平成26年3月25日宣告平成24年(わ)第237号等自動車運転過失致死傷,道路運送法違反,電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件判決主文被告人を懲役9年6月及び罰金200万円に処する。 未決勾留日数中400日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 富山県高岡市内の西日本旅客鉄道株式会社高岡駅前から北陸自動車道等の高速自動車国道を経由し最終目的地である千葉県浦安市内の東京ディズニーリゾートまで単独運転で走行する行程の下,平成24年4月28日午後11時28分頃,大型乗合自動車(バス)を運転し,富山県高岡市下関町前記高岡駅前を出発し,その後,関越自動車道新潟線上りの越後川口サービスエリアを経由して,翌29日午前4時20分頃,群馬県渋川市赤城町同自動車道上り109.7キロポスト付近を新潟県方面から東京都方面に向かい時速約90キロメートルの速度で進行中,最終目的地まで長距離を残していながら睡眠不足及び疲労のため眠気を覚え,そのまま運転を継続すれば前方注視が困難な状態に陥ることが容易に予測されたのであるから,このような場合,自動車の運転者としては,早期に駐車場で停止する等してバスの運転を中止し,もって事故の発生を未然に防止すべき自動車運転上の注意義務があるのに,これを怠り,前記状態のまま漫然と運転を継続した過失により,同日午前4時40分頃,群馬県藤岡市岡之郷同自動車道上り79.3キロポスト付 近を同速度で走行中仮睡状態に陥り,バスを左前方に暴走させ,同市岡之郷同自動車道上り78.8キロポスト付近の道路左脇に設置されたガードレールにバス左側を接触させた上,そのガードレールの延長線 付 近を同速度で走行中仮睡状態に陥り,バスを左前方に暴走させ,同市岡之郷同自動車道上り78.8キロポスト付近の道路左脇に設置されたガードレールにバス左側を接触させた上,そのガードレールの延長線上に道路に沿って設置されたコンクリート擁壁上部に固定された防音壁にバス前部左側を衝突させ,同防音壁によりバスの車体をその前部から約10.5メートルにわたり左右に裂くように破損させ,よって,その頃,同所付近において,いずれも乗客であるV1(当時23歳)を頚椎脱臼(第1,第2頚椎)により,V2(当時19歳)を大量血胸による出血性ショックにより,V3(当時44歳)を頭蓋骨骨折による脳挫傷により,V4(当時49歳)を頭蓋骨骨折による脳挫傷により,V5(当時29歳)を頭蓋底骨折による脳挫傷により,V6(当時17歳)を外傷性血気胸により,V7(当時50歳)を頚髄損傷によりそれぞれ死亡させるとともに,別表1の1ないし38記載のとおり,V8(当時23歳)ほか37名に対し,両側股関節脱臼骨折等により約3か月間の安静加療を要する見込みの傷害等をそれぞれ負わせ,第2 Aと共謀の上,平成23年8月9日,千葉県船橋市習志野台八丁目57番1号関東運輸局千葉運輸支局習志野自動車検査登録事務所において,事情を知らない同事務所自動車登録官に対し,普通乗合自動車4台について,真実は,これらの使用者は被告人であるのに,いずれも有限会社B(代表取締役A)が使用者である旨虚偽の事項を記載した各移転登録申請書を関係書類とともにそれぞれ提出して虚偽の移転登録申請をし,同登録官をして,即時,東京都中央区築地二丁目11番17号所在(当時)の国土交通省自動車局自動車情報課自動車登録管理室にある権利又は義務に関する公正証書の原本として用いられる自動車登録ファイルにその旨不実の記録をさせ,こ 京都中央区築地二丁目11番17号所在(当時)の国土交通省自動車局自動車情報課自動車登録管理室にある権利又は義務に関する公正証書の原本として用いられる自動車登録ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを直ちに同所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供し,第3 国土交通大臣又はその委任を受けた地方運輸局長の許可を受けないで,別表2記載のとおり,平成23年12月17日から平成24年3月28日までの間, 前後5回にわたり,東京都内等において,被告人所有の普通乗合自動車を自ら運転し又はCらに運転させて,中国人旅行客等であるDら乗客合計111名を運送して,運賃合計76万2200円を受領し又はその約束をし,もって無許可で一般旅客自動車運送事業を経営したものである。 (証拠の標目) 省略(事実認定の補足説明)第1 本件の争点等本件自動車運転過失致死傷(罪となるべき事実第1。以下「本件事故」ともいう。また,本項で「本件」というときは罪となるべき事実第1の事実のみを指すことがある。)につき,バス運転手である被告人が,罪となるべき事実の日時・場所において,大型乗合自動車(以下,これを「本件バス」といい,本件事故時の本件バスの運行便を「本件バス便」という。)に乗客45名を乗せて高速道路を走行中,仮睡状態に陥り,本件バスを道路脇の防音壁に衝突させ,乗客7名を死亡させて,38名に重軽傷を負わせたこと自体は当事者間に争いがなく,証拠上も認められる。 