平成16年5月28日判決言渡平成13年(ワ)第2787号損害賠償請求事件 主文 1 被告らは,引受参加人に対し,連帯して2億9800万円並びにこれに対する被告A及び被告Cは平成13年12月13日から,被告Bは同月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 3 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,原告(脱退)朝銀千葉信用組合(以下「朝銀千葉」という。)の理事であった被告らが,融資決裁にあたって,理事としての任務に違反し,朝銀千葉に損害を与えたとして,朝銀千葉から,中小企業等協同組合法(以下「中企法」という。)3 8条の2第1項による損害賠償請求権の譲渡を受けた引受参加人が,被告らに対し,損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 1 前提事実(各項目の末尾に証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,明らかに争わない事実である。)(1) 当事者等ア朝銀千葉は,昭和35年12月15日,中企法に基づき,設立された信用協同組合であり,現在清算中である。朝銀千葉は,平成13年12月3日,本件訴訟を提起したが,平成15年3月7日の本件第6回弁論準備手続期日において,本件訴訟から脱退した。 イ引受参加人は,朝銀千葉から,本件訴訟の目的である朝銀千葉の被告らに対する損害賠償請求債権を譲り受けた株式会社である。 ウ(ア) 被告Aは,平成4年6月から平成11年5月21日まで,朝銀千葉の理事長の職にあった者である(乙22)。 (イ) 被告Bは,平成2年4月から平成5年11月まで,朝銀千葉の融 (ア) 被告Aは,平成4年6月から平成11年5月21日まで,朝銀千葉の理事長の職にあった者である(乙22)。 (イ) 被告Bは,平成2年4月から平成5年11月まで,朝銀千葉の融資担当副理事長の職にあった者である(乙2 4)。 (ウ) 被告Cは,平成4年6月から平成8年4月まで,朝銀千葉の副理事長兼業務部長の職にあった者である(乙2 3)。 エ Dは,平成4年3月から平成11年7月までの間,千葉県八千代市内でパチンコ店を経営する三和商事株式会社(以下 「三和商事」という。)の代表取締役(雇われ社長),かつ,在日本朝鮮人総連合会(以下「朝鮮総連」という。)千葉県本部財政部長の職にあった者である(甲8,9,乙5の6,弁論の全趣旨)。 (2) 朝銀千葉のDに対する本件貸付等ア被告らは,平成5年3月10日,次の貸出(以下「本件貸付」という。)に関する稟議書(甲1。以下「本件稟議書」という。)に決裁印を押して,本件貸付実行の承認を与えた。 債務者 D実行予定日平成5年3月10日申込額 3億円最終返済期限平成5年9月10日貸出科目手形貸付貸出利率年7.5パーセント返済財源他行借入れ資金使途遊技業における土地購入の為の内金連帯保証人記載なし担保 「不動産を担保として設定いたします」とのみ記載イ E及び関東興業株式会社(以下「関東興業」という。)は,平成5年3月10日,朝銀千葉に対し,朝銀千葉とD間の一切の取引によってDの朝銀千葉に対し現在及び将来負担する一切の債務について連帯保証するとともに,Eは,同日,本件貸付について連帯保証した(甲1 10日,朝銀千葉に対し,朝銀千葉とD間の一切の取引によってDの朝銀千葉に対し現在及び将来負担する一切の債務について連帯保証するとともに,Eは,同日,本件貸付について連帯保証した(甲14,15)。 Eは,当時,朝鮮総連中央機構の財政局長の職にあった。 ウ朝銀千葉は,同日,被告らの本件稟議書の承認に基づき,振出人D,連帯保証人Eの額面3億円の約束手形を受け入れ, 朝銀千葉にあるD名義普通預金口座に,貸付元金3億円から初回利息等197万5158円を天引きした2億9802万4 842円を振替入金した。 エ D名義の前記普通預金口座には,同日,別途197万5158円が現金で入金されており,さらに同日,前記口座から, 3億円が現金で出金されている(甲39)。 