- 1 - 平成26年2月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第39625号職務発明補償金請求事件口頭弁論の終結の日平成25年11月7日判決山梨県上野原市<以下略>原告 A同訴訟代理人弁護士矢島邦茂東京都港区<以下略>被告沖電気工業株式会社同訴訟代理人弁護士永島孝明安國忠彦明石幸二郎同訴訟復代理人弁護士朝吹英太安友雄一郎 主文 1 被告は,原告に対し,29万6399円及びこれに対する平成22年10月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを170分し,その169を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 - 2 - 第1 請求被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の従業者であった原告が,被告に対し,樹脂封止金型に関する職務発明について特許を受ける権利を承継させたことにつき,特許法(平成16年法律第79号による改正前の え。 第2 事案の概要本件は,被告の従業者であった原告が,被告に対し,樹脂封止金型に関する職務発明について特許を受ける権利を承継させたことにつき,特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)35条3項に基づき,相当の対価である67億3846万1975円又は15億7683万7000円のうち5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者ア被告は,電子通信装置・システム,情報処理装置・システム,制御計測装置・システム及び半導体製品等各種電子部品の開発,製造,販売並びに輸出入等を業とする株式会社である。 イ原告は,昭和43年4月に被告に入社した後,生産技術課やパッケージ開発課等に配属されて,半導体製品の技術管理やパッケージ開発等の業務に携わり,平成13年12月,被告を退職した。 (2) 原告による職務発明と被告による特許権の取得等ア原告は,遅くとも昭和60年ころ,樹脂封止金型に関する発明(以下「本件発明」という。)をした。本件発明は,その性質上,被告の業務範囲に- 3 - 属し,かつ,発明をするに至った行為が被告における原告の職務に属するものであって,特許法35条3項所定の職務発明に当たる。 イ被告は,本件発明について,原告から特許を受ける権利を承継し,昭和60年12月16日,これにつき,発明の名称を「樹脂封止金型」,発明者を原告及びB(以下「B」という。)とする特許出願をし,昭和62年6月24日に出願公開され,平成8年1月11日に設定の登録(特許番号2004945号)がされて特許権( 名称を「樹脂封止金型」,発明者を原告及びB(以下「B」という。)とする特許出願をし,昭和62年6月24日に出願公開され,平成8年1月11日に設定の登録(特許番号2004945号)がされて特許権(以下「本件特許権」という。)を取得した。 前記特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)における特許請求の範囲の記載は,本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当項記載のとおりである。 ウ被告は,本件特許権について,専用実施権を設定したり通常実施権を許諾したりしなかった。 エ本件特許権は,平成17年12月16日,存続期間の満了により,消滅した。 (3) 被告における職務発明に関する規定と原告への報奨金の支給等ア被告は,昭和60年当時,職務発明について特許を受ける権利を承継したことについて,特許出願時に出願報奨金5000円を,設定登録時に登録報奨金1万円を,設定登録の2年経過後に当該発明の実施貢献度を評価して1等級であれば貢献特許報奨金30万円をそれぞれ支給する旨の工業所有権管理規程を定めていた。 (甲3の1)- 4 - イ原告は,被告から,本件発明について特許を受ける権利を承継させたことについて,工業所有権管理規程に基づき,昭和62年ころに出願報奨金3000円を,平成8年に登録報奨金1万円をそれぞれ支給されるとともに,平成12年11月18日に実施評価優秀賞を授与された上で,上記規程に基づき,同月20日に1等級の貢献特許報奨金をBとの間で分割した15万円を支給された。 2 争点本件の争点は,①本件発明により被告が受けるべき利益の額,②本件発明がされるについて被告が貢献した程度,③共同発明者の有無であり,その結果としての相当の対価の額である。 れた。 2 争点本件の争点は,①本件発明により被告が受けるべき利益の額,②本件発明がされるについて被告が貢献した程度,③共同発明者の有無であり,その結果としての相当の対価の額である。 3 争点についての当事者の主張(1) 争点①(本件発明により被告が受けるべき利益の額)について(原告の主張)ア本件発明により被告が受けるべき利益本件発明により被告が受けるべき利益は,被告が本件特許権について専用実施権を設定したり通常実施権を許諾したりしなかったから,被告が本件発明の実施をする権利を独占するとともに自ら実施することによって得られた売上高につき,他人に通常実施権を許諾すれば得られたはずの実施料(以下「想定実施料」という。)となる。 イ被告の自己実施(ア) 本件発明の技術的範囲被樹脂封止装置を収容する複数個のキャビティと当該キャビティに樹- 5 - 脂を導入するランナ及びポットとを有する樹脂封止金型は,従来,ランナの壁面付近を流れる樹脂と中心付近を流れる樹脂との間に温度差が生じることで,硬化状態に差が生じ,樹脂が各キャビティに充填しきれなかったり,樹脂がランナを急激に流れることで,先端に波が発生して空気を巻き込み,ボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題があった。本件発明は,上記樹脂封止金型において,ランナにおける樹脂に接する壁面を粗面状に形成することにより,樹脂に摩擦抵抗を与え,渦流を発生させて温度分布を一様にし,樹脂のキャビティへの移送を円滑にするとともに,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したりし,気泡のキャビティへの流入を軽減させたものである。 本件発明の「ランナ」は,その長短にかか るとともに,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したりし,気泡のキャビティへの流入を軽減させたものである。 本件発明の「ランナ」は,その長短にかかわらず,流路であれば足りる。ポットを1つだけ設けて流路を長くしたシングルポット方式の樹脂封止金型は,長いランナがあるといえるから,当然,本件発明の「樹脂封止金型」に当たる。