平成14(わ)1518 覚せい剤取締法違反,道路交通法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年9月5日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-6935.txt

判決文本文7,906 文字)

主文 被告人を懲役3年4か月に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 押収してあるチャック付きポリ袋入り覚せい剤1袋(平成15年押第25号の1)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成14年3月19日午後11時35分ころ,神戸市a区b通c丁目阪神高速d付近道路において,普通乗用自動車を運転した第2 前記日時ころ,前記場所付近道路において,前記車両を運転中,自車前部を進路方向に停止していたA運転の普通乗用自動車後部に衝突させて,同車後部のバンパー等を損壊(損害額合計約3万7590円相当)する交通事故を起こしたのに,直ちに車両を停止して,道路における危険を防止するなど必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった第3 法定の除外事由がないのに,同年11月2日ころから同月10日までの間,兵庫県内またはその周辺において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤を使用した第4 みだりに,同月10日午後1時15分ころ,同県e郡f町gh番地i所在のB株式会社敷地内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の結晶粉末約0.352グラム(平成15年押第25号の1はその鑑定残量)を所持したものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙で始まる数字は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号―省略(判示第3,第4の事実についての補足説明)弁護人及び被告人は,判示第3の事実について,被告人の尿から覚せい剤成分が検出された事実は争わないが 証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号―省略(判示第3,第4の事実についての補足説明)弁護人及び被告人は,判示第3の事実について,被告人の尿から覚せい剤成分が検出された事実は争わないが被告人には覚せい剤使用の事実はないとし,また,判示第4の事実について,被告人が同判示の日時場所で所持していたポーチ(甲第6号証に「黄色ポーチ」等とあるもの,以下「本件ポーチ」という。)の中に判示覚せい剤(以下「本件覚せい剤」という。)が入っていたことは事実であるが,本件ポーチは他人の物で,被告人はその当時たまたま本件ポーチを持っていただけでその中に本件覚せい剤が入っていることを知らなかった(弁護人は被告人は覚せい剤所持の認識を欠くとする。)として,それぞれ無罪である旨主張するところ,当裁判所は,前掲各関係証拠によれば,判示第3及び同第4の事実が優に認められると判断したので,その理由につき若干補足する(なお,以下,括弧内の甲,乙で始まる数字は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号である。)。 第1 判示第3(覚せい剤自己使用)の事実について同事実については,いわゆる最終使用を起訴したものとして訴因の特定には弁護人主張のごとき問題はないと解される。そして,①被告人が平成14年11月10日に別件で逮捕された後同月11日に提出した被告人の尿から覚せい剤が検出されている(検甲1ないし4)ところ,②覚せい剤の尿中への排泄限度(体内残留期間)が一般に1週間ないし10日程度であること,③被告人が平成14年11月2日ころから同月10日までの間兵庫県内またはその周辺にいたと認められること(なお,もちろん,被告人が前記逮捕から尿を提出するまでに覚せい剤を使用したことを窺わせる証拠もない。)に加え,④覚せい剤がたいへん厳格に規制されている薬物であり,日常 の周辺にいたと認められること(なお,もちろん,被告人が前記逮捕から尿を提出するまでに覚せい剤を使用したことを窺わせる証拠もない。)に加え,④覚せい剤がたいへん厳格に規制されている薬物であり,日常生活の中で知らない間に体内に吸収されることが通常あり得ないことに照らせば,本件では,特別な事情が窺えない限り,判示第3の事実が合理的な疑いをこえて認められることとなるが,本件ではこの特別な事情を窺わせる証拠は全くない(なお,被告人の内妻であるCは被告人が覚せい剤を使用したと疑うべき状況を見たことがないと供述するものの,これが前記特別な事情を窺わせる証拠となりえないのは,Cが被告人が一週間に三,四回しか自宅に帰っていなかったと供述していることをまつまでもなく明らかである。)