平成17(ワ)8644 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年1月17日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文27,949 文字)

- 1 -平成19年1月17日判決言渡平成17年第8644号損害賠償請求事件( )ワ判決主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告らは、原告に対し、連帯して、3245万8242円及びうち3214万7992円に対する平成15年9月1日から、うち31万0250円に対する平成17年4月30日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは、原告に対し、連帯して、平成17年4月30日から原告の治療が終了するに至るまで、毎月末日限り4万5060円を支払え。 第2事案の概要事案の要旨 原告は、平成9年4月に、訴外A整形外科の医師により腰椎分離すべり症と診断され、外来通院していたが、症状が悪化したことから、同医師からの紹介により、平成15年8月28日に被告B株式会社の経営するC病院に入院し、同年9月1日に手術を受けた。 このことについて、原告は、同病院の被告D医師が手術上の手技を誤り、あるいは手術後に術後硬膜外血腫の発見を遅滞した過失により、原告に神経痛、臀部から下肢に至る痺れ及び圧迫痛、大小便排泄障害並びに勃起不全の後遺症を生じさせたとして、被告らに対し、診療契約上の債務不履行又は不法行為に- 2 -基づき、次の金銭の支払を求めた。 損害賠償金3245万8242円及びうち3214万7992円及びこれ( )に対する不法行為日(症状固定日)である平成15年9月1日から、うち31万0250円に対する平成17年4月30日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 平成17年4月30日から原告の治療が終了するに至るまで、毎月末日限( )り4万5060円の定期金(将来発生する損害に対する賠償金) (認定の みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 平成17年4月30日から原告の治療が終了するに至るまで、毎月末日限( )り4万5060円の定期金(将来発生する損害に対する賠償金) (認定の根拠となった証拠等を()内に示す。直前に示した前提となる事実証拠のページ番号を〔〕内に示す)。 当事者( )ア原告は、昭和17年1月2日生まれの男性である(甲A1、乙A1〔1。 〕)イ被告B株式会社は、通信事業等を営む株式会社であり、C病院(以下「被告病院」という)は、同被告の経営する診療機関である。被告D。 (以下「被告D医師」という)は、平成15年当時被告病院に勤務し、。 現在も勤務している医師である(争いのない事実、弁論の全趣旨)。 診療経過の概略(診療契約の成立及び手術の実施)( )原告は、平成9年4月、A整形外科の医師により腰椎分離すべり症と診断され、外来通院していたが、症状が悪化したことから、同医師からの紹介により、平成15年6月10日、被告病院整形外科を外来受診し、その際、被告D医師からの診察及び説明を受け、原告は、腰椎分離すべり症に対する手術を受けることとした(争いのない事実、乙A2。 )原告は、平成15年8月28日に被告病院に入院し、同年9月1日に手術を受け、同年10月18日に退院した(乙A2。 ) 争点 手術手技を誤った過失の有無( )- 3 - 手術後における硬膜外血腫の発見懈怠の有無( ) 過失行為と権利侵害結果との因果関係の有無( ) 損害額(判断する必要がなかった争点)( )争点についての当事者の主張 別紙「主張要約書」記載のとおりである(この「主張要約書」は、平成18年7月12日の本件第2回口頭弁論期日において両当事者が陳述した内容について、その後の主張を加 )争点についての当事者の主張 別紙「主張要約書」記載のとおりである(この「主張要約書」は、平成18年7月12日の本件第2回口頭弁論期日において両当事者が陳述した内容について、その後の主張を加味して修正を加えたものである。 。)第3当裁判所の判断事実認定 証拠等によれば、次の事実が認められる(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。直前に示した証拠のページ番号を〔〕内に示す。以下同じ。 。) 被告病院整形外科を受診するまでの経緯( )ア原告は、平成8年11月26日、両下肢のしびれを主訴としてE大学病院整形外科を受診し、同科の医師から、第5腰椎分離すべり症であると診断されたため、それ以来、投薬治療を受けていた。しかし、原告は、同病院に通院することが困難であったため、平成9年4月22日に同科の医師から紹介状の交付を受け、同日、A整形外科を受診した。原告は、同年8月25日に2回目の外来受診をし、その後平成10年1月31日までは、ほぼ1か月に1回の割合で、その後更に同年5月2日、19日にそれぞれ同医院を外来受診し、理学療法及び湿布剤モーラステープの処方を受けていた(甲A2〔1~6)。 〕原告は、平成12年7月17日、約2年ぶりにA整形外科を受診し、腰痛やしびれが増強し、10分くらいは休まず歩けると訴え、さらに3年後の平成15年5月12日にも同医院を受診し、すべり症が進んで腰痛がひどく、間欠跛行(休みながらでないと歩けなくなる症状をいう(弁論の全趣旨)20ないし25分という状態となった。同医院のF医師は、原告)。 - 4 -が手術による治療も考慮に入れていると聞いたことから、被告病院の被告D医師に宛て「紹介状・診療情報提供書」を作成し、原告に交付した。 、(甲A2〔6、7、乙A1〔7)〕〕イ他方、原告は、 -が手術による治療も考慮に入れていると聞いたことから、被告病院の被告D医師に宛て「紹介状・診療情報提供書」を作成し、原告に交付した。 、(甲A2〔6、7、乙A1〔7)〕〕イ他方、原告は、平成11年4月28日、被告病院泌尿器科を外来受診し、1年ほど前から尿の切れが悪く、同日15時(以下、時刻については24。 、時間制で表記する)から尿意はあるが尿が出ないと訴えた。担当医師は原告に対する問診等の結果、原告が7ないし10年前からうつ病のために服用している三環系抗うつ薬ノーマルンにより尿閉状態にある疑いがあると診断し、導尿処置を行った(乙A1〔14~17)。 〕 被告病院整形外科における診察等( )ア原告は、平成15年6月10日、被告病院整形外科を初めて受診し、腰と左下肢に痛みを感じるので手術をしてほしいと述べた。原告の診察を担当した被告D医師は、原告に対する問診の結果、平成2年から腰痛と左下肢痛が現れ、平成14年から悪化したこと、平成15年3月から間欠跛行が10分を下回ったことを聞き取った上、原告はつま先で歩くことやかかとで歩くことはできるが左下肢痛により間欠跛行が10分を下回っているものとの身体所見を得た。また、同年6月10日に施行したレントゲン検査の結果、第5腰椎(以下「L5」といい、腰椎について同様の様式に、より表記する)と第1仙椎(以下「S1」といい、仙椎について同様の。 様式により表記する)部で分離すべり症を発症していることが確認され。 た(乙A1〔7、8、乙A2〔10)。 〕〕イそこで、被告D医師は、原告に対し、重症ではないので手術を急ぐ必要はないが、病状の経過が長いので手術による治療を選択肢に入れることも妥当な考えであると話し、手術の内容及び合併症等について簡単に説明した(乙A7〔1、被告D医 に対し、重症ではないので手術を急ぐ必要はないが、病状の経過が長いので手術による治療を選択肢に入れることも妥当な考えであると話し、手術の内容及び合併症等について簡単に説明した(乙A7〔1、被告D医師本人〔1、2、16。 〕〕)原告は、手術を受けることにし、8月25日に手術を受けることに一度- 5 -決定されたが、その後、手術日時が8月27日13時30分に変更された(乙A2〔14。 