令和5(ワ)1536 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年12月2日 福岡地方裁判所
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判決文本文24,555 文字)

主文 1 被告らは、原告Aに対し、連帯して、3983万9087円及びこれに対する令和4年7月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Bに対し、連帯して、3983万9086円及びこれに対する 令和4年7月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告Cに対し、連帯して、77万円及びこれに対する令和4年7月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告らの、その余を被告らの各負担とする。 6 この判決は、第1項から第3項までに限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告Aに対し、連帯して、7274万7601円及びこれに対する 令和4年7月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Bに対し、連帯して、7274万7601円及びこれに対する令和4年7月24日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告Cに対し、連帯して、330万円及びこれに対する令和4年7月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、令和4年7月24日、被告D株式会社が運営するD(以下「本件ホテ ル」という。)に設置された屋外プール(以下「本件プール」という。)におい て、G(当時21歳。以下「亡G」という。)が溺水し、死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し、亡Gの父母である原告A及び原告B並びに亡Gの妹である原告Cが、本 ル」という。)におい て、G(当時21歳。以下「亡G」という。)が溺水し、死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し、亡Gの父母である原告A及び原告B並びに亡Gの妹である原告Cが、本件事故の原因は、被告D株式会社の代表取締役である被告E及び本件ホテルの支配人である被告Fが本件プールの安全管理措置を講ずべき注意義務を怠ったことにあるなどと主張して、被告D株式会社及び被告Eに対し ては、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告D株式会社に対しては、会社法350条及び使用者責任による損害賠償請求権に基づき、連帯して、原告A及び原告Bにおいてはそれぞれ7274万7601円及びこれらに対する同日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を、原告Cにおいては330万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合に よる遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(以下「前提事実」という。)以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧内掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 当事者等 ア原告ら等原告A(以下「原告A」という。)及び原告B(以下「原告B」という。)は、亡Gの父母であり、原告C(以下「原告C」という。本件事故当時14歳、身長約156cm。)は、亡Gの妹である(争いなし)。 亡Gは、本件事故当時、21歳で、身長は約158cmであり、J大学の 3年生であった(争いなし、甲28)。 イ被告ら(争いなし)(ア) 被告D株式会社(以下「被告会社」という。)は、旅館、ホテルの経営等を目的とする会社であり、鹿児島県指宿市において、本件ホテルを経営している。 (イ) 被告E(以下「被告E」という。)は、被告会社の代表取締役 」という。)は、旅館、ホテルの経営等を目的とする会社であり、鹿児島県指宿市において、本件ホテルを経営している。 (イ) 被告E(以下「被告E」という。)は、被告会社の代表取締役であり、 本件ホテルを統括管理する立場にある者である。 (ウ) 被告F(以下「被告F」といい、被告Eと併せて「被告Eら」という。)は、本件ホテルの支配人として、被告会社の指揮監督の下、被告会社の業務である本件ホテルの運営管理に関する現場の総責任者として業務を行っている者である。 ⑵ 本件プールの形状等ア本件プールの位置等本件プールは、別紙1のとおり、本件ホテルのロビーの東側に面する形で屋外に設置されており、ロビーと本件プールとの間の仕切りは全面ガラス張りとなっている(そのため、ロビーからは本件プールの様子が確認できる。)。 ロビーの南東角には、本件プールへの出入口(以下「本件出入口」という。)が設けられている(甲3、乙9)。 イ本件プールの構造本件プールは、別紙2のとおり、南北方向の長さが約20m、東西方向の幅が約10mの長方形様のプールである(なお、本件プールの南側には水深 の浅い楕円形の子供プールが、本件プールとは独立した形で存在している。)。 本件プールの水深は、南端において約1.1mであるが、北方向に進むと徐々に深くなり、南端から約12.4mの地点での水深は約1.35mとなる。そこから更に北方向に約80cm進むと水深約1.65m(この間の傾斜は約22度)、更に北方向に約1.1m進むと水深約1.91m(この間の 傾斜は約13度)となり(以下、これらの傾斜約22度又は約13度の水底斜面を「本件斜面」という。)、最終的に水深約2mとなる(以下、水深約2mの部分を .1m進むと水深約1.91m(この間の 傾斜は約13度)となり(以下、これらの傾斜約22度又は約13度の水底斜面を「本件斜面」という。)、最終的に水深約2mとなる(以下、水深約2mの部分を「水深2mエリア」という。)。 (甲57、58)ウ監視員等について 本件プールには、浮き輪等の救命具や常設の監視員は配置されていなかっ た(争いなし)。 ⑶ 本件プールの水深表示について本件事故当時、本件プールの東側及び西側のプールサイドには、本件斜面の付近に、別紙3のような、幅約73.5cm、中央の長方形部分の高さ約10cmの矢印型の水深表示(以下「本件水深表示」という。)が1つずつ設置さ れていた(争いなし。ただし、本件水深表示の大きさにつき甲88)。 ⑷ 本件事故の概要ア原告B、亡G及び原告Cは、令和4年7月23日、原告Bの実家がある鹿児島県指宿市を家族旅行で訪れ、同月24日、原告Bの母(亡G及び原告Cの祖母。以下「亡Gらの祖母」という。)とともに本件ホテルに向かい、同 日午後3時頃、本件ホテルにチェックインした。 