- 1 - 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 令和7年7月20日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県及び大分県各選挙区における選挙を無効とする。 第2 事案の概要 1 令和7年7月20日、参議院議員通常選挙(以下「通常選挙」といい、同日の通常選挙を「本件選挙」という。)が行われた。原告らは本件選挙の福岡県、 佐賀県、長崎県、熊本県及び大分県各選挙区における選挙人であり、被告らは上記各県の選挙管理委員会である。 本件は、原告らが、公職選挙法所定の参議院(選挙区選出)議員に係る議員定数配分規定(以下「定数配分規定」といい、本件選挙当時の定数配分規定を「本件定数配分規定」という。)は投票価値の平等に反して違憲であるなどと して、被告らに対し、公職選挙法205条に基づき、本件選挙の上記各選挙区における選挙(以下「本件北部九州選挙」という。)を無効とすることを求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実)⑴ 当事者 ア原告らは、遅くとも令和7年以降、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県及び大分県各選挙区における選挙人である。 イ被告らは、前記各県の選挙管理委員会である。 ⑵ 令和7年7月20日、本件選挙が行われたところ、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下「選挙区間の最大較差」という。) は3.13倍であった(概数、以下同じ)。 - 2 - 3 争点及び当事者の主張本件の争点は、本件北部九州選挙における無効事由の有無である。 (原告らの主張 差」という。) は3.13倍であった(概数、以下同じ)。 - 2 - 3 争点及び当事者の主張本件の争点は、本件北部九州選挙における無効事由の有無である。 (原告らの主張)⑴ 国会は、委託者兼受益者たる国民から国政を受託しているので(憲法前文)、国民に対して忠実義務を負うとともに利益享受を禁じられ(信託法8 条、30条)、選挙制度の仕組みの決定について裁量を有しない。 また、定数配分規定は、その下での投票価値の不均衡が違憲状態に至れば直ちに無効となるので(憲法98条)、違憲状態が合理的期間にわたり継続した後に無効となるものではない。 ⑵ 前記のように解せなくとも、憲法は投票価値の平等を要求しているのに (前文、1条、43条、56条)、本件選挙における選挙区間の最大較差は3.13倍に上った。選挙区間の最大較差は、令和元年の通常選挙が3.00倍、令和4年の通常選挙が3.03倍、令和7年の本件選挙が3.13倍と、著しく拡大している。これほどの投票価値の不均衡を許容しているのは、米英独仏韓日の6か国のうち日本だけである。 また、国会は、かねてより選挙区間の最大較差が5倍前後で推移する中、平成25年から上記較差を約1倍まで縮小させるブロック制を検討していたが、多くの議員らが投票価値の不均衡による利益を享受し続けるため、平成27年と平成30年に上記較差を約3倍に縮小させる合区と定数増員を実施するにとどめ、令和2年や令和5年に最高裁判決で更なる是正を求められて も、平成30年に改正した定数配分規定のまま3回目の通常選挙となる本件選挙を迎えた。 これらを総合すれば、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡は違憲状態にあり、かつ、本件選挙までの期間内に違憲状態を是 改正した定数配分規定のまま3回目の通常選挙となる本件選挙を迎えた。 これらを総合すれば、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡は違憲状態にあり、かつ、本件選挙までの期間内に違憲状態を是正する措置を講じなかったことは国会の裁量権の限界を超えている。そうすると、本件定数配 分規定は、憲法に違反して無効である。 - 3 -⑶ したがって、本件北部九州選挙は、無効な定数配分規定に基づいて行われたので、選挙規定に違反するとともに、選挙の結果に異動を及ぼす虞があり、無効事由がある。 (被告らの主張)⑴ 国会は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政へ反映させる必要があ るので、定数配分規定の下での投票価値の平等だけでなく他の正当な政策的目的ないし理由も考慮することができ、選挙制度の仕組みの決定について広範な裁量を有する。 このため、投票価値の平等以外の正当な政策的目的ないし理由を考慮しても、上記定数配分規定の下での投票価値の不均衡が違憲状態にあり、かつ、 当該選挙までの期間内に違憲状態を是正する措置を講じなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合でない限り、上記定数配分規定は憲法に違反せず有効である。 ⑵ 都道府県は、歴史・政治・経済・社会・文化的に独自の意義と実体を有する行政単位であり、国民の多くに帰属意識があるので、都道府県を選挙区の 単位とすることは、その多様な意見を効果的に国政へ反映させることができ、合理的である。地方は、過疎化が進んで都市との格差が顕著になっているので、地方の切捨てとならないよう、少数意見たる地方の意見を効果的に国政へ反映させる必要もある。 