令和5年2月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和3年(ワ)第8866号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年2月15日判決 主文 1 被告は、原告Aに対し、889万6055円及びこれに対する令和元年8月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、444万8027円及びこれに対する令和元年8月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、444万8027円及びこれに対する令和元年8月 △日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを7分し、その6を原告らの、その余を被告の負担とする。 6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 1 主位的請求⑴ 被告は、原告Aに対し、6581万3279円及びこれに対する令和元年8月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、3290万6639円及びこれに対する令和元年 8月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は、原告Cに対し、3290万6639円及びこれに対する令和元年8月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求⑴ 被告は、原告Aに対し、6581万3279円及びこれに対する令和3年 5月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、3290万6639円及びこれに対する令和3年5月13日から支払済みまで年3分の割合による金員 5月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、3290万6639円及びこれに対する令和3年5月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は、原告Cに対し、3290万6639円及びこれに対する令和3年5月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、亡D(以下「亡D」という。)が被告の運営するホテルに宿泊中に同ホテルのバルコニーから転落して死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し、亡Dの妻子である原告らが、亡Dの宿泊した客室の窓ないしその外部に隣接しているバルコニーに通常有すべき安全性を欠く瑕疵があったために同事故が発生したとして、被告に対し、主位的に、工作物責任に基づく損害賠償 請求として、亡Dの逸失利益、死亡慰謝料の相続分、固有の慰謝料及び弁護士費用相当額の合計1億3162万6557円並びにこれらに対する事故日である令和元年8月△日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め、予備的に、宿泊契約上の安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求として、同額及び これらに対する訴状送達の日の翌日である令和3年5月13日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 1 関係法令等⑴ 関係法令本件に関係する法令の定めは別紙1関係法令の定めのとおりである。 ⑵ 大阪市の防災指導基準大阪市の定める「高層建築物等に係る防災指導基準」(以下、単に「防災指導基準」という。)のうち、本件に関係する定めは別紙2防災指導基準のとおりであり、その概要は次のとおりで の防災指導基準大阪市の定める「高層建築物等に係る防災指導基準」(以下、単に「防災指導基準」という。)のうち、本件に関係する定めは別紙2防災指導基準のとおりであり、その概要は次のとおりである(乙1)。 同基準は、高層建築物等の防火安全性の確保を図るため、高層建築物等に 係る防災計画書作成に際し、消防機関による行政指導の一環として、建築主 等の任意の協力の下で、建築主等に積極的に提案する指導内容を定めたものである(同基準第1の1、第7)。同基準では、就寝施設を有するホテルは、就寝の用に供する室から直接避難できる位置に、避難者が一時的に安全に待機することができる施設として、幅員60cm以上のバルコニーを設けることとされている(同基準第1の2⑴、第2の2⑴ア、イ、エ)。 2 前提事実(争いのない事実及び後掲証拠等により容易に認められる事実。なお、証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。枝番号を記載しない書証は全ての枝番号を含む。)⑴ 当事者ア原告Aは亡D(昭和▲年▲月▲日生まれ)の妻であり、原告B及び原告 Cはいずれも亡Dの子である。 イ被告は、ホテルの経営等を目的とする株式会社である(当裁判所に顕著な事実)。 ⑵ 本件事故に至る経緯ア被告は、大阪市西区土佐堀1丁目2番1号に所在するホテル「アパホテ ル大阪肥後橋駅前」(以下「本件ホテル」という。)を占有し、ビジネスホテルとして運営している(甲20〔2、4頁〕)。本件ホテルは、平成19年、建築基準法所定の建築確認を得て建築され、同法所定の検査を得た30階建ての建築物である(乙9、21)。 イ亡Dは、勤務先の会社から大阪への出張を命じられたため、令和元年7 月■日、大阪を訪れ、被告 の建築確認を得て建築され、同法所定の検査を得た30階建ての建築物である(乙9、21)。 イ亡Dは、勤務先の会社から大阪への出張を命じられたため、令和元年7 月■日、大阪を訪れ、被告と宿泊契約を締結して、本件ホテルの22階にある2225号室(以下「本件客室」という。)に宿泊した(甲11、16)。 ウ本件客室の窓(以下「本件窓」という。)の外部に隣接した場所に、本件客室の壁に沿ってバルコニー(以下「本件バルコニー」という。)が 設置されている。