イ亡G及び原告Cは、本件ホテルの客室で水着に着替えた後、ロビーを通って、本件出入口から屋外に出た。 亡G及び原告Cは、本件出入口付近のプールサイドで準備運動を行った後、本件プールに入って遊び始めたが、原告Cは、本件プールの水深が深くなる 地点に差し掛かった際、プールの水底に足が着かなくなったため、溺水した。 ウ亡Gは、原告Cが溺れていることに気付き、原告Cを助けるため同人に背後から近づいた。原告Cと亡Gは、浮いたり沈んだりを繰り返し、原告Cにおいては本件プールの水深の浅い方に流れ着き、プールサイドに上がることができたが、亡Gは本件プールの中で意識を失っ るため同人に背後から近づいた。原告Cと亡Gは、浮いたり沈んだりを繰り返し、原告Cにおいては本件プールの水深の浅い方に流れ着き、プールサイドに上がることができたが、亡Gは本件プールの中で意識を失った。 (以上、ア~ウにつき争いなし、弁論の全趣旨)エその後、本件ホテルの他の宿泊客(以下「本件宿泊客」という。)が亡Gを引き揚げ、本件ホテルの従業員は、同日午後3時31分、119番通報をした。亡Gは、同日午後4時30分頃、ドクターヘリに収容され、K病院に搬送されたが、同日午後5時33分、同院において死亡が確認された。亡G の死因は溺水とされた。(甲7、9、62) ⑸ プールの安全標準指針(甲15)についてア文部科学省及び国土交通省は、平成19年3月、プールの設置管理者に対して、プール利用者をめぐる事故を未然に防ぎ、プール利用者の安全を確保するために配慮すべき基本的事項を示すものとして、「プールの安全標準指針」(以下「本件指針」という。)を策定した(甲15〔2頁〕)。 なお、本件指針における「プールの設置管理者」とは、プールの所有者(所有者以外にプールの全部の管理について権原を有するものがあるときは当該権原を有するもの)をいうとされ、開設者、設置者、経営者等がこれに当たるとされている(甲15〔2頁〕)。 イ本件指針においては、プールの設置管理者は、適切かつ円滑な安全管理の ため、管理責任者、衛生管理者、監視員及び救護員からなる管理体制を整えることが必要であるとされ、監視員については、プール全体がくまなく監視できるよう施設の規模に見合う十分な数の監視員を配置することが必要であるとされている(甲15〔1、9頁〕)。 ウまた、本件指針においては、プールの設置管理者は、プールを安全に管理 まなく監視できるよう施設の規模に見合う十分な数の監視員を配置することが必要であるとされている(甲15〔1、9頁〕)。 ウまた、本件指針においては、プールの設置管理者は、プールを安全に管理 するため、利用者への適切な注意や警告を行うことも有効であり、危険箇所の表示やプール利用に際しての注意・禁止事項等を利用者の見やすい場所に見やすい大きさで掲示することが望ましいとされている(甲15〔1、16頁〕)。 第3 争点及び争点に関する当事者の主張 1 争点⑴ 被告Eらの注意義務違反の有無(争点1)⑵ 過失相殺の可否及び過失割合(争点2)⑶ 原告らに生じた損害の有無及び額(争点3) 2 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点1(被告Eらの注意義務違反の有無)について (原告らの主張)ア被告会社の代表取締役である被告E及び本件ホテルの支配人である被告Fは、本件ホテルの利用客に生じる危険を予測し、これを未然に防止すべき義務を負っていた。 イ一般に、水底に足が着く深さのプールにおいても、遊泳中に溺水する危険 があるところ、本件プールには成人でも水底に足が着かない水深2mエリアが存在し、また、本件斜面の傾斜は約22度と急勾配であり(前提事実⑵)、水深の変化を認識することも極めて難しいものであった。これらの本件プールの危険性や本件指針の記載内容に加え、本件プールの安全性に疑問を呈する評価(いわゆる口コミ)がインターネット上に投稿されていたこと等に照 らせば、被告Eらは、①溺水事故を未然に防止するために、本件ホテル利用客に対して適切な注意喚起及び警告を行うべき注意義務(以下「注意義務①」という。)、②溺水者が発生した場合にも重大な結果を生じさせないために、溺水者を直ちに発見し水中から救助 ために、本件ホテル利用客に対して適切な注意喚起及び警告を行うべき注意義務(以下「注意義務①」という。)、②溺水者が発生した場合にも重大な結果を生じさせないために、溺水者を直ちに発見し水中から救助できるよう、監視員及び浮き輪等の救命具を備え、プールの監視体制を整備しておくべき注意義務(以下「注意義務 ②」という。)、③水難事故に関する救命救護の知識、経験を有し、日頃から教育・訓練を受けている救護員を本件プールに配置し、溺水者に対して速やかに救命救護措置をとることができる体制を整備すべき義務(以下「注意義務③」という。)を負っていた。 しかし、被告Eらは、上記の各義務を怠り、その結果、本件事故が発生し た。 (被告らの主張)ア被告Eらが、本件ホテルの運営管理について責任を負う立場にあることは争わない。 しかし、本件プールの構造や形状は、原告らが主張するような危険性を有 するものではないし、本件指針は本件プールのようなレクリエーション施設 のプールに直接適用されるものではなく、被告Eらは、原告らの主張するような各注意義務を負うものではない。 イまた、仮に被告Eらが原告の主張する各注意義務を負っていたとしても、被告Eらは、これらの注意義務を履行していた。 すなわち、注意義務①については、本件プールのプールサイドに本件水深 表示を設置していたほか、チェックイン時においても説明し、更に客室や本件出入口に注意書を掲示するなどして適切に注意喚起を行っていた。 また、注意義務②については、本件プールはフロント及びロビーの東側正面に面しているため、従業員が本件プールの状況を確認できる状態にあり、本件事故当時も、従業員が定期的に本件プールに視線を送り、また30分に 1回程度はプール プールはフロント及びロビーの東側正面に面しているため、従業員が本件プールの状況を確認できる状態にあり、本件事故当時も、従業員が定期的に本件プールに視線を送り、また30分に 1回程度はプールサイドを巡回するなどして可能な限りの安全管理措置を講じていた。 さらに、注意義務③については、利用客が不慮の事故にあった場合に備えてロビー付近にAEDを設置し、従業員に対して、心肺蘇生、AEDの利用講習を受けさせていたほか、水泳プールの安全管理講習会に参加させるなど していた。 ⑵ 争点2(過失相殺の可否及び過失割合)について(被告らの主張)ア亡Gは、溺水する原告Cを発見し、自ら単独で救助に向かったが、亡Gが原告Cに抱き着いた後も原告Cのパニック状態が継続し、亡Gと抱き合った ままもがき続けたため、亡Gは、水上へ浮上できず呼吸ができない状態が継続して、死亡するに至ったと考えられる。 イ原告Cは、本件プールに水深2mエリアが存在することを認識していながら自らの泳力を考慮せずに水深2mエリアに向かったものと考えられ、また、亡Gに救助されている間、もがき続けたのであるから、本件事故の発生につ いて過失があるというべきである。亡Gにおいても、第三者に助けを求める べきであったにもかかわらず、単独で原告Cの救助に向かったという過失があるといわざるを得ない。 