令和6(う)99 逮捕監禁、保護責任者遺棄致死

裁判年月日・裁判所
令和6年9月10日 大阪高等裁判所 棄却
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判決文本文12,795 文字)

- 1 -令和6年(う)第99号逮捕監禁、保護責任者遺棄致死被告事件原審令和5年12月13日大阪地方裁判所堺支部判決判決 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中230日を原判決の刑に算入する。 理由 弁護人の控訴の趣意は、原判示第2に関する事実誤認及び法令適用の誤り並びに量刑不当の各主張である。 第1 事案概要 1 原判決が認定した罪となるべき事実の概要は、次のとおりである(呼称等は、特に記載しない限り原判決の表記による。)。 被告人は、平成26年頃、大阪府富田林市内の共同住宅の甲方(本件居室)で、内縁の夫として同人及びその子らと生活し、令和2年1月頃から、甲と共に、乙(甲の孫(女児)。以下「被害児」という。)と同居して同児を養育していたが、令和4年6月22日に甲と別れ話をするに至ったものの、同居や内縁の関係は解消されていなかった。そして、被告人は、甲と共謀の上、①令和4年6月24日から29日までの間、4回にわたり、同児(当時2 歳11 か月)を本件居室の寝室に設置したベビーサークル(四方の側面を板張りにし、上面に開閉式の板の蓋を付けたもの。本件ベビーサークル)内に閉じ込めるなどして逮捕監禁し(原判示第1 の1 ないし4)、②両名とも同児の養育者としてその生存に必要な保護を行うべき責任があるのに、同月27日午後8時3分頃、本件ベビーサークル内に同児を置き去りにして遺棄するとともに、その頃から同月29日までの間、同児を同サークル内に放置して、十分な水分や食事を与え、気温を適切に管理することもないまま生存に必要な保護をせず、同日、同サークル内で熱中症により死亡させた(原判示第2)。 - 2 - 2 原審では、甲が被害児の保護責任者であり、前記1①の間、同児 気温を適切に管理することもないまま生存に必要な保護をせず、同日、同サークル内で熱中症により死亡させた(原判示第2)。 - 2 - 2 原審では、甲が被害児の保護責任者であり、前記1①の間、同児を本件ベビーサークルに入れたことや、同児が熱中症で死亡したことに争いはなく、同①につき逮捕監禁行為の違法性等が、同②につき、被告人に保護責任者性が認められるか、甲と被告人が被害児を遺棄し、その生存に必要な保護をしなかったといえるか、被告人に保護責任者遺棄致死罪の共同正犯が成立するかという諸点が争点とされた。 3 原判決は、被告人について逮捕監禁及び保護責任者遺棄致死の各罪の共同正犯の成立を認め、原判示のとおり認定して、被告人を懲役6年(求刑・懲役7 年)に処した。 第2 事実誤認及び法令適用の誤りの控訴趣意について 1 論旨は、被告人と被害児は、令和4年6月27日時点で養育者と被養育者の関係になく、被告人は同児の保護責任者ではなかったのに、これを肯定して保護責任者遺棄致死罪の共同正犯の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがあると主張する。 2 原判決の判断概要原判決は、前提事実として、被告人らの人的関係につき、被告人は、平成26年頃、甲とその子ら(前夫との間の長女、三男及び四男(A)。以下、長女を「B」、三男を「C」という。)と本件居室で同居を始め、甲との間に男児をもうけたこと(平成28 年7 月生、平成30 年2 月認知。以下「D」という。)、被害児は、令和元年7月Cの長女として出生し、甲は、令和2 年1月被害児を引き取り、養育を開始したこと、被告人は、生活費として使用できるよう甲にキャッシュカードを渡すなどして同人らの生活費を負担していたことをそれぞれ認め(「争点に対する判断」第2 和2 年1月被害児を引き取り、養育を開始したこと、被告人は、生活費として使用できるよう甲にキャッシュカードを渡すなどして同人らの生活費を負担していたことをそれぞれ認め(「争点に対する判断」第2 の1)、本件ベビーサークルの作成経緯等、令和4年6月22日から29日までの間の出来事や被告人らの行動、被害児が死亡した同日の状況等を認定して(同第2 の2 ないし5)、逮捕監禁罪の成立を認めた上(同第3)、保護責任者遺棄致死罪の成否について、概要次のとおり説示した。 ⑴ 被告人は、平成26年頃から甲やその子らと本件居室で同居を開始し、同人- 3 -らの生活費を負担するなど一家の大黒柱としての役割を担っていたこと、被告人は、甲との間にDをもうけ、平成29年3月前妻と離婚し、Dを認知したことから、遅くとも令和2年1月までには、被告人と甲を養育者、A、Dを被養育者とする家族同様の関係ができあがっていたと評価できる。そして、被告人は、令和2年1月、甲が被害児を引き取って本件居室で同居することを容認し、その後約2年半にわたり同児と同居し、ときにはその世話をすることもあったから、同児も家族同様の関係に被養育者に加わったものというべきである。 被告人は、被害児との関係に照らし、その生命身体の安全を左右する立場にあり、同児の保護責任者であったと認めるのが相当である(「争点に対する判断」第4 の1⑴。この説示部分を「説示前段」という。)。 ⑵ 被告人及び甲は、令和4年(次項まで同年)6月22日に口論となり、被告人が甲に対し本件居室の鍵を、甲が被告人に対し、被告人名義のキャッシュカード、別宅及び経営会社名義の車の各鍵をそれぞれ返した旨等を述べた。 しかし、被告人は、6月22日と翌日に一人で別宅に泊まったが、同月24日以降は甲とDと一緒にホテルで連泊し、同月 義のキャッシュカード、別宅及び経営会社名義の車の各鍵をそれぞれ返した旨等を述べた。 しかし、被告人は、6月22日と翌日に一人で別宅に泊まったが、同月24日以降は甲とDと一緒にホテルで連泊し、同月25日から27日は毎日本件居室に立ち寄り、寝室で仮眠をしたり洗濯物をまとめ洗ってもらったりするなど家族同様の行動をしていたこと、自分の荷物を同居室に置き、テーマパークで遊興するために同居室で着替え、外泊用の荷物を詰めたこと等からすれば、同居室を生活の拠点とする家族としての実態は失われていなかったというべきである。また、甲は、被告人名義の車両や携帯電話を継続使用し、その帰属は決まっていなかった上、Dの養育費支払や財産分与に類する預金等の分配も決まらず、内縁解消の具体的な話し合いはない状況であったといわざるを得ない。 将来的に内縁等の関係が解消する可能性があったと評価できるとしても、本件当時はいまだ完全に解消されていなかったと認められ、被告人は、被害児の保護責任者であったと認めるべきである(「争点に対する判断」第4 の1⑵。この説示部分を「説示後段」という。)。 ⑶ 甲及び被告人が、6月27日、本件ベビーサークル内に被害児がいる状態で- 4 -本件居宅を出発し、同月29日までに水分等を与えたり気温管理をしたりしなかったことは明らかであり、甲は、Bに不在中の被害児の世話を頼まず、Aに何ら説明せずに旅行に出掛けたことが認められるから、被害児の生存に必要な保護につき十分な指示をしたとはいえない。甲及び被告人が被害児を遺棄し、その生存に必要な保護をしなかったと認められる。 また、被告人は、甲が被害児を遺棄し、その生存に必要な保護をしていない可能性があると認識しながら、それを容認していたというべきであり、被告人と甲は、互いに同児を遺棄し不保護状態にす と認められる。 また、被告人は、甲が被害児を遺棄し、その生存に必要な保護をしていない可能性があると認識しながら、それを容認していたというべきであり、被告人と甲は、互いに同児を遺棄し不保護状態にすることを認識し合って、保護責任者遺棄の意思を通じ合い、共に遺棄不保護行為をしたといえる(「争点に対する判断」第4 の2 ないし4)。 3 当裁判所の判断原審記録を調査し検討すると、原判決の認定・判断は正当として是認することができ、論理則経験則等に反する不合理な点も認められない。 所論は、被告人と甲の間で口論があった日の前後を分け、原判決の認定・判断を論難するので、これに即して検討する(以下、令和4 年6 月22 日の口論及び鍵の返却等の関連事実を併せ、「本件口論等」という。)。 ⑴ 本件口論等より前の事情に関する所論について所論は、保護の継続性、保護の引受け、先行行為及び保護者としての独占的地位という実質的な要素から保護責任の発生根拠を検討すべきであるとした上で、次の諸点を指摘し、被告人を被害児の保護責任者と認めた原判決の事実認定やその評価(説示前段)は誤っている旨主張する。 ① 被告人は、甲一人に養育負担が掛かるのを心配して被害児をふろに入れたことがあったが、令和2年2月又は3月頃、実父(C)が同児をふろに入れていた被告人に舌打ちし、同児の裸を他人に見られるのが気に入らないとするCの発言を聞いた後、同児の入浴等を避けるようになったこと、被害児の世話は主に甲が行い、AやBも積極的に同児の面倒を見ていたこと、令和2年から翌3年頃には、被告人が自己名義のキャッシュカードを甲に渡し、同- 5 -人、A及びDの生活費を負担していたこと、被害児の養育費用は父子手当から支出され、被告人が金銭的負担をしていなかったことからすれば、被告人と被 自己名義のキャッシュカードを甲に渡し、同- 5 -人、A及びDの生活費を負担していたこと、被害児の養育費用は父子手当から支出され、被告人が金銭的負担をしていなかったことからすれば、被告人と被害児の関係性は希薄であり、保護の継続性を認めるほど密接なものはなかった。 ② 被害児出生前後の同児の両親(Cとその妻)の生活状況、離婚して被害児を引き取ったCは、甲に同児の世話を頼んで預け、やがて預けたままになり、2歳になるまで預かるよう求めて、甲が応じたこと、被告人は甲が被害児を預かる意思決定に関与せず、事後に報告されたのみであったことからすれば、被告人は自己の意思に基づいて被害児を預かったり、自己の管理・支配下に置き始めたりしたわけではなく、保護を引き受けたとはいえない。 ③ 被告人は、自己の作為により被害児を熱中症で死亡させる危険を生じさせたわけではなく、本件ベビーサークルの四方を板張りに改造したのも甲の依頼ないし指示に基づくものであった。熱中症の危険を生じさせたのは、本件ベビーサークルに被害児を入れた上、室内の温度管理を適切に行わず、食事や水分を与えなかったことが原因であり、前記の改造が及ぼした影響は不明であるから、被告人には同児の生命身体の安全に危険を生じさせるような先行行為はなかった。 ④ AとBは、被害児やDへの基本的な養育を積極的に代行していたこと、被告人は、被害児の養育に自発的に関わらず、甲、A及びBが連携を取り合うなどして被害児の面倒を見ており、令和3年12月以降は専ら甲らが同児の世話をしていたことからすると、被告人は同児の養育・保護に関して部外者とみなされ、何ら責任を負っておらず、保護者としての独占的地位になかった。 保護責任者遺棄致死罪における保護責任の発生根拠については、所論が指摘するように保護の継続性等の観 育・保護に関して部外者とみなされ、何ら責任を負っておらず、保護者としての独占的地位になかった。 保護責任者遺棄致死罪における保護責任の発生根拠については、所論が指摘するように保護の継続性等の観点から実質的に検討することが相当といえるが、保護責任の有無は、当該事案における具体的な事実関係を基に、諸要素の内容や軽重等を踏まえた上で総合的に判断すべきものであり、各要素に当たる諸事- 6 -情が全て認められなければならないわけではない。 そこで原判決の説示(説示前段)をみると、原判決は、被告人が、甲の内縁の夫として、甲がその子らと住む本件居室で同居を始めてその世帯に加わり(関係証拠によれば、令和4 年7 月時点でBは22 歳、Cは20 歳、Aは15 歳であったとうかがわれ、また、Bは、被告人が甲らと同居を始めた後、本件居室に住むようになったことが認められる。)、Dが生まれ、被告人が前妻と離婚し、Dを認知したという出来事を含む平成26年頃から令和2年1月頃までの数年間に、被告人がその世帯の生活費を負担し、甲やA、Bらが家事や育児等を担うという日々の生活が積み重ねられた実態を踏まえ、同居室を拠点として互いに扶助し、未成年の子の保育・監護をする生活協同体が構成されたものとみて、甲が被害児を引き取る同月頃の時点では、被告人と甲を世帯の生計や生活の維持を担う養育者とし、未成年者のA、Dを被養育者とする家族同様の関係性が成立していたと認めたものと解される。原判決は、このように構築された生活協同体に被害児が加わり、本件口論等に至るまで更に2年余りを過ごしたという実情を併せ、同児も同じ協同体の中に組み込まれたと評価して、被告人が同児の保護責任者の立場にあったと認めたのであり、これは保護の継続性及びその引受けの観点からみても相当といえ、経験則等に照ら たという実情を併せ、同児も同じ協同体の中に組み込まれたと評価して、被告人が同児の保護責任者の立場にあったと認めたのであり、これは保護の継続性及びその引受けの観点からみても相当といえ、経験則等に照らしても不合理な点は認められない。 