【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 理 由 弁護人時田至上告趣意書第一点は「本件ノ強盗被告事件ニ付キ第一審裁判所ハ弁 護人瀬戸藤太郎ヲシテ弁論ヲナサシメタルコト昭和
主 文 本件上告を棄却する。 理 由 弁護人時田至上告趣意書第一点は「本件ノ強盗被告事件ニ付キ第一審裁判所ハ弁 護人瀬戸藤太郎ヲシテ弁論ヲナサシメタルコト昭和二十二年七月廿二日ノ公判調書 ニヨリ明ナリ、然レドモ右弁護人ハ官選弁護人ナルヤ又ハ私選弁護人ナリヤ記録上 明ナラズ即チ被告人ト弁護人トノ連署ニヨル弁護届ノ提出ナキヲ以テ私選弁護人ニ ハアラザル様ナリ、サレバ官選弁護人ナリトスレバ其ノ選任ヲ証スル選任書ナルモ ノ一件記録中ニ見当ラズ大凡或弁護士ニ弁護ヲ命ズル場合ニ裁判所ハ必ズシモ選任 書又ハ其控ヲ記録ニ留メ置クベシトノ法律上ノ要求ナキガ如シト雖モ選任アリタル 哉否ヤヲ記録ニ留メ置カザル以上何時如何ナル弁護士ニ弁護ヲ命ジタル哉明カナラ サルヲ以テ刑事訴訟法上少ナクトモ右選任書又ハ其控ヲ記録中ニ留メ置クバキモノ ト信ズ選任ノ事実不明確ナル本件ノ場合ニ弁護士瀬戸藤太郎ナルモノガ果シテ弁護 士ニシテ又選任セラレタル哉不明確ナリ右ノ如ク弁護届又ハ選任書ノ添付ナキ本件 ノ訴訟手続ハ法律上ノ違背アルモノト信ズ」というのである。 記録を調べて見ると、第一審裁判所においては、弁護士瀬戸藤太郎に対し、被告 人Aに対する強盗被告事件について、昭和二十二年七月二十九日法廷に出頭すべき 旨の弁護人召喚状を送達しており右瀬戸藤太郎は弁護人として右事件の公判廷に出 頭し、被告人A及び相被告人B、同Cのために弁論しているのであつて、このこと は郵便送達報告書及び公判調書からこれを知ることができる。しかし、被告人Aと 右瀬戸藤太郎との連署にかかる弁護人選任届も又第一審の裁判長が職権を以て右瀬 戸藤太郎を弁護人に選任する旨の書類又はその写等も記録中に存しない。しかしな がら第二審裁判所において裁判長が弁護士笠置省三を被告人Aの弁護人に選任した ことは、記録編綴の選 審の裁判長が職権を以て右瀬 戸藤太郎を弁護人に選任する旨の書類又はその写等も記録中に存しない。しかしな がら第二審裁判所において裁判長が弁護士笠置省三を被告人Aの弁護人に選任した ことは、記録編綴の選任書の控によつてこれを知ることができる。又右弁護人が被 - 1 - 告人Aの第二審公判に出頭し、同被告人のために弁論をしていることは、第二審の 公判調書の記載上明瞭である。以上のやうに第二審の裁判所においては、弁護人の 選任等において欠けているところがなく、その他の手続においても、法律上違反し ているところがないから、たとえ、第一審の裁判所において、これらの点につき、 所論のような欠缺があつたとしても、これを以て上告の理由とすることはできない。 