被告人がそのような仮睡状態に陥った経緯等について,検察官は,慢性的な睡眠不足状態にあった被告人が,本件事故前日にも十分な睡眠がとれず,事故現場手前で眠気を感じていたにもかかわらず,あえて本件バスの運転を続けたために仮睡状態に陥った旨主張するのに対し,弁護人は,被告人が睡眠不足の状態で本 人が,本件事故前日にも十分な睡眠がとれず,事故現場手前で眠気を感じていたにもかかわらず,あえて本件バスの運転を続けたために仮睡状態に陥った旨主張するのに対し,弁護人は,被告人が睡眠不足の状態で本件バスを運転したことは争わないとしながら,被告人は睡眠時無呼吸症候群に罹患しており,本件事故前に眠気を感じないまま,マイクロスリープもしくは睡眠に陥ったもので,検察官が公訴事実に掲げた「眠気を覚えたにもかかわらず漫然と運転を継続した過失」はないと主張する。 したがって,本件の争点は,被告人が,仮睡状態に陥る前に眠気を感じていたか否かである。この点,被告人の捜査段階での供述調書においては,これを認め る旨の供述が録取されているが,公判段階では一転して,眠気は感じていなかったと供述するので,捜査段階における被告人の供述に任意性があるのか,また,当時の被告人の状況や他の証拠に照らし,捜査段階の供述に信用性が認められるのかが問題である。 第2 事案の概要等 1 本件事故に至るまでの経緯等証拠によると,以下の事実関係が認められる。 (1) 被告人は,無許可でバス運送業を営む傍ら,有限会社Bのアルバイトバス運転手もしていた。 (2) 被告人は,平成24年3月頃(以下,特に断りのない限り平成24年)から本件事故の頃までは,自ら営むバス運送業で多忙を極め,十分な睡眠をとることができない状態が続いていた。 (3) 本件バス便は,JR金沢駅を出発し,JR高岡駅を経由して東京まで夜間の高速道路を走行し,更に東京都内の停留所を経由するなどして最終的に東京ディズニーリゾートに到着する予定の高速バス便で,株式会社Eの企画したいわゆるライナー便の増発分であった。 有限会社B社長Aは,本件バス便を含む東京・金沢便の往復の運行を依頼され,Bの所有する本件バスを ニーリゾートに到着する予定の高速バス便で,株式会社Eの企画したいわゆるライナー便の増発分であった。 有限会社B社長Aは,本件バス便を含む東京・金沢便の往復の運行を依頼され,Bの所有する本件バスを運行に充てるとともに,その運転を陸援隊のアルバイト運転手であるFに打診したが,Fは往路(東京発・4月27日午後10時20分)のみ引き受け,復路(本件バス便。金沢発・4月28日午後10時10分)は断った。そこでAは,被告人に対し,本件バス便の運転手を捜すよう指示したが,被告人は適当な運転手を見つけることができなかった。 Aは,本件バス往路出発当日の4月27日午後2時頃になって,被告人に対し,被告人自身で本件バス便の運転手をするよう言った。被告人は,いったんは断ったが,Aはなおもしつこく被告人に頼み込んだ。被告人は同日午 後5時頃にAと面談し,突然の話なので夜間バスの運転をするための仮眠をとっていなかったことなどを訴えてAの頼みを再度断ったがAは引き下がらず,Aに恩義を感じていた被告人は結局断りきれず,本件バス便の運転手を引き受けることにした。 (4) 被告人は,同日午後7時30分頃には本件バスに乗り,Fの運転で被告人はガイド専用席(使用の際に引き出して使用する補助席様のもの)に座って金沢方面に出発したが,座席の揺れなどで寝たり起きたりで十分な睡眠はとれなかった。 翌28日朝,本件バスはJR金沢駅に到着して乗客を降ろし,その後石川県内の車庫に入り,同日午前9時頃,被告人らは仮眠場所として用意されたホテルにチェックインした。被告人は同日午前10時頃から就寝し,午後4時30分頃に起床したが,その間も携帯電話の電源を切らなかったため,自己が営むバス運送業に関して何度も電話応対等をし,その間も連続して睡眠をとることはできなかった。 被告人は から就寝し,午後4時30分頃に起床したが,その間も携帯電話の電源を切らなかったため,自己が営むバス運送業に関して何度も電話応対等をし,その間も連続して睡眠をとることはできなかった。 被告人は夕食をとった後,同日午後6時30分頃から車庫に止めた本件バスの後部座席で仮眠をとったが,その間も複数回,電話で話をしていた。 被告人は,同日午後8時50分頃,本件バスを自ら運転して前記車庫を出発してJR金沢駅に向かい,午後10時18分頃,JR金沢駅で乗客33名を乗せて出発し,JR高岡駅に到着し,同駅でも乗客12名を乗せた上,同日午後11時28分頃高岡駅を出発して小杉インターチェンジから北陸自動車道(高速道路)に入り,日付の変わった4月29日午前零時15分頃から15分程度,有磯海サービスエリアで休憩のために停車し,関越自動車道(高速道路)に入った後,越後川口サービスエリアにおいても午前2時45分頃から15分程度,同様に停車して休憩をとった。そして,午前3時頃,同サービスエリアを出発して,関越自動車道を南進し,午前4時40分頃,本件事故を起こすに至った。 (5) 被告人が前記車庫を出発して本件事故に至るまでの走行距離は約440キロメートルであり,そのうち,小杉インターチェンジで高速道路(北陸自動車道,関越自動車道)に乗ってから本件事故に至るまでの走行距離は約368キロメートルであった。 第3 争点判断の前提となる事実について 1 被告人の睡眠時間等について(1) 本件事故の頃,被告人は,基本的に昼間に働いて夜に寝る生活を送っていたが,仕事が非常に忙しく,満足な睡眠がとれていなかった上,急きょ本件バス便の運転手を引き受けることになったため,あらかじめ休養をとったり,十分な睡眠をとることはできていなかった。 (2) Fの運転で金沢方面 非常に忙しく,満足な睡眠がとれていなかった上,急きょ本件バス便の運転手を引き受けることになったため,あらかじめ休養をとったり,十分な睡眠をとることはできていなかった。 (2) Fの運転で金沢方面に向かう間も十分な睡眠をとることができなかった。 (3) 往路便で金沢に到着後,仮眠場所として用意されたホテルにチェックインし,4月28日午前10時頃から午後4時30分頃まで仮眠をとる時間があったが,その間に被告人は何度も電話をしており,被告人がホテルの居室にいる間に30分以上電話していない状態が続くのは,午前10時頃から午前11時59分頃まで(1時間59分程度),午後12時12分頃(通話終了時刻から起算)から午後1時42分頃まで(1時間30分程度),午後3時37分頃から午後4時30分頃まで(53分程度)であった。もとより,電話を切った後,即座に眠りにつけるとは考え難く,実際の睡眠時間は分断されており,連続して十分な睡眠をとれる状況でなかった。 (4) 被告人は,本件バス便出発直前の同日午後6時30分頃から車庫に止めた本件バスの後部座席で仮眠をとったというが,その睡眠も到底十分なものではない。 なお,被告人は,その仮眠時間について,捜査段階では「バスの中で寝たのは1時間くらい」としていたが,公判廷では,目を覚ましたのは午後8時 30分で,バスの中で2時間くらい仮眠をとったと供述を変遷させているところ,同日午後7時18分から午後7時52分までの間に被告人の携帯電話につき複数回の受発信記録があることからすれば,そのような公判廷での供述は信用できず,せいぜい1時間程度の仮眠にとどまったと認められる。 (5) 結局,被告人は,4月27日午後5時頃に本件バス便の運転手を引き受けてから,翌28日午後8時50分頃に本件バスの運転を開始するまでの ず,せいぜい1時間程度の仮眠にとどまったと認められる。 (5) 結局,被告人は,4月27日午後5時頃に本件バス便の運転手を引き受けてから,翌28日午後8時50分頃に本件バスの運転を開始するまでの間,本件バス便の運転に備え,まとまった時間の十分な睡眠をとることはできなかったと認められる。 2 本件バスの走行速度について(1) 本件バス走行中の走行速度を記録していたタコグラフチャート紙の鑑定結果によれば,前記越後川口サービスエリアを出発した4月29日午前3時頃から本件事故の起こった午前4時40分頃までの間の本件バスの走行速度は,概ね時速70キロメートルから110キロメートルの間で推移しているが,短時間のうちに時速100キロメートルを超えたかと思えば時速80キロメートルを下回る程度まで,特に一番落ちているのは時速60キロメートル程度まで落ち込み,再び時速100キロメートル程度まで戻るといった波状の速度の急変が頻繁に見られる。 (2) 前記タコグラフチャート紙に記録された本件バスの速度変化につき,本件と直接関係のないバス会社で運行管理者としてタコグラフチャート紙のチェック等を日常業務とするG証人は,このようなチャート紙に記録された激しい波状の速度変化は,運転者の疲労,居眠りが原因と考えられると証言する。 G証人は,被告人と特段の利害関係もなく,数年間にわたり1日約40枚もチャート紙をチェックした経験,職業的知見に基づき,専門家証人的な立場で証言しているものであって,その証言内容は十分に信用できるものといえる。 これに対し,弁護人は,被告人はバスを運転する際に一定速度で走行するよう指導されたことがないとか,本件バスの走行速度の変化も道路の勾配や他の車両の通行状況に対応するものである,被告人が本件バスに持ち込んだカーナビゲーショ 告人はバスを運転する際に一定速度で走行するよう指導されたことがないとか,本件バスの走行速度の変化も道路の勾配や他の車両の通行状況に対応するものである,被告人が本件バスに持ち込んだカーナビゲーションを操作した際にアクセルから足が離れた可能性もあるなどと主張する。 しかし,バスをできるだけ一定速度で走行させる必要があることは被告人も認めている。また,G証人は本件バスの走行経路の勾配等も考慮した上で前記のように証言していることは明らかである上,本件バスの走行経路の勾配を示す縦断図面と本件バスの走行速度を示すグラフを重ね合わせた図面を見ても,本件バスの速度の変化は道路の勾配に沿うものとはいえない。高速道路を走行中に頻繁にカーナビゲーションを操作する必要があるとも考えられない。弁護人の主張は理由がない。 第4 被告人の供述について 1 被告人の捜査段階における供述の任意性(1) 被告人,弁護人の主張弁護人は,被告人は,捜査段階においても一貫して,突然寝てしまったのであって,事故前に眠気を感じたことはないと供述しており,被告人の各供述調書のうち,事故前に眠気を感じていたことを認める部分は,取調べ担当のH警察官(群馬県警察本部交通部高速道路交通警察隊司法警察員警部補)及びI検察官(前橋地方検察庁検察官事務取扱副検事〔当時〕)の誤導・威迫によりなされたものであって任意性がない旨主張し,被告人も当公判廷でこれに沿う供述をしている。