主文 被告人を懲役1年10月に処する。 未決勾留日数中450日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,自動車事故を偽装して保険会社から保険金支払名下に金員を詐取しようと企て,分離前共同被告人A,同B及び同C並びにD,E,F,G,H,I,J,K,L,M,N及びOと共謀の上,平成12年11月25日,大阪府a市bc番地先路上において,P火災保険株式会社の任意自動車保険に加入し,前記Eが運転する株式会社Qd所有の普通貨物自動車を,前記Fが運転し,前記G,同H及び同Iが同乗する普通乗用自動車に故意に衝突させ,引き続き,前記F運転の同車両を,前記Bが運転し,前記J,同K及び同Lが同乗する普通乗用自動車に,更に,前記B運転の同車両を,前記Cが運転し,前記M,同N及び同Oが同乗する軽四乗用自動車に,それぞれ順次故意に衝突させた上,同月27日ころ,前記Eにおいて,株式会社Qd店店長Rを介し,奈良市e町f丁目g所在のP火災保険株式会社d支店損害サービス課係員Sに対し,真実は,同事故は被告人らが故意に惹起したもので保険金請求ができない場合であるのに,これを秘して,同事故があたかも前記Eの過失による追突事故で保険金請求ができる場合であるかのように申し向け,別紙犯罪事実一覧表記載のとおり,被告人らにおいて,同年12月7日ころから平成13年5月17日ころまでの間,前後27回にわたり,神戸市h区i通j番所在のk内同社神戸損害サービス部自動車損害サービス第3課ほか1か所において,同会社係員に対し,前記Fらの休業損害証明書及び免責証明書を提出するなどして保険金の支払方を請求し,同会社神戸損害サービス部自動車損害サービス第3課課長代理Tほか4名をして,その旨誤信さ において,同会社係員に対し,前記Fらの休業損害証明書及び免責証明書を提出するなどして保険金の支払方を請求し,同会社神戸損害サービス部自動車損害サービス第3課課長代理Tほか4名をして,その旨誤信させ,よって,平成12年12月14日から平成13年5月21日までの間,同会社係員をして,神戸市l区mn丁目o番p号U銀行r支店H名義の普通預金口座ほか10口座に合計653万2670円を振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させたものである。 (証拠の標目)―括弧内は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(弁護人の主張に対する判断) 1 弁護人は,平成13年2月1日,共犯者Hは兵庫県s警察署警察官に自首し,同月中には,同人の自首調書を含む多数の詳細な本件事件の自白調書が作成されているところ,同年2月の時点で,捜査機関は交通事故を装った本件詐欺事件につき,そのほぼ全容を掌握していたのであり,被害者であるP火災保険株式会社は,捜査機関からの捜査関係事項照会等により,判示交通事故が故意による偽装事故であり,捜査の対象となっていることを,同月末ころか,同年4月17日ころ,あるいは遅くとも同年5月9日ころには了知し,それぞれその段階においては,被欺罔者であるPの各担当者において,被告人らの欺罔行為によりいったん生じていた錯誤は解消されていたものというべきであるから,別紙犯罪事実一覧表番号16ないし27記載の各保険金の給付あるいは少なくとも同25ないし27記載の各保険金の給付は,被欺罔者の錯誤に基づいてなされたものとはいえず,それぞれその給付については詐欺未遂罪が成立するに止まる旨主張する。 当裁判所は,関係各証拠に照らし,弁護人の主張は理由がないと判断したのであるが,その理由について補足する。 2 関係各証拠によれば,分離前共同被告人 ては詐欺未遂罪が成立するに止まる旨主張する。 当裁判所は,関係各証拠に照らし,弁護人の主張は理由がないと判断したのであるが,その理由について補足する。 2 関係各証拠によれば,分離前共同被告人Aを首謀者として,被告人を含む多数の共犯者が共謀の上,判示の故意による偽装の多重追突事故(以下「本件事故」という。)