平成29年6月22日判決言渡し同日原本交付裁判所書記官平成28年(ワ)第6792号不当利得返還請求事件口頭弁論終結日平成29年6月9日判 決 原告 P1同訴訟代理人弁護士鶴田正信 被告栄光ホールディングス株式会社 同訴訟代理人弁護士松本晶行同桂 充弘同工藤展久同壇 俊光同今村昭悟同相川大輔同訴訟復代理人弁護士門林俊夫主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,4600万円及びこれに対する平成28年7月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,後記本件商標に係る商標権を有していた原告が,株式会社松栄(以下「松 栄」という。)が本件商標に同一又は類似の別紙継続使用標章目録記載の標章1ないし同3(以下「継続使用標章1」ないし「同3」といい,併せて「継続使用標章」という。)を使用することで利得を受け原告に損失が生じているとして,松栄を吸収合併した被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,使用料相当額の一部4600万円の返還及びこれに対する催告の日の翌日(訴状送達日の翌日)である平成28年7月23日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の各証拠及 の日の翌日(訴状送達日の翌日)である平成28年7月23日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和39年10月,大阪府門真市において「M時計店」という屋号で時計・宝飾品等の小売販売店を営み始め,その後経営を拡大し,昭和52年10月21日,事業を法人成りして時計・宝飾品等の小売販売を業とする株式会社Mを設立し,平成20年当時,株式会社Mの代表取締役を務めていた者である(甲40,証人P2)。 イ P2(以下「長男」という。)は,原告の長男であり,平成20年当時,昭和60年9月2日に設立された株式会社M枚方の代表取締役を務めていた者である。 ウ P3(以下「二男」という。)は,原告の二男であり,平成20年当時,平成8年4月1日に設立された株式会社M滋賀(以下,株式会社M及び株式会社M枚方と合わせて「M3社」という。)の代表取締役を務めていた者である。 エ M3社は,平成20年当時,株主の構成が別紙M3社株主構成一覧表記載のとおりの同族会社であり,経理処理は独立してされていたが,経理事務,小売販売以外の総務,納品事務等の商品管理業務は,原告が支配する「M本部」で統一的に取り扱われている関係にあった(甲40,乙4,乙6,乙8,証人P2)。 オ被告(旧商号・栄光時計株式会社)は,M3社と取引をしていた時計・宝飾品等の卸小売等を業とする会社である。 カ松栄は,平成20年9月24日,M3社の任意整理を進めるために被告が完全子会社として設立した時計・宝飾品等の小売等を業とする会社であり,平成28年3月1日,被告に吸収合併され消滅した(甲28)。 (2) 原 20年9月24日,M3社の任意整理を進めるために被告が完全子会社として設立した時計・宝飾品等の小売等を業とする会社であり,平成28年3月1日,被告に吸収合併され消滅した(甲28)。 (2) 原告による本件商標権の取得ア原告は,M時計店の屋号で営む個人事業において,昭和45年頃から,別紙商標目録記載2の商標(以下「本件商標2」という。)を使用するようになった(甲40,証人P2)。 イそして,同事業を法人成りして設立した株式会社Mにおいて,その設立時から,本件商標2を使用するとともに,平成元年頃からは,別紙商標目録記載1の商標(以下「本件商標1」といい,本件商標2と併せて「本件商標」という。)も使用するようになった(甲40,証人P2)。 ウ原告は,平成20年9月11日,本件商標について,指定商品を第14類(時計,貴金属,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品)として商標登録の出願をした。 エ平成21年5月22日,本件商標について,原告を商標権者とする商標登録がされた(以下,登録された商標に係る商標権を「本件商標権」,本件商標1に係る商標権を「本件商標権1」,本件商標2に係る商標権を「本件商標権2」という。)。 オ原告は,平成28年5月11日,本件商標権を長男に譲渡し,その旨の登録がされた(甲1,甲2)。 (3) M3社及び松栄による継続使用標章の使用ア M3社は,平成20年9月11日当時,各店舗において,本件商標に加え,継続使用標章1ないし同3を商標として使用していた。 イ松栄は,同年11月1日,M3社の店舗のうち別紙松栄店舗別売上額目録記載の20店舗の事業を事実上承継し,それ以降,同店舗において,M3社当時と同じ態様で営業し,M3社当時から使用されていた継続使用標章の使用を継続した。 ウ松栄とM3社は, 紙松栄店舗別売上額目録記載の20店舗の事業を事実上承継し,それ以降,同店舗において,M3社当時と同じ態様で営業し,M3社当時から使用されていた継続使用標章の使用を継続した。 ウ松栄とM3社は,平成21年3月13日,分割期日を同年5月1日としてM 3社の時計・宝飾品販売事業を分割して松栄に承継させる旨の契約(以下「本件会社分割契約」といい,この会社分割を「本件会社分割」という。)を締結し,同日の分割により,M3社の時計・宝飾品販売事業は松栄に承継された。なお,同年3月までに上記20店舗のうち6店舗は閉鎖されていた(甲25,甲40,乙1ないし乙3,乙10,証人P2,同P4)。 エ被告及び松栄の関係者(長男及び二男を除く。)は,平成24年1月頃まで,原告が本件商標について登録出願し,本件商標権を取得していることを知らないまま,継続使用標章の使用を継続していた(乙10,証人P4)。 オ松栄は,上記イ,ウの経緯で事業承継された別紙松栄店舗別売上額目録記載の20店舗につき,順次,店舗を閉鎖したり,店舗名を変更したりし,平成25年10月31日までには,継続使用標章の使用を止めた(甲42及び甲43の各1,2)。 (4) 本件商標と継続使用標章の同一性ないし類似性ア継続使用標章1は,本件商標1の左側に,「宝石,貴金属,アクセサリー」の3段重ねの文字部分を付加しただけの標章であるので,本件商標1に類似している。 イ継続使用標章2は,本件商標1を背景で明暗を反転し,色を変えただけの標章であるので,本件商標1に類似している。 ウ継続使用標章3は,本件商標2の「M」の文字部分を枠で囲んだだけの標章であるので,本件商標2に類似している。 エ継続使用標章は,いずれも別紙松栄店舗別売上額目録記載の20店舗において,本件商標権の指定商品 章3は,本件商標2の「M」の文字部分を枠で囲んだだけの標章であるので,本件商標2に類似している。 エ継続使用標章は,いずれも別紙松栄店舗別売上額目録記載の20店舗において,本件商標権の指定商品に含まれる時計,貴金属類の販売業に使用されていたから,本件商標の登録後の松栄による継続使用標章1及び同2の上記使用は本件商標権1の,継続使用標章3の上記使用は本件商標権2の侵害を構成する行為となる。 2 争点(1) 松栄による継続使用標章の使用による不当利得の成否(争点1)(2) 原告による本件請求は,本件商標権の濫用に当たるか(争点2) (3) 被告の利得の有無等(争点3)第3 争点についての当事者の主張 1 争点1(松栄による継続使用標章の使用による不当利得の成否)について(原告の主張)(1) 原告による継続使用標章の使用許諾がないこと被告は,継続使用標章について原告の使用許諾があったとするが,原告は,被告や松栄から本件商標を奪取されないようにするために,あえて被告や松栄に登録出願のことを秘密にしていた。そのため,被告や松栄との間で継続使用標章の使用許諾に関して話合いをしたことはない。 また,本件会社分割は被告の圧倒的に優位な力をもとに進められ,原告は被告や松栄に対してあからさまに反抗することはできなかった。M3社が松栄への事業承継を事実上了解していたとしても,これと継続使用標章の使用継続は別のことである。 そして,本件商標権の侵害を理由とする本件訴訟の提起が遅れたのは,松栄が原告らに対して提起した別件訴訟の対応に忙殺されていたためにすぎず,松栄による継続使用標章の使用による本件商標権の侵害を許容していたわけではない。 また,原告は従前,M3社に本件商標や継続使用標章を使用させていたが,株式会社M枚方及び株 殺されていたためにすぎず,松栄による継続使用標章の使用による本件商標権の侵害を許容していたわけではない。 また,原告は従前,M3社に本件商標や継続使用標章を使用させていたが,株式会社M枚方及び株式会社M滋賀は経営指導料という名目で株式会社Mに対して使用の対価を支払っていたから,原告が全く無関係の会社である松栄に対して継続使用標章を無償で使用許諾するはずがない。 以上より,原告が松栄に対して継続使用標章の使用を許諾した事実はない。 (2) 松栄に継続使用標章につき先使用権は認められないこと被告は,松栄がM3社の業務を承継し,継続使用標章につき先使用権を有しているように主張するが失当である。 すなわち,原告は,妻も含めるとM3社の株式の相当割合を有し,各社の経理事務や総務等を「M本部」で統一的に処理して,M3社を一定程度コントロールして いた。M3社は,このような資本関係や代表取締役同士の血縁関係を基礎にして,原告から原告の名前に由来する継続使用標章を,事実上,特別に借り受けていたにすぎず,いわば原告がフランチャイザー,M3社がフランチャイジーの関係にあって,M3社が自己の業務に係る商品又は営業を表示するものとして継続使用標章を使用していたわけではなかった。 加えて先使用権が認められるためには,継続使用標章が,M3社それぞれの会社単独で,当該会社の商標として周知であることを要するが,そもそも本件商標とは異なり,継続使用標章が需要者の間に広く認識されていた事実はなかったし,M3社それぞれの会社の商標として周知であったという事実もない。 したがって,M3社から松栄がその業務を承継したとしても,松栄に継続使用標章についての先使用権は認められない。 (3) 以上のとおり,松栄は,本件商標に同一又は類似の継続使用標章を使用していた したがって,M3社から松栄がその業務を承継したとしても,松栄に継続使用標章についての先使用権は認められない。 (3) 以上のとおり,松栄は,本件商標に同一又は類似の継続使用標章を使用していたが,無権原であったから,本件商標権の侵害となり不当利得が成立する。 (被告の主張)(1) 原告による継続使用標章の使用許諾があったこと松栄が継続使用標章を使用したのは,承継する各店舗のデベロッパーから賃借権の承継について承諾を得ていないことから,原告が被告や松栄に対して,看板や継続使用標章を使用するよう求めたためであった。 そして,原告は,本件商標の登録出願を被告や松栄に秘しており,本件会社分割の際にもその使用料について何ら述べず,その後,松栄による継続使用標章の使用を知っていたにもかかわらず,松栄に対して本件訴訟に至るまで使用料の請求等を一切しなかった。 M3社は原告の意向に従って経営され,原告と実質的に一体であり,原告は従前から,M3社に対して継続使用標章の使用料を請求していなかった。 これらの事実を踏まえると,原告は松栄に対して継続使用標章を無償で使用することを黙示的に許諾していたということができる。 (2) 松栄に継続使用標章につき先使用権が認められることM3社は,平成20年9月11日の本件商標の登録出願前から,不正競争の目的でなく,継続使用標章をM3社の商品又は営業を表示するものとして使用しており,登録出願の際,継続使用標章はM3社の業務に係る商品又は営業を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた。 松栄は,本件商標の登録前である平成21年5月1日,本件会社分割に基づき,M3社の業務のうち店舗の事業を承継し,その店舗における商品又は営業につき,M3社が使用していた継続使用標章をそのまま使用した。 した 件商標の登録前である平成21年5月1日,本件会社分割に基づき,M3社の業務のうち店舗の事業を承継し,その店舗における商品又は営業につき,M3社が使用していた継続使用標章をそのまま使用した。 したがって,松栄は継続使用標章につき先使用権を有するから,継続使用標章を使用しても,本件商標権の侵害による不当利得とはならない。 (3) 以上のとおり,松栄は,本件商標に同一又は類似の継続使用標章を使用していたが,使用許諾又は先使用権により,本件商標権の侵害とはならないから,不当利得をいう原告主張は失当である。 2 争点2(原告による本件請求は,本件商標権の濫用に当たるか)について(被告の主張)原告による本件商標の登録出願は,原告も加わってM3社の任意整理が協議されている最中に,被告や松栄に何ら連絡せずにされた。また,松栄が継続使用標章の使用を継続したのは,原告からの要請を受け入れたからである。他方,原告自らは継続使用標章を使用しておらず,松栄による使用を知りながら,松栄に対してその使用停止を長らく求めず,損害賠償請求権の消滅時効期間が経過した後,突如として本件訴訟を提起した。 以上の経緯を踏まえると,原告による本件請求は,別件訴訟が係属する中で,被告に対する意趣返しとしてされたものであり,害意ある商標権の行使である。 