平成17(行ウ)35 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年1月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文38,437 文字)

平成18年1月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(行ウ)第35号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日平成17年11月16日判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求被告は,Aに対し,1260万円の金員を請求せよ。 第2 事案の概要本件は,一宮市が,B株式会社(以下「調査会社」という。)との間で一宮市内で発生した浸水被害の原因調査等を委託する旨の契約を締結し,その委託代金として1260万円を支払ったことについて,同市の住民である原告が,上記契約は地方自治法2条14項,地方財政法(以下「地財法」という。)4条1項に違反した違法なものであり,同契約に基づく委託代金の支払も違法であるなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づいて,被告に対し,同契約の締結等をした市長である個人に委託代金相当額の損害賠償を請求するよう求めた住民訴訟である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠等によって容易に認定できる事実)(1) 当事者原告は一宮市の住民である。 被告は一宮市の市長であり,Aはその職にある者である。 (2) 浸水被害の発生平成16年10月20日から同月21日未明にかけて(以下,同月20日と同月21日については,単に「20日」,「21日」とも表記する。),台風23号(以下「本件台風」という。)が,大阪府泉佐野市付近に再上陸後,近畿・東海・関東甲信地方を横断したが,その際,愛知県一宮市浅井町河田地区所在の桜の里団地において,床上浸水19棟,床下浸水37棟の被害が生じた(以下,桜の里団地周辺を含めた浸水被害を「本件浸水被 近畿・東海・関東甲信地方を横断したが,その際,愛知県一宮市浅井町河田地区所在の桜の里団地において,床上浸水19棟,床下浸水37棟の被害が生じた(以下,桜の里団地周辺を含めた浸水被害を「本件浸水被害」という。甲3,乙4,14の5,15)。 (3) 浸水被害地付近の排水管理状況一宮市は,愛知県北西部に位置しており,同市の北側を,岐阜県との県境に沿って,木曽川及びその支流である南派川が,東から西へと流れている。桜の里団地は,南派川の南側に広がる同市浅井町河田地区内にあって,そのすぐ北側に南派川の新堤が,南側に旧堤がそれぞれ東西方向に設けられている。そして,桜の里団地の中心部から北西方向約500メートルに位置する南派川の新堤に大野排水樋管樋門(以下「大野ゲート」という。)及び大江排水樋管樋門(以下「大江ゲート」という。)が並んで設置されている(別紙図面参照)。 そのうち,大野ゲートは,新堤,旧堤及び大野排水樋管によって囲まれた地域(大野,河田,黒岩の各地区。以下「本件地域」という。)に降った雨を東西方向に走る大野排水路に集め,これを南北方向に走る大野排水樋管を通じて,木曽川(南派川)に流出(自然流下)するとともに,同川の洪水が大野排水路へ逆流することを防止するためのゲートであり,大江ゲートは,日光川流域の湛水を暗渠形式の大江排水樋管を通じてポンプで木曽川に放流するためのゲートである。これらの開閉は,南方約3.2キロメートルに位置する大江排水機場からの遠隔操作によって行うことができる。(乙4,10及び11の各3)。 (4) 大江ゲート及び大野ゲートの管理態勢一宮市は,C株式会社(以下「C会社」という。)との間で,大江排水機場の運転管理業務,大江ゲート操作管理業務及び大野ゲート操作管理業務を委託する旨の各契約を締結し,次のとおり,大江排水機場の管 態勢一宮市は,C株式会社(以下「C会社」という。)との間で,大江排水機場の運転管理業務,大江ゲート操作管理業務及び大野ゲート操作管理業務を委託する旨の各契約を締結し,次のとおり,大江排水機場の管理規程及び大野ゲート操作要領を定めている。これによれば,南派川の水位(外水位)が一定の高さまで上昇した場合には,河川水の逆流を防止するために,大江排水機場からの遠隔操作によって,ゲートを閉じることとされている(乙10及び11の各1ないし3,12の1・2)。 アたん水防除事業大江地区大江排水機操作管理規程(以下「大江ゲート管理規程」という。乙10の3)の抜粋第2章機場等の操作方法等(洪水時における操作の方法)第6条機場遊水池の量水標において測定した水位(以下「内水位」という。)が,TP(注;東京湾平均海面を指し,標高と同様の基準で河川の水位などを表示するものである。)10.90m以上の時を洪水時といい,次の各号の定めるところにより,機場等を操作するものとする。 (1) 内水位が,TP10.90m未満の間においては,1号ゲートは全閉しておくものとする。 (2) 内水位が,TP10.90mに達し,更に上昇のおそれのある場合は,1号ゲートを全開した後排水機を始動するものとする。 (3) 排水機運転中に,ひ管量水標において,測定した南派川の水位(以下「外水位」という。)が,TP15.50m又は木曽川成戸量水標において測定した水位(以下「成戸水位」という。)が,5.80mに達したときは,河川管理者に排水機の運転状況を報告するものとする。 (4) 排水機運転中に,外水位が,TP17.50m又は,成戸水位が,6.60mに達したときは運転を停止し,1号ゲートを全閉するものとする。 (5) 内水位が,TP10.90m未満に低下した場合は,排水機の運転を 機運転中に,外水位が,TP17.50m又は,成戸水位が,6.60mに達したときは運転を停止し,1号ゲートを全閉するものとする。 (5) 内水位が,TP10.90m未満に低下した場合は,排水機の運転を停止し,1号ゲートを全閉するものとする。 (以下略)第4章雑則(日報等)第13条管理者は,機場等を操作(点検及び整備時を含む)したときは,運転開始及び終了日時,燃料消費量,燃料補給量,機械器具の異常及び修理個所等を記載し,これを保存するものとする。 (以下略)イ大野排水樋管操作要領(以下「大野ゲート操作要領」という。乙11の3)の抜粋 2 洪水時に於ける操作の方法この排水樋管は常時量水標に於いて測定した南派川の外水位TP13.00m未満に於いては大野排水路の排水をするためゲートを解放しておき極力自然排水をする。 南派川の量水標水位がTP13.00m以上の時を洪水時といい,その後も増水する恐れがある時は,樋門操作に必要な機械器具等の点検および整備を行い南派川から樋管へ逆流が始まった時(計画洪水敷高TP13.87m)は,全閉する。 ゲートを全閉している場合に於いて排水路の水位が外水位より高くなった時は,これを速やかに全開し,排除する。 (中略) 4 操作に関する記録ゲートを操作した時は,その都度次に掲げる事項を記録しておくものとする。 (1) 操作の開始および終了の年月日ならびに時刻(2) 気象および水象の状況(3) 操作したゲートの名称(4) 操作の際に行った通知および警告の状況(以下略)(5) 本件浸水被害の調査等委託契約締結一宮市の助役Dは,平成16年11月2日,一宮市が調査会社に対して,1260万円で,浅井町大野地内外浸水原因調査等業務 よび警告の状況(以下略)(5) 本件浸水被害の調査等委託契約締結一宮市の助役Dは,平成16年11月2日,一宮市が調査会社に対して,1260万円で,浅井町大野地内外浸水原因調査等業務を委託することについて決裁した(予算の編成及び執行に関する規則28条,同規則別表第1。乙33の1)。 その上で,被告は,同月4日,調査会社との間で,同社に本件浸水被害の原因調査等の業務を委託する旨の契約を,履行期間平成16年11月5日から平成17年3月18日(後に,履行期間は平成16年11月5日から平成17年3月30日に変更されている。),業務委託代金1260万円の約定で締結した(以下「本件契約」という。乙24,25の1・2,27の2,33の1)。 (6) 委託料の支出調査会社は,平成17年3月,本件契約に基づいて実施した調査の結果を「浅井町大野地内外浸水原因調査等業務委託報告書」と題する報告書(以下「本件報告書」という。乙4)に取りまとめ,一宮市に提出した。 一宮市の検査員は,同月31日,報告書等の成果品の完成検査を行った結果,設計書及び仕様書のとおりに施行されたことを確認した。これを受けて,建設部長は,同年4月7日,上記委託代金の支出命令を発出し(一宮市専決規程10条,同規程別表第3。乙33の3。以下「本件支出命令」という。),同月15日,一宮市収入役Eにより,同代金が調査会社に支払われた(以下「本件支出」という。乙33の2・3)。 (7) 監査請求とその結果原告は,平成17年5月30日,一宮市監査委員に対して,本件契約は不要なものであり,本件支出も違法であるなどと主張して,委託代金相当額を一宮市に弁済するよう求める住民監査請求を行ったが,同委員は,同年7月22日付けで,同請求を棄却し,そのころ原告に通知した(甲1,2)。 原告は,同 件支出も違法であるなどと主張して,委託代金相当額を一宮市に弁済するよう求める住民監査請求を行ったが,同委員は,同年7月22日付けで,同請求を棄却し,そのころ原告に通知した(甲1,2)。 原告は,同月25日,上記監査結果が不服であるとして,当裁判所に対し,本訴を提起した。 2 本件の争点本件契約の締結及びこれを決定した行為並びに本件支出命令及び本件支出は,地方自治法2条14項,地財法4条1項に反するか。具体的には,(1) 本件浸水被害は大野ゲートの誤操作による南派川からの逆流に起因することが明らかであり,そもそも原因調査等を委託する必要性がなかったか。 (2) 本件報告書は,調査内容がずさんで役に立たないものであり,委託代金を支払う必要のないものであるか。 3 当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(原因調査等を委託する必要性の有無)について(原告)地方自治法2条14項は,「地方公共団体は,その事務を処理するに当たっては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と定め,地財法4条1項は,「地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない。」と規定している。 しかるに,本件浸水被害の発生が,大野ゲートの操作の誤りによって河川水の逆流が生じたことに起因するものであることは,以下の事実に照らして明らかであるにもかかわらず,一宮市助役は本件浸水被害の原因調査を調査会社に委託することを決定し,被告は本件契約を締結しているが,これらは,いずれも必要性が認められず,地方自治法2条14項,地財法4条1項に反している。 アグレーチング(穴の開いた溝蓋)からの噴出本件浸水被害の原因については,その直後から,浸水被害発生時に排水路のグレーチングから水が噴 められず,地方自治法2条14項,地財法4条1項に反している。 アグレーチング(穴の開いた溝蓋)からの噴出本件浸水被害の原因については,その直後から,浸水被害発生時に排水路のグレーチングから水が噴出していたという複数住民の目撃証言があり,南派川からの河川水の逆流が原因ではないかという見方があった。 その目撃証言によれば,「桜の里団地南東のグレーチング(TP15.14メートル)から50センチメートルくらい噴き上げていた」というのであるから,目測による誤差を最大限考慮して噴き上げた高さを30センチメートルとすると,噴水の高さは少なくともTP15.4メートルとなる。 南派川の水位は,浸水発生時である21日0時30分には,少なくともTP15.61メートルであり,その後TP16.58メートルまで達しているから,水の噴出が南派川の逆流によって生じたと考えるのは理に適っている。 これに対して,TP14.88メートルである桜の園付近で浸出した水が,TP15.4メートルに達する水の噴出の原因となることは物理的にあり得ない。実際,20日24時時点の降雨流出水(2万5000立方メートル)から,光明寺方向への流出水量3700立方メートル及び排水管容量6300立方メートルを控除した1万5000立方メートルがAグランド,Bグランド及び桜の園に均等に滞留すると,水位はTP15.02メートルとなり,この時点で桜の里団地の一部に2センチメートル以下の浸水があったと考えられるところ,床上浸水の報告があった21日2時30分までの間に,Aグランド,桜の園,桜の里団地は一衣帯水の状態となり,同じ速さで水位が上昇したと考えられるから,地下から湧出した水が桜の里団地のグレーチングから噴出したことはあり得ない。 イ大野ゲートが閉門されていなかったこと(ア) 20日及び21日付け各大野 り,同じ速さで水位が上昇したと考えられるから,地下から湧出した水が桜の里団地のグレーチングから噴出したことはあり得ない。 イ大野ゲートが閉門されていなかったこと(ア) 20日及び21日付け各大野排水樋管樋門点検作業日報(以下「本件各日報」という。)がねつ造であること本件各日報によれば,20日12時30分にゲートを閉め,21日2時30分に再びゲートを閉めたことになっているが,閉めたゲートを再び閉めることはできないから,その間に大野ゲートを開けたはずである。そうすると,本件各日報は,ねつ造されたものであると考えられる(なお,2回目のゲートを閉めた記載が誤りである可能性もあるが,脱落はあり得ても,事実にないことを誤って記載することは普通ではあり得ない。)。 この点について,被告は,本件各日報には大野ゲートと大江ゲートの両方のゲート操作を記載する慣例になっていた旨主張するが,①両方のゲート操作を混同して記入すれば,当該欄の様式では両者を区別できないこと,②大野ゲートの点検作業日報のほかに大江排水機場点検作業日報があるはずだから,大江ゲートの操作を本件各日報に記載する必要がないこと,③大江ゲートはポンプ始動時に開放し,停止時に閉門されることになっていたから,本件各日報に大江ゲートの開閉状況を記載する必要がないこと,④平成16年4月1日から同年10月19日までの大野排水樋管樋門点検作業日報のうち当該欄に何らかの記載のあった4日分についてもゲート操作の記事は皆無であること,以上からすれば,被告主張の慣例は存在せず,本件各日報は,本件浸水被害後にねつ造されたものである。 (イ) 大野ゲート操作時点での原記録がないこと本件各日報は,事後に作成されているところ,その記載等の正確性を検証するためには,操作時点における原記録を確認する必要がある。そこで れたものである。 (イ) 大野ゲート操作時点での原記録がないこと本件各日報は,事後に作成されているところ,その記載等の正確性を検証するためには,操作時点における原記録を確認する必要がある。