1 令和5年12月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官令和3年(ワ)第26834号 損害賠償請求事件口頭弁論終結日 令和5年9月25日判 決 5 原告 株式会社東京精密同訴訟代理人弁護士 服 部 誠同 中村 閑同 岩 間 智 女同 柿 本 祐 依10 被告浜松ホトニクス株式会社同訴訟代理人弁護士 東 崎 賢 治同 松 尾 博 憲同 柿 野 真 一15主 文1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由第1 請求20被告は、原告に対し、1億円及びこれに対する令和3年11月9日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等1 事案の要旨本件は、原告が、被告に対し、①主位的に、原告と被告との間で、原告がレ25ーザダイシング装置を製造・販売するのに必要な、被告が有し、又は有するこ2 とになる全ての特許権(以下、総称して「本件各特許権」という。)について、別紙実施許諾契約目録記載の各契約(以下、順に「本件実施許諾契約1」ないし「本件実施許諾契約4」といい、これらを併せて「本件各実施許諾契約」という。)のいずれかが成立していたところ、被告は、本件各実施許諾契約の成立を否定し、原告に対して、一部の特許権に基づき特許権侵害訴訟等(東京地5方裁判所平成30年(ワ) 「本件各実施許諾契約」という。)のいずれかが成立していたところ、被告は、本件各実施許諾契約の成立を否定し、原告に対して、一部の特許権に基づき特許権侵害訴訟等(東京地5方裁判所平成30年(ワ)第28929号、同平成30年(ワ)第28930号、同平成30年(ワ)第28931号、同令和3年(ヨ)第22138号。 以下、総称して「別件訴訟等」という。)を提起しており、このような行為は本件各実施許諾契約の内容に反するものであると主張して、債務不履行に基づき、②予備的に、仮に本件各実施許諾契約が成立していなかったとしても、原10告には、被告の言動によって、本件各特許権について実施許諾を受けることができ、実施料(ロイヤリティ)の額については確実に合意できるとの信頼が生じており、別件訴訟等の提起はこのような信頼を裏切るものであるから、被告には信義則上の義務違反(契約締結上の過失)が存在すると主張して、不法行為に基づき、損害金1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和315年11月9日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者20原告は、半導体製造装置及び精密計測機器の製造等を業務とする株式会社である。 被告は、光半導体、光学応用機器等の開発・製造を主たる業務とする株式会社である。 ⑵ 原告と被告の業務提携に関する経緯等25ア 原告は、平成14年8月頃、被告に対し、ダイシング装置に関する業務3 提携を持ち掛け、同年9月18日には、被告の開発したレーザを用いたダイシング技術(以下「ステルスダイシング 25ア 原告は、平成14年8月頃、被告に対し、ダイシング装置に関する業務3 提携を持ち掛け、同年9月18日には、被告の開発したレーザを用いたダイシング技術(以下「ステルスダイシング技術」という。)の事業化に向けた業務提携について、「業務提携準備に関する契約」(以下「本件業務提携準備に関する契約」という。)を締結した。本件業務提携準備に関する契約においては、業務提携を行う場合の前提として、以下の事項が合意さ5れていることが確認された(7条)。 ステルスダイシング技術を用いた装置(以下「SD装置」という。)中の筐体、ステージ及び搬送系部分を除いたレーザエンジン部分(以下「SDエンジン」という。)については、被告が原告に対して有償で販売すること。 10SD装置の販売は原告が担当すること。 被告が原告に対して、原告がSD装置を製造・販売するのに必要な範囲で被告の特許、ノウハウの非独占的実施権を付与し、原告はSD装置の販売台数に応じて、1台当たり、最終販売価格の●(省略)●以内を実施料又は対価の一部として被告に支払うこと。 15イ 原告と被告は、平成15年9月18日、「業務提携に関する契約」(以下「本件業務提携契約」という。)を締結した。 本件業務提携契約においては、明示的に変更・修正された条項以外は前記アの契約の条項が有効であることが確認された上で、本件業務提携契約の合意事項は当該契約の調印者名で調印された契約書によらなければ修正20できないことが定められていたほか(2条)、以下の事項も合意された(3条、4条)。 被告が原告にSDエンジンを有償で納入すること。 原告は納入されたSDエンジンを組み込んだSD装置を製造販売すること。 25原告は、SD装置本体最終販売価格の●(省略)●の金 4条)。 被告が原告にSDエンジンを有償で納入すること。 原告は納入されたSDエンジンを組み込んだSD装置を製造販売すること。 25原告は、SD装置本体最終販売価格の●(省略)●の金額を、実施料4 として被告に支払うこと。 ウ 原告と被告は、平成18年6月8日、SDエンジンに関する売買基本契約(以下「本件売買基本契約」という。)を締結した。 ●(省略)●そして、本件売買基本契約においては、当該契約及び個別契約の修正又は変更は、原告及び被告の権限ある代表者が締結した書面に5よらない限り、法的拘束力を有しないものとされた(14条)。 エ 原告と被告は、平成19年9月18日、本件業務提携契約及び本件売買基本契約を修正することを目的とする覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。 本件覚書においては、本件業務提携契約のうち、平成19年10月1日10以降に納入されるSD装置に関し、原告が被告に支払うべき実施料の額について、SD装置の算出基準価格を合意し、料率を●(省略)●に変更した上で、具体的な金額を、製品の種類に応じて、1台当たり●(省略)●とすることが合意された(2条)。 オ 被告の代表取締役副社長を務めていたA(以下「A」という。)とSD15エンジンの製造開発部門の部長を務めていたB(以下「B」という。)は、平成26年10月8日、原告を訪問し、原告の代表取締役副社長を務めていたC(以下「C」という。)及び原告の顧問であったD(以下「D」という。)と面談した。 同面談において、Cは、協議内容を記した議事録(甲11。以下「1020月8日の議事録」という。)