平成28年5月27日宣告平成27年(わ)第655号強盗殺人被告事件主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,生活費や遊興費に困り,金融機関や知人から借金を繰り返していたところ,平成26年3月頃,いわゆる闇金融を営むA(以下「被害者」という。)と知り合って同人から金銭を借り入れ,一旦完済した後,同年5月上旬頃,年金を担保に月1割の利息を支払う約束で新たに15万円を借り入れ,その後も毎月ではないが月10万円ないし15万円程度の借入れを継続した。他方,被告人は,被害者に対し,2か月に1度偶数月に年金が振り込まれる預金口座の通帳を預け,その年金から平成27年2月までに65万円程度を返済したが,年金以外での返済を求められることもあった。そのため,被告人は,自分の妹から援助を受けられるかのように装った妹名義のうその念書を被害者に差し入れて返済を引き延ばし,平成27年3月か翌4月頃には上記通帳の紛失届を金融機関に提出して被害者に対する返済を滞らせた。これにより,被告人は,同年8月下旬頃の時点で多くとも約200万円の債務を負う状態に陥り,被害者から,やくざを使って妹から取り立てる,債務残額は400万円であるなどと言われて,債務の返済を迫られた。被告人は,このような被害者の言動に加え,被害者から無報酬で雑用をさせられるなどの不当な扱いを受けたと感じていたことなどから,被害者に強い憎しみを抱き,その頃までには,被害者の殺害を漠然と考えるようになっていた。 (罪となるべき事実)被告人は,金融機関からの新たな借入れや自分の借金の返済に関して被害者と相談するため,平成27年9月7日午前8時前頃,広島市a区b町c番d 害を漠然と考えるようになっていた。 (罪となるべき事実)被告人は,金融機関からの新たな借入れや自分の借金の返済に関して被害者と相談するため,平成27年9月7日午前8時前頃,広島市a区b町c番d号eビルf 号室の被害者方を訪れた。しかし,借金の明細を明らかにすることを拒む被害者との間で口論となり,同人からペットボトルで肩や胸の辺りを小突かれたりしたことをきっかけに,被害者に対する憎しみを爆発させ,被害者を殺害し,多くとも約200万円の前記債務の返済を免れようと考えた。そこで,被告人は,同日午前9時頃,同所において,被害者(当時66歳)に対し,殺意をもって,その口及び鼻を両手で塞ぎ,その頭部をガラス製の灰皿(重量約1.234キログラム)で10回程度殴るなどし,よって,その頃,同所において,同人を出血性ショックにより死亡させて殺害し,同暴行終了後,テーブル上にあった財布内の現金を奪おうと考え,同人所有の現金約135万円を強取するとともに,上記債務の返済を事実上免れて財産上不法の利益を得た。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断及び事実認定の補足説明) 1 被告人が被害者所有の現金を奪う決意をした時点この争点に関する被告人の公判供述は,被害者方6畳間のベッドに座っていた被害者の背後に回ってその口と鼻を両手で塞いでいる最中に,被害者が「やめえや。借金もチャラにしたるから,金もあるだけ持って帰れ。」などと言ってテーブル上に財布を投げつけ,その財布から札が出ているのが見えた,心臓が悪く口や鼻を塞げば簡単に殺せると考えていたのに被害者に抵抗されたので被害者を制圧して殺害することに集中しており,そのときは,お金のことを考える余裕がなかったというものである。そして,検察官は,犯行状況に関する被告人の同供述を前提として,財布から札 に抵抗されたので被害者を制圧して殺害することに集中しており,そのときは,お金のことを考える余裕がなかったというものである。そして,検察官は,犯行状況に関する被告人の同供述を前提として,財布から札が見えた時点で欲が出てお金を取ろうと思った旨の供述が記載された被告人の検察官調書(乙5)に基づき,被害者がテーブル上に投げつけた財布から札が出ているのを被告人が見た時点で現金を奪う決意をしたと主張する。しかし,当時の取調べ状況を見ると,検察官が正に「お金が見えた時点」の被告人の内心を問うているのに対し,被告人は,その「お金が見えた時点」を,財布から札が出ている状況を「初めて見た時点」であるのか,あるい は,その後被害者方を立ち去るまでの間に見たという「幅のある時点」であるのかを明確に区別して供述しているのか疑わしい。上記検察官調書の供述記載を文字通り理解することは相当でない。さらに,被告人が供述する犯行状況を前提とすれば,被告人が,当時,生活費に困っていたことなどの検察官主張の事情を考慮しても,現金を見た瞬間にこれを奪うことまでとっさに思いが至らないことは十分にあり得る。 以上によれば,検察官の上記主張について,常識的に考えて間違いないといえるだけの立証はなく,被告人が公判で供述するとおり,殺害行為の終了後に現金を奪う決意をしたものと認定した。 2 被告人が被害者の胸部をガラス製の灰皿で殴打した事実の有無検察官は,被告人が被害者の胸部を灰皿で殴った旨主張するのに対し,被告人は,犯行状況に関し,被害者の口と鼻を両手で塞ぐなどしてもみ合っていると被害者がベッドから落ち,テーブルとの間に身体の左側を下にして横たわった,ほとんど動かなかった被害者に止めを刺そうと考え,ビニールひもで首を絞めようとしたがうまくできず,続いて,頭にビニー ていると被害者がベッドから落ち,テーブルとの間に身体の左側を下にして横たわった,ほとんど動かなかった被害者に止めを刺そうと考え,ビニールひもで首を絞めようとしたがうまくできず,続いて,頭にビニール袋をかぶせ,テーブル上に置いてあったガラス製の灰皿を右手に持ち,被害者の頭の辺りに両膝を着き,肩くらいの高さまでその灰皿を振り上げて10回くらいビニール袋の上から被害者の頭を殴った,被害者の胸を灰皿で殴ってはいないなどと供述する。 