また,ポットを複数設けたマルチポット方式(マルチプランジャ方式ともいう。以下同じ。)の樹脂封止金型も,流路があれば,ランナがあるといえるから,それが短くても,本件発明の「樹脂封止金型」に当たる。 本件明細書の発明の詳細な説明の実施例や拒絶査定取消審判手続において被告が提出した理由補充書にシングルポット方式の樹脂封止金型が記載されているのは,従来技術の問題を説明しやすいからであって,これに限定はしておらず(本件公報4頁左上欄9行),マルチポット方- 6 - 式の樹脂封止金型でも,流路があれば,同様の問題があり,本件発明によって同様の作用効果が得られた。 (イ) 被告の自己実施被告は,従前,前記の問題を抱えていたことから,原告が本件発明をした後,シングルポット方式の樹脂封止金型又はマルチポット方式で流路がある樹脂封止金型で,流路における樹脂に接する壁面を粗面状に形成したものを半導体製品の製造に使用するようになり,自ら本件発明を実施していた。 これは,①被告が,原告からの申告を基に本件発明の実施貢献度を審査,評価した上で,原告に対して実施評価優秀賞を授与したり1等級の貢献特許報奨金を支給したりしたこと,②キャビティの壁面とランナの壁面は,一体的に開発されていたところ,原告が本件発明をする前に被告が製造していた半導体パッケージの表面は光 秀賞を授与したり1等級の貢献特許報奨金を支給したりしたこと,②キャビティの壁面とランナの壁面は,一体的に開発されていたところ,原告が本件発明をする前に被告が製造していた半導体パッケージの表面は光沢があるのに対し,原告が本件発明をした後に被告が製造していた半導体パッケージの表面は光沢がないこと,③被告が自ら本件発明について特許出願したことからも裏付けられる。 なお,被告は,樹脂封止金型において樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題に対し,マルチポット方式の樹脂封止金型を採用したり樹脂の原料や製法の改良を試みたりしていたが,それだけでは解決しなかったから,本件発明を実施する必要があった。仮に昭和60年当時はそれだけで解決したとしても,遅くとも平成6年ころからは,半導体装置を基板に取- 7 - り付ける方法として,はんだと共に高温加熱する表面実装方式が採られるようになった結果,樹脂にクラックが発生するようになり,高接着性樹脂を用いるようになったものの,逆に離型性が低下し,接着性と離型性を両立させる本件発明を実施する必要が生じた。 また,被告が使用していた樹脂封止金型の壁面の一部は,光沢仕上げであったが,鏡面仕上げではなく,これも粗面状に形成されていたものといえる。 ウ想定実施料(ア) 半導体製品の売上高から算出した想定実施料a 被告の自己実施による売上高被告は,本件発明の実施をする権利を独占するとともに自ら実施することにより,半導体製品を製造し,これを販売することができたから,本件発明により被告が受けるべき利益は,半導体製品の売上高を基準にすべきである。 被告が本件発明の技術的範囲に属する樹脂封止金型を使用して製造した半導体 を製造し,これを販売することができたから,本件発明により被告が受けるべき利益は,半導体製品の売上高を基準にすべきである。 被告が本件発明の技術的範囲に属する樹脂封止金型を使用して製造した半導体製品の売上高は,本件発明が出願公開されて補償金支払請求権が生じるようになった昭和62年から本件特許権が消滅した平成17年までの合計で,2兆6954億5000万円である。もっとも,被告が本件発明の技術的範囲に属する樹脂封止金型を使用したのは,大別して前工程(ウェハー処理),後工程(組立て)及び検査の3段階からなる半導体製品の製造工程のうち,配線接続等に手間が掛かる後工程(組立て)においてであるから,被告が自ら本件発明を- 8 - 実施することによって得られた売上高は,昭和62年から平成17年までの合計で,上記売上高の少なくとも3分の1に相当する8984億8333万円(2兆6954億5000万円÷3)である。 b 被告の独占的自己実施による売上高被告が本件発明の実施をする権利を独占するとともに自ら実施することによって得られた売上高は,被告が自ら本件発明を実施することによって得られた売上高から,特許法35条1項所定の通常実施権に基づいて得られたはずの売上高を控除したものとなる。 樹脂封止金型において樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題に対し,①ランナの一部に絞り部を設けたり(特開昭60-43836号),②ポットを複数設けてランナを短くしたり(マルチポット方式),③樹脂の原料や製法を改良したり(特開昭60-121726号等)する方法があったが,それだけでは解決することができなかったから,代替技術があったとはいえない。 また,本件 ト方式),③樹脂の原料や製法を改良したり(特開昭60-121726号等)する方法があったが,それだけでは解決することができなかったから,代替技術があったとはいえない。 また,本件発明に係る特許出願前から,樹脂封止金型のランナの壁面を粗面状に形成する技術として,放電加工法(ElectricalDischargeMachining法。以下「EDM法」という。)があったが,当時は表面粗さが10μmRmax程度と粗く,離型性が低かったのに対し,本件発明は表面粗さが最小8μmRmaxと細かく,離型性が高かったため,本件発明に技術的な優位性もあった。 さらに,被告は,本件特許権について専用実施権を設定したり通常- 9 - 実施権を許諾したりしなかったが,それは本件発明が広く実施されて事実上標準化していたにもかかわらず,被告が本件特許権の行使を怠ったことによるものにすぎない。被告は,本件特許権を行使していれば,独占の利益をより多く得られたはずである。 これらの事情を考慮すれば,被告が本件発明の実施をする権利を独占するとともに自ら実施することによって得られた売上高は,被告が自ら本件発明を実施することによって得られた売上高の50%に相当するから,4492億4166万5000円(8984億8333万円×0.5)である。 c 想定実施料の額本件発明により,樹脂のキャビティへの移送が円滑になるとともに,気泡のキャビティへの流入が軽減された上,離型性と捺印付着性が向上し,半導体製品の高機能化も可能となった。これらの事情を考慮すれば,想定実施料の率は,3%を下らないから,想定実施料の額は,134億7724万9950円(4492億4166万5000円×0.03)である。 (イ) 実施貢献度から算 れらの事情を考慮すれば,想定実施料の率は,3%を下らないから,想定実施料の額は,134億7724万9950円(4492億4166万5000円×0.03)である。 (イ) 実施貢献度から算出した想定実施料仮に前記売上高が認められないとしても,被告の評価基準によれば,1等級の実施貢献度を得るには,被告が自ら職務発明を実施することによって得られた3年間の売上高が5億円以上,すなわち,1年間の売上高が1億6600万円以上であることが必要であるから,被告が自ら本件発明を実施することによって得られた売上高は,昭和62年から平成17年までの19年間の合計で,31億5400万円(1億6600万円×- 10 - 19年)を下らない。そうすると,想定実施料の額も,31億5400万円を下らない。 エしたがって,本件発明により被告が受けるべき利益の額は,134億7724万9950円又は31億5400万円である。 (被告の主張)ア被告の自己実施について(ア) 本件発明の技術的範囲について本件発明の「ランナ」は,樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題の原因となるランナであり,本件明細書の発明の詳細な説明の実施例にもシングルポット方式の樹脂封止金型だけが記載されている上,拒絶査定取消審判手続において提出した理由補充書でも本件発明に係るランナが長いことを前提としていたから,長いランナである必要がある。また,本件発明の「ポット」は,キャビティと異なり,「複数個」とされていないから,1つである。 このため,シングルポット方式の樹脂封止金型は,長いランナを有するとともにポットが1つであるから,本件発明の「樹脂封止金型」に当たるが,マルチポット方式の樹脂封 とされていないから,1つである。 このため,シングルポット方式の樹脂封止金型は,長いランナを有するとともにポットが1つであるから,本件発明の「樹脂封止金型」に当たるが,マルチポット方式の樹脂封止金型は,ランナを有しない上にポットが複数であるから,本件発明の「樹脂封止金型」に当たらない。 (イ) 被告の自己実施について被告は,シングルポット方式の樹脂封止金型で,ランナにおける樹脂に接する壁面を粗面状に形成していないものか,マルチポット方式の樹- 11 - 脂封止金型だけを使用していたから,自ら本件発明を実施していなかった。 被告は,樹脂封止金型において樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題に対し,マルチポット方式の樹脂封止金型を採用したり樹脂の原料や製法を改良したりすることによって解決していたから,本件発明を実施する必要がなかった。 なお,①貢献特許報奨金の支給は,発明者からの申告を基に行うから,被告の自己実施を裏付けるものでない。また,②キャビティの壁面とランナの壁面は,別々に開発されていたから,半導体パッケージの表面に光沢がないことは,キャビティの壁面が粗面状であることを示すにとどまり,ランナの壁面も粗面状であることを示すものでない。そうであるから,被告の自己実施を裏付けるものはない。 また,本件発明が新規性を欠いて特許無効審判により無効にされるべきものでないことは,当事者間に争いがないところ,被告は,本件発明に係る特許出願の前に公然と樹脂封止金型を使用し,同出願の後も当該樹脂封止金型を使用していたから,本件発明は,当該樹脂封止金型で実施された発明と同一でなく,被告は,自ら本件発明を実施していなかったはずである。 イ想定実施料に を使用し,同出願の後も当該樹脂封止金型を使用していたから,本件発明は,当該樹脂封止金型で実施された発明と同一でなく,被告は,自ら本件発明を実施していなかったはずである。 イ想定実施料について(ア) 半導体製品の売上高から算出した想定実施料についてa 被告の自己実施による売上高について- 12 - 本件発明は,樹脂封止金型に関するものであるから,本件発明により被告が受けるべき利益は,本件発明の技術的範囲に属する樹脂封止金型の売上高を基準にすべきである。しかし,被告は,樹脂封止金型を販売したことがない。 b 被告の独占的自己実施による売上高について仮に被告が自ら本件発明を実施していたとしても,樹脂封止金型において樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題に対し,①ランナの一部に絞り部を設けて樹脂全体が一様にランナの壁面に触れるようにしたり(特開昭60-43836号),②ポットを複数設けてランナを無くしたり(マルチポット方式),③樹脂の原料や製法を改良して気泡のキャビティへの流入を軽減させたり(特開昭60-121726号等)すること等によって解決することができたから,代替技術があった。 また,本件発明に係る特許出願前から,樹脂封止金型のランナの壁面を粗面状に形成する技術として,EDM法が周知であったから,本件発明に技術的な優位性もなかった。 さらに,被告は,本件特許権について実施許諾の申入れを受けなかった上,本件発明を実施したことによる利益や市場独占率の増加はなかった。 これらの事情を考慮すれば,被告が本件発明の実施をする権利を独占することによって得られた売上高は,0円である。 c 想定実施料の額について- 益や市場独占率の増加はなかった。 これらの事情を考慮すれば,被告が本件発明の実施をする権利を独占することによって得られた売上高は,0円である。 c 想定実施料の額について- 13 - 原告の主張は否認又は争う。 (イ) 実施貢献度から算出した想定実施料について原告の主張は否認又は争う。 ウしたがって,本件発明により被告が受けるべき利益の額は,0円である。 (2) 争点②(本件発明がされるについて被告が貢献した程度)について(被告の主張)本件発明がされるについて被告が貢献した程度は,100%である。 (原告の主張)原告は,EPROM装置の試作品を製造した際,樹脂に気泡が発生したことから,これを抑制しようと考え,流入時における樹脂の挙動を観察することにより,樹脂の先端に泡が発生していることを発見し,本件発明をした。 これらの事情を考慮すれば,本件発明がされるについて被告が貢献した程度は,50%を超えない。 (3) 争点③(共同発明者の有無)について(原告の主張)Bは,原告の上司であるとともに,樹脂に気泡が発生することをメルトフラクチャー現象という旨教えてくれたから,本件発明に係る特許出願の願書に共同発明者として記載されたにすぎず,本件発明の技術的思想の創作に関与していないから,共同発明者ではない。 したがって,本件発明には,共同発明者がいない。 (被告の主張)Bは,本件発明の共同発明者である。 - 14 - したがって,本件発明には,共同発明者がいる。 (4) 以上の争点についての当事者の主張に従えば,原告の主張する相当の対価の額は,67億3862万4975円( る。 - 14 - したがって,本件発明には,共同発明者がいる。 (4) 以上の争点についての当事者の主張に従えば,原告の主張する相当の対価の額は,67億3862万4975円(134億7724万9950円×0.5)又は15億7700万円(31億5400万円×0.5)で,支払済みの報奨金16万3000円を控除すれば,未払の相当の対価の額は,67億3846万1975円又は15億7683万7000円になり,被告の主張するそれは,0円になる。 