〕)ウ原告は、平成15年6月13日、A整形外科を受診し、D医師の診察を受けて手術を決めてきたと述べたほか、同年8月4日にもA整形外科を受診し、8月末ないし9月に手術予定であることを報告し、湿布剤モーラステープの処方を受けた。この際、原告は、最近症状がひどくなったなどとも述べていた(甲A2〔7、8。 〕)エ原告は、平成15年7月23日、被告病院整形外科を外来受診し、手術C日時を9月1日13時30分に変更した。これに合わせ、腰椎ミエロ後検査日時も8月26日から同月28日に、腰髄ミエロ(腰椎穿刺注入、T脳脊髄腔造影剤使用)も同日13時30分にそれぞれ変更となった(乙。 A2〔16、17)〕これらの変更については、7月25日に看護師が原告に電話をかけて最終確認した(乙A2〔18。 〕)原告は、平成15年8月8日及び同月14日にそれぞれ被告病院を訪れ、自己血採血(400)を2回行った(乙A2〔21、22。 cc〕) 入院・本件手術( )ア入院・術前検査原告は、8月28日に被告病院整形外科に入院し、同日13時30分ミエログラフィー(脊髄造影検査)を受けた(乙A2〔33。 〕)8月29日には、原告は、G医師に対し、腰痛と左下腿ふくらはぎ部分のしびれを訴えるも、L5とS1の部分を手で押しても痛みはなかった(乙A2〔38。 〕 髄造影検査)を受けた(乙A2〔33。 〕)8月29日には、原告は、G医師に対し、腰痛と左下腿ふくらはぎ部分のしびれを訴えるも、L5とS1の部分を手で押しても痛みはなかった(乙A2〔38。 〕)イ術前説明原告は、同日には、G医師の立ち会いの下、被告D医師から手術に関する説明を受けた。すなわち、原告に対する手術は、腰椎後方進入椎体間固- 6 -定術であり、その内容は、原告の病変部は腰椎の動きによって神経が刺激されるという状態なので、ずれているところを固定するもので、L5と仙骨の間の動きを止めるため、その間に人工骨を2個入れ、その人工骨を入れる際、骨折等に使うもので背骨を止めるものでしっかり固定(内固定)するという方法によることを説明された。その際、手術の危険性については、事前に採取した自己血液では不足するくらいの大きな出血になる可能。 〕〕、性や神経障害の可能性について説明された(乙A2〔40、A3〔8被告D医師本人〔4、5)〕ウ本件手術の施行原告に対する手術は、平成15年9月1日9時13分から12時01分にかけて、被告D医師を術者、G医師及びH医師を助手として実施された。 被告D医師は、原告のL4からS1までを後方展開したところ、L5椎弓の不安定性は軽度であったが、椎間関節、椎弓の切除を進めると椎弓根基部で分離が認められ、その分離面は前額面となっていた。同医師は、椎弓mm及び椎間関節を完全に切除して除圧した上、S1には6.75×45pedicleboltbicorticalmmboltのをに刺入し、L5には6.75×45のを刺入した。すなわち、母床を作成し、12径の椎間スペーサーをmm左右両側にねじ込んだところ、母床の骨硬化が強く、椎間スペーサーが5程度脊柱管内に突出する形となった。そこで、 6.75×45のを刺入した。すなわち、母床を作成し、12径の椎間スペーサーをmm左右両側にねじ込んだところ、母床の骨硬化が強く、椎間スペーサーが5程度脊柱管内に突出する形となった。そこで、突出部分をのみで削りmm取ったところ、固定性は良好であった。同医師は、皮下脂肪を移植し、ドレーン1本を設置し、縫合して手術を終了した。術中の出血量は650であった(乙A2〔170、171、A7〔2)ml。 〕〕 本件手術後、退院するまでの経緯( )ア原告は、手術室より帰室後、13時10分、30分、45分の3回にわたり、I看護師から、バイタルサイン(体温、脈拍、血圧及び呼吸)についての検査を受け、創痛、創出血、知覚障害、運動障害の有無及び程度を- 7 -確認された。その際、原告は「痛いです。痛みには弱いんです「足が、。」痺れてきたんです。手術前はなかったんです「しびれより痛みが強い。 。」太股の裏からだよ。何でだろう」と述べていたが、原告の創痛は自制内。 であり、創出血、下肢の知覚障害及び運動障害はいずれもなかった。ところが、次の14時10分の検査時には、原告からの痛みの訴えが強くなったことから、事前に決められていた対症指示に従い、鎮痛薬ペンタジン1 、アタラックスP25及び生理食塩水50を投与したところ、mgmgml15時には創痛は再び自制内となった(乙A2〔52、53、A3〔8。 〕0、A9)〕もっとも、15時にI看護師が原告を観察した際、ガーゼの全面に出血が認められたことから、同看護師はG医師にその旨を報告し、同40分ころ、G医師が包帯交換を行った。その際、G医師は、原告の下肢自動運動に問題がないことを確認した(乙A2〔48、53、A3〔80、A。 〕〕9)16時10分には、原告が両下肢 報告し、同40分ころ、G医師が包帯交換を行った。その際、G医師は、原告の下肢自動運動に問題がないことを確認した(乙A2〔48、53、A3〔80、A。 〕〕9)16時10分には、原告が両下肢痛を訴え、両下肢後面のしびれ及び下腿後面のしびれが増強したことから、G医師の指示によりペンタジン15及び生理食塩水50が原告に投与され、これにより、同50分にmgmlは再び原告の下肢痛は自制内となった(乙A2〔52、53、56、A〕3〔80、A9。 〕)17時20分にも原告から痛みとしびれの訴えがあり、しかも原告の足部の動きが緩慢になっていた。そこで、J看護師は、G医師に確認した上で鎮痛薬ボルタレン坐薬50を投与し、また、被告D医師の指示に従mgmgmgmlい、ペンタジン30、アタラックスP50及び生理食塩水50を投与したところ、18時40分には痛みの訴えは自制内となり、しびれの訴えが軽減し、かつ、足部の動きも改善した(乙A2〔56、A3。 〕〔80、A10)〕- 8 -19時には原告から嘔気の訴えがあったが、すぐに消失した。20時にJ看護師が原告の観察をした際には、暗赤色の液状のものを少量嘔吐していた。もっとも、原告がすっきりしたとのべていたため、嘔気時の対症指示薬は使用せず、他方で、この際、左下肢にしびれの訴えがあり、左足指の動きがやや緩慢であることが確認された(乙A2〔56、A3〔8。 〕0、A10)〕21時10分には、原告の痛みの訴えが再び強くあったため、G医師の指示に基づき、ペンタジン30、アタラックスP50、生理食塩mgmg水50を投与したところ、痛みの訴えが軽減した。22時にJ看護師mlが原告を観察した際には、原告のガーゼ上に出血が少量浸出しているのが認められた(乙A2〔56 クスP50、生理食塩mgmg水50を投与したところ、痛みの訴えが軽減した。22時にJ看護師mlが原告を観察した際には、原告のガーゼ上に出血が少量浸出しているのが認められた(乙A2〔56、A3〔80、A10)。 〕〕翌9月2日0時にK看護師が原告を観察した際には、原告の全身状態について特に変わった点はなく、その後、同日8時30分までの間、約1ないし2時間おきに体位変換を行い、その際に経過観察を行っていたところ、2時の体位変換及び経過観察の際、原告が自ら勝手に寝返りを打っていたので注意するとともに、ガーゼ上の出血が拡大していたのを確認した。 (乙A3〔80、A8)〕イ原告については、同年9月4日から尿道カテーテルを一時抜去しても排尿がなく、同月5日及び6日には便失禁もみられ、臀部から下の知覚鈍麻が続き、同月7日にやや軽減傾向が見られたものの、同月8日、腰仙椎・腰髄検査を実施したところ、血腫による神経の圧迫も考えられるとMRIの所見が明らかになった。しかしながら、原告の症状等から、特段の措置を執らず、経過観察をする方針となり、被告病院泌尿器科へ診察依頼がされた(乙A2〔72、80~88)。 〕他方、被告D医師は、同月19日、原告及び家族に対して原告の病状について、血腫ができているが、2ないし3か月は経過を見て神経の回復を- 9 -待たないと予後のことは分からない旨を説明した(乙A2〔102、被〕告D医師本人〔13。 〕)ウ同月22日には、腰仙椎・腰髄(単純)が行われたところ、MRIMR「前回みられた術部における腫瘤様高度圧迫を呈するおそらく血腫と考えられる構造はほぼ消失している」との所見が得られた(乙A2〔186、 。