平成29(ワ)21107 不正競争行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年3月19日 東京地方裁判所
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判決文本文16,345 文字)

平成30年3月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成29年(ワ)第21107号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成30年1月25日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告商品目録記載の商品を譲渡し,販売し,販売のために展示し,又は輸出してはならない。 2 被告は,前項記載の商品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,880万円及びこれに対する平成29年6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は,原告が,被告に対し,被告の販売に係る別紙被告商品目録記載の商品(サックス用ストラップ。以下「被告商品」という。)は,原告の販売に係る別紙原告商品目録記載のサックス用ストラップ(以下「原告商品」という。)の形態を模倣した ものであり,被告による被告商品の譲渡(「販売」は,「譲渡」に含まれる。),販売のための展示及び輸出(以下,これらを併せて「販売等」ということがある。)は,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争行為(商品形態模倣行為)に該当すると主張して,同法3条1項に基づき被告商品の販売等の差止めを,同条2項に基づき同商品の廃棄を,同法4条,5条2項に基づき,平成28年1 1月頃から訴状提出日である平成29年6月23日までの被告商品の販売につき,不 法行為による損害賠償金880万円及び不法行為後の日である平成29年6月23日(訴状提出日)からの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求 9年6月23日までの被告商品の販売につき,不 法行為による損害賠償金880万円及び不法行為後の日である平成29年6月23日(訴状提出日)からの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者 原告は,楽器及び楽器パーツの製造,販売等を業とする株式会社である。 被告は,管楽器,管楽器用リード等の管楽器パーツ・アクセサリーの開発,販売等を業とする株式会社である。 ⑵ 原告商品原告は,原告商品を販売している。原告商品は,モデルチェンジされた後の商品で あり,モデルチェンジ前の商品は,別紙旧原告商品目録記載のサックス用ストラップ(以下「旧原告商品」という。)である。 原告商品の形態は,別紙「原告商品の形態」の「全体的形態(外側)」,「全体的形態(内側)」,「革パッド(外側)」,「革パッド(内側)」,「ブレードクリンチ」,「V型プレート」,「ブレード(紐)」,「フック」の各写真に示されるとおりである。 原告商品は,①革パッド,ブレードクリンチ,V型プレート,ブレード(紐)及びフックの5 つのパーツにより構成されていること,②ブレードクリンチは,留めネジでブレード(紐)を固定する構造となっており,留めネジを外すことでブレード(紐)をほどくことができるため,この構造により上記の5 つのパーツを分解・交換することができること,③各パーツはカラーバリエーションや材質・サイズ違いのものが取 り揃えられ,個別に販売されており,各パーツの自由な取替え・組合せが可能なこと,④一般的なサックス用ストラップの構造とは異なり,V型プレートによって,ストラップ装着時に首元を圧迫しない構造となっており,スムーズに楽器に吹き込むこと ,各パーツの自由な取替え・組合せが可能なこと,④一般的なサックス用ストラップの構造とは異なり,V型プレートによって,ストラップ装着時に首元を圧迫しない構造となっており,スムーズに楽器に吹き込むことができるようになっていること,⑤V型プレートにブレード(紐)を通す構造とすることで,長さ調整を片手で容易に行うことができること,⑥革パッドの形状等デザイン を工夫することで首にしっかりフィットし,首や肩等の体にかかる負担を軽減するこ とという特徴を有している。 ⑶ 被告商品被告は,被告商品を販売又は輸出している。被告商品の形態は,別紙「被告商品の形態」の「全体的形態(外側)」,「全体的形態(内側)」,「革パッド(外側)」,「革パッド(内側)」,「ブレードクリンチ」,「V型プレート」,「ブレード(紐)」,「フック」の 各写真に示されるとおりである。 ⑷ 原告商品と被告商品の構成態様原告商品の構成態様は,別紙「原告商品と被告商品の各構成態様」の「原告商品」欄に記載のとおりであり,被告商品の構成態様は,同別紙の「被告商品」欄に記載のとおりである。 3 争点⑴ 被告商品は原告商品の形態を模倣したものといえるか(争点1)⑵ 原告商品の形態が「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」に該当するか(争点2)⑶ 原告商品が日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過し たか(争点3)⑷ 原告は本件請求の請求権者に該当するか(争点4)⑸ 原告の損害の有無及びその額(争点5)第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(被告商品は原告商品の形態を模倣したものといえるか)について 【原告の主張】⑴ 被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であることア 点に対する当事者の主張 1 争点1(被告商品は原告商品の形態を模倣したものといえるか)について 【原告の主張】⑴ 被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であることア原告商品と被告商品の構成態様は,別紙「原告商品と被告商品の各構成態様」記載のとおりである。このように,被告商品の形態は,全体的形態及び各パーツの形態において原告商品との間で極めて多数の共通点が認められ,形状,色彩,光沢,質 感等が酷似しており,原告商品の形態と同一又は実質的に同一である。 イ被告は,原告商品の特徴と同様の特徴を備えた先行商品が既に存在していることから,原告商品と被告商品との共通点がありふれたものである旨主張するが,原告商品は,多様な選択肢があり得るなかで具体的形態に工夫を凝らし,特有の形状と美観を有している点で,先行商品とは機能的特徴が一致せず,形状,色彩,光沢,質感等が全く異なるから,サックス用ストラップの形態としてありふれた形態とはいえず, 被告商品との共通点もありふれたものとはいえない。 また,被告は,原告商品の形態と被告商品の形態との間に相違点があることから,両商品に実質的同一性がないと主張するが,被告が相違点として主張する点はいずれも数が限られており,商品の全体的形態に与える変化に乏しく,商品全体からみるとささいな相違にすぎないから,両商品の形態の実質的同一性は否定されない。 ウ原告商品の形態と被告商品の形態の実質的同一性の判断に当たって,旧原告商品から原告商品にモデルチェンジした部分に基礎を置くとしても,モデルチェンジ前後で大きく形状が異なり,需要者が着目する特徴的形状を有するV型プレート及び革パッド,モデルチェンジによって色や柄を変更した紐について,原告商品の形態と被告商品の 礎を置くとしても,モデルチェンジ前後で大きく形状が異なり,需要者が着目する特徴的形状を有するV型プレート及び革パッド,モデルチェンジによって色や柄を変更した紐について,原告商品の形態と被告商品の形態とは極めて多数の共通点を有し,形状,色彩,光沢,質感等が酷似して いるから,その余の形態が酷似していることと相まって,被告商品の形態は,全体の美観において,原告商品の形態と酷似しているといえる。 ⑵ 被告が原告商品に依拠したことア原告商品の音楽業界での認知度は,サックス等の木管楽器奏者,木管楽器及びその関連製品を取り扱う業者等にあっては,原告商品を知らない者はいないと言って も過言ではないくらい,極めて高い。また,原告代表者と被告代表者は,平成23年ころ,雑誌社の紹介で知り合い,平成24年ころからは,原告代表者が当時勤務していたオーディオ等販売店と,被告代表者がその当時営んでいた会社において,ビジネス関係があり,原告が設立されて以降は,原告との間でもビジネス関係があった。すなわち,被告代表者の会社は,原告が企画・販売していたサックス用ストラップ(バ ードストラップ)について,その輸出等に協力する形で,ビジネス関係を有していた。 原告商品は,被告商品の販売前から市場において流通していたのであり,同業者かつ上記関係のある被告は,原告商品の形態を知りうる立場にあったし,当然それを知っていた。さらに,平成28年11月ころ,原告が,被告商品が原告商品を模倣していることを知りこれを被告代表者に電話で指摘した際,被告代表者は,これを認めるとともに,当該電話の後には,原告代表者に対し,商品形態を模倣したことについて弁 明する旨のメールを送付した。 したがって,被告は,原告商品に依拠して被告商品を開発したものである。 イ 認めるとともに,当該電話の後には,原告代表者に対し,商品形態を模倣したことについて弁 明する旨のメールを送付した。 したがって,被告は,原告商品に依拠して被告商品を開発したものである。 