また、選挙区間の最大較差は、数十年間にわたって5倍前後で推移してい たが、平成27年と平成3 方の切捨てとならないよう、少数意見たる地方の意見を効果的に国政へ反映させる必要もある。 また、選挙区間の最大較差は、数十年間にわたって5倍前後で推移してい たが、平成27年と平成30年に合区と定数増員が順次実施されて約3倍まで縮小した上、令和元年の通常選挙が3.00倍、令和4年の通常選挙が3. 03倍、令和7年の本件選挙が3.13倍と、有意な拡大傾向にない。 さらに、国会は、平成27年の合区実施後にその県で投票率が低下したり無効投票率が上昇したりするなどの弊害が生じ、合区の解消を求める意見も 多かったので、平成30年の定数増員実施後も、各種会合を設置してブロッ- 4 -ク制や定数増員など選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差(以下「選挙区間の較差」という。)を是正する他の方法を議論してきたが、いずれの方法にも課題があるために意見が一致せず、本件選挙までの間に成案へ達することができなかった。もっとも、国会は、現在も議論を継続し、令和10年の通常選挙に向けた制度改正の実施を目指している。 これらを総合すれば、投票価値の平等以外の正当な政策的目的ないし理由も考慮した場合、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡は違憲状態になかった。仮に違憲状態にあったとしても、国会は、選挙区間の最大較差が約3倍になってから最高裁判決で違憲状態と判断されたことがなく、上記較差の更なる是正に向けて真摯に取り組んできたことに照らせば、本件選挙ま での期間内に違憲状態を是正する措置を講じなかったことは国会の裁量権の限界を超えていない。そうすると、本件定数配分規定は、憲法に違反せず有効である。 ⑶ したがって、本件北部九州選挙は、有効な定数配分規定に基づいて行われたので、選挙規定に違反せず、無効事由 の限界を超えていない。そうすると、本件定数配分規定は、憲法に違反せず有効である。 ⑶ したがって、本件北部九州選挙は、有効な定数配分規定に基づいて行われたので、選挙規定に違反せず、無効事由がない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、原告らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである。 2 認定事実証拠(後記(以下枝番省略)のほか、甲9)及び弁論の全趣旨によれば、次 の事実が認められる。 ⑴ 帝国議会は、昭和21年、新憲法の下で発足する参議院につき、①総定数は、同法42条が二院制を採る趣旨に倣い、多様な民意を反映させて慎重に審議するよう、職能代表的性格を有する全国区選出議員100名と地域代表的性格を有する地方区選出議員150名の計250名で構成すること、②地 方区選出議員の選挙区は、地方の総合行政機関としての実績や住民の意識等- 5 -を考慮し、都道府県を単位とすること、③上記選挙区の定数は、人口比例を基本としつつも、同法46条の半数改選制に沿うよう、2~8名の偶数とすることとした上で、同旨の議員定数配分規定等を有する参議院議員選挙法を成立させた。同年における選挙区間の最大較差は、鳥取県と宮城県との間の2.62倍であった。(乙3、7~10) ⑵ 昭和22年、現憲法が施行されて参議院が発足し、昭和25年に公職選挙法が施行されて参議院議員選挙法等を引き継いだ。 選挙区間の最大較差は、人口の都市集中によって拡大し、昭和31年に3倍を超え、昭和37年に4倍も超えて定数訴訟が提起されるようになったが、昭和43年に5倍を超えて5.22倍となった。昭和45年には沖縄の返還 に向け定数2名の沖縄県選挙区が新設されたことで5.01倍に縮小したが( 4倍も超えて定数訴訟が提起されるようになったが、昭和43年に5倍を超えて5.22倍となった。昭和45年には沖縄の返還 に向け定数2名の沖縄県選挙区が新設されたことで5.01倍に縮小したが(地方区152名、総定数252名)、その後は再び拡大した。昭和57年には全国区が比例代表制に制度変更されるとともに地方区が選挙区に名称変更された後、平成元年には6倍を超えるとともに政治が不安定化する中で両院の与野党が逆転する状態(いわゆるねじれ国会)も生じるようになった。 そのような中、平成4年の通常選挙における選挙区間の最大較差は6.59倍となったところ、平成5年に大阪高等裁判所が通常選挙に係る定数訴訟で初めて平成4年当時の定数配分規定につき違憲と判断したことから、国会は、平成6年、選挙区の定数を8名増員・8名減員させて上記較差を4.81倍に縮小させた。最高裁判所も、平成8年9月11日、通常選挙に係る定 数訴訟で初めて平成4年当時の定数配分規定につき合憲ではあるが違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)と判断した(民集50巻8号2283頁)。 (乙3、9、10、17)⑶ 国会は、平成6年の定数是正後、平成12年には参議院の総定数を10名 減員させる中で選挙区の定数を6名減員させるとともに(比例代表96名、- 6 -選挙区146名、総定数242名)、平成18年には東京都選挙区の定数を10名とするなどして選挙区の定数を4名増員・4名減員させることにより、選挙区間の最大較差を5倍前後としていた。 これを受け、最高裁判所は、合憲状態と判断していたが、遅くとも平成18年以降は評価を厳しくし、平成21年に政権交代も生じる中、選挙区間の 最大較差が5.00倍となった平 後としていた。 