主文 被告人を罰金30万円に処する。 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,栃木県那須郡a町b所在の株式会社甲経営に係る乙スキー場の丙ペアリフト索道主任かつ運転係兼監視係として,スキー及びスノーボード客用リフトの運転及び同リフト乗客の安全確保の業務に従事していたものであるが,平成12年2月12日午前11時30分ころ,丙ペアリフト山麓駅において,乗客の被害者(当時25歳)がリフトの搬器に乗ろうとした際,正常な姿勢でリフトの搬器に着席できず,後ろ向きの姿勢で同搬器にもたれかかり同搬器に押される状態になったのを認め,そのまま同搬器を進行上昇させた場合には,同人が,同搬器に押されて転倒し,あるいは,不安定な状態で同搬器とともに上昇し,地上に落下するなどの事故が発生することが予想されたのであるから,直ちにリフトの運転を停止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,直ちにリフトの運転を停止せず,同人がしがみついた状態のまま同搬器を上昇させ,同人を宙吊り状態にしてなおリフトを進行上昇させた過失により,同人をして,そのままの状態でいた場合には,更に同搬器が上昇することによって,より高所から落下する危険を感じさせるとともに,こらえきれずに同搬器から手を放すのを余儀なくさせ,乗車位置から約16メートル付近まで進行させた地点で同人を地上に落下転倒させ,よって,同人に軽快まで193日間を要する第1腰椎圧迫骨折等の傷害を負わせたものである。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被害者が,リフトの搬器から地上に落下した(以下,被害者が負傷した点を含め,「本件事故」という で193日間を要する第1腰椎圧迫骨折等の傷害を負わせたものである。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被害者が,リフトの搬器から地上に落下した(以下,被害者が負傷した点を含め,「本件事故」という。)のは,リフトの搬器が乗車位置から約16メートル進行した地点よりも遥かに手前であり,被告人は,本件事故回避のために適切な措置を講じたのであるから,被告人に過失はなく無罪である旨主張し,被告人も,後記の社内事故検証記録をも参酌すると,捜査公判を通じ,概ね,乗車位置から約2.6メートルの地点で,被害者がリフトの進行方向に向かい後ろ向きになり搬器に押されているのを認め,減速操作をした上,乗車位置から約8メートル進行した地点では搬器に乗ることは困難と踏み,非常停止操作も行っており,結果的に更に約1メートル先で被害者が落下したものであるなどと主張し,過失はないとの立場を鮮明にしている。当裁判所は,判示のとおり,被害者の落下地点については,リフトの搬器が乗車位置から約16メートル付近まで進行した地点と認定し,被告人は,直ちにリフトの運転を停止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠ったものであるから,本件事故につき過失責任を免れないと判断したので,その理由を補足して説明する。 2 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,昭和63年ころから,冬季に株式会社甲(以下「本件会社」という。)の臨時社員として勤務し,乙スキー場(以下「本件スキー場」という。)において,スキーリフトの運転等に従事していた。被告人は,平成10年ころから,本件スキー場に設置された丙ペアリフト(以下「本件リフト」という。)の索道主任となり,本件リフトの責任者として,本件リフトの運輸,運転及び技術に関する一切の業務を処理し,所属係員を指揮監督する役割を担っていたほか,運転 れた丙ペアリフト(以下「本件リフト」という。)の索道主任となり,本件リフトの責任者として,本件リフトの運輸,運転及び技術に関する一切の業務を処理し,所属係員を指揮監督する役割を担っていたほか,運転係及び監視係も兼務していた。本件リフトの山麓駅には,被告人のほか,A及びBが配置されており,本件事故時は,Aは休憩中で,Bが乗客係として勤務していた。 (2) 被害者は,平成12年2月12日,スノーボードをするため,C及び知人2名とともに本件スキー場を訪れ,午前7時ころに本件スキー場に到着し,午前8時30分ころからスノーボードで滑り始めた。被害者は,同日午前11時30分ころ,Cと2人で本件リフトを利用しようとしたが,山麓駅付近でリフトに乗り損ない,後ろ向きの体勢のままリフトの搬器に押され,その後,搬器に宙吊りの状態となり,搬器から手を放して,雪上に落下したことにより,軽快まで193日間を要する第1腰椎圧迫骨折等の傷害を負った。 (3) 本件リフトは,単線固定循環式の特殊索道であり,最高運転速度は秒速約2. 3メートル,減速時の最低運転速度は秒速約1.3メートルで,本件事故時は秒速約2.3メートルの速度で運行していた。本件リフトには115台の搬器が配置され,各搬器の間隔は約13.8メートルで,搬器の出発間隔は約6秒となっている。本件リフトの山麓駅は,ゲート正面に運転室が設置され,運転室前にリフトの乗車位置が設けられている。本件リフトの搬器は,2人乗りで,乗車位置から約6.6メートルの距離にある第1号支柱から徐々に上昇していく構造となっている。また,山麓駅の運転室内の運転盤に常用停止ボタンと非常用停止ボタン,減速スイッチが設置され,運転室外の操作スタンドにも停止ボタンと減速スイッチが設けられている。本件リフトは,減速スイッチを操作すると毎秒0.2 の運転室内の運転盤に常用停止ボタンと非常用停止ボタン,減速スイッチが設置され,運転室外の操作スタンドにも停止ボタンと減速スイッチが設けられている。本件リフトは,減速スイッチを操作すると毎秒0.2メートルずつ減速し,約5秒後に秒速約1.3メートルに到達する構造となっている。本件リフトの設置会社社員は,乗客に乗り損ねがあったりして停止する場合は,非常用停止ボタンを押すことになり,2人乗りしていた場合,制動距離はおおよそ5ないし6メートルであるが(ちなみに,Dの警察官調書添付の総合試験記録表によると,負荷を掛けて非常用停止ボタンを押した場合の制動距離結果例として約5.3メートル前後が記録されている。),スキー場毎にブレーキの調整が可能となっているため,これによる変動はあり,なお,減速状態で非常用停止ボタンを押した場合の制動距離は不明としている。 (4) 本件会社は,本件事故当時,索道施設の維持管理につき,「索道事業者は,運輸省令で定める技術上の基準に従い,索道施設を維持し,及び管理しなければならない。」