イ被告は,被告商品は,台湾の会社において先行商品を参考に開発されたものであり,被告が原告商品に依拠して開発したものではない旨主張する。しかし,先行商品と原告商品とは機能的特徴が一致せず,形状,色彩,光沢,質感等が全く異なる。 また,原告商品は,海外の世界的楽器フェアで展示され,海外の販売店でも取扱いがあるなどして,世界中からアクセス可能であるから,台湾の会社が原告商品にアクセスすることも可能であった。さらに,被告が被告商品の開発者であるとするAは,平成24年10月に上海の楽器フェアで原告代表者と出会って以降原告代表者と面識があり,原告が商品展開するバードストラップの存在を認識している。したがって, 被告商品が原告商品に依拠して開発されたものであることは否定されない。 ⑶ 小活以上より,被告商品は,原告商品の形態を模倣した商品(不競法2条1項3号)である。 【被告の主張】 ⑴ 被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一ではないことア原告商品と被告商品とは,革パッドの長さ,厚み,色,形状等,V型プレートの形状,ブレードクリンチのロゴの内容・艶の有無・角度,フックの大きさ・形状・溝の有無・色,ブレード(紐)の通り方の点で異なり,全体として観察すると美観や機能の点で大きく異なるのであるから,実質的に同一の形態とはいえない。 イ原告が原告商品の特徴として主張する点は,いずれも原告商品より前に販売又 は公開されていた先行商品(乙1(THEORIGINALCEBULLASAX-STRAP・1 い。 イ原告が原告商品の特徴として主張する点は,いずれも原告商品より前に販売又 は公開されていた先行商品(乙1(THEORIGINALCEBULLASAX-STRAP・1996年発売),乙2(ProtecLC305MNeckStrap・遅くとも平成25年2月4日発売),乙3(国際公開第00/41589号・2000年7月20日公開),乙4(再公表特許第08/107939号・平成20年9月12日公開)及び乙5(新型説明書公告本TWM443110U1・2012年12月11日公開))に現れ,一般的に知れ渡っている 点ばかりであり,いずれもサックス用ストラップの一般的な形態であるから,ありふれた形態である。原告商品の形態と被告商品の形態との共通点は,このようなありふれた形態にすぎない。 ウ原告がモデルチェンジによって変更されたと指摘するV型プレート,革パッド,ブレード(紐)について詳しく見ると,原告商品のV型プレートと被告商品のV型プ レートでは,①プレートの中心から両端までの曲線の角度,②中心部のくぼみの有無,③色彩,④穴の位置が異なり,美観は大きく異なる。革パッドは,横軸の全長が原告商品のほうが約2㎝長い上,中央上部の形状が原告商品は窪みがあってM字状になっているのに対し,被告商品はなだらかな山形状である。ブレード(紐)は,V型プレートに対する通り方が異なる。 ⑵ 被告が原告商品に依拠していないことア被告商品は,平成28年12月から平成29年1月に商品化されたものであるが,台湾在住のAが台湾所在の藝想文創有限公司に委託して,上記の先行商品を参考に開発・製作し,被告に輸出したものであるから,原告商品に依拠して開発したものではない。 イ原告は,被告代表者が原告の商品形態 が台湾所在の藝想文創有限公司に委託して,上記の先行商品を参考に開発・製作し,被告に輸出したものであるから,原告商品に依拠して開発したものではない。 イ原告は,被告代表者が原告の商品形態を模倣したことを認め,これについて弁明する旨のメールを送付した旨主張するが,同メールの文言を見ても被告代表者が原告の商品形態を模倣したこと認める旨をうかがうことはできない。 2 争点2(原告商品の形態が「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」に該当するか)について 【被告の主張】 サックス用ストラップは,演奏者がサックスをぶら下げて,両手で演奏できるための道具である。当該サックス用ストラップの機能や効用は,演奏に支障がでないように呼吸を確保しながら楽な姿勢で演奏できる状態を保つ点にある。この機能や効用を保つためには,演奏者の呼吸を妨げることがあってはならず,また首や肩にかかる荷重を分散する必要がある。したがって,原告商品の特徴である④V型プレートによっ て,ストラップ装着時に首元を圧迫しない構造にすること,⑥革パッドにパットを入れて衝撃を緩和することは,上記機能や効用を保つ上で不可欠の形態といえる。そして,V型プレートと革パッドをつなぐために,ブレード(紐)でつなぐ必要があり,また,V型プレートにサックスをつなぐフックをブレード(紐)でつなぐ必要がある。 ブレード(紐)で接続するために,各部位に穴を開ける必要がある。