また、そもそも、プールの利用者としては、プールの水深を確認するのが通常であり、仮に、原告Cが本件水深表示を確認していなかったとすれば、そのこと自体、自らの溺水の危険を事前に察知してこれを回避しようとしな かった過失といえる。 ウ原告Bについても、子供である原告Cが本件プールを利用するのに保護者として付き添わなかった、あるいは、亡Gらの祖母 の溺水の危険を事前に察知してこれを回避しようとしな かった過失といえる。 ウ原告Bについても、子供である原告Cが本件プールを利用するのに保護者として付き添わなかった、あるいは、亡Gらの祖母を付き添わせなかったという過失がある。 エ以上に照らせば、本件事故の発生には被害者側の過失も寄与しており、そ の過失割合は8割を下らないというべきである。 (原告らの主張)ア原告Cは、本件事故が発生する前の時点で本件プールの水深を認識していなかった。 被告らは、原告Cが本件プールの水深を確認しなかったことが過失を構成 する旨主張する。しかし、本件プールには、本件水深表示以外に水深に関する情報(本件プールに水深2mエリアや本件斜面が存在するとの情報)を表示したものはなく、しかも、本件水深表示自体が視認性・可読性を欠く不適切な注意喚起であったから、原告Cが本件プールの水深を事前に確認することは期待できなかった。したがって、この点が原告Cの過失を構成するとは 認められない。 イまた、原告Cの基本的な泳力に問題はなく、原告Cの泳力が乏しいとの被告らの主張は前提を欠くし、原告Cが亡Gに救助されている間、原告Cが亡Gにしがみついていたという点についても、溺水者が救助者にしがみつくということは自然なことであり、パニックにならずに適切な対応をすべきとい うのは、溺水者に無理難題を課すものである。 亡Gについても、妹である原告Cを救助しようとしたのであり、その行為に過失は認められない。 ウまた、原告Cは事故当時14歳であり、プールの利用に保護者の付添いを要するとは認められないし、仮に保護者の付添いが必要であるとしても、原告Cは、当時21歳の亡Gとともに本件プールを利用していた ウまた、原告Cは事故当時14歳であり、プールの利用に保護者の付添いを要するとは認められないし、仮に保護者の付添いが必要であるとしても、原告Cは、当時21歳の亡Gとともに本件プールを利用していたのであるから、 原告Bらによる付添いが必要であったとは認められない。 ⑶ 争点3(原告らに生じた損害の有無及び額)について(原告らの主張)本件事故により、原告らには以下の損害が生じた。 ア亡Gの損害 (ア) 逸失利益 9785万5265円(イ) 死亡慰謝料 2500万円(ウ) 治療費 6万5270円(エ) 葬儀関係費 231万6100円(オ) 大学授業料 49万5500円 (カ) 調査費用 3万6230円(キ) 仏壇仏具 50万円(ク) 弁護士費用 1262万6837円(ケ) 合計 1億3889万5202円イ原告A及び原告Bの損害 (ア) 上記アの2分の1 各6944万7601円(イ) 固有の慰謝料各300万円(ウ) 固有の慰謝料にかかる弁護士費用各30万円(エ) 合計 7274万7601円ウ原告Cの損害 (ア) 固有の慰謝料 300万円 (イ) 弁護士費用 30万円(ウ) 合計 330万円(被告らの主張)亡Gの治療費については認め、その余はいずれも否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実(以下「認定事実」という。)前提事実、括弧内掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 本件水深表示の形状等について本件水深表示は、高さ約68cmの赤色の支柱の上部に両矢印形の板(幅約 73.5cm、中央の長 の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 本件水深表示の形状等について本件水深表示は、高さ約68cmの赤色の支柱の上部に両矢印形の板(幅約 73.5cm、中央の長方形部分の高さ約10cm、幅約52cm)が取り付けられたものであり、矢印の端の三角部分は赤色で塗装され、中央の長方形部分は、上部が白色、下部が水色で塗装されている。 本件水深表示中央の長方形部分の中央には、「ふかさ」という平仮名が赤字で記載され、中央の長方形部分の南側には「1m」、北側には「2m」と黒字で 記載されており、北側に向かうにつれて、水色部分の占める面積が多くなるように塗装され、1mと記載された側が本件プールの水深の浅い部分に、2mと記載された側が水深の深い部分にそれぞれ向くように設置され、水深が深くなっていく様子が表されている(両面とも同様の塗装であり、本件プールの外からも中からもこれらの記載内容を確認することが可能である。)。 本件水深表示以外に、本件プールの水深に関する注意書や掲示物は設置されていなかった。 (前提事実⑶、甲27、88、弁論の全趣旨)⑵ 本件事故の経過について(前提事実⑷、甲94、原告C、証人H、証人I、弁論の全趣旨) ア亡G及び原告Cは、令和4年7月24日午後3時過ぎ頃、本件ホテルの客 室で水着に着替え、ロビーを通って本件出入口からプールサイドに出て、同日午後3時10分頃、プールサイドで準備運動を行った後、本件プールの南西角から本件プールに入って遊び始めた。 イ亡G及び原告Cは、子供プールのそばで水を掛け合うなどして遊び、原告Cは、本件プールの水底を蹴ってジャンプして歩きながら、水深2mエリア の方へ向かい、水深が深くなる本件斜面に差し掛かった頃、プールの水底 告Cは、子供プールのそばで水を掛け合うなどして遊び、原告Cは、本件プールの水底を蹴ってジャンプして歩きながら、水深2mエリア の方へ向かい、水深が深くなる本件斜面に差し掛かった頃、プールの水底に足が着かなくなったため、溺水した。 ウ亡Gは、原告Cが溺れていることに気付き、原告Cを助けるため同人に背後から近づいた。原告Cと亡Gは、浮いたり沈んだりを繰り返したが、原告Cは、亡Gから離れ、背浮き(仰向けの姿勢で力を抜いて浮く姿勢)の姿勢 をとり、本件プール南側の水深の浅い方に流れ着き、プールサイドに上がることができた。 原告Cが亡Gの方を確認すると、亡Gは、本件プールの水面付近に背中を上にして浮かんでいる状態であった。原告Cは、プールサイドに置いてあった浮き輪を持って亡Gに近づき、浮き輪を本件プールに投げ入れるなどして、 亡Gの救助を試みた。 エ原告Cが亡Gの救助のために使用した浮き輪は、本件宿泊客(前提事実⑷エの本件ホテルの他の宿泊客)が所有する物であったため、ロビー近くにある売店付近から原告Cの様子を見た本件宿泊客の子は、本件ホテルの従業員であったH(以下「H」という。)に対し、「私たちの浮き輪」などと告げ た。Hは、原告Cが間違って他人の浮き輪で遊ぼうとしているのではないかと考え、室内からプールサイドに出て原告Cに声をかけた。すると、原告Cから亡Gが溺れている旨を告げられたため、Hはロビーに戻ってフロントに助けを求め、再びプールサイドに戻り、状況を察知してプールサイドに来た被告Fやその他の従業員とともに亡Gの救助を試みたが、亡Gを本件プール から引き揚げることはできなかった。 オその後、消防士であった本件宿泊客が事態を認識し、本件プールに入って亡Gをプールサイドに引き揚げた。 