平成23(ワ)34237 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年9月25日 東京地方裁判所
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平成26年9月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(ワ)第34237号特許権侵害差止等請求事件(口頭弁論の終結の日平成26年7月17日)判決 主文 徳島県阿南市〈以下略〉原告日亜化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士古城春実 同牧野知彦 同堀籠佳典 同加治梓子 同補佐人弁理士蟹田昌之 大阪府守口市〈以下略〉被告三洋電機株式会社 同訴訟代理人弁護士尾崎英男 同鷹見雅和 同日野英一郎 同上野潤一 同今田瞳 同 今 田 瞳 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を生産し,譲渡し,輸出若しくは輸入し,又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は,その占有する被告製品を廃棄せよ。 - 2 - 3 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成23年10月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「窒化物半導体素子」とする特許権を有する原告が,被告による被告製品の生産,譲渡等が上記特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の生産,譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害に基づく損害賠償金の支払(一部請求)を求める事案である。 1 争いのない事実(1) 当事者原告は,半導体及び関連材料,部品,応用製品の製造,販売並びに研究開発等を業とする株式会社である。 被告は,各種電子機器器具,通信機械器具及び電子部品等の製造販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 特許番号第4314887号出願日平成15年5月26日(特願2003-148359。以下,この出願を「本件出願」という。)原出願日平成10年5月15日(特願平10-13 第4314887号出願日平成15年5月26日(特願2003-148359。以下,この出願を「本件出願」という。)原出願日平成10年5月15日(特願平10-132831。以下,この出願を「本件原出願」という。)優先日平成9年11月26日(特願平9-324997)登録日平成21年5月29日イ本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1(ただし,平成26年4月3日に確定した審決による訂正後のもの)の記載は,次のとおりであ- 3 -る(以下,この発明を「本件発明」という。)。 「 厚みが50μm以上であり,少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下である,ハライド気相成長法(HVPE)を用いて形成されたn型不純物を含有するGaN基板と,前記GaN基板の上に積層された,活性層を含む窒化物半導体層と,前記窒化物半導体層に形成されたリッジストライプと,該リッジストライプ上に形成されたp電極と,前記GaN基板の下面に形成されたn電極と,を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子。」ウ本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。 A 厚みが50μm以上であり,少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下である,ハライド気相成長法(HVPE)を用いて形成されたn型不純物を含有するGaN基板と,B 前記GaN基板の上に積層された,活性層を含む窒化物半導体層と,C 前記窒化物半導体層に形成されたリッジストライプと,該リッジストライプ上に形成されたp電極と,D 前記GaN基板の下面に形成されたn電極と,E を備えた ,活性層を含む窒化物半導体層と,C 前記窒化物半導体層に形成されたリッジストライプと,該リッジストライプ上に形成されたp電極と,D 前記GaN基板の下面に形成されたn電極と,E を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子。 (3) 本件特許の出願経過ア原告は,平成15年5月26日,本件原出願(その特許出願の願書に添付された明細書及び図面(乙1)を「本件当初明細書」という。)