平成20(ワ)483 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年11月17日 千葉地方裁判所
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判決文本文10,471 文字)

平成20年11月17日判決言渡平成20年(ワ)第483号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日平成20年9月29日判決主文 本件訴えを却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成20年3月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告が運営する精神薄弱者更生施設(現在の知的障害者更生施設)である香取学園瑞穂寮(以下「瑞穂寮」という。)に入所していた重度の知的障害者である原告が,左下肢機能障害の後遺症を残す左膝蓋骨骨折完全脱臼の傷害を負ったのは,被告の職員であったAが,平成12年4月17日,リハビリの際に激しく抵抗した原告の左膝を過度に屈折させた過失によるなどと主張して,被告に対し,準委任契約による安全配慮義務に違反したことを理由とする債務不履行責任に基づき,損害賠償金1000万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年3月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(1)当事者等ア原告は,昭和42年1月29日,BとCとの間の長女として出生した。 原告は,小頭症児であったことから,原告が3歳のころに身体障害者1 種2級と認定され,昭和61年6月1日,精神薄弱者福祉法(ただし,平成10年9月28日法律第110号による改正前のもの。)16条1項2号に基づく千葉市の委託により,瑞穂寮に入所した。 イ被告は,昭和27年に社会福祉事業法(ただし,平成12年法律第111号による改正前のもの。)に基づき認可され,社会福祉法人として設立された。 (2)前訴の経過ア訴えの提起原告は,平成13年6月6日,Aから平成12年4月18日早朝に左膝 平成12年法律第111号による改正前のもの。)に基づき認可され,社会福祉法人として設立された。 (2)前訴の経過ア訴えの提起原告は,平成13年6月6日,Aから平成12年4月18日早朝に左膝及び大腿部を強く蹴られた(以下「前訴暴行」という。)ために左下肢機能障害(左下肢全廃)の後遺障害を負うに至ったなどと主張して,Aに対して不法行為に基づき損害賠償金の支払を求めるとともに,被告に対して,上記Aの不法行為を理由とする使用者責任に基づき損害賠償金の支払を求めることなどを内容とする訴えを千葉地方裁判所に提起した(千葉地方裁判所平成13年(ワ)第1302号損害賠償請求事件)。なお,前訴において,原告は,原告が瑞穂寮に入所していた昭和61年6月から平成12年12月までの15年間,被告が適正な職員配置を怠るなどし,原告に対して不適切な処遇等を行ったために,長期にわたり身体的精神的苦痛を受けたとして,準委任契約による安全配慮義務に違反したことを理由とする債務不履行責任又は不法行為に基づき損害賠償金の支払をも求めた。 イ前訴の審理経過(ア)原告は,平成17年1月20日に開かれた第19回口頭弁論期日において,原告が左下肢機能障害(左下肢全廃)の後遺障害を負うに至ったのは,前訴暴行が認められないとしても,平成12年4月17日のリハビリの際に,Aが原告の左膝及び大腿部を強く蹴ったためであるとの予備的主張(以下「前訴第1次予備的主張」という。)をし,さらに, 前訴第1次予備的主張が認められないとしても,同日にAが嫌がって体に力を入れていた原告の膝を無理矢理屈折させる誤ったリハビリ方法を繰り返した過失によるとの予備的主張(以下「前訴第2次予備的主張」という。)をした(以下,平成12年4月17日に原告に対して行われたリハビリを「本件リハビリ」と 理矢理屈折させる誤ったリハビリ方法を繰り返した過失によるとの予備的主張(以下「前訴第2次予備的主張」という。)