救助を試みたが、亡Gを本件プール から引き揚げることはできなかった。 オその後、消防士であった本件宿泊客が事態を認識し、本件プールに入って亡Gをプールサイドに引き揚げた。 カ亡Gは、ドクターヘリによりK病院に搬送されたものの、同日午後5時33分、同院において死亡が確認された。 2 争点1(被告Eらの注意義務違反の有無)について 原告らは、被告Eらについて、注意義務①から③までの各義務を負っていたのにこれを怠った過失があると主張する。原告らは、これらの過失を選択的に主張するものと解されるところ、以下のとおり、被告Eらについては、注意義務①(本件ホテル利用客に対して適切な注意喚起及び警告を行うべき注意義務)及び注意義務②(監視員及び浮き輪等の救命具を備え、プールの監視体制を整備しておく べき義務)を怠った過失があるものというべきである。 ⑴ 本件プールの構造と危険性(予見可能性)についてア本件プールは競泳用や訓練用のものではなく、観光客向けのホテルに併設されたレジャー用のプールである。そのため、本件プールの利用者として想定されるのは、主として本件ホテルの宿泊客であり、当然ながら若年者や身 長の低い者、必ずしも泳ぎが得意ではない者も含まれることとなるが、年齢、身長、泳力等によって本件プールの利用が制限されていたことを認めるに足りる証拠はなく、そのような制限はなかったものと認められる。そうすると、特段の注意喚起がない限り、本件プールの一般の利用者において、本件プールの水深について、水底に足の着かない約2mにも及ぶものであると認識す ることは困難であり、さほど深くないものと認識するのが通常というべきである(実際に、深さ2m前後のプールを併設する国内のホテルとして証拠上認められ の着かない約2mにも及ぶものであると認識す ることは困難であり、さほど深くないものと認識するのが通常というべきである(実際に、深さ2m前後のプールを併設する国内のホテルとして証拠上認められるのは、12か所にとどまる(甲12の2)。)。 ところが、本件プールには水深2mエリアが存在し(認定事実⑴)、しかも、水深の深いエリアと浅いエリアとの間に利用者の往来を制限するような ものは設置されていない(乙9)。また、急な水深の変化があると溺水の危険 性が高くなると指摘されている(甲93)ところ、本件プールにおいては、本件斜面が始まる地点(水深約1.35m)から北方向に約80cm進むと水深が約30cm深くなり(水深約1.65m)、更に北方向に約1.1m進むと約26cm深くなっている(水深約1.91m)のであるから(前提事実⑵イ)、水深の変化は相応に急なものというべきである。 これらの点を踏まえると、本件プールは、標準的又はそれ以下の身長であり、かつ泳力が必ずしも十分でない利用者において、意図せずして水深2mエリアに進入したり、水深の深い北方向に進む中で急に足が水底に着かなくなることに混乱したりするなどして、溺水する危険が相応に高い構造であったというべきである。 イこれに対し、被告らは、本件プールは徐々に水深が深くなるというものであり、本件プールの利用者は、水底に足を着けてプール内を歩いていれば、どこで水深が変化しているかを容易に認識できたのであるから、水深の変化を見落として溺水する危険があったとはいえない旨主張する。 しかし、プールの利用者は必ずしも常に水底に足を着けて歩くわけではな く、水底を蹴って前後にジャンプしたり、少しだけ泳いで移動し再び水底に足を着けるといった行動も十分に想定されるの る。 しかし、プールの利用者は必ずしも常に水底に足を着けて歩くわけではな く、水底を蹴って前後にジャンプしたり、少しだけ泳いで移動し再び水底に足を着けるといった行動も十分に想定されるのであるから(本件プールがレジャー用のプールであることを踏まえればなおさらである。)、被告らの上記主張は採用することができない。 ウまた、被告らは、本件プールの水深変化は、プールサイドから一見して容 易に認識することができるとも主張する。 しかしながら、本件プールの底には、モザイクタイルが敷き詰められ、水色と青色の波模様が描かれているところ(甲4、61〔枝番含む。〕、93、乙13)、本件プールに水を張った状態で本件出入口付近から本件プールを見たとき、この波模様と水面の反射のため、本件斜面の存在や、水深の変化 が認識し難いものとなっていたと認められる(乙9〔7~8頁〕)。 また、確かに、本件プールの北西側又は北東側から本件プールを見れば、気象条件次第では本件プールの壁面が北に向かって徐々に高さを増していく様子を確認できる(乙9〔10~11頁〕)。しかし、本件ホテルにおいては、本件プールの南西側にある本件出入口の前に「プール出入口」と書かれた看板が設置されており(乙9〔6頁〕)、本件プールの利用者は、本件出入 口を通って本件プールに出るようになっていたのであるから、必ずしも本件プールに入る前に、本件プールの北西側又は北東側から本件プールを見るものとはいえない。また、気象条件によっては、水面に光が反射したり、波紋が立ったりすることも当然あり得るところ、このような場合には、上記のように本件プールの壁部分の高さの変化を確認することは困難であるという べきである(甲12の1、甲79〔枝番含む。〕参照)。 ったりすることも当然あり得るところ、このような場合には、上記のように本件プールの壁部分の高さの変化を確認することは困難であるという べきである(甲12の1、甲79〔枝番含む。〕参照)。 そうすると、本件プールの水深変化はプールサイドから一見して容易に認識することができるとする被告らの上記主張は採用することができない。 エ以上のとおり、本件プールは利用者の属性次第で溺水事故が発生する危険が相応に高い構造であったものと認められ、本件ホテルを統括管理する立場 にある被告E及び本件ホテルの運営管理に関する現場の総責任者である被告Fは、本件プールの上記のような構造を理解していたものというべきであるから、被告Eらにおいては、本件プールにおいて溺水する者が発生することを予見できたものというべきである。 なお、被告らは、本件プールにおいて溺水事故が発生した事実がないなど として、過去において本件プールの危険性が現実かつ具体的なものとして発現・指摘された事実はないなどと主張するが、本件プールにおいて溺水事故が発生したことがなかったとしても、既に述べた本件プールの客観的な構造に照らし、被告Eらにおいては、本件プールにおいて溺水する者が発生することを予見できたものというべきであるから、被告らの上記主張を踏まえて も、上記の結論は左右されないものというべきである。 ⑵ 被告Eらの注意義務違反の有無ア被告Eらが負っていた注意義務について前記⑴のとおり、本件プールはその利用者の属性次第で溺水事故が発生する危険が相応に高い構造であり、被告Eらは、本件プールにおいて溺水する者が発生することを予見できたものというべきであるから、被告Eらはこれ を回避する措置を講ずべき義務を負っていたというべきである。 が相応に高い構造であり、被告Eらは、本件プールにおいて溺水する者が発生することを予見できたものというべきであるから、被告Eらはこれ を回避する措置を講ずべき義務を負っていたというべきである。 