すなわち,H警察官の取調べについては,被告人は,一貫して突然寝てしまった,疲れを感じたけれど眠気はなかったなどと供述したにもかかわらず,H警察官は,疲れたということは眠気を感じて運転したことになる,眠気が来て,非常に強い眠気が来ない場合はこんな事故は起こらない,などと決めつけ,眠気がなかったという被告人の供述を認 たにもかかわらず,H警察官は,疲れたということは眠気を感じて運転したことになる,眠気が来て,非常に強い眠気が来ない場合はこんな事故は起こらない,などと決めつけ,眠気がなかったという被告人の供述を認 めてくれなかったとし,I検察官の取調べについても,同じく突然寝てしまったと供述したのに認められず,I検察官が被告人がうそをついていると怒ったなどと供述する。 (2) 被告人の供述経過そこで,まず,被告人の供述経過につき検討する。証拠によれば,次の経過が認められる(眠気の有無と直接関係のない調書の作成等については除く。)。 被告人は,5月1日に本件自動車運転過失致死傷で逮捕され,H警察官による弁解録取手続で,「前日来の長距離運転等による過労等のため眠気を覚え前方注視が困難な状態になったのであるから,直ちに運転を中止すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り」との被疑事実について,間違いないと供述した旨録取され,これに引き続く取調べで作成された調書も,事故前に眠気を感じたことを認める内容であった。5月3日に検察官送致された際の担当のJ検察官による弁解録取手続においても,前記と同内容の被疑事実について,過労で眠くなったという点については否定したが,疲れたので,眠くなり,居眠りをしてしまった旨録取された。そして,同日の裁判官による勾留質問の際にも,同被疑事実について間違いないと録取された。 勾留後,5月10日のH警察官による取調べでも,事故前に眠気を感じていた旨の調書が作成された。5月11日に被告人立会により本件事故現場までの走行経路をたどるいわゆる現場引き当たり捜査が,5月13日に同じく被告人立会による同様の実況見分(以下「本件実況見分」という。)がそれぞれなされた。その結果を受け,5月17日のH警察官による取調べ及び翌1 たどるいわゆる現場引き当たり捜査が,5月13日に同じく被告人立会による同様の実況見分(以下「本件実況見分」という。)がそれぞれなされた。その結果を受け,5月17日のH警察官による取調べ及び翌18日のI検察官による取調べで,前記実況見分の際に事故前に眠気を感じた地点として指示説明した地点(罪となるべき事実記載の関越自動車道新潟線上り109.7キロポスト付近。以下「本件指示説明地点」という。)で,実際に眠気を感じた旨の調書が作成された。 5月22日,被告人は,本件自動車運転過失致死傷で起訴されたが,起訴後も,本件道路運送法違反等(罪となるべき事実第2,第3)についての取調べと並行して本件事故についての取調べもなされ,その際作成された調書にも,事故前に眠気を感じなかったとの記載は一切ない。 そして,いずれの取調べにも通訳人が立ち会っており,また,作成されたすべての調書に被告人の署名指印がある。 (3) 取調状況について次に,取調べの状況に関するH警察官及びI検察官の証言を検討すると,この両名は,被告人は,一貫して本件事故前に眠気を感じていたと供述しており,眠気を感じることはなかった旨の供述はしておらず,誤導・威迫にわたる取調べをしたことはない旨証言する。 そして,H警察官は5月5日の取調べでの被告人の供述内容として,ノートにメモとして「渋川から直線3車ねむくなった」,すなわち,渋川伊香保インターチェンジ付近から眠くなったという趣旨の記載をしているところ,これは,H警察官による5月10日付けの被告人の警察官調書中の「伊香保インターチェンジを通り過ぎて少し走ったあたりで,急に強い眠気がきました。」との記載とも符合し,H警察官の証言に沿うものである。 なお,H警察官は,病気以外では,眠気を感じた上でだんだん眠気が強くなって ーチェンジを通り過ぎて少し走ったあたりで,急に強い眠気がきました。」との記載とも符合し,H警察官の証言に沿うものである。 なお,H警察官は,病気以外では,眠気を感じた上でだんだん眠気が強くなって寝てしまうものであるという認識をもって取調べに臨んでいたというが,このことから直ちに任意性を失わせるような誤導,威迫があったことに結びつくものではない。 その他,特にH警察官の証言に不自然・不合理な点はない。H警察官の証言内容は信用できる。 I検察官は,最初の取調べである5月9日も,続く5月12日の取調べの際も,被告人は事故前に眠気を感じていたと供述していたと証言する。その後,5月18日に,本件実況見分の結果を踏まえ,本件指示説明地点での被 告人の当時の眠気や疲れの状態などを確認した上で,供述調書を作成した旨証言する。そして,取調べの中で,本件指示説明地点よりももっと手前の越後川口サービスエリアで既に眠気を感じていたのではないかと追及したところ,被告人が,俺をうそつき呼ばわりするのかとどなったことがあったが,I検察官が被告人をどなりつけたことはないという。 I検察官の証言についても,5月9日及び12日の取調べの状況については,取調べに立ち会った検察事務官作成のメモの記載と符合し,特に不自然・不合理な点はない。I検察官の証言内容も信用できる。 (4) 被告人には,本件自動車運転過失致死傷について,5月8日以降,国選弁護人により複数回の接見がなされているが,警察官・検察官に対して,取調べに対する不満等の申入れはない。 