主文 原判決を破棄する。本件を大阪高等裁判所に差し戻す。理由 上告代理人土橋忠一の上告理由四について所論は、原審までに主張、判断を経ない事実を前提として原判決を論難するものにすぎず、論旨は採用することができない。同一ないし三及び五について原審は、(一)訴外D1株式会社(以下「訴外会社」という。)の代表取締役D2(以下「D2」という。)が、被上告人会社から、訴外会社の被上告人会社に対する電気製品の継続的売買取引上の債務につき連帯保証人を立てるよう要求されたこと、(二)D2は、上告人から、訴外会社が他から社員寮を賃借するについて保証人となることの承諾を得、その保証契約締結の権限を与えられて実印の貸与を受け、市役所から上告人の印鑑証明書の交付を受けたこと、(三)D2は、右の権限を越えて、訴外会社が被上告人会社に対し現在負担し又は将来負担することあるべき商取引上の一切の債務について連帯して支払う旨の本件根保証約定書(以下「本件約定書」という。)を上告人の名をもつて作成し、これに上告人の実印を押捺したうえ前記印鑑証明書を添えて被上告人会社に差し入れたこと、(四)被上告人会社においては、右印鑑証明書により本件約定書の上告人名下の印影が上告人の実印によるものであることを確認して、上告人がみずからの意思に基づいて本件約定書に記名押印をし本件根保証契約を締結するものであると信じたこと、以上の事実を適法に確定したうえ、日常の取引において、証明された実印による行為は本人の意思に基づくものと評価され、印鑑証明書が行為者の意思確認の機能を果たしていることは経験上明らかであるから、被上告人会社において本件根保証契約の締結が上告人の意- 1 -思に基づくものと信じたことについては正当な理由があると 印鑑証明書が行為者の意思確認の機能を果たしていることは経験上明らかであるから、被上告人会社において本件根保証契約の締結が上告人の意- 1 -思に基づくものと信じたことについては正当な理由があるとして、民法一一〇条の類推適用により、上告人は本件根保証契約につき責に任ずべきであると判断し、本件約定書には保証金額の明記がないけれども、そのことだけで右結論を左右するものではなく、また、被上告人会社は電気器具等の販売業者であつて金融機関ではないから本人の保証意思までをも確認すべき義務があると解することはできないとの説示をも附加して、被上告人会社の予備的主張を理由があるものとしている。 な理由があるとして、民法一一〇条の類推適用により、上告人は本件根保証契約につき責に任ずべきであると判断し、本件約定書には保証金額の明記がないけれども、そのことだけで右結論を左右するものではなく、また、被上告人会社は電気器具等の販売業者であつて金融機関ではないから本人の保証意思までをも確認すべき義務があると解することはできないとの説示をも附加して、被上告人会社の予備的主張を理由があるものとしている。このように、代理人が本人から与えられた権限を越えていわゆる署名代理の方法により本人名義の契約書を作成したうえ、これを相手方に差し入れることにより本人のために契約を締結した場合であつても、相手方において右契約書の作成及び右契約の締結が本人の意思に基づくものであると信じたときは、代理人の代理権限を信じたものというには適切ではないが、その信頼が取引上保護に値する点においては代理人の代理権限を信じた場合と異なるところはないから、右のように信じたことについて正当な理由がある限り、民法一一〇条の規定を類推適用して、本人がその責に任ずるものと解するのが相当であるが(最高裁昭和三七年(オ)第二三二号同三九年九月一五日第三小法廷判決・民集一八巻七号一四三五頁、昭和四四年(オ)八四三号同年一二月一九日第二小法廷判決・民集二三巻一二号二五三九頁参照)、所論は、本件について右の正当理由の存在を肯認した原審の判断を争うので按ずるに、印鑑証明書が日常取引において実印による行為について行為者の意思確認の手段として重要な機能を果たしていることは否定することができず、被上告人会社としては、上告 肯認した原審の判断を争うので按ずるに、印鑑証明書が日常取引において実印による行為について行為者の意思確認の手段として重要な機能を果たしていることは否定することができず、被上告人会社としては、上告人の保証意思の確認のため印鑑証明書を徴したのである以上は、特段の事情のない限り、前記のように信じたことにつき正当理由があるというべきである。しかしながら、原審は、他方において、(一)被上告人会社がD2に対して本件根保証契約の締結を要求したのは、訴外会社との取引開始後日が浅いうえ、訴外会社- 2 -が代金の決済条件に違約をしたため、取引の継続に不安を感ずるに至つたからであること、被上告人会社は、当初、D2に対し同人及び同人の実父(原判決挙示の証拠関係によれば、訴外会社の親会社であるD3の経営者でもあることが窺われる。 るというべきである。しかしながら、原審は、他方において、(一)被上告人会社がD2に対して本件根保証契約の締結を要求したのは、訴外会社との取引開始後日が浅いうえ、訴外会社- 2 -が代金の決済条件に違約をしたため、取引の継続に不安を感ずるに至つたからであること、被上告人会社は、当初、D2に対し同人及び同人の実父(原判決挙示の証拠関係によれば、訴外会社の親会社であるD3の経営者でもあることが窺われる。)に連帯保証をするよう要求したのに、D2から「父親とは喧嘩をしていて保証人になつてくれないが、自分の妻の父親が保証人になる。」との申し入れがあつて、これを了承した(なお、上告人はD2の妻の父ではなく、妻の伯父にすぎない。)こと、上告人の代理人として本件根保証契約締結の衝にあたつたD2は右契約によつて利益をうけることとなる訴外会社の代表取締役であることなど、被上告人会社にとつて本件根保証契約の締結におけるD2の行為等について疑問を抱いて然るべき事情を認定し、(二)また、原審認定の事実によると、本件根保証契約については、保証期間も保証限度額も定められておらず、連帯保証人の責任が比較的重いことが推認されるのであるから、上告人みずからが本件約定書に記名押印をするのを現認したわけでもない被上告人会社としては、単にD2が持参した上告人の印鑑証明書を徴しただけでは、本件約定書が上告人みずからの意思に基づいて作成され、ひいて本件根保証契約の締 書に記名押印をするのを現認したわけでもない被上告人会社としては、単にD2が持参した上告人の印鑑証明書を徴しただけでは、本件約定書が上告人みずからの意思に基づいて作成され、ひいて本件根保証契約の締結が上告人の意思に基づくものであると信ずるには足りない特段の事情があるというべきであつて、さらに上告人本人に直接照会するなど可能な手段によつてその保証意思の存否を確認すべきであつたのであり、かような手段を講ずることなく、たやすく前記のように信じたとしても、いまだ正当理由があるということはできないといわざるをえない。しかるに、原審は、被上告人会社が金融業者ではないことの故をもつて、右のような可能な調査手段を有していたかどうかにかかわらず、民法一一〇条の類推適用による正当理由を肯認できると判断しているのであるが、右の判断は同条の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるというべきで、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。 も、いまだ正当理由があるということはできないといわざるをえない。しかるに、原審は、被上告人会社が金融業者ではないことの故をもつて、右のような可能な調査手段を有していたかどうかにかかわらず、民法一一〇条の類推適用による正当理由を肯認できると判断しているのであるが、右の判断は同条の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるというべきで、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、正当理由の存否についてさ- 3 -らに審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官吉田豊裁判官岡原昌男裁判官大塚喜一郎裁判官本林讓- 4 -
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