したがって,原告が本件商標権に基づき松栄の不当利得を主張して被告に対してする本件請求は,本件商標権の濫用に当たり許されない。 (原告の主張) 原告による本件請求が本件商標権の濫用に当たるとする被告の主張は争う。 3 争点3(被告の利得の有無等)について(原告の主張)松栄が本件商標に同一又は類似の継続使用標章を使用するためには,原告との間で本件商標権の使用許諾契約を締結して相当額の対価を支払わなければならな 点3(被告の利得の有無等)について(原告の主張)松栄が本件商標に同一又は類似の継続使用標章を使用するためには,原告との間で本件商標権の使用許諾契約を締結して相当額の対価を支払わなければならなかった。 そして,本件商標の持つ顧客誘引力の大きさ等を考慮すると,その対価額は売上額の5%が相当であるところ,平成20年11月1日から継続使用標章の使用を中止するまでの各店舗の売上額は別紙松栄店舗別売上額目録記載のとおりであり,合計●(省略)●円であるから,相当な対価は●(省略)●円であった。 同額が被告の利得であり,原告の損失との間に因果関係もある。 (被告の主張)松栄は,M3社を赤字経営から救済する目的で店舗を承継し,継続使用標章を使用したが,赤字が改善することはなかった。 したがって,松栄が継続使用標章の使用によって得た利益は存在しないし,仮に利得を観念できるとしても,損失との間に因果関係を欠く。 第4 当裁判所の判断 1 上記第2の1の事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件商標及び継続使用標章の周知性獲得の経緯ア原告は,昭和39年10月以降,その営むM時計店の営業において,本件商標2のうち「M」という片仮名部分の商標(以下「本件片仮名商標」という。)を使用し,昭和45年頃からは,本件商標2を使用するようになった(甲40,証人P2)。 イ M時計店の事業を法人成りした株式会社Mが設立された後は,同社が本件商標2を使用するようになり,同社は,さらに平成元年頃からは,本件商標1を使用 するようになった。そして,株式会社M枚方や株式会社M滋賀が設立された後は,M3社が本件商標のほか,継続使用標章を使用するようになった(甲40,証人P2)。 ウ M3社のほか二男が経営す するようになった。そして,株式会社M枚方や株式会社M滋賀が設立された後は,M3社が本件商標のほか,継続使用標章を使用するようになった(甲40,証人P2)。 ウ M3社のほか二男が経営する株式会社P5,原告の長女とその夫が経営する有限会社P6及び株式会社P7は,いずれも本件商標及び継続使用標章をその商品又は営業に使用する時計・宝飾品店を営んでMグループを構成し,最盛期である平成7年頃には近畿圏に加えて広島にも関連会社が設立されたことで,グループ全体の店舗数が合計63店舗に及んだ(甲40,証人P2)。 エ本件商標は,平成20年当時,M3社の営業地域においては,時計・宝飾品とブライダル部門の小売事業者の営業表示として,需要者の間に広く認識されていた(甲40,証人P2)。 (2) 松栄が継続使用標章を使用するに至る経緯ア被告は, M3社に対して時計・宝飾品を卸売していたが,未払売掛金債権が増加するようになった。平成19年3月の時点で,これが合計15億円を超えるに至り,被告は,M3社の任意整理を検討するようになった(甲19,乙10,乙11,証人P4)。 イ被告は,新会社設立による事業承継の方法でM3社の任意整理を進めることにし,平成20年9月3日,原告,長男及び二男に対して,初めてその整理案を説明し,これを承諾するよう求め,原告らは,これを受け入れるところとなった(甲19,甲40,乙10,乙11,証人P2,同P4)。 ウ同月24日,被告の完全子会社として松栄が設立され,松栄は,同年11月1日,M3社の店舗のうち別紙松栄店舗別売上額目録記載の20店舗の事業を事実上承継した。ただし,上記店舗の承継を法的な処理とした場合,各店舗が出店しているショッピングセンターのデベロッパーとの関係で問題が生じることから,原告も関与する中 上額目録記載の20店舗の事業を事実上承継した。ただし,上記店舗の承継を法的な処理とした場合,各店舗が出店しているショッピングセンターのデベロッパーとの関係で問題が生じることから,原告も関与する中,M3社の承諾のもと,その実態をデベロッパーに知らせることなく,各店舗の内外装はM3社当時のままとし,店員もM3社から松栄に転籍してそのま ま稼働させ,同じ広告や商品の包装用紙,手提げ袋等を使用し,従来どおりの外観で営業を継続した。 