を手書きで作成した上で、その場でA及びBに署名を求め、A及びBは、当該書面の出席者が記載された部分の横に、それぞれ自署した。 Bは、被告の他 甲11。以下「1020月8日の議事録」という。)を手書きで作成した上で、その場でA及びBに署名を求め、A及びBは、当該書面の出席者が記載された部分の横に、それぞれ自署した。 Bは、被告の他の担当者と共に、同月23日、原告を訪問し、C及びD並びに原告の担当者と打合せを行った。同打合せについては、原告側出席25者が打ち合せた内容を記載した議事録(甲13。以下「10月23日の議5 事録」という。)を作成し、これを印刷したものにBが苗字を自署して丸で囲んだサインをした。 カ 平成29年9月頃、被告が原告に対し本件業務提携契約の解消を申し入れたことから、本件業務提携契約は、同月18日に期間満了をもって終了した。 5⑶ 別件訴訟等の提起被告は、原告が被告の保有する特許権を侵害したと主張して、別件訴訟(東京地方裁判所平成30年(ワ)第28929号、同平成30年(ワ)第28930号及び同平成30年(ワ)第28931号)を提起し、仮処分(同令和3年(ヨ)第22138号)を申し立てた。 103 争点⑴ 主位的請求に関する争点ア 本件各実施許諾契約の成否(争点1)イ 本件各実施許諾契約に係る被告の義務違反の有無(争点2)ウ 主位的請求に係る損害の発生及び額(争点3)15⑵ 予備的請求に関する争点ア 契約締結上の過失の有無(争点4)イ 予備的請求に係る損害の発生及び額(争点5)ウ 予備的請求に係る消滅時効の成否(争点6)第3 争点に関する当事者の主張201 争点1(本件各実施許諾契約の成否)について(原告の主張)以下のとおり、原告と被告との間には、本件実施許諾契約1が成立しており、仮に同契約が成立していないとしても、同契約の一部である本件実施許諾契約2ないし4の 約の成否)について(原告の主張)以下のとおり、原告と被告との間には、本件実施許諾契約1が成立しており、仮に同契約が成立していないとしても、同契約の一部である本件実施許諾契約2ないし4のいずれかが成立していたと解するべきである。 25⑴ 被告は、原告製エンジンを搭載したダイシング装置(以下「原告製エンジ6 ン搭載装置」という。)を製造・販売することについての許諾をし、本件実施許諾契約1が成立したことア 実施許諾の合意について(平成26年10月8日の面談)平成26年10月8日の面談において、Cは、Aに対し、原告と被告との間で新たに原告専用の性能の良いレーザエンジンを開発したいと考えて5いるが、開発には時間がかかるため、顧客を引き留めるためにも、新しいレーザエンジンができるまでは原告製エンジン搭載装置を製造・販売したいという意向を伝え、AはCの提案を了承した。 この際、C及びAは、原告製エンジン搭載装置の販売について、韓国のF社(以下「F社」という。)へのサンプル機の出荷に限るなどの限定は10全くしていなかった。 10月8日の議事録には、「(省略)」との記載に対して「→」が記載され、これに続けて「A副社長は了承する。」と記載されているところ、これは、原告製エンジン搭載装置を販売したいとの原告の要請をAが了承したことを示している。 15そして、原告と被告は、同面談において、①原告製エンジン搭載装置の販売の際には、原告から被告に対して実施料を支払うこと、②原告製エンジン搭載装置には、SDEシール(被告の許諾を受けて販売されたレーザエンジンであることを示すシールのこと)を貼付すること、③被告は、原告のために、より性能の良いレーザエンジンを開発し、そのようなレーザ20エンジンが開発で ル(被告の許諾を受けて販売されたレーザエンジンであることを示すシールのこと)を貼付すること、③被告は、原告のために、より性能の良いレーザエンジンを開発し、そのようなレーザ20エンジンが開発できれば、その時点で、被告製レーザエンジンを搭載したダイシング装置(以下「被告製エンジン搭載装置」という。)を商品化することも合意した。 イ 実施料の合意について(平成26年10月23日の打合せ)もっとも、被告は、平成26年10月8日の面談で、まずは被告の提案25するレーザエンジンの性能を紹介するので、その性能が良ければそのレー7 ザエンジンを採用してもらいたいとの要望を出したため、同月23日に改めて打合せが行われた。 同打合せにおいて、原告が、今後、原告製エンジン搭載装置を製造・販売する場合、実施料の額は、従前と同額、すなわち、原告が被告から購入しているSDエンジンに対する実施料と同じでいいかと尋ねたところ、B5はそれでよいと回答した。 10月23日の議事録には、「●(省略)●」と記載されており、この記載は、原告製エンジン搭載装置にSDEシールを貼付すること、原告が支払う実施料は、従前と同額とすることを、原告と被告が合意したことを示している。上記の記載のうち「リリース」という記載は、原告製エンジ10ン搭載装置を販売することを意味するものである。 ウ 以上のとおり、被告は、原告製エンジン搭載装置を製造・販売することについての許諾をし、本件実施許諾契約1が成立した。 ⑵ 被告にとっても、本件実施許諾契約1を締結する合理性があったこと平成26年10月当時、原告のレーザダイシング装置の販路は縮小する一15方であり、原告としては、市場で生き残るために原告製エンジン搭載装置の製造・販売を目指すしかないと考えており、被告 こと平成26年10月当時、原告のレーザダイシング装置の販路は縮小する一15方であり、原告としては、市場で生き残るために原告製エンジン搭載装置の製造・販売を目指すしかないと考えており、被告もそのような原告の状況をよく理解していた。 そして、被告としても、原告が市場に残る形になることで、レーザエンジンの供給先を複数確保することができ、リスクを分散することができる上、20原告が顧客を引き留めることによって、被告のレーザエンジンの売上げを増やすことができる可能性もあり、本件実施許諾契約1を締結することに一定のメリットが存在した。 さらに、10月8日の議事録に記載されているとおり、被告は、原告製エンジン搭載装置を製造・販売することを認める一方で、原告と被告は、より25性能の良いレーザエンジンを開発し、そのようなレーザエンジンが開発でき8 れば、その時点で、被告製エンジン搭載装置を商品化することも合意していたのであり、被告の開発が順調に進めば、原告製エンジン搭載装置の製造・販売が長期にわたって続くことはないはずであった。 このように、被告にとっても、原告と本件実施許諾契約1を締結するメリットが存在し、同契約を締結することには合理性があった。 