昭和44(行ス)17 退去強制処分執行停止決定に対する即時抗告申立事件

裁判年月日・裁判所
昭和45年3月19日 大阪高等裁判所 警察関係
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判決文本文5,045 文字)

主文 原決定を次のように変更する。抗告人が昭和四四年七月一二日相手方に対し発布した退去強制令書に基づく執行は、その送還の部分にかぎり、神戸地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二六号退去強制命令取消等請求事件の判決が確定するまで、これを停止する。本件執行停止申立てのその余の部分を棄却する。申立て及び抗告に関する費用は、これを二分し、その一を抗告人の負担とし、その余を相手方の負担とする。理由 本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙に記載したとおりである。(当裁判所の判断)一、本件記録によれば、相手方は朝鮮全羅南道光山郡<以下略>に本籍を有する外国人(国籍朝鮮)で、昭和一七年二月一日熊本県八代市において出生し、昭和二七年平和条約の発効後は、同年法律第一二六号の第二条第六項に基づいて本邦に在留したところ、原決定摘示のとおりの経緯によつて相手方に対して本件退去強制令書が発布され、その執行のため相手方が神戸入国管理事務所収容場に収容されるに至つたことが疎明される。二、ところで、相手方の提起した右退去強制処分取消請求事件の判決確定前に右退去強制令書に基づく送還が執行された場合、これによつて相手方に回復困難な損害を生ずるおそれがあり、これを避けるべき緊急の必要があることは、右の処分の性質、相手方の従来の生活経歴、送還先が朝鮮であることなどの点からして容易に推認されるところである。抗告人は、法務大臣が相手方の異議の申出につき裁決をするに当つて特別在留許可を与えるか否かはその自由裁量に属するところ、右の許可を与えなかつたことにつき裁量権の濫用ないし逸脱はなく、しかも相手方が出入国管理令第二四条第四号リに該当することは明白であるから、本件は行政事件訴訟法第二五条第三項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当すると主張するが、 の濫用ないし逸脱はなく、しかも相手方が出入国管理令第二四条第四号リに該当することは明白であるから、本件は行政事件訴訟法第二五条第三項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当すると主張するが、自由裁量行為といえどもそこにはおのずから一定の基準があるべく、その範囲を著しく逸脱するものであるときは該処分は違法性をおびるものというべきであるから、右の許可を与えなかつたことの適否ひいては退去強制処分の適否について、いまだ本案の審理を遂げていない現段階において、その理由のないことが疑いの余地がない程明白であると断定することはできず、しかも、右の送還部分の執行停止によつて公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると認むべき資料はない。 ら一定の基準があるべく、その範囲を著しく逸脱するものであるときは該処分は違法性をおびるものというべきであるから、右の許可を与えなかつたことの適否ひいては退去強制処分の適否について、いまだ本案の審理を遂げていない現段階において、その理由のないことが疑いの余地がない程明白であると断定することはできず、しかも、右の送還部分の執行停止によつて公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると認むべき資料はない。したがつて、この点に関する抗告人の主張はにわかに採用し難い。三、そこで次に、本件退去強制令書に基づく収容部分の執行停止について考えてみるに、右の収容によつて相手方がこれによる精神上肉体上の苦痛を被ることは推知されるけれども、これはその執行に伴う当然の結果であつて、執行停止の要件たる「回復困難な損害」には該当しないと解せられる。