また,本件事案の内容からすれば,捜査機関としては,場合によっては,本件において弁護人も認めている「睡眠が不十分なまま本件バスの運転を開始した過失」等の訴因での起訴も十分に可能であったと考えられるのであるから,あえて被 らすれば,捜査機関としては,場合によっては,本件において弁護人も認めている「睡眠が不十分なまま本件バスの運転を開始した過失」等の訴因での起訴も十分に可能であったと考えられるのであるから,あえて被告人の弁解を無視し,内容虚偽の供述調書を作成してまで「眠気を感じていたのに運転を継続した過失」での起訴に固執する理由は見いだし難い。 加えて,本件実況見分の際,捜査車両内にはビデオカメラが設置され,車両内の様子が録音録画されており,そのDVD動画は音声が不明瞭な部分も多いが映像は鮮明であり,その際の被告人の態度等を見ても,この実況見分に先立つ取調べにおいて,被告人に対し任意性がなくなるような誤導・威迫があったことをうかがわせる言動,態度等は全く見受けられない。 (5) 以上によれば,被告人に対する取調べにおいて,任意性をなくすような誤導・威迫がなかったことが明らかに認められ,被告人は,捜査段階において任意に,事故前に眠気を感じていた旨の供述をしていたものと認定できる。 2 捜査段階における被告人の供述の信用性(1) 既に検討・認定したとおり,被告人は,捜査段階においては一貫して本件事故前に眠気を感じていた旨任意に供述していた。 眠気を感じていた地点については,逮捕直後の5月1日付け警察官調書において「事故を起こす数十分前から『疲れた。眠い。』という感覚があったことは覚えていますが,どのあたりを走っていたか今は思い出せません。」と供述し,5月10日付け警察官調書では,「伊香保インターチェンジを通り過ぎて少し走ったあたりで,急に強い眠気がきました。」と供述していた。 その後,5月11日の引き当たり捜査及び13日の本件実況見分において,実際に現場で眠気を感じた地点(本件指示説明地点)等を指示説明し,これを受けての5月17日付け警察官 ました。」と供述していた。 その後,5月11日の引き当たり捜査及び13日の本件実況見分において,実際に現場で眠気を感じた地点(本件指示説明地点)等を指示説明し,これを受けての5月17日付け警察官調書では,「私が,最初に眠気を感じたのは,①地点(本件指示説明地点)の赤城インターチェンジを通過して,山間のダラダラとした下り坂を走っているときでした。」「場所は覚えていませんが,渋川伊香保インターチェンジを通過してから,だんだん眠気が強くなってきた」などと供述し,5月18日付け検察官調書でも「①地点付近で,眠気を感じました。」「(渋川伊香保インターチェンジを過ぎると)私は,道路幅が広くなり,平らになったので,気持ちが少しゆるみました。それで,眠くなり,頭がぼうっとした感じになりました。」などと具体的に供述している。 このように眠気を最初に感じた地点については,若干の変遷が見られるが,本件実況見分の際に現場に赴いたことにより記憶が喚起され,具体的な地点の特定も可能になったと見るべきであり,供述の信用性に疑問を抱かせるものではない。 (2) 本件事故前の被告人の睡眠状況やタコグラフチャート紙の記録との整合性について先に述べたとおり,被告人は,4月28日午後8時50分頃,本件バスを 運転して車庫を出発した時点で,夜間の高速道路を走行する本件バス便を運転するのに十分な睡眠をとっておらず,本件事故現場まで長距離走行を続けてきたことともあいまって,相当強い疲労を感じていたことは明白であり,これ自体は被告人も否定していない。加えて,前記タコグラフチャート紙に記録された速度の変化も,G証人の証言どおり,強い眠気や疲労でしか説明できないものである。 本件事故前の被告人の睡眠状況やタコグラフチャート紙の記録は,眠気を感じていたという被告人の捜査 ート紙に記録された速度の変化も,G証人の証言どおり,強い眠気や疲労でしか説明できないものである。 本件事故前の被告人の睡眠状況やタコグラフチャート紙の記録は,眠気を感じていたという被告人の捜査段階の供述を強く裏付けるものであるといえる。 (3) 加えて,本件事故直後に被告人から事情を聴いたK警察官やL警察官の各証言によれば,被告人から本件事故前に眠気を感じていなかったことをうかがわせるような発言はなかった。 更に,本件バスの一部の乗客らが,被告人がサービスエリアで休憩中にハンドルにつっぷして疲れた様子を見せる姿を目撃していることは,被告人の捜査段階の供述と整合的である。 (4) 弁護人は,5月12日のI検察官の取調べにおいて,被告人が「眠くなってうとうとした場所はない」などと話したことを指摘して(被告人にそのような発言があったことはI検察官も認めている。),事故前に眠気を感じていたことを認める調書はこうした被告人の供述を無視して作成されたもので,信用性がないと主張する。しかし,この発言は,前記のとおりI検察官から眠気を感じた場所がもっと手前ではないかとの追及を受けた被告人が,自分をうそつき呼ばわりするのかと怒ってまくし立てた際の発言であり,事故前に眠気を感じていたとの供述の信用性を左右するものではない。 また,弁護人は,本件実況見分等における眠気を感じた地点等の特定は被告人の指示説明によるものではなく,担当のM警察官の指示で停車していたと主張しており,被告人もこれに沿い,勝手に捜査車両が停車するので,M 警察官に大きな声で違うと言うなどしたが,聞いてくれなかったと供述する。 