令和1(ワ)1172 配転命令無効確認請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年7月16日 札幌地方裁判所
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判決文本文30,546 文字)

- 1 -判決主文 1 原告が,被告の運営する札幌市α区(以下記載省略)所在の介護老人保健施設「A」3階において勤務する雇用契約上の義務のないことを確認する。 2 被告は,原告に対し,166万4201円及びこれに対する令和元年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,16万4667円及びこれに対する令和元年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告に対し,令和元年8月25日から本判決確定に至るま で,毎月25日限り各19万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで,支払日の翌日が令和2年3月31日以前の場合は年5分の割合による,支払日の翌日が同年4月1日以降の場合はその時点における法定利率の割合による各金員を支払え。 5 被告は,原告に対し,令和元年11月25日から本判決確定に至る まで,毎年11月から翌年3月までの間,毎月25日限り各1万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで,支払日の翌日が令和2年3月31日以前の場合は年5分の割合による,支払日の翌日が同年4月1日以降の場合はその時点における法定利率の割合による各金員を支払え。 6 被告は,原告に対し,令和元年12月25日から本判決確定に至るまで,毎年6月25日及び12月25日限り各26万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで,支払日の翌日が令和2年3月31日以前の場合は年5分の割合による,支払日の翌日が同年4月1日以降の場合はその時点における法定利率の割合による各金員を 支払え。 - 2 - 7 訴訟費用は被告の負担とする。 8 この判決は,第2項から第6項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び の時点における法定利率の割合による各金員を 支払え。 - 2 - 7 訴訟費用は被告の負担とする。 8 この判決は,第2項から第6項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求主文同旨 第2 事案の概要 本件は,被告に雇用されている原告が,被告に対し,(1)介護施設の3階(入所部門)への配転命令は無効であると主張して,同階で勤務する雇用契約上の義務がないことの確認を求め,(2)被告からいわゆる「追い出し部屋」での勤務を指示されるなどのパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)を受けたと 主張して,不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料等合計166万4201円及びこれに対する不法行為の後の日である令和元年6月19日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(3)被告は原告の労務の受領を拒絶しているとして,雇用契約及び民法536条に基づき,①令和元年7月分の未払 賃金16万4667円,②同年8月分以降の賃金月額19万円,③毎年11月から翌年3月までの燃料手当月額1万円並びに④毎年6月及び12月の賞与各26万円の各支払と,これらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合(支払日の翌日が令和2年4月1日以降の場合はその時点における法定利率の割合をいうものと解する。)による遅延損害金の支払を求める事案で ある。 1 前提事実(認定根拠を掲記した事実のほかは,いずれも争いがない。)(1) 当事者等ア原告は,昭和59年生まれの女性である(甲4,弁論の全趣旨)。 イ被告は,平成元年に設立された医療法人社団である。 ウ Bは,被告の理事長である(以下 がない。)(1) 当事者等ア原告は,昭和59年生まれの女性である(甲4,弁論の全趣旨)。 イ被告は,平成元年に設立された医療法人社団である。 ウ Bは,被告の理事長である(以下「B理事長」という。)。 - 3 -Cは,B理事長の妻であり,被告の理事である(以下「C理事」という。)。 Dは,被告の法人事務長である(以下「D法人事務長」という。)。 (2) 被告の施設等被告は,①札幌市α区(以下記載省略)所在の整形外科内科「E医院」 (以下「E医院」という。),②同区(以下記載省略)所在の介護老人保健施設「A」(以下「本件施設」という。),③同区(以下記載省略)所在のサービス付き高齢者向け住宅「F」内にあるデイサービスセンター「G」(以下,単に「H」という。)等を運営している(甲1)。 (3) 本件施設 ア本件施設は,定員100名,職員数約70名の介護老人保健施設である。 本件施設の建物は3階建てであり,1階がデイケア部門,2階及び3階が入所部門となっている。 イ Iは,平成29年10月16日付けで本件施設の総師長に就任し,その運営・人事等を委ねられていた者である(以下「I師長」という。)。 Jは,本件施設の事務長である(以下「J事務長」という。)。 Kは,平成30年当時,本件施設のデイケア部門に主任として勤務していた者である(以下「K主任」という。)。 Lは,平成30年当時,本件施設のデイケア部門に職員として勤務していた者である(以下「L職員」という。)(甲80,弁論の全趣旨)。 (4) 被告の就業規則被告の就業規則(甲2)の9条1項には,以下の定めがある。 「理事長は,業務の都合により,次の各号に掲げる場合,職場の配置転換又は人事異動を行うことがある。 。 (4) 被告の就業規則被告の就業規則(甲2)の9条1項には,以下の定めがある。 「理事長は,業務の都合により,次の各号に掲げる場合,職場の配置転換又は人事異動を行うことがある。職員は正当な理由がない限り,これを拒むことができない。」 (5) 原告と被告との労働契約- 4 -原告は,平成29年4月,被告との間で,期間の定めのない労働契約(甲4。以下「本件労働契約」という。)を締結した。なお,賃金額及びその支払日については,以下のとおりとされた。 ア賃金額基本給 13万0000円 職務給 1万5000円資格手当 5000円家族手当 1万0000円臨時手当 3万0000円燃料手当 1万0000円(11月から翌年3月まで) 合計 19万0000円(11月から翌年3月は20万0000円)イ支払日毎月15日締めの当月25日払(6) 原告に対する配転命令等アデイケア部門での勤務 原告は,本件労働契約の締結後,本件施設のデイケア部門で介護職員として勤務していた。 イ平成30年3月15日の配転命令被告は,平成30年3月15日,原告を同月19日付けで本件施設の2階(入所部門)に異動させる旨の配転命令(乙34。以下「平成30年3 月配転命令」という。)をした。 もっとも,上記配転命令は,後日撤回された。 ウデイケア部門の休止本件施設のデイケア部門においては,平成30年12月末までに原告及びL職員以外の全ての職員が退職するという事態が生じ,被告は同部門を 一時的に休止することとした。 - 5 -エ平成30年12月28日の配転命令被告は,平成30年12月28日,原告を平成31年1月1日付けで「庶務課」に異動 態が生じ,被告は同部門を 一時的に休止することとした。 - 5 -エ平成30年12月28日の配転命令被告は,平成30年12月28日,原告を平成31年1月1日付けで「庶務課」に異動させる旨の配転命令(甲11。以下「第1配転命令」という。)をした。なお,被告には,「庶務課」という部署はこの時点まで存在していなかった。 オ平成31年3月18日の配転命令被告は,平成31年3月18日,原告を同年6月1日付けで本件施設の2階(入所部門)に異動させる旨の配転命令(甲18。以下「第2配転命令」という。)をした。 カ休職の申出 原告は,平成31年3月16日から欠勤し,同月20日,被告に対し,適応障害及びうつ状態で1か月の自宅療養を要するとの診断書を持参して,病気休職の申出を行った。 キ平成31年4月8日の配転命令被告は,平成31年4月8日,原告を同月15日付で本件施設の3階 (入所部門)に異動させる旨の配転命令(甲19〔3頁〕。以下「第3配転命令」という。)をした。 この第3配転命令に伴い,第2配転命令は撤回された。 