オ朝銀千葉は,関東興業との間で,本件貸付の物的担保として,関東興業の所有する別紙物件目録記載1及び2の土地(以下「本件担保土地」という。)及び別紙物件目録記載3ないし5の建物(以下,「本件担保建物」といい,本件担保土地と本件担保建物を併せて「本件担保物件」という。)について極度額を3億円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定するとの合意をし,平成5年3月18日,その旨の仮登記を経由した。 なお,本件担保物件には,本件根抵当権の先順位根抵当権(極度額合計9億5000万円)が設定登記済みであった。 カ朝銀千葉は,平成14年12月24日の本件担保物件の任意売却にあたり,抵当権抹消代として受領した200万円を本件貸付債権の元金に弁済充当したため,本件貸付債権の残元金は2億9800万円となった(弁論の全趣旨)。 キ現在においても,本件貸付の残元金の弁済はなされておらず,朝銀千葉に損害が生じている。なお 債権の元金に弁済充当したため,本件貸付債権の残元金は2億9800万円となった(弁論の全趣旨)。 キ現在においても,本件貸付の残元金の弁済はなされておらず,朝銀千葉に損害が生じている。なお,Dは平成12年6 月26日に死亡し,その相続人には本件貸付金の弁済能力はない。また,本件貸付の連帯保証人であるEは,平成11年5 月28日に東京手形交換所において銀行取引停止処分を受けた。 (甲10,弁論の全趣旨)(3) 朝銀千葉から引受参加人に対する債権譲渡朝銀千葉は,平成14年12月29日,引受参加人に対し,本件訴訟の目的である朝銀千葉の被告らに対する損害賠償請求債権を譲渡し,その旨の通知(同日付け)を,平成15年1月16日,被告らに発送し,前記通知は同月17日,被告らに到達した。 (4) 訴状送達の日の翌日は,被告A及び被告Cについては平成13年12月13日,被告Bについては同月14日である(記録上明らかである。)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張被告らは朝銀千葉に対する善管注意義務及び忠実義務(以下「善管注意義務等」という。)に違反したか。 (1) 信用協同組合の理事の善管注意義務等違反の判断基準(経営判断の原則の適用の有無)(被告ら)企業の経営に関する判断は,不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象とした専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的判断であるから,その裁量の幅はおのずと広いものとなり,取締役の経営判断が結果的に会社に損害をもたらしたとしても,それだけで取締役が必要な注意を怠ったと断定することはできない。この経営判断の原則は,特に営利を目的とする会社に適用されるものであるが,朝銀千葉においても理事らがその経営を委ねられている以上,このような経営判断にも適用され を怠ったと断定することはできない。この経営判断の原則は,特に営利を目的とする会社に適用されるものであるが,朝銀千葉においても理事らがその経営を委ねられている以上,このような経営判断にも適用されると解される。そして,これは,事後的判断ではなく,当該行為(本件貸付判断時すなわち稟議時)を基準時とすべきである。 被告らは,朝銀千葉の設立目的が「在日朝鮮人等の経済的地位向上」にあったこと,朝銀千葉の顧客の大多数が朝鮮総連に所属していること,Dが朝鮮総連千葉県本部財政部長の要職にあったこと,関東興業の代表取締役であるFもEもともに朝鮮総連中央機構の要職にあったこと,Dの新取得不動産に担保設定が予定されていたことなどから,本件貸付を拒絶すれば,他の顧客に対する営業に支障を来すおそれなどがあり,このような経営判断の見地から本件貸付を実行したものである。 (引受参加人)一般に経営判断の原則の適用場面としては,メーカーや商社等の事業会社の経営者が想定されており,その公共性からより慎重な経営を行う義務を負っている金融機関の理事には適用されない。