第3 当裁判所の判断 1 争点①(本件発明により被告が受けるべき利益の額)について(1) 本件発明により被告が受けるべき利益について特許法35条は,職務発明について特許を受ける権利が当該発明をした従業者等に原始的に帰属すること(同法29条1項参照)を前提に,① 使用者等が従業者等の職務発明に関する特許権について通常実施権を有すること(同法35条1項),② 従業者等は,職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権(以下「特許を受ける権利等」という。)を承継させたとき,相当の対価の支払を受ける権利を有すること(同条3項),③その対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならないこと(同条4項)などを規定している。 これによれば,特許法35条3項が規定する相当対価支払請求権は,従業者等が職務発明について使用者等に特許を受ける権利等を承継させた時点で,発生するとともに,その額も定まるものと解される。もっとも,相当対価支払請求権の額は,上記時点までの資料だけで定めることが困難であるか- 15 - ら,承継前の事情だけでなく,職務発明により使用者等が受けた利益の額等,承 るものと解される。もっとも,相当対価支払請求権の額は,上記時点までの資料だけで定めることが困難であるか- 15 - ら,承継前の事情だけでなく,職務発明により使用者等が受けた利益の額等,承継後の事情をも参照して定めるのが相当である。 また,職務発明により使用者等が受けるべき利益とは,職務発明の実施や職務発明についての特許を受ける権利等の行使又は処分等により使用者等が得られると客観的に見込まれる利益であって,職務発明と当該利益との間に相当因果関係があるものをいうと解される。具体的には,使用者等において,職務発明を自ら実施することによって得られる利益や,職務発明を他人に実施させることによって得られる実施料,職務発明についての特許を受ける権利等を譲渡することによって得られる譲渡利益等が挙げられる。もっとも,使用者等は,職務発明について従業者等から特許を受ける権利等を承継しなくても,特許法35条1項の趣旨に照らせば,職務発明がされた時から職務発明について通常実施権を有するものと解されるから,使用者等が職務発明を自ら実施することによって得られる利益は,使用者等が通常実施権を行使することによって得られる利益を控除したいわゆる超過利益に限られるというべきである。そして,超過利益は,使用者等が職務発明の実施を法律上又は事実上独占することによって生じるから,補償金支払請求権が生じ得る出願公開の時から特許権の消滅又は処分の時までに生じた利益に限られるものと解される。 さらに,超過利益の算定は,特許法102条3項の趣旨に照らせば,使用者等が職務発明を自ら実施することによって得られる利益から使用者等が通常実施権を行使することによって得られる利益を控除する方法によるだけでなく,使用者等が職務発明を自ら実施することによって得られる売上高から- ら実施することによって得られる利益から使用者等が通常実施権を行使することによって得られる利益を控除する方法によるだけでなく,使用者等が職務発明を自ら実施することによって得られる売上高から- 16 - 使用者等が通常実施権を行使することによって得られる売上高を控除したいわゆる超過売上高に,他人に通常実施権を許諾すれば得られたはずのいわゆる想定実施料の率を乗じる方法によってもすることができると解するのが相当である。 (2) 被告の自己実施についてア本件発明の技術的範囲について証拠(甲1の2)によれば,本件発明は,「被樹脂封止装置を収容する複数個のキャビティと,該キャビティに樹脂を導入するランナ及びポットとを有する樹脂封止金型において,前記ランナにおける前記樹脂に接する壁面を粗面状に形成したことを特徴とする樹脂封止金型。」という構成であることが認められる。 以下,問題となる構成について検討する。 (ア) 「ランナ」について証拠(甲24,43)によれば,金型の分野において,「ランナ」とはキャビティに樹脂を注入するゲートの前までの流路を,「ゲート」とはキャビティに樹脂を注入するための入口をそれぞれ意味することが認められる。そして,証拠(甲1の2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の実施例として,「溶融樹脂はポット21から各メインランナ22,及びサブランナ24へと送られる。」(本件公報3頁左下欄14ないし15行),「溶融樹脂はさらに各サブランナ24内を流れ,ゲート26を経て各キャビティ25内に充填される。」(同頁右下欄2ないし4行)と記載されていることが認められる。これらを- 17 - 総合すれば,本件発明の「ランナ」とは,キャビティに樹脂を注入する 26を経て各キャビティ25内に充填される。」(同頁右下欄2ないし4行)と記載されていることが認められる。これらを- 17 - 総合すれば,本件発明の「ランナ」とは,キャビティに樹脂を注入するための入口の前までの流路を意味するものと解される。 被告は,本件発明の「ランナ」につき,樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題の原因となるランナであり,本件明細書の発明の詳細な説明の実施例にもシングルポット方式の樹脂封止金型だけが記載されている上,拒絶査定取消審判手続において提出した理由補充書でも本件発明に係るランナが長いことを前提としていたから,長いランナを意味すると主張する。証拠(甲1の2,16)によれば,本件明細書や被告が拒絶査定取消審判手続において提出した理由補充書には,長いランナを有するシングルポット方式の樹脂封止金型における問題点やこれを解決した本件発明の作用効果が記載されていることが認められる。しかしながら,「ランナ」の意味は,前記のとおりであって,明確であるし,証拠(甲1の2)によれば,本件明細書において,特許請求の範囲に「ランナ」が長いことを示す記載はない上,発明の詳細な説明に「本発明は図示の実施例に限定されず,種々の変形が可能である。」と記載されていること(本件公報4頁左上欄9ないし10行)が認められるから,本件発明の「ランナ」が長いランナを意味するとはいえない。被告の上記主張は,採用することができない。 (イ) 「ポット」について本件発明の「ポット」は,個数の限定がない。また,証拠(甲1の2)によれば,本件明細書における特許請求の範囲に「ポット」と並んで記- 18 - 載されている「ランナ」は,複数本とされていないにもか 発明の「ポット」は,個数の限定がない。また,証拠(甲1の2)によれば,本件明細書における特許請求の範囲に「ポット」と並んで記- 18 - 載されている「ランナ」は,複数本とされていないにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明には,複数本とする実施例が記載されていること(本件公報3頁左上欄18ないし19行)が認められる。