令和5(行コ)3 護岸工事公金支出差止等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和6年4月24日 福岡高等裁判所 宮崎支部 棄却 鹿児島地方裁判所 平成31(行ウ)4
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判決文本文31,463 文字)

主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴人らの当審における拡張請求をいずれも棄却する。 3 当審における訴訟費用は全て控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、Aに対し、4913万4090円及びこれに対する令和2年4月12日から支払済みまで年3%の割合による金員の支払を請求せよ。 3 被控訴人は、Bに対し、1億5737万2010円及びこれに対する令和5 年4月21日から支払済みまで年3%の割合による金員の支払を請求せよ。 4 被控訴人は、鹿児島県大島郡a町b地内b海岸の侵食対策事業に係るコンクリート護岸の建設工事に関して、一切の公金を支出し、契約を締結し、又は債務その他の義務を負担してはならない。 第2 事案の概要 以下、略称は、本判決で定めるもののほかは、原判決のものによる。 1 本件は、鹿児島県が、鹿児島県大島郡a町bに所在するb海岸(本件海岸)に、侵食対策事業としてコンクリート護岸(本件護岸)を設置するために必要な契約を締結し、公金を支出しているところ、控訴人らを含む鹿児島県の住民10名が、本件海岸に本件護岸を建設することは不要で、生物環境や自然環境 にも多大な影響を与え、ほかに取り得る手段と比較して得られる便益が乏しいから、本件護岸を設置するための公金の支出、契約の締結又は債務その他の義務の負担(公金支出等)は、地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項(地方自治法2条14項等)に反し違法であると主張して、鹿児島県知事である被控訴人に対し、①既に公金を支出した部分につき、支出額相当の損害が生 じたとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、支出当時、鹿児島 であると主張して、鹿児島県知事である被控訴人に対し、①既に公金を支出した部分につき、支出額相当の損害が生 じたとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、支出当時、鹿児島 県知事の職にあったA及びBに対しそれぞれ損害賠償請求をすることを求めるとともに、②今後予定されている本件護岸の設置に関する公金支出等につき、同項1号に基づき、その差止めを求めた事案である。 原審は、一審原告らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服として本件控訴を提起し、当審において、原審におけるBに対し損害賠償を することを求める請求額を、控訴の趣旨3項記載のとおり拡張及び減縮した(ただし、減縮は、遅延損害金の始期の部分である。)。 2 前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張は、下記(1)のとおり補正し、当審における控訴人らの補充主張を下記(2)のとおり、控訴人らの追加主張に係る争点及びこれに関する当事者の主張を下記(3)のとおりそれぞれ加 えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」(以下「原判決第2」という。)の2から4までに記載のとおりであるから、これを引用する。以下、補正して引用する原判決第2の2の前提事実を、同2の符号により「前提事実(1)」などという。 (1) 原判決の補正 ア原判決2頁25行目の「本件海岸への」を削り、同頁26行目の「10月中」を「9月中」と、同行の「同月」を「同年10月」とそれぞれ改める。 イ原判決3頁1行目の「及び」の次に「同月に発生した」を、同頁3行目から4行目にかけての「砂丘が」の次に「約20m」を、同頁7行目の 「そこには、「」の次に「以前から海岸線の砂が侵食され危険な状態でありましたが、」をそれぞれ加える。 ウ原 を、同頁3行目から4行目にかけての「砂丘が」の次に「約20m」を、同頁7行目の 「そこには、「」の次に「以前から海岸線の砂が侵食され危険な状態でありましたが、」をそれぞれ加える。 ウ原判決4頁5行目の「意見集約を行った結果、」の次に「今後の台風時の高波による更なる侵食被害墓地流出などが心配されるため、住民の生命・財産を守るため」を、同頁7行目の「鹿児島県に対し、」の次に「今 後の台風時の高波による侵食での墓地流出及び家屋等への被害も懸念され るため、住民の生命・財産を守るため、」を、同頁18行目から19行目にかけての「構成され」の次に「(乙8(1-2頁))」をそれぞれ加え、同頁20行目の「2-3」を「3-21」と改め、同頁22行目の「その」を削る。 エ原判決5頁4行目から5行目にかけての「自然保護等の観点からの反対 意見を含む」を「地元住民からは早期整備の賛成意見、地元外参加者からは自然保護優先などの反対意見と」と改め、同頁6行目の「鹿児島県に対し、」の次に「町としては、地元住民の安全を確保するため事業を進めてもらいたいと考えているとして、」を加え、同頁9行目の「これを受け」を「上記コの申し出を受け」と、同頁24行目から25行目にかけての 「設計した。(甲6の4(20、21頁)、10(2.17、2.22頁))」を「設計した。また、C株式会社は、上記同月頃、鹿児島県の委託に基づき、費用便益分析指針に基づき、本件海岸の侵食防止便益の算定を行い、鹿児島県に対し、その結果を記載した報告書(乙27はその一部。)を提出し、その後、再度、本件護岸の設置に係る事業について、費 用便益分析指針(令和2年4月一部更新後の海岸事業の費用便益分析指針)に基づく費用便益分析検討を行い、その結果を書面にまとめた。 )を提出し、その後、再度、本件護岸の設置に係る事業について、費 用便益分析指針(令和2年4月一部更新後の海岸事業の費用便益分析指針)に基づく費用便益分析検討を行い、その結果を書面にまとめた。(甲6の4、同10(2.17、2.22頁)、乙27、34及び弁論の全趣旨)」とそれぞれ改める。 オ原判決6頁8行目の「支出した。」を「支出し、同年9月10日から令 和5年10月4日までの間に合計2109万1100円を支出した(乙65)。また、鹿児島県知事は、上記支出に先立つ平成28年4月22日、国土交通大臣に対し、本件護岸の設置に係る事業を含む「鹿児島県全域における総合的な浸水対策と土砂災害対策の推進(防災・安全)」の計画について、社会資本整備総合交付金交付決定変更申請書を提出したところ、 国土交通大臣は、同年5月11日付で、鹿児島県に対し、同変更申請のと おり交付の決定を変更したことを通知した(乙32の1・2)」と、同頁9行目の「現在(口頭弁論終結時)」を「令和6年1月26日(控訴審の口頭弁論終結時)」とそれぞれ改め、同頁11行目と12行目の間に以下のとおり加える。 「(5) 控訴人らによる住民監査請求 控訴人らを含む鹿児島県の住民12名は、平成31年1月31日、鹿児島県監査委員会に対し、本件海岸の侵食対策護岸工事に関する工事費用等の公金支出の差止及び支出済みの公金の返還請求を求める内容の住民監査請求を行った。 鹿児島県監査委員は、同年2月27日付けで、控訴人らを含む鹿児 島県の住民12名の住民監査請求につき、本件護岸の工事事業計画及び事業過程について著しく合理性を欠くと判断するに足りる理由や証拠を示しておらず、公金支出自体の違法性・不当性を摘示しているとは認められない、控訴人らを含む鹿児島県の つき、本件護岸の工事事業計画及び事業過程について著しく合理性を欠くと判断するに足りる理由や証拠を示しておらず、公金支出自体の違法性・不当性を摘示しているとは認められない、控訴人らを含む鹿児島県の住民12名の上記監査請求は、住民監査請求の要件を満たさないから、監査の対象とすること はできないものであるとして、控訴人らを含む鹿児島県の住民12名の監査請求を却下するとの監査結果を控訴人らに通知した。ただし、被控訴人も、鹿児島県監査委員は、上記監査請求を棄却すべきであったことにつき争っていない。(甲19、20及び弁論の全趣旨)(6) 控訴人らによる本件訴訟の提起 上記監査請求をした者のうち、控訴人らを含む10名は、平成31年3月29日、鹿児島地方裁判所に対し、本件訴訟を提起した。(弁論の全趣旨)」カ原判決7頁10行目と11行目の間に以下のとおり加え、同頁20行目の「原状に」を「本件各台風による砂丘侵食の前と」と改める。 「 なお、本件護岸の設置に係る公金支出が補助職員らによる専決行為で はあるものの、知事は、①令和2年10月5日にD大学工学研究院准教授E氏と面会した際、②令和3年8月24日、控訴人ら弁護団から、本件海岸につき海岸侵食がないとの事実や、本件護岸は、検証可能な長期予測に基づくと、防護、環境、利用いずれにおいても有害で、倒壊の危険性が高く、背後地に居住する住民らにも危険が及ぶ可能性が高い旨を 指摘した申入書(甲269)を受領した際、③同年9月7日及び令和4年9月16日、控訴人ら弁護団による申入書を受領した際、本件海岸において海岸侵食がなく、護岸工事の必要性がないことを認識したにもかかわらず、補助職員らに漫然と公金支出を実行させたから、補助職員らにおいて、財務会計上、違法な行為を阻止 入書を受領した際、本件海岸において海岸侵食がなく、護岸工事の必要性がないことを認識したにもかかわらず、補助職員らに漫然と公金支出を実行させたから、補助職員らにおいて、財務会計上、違法な行為を阻止すべき指揮監督上の義務を怠 ったといえるので、自ら財務会計上の違法行為を行ったと評価できる。」