また,演奏者に よって身長・腕・肩・胴の長さが異なることから,個人の体にフィットさせるために,①②③個々のパーツを分解したり,⑤長さを調整できるようできるよう調整できるようにする必要がある。このためにも,V型プレートに穴を開けてブレード(紐)を通す構造にする必要があるのである。 以上のとおり, 個々のパーツを分解したり,⑤長さを調整できるようできるよう調整できるようにする必要がある。このためにも,V型プレートに穴を開けてブレード(紐)を通す構造にする必要があるのである。 以上のとおり,原告が主張する原告商品の特徴①ないし⑥は,いずれもサックス用 ストラップの機能を確保するために不可欠な形態であるから,原告商品の形態は「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」に該当する。 【原告の主張】サックス用ストラップにおいて,「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」とは,首から下げられる帯状又は紐状の輪に,サックスを引っかけるフックが付いて いるという形態であるが,原告商品の全体的形態は,単なる帯状又は紐状の輪にフックを付けたものではなく,革パッド,V型プレート,ブレードクリンチ,ブレード(紐),フックのフォルム,サイズ,材質,色彩等について多様な選択肢があり得るなかで,工夫を凝らして特有の美観を有しているから,「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」ではない。 3 争点3(原告商品が日本国内において最初に販売された日から起算して3年を 経過したか)について【被告の主張】ア原告商品は,遅くとも平成25年6月19日の時点において販売されており,本件訴訟が提起された平成29年6月23日の時点において既に3年を経過している。 イ原告は,平成25年6月19日の時点において販売されていたのは,旧原告商品であり,原告商品の販売開始時期は平成28年3月頃である旨主張する。しかし,モデルチェンジの前後の形態が実質的に同一である場合には,モデルチェンジ前の商品が最初に販売された時点がモデルチェンジ後の商品の「最初に販売された日」であると解されるところ,原告商品と旧原告商品の モデルチェンジの前後の形態が実質的に同一である場合には,モデルチェンジ前の商品が最初に販売された時点がモデルチェンジ後の商品の「最初に販売された日」であると解されるところ,原告商品と旧原告商品の革パッド,V型プレート,ブレードク リンチ,ブレード(紐)の通し方,フックは,美観が共通し,実質的に同一であるから,旧原告商品が販売されていた遅くとも平成25年6月19日の時点が原告商品の「最初に販売された日」である。 ウ原告が原告商品と旧原告商品との相違点として指摘するV型プレート,革パッド及びブレード(紐)を見ても,以下のとおり,各パーツの基本形態を維持した軽微 な変更にすぎない。 原告商品と旧原告商品のV型プレートは,中央下部の幅,4個の穴の位置,それぞれの穴の距離,中央下部の窪みの位置・角度,両翼下部の角度,両翼の長さ,両翼の穴の位置が共通している。主たる相違点は,上部のみであり,原告商品のV型プレートは,旧原告商品のV型プレートの中央から左右に伸びる両翼のうち,上部のみ を削ったにすぎない。 革パッドの長さや中央上部の形状部分の相違点はわずかな違いにすぎず,形態の変更とはいえない。 ブレード(紐)の色彩は変化しているが,そもそも原告は各パーツをばら売りしており,モデルチェンジ前の色彩の紐も販売されているから,色彩がモデルチェン ジされたとはいえないし,長さの変更もささいなものにすぎない。 【原告の主張】ア原告商品の販売開始時期は,平成28年3月頃である。 イ被告は,原告商品は遅くとも平成25年6月19日の時点において販売されていたと主張するが,これは原告商品ではなく,モデルチェンジ前の商品である旧原告商品である。原告商品は,旧原告商品に機能上及び外観上の改良を 告商品は遅くとも平成25年6月19日の時点において販売されていたと主張するが,これは原告商品ではなく,モデルチェンジ前の商品である旧原告商品である。原告商品は,旧原告商品に機能上及び外観上の改良を加えてモデルチェ ンジした商品であり,原告商品と旧原告商品とは実質的に同一とはいえないから,原告商品の販売開始時期は平成28年3月頃であり,3年は経過していない。 ウ原告商品と旧原告商品とは,特にV型プレート,革パッド及びブレード(紐)において,大きく相違している。 原告商品のV型プレートは,旧原告商品のV型プレートと比べ,中央から左右 に伸びる両翼の形,角度,幅等の形状が大きく変更されており,両者の形態は実質的に異なっている。V型プレートは,原告商品が他のサックス用ストラップと異なる特徴的形状を有する原告製品の「顔」ともいうべき部分であり,その全体的形態の中でも需要者が最も着目する部分である。 