犯人であると認めた原判決の認定、判断が論理則、経験則等に照らして不合理であるとはいえない。先に見たとおり、点灯①、②が犯人の通過によるものであるということが、断定することまではできず、強く推認されるにとどまるとしても、本件殺人の犯人は被告人以外に考えられないといえることに加えて、動機の存在、犯人を本件住宅街の住民とみることの自然さ、犯人と被告人の身体的特徴の類似性等も併せ考慮すれば、被告人が犯人であることが相当強く推認され、これを妨げる事情は見当たらないことからすると、その旨が認定できる。原判決の認定、判断はこれを是認することができ、その他の弁護人の指摘を検討しても、以上の判断は左右されない。 4 事実誤認の主張は理由がない。 第3 適用した法令刑事訴訟法396条、刑法21条令和7年9月12日大阪高等裁判所第2刑事部 裁判長裁判官小森田恵樹 裁判官岩 﨑 邦生 裁判官秋田志保

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