- 1 -令和7年4月17日判決言渡令和6年(行ウ)第114号保有個人情報不開示決定処分取消請求事件 主文 1 α矯正管区長が令和5年2月3日付けで原告に対してした保有個人情報の不開示決定(α管発第389号)を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項同旨 2 α矯正管区長は、原告に対し別紙1保有個人情報目録記載の保有個人情報を開示する旨の決定をせよ。 第2 事案の概要原告は、殺人罪により懲役刑に処する旨の有罪判決が確定し、同判決に基づ く刑の執行として刑務所に収容されたが、釈放後に再審請求が認められ再審無罪となった者であるところ、α矯正管区長に対し、個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による改正のうち令和5年4月1日を施行日とする改正の前のもの。以下「個人情報保護法」という。)76条1項に基づき、「β刑務所に平成▲年から平成▲年まで収容されていたA(昭和▲年▲月▲日生) の被収容者身分帳簿に編綴された書面であって、同人の入所時の精神状態及び知能検査結果が記載されたもの全て」(別紙1保有個人情報目録記載のもの。 以下「本件対象保有個人情報」という。)等の開示請求(以下「本件開示請求」という。)をした。これに対し、α矯正管区長は、本件対象保有個人情報は、個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当し、開示請求等の規定の 適用から除外されるとして、これを不開示とする旨の決定(以下「本件不開示- 2 -決定」という。)をした。 本件は、原告が、本件対象保有個人情報につき、個人情報保護法122条1項により不 適用から除外されるとして、これを不開示とする旨の決定(以下「本件不開示- 2 -決定」という。)をした。 本件は、原告が、本件対象保有個人情報につき、個人情報保護法122条1項により不開示としたことは違法であるなどと主張して、被告を相手に、本件不開示決定の取消しを求めるとともに、本件対象保有個人情報の開示決定の義務付けを求める事案である。 1 個人情報保護法の定め(1) 開示請求権個人情報保護法76条1項は、何人も、個人情報保護法の定めるところにより、行政機関の長等に対し、当該行政機関の長等の属する行政機関等の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる(以下 「開示請求」という。)旨規定する。 そして、個人情報保護法78条柱書きは、行政機関の長等は、開示請求があったときは、開示請求に係る保有個人情報に同条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示しなければならない旨規定する。 (2) 適用除外個人情報保護法122条1項は、個人情報保護法第5章第4節(開示、訂正及び利用停止)の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しく は執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない旨規定する。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、当裁判所に顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番号を含む。) しない旨規定する。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、当裁判所に顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番号を含む。) (1) 原告に対する懲役刑の執行及び再審無罪判決(乙3、顕著な事実)- 3 -ア原告は、平成▲年▲月▲日、γ地方裁判所において、殺人罪により懲役▲年の有罪判決(以下「本件有罪判決」という。)を受け、本件有罪判決は、控訴、上告を経て、平成▲年▲月▲日、確定した。 イ原告は、本件有罪判決に基づき、平成▲年▲月▲日、β刑務所に収容され、平成▲年▲月▲日、同刑務所を満期出所した。 ウ原告は、平成▲年頃、本件有罪判決につき、無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したとして、再審請求(第2次再審請求)をした。 γ地方裁判所は、平成▲年▲月▲日、上記再審請求を棄却する旨の決定をし、原告がこれに対して即時抗告をしたところ、δ高等裁判所は、平成▲年▲月▲日、上記決定を取り消し、再審を開始する旨の決定(以下「本 件再審開始決定」という。)