平成16(わ)1121 麻薬及び向精神薬取締法違反(変更後の訴因 麻薬及び向精神薬取締法違反,関税法違反),覚せい剤取締法違反

裁判年月日・裁判所
平成18年5月15日 神戸地方裁判所
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判決文本文7,565 文字)

主文 被告人を懲役5年及び罰金200万円に処する。 未決勾留日数中430日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は第1(平成16年10月27日付け起訴状記載の公訴事実関係)A会B組若頭であるが,B組組長であるC及びA会D組組員であるEらと共謀の上,営利の目的で,みだりに,F国から本邦にジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を輸入しようと企て,ポリ袋在中のジアセチルモルヒネ等以外の麻薬であるN・α-ジメチル-3・4-(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA)塩酸塩を含有する錠剤6万255錠等(約1万3449.81グラム。平成16年領2288符号1-1,同号2-1,同号3-1,同号4-1,同号5-1及び同号6-1はその鑑定残量。)を,木製机の天板内に隠匿し,平成16年6月5日ころ,F国G港において,情を知らない港湾職員をして,H国籍船舶I号内に上記木製机を積載させ,同月28日午後3時ころ,神戸市J区K町La丁目b番所在のM港Nコンテナ第c岸壁に係留した同船から,情を知らない港湾職員をして,上記木製机を取り降ろさせ,もって,ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬をみだりに本邦に輸入するとともに,引き続き,輸入禁制品である上記ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を上記木製机に隠匿したまま本邦に引き取ろうとしたが,同年7月16日,J区K町Od所在の神戸税関P所改品場において,同出張所職員にこれを発見されたため,その目的を遂げなかった第2(平成16年8月20日付け起訴状記載の公訴事実関係)法定の除外事由 年7月16日,J区K町Od所在の神戸税関P所改品場において,同出張所職員にこれを発見されたため,その目的を遂げなかった第2(平成16年8月20日付け起訴状記載の公訴事実関係)法定の除外事由がないのに,平成16年7月26日ころ,熊本県内及びその周辺地域において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤を使用したものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,判示第1の犯行(以下単に「本件」という。)について,被告人は判示MDMA(以下「本件MDMA」という。)の輸入に関与したことがなく無罪であると主張するところ,被告人も,捜査段階から一貫して同旨の弁解をしている。しかしながら,共犯者E及び同Q並びにRの前掲各供述その他の関係各証拠によれば,判示事実を優に認定することができる。以下,その理由を補足説明する。 2 関係各証拠によれば,本件MDMAの輸入については,以下の前提的な事実を認めることができる。 (1) Eは,平成16年4月初めころ(以下の日付けは,すべて平成16年。),イスラエル人であるSから,外国から送付されるMDMAの10パーセントを報酬とするという条件で,その受取場所及び受取人(以下では,両者をまとめて「送付先」ということがある。)を確保するよう依頼され,これを引き受けたが,自分1人の力では送付先を確保することができなかった。 (2) そこで,Eは,4月7日ころ,前記A会の定例会で顔を合わせた際,Cに対し,外国から送付される2万錠のMDMAの送付先を外国人が探していると述べた上,Sから報酬としてもらうことになっているMDMAの80パーセントをCの報酬とするという条件で,その送付先を確保するよう依頼したとこ ら送付される2万錠のMDMAの送付先を外国人が探していると述べた上,Sから報酬としてもらうことになっているMDMAの80パーセントをCの報酬とするという条件で,その送付先を確保するよう依頼したところ,Cは,これを承諾した上,かねて自己との間で大麻の取引があったRが居住する熊本市内所在のTe号室(以下「R方」という。)を受取場所にすることとし,「荷物を送らせるから,ちょっと住所を教えてくれ。」と言ってRからその住所を聞き出した上,これをEに伝えた。 (3) Eは,上記住所をSに伝えたほか,4月中旬ころには,同人から1か月程度で荷物が到着すると聞いたことから,その旨をCに伝えたが,5月中旬までに荷物が届かなかったため,それに対する謝罪として,Sから預かったMDMA200錠をCに渡した。他方,本件MDMAは,前記のとおり,6月5日ころ,F国G港において,判示木製机(以下「本件机」という。)内に隠匿され ,判示船舶に積載されて発送された。 (4) Eは,6月中旬ころ,熊本市内のダイニングバーUにおいて,本件MDMAの輸入に関して話し合うためCと会った際,Cから,Sが荷物を持ち逃げしないよう保証を付けることや報酬の増額及びその前渡しを求められたが,直ちにこの要求に応じず,Eの方でSに掛け合うことになった。 (5) Eは,7月2日,Sから荷物が届いた旨の連絡を受けたことから,Cらに荷物がもうすぐ到着する旨を伝えるなどした。 (6) 本件机は,6月28日,M港Nコンテナ第c岸壁に陸揚げされたが,7月16日,神戸税関による通関検査の結果,その中に本件MDMAが隠匿されているのが発見され,いわゆるクリーン・コントロールド・デリバリーが実施された結果,同月21日,R方において本件机を受け取った受取人役の男(Sが手配したV)がその直後に現行犯逮捕 Aが隠匿されているのが発見され,いわゆるクリーン・コントロールド・デリバリーが実施された結果,同月21日,R方において本件机を受け取った受取人役の男(Sが手配したV)がその直後に現行犯逮捕された。そのため,SやEらは上記Vと連絡を取ることができなくなり,本件MDMAの行方を把握することができなくなった。 3 以上の前提的な事実に加え,被告人の本件への関与を推認し得る事情として,以下の各事実を認めることができる。 (1) 被告人は,A会W組の組員であったが,同組若頭であったCが自らB組を興した際,同人と行動を共にして同組若頭に就任したものであり,同人が大麻等を密売するのを手伝うこともあって,本件犯行当時,極めて頻繁に同人と電話で連絡を取り合っていた。 (2) 被告人は,上記2(4)のUにおけるCとEとの会合にも,A会X組の若頭やEの友人であるQと共に同席していた。 (3) 被告人は,6月20日ころ,交際相手方に出入りすることが多く不在がちになっていたRに対し,電話で「お前,最近家帰ってないやろ。帰らんと荷物受け取れんだろう。帰っとけよ。」などと言って,R方に戻るよう指示した。 なお,被告人は,当公判廷において,上記のような発言をしたこと自体は認めるものの,それはパチスロ器具の受領に関する発言である上,発言をした時期も3月ころであったと弁解している。しかしながら,6月20日ころに上記のような内容の電話を受けたとするR供述は,当日の自己の行動に基づいて供述したものであって,相応の根拠を有していると評価できること,当時の通話記録等も参照しながら記憶を喚起した上,パチスロ器具の受領に関するやり取りと上記の電話でのやり取りとを峻別しながら供述したものであるから,記憶に混乱があるとも考え難いこと,さらに,反対尋問においても何ら動揺が見られな ら記憶を喚起した上,パチスロ器具の受領に関するやり取りと上記の電話でのやり取りとを峻別しながら供述したものであるから,記憶に混乱があるとも考え難いこと,さらに,反対尋問においても何ら動揺が見られないこと等に照らし,その信用性は十分高いと評価できる。これに反する被告人の公判供述は,捜査段階においてはそのような供述をしていなかったことをも併せ考慮すると,到底信用できない。 (4) さらに,被告人は,7月2日,R方の電気が止められていたことから,Rに対し電気代を支払うよう指示したが,電気料金の振込書の期限が過ぎているため,振込書を用いて支払うことができないと聞くや,同月3日,Rから現ページ(1)金を受け取った上,自ら九州電力の営業所に赴いて電気代を支払った。 (5) 他方,Rは,前記Vの現行犯逮捕の翌日である7月22日,R方の鍵がなくなっているため室内に入れない旨を被告人に連絡したところ,Y連合Z一家の若頭が合鍵の作成費用を工面してくれることになったほか,同月25日ころには,被告人から電話で「早く鍵を開けろ。」などと指示されたため,業者に依頼して,R方のドアの解錠作業をさせた。 4 検討(1) 以上の事実関係を前提にして,本件における被告人の関与の有無程度を検討するに,まず,6月20日のRへの電話の内容,R方の電気が止められていることに気付いた後の被告人の行動,更には,7月21日以降のR方の開錠をめぐる被告人の行動に照らすと,被告人は,R方に送付される荷物が無事に受け取られることに強い関心を有していたと認められる。