2 争点(1) 第3配転命令の有効性①-契約上の制限違反 (2) 第3配転命令の有効性②-権利濫用(3) 賃金等の請求の可否(4) 不法行為の成否(5) 不法行為による損害発生の有無及び額 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(第3配転命令の有効性①-契約上の制限違反)について- 6 -【原告の主張】本件労働契約では,原告の職種は「デイケア」に限定されており,また就業時間は「9時00分~18時00分」とされているところ,この職種及び就業時間は労働契約の内容となっているため,原告の同意なく変更することは許されない。 しか ケア」に限定されており,また就業時間は「9時00分~18時00分」とされているところ,この職種及び就業時間は労働契約の内容となっているため,原告の同意なく変更することは許されない。 しかるに,第3配転命令は,原告の同意のないまま,原告を入所部門である本件施設3階に異動させるというものであり,しかも異動後の就業時間は夜勤を含む。 したがって,第3配転命令は,上記契約上の制限に反して無効である。 【被告の主張】 本件労働契約が職種を限定する契約であったことは否認する。原告と被告との間でデイケア部門に職種を限定する合意はない。契約書の職種欄に「デイケア」とあるのは,最初の配属先がデイケア部門であるとの趣旨にすぎず,デイケア部門に限定して雇用したという趣旨ではない。 (2) 争点(2)(第3配転命令の有効性②-権利濫用)について 【原告の主張】第3配転命令は,以下のとおり権利の濫用に当たるもので,無効である。 ア業務上の必要性第1配転命令は,平成30年12月のデイケア部門の休止を契機に行われたものであるが,その後,被告はデイケア部門を再開することを決めて 求人などを行っており,令和元年6月にはデイケア部門を再開した。 したがって,第3配転命令の時点では,元々デイケア部門で働いていた原告を入所部門に異動させる業務上の必要性は全くなかった。 イ不当な動機・目的第3配転命令は,平日の日勤を希望していた原告に対し,あえて夜勤や 土日祝日勤務のある入所部門に異動させるなど,それ自体不合理なもので- 7 -あった。 また,第3配転命令の前に出された第1配転命令は,それまで存在していなかった「庶務課」を新設し,わざわざ本件施設外に部屋を賃借した上で,あえて原告のみをここに異動させるというもので -あった。 また,第3配転命令の前に出された第1配転命令は,それまで存在していなかった「庶務課」を新設し,わざわざ本件施設外に部屋を賃借した上で,あえて原告のみをここに異動させるというものであった。しかも,被告は部屋に3台もの監視カメラを設置し,そこでの業務内容も,介護職員 である原告に行わせる意味があるとは思われないものであって,原告を「追い出し部屋」に行かせて精神的に追い込み,排除するという不当な動機・目的に基づいて行われた不合理なものであることが明らかであった。 第3配転命令は,このような不合理な第1配転命令の後,第2配転命令とともに短期間に相次いで行われたもので,このような経緯からは,第3配 転命令も,原告を退職に追い込むという不当な動機・目的に基づくものであることが明らかである。 さらに,原告は札幌地方裁判所に地位保全の仮処分を申し立てていたところ,被告はその第1回審尋期日の前日に第3配転命令を行ったのであって,これには原告の仮処分申立てを妨害する意図もうかがわれる。 ウ通常甘受すべき程度を著しく超える不利益原告は,第3配転命令の時点で6歳と3歳の2人の子がおり,上の子は小学校に,下の子は保育園に通っていた。そして,夫は不動産管理の仕事をしており,呼出しがあれば昼夜を問わず現場に行かなければならなかった。このような状況で,夜勤及び土日祝日勤務がある入所部門で勤務する ことは,原告の子らの養育に重大な不利益を生じさせるものであった。 エその他の事情原告は,第1配転命令に基づく「庶務課」での業務の結果,適応障害及びうつ状態を発症して病気休業していたところ,医師から,復職に当たっては夜勤や残業をしないなどの労務負荷軽減を図る必要があるといわれて おり,原告に対して配転命令を行うに当 の結果,適応障害及びうつ状態を発症して病気休業していたところ,医師から,復職に当たっては夜勤や残業をしないなどの労務負荷軽減を図る必要があるといわれて おり,原告に対して配転命令を行うに当たってはこの点も配慮すべきもの- 8 -であった。 オ小括以上のとおり,第3配転命令については,業務上の必要性が認められない反面,不当な動機・目的の存在が強く推認される。また,原告に対して通常甘受すべき程度を著しく超える生活上の不利益を生じさせるものであ り,かつ,精神疾患からの復職という特段の事情も認められる。 したがって,第3配転命令は権利の濫用に当たるもので,無効である。 【被告の主張】第3配転命令は,以下のとおり,権利の濫用に当たらず,有効である。 ア業務上の必要性 被告は令和元年6月からデイケア部門を再開することとしたが,同年4月初旬,失った信頼を回復し,収益を確保するために,介護福祉士の資格を有する者のみを勤務させ,より充実したサービスを提供する方針を決めた。しかるに,原告は介護福祉士の資格を有していなかったまた,原告のデイケア部門での勤務態度には問題があり,同部門の休止 は原告に原因があったため,原告を常に指導できる者がいる場所で勤務させる必要があった。しかるに,再開後のデイケア部門ではこのような指導が困難であった。 これらの理由から,被告は原告をデイケア部門で勤務させず,やむを得ず原告を入所部門に異動させたものであって,第3配転命令には業務上の 必要性があった。 イ不当な動機・目的第1配転命令は,デイケア部門の休止に伴って原告を異動させる必要が生じたものの,原告が希望する平日の日勤の条件で配置できる職場がなかったため,原告の要望を汲み,かつ,被告の様々な業務を一元化するた 第1配転命令は,デイケア部門の休止に伴って原告を異動させる必要が生じたものの,原告が希望する平日の日勤の条件で配置できる職場がなかったため,原告の要望を汲み,かつ,被告の様々な業務を一元化するため に「庶務課」を新設して異動させたものである。「庶務課」は,被告の経- 9 -営する各事業所の補佐など,被告の事業に必要な業務を行う部署であった。 原告は,C理事の指導の下,将来的に事務作業を行うための研修を行っていたもので,意味のない業務ではない。監視カメラを設置したのは,防犯上及び防火上の理由にすぎない。 そして,被告は,できるだけ早く「庶務課」を離れたい,夜勤,土日祝 日勤務なしの場所に配置転換してもらいたいとの原告の要望を受けて,第3配転命令を行ったものである。 このように,第3配転命令は原告の意向を汲んで行ったものであって,原告の主張するような不当な動機・目的は何ら存在しなかった。 ウ通常甘受すべき程度を著しく超える不利益 原告はデイケア部門限定で雇用されたものではなく,夜勤や土日祝日勤務のある職場への異動の可能性は当初からの前提となっていたのであるから,夜勤や土日祝日勤務が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはいえない。 また,原告に就学前の子がいるとしても,夫が協力者として養育を行う ことは可能であった。原告の夫は不動産管理業を行っているが,管理物件は自宅の隣であり,夜間に対応が必要な事態が生じる可能性も低いのであって,原告が夜勤や土日祝日勤務をしていたとしても十分に対応可能であるから,夜勤や土日祝日勤務によって大きい不利益があるとはいえない。 エその他の事情 原告が精神疾患を発症したという事実はない。仮に精神疾患の発症が認められるとしても,被告は,第3配転命令を行った平成3 日祝日勤務によって大きい不利益があるとはいえない。 エその他の事情 原告が精神疾患を発症したという事実はない。仮に精神疾患の発症が認められるとしても,被告は,第3配転命令を行った平成31年4月8日の時点では,労務負荷軽減を図る必要があるとの医師の意見が記載された診断書を確認していない。したがって,このような意見は第3配転命令の有効性を検討するに当たって考慮すべきではない。 オ小括- 10 -以上のとおり,第3配転命令は業務上の必要があって行われたもので,不当な動機・目的は存在せず,原告に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでもないから,何ら権利の濫用に当たるものではなく,有効である。 (3) 争点(3)(賃金等の請求の可否)について 【原告の主張】原告は,令和元年6月19日まで病気休職を余儀なくされたものの,同月20日から復職可能であるとして,被告に対してデイケア部門での復職を申し出た。 これに対し被告は,第3配転命令が有効であるとして原告の復職を拒絶し ているが,これまで述べてきたとおり,第3配転命令は無効である。 したがって,原告がデイケア部門における労務を提供できないのは,その労務の受領を被告が拒絶しているためであって,原告は,民法536条2項に基づき,下記のとおり賃金等の請求権を有する。 