キ原判決10頁6行目の「乙26。以下」の次に「、その後の一部更新を経たものを含め、」を加え、同頁18行目から19行目にかけての「令和4年4月25日までの支出額合計1億3628万0910円の損害賠償及びこれに対する令和4年4月25日(最終支出日)」を「令和5年10月 4日の時点における支出額合計1億5737万2010円及びこれに対する同年4月21日から」と改め、同頁26行目の末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。 「 本件護岸の設置に係る海岸保全事業の決定は、財務会計上の行為に先行する行為であり、先行行為に違法事由が存在する場合であっても、地 方自治法242条の2第1項1号及び4号に基づく請求が認められるのは、その先行行為を前提としてされる行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものに限られると解され、予算の執行機関としては、当該先行行為が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り、当該先行行為 を尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を執るべき義務を負うもの と解される。そこで、本件護岸の設置に係る海岸保全事業の決定が、著しく合理性を欠き、そのため予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り、当該決定に基づく公金支出等が財務会計上の義務に違反するとはいえない。また、本件護岸の設置に係る公金支出等は、いずれも補助職員による 執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り、当該決定に基づく公金支出等が財務会計上の義務に違反するとはいえない。また、本件護岸の設置に係る公金支出等は、いずれも補助職員による専決により処理されているから、被 控訴人は、当該補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失によりこれを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして鹿児島県が被った損害につき賠償責任を負うことになる。」ク原判決11頁1行目の冒頭に「また、」を加える。 ケ原判決13頁2行目の「同等の」を削り、同頁8行目の「方法について」を「方法で十分であり、これらの方法による方が本件護岸を設置するのに比べて安価であると」と改める。 (2) 当審における控訴人らの補充主張ア本件護岸の要否について ① 将来の砂丘侵食や被害の可能性についてF教授は、本件海岸では台風の影響により汀線が後退している時期があり、仮に台風の影響をより強く受ける状況にあったとすると、現実に生じた程度の汀線後退にとどまらず、砂丘侵食が更に進行する可能性があり、後浜が狭い状況で海岸保全構造物がなければ、本件各台風と同程 度の高波と高潮が来襲し、本件各台風の際と同程度の砂丘侵食が生じた場合、本件墓地だけでなく人家も多大な影響を受ける可能性があると説明する。 しかしながら、本件海岸について、平成26年当時の後浜の幅が10m程度と狭くなっていた状況は、その後確認されていないし、その当時 と比較して浜全体としての防災能力は低下しておらず、更なる砂丘侵食 は生じていないから、本件各台風来襲時を超える砂丘侵食が生じるとはおよそ考えられない。 ② 砂丘の回復状況について と比較して浜全体としての防災能力は低下しておらず、更なる砂丘侵食 は生じていないから、本件各台風来襲時を超える砂丘侵食が生じるとはおよそ考えられない。 ② 砂丘の回復状況についてF教授は、大型土のうを設置して人工的に砂を盛った部分では、人為的に盛られた砂がベースになり、その上に自然の砂が若干載っており、 人工的に砂を盛っていない部分では浜崖の高さは明確に段差になっていてその周辺はまだ十分に砂が戻ってきておらず、防災能力が元どおりになったというには全然足りないと説明する。 しかしながら、大型土のうを設置した部分の前面では、本件各台風による侵食後、約2m以上もの高さにわたって砂が堆積しており、大型土 のうを設置していない箇所を含め、本件海岸の地盤高は本件各台風以降大きく回復している。F教授は、砂丘がどの程度存在することがどのような防災能力を基礎づけるかに関し、定量的評価の検討を欠いている。 ③ 海岸全体の砂の量と防災能力についてF教授は、海岸全体の砂の量がほぼ同じであれば防災能力が同じであ るという意見には科学的根拠がないというが、F教授の見解を踏まえると、波のエネルギーを減殺する機能は、沿岸砂州、後浜、前浜も含めた浜全体が有していることになり、前浜や後浜の形状が非常に重要になってくることになり、砂丘が防波堤の機能を果たすものであるとして、その要否及び必要とされる程度は、そこに波が到達するエネルギーによっ て左右されることになる。このようなF教授の意見を正しく評価すれば、沿岸砂州、後浜、前浜、砂丘に至る海岸全体の断面積(砂の分布状況・浜の形状)をもって防災能力を評価すべきということになり、砂丘部の砂が減少していても、それらが後浜、前浜、沿岸砂州に分布していれば、波のエネルギーを減殺する機能を る海岸全体の断面積(砂の分布状況・浜の形状)をもって防災能力を評価すべきということになり、砂丘部の砂が減少していても、それらが後浜、前浜、沿岸砂州に分布していれば、波のエネルギーを減殺する機能を果たす(高い防災能力が存在する)と の結論になる。 ④ 護岸設置以外の防護方法についてF教授は、砂の堆積は進んでいるものの、後浜の砂丘寄りの部分と浜崖近くでは海浜部に比べて堆積量がかなり少なく、ビーチサイクルだけでは十分に回復することはできない条件で侵食が生じた可能性が高い、砂丘が元どおりとなるためには数十年単位の時間がかかるとした上で、 護岸設置以外の方法として、養浜や堆砂垣の設置は、選択肢にはなり得るが、対策として難しいか、または適切でないと説明する。 しかしながら、本件海岸は防災能力の低下がないし、F教授が述べる1年当たりの砂の堆積量からすれば、今後10年程度で現状において不足している部分にも砂が堆積し得る。また、本件海岸に盛砂をすること は可能であるし、堆砂の堆積を促進したりすることにより、砂丘を復旧することは可能である。 ⑤ 護岸の設置による海岸侵食の可能性についてF教授は、本件護岸は本件各台風により侵食される前の砂丘部に設置され、海側にせり出したものではないと説明する。 しかしながら、本件護岸の設置位置は、本件各台風以前の砂丘の推定位置を前提としても、砂丘の前縁部で最も海側の場所であり、そのような場所に護岸を設置することは、防波時における波浪の作用を受け、護岸周囲の沈下や侵食を招き、場合によっては堤体自体が破壊されるなど重大な被害を生じることとなる。海浜の変動の過程で変動が生じる箇所 で、砂丘として評価し得る箇所の最も海側ないしそれに近接する箇所に護岸を設置することは、海岸工 っては堤体自体が破壊されるなど重大な被害を生じることとなる。海浜の変動の過程で変動が生じる箇所 で、砂丘として評価し得る箇所の最も海側ないしそれに近接する箇所に護岸を設置することは、海岸工学上も認められないから、本件護岸を設置することは認められない。 ⑥ 砂丘の締まり度(強度)についてF教授は、砂丘の締まり度(強度)が高いと暴浪に対する砂丘侵食量 が低下するため、背後地に対する防護機能は高まると説明する。 しかしながら、砂丘は砂が堆積したことで形成され、波浪が作用する際には、波に対して過剰に抵抗せず土砂供給をすることで波浪のエネルギーを減殺する機能を果たすものであって、締まり度なるものを前提に防護機能を論じることはできないはずである。 イ被控訴人は、コンクリート護岸である本件護岸の前に砂を盛り、その上 にアダンを植えることで環境配慮を行っていると説明するが、このような方法では、海波により護岸に盛られた砂やアダンが流されることが容易に想像される。 また、本件護岸が設置されることによって、ウミガメの産卵ができない環境となり、本件護岸の建設工事の区間以外でも、走行路などにより現に 動植物に影響を与えている。リュウキュウアユ、スジエビなどの新種の絶滅危惧種が発見されているにもかかわらず、これを保護する体制が取られていない。 令和3年7月、第44回ユネスコ世界遺産委員会において、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が世界自然遺産に登録され、b川の一部 が世界自然遺産の緩衝地帯に登録された。b川の下流は本件海岸に流れており、本件護岸が設置されることで、これに近接するb川の流れが変わり、b川の生態系にも影響が生じることが予測されるが、被控訴人はこれについて検討していない。このように、本件 の下流は本件海岸に流れており、本件護岸が設置されることで、これに近接するb川の流れが変わり、b川の生態系にも影響が生じることが予測されるが、被控訴人はこれについて検討していない。このように、本件護岸の設置計画は、自然環境への配慮を欠くものである。 (3) 当審における控訴人らの追加主張に係る争点ア本件護岸の設置に当たり、本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析が義務付けられており、その分析結果によれば、本件護岸の設置のための公金支出が財務会計上違法となるか。 (控訴人らの主張) 海岸保全事業は、国土交通省などにおいて定める海岸保全基本方針に従 い、都道府県知事が海岸保全基本計画を定め、同計画に基づき、海岸保全区域を定め、同区域内に海岸保全施設を設置することになっているところ(海岸法3条)、都道府県知事の事務は法定受託事務とされているから、鹿児島県は、国の方針に従い、海岸保全施設の建設を決めなければならない。また、国土交通省は、政策評価の厳格化を受けて、海岸事業について、 本件費用便益分析指針を策定し、公共事業を新たに実施するに当たり、同指針に従って費用対効果の分析を行うことを求めているところ、都道府県知事が行う法定受託事業についても、同様に費用対効果の分析を実施することが想定されている。したがって、海岸事業という公共事業を新規に決定するに先立って、本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析は必ず考 慮しなければならず、その際、考慮の基礎となったデータに著しい非科学性があれば、考慮すべき事実を適切に考慮しなかったとして、当該新規公共事業は違法になる。 平成22年に社会資本整備総合交付金制度が設けられて、個別施設ごとに付けられる補助事業は原則として排除され、国の関与が小さくなり、交 切に考慮しなかったとして、当該新規公共事業は違法になる。 平成22年に社会資本整備総合交付金制度が設けられて、個別施設ごとに付けられる補助事業は原則として排除され、国の関与が小さくなり、交 付金の実施状況に対する政策評価を事後的に国土交通大臣に報告するとされたが、社会資本整備総合交付金による事業においても費用便益分析は必要である。 また、海岸侵食とは、長期にわたって汀線が後退し、砂浜などが徐々に減少することを意味しており、荒天時の短期的な地形変動のように時間と ともに元に戻る場合とは区別されるところ、本件海岸では、短期的な砂浜の変動こそあれ、長期的な汀線の陸側への後退(陸地の喪失)、侵食は存在しない。そして、本件費用便益分析指針では、侵食防止便益を、汀線の変化という客観的な事実に基づき、今後の汀線変動(侵食範囲)の想定を行い、これによって想定される侵食が生じる場合に被る被害額を算出して 比較対象とする。ところが、本件海岸においては、長期的な汀線の陸側へ の後退という事実は存在せず、侵食が想定される地域はないから、本件護岸を設置することによる便益は0円というほかない。鹿児島県知事は、根拠のない侵食想定範囲を設定し、これを基に本件費用便益分析指針に基づく費用分析を行っているから、考慮すべき事実を適切に考慮していないことになる。 したがって、鹿児島県知事が、適切な費用便益分析を行わずに、本件護岸を設置する事業を採択したことは違法であり、これに公金を支出したものであるから、鹿児島県知事には公金支出に係る裁量の範囲の逸脱がある。 (被控訴人の主張)地方自治法2条14項にいう、最少の経費で挙げるようにしなければな らないとする最大の「効果」は、金銭的評価が可能な便益に還元できるものに限られな の範囲の逸脱がある。 (被控訴人の主張)地方自治法2条14項にいう、最少の経費で挙げるようにしなければな らないとする最大の「効果」は、金銭的評価が可能な便益に還元できるものに限られない。海岸法14条は、海岸保全施設を設置する際の考慮要素について、「地形、地質、地盤の変動、侵食の状態その他海岸の状況を考慮し、自重、水圧、波力、土圧及び風圧並びに地震、漂流物等による振動及び衝撃に対して安全な構造のものでなければならない。」(同条1項) とした上で、「海岸保全施設の形状、構造及び位置は、海岸環境の保全、海岸及びその近傍の土地の利用状況並びに船舶の運航及び船舶による衝撃を考慮して定めなければならない。」(同条2項)としており、その規定振りに照らし、本件護岸の設置につき本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析が義務付けられるものとはいえない。 また、海岸保全施設の設置が法定受託事務であるとしても、そのことから本件護岸の設置に係る海岸保全事業につき、本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析が義務付けられるものではない。本件護岸の設置工事の対象ともされる社会資本整備総合交付金は、国土交通省所管の地方公共団体向け個別補助金を、一つの交付金に原則一括し、地方公共団体にとって 自由度が高く、創意工夫を生かせる総合的な交付金として創設されたもの である。社会資本整備総合交付金の対象事業は、「国土交通省所管公共事業の新規事業採択時評価実施要領」に定める補助事業等に含まれない。それゆえ、平成28年4月1日最終改正の「社会資本整備総合交付金交付要綱」(乙33)では、社会資本総合整備計画において、費用便益比の記載は求められていない。 さらに、海岸侵食の意義が、長期的な汀線の陸側への後退に限定される理由はない 資本整備総合交付金交付要綱」(乙33)では、社会資本総合整備計画において、費用便益比の記載は求められていない。 さらに、海岸侵食の意義が、長期的な汀線の陸側への後退に限定される理由はない。国が定める「海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本的な指針」(甲37)においても、「我が国は、高潮、波浪等による災害や海岸侵食等の脅威にさらされており、海岸はこれらの災害から背後の人命や財産を防護する役割を担っている。」「海岸保全施設の整備に当たっ ては、背後地の状況を考慮しつつ、津波、高潮等から海水の侵入又は海水による侵食を防止するとともに、海水が堤防等を越流した場合にも背後地の被害が軽減されるものとする。」とされ(同指針一2(1))、津波、高潮等による海岸侵食を防護対象としており、海岸侵食を長期的な汀線の陸側への後退と限定していない。 イ本件護岸の設置が実質的には災害復旧であり、侵食対策事業の予算として承認された公金をこれに支出する行為が、予算の流用であって財務会計上違法といえるか。 (控訴人らの主張)本件海岸における侵食対策事業は、実質的には災害復旧事業であるもの を、海岸法に基づく侵食対策事業という名目で予算措置及び交付金を使用するものであり、実態としては予算の流用であって違法である。 海岸侵食とは長期的な汀線の陸側への後退をいうところ、侵食対策事業においては、海岸侵食が進行することを前提としているが、本件海岸においては、長期的な汀線の陸側への後退という事実は存在しない。長期的な 汀線の陸側への後退という事実がない中での本件護岸の設置の実態は、本 件各台風によって生じた浜崖や砂丘の一部喪失部分をコンクリート護岸によって復元するものというべきである。 このように、本件護岸の設置に係 いう事実がない中での本件護岸の設置の実態は、本 件各台風によって生じた浜崖や砂丘の一部喪失部分をコンクリート護岸によって復元するものというべきである。 このように、本件護岸の設置に係る事業の実態は、侵食対策事業ではなく、災害復旧工事であり、被控訴人において、本件護岸の設置に係る事業は、予算調整上、災害復旧に係る費用(第11款)に掲げた上で議会の議 決を経る必要があった(甲257)。しかし、被控訴人は、政府による社会資本整備総合交付金を本件海岸における復旧事業に流用するため、本件護岸の設置に係る事業について、予算調整上、土木工事費(第8款)に計上して議会の議決を経た。本件護岸の設置に係る事業は、社会資本整備総合交付金(防災・安全交付金)の対象事業とされているが、本件海岸では 海岸侵食の事実がないから、本件護岸の設置に係る事業について、海岸侵食に係る防護面積、防護人口も0円であり、同交付金の交付要件の一つである被害規模要件(防護面積が海岸1kmあたり5ヘクタール以上であるか、または防護人口が海岸1km当たり50人以上であること)を満たさないことになるため、被控訴人は交付要件を満たさない交付金申請を行っ ていたことになる。 (被控訴人の主張)海岸侵食は、長期的な汀線の陸側への後退に限られない。社会資本整備総合交付金交付要綱の適用上も同様で、鹿児島県は、本件護岸の設置が台風による海岸侵食の対策であるとして交付金の交付申請を行った。 また、海岸法は、「主務大臣は(中略)当該海岸保全施設が国土の保全上特に重要なものであると認められるときは、海岸管理者に代わって自ら当該海岸保全施設の新設、改良又は災害復旧に関する工事を施行することができる。」と定めており(海岸法6条1項)、海岸保全施設の災害復旧工事を なものであると認められるときは、海岸管理者に代わって自ら当該海岸保全施設の新設、改良又は災害復旧に関する工事を施行することができる。」と定めており(海岸法6条1項)、海岸保全施設の災害復旧工事を海岸法に基づき施行することは海岸法が予定するところである。そ のことは、台風による海岸侵食に対して、海岸法に基づく海岸保全事業が 実施されていることからも裏付けられる。 さらに、被控訴人が社会資本整備総合交付金の申請手続を進めるに当たって概算要求として作成した平成29年度の各海岸事業箇所別内訳表(侵食)(乙74)のとおり、本件海岸では、①1km当たりの防護面積は11.5ha、②1km当たりの防護人口は51人であるから、同交付金の 交付要件の一つである被害規模要件(防護面積が海岸1kmあたり5ヘクタール以上であるか、または防護人口が海岸1km当たり50人以上であること)は満たされている。