これを受け、最高裁判所は、合憲状態と判断していたが、遅くとも平成18年以降は評価を厳しくし、平成21年に政権交代も生じる中、選挙区間の 最大較差が5.00倍となった平成22年の通常選挙当時の定数配分規定につき、平成24年10月17日、合憲ではあるが違憲状態と判断した(民集66巻10号3357頁)。また、最高裁判所は、同年11月に国会が選挙区の定数を4名増員・4名減員させて選挙区間の最大較差を縮小させたものの、同年12月に政権交代が再び生じる中、上記較差が4.77倍となった 平成25年の通常選挙当時の定数配分規定につき、平成26年11月26日、合憲ではあるが違憲状態と再び判断した(民集68巻9号1363頁)。 そこで、国会は、平成27年、①東京都選挙区の定数を12名とするとともに、鳥取県と島根県、徳島県と高知県をそれぞれ合区させ各定数を2名とするなどして、選挙区の定数を10名増員・10名減員させることにより、 選挙区間の最大較差を2.97倍に縮小させること、②平成31年の通常選挙に向け、選挙区間の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得ることとした上で、同旨の規定を有する改正公職選挙法(②部分は附則)を成立させた。 (乙3、9~11) ⑷ 平成28年の通常選挙は、選挙区間の最大較差が3.08倍となったところ、鳥取・徳島・高知県では、有権者の合区に対する不興や反発等から、投票率が前回より約2.3~4.4%低下して過去最低を記録するとともに、無効投票率も全国平均を約0.3~3.5%上回り、中でも高知県では投票率が全国最低かつ無効投票率が全国最高となった。この頃から、全国の地方 公共団体やその長、関係団体は合区を解消し とともに、無効投票率も全国平均を約0.3~3.5%上回り、中でも高知県では投票率が全国最低かつ無効投票率が全国最高となった。この頃から、全国の地方 公共団体やその長、関係団体は合区を解消して選挙区を全都道府県とするこ- 7 -とを求めるようになり、世論やマスコミも同様の意見が多くを占めるようになった。 そのような中、参議院は、平成29年2月に参議院改革協議会を設置するなどした上で、選挙区間の較差を是正する方法として、選挙区を各都道府県としつつ定数に奇数も含める方法や選挙区をより広域のブロックとする方法 等について議論をした。しかし、いずれの方法にも課題があった上、同年9月27日に最高裁判所が平成28年当時の定数配分規定につき合憲状態と判断したこともあり(民集71巻7号1139頁)、結論を得られなかった。 そこで、国会は、平成30年、①合区を維持しつつ合区で減った選挙区の定数4名を補うため、比例代表の定数を4名増員させるとともに、選挙区の 定数を2名増員させることにより(比例代表100名、選挙区148名、総定数248名)、選挙区間の最大較差を2.99倍に縮小させることとし、②参議院選挙制度改革について引き続き検討を行う旨の附帯決議をした上で、上記内容の定数配分規定等を有する改正公職選挙法を成立させた。 (乙3、4、10~23、29~41) ⑸ 令和元年の通常選挙は、選挙区間の最大較差が3.00倍となったところ、鳥取・島根・徳島県では、前記⑷と同様の理由から、投票率が前回より約6. 3~8.4%低下して過去最低を記録するとともに、無効投票率も全国平均を約1.0~3.5%上回った。そのような中、令和2年11月18日に最高裁判所が取組に大きな進展はないとしながらも令和元年当時の定数配分 .4%低下して過去最低を記録するとともに、無効投票率も全国平均を約1.0~3.5%上回った。そのような中、令和2年11月18日に最高裁判所が取組に大きな進展はないとしながらも令和元年当時の定数配分規 定につき合憲状態と判断したこともあり(民集74巻8号2111頁)、参議院は、令和3年に参議院改革協議会を再び設置するなどした上で、前記⑷と同様の議論をしたが、結論を得られなかった。 また、令和4年7月の通常選挙は、選挙区間の最大較差が3.03倍となったところ、鳥取県では、前記⑷と同様の理由から、投票率が前回より約1. 1%低下して過去最低を記録するとともに、無効投票率も全国平均を約1. - 8 -2%上回った。そのような中、参議院は、同年11月に参議院改革協議会を再び設置するなどした上で、前記⑷と同様の議論をしたが、委員会・調査会の整理再編やデジタル化への対応等といった新たな議題も加わってきた上、令和5年10月18日に最高裁判所が喫緊の課題としながら令和4年当時の定数配分規定につき合憲状態と判断したこともあり(民集77巻7号165 4頁)、結論を得られず、令和7年6月、令和10年の通常選挙に向けて議論を継続していくことを上記協議会で確認した。 さらに、令和7年7月の本件選挙は、選挙区間の最大較差が3.13倍となったところ、鳥取県と徳島県では、前記⑷と同様の理由から、投票率が全国平均を約3.5~8.0%下回り、無効投票率も全国平均を約1.4~1. 8%上回った。 (乙1~3、5、6、24~27) 3 判断枠組み⑴ 基本的な判断枠組み憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人 の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると 3 判断枠組み⑴ 基本的な判断枠組み憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人 の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。