そこで、同日、原告及び家族に対し「血腫は吸収されている〕)、ので、 における腫瘤様高度圧迫を呈するおそらく血腫と考えられる構造はほぼ消失している」との所見が得られた(乙A2〔186、 。そこで、同日、原告及び家族に対し「血腫は吸収されている〕)、ので、神経は上はきれいに写っている。後は神経の回復を待ちましMRょう。時間はもう少しかかると思います。尿の方は、点滴と抗生剤で尿を出して治療しましょう。リハビリは熱の様子を見て行いましょう」との。 説明がされた(乙A2〔115。 〕)その後、原告については、輸液(ソリタT3、対症療法をするほか、)経過観察がされた(乙A2〔215~223、225~231。 〕)エ同年10月10日には、被告D医師及びG医師は原告に対し、膀胱直腸障害もよくなり、安定してきているので外来で経過を見ることとし、しびれはもう少し様子を見ていくことにする旨を説明し、同月17日には、退院指導がされ(乙A2〔161、原告は、同月18日、被告病院整形外〕)科を退院した。 被告病院整形外科退院後の症状等( )ア神経症状関係原告は、平成15年10月31日、退院後に初めて被告病院整形外科( )アを外来受診した際、被告D医師に対し、夕方になると左大腿下腿の突っ張りがあり、坐位1時間で臀部の違和感が悪化し、排尿するのに5分かかると訴えた。同医師は、原告に対し、同日、腰椎2方向レントゲン撮影を行い、次回診察前には腰椎4方向レントゲン撮影を行うことを予定した(乙A4〔6。 〕)MR( )イ被告病院整形外科において平成15年12月3日に行われた腰椎- 10 -検査結果によれば、原告の椎体について明らかな狭窄はみられなくなIっており、L5(第5腰椎椎体)にすべりの残存が認められ、腎嚢胞がみられるほかは異常がないとされ(乙A4〔69、平成17年4月2〕) 結果によれば、原告の椎体について明らかな狭窄はみられなくなIっており、L5(第5腰椎椎体)にすべりの残存が認められ、腎嚢胞がみられるほかは異常がないとされ(乙A4〔69、平成17年4月2〕)0日に行われた同検査によれば、第5腰椎椎体の前方への変異が残存しているものの、前回と変化はなく、他の部分に異常が認められていない(乙A4〔73。 〕)原告は、平成15年11月22日、12月9日、12月20日、平成( )ウ16年1月20日、2月16日にぞれぞれA整形外科に通院し、電気針温熱療法、ノイロトロピン、メチコバール及びオバルチンの処方を受けた(甲A2〔8、9。 〕)原告は、被告D医師からの紹介により、平成16年8月20日、塩谷( )エペインクリニックを受診し、以降、1週間ないし2週間に1回程度通院して腰部神経根ブロックや仙骨硬膜外ブロックの治療を受けている(甲A1。 )イ便秘について原告は、平成18年7月当時において、被告病院消化器内科から便秘のための薬剤の処方を受けていたが、同消化器内科のL医師は、原告の便秘の症状は重度であるとはいえず、高齢者には腸の動きが弱くなって便秘になる者があることから、便秘の原因について、神経障害によるものか否かを鑑別することは困難であるし、被告病院精神科から処方されている抗うつ薬の副作用として便秘や腸閉塞もあるとされており、これが便秘の原因となっている可能性もあると判断している(乙A12。 )ウ泌尿器関係の症状について原告は、退院後、約2か月に1度の頻度で被告病院泌尿器科を外来通( )ア院しており、現在においても通院中である。原告は、同外来受診の際、残尿量の検査を受けているが、残尿量は100以下である。原告をml- 11 -担当した中村医師は、平成18年6月20日の診察 ア院しており、現在においても通院中である。原告は、同外来受診の際、残尿量の検査を受けているが、残尿量は100以下である。原告をml- 11 -担当した中村医師は、平成18年6月20日の診察の際、排尿後の残尿量が70であることから、自己導尿の必要はないと判断し、その旨ml原告に対して回答しており、かつ、排尿機能を制御する神経機能は将来的に回復することはあっても悪化する可能性はないから、排尿障害が進行することはないが、精神科の処方薬の影響や加齢が原因で、残尿量が増加すれば自己導尿が必要となると考えている(乙A11、A13)。 原告は、平成16年10月2日付で、A整形外科のF医師に診断名を( )イ「馬尾神経障害,腰部脊柱管狭窄症術後」とし、付記として「膀胱・直腸の機能障害,両足底のしびれ,殿部~両側大腿の疼痛,および勃起不能の症状が認められ,上記の疾患と診断されます」と記載された診断書を作成してもらったが(甲A3、うち、勃起不能については、特段の)検査をしたわけではないほか(原告本人〔29、被告病院泌尿器科に〕)おいても、性機能障害があるとの訴えは原告からされておらず、これに関する薬剤の処方等の事実もない(乙A4、A11。 )医学的知見 証拠等によれば、次の医学的知見が認められる。 腰椎分離すべり症の合併症( )脊椎すべり症手術を行った際の合併症としては、偽関節、神経脱落症状、固定術を行った隣接部に起こる病変によって腰痛などを生じる症候群が考えられるところ、神経脱落症状の1つに馬尾症候群がある。馬尾症候群は、すべり変形の整復を行わない場合でも、明らかな原因がない場合でも起こり得るし、術中の硬膜を操作することにより、直接的に神経を傷害した場合は、腰仙部の神経根を傷害し、広範囲の知覚障害を起こす可能性があると り変形の整復を行わない場合でも、明らかな原因がない場合でも起こり得るし、術中の硬膜を操作することにより、直接的に神経を傷害した場合は、腰仙部の神経根を傷害し、広範囲の知覚障害を起こす可能性があるとされている(乙B5の2〔3)。 〕馬尾症候群が疑われたときは、適時や脊髄造影・脊髄造影下検MRICT査を行い、必要と判断されれば神経減圧手術が必要となるも、同手術を行う- 12 -タイミングについては議論が残されている。神経への圧迫が認められない場合で、神経脱落症状が軽くすべり変形の整復もわずかであれば、そのまま経過を観察するのが妥当であるとされている(乙B5の2〔3、4)。 〕 後方進入腰椎椎体間固定術(以下「」という)( )PLIF。 アは、腰椎分離すべり症に対する手術治療を行う際の術式であり、PLIFその手順は次のとおりである(乙B1〔460、461。 〕)硬膜及び神経根の除圧を十分に行う。 ( )ア椎間板繊維輪を切除し、整復用ロッドを椎間に挿入し、椎間高を開大( )イすることですべりによる変形を矯正する。 。 ( )ウ上記矯正した位置で、-を設置し、固定を完了するpediclescrewplate整復用ロッドをガイドとして円筒型ノミを打ち込み、上下の椎体を均( )エ等に削って移植骨の母床を作製する。 出来上がった母床に人工骨(硝子セラミック製、アパタイト製)を打( )オち込む。 さらに棘突起から作製した円盤状の自家骨で蓋をして手技を終了する。 ( )カイによる手術時間及び術中の出血量は次のとおりである(乙B1PLIF〔462。 〕)手術時間( )ア1椎間固定例(20例)で2時間40分から4時間の間(20例平均3時間15分)2椎間固定例(11例)で3時間20分から は次のとおりである(乙B1PLIF〔462。 〕)手術時間( )ア1椎間固定例(20例)で2時間40分から4時間の間(20例平均3時間15分)2椎間固定例(11例)で3時間20分から5時間の間(11例平均4時間10分)術中出血量( )イ1椎間固定例(20例)で140から1700(20例平均7mlml )ml2椎間固定例(11例)で370から2200(11例平均1mlml- 13 - )ml. ウの手術効果は、滑り変形の度合いにおいては、平均矯正率が66PLIF3%であり、症状については、スコアを基準とした場合、平均改善JOA率は77.5%である(乙B1〔462、463。 〕) 術後脊髄硬膜外血腫とその治療( )ア術後脊髄硬膜外血腫の原因としては、術後止血操作の不十分、後方筋群の術後の腫脹、術前後の出血傾向、ドレナージ不良、術後の血圧上昇などが報告されている(乙B6〔1215。 〕)イ術後脊髄硬膜外血腫は、ほとんどが術後24時間以内の発症であり、術後3日以内に進行性の麻痺を認めた場合は術後脊髄硬膜外血腫を発症してMRいる可能性が非常に高いから、注意深い麻痺の観察と場合によってはなどの画像診断をすることでまずこの症状を疑う必要がある。