本件バルコニーには、本件客室と反対側の端に高さ7 2cmの金属製の柵が設けられており、同柵の他には本件バルコニーからの転落を防止するための施設は設けられていない。(甲10、20〔14頁〕、乙2、3、21)⑶ 本件事故の発生亡Dは、令和元年8月△日午前6時22分頃、本件バルコニーの本件客室 に面した部分から転落し、本件ホテル前の歩道に落下したため、出血性ショック等により即死した(甲1、20)。 ⑷ 年金給付原告らは、亡Dの死亡に伴い、令和4年12月7日までに、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金として合計1261万2496円の給付を受 け、国民年金法に基づく遺族基礎年金及び厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金として合計561万2316円の給付を受けた。 3 争点⑴ 本件ホテルの設置又は保存における瑕疵の有無⑵ 被告の宿泊契約上の安全配慮義務違反の有無 ⑶ 本件ホテルの瑕疵と亡Dの死亡との因果関係⑷ 亡D及び原告らの損害⑸ 過失相殺の有無及び割合 4 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(本件ホテルの設置又は保存における瑕疵の有無)について (原告らの主 ⑷ 亡D及び原告らの損害⑸ 過失相殺の有無及び割合 4 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(本件ホテルの設置又は保存における瑕疵の有無)について (原告らの主張)ア亡Dが本件客室にチェックインした当時には既に、本件窓の開閉を制限するために同窓の下枠に取り付けられている金属製の棒状の器具(以下「開閉制限器具」という。)の安全ピン及びそのプラスチックカバーが外れており、窓を全開にできる状態にあった。そして、本件客室内には、 本件バルコニーへの立入りを禁止するような掲示はなく、かえって、本 件客室内に掲示された避難経路図には、「万一の場合は最寄りの避難階段又はバルコニーをご利用ください。」との記載があり、本件バルコニーに人が立ち入ることが前提とされていた。このように、亡Dが本件客室にチェックインした当時、本件客室は、その宿泊客が同窓から本件バルコニーに容易に立ち入ることができる状況にあった。 イまた、本件バルコニーの柵の高さは、建築基準法施行令126条1項によれば1.1m以上にしなければならないにもかかわらず、72cmしかなく、同法に違反した状態であった。 ウそして、本件バルコニーが地上22階という高層階に設置された工作物であり、宿泊客が同所から落下すれば確実に死亡することになるから、 本件ホテルには極めて高度な安全性が要求される。具体的には、本件ホテルには、本件バルコニーの柵の高さを1.1m以上にする、本件窓を全開にすることや本件バルコニーに立ち入ることの危険性を宿泊客に注意喚起をする、本件窓の開閉制限器具にプラスチックカバー付き安全ピンを取り付けることで同窓が全開できないようにし、本件バルコニーへ の安易な立ち入りを防止するといった転落 の危険性を宿泊客に注意喚起をする、本件窓の開閉制限器具にプラスチックカバー付き安全ピンを取り付けることで同窓が全開できないようにし、本件バルコニーへ の安易な立ち入りを防止するといった転落防止措置が施されるべきであったが、上記ア及びイのとおり、これらの措置が施されていなかった。 そうすると、本件ホテルは、通常予想される危険の発生を防止することができておらず、通常有すべき安全性を欠いているというべきであるから、設置又は保存に瑕疵がある。 (被告の主張)ア本件窓は、床から約73cmの高さに設置された腰高窓であって、本件客室の宿泊客がこのような窓から外に出ることは、一般的に極めて異例である。さらに、同窓には、亡Dの宿泊時も含め、同窓の開閉を制限するための安全ピン及びそのプラスチックカバーが設置され、これらを外 さない限り同窓を全開にはできない状態になっていたし、窓枠には本件 バルコニーが通常のバルコニーのように出入りしてよい場所ではないことを示す注意喚起もされている。そうすると、本件客室の宿泊客が、窓の外にある本件バルコニーを通常出入りしてよい場所と誤認することはおよそ考えられない。したがって、本件客室には、本件客室の宿泊客における本件バルコニーへの立ち入りひいては転落事故の発生を抑止及び 防止するのに十分な措置が施されている。 イ次に、本件バルコニーは、建築基準法施行令126条1項に違反していない。すなわち、同項は不特定多数の者の出入りが予定されていない場所には適用されないと解すべきところ、本件バルコニーは、宿泊客が非常時に一時的に安全に待機するために使用することを想定して設置され たものであって、宿泊客が通常のバルコニーとして常時出入りして使用することは想定 解すべきところ、本件バルコニーは、宿泊客が非常時に一時的に安全に待機するために使用することを想定して設置され たものであって、宿泊客が通常のバルコニーとして常時出入りして使用することは想定されておらず、不特定多数の者の出入りが予定されていない場所であったのであるから、同項は適用されない。また、本件バルコニーは、防災指導基準に基づき設置したものであるが、同基準には柵の高さに関する規定はない。本件ホテルには、建物内に地上に通ずる2 以上の直通階段が設置されており、そのように2以上の直通階段が設置されている場合の一時避難場所たるバルコニーの柵の高さについては、建築確認審査が緩やかにされていた。本件バルコニーにおいては、本件ホテルの外壁に手を添えたり、柵の手すりを掴んだりしてバランスを保つことができるから、非常時に待機したり避難するために一時的に立ち 入るという本来の用法で使用するにあたっては、宿泊客が転落する危険はない。本件バルコニーを含む本件ホテルについて、大阪市消防局との個別の防災協議を経て、大阪市の建築主事の建築確認済証を取得し、完了検査も合格している。 ウ以上のように、本件バルコニーへの立ち入りや本件バルコニーにおける 転落を防止するための十分な措置がとられており、本件ホテルは通常有 すべき安全性を備えていたというべきである。本件事故は、亡Dが非常時でもないのに一時避難場所たる本件バルコニーに出たという異常な行動に起因するものである。 したがって、本件バルコニーの設置又は保存に瑕疵はない。 ⑵ 争点⑵(被告の宿泊契約上の安全配慮義務違反の有無)について (原告らの主張)亡Dと宿泊契約を締結した被告は、同契約に付随する信義則上の義務として、本件バルコニ い。 ⑵ 争点⑵(被告の宿泊契約上の安全配慮義務違反の有無)について (原告らの主張)亡Dと宿泊契約を締結した被告は、同契約に付随する信義則上の義務として、本件バルコニーから宿泊客が転落するのを防止するために、上記⑴(原告らの主張)ウと同様の転落防止措置を講ずる安全配慮義務を負っていた。 しかるに、被告は、同ア及びイのとおり、そのような措置を講じていなかっ たから、上記義務に違反したといえる。 (被告の主張)上記⑴(被告の主張)によれば、被告には安全配慮義務違反もないというべきである。 ⑶ 争点⑶(本件ホテルの瑕疵と亡Dの死亡との因果関係)について (原告らの主張)本件事故の現場の状況からすると、亡Dは、本件客室において全開にした窓から外の景色を撮影した際、手を滑らせてスマートフォンを本件バルコニーに落としてしまい、それを拾うために、窓から本件バルコニーに出ようとした際、片足を窓枠に引っかけてしまい、そのまま体勢を崩して本件バルコ ニーの外へ落下してしまったと考えられる。 被告が上記⑴(原告らの主張)ウ記載の転落防止措置を施していれば、本件事故は発生せず、亡Dが死亡することはなかった。したがって、本件ホテルの設置又は保存における瑕疵(予備的に、安全配慮義務違反)と亡Dの死亡との間には、相当因果関係がある。 (被告の主張) 事実は否認し、主張は争う。 なお、本件事故の態様は、原告らの主張するようなものではなく、亡Dが、本件バルコニーについて、通常出入りしてよい場所ではないこと及び同所に出ることの危険性を認識しながらも、何らかの目的で安全ピンを抜くなどして本件窓を全開にし、本件バルコニーに出た後、何らかの理 が、本件バルコニーについて、通常出入りしてよい場所ではないこと及び同所に出ることの危険性を認識しながらも、何らかの目的で安全ピンを抜くなどして本件窓を全開にし、本件バルコニーに出た後、何らかの理由で転落してし まったものと考えられる。 ⑷ 争点⑷(亡D及び原告らの損害)について(原告らの主張)亡D及び原告らの本件事故による損害は、次のとおり、合計1億3162万6557円である。 ア亡Dの逸失利益本件事故当時の亡Dの基礎収入額は998万6424円であった。 そして、本件事故当時、亡Dは46歳であり、67歳までの就労可能年数21年に対応するライプニッツ係数12.8212を乗じ、生活費控除として30%を減じると、亡Dの逸失利益は8962万6557円と なる。 イ亡Dの死亡慰謝料及び原告らの固有慰謝料亡Dは原告ら一家の大黒柱であり、家族想いの子煩悩な父親であるとともに、原告ら家族にとってかけがえのない存在であった。原告らは、本件事故によって亡Dを失い、その無念は大きい。本件事故によって亡D の被った精神的損害を填補するには2600万円を下らず、原告らの被った精神的損害を填補するには、原告Aにつき200万円、原告B及び原告Cにつき各100万円をそれぞれ下らない。 ウ弁護士費用上記ア及びイの合計額の約1割に相当する1200万円の弁護士費用は、 本件事故と相当因果関係を有する損害である。 (被告の主張)ア亡Dの逸失利益亡Dの基礎収入額に関し、原告らは、令和元年6月に支給された一時金33万円を含めて算定しているが、当該算定においては同金額を除くべきである。また、生活費控除率は40 ア亡Dの逸失利益亡Dの基礎収入額に関し、原告らは、令和元年6月に支給された一時金33万円を含めて算定しているが、当該算定においては同金額を除くべきである。また、生活費控除率は40%とすべきである。 イ亡Dの死亡慰謝料及び原告らの固有慰謝料これらの総額は2800万円を上回らない。 ウ弁護士費用上記損害額を基に過失相殺をした後の金額から、損益相殺によって控除された後の金額の1割程度となるべきである。 ⑸ 争点⑸(過失相殺の有無及び割合)について(被告の主張)本件事故当時、亡Dは、飲酒により酔った状態で、本件窓の開閉を制限するための安全ピンを自ら外して本件バルコニーに出て、本件バルコニーに50分間留まって何らかの行動をし、その後本件事故に遭った。このような亡 Dの行動は、極めて異常な行動であり、本件事故は、亡Dの重大な落ち度に起因しているから、仮に被告の責任が認められるとしても、その賠償額は、過失相殺により9割を減じるべきである。 (原告らの主張)本件事故当時、亡Dが飲酒していたとは考え難いし、本件バルコニーに5 0分間留まっていたとも考え難い。 また、平常時に本件バルコニーに出ることは通常の宿泊客でも十分あり得たのであって、本件ホテルの口コミサイトにもそのことを示唆する記事が度々投稿されていたことからすれば、被告は、宿泊客が本件バルコニーに出る危険性があることを十分認識できた。そうすると、亡Dにも過失があると しても、転落防止措置をとらなかった被告の過失を重く評価すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記前提事実及び後掲各証拠等によれば、次の各事実が認められる。 しても、転落防止措置をとらなかった被告の過失を重く評価すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記前提事実及び後掲各証拠等によれば、次の各事実が認められる。 ⑴ 本件客室及び本件バルコニーの状況本件客室には、横幅77cm、縦幅120cmの本件窓があり、本件客室 の床から73cmの高さに同窓の下枠がある。同窓は、左枠にあるハンドルを操作することで、右端を軸として内開きすることができるが、窓の下枠に沿って開閉制限器具が設置されており、それが機能している場合は窓を15cm程度までしか内開きすることができず、人が窓から外へ通り抜けられるほどの隙間が生じることはない。もっとも、同開閉制限器具上の安全ピンを 抜くことにより上記開閉制限が解除されると、窓を直角に内開きすることができ、人がその窓から外に出られるほどの隙間が生じるようになる。同安全ピンは、本来は、透明なプラスチックカバーで覆われ、同カバーを割らなければ同安全ピンを抜くことができない仕組みになっている。(甲10、20〔13頁〕、乙3ないし5、8、弁論の全趣旨) 本件窓の外部に隣接した場所に、本件客室の壁に沿って本件バルコニーが設置されている。