を作出したこと,本件事故は,共犯者らの不実の申告により,刑事事件として,通常の交通事故として立件されると共に,Hら共犯者らにおいて,各保険金の請求の意向を明らかにし,V興業を勤務先とすると偽装した共犯者らについては,被告人が請求の窓口になるなどして各保険金請求手続が行われ,判示Eが運転する株式会社Qd所有の普通貨物自動車の契約任意保険会社であるPの担当者らにおいて,通常の交通事故として,以後,保険金請求・給付の事務処理に当たったこと,平成13年2月当時,すでに被告人らの欺罔行為により錯誤に陥っていたPの担当者らにより,治療費その他別紙犯罪事実一覧表番号1ないし15記載の各保険金を含む各保険金の給付がなされていたこと,Hは,被告人らから,かねて打合せの偽装の本件事故に伴う保険金請求のため必要となる通院を怠った等と責められ,ペナルティーとして金員を恐喝されそうになって窮し,同年2月2日兵庫県s警察署に出頭して保護を求めたこと,以後,Hは,同月中に自首調書(検察官請求証拠番号1)のほか本件詐欺事件の自白を内容とする4通の司法警察員に対する供述調書(同116ないし119)の作成に応じたことが認められる。 3 弁護人は,前記Hの各自白調書に加えて,捜査機関はPに対し捜査関係事項の各種照会をし,既払保険金額の報告を受け,あるいは各休業損害証明書の写しを徴求していたことなどに照らすと,平成13年2月末から同年3月初めころには,Pの保険金給付 ,捜査機関はPに対し捜査関係事項の各種照会をし,既払保険金額の報告を受け,あるいは各休業損害証明書の写しを徴求していたことなどに照らすと,平成13年2月末から同年3月初めころには,Pの保険金給付決裁者等担当者において本件事故が偽装事故であることを認識し,同人らにおいて被告人らの欺罔行為によりいったん生じていた本件事故が通常の交通事故であり,被告人らの保険金請求が正当な保険金請求である旨の錯誤はすでに解消されていたと主張するが,当時,Hの前記各自白調書や,これを確認する同人立会による実況見分調書が作成されていたとはいうものの,いまだ,本件事故が保険金詐取目的の偽装事故であることについては,特段他に裏付け捜査は行われていない段階にあったのであり,捜査機関においてすら,故意による交通事故を作出した上なされ,あるいはなされつつある保険金詐欺被疑事件として,相応の嫌疑を抱いていたにすぎないこと,捜査機関においては,共犯者多数の組織的,計画的な保険金詐欺被疑事件として,Pの関係者から,本件各保険金請求・給付手続の実態等について事情聴取するなどして,さらに嫌疑を固め,かつ,共犯者全員の特定を図った上,できる限り共犯者らを一斉に逮捕して強制捜査に入った後,前記故意による偽装事故の作出や各休業損害証明書等の作成経過等につき捜査を重ね,前記Hの供述の信憑性の吟味をした上,事件の全容解明と被告人を含む共犯者多数の起訴を目指していたものと認められるのであって,当時,相応の嫌疑が存在したとはいうものの,客観的には,そのような捜査を遂げなければ,被告人を含む共犯者らに対する起訴不起訴を決しがたい段階にあったことは疑いがない。なお,弁護人は「泳がせ捜査」であるとして,この捜査機関の捜査手法を非難するごとくであるが,その後,平成13年9月上旬ころまでの間,本件 に対する起訴不起訴を決しがたい段階にあったことは疑いがない。なお,弁護人は「泳がせ捜査」であるとして,この捜査機関の捜査手法を非難するごとくであるが,その後,平成13年9月上旬ころまでの間,本件事故処理にあたった警察官,Pの担当者らからの事情聴取や関係書類の取り寄せを行い,同月9日に被告人を含む多数の共犯者を一斉に逮捕した後,その共謀,犯行状況等について,被告人及び共犯者ら関係者の取り調べ等の捜査を行った捜査経過に照らしても,この捜査手法に格別問題とすべき点は見当たらないから,弁護人の主張は理由がない。