なお被告は,これらの店舗の営業に原告が関与することを拒否したが,長男及び二男は,上記20店舗の事業が松栄に承継された時点で,松栄の事業部長に就任し,M3社当時と同様に,上記各店舗の営業に関与していた(甲40,乙10 ,証人P2,同P4)。 エ松栄とM3社は,各店舗の事業承継に伴い各店舗の賃借権を無断譲渡したとしてデベロッパーとの賃貸借契約を解除されることを回避するため,平成21年3月13日,分割期日を同年5月1日として本件会社分割契約を締結し,同日の分割によりM3社と店舗出店先のデベロッパーとの間の契約関係が松栄に適法に承継された。なお,同年3月までに,上記20店舗のうち6店舗は閉鎖されていた(甲25,甲37,甲38,甲40,乙1ないし乙3,乙10,証人P2,同P4)。 オ上記20店舗の事業承継時に松栄の事業部長に就任した長男及び二男は,本件会社分割契約の効力が発生した同年5月1日に松栄の取締役に就任し,平成22年8月31日には取締役を退任したが,その後も営業部長として松栄の事業に関与していた(証人P2,同P4)。 カ松栄は,本件会社分割後に営業を継続していた各店舗のデベロッパーに対し,順次,会社分割によりM3社の事業が松栄に承継されたことを通知し,概ね平成24年7月までにデベロッパーに対する 同P4)。 カ松栄は,本件会社分割後に営業を継続していた各店舗のデベロッパーに対し,順次,会社分割によりM3社の事業が松栄に承継されたことを通知し,概ね平成24年7月までにデベロッパーに対する関係での手続を終え,その頃以降,各店舗において,順次,継続使用標章の使用を止め「P8」の商標を使用するようになった(甲42の2,乙10,証人P2,同P4)。 キ以上のとおり,M3社から松栄に事業承継された別紙松栄店舗別売上額目録記載の20店舗において,店舗閉鎖ないし「P8」に店舗名を変更するまでの間,継続使用標章が,その商品又は営業につき使用された。 (3) 原告による本件商標権の取得及びその権利行使の経緯ア原告は,M3社の任意整理が協議されていた平成20年9月11日,本件商 標について,指定商品を第14類(時計,貴金属,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品)として商標登録の出願をした。 イ平成21年5月22日,本件商標について,原告を商標権者とする登録がされた。原告は,本件商標の登録出願及び本件商標権取得の事実を,被告や松栄に対して知らせなかった。 ウ松栄は,平成25年6月以降,大阪地方裁判所に対し,順次,長男に対する損害賠償請求訴訟,二男に対する損害賠償請求訴訟や,原告,原告訴訟代理人及び公認会計士に対する損害賠償請求訴訟を提起した。 エ松栄は,平成27年10月31日,P8株式会社に対し,M3社から承継した店舗のうち営業を継続していた店舗に関する事業を譲渡し,平成28年3月1日,被告に吸収合併され消滅した。 オ原告は,同年5月11日,本件商標権を長男に譲渡し,その旨の登録がされた(甲1,甲2)。 カ原告は,同年7月12日,松栄が継続使用標章を法律上の原因なく使用して利得したと主張して,松栄を吸収合併 原告は,同年5月11日,本件商標権を長男に譲渡し,その旨の登録がされた(甲1,甲2)。 カ原告は,同年7月12日,松栄が継続使用標章を法律上の原因なく使用して利得したと主張して,松栄を吸収合併した被告に対して本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点1(松栄による継続使用標章の使用による不当利得の成否)について(1) 本件において,原告は,平成20年11月1日からの松栄による継続使用標章の使用事実をもって不当利得を主張しているが,原告が本件商標権を取得したのは平成21年5月22日であるから,それ以前に本件商標権の侵害を観念して不当利得をいうことはできない。 なお,本件商標が周知表示であることは当事者間に争いがなく,また後に検討するように,被告が使用していた継続使用標章も周知表示であるから,いずれもその使用について対価を観念できるといえるが,これまた後に検討するように,その周知性の帰属主体は,いずれもその使用主体であるM3社を含むMグループであって原告ではないから,いずれにせよ,本件商標の登録前である平成21年5月21日 以前の松栄による継続使用標章の使用について不当利得をいう原告の主張は失当である。 (2) そこで本件商標が登録された平成21年5月22日以降の松栄による本件商標に類似する継続使用標章の使用が法律上の原因がないものであるか検討するに,被告は,原告が松栄に対して継続使用標章の使用を黙示的に許諾したと主張する。 確かに上記1(2)の事実によれば,原告が松栄による事業承継に伴う継続使用標章の使用継続を許容していたことが認められるから,原告に許諾権限があるか否かの点をさておき,この事実から,原告が継続使用標章の使用許諾の意思表示を黙示的にしていたと解することができる。 しかし,本件で問題とすべき 容していたことが認められるから,原告に許諾権限があるか否かの点をさておき,この事実から,原告が継続使用標章の使用許諾の意思表示を黙示的にしていたと解することができる。 しかし,本件で問題とすべきは,本件商標権の使用許諾であるところ,継続使用標章は本件商標に類似していることから,上記使用許諾の対象には本件商標を含んでいると解することができるけれども,そもそも,その意思表示がされた時期は本件商標が登録される以前であるから,継続使用標章の使用許諾の意思表示に,当事者間で協議対象になっていないし,認識されてもいない本件商標権の使用許諾の意思表示を含んでいたと解することはできない。 さらに被告の主張を,継続使用標章の使用許諾の意思表示には,当該標章に類似する商標につき商標登録がされた場合には,その商標権の使用許諾の意思表示も含んでいる趣旨をいうものと解すべきとしても,原告は,本件商標の登録出願の事実を被告及び松栄に知らせずに商標登録を受け,その事実を長年被告及び松栄に秘していたのであり,さらには本件商標権に基づいて本件訴訟に及んでいるというのであるから,原告の行動が継続使用標章を使用許諾したことと矛盾し不合理であるとしても,原告が松栄に対して継続使用標章を使用許諾した意思表示に将来,本件商標権を取得した場合に,その商標権を使用許諾する意思表示を含んでいたと解することはできない。 したがって,被告主張に係る原告の使用許諾の意思表示では,本件商標登録後の松栄による継続使用標章の使用についての権原足り得ないから,これが法律上の原 因となるとする被告の主張は採用できない。 (3) 次いで被告は,松栄は,先使用権により,継続使用標章を使用することができるから,本件商標権の侵害による不当利得にはならないと主張している。 アところで,本件商 被告の主張は採用できない。 (3) 次いで被告は,松栄は,先使用権により,継続使用標章を使用することができるから,本件商標権の侵害による不当利得にはならないと主張している。 アところで,本件商標の登録出願時である平成20年当時,M3社の営業地域においては,時計・宝飾品とブライダル部門の小売事業者の営業表示として本件商標が需要者の間に広く認識されていたことは当事者間に争いがなく,またそうであれば,同様に使用されていた本件商標に類似する継続使用標章も,当然,需要者の間に広く認識されていたといえる。 そして,本件商標及び継続使用標章は,M3社を構成員とするMグループの店舗において,商品,広告等に使用されていたものであるから,平成20年当時,本件商標及び継続使用標章は,M3社を構成員とするMグループの商品又は営業の表示として需要者の間に広く認識されていたものと認められる。 イこの点,原告は,継続使用標章は原告の表示であり,M3社は特別に借りていただけにすぎず,いわば原告をフランチャイザーとするフランチャイジーにすぎないようにも主張し,また証人P2もそれに沿った証言をする。 しかし,本件商標及び継続使用標章の要部となる本件片仮名商標が原告の名前に由来するものであり,また同商標が原告の個人事業の屋号として使われ始めた経緯があるとしても,原告は昭和52年10月には事業を法人成りして株式会社Mを設立し,その後,関連会社である株式会社M枚方,株式会社M滋賀等を設立して店舗を増やしていったというのであるから,本件片仮名商標から発展していった本件商標及び継続使用標章が周知性を獲得する段階においては,その事業は,原告の個人事業ではなく,M3社を含むMグループを構成する法人としての事業であることは明らかであって,これら各法人が事業を営まない原告をフラン 続使用標章が周知性を獲得する段階においては,その事業は,原告の個人事業ではなく,M3社を含むMグループを構成する法人としての事業であることは明らかであって,これら各法人が事業を営まない原告をフランチャイザーとするフランチャイジーに擬えられる関係にあるとはいえない。