同窓の下枠は本件バルコニーの床から75cmの高さにある。本件客室から本件バルコニーに出入りするためのドアは設置されておらず、本件客室から本件バルコニーに出入りする方法としては同窓を通るしかない。本件バルコニーの通路幅は65cmであり、本件客室と反対側の端に、 高さ72cmの金属製の柵が設けられ、同柵の他には本件バルコニーからの転落を防止するための施設は設けられていない。本件バルコニーの両端には、避難器具(避難はしご)が設置されている。(上記前提事実⑵ウ、甲10、 の金属製の柵が設けられ、同柵の他には本件バルコニーからの転落を防止するための施設は設けられていない。本件バルコニーの両端には、避難器具(避難はしご)が設置されている。(上記前提事実⑵ウ、甲10、20〔12ないし14頁〕、乙2、3)本件バルコニーは、防災指導基準所定の一時避難場所として設置されたも のである(甲8〔2頁〕、弁論の全趣旨)。 本件客室の入口にあるドアの内側(客室側)には、避難経路図が掲示されており、それには同ドアから廊下に出て避難階段へと向かう経路を図示したものに加え、「万一の場合は最寄りの避難階段又はバルコニーをご利用下さい。」との記載がある。本件窓の窓枠には「非常時にはカバーを割り窓を全開にしてバルコニーへ避難することが出来ます」と記載されている。(甲1 0、乙2、3)⑵ 本件事故前の亡Dの行動等亡Dは、令和元年7月■日、本件ホテルにチェックインし、同日午後11時47分に本件客室に入った(甲20〔4頁〕)。 亡Dは、同年8月△日午前5時34分、本件バルコニーからスマートフォ ンで朝日が出たばかりの街の風景を撮影した(甲2〔3頁〕、20〔3、37頁〕)。 亡Dは、同日午前9時から、出張先にて顧客と打合せをする予定であった(甲6〔2頁〕、16)。 ⑶ 本件事故の状況 亡Dは、同日午前6時22分頃、本件バルコニーの本件客室に面した部分から転落し、本件ホテル前の歩道に落下して、即死した(上記前提事実⑶)。 亡Dは、その転落時、ホテルの浴衣を着用しており、落下地点の近くにホテルのスリッパが落ちていた。また、本件事故当時、本件窓は全開になっていた。本件バルコニーの本件客室に面した部分には、亡Dのスマートフォン が落ち テルの浴衣を着用しており、落下地点の近くにホテルのスリッパが落ちていた。また、本件事故当時、本件窓は全開になっていた。本件バルコニーの本件客室に面した部分には、亡Dのスマートフォン が落ちていた。(甲11、20〔4、12ないし14頁〕)その後の捜査で、亡Dの遺体に対し簡易薬物検査及びアルコール検査が実施されたが、薬物及びアルコールのいずれも検出されなかった(甲20〔7頁〕)。 亡Dの転落に他人が関与した痕跡はなく、また、本件事故前に同人が自殺 をほのめかす言動や遺書の作成をしたことはなく、経済的に困窮していたこ ともうかがえず、自殺の動機が見当たらないことから、本件事故は、亡Dが本件バルコニーから誤って転落したものと認められる(甲11、20〔4、5頁〕)。 2 争点⑴(本件ホテルの設置又は保存における瑕疵の有無)について⑴ 判断基準 民法717条1項にいう「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があること」とは、土地工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、同安全性を欠くか否かは、その工作物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきものである(最高裁昭和45年8月20日第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁、最高 裁昭和53年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号809頁参照)。 そして、当該工作物の通常有すべき安全性の有無は、その本来の用法に従った使用を前提とした上で、何らかの危険発生の可能性があるか否かによって決せられるべきものというべきである(最高裁平成5年3月30日第三小法廷判決・民集47巻4号3226頁参照)。 上記判断基準に基づき、以下、本件ホテルの設置又は保存に瑕疵があった て決せられるべきものというべきである(最高裁平成5年3月30日第三小法廷判決・民集47巻4号3226頁参照)。 上記判断基準に基づき、以下、本件ホテルの設置又は保存に瑕疵があったか否かを検討する。 ⑵ 本件バルコニーへの立ち入り防止措置について原告らは、亡Dが本件客室にチェックインした当時、本件窓の開閉制限器具の安全ピン及びそのプラスチックカバーが外れており、窓を全開にできる 状態にあった上、本件客室内に本件バルコニーへの立入りを禁止するような掲示はなく、本件客室を利用する宿泊客が同窓から本件バルコニーに容易に立ち入ることができる状況にあった点で、通常有すべき安全性を欠いていたと主張する。 まず、本件客室の構造及び掲示をみると、上記認定事実⑴のとおり、本件 客室から本件バルコニーに立ち入るためには本件窓を通るしか方法がないと ころ、同窓は、本件客室の床から73cmの高さにある腰高窓である上に、同窓の窓枠には「非常時にはカバーを割り窓を全開にしてバルコニーへ避難することが出来ます」との記載が、本件客室のドアには「万一の場合は最寄りの避難階段又はバルコニーをご利用下さい。」との記載がそれぞれ掲示されていたのであるから、宿泊客としては、上記掲示を読めば、本件バルコニ ーは火災等の非常時のみに立ち入ることが想定されていると理解するのが通常であり、仮に上記掲示を読まなかったとしても、本件バルコニーが平常時に眺望を楽しむ等の目的で本件窓を通って出入りすることが想定されたものであると誤解するおそれは小さいものと認められる。 もっとも、亡Dが本件客室にチェックインした当時の開閉制限器具につい てみると、本件事故直後に警察によって実施された本件客室の見分において、上記 するおそれは小さいものと認められる。 もっとも、亡Dが本件客室にチェックインした当時の開閉制限器具につい てみると、本件事故直後に警察によって実施された本件客室の見分において、上記器具に本来は付着しているはずのプラスチックカバーや安全ピンは本件客室内から発見されておらず、亡Dがこれらを破壊したり外したりしたことはうかがえないこと(甲20)、本件ホテルに宿泊した客が投稿した口コミサイトには、本件ホテルの客室(本件客室とは限らない。)