原告商品の革パッドは,旧原告商品の革パッドと比べ,中央部から左右の端ま での長さがそれぞれ約2.5㎝長くなり,旧原告商品の革パッドの中央上部にあった山のような形状部分をなくしてくぼみを設けることで,革パッドが演奏者の首の後ろにフィットする形状となった。革パッドも需要者が着目し,特徴的形状を有している部分である。 原告商品のブレード(紐)は,旧原告商品のブレード(紐)が白色をベースに 灰色の模様が入ったものであったのが,黒色一色に変更され,長さも変更された。 4 争点4(原告は本件請求の請求権者に該当するか)について【原告の主張】原告商品は,他社が開発した先行商品と同様の商品ではなく,原告自らの費用で自社ブランド商品である原告商品を設計,開発,製造を行ったものであるから,本件請 求の請求権者に該当する 原告の主張】原告商品は,他社が開発した先行商品と同様の商品ではなく,原告自らの費用で自社ブランド商品である原告商品を設計,開発,製造を行ったものであるから,本件請 求の請求権者に該当する。 【被告の主張】不競法2条1項3号は,他人が商品化のために資金・労力を投下した成果を他に選択肢があるにもかかわらず殊更完全に模倣する行為を防止する趣旨の規定であるから,この趣旨からすると,「自ら費用,労力を投下して,当該商品を開発して市場においた者」のみが請求権者となると考えられる。しかるに,原告商品は,既に他社が開 発し市場に流通している先行商品と同様の商品であり,原告は実質的に見て「自ら費用,労力を投下して,当該商品を開発して市場におかれた者」とはいえない。したがって,原告は請求権者に該当しない。 5 争点5(原告の損害の有無及びその額)について【原告の主張】 被告は,被告商品を,平成28年11月頃から訴状提出日である平成29年6月までの約8か月間において,少なくとも毎月250本,合計2000本販売した。被告商品の販売価格は,1本1万円であり,その利益額は1本4000円であるから,原告の得た利益額は,800万円(=4000×2000)となる。また,本件訴訟追行のための弁護士費用は80万円が相当である。 したがって,原告は,被告に対し,不競法4条及び5条2項に基づき,損害賠償として880万円及び不法行為後の日である平成29年6月23日(訴状提出日)から民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 【被告の主張】否認し,又は争う。 被告は,被告商品を現在まで87本程度しか販売しておらず,一本当たりの粗利益は約1844円程度しかない。また,原告商品は日本国内を市場と める。 【被告の主張】否認し,又は争う。 被告は,被告商品を現在まで87本程度しか販売しておらず,一本当たりの粗利益は約1844円程度しかない。また,原告商品は日本国内を市場としており,海外には販売されていないが,被告商品は日本国内では販売されておらず,海外のみで販売されているから,被告商品が流通したことにより原告商品の販売個数が減少したとはいえない。 なお,原告商品と旧原告商品との実質的同一性が肯定されるとしても,原告は個々 のパーツごとに販売しているのであるから,V型プレートと革パッド以外のパーツを除外して寄与度減額すべきである。 第4 当裁判所の判断 1 争点3(原告商品が日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過したか)について 事案に鑑み,まず,争点3について判断する。 ⑴ 不競法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とするところ,その趣旨は,他人が資金,労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらず殊更模倣した商品を,自らの商品として市場に提供し,その他人と競争する行為は,模倣者においては商品化のための資金,労力や投 資のリスクを軽減することができる一方で,先行者である他人の市場における利益を減少させるものであり,事業者間の競争上不正な行為として位置付けるべきものとしたことにあると解される。そして,同号に掲げる不正競争に関して,同法19条1項5号イは,日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品について,その商品の形態を模倣した商品の譲渡等の行為について同法3条の規定を適 用しないとしているところ,上記の同法2条1項3号の趣旨からすれば,「最初に販売された日」の対象となる商品と 品について,その商品の形態を模倣した商品の譲渡等の行為について同法3条の規定を適 用しないとしているところ,上記の同法2条1項3号の趣旨からすれば,「最初に販売された日」の対象となる商品とは,保護を求める商品形態を具備した最初の商品を意味するのであって,このような商品形態を具備しつつ,若干の変更を加えた後続商品を意味するものではないと解される。 ⑵ 本件において,木管楽器用ネックストラップである「バードストラップ」シリ ーズは平成22年に販売が開始された(甲1)。原告商品は旧原告商品からモデルチェンジされ,平成28年3月頃に発売が開始されたものである(甲6)。両商品の全体的な基本的形態に変更はなく,機能的な特徴にも変更はないが(甲5。原告も自認している。),V型プレート,革パッド及びブレード(紐)が変更部分であり,具体的には別紙「原告商品と旧原告商品の変更点」の写真に示されるとおりである。 ア原告商品と旧原告商品のV型プレートは,中央下部の幅,4個の穴の位置,そ れぞれの穴の距離,中央下部の窪みの位置・角度,両翼下部の角度,両翼の長さ,両翼の穴の位置が共通するが,両翼の上部が削られてその形状及び幅が両翼にかけて細長く変更されている。上記変更により,原告商品のV型プレートの美観から受ける印象は旧原告商品のV型プレートとは相当に異なるものといえる。そうすると,上記変更は,V型プレートの形態としてはその美観において実質的に変更されたと評価し得 る変更であって,しかも,V型プレートはサックス用ストラップの美観における特徴的部分であり需要者が着目する部分であるといえるから,V型プレートの変更後の形態は,美観の点において保護されるべき形態であると認められる。もっとも,V型プレートを有するサックス用ストラップは る特徴的部分であり需要者が着目する部分であるといえるから,V型プレートの変更後の形態は,美観の点において保護されるべき形態であると認められる。もっとも,V型プレートを有するサックス用ストラップは,旧原告商品はもとより他にも同種商品が存在し(乙1,2),細長形状の形態も公開されているところであるから(乙4),ここ で保護されるのは,V型プレートの中央部の形状や両翼の角度・形状等を総合した特有の形状に限られるというべきである。 他方,原告はこの変更によってV型プレートが軽量化・スリム化されたため,サックス奏者の首に掛かる負担が軽減された旨主張するが,V型プレートが軽量化されたとしてもその程度はわずかな違いにすぎないと推測されるところであり,サックス奏 者に首に掛かる負担がどの程度軽減されたか明らかではないから,美観が変更された以上に,サックス用ストラップとしての機能に変更が加えられたものとは認められない。 イ革パッドについては,横軸の全長が40数㎝のところが中央部から左右の端までの長さがそれぞれ数㎝長くなり,また,中央上部の形状が変更されているが(甲5, 乙14),いずれも軽微な変更と評価すべきであり,保護を求める商品形態が変更されたとは認められない。 ウブレード(紐)については,色彩が白色をベースに灰色の模様が入ったものから黒色一色の模様なしのものに変更され,長さが数㎝長くなったものであるが(甲39,40),従前の色彩である白色をベースに灰色の模様が入ったブレード(紐)も個 別のパーツとして販売されており,あらかじめ同封されているものが変更されたにす ぎず(甲5,32,乙15),長さも軽微な変更と評価すべきであるから,保護を求める商品形態が変更されたとは認められない(原告自身のウェブサイトにおい じめ同封されているものが変更されたにす ぎず(甲5,32,乙15),長さも軽微な変更と評価すべきであるから,保護を求める商品形態が変更されたとは認められない(原告自身のウェブサイトにおいても,変更点とはされていない(甲5)。)。 ⑶ 以上のとおり,原告商品のV型プレートの変更部分は,商品の形態において実質的に変更されたものであり,その特有の形状が美観の点において保護されるべき形 態であると認められるから,原告商品が「日本国内において最初に販売された日」は,旧原告商品が最初に販売された日ではなく,原告商品が最初に販売された日である平成28年3月頃であると認められる。 2 争点1(被告商品は原告商品の形態を模倣したものといえるか)について被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるか否かについて検討する に,旧原告商品の不競法2条1項3号による保護期間が経過した後であっても原告商品が同号の保護を受け得るのは,そのV型プレートの変更部分が商品の形態において実質的に変更されたものであり,その特有の形状が美観の点において保護されるべき形態であると認められるからである以上,前記1⑴に説示した同号の趣旨からすれば,同号による保護を求め得るのはこの部分に基礎を置く部分に限られるというべきで ある。 そこで,原告商品と被告商品のV型プレートを比較すると,別紙「原告商品と被告商品のV型プレートの比較」の写真に示されるとおりである(乙6)。原告商品と被告商品とは,大きさはほぼ共通しており,基本的な構成態様は共通している。