5⑶ 平成26年10月23日以降の事後的な事情も実施許諾契約の成立を裏付けていることア 平成27年3月25日の打合せについて原告は、原告製エンジン搭載装置を初めてF社に出荷することになった際、被告にその旨を報告するため、平成27年3月25日に打合せを行っ10た。 被告は、同打合せの前から、原告製エンジン搭載装置のユーザーから被告に問合せがあった場合の対応について、原告に質問しており、同打合せのために原告の作成した資料(甲37)には、「ユーザ様 。 被告は、同打合せの前から、原告製エンジン搭載装置のユーザーから被告に問合せがあった場合の対応について、原告に質問しており、同打合せのために原告の作成した資料(甲37)には、「ユーザ様対応」に関する記載や、「初号機」という「2号機」以降が存在することを前提にした記15載があった上、F社が購入する可能性がない装置の名称も記載されていた。 これに関し、被告の作成した平成27年3月25日の打合せに係る面談報告書(乙6、18)には、●(省略)●同報告書を見ても、原告製エンジン搭載装置を販売することの是非については記載されていない。 さらに、上記打合せの当日においても、被告は、原告製エンジン搭載装20置の販売について、異議を述べておらず、同打合せ後には、●(省略)●イ 平成27年6月29日の打合せについて被告は、原告が原告製エンジン搭載装置をG社(以下「G社」という。)に紹介しているとの情報を得て、その真偽を確かめるために、平成27年6月29日、原告を訪問しており、遅くともこの時点で、被告は原告製エ25ンジン搭載装置がG社に販売されてしまう可能性を認識していた。それに9 もかかわらず、被告は、原告に対し、原告製エンジン搭載装置の製造・販売について抗議をしていなかった。 ウ 平成27年11月19日のメールや同月30日の打合せについてBは、平成27年11月19日、原告のE(以下「E」という。)に対して、F社以外への紹介や設置を行わないという約束であった旨のメール5を送信しているが、Eからの返信に対して回答をせず、また、被告は、同月30日の打合せにおいても、原告製エンジン搭載装置の製造・販売について、抗議をしていない。 エ 小括以上のように、平成26年10月23日以降の 返信に対して回答をせず、また、被告は、同月30日の打合せにおいても、原告製エンジン搭載装置の製造・販売について、抗議をしていない。 エ 小括以上のように、平成26年10月23日以降の事情も本件実施許諾契約101が成立していたことを裏付けているといえる。 ⑷ 仮に本件実施許諾契約1が成立していないとしても、本件実施許諾契約2ないし4が成立していること前記⑴ないし⑶で主張した事情によれば、本件実施許諾契約1が成立していないとしても、少なくとも同契約の一部についてはその成立を認めるべき15である。 すなわち、原告が開発するレーザエンジンはあくまで顧客を引き留めることを目的として販売するものであり、被告は、原告のために、より性能の良いレーザエンジンを開発し、そのようなレーザエンジンが開発できれば、その時点で、被告製エンジン搭載装置を商品化することも合意しており、そう20すると、少なくとも次の①の期間については、被告による実施許諾があったと解すべきである。 ① 原告のレーザダイシング装置ビジネスが継続し得るようになるまでの間であり、かつ、本件業務提携契約及び同契約に基づく共同開発が継続している間25また、被告の主張を前提にしても、F社向けの製品について実施許諾がな10 されていたといえるから、原告と被告との間では、少なくとも次の②のような合意が存在したといえる。 ② 対象となる販売先は、原告の平成26年10月8日時点におけるステルスダイシング装置に関する顧客であるF社であることこのように、原告と被告との間では、上記①及び/又は上記②を内容とす5る本件実施許諾契約2ないし4のいずれかの契約が成立していた。 (被告の主張)以下のとおり、被告が了承していたのは、顧客であ うに、原告と被告との間では、上記①及び/又は上記②を内容とす5る本件実施許諾契約2ないし4のいずれかの契約が成立していた。 (被告の主張)以下のとおり、被告が了承していたのは、顧客であるF社を「引き留める」ための繋ぎの対応として、F社に向けてサンプル機1台を紹介することのみであり、原告の主張する本件各実施許諾契約はいずれも成立していない。 10⑴ 平成26年10月8日の面談及び同月23日の打合せにおいて、本件実施許諾契約1は成立していないことア 企業間の取引は書面によって契約を行うのが通常であり、実施許諾契約の締結は事前の社内協議を経て締結するのが一般的であること企業間の取引、特に、公開会社であり、大会社であり、上場会社である15企業間の取引において、法的な権利義務関係を発生させる合意をする場合には、企業内において適切な手続を経た上で、契約書や覚書といった書面を作成することが通常である。 実際に、原告との業務提携においては、本件業務提携準備に関する契約、本件業務提携契約及び本件売買基本契約の締結に際して契約書が作成され20ており、各契約の変更は書面による合意によって行う必要があるとされている(甲2ないし4)。また、実際にこれらの契約を修正する際には、本件覚書(甲5)が締結されている。このように、原告と被告の間では、契約書や覚書といった正式な契約書面による合意が行われてきていた。 さらに、特許権の実施許諾契約は、自社のビジネスの構造を大きく変化25させるものである。すなわち、被告が保有するレーザダイシング装置に関11 する特許権を原告に実施許諾することとすれば、被告は、実施料収入を得ることができるが、その代わり、被告が製造・販売するレーザエンジンの売上げが減少することと するレーザダイシング装置に関11 する特許権を原告に実施許諾することとすれば、被告は、実施料収入を得ることができるが、その代わり、被告が製造・販売するレーザエンジンの売上げが減少することとなる。 そのため、実施許諾契約の締結については、代表取締役がその決定を行う際にも、事前の社内協議を経るのが一般的な企業実務である。 5このような事情からすれば、平成26年10月8日の面談及び同月23日の打合せでは、単に契約締結交渉に先立つ「事前のさぐり合い」が行われたものにすぎず、このような協議をもって本件実施許諾契約1が成立したとはいえない。 