をした(以下,平成12年4月17日に原告に対して行われたリハビリを「本件リハビリ」ということがある。)。 (イ)千葉地方裁判所は,平成17年2月10日の第20回口頭弁論期日において弁論を終結し,同年6月16日,Aの前訴暴行及び前訴第1次予備的主張に係る原告の請求を棄却する旨の判決をした。同裁判所は,判決の中で,前訴第2次予備的主張につき,「第13回口頭弁論期日以前に各当事者からなされた主張や提出済みの書証に照らせば,被告Aらが同月17日に激しく抵抗した原告を押さえ付けるなどしたことにより,原告に生じた傷害がこの際にできたものである可能性が指摘されていたのであるから,原告としては,人証の証拠調べ手続が開始する以前に上記リハビリの際における被告Aの過失を請求原因として主張することは十分可能であり,かつ,容易であった」などと摘示して,時機に後れた主張と認めて却下した。 (ウ)原告は,前記(イ)の判決を不服として控訴したものの,控訴審である東京高等裁判所は平成18年7月27日,控訴を棄却する旨の判決をした。原告はさらに最高裁判所に上告したものの,最高裁判所は平成19年2月13日,適法な上告理由に当たらないとして原告の上告を退け,原告の敗訴が確定した。 (3)本訴の提起原告は,平成20年3月7日,原告が左下肢機能障害(左下肢全廃)の後遺障害を負うに至ったのは平成12年4月17日にAが嫌がって体に力を入れていた原告の膝を無理矢理屈折させる誤ったリハビリ方法を繰り返した過失によるとして,前訴第2次予備的主張に係る事実と同一の事実を請求原因 として,当時Aを雇用していた被告に対して,本訴を提起した。 これに対し,被告は,原告の本訴 る誤ったリハビリ方法を繰り返した過失によるとして,前訴第2次予備的主張に係る事実と同一の事実を請求原因 として,当時Aを雇用していた被告に対して,本訴を提起した。 これに対し,被告は,原告の本訴提起は前訴の実質的な蒸し返しであって訴訟上の信義則に反するから却下されるべきであると主張した。 争点 本件の争点は,原告の本訴提起が訴訟上の信義則に反するかどうかである。 争点に関する当事者の主張(1)被告の主張ア原告が,本訴において求めているのは,原告が左下肢全廃の後遺症を残す障害を負ったことについての損害賠償であり,その目的は前訴におけると全く同じである。 イ前訴において,本件リハビリ時の過失の存在という事実関係については,被告が準備書面(1)を提出した平成13年9月27日の第2回口頭弁論期日から,訴訟の場において議論の対象となっていたのであるから,原告が,本訴で主張しているような本件リハビリ時における過失行為の存在を早期に主張することは十分可能であり,また,その主張には何らの支障もなかった。 そうであるのに,原告は,4月18日の受傷という事実を立証せんがために,本件リハビリ時に原告が受傷したという事実そのものを排斥する主張を一貫して行い,また,原告法定代理人ら自身も,尋問において,本件リハビリ時の過失行為をあくまで否定する発言をしていた。 被告は,原告が,本件リハビリ時の過失行為の存在を明白に否定し,あくまでAによる前訴暴行という故意行為の主張をしていたことから,原告が本件リハビリ時の過失行為についての損害賠償請求は放棄しているものと認識していた。 ウ原告の受傷から約8年が経過していることから,証人となるべき職員らの記憶が薄れていることは明らかであるし,そもそも,当時の職員のうち 退職した者も多く,仮に,本訴が本案審理 と認識していた。 ウ原告の受傷から約8年が経過していることから,証人となるべき職員らの記憶が薄れていることは明らかであるし,そもそも,当時の職員のうち 退職した者も多く,仮に,本訴が本案審理に進んだ場合,被告は,前訴の早い段階において本件リハビリ時の過失行為に基づく損害賠償請求がなされていたならば,当然なしえたはずの防御を十分に行うことができない状態にあり,多大な犠牲を強いられることは明らかである。 エ前訴での主たる請求を認めさせたいがために,あえて,本件リハビリ時の過失行為についての請求をしないという選択をしていた原告が,主たる請求が認められなかったからといって,前訴が最高裁で確定し,また,受傷から既に約8年が経過した現在になって,新たに上記過失行為についての損害賠償請求を行うのは,禁反言の法理からも到底認められない。 