しかし,原告商品は,中央部の下部の2つの穴と上部の間に窪みができており,下部が丸みを 帯びているのに対し,被告商品は,中央部が下部に向かってなめらかに狭くなっており,中央部の上部の2つの穴の位置も 原告商品は,中央部の下部の2つの穴と上部の間に窪みができており,下部が丸みを 帯びているのに対し,被告商品は,中央部が下部に向かってなめらかに狭くなっており,中央部の上部の2つの穴の位置も異なっている。また,中央部の下面は,原告商品が平面であるのに対し,被告商品は湾曲している。さらに,両製品は,両翼の角度が異なるほか,先端部分の上面及び側面の角度も異なる。上記のとおり,原告商品の形態が保護されるのは,そのV型プレートの特有の形状が美観の点において保護され るべき形態であると認められるからであるが,被告商品のV型プレートは,上記のよ うな相違点があることにより,そのような特有の形状を備えているものとはいえず,美観の点において異なる印象を与えるものであるから,原告商品と被告商品のV型プレートの美観に基礎を置く部分は実質的に同一とは認められないというべきである。 したがって,被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一であるとはいえないし,また,上記認定説示したところに鑑みると,被告が原告商品に依拠したというこ ともできないから,結局,被告商品が原告商品の形態を模倣したものと認めることはできない。 3 結論以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 伊藤清隆 裁判官 西山 伊藤清隆 裁判官 西山芳樹 (別紙)当事者目録 原告株式会社タツミ楽器 同訴訟代理人弁護士棚瀬孝雄 同浦上俊一 同訴訟復代理人弁護士水野貴博 被告ForestoneJapan株式会社 同訴訟代理人弁護士岩崎章浩 同補佐人弁理士本田史樹 (別紙)被告商品目録 商品名ForestoneLeatherStrapforSaxophone 写真 (別紙)原告商品目録 商品名サックス用バードストラップ(BIRDSTRAPforSaxophone) 型番BSN-AW 写真 (別紙)旧原告商品目録 商品名サックス用バードストラップ(BIRDSTRAPforSaxophone) 型番BS-AW 写真 (別紙)原告商品の形態 全体的形態(外側) 全体的形態(内側) 革バッド(外側) 革パッド(内側) ブレードクリンチ V型プレート ブレード(紐) (内側) 革バッド(外側) 革パッド(内側) ブレードクリンチ V型プレート ブレード(紐) フック (別紙)被告商品の形態全体的形態(外側) 全体的形態(内側) 革バッド(外側) 革パッド(内側) ブレードクリンチ V型プレート ブレード(紐) フック (別紙)原告商品と被告商品の各構成態様 原告商品被告商品全体的形態 写真 A革パッド,ブレードクリンチ,V型プレート,ブレード(紐)及びフックの5つのパーツにより構成されているサックス用ストラップである革パッド,ブレードクリンチ,V型プレート,ブレード(紐)及びフックの5つのパーツにより構成されているサックス用ストラップであるBブレードクリンチの留めネジ(六角ボルト)を緩めてブレード(紐)を外すことにより,上記5つのパーツ全てを分解することが可能なつくりとなっているブレードクリンチの留めネジ(六角ボルト)を緩めてブレード(紐)を外すことにより,上記5つのパーツ全てを分解することが可能なつくりとなっている革パッド 写真 C 2枚の革を張り合わせ,内部に2つのクッションを配置したパッドであり,中央から 2枚の革を張り合わせ,内部に2つのクッションを配置したパッドであり,中央から 左右の端に向けてテーパードした形である左右の端に向けてテーパードした形であるD外側の面は 2 枚の革を張り合わせ,内部に2 つのクッションを配置したパッドであり,中央から 左右の端に向けてテーパードした形である左右の端に向けてテーパードした形であるD外側の面は,光沢のある黒色の革であり,シボ(皺)がある外側の面は,光沢のある黒色の革であり,シボ(皺)があるE内側の面は,明るめのベージュの革である内側の面は,グレーがかったベージュの革であるF革パッドの中央側に底辺,それぞれ左右に頂点のある,丸みを帯びた三角形状のクッションが2 つ設けられている革パッドの中央側に底辺,それぞれ左右に頂点のある,丸みを帯びた三角形状のクッションが2 つ設けられているG 1 つのクッションの横幅(革パッドの中央側のクッション辺の真ん中から左端ないし右端の頂点までの長さ)は約9cm,高さ(革パッドの中央側のクッション辺の長さ)は約4cm,厚みは約1cm である 1 つのクッションの横幅(革パッドの中央側のクッション辺の真ん中から左端ないし右端の頂点までの長さ)は約9.5cm,高さ(革パッドの中央側のクッション辺の長さ)は約3.5cm,厚みは約1cm