しかし,前記の実況見分の際のDVD動画を見ても,被告人がM警察官に対し抗議しているような場面は特に見受けられない。また,本件実況見分調書上の①地点 言うなどしたが,聞いてくれなかったと供述する。 しかし,前記の実況見分の際のDVD動画を見ても,被告人がM警察官に対し抗議しているような場面は特に見受けられない。また,本件実況見分調書上の①地点(本件指示説明地点)と②地点(関越自動車道新潟線上り86. 5キロポスト)の間で一度捜査車両が停車し,被告人とM警察官との間で会話があった後,再び捜査車両が発車した様子が撮影されているところ,これは,M警察官の証言のうち,被告人に眠気が強くなった地点を聞くと89. 0キロポスト付近で「この辺かな」などと説明したので,そこに捜査車両を停車したが,被告人が「分からない」などと言ったため,再び発車したとする点を裏付けるものとなっている。このように,DVD動画は,M警察官の証言の信用性を高める一方,被告人の公判廷での前記供述と符合しない。この被告人の公判廷での供述は信用できない。 以上からすれば,引き当たり捜査及び実況見分における眠気を感じた地点等の特定は,被告人の指示説明に基づいてなされたものと認められる。 (5) 以上検討したとおり,被告人は,捜査段階において,逮捕直後から一貫して事故前に眠気を感じていたと供述しており,この供述は当時の客観的な状況や他の証拠とも一致するものであるから,十分に信用することができる。 3 被告人の睡眠時無呼吸症候群について(1) 本件の公判前整理手続中に,弁護人の証拠保全の請求に基づき,10月9日から10日にかけて被告人の睡眠時無呼吸症候群に関する鑑定が実施された。その結果,被告人は,中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に罹患していることが判明した。(当裁判所に顕著な事実)そして,睡眠時無呼吸症候群の研究者であるN教授の証言等も併せれば,本件事故時に被告人が既にこの病気に罹患していたものと認められる。 (2) していることが判明した。(当裁判所に顕著な事実)そして,睡眠時無呼吸症候群の研究者であるN教授の証言等も併せれば,本件事故時に被告人が既にこの病気に罹患していたものと認められる。 (2) 一般に,睡眠時無呼吸症候群に罹患すると,睡眠中に舌が喉の奥に沈 下することにより気道(空気の通り道)が塞がれ,そのため,大きないびきをかき,睡眠中に呼吸が止まったり,止まりかけたりする状態が断続的に繰り返され,このため睡眠が浅くなると同時に,脳への酸素の供給も悪くなり,質の良い睡眠がとれず,日中強い眠気を感じたり居眠りがちになったりして,集中力に欠けるなどの状況が生じる。この結果,一般論としては,漫然運転や居眠り運転による事故等が発生しやすくなるとされている。 そして,N教授の証言によると,睡眠時無呼吸は慢性的な睡眠不足を引き起こすところ,慢性的な睡眠不足状態でも眠気を自覚しないことがあり,また,睡眠不足状態では,自動車の運転中などに眠気を感じることなく突然睡眠に陥ったり,一瞬脳が眠ってしまう(睡眠の脳波が出る)「マイクロスリープ」という状態になることがあり,被告人もそのように眠気を感じずに眠ってしまった結果,本件事故を起こしたというのである。 このうち,睡眠時無呼吸症候群の患者が眠気を感じることなく突然眠ってしまう場合があるとの点については,検察官からの請求による専門家証人も,学術的な見解等の相違はあるものの結論的にそのような場合があることは否定しておらず,一般論として,そのような場合があり得ることは認められる。 しかしながら,一方で,N教授は,医学的データから被告人が眠気を感じていたか否かは分からないとか,睡眠時無呼吸症候群の患者であっても眠気を感じて居眠り運転をすることがある,睡眠時無呼吸症候群があって更に睡眠不足だったときに眠気 ,医学的データから被告人が眠気を感じていたか否かは分からないとか,睡眠時無呼吸症候群の患者であっても眠気を感じて居眠り運転をすることがある,睡眠時無呼吸症候群があって更に睡眠不足だったときに眠気を感じたというのは不自然ではないなどとも証言している。これを併せ考えれば,前記の点に関するN証言の趣旨は,仮に眠気を感じなかったという被告人の公判廷での供述が正しいものであるならば,それは医学的に見て何ら不合理なものではない旨を言うにすぎないものと解され,被告人の公判廷での供述を裏付けたり,補強するようなものではない。 4 その他,本件事故前に眠気を感じたことはないとの被告人の公判廷での供述は,客観的証拠であるタコグラフチャート紙の記録と符合しないことは明らか であり,捜査段階の供述から変遷した理由についても合理的な理由は見いだし難い。 以上検討したところを総合すれば,本件事故前に眠気を感じたことはないとの被告人の公判廷での供述は信用できない。 第5 結論以上より,捜査段階における本件事故前に眠気を感じていたとの被告人の供述は信用でき,被告人は,仮睡状態に陥る前に眠気を感じていたと認められるから,罪となるべき事実記載の過失が認定できる。