オ原告は,後記(2)原告の主張イのとおり主張するけれども,被告は,前訴において,原告から看護記録の提出を求められていない。 (2)原告の主張ア本件の訴訟物はそもそも前訴と発生日時を異にしている。 イ原告は,以前から,被告が行ったリハビリを問題としており,前訴においても,前訴暴行発生時までの看護記録の提出を求めていたが,被告から提出された看護記録は平成12年3月7日までの分にとどまっていた。原告からは,前訴暴行の当日を含む看護記録の提出をさらに強く求めたが,被告はこれを怠り,実際に被告から正式な看護記録が提出されたのは,約5か月後,しかもAの本人尋問期日の前日である平成16年4月7日の午後3時46分であった。そのため,原告の側では本件リハビリの内容等ろくに知らされず,Aに対し,この点につきまともな反対尋問など行えない状況にあった。 ウ前訴において主張立証の機会が尽くされたと認められないときには,訴訟上 ため,原告の側では本件リハビリの内容等ろくに知らされず,Aに対し,この点につきまともな反対尋問など行えない状況にあった。 ウ前訴において主張立証の機会が尽くされたと認められないときには,訴訟上の信義則は作用しない。 第3争点に対する判断 認定事実 前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。 (1)前訴の提起に至るまでの事実経過ア原告は,平成12年4月18日,瑞穂寮の寮生及びその保護者らと長野県への旅行会に参加していた。同日午前7時20分ころ,原告の左膝が腫れて熱を持っていたことなどから,Cは,同日午後6時30分ころ,被告職員らとともに,原告を宿泊先に近いD病院へ連れて行き,診察を受けさせた。 イB及びCは,同年6月15日,瑞穂寮の施設長Eに対し,同年4月18日に原告が受傷したことの事実調査を書面で求めた。 ウB及びCは,同年7月17日,千葉県に対し,同年4月18日に原告が受傷したこと等についての事実関係の究明調査を要請した。千葉県は,被告職員が原告に対してした無理なリハビリ行為により左膝蓋骨完全脱臼等を負わせたことなどを認定し,同年11月8日,被告に対し改善勧告をした。 エこれと前後して,Eは,B及びCからの前記イの求めに対し,同年6月27日,「前日17日午後より寮内で左膝のリハビリをおこなっていますが,このリハビリの取り組みが,あ脱きゅう及び左顔眼下の痣の要因となってしまったと思います。F病院Gのお話しによると,リハビリで無理に強く膝に力を加えると脱きゅうをおこし内出血や,熱・腫れをおこすこともありうるという事でした。直接係わった職員も本人がいやがっていたことはわかっていたが,リハビリを懸命にやることが,早く(原告)の回復につながるものと,力を入れ過ぎてしまったことは認めています。」などと記 るという事でした。直接係わった職員も本人がいやがっていたことはわかっていたが,リハビリを懸命にやることが,早く(原告)の回復につながるものと,力を入れ過ぎてしまったことは認めています。」などと記載した書面をもって回答した。 (2)前訴の審理経過ア平成13年7月26日に第1回口頭弁論期日が開かれ,同年9月27日,第2回口頭弁論期日が開かれた。 被告は,同期日において,同日付の「被告香取学園ら準備書面(1)」を陳述し,平成12年4月18日早朝にAが原告に対して暴行を加えた事実を否認するとともに,本件リハビリ時に,暴れる原告を押さえた際に,普段のリハビリ時よりも手に力を入れたために,原告がかねてより罹患していた左膝蓋骨亜脱臼を増強させた可能性があることなどを主張した。 イその後,4回の口頭弁論期日を経て,平成14年9月19日,第7回口頭弁論期日が開かれた。 原告は,同期日において,F病院リハビリテーション科の診療録等を証拠として提出するとともに,同月17日付の「第4準備書面」を陳述し,前記アの被告の主張に対して,「原告の傷が4月17日のリハビリの結果であるとの点を否認」した上,「被告Aが,4月18日午前5時30分前後頃から6時前後頃までの間に,原告の顔面を殴り左膝を蹴って傷害を負わせたことは明らかである。」