からの分割出願として,本件出願(その特許出願の願書に添付された明細書及び図面(乙8)を「本件分割時明細書」という。)をした。 イ原告は,平成17年4月18日受付の手続補正書(乙9)において,特許請求の範囲並びに発明の詳細な説明を補正した(以下,この補正を- 4 -「本件補正」という。)。 ウ本件特許は,平成21年5月29日に登録され,その後,上記(2)イのとおり訂正された(以下,訂正後の明細書及び図面(甲2,11の1の2)を「本件明細書」という。)。 (4) 被告の行為ア被告は,平成21年5月29日以降,被告製品を製造,販売,輸出している。 イ被告製品中には,次の構成(以下,それぞれの構成を「構成a」などという。)を備える製品(以下「被告製品1」という。)と,これを備えない製品(具体的には,構成a中の結晶欠陥の数が1×107個/cm2を超える部分があるもの。以下「被告製品2」という。)が含まれている。 a 結晶欠陥の数が,GaN基板の厚さ方向において略均一で8×106個/cm2以下である,ハライド気相成長法(HVPE)を用いて形成されたn型不純物を含有するGaN基板を有する。 b 前記GaN基板の上に積層された,活性層を含む窒化物半導体層を有する。 c 前記窒化物半導体層に形成されたリッジストライプと,該リッジストライプ上に形 型不純物を含有するGaN基板を有する。 b 前記GaN基板の上に積層された,活性層を含む窒化物半導体層を有する。 c 前記窒化物半導体層に形成されたリッジストライプと,該リッジストライプ上に形成されたp電極を有する。 d 前記GaN基板の裏面に形成されたn電極を有する。 e 以上を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子。 2 争点原告は,被告製品2が本件発明の構成要件Aを充足しないことを認めている。他方,被告は,被告製品1が構成要件A中の「少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下である……GaN基板」を充足することを争い,その余の構成要件の充足を認めている。したがって,本件の争点は,次のように整理することができる。 - 5 -(1) 被告製品1の構成要件Aの充足性(2) 被告製品中に被告製品1が占める割合(3) 差止請求等の当否(4) 損害論 3 争点に関する当事者の主張(1) 被告製品1の構成要件Aの充足性(原告の主張)構成要件A及びDの「下面」は,「下の面」を意味し,構成要件B~Dには,「GaN基板の上に積層された……半導体層と,……p電極と」との記載に続いて「下面に形成されたn電極」と記載されているのであるから,「下面」は「半導体層を積層する面とは反対のn電極を形成する面」を意味するものと解すべきである。本件発明を結晶欠陥の多い領域に直接n電極を設ける構成に限定すべきではないことは,①構成要件Aは,GaN基板の結晶欠陥の数について,「少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では」と記載するにとどまり,それより下の領域の結晶欠陥の数を特定していないこと,②本件明細書の発明の詳細な説明には,「下地層が除去される場合,結晶欠陥が多い領域の ら厚さ方向に5μmよりも上の領域では」と記載するにとどまり,それより下の領域の結晶欠陥の数を特定していないこと,②本件明細書の発明の詳細な説明には,「下地層が除去される場合,結晶欠陥が多い領域の第2の窒化物半導体層にn電極が形成されてなることが望ましい。」と記載されており(段落【0014】),結晶欠陥の数の多い高キャリア濃度領域にn電極を形成する形態に発明の範囲を限定していないこと,③本件当初明細書には,n電極を設ける層として,第2の窒化物半導体層の結晶欠陥の多い領域を使用すること(段落【0044】)と,Si等のn型不純物をドープしてキャリア濃度を高めた層を使用すること(段落【0015】)が等価の技術であることが記載されており,結晶欠陥の少ない領域に直接n電極を設ける構成が開示されているものと理解できることからも明らかである。 (被告の主張)- 6 -下面から厚さ方向の全体にわたって結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下のGaN基板を使用する素子は,本件当初明細書にも本件明細書にも開示されていない。本件明細書には,「結晶欠陥が多い領域の第2の窒化物半導体層にn電極が形成されてなることが望ましい。」として,結晶欠陥の多い領域にn電極を設けることによる作用効果を記載しているのであるから,n電極が形成される基板の「下面」近傍は,結晶欠陥の数が多い領域として特定されている。したがって,構成要件AのGaN基板の「下面」は,「下面から厚さ方向に5μmよりも上の結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下の領域に比べて,結晶欠陥の多い領域に形成されている面」を意味するものと解すべきである。