臨床的なI特徴としては、患者は、麻痺の発生直前には坐薬が無効なほどの激痛を伴ったしびれ感や疼痛を訴えることが多く、異常なガーゼ汚染や皮下出血な〕、どの創部ドレナージ不良を示唆する所見があるとされ(甲B2〔808乙B6〔1216、急速な麻痺の進展や激しい下肢痛を突然訴える場合〕)は血腫による障害を第一義に考えるべきであるとの指摘もある(甲B1〔39。 〕)脊椎すべり症手術後の硬膜外血腫による圧迫で広い範囲の神経障害が起 速な麻痺の進展や激しい下肢痛を突然訴える場合〕)は血腫による障害を第一義に考えるべきであるとの指摘もある(甲B1〔39。 〕)脊椎すべり症手術後の硬膜外血腫による圧迫で広い範囲の神経障害が起こり得るが、血腫は術後数時間又は数日かけて増大していくことがあるから、これによる遅発性の神経障害が起こり得ることに注意が必要であるとされている(乙B5の2〔3。 〕)ウ術後脊髄硬膜外血腫の確定診断が得られなくとも、術後24時間以内の発症で高度の麻痺例であって、本症が少しでも疑わしいと判断した場合は、血腫除去術を躊躇せずに行うべきであるとの指摘があり(乙B6〔121 、また、特に画像検査が行えなくとも、麻痺を伴う特徴的な臨床症状、〕)- 14 -ドレーン排血不良、異常なガーゼ汚染などがあれば時を待たずに再手術に踏み切るべきであるとの指摘もある(甲B1〔40。 〕)エ他方、腰椎疾患に対して腰椎後方手術を施行し、その後何らかの症状を訴えて術後約1か月以内にを撮影した症例66例について検討したMRI結果、術後硬膜外血腫は激痛や筋力低下を来して血腫除去術を必要とする以外に自然消失する血腫があり、臀部痛や下肢痛の遺残など術後早期の成績を不良にしていることが考えられたと考察する文献がある(甲B3。 ) 性機能障害の有無を客観的に判断するには、特殊な機器による検査が必要( )とされている(乙A11。 )争点1 (手術手技を誤った過失の有無)について ( ) 原告の主張は、本件手術中に被告D医師が手術操作を誤り、原告の神経を( )損傷したとするものであるが、上記13 ウにおいて認定したとおり、本件手( )術においては、出血量は650、手術時間は2時間48分であって、そmlの手順は上記22 アの手順と特段異なるところがな 傷したとするものであるが、上記13 ウにおいて認定したとおり、本件手( )術においては、出血量は650、手術時間は2時間48分であって、そmlの手順は上記22 アの手順と特段異なるところがないし、出血量及び手術時( )間についても、上記22 イにおいて認定した平均出血量よりも少なく、平均( )手術時間よりも短い時間で手術を完了していることが認められ、一般に出血量が多量になれば何らかの異常が発生したものと考えられ、手術時間が一般的にかかるとされている時間よりも長ければ、何らかの不都合な事態が生じたのではないかとの疑いがもたれるものの、そのような推認をする基礎を欠くことになり、その他に本件手術中に手術操作を誤ったことをうかがわせる事情は認められない。 原告は、本件手術中において手術操作の過誤が発生したと推認させる事情として、スぺーサーをねじ込む際、5程度脊柱管内に突出させたためmmに削ることになったこと、本件手術後に原告のすべり症が改善していないことを挙げる。しかし、前者については、被告D医師が、突出したスペーサーを削り取る作業は簡易な作業であって特段の問題が生じない旨述べており、- 15 -これに反する証拠はない。また、後者についても、上記15 アにおいて認( )( )イ定したところによれば、第1仙椎部のすべり症が改善していることがうかがえるし、上記22 ウにおいて認定した改善率によれば、によってもす( )PLIFべり症が改善しない場合があることがうかがわれるところ、このことが直ちに手術操作の誤りによるものであると判断することはできない。また、事後的にみると、原告に硬膜外血腫が発生したことは明らかであり、その原因としては、止血措置や創部ドレナージに問題があった可能性もないではないが、上記の結果が発生したこ 判断することはできない。また、事後的にみると、原告に硬膜外血腫が発生したことは明らかであり、その原因としては、止血措置や創部ドレナージに問題があった可能性もないではないが、上記の結果が発生したこと以外にその可能性を疑わせる具体的な根拠は見当たらず、これらに問題がなくても硬膜外血腫が発生することもあることからすると、これらが硬膜外血腫の原因となったと認めることはできないし、他に、手術中における過誤の存在をうかがわせるに足りる証拠はない(なお、原告は、被告の診療記録全体が証拠として提出されているか否かに疑問があると指摘しているが、被告における診療記録は電子媒体に保存され、恣意的に加除訂正はできない仕組みになっており、本件に必要な記録はすべて印刷して提出されているものと認めることができるから(乙A6、上記指摘は)失当である。 。) したがって、被告D医師が、本件手術中に原告の神経を損傷したことを認( )めることはできないのであって、この点について原告の主張する過失はない。 争点2 (手術後における硬膜外血腫の発見懈怠の有無)及び争点3 (過失行 ( )( )為と権利侵害結果との因果関係の有無)について この点に関する原告の主張は、要するに、本件手術日である平成15年9( )月1日15時10分ころまでに原告に硬膜外血腫が発生していることを発見したうえ、硬膜外血腫除去手術を施行する義務があるにもかかわらず、発見及び手術をしていない点を過失とするものであるから、これを前提として判断する。 2 アまず、医師として硬膜外血腫の発生を疑うべき事情と、これについて血( )- 16 -腫除去手術を行うべき場合について検討するに、上記23 において認定し( )たところを総合すれば、医師が硬膜外血腫の発生を疑い、かつ、緊急に血腫除 べき事情と、これについて血( )- 16 -腫除去手術を行うべき場合について検討するに、上記23 において認定し( )たところを総合すれば、医師が硬膜外血腫の発生を疑い、かつ、緊急に血腫除去手術を行うべき場合は、患者に急激な高度の麻痺が発生した場合をいい、その前兆として、坐薬が無効なほどの激痛を伴うしびれ感や疼痛があったり、出血による異常なガーゼ汚染や皮下出血があって、創部ドレナージの不良が示唆される場合であると認められる。 イ次に、本件において、本件手術が終了して病室に原告が帰室した平成15年9月1日13時10分から同日15時10分までの間に上記の兆候が認められたか否かについてみるに、上記14 アにおいて認定したとおり、( )原告が手術室から病室に帰室した後、15時10分まではI看護師が原告の観察等を担当していたところ、同看護師は、上記時間帯に5回の観察を行い、その際には、原告について、下肢の知覚障害及び運動障害はいずれも観察されておらず、麻痺は発生していないし、痛みについても、自制ができない程度に至る痛みを14時10分ころに訴えたものの、鎮痛薬を投与することで改善したことが認められていることからすれば、上記の坐薬が無効なほどの激痛には未だ至っていないものといわざるを得ない。そうすると、血腫除去手術の判断を要する硬膜外血腫が原告に発生していると疑うことはできないから、同日15時10分までに硬膜外血腫の発生を発見して血腫除去手術をすべき義務は認められず、この点に関する原告の主張には理由がない。 もっとも、上記のとおり、原告にはその程度はともかくとして下肢痛が認められ、かつ、15時にはガーゼ全面に出血が認められていたことからすれば、事後的に考察すれば、原告に硬膜外血腫が発生したと疑うこともできたのではないかと考え得ないでは 程度はともかくとして下肢痛が認められ、かつ、15時にはガーゼ全面に出血が認められていたことからすれば、事後的に考察すれば、原告に硬膜外血腫が発生したと疑うこともできたのではないかと考え得ないではない。しかしながら、麻痺の発生がない以上、硬膜外血腫の発生を疑わなかったことをもって医師に過失があったとまでは評価できない。