よつて論旨はその理由がないといはなければならない。 同第二点は「被告人Aハ中華民国山東省北京市a路b号ニ本籍ヲ有シ父ヲD母ヲ Eト言ヒ被告人モA(A)ト呼ビ共ニ中華民国人ナリト言フ、原審ハ被告人ノ日本 ニ於ケル住居不定且本籍不分明ナルタメニ日本人トシテ取扱ヒ日本ノ裁判所ニ於テ 裁判ヲナシタルモ開ハ正シカラズ現在外国人(中華民国人)ニ対シテ日本ノ裁判所 ニ於テ裁判ヲナシ得ザルコト明ナル場合ニ単ニ被告人ガ日本ニ於テ住居不定又ハ本 籍地ヲ取調ヘタルモ見当ラズトテ漫然被告人ヲ日本人ナリト看做シテ本件ノ如ク裁 判ヲ下シタルハ不法ナリ即チ日本人ナリヤ外国人ナリヤノ確定ハ一ニ国籍法ノ定ム ル処ニヨルベキモノニシテ国籍法第四条ニハ日本ニ於テ生レタル子ノ父母が共ニ知 レザルトキ又ハ国籍ヲ有セザルトキハ其ノ子ハ之ヲ日本人トストアリテ被告人ハ少 ナクトモ日本ニ於テ出生シタリトノ証明ナク又父母共ニ外国人ナルヨリ見レバ母ガ 日本人ナリトモ言ヒ得ズ、被告人ガ幼少ノ時中華民国人タル父母ニ伴ハレテ日本ニ 来リタルモ現在父母ハ終戦後中華民国ニ帰国シ被告人ノミガ日本ニア 於テ出生シタリトノ証明ナク又父母共ニ外国人ナルヨリ見レバ母ガ 日本人ナリトモ言ヒ得ズ、被告人ガ幼少ノ時中華民国人タル父母ニ伴ハレテ日本ニ 来リタルモ現在父母ハ終戦後中華民国ニ帰国シ被告人ノミガ日本ニアリテ住居ヲ定 メ居ラズト言フニアリテ又日本ニ本籍ヲ有セザルガ為ニ日本国ヨリ戸籍証明ヲ取リ 得ズ又遡ニ日本人ナリトノ証明ハ一ニ戸籍簿ニ寄ルモノトセバ本件ノ被告人ノ如ク 日本人トシテノ戸籍ナキモノヲ以テ日本人トシテ取扱スルコトハ難カルベク孰レニ シテモ被告人ガ日本ニ於テ住居不定、本籍不分明ナリトノ一事ヲ以テ日本人トスル ハ早計ナリ又被告人ハ公判廷ニ於テ自ラ日本ノ裁判ヲ受クルコトニ付キ異議ナシト 答へ居ルモ外国人ガ日本ノ裁判ニ服スル必要ノナイ今日ニ於テ斯ル権利ノ拠棄ハ国 - 2 - 際法上何等ノ効力ヲ認ムベキモノニアラザルノミナラズ被告人ハ外国人ト言フ立場 ニ於テ其ノ権利ヲ拠棄シタモノデハナクテ日本人デアル様ニ思ハルルカラ日本ノ裁 判所デ裁判ヲスルト言フタノニ対シテ異議ハナイト述べタニ過ギナイ、要スルニ被 告人ヲ日本人ト看做シテ日本ノ裁判所デ裁判ヲ下シタコトハ違法デアルト信ズル又 原審ガ被告人ハ日本人デアルトノコトニ付テ何等ノ証明ヲシテ居ナイ」というので ある。 原審の昭和二十二年十月八日の公判調書によると、被告人は、自分の本籍は中華 民国山東省北京市a路b号で、父はD、母はEといい、共に中華民国人であるが、 自分の国籍が日本にあるか、中華民国にあるか判らない。自分は勾留されてから中 華民国人の登録手続をしたが、中華代表団の方で、調査の結果判らないというので、 その申請は却下された。