そして,当時,捜査機関の本件事故に関する前記認識がどの程度Pの関係者らに伝わっていたのかについては,必ずしも明らかではないが,仮に,Pの関係者らにおいて,捜査機関と同様,本件事故が保険金詐取目的の偽装事故ではないかとの疑念を抱いていたとしても,捜査機関においてすら,あくまで嫌疑に止まるものであったのであるから,Pとしては,自らの判断にしたがって,保険金給付を続けるか,これを拒否するかを決するほかはなかったものと解するのが相当であって,その判断の当否は別にして,そのような状態で保険金の支払を続けた場合に,Pの担当者において,被告人らの欺罔行為によりいったん生じていた錯誤が解消されていたとする弁護人の主張は,明らかに失当である。 4 次いで,弁護人は,同年4月に本件捜査を引き継ぎ担当することになった兵庫県s警察署勤務のW警察官において,同月17日,P神戸損害サービス部に赴き,同所において,担当者と面談し,本件事故が保険金詐取目的の偽装事故であることを確認した上,この時点で示談の未だ成立していないOほか2名分(別紙犯罪事実一覧表番号25ないし27記載分)については,示談が成立し保険金額を支払った段階で被害届を提出する旨合意したと主張する。し を確認した上,この時点で示談の未だ成立していないOほか2名分(別紙犯罪事実一覧表番号25ないし27記載分)については,示談が成立し保険金額を支払った段階で被害届を提出する旨合意したと主張する。しかしながら,前記のとおり,この段階においても,捜査機関においてすら,本件事故が保険金詐取目的の偽装事故であるとする相当な嫌疑を有していたに止まるものであったことに変わりはないのであって,その意味で,捜査担当者とPの担当者間で,「本件事故が保険金詐取目的の偽装事故であることを確認した」とする弁護人の主張は正確ではなく,Pとしては,依然として,自らの判断にしたがって,保険金給付を続けるか,これを拒否するかを決するほかはない状態にあったものと認めるのが相当であるから,Pの担当者において,被告人らの欺罔行為によりいったん生じていた錯誤が解消されていたものとはいえず,弁護人の主張する被害届(同3)提出に至る事実関係は,Pの担当者において,錯誤に基づかずに保険金を給付したとする弁護人の主張を裏付けるものとはいえない。 5 さらに,弁護人は,Pの神戸損害サービス部第3課所属の担当者Xの平成13年5月9日付け司法警察員に対する供述調書(同29)中には,前記Xにおいて,本件事故が保険金詐取目的の偽装事故であり,被告人がPの担当者を騙して保険金を詐取しようとしていることに気付かなかった旨の供述部分があるから,少なくとも,同日以後は,同人において,被告人がPの担当者を騙して保険金を詐取しようとしていることに気付いていたのであり,このことは,その部署のいかんを問わず,Pの担当者において,被告人らの欺罔行為によりいったん生じていた錯誤が解消されていたことを示しており,別紙犯罪事実一覧表番号25ないし27記載の保険金の請求及び給付はこの後になされたものであるから,これ 担当者において,被告人らの欺罔行為によりいったん生じていた錯誤が解消されていたことを示しており,別紙犯罪事実一覧表番号25ないし27記載の保険金の請求及び給付はこの後になされたものであるから,これらの給付はPの担当者が錯誤に基づきなしたものとはいえない旨主張する。しかしながら,別紙犯罪事実一覧表番号25ないし27記載の保険金に関するPの直接の担当者であるt損害サービス第1部所属のY(同34)及びZ(同35,36)の司法警察員に対する各供述調書によれば,平成13年5月8日OからYに対し,電話で,治療が終わった,示談をしたいので示談関係書類用紙を送って欲しい旨依頼があり,前記Yにおいて,M,N分を含め合計3人分のそれをO宛に送付したところ,同月14日に前記O及びMから,同月17日に前記Nから示談書(いわゆる免責証書)が送付され,本来の決裁権者であるZが不在であったため,いずれもその上司であるzの決裁を得てそれぞれ保険金の給付をしたことが認められるから,Pの直接の担当者である前記Yらにおいて,本件事故が偽装の交通事故であることを知らないでその給付手続をしたものと優に認められる上,仮に,弁護人主張のとおり,その時点において,組織体としてのPにおいて,被告人らがPの担当者を騙して保険金を詐取しようとしていた可能性が強い旨認識しており,組織体としてのPにおいて,被告人らの欺罔行為により本件事故が通常の交通事故である旨錯誤に陥り前記の本件各保険金給付に応じてきた経過や,その後の捜査機関による捜査の進展を踏まえつつ,なお,捜査中であり,嫌疑に止まる段階にあるとして,最終の保険金請求にあたる別紙犯罪事実一覧表番号25ないし27記載の保険金の給付を停止する措置をとらなかったものであるとしても(なお,弁護人は,捜査機関において,前記各保険金請求を拒絶し