また、仮にこれを疑い、画像検査等によって- 17 -血腫の発生を確認できたとしても、血腫除去手術自体の危険性を考慮すると、医師には麻痺の発生が認められない時点で手術に踏み切るべきと判断する義務は認められないのであって、結局、原告の主張には理由がないことになる。 また、原告については、前記14 のとおり、同月4日から尿道カテーテ( )ルを一時抜去して様子を見ても排尿がなく、同月5日及び6日に便失禁が認められ、これらによって麻痺の発生を疑うべきではあるが、この時点においても下肢の運動障害は認められず、しかも翌7日には臀部から下の知覚鈍麻がやや軽減傾向にあったことからすると、これらの時点で血腫の発生を確認し得たとしても、麻痺の急激な進行は認められないから、直ちに除去手術に踏み切るべきであったとは認め難い。 そればかりか、原告が現在、本件手術後に発生した硬膜外血腫を原因とす( )る症状として残存していると主張する後遺症の内容は、馬尾神経の損傷に基づく下肢痛、しびれ、排尿及び排便障害並びに性機能障害であるところ、上記において認定したとおり、原告が被告病院整形外科を退院する際には、下肢痛、しびれ及び排尿障害は本件手術直後に比して改善傾向にあったにもかかわらず、上記のうちの下肢痛及びしびれについては、退院後にその増悪を訴え始めたものである。しかし、同認定のとおり、硬膜外血腫により神経に対する圧迫があったとしても、硬膜外血腫 善傾向にあったにもかかわらず、上記のうちの下肢痛及びしびれについては、退院後にその増悪を訴え始めたものである。しかし、同認定のとおり、硬膜外血腫により神経に対する圧迫があったとしても、硬膜外血腫の消失後は神経の圧迫に基づく症状が改善することはあっても増悪することはなく、原告の硬膜外血腫は退院前に消失しているのであるから、仮に原告の主張するように下肢痛及びしびれが増悪し、それが現在も残存していたとしても、それが硬膜外血腫による神経圧迫に基づくものとは認め難い。また、排便障害の原因は、神経障害によるものか否かが確定し難く、性機能障害については、前記15 ウのとおり、( )診断書(甲A3)にはその旨の記載があるものの、その作成者においてもそれを裏付けるべき検査をしていないことからすれば、この診断書のみで性機- 18 -能障害があると認めることは困難であって、その他に性機能障害が存在すると認めるに足りる証拠はない。 そうすると、原告が主張する各後遺症のうち、排尿障害以外のものの原因が原告に発生した硬膜外血腫により神経が圧迫されたことにあるとは認め難いから、それらについては、この点からしても、被告らに不法行為責任を認めることはできない。 結論 以上によれば、原告の主張する過失はいずれも認められないから(争点1 及( )び2 、被告らに不法行為責任及び診療契約上の債務不履行責任が生じないこ( ))とは明らかである(なお、原告の主張する後遺障害のうち、排尿障害以外の点については、原告主張の過失との因果関係も認め難い(争点3。 ( ))。)したがって、その余の争点(争点4 )について判断するまでもなく、原告の( )不法行為に基づく請求及び診療契約上の債務不履行に基づく請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決す たがって、その余の争点(争点4 )について判断するまでもなく、原告の( )不法行為に基づく請求及び診療契約上の債務不履行に基づく請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官藤山雅行裁判官金光秀明- 19 -裁判官萩原孝基- 20 -(別紙)主張要約書第1手術手技を誤った過失の有無(争点1 )( )()原告の主張 脊椎手術の際の医師の義務内容と医師の過失脊椎手術に当たって、医師には神経に損傷を与えないように配慮すべき義務があることは当然であり、損傷の結果を回避することも可能かつ容易であるところ、被告D医師は、手術操作を誤った過失により、原告の神経を損傷した。 上記過失行為を推認させる事情スペーサーを左右両側にねじ込むに際し、スペーサーを5程度脊柱●mm管内に突出させた。 手術後も、すべり症自体は改善していないとの画像所見がある。 ●()被告の主張 手術手技に誤りはなかった術者である被告Dは「セラミックス製椎体間スペーサーを使用した腰椎後、方進入椎体間固定術」を原告に対して行ったが、この術式が完成した平成6年11月以降200例ほどの手術実績があり、手術操作による神経障害は1例もなく、原告の手術に際しても手技上の過失はなかった。 手術手技に誤りがあったことをうかがわせる事情はない 原告の手術は、手術時間2時間48分、出血量650で、この術式と( )mlしては平均的なものであった。 本件の手術操作中、椎間スペーサーの削除操作を要した。これは椎間スペ( )- 21 -ーサーをねじ込む部位の骨硬化が強く、無理にスペーサーをねじ込むと破損する可能性が高いと考え、スペーサーの後方の脊柱管内に突出する 間スペーサーの削除操作を要した。これは椎間スペ( )- 21 -ーサーをねじ込む部位の骨硬化が強く、無理にスペーサーをねじ込むと破損する可能性が高いと考え、スペーサーの後方の脊柱管内に突出する部分約5をのみにて削り取ったものである。この操作自体は直視下に行えるものmmで、かつ、神経を強く牽引するなどの有害な操作を加えなくとも可能なものであり、このとき神経及び硬膜を損傷した事実はない。 原告の退院時には、術前にみられた左下肢痛による歩行障害や長時間仰臥( )位臥床が困難という症状は消失していた。また、新たな神経脱落症状は一切ない。原告の場合、本件手術直後から術後1年3か月までの間、状態に変化はなく、良好に骨融合が完成し、手術の本来の目的は問題なく達成されているのであって、原告の第5腰椎の前方すべりが術後も残存しているのは、手術に不備があったことによるものではなく、この種の手術原則に則ったものである。すなわち、腰椎分離すべり症の手術では、すべり変形を無理に整復することは新たな神経根障害を起こす可能性が高く、整復にこだわらず確実な神経除圧と確実な固定を行うことが手術の原則となっている。 第2手術後における硬膜外血腫の発見懈怠の有無(争点2 )( )()原告の主張 脊髄手術後の合併症とその予防措置及び早期対処の重要性 一般に、術後硬膜外血腫は、脊髄手術後の術後合併症に占める割合も大き( )く、かつ、硬膜外血腫を看過し、神経を不可逆的に損傷した場合には重篤な麻痺症状を生ぜしめる危険性が高い。したがって、これが懸念される場合には、一刻も早い血腫除去手術が不可避とされている。 硬膜外血腫の予防、早期発見のために、医師としては、( )アドレナージを適切に設置することイガーゼ上、ドレーンを通じての出血に注意すること は、一刻も早い血腫除去手術が不可避とされている。 硬膜外血腫の予防、早期発見のために、医師としては、( )アドレナージを適切に設置することイガーゼ上、ドレーンを通じての出血に注意することウ高血圧を管理すること- 22 -エ手術後の患者の状態の神経学的な評価を数時間毎に行うことオ特に激痛を訴える患者に対する充分な観察を行って適切に症状を把握すべきことという各観点から状況を把握すべきである。 明らかな運動障害(徒手筋力テスト3以下の筋力低下)がなければ血腫発生による神経障害を疑わなくともよいとする被告の見解は、いかなる文献にも記載のない独自のものである。 医師としては、特に患者が急速な麻痺の進展や激しい下肢痛を突然訴える( )場合には、血腫による障害を第一義に考えるべきとされており、発生を疑えば深刻な後遺症を残存させないために可及的速やかに検査をし、血腫MRIを確認した上で、血腫除去術を躊躇なく行うべきである。 発症後2時間内に血腫除去を行った5つの事例は、いずれも深刻な後遺障害の残存を回避できている(うち1例は軽度のしびれが残存。 ) 医師が行うべき措置の内容 手術後の原告の症状・所見( )ア9月1日13時10分、原告は、既に強い下肢の痛みとしびれを訴えた。 イ同14時20分、しびれと痛みは自制不可となった。 ウ同15時、ガーゼ上層まで血性多量の創出血が認められる。知覚障害、両大腿後面から下腿後面に両下肢痛としびれがあった。 エ同15時40分、創出血があり、ガーゼ全面に血性多量が認められる。 