イ A及びBが了承したのは、顧客(F社)を「引き留める」ための繋ぎの10対応として、当該顧客(F社)に向けてサンプル機1台を紹介したいという申出であったこと平成26年10月8日の面談においては、まず顧客であるF社への納期の提示の件が話し合われ、その中で、原告からは、F社との間で納期の件で不和が生じていることから、F社を「引き留める」ための繋ぎの対応と15して、原告製エンジン搭載装置を紹介したいとの申出があり、A及びBはその申出を了承したにすぎない。 この点、原告は、10月8日の議事録や10月23日の議事録を本件実施許諾契約1が成立していたことの根拠として挙げているが、これらの議事録は、いずれも単なる議事録であり、原告と被告との打合せの内容を漏20れなく正確に反映したものではないし、その記載から本件実施許諾契約1の内容を読み取ることも困難である。したがって、これらの議事録は、本件実施許諾契約1の成立を裏付ける証拠とはいえない。 ⑵ 被告には本件実施許諾契約1を締結する合理的な理由がないこと被告は、レーザダイシング装置メーカーに対し、被告製エンジンを販売し は、本件実施許諾契約1の成立を裏付ける証拠とはいえない。 ⑵ 被告には本件実施許諾契約1を締結する合理的な理由がないこと被告は、レーザダイシング装置メーカーに対し、被告製エンジンを販売し、25その販売先に限り、被告製エンジン搭載装置を製造・販売するために被告の12 保有する特許権の実施を許諾するという事業戦略を採用し、被告はSDエンジンの販売代金と実施料の双方を得ることで、利益を確保してきた。 ●(省略)●本件実施許諾契約1は、被告の利益の重要な源泉であるSDエンジンの販売代金を手放すものであり、終期も明確なものではないから、被告が同契約5の締結に応じるはずがない。 ⑶ Bのノートや平成26年10月23日以降の事後的な事情は、AやBの了承がF社へのサンプル機1台の紹介に限定したものであることを裏付けていることBは、プロジェクトごとにノートを携行し、打合せの際にはその議事内容10を打合せ中にその場で記録していたところ、平成26年10月8日の面談については、「お客(F社)を引き留めるため開発品を紹介したい」と記載され、その横には「⇒副社長OK」と記載されている(甲12)。 また、平成26年10月23日以降の事情を踏まえても、本件実施許諾契約1が成立していたと考えることはできない。 15すなわち、被告は、平成27年5月頃に原告がG社に原告製エンジン搭載装置を紹介していることが発覚した際、原告を訪問し、これまでの話と異なる旨指摘しており、同日の面談報告書(甲15)の「(省略)」との記載も、被告が本件実施許諾契約1の内容を了承していなかったことを裏付けるものである。 20また、被告は、原告が、H社(以下「H社」という。)に原告製エンジン搭載装置をサンプル機として設置した際にも、原告に 本件実施許諾契約1の内容を了承していなかったことを裏付けるものである。 20また、被告は、原告が、H社(以下「H社」という。)に原告製エンジン搭載装置をサンプル機として設置した際にも、原告に対し、●(省略)●、「F社様以外への展開が事実であるとすると、今後もさらに貴社製SD装置を他へも展開されていくのではないかとの疑念を持ちざるをえません。」と正式に強く抗議した(甲16)。 25さらに、原告も、「●(省略)●」(乙6、18)、「●(省略)●」(甲113 5)などとも述べており、F社以外に原告製エンジン搭載装置の販売等を行わないことを前提にした発言をしていた。 このように、Bのノートの記載や平成26年10月23日以降の経緯は、原告の申出並びにA及びBの了承が、顧客(F社)を「引き留める」ための繋ぎの対応として、原告製エンジン搭載装置を当該顧客(F社)に紹介する5ことに限定したものであったことを裏付けている。 ⑷ 本件実施許諾契約2ないし4が成立していたと解する余地はないこと原告は、仮に本件実施許諾契約1が成立していないとしても、その内容の一部である本件実施許諾契約2ないし4のいずれかが成立していると主張する。 10しかし、本件実施許諾契約2ないし4についても、前記⑴ないし⑶で主張したことが同様に当てはまるのであって、これらの契約が成立したと解する余地はない。むしろ、このように実施許諾契約の内容がいかようにも解釈され得るという主張をすること自体、原告と被告との間に本件各特許権の実施許諾契約が何ら成立していないことを裏付けている。 152 争点2(本件各実施許諾契約に係る被告の義務違反の有無)について(原告の主張)許諾による通常実施権の法的性質は、通常実施権者が特許権者等から差止請 いないことを裏付けている。 152 争点2(本件各実施許諾契約に係る被告の義務違反の有無)について(原告の主張)許諾による通常実施権の法的性質は、通常実施権者が特許権者等から差止請求権や損害賠償請求権の行使を受けないことを本質的な内容とする債権関係である。 20したがって、被告は、本件各実施許諾契約に基づき、原告による原告製エンジン搭載装置の製造・販売等に対し、本件各特許権に基づき差止請求権や損害賠償請求権を行使しない義務を負う。 それにもかかわらず、被告は、本件各特許権に基づき、別件訴訟等を提起したもので、このような行為は上記義務に違反するものであり、債務不履行に該25当する。 14 (被告の主張)仮に原告と被告との間で何らかの実施許諾契約が成立していたとしても、その具体的な内容は明らかになっておらず、そのため、被告が負っている債務の内容も明確ではない。 したがって、被告が契約上の義務に違反したとはいえない。 53 争点3(主位的請求に係る損害の発生及び額)について(原告の主張)被告の債務不履行によって、原告は別件訴訟等に対応せざるを得なくなったところ、これらの対応のために支出した費用は1億円を下らない。 したがって、原告には被告の債務不履行によって1億円の損害が生じている。 10(被告の主張)争う。 4 争点4(契約締結上の過失の有無)について(原告の主張)仮に本件各実施許諾契約が成立していなかったとしても、前記1(原告の主15張)で主張した事情によれば、平成26年10月8日の面談における被告の言動により、原告には、本件各特許権について実施許諾を受けることができ、実施料の額については確実に合意できるとの信頼が生じ、さらに、同日以降も原告の よれば、平成26年10月8日の面談における被告の言動により、原告には、本件各特許権について実施許諾を受けることができ、実施料の額については確実に合意できるとの信頼が生じ、さらに、同日以降も原告の信頼は継続していた。 以上によれば、被告は、同日以降、信義則上、原告の上記信頼を裏切らない20義務と、契約成立に向かって誠実に交渉する義務を負っていたというべきである。 