主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求厚生労働大臣が平成24年11月14日付けで原告に対してした同月28日から平成25年11月27日までの期間医業の停止を命ずる旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,秘密漏示罪により懲役4月(執行猶予3年)の刑に処せられた医師である原告が,厚生労働大臣から1年間医業の停止を命ずる旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,被告に対し,本件処分は違法であると主張して,その取消しを求める事案である。 1 法令の定め(1)相対的欠格事由次のア~エのいずれかに該当する者には,医師の免許を与えないことがある(医師法4条)。 ア心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの(同条1号)イ麻薬,大麻又はあへんの中毒者(同条2号)ウ罰金以上の刑に処せられた者(同条3号)エ上記ウに該当する者を除くほか,医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者(同条4号)(2)医業停止処分等ア医師が前記(1)ア~エのいずれかに該当し,又は医師としての品位を損するような行為のあったときは,厚生労働大臣は,次に掲げる処分をす ることができる(医師法7条2項)。 (ア)戒告(同項1号)(イ)3年以内の医業の停止(同項2号)(ウ)免許の取消し(同項3号)イ厚生労働大臣は,上記アの処分をするに当たっては,あらかじめ,医道審議会の意見を聴かなければならない(同条4項)。 (3)医道審議会ア医道審議会には医道分科会を置き,同分科会は,医道審議会の所掌事務のうち,医師法7条4項の規定によりその権限に属させられた事項等を処理する(医道審議会令 ない(同条4項)。 (3)医道審議会ア医道審議会には医道分科会を置き,同分科会は,医道審議会の所掌事務のうち,医師法7条4項の規定によりその権限に属させられた事項等を処理する(医道審議会令5条1項)。 イ医道審議会は,その定めるところにより,分科会の議決をもって医道審議会の議決とすることができる(同条6項)。 2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 (1)原告原告は,平成6年4月26日に免許を取得した医師であり,京都市内の病院の神経精神科に勤務する者である(甲8,乙2,6)。 (2)刑事事件判決の経緯等ア原告は,平成18年8月4日,A家庭裁判所から,継母や弟妹が現在する自宅に放火して自宅を全焼させるとともに同人らを死亡させて殺害した等の非行事実により同裁判所に送致された少年(以下「本件少年」という。)に係る保護事件(以下「本件保護事件」という。)の鑑定人に選任され,同月7日,同裁判所から,本件少年が非行に及んだ精神医学的背景等の鑑定事項について鑑定をし,その経過及び結果を同年10月13日までに書面で報告するよう命じられた(甲2資料1,乙3~5)。 イ原告は,A家庭裁判所から,鑑定資料として本件保護事件に係る供述調書等の写しの貸出しを受けていたところ,①同月5日,自宅において,フリージャーナリスト(以下「本件筆者」という。)に対し,本件少年の生育歴その他家庭の事情等の秘密が記載された本件少年及びその実父等の捜査段階における供述調書等の写しを閲覧させ,②同月6日,京都市内のホテルにおいて,本件筆者に対し,鑑定のために臨床心理士が作成した本件少年の心理検査の結果等の秘密が記載された書面を閲覧謄写させ,③同月15日, る供述調書等の写しを閲覧させ,②同月6日,京都市内のホテルにおいて,本件筆者に対し,鑑定のために臨床心理士が作成した本件少年の心理検査の結果等の秘密が記載された書面を閲覧謄写させ,③同月15日,京都市内のホテルにおいて,本件筆者に対し,鑑定の結果等の秘密が記載された原告作成の書面を交付した(以下,これら一連の行為を「本件行為」という。甲2資料1,乙3~5)。 ウ原告は,平成21年4月15日,B地方裁判所において,本件行為について,秘密漏示罪により懲役4月,執行猶予3年の判決を受けた(乙3)。 エ原告は,上記ウの判決を不服としてC高等裁判所に控訴したが,同裁判所は,同年12月17日,控訴を棄却する旨の判決をした(乙4)。 オ原告は,上記エの判決を不服として最高裁判所に上告したが,同裁判所は,平成24年2月13日付けで,上告を棄却する旨の決定をし,その後,上記各判決は確定した(乙5)。 (3)本件処分の経緯等ア厚生労働大臣は,平成24年7月20日付けで,京都府知事に対し,原告に対する意見の聴取及び再教育研修に係る弁明の聴取を依頼した(乙7)。 