また,このことはM3社の経営を原告がM本部を介して掌握する関係にあり,また株式保有など資本面でも原告がM3社を実質的に支配しているという関係にあることを考慮しても同様であっ て,原告が本件商標ないし継続使用商標について何らかの権利ないし法律上保護される利益を有していて,これをM3社が特別に借りていたようにいうこともできないから,原告の上記主張は失当である。 ウそして,M3社は,不正競争の目的なく本件商標及びこれに類似する継続使用標章を本件商標権の指定商品に使用していたものであり,その結果,上記のとおり,本件商標及び継続使用標章は,Mグループの商品又は営業を表示する商標として需要者の間に広く認識されていたのであるから,Mグループの構成員であるM3社について継続使用標章につき商標法32条1項の規定に基づく先使用権を認め得る事実状態にあったと認められる。 そうすると,松栄は,平成20年11月1日にM3社から20店舗の事実上の事業の承継を受けて,これに伴い継続使用標章の使用を開始し,加えて本件商標が登録される前である平成21年5月1日に,その当時,営業を継続していた14店舗の関係で本件会社分割によりM3社の時計・宝飾店販売事業を分割して承継したというのであるから,松栄は,いずれの時点をもっても商標法32条1項後段の「業務を承継した者」として,継続使用標章につき,先使用権を有するということができる。 (4) したがって,松栄による継続使用標章の使用は,本件商標権の侵害を の時点をもっても商標法32条1項後段の「業務を承継した者」として,継続使用標章につき,先使用権を有するということができる。 (4) したがって,松栄による継続使用標章の使用は,本件商標権の侵害を構成せず,松栄に不当利得があるとはいえないから,原告の被告に対する不当利得返還請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。 3 争点2(原告による本件請求は,本件商標権の濫用に当たるか)についてさらに事案に鑑み争点2についても検討すると,上記1のとおり,松栄が継続使用標章の使用を始めたのは,原告自らが実質的に経営を支配しているM3社の任意整理を進めるためであり,より具体的には,M3社当時の外観を保ったまま営業を継続することで商品の販売を進めて債権の回収を図ろうとしていたものと認められ,そのような方針は,不本意であろうとも原告が受け入れていたことが認められるものである。 そうであるのに原告は,被告の負担においてするM3社の任意整理進行中,被告及び松栄の関係者に隠れて,商標権取得後の行使の在り方によっては任意整理のためにする事業の障害となる本件商標権を取得していたというのであり,しかも,商標登録後に直ちにその権利行使に及ばず,M3社の任意整理が終了して相当期間経過後,M3社の被告に対する債務問題も生じないようになってから権利行使に及んでいるものである。 そして証拠(甲41)によれば,被告は平成21年3月期にM3社に対する総額10億円を超える債権を放棄し,M3社から20店舗の事業が松栄に事実上承継された後も,さらに債務が増加していたというのであるから,以上のような状況下においては,仮に本件商標及び継続使用標章の価値が認識されたとしても,松栄から原告に使用料を支払うべきことが検討される余地は全くなかったとみるのが合理的である。 いうのであるから,以上のような状況下においては,仮に本件商標及び継続使用標章の価値が認識されたとしても,松栄から原告に使用料を支払うべきことが検討される余地は全くなかったとみるのが合理的である。 そうすると,以上のような事実関係のもと,本件商標及び継続使用標章についての松栄の使用権原が明確に協議されていなかったことを奇貨として,本件商標権を密かに取得した上,任意整理が終了した後,継続使用標章の使用が不当利得となる旨主張して金銭請求に及ぶという本件における原告の本件商標権侵害を理由とする不当利得返還請求は,その請求が法的に成り立つ余地があろうとも商標権の濫用に当たり許されないというべきである。 4 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する請求には理由がないというべきである。 よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官森崎英二 裁判官野上誠一 裁判官大川潤子
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