仮に適用されるとしても,その裁量は通常の企業より狭く限定されるべきである。 また,経営判断の原則は将来の業況評価を誤って損害を与えた場合にのみ妥当するものであり,各種判断資料の最低限の事実確認すら行われていない本件においては経営判断の原則が適用される余地がない。 (2) 被告らは本件貸付につき必要な調査・審査を怠ったか。 (引受参加人)被告らは,以下のとおり,融資時に必要な調査・審査を怠ったものである。 ア被告らの購入予定地の調査は不十分であった。 イ(ア) 本件貸付と当初貸付日・貸付金額・返済条件・返済方法・利率が同一で,期間延長の仕方も全く同一で,期限延長稟議 である。 ア被告らの購入予定地の調査は不十分であった。 イ(ア) 本件貸付と当初貸付日・貸付金額・返済条件・返済方法・利率が同一で,期間延長の仕方も全く同一で,期限延長稟議書の「案件」欄・「支店意見」欄・「本部意見」欄の記載がほぼ同一である朝鮮特産物販売株式会社に対する融資( 以下「別件貸付」という。)と本件貸付との共通点,本件貸付金も別件貸付金も融資実行当日に全額現金で払い出されていること,両融資実行日の2日前である平成5年3月8日に朝銀千葉は全国信用協同組合連合会(以下「全信組連」 という。)に対して予め手形借入れの形で現金6億円を調達しており,両融資金が融資実行当日に現金で出金されることを被告らは予め了知していたものであることなどからすれば,被告Aにおいて,平成5年3月10日に,本件貸付と別件貸付の同時実行により現金6億円を準備せざるをえない何らかの特殊事情が働いたことを推測させる。本件稟議書に購入対象地の記載がない点や本来あるべきパチンコ店事業計画書の添付がないのもこのような事情によるものではないかと推測される。したがって,パチンコ店用地購入話は架空のもので,最初から別の資金使途があった疑いがある。 (イ) 被告らは,本件貸付にあたり,購入予定であるパチンコ店「シャレー」(以下「シャレー」という。)の土地(別紙物件目録記載6の土地。以下「シャレーの土地」という。)及び建物の売主である株式会社三川商事(以下「三川商事」という。)に対して,Dへの売却意思を確認しておらず,また,売買契約書により売買金額・手付金額・残金決済方法・移転登記時期を確認することもしなかった。さらに,被告Aは,本件貸付金が予定どおり う。)に対して,Dへの売却意思を確認しておらず,また,売買契約書により売買金額・手付金額・残金決済方法・移転登記時期を確認することもしなかった。さらに,被告Aは,本件貸付金が予定どおり使われなかったり,D と三川商事との間の売買契約が不成立となったことが判明するに至っても,即座の返済要求を怠った。 ウ被告らは,つなぎ融資の借換予定金融機関が特定されないまま,すなわち,「他行よりの借入により返済」の実現可能性が曖昧なままで本件貸付を実行した。「他行よりの借入により返済」の確約がとれない状況であれば,被告らには 「他行よりの借入により返済」は実現されないことを前提にして,独自に本件貸付金の返済方法を審査すべき義務があるところ,シャレーの売上げ予想や収益性の検討は全くなされていない。 エ本件担保物件の実際の時価の総額は3億7016万円程度であったとみられる。仮に被告らの時価評価を前提とした場合であっても,朝銀千葉の融資審査規程上は担保価格は時価の7割とするのが原則であるから,せいぜい8億400 0万円程度と評価するべきであった。したがって,被告らの主張を前提としても,本件担保物件には,すでに極度額合計9億5000万円の先順位根抵当権が設定されていたのであるから,本件貸付金3億円について担保不足であったことは明らかである。 また,本件貸付金実行と同時に本件購入物件であるシャレーの土地・建物上に朝銀千葉の抵当権が設定登記されていないばかりか,入担予定を確保するための何らの手段・方法も講じられておらず,シャレーの土地に抵当権を設定する予定があったとはいえない。 さらに,本件貸付当時,購入予定地とされてい いばかりか,入担予定を確保するための何らの手段・方法も講じられておらず,シャレーの土地に抵当権を設定する予定があったとはいえない。 