- 1 - 主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】 被告人は、令和3年4月14日午後4時55分頃、普通乗用自動車を運転し、京都市A区B町C番地D先の最高速度が時速40㎞と指定された左方に湾曲する道路(以下「カーブ②」という。)を京都市E区F町方面からG方面に向かい進行するに当たり、その進行を制御することが困難な速度である時速約94㎞の高速度で自車を走行させたことにより、自車を道路の湾曲に応じて進行させることができず、 右前方に暴走させて対向車線に進出させ、折から対向進行してきたH(当時53歳)運転の中型貨物自動車前部に自車前部を衝突させ、よって、同人に加療約24日間を要する頸部外傷性症候群等の傷害を、自車同乗者I(当時19歳)に入院11日間を要する右橈尺骨骨幹部開放骨折等の傷害をそれぞれ負わせるとともに、同J(当時19歳)に外傷性内臓破裂の傷害を負わせ、同日午後6時52分頃、京都市K区 内の病院において、同人を同傷害により死亡させ、同L(当時20歳)に多発外傷の傷害を負わせ、同月15日午後4時32分頃、京都市K区内の病院において、同人を同傷害に基づく外傷性くも膜下血腫及び低酸素脳症により死亡させた。 【証拠の標目】(略) 【事実認定の補足説明】 1 争点被告人が判示の日時場所において、進行を制御することが困難な速度(以下「制御困難高速度」という。)である時速約94㎞で自車を走行させたことにより、H運転の自動車前部に自車前部を衝突させ、判示の死傷結果を生じさせたことに 争いはなく、証拠から間違いなく認められる。しかしながら、検察官と弁護人と - 2 - の間では、制御困難高速度の故意の有無に争いがある。検察 突させ、判示の死傷結果を生じさせたことに 争いはなく、証拠から間違いなく認められる。しかしながら、検察官と弁護人と - 2 - の間では、制御困難高速度の故意の有無に争いがある。検察官は、被告人は運転操作を少しでも誤れば自車を進路から逸脱させるほどの高速度になっている、又は、なっているかもしれないと分かっていたから、制御困難高速度の故意が認められると主張する。これに対し、弁護人は、被告人が制御することが困難な高速度になっている、又は、なっているかもしれないと分かっていたことが、間違い ないとは言えないと主張する。 2 争点に対する判断⑴ 本件当日、被告人は、大学自動車部の見学会に参加したところ、そこでは自動車部のガレージを出発して一般道を走行する乗車体験が行われた。そのコース(以下「本コース」という。)は、片道約1.6㎞の道路を往復するもので、 その大半は片側一車線の対面通行道路であった。また、その片側一車線の対面通行道路には、左右のカーブが複数あり、復路では山道のカーブが続いた後に平地となったコース終盤に、限界旋回速度(自動車がカーブに沿って走行することができる最高速度)が時速約85.1㎞の他よりも急な左カーブ(カーブ②)があった。 被告人が本コースを走行するのは、本件当日が初めてであったが、本件事故に先立ち、自動車部員が運転する車の助手席に乗り、本コースを2往復したほか、自分の車をさほど速度を出さずに自ら運転し、本コースを1往復したことがあった。したがって、被告人は、本コースの大半が片側一車線の対面通行道路であることや、本コース終盤の山道から平地となった先に他よりも急な左カ ーブがあることを分かっていたと認められる。 本件事故は、被告人が2回目に自分の車を自ら運転した際に起きたが、 通行道路であることや、本コース終盤の山道から平地となった先に他よりも急な左カ ーブがあることを分かっていたと認められる。 本件事故は、被告人が2回目に自分の車を自ら運転した際に起きたが、その車のドライブレコーダー映像等によると、被告人は、復路の開始と同時に急激に速度を上げて高速度で運転し続け、事故現場から約250メートル手前の山道にある左カーブ(以下「カーブ①」という。)に時速95㎞で進入し、車は、 カーブを曲がる際、センターラインを大きくはみ出したことが認められる。ド - 3 - ライブレコーダーの位置と運転者の位置の違いによる見え方の違いを考慮しても、被告人はそのことを容易に認識できたし、実際、はみ出した直後に車は自車線に戻っているから、被告人は車がセンターラインを大きくはみ出したことを認識していたと認められる。 しかるに、被告人は、車を減速させることなく運転し続け、カーブ①進入時 とほぼ同じ時速94㎞で、カーブ②に進入した。被告人が、本コースのような一般道を本件時のような高速度で走行するのは初めてのことであったから、その運転に緊張等を強いられ、視界が狭くなるなどしていた可能性はある。しかし、すでに認定したとおり、被告人は、本コースの大半が片側一車線の対面通行道路であることや、本コース終盤の山道から平地となった先に他よりも急な 左カーブがあることを分かっていたのであり、カーブ①を通過後、山道から平地となった先に左カーブがあることに気付いた時点で、そのカーブは、たぶん本コース終盤にある他よりも急な左カーブだろうくらいのことは分かったと認められる。 したがって、被告人は、2回目に自ら本コースを運転した際、復路において、 片側一車線の対面通行道路を、高速度で走行し、カーブ①でセンターラ ーブだろうくらいのことは分かったと認められる。 したがって、被告人は、2回目に自ら本コースを運転した際、復路において、 片側一車線の対面通行道路を、高速度で走行し、カーブ①でセンターラインから車をはみ出させたものの、その後もほぼ同速度で運転し続け、たぶん本コース終盤にある他よりも急な左カーブだろうと分かりつつ、カーブ②に進入したのであるから、運転操作を少しでも誤れば自車を進路から逸脱させるほどの高速度になっているかもしれないことを分かっていたと認められる。 