他方、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政へ反映させるため、選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであって、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策 的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設 けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによっ- 9 -て、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記2⑴⑵においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国区選出議員(昭和57年の公職選挙法改正後は比例代表選出議員)と地方区選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け、前者については全国(全都道府県)の区域を通じ て選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和21年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。 しかしながら、社会的、経済的変化の激し 年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。 しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口 変動の結果、上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。 以上は、最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判 決・民集37巻3号345頁以降の参議院議員(地方区選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。 ⑵ 具体的な判断枠組みア憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認める反面、 参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均 衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解さ- 10 -れる。そして、いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会 実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられており、参議院議員につき衆議院議員と は異なる選挙制度を採用し、国民各層の多様な意見を反映させて、参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも、選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。 また、具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住 民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず、投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて、このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的 な裁量を超えるものとは解されない。 イ他方、参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度は、選出方法等に係るこれまでの変遷を経て同質的なものとなってきているところ、衆議院議員選挙については、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにする旨の区割りの 基準が定められ、少なくとも長期間にわたり2倍以上の較差が放置されることはないような措置が講じられている(衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条、4条参照)。また、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に、国政の運営における参議院の役割は大きなものとなってきている。 そうすると、二院制に係る憲法の趣旨や、半数改選などの また、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に、国政の運営における参議院の役割は大きなものとなってきている。 そうすると、二院制に係る憲法の趣旨や、半数改選などの参議院の議員- 11 -定数配分に当たり考慮を要する固有の要素を勘案しても、参議院議員選挙について直ちに投票価値の平等の要請が後退してもよいと解すべき理由は見いだし難い。したがって、立法府においては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について 議論し、取組を進めることが引き続き求められているというべきである(最高裁令和2年(行ツ)第78号同年11月18日大法廷判決・民集74巻8号2111頁参照)。 