そして、上記のとおり、本件プールはその利用者の属性次第で溺水事故が発生する危険が相応に高い構造であるというべきことからすると、溺水事故が発生することを回避するためには、当該危険について本件ホテル利用客に注意喚起及び警告することが必要というべきである。本件指針においても、 プールの危険箇所や注意事項等を適切に注意喚起することが望ましいとされている(前提事実⑸ウ)。そうすると、被告Eらにおいては、溺水事故を未然に防止するために、本件ホテル利用客に対して適切な注意喚起及び警告を行うべき注意義務(注意義務①)を負っていたというべきである。 また、注意義務①が履行されない場合には、溺水者が発生する相応の可能 性があるところ、①足が着かない場所で溺水した者が自らその溺水状態から脱するのは通常困難であること、②溺水により呼吸ができなくなった場合、早期に呼吸を回復しなければ重篤な後遺症が残ったり、場合によっては死に至る危険もあることは公知の事実であること、③本件指針においては、プール全体がくまなく監視できるよう施設の規模に見合う十分な数の監視員を 配置することが必要であるとされているところ(前提事実⑸イ)、本件指針における「必要である」との表現は、プールの安全確保の観点から、記述された事項の順守が強く要請されると国が考えていることを意味するものであり(甲15)、溺水者の早期発見を重視しているものと考えられることを考慮すると、被告Eらにおいては、溺水事故が発生した場合に溺水者を速や かに救助し、重大な結果を生じさせないために るものであり(甲15)、溺水者の早期発見を重視しているものと考えられることを考慮すると、被告Eらにおいては、溺水事故が発生した場合に溺水者を速や かに救助し、重大な結果を生じさせないために、監視員及び浮き輪等の救命 具を備え、プールの監視体制を整備しておくべき注意義務(注意義務②)を負っていたというべきである。 イ注意義務①の違反の有無について被告らは、注意義務①について、本件プールのプールサイドに本件水深表示を設置していたほか、チェックイン時においても説明し、更に客室や本件 出入口に注意書を掲示するなどして適切に注意喚起を行っていたとして、その義務を履行していた旨主張する。 確かに、本件プールの東側及び西側のプールサイドには本件斜面付近に本件水深表示が設置されていたことが認められる(前提事実⑶)。 しかしながら、前記⑴ウのとおり、本件プールの利用者は、本件出入口を 通って本件プールに出るようになっていたところ、本件出入口から本件プールに向かう経路上には本件プールに水深2mエリアが存在すること等の本件プールの危険性について注意を喚起する表示はされていない(認定事実⑴)。本件出入口から本件プールに向かう場合、本件斜面の付近に設置されていた本件水深表示までは10m以上の距離があることになるし(甲3、5 7)、本件プールは屋外プールであって屋根がなく、しかも鹿児島湾にほぼ面しているため東方向に視界を遮るものはほとんどないこと(乙9)を踏まえると、こうした空間的広がりの中で、幅約73.5cm、高さ約10cmの本件水深表示(認定事実⑴)は、支柱や矢印部分等が赤色であることを考慮しても、決して目に留まりやすいものとはいえない。 また、本件ホテルにおいては、チェッ 5cm、高さ約10cmの本件水深表示(認定事実⑴)は、支柱や矢印部分等が赤色であることを考慮しても、決して目に留まりやすいものとはいえない。 また、本件ホテルにおいては、チェックインの際に本件プールの水深を具体的に説明して注意喚起をしていたとまでは認められず(乙6、弁論の全趣旨)、客室や本件出入口における注意書きにも「お子様のプールご利用は必ず保護者同伴にてお願い致します」との一般的な注意が記載されているのみであったから(乙5、6、8)、これらによって、前記⑴アで指摘した本件プ ールの危険性が利用者に十分周知されていたということはできない。前記⑴ アのとおり、ホテルに併設されたレジャー用のプールの利用者は、当該プールの水深はさほど深くないものと考えるのが通常であることからすると、本件プールの危険性について十分な周知を受けていない宿泊客において、本件プールに特別の危険はないものとの印象を抱き、本件プール周辺の注意表示に意を払わないことも十分に想定されたというべきである。 したがって、被告らが主張する本件水深表示の設置や本件出入口の注意書の掲示等をもって、前記⑴アで指摘した本件プールの危険性が利用者に十分に周知されていたと評価することは困難である。 以上のとおり、被告Eらが注意義務①を履行したとは認められず、被告Eらは、同義務を怠ったものというべきである。 ウ注意義務②の違反の有無について前記ア及びイのとおり、被告Eらは注意義務①を履行していなかったのであるから、監視員及び浮き輪等の救命具を備え、プールの監視体制を整備しておくべき注意義務を負っていたというべきであり、少なくとも本件プールの利用者がいる間、本件プールに常時の監視員を配置してプールの あるから、監視員及び浮き輪等の救命具を備え、プールの監視体制を整備しておくべき注意義務を負っていたというべきであり、少なくとも本件プールの利用者がいる間、本件プールに常時の監視員を配置してプールの監視に当 たらせるべきであったというべきである(なお、被告らの主張する監視措置により注意義務②を履行していたと認めることができないことは、後記⑶ア(イ)のとおりである。)。しかるに、被告Eらは、本件事故当時、本件プールに常時の監視員を配置していなかったのであるから、注意義務②を怠ったものというべきである。 エ小括以上のとおり、被告Eらには、注意義務①及び②を怠った注意義務違反があり、被告Eらには不法行為が成立すると認められる。そして、被告会社については、会社法350条及び使用者責任による損害賠償義務を負う。 ⑶ 被告らの主張について ア被告らは、プール施設の利用者の安全確保は、まず個々の利用者側におい てこれに留意すべきことが基本であるから、プールを提供する施設側においては、水深に関する情報提供を行った上で、一定程度の監視措置を行っていればひとまず足りるというべきであり、本件ホテルにおいては、本件水深表示を設置していたことに加え、フロント及びロビーに常時1 名又は2名の従業員を配置し、同従業員が、定期的に本件プールに視線を送って本件プール の状況を確認し、30分に1 回程度巡回を行うなどしていたのであるから、上記の情報提供及び監視措置として十分であり、これに加えて常時の監視員を設置すべき義務までは負わないと主張する。 (ア) 確かに、プールの利用者自身が安全確保に留意する必要があることは被告らの主張するとおりであるが、他方で、プールの設置管理者においても 利用者の安全確保 義務までは負わないと主張する。 (ア) 確かに、プールの利用者自身が安全確保に留意する必要があることは被告らの主張するとおりであるが、他方で、プールの設置管理者においても 利用者の安全確保に努める必要があることは本件指針等に照らしても明らかであり、前記⑴で指摘したような本件プールの危険性等も踏まえれば、安全確保について第一次的に利用者が責任を負うべきとする被告らの主張は採用し難いといわざるを得ない。 (イ) また、被告らは、上記のとおり、被告らの主張する監視措置(フロント 及びロビーに常時1 名又は2名の従業員を配置し、同従業員が、定期的に本件プールに視線を送って本件プールの状況を確認し、30分に1 回程度巡回を行うなど)で十分である旨主張する。 しかし、本件事故当時、本件ホテルのロビーには宿泊客用のテーブルと椅子が設置されており、西側のプールサイドにもテーブルと椅子が設置さ れていた(甲3、90〔枝番含む。〕、93、乙1〔枝番含む。〕)ため、これらが障害物となり、フロントから視線を送るだけでは本件プールの水面を十分に確認することができないものであったと認められる。しかも、フロント及びロビーで勤務する従業員は、当然ながらそれぞれフロント業務及びロビー業務に従事しており、常に本件プールに注意を向けることがで きるわけではなく、本件プールで事故が発生した場合にこれを早期に発見 することは容易ではない。このことは、認定事実⑵エのとおり、本件事故の際、被告会社の従業員は、原告Cから告げられて初めて本件事故の発生を把握したものであって、フロント及びロビーで勤務していた従業員において本件事故を発見することができていなかったことに照らしても明らかである。 そうすると、被告らの主張する監視措置は 生を把握したものであって、フロント及びロビーで勤務していた従業員において本件事故を発見することができていなかったことに照らしても明らかである。 そうすると、被告らの主張する監視措置は、本件プールにおける溺水事故への対応として十分なものとはいい難いものであって、注意義務②を履行したものと評価することはできない。 (ウ) なお、被告らの主張する本件水深表示の設置等によっても注意喚起又は警告として不十分であり、注意義務①を履行したものとは認められないこ とは前記⑵イのとおりである。 (エ) したがって、被告らの上記主張は、前記⑵の判断を左右するものではない。 イ被告らは、注意義務②に関連して、本件指針は、本件プールのようなレクリエーション用のプールを対象とするものではないと主張する。 確かに、本件指針は、遊泳利用に供することを目的として設置されているプール施設のうち、第一義的には「学校施設及び社会体育施設としてのプール、都市公園内のプール」を対象として作成されたものである(甲15)。 しかしながら、本件指針は、「その他の公営プールや民営プールといった全てのプール施設においても、参考として活用することが期待されるもので ある。」としているし(甲15)、プールにおける水難事故の発生可能性という点では、本件指針が第一義的に対象とするプールと本件プールとで大差があるとは考え難い(むしろ、前記⑴で指摘したところからすれば、本件プールの方が危険性が高いといえる。)。そうだとすれば、本件プールを管理するに当たっては、本件指針の趣旨を十分に踏まえることが求められていたとい うべきである。そして、本件指針はもとより法規範性を有するものではない が、プールでの水難事故は重大な結果 するに当たっては、本件指針の趣旨を十分に踏まえることが求められていたとい うべきである。そして、本件指針はもとより法規範性を有するものではない が、プールでの水難事故は重大な結果につながるおそれがあることに鑑みると、設置管理者の利用者に対する不法行為法上の注意義務の有無及び内容を検討するに当たっても本件指針の趣旨を適切に考慮するのが相当というべきである。 ウさらに、被告らは、本件ホテルと同様に水深2m前後のプールを設置して いるホテルは国内に少なくとも12か所あるとして、本件プールが特別に危険なものであったとはいえないと主張する。 しかし、他に同様のプールが存在するとしても、それをもって本件プールの危険性が否定されるものではなく、また、上記12か所のホテルのうち、7か所は監視員を配置しており(甲12の2)、これらの事情は、むしろ、本 件プールはその利用者が溺水する危険が相応に高いものであることや本件プールに監視員を設置すべき義務を肯定する事情といえる。 エこのほか、被告らは、注意義務①に関連して、本件指針の危険箇所や注意事項等の注意喚起については、望ましいとされているにすぎず、これをプールの設置管理者に義務付けているわけではないと主張するが、前記⑴のとお り、本件プールは利用者の属性次第で溺水事故が発生する危険が相応に高い構造であったことに照らせば、その危険性を注意喚起すべき義務があることは明らかというべきであって、被告らの上記主張に照らしても、前記の結論を左右するものではない。 3 争点2(過失相殺の可否及び過失割合について) ⑴ 原告Cの過失ア原告Cの認識について被告らは、原告Cが本件プールに水深2mエリアが存在することを認識していながら、自ら 3 争点2(過失相殺の可否及び過失割合について) ⑴ 原告Cの過失ア原告Cの認識について被告らは、原告Cが本件プールに水深2mエリアが存在することを認識していながら、自らの泳力を考慮せず水深2mエリアに進入したとして、本件事故の発生について原告Cにも過失がある旨主張する。 しかしながら、以下のとおり、本件事故の前に、原告Cが水深2mエリア の存在を認識していたとは認められない。 (ア) まず、本件水深表示は本件出入口から本件プールに向かう利用者にとって目に留まりやすいものとはいえないことは前記2⑵イのとおりである。 原告Cが本件プールに入水した後は、本件水深表示との距離が近くなるとはいえるが、プールで遊んでいる者がプールサイドに設置されている掲示 物に注意を向けるとは限らないのであるから、本件水深表示が設置されていたことをもって直ちに原告Cが水深2mエリアの存在を認識していたものと認めることはできない。 (イ) また、前記2⑵イのとおり、本件出入口から本件プールに向かう経路上に本件プールに水深2mエリアが存在すること等の本件プールの危険性 について注意を喚起する表示はされていなかった上、本件ホテルの各客室に置かれていた注意書き(乙5、6)及び本件出入口に貼られていた注意書き(乙8)には、いずれも、子供のプール利用については保護者の同伴を求めるという一般的な記載しかなく、本件プールに水深2mエリアが存在することを示す記載はない。さらに、チェックインに際して本件ホテル の従業員が本件プールの水深について説明したことを認めるに足りる証拠もない(本件事故発生時の安全対策について記載された書面(乙6)においても、チェックイン時にプールは注意して利用するように口頭で案内するとされ 件プールの水深について説明したことを認めるに足りる証拠もない(本件事故発生時の安全対策について記載された書面(乙6)においても、チェックイン時にプールは注意して利用するように口頭で案内するとされているにすぎず、本件プールの水深についての説明がされていたものとは認められない。)。これらに照らすと、原告Cにおいて、水深2 mエリアの存在を認識する契機があったものとはいい難い。 (ウ) 他方、本件ホテルの従業員であるI(以下「I」という。)は、本件事故の直後、プールサイドにいた原告Cが、亡Gらの祖母に対し、本件事故前に「お姉ちゃんこっちは2mなんだって」と亡Gに伝えていたという趣旨の発言をした旨証言し(証人I54、55項)、被告らは、この原告Cの発 言を根拠に、原告Cが、本件事故の前に水深2mエリアの存在を認識して いた旨主張する。 