本件で最初大阪の軍事裁判所に廻されたが、駐日代表団の 方で私の身元を調べたところ、身元がはつきりしないというので、そこで裁判を受 けることができず、大阪地方裁判所で裁判を受けることになつた、という趣旨の 件で最初大阪の軍事裁判所に廻されたが、駐日代表団の 方で私の身元を調べたところ、身元がはつきりしないというので、そこで裁判を受 けることができず、大阪地方裁判所で裁判を受けることになつた、という趣旨の供 述をしており、又、大阪地方検察庁で被告人の国籍について、調査した書類が記録 に編綴されているけれども、その調査の結果によつても、被告人の国籍が中華民国 にあり、その登録がなされているという事実が少しも認められない。その他記録を 調べて見ても、被告人が中華民国人であるか、又はその他の聯合国人であるという ことを証明する資料がないのであるから、昭和二十一年六月十三日勅令第三百十一 号第一条第一号の適用を受けないこと明かであつて、なお、被告人の行為は、同条 第二号以下のいずれにもあたらないものである。而して、刑法第一条第一項は「本 法ハ何人ヲ問ハズ日本国内ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス」と規定し、刑法の 適用範囲が、日本国に国籍を有する者に限られていないのであるから、刑法を適用 するにあたつては、被告人が日本国に国籍を有する者であることを積極的に証明す る必要はないのである。以上の理由により、原審がその認定にかかる被告人の強盗 - 3 - の所為に対し、刑法第二百三十六条第一項等を適用処断したことは、洵に正当であ つて、何等違法の点がない。よつて論旨は理由がない。 被告人の上告趣意書は、被告人の家庭の状態、被告人のこれまでの経歴を詳細に 述べたうえ「昨二十一年ノ正月頃私ノ居リマシタ自由市場取締リヲ仕テ居タBト言 フ人ニ合マシタ。色々話ヲ仕テ居マス内ニ私ガ「両親ニ合ヒ度イ」ト言フト「今度 大阪へFト言フ人ヲ尋ネテ行キ商売ノ世話ヲ仕テ貰フカラ付イテ来テ手伝ヘソウス レバ手続キヲ取ツテ帰国出来ル様運動シテヤル」ト言ヒマシタノデ一日モ早ク両親 兄ニ合ヒ度イト思ツテ居リマシタノデ手伝ハ 「今度 大阪へFト言フ人ヲ尋ネテ行キ商売ノ世話ヲ仕テ貰フカラ付イテ来テ手伝ヘソウス レバ手続キヲ取ツテ帰国出来ル様運動シテヤル」ト言ヒマシタノデ一日モ早ク両親 兄ニ合ヒ度イト思ツテ居リマシタノデ手伝ハセテ貰フ事ニシテ六月ノ一、二日頃岡 山ヲ立チマシタ。cノ駅デFト言フ人ヲ尋ネル為約束シテ居タラシイBサンノ知合 ガ二人乗ツテ来マシタ。列車ガcヲ出テ三十分程スルト前ヨリ警察ノ人ガ二人這入 ツテ来マシタスルトcノ人ガ私ニ「オ前ハ大人シイ服装ヲ仕テ居ルカラ此レヲ持ツ テ居テクレ」ト言ツテ四寸位ナ匕首ヲ出シマシタノデ黙ツテ居マストBサンガ「バ ンドノ下へ入レテ持ツテ居テヤレ」ト言ヒマシタノデ仕方無シニ持ツテ居マスト警 察ノ人ガ来タノデ小サク無ツテ居リマシタ。