イ京都府知事は,同月31日付けで,原告に対し,意見の聴取及び再教育研修に係る弁明の聴取について通知した上,同年8月24日,京都府職員に原告に対する意見の聴取を行わせ,その結果の報告を受けて,同年9月10日付けで,厚生労働大臣に対し,上記意見の聴取の結果を報告した(乙8~11)。 ウ厚生労働大臣は,同年11月14日付けで,原告について医道審議会医 道分科会に諮問をし,同分科会は,同日,厚生労働大臣に対し,「医業停止1年」の処分が相当である旨の答申をした(乙12,13)。 エ厚生労働大臣は,同日付けで,原告に対し,本件行為により懲役4月,執行猶予3年の刑に処せられ,医師法 日,厚生労働大臣に対し,「医業停止1年」の処分が相当である旨の答申をした(乙12,13)。 エ厚生労働大臣は,同日付けで,原告に対し,本件行為により懲役4月,執行猶予3年の刑に処せられ,医師法4条3号に該当することとなったことを理由として,同月28日から平成25年11月27日までの期間医業の停止を命ずる旨の本件処分をし,原告は,平成24年11月16日,本件処分に係る命令書の送達を受けた(乙1,14)。 (4)本件訴訟の提起等ア原告は,平成24年11月22日,本件訴訟を提起するとともに,行政事件訴訟法25条2項の規定により,被告に対して本件処分の効力の停止を求める執行停止の申立てをした(顕著な事実)。 イ当裁判所は,同年12月5日付けで,上記アの申立てについて,本件処分の効力を本案事件の第1審判決言渡し後30日が経過するまで停止する旨の決定をし,同決定は,同月,確定した(顕著な事実)。 3 争点及び当事者の主張本件の争点は,①本件処分について厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか(争点1)及び②本件処分について厚生労働大臣が医道審議会の意見を聴いたか(争点2)であり,これらの点についての当事者の主張は以下のとおりである。 (1)争点1(裁量権の逸脱・濫用)(原告の主張)医師の秘密漏示行為であっても,正当な理由があれば,犯罪行為・不法行為とならず,仮に犯罪行為・不法行為となるとしても,違法性や悪質性が極めて小さいというべきである。原告は,本件少年が広汎性発達障害であり継母らに対する殺意を有していなかったと考えていたところ,マスコミの報道によって本件少年が殺人者であるとの誤った認識が定着し,本件少年の将来 が台無しになることを危惧し,広汎性発達障害に理解のある本件筆者であれ 有していなかったと考えていたところ,マスコミの報道によって本件少年が殺人者であるとの誤った認識が定着し,本件少年の将来 が台無しになることを危惧し,広汎性発達障害に理解のある本件筆者であれば真実を社会に報道してくれると考えて本件行為に及んだものであり,本件行為は,少年の利益にかない,正当な理由に基づくものというべきである。 本件行為は,世間一般からも悪質であるとは評価されていないし,政府関係者も,これまで,死刑囚の鑑定書を出版したり,鑑定の際の録音テープをテレビ放送に供したりするような露骨な秘密漏示行為を問題としていないことからすれば,鑑定医による秘密漏示行為を悪質とは評価していないと考えるほかない。 本件行為が刑事事件に発展した理由は,本件少年の供述調書等を直接に引用した「a」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)が出版されたことにあるところ,本件書籍は,本件筆者が,本件少年の供述調書等を閲覧した際に,コピーはしないとの約束を破り,原告に無断で当該調書等を写真撮影した上,そのことを原告に秘したまま執筆したものであり,原告は,本件書籍の出版に積極的に関与したことはない。悪質なのは,本件筆者及び出版社の行為であり,本件行為自体ではない。なお,行為の悪質性は,行為時を基準に判断すべきものであり,大きく報道されたとか告訴されたといった事後的な事情を考慮すべきではない。 そして,本件行為に対する刑が懲役4月(執行猶予3年)にとどまっていることをも考慮すれば,原告については行政処分をすること自体が裁量権の逸脱・濫用というべきであるが,仮に行政処分が避けられないとしても,戒告が相当であり,1年間の医業停止は重きに失する。 よって,本件処分は,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであり,違法というべきである(なお 政処分が避けられないとしても,戒告が相当であり,1年間の医業停止は重きに失する。 