被告人の同供述は,事件直後に被害者の遺体がベッドとテーブルの間の狭い空間に左側を下にして横たわっていた状況や被害者の頭部の損傷がほぼ右側に集中していたことなど,客観的な現場や遺体の状況とよく整合しているから,信用することができる。この被告人供述から認められる犯行状況によれば,被害者の胸部を灰皿で殴ることができるような機会が生じたとは言い難い。 被害者の遺体を解剖したB医師は,被害者の前胸部左側に認められる断線状で弧状の表皮剥脱は鈍体による圧迫により生じたものと考えられ,凶器となった凹凸のある灰皿を成傷器と考えて矛盾がない旨,上記圧迫が1回である旨証言する が,灰皿以外の成傷器の存在を否定するものではなく,本件犯行現場の状況や被告人と被害者とのもみ合いの状況等からすると,灰皿でわざと殴打しなくとも被害者の前胸部左側の表皮剥脱が生じ得た可能性を排斥することができない。 この点に関する検察官の主張についても,常識的に考えて間違いないといえるだけの立証はされていない。 3 被告人が被害者から約200万円の債務の返済を迫られていたとされている点被告人は,前記(犯行に至る経緯)のとおりの借入れと返済を繰り返した末,被害者に対する借入元金は30万円ないし50万円程度であり,複利計算で算出される利息を含めると200 られていたとされている点被告人は,前記(犯行に至る経緯)のとおりの借入れと返済を繰り返した末,被害者に対する借入元金は30万円ないし50万円程度であり,複利計算で算出される利息を含めると200万円程度は返済しなければならないと考えていた旨供述する。被告人が平成26年5月頃に15万円を借り入れたことが同年4月23日付けの金銭借用証書により裏付けられていること,その後の借入れの額及び頻度に関する被告人供述に特段不自然な点がないことに照らすと,この被告人供述は信用することができる。 他方,被告人供述以外に,被告人の債務残額が約200万円であることを明確に示す明細等の資料は存在しない。被告人に対する貸付元金が平成26年秋頃の時点で約110万円であった旨のCの証言も,その算出根拠が不明であり,証拠価値が乏しい。 そうすると,具体的な債務残額を証拠によって確定することは困難であり,債務残額についての被告人の上記認識に基づき,平成27年8月下旬頃の時点で多くとも約200万円の債務が残存していたと認めるのが相当である。 (法令の適用)[罰 条]包括して刑法240条後段(なお,本件の現金奪取は,借金返済を免れる目的で行われた殺害行為の直後,これに引き続いて,その機会にその場所で行われたものであるから,本件の不法利得と包括して考慮するのが相当であり,現金奪取の点も含めた被告人の本件犯行 は,強盗殺人の包括一罪に当たる。)[刑種の選択]無期懲役刑を選択[未決勾留日数の算入]刑法21条[訴訟費用の不負担]刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人は,被害者の心臓が悪いことを知りながら,口と鼻を両手で塞ぎ,被 刑法21条[訴訟費用の不負担]刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人は,被害者の心臓が悪いことを知りながら,口と鼻を両手で塞ぎ,被害者が倒れて動かなくなった後も,ガラス製の灰皿で血が出るまで頭部を殴り続けるなどした。突発的とはいえ,その犯行態様は,被害者を確実に殺害する危険性の高いものである。生じた結果は,被害者を殺害し,借金の返済を事実上免れるにとどまらず,現金約135万円を奪うというものであり,うち約130万円が残っている点を踏まえても,重大である。酌むべき事情として弁護人が強調する犯行に至る経緯及び動機について見ると,厳しい取立てに遭って窮地に追い込まれるほどの状況が生じていたとは認められず,闇金融との関わり及び金銭に窮する事態も被告人自身が招いたことであるし,窮状を脱する合法的な方法が残されていたのに安易かつ身勝手に本件犯行に及ぶ決意をしており,同情の余地は少ない。このような犯情の重さからすると,法定刑を下回る量刑をすべき事情はない。被告人が事実を認めて犯した罪に向き合う姿勢を見せていること,知人女性が今後定期的な面会を通じて被告人の心の支えになると見込まれることなど,被告人に有利と評価できる一般情状事実を考慮しても,なお法定刑を下回る量刑をすべき事情はなく,同種の強盗殺人事案の量刑傾向に照らし,被告人に対しては,検察官の求刑どおり無期懲役刑に処するのが相当である。 (検察官山名論平,同岩本直人,弁護人矢野雄介〔主任〕,同田島侑介各出席)(検察官求刑無期懲役刑弁護人の量刑意見酌量減軽の上有期懲役刑)平成28年5月31日広島地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官丹羽芳徳 護人の量刑意見酌量減軽の上有期懲役刑 平成28年5月31日 広島地方裁判所刑事第1部 裁判長 裁判官 丹羽芳徳 裁判官 武林仁美 裁判官 藤村香織
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