大阪ニ着キマシタノデ匕首ヲ出シマス ト「此レカラモオ前達ト一所ニFヲ探スノダカラ持ツテ居テクレ見ツカツタ時ニ迷 惑ハ掛ケ無イカラ」ト言ツタノデ仕方無シニ持ツテ居リマシタ。二組ニ分レテ探ス ト言ツテ私トBサンcノ知人二人ト言フ様ニ分レテ待合室、改札口、食堂、闇市場 等探シマシタガ解ラ無イノデBサンガ「Fハdへ店ヲ出シテアルカラ行ツテ見ヨウ ソレデ解ラ無カツタラ夕方ニナルトアパートニ帰ルカラアパートニ行カウ」ト言ツ テdへ行キマシテ探シマシタガ分リマセンノデG劇場ト言フ所ニ入リマシタ。見テ 居リマスト私が前ニG劇場ニ勤メテ居ル時長期興業デ来テ知合ヒニ家ニモ二回程父 ノ見舞ヒツイデニ遊ビニ来テHガ案内ヲ仕テ上ゲタ事ノアルIト言フ人ガ出タノデ 逢ヒ度ク成リ一通リ見タ後通用門ヨリ入ツテ楽屋ノ入口ニ居ル人ニ尋ネルト「今舞 台デ司会ヲ仕テ居ラレルカラ一寸待ツテ居テクレ」ト言ハレタノデ待ツテ居ルト二 - 4 - 人連ノ男ノ人ガ来テ「オ前達ハ何処カラ来タノカ」ト言ツタノデBサンガ「商売ニ 来テ人ヲ探シテ居ルガ解ラ無イノデ夜アパートニ行カウト思ツテ此 ラ一寸待ツテ居テクレ」ト言ハレタノデ待ツテ居ルト二 - 4 - 人連ノ男ノ人ガ来テ「オ前達ハ何処カラ来タノカ」ト言ツタノデBサンガ「商売ニ 来テ人ヲ探シテ居ルガ解ラ無イノデ夜アパートニ行カウト思ツテ此処ニ入ルトコレ ノ知ツタ人ガ居タノデ今尋ネテ来テ居ル」ト言フト二人連ノ人ガBサンヲ連レテ材 木ノ有ル所へ行キマシタ。Iサンガ出テ来タノデ話ヲ仕テ居マシタガ二、三十分程 スルト「舞台デスヨ」ト言ツテ来タノデ「今晩ニデモ遊ビニ来ナサイ」ト言ツテ名 刺ヲ呉テ別レマシタ。Bサン達ノ居ル所へ行クト「此ノ人達ガ品物ノ世話ヲ仕テヤ ルト言フカラFノハ後カラ行ク事ニシテ今日ハ此ノ人ノヲ世話シテ貰ホウ」ト言ヒ 夕方五時ニe駅デ逢フ事ニシテ別レマシタ。五時ニdへ行ツテ三十分程待チマシタ ガ来ナイノデ私ガ「モウ来ナイダロウカラFサンガIサンノ家ニ行カウ」ト言ツテ Iサンノ家ニ行ク事ニシテ電車ノ時間ヲ見テ切符ヲ買ツテ改札口ニ並ンデ居リマス ト「遅ク成ツテ済マ無イ」ト言ツテ二人連ノ人ガ駅ノ近クニ有ル知合ヒラシイ飲食 店ニ行クト頼ンデ居タラシク店ノ人ガ焼イモノ皿ヲ持ツテ来マシタ二人ガ「食べナ イ」ト言ツタノデ食べテ居ルト向フノテーブルへ二人連ノ人ガBサンヲ呼ンダノデ 行ツテ何カ二言程話シテ私ノ所へ来テ「前ニ預ツタ匕首ヲ出セ」ト言ツタノデ此ノ 店ニ預サルノダロウト思ツテ出シマシタ。