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も控訴人らの請求(拡張請求に係る部分を含む。)はいずれも理由 がないものと判断する。その理由は、下記2のとおり補正し、当審における控訴人らの補充主張に対する判断を下記3のとおり、当審における控訴人らの追加主張に係る争点に対する判断を下記4のとおりそれぞれ加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下「原判決第3」という。)の1から5までに記載のとおりであるから、これを引用する。以下補 正して引用する原判決第3の1の認定事実を、同1の符号により「認定事実(1)」などという。 2 原判決の補正(1) 原判決18頁21行目の「平成26年10月頃には」から22行目の「そこに」までを「平成26年10月頃、」と、同頁24行目の「長時間継続し たことで」を「 。 2 原判決の補正(1) 原判決18頁21行目の「平成26年10月頃には」から22行目の「そこに」までを「平成26年10月頃、」と、同頁24行目の「長時間継続し たことで」を「長時間継続し」とそれぞれ改める。 (2) 原判決20頁13行目の「自然と調和した」を「自然と調和し、地域住民の海岸利用にも配慮した」と、同頁21行目の「モニタリングする」を「モニタリングをし、状況によって河口閉塞防止用の浚渫砂を用いた養浜等を行う」とそれぞれ改める。 (3) 原判決21頁16行目の「自然保護等の観点から反対意見を含む様々な意 見が出たことを受け」を「地元住民からは早期整備の賛成意見、地元外参加者からは自然保護優先などの反対意見が出たことを受け」と改める。 (4) 原判決23頁1行目の「である(乙34(22頁)」を「と見積もられた(見積もりに当たっては、社会的割引率として4%がしんしゃくされている。 乙34(19、22頁))」と、同頁5行目の「原告の主張に対する応答」 を「F教授が作成の各意見書(乙30、35の1・2、36の1~5、37の1・2)、原審におけるF教授の証人尋問の結果」と、同頁16行目から20行目までを以下のとおりとそれぞれ改める。 「 本件各台風後の本件海岸の海浜の地形変化をみるに、平成27年9月から平成30年5月の間、前浜から後浜後方部までの砂の堆積が進行してい るが、同年5月の103mから同年10月の31mへと急激に汀線が後退している。この期間中に日本各地で最大風速を記録した台風24号が奄美大島近海を通過しており、この台風の影響による汀線の後退と思われる。 そして、平成30年10月から平成31年1月までの間、汀線が31mから36mまで若干前進し、同月から 風速を記録した台風24号が奄美大島近海を通過しており、この台風の影響による汀線の後退と思われる。 そして、平成30年10月から平成31年1月までの間、汀線が31mから36mまで若干前進し、同月から令和2年3月までの間、汀線が31m から104mに前進しているが、同年9月には、台風9号と10号の影響により汀線位置が42mへと後退している。両台風はかなり大型であったが、奄美大島付近を直撃するような事態にならなかったために、この程度の汀線後退で済んだが、台風が奄美大島近くの西側海域を進行し危険半円状態が長時間継続したり、奄美大島に上陸したりした場合にはこの程度の 汀線後退にとどまらず、砂丘侵食も更に進行する可能性が高まる。台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動が生じているが、民有地を含む(旧)砂丘部及び後浜の砂丘基底部付近では砂の堆積が余り進んでおらず、汀線が前進し砂浜が回復する現象と同時に、侵食された砂丘地の回復が進むわけではなく、侵食された砂浜の 回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する 時間スケールは全く異なる。汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆積が必ずしも釣り合っていないことが、本件海岸のビーチサイクルの特徴といえる。(乙30(6、7頁))」(5) 原判決24頁9行目の「いないため」を「おらず、このような状況に照らし、一般論としては自然の砂丘回復は不十分であって、」と、同頁13行目 の冒頭から15行目の「意見」までを「砂丘が侵食されて失われた砂の量と同等な砂の量が沿岸砂州にあるから、海岸の防災能力はほぼ同じであるとの見解は、専門家として同意できず、理解不能である。沿岸砂州の砂の量が同じであっても、沿岸砂州の横断面形状( されて失われた砂の量と同等な砂の量が沿岸砂州にあるから、海岸の防災能力はほぼ同じであるとの見解は、専門家として同意できず、理解不能である。沿岸砂州の砂の量が同じであっても、沿岸砂州の横断面形状(地形)が異なれば、砕破特性(砕破率)も異なるから、防災能力は、砂の量が同じであるが断面形状が異なる沿 岸砂州とでは異なる。対象海岸にある砂の量がほぼ同じであれば防災能力がほぼ同じであるとの見解」と、同頁19行目の「領域である」を「領域であり、その高さと幅(奥行)が重要である」と、同頁25行目の「7頁」を「7、17頁」とそれぞれ改める。 (6) 原判決25頁2行目の「条件で」の次に「本件海岸における海浜の」を加 え、同頁3行目の「本件海岸でいえば」を「本件海岸において、1年当たりの砂丘の高さの上がり方は20cm以下と思われるため、そのような意味では」と、同頁9行目の「と同質の」を「にあるものと同じような」と、同頁14行目の「護岸」を「本件護岸」とそれぞれ改める。 (7) 原判決26頁1行目の「低い。」を「ほとんどない。」に改め、同行の 「乙30(18頁)」の次に「、F証言(26項)」を加え、同頁3行目の「低下するため、」の次に「砂丘を堤防としてみた場合には砂丘の締まり度(強度)が高い方が、」を加え、同頁4行目の「1頁」を「1~6頁」と、同頁25行目の「技術的・政策的見地」から27頁4行目の「護岸の設置のための」までを「専門技術的な知見に基づいて検討することが求められると いうことができる。そうすると、裁判所が、本件護岸の設置に係る事業につ いて必要性があるか否かを審査するに当たっては、専門技術的な知見に基づいてされた都道府県知事の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであり(最高裁平成28 係る事業につ いて必要性があるか否かを審査するに当たっては、専門技術的な知見に基づいてされた都道府県知事の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであり(最高裁平成28年(行ヒ)第394号同年12月20日第二小法廷判決・民集70巻9号2281頁参照)、本件護岸の設置の必要性に係る鹿児島県知事の判断に専門技術的知見に照らして不合理な点がある と評価される場合でなければ、本件護岸の設置に係る事業のための」とそれぞれ改める。 (8) 原判決27頁18行目の「自然保護等の観点から反対意見を含む様々な意見が出たことを受けて」を「地元住民からは早期整備の賛成意見、地元外参加者からは自然保護優先などの反対意見が出たことを受けて」と改める。 (9) 原判決28頁3行目から4行目にかけての「F教授の意見を基礎として」から6行目の末尾までを「F教授が、現地調査を含む調査結果を踏まえて述べた意見のほか、専門家や地元関係者から構成される本件委員会において、自然保護等の観点から出された意見も考慮して検討した結果に基づき、本件護岸を設置することが必要であり、これに即した仕様の本件護岸を設置する と判断したものであり、その判断に不合理な点はみられない。」と、同頁7行目から23行目までを以下のとおりとそれぞれ改める。 「 また、被控訴人の判断の基礎とされたF教授の意見の要旨は、前記2のとおりで、その内容に不合理な点はない。F教授は、現地調査を含む調査結果によって確認した本件海岸の地形等の状況を踏まえ、海洋工学等の専 門的知見に基づき、本件各台風により本件海岸の砂丘侵食が生じた機序について、本件各海岸の後浜が防災力を発揮することができるほどの浜幅を持っていなかったところに、本件各台風が短期間に連続して来襲したこと 的知見に基づき、本件各台風により本件海岸の砂丘侵食が生じた機序について、本件各海岸の後浜が防災力を発揮することができるほどの浜幅を持っていなかったところに、本件各台風が短期間に連続して来襲したことにより、潮位が高い状況で砂丘に高波が作用しやすい条件が長時間継続したために生じたと考えられるとしており(前記2(1))、その内容に不合 理な点は見当たらない。