。 そうすると,判示第3の事実は優に認められる。 第2 判示第4(覚せい剤所持)の事実について 1 前提事実まず,関係証拠によれば,被告人が,判示第4の平成14年11月10日(以下「本件当日」という。),Cやその父(以下「義父」という。)とともに被告人運転の自動車(以下「本件自動車」という,)で墓参りをし,その後義父が本件自動車を運転中,警察官に本件自動車の停止を求められたこと,その後被告人が同判示の場所で警察官と揉み合いになり,その際被告人が本件ポーチをCに手渡し,その後同所付近で被告人が公務執行妨害罪の現行犯人として逮捕されて警察署に連行され,Cは本件ポーチを自分の着衣ポケットに入れてこれに同行した事実が認められ,この点は被告人,弁護人も争わない。 2 ところで,本件ポーチ内には,ビニール袋入りの本件覚せい剤のほか,液体入り注射器1本(この液体を乾固した粉末に覚せい剤成分が含有されていた。),使用済みの注射器7本(内6本にも覚せい剤成分が付着し ところで,本件ポーチ内には,ビニール袋入りの本件覚せい剤のほか,液体入り注射器1本(この液体を乾固した粉末に覚せい剤成分が含有されていた。),使用済みの注射器7本(内6本にも覚せい剤成分が付着していた。),これら注射器と同種で未使用の袋入り注射器3本及びこれら注射器同様覚せい剤使用のため通常用いられると認められる耳かき1本が入っており,他の物は入っていなかった(甲6ないし8,17)。 このような本件ポーチを,第1でみたごとく当時覚せい剤を使用していた被告人が所持していた以上,被告人が本件ポーチ内の本件覚せい剤を自己使用目的で所持していたことが推認される。 3(1) 次に,Cは,捜査段階において,①前述のように被告人と警察官とが揉み合いになった際にCが被告人らに近づいた際,被告人が,近づいてきたCに対し,右手で着衣のポケットから本件ポーチを取り出し,警察官に見えないよう,当時妊娠中のCの左下腹部をつつくようにして,無言でこれをCに渡してきた旨,②Cは,その状況から,本件ポーチは警察官に見つかっては困るものだと察したため,これを自分の着衣のポケットに入れたが,その後ポケットの中で本件ポーチをさわってみたところその中に注射器が入っていることが分かった旨,それぞれ供述している。 (2) このCの捜査段階での供述は,具体的かつ迫真的であり,後述の,本件ポーチ内に注射器が入っていることをCが認識した時点以外の点では公判を通して一貫し,C自身の立ち会いによる再現見分の内容(甲14)ともよく一致している。 そして,Cは,戸籍上離婚しているものの被告人と事実上の夫婦関係を継続している者で,証言時の約2か月前には被告人の長男を出産したばかりであり,今後も被告人の帰りを待つと述べるなど,被告人ときわめて密接な人的関係を有していたのであ ものの被告人と事実上の夫婦関係を継続している者で,証言時の約2か月前には被告人の長男を出産したばかりであり,今後も被告人の帰りを待つと述べるなど,被告人ときわめて密接な人的関係を有していたのであるから,Cが被告人に不利な供述をして被告人を罪に陥れることは考えがたいことなどの状況を考えれば,Cの前記供述は全体として高い信用性が認められる。 もっとも,Cは,公判廷においては,本件ポーチを自分の着衣のポケットに入れてからポケットの中で本件ポーチをさわったことはないとし(第3回公判調書と一体となる証人Cの尋問調書18ないし20ページ),本件ポーチ内に注射器が入っていることは警察署について中身を確認した時にはじめて分かったようにも供述している(同37ページ)が,前述の捜査段階での供述が,本件ポーチの外から触れた際の内容物の形状の感触からこれが注射器と分かった等という具体的なものであること(甲12。15ページ)に加え,供述が変遷したことにつきCが述べる理由に合理性がなく,公判廷で説明に窮する場面まであったこと等に照らすと,この点に関するCの公判供述には信用性がない。 (3) なお,Cの本件当日の着衣ポケットからは前記注射器の袋と同様の空袋の一部が発見され,同人の鞄からその残部が発見されている(第3回公判調書と一体となる証人Cの尋問調書15ないし18ページ,甲18ないし20)が,Cの供述内容に照らすと,Cの鞄の中にあった前記空袋の残部は,(1)でみた,被告人がCに本件ポーチを手渡した際これに付着していたものが,本件ポーチと一緒に前記ポケットに入っていた携帯電話に付着し,Cがこれを前記鞄に移した際にこれとともに鞄に入ったと推認されるから,前記空袋の残部がCの鞄から発見されたことも,被告人が本件ポーチとともにこの空袋をCに渡したこと,したがって いた携帯電話に付着し,Cがこれを前記鞄に移した際にこれとともに鞄に入ったと推認されるから,前記空袋の残部がCの鞄から発見されたことも,被告人が本件ポーチとともにこの空袋をCに渡したこと,したがってまた,被告人が本件ポーチを開けたことを推認するものとはいえても,Cの(1)の供述の信用性を減殺しない。 (4) そうすると,被告人が本件ポーチをCに手渡した状況は(1)でみたCの捜査段階での供述どおりであると認められ,これによれば,被告人が,その当時本件ポーチの中身を警察官に見られては困るという心境にあったこと,すなわち被告人の覚せい剤所持の認識を強く推認させるものである。 4 一方,被告人は,前記2,3の点につき,本件ポーチは,本件当日友人から預かった本件自動車内にあったものを墓参りの途中に同自動車の掃除をした際発見し,かわいいからもらおうと思い中身を見ないまま着衣のポケットに入れていたものであり,前述の警察官との揉み合いの際,動くのに邪魔なのでCに持っていてもらおうと考え,同人に『ポケット入っているの邪魔やから出してくれ。』等といい,Cがこれに応じて被告人のポケットから本件ポーチを取り出したと弁解する。 被告人が本件自動車を本件当日知人から預かったという点についてはCの捜査段階での供述とも一応合致する。 しかしながら,本件ポーチの中身を確認しないでこれをポケットに入れたという点がまず不自然であり,本件ポーチの大きさや,被告人が自らポケットにこれを入れたこと等に照らすと,警察官と揉み合っているような事態で本件ポーチが気になったとしている点も不合理である。また,被告人やCの供述によれば,被告人が警察官と揉み合いはじめてからCが被告人に近づくまでには一定の時間があったと認められるところ,本件ポーチが動く際の邪魔になったのであれ ている点も不合理である。また,被告人やCの供述によれば,被告人が警察官と揉み合いはじめてからCが被告人に近づくまでには一定の時間があったと認められるところ,本件ポーチが動く際の邪魔になったのであればすぐに付近に捨てればよいはずであり,Cが近づくのをまってこれを手渡すという行動もまた不自然,不合理である。さらに,Cの供述(甲12。9ページ。なお甲17)や被告人の供述調書(乙2。5ページ)によれば,被告人は,前記墓参りの後,いったん本件自動車を運転し始めたものの眠たくなり,義父に運転を交替してもらったところ,その際,Cに,腕時計を預けているというのであるが,その際にも本件ポーチを預けなかったのであって,邪魔だから預けたという被告人の弁解にはこの点でも疑問がある。 そして,被告人の供述内容は,前記のように信用性の高いCの供述内容とも食い違っている。先に述べたほかにも,例えば,被告人は,前記墓参りの際自分自身は墓前には行っておらず,Cらの墓参中本件自動車を掃除していて本件ポーチを発見したというのであるが,Cは,被告人だけ墓参りをしていなかったということはなかったと明言しており(甲12,8ページ),このような点につきCが虚偽を述べる理由はさらにない。したがって,被告人の前記弁解は,これら食い違いの点からも信用できない。 5 したがって,1,2の事実に加え,3でみたところに照らすと,判示第4の事実も優に認められる。これに反する被告人の弁解は4で述べたとおり採用できない。 (累犯前科)被告人は,(1)①平成8年6月27日神戸地方裁判所で詐欺,詐欺未遂罪により懲役1年6月(3年間保護観察付執行猶予,平成9年1月27日その執行猶予取消し)に処せられ,②その執行猶予期間中に犯した覚せい剤取締法違反罪により平成8年12月26日同裁判所で懲 ,詐欺未遂罪により懲役1年6月(3年間保護観察付執行猶予,平成9年1月27日その執行猶予取消し)に処せられ,②その執行猶予期間中に犯した覚せい剤取締法違反罪により平成8年12月26日同裁判所で懲役1年2月に処せられ,平成10年2月2日②の刑の執行を,平成11年8月2日①の刑の執行をそれぞれ受け終わり,(2)その後犯した覚せい剤取締法違反罪により平成12年6月27日同裁判所で懲役1年8月に処せられ,平成14年3月7日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書及び(1)②,(2)の各前科に係る判決書謄本によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は平成13年法律第51号による改正前の道路交通法118条1項1号,64条に,判示第2の所為のうち,措置義務違反の点は同法117条の3第1号,72条1項前段に,報告義務違反の点は同法119条1項10号,72条1項後段に,判示第3の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に,判示第4の所為は同法41条の2第1項にそれぞれ該当するが,判示第2は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条前段,10条により1罪として重い措置義務違反罪の刑で処断することとし,判示第1及び第2の各罪について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,前記の各前科があるので同法59条,56条1項,57条により判示各罪の刑についてそれぞれ3犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年4か月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入し,押収してあるチャック付きポリ袋入り覚せい剤1袋(平成15年押第25号の