また、仮に同時点で上記の義務が認められないとしても、被告は、平成27年3月30日、原告に対し、被告の上層部の協議の結果として、●(省略)●遅くとも同メールが送信された時点で、被告は、本件実施許諾契約1が成立し25ていない旨を明確に説明し、原告に損害を被らせないように配慮すべき義務を15 負っていたというべきである。 したがって、被告には上記の義務に違反した契約締結上の過失がある。 (被告の主張)契約交渉が破棄された事案においても、契約の締結に至らなかったことについて一方当事者が責任を負うのは、先行行為を基礎とした相手方の誤認行為か5ら生じるリスクを、先行行為をした者に引き受けさせるのを正当化する事情がある場合か、契約締結交渉が大詰めとなり、形式的作業を残すだけといった、契約成立への期待が確実なものと評価できる段階に至った場合のような例外的な場合に限られると解するべきである。 本件において、平成26年10月8日の面談において、被告が契約の締結に10至ることが確実であると信頼させる積極的な行為を行ったことはなく、仮に、原告が、同日の面談におけるAの了承が特許権の実施許諾契約の締結に関するものであると誤認したとしても、そのような原告の信頼は法的保護に値するものではない。 また、同日の面談においては、契約締結交渉に先立つ「事前のさぐり合い」 承が特許権の実施許諾契約の締結に関するものであると誤認したとしても、そのような原告の信頼は法的保護に値するものではない。 また、同日の面談においては、契約締結交渉に先立つ「事前のさぐり合い」15が行われたにすぎないから、契約締結交渉が大詰めとなったという状況にはなく、契約成立への期待が確実なものと評価できる段階には至っていなかった。 そうすると、被告は、原告が主張する信義則上の義務を負うことはないから、その義務違反(契約締結上の過失)を認める余地もない。 5 争点5(予備的請求に係る損害の発生及び額)について20(原告の主張)原告は、本件各実施許諾契約が成立したと信頼したことによって原告製エンジン搭載装置の開発のため多額の費用(材料費、外注費、労務費等)を投じており、この開発費用の額は4億円を下らない。 本件においては、上記の開発費用4億円及び前記3(原告の主張)で記載し25た別件訴訟等に対する紛争対応費用の合計5億円の一部である1億円を請求す16 る。 (被告の主張)原告は、開発費用4億円が損害に該当すると主張するが、その具体的な内容は不明であり、被告の義務違反によって損害が発生したとはいえない。 また、原告が主張する信頼、すなわち、「本件各特許権について実施許諾を5受けることができ、実施料の額については確実に合意できるとの信頼」は、遅くとも原告が被告による別件訴訟等の提起を知った時には失われていたといえる。 そうだとすれば、別件訴訟等に係る紛争対応費用は、原告の主張する信頼が失われた後に支出されたものであるから、被告の義務違反との間に因果関係が10ない。 6 争点6(予備的請求に係る消滅時効の成否)について(被告の主張)原告が主張する信義則上の義務 が失われた後に支出されたものであるから、被告の義務違反との間に因果関係が10ない。 6 争点6(予備的請求に係る消滅時効の成否)について(被告の主張)原告が主張する信義則上の義務違反に基づく損害賠償請求権の法的性質は、不法行為に基づく損害賠償請求権であると解される。 15本件において、被告が、東京地方裁判所平成30年(ワ)第28929号、同第28930号及び同第28931号に係る訴訟を提起したのは、平成30年9月7日であり、これらの訴訟に係る訴状が原告に送達されたのは、それぞれ同月19日、同年10月4日及び同年9月14日である。 そうすると、原告は、遅くとも別件訴訟等のうち東京地方裁判所平成30年20(ワ)第28931号に係る訴状の送達を受けた平成30年9月14日には、もはや本件各実施許諾契約が成立しているとの信頼を維持する合理的な理由はなくなり、既に支出している開発費が損害となったことを認識したものである。 そして、原告は、本件各実施許諾契約が成立しているとの信頼を抱く原因となった被告の言動を当然認識していたから、遅くとも平成30年9月14日に25は、被告の行為が不法行為を構成すると判断するに足りる事実を認識していた17 といえる。 したがって、遅くとも令和3年9月14日には、原告が主張する信義則上の義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効が完成しているから、被告は消滅時効を援用する。 (原告の主張)5⑴ 本件は、契約が成立したのとほとんど変わらないほどの関係が当事者間に生じていた状況において、突如として一方当事者が合意を否定する行為にでた事案であるから、当該当事者の誠実交渉義務を含めた信義則上の義務違反の法的性質は、債務不履行と解すべきである。 そうすると、予備的請求におけ において、突如として一方当事者が合意を否定する行為にでた事案であるから、当該当事者の誠実交渉義務を含めた信義則上の義務違反の法的性質は、債務不履行と解すべきである。 そうすると、予備的請求における損害賠償請求権に係る消滅時効期間は10「権利を行使することができる時」(改正前民法166条1項)から起算され、仮に、被告の主張するように、別件訴訟等の訴状の送達日のうち最も早い日である平成30年9月14日から起算したとしても、本件訴訟提起の時点で消滅時効が完成していたとはいえない。 ⑵ 仮に予備的請求に係る損害賠償請求権の法的性質が不法行為に基づく損害15賠償請求権であったとしても、本件の事実関係を前提とすれば、本件各実施許諾契約は成立したとみるのがむしろ自然であり、東京地方裁判所平成30年(ワ)第28929号に係る別件判決により本件各実施許諾契約の成立が否定されるまでは、そうでないとしても、少なくとも同事件における令和3年3月11日の期日において、本件各実施許諾契約が成立していないとの心20証開示がなされるまでは、原告は、被告の行為が不法行為を構成するかどうかを判断することが事実上困難であった。 そうすると、少なくとも令和3年3月11日までは、原告が「加害行為が不法行為を構成することを知った」とはいえない。そして、本件訴訟提起の時点で同日から3年は経過していないから、消滅時効は完成していない。 