とする鉄道事業法35条と,「索道事業者はこの省令の実施に関する細則を定めなければならない。」とする索道施設に関する技術上の基準を定める省令3条1項の規定に従い,「株式会社甲特殊索道運転細則」を定めていたところ,同細則20条には,監視につき,「監視係は,索道の運行状況,乗客の状態及び環境の変化等に注意し,危険のおそれのあるときは,ただちに運転を停止する等の措置を講じなければならない。」旨,同細則28条1項には,非常停止につき,「係員は,索道の運転及び乗客に危険を感じたときは,速やかに非常停止しなければならない。」旨,同細則29条1項には,減速運転につき,「係員は,別紙1で指定する索道については,索道の運転中,旅客の動向等により必要と認めたときは 客に危険を感じたときは,速やかに非常停止しなければならない。」旨,同細則29条1項には,減速運転につき,「係員は,別紙1で指定する索道については,索道の運転中,旅客の動向等により必要と認めたときは,直ちに減速運転をしなければならない。」旨(本件リフトは,同細則別紙1で指定されている索道である。)それぞれ定められていた。そして,本件会社の索道部長兼特殊索道技術管理者のDは,リフト担当係員に対しては,リフトは動いており,停止措置を講じても,停止するまでには時間と距離を要するので,基本的対応としては,危険と判断した場合は,停止措置を講ずるよう指導しており,ただ,余裕がある場合は,他の乗客の転落の危険にも配慮し,減速措置後に停止措置を講ずるようにとの指導もしていた。被告人も,捜査段階において,危険と思った時は即停止措置を講ずること,一時停止措置を講じた場合には事故を防げる反面,一旦事故が発生すればリフトの運行ができないことから,停止措置は何度講じても良いなどと指導を受けたことを自認しており,現に,1日平均,6回ないし7回の停止措置を,2回ないし3回の減速措置をそれぞれ講じることがあったとしている。 3 本件事故時の被害者の状況等(1) 被害者は,公判廷において,本件事故時の状況等につき,大要,次のとおり供述している。 本件リフトを利用するため,リフト待ち位置から乗車位置まで進み,自分とCの乗る搬器(以下「本件搬器」ともいう。)が乗車位置まで来た時,膝の裏に座席が当たると痛いので,座席の端を一旦右手で押さえてから座ろうと思い,手のひらで受け止めるように座席をつかもうとして,座席が近付いてきた時に体をかがめた。座席に右手を当てた時に,搬器が後ろに下がるように揺れ,バランスが少し崩れて転びそうになり,転ばないように,バランスを保つため,座った場合 に座席をつかもうとして,座席が近付いてきた時に体をかがめた。座席に右手を当てた時に,搬器が後ろに下がるように揺れ,バランスが少し崩れて転びそうになり,転ばないように,バランスを保つため,座った場合に左の尻が着く辺りに右手の位置がずれたが,それでもバランスが取れずに,座った時に右の尻が着く辺りに左手もつく形になり,搬器に両手をついた状態となって上半身が後ろを向いた。手をついたばかりの時は,下半身はまだCの方を斜めに向いている状態だったが,進みながら体が回り,スノーボードも進行方向とは逆の方向を向いた。スノーボードが回転してしまった後は,右足をスノーボードの上に載せていた。スノーボードが逆に向いてリフトに押されている間,足はリフトの下には潜ってはおらず,搬器より先にあった。右足がスノーボードの中央に載ったことで体勢がある程度立て直ったが,左足が後ろだったのでスノーボードの操作がしにくく,リフトの速度も速く感じ,体が逆を向いてからでは,体勢を立て直したり,リフトの脇に逃避したりすることはとてもできなかった。搬器にどんどん押されていき,従前経験ないし見聞きしたように,リフトが直ぐ停止すると思っていたのに,なかなか停止しないなどと思っているうちに,搬器の高さが脇の辺りまで上がってきて,手を背もたれと座席の間の隙間に入れて,両肘を座席に載せる状態で搬器にしがみついた。自分の足が雪面から離れるかどうかの位置で,Cが左肘を持って支えてくれた。座席に両手でつかまって抱え込み,肘はかろうじて座席面に載っており,脇の下に座席があって,脇よりも下はぶら下がって伸びている状態だった。足が地面から離れるのを感じて怖いと思い,スノーボードも重く,手がしびれてきて,どんどん高くなってしまうというイメージもあり,もう限界だと思って自分で,搬器から手を放した。手を放そう いる状態だった。足が地面から離れるのを感じて怖いと思い,スノーボードも重く,手がしびれてきて,どんどん高くなってしまうというイメージもあり,もう限界だと思って自分で,搬器から手を放した。手を放そうと思ったのと同時位に,Cから「もう手を放せ。」などと言われた。手を放す時にはリフトはまだ動いていた。乗り損なってから手を放すまでの間に,リフトの速度が遅くなったという感じはしなかった。搬器から手を放して雪面に後ろ向きに落ち,腰から背中にかけて雪面に当たり,かなりの衝撃を感じた。 本件事故当時の状況に関する被害者の公判供述は,自身の行動や体勢について,記憶の曖昧な点はその旨申し述べた上,各時点毎の心理状態等を交えながら詳細に説明しており,供述態度も真摯で,内容的に見ても特に不自然な点は認められない。また,被害者の公判供述は,捜査段階からほぼ一貫したものとなっていると窺われる上,Cの公判供述とも良く符合している。したがって,被害者の公判供述には,高い信用性が認められる。 (2) 次に,Cは,公判廷において,本件事故時の被害者の状況等につき,「リフトを待っている時は,被害者は自分の背中側にいたので,被害者の姿勢は見えなかった。被害者はリフトに上手く乗ることができず,手が搬器の座面にあり,体が進行方向の逆を向き,搬器に押される状態になり,乗り直すことができる状況にはなかった。それまで,他人の例であるが,リフトに乗り損なった時に,リフトの運転を停止した場面に出会しており,本件事故時も同様の事態を予想したのに,リフトは停止することなく進み,搬器が高くなって行くので,危ないと思い被害者の二の腕辺りを支えた。被害者は,搬器にしがみつく状態となっており,足が地面から離れた。これ以上進むと危険と判断し,被害者に『降りろ。』と言うと,被害者は搬器から落ちた。その で,危ないと思い被害者の二の腕辺りを支えた。被害者は,搬器にしがみつく状態となっており,足が地面から離れた。これ以上進むと危険と判断し,被害者に『降りろ。』と言うと,被害者は搬器から落ちた。その後,自分も勇気を出してリフトから飛び降りたが,リフトはまだ動いており,それまでにリフトが減速したということもなかった。」旨供述する。 Cは,自身の目撃していない事柄や明確でない点はその旨率直に述べた上,本件事故時の被害者の状況や自身の行動について具体的に供述しており,内容も自然で,被害者の公判供述とも良く符合しており,信用性が高いといえる。 (3) これに対し,被告人は,公判廷において,本件事故時の被害者の体勢等について,「被害者は,搬器が来る直前に後ろ向きになって右手で背もたれをつかみ,その姿勢で搬器に押された。被害者は,姿勢を立て直そうとしており,搬器に押されている時の被害者の腰の高さは搬器の座面より高く,被害者のスノーボードは搬器の前を滑っていた。被害者やCから,リフトを止めて欲しいとは言われておらず,悲鳴も聞いていない。」などと供述し,被告人が被害者の意図を推し量った部分はさておくとしても,乗車位置付近の被害者の体勢そのものについては,基本的には被害者やCの各公判供述と概ね合致している。もっとも,被害者が搬器の背もたれをつかんでいたとする点については,後記の本件会社による社内事故検証時や被告人立会の実況見分において事故状況が再現された際,仮想被害者がいずれも座面にしがみつく姿勢を取っているのに,姿勢が異なる旨の指摘をしていたとは窺われず,前記のとおりの信用できる被害者及びCの各公判供述にも反することからして,この点に関する被告人の供述は信用することができない。 (4) そうすると,被害者は,乗車位置に本件搬器が来た際,搬器を手で押さえてか とおりの信用できる被害者及びCの各公判供述にも反することからして,この点に関する被告人の供述は信用することができない。 (4) そうすると,被害者は,乗車位置に本件搬器が来た際,搬器を手で押さえてから座ろうとしてバランスを崩し,搬器に両手をついてバランスを取ろうとするうちに上半身が後ろを向き,その後スノーボードも進行方向と逆の方向を向いて,右足をスノーボードの上に載せた状態で搬器に押され,リフトが進行して搬器の高さが脇位まで上がって来たため,搬器の背もたれと座席の間の隙間に手を入れてしがみつき,雪面から足が離れるころにCに左肘付近を支えられたが,足が雪面から離れてもなおリフトが進行したため,やむを得ず搬器から手を放して雪上に落下したものと認められる。 4 被害者の落下地点について(1) Cは,公判廷において,事故時の状況について前記のとおり述べた上,被害者の落下地点は,本件リフトの1本目の支柱と2本目の支柱の間で,1本目の支柱から3分の2以上は進んでいたとし,その位置は,リフトを飛び降りて被害者の許に駆け寄った時と,その後,一緒にスキー場に来ていた知人を捜している時に確認した旨供述する。そして,Cは,被害者の落下した地点につき,平成12年4月9日に実施されたC立会の実況見分時には,計算上リフト乗車位置から約16メートルの地点を指示し,平成15年2月26日に施行した受命裁判官による検証(以下単に「検証」という。)の際には,リフト乗車位置から約19.55メートルの地点を指示していることが明らかである。また,Cは,自身がリフトから飛び降りた地点については,リフトの2本目の支柱の3メートルほど先であると供述しており,その地点につき,C立会の実況見分時にはリフト乗車位置から約28.5メートル,検証時にはリフト乗車位置から約28.78メートルの地 ては,リフトの2本目の支柱の3メートルほど先であると供述しており,その地点につき,C立会の実況見分時にはリフト乗車位置から約28.5メートル,検証時にはリフト乗車位置から約28.78メートルの地点をそれぞれ指示している。 Cは,被害者の落下地点やCが飛び降りた地点を明確に供述している上,各地点特定の根拠を具体的に挙げており,その指示する地点も,被害者の足が雪面から離れるのと同時位にCが被害者の左肘付近を支え,Cがこれ以上進むと危険と判断して搬器から降りるよう被害者に言い,被害者もこらえきれなくなって搬器から手を放したという事態の経過に合致するものと認められ,十分に信用することができる。 弁護人は,次のとおり指摘し,Cの地点の特定に関する供述ないしは地点の指示は信用することができないとする。すなわち,① Dの公判供述によれば,Cは,本件事故翌日の時点で,被害者の落下地点をリフト乗車位置から五,六メートル先と説明していたばかりでなく,被害者の兄が被害者やCから事情をそれぞれ聴いて作成した「事故報告書」と題する書面(以下「本件事故報告書」という。)には被害者の落下地点はリフト乗車位置から約8メートルであると記載されている上,実況見分時と検証時の指示も変遷しており,一貫していない。② 被害者及びC立会の実況見分調書では,被害者の落下地点はリフト乗車位置から約16メートルと算定されているが,この実況見分は記憶が薄れつつある時期に行われたものである。③ Cは,被害者の被害感情が強いため,被害者の落下地点までの進行距離を誇張していると考えられる。④ Cが飛び降りた地点のリフトの高さは,検証時で約3.74メートルで,本件事故時は雪面から更に約20センチメートル高く,しかも,被害者の供述によれば雪面はアイスバーンであったというのに,Cは左足にスノー が飛び降りた地点のリフトの高さは,検証時で約3.74メートルで,本件事故時は雪面から更に約20センチメートル高く,しかも,被害者の供述によれば雪面はアイスバーンであったというのに,Cは左足にスノーボードを装着したまま,進行しつつあるリフトから飛び降りたにも拘わらず,怪我をすることもなかった上,恐らく転んでいないと供述している。⑤ Cは,リフトから飛び降りた地点につき,実況見分時にはリフト乗車位置から約28.5メートル,検証時にはリフト乗車位置から約28.78メートルの地点をそれぞれ指示し,公判廷では,Cが飛び降りてからリフトが停止したと証言しているが,そうだとすれば,本件リフトの搬器の間隔は約13.8メートルであるから,次の搬器や更にその次の搬器にも乗客が乗車し,リフト停止後に宙吊りになっていた筈であるのに,こうした事実を供述していない。 しかしながら,①については,CがDあるいは被害者の兄に説明したとされる被害者の落下地点も,所詮屋内における感覚的な距離感に基づくものに過ぎないし,ましてや,本件事故時は積雪下という一般的にも距離感が取りにくい状況にあったことにも照らせば,積雪量等必ずしも同一条件下にはなかったにせよ,本件事故現場で当時の記憶を喚起しつつ実感した距離感と異なっても,直ちには不合理といえるものではない。また,実況見分時と検証時で被害者の落下地点に関する指示が約3.5メートルほど前後している点も,自ら飛び降りた地点はほぼ同じである上,積雪量により本件事故現場の状況が変化し,目印となる物も少ないという雪上での地点特定自体に付随する制約等を考慮すれば,信用性を損なわしめるような変遷とまで見るのは妥当でない。のみならず,弁護人指摘の本件事故報告書によると,リフト乗車位置からの被害者の落下地点とその落下地点からCが飛び降りた地点 制約等を考慮すれば,信用性を損なわしめるような変遷とまで見るのは妥当でない。