相手方は、本件の収容は一家からその支柱たる相手方を奪いとることによつて家族の生活を根底から破壊し、家族全員を奈落の底に突き落すものであるというが、記録によれば、相手方は独身者であつて、扶養すべき妻子はなく、母は現に生活保護法の適用をうけているが、母の住居の別棟に相手方の兄が妻子とともに居住するほか姉妹らも近所に世帯をもつていることが疎明されるので、相手方の収容によりこれらの者の生活が破壊されるなどとは考えられない。なお、本件退去強制処分については現に本案訴訟においてその適否が争われており、審理の結果によつては右の処分が違法でないことの判断がなされる余地がないではない。しかるに、いま直 どとは考えられない。なお、本件退去強制処分については現に本案訴訟においてその適否が争われており、審理の結果によつては右の処分が違法でないことの判断がなされる余地がないではない。しかるに、いま直ちに収容部分の執行をも停止するときは、相手方は外国人であり、しかも前記管理令第二四条第四号リに該当する者であることが明かであるにもかかわらず、同令の定める何らの規制をもうけることなくわが国に在留する結果になるのであつて、かかる事態は出入国管理行政の建前を著しく紊るものというべく、ひいては公共の福祉に重大な影響を及ぼすことにもなる。そして、記録を検討しても、右の如き影響を無視してまでも本件収容部分の執行を停止すべき緊急の必要性があるとは思われない。相手方は、前記法律第一二六号第二条第六項に基づいて本邦に在留する者に対しては出入国管理令は全面的に適用がないと主張するが、かかる解釈は当裁判所の採らないところである。 て、かかる事態は出入国管理行政の建前を著しく紊るものというべく、ひいては公共の福祉に重大な影響を及ぼすことにもなる。そして、記録を検討しても、右の如き影響を無視してまでも本件収容部分の執行を停止すべき緊急の必要性があるとは思われない。相手方は、前記法律第一二六号第二条第六項に基づいて本邦に在留する者に対しては出入国管理令は全面的に適用がないと主張するが、かかる解釈は当裁判所の採らないところである。四、右の次第で、相手方の申し立てた本件退去強制処分の執行の停止は、送還の部分にかぎり停止するのを相当と認め、その余は失当として棄却すべきである。よつて、本件申立てを全部認容した原決定は右の限度で変更することとし、民事訴訟法九六条九二条を適用して、主文のように決定する。(裁判官小石寿夫宮崎福二館忠彦)(別紙)抗告申立の趣旨第一次的申立原決定を取り消す。本件執行停止申立はこれを棄却する。手続費用は第一、二審を通じて相手方の負担とする。との決定を求める。第二次的申立原決定を次のとおり変更する。抗告人が昭和四四年七月一二日相手方に対してなした退去強制令書に基づく執行はその送還の部分に限り、神戸地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二六号退去強制命令取消等請求事件の判決が確定するまでこれを停止する。本件執行 四年七月一二日相手方に対してなした退去強制令書に基づく執行はその送還の部分に限り、神戸地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二六号退去強制命令取消等請求事件の判決が確定するまでこれを停止する。本件執行停止申立のその余の部分はこれを棄却する。手続費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を抗告人の負担とし、その余を相手方の負担とする。との決定を求める。抗告申立の理由一、原決定は、本件の本案について「しかるところ、本件の法務大臣が異議の申出に際して令第五〇条第一項第三号に基づく在留の特別許可を与えなかつたことについては、その結果の重大性に鑑み、従来の同種事案についての慣行ないし取扱例等に照らして著しく不当でないかどうかを慎重に判断すべきであつて、直ちに右裁決が裁量権の限界を超えていないと断定すべき資料のない本件においては、若し右裁決が裁量権の範囲を逸脱したものと認められる場合は該裁決に従つた被申立人の本件令書発布処分は当然違法として取消を免れない関係にある以上、その余の点について判断するまでもなく、本件令書による執行は本案判決に至るまで停止すべきものと思料する。 