ウ前記アイを併せて考察すると、憲法が前提とする国政における民主主義は、国権の最高機関としての国会(41条)がその機能を十全に発揮し なければ実現できないものであるから、その構成員は、正当に選挙された代表者(前文)、すなわち公正かつ平等な選挙によって全国民を代表する者(43条)として選出された議員でなければならない。選挙権は、国民にとって最も基本的な憲法上の権利の一つであり、選挙において全国民を代表する議員を選ぶという全選挙人にとって同一の権能を行使す るものであるにもかかわらず、本件選挙当時のように、ある1選挙区の選挙人の投票価値が他の1選挙区の選挙人のそれと比較すると僅か3分の1程度しかないということは、平等原則という観点からすると、それだけで、議院の構成員が正当に選挙された者であるといえるのかに疑問符が付くし、個々の選挙人にとっても、自ら特定の住所地を選んだなど という理由では正当化できない理不尽なこと 点からすると、それだけで、議院の構成員が正当に選挙された者であるといえるのかに疑問符が付くし、個々の選挙人にとっても、自ら特定の住所地を選んだなど という理由では正当化できない理不尽なことである。 したがって、少なくとも、選挙区間の最大較差が本件選挙当時におけるように3倍程度まで開いているという状況がある場合には、その最大較差以外の諸要素との関係でやむを得ない事情があると認められない限り、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(違憲状態)にあるという べきである。 - 12 -(最高裁令和5年(行ツ)第54号同年10月18日大法廷判決の裁判官尾島明の意見・民集77巻7号1654頁参照)⑶ 原告らの主張に対する判断ア原告らは、国会において、委託者兼受益者たる国民から国政を受託しているので、国民に対して忠実義務を負うとともに利益享受を禁じられ、 選挙制度の決定について裁量を有しない旨主張する。 しかし、憲法43条2項、47条は、法律で両議院の議員の定数及び選挙に関する事項を定める旨規定しているから、国会は選挙制度の仕組みの決定について裁量を有する。憲法前文の「国政は、国民の厳粛な信託によるもの」は、国民と国会における代表者の間に事実上の信託関係が あることを意味しているにすぎない。仮に両者の間に法的な信託関係があるとしても、憲法43条1項が両議院の議員は特定の国民でなく「全国民を代表する」と規定し、自由委任の原則を定めていると解されることに照らせば、上記議員が裁量を有しないと解することはできない。 原告らの上記主張は、採用することができない。 イ原告らは、定数配分規定につき、投票価値の不均衡が違憲状態に至れば直ちに無効となるので、違 しないと解することはできない。 原告らの上記主張は、採用することができない。 イ原告らは、定数配分規定につき、投票価値の不均衡が違憲状態に至れば直ちに無効となるので、違憲状態が合理的期間にわたり継続した後に無効となるものではない旨主張する。 しかし、投票価値の不均衡が違憲状態に至ったか否かの判定は難しく、客観的には違憲状態に至ったとしても、国会が速やかに適切な対応を取 ることは必ずしも期待し難い(最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁参照)。また、投票価値の不均衡が違憲状態に至ったとして、憲法98条1項により定数配分規定やこれに基づいて行われた選挙を直ちに無効と解しても、違憲状態が直ちに是正されるわけではない上、既に成立した法律等が無効と なったり議員がいなくなることで定数配分規定の改正すらできなくなる- 13 -などして憲法の所期しない結果が生じ得るから、かかる解釈は採るべきでない(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁参照)。 原告らの上記主張は、採用することができない。 4 当てはめ ⑴ 前記認定事実によれば、昭和31年に選挙区間の最大較差が3倍を超えてから約69年が、昭和37年に定数訴訟が提起されるようになってから約63年が、平成元年に政治が不安定化し、有権者や議員の投じる1票の意味が大きくなってから約36年が、平成8年に最高裁判所が通常選挙に係る定数訴訟で初めて違憲状態と判断してから約29年が、それぞれ経過したところ、 更に本件選挙でも合憲状態と判断すれば、いかなる理由を付したとしても、通常選挙における上記較差が3倍程度の場合、投票価値の平等は問 て違憲状態と判断してから約29年が、それぞれ経過したところ、 更に本件選挙でも合憲状態と判断すれば、いかなる理由を付したとしても、通常選挙における上記較差が3倍程度の場合、投票価値の平等は問題にならないと宣言するに等しい。 国会は、平成6年から平成30年までの間に選挙区間の最大較差を縮小させる定数増減や合区を6度にわたって実施したが、定数増減は人口の都市集 中が止まらず数年後に再び必要になるという意味で、合区は地方公共団体や世論等の理解が得られずに近い将来に解消する必要があるという意味で、いずれもいわば応急処置にすぎない。国会は、平成27年には平成31年の通常選挙に向けて選挙区間の較差の是正を含めた選挙制度の抜本的な見直しを行い、必ず結論を得る旨表明し、平成29年からは選挙区を各都道府県とし つつ定数に奇数も含める方法や選挙区をより広域のブロックとする方法等について議論をしていたにもかかわらず、最高裁判所から選挙区間の最大較差が3.08倍の定数配分規定につき合憲状態と判断されたこともあり、平成31年までに結論を得られなかった。