のみならず,弁護人指摘の本件事故報告書によると,リフト乗車位置からの被害者の落下地点とその落下地点からCが飛び降りた地点はそれぞれ約8メートルと同一の距離とされており,Cの公判供述によっても,Cは被害者の兄に対し同旨を説明したとしているところ,被害者を心配して飛び降りたCとしては,被害者の落下地点のより近い地点で飛び降りた旨供述する方向に向かいがちと見られるのにも拘わらず,被害者の落下地点までは約8メートルの距離があったとしているのであって,飛び降りた地点に関し殊更虚偽を述べる理由も存しないことからすれば,実際に決して短くはない一定の距離,ひいては,リフト乗車位置と被害者の落下地点までの距離に相応する距離があったとの記憶を現に有していたがためと考えるのが自然であり,この限度では信用性を疑うまでの理由は存しない。したがって,本件事故報告書の内容は,感覚的な距離感に基づくことから,定量的にはそのままには受け取れないにしても,リフト乗車位置から被害者の落下地点までの距離とその落下地点からCが飛び降りた地点までの距離はある程度相応する距離があったとする定性的観点からは信用に値するものであって,しかも,遠方になるに従い正確な距離感が取りにくいとも考えられることにもかんがみれば,本件事故報告書でそれぞれ示された距離の約2倍ないし約1.5倍となる,Cが立会に係る実況見分で指示説明した被害者の落下地点やCが飛び降りた地点の各距離関係をむしろ裏付ける面があると見られるところである(ちなみに,Cは,公判廷においては,被害者が落下した後,1ないし2秒後に飛び降りたと供述する一方,距離は10メートル前後あったとも供述しており,秒単位の時間の感覚は額面どおりには受け取れないことなどに みに,Cは,公判廷においては,被害者が落下した後,1ないし2秒後に飛び降りたと供述する一方,距離は10メートル前後あったとも供述しており,秒単位の時間の感覚は額面どおりには受け取れないことなどにも徴し,リフトの進行速度等と矛盾するとまでは認められない。)。②については,Cは支柱との位置関係を根拠に落下地点等を指示したというのであり,実際の落下地点と大幅に異なる地点を指示するほど記憶が薄れていたとは考え難いし,③も,Cは,検証時においては,被害者との恋人関係は解消されており,被害者の落下地点等について,殊更に虚偽の供述をしなければならない事情があるとまでは認められず,④については,被害者がリフトに宙吊りになった状態から後ろ向きに落下したのに対し,Cはリフトに着席した状態からタイミングを見計らって雪上に飛び降りたというのであり,たとえCが転倒したり負傷したりしなかったとしても,不自然であるとはいえない。⑤については,Cは,被害者がリフトから落下するという緊急状況の下で,被害者の許まで駆け寄ったというのであるから,次の搬器の状況等につき明確に記憶していなかったとしても,特段怪しむに足りない。この点,乗客係のBは,公判廷において,「被害者らの次の乗客は乗車位置におり,本件搬器の次の搬器は乗車位置よりも手前で止まっていた。」旨供述し,被告人も同旨の供述をしているけれども,被告人はリフトから落下していた被害者の状況を見ていた筈であり,Bも含め,被害者が搬器から落下したために救護に向かったという状況の下で,次の乗客の状況にどれほどの意識を向けていたかについては疑問なしとしない(ちなみに,本件事故状況自体に関しては,被害者の後続のリフト利用者等,被告人ないし本件会社関係者あるいは被害者やC以外の第三者の供述調書類は,検察官のみならず,弁護人からも, いては疑問なしとしない(ちなみに,本件事故状況自体に関しては,被害者の後続のリフト利用者等,被告人ないし本件会社関係者あるいは被害者やC以外の第三者の供述調書類は,検察官のみならず,弁護人からも,取調べ請求されていない。)。また,Cの公判供述によれば,被害者は本件搬器の次の搬器がリフト乗車位置を通過して程なく雪上に落下していることになり,そのような事態が発生したなかで,被害者の2組後の乗客がリフトに乗車しようとしていたとも俄には考え難い。のみならず,被害者の後続のリフトの乗客がリフトに乗車していなかったかどうかは,被害者の落下地点と密接に関係するところ,後記のとおり,被告人やBが公判で供述する被害者の落下地点等は採用し難いところである。したがって,弁護人の指摘は,いずれもCの公判供述等の信用性を損なわしめるものとは認められない。 (2) これに対し,被告人は,公判廷において,「被害者の足が雪上から離れそうになったので停止操作をしたが,停止操作をした直後に被害者が搬器から落ち,その後に搬器が停止した。Cが飛び降りた時には搬器は停止しており,その際,高くて危ないという感じは持たなかった。被害者の落下地点は,本件事故の4日後に実施された社内事故検証時に確認して計測した地点である。」旨供述し,同検証の結果を記載した「社内事故検証記録検証記録」(以下「本件社内事故検証記録」という。)には,被害者はリフト乗車位置から約9.2メートル付近で自分で搬器から手を放した旨の記載がなされている。 しかしながら,本件会社による前記社内事故検証が実施された経緯を見るに,関係証拠によれば,本件事故当日の午後,被害者の母親から,連絡がないなどと詰問されたため,翌日,Dが概要等の説明に赴き,Cから被害者の落下地点はリフト乗車位置から五,六メートルと聞くなどし,その ,関係証拠によれば,本件事故当日の午後,被害者の母親から,連絡がないなどと詰問されたため,翌日,Dが概要等の説明に赴き,Cから被害者の落下地点はリフト乗車位置から五,六メートルと聞くなどし,その後,補償問題を話し合っているうちに,被害者側から,警察に届出をする旨の話が出たため,本件弁護人の1人に相談して助言を受け,Dが指示を出し,被害者やCを立ち会わせることなく,被告人を含めた本件会社側の人間だけで実施したものであることが認められ,こうした経緯や実施状況等からしても,本件社内事故検証記録の信用性には一定の限界があることは否定し難い。これをおくとしても,本件社内事故検証記録は,被告人の説明内容も大きな柱となっているところ,被告人は,本件リフトの性能等を熟知しているばかりでなく,本件事故時にリフトの運転操作等を担当した本人であることにもかんがみれば,本件会社のリフト索道課長であるEの公判供述にあるがごとく,被告人の供述どおりにリフトの減速や停止の各操作をしたことにより,被告人の供述どおりの位置で搬器が停止したからといって,直ちに被告人の供述が全面的に信用できるということになるものではない。現に,被告人は,公判廷とは異なり,検察官調書では,「被害者の足が雪面から離れたので停止操作をした。」