ア賃金 令和元年7月分の賃金は,同年6月20日から同年7月15日までの26日分で16万4667円,同年8月分以降は毎月19万円イ燃料手当毎年11月から翌年3月まで毎月1万円ウ賞与 毎年6月及び12月に各26万円【被告の主張】賃金の計算方法は認めるが,その請求権の存在は争う。原告の労務提供の意思表示は,有効な第3配転命令に反するも 月まで毎月1万円ウ賞与 毎年6月及び12月に各26万円【被告の主張】賃金の計算方法は認めるが,その請求権の存在は争う。原告の労務提供の意思表示は,有効な第3配転命令に反するものであって,認められない。原告は自らの主張に固執して欠勤を続けているのであり,賃金等の請求権は生 じない。 - 11 -(4) 争点(4)(不法行為の成否)について【原告の主張】原告は,被告から以下のようなパワハラを受けていたところ,これらについてはいずれも不法行為が成立する。 ア平成30年3月配転命令 原告は,平成30年3月14日,I師長に呼び出され,本件施設の2階に異動させる旨の平成30年3月配転命令を告げられた。原告は,配転命令について北海道労働局に相談し,本件労働契約は職種限定契約であり,異動は不当との見解を得て,同局の担当者からD法人事務長に連絡を取ってもらったところ,配転命令は撤回された。 配転命令の理由について,J事務長は原告がK主任の陰口を言っていたことを挙げていたが,身に覚えはなく,I師長の説明とも異なっていた。 イ理由のない始末書の強制と懲戒処分J事務長は,平成30年3月26日,平成30年3月配転命令について原告と面談をし,同配転命令を撤回する代わりに,K主任に対して陰口を 言ったこと,朝礼時の原告の言動に不適切な点があったことについて各1枚の始末書を書くよう原告に命じ,数日後には反省文を書くことも命じた。 原告が労働組合に相談し,懲戒処分でなければ始末書の強制はできない旨をJ事務長に伝えたところ,被告は,同年4月20日付けで原告に始末書の提出を命じるけん責処分をしたが,その通知書は具体的な事実の指摘 がない意味不明なものであった。原告は,身に覚えがなかったため,懲戒 長に伝えたところ,被告は,同年4月20日付けで原告に始末書の提出を命じるけん責処分をしたが,その通知書は具体的な事実の指摘 がない意味不明なものであった。原告は,身に覚えがなかったため,懲戒理由を具体的に教えて欲しい旨の手紙をB理事長宛てに送付したところ,上記処分は理由の説明もなく撤回された。 ウ運転についての差別的取扱いと運転手当の不支給原告には,平成30年3月分までは運転手当(技能手当)が支給されて いたが,同年4月分から,原告が利用者の送迎車の運転業務(以下,単に- 12 -「運転業務」という。)を担当していないとして支給されなくなった。 原告が運転業務をしていなかったのは,J事務長から,運転技能のチェックを受けなければ運転はさせられないと聞いていたからであるが,他の職員はチェックなしで運転業務を行っていた。また,原告は,一度J事務長に運転技能を見てもらい,その後も再三催促したものの,結局,運転技 能のチェックはしてもらえなかった。 エ暴言や根拠のない言説の流布K主任は,平成30年5月23日,デイケア部門でのミーティングの際,原告とL職員とがペアで業務すると死亡事故が発生するので,シフトを一緒にしないように上から言われているなどと述べ,実際にそのようにシフ トを調整した。また,J事務長は,他の職員に対し,原告及びL職員につき「仕事を与えないポジションに持って行く。」,「9月や10月には解雇できるんじゃないか。」などと話した。 オ業務からの切り離しと孤立化被告では,平成30年7月9日,デイケア部門の業務方法が一部変更さ れるために会議が行われることになったが,その会議の情報は原告とL職員にだけ知らされなかった。このような事態は,他にもしばしば発生していた。 また,I師長及びJ 部門の業務方法が一部変更さ れるために会議が行われることになったが,その会議の情報は原告とL職員にだけ知らされなかった。このような事態は,他にもしばしば発生していた。 また,I師長及びJ事務長は,同年10月1日に3名の新入職員が入社した際,原告とL職員には近づくなと告げ,新人の教育係から外すなどし た。 カ第1配転命令原告には上記のような多数のパワハラが行われていたところ,被告は,平成30年12月のデイケア部門の休止に伴い,原告に対して第1配転命令をした。 第1配転命令は,争点(2)において主張したとおり,原告を「追い出し- 13 -部屋」に行かせて精神的に追い込み,排除するという不当な動機・目的に基づいて行われたものであった。 【被告の主張】以下のとおり,原告の主張するパワハラについてはいずれも争う。 ア平成30年3月配転命令 平成30年3月配転命令を行い,その後にこれを撤回したことは認め,不法行為が成立するとの主張は争う。 平成30年3月配転命令は,原告と上司との相性や人事上の必要性を総合的に勘案し,入所部門への異動が望ましいと判断したために行ったものである。また,本件労働契約が職種限定契約ではないことは争点(1)で主 張したとおりである。 そして,被告は,当時の顧問弁護士の見解も踏まえて平成30年3月配転命令を撤回したにすぎず,当該命令の不当性を認めたものではない。 イ理由のない始末書の強制と懲戒処分原告に始末書の提出を求め,懲戒処分を行ったこと,後に懲戒処分を撤 回したことは認め,不法行為が成立することについては争う。 これらは,平成30年3月26日の面談で原告がK主任に対する陰口や朝礼時の不適切な言動を認めたために行ったものであり,何ら不当ではない。そ 回したことは認め,不法行為が成立することについては争う。 これらは,平成30年3月26日の面談で原告がK主任に対する陰口や朝礼時の不適切な言動を認めたために行ったものであり,何ら不当ではない。そして,被告は,原告がこれらの事実を後に否認し,被告において録音等の客観的な証拠も有していなかったことから,懲戒処分を撤回したも のにすぎない。 ウ運転についての差別的取扱いと運転手当の不支給原告に運転手当が支給されなくなったことは認め,不法行為が成立するとの主張は争う。 J事務長は,原告の運転技能をチェックしたが,運転技術に問題があり, とても運転業務を任せることはできなかったため,運転業務を行わせなか- 14 -っただけである。その後,原告の運転技能を再度チェックすることはしていないが,運転業務の人員が足りており,その時間もなかったためであり,いずれについても何ら問題はない。 エ暴言や根拠のない言説の流布K主任の発言,実際のシフト調整,J事務長の発言についてはいずれも 認め,不法行為が成立するとの主張は争う。 「死亡事故が発生する」との発言は不適切であるものの,そもそも原告及びL職員は介護職員としての勤務姿勢に問題があったもので,このような2人をペアにすることは適切ではなく,シフト調整を行ったことは何ら問題がない。また,J事務長の発言は,原告及びL職員について他の職員 から不満が出ていたので,これを和らげようとしたものにすぎない。 オ業務からの切り離しと孤立化平成30年7月9日の会議の情報が伝えられなかったとの事実は否認する。また,法人として意図的に原告及びL職員に情報提供をしなかったという事実もない。 I師長及びJ事務長の新入職員に対する発言については認めるが,原告及びL職員の勤務 ったとの事実は否認する。また,法人として意図的に原告及びL職員に情報提供をしなかったという事実もない。 I師長及びJ事務長の新入職員に対する発言については認めるが,原告及びL職員の勤務態度を踏まえ,早期退職のリスクを排除するために,問題のある職員とは距離を保ってもよい旨を述べたにすぎないし,新人の教育係にはそもそも任命していないので,外したという事実もない。 カ第1配転命令 争点(2)で主張したとおり,第1配転命令は,平成30年12月のデイケア部門の休止に伴う業務上の必要から,平日の日勤という原告の要望も踏まえて行ったものである。「庶務課」の部屋は「追い出し部屋」と評価されるようなものではなく,原告が行っていた業務も被告に必要なものであって,何ら違法,不当なものではない。 (5) 争点(5)(不法行為による損害発生の有無及び額)について- 15 -【原告の主張】原告は,被告からの度重なるパワハラによって体調を崩し,平成30年7月から心療内科に通院するなどしていたところ,第1配転命令によって「追い出し部屋」に隔離され,意味のない作業をさせられたことで更に強いストレスを受けた。その結果,原告の精神状態は悪化し,平成31年3月16日 付けで適応障害及びうつ状態の診断を受け,同年6月19日まで病気休職を余儀なくされた。このことによる原告の損害は,以下のとおりである。 