さらに,本件貸付当時,購入予定地とされているシャレーの土地には総額で12億4000万円もの担保権が設定されていたから,被告らには,この担保権の処理について,売主たる三川商事あるいは担保権者たる木更津信用金庫等に対して,担保権解除の時期や方法につき確認しておく義務があったはずであるが,被告らは三川商事や木更津信用金庫に確認しておらず,Dに対してすら何らの確認もしていない。 オ本件貸付時において,被告らが,連帯保証人であるE及び関東興業について,確定申告書,所有資産明細,直近の決算書等から保証能力を検討した形跡が全くない。Eの年収を裏付ける何らの客観資料もない。仮にEの年収が約100 0万円であるという事実が真実であったとしても,本件貸付金3億円の保証能力を有することの根拠とはならず,むしろ同人の年収から税金・生活費等を控除した手取りベースでは保証能力がなかったといえる。 (被告ら)被告らは必要な調査・審査を怠っていないものである。 ア購入予定候補地として小岩と木更津市のパチンコ店が挙がっていた。被告Aは,本件貸付に先立ち,実際に,候補地として木更津市のシャレーや小岩所在のパチンコ店を見分したり,朝銀千葉木更津支店長に電話をして時価を聞いたりした。 イ(ア) 別件貸付は本件貸付と全く関連のない問題であり,引受参加人主張の特殊事情などは何ら存しない。 (イ) 被告Aは,本件貸付実行の数日前に三川商事の代表取締役であるGに電話をかけ,Dに対するシャレーの土地の売却意思を確認した。また,被告らが本件 人主張の特殊事情などは何ら存しない。 (イ) 被告Aは,本件貸付実行の数日前に三川商事の代表取締役であるGに電話をかけ,Dに対するシャレーの土地の売却意思を確認した。また,被告らが本件貸付にあたって行った稟議は内金の申請の稟議であり,売買契約の締結前の稟議であるから,当然売買契約書は存在していなかった。 ウ本件稟議書には「他行よりの借入により返済」とあり,本件貸付がいわゆるつなぎ融資であることは明らかであった。Dの説明によれば,「他行」とはオリックスまたは日債銀とのことであった。朝銀千葉はこのような「他行」その他の各種ノンバンクと各種取引関係があり,本件貸付においては,朝銀千葉からの紹介の手立てもあったので,特に問題とすべき事柄ではなかった。また,シャレーを手放す動機は収益性の悪化ではなかったから,収益性は問題視する必要はない。もっとも,収益性については被告Aが現地で調査をしている。 エ平成元年に購入した朝銀千葉船橋支店店舗用地と本件担保物件とを平成5年度路線価で対比すれば,本件担保物件の担保価値は12億2637万1265円となる。これは,本件貸付当時,本件担保物件を坪当たり約300万円と評価したとの被告 Aの記憶とも合致する。そうであれば,先順位根抵当権の極度額合計金9億5000万円を控除しても,2億7637万円の余剰があり,また,平成5年度は地価水準の下げ止まりとの予測もあったことから,妥当な範囲内の経営判断に基づき,本件貸付を実行したものといえる。なお,担保価格は時価の7割とするというのは原則にすぎず,厳格な羈束性を有するものではなく,本件貸付は,6か月間の極めて短期の融資であり,土地の変動リスクもその期間面から見て少ないものであった。 また,被告らとしては,シャレ うのは原則にすぎず,厳格な羈束性を有するものではなく,本件貸付は,6か月間の極めて短期の融資であり,土地の変動リスクもその期間面から見て少ないものであった。 また,被告らとしては,シャレーの土地に対しても担保権を設定する予定であった。 オ本件貸付当時,理事長である被告Aの年収は約1200万円であり,朝鮮総連の中央幹部である連帯保証人Eの年収は被告Aと同程度以上であることは明らかであった。 カ本件では理事長である被告Aが他の職員に任せることなく,自ら率先して調査等に当たった。普段,書類の作成という一般事務に慣れない理事長が調査等をしたため,本件稟議書に不備が生じたに過ぎない。 