オ同16時10分、両下肢後面のしびれ・下腿後面のしびれ増強、痛み自制不可。バイタルサインも異常を示す(血圧102~138/52~64、脈拍数79~90回/分、体温37.1~37.6度)mmHg 手術後 10分、両下肢後面のしびれ・下腿後面のしびれ増強、痛み自制不可。バイタルサインも異常を示す(血圧102~138/52~64、脈拍数79~90回/分、体温37.1~37.6度)mmHg 手術後の原告の症状・所見が硬膜外血腫を疑い得るものであったこと( )上記のとおり、原告には、帰室後、15時10分頃には、自制できない激( )痛や、両下肢の痺れの訴えに加え、顕著な創出血も出現しており、上記12- 23 -の判断指針に照らして十分硬膜外血腫を疑い得るものであった。 なお、血腫による障害内容は、血腫が損傷する神経の部位によって異なる。 したがって、馬尾神経損傷に特徴的な症例を確認しなければ、硬膜外血腫を疑わなくてよいということにはならない。 医師として行うべき措置内容( )医師としては、特に患者が急速な麻痺の進展や激しい下肢痛を突然訴える場合には、血腫による障害を第一義に考えるべきとされており、発生を疑えば深刻な後遺症を残存させないために可及的速やかにを撮影し血腫をMRI確認した上で、血腫除去術を躊躇なく行うべきである。 被告医師の実際の行為被告は、原告が痛みを訴えた後、ボルタレンを併用しつつ、ペンタジンを14時20分に15、16時20分に15、17時40分に30、2mgmgmg1時20分に30と繰り返し注射したのみであった。 mg21時31分以降翌朝6時までの間、原告には、耐え難い痛みやしびれは継続していたが、被告は、それを放置した。 結局、本症例の診断に有用とされる検査を被告が行ったのは、手術かMRIら1週間以上も経過した9月8日のことである。 ()被告の主張 術後硬膜外血腫による神経障害(馬尾神経障害)の病態、予防法、早期発見、診断及び治療について 脊椎手術後の術後硬膜外血腫(手術部位で 間以上も経過した9月8日のことである。 ()被告の主張 術後硬膜外血腫による神経障害(馬尾神経障害)の病態、予防法、早期発見、診断及び治療について 脊椎手術後の術後硬膜外血腫(手術部位である硬膜外腔に溜まる血液のこ( )と)は、程度の差はあるものの、全例に発生する生理的なものであり、それ自体に病的意味はない。どのような手術でも、手術創を閉鎖する前に綿密な止血操作が行われるが、創面からの微細な出血は避けられず、手術創が閉鎖スペースになる場合には多少の血腫は必ず形成される。これが手術後の血腫で、脊椎の手術の場合には、血液の貯まる部位が硬膜外腔であるので硬膜外- 24 -血腫と呼ばれる。形成された血腫は、生体の血液凝固機能により、微細な出血が止まるとともに自然吸収され、手術創は治癒する。 しかし、血液凝固異常などの理由で手術創の微細な出血が止まらないような場合には、血腫は異常に増大し、手術創の治癒を遅らせるだけでなく、まわりの正常組織へ悪影響を及ぼし、さまざまな術後合併症を起こす。このように、手術創部に形成された血腫は、異常に増大すると病的な意味を持つようになる。脊髄などの神経除圧操作を要する脊椎手術の場合には、血腫の形成される部位が閉鎖スペースとなった硬膜外腔であるので、血腫が異常に増大し圧力が大きくなると、神経組織(腰椎では馬尾神経)に圧迫障害が生じることになる。このような異常な硬膜外血腫が形成されないよう、脊椎手術では、手術創を閉鎖する前に、綿密な止血を徹底的に行うのが基本中の基本になっている。そして、形成される血腫が異常に増大しないように、神経組織へ圧迫障害を起こさないように、閉鎖された手術創(硬膜外腔)に貯まる血液を持続的に排液するための陰圧をかけた吸引ドレーンを必ず設置するのが原則となっている。 脊椎手術後の硬膜 しないように、神経組織へ圧迫障害を起こさないように、閉鎖された手術創(硬膜外腔)に貯まる血液を持続的に排液するための陰圧をかけた吸引ドレーンを必ず設置するのが原則となっている。 脊椎手術後の硬膜外血腫による神経障害は、頻度としては多いものではないが、神経障害が不可逆的なものとなると、重大な後遺症を残すことから、脊椎手術に携わる医療従事者が術後管理の上でもっとも気を配っている合併症の代表的なものである。被告らは脊椎手術を年間200例ほど行っていて、この合併症に対する予防、早期発見及び適切な治療については医師のみならず看護師も十分な認識を持っている。 腰椎手術後の硬膜外血腫による馬尾神経障害の予防には、手術創閉鎖時の( )徹底的な止血と適切な吸引ドレーンの設置が必須であるが、被告らはこの両者とも適切に行っていた。この点について、原告の手術後に設置された吸引ドレーンからの排液量は比較的少なめであったが、このことは、被告D医師によるドレーンの設置に問題があったということではない。吸引ドレーンは、- 25 -適切に設置しても詰まってしまうことさえあり、設置法に問題があったために排液ができなかったわけではない。 腰椎手術後の硬膜外血腫による馬尾神経障害の早期発見には、下肢の神経( )学的所見の経時的観察による神経麻痺症状の早期発見が必須である。また、術後ドレナージ及びガーゼ出血、創痛・下肢痛、血圧などの随伴症状の経時的観察も、異常の早期発見の助けとなる重要な事項である。 被告らの術後管理体制は、これらの異常の早期発見に関して適切なものであり、原告の術後にも適切な管理が行われていた。 腰椎手術後の硬膜外血腫による馬尾神経障害の診断は、下肢の神経麻痺症( )状と膀胱直腸障害の症状により疑われ、その症状に合致するなどの画MRI像 、原告の術後にも適切な管理が行われていた。 腰椎手術後の硬膜外血腫による馬尾神経障害の診断は、下肢の神経麻痺症( )状と膀胱直腸障害の症状により疑われ、その症状に合致するなどの画MRI像所見が認められることにより確定する。 原告の場合、手術後帰室時より下肢のしびれと痛みと、術後3時間後頃より知覚鈍麻を訴えていたが、全経過を通じて明らかな運動麻痺(徒手筋力テスト3以下の筋力低下)は呈していなかった。原告は、下肢のしびれと痛み及びガーゼへの出血があったことから、15時10分頃までに硬膜外血腫による神経障害を疑い、等での精査を行うべきであったと主張しているMRIが、明らかな神経障害の症状が認められていないこの段階で、神経障害を疑うことは不可能である(明らかな神経障害の症状が確認されたのは便失禁と排尿障害が認められた9月5日以降である。 )神経根や硬膜への操作を行うこの種の手術では、手術直後に、一過性の下肢のしびれや痛みが起こることはまれなものではなく、また、原告のその時点での痛みも、一般的な術後の鎮痛処置(鎮痛薬の投与)で対応できる程度のものであった。そして、ガーゼへの出血は、この種の手術の術後で多くみられる現象ではないが、まれなものでもない。 15時10分頃までの原告の状態から、硬膜外血腫による神経障害を強く疑うことは不可能であった。 - 26 - 腰椎手術後の硬膜外血腫による馬尾神経障害を認めた場合の治療は、神経( )麻痺が高度な場合(筋力2以下程度の麻痺)や神経麻痺が軽くても進行性の場合には、なるべく早期に血腫の除去と出血部の再止血を行うことが原則である。 しかし、麻痺が回復傾向にある場合には、血腫除去のための再手術は必須のものではない。手術創に形成された血腫は自然吸収されるからである。術後早期の再手術は、患者への の再止血を行うことが原則である。 しかし、麻痺が回復傾向にある場合には、血腫除去のための再手術は必須のものではない。手術創に形成された血腫は自然吸収されるからである。術後早期の再手術は、患者への肉体的精神的負担が大きいだけでなく、感染の機会を増加させるという重大なマイナス面を持っていることを考慮し、神経麻痺の程度と麻痺の回復傾向の程度などを勘案して、ケースバイケースで決められるものである。 原告の場合、膀胱直腸障害がの所見にて硬膜外血腫による馬尾神経MRI圧迫によるものであることが強く疑われた9月8日の時点で、その治療として血腫除去手術の選択肢もあったが、その時点での原告の下肢の神経麻痺症状はごく軽微であることと、排尿排便機能が改善傾向にあったことから、血腫の自然吸収による回復を待つ保存的治療を選択した。