で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年4か月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入し,押収してあるチャック付きポリ袋入り覚せい剤1袋(平成15年押第25号の1)は判示第4の罪に係る覚せい剤で犯人が所持するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれを没収することとする。 (量刑の理由)本件は,自動車の無免許運転(第1),交通事故の際の措置義務違反及び報告義務違反(第2)の各道路交通法違反の事案と,覚せい剤の自己使用(第3)及び所持(第4)という各覚せい剤取締法違反の事案である。まず,道路交通法違反の点についてみると,被告人は,2度も無免許運転で罰金刑を受けているにもかかわらず,常習的に無免許運転を繰り返した末ためらいなく本件無免許運転に及んだ末判示第2の交通事故を起こし,その後も運転を停止するどころか,高速道路の料金所付近という自動車が密集している場所において,自車を急後進させるなどして多数の自動車に衝突させ,自車を大破させた挙げ句これを乗り捨て,同行していた内妻の注意にもかかわらず逃走したもので,犯行動機,態様,犯行後の状況のいずれにも全くしん酌できる点のない悪質な犯行というほかなく,また,被告人には交通法規遵守の態度がなかったことも明らかである。次に,覚せい剤取締法違反の点についても,被告人は,前記累犯前科にあるとおり同種前科2犯を有して服役していながら,前刑執行終了後1年も経ずして本件各犯行に及んだものであり,被告人の覚せい剤に対する親和性,依存性には軽視しがたいものがあるといわざるを得ず,また,被告人は,この点,捜査,公判を通じて明らかに不可解な弁解に終始し,後述のとおり公判の終盤に一般的な反省の態度を示すようにはなったものの,なお基本的主張を維持するにとどまった。そし るを得ず,また,被告人は,この点,捜査,公判を通じて明らかに不可解な弁解に終始し,後述のとおり公判の終盤に一般的な反省の態度を示すようにはなったものの,なお基本的主張を維持するにとどまった。そして,これら各犯行や,被告人が,法廷において,接見が禁止されて子供に会えないから傍聴席の子供に触れたいというような身勝手な動機で傍聴席との間の柵を跳び越えるという法秩序を無視し法廷を侮辱するような行為に及んでいることからすれば,被告人には自己の欲求を我慢する意志が著しく不足していたと言わざるを得ず,生活状況が不安定であることや各犯行当時使用していた自動車の出所からして交友関係にも問題があると認められることにも照らすと,このままでは再犯のおそれも高く,その刑事責任は重いといわなければならず,弁護人が指摘する本件各覚せい剤事犯発覚の経緯が本件とは別論であって量刑上考慮できないと解されることを考慮すると,本件では求刑を下回る刑をもって臨むことが適当でないとすらいえる。 しかし,被告人は,道路交通法違反の点については事件自身については当初からこれを認め,また最終陳述では自己の行為を反省する素直な陳述をするに至っており,被告人の公判供述をみても,前述の柵を跳び越える行動を取った後ころから,逆に,自己の勝手な行動が妻子を初めとする周囲にかえって迷惑ばかりかけることを自覚し始めていることを窺わせる様子を見せている。そして,被告人には,幼い子供をかかえた内妻がおり,同人は被告人の帰りを待つと述べているのであって,被告人がこのような内妻の態度を大切にし,真に家族のことを思い反省してこれまでの生活と決別する意志をもち,これを持続すれば,前述した生活状況や交友関係の不安を考慮してもなお内妻らの監督のもと更生を期待することもできる。そこで,このほか,被告人が交通 を思い反省してこれまでの生活と決別する意志をもち,これを持続すれば,前述した生活状況や交友関係の不安を考慮してもなお内妻らの監督のもと更生を期待することもできる。そこで,このほか,被告人が交通事故の被害者らに対して弁償の意思を有していること等,被告人のため酌むことができる事情のすべてを最大限考慮した上,主文のとおり量刑した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年9月5日神戸地方裁判所第11刑事係乙裁判官橋本一

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る