被告人は、カーブ②への進入に先立ち、減速するなどの危機回避行動をとっていないが、わざと本件事故を起こしたわけではないから、被告人としては、カーブ②を曲がりきれると思っていたと考えられる。 しかしながら、そのことは制御困難高速度の認識が被告人にあったことと何ら矛盾するものではない。被告人は、自動車が好きで大学自動車部の見学会に 参加し、乗車体験において、本コースを自分で普通に運転した後に、先輩部員 - 4 - が運転する車の助手席に乗り、これまでにない急加速や激しいコーナリングを体感して気分が高揚していたと考えられる。その後、2回目に自ら運転したときには、同乗者から速度を上げるよう促されたこともあって、その先輩の運転技術は別格で真似をすると危険である旨同乗者から言われていたにもかかわらず、その先輩の運転を真似るかのように、一般道ではこれまで出したことのな い高速度で車を運転し続け、本件事故に至っている。したがって、被告人は、カーブ②に進入するに当たり、運転操作を少しでも誤れば自車を進路から逸脱させるほどの高速度になっているかもしれないという事実認識はありながら、高速度での走行を試したいとの気持ちが勝り、カーブ②を曲がりきれると判断を誤り、あ 、運転操作を少しでも誤れば自車を進路から逸脱させるほどの高速度になっているかもしれないという事実認識はありながら、高速度での走行を試したいとの気持ちが勝り、カーブ②を曲がりきれると判断を誤り、あえて危険な運転を選択したと認められる。 以上より、被告人には、本件当時、制御困難高速度の故意があったと認められる。 【法令の適用】罰条各危険運転致死の点 死亡した被害者ごとに、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条2号(人を死亡させた場合)各危険運転致傷の点負傷した被害者ごとに、同法2条2号(人を負傷させた場合)科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるところ、各危険運転致死罪は危険運転致傷罪よりも重いが、危険運転致死罪の犯情は死亡した被害者ごとに異ならないのでその一つを選ぶことをせず、1罪として危険運転致死罪の刑により処断)未決勾留日数の算入 刑法21条 - 5 - 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書【量刑の理由】本件犯行により、2名の未来ある若者の生命が失われ、2名が重傷を負った。若くして命を奪われた被害者の無念さは察するに余りあり、遺族にもたらされた苦悩、 苦痛も計り知れない。被害結果は誠に重大である。被告人は、3名の同乗者がいるにもかかわらず、指定最高速度の2倍以上の著しい高速度で、車通りの少なくない道路において車を運転したのであり、対向車と自車を衝突させて生命を侵害する危険性が高い運転行為である。 犯行に至る経緯についてみると、本件は大学の自動車部が恒例で行っていた一般 道での乗車体験で起きている。被告人は、乗車体験のことを知らずに、入部希 生命を侵害する危険性が高い運転行為である。 犯行に至る経緯についてみると、本件は大学の自動車部が恒例で行っていた一般 道での乗車体験で起きている。被告人は、乗車体験のことを知らずに、入部希望者として自動車部の見学会に赴き、先輩部員による高速走行を体感したり、同乗者に速度を上げるよう促されたりして、これまで一般道では出したことのない速度で運転し、本件犯行に及んでいる。被告人が普段であればしない高速走行を本件でしたことには、このような直前の体験や車内の雰囲気等が影響したと認められる。また、 そこには犯行当時19歳であった被告人の未熟さも影響していたと認められる。これらのことは、被告人に対する非難を弱める事情として一定程度考慮することができる。しかし、車の運転は被告人に委ねられていたのであり、アクセルを踏んでブレーキを踏まなかったのは被告人自身であるから、非難を弱めることには限界がある。 以上を踏まえ、被告人がした罪の重さを検討すると、同種事案(高速度類型の、被害者が被告人車両に同乗していた危険運転致死であって、処断罪と同種の罪の件数が2~4件の事案)の中で、やや重い部類といえる。 その他の調整要素についてみると、被告人に犯罪傾向はなく、二度と自動車を運転しないと誓約しているから、再犯のおそれはない。また、被告人は本件犯行を悔 い、被害者や遺族へ謝罪の意思を示している。対人賠償無制限の任意保険による損 - 6 - 害賠償も見込まれる。 以上より、被告人に対しては、主文の刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑懲役9年、弁護人の科刑意見過失運転致死傷罪を前提に懲役3年執行猶予4年)令和5年2月28日 京都地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官安永武央 刑懲役9年、弁護人の科刑意見過失運転致死傷罪を前提に懲役3年執行猶予4年)令和5年2月28日 京都地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官安永武央 裁判官村川主和 裁判官大野友己
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