ア休職中の賃金 55万8071円上記休職期間中の賃金相当損害額(19万円×3月+19万円×4日/30日-3万7262円〔平成31年4月分として支給された給与〕) イ休職中の賞与 8万7100円休職により減額された令和元年6月支給の賞与(17万2900円)と本来の賞与(26万0 円〔平成31年4月分として支給された給与〕) イ休職中の賞与 8万7100円休職により減額された令和元年6月支給の賞与(17万2900円)と本来の賞与(26万0000円)の差額ウ治療費及び薬剤費 1万9030円エ慰謝料 100万0000円 オ上記合計 166万4201円【被告の主張】原告が被告の行為によって精神疾患を発症した事実は否認する。損害につき,賃金及び賞与の計算方法,治療費及び薬剤費の支出の事実は認めるが,被告が支払うべき損害となることは争う。慰謝料は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件労働契約の締結ア原告は,平成29年4月当時,夫及び2人の子(平成25年1月生まれ の長男と平成28年4月生まれの二男)と暮らしていた(甲55)。 - 16 -イ原告は,被告に提出した履歴書において,希望職種として「介護職員」と記載し,本人希望記入欄に「下の子の夜間授乳がなくなったら,夜勤も可能です。」と記載していた(乙16)。 ウ平成29年4月10日に締結された本件労働契約の契約書には,職種として「介護福祉士デイケア」,就業場所として本件施設,就業時間とし て午前9時から午後6時,仕事内容として利用者の日常生活介護と介助,休日として1か月の変形労働によるシフト制との記載がされていた(甲4)。 エ原告は,本件労働契約の締結後,本件施設の1階のデイケア部門で介護職員として勤務していた(前提事実(6)ア)。 (2) 平成30年3月配転命令及びけん責処分ア I師長は,平成29年10 原告は,本件労働契約の締結後,本件施設の1階のデイケア部門で介護職員として勤務していた(前提事実(6)ア)。 (2) 平成30年3月配転命令及びけん責処分ア I師長は,平成29年10月に総師長に就任した頃から,本件施設の複数の職員らに対し,①不当な異動を行う,②「夜勤のできない看護師は今後正社員からパートになるか,辞めるか決めなさい。」などと述べて退職を迫る,③産休明けの職員につき「パートになるか,辞めるか,選択する ように。」などと述べる,④「認知症ではないか。」と述べる,⑤その他,名誉を毀損する発言をしたり,不当に始末書の作成・提出を命じたり,怒鳴りつけたりする,などといったパワハラを行った。これにより,本件施設では,平成30年3月までに7名の職員が退職の意向を示す事態となった。 そのような中で,本件施設の一部の職員らがM労働組合(以下,単に「組合」という。)に加入し,組合は,被告への団体交渉の要求を行い,同月13日には団体交渉の拒否を理由に不当労働行為救済の申立てを行った(甲6ないし8,64〔枝番含む。〕,弁論の全趣旨)。 イ I師長は,平成30年3月14日,原告に対し,同月19日付けで本件 施設の2階(入所部門)に異動させる旨の配転命令(平成30年3月配転- 17 -命令)を告げた。その際,I師長は,配転命令の理由として「人員補充,適材適所」と説明し,配転命令を受け入れない場合は退職してもらうとも述べた(甲49〔8頁〕,乙34,原告本人〔4頁〕)。 ウ D法人事務長は,平成30年3月20日,上記イの平成30年3月配転命令について原告と面談した。 原告は,子供が小さいために夜勤は難しく,2階への異動はできない旨を伝えていたなどと述べたところ,D法人事務長は,原告には夜勤をさせな 記イの平成30年3月配転命令について原告と面談した。 原告は,子供が小さいために夜勤は難しく,2階への異動はできない旨を伝えていたなどと述べたところ,D法人事務長は,原告には夜勤をさせないとの条件で配転命令を承諾しており,夜勤なしとの条件で2階に異動してもらいたいなどと述べた。また,D法人事務長は,配転命令の理由として,新人に対する教育が組織上うまくいっていないなどの説明を受けた 旨述べた(甲49,証人D〔2~4頁〕)。 エ D法人事務長及びJ事務長は,平成30年3月26日,原告と面談した。 J事務長は,平成30年3月配転命令の理由として,原告がK主任の悪口を言っており,他の職員から退職の希望が出ているなどと説明した上,配転命令を撤回する代わりに,朝礼時に不適切な発言があったこと,K主 任に対して陰口や悪口を言ったことについて始末書を提出するよう原告に要求した。 なお,平成30年3月配転命令は,後に撤回された(甲16,63)。 オ原告は,平成30年3月26日,組合に相談し,L職員とともに組合に加入した。 そして,原告は,同月27日,L職員とともにJ事務長と面談し,始末書の提出を求めるのであればけん責処分を行うべきであると申し入れた(J〔5頁〕,原告本人〔5頁〕)。 カ被告は,平成30年4月20日付けで,原告に対し,「平成30年3月5日以降,就業規則第46条第20号に該当する事由があったため。」と の理由で,始末書の提出を命じる内容のけん責処分(甲50)をした。 - 18 -原告はこれに応じず,B理事長に宛てて身に覚えがない旨の手紙を送付するなどしたところ,被告は上記けん責処分を撤回した(証人J〔5頁〕,原告本人〔6頁〕,弁論の全趣旨)。 (3) デイケア部門の休止に至る経緯ア K B理事長に宛てて身に覚えがない旨の手紙を送付するなどしたところ,被告は上記けん責処分を撤回した(証人J〔5頁〕,原告本人〔6頁〕,弁論の全趣旨)。 (3) デイケア部門の休止に至る経緯ア K主任は,平成30年5月23日のデイケア部門でのミーティングの際, 原告及びL職員に対し,2人がペアで業務をすると死亡事故が発生するので,2人のシフトを一緒にしないように上から言われている旨を述べた(甲9,甲75〔5頁〕)。 イ原告は,平成30年6月19日,組合と被告との団体交渉に参加した。 被告は,遅くともこの頃には,原告が組合に加入していることを把握し た(甲16)。 ウデイケア部門の職員(N)は,平成30年7月1日,原告とのLINEにおいて,原告及びL職員の2人におかしなことがあれば報告するよう被告から求められていることや,2人が組合に入っているため,2人の動き次第では裁判になると聞いたことなどを伝えた(甲65)。 エ原告は,平成30年7月7日,心療内科・精神科の「Oクリニック」(以下「本件クリニック」という。)を受診し,「上司からパワハラを受けている」として不眠,腹痛,暗い気分などの症状があることを訴え,不安うつ病と診断されて,精神療法,薬物療法等を受けた。 以後,原告は,本件クリニックに定期的に通院した(甲71〔1,2 頁〕)。 オ J事務長は,平成30年8月上旬頃,本件施設の職員らに対し,原告及びL職員について苦情があれば報告書を提出するように求めた。これを受けて,職員らのうち複数の者らは,同年9月頃にかけて,原告及びL職員の業務上の問題を報告書に記載した上,被告に提出した。 もっとも,被告は,これらの報告書に記載された問題等につき,原告に- 19 -直接の指摘や指導を行うことはなか けて,原告及びL職員の業務上の問題を報告書に記載した上,被告に提出した。 もっとも,被告は,これらの報告書に記載された問題等につき,原告に- 19 -直接の指摘や指導を行うことはなかった(甲84~88,証人J〔39~43頁〕,原告本人〔11頁〕)。 カ被告は,平成30年9月14日,組合との間で,上記(2)アの救済申立てに係る事件について,「法人は,『P組合員(判決注:原告)及びL組合員が二人で業務に臨むことにより死亡事故が発生する』と発言したことに ついては不適切であったことを認め,これを謝罪」するとの内容を含む和解協定(甲9)を締結した。 キデイケア部門のK主任ほか2名は,平成30年11月,退職の意向を表明した。そして,同年12月には,原告とL職員とを除いたデイケア部門の職員がいずれも退職することとなり,被告は同月末をもって同部門を一 時的に休止することとした(乙65,証人J〔6頁〕,証人D〔5頁〕,証人B〔4,49頁〕)。 ク被告は,平成30年12月20日,L職員を解雇した。被告は後に,解雇の理由として,L職員においては職務放棄に等しい勤務態度が常態化していたとか,介護職員としての適格性を欠くなどと説明した(甲10,1 7)。 (4) 第1配転命令ア原告は,平成30年12月21日,デイケア部門の休止に伴う配置転換について,D法人事務長と面談した。 D法人事務長は,原告の異動先は現在検討中である旨を述べたところ, 原告は,同じ職種となるHで働きたい,小さい子供がいるので,土日祝日休みで日勤での勤務を希望するなどと述べた。また,原告がデイケア部門が再開した際には戻りたいと述べたところ,D法人事務長は「そこは分かりませんよ。」と述べた(乙36〔1~5,8,9頁〕)。 イ被告は, 日勤での勤務を希望するなどと述べた。また,原告がデイケア部門が再開した際には戻りたいと述べたところ,D法人事務長は「そこは分かりませんよ。」と述べた(乙36〔1~5,8,9頁〕)。 イ被告は,平成30年12月28日,原告を平成31年1月1日付けで 「庶務課」に異動させる旨の第1配転命令をし,D法人事務長がその旨を- 20 -原告に告知した。 