第3 当裁判所の判断 1 前記第2の1の事実,証拠(甲1ないし8,10,11,14ないし18,25,28,41,乙5の6,9,22ないし24,被告A本人,被告C本人,被告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 朝銀千葉の融資審査規程ア審査は,支店審査,本部審査,審査委員会の3段階とする。 イ審査委員会は,貸出審査業務の最終決定機関であり,構成員の合議によりその可否を決定する。 ウ審査委員会は,理事長,副理事長,融資担当部長,業務推進部長,総務部長をもって構成する。 エ審査委員会の議長は,理事長がこれに当たり,理事長が参加できない場合は担当副理事長が代行する。 オ貸出審査は,申込書類及び具体的調査資料と調査意見を基礎として総合的に検討を行い,主観や偏見を排除し,既取引実績等を十分に考慮し公正的確に行わなければならない。 カ与信額2億円以上の貸出は審査委員会提出案件とする。 キ審査委員会の貸出承認は参加委員による全員一致を原則 ,既取引実績等を十分に考慮し公正的確に行わなければならない。 カ与信額2億円以上の貸出は審査委員会提出案件とする。 キ審査委員会の貸出承認は参加委員による全員一致を原則とする。審査結果については委員全員の責任として欠席した委員もその責任を免れることはできない。 ク債務者に対する調査事項・本人の家庭の状況,人格,経営能力,経歴,業歴,世評,法律行為能力,交際対象・資産,信用状態,営業状況・朝銀千葉との取引状況・申込金額・資金使途と返済期限・返済能力及び資金繰りの状況・法人の場合は,定款,登記事項,代表者の資格,役員等の資産,信用状況,労使関係,事業の設備,最近の財務諸表の分析と検討(決算書,試算表,諸帳簿,その他資料)ケ保証人に対する調査事項・家庭の状況,人格,経歴,経営能力,業歴,世評,法律行為能力・資産,信用状態,営業状態・保証能力及びその他の債務または保証の有無・債務者との関係・保証人は2人を原則とし,必ず保証意思の確認を行い,確認者が明記する。 コ担保の調査不動産の調査は,公簿調査,実地調査,制限調査等を綿密に行い,その価格は(根)抵当権の存続期間中,その債権を保全し得る価格でなければならない。 その評価にあたっては一時的または特殊事情による価格に捉われることなく,将来永続すべき公正な価格を決定しなければならない。 担保評価は次の方法と基準を参酌し決定する。 ・土地は公示評価・所有権の内容・形態・法的拘束関係・制限事項 続すべき公正な価格を決定しなければならない。 担保評価は次の方法と基準を参酌し決定する。 ・土地は公示評価・所有権の内容・形態・法的拘束関係・制限事項・売買実例法・収益還元法・復成価格法・固定資産税評価額・相続税財産評価基準担保価格は,担保評価額(時価)の70%以下,山林,遠隔地の場合は60%以下を基準とする。 (2) 本件貸付に至る経緯ア Dは,平成5年3月初めころ,申込人をD,申込金額を3億円,借入希望日を平成5年3月10日,返済予定日を平成5 年9月10日,資金使途を設備,返済財源を他行借入よりとする本件貸付の借入申込書(以下「本件借入申込書」という。)を作成し,これを朝銀千葉に提出した。本件借入申込書の連帯保証人欄は空欄となっている。 イ本件貸付について,平成5年3月7日ころ,朝銀千葉の審査委員会が開催され(以下「本件審査委員会」という。),被告らはこれに出席した。本件貸付は理事長である被告Aの直接案件であり,本件審査委員会においても,被告Aから口頭で本件貸付についての説明がなされたが,その際,資金使途についての客観的資料はなかった。朝銀千葉における本件貸付の最終決裁権者であった被告らは,稟議手続を経た後,本件借入申込書と同一の用紙となっており,貸出科目として手形貸付,貸出利率として7.50パーセント,預金取引状況として貯蓄預金・前月平残0・残高0,支店意見として「遊技場に於ける土地購入の為の内金の申請」「他行よりの借入により返済」「不動産を担保として設定いたします」と記載された本件貸付の貸出稟議書(本件稟議書)に押印して承認決裁した。本件稟議 遊技場に於ける土地購入の為の内金の申請」「他行よりの借入により返済」「不動産を担保として設定いたします」と記載された本件貸付の貸出稟議書(本件稟議書)に押印して承認決裁した。