をし、本件再審開始決定は、特別抗告を経て、平成▲年▲月▲日、確定した。 エ本件再審開始決定の確定を受け、γ地方裁判所は、再審公判を経て、令和▲年▲月▲日、本件有罪判決に係る殺人罪の公訴事実につき、原告を無罪とする旨の判決(以下「本件再審無罪判決」という。)を言い渡し、その 後、本件再審無罪判決が確定した。 (2) 本件開示請求及び本件不開示決定等(甲1、2、乙1、2、4~10)ア原告の委任を受けた代理人弁護士(以下「原告代理人弁護士」という。)は、令和4年11月30日、α矯正管区長に対し、開示を請求する保有個人情報を、「β刑務所に平成▲年から平成▲年まで収容さ ア原告の委任を受けた代理人弁護士(以下「原告代理人弁護士」という。)は、令和4年11月30日、α矯正管区長に対し、開示を請求する保有個人情報を、「β刑務所に平成▲年から平成▲年まで収容されていたA(昭 和▲年▲月▲日生)の被収容者身分帳簿に編綴された書面であって、同人の入所時の健康状態、精神状態及び知能検査結果が記載されたもの全て」として、個人情報保護法76条1項に基づく開示請求(本件開示請求)をした。 イ α矯正管区の担当職員は、令和5年2月1日付けで、原告代理人弁護士 に対し、「保有個人情報開示請求について」と題する書面を送付し、開示- 4 -を請求する保有個人情報について、①「健康診断簿(開示請求者に関するもの)」(平成▲年度 β刑務所)と②「β刑務所に平成▲年から平成▲年まで収容されていたA(昭和▲年▲月▲日生)の被収容者身分帳簿に編綴された書面であって、同人の入所時の精神状態及び知能検査結果が記載されたもの全て」(本件対象保有個人情報)と特定した旨連絡した。 ウ α矯正管区長は、令和5年2月3日付けで、本件開示請求のうち上記イ①の保有個人情報(健康診断簿)について、職員の印影部分を不開示とし、その余を開示する旨の保有個人情報部分開示決定(α管発388号)をし、その頃、原告代理人弁護士にその旨通知した。 エ α矯正管区長は、令和5年2月3日付けで、本件開示請求のうち上記イ ②の保有個人情報(本件対象保有個人情報)について、要旨、刑事事件に係る裁判又は刑の執行に係る保有個人情報であり、個人情報保護法122条1項に該当し、開示請求等の規定の適用から除外されているとして、これを全部不開示とする旨の本件不開示決定(α管発389号)をし、その頃、原告代理人弁護士にその旨通知した あり、個人情報保護法122条1項に該当し、開示請求等の規定の適用から除外されているとして、これを全部不開示とする旨の本件不開示決定(α管発389号)をし、その頃、原告代理人弁護士にその旨通知した。 (3) 本件不開示決定に対する審査請求(甲3、8)原告は、令和5年3月20日、本件不開示決定につき審査請求をしたところ、法務大臣は、令和6年5月8日付けで、上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (4) 本件訴えの提起(顕著な事実) 原告は、令和6年7月25日、本件訴えを提起した。 3 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 争点ア本件対象保有個人情報が個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当するか(争点1) イ個人情報保護法122条1項が違憲無効であるか(争点2)- 5 -(2) 争点に関する当事者の主張争点に関する原告の主張は、別紙2「訴状」記載のとおりであり、被告の主張は、別紙3「被告第1準備書面」記載のとおりであるが、本件対象保有個人情報が個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当するか(争点1)のうち、再審無罪判決が確定した者の保有個人情報であることに 関する当事者の主張の要旨は、次のとおりである。 (被告の主張)本件対象保有個人情報は、受刑者の処遇に必要な基礎資料としての処遇調査(資質及び環境に関する科学的調査)結果であり、個人情報保護法122条1項にいう「刑事裁判…に係る…保有個人情報」又は「刑…の執行…に係 る保有個人情報」に該当する。 個人情報保護法122条1項は、「刑…の執行…に係る保有個人情報」のみを開示請求等の対象から除外しているのではなく、「刑事事件…に係る裁判… 行…に係 る保有個人情報」に該当する。 