しかし、本件事故直後の原告Cは興奮した様子で泣きじゃくっており、Iもその後の会話の内容は確認できず(証人I53、54項)、原告Cがどのような文脈で上記のような発言をしたのかも不明というのである(証人I137、138項)。そうだとすれば、原告Cが本件事故後に認識した事 実(自身が水深の深い場所で溺れた事実)も含めて言葉をひねり出しながら断片的に説明する中で、それを聞いたIが原告Cの発言の趣旨を誤解した可能性も十分にあるといわざるを得ない。原告Cが反対趣旨の供述をしていること(原告C178項)も考慮すると、Iの上記証言は必ずしも信用性が高いものとはいえない。 (エ) 以上からすると、本件事故の前には本件プールの水深を認識しておらず、本件水深表示も認識していなかった旨の原告Cの供述を排斥することはできず、原告Cが本件事故の前に、水深2mエリアの存在を認識していたとは認め ると、本件事故の前には本件プールの水深を認識しておらず、本件水深表示も認識していなかった旨の原告Cの供述を排斥することはできず、原告Cが本件事故の前に、水深2mエリアの存在を認識していたとは認められない。 イ本件水深表示を確認しなかったことについて (ア) もっとも、プールの水深は、プールで遊泳する者が安全に遊泳できるか否かに関わる基本的な情報であり、また、原告Cは泳ぎが苦手であり(原告C286項)、過去に溺れかけたことがあったというのであるから(原告C〔434、451~455、477~479項〕)、原告Cにおいては、本件プールに入るに際し、プールサイドに設置された本件水深表示を確認 するなどして本件プールの水深を確認すべき注意義務があったというべきである。原告Cには、こうした注意義務を怠った過失があり、本件事故の経過に鑑みれば、これが本件事故の発生に寄与したものといわざるを得ない。 (イ) これに対し、原告らは、被告Eらの注意義務①の違反により、原告Cが 本件事故の発生前に本件プールの危険性を把握できなかったのであるか ら、原告Cの前記(ア)の過失を過失相殺において考慮することは被告らの責任を転嫁するものであり、これにより被告らの責任が減じられることは許容されない旨主張する。 確かに、前記2⑵イのとおり、本件水深表示等では本件プールの危険性が利用者に十分周知されていたものと評価することはできず、被告Eらに は注意義務①への違反があるというべきである。しかしながら、本件プールには本件水深表示が設置されており、原告らによる本件事故の再現においても、原告Cの視界に本件水深表示が入っていたこと(甲87の2)からすれば、原告Cにおいても、本件水深表示を確認することにより水 ルには本件水深表示が設置されており、原告らによる本件事故の再現においても、原告Cの視界に本件水深表示が入っていたこと(甲87の2)からすれば、原告Cにおいても、本件水深表示を確認することにより水深2mエリアの存在を認識することは可能だったというべきである。そうする と、原告らが主張するように、被告Eらの注意義務①の違反により、原告Cが本件事故の発生前に本件プールの危険性を把握できなかったということはできない。 また、原告らは、原告Cの前記(ア)の過失を過失相殺において考慮することは被告らの責任を転嫁するものであり、これにより被告らの責任が減 じられることは許容されない旨主張するが、不法行為による損害賠償制度は、発生した損害について加害者と被害者との間において公平に負担すべきものであるから、原告側に過失があった場合には、これを考慮するのが相当である。そして、プールの利用者自身が安全確保に留意する必要があるというべきことは、前記2⑶ア(ア)のとおりであって、プールの水深は、 プールで遊泳する者が安全に遊泳できるか否かに関わる基本的な情報であるから、プールの利用者自身でこれを確認すべき義務があったというべきであり、前記(ア)の過失相殺を否定することはできないというべきである。 したがって、原告らの上記主張は採用できない。 ウ原告Cがもがき続けたことについて 被告らは、原告Cが亡Gに救助されている間もがき続けたことをもって原告Cの過失であると指摘する。しかしながら、救助者にしがみついたり、もがいたりすることは、溺水中の原告Cの行動としてやむを得ないものというべきであって、この点をもって過失と評価することはできない。 ⑶ 亡G及び原告Bの過失 ア亡Gの しがみついたり、もがいたりすることは、溺水中の原告Cの行動としてやむを得ないものというべきであって、この点をもって過失と評価することはできない。 ⑶ 亡G及び原告Bの過失 ア亡Gの過失被告らは、亡Gについて、原告Cが溺れたことを認識していたのであるから、当然、自身も水底に足が着かない可能性が高いことを認識していたはずであり、それにもかかわらず、周囲に救助を求めず、単独で原告Cの救助を行うという判断を行った過失があると主張する。 確かに、溺水者の救助には相応の訓練が必要であり、そのような訓練を受けていない者が溺水者の救助を行えば、救助者も共に溺水してしまう可能性が高いことは公知の事実であるから、亡Gにおいても、まずは周囲に助けを求めるなどすることが望ましかったと考えられる。 しかし、本件事故は、亡Gの目の前で妹である原告Cが溺れたことに端を 発しており、本件事故当時、本件プール及びプールサイドには亡G及び原告C以外に他の利用者やホテルの従業員はいなかったのであるから(甲12の1)、亡Gが単独で救助に向かったこともやむを得ないものであったというべきであり、亡Gの行動を過失と評価し、これをもって過失相殺をすることは相当ではない。 イ原告Bの過失被告らは、原告Bには、保護者として亡G及び原告Cに付き添って本件プールに行かなかった過失、あるいは亡Gらの祖母を付き添わせなかった過失がある旨主張する。 しかし、原告Cは、本件事故当時14歳の中学2年生であり、その身長に 照らしても、本件プールの利用に保護者の付添いが必要なものであったとは 認められないし、仮にこれが必要であるとしても、当時21歳であった亡Gが同行していたのであるから、更に付添者を追加する必要性は原則としてないという 保護者の付添いが必要なものであったとは 認められないし、仮にこれが必要であるとしても、当時21歳であった亡Gが同行していたのであるから、更に付添者を追加する必要性は原則としてないというべきである。そして、本件プールの利用に関する注意書きは、飽くまで一般的な注意を記載したものにとどまり(前記⑴ア(イ))、特別の注意喚起はされていなかったことからすれば、原告B及び亡Gらの祖母までもが付 き添うべき義務を負っていたとは認められない。したがって、原告Bに、保護者として付き添うべき義務を怠った過失あるいは亡Gらの祖母を付き添わせなかった過失があるとする被告らの主張は採用できない。 ⑷ 過失割合について以上検討したとおり、本件事故の発生については、原告Cにも過失が認めら れる。もっとも、本件プールにはその構造に由来する危険があり、しかも、水深に関する注意喚起が十分なものではなかったことに照らせば、本件事故の発生は、被告Eらの注意義務違反によるところが大きいというべきであって、本件事故における原告側の過失は3割とするのが相当である。 4 争点3(原告らに生じた損害の有無及び額)について ⑴ 亡Gの損害本件事故により、亡Gには、以下の損害が生じたと認められる。