25第4 当裁判所の判断18 1 争点1(本件各実施許諾契約の成否)について⑴ 原告は、①平成26年10月8日の面談において、本件各特許権についての実施許諾の合意が、②同月23日の打合せにおいて、原告製エンジン搭載装置を販売した場合の実施料率の合意がされ、本件実施許諾契約1が成立したと主張し、また、仮に本 面談において、本件各特許権についての実施許諾の合意が、②同月23日の打合せにおいて、原告製エンジン搭載装置を販売した場合の実施料率の合意がされ、本件実施許諾契約1が成立したと主張し、また、仮に本件実施許諾契約1が成立していないとしても、同5契約の一部である本件実施許諾契約2ないし4のいずれかが成立していたと主張する。なお、原告がサンプル機として原告製エンジン搭載装置1台をF社に出荷することにつき被告が了承したことは、当事者間に争いがなく、本件では、このサンプル機の出荷以外の販売等に関する合意が存在したといえるかが問題となる。 10この点に関し、本件業務提携準備に関する契約(甲2)、本件業務提携契約(甲3)及び本件売買基本契約(甲4)に係る各契約書においては、本件各実施許諾契約の締結についての記載は見当たらない。そして、前記前提事実⑵イ及びウのとおり、本件業務提携契約(甲3)の合意事項は当該契約の調印者名で調印された契約書によらなければ修正できないことが定められて15おり(2条)、また、本件売買基本契約(甲4)においても、当該契約及び個別契約の修正又は変更は、原告及び被告の権限ある代表者が締結した書面によらない限り、法的拘束力を有しないものとされている(14条)ところ、同エのとおり、それらの契約を修正することを目的とする本件覚書(甲5)には、本件各実施許諾契約の締結に係る記載はうかがわれず、本件全証拠に20よっても、本件各実施許諾契約の成立を直接証するような契約書や合意書が存在しているとは認められない。 そこで、以下、契約書や合意書の記載以外から本件各実施許諾契約の成立を肯定することができるか否かを検討する。 ⑵ 平成26年10月8日の面談及び同月23日の打合せについて25ア まず、10月8日の議 、契約書や合意書の記載以外から本件各実施許諾契約の成立を肯定することができるか否かを検討する。 ⑵ 平成26年10月8日の面談及び同月23日の打合せについて25ア まず、10月8日の議事録(甲11)には、「(省略)」と題する項目の19 中に、「(省略)」といった記載があることが認められるが、同議事録の内容を精査しても、原告製エンジン搭載装置の販売に係る販売先、販売等、その製造・販売に伴う実施許諾の期間、対象等や、実施料の金額、支払方法等について、確定されたことまでは認められない。むしろ、同議事録には、上記の各記載の前に、「(省略)」と記載されている。このような記5載は、原告製エンジン搭載装置の販売が、あくまで今後共同開発を進める予定の被告製エンジン搭載装置が完成するまでの暫定的な措置であったことを示しており、当事者間において、広く実施許諾を与えることを想定していなかったことをうかがわせるものであるといえる。 また、10月23日の議事録(甲13)においても、原告製エンジン10搭載装置の販売に係る販売先、販売等、その製造・販売に伴う実施許諾の期間、対象等や、実施料の金額、支払方法等については、記載されていない。むしろ、同議事録には、●(省略)●も存在しており、この記載からは、原告製エンジン搭載装置の販売が暫定的な措置であったことがうかがわれる。 15そして、前提事実⑵アないしエの経緯からすれば、被告は、従前、被告製エンジン搭載装置の販売代金とその実施料の双方を受領することによって、その利益を確保してきたものといえるところ、本件各実施許諾契約の内容は、上記の利益のうち被告製エンジン搭載装置の販売代金を手放すことを意味しており、被告がそのような契約に直ちに応じるとは考えにく20い。被告としては、一旦F社 るところ、本件各実施許諾契約の内容は、上記の利益のうち被告製エンジン搭載装置の販売代金を手放すことを意味しており、被告がそのような契約に直ちに応じるとは考えにく20い。被告としては、一旦F社へのサンプル機の出荷のみを認めた上で、並行して被告製エンジン搭載装置の共同開発を進めることも可能だったのであり、平成26年10月8日の面談や同月23日の打合せの時点で、被告が原告製エンジン搭載装置の販売を広く認める合理的な理由は見当たらない。 25したがって、平成26年10月8日の面談や同月23日の打合せに関20 する事情から、本件各実施許諾契約の成立を認めることはできない。 イ これに対し、原告は、①10月8日の議事録の「(省略)」の記載は、原告製エンジン搭載装置を販売したいとの原告の要請を、Aが了承したことを示している、②10月23日の議事録には、「(省略)」との記載があり、「リリース」という記載は、原告製エンジン搭載装置を販売することを意5味するものである、③被告としても、原告が市場に残る形になることで、レーザエンジンの供給先を複数確保することができ、リスクを分散することができる上、原告が顧客を引き留めることによって、被告のレーザエンジンの売上げを増やすことができる可能性もあり、本件各実施許諾契約を締結することには合理性があったなどと主張する。 10しかし、上記①については、原告の指摘する記載にも実施許諾の対象、期間等は記載されておらず、前記アで検討した10月8日の議事録の記載全体に照らすと、原告の指摘する記載をもって、被告が原告製エンジン搭載装置の販売を広く認めたと解することはできないというべきである。 また、上記②については、10月23日の議事録の他の記載を見ても、15F社に対するサンプル機の出荷 、被告が原告製エンジン搭載装置の販売を広く認めたと解することはできないというべきである。 また、上記②については、10月23日の議事録の他の記載を見ても、15F社に対するサンプル機の出荷以外の販売全般に関する具体的な記載は見当たらないことからすれば、単に「リリース」という表現が存在することのみをもって、当事者間において、サンプル機以外の販売が想定されていたということはできない。 さらに、上記③については、前記アで説示した被告の利益確保の態様に20照らすと、仮に原告の主張するようなメリットを想定し得るとしても、被告としては、F社に対するサンプル機の出荷のみを認める一方、被告製エンジン搭載装置の共同開発を継続することによって、更に大きなメリットを実現できるといえるから、原告の主張するメリットが直ちに本件各実施許諾契約の締結に結びつくとはいい難い。 25したがって、原告の上記主張はいずれも採用できない。 21 ⑶ 平成26年10月23日以降の事情についてア 平成27年3月25日の打合せについて 平成27年3月25日の打合せのために原告が作成した資料(甲37)では、表題が「(省略)」と記載され(1頁)、その後の部分でも「(省略)」(2頁)などと記載されており、このような記載は、同資5料があくまでF社に対するサンプル機の出荷のために作成されたことを示している。 