本件稟議書の預金担保欄及び担保欄は空欄となっており,また,支店意見欄には,土地購入予定のパチンコ店及び担保として設定する不動産の具体的な名称の記載はない。 ウ朝銀千葉は,平成5年3月10日,被告らの本件稟議書の承認に基づき,振出人D,連帯保証人Eの額面3億円の約束手形を受け入れ,朝銀千葉にあるD名義普通預金口座に,貸付元金3億円から初回利息等197万5158円を天引きした2 億9802万4842円を振替入金した。 エ D名義の前記普通預金口座には,同日,別途197万5158円が現金で入金されており,さらに同日,前記口座から, 3億円が現金で出金されている。なお,被告らは,平成5年3月8日,朝銀千葉の全信組連に対する手形借入れの形による現金6億円の調達の稟議書の決裁をしている。 オ本件貸付については,平成5年3月10日,朝鮮総連中央機構の財政局長の職にあったE及び関東興業が連帯保証人となった。 しかし,当日,Eの印鑑登録証明書や関東興業の資格証明書が不足しており,数日後に追完された。 カ朝銀千葉は,平成5年3月10日,関東興業との間で,本件貸付の物的担保として,関東興業の所有する本件担保物件について極度額3億円の第3順位根抵当権を設定し,同月18日,その旨の仮登記をしたが,本件貸付当時,本件担保物件には,すでに第1順位朝銀大阪信用組合根抵当権極度額3億5000万円が設定登記され,第2順位朝銀福岡信用組合根抵当権極度額6億円が設定仮登記されており,先順位根抵当権の極度額は合計9億5 には,すでに第1順位朝銀大阪信用組合根抵当権極度額3億5000万円が設定登記され,第2順位朝銀福岡信用組合根抵当権極度額6億円が設定仮登記されており,先順位根抵当権の極度額は合計9億5000万円であった。 (3) 本件貸付後の状況等ア三川商事からDへのシャレーの土地・建物の譲渡はなされず,売買契約は成立しなかった。三川商事の代表者であるG は,朝鮮総連千葉県本部の要職にあった者である。 なお,被告Aは,本件貸付前,三川商事に対し,シャレーの土地等をDに売却する意思があるかを確認しなかった。 イ Dは,本件貸付後間もなく,朝銀千葉に無断で,本件貸付金をEに転貸した。 ウ本件貸付については,最終返済期限に弁済がなされず,その後,以下のとおり,最終返済期限延長の稟議が繰り返し決裁されている。 第1回延長後最終期限平成6年9月12日(平成5年12月20日付け稟議書)第2回延長後最終期限平成7年9月11日(平成6年9月22日付け稟議書)第3回延長後最終期限平成8年3月11日(平成7年10月12日付け稟議書)第4回延長後最終期限平成9年3月10日(平成8年3月27日付け稟議書)第5回延長後最終期限平成10年3月10日(平成9年3月27日付け稟議書)第6回延長後最終期限平成11年3月10日(平成10年3月17日付け稟議書)エ現在においても,本件貸付の残元金の弁済はなされていない。Dは平成12年6月26日に死亡し,その相続人には本件貸付金の弁済能力はない。また,本件貸付の連帯保証人であるEは平成11年5月28日に東京手形交換所で銀行取引停止処分を受けた。 オ本件担保土地の平成4年路線価格は1平方メートル当たり35万円,時価は約4億62 また,本件貸付の連帯保証人であるEは平成11年5月28日に東京手形交換所で銀行取引停止処分を受けた。 オ本件担保土地の平成4年路線価格は1平方メートル当たり35万円,時価は約4億6270万円であった。また,本件貸付当時,本件担保建物には担保価値がなかった。 カ融資時である平成5年3月10日の時点において,シャレーの土地には木更津信用金庫を担保権者とする総額12億40 00万円の担保権が設定されていた。 2 被告らの朝銀千葉に対する善管注意義務等違反の有無について(1) 信用協同組合の理事の善管注意義務等違反の判断基準ア理事の責任の根拠中小企業等協同組合の一種である信用協同組合は,相互扶助の精神に基づき中小企業者である組合員によって組織される相互金融の機関であり(中企法1条,3条,8条4項,9条の8),その事業は,組合員の自主的な経済活動の促進及び経済的地位の向上を目的として組合員全体に直接奉仕するものでなければならず,特定の組合員の利益のみを目的として行ってはならないものである。