また,構成要件Aの「GaN基板」は,下面から厚さ方向に5μmまでの領域における結晶欠陥の数が1×107個/cm2よりも多いものをいうと解すべきである。本 ている面」を意味するものと解すべきである。また,構成要件Aの「GaN基板」は,下面から厚さ方向に5μmまでの領域における結晶欠陥の数が1×107個/cm2よりも多いものをいうと解すべきである。本件当初明細書及び本件分割時明細書には,下面から厚さ方向に5μmまでの領域の結晶欠陥の数が少ない素子は記載されておらず,原告の主張する解釈を採ると,本件補正は新規事項を追加する違法なものとなるから,そのような解釈を採るべきではない。 被告製品1のGaN基板の結晶欠陥の数は,厚さ方向において略均一で8×106個/cm2以下であるから(構成a),構成要件A中の「少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下である……GaN基板」を充足しない。 (2) 被告製品中に被告製品1が占める割合(原告の主張)被告製品には,①日立電線株式会社製又は②住友電気工業株式会社製のGaN基板が使用されているところ,①のGaN基板を使用した被告製品は全て被告製品1である。他方,②のGaN基板ウエハは,400μmの周期で結晶欠陥の数が多いストライプ型コアが存在し,その近傍領域の結- 7 -晶欠陥の数は1×107個/cm2を超えている。被告は400μm周期のコアの間を2分割又は3分割して素子を切り出しているから,被告製品中に被告製品1が占める割合は,素子の幅が約200μm(2分割)の製品については半分以上,素子の幅が約133μm(3分割)の製品については3分の2以上と認められるべきである。 (被告の主張)争う。 (3) 差止請求等の当否(原告の主張)前記(1)(原告の主張)のとおり,被告製品1は本件発明の技術的範囲に属するところ,被告は,被告製品を業として生産し,譲渡し,輸出若しくは輸入し,か (3) 差止請求等の当否(原告の主張)前記(1)(原告の主張)のとおり,被告製品1は本件発明の技術的範囲に属するところ,被告は,被告製品を業として生産し,譲渡し,輸出若しくは輸入し,かつ譲渡の申出をしている。これらの行為は,本件特許権の侵害に当たるから,原告は,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求める。 (被告の主張)争う。 (4) 損害論(原告の主張)平成21年5月29日以降本件訴えの提起(平成23年10月20日)までの被告製品の販売額は,58億円を下らない。本件発明の実施料率は3%を下回らないから,原告の損害額又は損失額は1億7400万円を下らない。よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき,その一部請求として1億円及び訴状送達日の翌日である平成23年10月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)- 8 -争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被告製品1の構成要件Aの充足性)について(1) 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載並びに本件特許の出願経過によれば,構成要件Aの「少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下である……GaN基板」については,次のように解釈することが相当である。 ア本件特許の特許請求の範囲には,「下面から厚さ方向に5μmより上の領域」(構成要件A),「前記GaN基板の上」(構成要件B)及び「前記GaN基板の下面」(構成要件D)という,GaN基板に上下方向が存在することを前提とする記載がある。これによれば,本件発明は, の領域」(構成要件A),「前記GaN基板の上」(構成要件B)及び「前記GaN基板の下面」(構成要件D)という,GaN基板に上下方向が存在することを前提とする記載がある。これによれば,本件発明は,GaN基板それ自体に上下方向ないし上面及び下面を特徴付ける属性が存在すること並びにこれにより特定された上面に窒化物半導体層等を積層し下面にn電極を形成することを必須の構成としていることが明らかである。したがって,このような属性を持たず上下方向を特定することのできないGaN基板や,上記属性により特定された上面又は下面に窒化物半導体層等の積層及びn電極の形成がされていないGaN基板は,特許請求の範囲の文言と相いれないと解される。 