昭和48(オ)517 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
昭和50年10月24日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所 昭和45(ネ)589
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      本件を東京高等裁判所に差し戻す。          理    由  上告代理人萩沢清彦、同内藤義憲の上告理由第一点及び第三点について  一 訴訟上

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判決文本文5,178 文字)

主文原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由上告代理人萩沢清彦、同内藤義憲の上告理由第一点及び第三点について一訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。 二これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実は次のとおりである。 1 上告人(当時三才)は、化膿性髄膜炎のため昭和三〇年九月六日被上告人の経営するD病院小児科へ入院し、医師E、同Fの治療を受け、次第に重篤状態を脱し、一貫して軽快しつつあつたが、同月一七日午後零時三〇分から一時頃までの間にF医師によりルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入、以下「本件ルンバール」という。)の施術を受けたところ、その一五分ないし二〇分後突然に嘔吐、けいれんの発作等(以下「本件発作」という。)を起し、右半身けいれん性不全麻痺、性格障害、知能障害及び運動障害等を残した欠損治癒の状態で同年一一月二日退院し、現在も後遺症として知能障害、運動障害等がある。 2 本件ルンバール直前における上告人の髄膜炎の症状は、前記のごとく一貫して軽快しつつあつたが、右施術直後、F医師は、試験管に採取した髄液を透して見て「ちつともにごりがない。すつかりよくなりましたね。」と述べ、また、病状検査のため本件発作後の同年九月一九日に実施されたルンバールによる髄液所見でも、髄液中の細胞数が本件ルンバール施術前より減少して病状の好転を示していた。 - 1 -3 一 ね。」と述べ、また、病状検査のため本件発作後の同年九月一九日に実施されたルンバールによる髄液所見でも、髄液中の細胞数が本件ルンバール施術前より減少して病状の好転を示していた。 - 1 -3 一般に、ルンバールはその施術後患者が嘔吐することがあるので、食事の前後を避けて行うのが通例であるのに、本件ルンバールは、上告人の昼食後二〇分以内の時刻に実施されたが、これは、当日担当のF医師が医学会の出席に間に合わせるため、あえてその時刻になされたものである。そして、右施術は、嫌がつて泣き叫ぶ上告人に看護婦が馬乗りとなるなどしてその体を固定したうえ、F医師によつて実施されたが、一度で穿刺に成功せず、何度もやりなおし、終了まで約三〇分間を要した。 4 もともと脆弱な血管の持主で入院当初より出血性傾向が認められた上告人に対し右情況のもとで本件ルンバールを実施したことにより脳出血を惹起した可能性がある。 5 本件発作が突然のけいれんを伴う意識混濁ではじまり、右半身に強いけいれんと不全麻痺を生じたことに対する臨床医的所見と、全般的な律動不全と左前頭及び左側頭部の限局性異常波(棘波)の脳波所見とを総合して観察すると、脳の異常部位が脳実質の左部にあると判断される。 6 上告人の本件発作後少なくとも退院まで、主治医のE医師は、その原因を脳出血によるものと判断し治療を行つてきた。 7 化膿性髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものとされており、当時他にこれが再燃するような特別の事情も認められなかつた。 三原判決は、以上の事実を確定しながら、なお、本件訴訟にあらわれた証拠によつては、本件発作とその後の病変の原因が脳出血によるか、又は化膿性髄膜炎もしくはこれに随伴する脳実質の病変の再燃のいずれによるかは判定し難いとし、また、本件発作とその後の病変の原因が本件ル 証拠によつては、本件発作とその後の病変の原因が脳出血によるか、又は化膿性髄膜炎もしくはこれに随伴する脳実質の病変の再燃のいずれによるかは判定し難いとし、また、本件発作とその後の病変の原因が本件ルンバールの実施にあることを断定し難いとして上告人の請求を棄却した。 