よって,本件処分は,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであり,違法というべきである(なお,厚生労働大臣は,過去5年間に医道審議会の答申と異なる内容の医業停止等の処分をしていないから,処分の実質的な決定を行っているのは医道審議会であり,その審議に事実誤認等があれば,処分は違法となるというべきところ,被告は医道審議会 の審議内容を明らかにしない。)。 (被告の主張)原告は,本件行為により懲役4月(執行猶予3年)の刑に処せられたのであるから,本件処分が処分要件(医師法7条2項2号,4条3号)を満たしていることは明らかであるところ,本件行為は,本件少年やその家族のプライバシーを著しく侵害し,少年審判の非公開の趣旨を没却するものである上,鑑定制度の根幹をも揺るがしかねないものであり,医師法の趣旨に反し,国民の医療に対する信頼を失墜させるものである。原告は,本件少年の利益を図るために本件行為に及んだと主張するが,事前に本件少年等の意思を確認するなどしておらず,本件保護事件の付添人らは事件を早期に風化させる方針であったのであるから,上記のような原告の意図は独自の見解に基づくものであり,本件行為を正当化するものではない。 本件行為の結果,本件保護事件に係る決定に相前後して,供述調書に基づく商業的でセンセーショナルな内容の記事が掲載された週刊誌及び月刊誌が発行され,さらに,その後,供述調書からの引用であることを明らかにした本件書籍が出版されたことにより,本件少年等のプライバシーが著しく侵害されただけでなく,A家庭裁判所長が本件筆者及び出版社に対して書面による抗議をし,D法務局長が本件筆者及び出版社に対し,本件書籍の出版が 籍が出版されたことにより,本件少年等のプライバシーが著しく侵害されただけでなく,A家庭裁判所長が本件筆者及び出版社に対して書面による抗議をし,D法務局長が本件筆者及び出版社に対し,本件書籍の出版が人権侵犯に当たるとして被害回復等を求める勧告をするなどしており,本件行為の影響は多大である。原告は,本件筆者に供述調書等を閲覧させる際,自ら立ち会うなどの謄写等を防止する措置を何ら講じておらず,心理検査に関する書面等を閲覧謄写させ,鑑定書のデータを印刷して交付するなどしている上,上記週刊誌・月刊誌の記事の内容については事前に確認もしていたのであって,上記のような結果についての原告の責任は重い。 以上によれば,本件処分が厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものということはできず,本件処分は適法である(なお,厚生 労働大臣は,必ずしも医道審議会の答申内容に拘束されるものではなく,自らの判断と責任において処分をすることができるし,厚生労働大臣に答申されているのは決議された最終的な意見のみであるから,医道審議会医道分科会の審議内容は,厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用を基礎付ける事情とはなり得ない。)。 (2)争点2(医道審議会への意見聴取)(被告の主張)本件処分については,平成24年11月14日に医道審議会医道分科会が実施されているところ,事前に各委員に対する関係資料配布や説明が行われ,当日も事務局から事案の概要等の説明がされた上で審議が行われ,原告に対する処分は医業停止1年とするのが相当であると判断されて,その旨の答申がされている。このように,本件処分に際しては,厚生労働大臣の諮問に対し,医道審議会医道分科会が適正な審議をした上で答申を行っているのであり,厚生労働大臣は,本件処分について医道審議会の意 旨の答申がされている。このように,本件処分に際しては,厚生労働大臣の諮問に対し,医道審議会医道分科会が適正な審議をした上で答申を行っているのであり,厚生労働大臣は,本件処分について医道審議会の意見を聴いている。 (原告の主張)医師法は,処分に先立って医道審議会の意見を聴くことを要求しており,通常は,医道審議会の意見がそのまま厚生労働大臣による処分に反映されるのであるから,医道審議会において適切な審議が行われた事実があって初めて法の定める手続を履践したということができる。そうであるところ,本件処分については,医道審議会で実質的審議が行われたのか否かさえ明らかでなく,役人が作成した意見を盲目的に追認しただけの可能性もある。そうすると,本件処分が法の定める手続を履践してされたものということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(裁量権の逸脱・濫用)について(1)判断枠組み 医師が医師法4条3号の規定に該当する場合に,同法7条2項の規定により免許を取り消し,医業の停止を命じ,又は戒告をするかどうか,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,同条4項の規定により医道審議会の意見を聴く前提の下で,医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。 