また,当時R方に送付されることが予想される荷物で,R以外の者が関心を抱くようなものとして,本件MDMA以外のものがあったとは,証拠上うかがわれない。さらに,被告人のRに対する一連の指示と本件MDMAの受け取りに向けたCやEらの会合や される荷物で,R以外の者が関心を抱くようなものとして,本件MDMA以外のものがあったとは,証拠上うかがわれない。さらに,被告人のRに対する一連の指示と本件MDMAの受け取りに向けたCやEらの会合や連絡等の動き(上記2(2)ないし(5))とが時期的によく符合していることをも考え合わせると,被告人のRに対する指示などは,R方で本件MDMAが確実に受け取られ得る状況を確保しようとしたものといえるのであって,これによれば,被告人が,Cらとの間で,本件MDMAの受取場所がR方であり同人が受取人役をも果たすべきことについて意思を相通じていたのみならず,同所を管理支配することを通じて本件MDMAの送付・受領を安全なものとするという役割を有していたことが十分に推認できる。 なお,被告人がR方の開錠作業をRに指示したのは,受取人役の前記Vが現行犯逮捕された後のことであるが,その当時,SやEらは上記Vと連絡が取れなくなっており,本件MDMAの行方を早急に把握する必要があったのであるから,上記推認は何ら動揺するものではなく,かえって補強される関係にあるといえる。 (2) さらに,被告人は,UにおけるEとCとの会合に同席していたところ,E及びCは,被告人その他の同席者に聞こえないように配慮して,殊更内密に本件MDMAの輸入について話し合っていたわけではない上,Cが本件MDMAの輸入について他組織の組員であるEと話し合っているというのに,B組若頭の地位にあり,Cによる大麻の密売を手伝うなどしていた被告人が,これに何の関心も寄せなかったとはにわかに考え難い。加えて,その場に複数の暴力団組織の関係者が出席していたことをも併せ考慮すると,被告人としては,C及びEらが実行しようとしている薬物の送付及び受領が複数の暴力団組織の構成員の組織的関与に に考え難い。加えて,その場に複数の暴力団組織の関係者が出席していたことをも併せ考慮すると,被告人としては,C及びEらが実行しようとしている薬物の送付及び受領が複数の暴力団組織の構成員の組織的関与に係るものであること,また,その安全な受取場所の確保は,それ自体に多額の報酬が支払われるような性質を有する重要な行為であること,さらに,ひいては通関当局等の検査により露見する危険性もあるような相当多量の薬物が密輸入されようとしていることを認識する機会が十分にあったと認められる。加えて,被告人とCとの関係やCの本件への取組みが相当積極的なものであったことなどの諸事情に照らすと,Cが本件を被告人に殊更秘匿するような理由があったなどとも考え難いところである。 これに対し,被告人は,当公判廷において,UにCらと行ったことはあるが,同所ではもっぱら同席者とパチスロの話をしており,CやEが本件MDMAの輸入に関する話をしていたとは知らなかったなどと供述している。しかしながら,捜査段階では,Uに行ったことはないなどと供述していたのに,その後供述を変遷させた理由について合理的な説明がないこと,既に指摘したように,CとEとの会話の内容に無関心であったというのは相当不自然であること等に照らすと,被告人の上記供述は到底信用できない。 (3) 以上の諸事情を総合考慮すれば,被告人が,4月上旬から6月20日ころまでの間に,本件の実行犯と極めて近い関係にあるS,E及びCらとの間で,本件MDMAの密輸入について順次意思を相通じていたものと優に認めることができる。また,本件は,Sを始めとするイスラエル人グループがMDMAの入手及びその積載を担当し,C及びEを中心とする日本人グループが本件MDMAの安全な送付先の確保を担当したものであるところ,R方を管理支配するとい 件は,Sを始めとするイスラエル人グループがMDMAの入手及びその積載を担当し,C及びEを中心とする日本人グループが本件MDMAの安全な送付先の確保を担当したものであるところ,R方を管理支配するという被告人の役割は本件の不可欠かつ重要な部分を構成していたといえる上,B組の若頭の地位にあって,Rに指示できる立場にもあったのであるから,被告人に本件の共同正犯が成立するのは明らかである。 