,「原告の受傷を4月17日であるとする被告らの主張は,ことさらに故意による暴行行為を隠蔽しようとするものにほかならない。」などと主張した。 ウその後,3回の口頭弁論期日を経て,平成15年6月12日,第11回口頭弁論期日が開かれた。 原告は,同期日において,同日付の「第7準備書面」を陳述し,「被告が4月17日にやったと称しているような本人が(おそらくは痛がって)抵抗しているにもかかわらず無理矢理行う足の屈曲(被告の準備書面(1 告は,同期日において,同日付の「第7準備書面」を陳述し,「被告が4月17日にやったと称しているような本人が(おそらくは痛がって)抵抗しているにもかかわらず無理矢理行う足の屈曲(被告の準備書面(1)16頁)など,医師が指示するはずもない。」などと主張した。 エ原告は,平成15年9月4日に開かれた第12回口頭弁論期日において,Aにつき「平成12年4月18日に原告を蹴り,左膝蓋骨完全脱臼の傷害を負わせた事実」を立証趣旨として,また,Aとともに本件リハビリに従事していたHにつき「平成12年4月17日のリハビリ時には原告に左目下・左足太股の痣はなかった事実」を立証趣旨として,尋問を申請するな どした。 オその後,1回の口頭弁論期日を経て,平成16年1月29日,第14回口頭弁論期日が開かれ,原告の法定代理人であるB及びCに対する尋問が行われた。 (ア)Cは,平成12年4月18日に原告の左膝の腫れに気がついて,その原因について被告職員Iに尋ねたところ,本件リハビリ時には原告は何ともなかった,転んだのではないか,ということを言われたこと,しかし原告の顔や足にはかすり傷一つ見当たらなかったことから転んだというのはおかしいと考えたことなどを供述した。 (イ)Bは,平成12年4月20日に被告職員から,本件リハビリの際にAら職員が原告に対して強いて足の曲げ伸ばしをしたという説明を聞いたこと,しかし原告が本件リハビリによって受傷したとは絶対に信じられないこと,複数の医師の話として,原告の左膝蓋骨脱臼はリハビリでも生じないし,転倒によっても生じない旨を聞いたことなどを供述した。 カその後,平成16年4月8日の第15回口頭弁論期日から同年11月18日の第18回口頭弁論期日まで,A,証人H,同Jらの尋問が行われた。 第18回口頭弁論期日において,千葉地方 となどを供述した。 カその後,平成16年4月8日の第15回口頭弁論期日から同年11月18日の第18回口頭弁論期日まで,A,証人H,同Jらの尋問が行われた。 第18回口頭弁論期日において,千葉地方裁判所は,原告及び被告らに対し,証拠調べの結果を踏まえ最終準備書面を提出するように指示したところ,原告は,平成17年1月20日,第19回口頭弁論期日において,前訴第1次及び第2次予備的主張を追加する旨記載した平成16年12月24日付の「第9準備書面」を陳述した。なお,弁論を終結した第20回口頭弁論期日までに,A及び被告において,本件リハビリの際にAに過失行為があったことを認めたことはなかった。 判断 (1)本訴における訴訟物は,原告と被告との間の準委任契約による安全配 慮義務に違反したことを理由とする債務不履行責任に基づく損害賠償請求権であり,他方,前訴における訴訟物は被用者の不法行為を理由とする使用者責任に基づく損害賠償請求権であって,両者は訴訟物を異にする。しかしながら,前訴と後訴とが訴訟物を異にする場合であっても,後訴の請求又は後訴における主張が実質的には前訴のそれの蒸し返しにすぎず,かつ,前訴において後訴の請求をすることに支障はなく,更に本案の審理を継続することは被告の地位を不当に長期間不安定な状態に置くことになる等の事情が認められる場合には,後訴の請求又は後訴における主張は,信義則に照らして許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第331号同51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,最高裁昭和49年(オ)第163号,第164号同52年3月24日第一小法廷判決・集民第120号299頁参照)。 (2)アそこで検討するに,前訴と本訴は,訴訟物を異にするとはいえ,結局のところ,原告が,被告に対し 年(オ)第163号,第164号同52年3月24日第一小法廷判決・集民第120号299頁参照)。 (2)アそこで検討するに,前訴と本訴は,訴訟物を異にするとはいえ,結局のところ,原告が,被告に対し,原告が瑞穂寮入所中に左下肢機能障害の後遺症を残す左膝蓋骨骨折完全脱臼の傷害を負ったことを前提としてその損害賠償責任の追及を目的として提起したものと認められ,本訴は,実質的には,前訴と同一の紛争であるというべきものである。 イ(ア)そして,①Bは,前記1認定事実(2)オ(イ)のとおり,平成12年4月20日に被告から原告が同月17日のリハビリによって受傷した可能性があることを聞いていること,②被告は,同(1)エのとおり,B及びCに対し,同年6月27日に書面で同旨の説明をしていること,③千葉県は,同ウのとおり,B及びCの調査要請を受けて,同年11月8日に,被告職員が原告に対してした無理なリハビリ行為により左膝蓋骨完全脱臼等を負わせたことなどを認定して被告に改善勧告をしていることに照らすと,B及びCは,遅くとも前訴を提起する平成13年6月6日の時点までには,原告の受傷がAによる平成12年4月18日 の故意行為ではなく同月17日の過失行為による可能性があることを十分に認識していたと推認される。 しかるところ,被告は,同(2)アのとおり,前訴第1審第2回口頭弁論期日において,Aが本件リハビリ時にいつもより力を入れて原告を押さえたために,従前の亜脱臼が増強したことはあり得ると主張し,これに対して,原告は,同イのとおり,その約1年後の第7回口頭弁論期日において,上記被告の主張を明確に否認している。 このように,原告が,被告の上記主張を否認するまでには1年の期間があり,被告の上記主張に対してどのような認否をするかについて,B及びCの上記認識も踏まえて いて,上記被告の主張を明確に否認している。 このように,原告が,被告の上記主張を否認するまでには1年の期間があり,被告の上記主張に対してどのような認否をするかについて,B及びCの上記認識も踏まえて検討する時間は十分にあったことからすれば,前訴において早期に本件リハビリ時の過失行為を請求原因として予備的にせよ主張することは可能であり,かつ,容易であったと認められる。 (イ)また,原告は,平成20年9月26日付準備書面(3)において,被告は平成11年11月5日に転倒し受傷した原告を再度転倒させないよう安全を配慮すべき義務を怠り,原告を,①同日以降本件リハビリまでの間に体育館前の通路付近において転倒させた,②本件旅行出発日の朝,体育館前の通路付近において転倒させた,③平成12年6月7日,転倒させたなどと主張して,これらも請求原因とするかのようである。 しかし,上記①から③までの各主張のうち,①及び②の主張については,前記1認定事実(2)オ(ア)によれば,Cは平成12年4月18日の時点で被告職員から原告が転倒して受傷した可能性があることについて説明を受けていたのであるから,前訴において主張することは可能であったと認められるところ,これらを前訴において主張しなかったのは,Cが被告職員の説明を信じず,また,Bが同(イ)のとおりリハビリや転倒による可能性はないとしてAの前訴暴行という故意行為に拘泥 した結果にすぎないというべきであって,前訴において主張することを困難ならしめる客観的事情があったとは認められない。また,③の主張については,前記1認定事実(2)イのとおり,同主張の根拠と思料されるF病院リハビリテーション科の診療録は平成14年9月19日の前訴第1審第7回口頭弁論期日において証拠として提出されており,原告が,前訴においても,被告が 実(2)イのとおり,同主張の根拠と思料されるF病院リハビリテーション科の診療録は平成14年9月19日の前訴第1審第7回口頭弁論期日において証拠として提出されており,原告が,前訴においても,被告が適正な職員配置を怠るなどしたとして安全配慮義務違反を主張していることにも鑑みれば,前訴において主張することは可能であり,かつ,主張することを困難ならしめる客観的事情があったとは認められない。 