その際,D法人事務長は,原告に対し,E医院の近くにある歯科医院(Q歯科医院)の入居する建物に新しい事務所を準備しているので,それまではデイケア部門で片付けなどの仕事をして欲しいなどと指示した。また,D法人事務長が,日勤の時間帯で入所部門の手伝いをするのはどうか と確認したところ,原告は,入所部門での勤務はしたくない旨を述べて,これを断った。 なお,「庶務課」は,この時点までは存在しておらず,原告が初めての配属職員となる部署であった(前提事実(6)エ,乙38〔1~4頁〕)。 ウ原告は,平成31年1月7日,D法人事務長及びJ事務長と面談し,第 1配転命令に従う旨を述べた。その際,D法人事務長は,原告の希望していたHには空きがない旨を述べた。 原告は,同日以降,本件施設の1階のデイケアステーションに設置された席で,デイケア部門の片付けや掃除をしたり,パソコンの練習をしたり,介護の文献を読んでレポートを書いたり,雪かきをしたりするなどして過 ごした(乙40〔1,6頁〕,甲16〔5頁〕,証人B〔14,15頁〕)。 エ組合は,平成31年1月23日,被告との間で団体交渉を行った。原告は,その際,第1配転命令には納得しておらず,介護職を希望する旨を述べた。 組合は,同月28日,被告に対し,原告への第1配転命令の撤回を求め るとともに,原告をHでの勤務又は本件施設の入 告は,その際,第1配転命令には納得しておらず,介護職を希望する旨を述べた。 組合は,同月28日,被告に対し,原告への第1配転命令の撤回を求め るとともに,原告をHでの勤務又は本件施設の入所部門での日勤とするよう要求する旨の書面を送付した(甲61,105〔39,40頁〕)。 オ原告は,平成31年2月18日,歯科医院の入居する建物ではなく,E医院から徒歩1分ほどの距離の場所にあるアパート内の居室(以下「本件居室」という。)を「庶務課」の事務室とし,ここで勤務するよう指示を 受けた。なお,本件居室は,被告が新たに賃借した物件であった。 - 21 -原告は,同日,本件居室での勤務を開始した(甲12~14,16〔5頁〕,証人J〔51頁〕)。 カ本件居室での勤務状況(ア) 本件居室は,2LDKの間取りとなっており,居間及びダイニングに執務用の机が置かれ,残りの2部屋のうち1部屋が更衣室とされていた。 また,本件居室内には,玄関,執務机のある部屋及び更衣室ではない方の部屋に各1台(合計3台)の監視カメラが設置され,それぞれのカメラは部屋の内側に向けられていた。これらのカメラは,C理事の指示により,10万円から12万円程度の費用をかけて設置したものであった(甲13,14,証人J〔29,46頁〕,証人B〔13頁〕)。 (イ) 原告は,異動当初は特に業務の指示はなく,上記ウのレポートの続きを書くなどして過ごした。 原告は,平成31年2月19日以降は,C理事の指示を受けて,雑誌「日経ヘルスケア」や介護の文献の要約を行った。原告は他にも,本件施設で使用するパンフレットの作成や,E医院での雪かきを行うなどし た(乙42~48,証人B〔14~16,50,51頁〕,原告本人〔16頁〕)。 (ウ) 本件居室で勤 た。原告は他にも,本件施設で使用するパンフレットの作成や,E医院での雪かきを行うなどし た(乙42~48,証人B〔14~16,50,51頁〕,原告本人〔16頁〕)。 (ウ) 本件居室で勤務していたのは原告1人であり,C理事が1日に1回訪れ,5分から15分程度滞在して業務の指示を行うなどしていたほかは,職員の出入りはなかった。 D法人事務長は,初日に原告を本件居室へ案内しただけで,以後,本件居室を訪れることはなかった(証人D〔19,20頁〕,証人B〔14,36頁〕,原告本人〔16,17頁〕)。 キ原告は,平成31年3月16日に本件クリニックを受診し,職場に監視カメラがあり,デスクワークがメインで監禁状態であって,2月から病状 が悪化したなどと訴えた。 - 22 -本件クリニックの担当医師は,同日,原告が「適応障害,うつ状態」であり,1か月間の自宅療養が必要との内容の診断書(甲15)を作成した(甲15,71〔17,18頁〕)。 (5) デイケア部門の再開に向けた動きア B理事長は,平成30年12月末にデイケア部門を一時的に休止したも のの,既にその頃から,デイケア部門を可能な限り早く再開したいと考えていた(証人B〔49頁〕)。 イ被告は,平成31年2月,デイケア部門の再開に向けて求人を開始し,同年4月1日付けでR(以下「R職員」という。)をデイケア部門の職員として採用した。 R職員は,デイケア部門の再開までの間は,入所部門において,夜勤・土日祝日勤務なしという条件で勤務した(証人B〔19,20頁〕)。 ウ被告は,平成31年4月,休止していたデイケア部門を同年6月15日から再開することを関係者に通知した(乙65)。 (6) 第2配転命令,第3配転命令及びその後の経緯 ア被 頁〕)。 ウ被告は,平成31年4月,休止していたデイケア部門を同年6月15日から再開することを関係者に通知した(乙65)。 (6) 第2配転命令,第3配転命令及びその後の経緯 ア被告は,平成31年3月18日,原告を同年6月1日付けで本件施設の2階(入所部門)に異動させる旨の第2配転命令をした(前提事実(6)オ)。 イ組合は,平成31年3月19日,被告との間で団体交渉を行った。原告は,その際,同年6月1日を待たず,「庶務課」から一日でも早く異動したい旨を述べた(当事者間に争いがない。)。 ウ原告は,平成31年3月20日,被告に上記(4)キの診断書を持参して,病気休職の申出を行い,同月22日から欠勤した(前提事実(4)カ,乙41)。 エ原告は,平成31年3月22日,札幌地方裁判所に対し,原告を申立人,被告を相手方として,第1配転命令が無効であることを前提に,「庶務課」 で勤務する雇用契約上の義務がない旨を仮に定めるとの地位保全仮処分を- 23 -申立てた(乙1)。 オ被告は,平成31年4月8日,原告を同月15日付けで本件施設の3階(入所部門)に異動させる旨の第3配転命令をした。 被告は,その後,原告に対し,第3配転命令による異動後の労働条件として,休日はシフト表による不定休であり,労働時間は,午後4時30分 から翌9時30分までの夜勤や,午前10時30分から午後7時30分までの遅番勤務を含む旨を示した(前提事実(6)キ,甲20,21)。 カ被告は,平成31年4月19日付けで,原告に対し,原告を同年3月22日から3か月の休職扱いとする旨通知した(甲25)。 キ被告は,令和元年6月1日,デイケア部門を再開した(弁論の全趣旨)。 ク原告は,令和元年6月7日,被告に対し,主治医から 年3月22日から3か月の休職扱いとする旨通知した(甲25)。 キ被告は,令和元年6月1日,デイケア部門を再開した(弁論の全趣旨)。 ク原告は,令和元年6月7日,被告に対し,主治医から就労可能の診断を受けたとして,デイケア部門への復職を求めた。 被告は,原告に対し,第3配転命令が有効であることを前提に,本件施設の3階(入所部門)での復職を命じる旨を回答した。しかし,原告は,同月19日,復職には応じるが異動命令については応じられないとの趣旨 の回答を行い,改めてデイケア部門への復職を申し出た(甲29~31)。 2 争点(2)(第3配転命令の有効性②-権利濫用)について事案に鑑み,争点(2)について検討する。 (1) 配転命令と権利の濫用配置転換は,転居を伴わなくとも,職員の生活に相応の影響を及ぼすこと があるから,使用者は配転命令を無制限で行使できるわけではなく,配転命令に業務上の必要性が存在しない場合,又は,業務上の必要性が存在するにしても,当該配転命令が不当な動機や目的をもってなされたり,職員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったりするなど,特段の事情がある場合には,その権限の行使は権利の濫用に該当し,当該配 転命令は無効となるものというべきである(最高裁昭和61年7月14日第- 24 -二小法廷判決・裁判集民事148号281頁参照)。 本件において被告は,原告を平成31年4月15日付けで本件施設の3階(入所部門)に異動させる旨の第3配転命令をしているところ,原告は,この第3配転命令は権利の濫用に該当し,無効となると主張している。 そこで,第3配転命令が権利の濫用に該当するのかにつき,以下検討する。 (2) 業務上の必要性についてア前記認定事実のとお の第3配転命令は権利の濫用に該当し,無効となると主張している。 そこで,第3配転命令が権利の濫用に該当するのかにつき,以下検討する。 (2) 業務上の必要性についてア前記認定事実のとおり,①被告は,本件施設のデイケア部門の休止に伴い,同部門の介護職員である原告を「庶務課」に異動させたところ(第1配転命令),②組合からの要求や,介護職を希望するとの原告の発言などを受けて,平成31年3月18日,原告を同年6月1日付けで本件施設の 2階(入所部門)に異動させることとし(第2配転命令),③さらに,「庶務課」から一日でも早く異動したいとの原告の発言などを受けて,同年4月8日,第2配転命令を撤回し,改めて原告を同月15日付けで本件施設の3階(入所部門)に異動させることとした(第3配転命令)ものである。 