旨明確に供述しており,搬器及び被害者が動いていることを考慮したとしても,重要な事項である停止操作をした位置についての供述が捜査公判で微妙な齟齬を来しているのである。さらに,当初の時点では,被害者が体勢を立て直して搬器に乗車できると思い,減速操作をしただけであったにも拘わらず,減速操作の効果が十分出た訳ではなかった段階において,しかも,被害者の足が雪面から離れる前後には,直ぐさま搬器には乗れないと感じて停止操作までしたとする点も,些か整合性に欠ける嫌いな にも拘わらず,減速操作の効果が十分出た訳ではなかった段階において,しかも,被害者の足が雪面から離れる前後には,直ぐさま搬器には乗れないと感じて停止操作までしたとする点も,些か整合性に欠ける嫌いなしとしない。そして,被害者及びCは,前記のとおり,公判廷において,被害者の足が雪面から離れるのと同時ころに,Cが被害者の左肘付近を支え,その後,Cが搬器から手を放すように申し向けたと供述しており,被告人も,捜査段階で,Cが被害者の肩付近の上衣をつかんで引っ張っていたなどと供述しているところ,被告人の供述するリフトの動きを前提とすると,Cにおいて,被害者の左肘付近をつかんだり,被害者に降りるように求める時間的余裕があったか疑問がある。加えて,被告人の供述や本件社内事故検証記録を前提にした場合,被害者の落下地点とCが飛び降りた地点との距離は約1メートルと極めて近接することになるが,本件事故報告書の記載とはもとより,Cの公判供述とも,かなりの食い違いがあり,前記のとおり,Cが自ら飛び降りた地点につき殊更虚偽を述べる理由もないことなどからすると,その食い違いを合理的に説明することは困難といわざるを得ない。これらからすれば,被告人の供述は,そのままには信用することはできず,被害者の落下地点は本件社内事故検証記録のとおりとするBの公判供述もまた信用し難い。 (3) なお,被害者は,公判廷においてはもとより,立会の実況見分時においても,落下地点等の位置関係を明確に特定する供述ないし指示説明をしたとはいい難いけれども,かなりの高速で動く搬器に押されて宙吊りとなった後に雪上に落下して入院まで要する傷害を負ったという本件事故時の状況等からすれば,やむを得ない面があって,被害者の兄に対する説明内容等に混乱ないしは不正確な点が見られるとしても,異とするには足りない。 上に落下して入院まで要する傷害を負ったという本件事故時の状況等からすれば,やむを得ない面があって,被害者の兄に対する説明内容等に混乱ないしは不正確な点が見られるとしても,異とするには足りない。 (4) 以上のとおり,被害者の落下地点については,Cの供述及び地点の指示を信用することができ,前記のような雪上での地点特定に付随する制約等からすれば,もとより厳密な地点の特定は困難であるにしても,本件リフトは,被害者の足が雪面から離れた後もなお進行し,被害者は,本件搬器が乗車位置から約16メートル進行した付近で,雪上に落下したものと認めるのが相当である。 5 被告人のリフト操作について被告人は,「被害者がリフトの進行方向に向かい後ろ向きになり搬器に押されたが,被害者が姿勢を立て直そうとしていたので,直ぐに減速操作をした。」旨供述し,被告人立会の実況見分では,本件搬器が第1支柱の滑車に差し掛かった地点で減速操作をした旨指示説明している。この点については,被害者及びCは,乗車するリフトの速度が遅くなったとは感じなかった旨供述しているばかりか,乗客係のBですら,リフトが停止するまでに減速したかどうかは気付かなかった旨供述しており,被告人がリフトの減速操作をしていなかった疑いも残らないでないものの,本件リフトは減速操作をしてから秒速1.3メートルの最小減速速度に至るまでに約5秒間を要し,単純に計算してもその間にリフトは約9メートルほど進行することになり,被害者が搬器に宙吊りになって雪上に落下するという事態にあっては,Cや被害者らが減速に気付かないこともあり得るといえ,どの地点かはさておき,被告人が減速操作をしたこと自体は必ずしも排斥し難い。 6 被告人の過失以上認定の事実を前提に,被告人の過失の有無について検討する。 (1) 前記のとおり,被害者は るといえ,どの地点かはさておき,被告人が減速操作をしたこと自体は必ずしも排斥し難い。 6 被告人の過失以上認定の事実を前提に,被告人の過失の有無について検討する。 (1) 前記のとおり,被害者は,リフト乗車位置で搬器に乗車しようとした際にバランスを崩し,搬器に両手をついた状態で搬器に押されていたと認められるところ,被告人は,リフト乗車位置の間近に設けられている運転室で乗客の状況を監視していたのであり,被告人自身も,被害者は搬器が来る直前に後ろ向きになり,その姿勢で搬器に押された旨供述していることにもかんがみれば,被告人は,被害者がリフト乗車位置付近で著しく不安定な体勢で搬器に押されているとの異常な状況を認識していたことが明らかである。 (2) 被告人は,長年にわたりリフトの運転に携わり,本件リフトの運転についても,本件事故当時は数シーズン目となり,十分な経験を持ち合わせていたところ,被害者が前記のような不安定な体勢で搬器に押されているのを認識していたのであるから,そのまま搬器を進行させた場合には,被害者が体勢を立て直して搬器に安全に着席することができずに,転倒したり搬器とともに上昇して地上に落下したりするなどの事態が生じることを十分に予見することができたといわなければならない。 ちなみに,被告人の供述を前提としても,被害者が,前記のような不安定な状態のまま押され続け,被害者の足が雪面から離れる前後ころには,停止操作をしたとされており,被告人も,少なくとも,この時点では,被害者が体勢を立て直して搬器に乗車することは期待できず,落下するなどの事態を引き起こすことを十分認識したことに帰着する。 この点につき,弁護人は,① 被害者には初心者風とか危なっかしい感じが見受けられなかったので,被告人は,被害者が初心者がするような乗り損ないをするか 引き起こすことを十分認識したことに帰着する。 この点につき,弁護人は,① 被害者には初心者風とか危なっかしい感じが見受けられなかったので,被告人は,被害者が初心者がするような乗り損ないをするかもしれないと予期することはできなかった,② 被害者は,自ら回避行為を取らず,漫然とリフトが止まるのを待ったのであり,被告人としては,被害者が体勢を立て直して乗車しようと予期したのは自然なことであると主張する。 しかしながら,①については,被害者が,たとえ,リフト乗車位置に至るまでは,初心者であるかのような状況や素振りは見受けられなかったとしても,被告人の供述によってさえ,被害者が搬器に乗る直前,通常の乗車方法とは異なり,進行方向とは逆向きになったので,変な乗り方をする(警察官調書)とか,危ない乗車方法をすると思った(検察官調書)旨自認しており,乗り損ないの危険があることを認識する契機がまさにあったといわざるを得ないし,被害者が現に体勢を崩し,後ろ向きになって搬器に押されている状態に至っては,前記のような転倒ないしは落下等の事態が発生することは十分に予見できたというべきである。