向フニ持ツテ行ツテ何カ話シテ居リマシ タガ向フノ人ニ渡シテ戻ツテ来テ「此レカラ行クカラ」ト言ツタノデ立ツテ外ニ出 テ待ツテ居レマスト二人連ノ人ガ出テ来タノデdカラ電車ニ乗ツテ五ツ目位ナ駅デ 下リマシタ二十分位歩クト二人連ノ人ガ「オ前一寸此レヲ持ツテオレ」ト言ツテ前 ニ飲食店ニ預ケタト思ツタ匕首ヲ出シマシタノデ「厭」ト言ヒマシタガBサンガ「 持ツテ行ケ」ト言ツタノデBサンノ商売ガ駄目ニ成ルト行ケ無イト思ツテ其レヲ持 ツテ歩イテ居マシ 寸此レヲ持ツテオレ」ト言ツテ前 ニ飲食店ニ預ケタト思ツタ匕首ヲ出シマシタノデ「厭」ト言ヒマシタガBサンガ「 持ツテ行ケ」ト言ツタノデBサンノ商売ガ駄目ニ成ルト行ケ無イト思ツテ其レヲ持 ツテ歩イテ居マシタガ交番ガ有ツタノデ目ヲツムル様ニシテ前ヲ通リマシタ片田舎 ノ様ナ所へ出テ田甫ノ有ル方へ田舎道ヲ通ツテ藁グロノアル所へ行クト二人連ガ腰 ヲ下シテ「匕首ヲ出セ」ト言ツタノデ出シマスト「マダ早イカラ其処ノ藁デモ敷イ テ横ニナレ」ト言ヒマシタノデ闇ノ物資デモ出スノデ早イト近所ノ人ニデモ見ラレ - 5 - ルノデ悪イノダロウト思ツテ麦藁ノ上ニ横ニナルト一日ノ疲レガ一ペンニ出テ寝テ 終ヒマシタ夜中ニ起サレテ「行コウ」ト言ツタノデ起キ上ツテ皆ト一所ニ家ノ傍へ 行クト二人連ノ人ハ入口ノ有ル方ヘハ行カズニ植木垣ヲ踏ミ越エテ入リ高イ窓ヲハ ズシテ「オ前此処カラ這入レ」ト言ヒマシタノデ初メテ悪イ事ヲスルノダト分リ「 厭ダ厭ダ」ト言ヒマスト頭ヲ打ツテ襟首ヲ取ツテ「此処迄来テモンクヲ言フノカ」 ト言ツテ一人ノ人ニ「其処へ台ニナレ」ト言ツテ背ヲ匕首ノエデ突クノデ恐シクナ リ仕方無ク窓ニ足ヲ片方へ入レルト「早ク這入レ」ト後カラ押シマシタノデ急ニ飛 ビ落チマシテクドノ穴ニ足ヲ突込ミ横ニ倒レテ何カニ引掛リマシテズボンガ破レテ 腰ノ下ニ傷ヲシマシテ拘置所ニ這入ツテ一ケ月余リ手当ヲ受ケタ有様デス。私ガ起 キテ腰ノ傷ヲ手ヌグヒデシバツテ居リマスト後カラ三人這入ツテ来テ「大キナ音ヲ 立テルカラ中ノモノガ起キタラシイジヤ無イカ早ク上レ」ト言ツテ背ヲ打ツタノデ 恐ル恐ル靴ヲ持ツテ上リマスト先ニ上ツタ人ガカヤヲマクリ上ゲテ中ノ人ニ匕首ヲ 突キツケテ「声ヲ出スナ」ト言ツテ私ノ方ニ向キ「オ前ハコレヲ持ツテ声ヲ出サセ 無イ様ニ仕テ居レ」ト言ツテ匕首ヲ私ニ渡シテ三人タンスノ引出シヤ戸棚ヲ開ケテ 色々ナ物ヲ出シテ包ンデ居リマシタ。私 人ニ匕首ヲ 突キツケテ「声ヲ出スナ」ト言ツテ私ノ方ニ向キ「オ前ハコレヲ持ツテ声ヲ出サセ 無イ様ニ仕テ居レ」ト言ツテ匕首ヲ私ニ渡シテ三人タンスノ引出シヤ戸棚ヲ開ケテ 色々ナ物ヲ出シテ包ンデ居リマシタ。私ハ恐シクテブルブルフルエルシ前ニ居ル小 母サンヲ見ルト自分ガ此ノ様ニ成ツタ時ノ事ヲ考ヘルト気ノ毒デタマラズ品物ヲ世 話シテヤルト言ツテ嘘サレテ連レテ来ラレ無理矢理ニ這入ラサセタ事ヲ言ツテ「必 ズ私ノ貰ツタ品物ハ返シマス」ト心カラ詑ビマシタ。