個人情報保護法122条1項は、「刑…の執行…に係る保有個人情報」のみを開示請求等の対象から除外しているのではなく、「刑事事件…に係る裁判…に係る保有個人情報」や、「検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分…に係る保有個人情報」についても開示請求等の対象から除外し ていることから、その文理上、有罪であるか無罪であるかにかかわらず、これらの情報を一律に開示請求等の対象から除外していることは明らかである。仮に無罪が確定した者に係る収容歴等の情報であったとしても、当該情報は、判決の確定に至るまでの「刑事事件…に係る裁判…に係る保有個人情報」又は「検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分…に係る保 有個人情報」であるし、いったん刑が確定して当該刑の執行を受けた後に無罪が確定した者に係る収容歴等の情報については、「刑…の執行…に係る保有個人情報」にほかならない。これは、収容歴等の情報が開示請求等の対象となれば、本人の社会復帰を妨げるなどの弊害が生ずるおそれがあるからであり、また、訴訟関係書類に関しては、刑事訴訟法等において、密行性等の 諸種の要請との調和を図った独自のシステムが設けられているからである。 - 6 -したがって、無罪確定者には個人情報保護法122条1項の趣旨が妥当しない旨の原告の主張は理由がない。 (原告の主張)原告は、再審により無罪が確定した者であるところ、個人情報保護法122条1項の趣旨は、前科や逮捕歴が明らかになることで本人の社会復帰上の 不利益となることを防止することにあるとされているが、かかる趣旨は、無罪が確定した者には妥当しない。むしろ逆に、無罪が確定した者には、刑の執行等に係る保有個人情報へのアクセスが最 社会復帰上の 不利益となることを防止することにあるとされているが、かかる趣旨は、無罪が確定した者には妥当しない。むしろ逆に、無罪が確定した者には、刑の執行等に係る保有個人情報へのアクセスが最大限保障されるべきである。 したがって、無罪が確定した者による保有個人情報開示請求に対し、個人情報保護法122条1項を適用することは許されない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件対象保有個人情報が個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当するか)について(1) はじめに本件対象保有個人情報は、β刑務所に収容された原告の被収容者身分帳簿 に編綴された書類のうち、原告の同刑務所入所時の精神状態及び知能検査結果が記載されたものである(前提事実(2)ア及びウ)が、かかる保有個人情報は、有罪判決に基づく刑の執行としてされた刑務所への収容の際の処遇に係る保有個人情報(以下「刑執行処遇保有個人情報」という。)であって、一般的には、個人情報保護法122条1項にいう「刑事事件…に係る裁判…に係 る保有個人情報」及び「刑…の執行…に係る保有個人情報」に該当するものと解される。 もっとも、原告は、本件有罪判決に基づく刑の執行としてβ刑務所に収容されたが、その釈放後に本件再審無罪判決を受け、同判決が確定している(前提事実(1)イ~エ)。そこで、本件再審無罪判決の確定後も、本件対象保有個 人情報が個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当するか否か- 7 -について、以下検討する。 (2) 刑執行処遇保有個人情報が再審無罪判決の確定後も個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当するか否かについてア個人情報保護法122条1項が、同項所定の保有個人情報 (2) 刑執行処遇保有個人情報が再審無罪判決の確定後も個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当するか否かについてア個人情報保護法122条1項が、同項所定の保有個人情報につき個人情報保護法第5章第4節(保有個人情報の開示、訂正及び利用停止)の規定 を適用除外とした趣旨は、同項所定の保有個人情報は、個人の前科、逮捕歴、勾留歴等を示す情報を含んでおり、これを開示請求等の対象とすると、例えば、雇用主が、採用予定者の前科の有無やその内容をチェックする目的で、採用予定者本人に開示請求をさせる場合などが想定されるため、本人の前科等が本人以外の者に明らかになる危険性があり、逮捕留置者、被 疑者、被告人、受刑者等の立場で留置場や監獄に収容されたことのある者等の社会復帰や更生保護上問題となり、その者の不利益になるおそれがあるからであるとされている(令和3年法律第37号による廃止前の行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項に関し、総務省行政管理局編「行政機関等個人情報保護法の解説(増補版)」〔以下「総務省解 説」という。