この治療法の選択に当たっては、原告本人と原告の妻及び父親に病態を説明し了承を得ている。 この時点で手術的治療を選択せず保存的治療を選択したのは、その後の回復状況を考えると、結果的にも適切な判断であった。 手術当日(9月1日)の15時10分の時点で、硬膜外血腫による馬尾神経障害との診断が不可能であったことについてこの時点での原告の症状は、下肢の痛みとしびれ、ガーゼへの出血、及び知覚鈍麻というものであったが、 痛みに関しては術後の一般的な鎮痛薬投与にて対処できる程度のものであ( )った。 ガーゼへの出血は、この種の手術でよく見られるものではないが、まれな( )現象でもない。 - 27 - 下肢の知覚鈍麻は、神経障害を示唆する症状ではあるが、運動麻痺(筋力( )低下)は一切認められていなかった。また、神経根や硬膜に操作を行うこの種の手術では、術後一過性に下肢の知覚鈍麻やしびれ痛みの増強することはまれな現象ではなく、 症状ではあるが、運動麻痺(筋力( )低下)は一切認められていなかった。また、神経根や硬膜に操作を行うこの種の手術では、術後一過性に下肢の知覚鈍麻やしびれ痛みの増強することはまれな現象ではなく、硬膜外血腫による馬尾神経障害が起こっていることを強く示唆する症状ではなかった。 馬尾神経障害を示唆する排尿機能、排便機能の障害については、手術直後( )の尿カテーテルを挿入している状態では、判定不能であった。 以上のことにより、15時10分の時点で、硬膜外血腫による神経障害を診断することは不可能であった。 なお、原告が論拠として提出している論文(甲B2)は、硬膜外血腫による神経障害に付随して見られる症状をあげ、注意を喚起しているのであって、神経麻痺症状の早期発見が大前提になっている。そのほかの提出論文(甲B3、MRI甲B5~B7)も同様で、新たな神経の麻痺症状が明らかな場合には、などによる手術部位の形態学的異常の検索を緊急に行う必要があることを論じている。原告が主張するような内容(麻痺が明らかでなくても痛みが強い場合には硬膜外血腫による神経障害の可能性を考えるべきである、そして緊急で検査を行うべきである)は論じられていないし、神経麻痺症状がなくてMRIも神経麻痺を疑うべきであるというような医学的常識はない。原告の主張は、提出された論文全体の正確な理解を欠き、主張に資する部分のみを取り上げて、それを論拠にしている主張と言わざるを得ない。 原告の硬膜外血腫による馬尾神経障害の診断が遅れたことについて硬膜外血腫の圧迫により馬尾神経障害が生じる場合には、下肢の神経麻痺症状と膀胱直腸障害が合わさって生じるのが一般的であるが、原告に起こった神経麻痺症状のパターンは、膀胱直腸障害は高度であるのに対し、下肢の神経麻痺症状はごく軽微であるという、硬 には、下肢の神経麻痺症状と膀胱直腸障害が合わさって生じるのが一般的であるが、原告に起こった神経麻痺症状のパターンは、膀胱直腸障害は高度であるのに対し、下肢の神経麻痺症状はごく軽微であるという、硬膜外血腫による馬尾神経障害としては、非定型的な神経麻痺症状のパターンを呈していたため、排尿排便の機能障害の症- 28 -状が気づかれるまで診断が遅れた。すなわち、手術後早期の時期での硬膜外血腫による馬尾神経障害は、下肢の明らかな神経麻痺、とくに高度の筋力低下(徒手筋力テスト2以下)という症状にて発見診断され対処されるのが一般的であるが、原告の場合、一過性の軽微な筋力低下を認めた一時期を除き、全経過を通じて筋力低下の症状はなかったため、膀胱直腸障害の症状が明らかになるまでは、硬膜外血腫による馬尾神経障害を積極的に疑うに至らなかった。 また、硬膜外血腫による馬尾神経障害で原告が呈したような神経障害のパターン、すなわち下肢神経麻痺症状は軽微で排尿排便機能のみが選択的に傷害されるというような麻痺パターンを呈することはきわめてまれで、被告らにそのような例の経験も知識もないばかりではなく、渉猟し得た限りではあるが、過去にそのような症例の報告もない。馬尾神経障害の発見と診断が遅れたのは、原告の硬膜外血腫による馬尾神経障害の神経麻痺のパターンが、きわめて非定型的なまれなものであったためであって、不可避のものであった。 なお、原告は、椎間板ヘルニアで、上記のような膀胱機能が選択的に傷害される神経麻痺のパターンを呈する馬尾神経障害の症例があることを、証拠(甲B4)として提示しているが、硬膜外血腫とヘルニア塊とでは、馬尾神経への圧迫の機序が異なり、起こる神経麻痺のパターンも異なるのは自明である。すなわち、硬膜外血腫による圧迫では、馬尾神経全体に均等に圧迫が生じるの 提示しているが、硬膜外血腫とヘルニア塊とでは、馬尾神経への圧迫の機序が異なり、起こる神経麻痺のパターンも異なるのは自明である。すなわち、硬膜外血腫による圧迫では、馬尾神経全体に均等に圧迫が生じるのに対し、ヘルニア塊による圧迫では、馬尾神経の一部が選択的に圧迫傷害されるのが一般的で、全体が均等に圧迫されることはむしろまれである。これを論拠として挙げるのは不適当である。 )第3過失行為と権利侵害結果との因果関係の有無(争点3( )()原告の主張原告の症状(後遺症)が硬膜外血腫による馬尾神経障害によることは、次のことから明らかである。 - 29 - 馬尾神経の損傷について馬尾には、自律神経(副交感神経中、第2ないし第4仙髄から出て下行結腸、直腸、膀胱、生殖器などに分布するもの)が存在する。これらが損傷すれば、膀胱、直腸障害を起こし、頻尿、尿閉、便秘、便失禁などの症状や性機能障害が生じる。 しかるところ、によって判別された原告の血腫は、馬尾神経を損傷しMRIうる部位に生じている。 下肢痛や痺れについて手術直後、原告は、激しい下肢痛としびれを訴えていた。 疼痛がある程度緩和した後、しびれ等を感じていた(診療録には一貫して「下肢知覚鈍麻あり」との記載がある。また、入院中は、鎮静剤の投与も継続的に行われていたし、ベッド上での安静な生活であった)ものの、切迫して。 いた排尿、排便のコントロールに気を病んでおり、積極的に訴えること余裕もなかった。 退院後日常生活に戻って、痺れと下肢痛を明確に自覚することとなり、被告方病院でも退院直後の10月31日には、既に、夕方になると左大腿下腿のつっぱりや座位継続での臀部の違和感が悪化していることを訴えた。 原告の上記症状は、術後初めて生じたものであり、また、現在に至るまで一貫して継続している 0月31日には、既に、夕方になると左大腿下腿のつっぱりや座位継続での臀部の違和感が悪化していることを訴えた。 原告の上記症状は、術後初めて生じたものであり、また、現在に至るまで一貫して継続している。 排尿、排便障害、性機能障害について排尿障害については、原告は、平成11年4月28日に尿閉感を訴えて被告病院を訪れたことはあるが、その後、本件手術まで一度も同様の症状が現れたことはない。 排便障害も手術前には全くなかったものである。 性機能障害については、原告は、入院中には訴えていないし、退院後の外来診療でも精査治療は申し出ていない。しかし、それは、知覚障害や痛み、排尿- 30 -排便の障害といったより差し迫った症状への対応に集中せざるを得ない状況にあったからである。 原告には、馬尾神経の損傷に極めて特徴的な膀胱直腸障害、性機能障害が揃って見られる。馬尾神経の損傷なくば、これまで全くなかった直腸障害や性機能障害が膀胱障害と揃って原因で生じる可能性はない。 平成9年4月以降腰痛により通院を継続していたA整形外科において、本件手術前には排尿、排便障害、性機能障害はもちろん、下肢痛など一切訴えていなかった。 ()被告の主張術後の硬膜外血腫により、馬尾神経障害(軽度の下肢筋力低下及び知覚低下、膀胱直腸障害)が起こったが、その後、傷害された神経機能は徐々に回復し、現在に至っている。現在の原告の客観的な他覚所見は、排尿・排便機能は軽度の障害を残しているが、下肢機能に関しては、わずかな知覚鈍麻を認めるものの運動神経は正常で、歩行機能を含め一切の障害を残していない。現在、原告は下肢の痛み・しびれの症状によって日常生活がきわめて障害されていると主張しているが、この訴えは、退院後(硬膜外血腫消失確認後)しばらく経過した術後3か月頃より出現し、 害を残していない。