【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人成富安信の上告理由第一ないし第七について。 原判決は、上告人がした
主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人成富安信の上告理由第一ないし第七について。 原判決は、上告人がした原判示の二階増築行為が、被上告人の住宅の日照、通風 を違法に妨害したとして、不法行為の成立を認め、上告人に対し、これによつて生 じた損害の賠償を命じている。 思うに、居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であり、それ が他人の土地の上方空間を横切つてもたらされるものであつても、法的な保護の対 象にならないものではなく、加害者が権利の濫用にわたる行為により日照、通風を 妨害したような場合には、被害者のために、不法行為に基づく損害賠償の請求を認 めるのが相当である。もとより、所論のように、日照、通風の妨害は、従来与えら れていた日光や風を妨害者の土地利用の結果さえぎつたという消極的な性質のもの であるから、騒音、煤煙、臭気等の放散、流入による積極的な生活妨害とはその性 質を異にするものである。しかし、日照、通風の妨害も、土地の利用権者がその利 用地に建物を建築してみずから日照、通風を享受する反面において、従来、隣人が 享受していた日照、通風をさえぎるものであつて、土地利用権の行使が隣人に生活 妨害を与えるという点においては、騒音の放散等と大差がなく、被害者の保護に差 異を認める理由はないというべきである。 本件において、原審は、挙示の証拠により、上告人の家屋の二階増築部分が被上 告人居住の家屋および庭への日照をいちじるしくさえぎることになつたこと、その 程度は、原判示のように、右家屋の居室内および庭面への日照が、季節により若干 の変化はあるが、朝夕の一時期を除いては、おおむね遮断されるに至つたほか、右 - 1 - 増築前に比較すると、右家屋への南方からの通風も悪く のように、右家屋の居室内および庭面への日照が、季節により若干 の変化はあるが、朝夕の一時期を除いては、おおむね遮断されるに至つたほか、右 - 1 - 増築前に比較すると、右家屋への南方からの通風も悪くなつた旨認定したうえ、か ようにも日中ほとんど日光が居宅に差さなくなつたことは、被上告人の日常万般に 種々影響を及ぼしたであろうことは容易に推認することができると判示している。 ところで、南側家屋の建築が北側家屋の日照、通風を妨げた場合は、もとより、 それだけでただちに不法行為が成立するものではない。しかし、すべて権利の行使 は、その態様ないし結果において、社会観念上妥当と認められる範囲内でのみこれ をなすことを要するのであつて、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによつ て生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を 越えたと認められるときは、その権利の行使は、社会観念上妥当な範囲を逸脱した ものというべく、いわゆる権利の濫用にわたるものであつて、違法性を帯び「不法 行為の責任を生ぜしめるものといわなければならない。 本件においては、原判決によれば、上告人のした本件二階増築行為は、その判示 のように建築基準法に違反したのみならず、上告人は、東京都知事から工事施行停 止命令や違反建築物の除却命令が発せられたにもかかわらず、これを無視して建築 工事を強行し、その結果、少なくとも上告人の過失により、前述のように被上告人 の居宅の日照、通風を妨害するに至つたのであり、一方、被上告人としては、上告 人の増築が建築基準法の基準内であるかぎりにおいて、かつ、建築主事の確認手続 を経ることにより、通常一定範囲の日照、通風を期待することができ、その範囲の 日照、通風が被上告人に保障される結果となるわけであつたにかかわらず、上告人 の本件二階増築行為により、住宅 築主事の確認手続 を経ることにより、通常一定範囲の日照、通風を期待することができ、その範囲の 日照、通風が被上告人に保障される結果となるわけであつたにかかわらず、上告人 の本件二階増築行為により、住宅地域にありながら、日照、通風を大巾に奪われて 不快な生活を余儀なくされ、これを回避するため、ついに他に転居するのやむなき に至つたというのである。したがつて、上告人の本件建築基準法違反がただちに被 上告人に対し違法なものとなるといえないが、上告人の前示行為は、社会観念上妥 当な権利行使としての範囲を逸脱し、権利の濫用として違法性を帯びるに至つたも - 2 - のと解するのが相当である。かくて、上告人は、不法行為の責任を免れず、被上告 人に対し、よつて生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。 上告人に右損害賠償の義務を認めた原判決は正当であり、論旨は、採用することが できない。 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の とおり判決する。 最高裁判所第三小法廷 裁判長裁判官 関 根 小 郷 裁判官 田 中 二 郎 裁判官 下 村 三 郎 裁判官 天 野 武 一 裁判官 坂 本 吉 勝 - 3 -
▼ クリックして全文を表示