誰カ外へ出タ様ナ気ガシマシ タノデグルリヲ見マシタガ誰モ居ラ無イ様ナノデ其ノ時迄恐シイノヲ我慢シ押サヘ テ居リマシタガ一ペンニ恐シク成リ土間ニ飛ビ下リテ靴ヲ突掛ケテ開イテ居リマシ タ裏口ヨリ外ニ出マスト二人連ノ内ノ一人ガ其処ニヲイテ居タ荷物ヲ両手ニ抱へ私 ニ「其処ニ有ル荷物ヲ持テ」ト言ヒマシタガ恐シクテ持ツ気ニナラズ黙ツテ立ツテ 居リマスト「早ク仕無イカ」ト言ツタノデ二ツカ三ツ有ツタ一ツヲサゲテ少シデモ 多ク残シテ逃ゲ無ケレバイケ無イト思ヒ「アツ誰カ表へ出タ様ダ」ト言ツテ植木垣 - 6 - ノ間カラ道へ歩キ出マスト其ノ人ト何処ニ居タノカBサンモ出テ来テ駅迄ムチユウ ニ歩キ先ダ電車ガ通ツテ居ラ無カツタノデ二駅程線路ノ上ヲ歩キ一番電車ニ乗ツテ e駅ニ戻ツテプラツトホームヨリ構内ニ出ルトe駅交番ノ方へ引キ止メラレ警察へ 連行致サレマシタ。私ハ今迄ニ警察交番ニ呼バレタ事モ一回ノ注意ヲ受ケマシタ事 モ有リマセン。今回ノ事件ニ対シマシテ全然意志ハ無カツタノデ有リマス。私ノ無 智ノ為カ意志弱キ為ニ誘惑ニ負ケテ大変悪イ事ヲ致シタトツクヅク後悔致シテ居リ マス。今後絶対ニ改俊致シマシテ意志ノ強イ何ノ様ナ誘惑ニモ負ケ無イ真ノ人ト成 ツテ此レヲ最初ノ罪同時ニ最後ノ罪ト致シマス事ヲ御誓ヒ致シマス。今後少シノ罪 デモ犯シマシタ時ハ何ノ様ナ刑ヲ受ケマシテモカマヒマセン、 後絶対ニ改俊致シマシテ意志ノ強イ何ノ様ナ誘惑ニモ負ケ無イ真ノ人ト成 ツテ此レヲ最初ノ罪同時ニ最後ノ罪ト致シマス事ヲ御誓ヒ致シマス。今後少シノ罪 デモ犯シマシタ時ハ何ノ様ナ刑ヲ受ケマシテモカマヒマセン、青天白日ノ身トナリ マシテ社会ニ出マシタ暁ハ一日モ早ク父母兄サンニ会ヒマシテ今回ノ不孝ノ御詑ビ ヲ致シ真ノ人ト成ツテ新日本建設、東洋平和建設ニ尽クス事ノ出来ル人ト成ル覚悟 ヲ固メマシタ。唯今デハ両親兄、被害者ニ夢デ苦シメラレ又脊髄カリエスデ悶々ニ 苦シンデ居リマス右申上ゲマシタ事ハ必ズ御誓ヒ致シマス」というのであつて、被 告人が前非を悔いていることは看取できるが、もし被告人の主張にして、法律上意 味があるとすれば、原判決の事実の認定を非難する趣旨か又は寛大な裁判を求める 趣旨に帰するので、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律 第十三条第二項の規定により適法な上告の理由となし難く論旨は理由がない。 よつて、刑事訴訟法第四百四十六条により主文の通り判決する。 以上は裁判官全員一致の意見である。 検察官十蔵寺宗雄関与 昭和二十三年三月九日 最高裁判所第三小法廷 裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎 裁判官 井 上 登 - 7 - 裁判官 庄 野 理 一 裁判官 島 保 裁判官 河 村 又 介 - 8 -
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