次に、F教授は、本件海岸において、本件各台風 時と同様の条件が発生すると、砂丘侵食は起こり得、海岸保全構造物がなければ、本件墓地だけでなく人家も多大な影響を受ける可能性があるとするが(前記2(2))、同意見は、本件各台風後の本件海岸の海浜の地形変化の推移から、本件海岸では、台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動が生じているが、民有地を含む (旧)砂丘部及び後浜の砂丘基底部付近では砂の堆積が余り進んでおらず、汀線が前進し砂浜が回復する現象と同時に、侵食された砂丘地の回復が進むわけではなく、侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する時間スケールは全く異なり、汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆積が必ずしも釣り合っていない との本件海岸のビーチサイクルの特徴を踏まえたものであるし、また、本件各台風が発生し、これによって本件海岸に砂丘侵食が生じたことは、現実に発生した現象であるから、それ以前には見られなかった現象であるとしても、今後、本件海岸が本件各台風と同様、あるいはそれを超える規模の台風の来襲を受けるおそれは否定できず、本件各台風の来襲によって砂 丘侵食が生じ、特に本件墓地周辺の侵食幅が広く、17~20mの侵食が生じ、その背後にある本件墓地や人家などに迫る状態となった の台風の来襲を受けるおそれは否定できず、本件各台風の来襲によって砂 丘侵食が生じ、特に本件墓地周辺の侵食幅が広く、17~20mの侵食が生じ、その背後にある本件墓地や人家などに迫る状態となったほか、高さ約5mの浜崖が形成されたこと(認定事実(1)イ)からすると、合理的な判断というべきである。そして、本件海岸の砂丘の回復状況等に照らし、護岸の設置以外に適当な方法がなく、護岸の設置によって海岸侵食が生じ る可能性がないとする点など(前記2(3)~(7))についても、その内容は現地調査を含む調査結果のほか、海洋工学等の専門的知見に基づくものと認められ、不合理な点は見当たらない。 そして、F教授のほか、動植物に精通する専門家及び地元関係者等から構成される本件委員会が設置され、オカヤドカリ類やウミガメ等の野生動 物の保護という観点からの検討や、養浜等の護岸以外の海洋侵食対策の工 法も想定した上で護岸を設置する必要があるのかどうか協議が行われたが(前提事実(2)サ、認定事実(4))、その協議の過程及び結果に不合理な点は見当たらない。鹿児島県知事は、同協議において確認された方針に基づき、本件護岸の仕様を決定した(認定事実(4)及び(5))と認められる。 そうすると、上記F教授の意見や本件委員会の協議結果に基づき、これ らに即した仕様を備えた本件護岸を設置することが必要と判断した鹿児島県知事の判断に、不合理な点があるとは認められない。」(10) 原判決29頁8行目の「しかしながら」から11行目の末尾までを以下のとおり改める。 「 しかしながら、①本件各台風後の本件海岸の海浜の地形変化の推移から、 本件海岸では、台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動が生じているが、民 る。 「 しかしながら、①本件各台風後の本件海岸の海浜の地形変化の推移から、 本件海岸では、台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動が生じているが、民有地を含む(旧)砂丘部及び後浜の砂丘基底部付近では砂の堆積が余り進んでおらず、汀線が前進し砂浜が回復する現象と同時に、侵食された砂丘地の回復が進むわけではなく、侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付 近の後浜回復に要する時間スケールは全く異なり、汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆積が必ずしも釣り合っていないこと(前記2(2))からすると、本件海岸が現状、高い防災能力を有していた時と同等の防災能力を有しているとは認め難いし、②沿岸砂州の砂の量が同じであっても、沿岸砂州の横断面形状(地形)が異なれば、砕破特性(砕破率) も異なるから、防災能力は、砂の量は同じであるが断面形状が異なる沿岸砂州同士では異なること(同2(3))からすると、砂丘の砂が減少していたとしても、砂浜等に移動しただけであるとして、本件海岸全体としての防災能力が低下していないとはいえない。③本件各台風が発生し、これによって本件海岸に砂丘侵食が生じたことは、現実に発生した現象であり、 それ以前には見られなかった現象であるとしても、今後、本件海岸が本件 各台風と同様、あるいはそれを超える規模の台風の来襲を受けるおそれがあり、その場合、本件各台風の際に生じ、あるいはそれを超える砂丘侵食が生じるおそれがあることは否定できないし、④侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する時間スケールは全く異なり、汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆 積が必ずしも釣り合っていないこと、 侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する時間スケールは全く異なり、汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆 積が必ずしも釣り合っていないこと、今後、本件各台風と同等あるいはそれを超える規模の台風に襲われる危険も否定できないことからすると、砂丘を本件各台風前の状態に復活させることで十分とはいえない。 控訴人らが主張の根拠とする海岸研究室の報告書や意見書のうち、「b浜の海浜変形に関する報告書」(甲104)は、海岸研究室が独自に収集 したものを含めた本件海岸に係るデータに基づいて、海岸研究室において「BGモデル」なるモデルなどを用いて計算した結果に基づくものであるが、上記データは必ずしも測量の専門知識に基づいて測定された結果ではなく、前提となったデータの正確性に疑義があるほか(原審における原告Gの本人尋問67~69項、乙35の1(2~4頁))、上記モデルが、 過去に起こった現象について条件を適切に再現できるように調整されたものであるか否かや、本件海岸の状況を再現できるか否かについて疑問の余地があること(F教授は、上記報告書における計算結果が適切な計算結果になっていない部分があると指摘している(F証言27~31項、乙35の2))に照らし、上記F教授の意見の内容や本件委員会の検討結果に誤 りがあることをうかがわせるには足りない。また、上記報告書以外の、海岸研究室の意見書(甲81、120、128、189)、海岸研究室が作成した書面(甲145、196、226、245)及び控訴人ら作成の陳述書、意見陳述書(甲199、200、253)についても、その内容は、専ら海岸研究室による検討結果に基づく意見や控訴人らの見解に基づく意 見をいうものであって、上記のとおり、海岸研究室に の陳述書、意見陳述書(甲199、200、253)についても、その内容は、専ら海岸研究室による検討結果に基づく意見や控訴人らの見解に基づく意 見をいうものであって、上記のとおり、海岸研究室による検討の前提とな ったデータや分析手法について疑義があることからすると、上記意見等が、F教授の意見や本件委員会における協議結果に誤りがあることをうかがわせるに足りるものとはいえない。 したがって、上記控訴人らの主張はいずれも採用することができない。」(11) 原判決29頁14行目の「主張するが」を「主張し、海岸研究室が作成す る書面(甲226)には、これに沿う記載がある。しかしながら」と、同頁16行目の「海側に」から17行目の末尾までを「F教授を含めた本件委員会は、本件海岸への護岸の設置に関し、地元住民からは早期整備の賛成意見、地元外参加者からは自然保護優先などの反対意見が提出されたことを踏まえ、本件護岸の必要性を含めて協議し、その結果、その設置位置や構造等を含め、 協議結果に即した本件護岸が設計されたこと(認定事実(4)イ、前記3(2)ア)、F教授は、本件護岸を設置することによって海岸全体が侵食されるという評価にはならないと証言していること(F証言26項)からすると、控訴人らの上記主張は採用することはできず、ほかに控訴人らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。」と、同頁20行目の「被告が」から22行目の 末尾までを「本件委員会は、自然環境等への影響を十分考慮した上で、本件護岸を設置する必要性や仕様について協議しており、その内容に不合理な点は見当たらないし、鹿児島県知事は、本件委員会における協議結果に基づき、本件護岸の設置が必要であると判断したこと(前記3(2)ア)からすると、上記鹿児島県知事の判断に不合理 り、その内容に不合理な点は見当たらないし、鹿児島県知事は、本件委員会における協議結果に基づき、本件護岸の設置が必要であると判断したこと(前記3(2)ア)からすると、上記鹿児島県知事の判断に不合理な点があるとは認められない。」とそれぞ れ改める。 (12) 原判決30頁1行目の「のであって、被告の判断が」から3行目の末尾までを「のであるから、控訴人らの上記主張はただちには採用できない。また、本件委員会は、H氏ら地元関係者を構成員としていることや、本件委員会が、地元住民のほか、地元外参加者からの意見も踏まえて協議を行ったこと(認 定事実(4)ア)からすると、本件委員会の協議結果に基づき、本件護岸の設 置が必要であると判断した鹿児島県知事の判断に不合理な点があるとは認められない。」