行ないし取扱例等に照らして著しく不当でないかどうかを慎重に判断すべきであつて、直ちに右裁決が裁量権の限界を超えていないと断定すべき資料のない本件においては、若し右裁決が裁量権の範囲を逸脱したものと認められる場合は該裁決に従つた被申立人の本件令書発布処分は当然違法として取消を免れない関係にある以上、その余の点について判断するまでもなく、本件令書による執行は本案判決に至るまで停止すべきものと思料する。」と説示される。しかし、既に抗告人が原審において述べたごとく、法務大臣の在留特別許可は自由裁量行為であり、その許可は本来有する権利の制限を解除するものではなく、新たに権利を付与する恩恵的措置であり、その裁量権の範囲は、その許否が国内外の文化、経済、政治上等の諸事情を考慮してなされる関係上、きわめて広いもので、無制限といつても過言ではない。さらに原決定も説示するとおり、原審においては裁量権の濫用ないし逸脱を疎明するに足りる資料は何ら顕出されていないのであるから、裁量権の濫用ないし逸脱の疑いありとはいえず、相手方が令第二四条第四号リに該当することは明白であるの 、原審においては裁量権の濫用ないし逸脱を疎明するに足りる資料は何ら顕出されていないのであるから、裁量権の濫用ないし逸脱の疑いありとはいえず、相手方が令第二四条第四号リに該当することは明白であるので、本案について一応理由があるとはいえず、本件は「本案について理由がないとみえるとき」に該当する。二、さらに原決定は収容部分の執行停止につき「収容が申立人の人身の自由に対する重大な侵害であることは論ずるまでもないばかりでなく、前段認定の申立人の生活環境等に照らし申立人に対し回復困難な損害を与えるものであることが推認されるから、収容のみ継続すべき特段の事由の認められない本件においては、前示のとおり送還の執行を停止すべきであるとの判断に立つ以上、送還の前提として予定されている収容のみ執行を継続することは到底許容し難い。」と説示される。しかし、送還部分の執行が違法であるかどうかさえ未確定の状態にある時、送還部分のみの停止事由をもつて収容部分についても停止するには、それ自体が執行停止の要件を充すものであることの具体的理由が必要である。相手方が収容されても家族の生活に支障はなく、収容が相手方の人身の自由にとつて極めて重大な侵害に当るという抽象的理由だけでは、原審において述べたとおり、その執行に伴う当然の結果であり、例外的な執行を停止すべき緊急の必要性ありとはいえない。 どうかさえ未確定の状態にある時、送還部分のみの停止事由をもつて収容部分についても停止するには、それ自体が執行停止の要件を充すものであることの具体的理由が必要である。相手方が収容されても家族の生活に支障はなく、収容が相手方の人身の自由にとつて極めて重大な侵害に当るという抽象的理由だけでは、原審において述べたとおり、その執行に伴う当然の結果であり、例外的な執行を停止すべき緊急の必要性ありとはいえない。さらに、本件収容は送還の時までの一時的な収容であり、これにより相手方に損害を生ずるとしても、右損害は回復困難なものとは解し難い。かえつて、相手方は昭和四〇年八月三日和歌山簡易裁判所において暴行罪で罰金一五、〇〇〇円に、同四三年二月五日木更津簡易裁判所において暴力行為等処罰に関する法律違反で罰金二五、〇〇〇円に、同四二年九月三〇日大阪簡易裁判所において窃盗罪で懲役一年二月に各処せら 暴行罪で罰金一五、〇〇〇円に、同四三年二月五日木更津簡易裁判所において暴力行為等処罰に関する法律違反で罰金二五、〇〇〇円に、同四二年九月三〇日大阪簡易裁判所において窃盗罪で懲役一年二月に各処せられたものであつて、これが執行停止によつて我国における治安、公衆の生活福祉に影響を及ぼすおそれなしとは断じ得ない。また、収容部分の執行も停止されれば、出入国管理令上ありえない形態の外国人の在留を認めることとなり、これは全ての人の出入国の公正な管理を目的とする管理令の本質に反し、出入国管理行政の現行建前(国益)を破壊し、さらに相手方の前歴に照せば、逃亡のおそれもあり、収容部分の執行も停止すれば、本案において本件退去強制処分の適法性が確定されても、その執行が不可能となる危険性もある。以上の諸事情を総合すれば、公共の福祉に対する影響を犠牲にしてまでも右収容部分の執行を停止すべき緊急の必要性があるとは認められない。

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