そして、被告人が甲らと本件居室に住み、数年間に及ぶ前記の関係性を築く中(甲及びDとの間では内縁ないし事実婚の関係に、甲の連れ子との間では同居家族としての関係にそれぞれあったといえる。)、甲がCから生後6か月程度の被害児を引き取った以降も、被告人がたまに同児の世話をすることはあっても、甲が家事や育児等を主に引き受ける状況は変わらず、被告人は同居室で営まれる世帯の生計維持を担う立場にあり、自身もこれを認識していたと認められる。 所論のうち、①、②及び④は、被告人と甲らの生活実態に関する一部の事実の指摘にとどまり、原判決の認定・判断に影響せず、③は、原判決が格別考慮- 7 -していない事柄に関するものであって、被告人の保護責任者性の判断を左右しない。所論はいずれも採用することができない。 ⑵ 本件口論等以降の事情に関する所論について所論は、次の諸点を挙げ、本件口論等より前の同居生活の中で被告人の被害児に対する保護責任者性が希薄ながらもあるとしても、同口論等のやり取りからすれば被告人と被害児を含む甲らの関係は解消され、以後もこれが回復したとはいえないとし、原判決(説示後段)の誤りを主張する。 ① 被告人と甲は、令和4年(以下同年)6月22日の口論の後、居宅や車の鍵とキャッシュカードをそれぞれ返したが、これは同居関係消滅の明確な根拠となり、被告人と被害児を含む甲らが経済的に分離されたことを強く推認させる。また、被告人は、自分と共に本件居室を出るか甲と残るかという選択をDに迫ったが、このような言動は以前にな 係消滅の明確な根拠となり、被告人と被害児を含む甲らが経済的に分離されたことを強く推認させる。また、被告人は、自分と共に本件居室を出るか甲と残るかという選択をDに迫ったが、このような言動は以前になく、それだけでも被告人と甲の関係が著しく悪化したことを示している。 ② 被告人が別宅に連泊した事実は、甲らとの同居関係解消を推認させるし、ホテルの連泊や本件居室への立寄り等は、被告人と甲が相談の上でDのケアのためにした行動であり、これを被告人と被害児の関係の維持ないし回復の根拠とみることはできない。被告人は本件居室の鍵を返却し、自由に出入りできなくなったから、同居室を生活の拠点にしていたと評価することは不自然であるし、内縁関係解消の際、短期間で全ての所有物品の整理が行われることは少なく、実際にも困難であるから、被告人名義の車両や携帯電話の返却、Dの養育費の支払、預金分配等の具体的な話し合いが未了であった事情は同関係継続の根拠にならない。 ③ 被告人と甲らの内縁・同居の関係と、被告人の被害児に対する保護責任者性は必ずしも関連せず、被告人が6月23日以降、甲及びDと行動を共にしないで本件居室にも立ち寄らなければ、被害児に対する保護責任者性は否定されるはずであるから、被告人らの前記関係の評価にかかわらず、同日以降の事情から検討すべきである。しかるに、原判決は、被告人らの前記関係と- 8 -被害児に対する保護責任者性を分けて検討することなく、前記関係が完全に解消されていなかったとし、被害児に対する保護責任者性が継続していたと誤った評価をした。 関係証拠(被告人の原審供述、甲の原審証言)により補足すると、本件口論等は、被告人の帰宅後、甲が、先にDに食事をさせようと用意していたのに被告人と入浴したため、同児を怒ると、これに被告人が言い返して感情 証拠(被告人の原審供述、甲の原審証言)により補足すると、本件口論等は、被告人の帰宅後、甲が、先にDに食事をさせようと用意していたのに被告人と入浴したため、同児を怒ると、これに被告人が言い返して感情的な口論になったことを契機とし、その後短時間のうちに被告人が本件居室を出ることとなり、鍵の返却等に至ったものと認められる。本件口論等の背景には、被告人と甲の双方にうっ積した生活上の不満や疲弊等があったとうかがわれるものの、それ以前に両者間で関係解消に向けた具体的なやり取り等があった形跡はなく、同口論等自体はささいな事柄をきっかけとした感情的、衝動的な事態とみることができる。また、被告人と甲は、本件口論等から二日後に接点を持つと、原判決が説示したとおり、Dと共にホテルに宿泊し、途中で本件居室に立ち寄ること等を繰り返していたのであり、この間、関係解消に向けた具体的な協議や行動に着手していた様子がなかったことも認められる。 