このような信用協同組合の役員である理事は,信用協同組合との間の委任契約に基づき善良なる管理者の注意をもって委任事務を行わなければならず(中企法42条,商法254条3項,民法644条),また,法令,定款及び規約の定め並びに総会の決議を遵守して信用協同組合のために忠実に職務を遂行すべき義務を負い(中企法42条, 商法254条の3),前記義務に違反して信用協同組合に損害を被らせた場合には,その損害について連帯して賠償する責任がある(中企法38条の2第1項)。 イ経営判断の原則の適否ところで,信用協同組合の理事といえども,信用協同組合という中小規模の金融機関の維持運営を, ついて連帯して賠償する責任がある(中企法38条の2第1項)。 イ経営判断の原則の適否ところで,信用協同組合の理事といえども,信用協同組合という中小規模の金融機関の維持運営を,組合員により包括的に委託されている者であるから,経営の専門家である一般企業の取締役と本質的に変わるところはなく,経済情勢に即応し,流動的で多様な諸事情を総合した合目的的かつ政策的な判断が求められているものであって,取締役と同様,理事にも信用協同組合の委任に基づき裁量が認められているというべきである。もっとも,金融機関の経営者は,通常の企業の経営者と比べて,その公共性からより慎重な経営を行う義務を負っているというべきであり,その裁量は通常の企業の経営者より狭く限定されていると解すべきである。 そうすると,理事が善管注意義務等に違反したかどうかは,当該理事の当該行為に係る経営判断につき,その基礎となる事実の認定又は意思決定の過程に金融事業を営む信用協同組合理事としての看過しがたい過誤,欠落があるために,それが理事に付与された裁量権の範囲を逸脱したものとされるかどうかによって判断すべきである。そこで,以上の見地に立って検討する。 (2) 調査・審査の懈怠の有無についてア本件貸付の資金使途について,被告らはDがシャレーの土地を購入する予定であったと主張するが,前記第2の1及び第 3の1の事実のとおり,事前にシャレーの土地の売主である三川商事にDへの売却意思の確認をしておらず,また,売買契約書等の資金使途確認のための客観的資料も入手しておらず,本件審査委員会において売買代金等の確認を行った形跡もないことからすれば,本件貸付の決裁時にはそもそも本件貸付の前提となるべき売買契約の 約書等の資金使途確認のための客観的資料も入手しておらず,本件審査委員会において売買代金等の確認を行った形跡もないことからすれば,本件貸付の決裁時にはそもそも本件貸付の前提となるべき売買契約の成立すら不確定な状況であったといえる。 また,本件貸付は,三和商事の代表取締役に就任後未だ1年も経過しておらず返済能力は未知数であったというべきD個人を債務者とするものであり,その金額も3億円と多額で,返済期間も6か月と短期であったのであるから,本件貸付を決裁するにあたっては回収可能性等について慎重に検討すべきであったにもかかわらず,事前に借換予定金融機関の特定すらしておらず,借換えの実現可能性についても何ら調査をしていないのであるから,他行からの借入れという返済方法の実現可能性が明らかな状況であったとはいえない。加えて,朝銀千葉の融資審査規程に反して,連帯保証人の保証能力について調査は不十分であり,本件担保物件だけでは担保不足であったというべきであるから,本件貸付の決裁時において回収可能性等について慎重に検討がなされたとはいえない。 さらに,本件審査委員会では,客観的な資料もないまま,被告Aの口頭での説明がなされたにすぎなかった。 