そうすると,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内 ると,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである(最高裁昭和63年7月1日第二小法廷判決・裁判集民事154号261頁参照)。 (2)認定事実前記前提となる事実,証拠(甲2資料1,乙3,4,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア本件行為に至る経緯(ア)本件保護事件については,E県下の有名校在籍の生徒による放火殺人事件として,その発生当初から報道が繰り返されていたところ,本件少年の付添人弁護士らは,マスコミの前には極力出ず,本件少年の実父に対する取材も拒否することにより,事件を早期に風化させる方針で臨んでいた。 (イ)原告は,平成18年8月7日,前記前提となる事実(2)アのとおり,A家庭裁判所から鑑定を命じられ,その後,本件少年やその実父等と面接し,臨床心理士等に指示して心理検査等を実施するなどしていたところ,本件保護事件について取材をしており,原告がその鑑定人に選任さ れたことを知った本件筆者から面会を求められ,同年9月8日,京都市内の飲食店において,本件筆者及び出版社の編集者と面会した。その際,本件筆者等は,原告に対し,本件保護事件について広汎性発達障害に関する記事を月刊誌に掲載し,最終的に1冊の本にしたい旨を伝え,原告は,本件筆者等に対し,本件少年と面接した際の様子や心理検査の結果等を明らかにしたほか,本件少年に計画性や殺意はないこと,週刊誌等で報道されていた内容の一部は事実でないこと等を話し,鑑定書の提出期限等を明らかにするなどした。 (ウ)原告は,同月28日 果等を明らかにしたほか,本件少年に計画性や殺意はないこと,週刊誌等で報道されていた内容の一部は事実でないこと等を話し,鑑定書の提出期限等を明らかにするなどした。 (ウ)原告は,同月28日,本件筆者の求めに応じ,上記飲食店において,再び本件筆者等と面会し,その際,本件筆者等から本件保護事件に係る供述調書を見せてほしいと依頼されたのに対し,コピーはできないなどと述べ,消極的な態度を示したが,本件筆者等から,コピーはしないなどとして更に上記供述調書の閲覧を求められて,結局,本件筆者等が原告の自宅において当該供述調書等を閲覧することを承諾した。 イ本件行為の状況(ア)本件筆者は,平成18年10月5日午前7時30分頃,出版社のカメラマン等と共に原告の自宅に赴き,病院に出勤する原告から鍵を受け取って同自宅に立ち入り,ダンボール箱に入った本件保護事件に係る供述調書等を手分けして閲覧した。本件筆者等は,供述調書等の内容を朗読して持参したボイスレコーダーに録音したり,デジタルカメラで調書等を1枚ずつ接写したりしながら,同日午後6時頃まで作業を行い,その後,京都市内の飲食店で原告と会食したが,その際,供述調書等を撮影したこと等を原告に告げなかった。 (イ)原告は,同月6日,A家庭裁判所において,裁判官らに鑑定内容を口頭で説明した後,本件筆者等が宿泊していた京都市内のホテルに行き,同ホテル客室内で本件筆者等と面会した。その際,原告は,本件筆者等 に心理検査に関する書面等を示し,そのコピーの許諾を求められるとその場で了承し,当該書面等を渡してコピーさせた。 (ウ)原告は,その後,本件少年に関する精神鑑定書を完成させてA家庭裁判所に提出し,同月15日,京都市内のホテルの飲食店において,上記鑑定書のデータをプ し,当該書面等を渡してコピーさせた。 (ウ)原告は,その後,本件少年に関する精神鑑定書を完成させてA家庭裁判所に提出し,同月15日,京都市内のホテルの飲食店において,上記鑑定書のデータをプリントアウトしたものを本件筆者に交付した。 ウ週刊誌及び月刊誌への記事の掲載等(ア)本件筆者は,平成18年9月以降,取材を続けるとともに週刊誌及び月刊誌の記事の原稿を執筆し,同年10月21日頃には,原告に原稿を送付して意見を求めるなどし,原告は,同日頃,送られてきた原稿の内容を確認し,気付いた点を本件筆者に伝えるなどした。 (イ)同月23日,本件筆者が執筆した本件保護事件に関する「b」と題する6頁の記事を掲載した週刊誌が発売された。 (ウ)A家庭裁判所は,同月26日,本件保護事件につき,本件少年を中等少年院に送致する決定をした。 (エ)同月30日,本件筆者が執筆した本件保護事件に関する「c」と題する5頁の記事を掲載した週刊誌が発売され,さらに,同年11月1日,同じく本件筆者が執筆した本件保護事件に関する「d」と題する11頁の記事を掲載した月刊誌が発売された。 (オ)本件少年の実父は,上記週刊誌の記事を見て,その対応を弁護士に相談した。同弁護士は,上記(エ)の週刊誌の記事が供述調書を要約した詳細な内容であり,原告から情報が漏れているのではないかと考えたが,法的措置を取る必要はないと考えてその旨を本件少年の実父に伝えた。 エ本件書籍の出版等(ア)本件筆者は,平成19年1月頃から,出版社と共に,本件少年に関する書籍の出版の準備を始め,同年5月21日,同出版社から,本件書籍を出版した。本件書籍のカバー等には,本件筆者等が原告の自宅におい てデジタルカメラで撮影した画像の中にも存在 本件少年に関する書籍の出版の準備を始め,同年5月21日,同出版社から,本件書籍を出版した。本件書籍のカバー等には,本件筆者等が原告の自宅におい てデジタルカメラで撮影した画像の中にも存在する本件少年が手書きした非行までの時系列表がほぼそのままの形で印刷され,帯には「3000枚の捜査資料に綴られた哀しき少年の肉声を公開!」と記載されている上,本文中には,本件少年やその実父等の供述調書等の内容が多数引用されていた。 (イ)原告は,本件書籍の出版準備について知らず,本件筆者等から具体的な話も聞いていなかったところ,同月10日頃,本件筆者から本件書籍を持参する旨の連絡を受け,同月20日,京都市内の飲食店において,本件筆者等から本件書籍を受け取った。 (ウ)本件少年の実父は,本件書籍を見て許せないと考え,同月22日頃,弁護士に法的措置を依頼し,同弁護士等と相談の上,自ら及び本件少年法定代理人親権者として,同弁護士等に対し,本件保護事件に係る供述調書等の漏示に関与した原告及び本件筆者等に対する秘密漏示罪等による刑事告訴手続を委任した。なお,同弁護士は,本件少年の実父に対し,本件少年に告訴に関する説明をするよう求めるとともに,自らも収容先の少年院で本件少年に面会し,告訴に関する説明をした。 (エ)上記(ウ)の弁護士等は,同年6月21日,本件少年及びその実父の代理人として,F地方検察庁検察官に対し,被告訴人を原告,本件筆者等とする本件行為に係る告訴を行った。 (オ)D法務局長は,本件少年の実父から本件書籍の内容が本件少年及びその家族のプライバシーを侵害するとの人権侵犯による被害の申告があったとして,同年7月12日,本件筆者及び出版社に対し,本件書籍の出版が本件少年のプライバシー等を侵害する人権侵犯に当たると認定し,被害回復等 プライバシーを侵害するとの人権侵犯による被害の申告があったとして,同年7月12日,本件筆者及び出版社に対し,本件書籍の出版が本件少年のプライバシー等を侵害する人権侵犯に当たると認定し,被害回復等を求める旨の勧告を行った。 (カ)F地方検察庁は,上記(エ)の告訴を受け,同年9月14日以降,原告の自宅等の関係箇所に対する捜索差押えを行い,同年10月14日に は,原告を逮捕し,同年11月2日,原告を本件行為によりB地方裁判所に起訴した。 (3)検討ア前記前提となる事実及び認定事実によれば,原告は,本件保護事件について,医師としての知識,経験に基づく,診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を家庭裁判所から命じられ,当該鑑定を行う過程で知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らしたものというべきところ,このような行為は,患者等の秘密に接することによって初めて成り立つ医療行為等の業務を行う医師に要求される,基本的な職業倫理に反するものといわざるを得ない。 そして,本件行為によって漏らされた秘密は,本件少年の生育歴その他家庭の事情,心理検査や鑑定の結果など,いずれも本件少年やその家族のプライバシーに深くかかわるものであり,本件保護事件に係る手続の外で明らかにされることは予定されていないというべきであるから,本件行為は本件少年等のプライバシーを著しく侵害するものということができるのであって,鑑定のために借り受けていた供述調書等の全部をコピー等が可能な状況で自由に閲覧させ,鑑定書の写しを交付するなどした行為態様に照らしても,本件行為の違法性は大きいというべきである。 しかも,本件行為は,本件保護事件に係る少年審判の手続の進行中に行われ,その結果,家庭裁判所が保護処分をする前に本件少年に関する記事が週刊誌に掲載されているのであって,少年審判 というべきである。 