このように,本件発明に係るGaN基板は,それ自体に上下方向を特定することができる属性を備えたものであることを要するところ,構成要件Aには「少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下である」との記載があり,かつ,本件特許の特許請求の範囲にはこの記載以外にGaN基板の上下方向を特定する属性に関する記載は存在しない。そうすると,本件発明に係るGaN基板は,ある特定の面から5μm隔たったGaN基板の内部に仮- 9 -想的な面(以下「基準面」という。)を想定し,上記特定の面を「下面」,それとは反対側の面を「上面」とした場合に,基準面より上の領域における結晶欠陥の数が1×107個/cm2以下であり,この領域と基準面より下の領域との間で結晶欠陥の数の偏在が認められることにより上下方向が特定されるようなGaN基板をいうものと解するのが相当である。 そうすると,厚さ方向に結晶欠陥の数の偏在が認められず,その偏在により上下方向を特定することのできないGaN基板は,構成要件Aにい 特定されるようなGaN基板をいうものと解するのが相当である。 そうすると,厚さ方向に結晶欠陥の数の偏在が認められず,その偏在により上下方向を特定することのできないGaN基板は,構成要件Aにいう「GaN基板」を充足せず,本件発明の技術的範囲に属しないものと解すべきである。もっとも,特許請求の範囲には,基準面より上の領域における結晶欠陥の数のみが明記され,その下の領域における結晶欠陥の数についていかに解すべきであるかが定かでないので,発明の詳細な説明の記載を検討することとする。 イ本件明細書の発明の詳細な説明には,【課題を解決するための手段】欄に,①本件発明の窒化物半導体素子は,下地層(第1の窒化物半導体層及び保護膜)に接近した側に結晶欠陥が多い領域と,下地層より離れた側に結晶欠陥が少ない領域とを有する第2の窒化物半導体層を有し,その第2の窒化物半導体層の上に活性層を含む複数の窒化物半導体層が成長されてなることが望ましいこと(段落【0011】),②下地層が除去されて素子構造とされる場合,第2の窒化物半導体層の厚さが50μm以上の膜厚であると,結晶欠陥の少ない領域が更に多くなって望ましいこと(段落【0013】),③下地層が除去される場合,第2の窒化物半導体層が同一組成で結晶欠陥の少ない低キャリア濃度領域と,結晶欠陥の多い高キャリア濃度領域とを有しており,この高キャリア濃度領域にn電極を設けることにより,効率の良い素子を作製することができることから,結晶欠陥が多い領域の第2の窒化物半導体層にn電極が- 10 -形成されてなることが望ましいこと(段落【0014】),④本件発明の素子では,第2の窒化物半導体層の結晶欠陥の多い領域と少ない領域とが窒化物半導体積層方向に対してほぼ同じ方向にあれば,その成長方法は特に限定されないこと( しいこと(段落【0014】),④本件発明の素子では,第2の窒化物半導体層の結晶欠陥の多い領域と少ない領域とが窒化物半導体積層方向に対してほぼ同じ方向にあれば,その成長方法は特に限定されないこと(段落【0016】)が記載されており,また,【実施例】の欄に,①第1の窒化物半導体層の界面からおよそ5μm程度までの領域は結晶欠陥の数が多く(108個/cm2以上),5μmよりも上の領域では結晶欠陥が少なく(106個/cm2以下),十分に窒化物半導体基板として使用できるもの(段落【0031】),②第2の窒化物半導体層と第1の窒化物半導体層の界面からおよそ5μm程度までの領域は結晶欠陥の数が多く,5μmよりも上の領域では結晶欠陥が少なく(107個/cm2以下),十分に窒化物半導体基板として使用できるもの(段落【0053】)が得られたことが記載されている(甲2,11の1の2)。 このように,本件発明は,基準面より下の領域は結晶欠陥の数が多く,それより上の領域は結晶欠陥の数が少ないGaN基板を用い,結晶欠陥の数が多い高キャリア濃度領域にn電極を設けることにより,効率の良い素子を作製するところに技術的意義があるものと解される。そうすると,構成要件Aの「GaN基板」は,単に,基準面より上の領域の結晶欠陥の数が所定の数(1×107個/cm2)以下であり,基準面より下の領域との間で結晶欠陥の数の偏在があるというだけでは足りず,後者の数が前者の数よりも相対的に多いものとして特定されるGaN基板を意味するものと解するのが相当である。 ウさらに,この点を,本件特許の出願経過に即して検討する。 (ア) 前記争いのない事実に証拠(甲2,乙1,8,9)を総合すると,次の事実が認められる。 a 本件原出願及び本件出願においては,特許請求の範囲に下記(a)- 許の出願経過に即して検討する。 (ア) 前記争いのない事実に証拠(甲2,乙1,8,9)を総合すると,次の事実が認められる。 a 本件原出願及び本件出願においては,特許請求の範囲に下記(a)- 11 -の記載があり,本件当初明細書及び本件分割時明細書の発明の詳細な説明には下記(b)の記載があった(乙1,8)。 (a) 特許請求の範囲の記載本件原出願及び本件出願における特許請求の範囲は,窒化物半導体の成長方法の発明である請求項1を除き,請求項2~9の全てが窒化物半導体素子の発明であり,下記の請求項7を含め請求項3~9は全て請求項2の従属項であった。そして,請求項2は,下記のとおり,下地層に接近した側に結晶欠陥が多い領域と,下地層より離れた側に結晶欠陥が少ない領域とを有する第2の窒化物半導体層を有することを必須の構成としていた。 【請求項2】窒化物半導体と異なる材料よりなる異種基板の上に成長された第1の窒化物半導体層と,その第1の窒化物半導体層の上に部分的に形成され,表面に窒化物半導体が成長しにくい性質を有する保護膜とからなる下地層の上に,下地層に接近した側に結晶欠陥が多い領域と,下地層より離れた側に結晶欠陥が少ない領域とを有する第2の窒化物半導体層を有し,その第2の窒化物半導体層の上に活性層を含む複数の窒化物半導体層が成長されてなることを特徴とする窒化物半導体素子。 【請求項7】前記下地層が除去されて,結晶欠陥が多い領域側の第2の窒化物半導体層にn電極が形成されてなることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体素子。 (b) 発明の詳細な説明の記載本件当初明細書及び本件分割時明細書の発明の詳細な説明には,次の3か所において,次のとおり,いずれも文末の部分が「……が望ましい。」ではなく「……を特徴とする。」と記載 発明の詳細な説明の記載本件当初明細書及び本件分割時明細書の発明の詳細な説明には,次の3か所において,次のとおり,いずれも文末の部分が「……が望ましい。」ではなく「……を特徴とする。」と記載されていた。 - 12 -【0009】本件発明の窒化物半導体素子は,……下地層に接近した側に結晶欠陥が多い領域と,下地層より離れた側に結晶欠陥が少ない領域とを有する第2の窒化物半導体層を有し,その第2の窒化物半導体層の上に活性層を含む複数の窒化物半導体層が成長されてなることを特徴とする。 【0011】また前記下地層が残されて素子構造とされる場合,第2の窒化物半導体層の上に成長されn型不純物がドープされた窒化物半導体よりなるn側コンタクト層にn電極が形成されてなることを特徴とする。 【0014】また,下地層が除去される場合,結晶欠陥が多い領域の第2の窒化物半導体層にn電極が形成されてなることを特徴とする。 b 原告は,本件補正において,特許請求の範囲を下記(a)のとおり補正するとともに,本件分割時明細書の発明の詳細な説明の記載を下記(b)のとおり補正した(乙9)。 (a) 特許請求の範囲の記載原告は,特許請求の範囲を次のとおり補正した。 【請求項1】本件発明の請求項に同じ(ただし,冒頭の「厚みが50μm以上であり,」を欠くもの。)。 【請求項2】前記GaN基板は,結晶欠陥が少ない領域と結晶欠陥が多い領域とを有する請求項1に記載の窒化物半導体素子。 (b) 発明の詳細な説明の記載原告は,前記a(b)の各記載中,段落【0009】を【0011】,段落【0011】を【0012】とそれぞれ改めた上,「……を特徴とする。」とある部分をいずれも「……が望ましい。」と補正した(段落【0011】,【0012】,【001- 13 - を【0011】,段落【0011】を【0012】とそれぞれ改めた上,「……を特徴とする。」とある部分をいずれも「……が望ましい。」と補正した(段落【0011】,【0012】,【001- 13 -4】)。なお,本件補正書におけるこれらの補正箇所には,特許法施行規則(平成17年経済産業省令第96号による改正前のもの)様式13備考番号6で補正により変更した個所に引くべきこととされている下線が引かれていなかった。 c 本件発明の請求項の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0011】,【0012】,【0014】)は,いずれも上記bの各記載を引き継いだものである(甲2,11の1の2)。 (イ) 上記認定事実によれば,本件原出願及びこれからの分割出願である本件出願においては,窒化物半導体素子の発明は,いずれも,下地層に接近した側に結晶欠陥が多い領域と,下地層より離れた側に結晶欠陥が少ない領域とを有する第2の窒化物半導体層を備えることを必須の構成としていたことが明らかであり,基準面より上の領域と比較してそれより下の領域の結晶欠陥の数が少ないものや,両者が同数のものは,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載されていなかったものと認められる。そうすると,原告において本件補正に当たり新規事項を追加する意思ではなかったと解されるから(特許法(平成18年法律第55号による改正前のもの)17条の2第3項参照),本件発明の構成要件Aの「GaN基板」は基準面より下の領域の結晶欠陥の数が上の領域のそれよりも相対的に多いものとして特定されるGaN基板を意味するとの上記イの解釈は,このような出願経過からも裏付けられるものである。 