これらを総合すれば,本件発明の「ポット」は,1個又は複数個のポットを意味するものと解される。 (ウ) 「粗面状」について証拠(甲1の2)によれば,本件発明は,被樹脂封止装置を収容する複数個のキャビティと当該キャビティに樹脂を導入するランナ及びポットとを有する樹脂封止金型において,ランナの壁面付近を流れる樹脂と中心付近を流れる樹脂との間に温度差が生じることで,硬化状態に差が生じ,樹脂が各キャビティに充填しきれなかったり,壁面が滑らかなランナを樹脂が急激に流れることで,樹脂の先端に波が発生して空気を巻き込み,ボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという従来技術では達し得なかった技術的課題を解決するために,上記樹脂封止金型において,ランナにおける樹脂に接する壁面を粗面状に形成したものであり,これにより,樹脂に摩擦抵抗を与え,渦流を発生させて温度分布を一様にし,樹脂のキャビティへの移送を円滑にするとともに,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したりし,気泡のキャビティへの流入を軽減させることができるようになったことが認められる。また,上記証拠によれば,本件明細書には,本件発明の実施例として,「メインランナ22における溶融樹脂が接する壁面は粗面状,例えば梨地状に形成されている。す- 19 - なわち,該梨地状の壁面は第4図に示すように ば,本件明細書には,本件発明の実施例として,「メインランナ22における溶融樹脂が接する壁面は粗面状,例えば梨地状に形成されている。す- 19 - なわち,該梨地状の壁面は第4図に示すように,放電加工あるいはショットピーニング加工等によって表面あらさが,例えば,8-S~12-S程度に形成されている。」(本件公報3頁左上欄19行ないし右上欄5行),「②前記実施例では各ランナ22,24の壁面を放電加工等によって形成したが,該壁面はガラスや金属等の粉状物を接着剤で付着して粗面を形成してもよい。これにより前記実施例とほぼ同様の効果が得られる。③前記実施例では,表面あらさ8-S~12-S程度の梨地面を形成しているが,該表面あらさは溶融樹脂の種類や溶融温度等の異いにより適宜選択することができる。」(同4頁右上欄3ないし11行)と記載されていることが認められる。これらを総合すれば,本件発明の「粗面状」とは,樹脂に摩擦抵抗を与え,渦流を発生させて温度分布を一様にし,樹脂のキャビティへの移送を円滑にするとともに,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したりし,気泡のキャビティへの流入を軽減させる程度の粗さを有する面の状態を意味し,少なくとも表面粗さが8ないし12μmRmax程度の梨地面を含むものと解される。 イ被告の自己実施について(ア) 証拠(甲3の2及び3,6,17の1及び2の1ないし4,18の6及び7,30の2,39の1ないし3,41の2,42の1及び2,48の2,49の3,53,乙8,12の1ないし3,13)及び弁論の全趣旨を総合すれば,①ⅰ 被告は,半導体樹脂封止金型を自ら製作し,又は金型製作メーカーのTOWA株式会社(以下「TOWA」とい- 20 - う。) ,乙8,12の1ないし3,13)及び弁論の全趣旨を総合すれば,①ⅰ 被告は,半導体樹脂封止金型を自ら製作し,又は金型製作メーカーのTOWA株式会社(以下「TOWA」とい- 20 - う。)若しくはアピックヤマダ株式会社に製作させ,これを半導体装置の製造に用いていたところ,TOWAについては,別表1のとおり,平成17年までの間に,67台の半導体樹脂封止金型を製作させたこと,ⅱ 当該67台の半導体樹脂封止金型は,いずれも,樹脂封止されるチップやリードフレームを収容する複数個のキャビティと,当該キャビティに樹脂を注入するための入口の前までの流路と複数個のポットとを有するマルチポット方式を採用しており,うち平成4年7月2日に仕様書が作成された4台と平成6年10月以降に仕様書が作成された11台の合計15台は,いずれも,上記流路における樹脂に接する壁面を表面粗さが約5ないし16μmRzの梨地状に形成したものであって,本件発明の「ランナ」,「ポット」及び「粗面状」の意味に照らし,本件発明の技術的範囲に属すること,ⅲ その結果,TOWAに製作させた半導体樹脂封止金型のうち本件発明の技術的範囲に属するものの割合は,平成5年3月末で約7.7%(4台/52台),平成6年3月末で約7.1%(4台/56台),平成7年3月末及び平成8年3月末で約10. 3%(6台/58台),平成9年3月末で約11.9%(7台/59台),平成10年3月末で約13.3%(8台/60台),平成11年3月末で約16.1%(10台/62台),平成12年3月末で約18.8%(12台/64台),平成13年3月末で約21.2%(14台/66台),平成14年3月末以降で約22.4%(15台/67台)となったこと,②ⅰ 原告が平成12年11月18日に授与された実施評価優秀賞は,本件発明が 台),平成13年3月末で約21.2%(14台/66台),平成14年3月末以降で約22.4%(15台/67台)となったこと,②ⅰ 原告が平成12年11月18日に授与された実施評価優秀賞は,本件発明が成果顕著なものであったという理由で,被告の社長から表彰されたもので- 21 - あること,ⅱ 原告が同月20日に支給された1等級の貢献特許報奨金も,被告が,原告からの申告を基に評価を行い,3年間の売上げのうち本件発明が貢献した額が少なくとも1億円以上あると認めたことによるものであることが認められる。 原告は,①キャビティの壁面とランナの壁面は,一体的に開発されていたところ,原告が本件発明をする前に被告が製造していた半導体パッケージの表面は光沢があるのに対し,原告が本件発明をした後に被告が製造していた半導体パッケージの表面は光沢がない,②被告が使用していた樹脂封止金型の壁面の一部は,光沢仕上げであったが,鏡面仕上げでなく,これも粗面状に形成されていたものといえると主張する。しかしながら,①については,証拠(甲30の2)によれば,キャビティの壁面とランナの壁面は別々に開発されていたことが認められるから,半導体パッケージの表面に光沢がないことは,キャビティの壁面が粗面状であることを示すにとどまり,ランナの壁面も粗面状であることを示すものでない。また,②については,証拠(甲48の2)によれば,光沢仕上げの表面粗さは,最大でも0.3μmRzであることが認められるから,樹脂に摩擦抵抗を与え,渦流を発生させて温度分布を一様にし,樹脂のキャビティへの移送を円滑にするとともに,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したりし,気泡のキャビティへの流入を軽減させる程度の粗さとは認められない。