②については,被害者は,かなりの高速で動いている搬器に後ろ向きに押される状態に陥っており,被告人としてもその旨明確に認識したのであって,しかも,搬器は,リフト乗車位置から約6.6メートル進行した地点で,すなわち,通常の運転速度においてはリフト乗車位置を通過してから僅か3秒弱後には,上昇する構造になっており,このような状況の下では,被害者が体勢を立て直して搬器に安全な形で確実に乗れるとは限らず,むしろ困難であると判断して然るべきであったといわなければならない。もとより,乗り損ない状態が続くとの予想外の一刻を争う緊急事態の下で,被害者において,リフトの運転の停止を期待したのも とは限らず,むしろ困難であると判断して然るべきであったといわなければならない。もとより,乗り損ない状態が続くとの予想外の一刻を争う緊急事態の下で,被害者において,リフトの運転の停止を期待したのも,乗客の立場からして無理もなく,その供述する状況にかんがみても,落下を余儀なくされるまでの間に,弁護人が主張するような退避行動を取ることがかなり困難であったことも十分納得できる。 (3) そして,本件事故当時の乗車状況を再現するとして上り搬器56台に負荷を掛けるなどして実施された検証によれば,被告人が減速操作をしたとするリフト乗車位置から約2.6メートルの地点に搬器が差し掛かった時点で,停止操作をした場合,リフト乗車位置から搬器の停止位置までの距離は約5.68メートルないし約5.81メートルであるから,制動距離は約3.08メートルないし約3.21メートルということになる。ちなみに,実況見分調書によれば,本件リフトに搬器5台を取り付けて秒速約2.3メートルで運転し,搬器が乗車位置に来た時点で停止操作をした場合の制動距離は,負荷ありの場合は約5.05メートルないし約5.12メートル,負荷なしの場合は約5.23メートルないし約5.37メートルとされているが,これは搬器5台での実験であることなどから,検証時の制動距離の方が,本件事故当時の状況により近いと認められ,この理は,前記Dの警察官調書添付の総合試験記録表の結果等との関係においても同様である。 本件リフトの搬器は,リフト乗車位置から約6.6メートル進行した地点で上昇する構造になっており,本件搬器がリフト乗車位置からおよそ3.4メートルの位置に進行するまでに停止操作をしていれば,搬器が上昇を始める前にリフトは停止していたことになる。ちなみに,被告人は,被害者の足が雪面から離れそうになった時に フト乗車位置からおよそ3.4メートルの位置に進行するまでに停止操作をしていれば,搬器が上昇を始める前にリフトは停止していたことになる。ちなみに,被告人は,被害者の足が雪面から離れそうになった時に非常停止操作をしたと主張し,検証時に,その位置としてリフト乗車位置から約8メートルの地点を指示しているところ,これを前提とすると,本件搬器がリフト乗車位置からおよそ4.8メートルの位置に進行するまでに停止操作をしていれば,被害者の足が雪面から離れる前にリフトは停止していたことになり,被害者が搬器に宙吊りになる事態を回避することができたことになる。 被告人は,乗客の状況が良く把握できる運転室でリフトの運転に当たっており,リフト乗車位置付近で被害者が後ろ向きに搬器に押される状態になったことを認識していたのであり,また,本件搬器がリフト乗車位置から約2.6メートル進行した地点で減速操作をしたとする被告人の供述からしても,本件搬器がリフト乗車位置からおよそ3.4メートルの位置に進行するまでに停止操作をすることは十分に可能であったというべきである。 (4) 以上によれば,被告人には,被害者が体勢を崩して後ろ向きに搬器に押される状態になったのを認めた時点で,直ちにリフトの運転の停止措置を講じるべき業務上の注意義務があり,被告人は,同措置を講じることにより本件事故を容易に回避できたにも拘わらず,速やかにリフトの運転の停止措置を講じなかったのであるから,本件事故について,被告人に過失があったことは明らかといわなければならない。 7 これに対し,弁護人は,以下の諸点を指摘するなどし,被告人に過失はないと主張する。 (1) まず,弁護人は,被告人は,被害者が搬器に押された状況を見て,減速操作をすれば,被害者が体勢を立て直して搬器に乗れると判断し,直ぐに本件リフトの 摘するなどし,被告人に過失はないと主張する。 (1) まず,弁護人は,被告人は,被害者が搬器に押された状況を見て,減速操作をすれば,被害者が体勢を立て直して搬器に乗れると判断し,直ぐに本件リフトの減速操作をしたのであるから,適切な事故回避措置を講じたものであるとし,その理由につき,被害者のスノーボードが進行方向を向いている状態があり,被害者の腰の高さは搬器の座面より高く,スノーボードの位置は搬器の下に入ることもなかったのであるから,減速すれば被害者が乗り直せるとの判断には相当な理由があったし,また,乗客が上中級者である場合は,仮に乗り損ないが見受けられたとしても,初級者とは異なり,体勢を立て直して乗り直したり,搬器から離れるなどして,自ら危険を回避し得る技術や判断力を持っているため,リフトの運転係や乗客誘導係の対応も,初級者相手とは同じではないと主張する。そして,被告人も,捜査段階で,過去,本件事故時における被害者と同様の乗車方法を取った場合においても,どの時点でのことかは明確ではないものの,減速をすれば,搬器に乗車できていたし,本件事故時も,途中の段階では,Cが被害者の左肩の上衣をつかんで引っ張っていたこともあり,被害者が上手く搬器に乗車できると思ったなどと供述している。 しかしながら,そもそも,前記のとおり,本件リフトは,減速操作をしてから最小減速速度に達するには,約5秒間を要するばかりでなく,最小減速速度であってもそれなりの速度といえるし,単純に計算してもリフト乗車位置から搬器の上昇地点までの間をかなり超える距離を搬器が進行してしまい,たとえ,減速操作後の一定時点において,停止操作をしたとしても,既に相応の距離は進行しており,当然のことながら,直ぐに搬器が停止できる訳ではなく,完全停止までには更なる距離を要する上,減速操作 い,たとえ,減速操作後の一定時点において,停止操作をしたとしても,既に相応の距離は進行しており,当然のことながら,直ぐに搬器が停止できる訳ではなく,完全停止までには更なる距離を要する上,減速操作を前提にしない停止操作ですら,一定程度の制動距離は免れず,本件リフトの設置会社では,リフト乗車位置から搬器の上昇地点までの距離にかなり接近する制動距離を見込んでいて,実際の総合試験でも類似の結果が出ている程で,他方,いずれの場合においても,乗り損なった乗客が体勢を立て直して搬器に乗ることがより困難となると想定できる搬器の上昇地点前後までに搬器が進行する時間は,所詮秒単位のごく短時間に止まることも間違いなく,こうした本件リフトの性能等にかんがみれば,事故回避のためには,減速操作または減速後の停止操作では時期を失し,不十分な措置に終わる可能性が大きく,原則的に停止措置を講ずる必要があることにならざるを得ないことが明らかである。