しかも,本件行為は,本件保護事件に係る少年審判の手続の進行中に行われ,その結果,家庭裁判所が保護処分をする前に本件少年に関する記事が週刊誌に掲載されているのであって,少年審判の非公開性(少年法22条2項)の趣旨を害し,本件保護事件に係る少年審判の運営にも悪影響を及ぼす危険があったものということができる(なお,原告は,少年審判に影響が及ばないよう,週刊誌等への掲載は審判結果が出た後になるよう出版社と合意していた旨を供述するが(原告本人),仮にそのような事情があったとしても,現に保護処分がされる前に当該記事が週刊誌に掲載されたことは上記のとおりであり,いずれにしても,少年審判の手続の進行中 に行われた本件行為が上記のような危険性を有することは,否定し得ないというべきである。)。 イこの点,原告は,マスコミの報道によって本件少年が殺人者であるとの誤った認識が定着し,本件少年の将来が台無しになることを危惧し,真実を社会に報道してもらうために本件行為に及んだものであり,本件行為は,本件少年の利益にかない,正当な理由に基づくものであると主張する。しかしながら,仮に,原告が本件行為を行うについて上記のような動機,目的を有していたとしても,原告は,本件保護事件について家庭裁判所が選任した鑑定人として,中立的な立場から誠実に鑑定を行う義務を負っており,何が本件少年の利益にかなうかについて最終的な責任を持って判断し得る立場にはなかったのであるから,本件少年の親権者である実父や,本件保護事件に係る少年審判の付添人の意思等を顧慮することなく,本件行為が少年の利益にかなうと即断すること自体,独善的であるというほかないし,既に判示したところに照らすと,客観的にも,本件行為が本件少年の利益にかなうものであったということはできな ることなく,本件行為が少年の利益にかなうと即断すること自体,独善的であるというほかないし,既に判示したところに照らすと,客観的にも,本件行為が本件少年の利益にかなうものであったということはできない。そうすると,本件行為が正当な理由に基づくものであるとは認められず,その動機,目的に酌むべきものがあるということもできない。よって,原告の上記主張は採用することができない。 また,原告は,政府関係者も,これまで,死刑囚に係る鑑定書を出版したり,鑑定の際の録音テープをテレビ放送に供したりするような露骨な秘密漏示行為を問題としていないことからすれば,医師である鑑定人による秘密漏示行為を悪質とは評価していないと考えるほかないと主張する。しかしながら,本件処分は,原告が秘密漏示罪により刑事罰を受けたことを理由とするものであるところ,原告の指摘する事例において,当該鑑定人が刑事罰を受けたと認めるに足りる証拠はないこと等からすれば,これらの事例について医業停止等の処分がされていないとしても,直ちに当該行 為が悪質でないと評価されたものということはできない。また,秘密漏示罪が親告罪であること(刑法135条)等からすれば,上記各事例において医師である鑑定人につき捜査や起訴等がされていないとしても,そのことから,直ちに当該行為が悪質でないということもできない。そして,医師による秘密漏示行為が,医師に要求される基本的な職業倫理に反するものというべきことは上記のとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない(なお,原告は,元裁判官が刑事事件の合議の秘密を漏らす行為や医師が患者の覚せい剤乱用を警察に通報する行為も特に問題とされていないから,本件行為についても悪質であるということはできないとも主張するが,前者のような行為と秘密漏示罪に の合議の秘密を漏らす行為や医師が患者の覚せい剤乱用を警察に通報する行為も特に問題とされていないから,本件行為についても悪質であるということはできないとも主張するが,前者のような行為と秘密漏示罪に該当する行為とを同日に論ずることはできないし,後者については,一定の事案において秘密の漏示が正当化される余地があるとしても,そのことから医師による秘密漏示行為一般に悪質性がないといえるものでないことは明らかというべきである。)。 さらに,原告は,本件行為が刑事事件に発展した理由は本件書籍が出版されたことにあるところ,本件書籍は,本件筆者が,本件少年の供述調書等を閲覧した際に,コピーはしないとの約束を破り,原告に無断で当該調書等を写真撮影した上,そのことを原告に秘したまま執筆したものであるから,悪質なのは本件筆者及び出版社の行為であり,本件行為自体ではないと主張する。この点,前記認定のとおり,原告は本件筆者等に対して供述調書等のコピーを許したことはなく,本件筆者等もコピーはしない旨を原告に伝えていた上,本件筆者等は本件書籍の出版について原告に具体的に伝えていなかったのであるから,原告において,本件筆者等がコピーを作成することはないと信頼したことには相応の理由があり,かつ,本件書籍の具体的な内容については事前に関知していなかったものということができる。しかしながら,原告は,前記認定のとおり,本件筆者等に対し, 鑑定のために借り受けていた記録全部をコピー等が可能な状況で自由に閲覧させた上,心理検査に関する書面等を閲覧謄写させ,鑑定書の写しを交付しているのであって,このような行為自体,供述調書や鑑定書等の内容がそのままの形で社会に拡散する高度の危険性を有するものということができる。