主文 被告人を懲役10月に処する。 この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,道路運送法による自動車運送事業等を営むA鉄道株式会社(以下「A鉄道」という。)のB自動車営業所(以下「B営業所」という。)においてバスの運転士として勤務していたものである。 ところで,同じくB営業所でバスの運転士として勤務していたCは,平成15年2月19日午後7時35分ころ,愛知県岡崎市a丁目b番地c先国道248号線路上において,公安委員会の運転免許が失効し,いわゆる無免許であるのに,定期路線バスである大型乗用自動車(以下「本件バス」という。)を運転していたところ,普通乗用自動車に追突されるという交通事故に遭遇した。 そして,同日,B営業所の運行主任として勤務していた分離前の相被告人D,営業主任として勤務していた同E及び総務主任として勤務していた同Fの3名は,前記交通事故に関し,警察官が捜査に乗り出していることを知ると,Cが無免許であり,罰金刑以上の刑に当たる道路交通法違反の罪を犯した者であることを認識しながら,その処罰を免れさせる目的で,警察官に対し,被告人が本件バスを運転していたと装うことを企て,被告人にCの身代わりとなり,本件バスの運転をしていたと名乗るように頼み,その了解を得た。 (罪となるべき事実)かくして,被告人は,Cが無免許運転の犯人であることを知りながら,前記D,E及びFと共謀の上,平成15年2月19日午後9時40分ころ,愛知県岡崎市d町e番地所在のB営業所において,本件バスの実況見分のため訪れた愛知県G警察署警察官H及びIに対し,被告人が,Cの身代わりとして本件バスを運転していた者であると名乗り出た上,「ギアが抜けたショックだと思い,ぶつかったとは思いませんでした。」などと虚偽 ため訪れた愛知県G警察署警察官H及びIに対し,被告人が,Cの身代わりとして本件バスを運転していた者であると名乗り出た上,「ギアが抜けたショックだと思い,ぶつかったとは思いませんでした。」などと虚偽の供述をし,さらに,同月20日午前10時ころ,同市f町g番地h所在の同警察署において,前記Iに対し,「今回私が交通事故に遭いました」,「そのとき私は運転席」などと虚偽の供述をし,犯人であるCを隠避させた。 (法令の適用)罰条刑法60条,103条刑種の選択懲役刑執行猶予同法25条1項(量刑の理由)本件は,A鉄道のバス運転手である被告人が上司の共犯者らと共謀し,バスを無免許で運転していた際に交通事故に遭遇した同僚の身代わりとなり,警察官に対し,自らが運転をしていたなどと虚偽の供述をした犯人隠避の事案である。 被告人は,身代わりを立てることを考えた上司の共犯者3名から頼まれるままに本件犯行に及んだものである。しかし,たとえ上司の依頼ないし命令で,同僚である犯人庇護のためとはいえ,明らかに違法な行為を承諾し,身代わりとして名乗り出るという重要な役割を果たしたことは,無思慮かつ法を軽視したものとして厳しい非難を免れない。そして,本件犯行により刑事司法作用を阻害し,捜査官による前記無免許運転の発見を遅れさせるという重大な結果が生じている。本件は,公共的な旅客輸送会社の従業員による犯人隠避事件として大きく報道され,地域社会に与えた影響も軽視できない。以上によれば,被告人の刑事責任を軽微なものとみることはできない。 しかしながら,本件犯行は,前示のとおり,上司でもある共犯者らの主導によるものであって,被告人が上司の依頼ないし命令を断ることは,困難な一面のあることは否定し難い上,被告人は,本件犯行前,共犯者らから呼ばれると,直ちにその ,前示のとおり,上司でもある共犯者らの主導によるものであって,被告人が上司の依頼ないし命令を断ることは,困難な一面のあることは否定し難い上,被告人は,本件犯行前,共犯者らから呼ばれると,直ちにその場で加担を求められて,決断を強いられたため,他の上司や同僚らと十分に相談したり,熟慮する時間や余裕もなかったことなど,その動機や経緯に同情すべき点も認められる。また,被告人は,本件犯行を素直に認め,反省の態度を示していること,前科がなく,今までまじめな社会人として生活してきたことが認められ,A鉄道から譴責処分を受けているほか,新聞等によって広く報道され,社会的な制裁も受けているところである。 そこで,これらの諸事情のほか,その家族の状況など被告人に酌むべき諸事情を十分に考慮すると,被告人に対しては,主文の刑を科することにするが,今回に限り,その刑の執行を猶予するのが相当である。 (求刑懲役1年)平成15年10月8日名古屋地方裁判所岡崎支部 裁判長裁判官堀毅彦裁判官井上秀雄裁判官大野晃宏
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