また,乗客が,上中級者といえども,片足にスノーボードを装着した状態のまま,滑り易い雪上において,体勢を崩した後,かなりの高速で進行する搬器に後ろ向きに押されるなかで,搬器が上昇する前後ころまでに,体勢を立て直して搬器に安全な形で確実に乗り直すことは,たとえ,途中の時点でリフトが減速運転されたとしても,当該状況自体や前記のとおりの秒単位という時間的制約等にかんがみ,かなり困難であることは,一般的にも十分予想できるところである。このことは,検証において,被告人の主張どおりに被害者の体勢を再現した状況によっても実証されており,被害者自身搬器に乗り直すことができる状況にはなかった旨供述しているのも頷けるものがある。ちなみに,本件事故時において,被害者のスノーボードが進行方向と逆に向いたのは,リフト乗車位置からさほど離れていない地点と 器に乗り直すことができる状況にはなかった旨供述しているのも頷けるものがある。ちなみに,本件事故時において,被害者のスノーボードが進行方向と逆に向いたのは,リフト乗車位置からさほど離れていない地点と認められ,本件リフトの運転速度が秒速約2.3メートルとかなり高速であることにも照らせば,スノーボードが進行方向を向いている状況はごく短時間に止まると考えられる。そして,被害者において,弁護人が主張する如くの退避行動を取ることがかなり困難な状況にあったことも,前記のとおりである。なお,被告人の前記供述にあるという過去の事例なるものは,回数のみならず,本件事故時における被害者と同様の状況下にあったか否か明らかでなく,過去の他の成功事例が,同一人でない被害者の場合に必ず当て嵌まるものでないことも多言を要せず,ましてや,隣のCが被害者の左肩の上衣をつかんで引っ張ったとしても,乗り直しするために十分でないことも見易い道理である。結局,被告人において,乗客に危険のおそれがあると認めた場合の原則的対応とされていたリフトの運転の停止措置を講じることが容易かつ可能であり,しかも,万全な対応であるにも拘わらず,こうした措置を講じなかったことに関する説得力ある説明が,被告人からは格別なされていないことにも照らすと,減速操作さえすれば,被害者が体勢を立て直して乗り直せるとした判断は,当時の状況下においても不適切なものであって,弁護人が主張するような相当の理由があるとは到底認められない。 (2) また,弁護人は,本件リフトの運転の停止措置を講じた場合には,他の乗客の転落や脱索の危険もあることから,いきなり,停止操作をするよりも,まずは,減速操作または減速後停止操作をするのが,原則的に相当であるかの主張をしている。 しかしながら,本件会社の索道部長兼特殊索道技術管理者 の危険もあることから,いきなり,停止操作をするよりも,まずは,減速操作または減速後停止操作をするのが,原則的に相当であるかの主張をしている。 しかしながら,本件会社の索道部長兼特殊索道技術管理者で,本件リフトの責任者であるDですら,微妙な判断が求められるとしつつ,リフト担当係員に対しては,リフトは動いている上,停止操作をしても,停止までには時間と距離を要することから,基本は,危険と判断した場合には,停止操作をするよう指導しており,ただ,余裕がある場合には,他の乗客の転落の危険にも配慮し,減速操作後に停止操作をするよう指示を出していたが,当該状況等にもよるので,細かな場合分けをしたマニュアル作りはできない旨供述ないし証言しているところ,これは,前記のとおりの減速操作をした場合の減速状況やその後の停止操作をした場合の停止距離及び即時停止操作をした場合の制動距離並びにリフトの上昇開始の位置等によっても,十分首肯できるものであって,減速操作または減速後停止操作で万全との余程確実な根拠がない場合は,停止措置を講ずべきは,乗客の安全確保の観点から見て当然であり,弁護人主張のような対応は,本件会社においても原則的対応とされているとまでは認め難く,すべきとも考えられない。なるほど,リフト担当係員としては,まさに搬器に乗車しようとする乗客だけでなく,弁護人が指摘するように,他の搬器に現に乗車している乗客や搬器から降車しようとしている乗客等の安全にも配慮してリフトを運転すべきであり,減速操作または減速後の停止操作により,リフトに乗車しようとする者が安全に搬器に乗車できることが確実の場合に限っては,他の乗客等の安全に及ぼす影響の少ない方法として減速操作または減速後の停止操作をする合理性がない訳ではない。けれども,本件においては,搬器が既に乗車位置を通過 乗車できることが確実の場合に限っては,他の乗客等の安全に及ぼす影響の少ない方法として減速操作または減速後の停止操作をする合理性がない訳ではない。けれども,本件においては,搬器が既に乗車位置を通過し,乗客である被害者が現に体勢を崩して進行方向と逆向きの著しく不安定な状態でかなりの高速で動く搬器に押されており,減速操作または減速後の停止操作をする方法によっては,被害者が体勢を立て直し安全な形で確実に搬器に乗車できる状況にはなかったと判断すべきであったことは前記のとおりである。したがって,他の乗客の抽象的な危険への配慮よりは,事故発生の具体的危険が現に起きている被害者への対応を優先させて,直ちにリフトの運転の停止措置を講ずることが,眼前の乗客である被害者の具体的危険を回避するために,最も有効で,必要かつやむを得ない措置というべきであり,このことは,本件とは事例を同じくする訳ではないにせよ,1日の間に減速操作よりも停止操作をするのが多いとの被告人が捜査段階で供述する実情からも支持される面がある。 (3) さらに,弁護人は,スノーボードは,危険なスポーツで事故が付き物であるから,ルールを遵守して自己責任で行われるべきで,リフトの利用に当たっても同様であるところ,被害者が搬器に乗り損なったのは,被害者本人の不注意によるものにほかならず,本件事故の原因は,被害者が搬器から離れようとせずに搬器にしがみついていたことにあるなどとして,被告人に過失はないと主張する。 