現在、原告は下肢の痛み・しびれの症状によって日常生活がきわめて障害されていると主張しているが、この訴えは、退院後(硬膜外血腫消失確認後)しばらく経過した術後3か月頃より出現し、その後徐々に増強した主観的な自覚症状であって、客観的な所見と経過からは大きな乖離があり、術後の硬膜外血腫による馬尾神経障害との直接的な因果関係はない。 下肢痛やしびれについて 現在の原告の腰椎及び下肢に関する他覚的所見は、レントゲン所見では第( )5腰椎のすべり変形は残存しているが、第5腰椎・仙椎間の骨癒合は完成し、所見では神経の圧迫所見は一切なく、神経学的所見では知覚神経伝導MRI速度検査で左足根管症候群(足関節の内くるぶしでの絞扼性末梢神経障害)を思わせる所見があるが、そのほかはまったく正常である。 下肢の機能に関しては、手術前の左下肢痛による10分以上の連続歩行不( )- 31 -能という症状は消失し、現在歩行に関しては一切の障害がない。また、手術前の仰臥位での左下肢のしびれと、痛みによる長時間臥床困難という症状も消失している。原告の下肢機能は全く正常で、日常生活や労働作業を著しく困難にすると考えられる他覚的所見はない。 現在、日常生活や労働作業を著しく困難にしていると主張する原告の下肢( )の痛みとしびれは、退院後しばらく経過した術後約3か月頃より出現し、その後徐々に増悪したものである。 また、入院中は継続的に鎮痛薬が投与されていたので、痛みを感じなかったと原告は主張しているが、事実は9月11日(術後10日)の8時を最後に入院中は鎮痛薬をまったく使用していない。退院後、定期的に外来通院していたが、下肢の痛みを初めて訴えたのは12月5日(術後約3か月)であるが、このときは鎮痛薬処方の希望はなかった。その後痛みの訴え に入院中は鎮痛薬をまったく使用していない。退院後、定期的に外来通院していたが、下肢の痛みを初めて訴えたのは12月5日(術後約3か月)であるが、このときは鎮痛薬処方の希望はなかった。その後痛みの訴えが徐々に強くなり、術後6か月以上経過した平成16年3月30日になり、初めて鎮痛薬処方を希望した。この間鎮痛薬は使用していない。以上が鎮痛薬使用の事実経過で、原告の主張と異なる。 術後3週間(9月22日)の時点では、術後発生した硬膜外血腫は吸収消失していることがにて確認され、その時点以降には、神経根・馬尾神MRI経への圧迫等により神経障害を大きくするような異常所見は、神経学的所見。 でも画像所見(レントゲン写真及び)でもまったく認められていないMRIまた、術前にあった腰椎すべり症による神経根刺激症状(歩行を続けると下肢痛が強くなり歩行できなくなるという症状など)も完全に消失している。 これらの客観的事実より、原告の現在の下肢の痛みとしびれは、術後に発生した馬尾神経障害とは直接の因果関係はない。 なお、診療録中の「下肢知覚鈍麻」との記載は、しびれや下肢痛を意味するものではなく、下肢の感覚が鈍いことを意味するものである。 原告は、術後3か月頃から痛み・しびれを訴えているが、硬膜外血腫消失( )- 32 -後に神経の実質的な傷害が進行し悪化するような事実は全くなく、原告の感じている痛み・しびれは神経の実質的な障害とは直接の関係がない感覚である。 痛みとは「組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる感覚、情動体験(国際疼痛学会用語委」員会の定めた痛みの定義)というもので、身体に実質的な傷害があるときにのみ痛みを感じるものではなく、身体のどこにも実質的な傷害の見当たらない場合にも、痛みとしての 、情動体験(国際疼痛学会用語委」員会の定めた痛みの定義)というもので、身体に実質的な傷害があるときにのみ痛みを感じるものではなく、身体のどこにも実質的な傷害の見当たらない場合にも、痛みとしての感覚、情動体験として生じるものであり、痛みの有無及び程度は必ずしも身体の実質的な傷害の有無及び程度を表すものではない。 現在の原告の下肢の痛みとしびれ及びそれによる高度の社会的・職業的障害の訴えは、客観的な身体的所見から予想されるものをはるかに超えている。 また、下肢の痛みとしびれを主とする多彩な知覚異常の訴えは、術後3か月頃より新たに出現しその後増悪したものである。さらに、これらの症状は、鎮痛薬は全く効果がないにもかかわらず精神安定剤で緩和されるという特徴を持っている。そして、原告はうつ状態に対する長い治療歴(昭和62年発症)があり現在も治療中である。これらのことより、現在の原告が訴える下肢の痛みやしびれの自覚症状は、心因反応が少なからず関与している身体表現性障害の範疇に入るもので、馬尾神経の実質的障害を反映した症状ではない。 排尿障害について排尿障害(排尿に時間がかかる)は馬尾神経障害の後遺症の可能性があるが、原告には尿管結石、前立腺肥大によると思われる尿閉や三環系抗うつ薬による尿閉の既往があり、それらの影響も否定できない。また、その症状は排尿時間の遅延のみで、日常生活を著しく困難にするほどの程度ではない。 現在の排尿障害の原因が、術後に起こった馬尾神経障害によるものであれば、- 33 -排尿機能をコントロールする神経機能は、今後改善することはあっても悪化する可能性はなく、現在の排尿障害が将来悪化する要因はない。 排便障害について原告の便秘の症状は、術後の排便機能障害に引き続き起こっているもので、馬尾神経障害の後遺症の可能性はあ はあっても悪化する可能性はなく、現在の排尿障害が将来悪化する要因はない。 排便障害について原告の便秘の症状は、術後の排便機能障害に引き続き起こっているもので、馬尾神経障害の後遺症の可能性はあるが、現在の便秘の症状は、一般的な整腸剤と緩下剤にて十分コントロールされる程度であり、中高年の一般的な便秘症との鑑別はつかず、日常生活を著しく困難にするような排便障害ではない。 性機能障害について性機能障害は馬尾神経障害により起こり得るものであるが、中高年の性機能障害の頻度は極めて高く原因も多岐にわたる。原告の訴える性機能障害の原因が神経障害によるものなら、今回の馬尾神経障害の後遺症として考えるのが妥当であるが、原告は現在まで泌尿器科専門医の診察を定期的に受けているにもかかわらず、性機能障害について精査・治療を申し出たことがない。性機能障害の原因が明らかにされていないだけでなく、医師による確認もなされておらず、その存在自体に疑問がある。 第4損害額(争点4 )( )()原告の主張 治療費131万9515円 入院雑費7万8000円〔計算式〕1日1500円×入院期間52日 通院交通費4万1810円 入通院慰謝料200万0000円原告の入院期間は52日間であり、通院期間は平成15年10月19日から平成16年9月1日までである。 休業損害371万3974円- 34 -原告は、本件手術当時、既に定年退職していたが、専門学校の講師職などへの再就職を検討していたところ、本件事故により稼動できなかった。基礎額は、平成15年賃金センサス大卒年齢別平均(702万9300円)にすべきである。 〔計算式〕①入院期間について;702万9300円×52日②通院期間について;702万9300円×313日×45%(影響度) 後 賃金センサス大卒年齢別平均(702万9300円)にすべきである。 〔計算式〕①入院期間について;702万9300円×52日②通院期間について;702万9300円×313日×45%(影響度) 後遺障害慰謝料830万0000円原告の症状(馬尾神経の損傷が原因と思われる神経痛、臀部から下肢に至る痺れ及び圧迫痛、大小便排泄障害及び勃起不全)は8級相当である。 逸失利益1369万4693円基礎とすべき額については上記5と同様に平成15年賃金センサス大卒年齢別平均によるべきである。 〔計算式〕702万9300円(基礎額)×45%(労働能力喪失率)×4.3294(ライプニッツ係数) 症状固定時から平成17年3月30日までの治療費31万0250円 平成17年4月1日以降の治療費1か月当たり平均4万5060円 弁護士費用300万0000円 合計3245万8242円及び1か月4万5060円(将来請求)()被告の主張争う。

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