四しかしながら、(1)原判決挙示の乙第一号証(E医師執筆のカルテ)、甲第- 2 -一、第二号証の各一、二(F医師作成の病歴概要を記載した書翰)及び原審証人Eの第二回証言は、上告人の本件発作後少なくとも退院まで、本件発作とその後の病変が脳出血によるものとして治療が行われたとする前記の原審認定事実に符合するものであり、また、鑑定人Gは、本件発作が突然のけいれんを伴う意識混濁で始り、後に失語症、右半身不全麻痺等をきたした臨床症状によると、右発作の原因として脳出血が一番可能性があるとしていること、(2)脳波研究の専門家である鑑定人Hは、結論において断定することを避けながらも、甲第三号証(上告人の脳波記録)につき「これらの脳波所見は脳機能不全と、左側前頭及び側頭を中心とする何らかの病変を想定せしめるものである。即ち鑑定対象である脳波所見によれば、病巣部乃至は異常部位は、脳実質の左部にあると判断される。」としていること、(3)前記の原審確定の事実、殊に、本件発作は、上告人の病状が一貫して軽快しつつある段階において、本件ルンバール実施後一五分ないし二〇分を経て突然に発生したものであり、他方、化膿性髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものとされており、当時これが再燃するような特別の事情も認められなかつたこと、以上の事実関係を、因果関係に関する前記一に説示した見地にたつて総合検討すると、他に特段の事情が認められないかぎり、経験則上本件発作とその後の病変の原因は脳出血であり、これが本件ルンバー つたこと、以上の事実関係を、因果関係に関する前記一に説示した見地にたつて総合検討すると、他に特段の事情が認められないかぎり、経験則上本件発作とその後の病変の原因は脳出血であり、これが本件ルンバールに困つて発生したものというべく、結局、上告人の本件発作及びその後の病変と本件ルンバールとの間に因果関係を肯定するのが相当である。 原判決の挙示する証人I、同Jの各証言鑑定人G、同K、同H及び同Jの各鑑定結果もこれを仔細に検討すると、右結論の妨げとなるものではない。 五したがつて、原判示の理由のみで本件発作とその後の病変が本件ルンバールに困るものとは断定し難いとして、上告人の本件請求を棄却すべきものとした原判決は、因果関係に関する法則の解釈適用を誤り、経験則違背、理由不備の違法をおかしたものというべく、その違法は結論に影響することが明らかであるから、論旨- 3 -はこの点で理由があり、原判決は、その余の上告理由についてふれるまでもなく破棄を免れない。そして、担当医師らの過失の有無等につきなお審理する必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官大塚喜一郎の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官大塚喜一郎の補足意見は、次のとおりである。 多数意見は「原判決の挙示する証人I、同Jの各証言、鑑定人G、同K、同H及び同Jの各鑑定結果もこれを仔細に検討すると、いずれも右結論の妨げとなるものではない。」としているが、この点に関する検討結果を要約すると、次のとおりである。 (1) 鑑定人Gの鑑定書によれば、本件発作の原因として脳出血が一番考えられるとし、その根拠として、発症が突然のけいれんを伴う意識混濁で始り、後に失語症、右半身不全麻痺等をきたした臨床症状によるとし、むしろ 鑑定人Gの鑑定書によれば、本件発作の原因として脳出血が一番考えられるとし、その根拠として、発症が突然のけいれんを伴う意識混濁で始り、後に失語症、右半身不全麻痺等をきたした臨床症状によるとし、むしろ、本件発作及びその後の病変と脳出血との因果関係を肯定している。 (2) 鑑定人Kの鑑定書によれば、本件発作は、広義の化膿性髄膜炎の再燃によるとも考えることができるとしながらも、他方で、「脳出血によるとの考え方も、本患児は病初より皮下出血が見られ、出血性傾向があつたと思われること、発作が突然おこつたものであること等からも、一応その可能性は考えられる。」