と、同頁8行目の「しかし、そもそも」を「しかしながら、」と、同頁12行目の「したがって、」を「また、地方自治法は、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とし(地方自治法1条)、地方公共団体 は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされているところ(地方自治法1条の2)、地方公共団体である都道府県が実施すべき行政にはその効果を貨幣換算することができないものも存在すると考えられることからすれば、地方自治法2条14項が定める最少経費最大効果原則における効果について、 貨幣換算できる内容のものに限定されると解すべき理由はないし、本件護岸の設置は、社会資本整備総合交付金を受領して実施するものであるところ、平成28年4月1日最終改正の「社会資本整備総合交付金交付要綱」(乙33)では、社会資本総合整備 と解すべき理由はないし、本件護岸の設置は、社会資本整備総合交付金を受領して実施するものであるところ、平成28年4月1日最終改正の「社会資本整備総合交付金交付要綱」(乙33)では、社会資本総合整備計画に費用便益比を記載することは求められていない。本件護岸の設置は、本件各台風による本件海岸における砂丘侵食を 受けて、b集落の住民らから護岸工事等の対策をする旨の要望書が提出されたことを踏まえて検討されてきたもので(認定事実(2))、b集落の住民らの生命及び財産の防護を目的の一つとするものと認められるところ、その効果を全て貨幣換算することは、性質上困難であることは明らかである。さらに、海岸法14条は、海岸保全施設を設置する際の考慮要素について、「海 岸保全施設は、地形、地質、地盤の変動、侵食の状態その他海岸の状況を考慮し、自重、水圧、波力、土圧及び風圧並びに地震、漂流物等による振動及び衝撃に対して安全な構造のものでなければならない。」(同条1項)とした上で、「海岸保全施設の形状、構造及び位置は、海岸環境の保全、海岸及びその近傍の土地の利用状況並びに船舶の運航及び船舶による衝撃を考慮し て定めなければならない。」(同条2項)としており、法文上、費用便益分 析を考慮することを求めているとはいえない。そうすると、本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析がされていないとしても、本件護岸の設置が海岸法や地方自治法2条14項等の明文の規定に反するということはできず、」とそれぞれ改め、同頁15行目の「ことはない」の次に「(鹿児島県は、本件護岸の設置に係る事業について、C株式会社に委託して、本件費用便益分 析指針に基づき、本件海岸の侵食防止便益の算定を行っているが(前提事実(3))、そのことをもって、本件護岸の設置に当た 、本件護岸の設置に係る事業について、C株式会社に委託して、本件費用便益分 析指針に基づき、本件海岸の侵食防止便益の算定を行っているが(前提事実(3))、そのことをもって、本件護岸の設置に当たり、法令上、鹿児島県が当然に本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析を実施する義務があるというには足りない。)」を加え、同頁17行目の「一時的な台風による」を「日本に台風が到来する時期に繰り返されることのある」と改め、同頁18 行目の「危険が生じ得る以上、」の次に「台風による侵食の被害を除いて」を加え、同頁21行目から24行目までを以下のとおりと改める。 「(4) 上記のとおりであって、鹿児島県知事が、F教授を含む本件委員会の協議結果に基づいて、本件護岸の設置の必要性があると判断したことについて不合理な点があるということはできないし、これが海岸法や地方自治法 2条14項等の法令に反し、違法であるということもできない。」(13) 原判決31頁7行目の「なる旨主張する。」から17行目の「原告らは、」までを「なるとし、」と改める。 (14) 原判決32頁1行目の「であるところ」の次に「(その趣旨は、同条3項が「前二項に定めるもののほか、主要な海岸保全施設の形状、構造及び位置 について、海岸の保全上必要とされる技術上の基準は、主務省令で定める。」と定めていることからも明らかである。)」を加え、同頁6行目から7行目にかけての「ものでもなく、」から11行目の「とどまり」までを「ものでもない。上記のような海岸法14条の趣旨や規定振りに照らせば、」と、同頁17行目から21行目までを以下のとおりとそれぞれ改める。 「 また、本件護岸は、海洋工学の専門家であるF教授のほか、動植物の専 門家らを含む構成の本件委員会が、オ 、」と、同頁17行目から21行目までを以下のとおりとそれぞれ改める。 「 また、本件護岸は、海洋工学の専門家であるF教授のほか、動植物の専 門家らを含む構成の本件委員会が、オカヤドカリ類やウミガメの保護等という観点も踏まえて協議した結果に即した仕様であり、鹿児島県知事は、本件委員会の協議結果に基づいて、本件護岸を設置すると判断したと認められるところ(前記3(2)ア)、本件護岸に海岸法14条2項が求める技術上の水準を満たさない点があるとか、生物環境及び自然環境への配慮が 欠けるなどの事情から、鹿児島県知事の判断に不合理な点があるとも認め難い。」(15) 原判決32頁22行目の「イまた」を「(2) さらに」と、同頁25行目の「被告の判断が、」から33頁2行目までを「そのような事実を裏付ける証拠はないし、本件各台風が来襲した後、b集落の住民らから要望書が提 出された経緯(前提事実(2)イ)、H氏ら地元関係者が構成員に含まれている本件委員会が、本件護岸の設置の必要性を含めて協議した結果、護岸の設置それ自体の必要性を肯定していること(認定事実(4)ア、前記3(2)ア、エ)からすると、控訴人らの上記主張は採用できない。」と改め、同頁4行目から5行目にかけての「その前提を欠いており、」を削る。 3 当審における控訴人らの補充主張について(1) 控訴人らは、①本件海岸について、平成26年当時の後浜の幅が10m程度と狭くなっていた状況は、その後確認されていないし、その当時と比較して浜全体としての防災能力は低下しておらず、更なる砂丘侵食は生じていないから、本件各台風来襲時を超える砂丘侵食が今後生じるとはおよそ考えら れない、②大型土のうを設置した部分の前面では、本件各台風による侵食後、約2m以上も ておらず、更なる砂丘侵食は生じていないから、本件各台風来襲時を超える砂丘侵食が今後生じるとはおよそ考えら れない、②大型土のうを設置した部分の前面では、本件各台風による侵食後、約2m以上もの高さにわたって砂が堆積しており、大型土のうを設置していない箇所を含め、本件海岸の地盤高は本件各台風以降大きく回復している、これに対し、F教授は、砂丘がどの程度存在することがどのように防災能力を基礎づけるかに関し定量的評価の検討を欠いている、③F教授の意見を正 しく評価すれば、沿岸砂州、後浜、前浜、砂丘に至る海岸全体の断面積(砂 の分布状況・浜の形状)をもって防災能力を評価すべきということになり、砂丘部の砂が減少していても、それらが後浜、前浜、沿岸砂州に分布していれば波のエネルギーを減殺する機能を果たす(高い防災能力が存在する)との結論となる、④本件海岸には防災能力の低下がないし、F教授が述べる1年当たりの砂の堆積量からすれば、今後10年程度で現状において不足して いる部分にも砂が堆積し得るし、本件海岸に盛砂をすることは可能で、砂の堆積を促進したりすることにより、砂丘を復旧することは可能である、⑤本件護岸の設置位置は、本件各台風以前の砂丘の推定位置を前提としても、砂丘の前縁部で最も海側の場所であり、そのような場所に護岸を設置することは、防波時における波浪の作用を受け、護岸周囲の沈下や侵食を招き、場合 によっては堤体自体が破壊するなど重大な被害を生じることになるのであって、砂丘として評価し得る箇所の最も海側ないしそれに近接する箇所に護岸を設置することは、海岸工学上も認められない、⑥砂丘は、砂が堆積したことで形成され、波浪が作用する際にはそれが波に対して過剰に抵抗せず土砂供給をすることで波浪のエネルギーを減殺する機能 る箇所に護岸を設置することは、海岸工学上も認められない、⑥砂丘は、砂が堆積したことで形成され、波浪が作用する際にはそれが波に対して過剰に抵抗せず土砂供給をすることで波浪のエネルギーを減殺する機能を果たすものであって、 締まり度なるものを前提に防護機能を論じることはできないと主張する。 しかしながら、①本件海岸では、台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動が生じているが、民有地を含む(旧)砂丘部及び後浜の砂丘基底部付近では砂の堆積が余り進んでおらず、汀線が前進し砂浜が回復する現象と同時に、侵食された砂丘地の回復が進む わけではなく、侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する時間スケールは全く異なり、汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆積が必ずしも釣り合っておらず、また、本件各台風が発生し、これによって本件海岸に砂丘侵食が生じたことは、現実に発生した現象であり、それ以前には見られなかった現象であるとしても、 今後、本件海岸が本件各台風と同様、あるいはそれを超える規模の台風の来 襲を受けるおそれは否定できないことは、前記補正して引用する原判決第3の3(2)ア及び同イ(ア)のとおりであり、②本件海岸の砂丘は、大型土のうを設置して人工的に砂を盛った部分については、その形からは回復しているように見えるものの、実際には、人為的に盛られた砂がベースにあって、その上に自然の砂が若干載っているという評価になることは、前記補正して引用 する原判決第3の2(3)のとおりで、大型土のうを設置した部分の前面では、本件各台風による侵食後、約2m以上もの高さにわたって砂が堆積しており、大型土のうを設置していない箇所を含め、本件海岸の地盤高が回復 