国会は、その後も、議論こそ断続的に続けてきたが、新たな検討課題も加わって議論が拡散してきた上、最高裁判 所から喫緊の課題などと厳しく評価されながら全て合憲状態と判断されてき- 14 -たこともあり、結論を得られないまま最後の応急処置から7年が経過し、3回目の通常選挙となる本件選挙を迎えた。 選挙区間の最大較差は、令和元年の通常選挙が3.00倍、令和4年の通常選挙が3.03倍、令和7年の本件選挙が3.13倍となって、拡大率は1%(=3.03/3.00)から約3%(≒3.13/3.03)に増大しており、有意に拡 大したというべきである。それにもかかわらず、国会は、選 、令和7年の本件選挙が3.13倍となって、拡大率は1%(=3.03/3.00)から約3%(≒3.13/3.03)に増大しており、有意に拡 大したというべきである。それにもかかわらず、国会は、選挙区間の較差を是正する議論を継続すること等につき、平成27年には改正公職選挙法の附則に規定したのに、平成30年には附帯決議をし、令和7年には協議会で確認するにとどまるなど、較差拡大の是正に対する熱意の低下が明らかにうかがわれる。 これらの状況を総合すると、選挙区間の最大較差が3倍程度まで開いていることにつきやむを得ない事情があるとは認められず、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(違憲状態)にあったといわざるを得ない。 ⑵ 被告らの主張に対する判断 被告らは、①都道府県を選挙区の単位とすることにつき、多様な意見を効果的に国政へ反映させることができ合理的である上、少数意見たる地方の意見を効果的に国政へ反映させる点で必要性もある、②選挙区間の最大較差は、数十年間にわたって5倍前後で推移していたことに照らせば、有意な拡大傾向にない、③国会は、弊害があり不評な合区以外の方法を議論しているが、 いずれにも課題があるために意見が一致せず成案へ達することができていないだけであるから、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡は違憲状態になかった旨主張する。 しかし、①につき、国会は、平成29年頃から、選挙区を各都道府県としつつ定数に奇数も含める方法について議論をしており(前記2⑷)、都道府 県を選挙区の単位とすることを否定していない。この場合、選挙区全定数の- 15 -半分に相当する選挙区ではある年に通常選挙を行い、残り半分に相当する選挙区ではそ おり(前記2⑷)、都道府 県を選挙区の単位とすることを否定していない。この場合、選挙区全定数の- 15 -半分に相当する選挙区ではある年に通常選挙を行い、残り半分に相当する選挙区ではその3年後に通常選挙を行えば、憲法46条が求める3年ごとの半数改選や投票価値・投票機会の平等、地方公共団体・世論の要請を全て満たすことができる。 ②につき、令和元年以降における選挙区の最大較差が有意な拡大傾向にあ ることは、前記⑴のとおりである。数十年間にわたって5倍前後で推移していたことを比較の対象とすることは、5倍前後という最大較差自体が許されない以上、正当な判断方法とは解されない。 ③につき、上記①のとおり、選挙区を各都道府県としつつ定数に奇数も含める方法がある。また、前記認定の経緯に照らせば、国会において成案に達 することができていないのは、いずれの方法にも課題のあることが主たる要因というより、参議院発足時のような絶対的な検討期限がなく、最高裁判所も現状の定数配分規定を合憲状態と判断し続けてきたことに主たる要因があるものと認められ、合理的な成案に達するのになお一定の時間を要するとは最早認め難いというべきである(なお、証拠(乙7)によれば、国会が平成 29年頃から議論してきた選挙区間の較差を是正する方法は、帝国議会が昭和21年に選挙区の制度設計をするに当たって議論してきた内容とおおむね同旨であることが認められる。)。 被告らの上記主張は、採用することができない。 ⑶ 本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡は、前記⑴のとおり、違憲状 態にあった。しかし、最高裁判所は、選挙区間の最大較差が3倍程度である場合の定数配分規定について違憲状態と判断したことがなく、むしろ令和5年10月18日に の不均衡は、前記⑴のとおり、違憲状 態にあった。しかし、最高裁判所は、選挙区間の最大較差が3倍程度である場合の定数配分規定について違憲状態と判断したことがなく、むしろ令和5年10月18日に合憲状態と判断したことに照らせば、本件選挙が行われた令和7年7月当時、まだ是正のための十分な期間が経過したとは認められず、本件選挙までの期間内に是正のされなかったことが国会の裁量権の限界を超 えるとまではいえない。 - 16 -そうすると、本件定数配分規定は、憲法に違反せず有効である。 5 したがって、本件北部九州選挙は、有効な定数配分規定に基づいて行われたといえるので、選挙規定に違反したといえず、無効事由が認められない。 第4 結論以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却すること とし、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第4民事部 裁判長裁判官松田典浩 裁判官志賀勝 裁判官矢崎豊
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