原 ティへの移送を円滑にするとともに,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したりし,気泡のキャビティへの流入を軽減させる程度の粗さとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。 (イ) 前記(ア)認定の事実を総合すれば,被告は,自らが製造販売する全- 22 - 半導体製品のうち,平成5年3月末には約7.7%,平成6年3月末には約7.1%,平成7年3月末及び平成8年3月末には約10.3%,平成9年3月末には約11.9%,平成10年3月末には約13.3%,平成11年3月末には約16.1%,平成12年3月末には約18. 8%,平成13年3月末には約21.2%,平成14年3月末以降には約22.4%について,本件発明の技術的範囲に属する半導体樹脂封止金型を用いて製造し,本件発明を自ら実施していたことを推認することができる。 被告は,①マルチポット方式の樹脂封止金型がランナを有しないから,本件発明を実施していない,②樹脂封止金型において樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりボイドやブリスタ等の成形不良が生じたりするという問題に対しては,マルチポット方式の樹脂封止金型を採用したり樹脂の原料や製法を改良したりすることによって解決していたから,本件発明を実施する必要がなかった,③本件発明が新規性を欠いて特許無効審判により無効にされるべきものでないことは,当事者間に争いがないところ,被告は,本件発明に係る特許出願の前に公然と樹脂封止金型を使用し,同出願の後も当該樹脂封止金型を使用していたから,本件発明は,当該樹脂封止金型で実施された発明と同一でなく,被告は,自ら本件発明を実施していなかったはずであると主張する。しかしながら,①については,証拠(甲19,25,26の を使用していたから,本件発明は,当該樹脂封止金型で実施された発明と同一でなく,被告は,自ら本件発明を実施していなかったはずであると主張する。しかしながら,①については,証拠(甲19,25,26の1ないし4,乙14,15,19,24,25)によれば,複数個のポットを有するマルチポット方式の樹脂封止金型には,ランナを有するものとランナを有しない- 23 - ものの両方があることが認められるから,マルチポット方式の樹脂封止金型であるからといって,ランナを有しないとは限らない。また,②については,証拠(甲1の2,19,30の2,35の1及び2,36,42の2,43,44,45の1及び2,46,47,49の3,乙9,10,12の1ないし3,15,16,19,24)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,従来,1個のポットと壁面が光沢状で長い流路を有するシングルポット方式の半導体樹脂封止金型を用いて半導体装置を製造していたが,流路が長いために樹脂の歩留りが低かったり樹脂が各キャビティに充填しきれなかったりするなどの問題があったこと,そこで,被告は,昭和60年,複数個のポットと壁面が光沢状で短い流路を有するマルチポット方式の半導体樹脂封止金型を用いて半導体装置を製造するようにしたところ,上記問題がおおむね解決したため,本件発明を実施していなかったこと,しかし,同年ころから,半導体装置を基板に取り付ける方法として,はんだと共に200℃以上まで加熱する表面実装方式が広く用いられるようになって,樹脂内の水分が気化して樹脂にクラックが生じやすくなり,これに対しては高接着性樹脂の使用等が検討されたが,逆に離型性が低下するという問題が生じたこと,また,半導体装置の小型化に伴い,樹脂内の気泡等に由来するボイドが不良品の主な原因を占めるようになり,被告は, しては高接着性樹脂の使用等が検討されたが,逆に離型性が低下するという問題が生じたこと,また,半導体装置の小型化に伴い,樹脂内の気泡等に由来するボイドが不良品の主な原因を占めるようになり,被告は,平成4年ころから,低揮発性樹脂の使用や硬化促進剤の減量等を検討したが,十分な効果を得られなかったこと,これに対し,本件発明は,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したり- 24 - して気泡のキャビティへの流入を軽減させるだけでなく,表面粗さを調節すれば離型性も向上させること等が判明していたことから,被告は,同年ころ,TOWAからの提案を受け,本件発明を実施するようになったことが認められるから,これらの事実によると,本件発明を実施する必要があったものといえる。さらに,③については,被告が本件発明に係る特許出願の後に使用していた本件発明の技術的範囲に属する樹脂封止金型を上記特許出願の前から使用していたことを認めるに足りる証拠はない。被告の上記主張は,採用することができない。 (3) 想定実施料についてア半導体製品の売上高から算出した想定実施料について(ア) 被告の自己実施による売上高についてa 本件発明と相当因果関係がある被告の利益前記(2)イ(イ)②に関して認定した事実によれば,被告は,従来から,樹脂封止金型を用いて半導体装置を製造していたところ,本件発明を自ら実施することにより,半導体装置の歩留りを向上させ,向上した歩留り分の半導体装置を含む半導体製品を販売して利益を得ていたものといえる。そして,本件発明の実施に係る樹脂封止金型は,半導体装置の製造に用いられるものであり,被告は,半導体製品の製造及び販売等を業とするのであるから,被告が得ていた を販売して利益を得ていたものといえる。そして,本件発明の実施に係る樹脂封止金型は,半導体装置の製造に用いられるものであり,被告は,半導体製品の製造及び販売等を業とするのであるから,被告が得ていた上記利益は通常生ずべき利益であり,本件発明と上記利益との間には相当因果関係があるというべきである。 被告が本件発明を自ら実施することによって向上した歩留り分の半- 25 - 導体装置を含む半導体製品の売上高は,被告とその関連会社が実施していた期間に製造した半導体製品の売上高に,①被告とその関連会社がTOWAに製作させた半導体樹脂封止金型の数に対して被告がTOWAに製作させた半導体樹脂封止金型の数が占める割合,②被告が製造した半導体製品の数に対して本件発明の技術的範囲に属する半導体樹脂封止金型を用いて製造した半導体製品の数が占める割合(前記(2)イ(ア)の割合)及び③被告が本件発明を自ら実施することによって向上した半導体装置の歩留りの割合をそれぞれ乗じる方法で算出するのが相当である。 まず,被告が本件発明を自ら実施していた期間は,TOWAに対して本件発明の技術的範囲に属する半導体樹脂封止金型に係る仕様書を初めて作成させた平成4年7月2日の約2月後である同年9月1日から本件特許権が消滅した日の前日である平成17年12月15日までと認めるのが相当である。 