判決第3の2(3)のとおりで、大型土のうを設置した部分の前面では、本件各台風による侵食後、約2m以上もの高さにわたって砂が堆積しており、大型土のうを設置していない箇所を含め、本件海岸の地盤高が回復していることを裏付ける的確な証拠はなく、③F教授によれば、砂丘が侵食されて失われた砂の量と同等な砂の量が沿岸砂州にあるから、海岸の防災能力はほぼ 同じであるとの見解は、専門家として同意できず、理解不能であるとし、砂の量が同じであっても、断面形状が異なる沿岸砂州では防災能力が異なり、対象海岸にある砂の量がほぼ同じであれば防災能力がほぼ同じであるとの見解を明確に否定しているところ(前記補正して引用する原判決第3の2(4))、その判断に不合理な点があるとはいえず、原審における証言におい ても、高潮が来た場合、水に潜る砂浜と陸上にあり、障害物として機能する砂丘に違いがある旨を証言していること(F証言4、45、47項)に照らし、砂丘部の砂が減少していても、それらが後浜、前浜、沿岸砂州に分布していれば波のエネルギーを減殺する機能を果たす(高い防災能力が存在する)という結論になるとはいえず、④F教授は、本件海岸の1年当たりの砂の堆 積量について、「大まかにいうと、せいぜい十数センチとか、頑張っても20センチ以下というレベルと思って」いると証言していることや(F証言19項)、日本に台風が到来する時期には汀線が後退することを繰り返すなどしていることからすると、本件海岸の砂丘の高さの回復について確度の高い予測は困難と考えられ、今後10年程度で現状において不足している部分に も砂が堆積することは可能性の域を出ないものというほかなく、また、F教 授は、本件海岸においては、盛砂をすることは可能で、堆砂垣を設置することや砂の堆積を いて不足している部分に も砂が堆積することは可能性の域を出ないものというほかなく、また、F教 授は、本件海岸においては、盛砂をすることは可能で、堆砂垣を設置することや砂の堆積を促進することなどにより、砂丘を復旧することが選択肢としてはあり得るとしても、本件海岸についてビーチサイクルだけでは十分に回復することができない条件で侵食状況が生じた可能性が高く、1年あたりの砂丘の高さの上がり方は20cm以下と思われるため、そのような意味では 砂丘が元どおりとなるには数十年単位の時間がかかる、本件海岸において養浜は現実的に難しく、堆砂垣を設置して砂丘の回復を促進する方法についても、本件海岸の条件の下では何十年もの時間を要するから、災害対策としては適切でないとの意見を述べていることは、前記補正して引用する原判決第3の2(5)のとおりで、その判断に不合理な点があるとはいえず、⑤F教授 を含めた本件委員会は、護岸の設置位置や構造等を含めて協議し、これに即して本件護岸が設計されたこと、F教授は、本件護岸を設置することによって海岸全体が侵食されるという評価にはならないと証言していることは、前記補正して引用する原判決第3の2(6)のとおりで、その判断に不合理な点があるとはいえず、⑥F教授の、砂丘の締まり度(強度)が高いと暴浪に対 する砂丘侵食量が低下するため、背後地に対する防護機能は高まる旨の意見は、科学的な実験結果に基づくものであって、科学的知見に裏付けられた信用性の高いものといえる(乙37の1)。 以上によれば、控訴人らの上記主張は採用することができず、当審における控訴人らの主張立証をしんしゃくしても上記結論は変わらない。 (2) 控訴人らは、①コンクリート護岸である本件護岸の前に砂を盛り、その上にアダンを 記主張は採用することができず、当審における控訴人らの主張立証をしんしゃくしても上記結論は変わらない。 (2) 控訴人らは、①コンクリート護岸である本件護岸の前に砂を盛り、その上にアダンを植える方法では、海波により護岸に盛られた砂やアダンが流されるし、本件護岸が設置されることでウミガメの産卵ができない環境となり、本件区画以外でも、走行路などにより現に動植物に影響を与えている上、リュウキュウアユ、スジエビなどの新種の絶滅危惧種などが発見されているに もかかわらず、保護する体制が取られていない、②本件護岸に近接するb川 の一部が、世界自然遺産の緩衝地帯に登録されたが、被控訴人がこれについて検討しておらず、本件護岸が設置されることで、これに近接するb川の流れが変わり、b川の生態系にも影響が生じることが予測されるから、本件護岸の設置計画は自然環境への配慮を欠くものであると主張する。 しかしながら、①実際に、鹿児島県奄美市c町のd海岸において、上記方 法によって植えられたアダンが定着し(甲5の3、乙16、17)、鹿児島県熊毛郡e町のコンクリート護岸が設置された複数の海岸でウミガメの産卵が確認されており(乙11、12)、被控訴人は、継続的に環境調査を実施していて(甲221、乙64)、リュウキュウアユ及びスジエビの生息状況を確認しながら工事をしていることが認められる。本件護岸は、動植物の専 門家を構成員とする本件委員会で、自然保護の観点を含めた協議がされ、その結果に即した仕様であること(認定事実(5))からすれば、本件護岸の設置計画が自然環境への配慮を欠くものであるとはいえない。よって、控訴人らの主張を採用することは困難であり、当審における控訴人らの主張立証をしんしゃくしても上記結論は変わらない。また、②本件護 岸の設置計画が自然環境への配慮を欠くものであるとはいえない。よって、控訴人らの主張を採用することは困難であり、当審における控訴人らの主張立証をしんしゃくしても上記結論は変わらない。また、②本件護岸を設置することで、 本件護岸と接するものでないb川の生態系にいかなる影響が生じるかは明らかでなく、これをうかがわせる証拠も見当たらないから、控訴人らの上記主張はその前提が認められないというべきである。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 4 当審における控訴人らの追加主張に係る争点について (1) 当審における控訴人らの追加主張に係る争点ア(本件護岸の設置に当たり、本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析が義務付けられており、その分析結果によれば、本件護岸の設置のための公金支出が財務会計上違法となるか)についてア控訴人らは、①海岸保全事業に係る都道府県知事の事務は法定受託事務 とされており、国土交通省は、海岸事業について本件費用便益分析指針を 策定し、公共事業を新たに実施するに当たり、これに従って費用対効果の分析を行うことを求めているところ、都道府県知事が行う法定受託事業についても実施されることが想定されているから、海岸事業という公共事業を新規に決定するに先立って、本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析は必ず考慮しなければならず、その際、考慮の基礎となったデータに著 しい非科学性があれば、考慮すべき事実を適切に考慮しなかったとして、当該新規公共事業は違法になる、②本件海岸においては、侵食が想定される地域はないので、被控訴人は、根拠のない侵食想定範囲を設定し、これを基に本件費用便益分析指針に基づく費用分析を行っていることになるから、本件護岸を設置する事業を採択したのは違法で 、侵食が想定される地域はないので、被控訴人は、根拠のない侵食想定範囲を設定し、これを基に本件費用便益分析指針に基づく費用分析を行っていることになるから、本件護岸を設置する事業を採択したのは違法であり、これに公金を支 出した被控訴人には裁量の範囲の逸脱があると主張する。 イしかしながら、①地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされているところ(地方自治法1条の2)、地方公共団体である都道府県が実施すべき行政にはその効果を貨幣換算することができないもの も存在すると考えられることからすれば、地方自治法2条14項が定める最少経費最大効果原則における効果について、貨幣換算できる内容のものに限定されると解すべき理由はないし、本件護岸の設置は、社会資本整備総合交付金を受領して実施したものであるところ、平成28年4月1日最終改正の「社会資本整備総合交付金交付要綱」では、社会資本総合整備計 画に費用便益比を記載することは求められていないし、海岸法3条1項が定める海岸保全事業に係る事務は、「法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの」 (第一号法定受託事務)であるが(地方自治法2条9項1号、同条10項、 298条1項及び別表第一)、地方公共団体の事務であって、国の事務ではないから、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるとする趣旨を踏まえても、第一号法定受託事務について、地方公共団体が当該事務を行うに当たり、国と同様の費用便益分析を行う って、国の事務ではないから、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるとする趣旨を踏まえても、第一号法定受託事務について、地方公共団体が当該事務を行うに当たり、国と同様の費用便益分析を行うべき法律上の義務があるとはいえないから、本件護岸を設置することが海岸法や地方自治法2条 14項に違反するとは認められず、本件護岸の設置に当たり、本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析を行わなければ、違法となるとはいえないことは、前記補正して引用する原判決第3の3(3)のとおりである。 