そうすると,上記のような点を考慮しても,本件書籍 しを交付しているのであって,このような行為自体,供述調書や鑑定書等の内容がそのままの形で社会に拡散する高度の危険性を有するものということができる。そうすると,上記のような点を考慮しても,本件書籍の出版について,原告に責任がないということはできない(なお,原告は,行為の悪質性は行為時を基準に判断すべきものであり,事後的な事情を考慮すべきではないと主張するが,行為の違法性の程度等を評価する上で,当該行為によって事後に生じた結果等を考慮し得ることは当然というべきである。)。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ以上のとおり,刑事罰の対象となった本件行為は,医師の基本的な職業倫理に反する行為であり,本件少年等のプライバシーを著しく侵害する上,少年審判の運営に悪影響を及ぼす危険を生じさせるものである。そして,原告が本件行為に及んだ動機,目的に酌むべき点があるとはいえず,原告が,現時点においても自己の行為を正当なものと考えており,今後も同様の行為に及ぶ可能性を否定していないこと(原告本人)等をも考慮すれば,仮に,原告が多数の発達障害の患者を診察するなどしていること,寛大な処分を求める多くの嘆願書等が提出されていること等の事情があるとしても,本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいうことができない(なお,原告は,厚生労働大臣は医道審議会の答申と異なる内容の処分をしていないから,医業停止等の処分の実質的な決定を行っているのは医道審議会であり,その審議に事実誤認等があれば当該処分は違法となるというべきであるから,医道審議会の審議内容を明らかにする必要があるなどと主張する。しかしながら,法令上,厚生労働大臣が医業停止等の処分をする際に医道審議会の意見に拘束される旨の規定は見当たらない上,証拠(乙13)及び弁論の全趣旨によ 内容を明らかにする必要があるなどと主張する。しかしながら,法令上,厚生労働大臣が医業停止等の処分をする際に医道審議会の意見に拘束される旨の規定は見当たらない上,証拠(乙13)及び弁論の全趣旨によれば,医道審議会医道分科会が厚生 労働大臣に答申するのは,相当と認める行政処分等の内容のみであると認められるから,同分科会の具体的な審議内容が厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用を基礎付けるものということはできない。そして,本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまでは認められないことは上記のとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。)。 エ以上によれば,本件処分が厚生労働大臣に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し,これを濫用したものとは認められない。 2 争点2(医道審議会への意見聴取)について前記前提となる事実のとおり,厚生労働大臣は,平成24年11月14日付けで,原告について医道審議会医道分科会に諮問をし,同分科会は,同日,厚生労働大臣に対し,「医業停止1年」の処分が相当である旨の答申をしているところ,証拠(乙18,20)及び弁論の全趣旨によれば,上記分科会については,事前に各委員に対する関係資料(医師・歯科医師行政処分調書)の配布等が行われ,当日は,事務局から原告に係る事案の概要等の説明がされた後,複数の発言があり,その後,分科会長が原告に対する処分についての答申案を提示して,これを承認する議決がされたことが認められる。 そうすると,本件処分については,医道審議会医道分科会において実質的な審議を行った上で厚生労働大臣に対する答申を行ったということができ,厚生労働大臣は,所定の医道審議会の意見を聴いたものと認められる。 3 結論以上のとおりであって,本件処分が違法であるとは認められない。よって,原 臣に対する答申を行ったということができ,厚生労働大臣は,所定の医道審議会の意見を聴いたものと認められる。 主文 結論以上のとおりであって,本件処分が違法であるとは認められない。よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西田隆裕 裁判官山本拓 裁判官佐藤しほり
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