しかるに,認定事実(5)のとおり,第3配転命令が行われた同月8日の 時点では,被告はデイケア部門の再開に向けて求人を行い,R職員を採用しているし,同月中には,デイケア部門を同年6月に再開する旨を対外的に通知しているのであって,このような状況で,採用以来,本件施設のデイケア部門で勤務を続けていた原告を,「庶務課」から本件施設に戻すに際し,あえてデイケア部門ではなく入所部門に配属させる業務上の必要性 があったようにはにわかにうかがわれない。 したがって,原告を入所部門に異動させるとの第3配転命令については,その業務上の必要性に疑問を差し挟まざるを得ない。 イこの点につき被告は種々の主張をするが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 (ア) 被告は,デイケア部門の再開に当たっては,職員を介護福祉士の資格- 25 -を有する者に限定することとしており,このような方針は平成31年4月初旬には決まって ことができない。 (ア) 被告は,デイケア部門の再開に当たっては,職員を介護福祉士の資格- 25 -を有する者に限定することとしており,このような方針は平成31年4月初旬には決まっていたから,介護福祉士の資格を有しない原告をデイケア部門に戻すことはできなかったと主張する。 しかし,被告は,同年2月14日の時点で,ハローワークに介護福祉士の資格に限定しない求人票(甲22の1)と限定した求人票(甲22 の2)を出しており,同年5月12日の時点でも,ウェブサイト上で,デイケア部門について介護福祉士に限定しない求人広告を掲載している(甲26,27)。また,被告は,同年4月には関係先に対してデイケア部門の再開を通知しているところ,同通知には,同年6月1日時点での介護スタッフ3名が全員介護福祉士であると記載されているにとどま り,デイケア部門を介護福祉士限定で運営する方針が明記されているわけではないし,それを新たな方針としてアピールするような記載があるわけでもない(乙65)。そもそも,同年4月1日にはデイケア部門にR職員が採用されており,同人はデイケア部門の再開に当たっての窓口とまでされているのに,D法人事務長は,同職員が介護福祉士の資格を 有しているのかについて把握していない(証人D〔29頁〕)。 したがって,被告が,第3配転命令が行われた同月8日の時点で,デイケア部門を介護福祉士限定とする方針を決定していたとまでは認められない。なお,被告が仮にそのような方針を決定しようとしていたとしても,それが原告をデイケア部門で勤務させることができないほどの強 い業務上の必要性に基づくものであったとは考え難い。 この点につき被告は,介護福祉士に限定する内容の求人票(甲22の2)は,限定しない内容の求人票(甲22の1 務させることができないほどの強 い業務上の必要性に基づくものであったとは考え難い。 この点につき被告は,介護福祉士に限定する内容の求人票(甲22の2)は,限定しない内容の求人票(甲22の1)を変更したものであると主張するが,これを裏付ける証拠はない。また,被告は,ウェブサイト上の求人広告について,担当者に方針を伝えておいたにもかかわらず 修正されなかったとか,求人サイトにログインできず変更ができなかっ- 26 -たなどとも主張するが,これを裏付ける客観的な証拠はないし,信頼回復のための良いアピールになると考えて決定した方針(証人D〔13頁〕,証人B〔20頁〕)にも関わらず,そのような方針が反映されていない求人広告が,上記のような理由でそのまま公開されていたというのはそれ自体不自然である。 (イ) 次に,被告は,原告のデイケア部門における勤務態度には問題があり,デイケア部門が休止となったのも原告の勤務態度が理由であって,原告をデイケア部門に戻すことはできなかったとも主張するところ,平成30年12月27日に作成された被告代理人作成の聴取報告書(乙12)には,デイケア部門の職員らが,原告及びL職員(以下,単に「原告ら」 ということがある。)の業務や協調性等に問題があると述べていたとの趣旨の記載がある。 もっとも,原告は勤務態度に問題があったとの主張を否定しているところ,上記報告書の作成に当たって行われた職員らへの聴取の内容(甲51,68,69)をみると,同人らは,いずれも原告らに対して良い 感情を抱いていなかったことがうかがわれ,職員らの指摘する問題行動の全てが客観的事実といえるかは疑問を差し挟む余地がある。また,職員らはいずれも退職しようと思っているものの,その理由は原告らの問題だけではないとの かったことがうかがわれ,職員らの指摘する問題行動の全てが客観的事実といえるかは疑問を差し挟む余地がある。また,職員らはいずれも退職しようと思っているものの,その理由は原告らの問題だけではないとの趣旨を述べており,中でもK主任は,むしろS介護課長から怒鳴られ,I師長も話を聞いてくれなかったことが退職の理由 であるとも述べているのであって(甲68〔3,4頁〕,甲69〔1頁〕,甲51〔1頁〕),原告の勤務態度に他の職員が不満を抱いていたとしても,そのことを理由として退職者が続出し,デイケア部門の休止に至ったとまでは認め難い。 そもそも,認定事実(3)ウ,オのとおり,被告においては,同年7月 頃から,原告らの問題行動について職員に報告を求めるといったことが- 27 -行われていたものであるが,これによって報告された内容については,原告に対して伝えられず,また,特段の指導もされていなかったというのであって(証人J〔40,41〕),指導の必要性を理由としてデイケア部門での勤務が難しいとの説明は,説得力を欠くものである。 したがって,仮にデイケア部門における原告の勤務態度や協調性に一 定の問題があったとしても,これが,原告をデイケア部門において勤務させることができないほど重大な問題であったとは考え難いし,指導のために入所部門へ異動させる必要性が高かったとも考え難い。 ウ以上によれば,被告の主張を踏まえても,第3配転命令によって原告を本件施設の3階に異動させる業務上の必要性は認められず,仮に認められ るとしてもその必要性は低いものにとどまっていたというべきである。 (3) 不当な動機・目的についてア第1配転命令の当否(ア) 原告は,第3配転命令は,権利の濫用に当たる不合理な第1配転命令から相次いで出された配 いものにとどまっていたというべきである。 (3) 不当な動機・目的についてア第1配転命令の当否(ア) 原告は,第3配転命令は,権利の濫用に当たる不合理な第1配転命令から相次いで出された配転命令の一環であり,原告を退職に追い込む等 の不当な動機・目的によってされたものであると主張するため,まず第1配転命令の当否について検討する。 (イ) 前記認定事実のとおり,第1配転命令は,デイケア部門の休止に伴って,原告を同部門から他部署に異動させることとなったものであり(認定事実(3),(4)ア,イ),その端緒自体は特段不合理なものというわけ ではない。 しかし,第1配転命令による原告の異動先は「庶務課」というところであり,この「庶務課」は第1配転命令の時点までは存在しておらず,原告が初めての配属職員となる部署というのである。しかも,被告は,「庶務課」の事務室を本件施設その他の被告の施設内には設けずに,わ ざわざアパートの内の居室(本件居室)を新たに賃借し,これをもって- 28 -事務室とした上,本件居室内に合計3台もの監視カメラを設置し,しかもそのカメラを部屋の内側に向けていたところである。 そして,被告は原告のみをこのような本件居室で勤務させたものであって,この本件居室で勤務する職員は原告以外にはおらず,C理事が1日に1回訪れる程度であり,その滞在時間も多くて15分程度にすぎな かったというのである。しかも,被告は,このような環境での勤務を原告に命じたにもかかわらず,当初は原告に特段の業務の指示をしなかったのであり,その後も,原告に対し,雑誌「日経ヘルスケア」等の要約や,本件施設で使用するパンフレットの作成など,あえて本件居室で行う必要があるとはおよそ考え難いような業務のみをさせていたものであ あり,その後も,原告に対し,雑誌「日経ヘルスケア」等の要約や,本件施設で使用するパンフレットの作成など,あえて本件居室で行う必要があるとはおよそ考え難いような業務のみをさせていたものであ る。 このような本件居室の状況及び原告の業務内容に鑑みれば,被告は,原告を本件施設から隔離し,監視カメラの設置された異様な環境で孤立させ,あえてそのような場で行う必要がないような業務を行わせることで,原告に精神的苦痛を与え,あるいは原告を退職に追い込むといった, 不当な動機・目的によって第1配転命令を行ったのではないかと推認せざるを得ない。 (ウ) この点につき被告は,①本件施設内にはスペースがなかったため,やむを得ず本件施設外のアパートの居室を賃借した,②「庶務課」はC理事やD法人事務長を補佐する部署であるため,E医院の近くに本件居室 を置くことには合理性があった,③カメラの設置は防犯目的や防火目的であったなどと主張する。 しかし,上記①については,原告が「庶務課」で行っていた業務は雑誌等の要約やパンフレットの作成にすぎず,執務机とパソコンさえあれば十分に可能なものであった上,証拠(甲77の4,甲78,甲90, 甲91,甲102〔枝番含む。〕)によれば,本件施設の1階の事務室に- 29 -は使用されていない執務机が複数あり,4階の会議室の奥にもスペースがあったと認められるのであって,原告の執務机すら設ける余地がなかったとは考え難い。そもそも,原告は,平成31年1月7日から本件居室に異動するまでの1か月半ほどは,休止していたデイケア部門のデイケアステーションで業務を行っていたところ,同所にはパソコンが設置 された執務机があり,原告はそこでパソコンの練習などもして過ごしていたというのであって(証人B〔50~52 たデイケア部門のデイケアステーションで業務を行っていたところ,同所にはパソコンが設置 された執務机があり,原告はそこでパソコンの練習などもして過ごしていたというのであって(証人B〔50~52頁〕),本件施設内にスペースがなかったとの被告の主張には,疑問を差し挟まざるを得ない。 上記②についても,D法人事務長が本件居室を訪れたのは初日だけであって,原告に対して具体的な補佐業務を指示したようにはうかがわれ ない。また,C理事についてみても,雑誌等の要約やパンフレットの作成業務を超えて,何らかの補佐業務を指示したようにはうかがわれない上,そもそもC理事は本件各施設その他の施設を1日1回は訪れていたというのであって(証人B〔21頁〕),単に本件施設内に「庶務課」を設ければ足りたのではないかと思われるところである。 上記③についても,防犯目的であるとすれば,カメラがいずれも部屋の内側に向けて設置されていることは明らかに不自然であるし,原告のみが勤務し,被告の機密書類や重要な財産等が存在していたとも考え難い本件居室に,10万円を超えるような費用をかけて防犯目的のカメラを設置するというのも,不自然というほかない。防火目的については, なぜカメラの設置が防火の機能を果たすのか全く明らかではなく,被告自身,本件訴訟の前にはこのような説明をしていなかったのであって(甲76〔10,11頁〕),このような主張がされること自体,不当な目的でカメラを設置したことをうかがわせる。 したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。 (エ) 以上によれば,第1配転命令は,不当な動機・目的によって行われた- 30 -ものと認められるものであって,権利の濫用に該当し,無効となる。 イ第3配転命令の動機・目的( (エ) 以上によれば,第1配転命令は,不当な動機・目的によって行われた- 30 -ものと認められるものであって,権利の濫用に該当し,無効となる。 イ第3配転命令の動機・目的(ア) 上記のとおり,第1配転命令が不当な動機・目的によって行われたものである以上,これに引き続いて行われた第2配転命令及び第3配転命令もまた,不当な動機・目的によって行われたものではないかと疑わざ るを得ない。現に,上記(2)において認定判断したとおり,第3配転命令によって原告を本件施設の3階(入所部門)に異動させる業務上の必要性は認められず,仮に認められるとしてもその必要性は低いものにとどまっていたところであって,この点からも,その動機・目的の正当性については疑問を差し挟まざるを得ない。 (イ) さらに検討するに,そもそも原告は,第1配転命令に先立つ面談において,子供が小さいことを理由に,土日祝日休みで日勤での勤務を希望するなどと述べていた(認定事実(4)ア,エ)。また,原告は,平成30年3月に本件施設の2階(入所部門)への異動を命じられているところ(平成30年3月配転命令。後に撤回。),その際にも,子供が小さいた め夜勤は難しいと訴えており,D法人事務長も,原告には夜勤をさせないとの認識を示していたところである(認定事実(2)イ,ウ)。このように,原告には平日の日勤という希望があり,少なくとも夜勤については,子供が小さいため難しいという合理的な理由があったもので,被告もそのことを十分に認識していたものである。 しかるに,被告は,平成31年4月,その時点での家庭の状況や,夜勤や土日祝日勤務の可否について原告に確認をしないまま(証人D〔32頁〕参照),原告を本件施設の3階(入所部門)に異動させる旨の第3配転命令 に,被告は,平成31年4月,その時点での家庭の状況や,夜勤や土日祝日勤務の可否について原告に確認をしないまま(証人D〔32頁〕参照),原告を本件施設の3階(入所部門)に異動させる旨の第3配転命令をしたものであり,その際,平成30年3月配転命令とは異なり,夜勤の免除もしていない。 このような経緯に照らせば,被告は,第3配転命令によって原告をあ- 31 -えて意に沿わない部署に異動させようとしたのではないかと疑わざるを得ない。 (ウ) また,原告は第1配転命令の前からHへの異動を希望していたところ,被告は原告を「庶務課」へ異動させる旨の第1配転命令を行い,その際,Hには空きがないなどと説明していた(認定事実(4)ア~ウ)。 しかし,証拠(甲104)によれば,被告は,平成31年4月20日の時点で,Hのデイケア部門の介護職員を募集する内容の求人広告を出しているのであって,少なくとも同月の第3配転命令の際に,Hのデイケア部門の介護職員に空きがなかったとは考え難い。 したがって,被告は,原告の希望する勤務先(H)への異動が可能で あるのに,あえて原告を夜勤などのある入所部門へ異動させたものといわざるを得ず,このことからも,被告は第3配転命令によって原告を意に沿わない部署に異動させようとしたのではないかと疑わざるを得ない。 (エ) 以上のように,第3配転命令に至る経緯,内容,その必要性,原告の希望及びこれに対する被告側の認識その他の事情を総合考慮すると,第 3配転命令も,第1配転命令と同様に,原告を意に沿わない部署に異動させて精神的苦痛を与え,あるいは原告を退職に追い込むといったような,不当な動機・目的によって行われたものと認められる。 (オ) この点につき被告は,①Hの求人は,以前から出していたものがそのま させて精神的苦痛を与え,あるいは原告を退職に追い込むといったような,不当な動機・目的によって行われたものと認められる。 (オ) この点につき被告は,①Hの求人は,以前から出していたものがそのまま残っていたもので,第3配転命令時点で職員の空きはなかった,② 他の職員との公平の観点から,原告の夜勤を免除することはできなかったなどと主張する。 しかし,上記①につき,C理事は,平成30年3月28日に出した求人票が平成31年4月20日の時点でも残っていたものであり,その間に新たな求人票は出していないなどと証言するが(証人B〔8,46, 47頁〕),平成30年3月28日に出したとする求人票(乙70)と平- 32 -成31年4月20日の求人票(甲104)とは内容が異なるのであって,C理事の上記証言は採用することができない。なお,被告は,上記期間にHの職員の変動がなかったとして勤務表を提出するが(乙67),退職を伴わずに新たな職員を募集することもあり得るのであって,これをもってHに空きがなかったと認めることはできない。 また,上記②については,平成31年4月1日にデイケア部門で採用されたR職員は,入所部門で日勤での勤務をしていたのであって(認定事実(5)イ),原告を入所部門に異動させた上で,その希望を踏まえて日勤とすることが不可能であったとは考え難い。そもそも,被告自身,平成30年3月配転命令の際には原告の夜勤を免除していたのであって (認定事実(2)ウ),夜勤を免除することが他の職員との公平の観点からできなかったというわけではない。 したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。 (4) 小括以上によれば,第3配転命令は業務上の必要性を欠くものであり,仮に必 要性が認められるとしても不 けではない。 したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。 (4) 小括以上によれば,第3配転命令は業務上の必要性を欠くものであり,仮に必 要性が認められるとしても不当な動機・目的によって行われたものであるから,その余の点について検討するまでもなく,権利の濫用に当たる。 したがって,第3配転命令は無効というべきである。 3 争点(3)(賃金等の請求の可否)について(1) これまで述べてきたとおり,第1配転命令は無効であり(前記2(3)ア (エ)),第2配転命令は撤回され(前提事実(6)キ),第3配転命令は無効である(前記2(4))。