なるほど,本件事故は,被害者がリフトに乗車する際に体勢を崩したことに端を発することは間違いなく,関係証拠によれば,本件リフト付近において,利用者に対し,進行方向に向かって搬器に乗車するよう案内されていることは認められるけれども,被告人の捜査段階の供述によっても,スノーボーダーの場合は,両手 ,関係証拠によれば,本件リフト付近において,利用者に対し,進行方向に向かって搬器に乗車するよう案内されていることは認められるけれども,被告人の捜査段階の供述によっても,スノーボーダーの場合は,両手が空いている関係上,進行方向に向かって立っていた場合,ある程度の速度で進行して来る搬器に,膝の後部周辺が当たることを避けるため,進行方向と逆向きに立って,搬器に乗車する者があるとしており,しかも,これらの者に対し,リフトの誘導係や運転係が必ず注意していたとの形跡は窺われず,本件事故時における被害者のリフトの乗車の方法が,一般的見地からはもとより,被害者の公判供述にある同種事例の実情からしても,事故必至の不合理で常識外れのものとは認め難く,もとより,被害者が意図的に体勢を崩した訳でもない。また,リフトを利用する乗客としては,一旦乗り損なったとしても何とか乗ろうと努力するのはやむを得ない対応であるところ,被害者が体勢を崩して搬器に押される状態に至っては,被害者にとって予想外の緊急事態であって,被害者の体勢を含む当該状況や厳しい時間的制約下に置かれていたことなどにもかんがみれば,搬器から離れるなどの退避行動を取ることはかなり困難な状況にあったことも前記のとおりであって,被告人自身,被害者がそのような退避行動を取るものとして,減速操作あるいはこれに次ぐ停止操作を取ったと供述している訳ではない。もともと,スノーボーダーの滑走中の衝突事故等の事案とは異なり,リフトへの乗車の場合,かなり高速で進行するリフト自体に,弁護人が主張するところの自己責任のみによっては,到底避けられない危険を孕んでいることは自明であり,リフト担当係員等においては,乗客の落ち度の如何に拘わらず,危険のおそれがある時は,リフトの運転を停止するとの適切な事故回避措置を講ずべきは当然の責 底避けられない危険を孕んでいることは自明であり,リフト担当係員等においては,乗客の落ち度の如何に拘わらず,危険のおそれがある時は,リフトの運転を停止するとの適切な事故回避措置を講ずべきは当然の責務にほかならず,現に,前記のとおり,本件会社も,同様の安全対策等を定め,担当係員等に周知していたところである。そして,リフトを利用する乗客が,危険な状況に陥る事態としては,Dや被告人らが主として念頭に置いているかのように,何もリフト乗車位置に至るまでの間の転倒やバランスを失うなどの場合に限定されるものではなく,初級者かどうかを問わず,かなりの高速で動いている搬器にまさに乗車しようとするに当たり,体勢を崩すなどして乗り損なう場合等も十分想定されるのであって,たとえ,それが,乗客の不注意によるものだとしても,被害者のように,現に体勢を崩して不安定な状態となり,搬器に乗り直せる確実な保証がない以上,リフト担当係員としては,前記のとおりの適切な事故回避措置を講ずべき業務上の注意義務があるのは当然というべく,もとより,そうした事故回避措置を講じることが可能かつ容易なことも明らかであって,実際,被告人も,不適切な措置に止まったにせよ,取り敢えずは減速操作は行っているのである。したがって,被害者に落ち度があることは間違いないにしても,だからといって,本件事故の回避措置を講じることが容易かつ可能な立場にあったにも拘わらず,これを怠った被告人の過失が否定される謂われはない(なお,弁護人が指摘する裁判例は,事案を異にし,本件には適切ではない。)。 (4) そのほか,弁護人が縷々主張する点を検討しても,被告人の過失責任を左右するものとは認められない。 8 以上の次第で,被告人は,本件事故について,過失責任を負うというべきであるから,弁護人の主張は採用しない。 (法令 が縷々主張する点を検討しても,被告人の過失責任を左右するものとは認められない。 8 以上の次第で,被告人は,本件事故について,過失責任を負うというべきであるから,弁護人の主張は採用しない。 (法令の適用)被告人の判示所為は平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段に該当するところ,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金30万円に処し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,スキー場のリフトの運転及びリフト乗客の安全確保の業務に従事していた被告人が,被害者がリフトの搬器に正常な姿勢で着席できずに後ろ向きの姿勢で搬器に押される状態を認めたのに,直ちにリフトの運転を停止すべき業務上の注意義務を怠ってリフトを進行させた結果,被害者をリフトの搬器に宙吊りの状態にさせた上,雪上に落下するのを余儀なくさせて,傷害を負わせたという業務上過失傷害の事案である。 被告人は,長年にわたるリフト運転の経験を有し,リフトの性能や事故防止に関する知識も有していたのに,事故回避のためにリフトの運転を停止させるという基本的な注意義務を怠ったものであり,過失は小さくない。被害者は,リフトの搬器に宙吊りの状態となった上,雪上に落下転倒したことにより,軽快まで193日間を要する腰椎圧迫骨折等の傷害を負わされ,入院までしており,負傷の程度も重く,精神的苦痛も相当のものがあったと察せられ,被告人の応訴態度等もあって,被害感情も良くない。被告人は,自己には判断ミスや不注意はなく,事故原因は被害者にこそあるとの供述に終始しており,真摯な反省の情は見られない。こ ものがあったと察せられ,被告人の応訴態度等もあって,被害感情も良くない。被告人は,自己には判断ミスや不注意はなく,事故原因は被害者にこそあるとの供述に終始しており,真摯な反省の情は見られない。これらによれば,被告人の刑事責任を軽視することはできない。 しかしながら,他方,本件事故は,被害者がリフトの搬器に乗車する際に体勢を崩したことに端を発するものであり,被害者の乗車方法にも問題があったといえること,適切な措置であったとはいえないものの,被告人が減速操作をしたこと自体は否定し難いこと,被害者が雪上に落下した後,他の係員が被害者の救護に当たっていること,被告人の雇主であったスキー場の経営会社が,事故後,被害者に対し,入院費用等を支払う旨申し出ているように窺われること,被告人には前科前歴がないことなど,被告人に有利に斟酌することのできる事情も認められる。 そこで,以上の諸事情を総合勘案し,被告人に対しては,主文の刑を科するのが相当であると判断した。 (求刑罰金40万円)平成16年6月7日宇都宮地方裁判所刑事部裁判長裁判官飯渕進裁判官有賀貞博裁判官渡辺一昭
▼ クリックして全文を表示