原判決が、被告人と甲らの長期にわたる生活実態を基に形成された、生活協同体としての家族同様の関係性を重くみて、被告人の被害児に対する保護責任者としての立場を認めたと解されることは、既述のとおりである。そして、原判決は、前記のような本件口論等の経緯や内容、その後の数日間の被告人らの行動等に関する事実関係を踏まえ、原判示第2の犯行時点でみる限り、被告人と甲の内縁や同居の関係が解消されていたとはいえず、前記の関係性の基となる「本件居室を生活の拠点とする家族としての実態」はなお維持されていたと判断した(説示後段)と解されるのであり、これに不合理な点があるとは認められない。 そこで、所論を検討すると、関係証拠(被告人の原審供述、甲の原審証言)によれば、以前にけんかした際、甲が被告人に、別宅に帰ったときは別れる旨を告げたこと、本件口論等 な点があるとは認められない。 そこで、所論を検討すると、関係証拠(被告人の原審供述、甲の原審証言)によれば、以前にけんかした際、甲が被告人に、別宅に帰ったときは別れる旨を告げたこと、本件口論等の際、被告人がDに、母(甲)といるか、自分と家- 9 -を出るのかどちらがいいかと聞き、泣きじゃくる同児が甲と残ると言ったこと、6月25日以降、被告人と甲がDとホテルに連泊したのは、前記のように困惑させ傷付けた同児を楽しませようと配慮したものであったこと、この間、被告人と甲は時折本件居室に立ち寄っていたが、これは着替えや一時的な休養等のほか、甲が被害児やAらの世話をするためのものであったことが認められ、所論の指摘が妥当する部分はある。 しかし、被告人は、Dとの関係からであっても、甲に追随して同児らとホテルに泊まる一方、本件居室に立ち寄った際は、着替えをするなどし、甲が被害児らの世話をする様子も見て、数日前まで同居室で生活を共にしていた同児と間近に接していたのであり、前記の関係性は維持されていたものといえる。原判決は、このような被告人の態度等や、被告人と甲の内縁等の関係が完全に解消されていなかったことを併せ、本件居室を生活拠点とする家族としての実態は失われていないとして、被告人が原判示第2の犯行当時、被害児の保護責任者であったと認めたものと解され、その判断に不合理な点はなく、相当である。 本件口論等以降の事情を踏まえてみても、被告人が保護責任者であったと認めた原判決に誤認はない。所論はいずれも採用することができない。 ⑶ 以上のとおり、被告人を被害児の保護責任者と認めた原判決は相当である。そして、原審記録を調査・検討すると、被告人及び甲が共謀して原判示第2の遺棄及び不保護をしたと認めた原判決の認定・判断も相当といえる。 したがって、関係 害児の保護責任者と認めた原判決は相当である。そして、原審記録を調査・検討すると、被告人及び甲が共謀して原判示第2の遺棄及び不保護をしたと認めた原判決の認定・判断も相当といえる。 したがって、関係法条を適用し、被告人に原判示第2の保護責任者遺棄致死罪の共同正犯の成立を認めた原判決に事実誤認や法令適用の誤りはなく、論旨は理由がない。 第3 量刑不当の控訴趣意について 1 論旨は、原判決は、甲が被害児を養育するようになった経緯等や同児の養育に対する被告人の立場、被告人に対する社会的制裁の重み等の事情を十分に理解し、しん酌することなく、被告人を懲役6年に処したもので、その量刑は重過ぎて不当であり、被告人に対する刑の執行を猶予すべきであると主張する。 - 10 - 2 原判決の量刑理由の概要は、次のとおりである。 ⑴ 被告人らは、被害児を本件ベビーサークルに長時間閉じ込め外泊する行為を繰り返した上、その両手足を緊縛し、十分な水分・食事を与えたり、適切な温度管理をしたりせず放置した。本件ベビーサークルは狭く劣悪な環境であり、両手足を緊縛されていたときは身動きすら難しかったと考えられ、逮捕監禁行為が悪質であるのはもとより、遺棄不保護行為は被害児を衰弱させ、熱中症で死亡させる危険性の高い行為であった。被害児を死亡させた結果は重大であり、その苦痛は察するに余りある。 ⑵ 被害児は本件の約2か月前の時点で栄養不良状態にあり、日頃から十分な食事を与えられていなかったとうかがわれる。