以上のような状況に加えて,証拠(甲29ないし32)によれば,朝銀千葉に対しては,平成2年度以降平成5年度までの千葉県の朝銀千葉に対する検査報告書において,不動産担保評価及び資金使途確認を厳正に行うべきことが再三指示されていたことが認められることも併せて考慮すると,被告らが,朝銀千葉の理事として,Dが返済期限である6か月後に3億円もの金員を確実に返済する見込みがあるので,本件貸付を行うとの判断をしたとすれば,このような判断は,その基礎 せて考慮すると,被告らが,朝銀千葉の理事として,Dが返済期限である6か月後に3億円もの金員を確実に返済する見込みがあるので,本件貸付を行うとの判断をしたとすれば,このような判断は,その基礎となる事実の認定に信用協同組合理事としての看過しがたい過誤があるといえ,また,以上のように事前調査も十分になされず,決裁の基礎となる客観的な資料も欠いた状況下で決裁しており,被告らの意思決定の過程には,信用協同組合理事としての看過しがたい欠落があるといえるから,裁量の範囲を逸脱したものであって,善管注意義務等に違反するといわなければならない。 イ(ア) 被告らは,最終準備書面において,被告Aが本件貸付実行の数日前に三川商事の代表取締役であるGに電話をかけ,D に対するシャレーの土地等の売却の意思を確認したと主張し,これに沿う証拠(被告A本人,被告C本人,被告B本人) も存在する。 しかしながら,引受参加人は従前から前記の売却意思確認の有無を問題にしていたにもかかわらず,被告らの各陳述書には前記の売却意思確認についての記載はなく,かえって被告ら準備書面では一貫して三川商事に売却意思の確認をしていないと主張していたこと,陳述書に記載がないことについて合理的な説明がなされていないことからすると,Gの売却意思を確認したという被告らの供述は信用できず,かえって,三川商事に売却意思の確認をしていないことが認められるのであって,被告らの前記主張は採用できない。 (イ) また,被告らは,返済方法につき,「オリックス」または「日債銀」からの借入れであると主張するが,オリックス「 または」日債銀という程度であれば,具体的な借入先が特定されていたとはいえない。 (ウ) さらに,被告らは につき,「オリックス」または「日債銀」からの借入れであると主張するが,オリックス「 または」日債銀という程度であれば,具体的な借入先が特定されていたとはいえない。 (ウ) さらに,被告らは,本件貸付の物的担保につき,本件担保物件の担保価値は12億2637万1265円であると主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はないうえ,朝銀千葉の融資審査規程には,「担保価格は担保評価額(時価) の70%以下・・・を基準とする。」とされていることからすれば,10割で評価している被告らが主張する前記担保価値を採用することはできない。 また,被告らは,シャレーの土地にも担保権を設定する予定であった旨主張するが,本件貸付金実行と同時にシャレーの土地上に朝銀千葉の抵当権が設定登記されているわけでもなく,前記抵当権の設定を確保するための何らかの手段・方法が講じられていたとも認められず,弁論の全趣旨によってもシャレーの土地に設定されている12億4000万円の担保権の処理について被告らが検討していたことはうかがわれないから,被告らの前記主張も採用できない。 (エ) また,被告らは,連帯保証人であるEの年収は被告Aと比較して,1200万円以上であることは明らかであったと主張するが,Eの年収や資産状況等を調査した形跡はなく,Eの年収や資産状況を示す客観的資料を入手した事実も認められず,被告らがEの保証能力について十分な調査をなしたとはいえない。 3 以上によれば,被告らの前記善管注意義務等違反により,本件貸付の残元金2億9800万円の回収が不可能になり,これにより朝銀千葉に本件貸付残元金相当額の損害が生じたといえる。 第4 結論よって,引受参加人の請求はいずれも理由があるからこ 反により,本件貸付の残元金2億9800万円の回収が不可能になり,これにより朝銀千葉に本件貸付残元金相当額の損害が生じたといえる。 第4 結論よって,引受参加人の請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第3部裁判長裁判官山口博裁判官島根里織裁判官武田美和子は出張中につき署名押印することができない。 裁判長裁判官山口博(別紙)物件目録省略・
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