エ以上のとおり,構成要件Aの「GaN基板」は,基準面より下の領域の結晶欠陥の数が上の領域のそれよりも相対的に多い を意味するとの上記イの解釈は,このような出願経過からも裏付けられるものである。 エ以上のとおり,構成要件Aの「GaN基板」は,基準面より下の領域の結晶欠陥の数が上の領域のそれよりも相対的に多いものであることを要する(上記ウの出願経過に鑑みると,少なくとも原告においてこれに反する主張をすることは許されない)と解すべきである。 (2) 被告製品1のGaN基板における結晶欠陥の数は,GaN基板の厚さ方- 14 -向において略均一(8×106個/cm2以下)であって(構成a),厚さ方向に結晶欠陥の数の偏在がないのであるから,構成要件Aの「GaN基板」を充足しないものと判断することが相当である。 (3) これに対し,原告は,構成要件A及びDの「下面」とは,窒化物半導体素子等を積層する面とは反対のn電極を形成する面を意味し,本件発明を結晶欠陥の多い領域に直接n電極を設ける構成に限定すべきではないと主張し,その根拠として,①構成要件Aは,GaN基板の結晶欠陥の数について,「少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では」としか記載していないこと,②本件明細書の発明の詳細な説明(段落【0014】)には,「下地層が除去される場合,結晶欠陥が多い領域の第2の窒化物半導体層にn電極が形成されてなることが望ましい。」と記載されていること,③本件当初明細書には,n電極を設ける層として,第2の窒化物半導体層の結晶欠陥の多い領域を使用すること(段落【0044】)と,Si等のn型不純物をドープしてキャリア濃度を高めた層を使用すること(段落【0015】)が等価の技術である旨が記載されていることを挙げる。 しかしながら,前記(1)アに判示したとおり,仮に原告の主張するように「下面」が単に窒化物半導体素子等を積層する面とは反対のn電極を形成する面を 価の技術である旨が記載されていることを挙げる。 しかしながら,前記(1)アに判示したとおり,仮に原告の主張するように「下面」が単に窒化物半導体素子等を積層する面とは反対のn電極を形成する面を意味するにとどまるとすれば,本件特許の特許請求の範囲においては,GaN基板それ自体の属性として上下方向があることを前提とする記載をすることはなかったと解されるから,上記解釈を採用することはできない。また,上記(1)ウに判示したとおり,上記①及び②の各記載は,本件補正時の原告の意思に照らし,基準面より下の領域の結晶欠陥の数が上の領域のそれよりも相対的に多いことにより特定されるGaN基板であることを必須の構成とする(少なくとも原告においてこれに反する主張をすることは許されない)ものと解すべきであるから,原告の主張は理由がな- 15 -い。 次に,上記③の主張について判断する。本件当初明細書の段落【0015】には,「下地層を除去して,その第2の窒化物半導体層の表面に電極を形成する場合,第2の窒化物半導体層にはSi,Ge等のn型不純物をドープしてキャリア濃度を,例えば1×1017/cm3~5×1019/cm3に調整することが望ましい。」との記載がある(乙1)。これは,本件原出願に係る窒化物半導体素子がいずれも下地層に接近した側に結晶欠陥が多い領域と,下地層より離れた側に結晶欠陥が少ない領域とを有する第2の窒化物半導体層を有することを必須の構成としていたこと(前記(1)ウ(ア)a,(イ))に照らせば,下地層を除去した第2の窒化物半導体層がそのような構成を有するGaN基板であることを前提として,キャリア濃度の不足を補うために,第2の窒化物半導体層にn型不純物をドープすることが望ましいとする記載にすぎず,下地層に接近した側の領域の結晶欠陥の数が 成を有するGaN基板であることを前提として,キャリア濃度の不足を補うために,第2の窒化物半導体層にn型不純物をドープすることが望ましいとする記載にすぎず,下地層に接近した側の領域の結晶欠陥の数が下地層より離れた側の領域のそれより相対的に少なくてもよいとか,前者の領域に結晶欠陥が存在しなくてもよいとする記載ではないと解すべきものである。 よって,原告の主張はいずれも採用することができない。 (4) 以上のとおり,被告製品1は,構成要件Aの「GaN基板」の構成を有しないものであるから,本件発明の技術的範囲に属しない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 - 16 - 裁判官清野正彦 裁判官植 田 裕紀久 - 17 -(別紙)物件目録 波長405nm±10nmのレーザ光を発する窒化物半導体レーザ素子を組み込んだ半導体レーザダイオード製品 波長405nm±10nmのレーザ光を発する窒化物半導体レーザ素子を組み込んだ半導体レーザダイオード製品

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