とし、ついで、現在の後遺症につき、「広義の化膿性髄膜炎によるものと考えうるし又脳出血の後遺症とも考えられる。若し脳出血があつたとすればそれは感染症の経過中に多くみられる脳白質全般の小出血、小血栓等に基づくものであろう」とし、「本件の場合、この出血性脳症そのものとも考えられるし、又経過中に紫斑の認められた所から出血性素因があつたと思われるから丁度ルムバールを行つた時、これによつて出血性傾向を増す何らかの要因が加わつたかも知れない。」とし、結論的には想- 4 -定しうる原因のいずれであるかを断定していないが、少なくとも本件発作と脳出血との因果関係の可能性を肯定している。 (3) 鑑定人Hの鑑定書によれば、甲第三号証(上告人の脳波記録)につき、「これらの脳波所見は脳機能不全と、左側前頭及び側頭を中心とする何らかの病変を想定せしめるものである。即ち鑑定対象である脳波所見によれば、病巣部乃至は異常部位は、脳実質の左部にあると判断される。」としながらも、「これらの事項を参考にして脳波所見を改めて解読すると臨床症状である右片麻痺と局在性痙れんをうらづけるものは上記の左側の限局性棘波であり、また第一回の脳波記 の左部にあると判断される。」としながらも、「これらの事項を参考にして脳波所見を改めて解読すると臨床症状である右片麻痺と局在性痙れんをうらづけるものは上記の左側の限局性棘波であり、また第一回の脳波記録前に髄膜炎の経過をもつていると考えられるので、二回目以降の脳波所見は、髄膜炎後遺症による脳波像と考えられる。尚この脳波所見からは、合併症として脳出血の有無は判断出来ない。」とし、脳波研究専門家である同鑑定人は、脳波所見の限界として、病巣部ないしは異常部位が脳実質の左部にあることのみでは疾患の原因が何であるかを診断することは、特殊の場合を除いて困難であり、さらに、被検者の臨床像やレントゲン所見、脊髄液所見等の他の臨床検査所見を参考にして総合的に考察しなければならないとしている。したがつて、前記の「合併症として脳出血の有無は判断出来ない。」という所見は、右の総合的考察を必要とする結論を導き出すための思考過程の所見であつて、それ以上の意味をもつものではない。 (4) 右H鑑定書の結論に照らして、臨床医師の所見を検討すると、証人Eの第一審における第二回証言によれば、錐体外路症状、知能障害、性格障害など広範囲の後遺症が残つたから、単に脳実質左側部の脳出血とは考えられなくなり、化膿性髄膜炎の後遺症と考えるようになつたとし、また、証人Lの証言によれば、脳波所見により全誘導的棘波の場合、症状が脳全体に広がり、後遺症も全般的なものとなるので、これは髄膜脳炎とみられるし、脳出血の場合は限局的異常波であるとし、鑑定人Jの鑑定書第四項にも同旨の記述がある。しかしながら、右各証拠は、多数- 5 -意見四説示の乙第一号証(E医師執筆のカルテ)、甲第一、第二号証の各一、二(F医師作成の病歴概要を記載した書翰)、原審証人Eの第二回証言、鑑定人G、同Hの各所見と対比する 各証拠は、多数- 5 -意見四説示の乙第一号証(E医師執筆のカルテ)、甲第一、第二号証の各一、二(F医師作成の病歴概要を記載した書翰)、原審証人Eの第二回証言、鑑定人G、同Hの各所見と対比すると、本件発作とその後の病変の原因が脳出血であることを否定する資料とすることはできない。 (5) 鑑定人Jの鑑定書によれば、本件発作の原因として、脳炎を伴う化膿性脳膜炎の再燃に基づくものと理解するのが可能性の高い判断と思われるとしており、同人の証言によると、右鑑定は甲第三号証の脳波所見に有力な根拠を求めていることが窺われる。しかし、同人は脳波の専門家ではないから、同鑑定書中の脳波所見よりは専門家であるH鑑定書の前記所見を信用すべきである。 (6) 証人Iは、小児の脳波を取扱う医師であるが、脳波記録のみからけいれんの原因を判断することは、非常に困難であると述べながらも、甲第三号証の所見については、癲癇性けいれんであり、化膿性髄膜炎の後遺症であると述べているが、右証言は十分な根拠を示していないから説得力に乏しく、措信し難い。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官大塚喜一郎裁判官岡原昌男裁判官吉田豊裁判官小川信雄は退官につき署名押印することができない。 裁判長裁判官大塚喜一郎- 6 -

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