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は各被害者ごとにいずれも刑法211条2項本文に,判示第2の所為のうち電磁的公正証書原本不実記録の点は各普通乗合自動車1台ごとにいずれも同法60条,157条1項に,同供用の点は各普通乗合自動車1台ごとにいずれも同法60条,158条1項,157条1項に,判示第3の所為は包括して道路運送法96条1号,4条1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の被害者7名に対する各自動車運転過失致死及び被害者38名に対する各自動車運転過失傷害は1個の行為が45個の罪名に触れる場合で 包括して道路運送法96条1号,4条1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の被害者7名に対する各自動車運転過失致死及び被害者38名に対する各自動車運転過失傷害は1個の行為が45個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情の最も重い被害者1名に対する自動車運転過失致死罪(人の生命に優劣はつけられず各自動車運転過失致死相互の間の犯情について軽重の差があるとは認め難いから,各被害者に対する自動車運転過失致死のうちいずれが最も重いかを決することはできない。)の刑で処断し,判示第2の普通乗合自動車4台についての電磁的公正証書原本不実記録及び同供用は,それぞれ1個の行為が4個の罪名に触れる場合であり,各電磁的公正証書原本不実記録とそれぞれの供用との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として犯情の最も重い普通乗合自動車1台についての電磁的公正証書原本不実記録供用罪の刑で処断し,判示第1及び第2の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を,判示第3の罪につ いては所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については同法48条1項によりこれをその懲役刑と併科し,その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役9年6月及び罰金200万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中400日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,バス運転 金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,バス運転手として大型バスに乗客45名を乗せて高速道路を走行中,居眠り運転をしたため,道路脇の防音壁にバスを衝突させ,乗客7名を死亡させて,38名に重軽傷を負わせた自動車運転過失致死傷(罪となるべき事実第1)並びに被告人の経営する自動車運送業に関する電磁的公正証書原本不実記録,同供用(同第2)及び道路運送法違反(同第3)の事案である。 被告人は,本件事故現場の手前で眠気を感じながら,あえて運転を中止せず,漫然と運転を継続したものであるが,当時,高速バス運転手として乗客45名の生命を預かり,高速道路を時速約90キロメートルという高速度で走行していたのであるから,誰よりもそして何よりも乗客の安全を最優先しなければならない立場にあった上,万が一にも居眠り運転をするようなことがあれば多数の乗客に取り返しのつかない甚大な被害が生じるであろうことは明らかであった。眠気を感じた地点から本件事故現場に至るまでの間にもパーキングエリアがあったのであるから,同所にバスを止めるなどして休憩をとるなどの適切な対応をとることは十分に可能であった。それにもかかわらず,被告人は,そのような措置をとることなく,漫然と運転を継続して本件事故を引き起こすに至ったもので,人命を預かるプロドライバーとして許されない非常識極まりない行動に出たといわざるを得ない。 被告人がこのような居眠り運転を起こした原因として,被告人が睡眠不足の状態 で本件バスを運転したことがあげられるが,この点についても非難すべき点が多い。 被告人は突然夜間バスの運転手を依頼され,恩義を感じているAからの頼みだったの た原因として,被告人が睡眠不足の状態 で本件バスを運転したことがあげられるが,この点についても非難すべき点が多い。 被告人は突然夜間バスの運転手を依頼され,恩義を感じているAからの頼みだったので断り切れなかったというが,依頼を受ける前,昼間に仮眠などとっておらず,そもそも慢性的に睡眠不足の状態にあったというのであるから,本件のような事故を起こす可能性も想定できるはずであり,いくらAに恩義を感じていても,断るべきであった。しかも事前に十分な睡眠がとれていないのであれば,せめて出発前にできる限りの睡眠時間を確保しようとするのが当然であるのに,仮眠用のホテルにいる間も,出発直前に本件バスの車内で仮眠をとる間でさえも,自らの携帯電話の電源を切ることすらせず,電話応対に追われて細切れの睡眠しかとらなかった。夜間,土地勘もない場所で高速道路での長距離運転を強いられ,代替運転手もいない,事前に睡眠もとれていないという最悪の条件での運転手を引き受けておきながら,居眠り運転防止のために最低限度しなければならないことすらしていなかったのである。本件事故につきAに責任の一端があるから被告人の刑事責任が軽くなるとはいえない。 