あるとして,最終の保険金請求にあたる別紙犯罪事実一覧表番号25ないし27記載の保険金の給付を停止する措置をとらなかったものであるとしても(なお,弁護人は,捜査機関において,前記各保険金請求を拒絶しないようにPに働きかけたとするが,そのような事実関係は認められない。),前記各給付は,Pの担当者において,被告人らの欺罔行為により生じていた錯誤が解消しないままなされたものと認めるのが相当である。 6 以上の次第であるから,弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)罰条包括して,刑法60条,246条1項宣告刑懲役1年10月未決勾留刑法21条(450日算入)訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない。)(事案の概要並びに量刑の理由)本件は,分離前共同被告人Aから犯行に誘われた被告人が,同じく前記Aから犯行に誘われた分離前共同被告人B及び同Cのほか多数の共犯者らと共謀して,判示の偽装の交通事故を作出した上,判示のとおり,平成12年12月7日ころから平成13年5月17日ころまでの間,前後27回にわたり,Pに対し,保険金の支払方を請求し,よって,平成12年12月14日から平成13年5月21日までの間,保険金名下に合計金653万2670円を詐取した詐欺の事案であるところ,金銭に窮し,犯行を立案計画した首謀者からの誘いに安易に同調した被告人個人の犯行の動機に斟酌すべき事情はない上,何よりもまず,本件犯行が,いわゆる保険金詐欺という利欲的で反社会性の強い犯行であることのほか,本件犯行において,被告人は犯行の首謀者たる前記Aに次ぐ地位にあって,多数の共犯者らを犯行に巻き込んだ上,保険金請求の窓口となって休業損害証明書を偽造するなどして保険会社との交渉に及ぶなど重要,不可欠な役割を果たしたこと,その具体的な犯行の態 記Aに次ぐ地位にあって,多数の共犯者らを犯行に巻き込んだ上,保険金請求の窓口となって休業損害証明書を偽造するなどして保険会社との交渉に及ぶなど重要,不可欠な役割を果たしたこと,その具体的な犯行の態様も4台の自動車を準備して多重追突事故を偽装するなど大胆かつ悪質であり,保険金請求も執拗であって,被害額も多額であること,Hら共犯者らが打合せのとおりの通院をせず,詐取できる金額が減じたとして前記Aと共に同人らを脅して金員を交付させこれを受領したこと,被告人は,罰金前科4犯,懲役前科1犯(執行猶予付き)を有する者であり,当時,無為徒食中の暴力団員であったこと等に徴すると,被告人の刑事責任は重大であり,実刑は免れないものと思料するが,被害弁償として,共犯者らが既に合計約480万円を支払ったこと,被告人において,弁償金の一部として金60万円を支払ったこと,未決勾留が相当期間に及び,その間被告人なりに反省悔悟の情を深めたものと窺われること,所属暴力団に脱退届を提出し,社会復帰後は正業に就いて更生する旨誓約していること等,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮した上,主文のとおり量定した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年5月14日神戸地方裁判所第11刑事係甲裁判官杉森研二(別紙犯罪事実一覧表)は省略
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