の窓には開閉制 限器具が機能しておらず、窓を全開してバルコニーに出入りすることができる旨の記事が複数掲載されていたこと(甲12ないし14)、被告が本件事故後に本件ホテルの客室の窓の開閉制限器具に新型のプラスチックカバーの設置を順次実施していること(甲12、乙8、弁論の全趣旨)などの事実からすると、亡Dが本件客室にチェックインした当時、本件窓の開閉制限器具 には安全ピン及びそのプラスチックカバーが存在していなかったことが推認される。 この点からすると、本件客室の宿泊客としては、プラスチックカバーを壊して安全ピンを抜くという心理的に抵抗を受けるはずの所為を行うことなく、本件窓を人の出入りができるほどに開放することができるため、非常時以外 は本件バルコニーに立ち入ってはならないという注意書きを読んだとしても、 プラスチックカバー付き安全ピンが設置されている場合に比べると容易に本件バルコニーに立ち入ることができる状態にあったといえる。 しかしながら、本件窓の外側には本件バルコニーがあり、宿泊客が本件窓から出入り又は転落したとしても、それだけで地上に転落する可能性は低いと考えられるため、本件事故との関係において、上記のとおり開閉制限器具 のプラスチックカバー付き安全ピ があり、宿泊客が本件窓から出入り又は転落したとしても、それだけで地上に転落する可能性は低いと考えられるため、本件事故との関係において、上記のとおり開閉制限器具 のプラスチックカバー付き安全ピンが存在しなかったことから直ちに本件ホテルが通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。 ⑶ 本件バルコニーの転落防止措置についてア上記認定事実⑴のとおり、本件バルコニーの通路幅は65cmであり、本件客室と反対側の端に、高さ72cmの金属製の柵が設けられ、同柵 の他には本件バルコニーからの転落を防止するための施設は設けられていない。 原告らは、上記柵の高さが建築基準法施行令126条1項に違反した状態であり、通常有すべき安全性を欠いていると主張するのに対し、被告は、本件バルコニーは、宿泊客が非常時に一時的に安全に待機するため に使用することを想定して設置されたものであって、宿泊客が通常のバルコニーとして常時出入りして使用することは想定されていないから、同法施行令126条1項が適用されない旨主張する。 イそこで、建築基準法上の規制をみると、その概要は次のとおりである。 ホテルについては、廊下、階段、出入口その他の避難施設等は、同法施 行令の定める技術的基準に従って、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない(同法35条、別表第一(い)欄(ニ)項)。具体的には、建築物の避難階以外の階で同法施行令121条1項各号のいずれかに該当するものは、その階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない(同法施行令117条、121条1項)。 例えば、ホテルの用途に供する階でその階における宿泊室の床面積の合 計が100㎡を超えるものや、6階以上の階で 直通階段を設けなければならない(同法施行令117条、121条1項)。 例えば、ホテルの用途に供する階でその階における宿泊室の床面積の合 計が100㎡を超えるものや、6階以上の階でその階に居室を有するものについては、上記のような2以上の直通階段を設けなければならないが、後者の高層階については、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するものが設けられ、かつその階から避難階又は地上に通ずる直通階段が設けられていることなどの所定の要件を満たす 場合には、同項の規制の対象外になる(同項6号イ括弧書)。 2階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが1.1m以上の手すり壁、柵又は金網を設けなければならない(同法施行令117条、126条1項)。 以上の各規制を定める同法施行令117条、121条及び126条は、 いずれも同法施行令中、「避難施設等」と題された第5章のうち、「廊下、避難階段及び出入口」と題された第2節に置かれている。 ウ以上を踏まえて検討すると、同法施行令126条1項は、廊下、階段、出入口その他の避難施設等について、避難上及び消火上支障がないようにすることを求める同法35条の委任を受けた規定であり、しかも「避 難施設等」と題された第5章のうち、「廊下、避難階段及び出入口」と題された第2節に置かれ、同節において、バルコニーは一定の場合に避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段に代わる役割を果たすものとして位置付けられていることからすれば、むしろ非常時の避難に用いられるバルコニーを想定しているものと解される。加えて、非常時に限り利 用されるバルコニーであっても、同所から人が転落する事態を防止する必要があることは、通常利 れば、むしろ非常時の避難に用いられるバルコニーを想定しているものと解される。加えて、非常時に限り利 用されるバルコニーであっても、同所から人が転落する事態を防止する必要があることは、通常利用が想定されるバルコニーと何ら変わりなく、むしろ、建築基準法施行令126条1項の趣旨は、非常時の避難の際にはその切迫した状況と避難者の不安定な心理状態に鑑みて転落の危険性が高いことから、転落を防止し避難者の安全性の確保を図ることにある ものと解される。そうすると、同法施行令126条1項にいう「バルコ ニー」には、非常時に避難するために設置されたバルコニーであっても含まれると解するのが相当である。なお、大阪市建築確認課は、一時避難場所たるバルコニーについては、一般宿泊客による通常利用が想定される場合を除き、同項に規定する「バルコニー」として取り扱っていないとの法的見解を表明するが(調査嘱託の結果)、上記解釈に反する限 度で当裁判所の採用する限りではない。