〕183頁参照)。 しかるところ、刑事訴訟において、ある公訴事実につき有罪判決がされてこれが確定した(以下、この判決を「原確定判決」という。)後に、当該公訴事実について再審無罪判決がされてこれが確定したときは、原確定判決は、遅くとも再審無罪判決が確定した時点で、失効するものと解されて いる。また、刑事訴訟法453条は、再審において無罪の言渡しをしたときは、官報及び新聞紙に掲載して、その判決を公示しなければならない旨規定するところ、これは、かかる公示をすることにより、有罪判決(原確定判決)の言渡しを受けた者の名誉を回復することをその趣旨とするものと解される。 に掲載して、その判決を公示しなければならない旨規定するところ、これは、かかる公示をすることにより、有罪判決(原確定判決)の言渡しを受けた者の名誉を回復することをその趣旨とするものと解される。 このように、再審無罪判決が確定した場合には、原確定判決が失効する- 8 -ことにより、かつて有罪とされた公訴事実は本人の「前科」ではなくなり、刑の執行も遡ってその根拠を失うこととなると解される上、再審無罪判決が官報及び新聞紙に掲載されて公示されることにより、本人の名誉の回復が図られることとなる。そうすると、このような場合に、個人情報保護法122条1項の立法趣旨が想定する、雇用主が、前科の有無や内容をチェ ックする目的で、採用予定者本人に刑執行処遇保有個人情報の開示請求をさせるといった事態による不利益は、そもそも想定することが困難であるし、そのような事態を通じて、社会復帰や更生保護の観点から、本人が何らかの不利益を被るとも考え難い。また、再審無罪判決を受けたという情報は、かつて有罪判決を受け、その有罪判決に基づいて刑の執行を受けた という情報を内包するものであるが、上記のとおり、刑事訴訟法453条において、官報や新聞紙への掲載により、再審無罪判決を公示しなければならないとされているのであるから、かつて有罪判決を受けたことや刑の執行を受けたこと等のプライバシー情報は、再審無罪判決が公示される際に、本人の名誉の回復のため、併せて公にされることが制度上当然に想定 されているといえる。 以上によれば、刑執行処遇保有個人情報については、再審無罪判決の確定後は、個人情報保護法122条1項の趣旨は妥当しないというべきであり、同項所定の保有個人情報には該当しないと解するのが相当である。 イなお、個人情報 有個人情報については、再審無罪判決の確定後は、個人情報保護法122条1項の趣旨は妥当しないというべきであり、同項所定の保有個人情報には該当しないと解するのが相当である。 イなお、個人情報保護法122条1項の趣旨については、総務省解説18 3頁に記載されている上記趣旨(本人のプライバシーや社会復帰等の利益保護)のほかに、訴訟関係書類に関しては、刑事訴訟法や刑事確定訴訟記録法等において、関係者のプライバシー保護、捜査の密行性、刑事裁判における適正手続の確保等の諸種の要請の調和を図った独自のシステムが設けられているという点にもあるとされている(宇賀克也「個人情報保護法 の逐条解説〔第6版〕」622頁参照)。 - 9 -そこで検討するに、再審無罪判決が確定しても、「訴訟に関する書類」に記録されている個人情報については、刑事訴訟法53条の2により、引き続き個人情報保護法の開示請求等の規定の適用から除外されるものと解されるところ、この「訴訟に関する書類」とは、被疑事件又は被告事件に関して作成し、又は取得された書類をいい、訴訟記録、不起訴記録、公判 不提出記録等を含むものとされている(総務省解説185頁参照)。そうすると、再審無罪判決が確定しても、原確定判決や再審無罪判決に係る「訴訟に関する書類」に記録された個人情報が無限定に個人情報保護法に基づく開示請求の対象となるものではなく、刑事確定訴訟記録や公判不提出記録等に記録されている個人情報は、引き続き、個人情報保護法に基づく開 示請求等の規定の適用から除外されるものと解される。 これに対し、本件対象保有個人情報(β刑務所に収容された原告の被収容者身分帳簿に編綴された書類のうち、原告の同刑務所入所時の精神状態及び知能検査結果が記載されたもの)のような、刑 ものと解される。 