ウそして,A及び被告が,前記1認定事実(2)カのとおり,本件リハビリの際にAに過失行為があったことを認めることなく前訴第1審第20回口頭弁論期日を迎えるに至ったのは,原告の訴訟追行の態度から,被告らが同第2回口頭弁論期日において示唆した本件リハビリ時における過失について原告は不法行為として主張しないものと信頼するに至っていたためであると考えられる。そして,その後,前提事実(2)イ(イ)のとおり千葉地方裁判所が本件リハビリ時における過失に関わる前訴第2次予備的主張について時機に後れた主張と認めて却下するなどし,Aの不法行為を理由とする原告の請求が棄却され,上級審においてもその結論が維持されたことにより,被告は,原告が瑞穂寮入所中に左下肢全廃の後遺症を残す障害を負ったことについての損害賠償を巡る紛争が落着したと信頼するに至ったものと認められる。そうであるにもかかわらず,原告は,前訴判決の確定から約1年後に本訴を提起したものであって,本件において本案の審理を継続すれば,被告の前訴審理に対する正当な信頼を蔑ろにし,被告の地位を更に長期間不安定な状態に置くことになる。 エ以上の諸事情を総合的に考慮すると,本訴の請求及び主張は,前訴のそれの実質的な蒸し返しにすぎず,かつ,前訴において本訴の請求をするこ とに支障はなかったのに,前訴第1審の口頭弁論終結の間際 エ以上の諸事情を総合的に考慮すると,本訴の請求及び主張は,前訴のそれの実質的な蒸し返しにすぎず,かつ,前訴において本訴の請求をするこ とに支障はなかったのに,前訴第1審の口頭弁論終結の間際まで敢えてこれを行わず,そして,本訴提起時は,紛争の原因が生じたときから約8年,前訴の提起時から約7年と長期間が経過し,前訴確定時からも約1年の期間が経過しているのであって,更に本案の審理を継続することは被告の地位を不当に長期間不安定な状態に置くことになり,信義則に照らして許されないというべきである。 (3)アこれに対して,原告は,前訴において本件リハビリ時の過失行為を主張することが後れたのは,①前訴原告代理人が前訴暴行という故意行為の主張に執着したこと,②被告による証明妨害があったことによるとして,本訴において本件リハビリ時の過失行為を請求原因として主張することは信義則に反しないと主張する。 イ(ア)しかし,まず,前訴原告代理人が不相当な訴訟活動をした旨の主張については,B自身が,前記1認定事実(2)オ(イ)のとおり,前訴原告法定代理人尋問において,原告が本件リハビリによって受傷したというのは絶対に信じられない旨の供述をするなど,原告が受傷したのはAの暴行行為によるとの考えを強固に抱いていたことが認められるのであって,前記(2)イ(ア)のとおり,前訴において早期に本件リハビリ時の過失行為を請求原因として予備的にせよ主張することは可能であり,かつ,容易であったと認められるにもかかわらず,前訴暴行という故意行為に執着した訴訟行為が行われたのは,原告の法定代理人であるBの意向に沿うものであったと認められる。したがって,前訴原告代理人の訴訟活動が原告の意向を無視した不相当なものであったとは認められないから,原告の主張は理由がない。 (イ) 告の法定代理人であるBの意向に沿うものであったと認められる。したがって,前訴原告代理人の訴訟活動が原告の意向を無視した不相当なものであったとは認められないから,原告の主張は理由がない。 (イ)また,証明妨害の主張については,原告は,前訴の控訴審において,証明妨害の事実に言及していないばかりか,「実質的には既に主張していた」として,本件リハビリ時における過失行為の存在を早期から 主張していたというのであるから,矛盾した主張であるというべきであるし,この点は措くとしても,全証拠に照らしても前訴において被告が証明妨害をした事実を認めるに足りる証拠はないから,原告の主張は理由がない。 第4 結論 以上によれば,原告の本件訴えは,不適法であるから却下し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第2部菅原崇裁判長裁判官今井和桂子裁判官佐々木公裁判官

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