また、被告作成の面談報告書(乙18)でも、「●(省略)●などと記載されており、このような記載も、F社に対するサンプル機の出荷を認めつつも、並行して被告製エンジン搭載装置の共同開発を継続するこ10とが想定されていたことをうかがわせるものといえる。 これに対し、原告は、①原告の作成した資料(甲37)には、「ユーザ様対応」に関す 、並行して被告製エンジン搭載装置の共同開発を継続するこ10とが想定されていたことをうかがわせるものといえる。 これに対し、原告は、①原告の作成した資料(甲37)には、「ユーザ様対応」に関する記載や、「初号機」という「2号機」以降が存在することを前提にした記載が存在している上、F社が購入する可能性がない装置の名称も記載されていたこと、②被告の作成した平成2157年3月25日の打合せに係る面談報告書(乙6、18)には、●(省略)●などの原告製エンジン搭載装置の販売を前提とする記載があること、③同日の打合せにおいて、被告から原告製エンジン搭載装置の販売に対する異議は出ておらず、同打合せ後の被告上層部の協議においても、原告製エンジン搭載装置の販売の是非に関する議論は行20われなかったことなどを指摘する。 しかし、上記①については、前記で説示したとおり、原告の作成した資料(甲37)には、サンプル機の出荷であることが明記されていたのであり、同資料にはサンプル機の出荷以外の具体的な販売計画が記載されているとは認められないことからすれば、原告が指摘する25記載をもって、被告がサンプル機の出荷以外の販売を認めていたとい22 うことはできない。 また、上記②については、原告が指摘する記載の後には「東京精密としてはロイヤリティプレートを搭載してサンプル出荷したい」と記載されており、このような記載に照らすと、原告の指摘するロイヤリティに係る記載は、あくまでF社に対するサンプル機の出荷に関する5ものと認められる。 そして、上記③については、既に説示したとおり、平成27年3月25日の打合せ及びその後のやり取りは、F社に対するサンプル機の出荷に関するものであると認められるところ、被告としても、その出荷については して、上記③については、既に説示したとおり、平成27年3月25日の打合せ及びその後のやり取りは、F社に対するサンプル機の出荷に関するものであると認められるところ、被告としても、その出荷については了承していた以上、異議を述べるなどしていないことは、10特段不自然であるとはいえない。 したがって、原告の上記主張はいずれも前記の判断を左右する事情ではないというべきである。 イ 平成27年6月29日の打合せについて 平成27年6月29日の打合せは、原告がG社に対して原告製エンジ15ン搭載装置を紹介しているという情報が被告に入ったために行われたものであるところ、同日の議事録(甲15)では、①原告側の発言として「●(省略)●」と、また、②被告側の認識を示すものとして「●(省略)●」と、それぞれ記載されている。さらに、③証拠(甲41)によれば、原告従業員であるEが送信したメールにおいては、同日の原告側20の発言として、「●(省略)●」と記載されていることが認められる。 このような記載は、原告が被告を納得させるために原告製エンジン搭載装置の販売を直ちに行うことはない旨の説明をしていたこと(上記①及び③)、被告においては、共同開発が進まなかった場合、当初想定していた枠組みを超えて、G社への原告製エンジン搭載装置の販売を許諾25させられる可能性があると認識していたこと(上記②)を、それぞれ示23 すものといえる。 したがって、上記の記載は、被告がF社へのサンプル機の出荷以外の販売等を認めていなかったこと及び原告がそのような被告の意向を認識していたことをうかがわせるものであるというべきである。 これに対し、原告は、平成27年6月29日の打合せにおいて、被告5が原告製エンジン搭載装置の販 原告がそのような被告の意向を認識していたことをうかがわせるものであるというべきである。 これに対し、原告は、平成27年6月29日の打合せにおいて、被告5が原告製エンジン搭載装置の販売に抗議しなかったことを、本件各実施許諾契約が成立していたことの根拠として主張している。 しかし、前記のとおり、原告としては、現状、原告製エンジン搭載装置をG社に販売するつもりはなく、バックアッププランとして考えているだけであると説明することによって、被告の納得を得ようとしてい10たものであり、このような説明は、F社に対するサンプル機の出荷のみを認めていたという被告の認識と必ずしも矛盾しないことからすれば、この時点で被告が明示的な抗議等を行っていなかったとしても、不自然であるとまではいえない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 15ウ 平成27年11月19日のメール等について 証拠(甲16)によれば、平成27年11月19日のBからEに対するメールの送信は、被告において、原告が原告製エンジン搭載装置をH社に紹介していたという情報を入手したために行われたものであること、同メールには、「(省略)」が判明した旨の記載があることが認められ、20このメールは、被告において、F社以外への販売を認めていないという認識であることを明示的に示したものといえる。 なお、その後のやり取りでは、双方において実施許諾の範囲の解釈に齟齬があることを前提にした協議が行われていることが認められる(甲51、53ないし55、58、乙7、13)。 25 これに対し、原告は、平成27年11月19日のメールに関するやり24 取りや同月30日の打合せにおいて、被告から抗議がなかったことを、本件各実施許諾契約の成立を 13)。 25 これに対し、原告は、平成27年11月19日のメールに関するやり24 取りや同月30日の打合せにおいて、被告から抗議がなかったことを、本件各実施許諾契約の成立を基礎付ける事情として指摘している。 しかし、被告は、上記のメールにおいて、F社に対するサンプル機の出荷以外の販売を認めていない意向を有していることを明らかにしており、同メールは原告への抗議や異議といった意味を持つと解することも5できるから、原告の主張はその前提を欠くものであって採用できない。 そして、被告としても、この時点で、業務提携を直ちに打ち切ることを想定していなかったものと考えられ、そうすると、上記のメールに関するやり取りや同月30日に行われた打合せにおいて、被告が原告に対して強く抗議をしなかったとしても不自然であるとはいえない。 