そうすると、ホテルの2階以上の階(22階)に設置されているにもかかわらず高さが1.1mに満たない本件バルコニーの柵は、建築基準法35条、同法施行令126条1項に違反するものであるといわざるを得ない。 なお、被告は、防災指導基準において柵の高さに関する規定がないこと を指摘するが、同基準には、建築基準法施行令126条1項の適用を除外する明文の規定はない上に、同基準は大阪市の行政指導の内容を定めたものにすぎず(上記関係法令等⑵)、たとえ法令である同項の適用除外を定めたとしてもそのような法的効力を生ずるものでもないから、本件バルコニーの柵が建築基準法35条、同法施行令126条1項に違反 するとの上記判断を左右しない。また、被告は、建物内に地上に通ずる2以 としてもそのような法的効力を生ずるものでもないから、本件バルコニーの柵が建築基準法35条、同法施行令126条1項に違反 するとの上記判断を左右しない。また、被告は、建物内に地上に通ずる2以上の直通階段が設置されている場合の一時避難場所たるバルコニーの柵の高さについては建築確認審査が緩やかにされていたとも主張するが、大阪市建築確認課は、そのような運用を行っていたことを否定している上に(調査嘱託の結果)そのように解する法令上の根拠はないから、 上記主張は失当である。 エそこで進んで、本件バルコニーが通常有すべき安全性を欠いているか否かを検討すると、上記認定事実⑴のとおり、本件バルコニーは、防災指導基準にいう一時避難場所として設置されているとともに、両端に避難器具(避難はしご)が設置されていることに照らせば、宿泊客が避難器 具の利用のために通行することも想定されているものと認められる。し たがって、本件バルコニーの本来の用法は、非常時に宿泊客が一時的に待機する避難場所及び避難器具の利用のために通行する避難経路として用いるというものであると認められる。そして、建築基準法施行令126条1項は、前述のとおり、非常時の避難の際にはその切迫した状況及び避難者の不安定な心理状態に鑑みて転落の危険性が高いことから、避 難者が転落する事態を防止し、その安全性を確保するための規定であると解される。建築基準法が、国民の生命等の保護を図るために建築物の設備等に関する最低限の基準を定めたものであること(同法1条)も踏まえれば、同法の委任を受けた建築基準法施行令126条1項に違反するバルコニーは、同項所定の高さの確保に代替し得る転落防止のための 設備が備えられているなどの特段の事情がない限り、非常時に避難場所又は 同法の委任を受けた建築基準法施行令126条1項に違反するバルコニーは、同項所定の高さの確保に代替し得る転落防止のための 設備が備えられているなどの特段の事情がない限り、非常時に避難場所又は避難経路として利用するに際し転落する危険性が認められ、通常有すべき安全性を欠いているというべきである。そして、本件バルコニーは、その柵の高さが72cmにとどまり、建築基準法施行令126条1項の規定する基準(1.1m)よりも相当低く、本件バルコニーの通路 幅等の客観的構造その他本件全証拠によっても、上記特段の事情があるとは認めるに足りず、そうすると、本件バルコニーは、非常時に宿泊客が避難場所又は避難経路として利用するという本来の用法に照らして、その構造上、宿泊客が転落する事態を防ぐための通常有すべき安全性を欠いていたというべきである。 なお、被告は、本件ホテルの外壁に手を添えたり、手すりを掴んだりしてバランスを保つことができるから宿泊客が転落する危険はない旨主張するが、本件バルコニーの本来の用法である非常時の避難の際に、常に被告が主張するような慎重な方法ないし態様で本件バルコニーを利用するとは考え難いことから、被告の上記主張は採用することができない。 また、被告は、本件事故は亡Dが非常時でもないのに一時避難場所たる 本件バルコニーに出たという異常な行動に起因する旨主張するが、本件バルコニーが上記のとおり本来の用法に照らして通常有すべき安全性を欠いていたと認められる以上、亡Dが実際にした用法は、上記判断を左右するものではなく、因果関係及び過失相殺の有無において考慮されるべき事情である。さらに、被告は、本件ホテルについて大阪市消防局と の個別の防災協議を経て、大阪市の建築主事の建築確認済証を取得し、完了検査も なく、因果関係及び過失相殺の有無において考慮されるべき事情である。さらに、被告は、本件ホテルについて大阪市消防局と の個別の防災協議を経て、大阪市の建築主事の建築確認済証を取得し、完了検査も合格していることを指摘するが、工作物責任は無過失責任であるから、たとえ同事実が認められるとしても、上記判断を覆すに足りない。 したがって、本件ホテルには、本件バルコニーの設置又は保存に瑕疵が あると認められる。 3 争点⑶(本件ホテルの瑕疵と亡Dの死亡との因果関係)について上記認定事実⑶のとおり、亡Dは本件バルコニーから誤って転落したものと認められる。そして、上記認定事実⑴、⑵のとおり、本件窓が本件客室の床からは73cmの高さに、本件バルコニーの床からは75cmの高さに下 枠がある腰高窓であって、本件バルコニーの通路幅は65cmであり、本件客室と反対側の端には高さ72cmの柵が設けられていたこと、本件窓が本件事故当時全開になっていたこと、亡Dは本件事故の約50分前の時間帯にスマートフォンで本件バルコニーから街の風景を撮影していたこと、本件窓と本件客室のベッドの間には数十cmの幅の空間が存在しており(甲10、 20)、亡Dが同ベッドから本件バルコニーに着地せずに、同柵を越えて地上に転落したとは考え難いことなどの諸事情に鑑みれば、亡Dは、意図的に、本件窓を全開して同窓から本件バルコニーに立ち入り、同場所で誤ってバランスを崩して本件バルコニーの柵の外側に重心が移動して地上に転落したものと認められる。そして、建築基準法施行令126条1項による規制の上記 趣旨を踏まえ、同柵の高さが同規制の基準である1.1mを相当下回る72 cmであったこと、亡Dの身長が155cmであったこと(甲20〔6頁〕 基準法施行令126条1項による規制の上記 趣旨を踏まえ、同柵の高さが同規制の基準である1.1mを相当下回る72 cmであったこと、亡Dの身長が155cmであったこと(甲20〔6頁〕)に照らせば、少なくとも、本件バルコニーに同規制に従った高さ1.1m以上の柵が設置されていれば、亡Dが誤ってバランスを崩したとしてもその重心が同柵の外側に移動することはなく、本件事故が発生しなかった蓋然性が高いと認められる。 