これに対し、本件対象保有個人情報(β刑務所に収容された原告の被収容者身分帳簿に編綴された書類のうち、原告の同刑務所入所時の精神状態及び知能検査結果が記載されたもの)のような、刑執行処遇保有個人情報は、有罪判決(原確定判決)に基づく刑の執行段階の刑事収容施設におけ る処遇に係るものであるから、刑事訴訟法53条の2にいう「訴訟に関する書類」に記録されている個人情報には該当しないと解され、再審無罪判決確定後に、これを個人情報保護法に基づく開示請求の対象としても、同条に反するものではないし、訴訟関係書類の取扱いに関する同法や刑事確定訴訟記録法等の独自のシステムに矛盾抵触するものでも、その趣旨に反 することになるものでもないというべきである。 ウ以上によれば、刑執行処遇保有個人情報は、再審無罪判決が確定した後においては、個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報には該当しないと解するのが相当である。 (3) 被告の主張について これに対し、被告は、個人情報保護法122条1項は、その文理上、有罪- 10 -であるか無罪であるかを問わず同項所定の情報を一律に開示請求等の対象から除外していることは明らかであり、刑執行処遇保有個人情報は、その後に再審無罪判決が確定した場合であっても、「刑事事件…に係る裁判…に係る保有個人情報」や「刑…の執行…に係る保有個人情報」に該当すると主張する。 しかし、最高裁令和3年6月15日第三小法廷判決(民集75巻7号3064頁)は、個人情報保護法122条1項と同旨の規定である令和3年法律第37号による廃止前の行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項に関し、刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報が同項 2条1項と同旨の規定である令和3年法律第37号による廃止前の行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項に関し、刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報が同項所定の保有個人情報に該当するか否かにつき、同項の 文理から形式的に判断するのではなく、当該保有個人情報の性質、旧法における位置付け、改正経緯等を実質的に検討した上で、上記保有個人情報が同項所定の保有個人情報に該当しない旨判示しており、本件のように再審無罪判決が確定した場合における刑執行処遇保有個人情報についても、個人情報保護法122条1項の文理から形式的に判断するのではなく、同項の趣旨等 を踏まえて実質的に解釈することが許されるというべきである。 また、個人情報保護法122条1項の文理解釈としても、同項所定の「刑事事件…に係る裁判」や「刑…の執行」は、適法かつ有効なものを前提としていると解し得るのであり、前記(2)アで述べたとおり、再審無罪判決が確定した場合には、原確定判決は失効し、原確定判決に基づく刑の執行も遡及的 に根拠を失うこととなるのであるから、そのような場合の刑執行処遇保有個人情報については、同項所定の「刑事事件…に係る裁判に係る保有個人情報」や「刑…の執行…に係る保有個人情報」に該当しないと解することも十分に可能であるように思われる。 したがって、個人情報保護法122条1項の文理に基づく被告の上記主張 は、採用することができない。また、被告は、同項の趣旨に基づく主張もす- 11 -るが、刑執行処遇保有個人情報につき、再審無罪判決の確定後において個人情報保護法122条1項の趣旨が妥当しないことは、上記(2)で説示したとおりであり、採用することができない。 (4) 本件不開示決定の適法性 処遇保有個人情報につき、再審無罪判決の確定後において個人情報保護法122条1項の趣旨が妥当しないことは、上記(2)で説示したとおりであり、採用することができない。 (4) 本件不開示決定の適法性について以上によれば、刑執行処遇保有個人情報(有罪判決に基づく刑の執行とし てされた刑務所への収容の際の処遇に係る保有個人情報)は、刑の執行の根拠となった有罪判決につき再審無罪判決が確定した後においては、個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報には該当しないというべきである。 そして、本件対象保有個人情報は、原告が本件有罪判決に基づく刑の執行としてβ刑務所に収容された際の処遇に係る保有個人情報(刑執行処遇保有個 人情報)であって、その釈放後に本件再審無罪判決が確定したものであるから、個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報には該当しない。 