被害児は、少なくとも甲らが長時間目を離す際には緊縛され、本件ベビーサークルに閉じ込められており、寝具も与えられず床に寝かされていた上、被告人ら以外の他人と触れ合う機会を十分与えられず、健全な発達に必要な環境を奪われていたから、本件は介護疲れ類似の事案ではなく、日常的な に閉じ込められており、寝具も与えられず床に寝かされていた上、被告人ら以外の他人と触れ合う機会を十分与えられず、健全な発達に必要な環境を奪われていたから、本件は介護疲れ類似の事案ではなく、日常的な虐待行為の末の犯行というべきである。 被害児を本件ベビーサークルに入れ始めた理由に、その問題行動(おむつを脱いで汚物を散らかしたり、陰部を床にこすりつけたりするなどの行動)に悩み、防ぎたいという思いがあったことは否定できないが、日頃から同児の世話を十分行わず、同サークルに入れて外泊することが常態化する中、同児に煩わされることなくDと遊興する時間を楽しみたいという身勝手な目的で本件犯行に及んだから、その動機・経緯に酌むべき事情は乏しい。 ⑶ 被告人は保護責任者の地位にありながら、甲と共に、本件ベビーサークルを作成して劣悪な環境を構築した上、本件当時もその内部に被害児が閉じ込められていると認識しながら置き去りにするなどし、甲の逮捕監禁行為を黙認しており、果たした役割や関与の程度は小さくないが、本件を主導した甲と行動を共にしていたにすぎない面もある。被害児が引き取られた経緯や育児への関与程度、本件口論等の状況に照らせば、同児の保護責任者であるとの認識程度が甲と比較して低減していたことにやむを得ない面がある。 - 11 -⑷ 本件は、動機が児童虐待である同種事案として中程度の部類に位置付けるのが相当であり、被告人が直ちに119番通報をしなかったこと、役員を務める会社が倒産するなど一定の社会的制裁を受けたこと等も考慮し、その刑事責任に見合う量刑として、被告人を懲役6年に処するのが相当である。 3 原審記録を調査し検討すると、原判決の量刑判断は、諸事情の認定及び評価を含め、正当として是認することができる。 ⑴ 所論は、次の諸点を指摘して原判決の量 告人を懲役6年に処するのが相当である。 3 原審記録を調査し検討すると、原判決の量刑判断は、諸事情の認定及び評価を含め、正当として是認することができる。 ⑴ 所論は、次の諸点を指摘して原判決の量刑不当を主張する。 ① 甲は、被害児の養育をCに任せられないと考えて同児を引き取ることにし、甲なりに愛情を注いで積極的に養育を始め、同児が入浴時に溺れた事故があった後は、行政機関の指導を受け、事故が起きないよう注力していた。また、甲は、被害児に問題行動が現われるようになった以降も養育意欲を失わず、行政機関に相談するなどしていたものの、次第に精神的に追い詰められてその意欲が減退し、他の選択肢が思い付かない中、同児の問題行動から逃避したいとする気持ちから本件の各行為に至った。これらの経過からすれば、甲の被害児に対する各行為を日常的な虐待の末の犯行とみるのは本質を見誤っている。甲の被害児に対する行為が逮捕監禁や遺棄に当たるとしても、これを虐待の末の犯行と捉え、共犯者と認めた被告人に重い処罰を科した原判決は誤っている。 ② 被告人は経済的な負担をしていたが、本件居室の中では甲及びDとだけにつながりを持つ関係にあったこと、被害児の引取りは甲が一人で決め、同人がその養育を被告人に頼んだり、被告人がこれを分担したりしたことはなく、主に甲が同児を養育し、A、Bと連絡を取り合って世話をしていたことからすれば、被告人に被害児に対する保護責任があったとしても極めて薄かった上、本件口論等により被告人と甲の関係に著しい変化が生じ、同責任の軽減が決定的なものになったと評価すべきである。 ③ 被告人が本件により逮捕・起訴され、実名で報道されたため、被告人の家族の経営会社が営む鶏卵事業は廃業し、多額の負債の返済を続けるだけで精- 12 -一杯の状況にあること、被告 べきである。 ③ 被告人が本件により逮捕・起訴され、実名で報道されたため、被告人の家族の経営会社が営む鶏卵事業は廃業し、多額の負債の返済を続けるだけで精- 12 -一杯の状況にあること、被告人の勾留中に実父が病死したこと、高齢の実母は、夫と会社を失い、被告人や孫(D)とも会えない境遇にあることの各事情があるのに、原判決はこれらを十分考慮していない。 ④ 被害児の死因は熱中症であり、同児を放置したのは本件居室内であって、長時間自動車内に放置した場合と比べて危険性が低いこと、被告人は主たる養育者ではなく、犯行当時、同居室に住んでいなかったこと等を考慮し、前記③の事情を併せれば、児童虐待を動機とし、被害者を熱中症で死亡させた事案として本件をみても、その中では軽い部類に当たり、同種事案の量刑傾向に照らせば、刑の執行を猶予することが可能である。 ⑵ まず、①について、関係証拠により補足すると、原判決が認定したように(「争点に対する判断」第2 の2⑴)、甲は、被害児を引き取った以降、同児の養育に関して工夫や考慮をし、その発達の遅れを感じて行政機関に相談に赴いたほか、子ども家庭センター等に通ったり、保健師の家庭訪問を受けたりするなどしていた一方、同児の問題行動に関する相談はしていなかったことが認められる。そして、これらの事実からすれば、本件犯行の背景には、甲が、日常の家事・育児に加え、非親権者ながらも同居する実の祖母の立場から被害児を養育する中で同児の問題行動に苦悩し、その対処として手足の拘束やベビーサークルの改造等に至った経緯があるといえる。 原判決は、この点を踏まえながらも、本件各犯行に至る経緯・態様、被害児が栄養不良状態にあり、緊縛され、本件ベビーサークルに入れられていたこと等の複数の事実や、同児に及ぼす危険性を予想し得たとみられる 原判決は、この点を踏まえながらも、本件各犯行に至る経緯・態様、被害児が栄養不良状態にあり、緊縛され、本件ベビーサークルに入れられていたこと等の複数の事実や、同児に及ぼす危険性を予想し得たとみられる甲及び被告人の言動という本件に近接した状況を総合し、介護疲れ類似の事案とはいえず、日常的な虐待の末の犯行に当たると判断したと解される。この原判決の判断に経験則等に反する不合理な点があるとは認められない。 ②についてみると、被告人を被害児の保護責任者と認めた原判決の判断(説示前段)からは、保護責任者の地位や程度を甲と同等とみたか否かは判然としないものの、量刑理由の説示によれば、被告人の保護責任者としての認識程度- 13 -が甲との比較において劣り、その結果として犯情に差があることは考慮されている。それでも、原判決は、本件の犯情全体の重さに鑑み、被告人の刑事責任は軽いものではないと判断したのであり、不合理な点はない。また、③について、被告人が一定の社会的制裁を受けたことは考慮されているし、他の点は一般情状であって、明示的な説示がなくとも原判決の量刑を左右するものではない。 ④について、本件は、日常的な虐待の事情を経緯に含む上、数度にわたり連続的に被害児を閉じ込め、一部はその手足を緊縛する悪質な逮捕監禁行為を伴い、その延長として同児の遺棄及び死亡に至ったという保護責任者遺棄致死罪を中核とした被告人の罪責が問われているから、所論指摘の死因等の点や同種事案の量刑傾向を踏まえても、刑の執行を猶予するのが相当とみるべき事案とは認められない。所論はいずれも採用することができない。 ⑶ さらに、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、被告人は、被害児の実母との間で、その意向に沿う慰謝的措置に関する合意をして履行を終えたこと、被告人の実母が被告 用することができない。 ⑶ さらに、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、被告人は、被害児の実母との間で、その意向に沿う慰謝的措置に関する合意をして履行を終えたこと、被告人の実母が被告人に代わってCとの和解を試みたが、同人と連絡が取れなかったため、用意した示談金を弁護人に預託し、和解等に至らない場合は非営利団体に寄付する予定であることが認められる。 しかし、原判決の量刑を左右するほどの重要な情状が表れたとはいえず、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反するものとは認められない。 ⑷ 以上のとおり、原判決の量刑は相当であり、これが重過ぎて不当とは認められない。論旨は理由がない。 第4 結論よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、刑法21条を適用して、主文のとおり判決する。 令和6年9月10日大阪高等裁判所第3刑事部- 14 -裁判長裁判官石川恭司裁判官伊藤寛樹裁判官國分進

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