そして、本件事故には、亡Dが非常時ではないのに本件バルコニーに立ち入ったとの事情が介在しているが、本件バルコニーは一時避難場所又は避難経路として設置されており、人が立ち入ること自体は想定されていたことからすれば、当該事情は相当因果関係を妨げるものではないというべきである。 したがって、本件ホテルの設置又は保存の瑕疵と亡Dの死亡との間には、 因果関係が認められる。 4 争点⑷(亡D及び原告らの損害)及び争点⑸(過失相殺の有無及び割合)について⑴ 亡Dの逸失利益 8666万4860円証拠(甲15)によれば、亡Dは、その勤務先から、平成30年8月か ら令和元年7月までに、合計998万6424円の給与を支給されたことが認められる。もっとも、このうち令和元年6月分として支給された一時金33万円については、本件全証拠によっても、その後も亡Dが継続的に得ることができたことを認めるに足りない。 そこで、亡Dが本件事故によって逸失した収入は、上記一時金を除いて 基礎収入を965万6424円とし、これに死亡当時の年齢である46歳から67歳までの就労可能年数21年に対応するライプニッツ係数12.8212を乗じ、亡Dが専業主婦である妻並びに10歳及び7歳の2人の 収入を965万6424円とし、これに死亡当時の年齢である46歳から67歳までの就労可能年数21年に対応するライプニッツ係数12.8212を乗じ、亡Dが専業主婦である妻並びに10歳及び7歳の2人の子と同居していたこと(甲2、4、6〔3頁〕)を考慮して生活費控除として30%を減じた、8666万4860円(小数点以下切捨 て)と認めるのが相当である。 ⑵ 亡Dの死亡慰謝料及び原告らの固有慰謝料合計2800万円亡Dが一家の支柱であったこと(弁論の全趣旨)、妻並びに10歳及び7歳の2人の子(甲4)を残して死亡したこと、本件事故の態様等を総合考慮し、亡Dの死亡慰謝料については、2400万円をもって相当と認め、原告らの固有慰謝料については、原告Aにつき200万円、原告 B及び原告Cにつき各100万円をもって相当と認める。 ⑶ 過失相殺 7割ア上記2⑵及び3で認定説示したとおり、本件窓の開閉制限器具が機能していなかったとはいえ、本件客室内には本件バルコニーが火災等の非常時のみに立ち入ることが想定されていることを示す注意書きが掲示さ れていた上に、本件客室における本件窓の構造から、本件バルコニーが平常時に眺望を楽しむ等の目的で本件窓を通って出入りすることが想定されたものであると誤解するおそれは小さかったにもかかわらず、亡Dは、意図的に本件窓を全開して同窓から本件バルコニーに立ち入った上、バランスを崩して地上に転落したことが認められる。そうすると、亡D には、自ら転落の危険がある場所に接近し、同場所でバランスを崩したという点で過失が認められる。 イ以上に加え、被告は、亡Dが、本件事故当時、飲酒により酔った状態であった旨主張するが、上記認定事実⑶のとおり、本件事故後に 接近し、同場所でバランスを崩したという点で過失が認められる。 イ以上に加え、被告は、亡Dが、本件事故当時、飲酒により酔った状態であった旨主張するが、上記認定事実⑶のとおり、本件事故後に亡Dの遺体に対して実施されたアルコール検査ではアルコールが検出されなか ったことからすると、本件事故当時に亡Dが酔った状態にあったとは認められない。また、被告は、亡Dが本件バルコニーに50分間留まって何らかの行動をしていた旨主張するが、亡Dが本件事故当日午前5時34分に撮影した画像(甲20〔37頁〕)その他の本件全証拠によっても、同時点から本件事故発生時刻までの間本件バルコニーに留まってい たことを認めるに足りない。さらに、被告は、亡Dが本件バルコニーに 出る際に、本件窓の開閉制限器具の安全ピンを自ら外したと主張するが、同開閉制限器具にはプラスチックカバー付き安全ピンが存在していなかったことは上記2で認定したとおりであるから、同主張は理由がない。 ウ他方、本件バルコニーの柵の高さは、上記2⑶で認定説示したとおり、建築基準法施行令126条1項所定の規制基準を相当程度下回っており、 その点が、バランスを崩した亡Dが地上に転落するのを防止することができなかったことの大きな要因となったといえる。 以上を総合考慮して、亡Dの過失について、7割の過失相殺をすることを相当と認める。 ⑷ 損益相殺的な調整 -1822万4812円 上記前提事実⑷のとおり、原告らは、遺族補償年金として合計1261万2496円の給付を受け、遺族基礎年金及び遺族厚生年金として合計561万2316円の給付を受けており、これらは上記⑶の過失相殺を施した後の上記⑴の逸失利益(2599万9458円)との間で、損益相殺的な 96円の給付を受け、遺族基礎年金及び遺族厚生年金として合計561万2316円の給付を受けており、これらは上記⑶の過失相殺を施した後の上記⑴の逸失利益(2599万9458円)との間で、損益相殺的な調整を行うべきものである。 なお、被告は、労働者災害補償法に基づく葬祭料給付163万1760円についても損益相殺的な調整の対象であると主張するが、原告らは損害費目に葬儀費用を挙げておらず、労働者災害補償法に基づく葬祭料給付は、上記⑴及び⑵のいずれの関係においても損益相殺的な調整を行うべきとはいえない。したがって、被告の上記主張は採用することができ ない。 ⑸ 弁護士費用以上によれば、原告らは、過失相殺及び損益相殺的な調整を施した後の亡Dの逸失利益(777万4646円)及び過失相殺を施した後の亡Dの死亡慰謝料(720万円)を、各自の相続分に従って相続し、さらに 被告に対し過失相殺を施した後の固有慰謝料(原告Aにつき60万円、 原告B及び原告Cにつき各30万円)を請求し得る。 そして、弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故により、原告ら訴訟代理人弁護士らに委任して本訴を提起、遂行することを余儀なくされたことが認められ、これと相当因果関係のある弁護士費用は、上記の合計額(原告Aにつき808万7323円、原告B及び原告Cにつき各4 04万3661円)の1割に相当する、原告Aにつき80万8732円、原告B及び原告Cにつき各40万4366円であると認めるのが相当である。 ⑹ 小括したがって、被告は、各原告に対し、主文第1項ないし第3項記載の金 員について、工作物責任に基づく損害賠償債務を負うこととなる。 ⑺ なお、原告らは、予備的に、工作物責 小括したがって、被告は、各原告に対し、主文第1項ないし第3項記載の金 員について、工作物責任に基づく損害賠償債務を負うこととなる。 ⑺ なお、原告らは、予備的に、工作物責任として主張する瑕疵のある箇所について、被告が転落防止措置を講ずべき安全配慮義務を負っていたとして、宿泊契約上の安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求をするが、仮に被告に上記債務不履行が認められるとしても、同債務 不履行に基づく損害賠償債務の額は上記⑹の損害賠償債務の額を超えるものではないから、同請求に関する判断は要しない。 第4 結論よって、原告らの請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由があるからその限度で認容し、その余をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官大嶋洋志 裁判官松原経正 裁判官溝口翔太 (別紙1)関係法令の定め 1 建築基準法⑴ 1条(目的)この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定め て、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。 ⑵ 2条(用語の定義)この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 2号特殊建築物…旅館…その他これらに類する用途に供する建築物をいう。 ⑶ 35条(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準)別表第一(い)欄(一)項から 。 2号特殊建築物…旅館…その他これらに類する用途に供する建築物をいう。 ⑶ 35条(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準)別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物…については、廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラー、 貯水槽その他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従つて、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない。 ⑷ 別表第一(耐火建築物等としなければならない特殊建築物(第六条、第二十一条、第二十七条、第二十八条、第三十五条―第三十五条の三、第九十条の三 関係))(い)欄(ニ)項 …ホテル、旅館… 2 建築基準法施行令第5章避難施設等第2節廊下、避難階段及び出入口 ⑴ 117条(適用の範囲) 1項この節の規定は、法別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物、階数が三以上である建築物…又は延べ面積が千平方メートルをこえる建築物に限り適用する。 ⑵ 121条(二以上の直通階段を設ける場合)1項建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合において は、その階から避難階又は地上に通ずる二以上の直通階段を設けなければならない。 5号ホテル…の用途に供する階でその階における宿泊室の床面積の合計…が、…百平方メートルを超えるもの6号前各号に掲げる階以外の階で次のイ又はロに該当するもの イ六階以上の階でその階に居室を有するもの(第一号から第四号までに掲げる用途に供する階以外の階で、その階の居室の床面積 6号前各号に掲げる階以外の階で次のイ又はロに該当するもの イ六階以上の階でその階に居室を有するもの(第一号から第四号までに掲げる用途に供する階以外の階で、その階の居室の床面積の合計が百平方メートルを超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段で第百二十三条第二項又は第三項の規定に適合するものが設けら れているものを除く。)⑶ 126条(屋上広場等)1項屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが一・一メートル以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない。 以上 (別紙2)防災指導基準第1 総則 1 目的この基準は、大阪府内建築行政連絡協議会の「高層建築物等の防災措置に関 する要綱(平成12年6月1日制定)に基づき、高層建築物等に係る防災計画に関し、指導すべき必要な事項を定め、防火安全性の確保を図ることを目的とする。 2 用語の定義⑴ 一時避難場所とは、防火対象物の部分で、避難者が一時的に安全に待機す ることができる広場、バルコニー、屋上広場その他これらに類する施設をいう。 第2 避難施設 2 一時避難場所の設置⑴ ホテル…で、就寝施設…を有するもの…は、次により一時避難場所を設け ることア一時避難場所は、就寝施設にあっては、就寝の用に供する室…から直接避難できる位置に…設けることイ就寝施設に設ける一時避難場所は、バルコニーとすることエ一時避難場所の幅員は、60センチメートル以上とすること 第7 指導上の留意事項本指導基準は、 設けることイ就寝施設に設ける一時避難場所は、バルコニーとすることエ一時避難場所の幅員は、60センチメートル以上とすること 第7 指導上の留意事項本指導基準は、防災計画書作成時の消防機関による指導内容を定めたものであり、建築物等の総合的な防火安全性について、建築主、設計者及び施工者(以下「建築主等」という。)に積極的に提案し、その趣旨について、十分に理解を得た上で高層建築物等の防火安全性を確保しようとするものである。…なお、本指 導基準に基づく指導は、行政指導の一環として、あくまで建築主等の任意の協力 のもとに行うものであることに留意されたい。 以上
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