したがって、争点1に関する原告のその余の主張(本件対象保有個人情報が診療情報やこれに準ずる情報に該当する旨の主張等)や、争点2に関する原告の主張(個人情報保護法122条1項の規定が合理性を欠き違憲無効で ある旨の主張)につき判断するまでもなく、本件対象保有個人情報につき、個人情報保護法122条1項所定の保有個人情報に該当することを理由として、これを全部不開示とした本件不開示決定は違法であり、取消しを免れない。 2 本件対象保有個人情報の開示決定の義務付けを求める訴えについて (1) 本件訴えのうち、本件対象保有個人情報の開示決定の義務付けを求める部分(第1の2)は、いわゆる申請型義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)であるところ、上記1のとおり、本件不開示決定は取り消されるべきものであるから、本件訴えのうち上記部分は、行政事件訴訟法37条の3第1項2 いわゆる申請型義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)であるところ、上記1のとおり、本件不開示決定は取り消されるべきものであるから、本件訴えのうち上記部分は、行政事件訴訟法37条の3第1項2号の要件を満たし、適法である。 (2) そこで、α矯正管区長が原告に対し本件対象保有個人情報の開示決定をす- 12 -べきことが、「その処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」るか否か(行政事件訴訟法37条の3第5項参照)につき検討すると、被告の主張によれば、本件対象保有個人情報に該当するものとしてα矯正管区が保有しているものは、原告に係る受刑者としての処遇に必要な基礎資料としての処遇調査(資質及び環境に関する科学的調査)結果であるとされて いる(平成18年5月23日矯成訓3308号法務大臣訓令「受刑者の処遇調査に関する訓令」〔乙14〕参照)。 しかし、本件において、かかる処遇調査については、証拠上、処遇調査票の様式は明らかとなっている(平成18年5月23日矯成3309号矯正局長依命通達「受刑者の処遇調査に関する訓令の運用について」〔乙15〕の 様式7参照)一方で、原告に係る処遇調査票の記載内容は明らかでないし、原告に係る処遇調査票に個人情報保護法78条各号所定の不開示情報に該当する情報が含まれているか否かについても、当事者双方から何らの主張立証もされていない。そうすると、現時点において、本件対象保有個人情報に該当するものとしてα矯正管区が保有している原告の上記処遇調査結果につき、 個人情報保護法78条各号所定の不開示事由に該当しないと判断することは困難であり、本件対象保有個人情報の不開示事由該当性については、本件開示請求を受けたα矯正管区長において別途判断させるのが相当である。した 護法78条各号所定の不開示事由に該当しないと判断することは困難であり、本件対象保有個人情報の不開示事由該当性については、本件開示請求を受けたα矯正管区長において別途判断させるのが相当である。したがって、本件において、α矯正管区長が原告に対し、本件対象保有個人情報の開示決定をすべきことが、当該開示決定の根拠となる法令(個人情報保護 法)の規定から明らかであるとは認め難い。 そして、本件の審理の経過を踏まえれば、本件につき、行政事件訴訟法37条の3第6項により、本件訴えのうち本件対象保有個人情報の開示決定の義務付けを求める部分に係る訴訟手続を中止することも相当ではない。 (3) 以上によれば、原告の本件対象保有個人情報の開示決定の義務付け請求(第 1の2)は、理由がない。 - 13 -第4 結論よって、本件不開示決定の取消請求は理由があるからこれを認容し、原告のその余の請求(本件対象保有個人情報の開示決定の義務付け請求)は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官徳地淳 裁判官三木裕之 裁判官牛濵裕輝は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官徳地淳 - 14 -別紙1保有個人情報目録 β刑務所に平成▲年から平成▲年まで収容されていた原告の被収容者身分帳簿に編綴された書面であって、原告の入所時の精神状態及び知能検査結果が記載された もの全て β刑務所に平成▲年から平成▲年まで収容されていた原告の被収容者身分帳簿に編綴された書面であって、原告の入所時の精神状態及び知能検査結果が記載された もの全て
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