ウまた、②本件海岸においては、台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動が生じているが、民有地を含 む(旧)砂丘部及び後浜の砂丘基底部付近では砂の堆積が余り進んでおらず、汀線が前進し砂浜が回復する現象と同時に、侵食された砂丘地の回復が進むわけではなく、侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する時間スケールは全く異なり、汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆積が必ずしも釣り合ってい ない特徴があることからすると、本件海岸において、侵食が想定される地域はないとはいえないし、国が定める「海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本的な指針」(甲37)において、「我が国は、津波、高潮、波浪等による災害や海岸侵食等の脅威にさらされており、海岸はこれらの災害から背後の人命や財産を防護する役割を担っている。」「海岸保全施 設の整備に当たっては、背後地の状況を考慮しつつ、津波、高潮等から海水の侵入又は海水による侵食を防止するとともに、海水が堤防等を越流した場合にも背後地の被害が軽減されるものとする。」と定められていること(上記指針一2(1))からすると、海岸保全施設の役 潮等から海水の侵入又は海水による侵食を防止するとともに、海水が堤防等を越流した場合にも背後地の被害が軽減されるものとする。」と定められていること(上記指針一2(1))からすると、海岸保全施設の役割には、津波、高潮等による海水の侵入や海水による侵食の防止のほか、人命や財産の防護 など、効果が貨幣換算できないものも存在することからすれば、地方自治 法2条14項が定める最少経費最大効果原則における効果を判定するに当たり、貨幣換算できる内容のものに限定されると解すべき理由はない。そうすると、海岸保全施設を設置することの都道府県知事の判断の合理性や、これが海岸法や地方自治法2条14項に違反するかを判断するに当たっては、当該設置に係る海岸保全施設が上記のような役割を果たす効果がある かという点を含めて総合的に考慮するのが相当であって、控訴人らが主張するような海岸侵食に限定し、これを基に本件費用便益分析指針に基づく費用分析を行わないまま、本件護岸を設置する事業を採択したのは違法であり、これに公金を支出した被控訴人には裁量の範囲の逸脱があるとはいえない。 エ以上によれば、鹿児島県知事が、適切な費用便益分析を行わずに、本件護岸を設置する事業を採択したことは違法であり、これに公金を支出したことに裁量の範囲の逸脱があるとする控訴人らの主張は、その前提を欠く。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない(なお、鹿児島県は、本件護岸の設置に係る事業について、C株式会社に委託して、本 件費用便益分析指針に基づき、本件海岸の侵食防止便益の算定を行ったことから、鹿児島県が本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析を実施すべきであるとも、そのような義務があるともいえないことは、前記補正して引用する原判決第3の3(3 海岸の侵食防止便益の算定を行ったことから、鹿児島県が本件費用便益分析指針に基づく費用便益分析を実施すべきであるとも、そのような義務があるともいえないことは、前記補正して引用する原判決第3の3(3)のとおりであるから、上記判断は左右されない。)。 (2) 当審における控訴人らの追加主張に係る争点イ(本件護岸の設置が実質的には災害復旧であり、侵食対策事業の予算として承認された公金をこれに支出する行為が、予算の流用であって財務会計上違法といえるか。)についてア控訴人らは、①海岸侵食とは長期的な汀線の陸側への後退を意味し、侵食対策事業においては、これが進行することを前提としているところ、長 期的な汀線の陸側への後退という事実がない本件海岸における侵食対策事 業は、災害復旧であるものを、海岸法に基づく侵食対策事業という名目で予算措置及び交付金を使用するものであるから、予算の流用に当たる違法なものであり、②本件護岸の設置に係る事業は、社会資本整備総合交付金(防災・安全交付金)の交付要件の一つである被害規模要件(防護面積が海岸1kmあたり5ヘクタール以上であるか、または防護人口が海岸1k m当たり50人以上であること)を満たさないことになるため、被控訴人は交付要件を満たさない交付金申請を行っていたことになる旨を主張する。 イしかしながら、①本件海岸においては、台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動が生じているが、民有地を含む(旧)砂丘部及び後浜の砂丘基底部付近では砂の堆積が余り進 んでおらず、汀線が前進し砂浜が回復する現象と同時に、侵食された砂丘地の回復が進むわけではなく、侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する時間スケー んでおらず、汀線が前進し砂浜が回復する現象と同時に、侵食された砂丘地の回復が進むわけではなく、侵食された砂浜の回復に要する時間スケールと、砂浜及び砂丘基部付近の後浜回復に要する時間スケールは全く異なり、汀線位置の変動幅が大きく、年間を通じて侵食と堆積が必ずしも釣り合っていない特徴があるところ(前記補正して引用する原判決第3の2 (2))、控訴人らが主張する長期的な汀線の陸側への後退は、台風時期に汀線が後退し、それ以外の時期に汀線が前進するという季節的な汀線変動のうち、台風時期における汀線の後退を災害であるとして無視するもので相当とはいえない。また、海岸保全施設の役割には、津波、高潮等による海水の侵入や海水による侵食の防止のほか、人命や財産の防護が含まれる というべきであり、海岸保全施設を設置することの都道府県知事の判断の合理性や、これが海岸法等に違反するかを判断するに当たっては、当該設置に係る海岸保全施設に上記のような役割を果たす効果があるかを含めて総合的に考慮するのが相当であって、海岸侵食を控訴人らが主張するような長期的な汀線の陸側への後退の防止と限定する合理的理由は見出し難い ことは前記4(1)ウのとおりである。 さらに、本件護岸は、b集落の住民らの生命及び財産の防護を目的の一つとし、当該目的を達成するために相当なものと認められることは前記補正して引用する原判決第3の3(2)のとおりであり、海岸保全施設の果たすべき役割にかなったものといえるから、本件護岸の設置に係る事業について、予算調整上、海岸法に基づく侵食対策事業という名目で計上するこ とは許されず、災害復旧に係る費用(第11款)の名目で計上する必要があるとの理由は見出し難い。そうすると、本件護岸の設置に係る事業が、予算編成上 岸法に基づく侵食対策事業という名目で計上するこ とは許されず、災害復旧に係る費用(第11款)の名目で計上する必要があるとの理由は見出し難い。そうすると、本件護岸の設置に係る事業が、予算編成上、海岸法に基づく侵食対策事業として計上され、議会の議決を経たものであるとしても、当該予算を本件護岸の設置に係る事業に使用することが予算の流用であり、被控訴人による当該予算の使用が財務会計上 の違法であるということはできない。 ウまた、②海岸侵食が、控訴人らが主張するような長期的な汀線の陸側への後退を意味するものであって、本件護岸による防護面積が0円となるとする控訴人らが主張する前提が認められないことは、前記4(1)ウ、(2)イのとおりで、鹿児島県知事は、平成28年4月22日付で、国土交通大臣 に対し、本件護岸の設置に係る事業を含む、「鹿児島県全域における総合的な浸水対策と土砂災害対策の推進(防災・安全)」の計画について、社会資本整備総合交付金交付決定変更申請書を提出し、国土交通大臣は、同年5月11日付で、鹿児島県に対し、同変更申請のとおり交付の決定を変更したことを通知しており(前提事実(4))、国土交通大臣は、被害規模 要件を含めた交付要件を審査した上で、鹿児島県知事の申請内容を相当と認め、上記交付の決定を変更したと考えられることからすると、本件護岸の設置に係る事業が、社会資本整備総合交付金(防災・安全交付金)の支給要件を満たさないものであったとは認め難く、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。 エしたがって、控訴人らの上記主張は採用することはできない。 第4 結論よって、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、また、控訴人 らの上記主張は採用することはできない。 第4 結論よって、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、また、控訴人らの当審における拡張請求も理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所宮崎支部 裁判長裁判官西森政一 裁判官㑨木泰治 裁判官石山仁朗は、転補につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官西森政一

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