そのため,原告は,第3配転命令により命じられた本件施設の3階(入所部門)で勤務する雇用契約上の義務を負わず,第1配転命令前に勤務していた本件施設の1階(デイケア部門)で勤務すれば足りることとなる。 しかるに,被告は,第3配転命令が有効であることを前提に,本件施設の- 33 -3階(入所部門)での復職を命じたものである(認定事実(6)ク)。 したがって,原告が本件施設の1階(デイケア部門)での労務を提供することができないのは,被告が無効な第3配転命令に基づいて労務の受領を拒絶しているからであって,これは被告の責めに帰すべき事由といえるから,原告は,民法536条2項に基づき,令和元年6年20日以降の賃金請求権 を有するというべきである。 (2) そして,令和元年6月20日以降の賃金等の額が,原告の計算するとおりであることは,当事者間に争いがない。 したがって,①令和元年7月分の未払賃金16万4667円,②同年8月分以降の賃金月額19万円,③毎年11月から翌年3月までの燃料手当月額 1万円並びに④毎年6月及び12月の賞与各26万円と,これに対す て,①令和元年7月分の未払賃金16万4667円,②同年8月分以降の賃金月額19万円,③毎年11月から翌年3月までの燃料手当月額 1万円並びに④毎年6月及び12月の賞与各26万円と,これに対する遅延損害金の支払を求める原告の請求は,いずれも理由があるというべきである。 4 争点(4)(不法行為の成否)について(1) 原告は,①平成30年3月配転命令,②理由のない始末書の強制と懲戒処分,③運転についての差別的取扱いと運転手当の不支給,④暴言や根拠のな い言説の流布,⑤業務からの切り離しと孤立化及び⑥第1配転命令が,いずれもパワハラに当たり,不法行為が成立すると主張する。 (2)アそこで検討するに,まず,被告は,平成30年3月15日,原告を同月19日付けで本件施設の2階(入所部門)に異動させる旨の平成30年3月配転命令を行い(上記①),後にこれを撤回している。 この点につき被告は,平成30年3月配転命令につき,原告がK主任の陰口や悪口を言っていたことを含めて人員配置を検討した結果であるなどと主張するが,原告は陰口や悪口を言った事実はないと供述しており(原告本人〔5頁〕),他に原告が陰口や悪口を言った事実を認めるに足りる証拠もない。また,被告は,平成30年3月配転命令についての業務上の必 要性を具体的に主張立証しない。 - 34 -イ次に,被告は,平成30年3月から4月にかけて,原告に対し,朝礼時に不適切な発言があったこと,K主任に対して陰口や悪口を言ったことについて始末書を提出するよう要求し,その後,正式な懲戒処分として,始末書の提出を命じる内容のけん責処分をし(上記②),後にこれを撤回している(認定事実(2)エ~カ)。 そして,上記アのとおり,原告がK主任の陰口や悪口を言った事実を認めるに 戒処分として,始末書の提出を命じる内容のけん責処分をし(上記②),後にこれを撤回している(認定事実(2)エ~カ)。 そして,上記アのとおり,原告がK主任の陰口や悪口を言った事実を認めるに足りる証拠はなく,朝礼時での不適切な発言についても被告からの具体的な主張立証はない。 ウまた,認定事実(3)アによれば,被告は,平成30年5月23日頃までに,K主任に対し,原告とL職員とがペアで業務すると死亡事故が発生す るので,2人のシフトを一緒にしないよう指示したことが認められる(上記④)。 しかるに,原告とL職員とがペアで業務をしたことで死亡事故が発生したとの事実を認めるに足りる証拠はなく,現に,被告も死亡事故が発生するとの発言を不適切と認めて謝罪しているところである(認定事実(3)カ)。 エそして,被告は,原告に対して第1配転命令を行ったところ(上記⑥),これまで述べたとおり,第1配転命令はその必要性に乏しく,不当な動機・目的をもってされたと認められる上,その内容は,原告を「庶務課」というこれまで存在していなかった部署に異動させ,本件施設から隔離したアパートの居室において,監視カメラの設置される中,雑誌等の要約な どといった必要性に疑問のある業務を行わせるというものである。 (3) 以上のような一連の行為,中でも第1配転命令及びこれによる本件居室での業務の指示は,およそ使用者が労働者に対して行う正当なものとはいい難く,違法なものであるといわざるを得ない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告の上記(2)の 一連の行為は,不法行為に該当するものというべきである。 - 35 - 5 争点(5)(不法行為による損害発生の有無及び額)について(1) 精神疾患の発症の有無及び因果関係 上記(2)の 一連の行為は,不法行為に該当するものというべきである。 - 35 - 5 争点(5)(不法行為による損害発生の有無及び額)について(1) 精神疾患の発症の有無及び因果関係ア前記のとおり,原告は,平成30年7月7日に本件クリニックを受診し,上司からのパワハラにより不眠,腹痛,暗い気分などの症状があることを訴え,不安うつ病と診断されて,精神療法,薬物療法等を受け,その後も 本件クリニックに定期的に通院した(認定事実(3)エ)。そして,原告は,第1配転命令により本件居室に勤務していた平成31年3月16日にも本件クリニックを受診し,職場に監視カメラがあり,デスクワークがメインで監禁状態であって,2月から病状が悪化したなどと訴え,同日,担当医師から「適応障害,うつ状態」により1か月間の自宅療養が必要との診断 書を得た(認定事実(6)キ)。 そして,上記4で認定判断したとおり,原告に対しては,平成30年3月以降,不法行為が成立するような複数のパワハラ行為が行われていたものであり,中でも第1配転命令による本件居室での勤務は,異様な環境で孤立させられ,必要でない業務を行わされていたものであって,これら一 連の行為は,原告にとって心理的な負担となり,精神状態を悪化させ,精神疾患を発症させ得るものというべきである。 したがって,原告は,被告の一連の不法行為により,遅くとも平成31年3月16日の時点において,適応障害等の精神疾患を発症していたものというべきである。 イこの点につき被告は,本件クリニックへの通院開始日が団体交渉の直近であることや,原告が団体交渉に参加していたことなどを指摘し,精神疾患を発症していたとは認められないと主張する。 しかし,通院開始日の前から被告による不法行為が行われて の通院開始日が団体交渉の直近であることや,原告が団体交渉に参加していたことなどを指摘し,精神疾患を発症していたとは認められないと主張する。 しかし,通院開始日の前から被告による不法行為が行われていたことは既に説示したとおりであり,医療記録上うかがわれる原告の主訴に不自然 なところはない。また,原告が,本件居室における業務から逃れるため,- 36 -精神的な不調を抱えて団体交渉に参加することは何ら不自然ではない。 したがって,他にこれまで認定説示したところも併せると,被告の上記主張は採用することができない。 (2) 損害額ア休職中の賃金 55万8071円 原告は被告の不法行為によって精神疾患を発症し,休業を余儀なくされたといえるから,上記休職期間中の賃金相当損害額は不法行為による損害というべきであるところ,当該期間中の賃金が55万8071円であることは当事者間に争いがない。 イ休職中の賞与 8万7100円 原告は被告の不法行為によって精神疾患を発症し,休業を余儀なくされたといえるところ,令和元年6月の賞与が休職を考慮して減額されたこと,その減額幅が8万7100円であったことに争いはない。 ウ治療費及び薬剤費 1万9030円原告は,被告の不法行為によって本件クリニックへの通院を余儀なくさ れたといえるから,原告の支出した治療費及び薬剤費は不法行為による損害というべきであるところ,原告が1万9030円の治療費及び薬剤費を支出したことについては,当事者間に争いはない。 エ慰謝料 100万0000円被告は原告に対して複数の不法行為を行っていたものであり,中でも第 1配転命令は,原告に精神的苦痛を与 は,当事者間に争いはない。 エ慰謝料 100万0000円被告は原告に対して複数の不法行為を行っていたものであり,中でも第 1配転命令は,原告に精神的苦痛を与え,あるいは原告を退職に追い込むといった,不当な動機・目的によって行われたものといわざるを得ない。 そして,第1配転命令に基づく本件居室での業務は異様なものというほかなく,これによる精神的な苦痛は相当であったと考えられ,その結果,原告は精神疾患を発症し,休業を余儀なくされたものである。 以上のことに加え,本件で認められる事情を総合的に考慮すると,原告- 37 -の精神的な苦痛に対する慰謝料は,100万円をもって相当と認める。 オ合計 166万4201円 6 結論よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官瀬孝 裁判官河野文彦 裁判官佐藤克郎

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