また,証拠(甲29の6ないし19,30及び41の各2)によれば,被告とその関連会社が製造した半導体製品の売上高は,平成4年度(同年4月から翌年3月まで。以下同じ。)が約1508億7000万円,平成5年度が約1723億9400万円,平成6年度が約1873億1100万円,平成7年度が約2141億2600万円,平成8年度が約1313億3800万円,平成9年度が約1350億2400万円, 円,平成5年度が約1723億9400万円,平成6年度が約1873億1100万円,平成7年度が約2141億2600万円,平成8年度が約1313億3800万円,平成9年度が約1350億2400万円,平成10年度が約1167億4100万円,平成11年度が約1591億7800万円,平成12年度が約1819億円,平- 26 - 成13年度が約1136億円,平成14年度が約1192億円,平成15年度が約1322億円,平成16年度が約1507億円,平成17年度が約1507億円であったこと,被告の関連会社は,別表2のとおり,昭和63年から平成16年までの間に,TOWAに27台の半導体樹脂封止金型を製作させたことが認められる。 さらに,証拠(甲33,34)によれば,半導体装置は,精密なために,歩留りが低くなりやすいことが認められ,これに本件発明が成果顕著なものであったという理由で原告が被告から実施評価優秀賞を授与されたことを併せ考慮すれば,被告が本件発明を自ら実施することによって向上した半導体装置の歩留りの割合は,20%と認めるのが相当である。 そうすると,被告が本件発明を自ら実施することによって向上した歩留り分の半導体装置を含む半導体製品の売上高は,次の計算式のとおり,合計459億3399万6160円となる。 (計算式)平成4年度:1508.70億円×7月(同年9月ないし平成5年3月)/12月×52台/64台×0.077×0.2=11億0119万3843円平成5年度:1723.94億円×52台/64台×0.077×0.2=21億5707万9925円平成6年度:1873.11億円×56台/68台×0.071×0.2=21億9043万6870円平成7年度:2141.26億円× 0.2=21億5707万9925円平成6年度:1873.11億円×56台/68台×0.071×0.2=21億9043万6870円平成7年度:2141.26億円×58台/71台×0.103×0.2- 27 - =36億0334万8518円平成8年度:1313.38億円×58台/73台×0.103×0.2=21億4962万5238円平成9年度:1350.24億円×59台/75台×0.119×0.2=25億2800万9344円平成10年度:1167.41億円×60台/76台×0.133×0.2=24億5156万0999円平成11年度:1591.78億円×62台/80台×0.161×0.2=39億7228万6990円平成12年度:1819億円×64台/82台×0.188×0.2=53億3809万9512円平成13年度:1136億円×66台/84台×0.212×0.2=37億8450万2857円平成14年度:1192億円×67台/87台×0.224×0.2=41億1253万7011円平成15年度:1322億円×67台/93台×0.224×0.2=42億6679万0537円平成16年度:1507億円×67台/93台×0.224×0.2=48億6388万3010円平成17年度:1507億円×259日/365日×67台/94台×0.224×0.2=34億1464万1506円 (1円未満切捨て)b 寄与度による減額- 28 - 半導体製品の機能は,演算処理をして特定の働きをすることにあり,この 34億1464万1506円 (1円未満切捨て)b 寄与度による減額- 28 - 半導体製品の機能は,演算処理をして特定の働きをすることにあり,この機能を有するのは,専ら半導体装置中のチップであって,製造の手間と費用も精密なチップに集中することは明らかである。証拠(甲32)によれば,チップ等を封止するパッケージの機能は,チップを外気から遮断して保護することにあることが認められるから,樹脂から成型されるパッケージは,半導体製品の補助的な部材にすぎず,半導体製品を購入する際の動機の形成に寄与するものとも考え難く,半導体樹脂封止金型は,チップ等を封止する道具にすぎない。 これらの事情を総合すれば,被告が本件発明を自ら実施することによって向上した歩留り分の半導体装置を含む半導体製品における本件発明の寄与率は,1%であると認めるのが相当である。 そうすると,被告が本件発明を自ら実施することによって向上した歩留り分の半導体装置を含む半導体製品の売上高は,4億5933万9961円(1円未満切捨て)に減額される。 (イ) 被告の独占的自己実施による売上高について証拠(乙22の1及び2)によれば,昭和58年3月23日に公開された実開昭58-42938号に係る公報の第1図には,従来技術として,被樹脂封止装置を収容する複数個のキャビティと,該キャビティに樹脂を導入するランナ及びポットとを有する樹脂封止金型において,前記キャビティと前記ランナにおける前記樹脂に接する壁面をEDM法で形成した樹脂封止金型が開示されていることが認められるから,本件発明に技術的な優位性があったとはいい難い(原告は,EDM法につき,- 29 - 本件発明に係る特許出願前は表面粗さが10μm で形成した樹脂封止金型が開示されていることが認められるから,本件発明に技術的な優位性があったとはいい難い(原告は,EDM法につき,- 29 - 本件発明に係る特許出願前は表面粗さが10μmRmax程度と粗く,離型性が低かったのに対し,本件発明は表面粗さが最小8μmRmaxと細かく,離型性が高かったため,技術的な優位性があったと主張するが,本件発明は表面粗さをその構成要素とするものでないから,採用の限りでない。)。 また,本件発明は,前記(2)ア(ウ)のとおり,樹脂封止金型において,樹脂に摩擦抵抗を与え,渦流を発生させて温度分布を一様にし,樹脂のキャビティへの移送を円滑にするとともに,波の発生を抑えて空気の巻き込みを軽減したり樹脂中に混入している気泡を移送中に付着吸収したりし,気泡のキャビティへの流入を軽減させる効果を有するにとどまり,樹脂のキャビティへの移送を確実に行わせたり,気泡のキャビティへの流入を完全になくす効果を有するものではない。 