なお,現実に本件MDMAを受け取ったのはSが手配した前記Vであるが,上記2(1)(2)で見たように,Eらが受取場所としてTを確保することにより,Sらによる本件MDMAの発送が初めて可能になったと認められる上,現実の受取人役については,本件MDMAが陸揚げされた後,報酬を巡る折衝を経て,SとCらとの間の合意で変更されていることにかんがみると,本件MDMAの輸入においては,安全な送付先の確保が何よりも重要であったといえるから,最終的な受取人の決定に被告人が関与していなかったとしても,上記の判断は何ら左右されないというべきである。 したがって,弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用)被告人の判示第1の行為のうち,営利の目的で麻薬を輸入した点は刑法60条,麻薬及び向精神薬取締法65条2項,1項1号に(有期懲役刑の長期は,行為時においては,平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。),輸入禁制品である麻薬を輸入しようとして遂げなかった点は刑法60条,関税法109条3項,1項(関税定率法21条1項1号)に,判示第2の行為は,覚せい剤取締法41条の3第1項1号,1 法の刑による。),輸入禁制品である麻薬を輸入しようとして遂げなかった点は刑法60条,関税法109条3項,1項(関税定率法21条1項1号)に,判示第2の行為は,覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条にそれぞれ該当するところ,判示第1は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い麻薬及び向精神薬取締法違反の罪の刑で処断し,判示第1の罪について情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,以上は,刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をし(加重の上限は,行為時においては上記改正前の刑法14条に,裁判時においてはその改正後の刑法14条2項によることになるが,上記同様に,刑法6条,10条により軽い行為時法のそれによる。),その加重をした刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役5年及び罰金200万円に処することとし,同法21条を適用して未決勾留日数中430日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,その所属する暴力団組長らと共謀の上,営利の目的でMDMAを我が国に密輸入したという麻薬及び向精神薬取締法違反,関税法違反(判示第1。ただし,後者は未遂にとどまる。)及び覚せい剤の自己使用(判示第2)からなる事案である。 まず,量刑の中心となる判示第1の犯行から見ると,その動機,経緯に酌量の余地はない。また,本件は大規模かつ国際的な犯行であって,計画性や組織性が極めて高い上,本件輸入に係るMDMAの量も合計6万錠余りと過去に類を見ないほど大 第1の犯行から見ると,その動機,経緯に酌量の余地はない。また,本件は大規模かつ国際的な犯行であって,計画性や組織性が極めて高い上,本件輸入に係るMDMAの量も合計6万錠余りと過去に類を見ないほど大量であり,これらが本邦内に流出すれば極めて大きな社会的害悪を及ぼしたであろうことが明白である。 誠に悪質な犯行といわざるを得ない。そして,我が国におけるMDMAの送付先を確保維持した被告人の役割にも小さからぬものがあったといえる。 次に,判示第2の犯行について見ても,動機,経緯に酌むべきもののない常習的な犯行であって,犯情は芳しくない。 加えて,上記のように,判示第1の犯行について,被告人が不自然,不合理な弁解をしており,反省の情が見られないことをも併せ考慮すると,その刑責は相当重いといわざるを得ない。 しかしながら,本件MDMAはすべて押収されており,本邦内にその害悪が拡散することはなかったこと,本件の首ページ(2)謀者はCらであり,被告人の役割は従属的なものであったこと,判示第2の犯行については事実を認めていること,10年以上前の罰金前科以外に前科がないこと,扶養が必要な妻子がいることなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,以上の諸事情を総合考慮の上,刑を量定した。 よって,主文のとおり判決する。 平成18年5月15日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官的場純男 裁判官西野吾一 裁判官三重野真人ページ(3) 裁判官 三重野真人

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