なお,弁護人は,業界の規制緩和による安全性軽視の風潮や監督官庁の安全性確保のための規制強化の遅れを本件事故発生の一因と主張する。しかしながら,本件事故は,前記のように,夜間バスの運転前に睡眠時間を削って電話をしたり,眠気を感じながら運転を続行した被告人の余りにも非常識な行動に起因するものであり,この点も被告人の刑事責任を軽減する事情となりえない。 本件バスは,道路脇のガードレールに接触しつつなお暴走を続け,コンクリート擁壁の上部に設置された防音壁があたかも鋭利な刃物のように本件バスを切り裂くようにして車体内部に食い込み,やっと えない。 本件バスは,道路脇のガードレールに接触しつつなお暴走を続け,コンクリート擁壁の上部に設置された防音壁があたかも鋭利な刃物のように本件バスを切り裂くようにして車体内部に食い込み,やっと停止したのであり,その衝撃力,破壊力はすさまじいものであった。 この点,ガードレールなど防護柵に関する現行の設置基準(国土交通省通達)では,より高い次元で安全性を確保するため,本件事故現場のように異なる種別の防護柵であるガードレールとコンクリート擁壁を隣接して設置する場合には,端の部 分を連続させるように求めている。そして,弁護人は,本件事故現場の防護柵が現行設置基準どおりの構造になっていれば,重大な結果は発生しなかったのであるから,このことを被告人の量刑上十分に考慮するべきと主張する。しかしながら,本件事故現場のガードレールやコンクリート擁壁の構造は,それらが設置された時点の設置基準(建設省通達)には合致しており,現行の設置基準は防護柵を取り替えるなどの工事がない限り適用されるものではなく,その他道路管理者側に落ち度というべき事情は見られない。確かに,防音壁がバスの車体内部に食い込むような事態にならなければ,本件被害はこれほど甚大なものにはならなかったのではないかという思いはあるものの,その責任をガードレールの設置状況等に転嫁することはできない。 各被害者は,本件バスを利用した目的は違えども,皆,目的地まで安全に運んでくれるであろうことを信じて疑わなかったであろうに,家族との最後の対面すら許されないまま,その命を奪われた。将来の夢や希望に満ちていた10歳代,20歳代の被害者,まだまだ人生の楽しみをこれから味わおうとしていた50歳前後の被害者,皆一様に本件事故から先の人生を一瞬にして断ち切られた。バスの単独事故としてはこれまでに余り類 ていた10歳代,20歳代の被害者,まだまだ人生の楽しみをこれから味わおうとしていた50歳前後の被害者,皆一様に本件事故から先の人生を一瞬にして断ち切られた。バスの単独事故としてはこれまでに余り類例を見ない重大なものである。 命までは奪われなかったものの,38名もの被害者がそれぞれ傷害を負わされた。 その人数もさることながら,それぞれの被害者に与えた肉体的・精神的な被害は誠に重大である。重い傷害を負って,後遺症に苦しむ被害者,今後後遺症が心配される被害者も少なくない上,傷害の程度にかかわらず,壮絶な事故を経験したことにより精神的に苦しめられ続ける被害者も数多い。顔や体に今も傷痕が残り,肉体的にも精神的にも苦しみ続けている者や本件事故前に抱いていた夢を諦めざるを得なくなった者など,被害者の多くが今もなお様々な肉体的・精神的苦痛を強いられているのであり,それぞれの人生に与えてしまった影響は余りにも大きい。 もとより,かけがえのない家族を失った遺族の悲しみは余人には計り知れないものがあり,中には家族を失った上,自らも傷害を負わされた者までいるのであるか ら,その処罰感情が極めて厳しいのは当然である。負傷した被害者やその家族もそのほとんどが厳しい処罰感情を示している。 被告人は,謝罪の言葉を述べたり,謝罪の手紙を書き送るなどしているが,公判廷においては,眠気を感じたことはなかったと事実と異なる供述に終始し,死亡被害者の遺族や在廷する被害者,その家族の心情を顧みることもなく,本件の原因や自分自身の犯した罪の重さとも真摯に向き合っているとはいえず,心の底から本件を反省しているなどとは到底認められない状態にある。 道路運送法違反等(罪となるべき事実第2,第3)についても,内容虚偽の登録をした上,無許可でのバス事業を繰り返して収益を得ていたと の底から本件を反省しているなどとは到底認められない状態にある。 道路運送法違反等(罪となるべき事実第2,第3)についても,内容虚偽の登録をした上,無許可でのバス事業を繰り返して収益を得ていたというのであって,究極的には道路交通の安全確保を目的とする同法の趣旨等をないがしろにするものであって,その責任は軽視できない。 そうすると,本件バスにはBにおいて対人無制限及び対物無制限の任意保険が付されており,これにより既に一部の支払がなされるなど,最低限の金銭賠償の見込みがあること,これまで前科もなく,道路運送法違反等については事実関係を率直に認めていること等を考慮しても,これまで検討した犯情を考慮すれば主文の刑を科すのが相当と判断した。 (求刑懲役10年及び罰金200万円)平成26年3月25日前橋地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官高山光明 裁判官畑口泰成 裁判官桑原眞貴
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