そして,証拠(甲25,26の3,30の2,43,乙15,19,20,25)及び弁論の全趣旨によれば,従来,シングルポット方式の半導体樹脂封止金型には,流路が長いために樹脂の歩留りが低かったりキャビティの位置次第で成型品の品質にばらつきが生じやすかったりするという問題があったが,昭和54年7月,ポットを複数個にして樹脂の移送距離を短くしたマルチポット方式の半導体樹脂封止金型に関する考案が,TOWAの関係者から実用新案登録出願され,上記問題をおおむね解決するものであったことから,昭和58年ころから,マルチポット方式の半導体樹脂封止金型がシングルポット方式の半導体樹脂封止金型に代わって使用されるようになり,被告は,本件発明について実施許- 30 - 諾の申入れを受けるこ 58年ころから,マルチポット方式の半導体樹脂封止金型がシングルポット方式の半導体樹脂封止金型に代わって使用されるようになり,被告は,本件発明について実施許- 30 - 諾の申入れを受けることがなかったことが認められる。 しかし,前記(2)イ(イ)②に関して認定した事実のとおり,昭和60年ころから,表面実装方式が広く用いられるようになって,樹脂にクラックが生じやすくなり,高接着性樹脂の使用等が検討されたが,逆に離型性が低下するという問題が生じた上,半導体装置の小型化に伴い,樹脂内の気泡等に由来するボイドが不良品の主な原因を占めるようになり,低揮発性樹脂の使用等も検討されたが,十分な効果を得られなかったところ,本件発明は,気泡のキャビティへの流入を軽減させるとともに,表面粗さを調節すれば離型性も向上させること等が判明していたことから,被告は,平成4年ころ,TOWAからの提案を受け,本件発明を実施するようになったものである。そして,証拠(甲49の3)によれば,TOWAは,平成5年ころから,被告以外の顧客に対しても,ランナ等における樹脂に接する壁面をEDM法で形成したマルチポット方式の半導体樹脂封止金型を製作するようになったことが認められる。 そうすると,本件発明は,技術的な優位性に乏しい上,従来技術の問題を完全に解決するものでなく,代替技術も存在したものであるが,半導体製品やその製造方法の改良を受けて,代替技術と共に併用されるようになったから,実施の必要性は相応にあったものということができる。 以上の事情を総合的に考慮すると,被告が本件発明を自ら実施することによって向上した歩留り分の半導体装置を含む半導体製品の売上高に占める超過売上高の割合は,20%であると認めるのが相当である。 (ウ) 想定実施料の額について- 発明を自ら実施することによって向上した歩留り分の半導体装置を含む半導体製品の売上高に占める超過売上高の割合は,20%であると認めるのが相当である。 (ウ) 想定実施料の額について- 31 - 証拠(甲1の2,6,15,49の3,乙16,22の2)によれば,本件発明は,表面粗さを調節すれば,離型性や捺印付着性が向上するという副次的効果も有すること,しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明が専らシングルポット方式の樹脂封止金型における問題点を解決するものとして記載され,マルチポット方式の樹脂封止金型における問題点を解決するものとしては明記されていないため,本件発明は,一見するとマルチポット方式の樹脂封止金型には適用されないものと誤解されやすく,実施許諾の申入れを受けにくいものであったことが認められる。 以上の事情に,前記(イ)の事情のほか本件に現れた諸事情を総合的に考慮すると,本件発明の想定実施料の率は,2%であると認めるのが相当である。そうすると,その額は,次の計算式のとおり,183万7359円となる。 (計算式)4億5933万9961円×0.2×0.02=183万7359円(1円未満切捨て)イ実施貢献度から算出した想定実施料について原告は,被告の評価基準によれば,1等級の実施貢献度を得るには,被告が自ら本件発明を実施することによって得られた3年間の売上高が5億円以上であることが必要であるとして,被告が自ら本件発明を実施することによって得られた売上高は31億5400万円を下らず,想定実施料の額も31億5400万円を下らないと主張する。しかしながら,被告が本件発明を自ら実施することによって得られた売上高は,前記ア(ア)bのとおり,4億5933万9961円であって,これに ,想定実施料の額も31億5400万円を下らないと主張する。しかしながら,被告が本件発明を自ら実施することによって得られた売上高は,前記ア(ア)bのとおり,4億5933万9961円であって,これに限られる。原告の上- 32 - 記主張は,採用することができない。 (4) したがって,本件発明により被告が受けるべき利益の額は,183万7359円である。 2 争点②(本件発明がされるについて被告が貢献した程度)について証拠(甲6,22,37)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,昭和58年ころ,EPROM装置の樹脂封止工程において金属細線の変形や断線が多発したことから,その問題を解決するため,樹脂の注入経過を観察していたところ,樹脂の先端に気泡が発生していることを発見し,本件発明を着想したことが認められる。 そうすると,原告は,被告から発明の課題を直接は提供されていないものの,着想の契機を提供され,被告の研究施設や資機材を用いて本件発明に至ったものということができる。 以上の事情を総合的に考慮すると,本件発明がされるについて被告が貢献した程度は,75%であると認めるのが相当である。 3 争点③(共同発明者の有無)について証拠(甲28)及び弁論の全趣旨を総合すれば,Bは,原告が本件発明をした当時,原告の上司であったこと,Bを共同発明者として特許出願したのは,Bが原告に対して樹脂に気泡が発生することをメルトフラクチャー現象という旨教えたことによるものであることが認められる。 そうすると,Bは,本件発明の技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担していないから,本件発明の共同発明者であると認めることはできない。 したがって,本件発明には,共同発明者がいない。 - 33 - 件発明の技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担していないから,本件発明の共同発明者であると認めることはできない。 したがって,本件発明には,共同発明者がいない。 - 33 - 4 以上によれば,相当の対価の額は,次の計算式のとおり,45万9399円となり,支払済みの報奨金16万3000円を控除すれば,未払の相当の対価の額は,29万6399円となる。 (計算式)183万7359円×(1-0.75)=45万9399円 (1円未満切捨て) 5 よって,原告の請求は,相当の対価29万6399円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成22年10月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官高野輝久 裁判官三井大有 裁判官志賀勝 (本判決添付の特許公報は,掲載を省略)
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