なお、計算の結果一円未満が生じた場合には四捨五入する(後記⑵ア(ウ)において同じ。)。 ア逸失利益 7766万2877円(ア) 大学在学中における逸失利益 60万2474円 亡Gは、本件事故当時、21歳(大学3年生)で、飲食店でアルバイトをしていたところ(前提事実⑴ア、甲28~30)、本件事故がなければ、大学を卒業するまでの間は、同アルバイトを続けていたものと認められるから(甲28、弁論の全趣旨)、大学在学中の1 食店でアルバイトをしていたところ(前提事実⑴ア、甲28~30)、本件事故がなければ、大学を卒業するまでの間は、同アルバイトを続けていたものと認められるから(甲28、弁論の全趣旨)、大学在学中の1年間、これによる収入を得られたものというべきである。 亡Gは、本件事故前における令和4年1月から同年7月までに給与等と して、57万6609円の支給を受けている(甲30)。もっとも、亡Gは、出勤日には1日当たり500円の交通費の支給を受けており、その出勤日数は月17日程度と認められるから(甲45〔枝番含む。〕)、交通費として支給された5万9500円(500円×17日×7か月分)を上記支給金額から控除すべきであり、基礎収入は年収88万6473円(〔57万6 609円-5万9500円〕×〔12か月/7か月〕)とするのが相当である。また、生活費控除率は、30パーセントとするのが相当である。 したがって、以下の計算式のとおり、亡Gの大学在学中における逸失利益は、60万2474円とするのが相当である(なお、以下の計算式のうち、0.9709は、1年に対応するライプニッツ係数である。)。 (計算式)886,473×0.9709×(1-0.3)≒602,474(イ) 大学卒業後における逸失利益 7706万0403円亡Gは、本件事故で死亡した令和4年当時、J大学の3年生であったことから(前提事実⑴ア)、基礎収入については、令和4年度賃金センサス (女性、大学卒、全年齢平均)を参照して、年収462万4600円とするのが相当である。原告らは、男女計大学卒の賃金センサスを採用すべきと主張するが、亡Gについて、同賃金センサスによる収入を得られることを認めるに足りる事情はなく、原告らの主張を 62万4600円とするのが相当である。原告らは、男女計大学卒の賃金センサスを採用すべきと主張するが、亡Gについて、同賃金センサスによる収入を得られることを認めるに足りる事情はなく、原告らの主張を採用することはできない。 そして、生活費控除率は30パーセントとするのが相当であるから、以 下の計算式のとおり、亡Gの大学卒業後における逸失利益は、7706万0403円とするのが相当である(なお、以下の計算式のうち、23.8045は、亡Gの就労可能期間である46年に対応するライプニッツ係数24.7754から前記(ア)に係るライプニッツ係数0.9709を控除したものである。)。 (計算式) 4,624,600×23.8045×(1-0.3) ≒77,060,403イ死亡慰謝料 2000万円本件に表れた一切の事情を考慮し、上記の金額を認めるのが相当である。 ウ治療費 6万5270円(争いがない)エ葬儀関係費用(仏壇仏具購入費用を含む。) 175万円 本件事故は鹿児島県指宿市で発生しているところ、亡Gは本件事故当時福岡県太宰府市内に居住しており、その葬儀は同市内で実施されたこと(甲33)、亡Gの遺体が、鹿児島県から福岡県まで搬送されたこと(甲32)が認められる。したがって、遺体搬送費用25万円(甲32)と葬儀費及び仏壇仏具購入費として相当と認められる150万円との合計175万円につい て、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 オ大学授業料 0円原告らは、本件事故により、亡Gが令和4年度前期の期末試験を受けることができず、その単位を取得できなかったことから、既に支払っていた同期間に相当する学費について本件事故と相当因果 業料 0円原告らは、本件事故により、亡Gが令和4年度前期の期末試験を受けることができず、その単位を取得できなかったことから、既に支払っていた同期間に相当する学費について本件事故と相当因果関係のある損害であると主 張する。 しかし、亡Gは、令和4年度前期の講義のうち、夏休みまでの間に実施された講義に出席して受講することができており、大学の施設を利用していたと認められるのであるから、これが本件事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。 カ調査費用 0円原告が主張する調査費用(本件事故に関する説明を受けるための会議に出席するのに要した交通費等)は、被告に対する法的責任を追及するに当たっての準備のための費用というべきであるから、本件と相当因果関係のある損害と認めることはできない。 キ小計 9947万8147円 ⑵ 原告らの損害ア原告A及び原告Bについて(ア) 亡Gの損害の相続分原告Aにつき4973万9074円、原告Bにつき4973万9073円原告A及び原告Bは、亡Gの両親であり、亡Gの死亡により、同人を相 続した。したがって、いずれも上記⑴キの2分の1を相続することとなり、上記の金額が相続分となる(なお、端数の1円については訴状の当事者目録で最初に記載のある原告Aに計上することとした。)。 (イ) 固有の慰謝料各200万円本件に表れた一切の事情を考慮し、上記の金額を認めるのが相当である。 (ウ) 過失相殺後の金額原告Aにつき3621万7352円、原告Bにつき3621万7351円前記3⑷のとおり、原告側に3割の過失があるものと認めるのが相当であるから、前記(ア (ウ) 過失相殺後の金額原告Aにつき3621万7352円、原告Bにつき3621万7351円前記3⑷のとおり、原告側に3割の過失があるものと認めるのが相当であるから、前記(ア)及び(イ)の合計額から3割を控除した上記の金額が原告A及び原告Bの損害額であると認めるのが相当である。 (エ) 弁護士費用各362万1735円本件における一切の事情を考慮し、前記(ウ)の1割相当額である362万1735円を、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用と認めるのが相当である。 (オ) 合計原告Aにつき3983万9087円、原告Bにつき3983万9 086円イ原告Cについて前記アと同様の理由から、以下の損害額を認めるのが相当である。 (ア) 固有の慰謝料 100万円(イ) 過失相殺後の金額 70万円 (ウ) 弁護士費用 7万円 (エ) 合計 77万円 5 結論よって、原告らの請求は、被告らに対し、連帯して、原告Aについては3983万9087円、原告Bについては3983万9086円、原告Cについては77万円及び原告らそれぞれについてこれら各金額に対する令和4年7月24日 (本件事故の日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官加藤聡 裁判官金森陽介 裁判官田中大地 (別紙は掲載省略) 加藤聡 裁判官金森陽介 裁判官田中大地 (別紙は掲載省略)

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