10いずれにしても、原告の上記主張は採用することができない。 エ 小括このように、平成26年10月23日以降の事情も、本件各実施許諾契約の成立を基礎付けるものとはいえず、むしろそれと整合しない事情も多く存在しているものというべきである。 15⑷ まとめ以上の検討に加えて、前記⑴で指摘したとおり、本件業務提携契約及び本件売買基本契約において、当該契約の調印者名で調印された契約書によらなければ契約内容を修正できないことが明示的に合意されていることに照らし、原告と被告との間では、契約内容を書面によって確定することが前提とされ20ていたものとうかがわれることも考慮すれば、原告と被告との間において、F社に対するサンプル機の出荷以外の販売に関する実施許諾が存在したと認めることはできず、本件全証拠によっても、本件各実施許諾契約が成立したと認めることはできないというべきである。 2 争点 いて、F社に対するサンプル機の出荷以外の販売に関する実施許諾が存在したと認めることはできず、本件全証拠によっても、本件各実施許諾契約が成立したと認めることはできないというべきである。 2 争点4(契約締結上の過失の有無)について25原告は、仮に本件各実施許諾契約が成立していなかったとしても、被告の言25 動により、原告には、本件各特許権について実施許諾を受けることができ、実施料の額については確実に合意できるとの信頼が生じており、被告は、信義則上、原告の上記信頼を裏切らない義務及び契約成立に向かって誠実に交渉する義務を負っていたと主張する。 しかし、前記1で説示したとおり、本件で被告がF社へのサンプル機の出荷5以外の販売を許諾したことを示すような的確な証拠はなく、むしろ、被告は、原告によるG社やH社への原告製エンジン搭載装置紹介の事実が判明した際は、それに至る経緯等を原告に確認しており、その都度、双方の認識の齟齬を埋めるための行動をとっていたということができる。 したがって、仮に原告において何らかの信頼が発生していたとしても、それ10は被告の信義則上の義務を基礎づけるに足りるものとは認められないから、契約締結上の過失に係る原告の主張は理由がないというべきである。 なお、原告は、遅くとも平成27年3月30日のメール(甲14)を送信した時点で、被告は、本件実施許諾契約1が成立していない旨を明確に説明し、原告に損害を被らせないように配慮すべき義務を負っていたとも主張している。 15しかし、上記のメールは、平成27年3月25日の打合せを踏まえて送信されたものであり、その内容としてはF社に対するサンプル機の出荷に関するものであると解すべきであるから、被告の信義則上の義務を基礎づけるに足りるものとは認められない。 5日の打合せを踏まえて送信されたものであり、その内容としてはF社に対するサンプル機の出荷に関するものであると解すべきであるから、被告の信義則上の義務を基礎づけるに足りるものとは認められない。 3 結論20よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 25 26 裁判長裁判官 國分隆文 5裁判官 間明宏充 10裁判官 木村洋一27 (別紙)実施許諾契約目録 第1 実施許諾契約11 被告が、原告に対し、本件各特許権の実施を、原告が開発するレーザエンジ5ンを搭載したレーザダイシング装置を対象として許諾すること2 実施許諾の期間は、原告と被告が共同で新たにレーザエンジンを開発し、これを搭載した被告製のステルスダイシング装置を販売し、原告のレーザダイシング装置ビジネスが継続し得るようになるまでの間であること3 対象となる販売先は、原告の平成26年10月8日時点におけるステルスダ10イシング装置に関する顧客であること4 原告が被告に対して支払う実施料は1台当たり●(省略)●であること第2 実施許諾契約2(下線部は、本件実施許諾契約1との差異を意味する。本件実施許諾契約3及び4においても同じ。)1 被告が、原告に対し、 に対して支払う実施料は1台当たり●(省略)●であること第2 実施許諾契約2(下線部は、本件実施許諾契約1との差異を意味する。本件実施許諾契約3及び4においても同じ。)1 被告が、原告に対し、本件各特許権の実施を、原告が開発するレーザエンジ15ンを搭載したレーザダイシング装置を対象として許諾すること2 実施許諾の期間は、原告と被告が共同で新たにレーザエンジンを開発し、これを搭載した被告製のステルスダイシング装置を販売し、原告のレーザダイシング装置ビジネスが継続し得るようになるまでの間であり、かつ、本件業務提携契約及び同契約に基づく共同開発が継続している間であること203 対象となる販売先は、原告の平成26年10月8日時点におけるステルスダイシング装置に関する顧客であること4 原告が被告に対して支払う実施料は1 台当たり●(省略)●であること第3 実施許諾契約31 被告が、原告に対し、本件各特許権の実施を、原告が開発するレーザエンジ25ンを搭載したレーザダイシング装置を対象として許諾すること28 2 実施許諾の期間は、原告と被告が共同で新たにレーザエンジンを開発し、これを搭載した被告製のステルスダイシング装置を販売し、原告のレーザダイシング装置ビジネスが継続し得るようになるまでの間であること3 対象となる販売先は、原告の平成26年10月8日時点におけるステルスダイシング装置に関する顧客であるF社であること54 原告が被告に対して支払う実施料は1 台当たり●(省略)●であること第4 実施許諾契約41 被告が、原告に対し、本件各特許権の実施を、原告が開発するレーザエンジンを搭載したレーザダイシング装置を対象として許諾すること2 実施許諾の期間は、原告と被告が共同で新たにレーザエンジンを開 1 被告が、原告に対し、本件各特許権の実施を、原告が開発するレーザエンジンを搭載したレーザダイシング装置を対象として許諾すること2 実施許諾の期間は、原告と被告が共同で新たにレーザエンジンを開発し、こ10れを搭載した被告製のステルスダイシング装置を販売し、原告のレーザダイシング装置ビジネスが継続し得るようになるまでの間であり、かつ、本件業務提携契約及び同契約に基づく共同開発が継続している間であること3 対象となる販売先は、原告の平成26年10月8日時点におけるステルスダイシング装置に関する顧客であるF社であること154 原告が被告に対して支払う実施料は1 台当たり●(省略)●であること以上
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