であるH革パッドの中央にはクッションがなく,くぼみがある革パッドの中央にはクッションがなく,くぼみがあるI左右の端にブレード(紐)を通すための金属のハトメがある左右の端にブレード(紐)を通すための金属のハトメがあるJ革パッドの内周全体に黒糸の縫い目がある革パッドの内周全体に黒糸の縫い目があるK左右のハトメからクッションに向かって楕円状の黒糸の縫い目がある左右のハトメからクッションに向かって楕円状の黒糸の縫い目があるL革パッドの中央部から左右の端までの長さは,約22.5cmである ハトメからクッションに向かって楕円状の黒糸の縫い目がある左右のハトメからクッションに向かって楕円状の黒糸の縫い目があるL革パッドの中央部から左右の端までの長さは,約22.5cmである革パッドの中央部から左右の端までの長さは,約21.5cmであるM革パッドの中央部の幅は5.5cm である革パッドの中央部の幅は5cm である ブレードクリンチ 写真 N空洞の円柱状の金具であり,片側に若干テーパーがある空洞の円柱状の金具であり,片側に若干テーパーがあるO光沢のある黒色の金属である若干光沢のある黒色の金属であるPブレード(紐)を固定するためのシルバーの六角ボルトが表面から内側にねじ込まれているブレード(紐)を固定するためのシルバーの六角ボルトが表面から内側にねじ込まれているQ高さは約1.2cm であり,直径は約0.7cm である高さは約1.2cm であり,直径は約0.7cm であるR表面にロゴマークが付されている表面にロゴマークが付されているS革パッドの左右の両端に配置され,当該両端のハトメを通したブレード(紐)を固定している革パッドの左右の両端に配置され,当該両端のハトメを通したブレード(紐)を固定しているV型プレート 写真 T中央部の四角形状とそこから左右に伸びる辺とからなるプレートである中央部の四角形状とそこから左右に伸びる辺とからなるプレートであるU光沢のある黒色の金属である若干光沢のある黒色の金属である V中央の四角形状の部分にブレード(紐)を通すための4 つの穴がある中央の四角形状の部分にブレード(紐)を通すための4 つの 黒色の金属である若干光沢のある黒色の金属である V中央の四角形状の部分にブレード(紐)を通すための4 つの穴がある中央の四角形状の部分にブレード(紐)を通すための4 つの穴があるWV型プレートの左右の端にブレード(紐)を通すための穴が1 つずつあるV型プレートの左右の端にブレード(紐)を通すための穴が1 つずつあるX革パッドとフックの間に配置され,革パッドを通した左右のブレード(紐)をそれぞれV型プレートの左右端の穴を通して中央部でまとめ,フックをぶら下げるための構造を有している革パッドとフックの間に配置され,革パッドを通した左右のブレード(紐)をそれぞれV型プレートの左右端の穴を通して中央部でまとめ,フックをぶら下げるための構造を有しているY中央の四角形状の部分にロゴマークが付されている中央部から右に伸びる辺の部分にロゴマークが付されているZV型プレートの左右の幅(左端から右端までの直線距離)は約14cm,中央の四角形状の底辺の長さは約2cm,その高さは約3cm であるV型プレートの左右の幅(左端から右端までの直線距離)は約14cm,中央の四角形状の底辺の長さは約2cm,その高さは約2.5cm であるaV型プレートの厚みは約0.3cm であるV型プレートの厚みは約0.3cm であるブレード(紐) 写真 b黒色の編み込みの紐である黒色の編み込みの紐であるc太さ(直径)は約0.3cm である太さ(直径)は約0.3cm であるd革パッドのハトメを通ってブレード(紐)で固定され,V型プレートを介してフック革パッドのハトメを通ってブレード(紐)で固定され,V型プレートを介してフック 約0.3cm であるd革パッドのハトメを通ってブレード(紐)で固定され,V型プレートを介してフック革パッドのハトメを通ってブレード(紐)で固定され,V型プレートを介してフック を吊り下げているを吊り下げているフック e光沢のある銀色の金属フックであり,紐を通す輪とサックスに掛けるフック部分からなり,両者は回転式で接続されている光沢のある金色の金属フックであり,紐を通す輪とサックスに掛けるフック部分からなり,両者は回転式で接続されているfフック部分は,バネで開閉されるフック部分は,バネで開閉されるgフック部分に無色透明のゴムチューブが設置されているフック部分に無色透明のゴムチューブが設置されているhV型プレートを介してブレード(紐)に吊り下げられているV型プレートを介してブレード(紐)に吊り下げられている (別紙)原告商品と旧原告商品の変更点 1 V型プレート(上が旧原告商品,下が原告商品) 2 革パッド(上が旧原告商品,下が原告商品) 3 ブレード(紐)(上が旧原告商品,下が原告商品) (別紙)原告商品と被告商品のV型プレートの比較 (上が原告商品,下が被告商品)

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