そこで,原告は,一宮市に対し,本件各日報の元となる操作時点での原記録の開示を求めたが,一宮市は,そのような記録はないと回答している。そうすると,ゲート操作に誤りがなかったとの被告の主張は,これを最終的に証明すべきゲート操作の原記録が存在しないことから,信用すべき根拠を欠くというべきである。 (ウ) 被告提出の陳述書を根拠にできないこと複数の陳述者が一団となって陳述するというようなことは,法も想定していない常識外のことであって,被告提出の陳述書は証拠価値を欠いている。 ウ地下水湧出説には合理的な根拠がないこと(ア) 被告は,浸水した水は河川水とは異なり比較的きれいであったと主張するが,大野ゲートが開放されて逆流が生ずるまでに排水樋管や排水函渠内等には降雨流出水が滞留していたのであるから,比較的きれいであったと感じたとしても,逆流を否定する根拠とはならないし,濁った水でも,水面が静止している以上,空は映るから,空が映った写真があったとしても水が澄んでいたとは限らない。 (イ) 被告が湧出跡とするものは,樹木周辺に集中していて,グランドにはないから,モグラの穴にすぎない。 (ウ) 逆流して浸水した河川水は,河川敷の雑木林やグレーチングのスリットで浮遊物をこし取られたもので,排水後に残留物がなかったとしても,地下水湧出説の根拠とならない。 (エ) 本件報告書において,最も低地にある一箇所だけを水噴出グレーチングとしたのは,ねつ造であり,これに基づく地下水湧出説は,虚構である。 エ一宮市建設部長の発言一宮市議会において,建設部長は,「一応,操作要領におき いて,最も低地にある一箇所だけを水噴出グレーチングとしたのは,ねつ造であり,これに基づく地下水湧出説は,虚構である。 エ一宮市建設部長の発言一宮市議会において,建設部長は,「一応,操作要領におきましては,ゲートの閉じるタイミングといいますか,そういう水位が決まっておりまして,南派川の外水位が13.87メートルというのが要領で定まっています。今回は,堤内地側の大江排水機場の水位を見ながら操作いたしましたものですから,そういう点で齟齬があったということでございます。」と答えており,ゲート操作時において南派川の水位を確認しなかったことを認めている。 (被告)原告の主張は争う。 ア本件浸水被害の原因調査の必要性本件台風に備えて,一宮市は,消防本部内に災害対策本部を設置し,一宮市各部の職員を配置していたところ,本件台風による降雨は20日20時過ぎにおおむね終息したが,21日0時30分,桜の里団地の住民から床下浸水の通報が入り,同日2時30分,床上浸水の通報が入った。当時,南派川の水位は上昇していたことから,一宮市は,本件浸水被害の要因が南派川の水位上昇による可能性が高いと判断した。 そこで,同年10月22日,①C会社の操作従業員3名から,ゲートの操作について事情聴取したところ,20日12時30分から21日16時までは,大野ゲートを全閉していたとの供述が得られたこと,②大野ゲートが確実に閉門するか否かの動作確認を行ったところ,正常であったこと,③当時現場で排水作業等に当たっていた関係者から,浸水時の水は河川水とは違って比較的きれいだったという報告を受けたこと,これらから,南派川の河川水の逆流の可能性は低くなったと判断した。 しかしながら,逆流の可能性が皆無になったわけでもなく,本件浸水被害の原因がいかなる要因によるものか不明であった う報告を受けたこと,これらから,南派川の河川水の逆流の可能性は低くなったと判断した。 しかしながら,逆流の可能性が皆無になったわけでもなく,本件浸水被害の原因がいかなる要因によるものか不明であった。そのため,一宮市は,本件浸水被害の原因を究明し,今後の域内の浸水被害の再発を防止するために,浸水の要因として考えられる各種の要因の検討を行うべく,地質調査,自然災害のリスクの調査,解析,診断などを専門とし,経験豊富な専門業者に調査を委託する必要があり,また,浸水原因の調査は早急にしないと,現場の浸水跡が消滅する可能性があるので,専門業者に早急に調査を委託する必要があると判断したのであり,本件契約締結の必要性があることは明らかである。 イ原告の主張に対する反論この点について原告は,(ア)グレーチングからの噴出の原因が河川水の逆流であること,(イ)大野ゲートの誤操作が明らかであり,閉門されていなかったこと,(ウ)地下水湧出説には合理的な根拠がないこと,(エ)市議会における建設部長の発言などから,大野ゲートの誤操作が本件浸水被害の原因であることが明らかである旨主張する。しかしながら,以下のとおり,いずれも誤っている。 (ア) グレーチングからの噴出グレーチングからの噴出によって,本件浸水被害の原因が河川水の逆流であると決めつけることはできない。すなわち,原告の主張する数値は,単に平均地盤での比較にすぎない。 実際には,本件報告書のとおり,Aグランド及び桜の園の地下から浸水した地下水は,公園内の側溝,集水桝から南の排水路に流れ込むが,その先の大野ゲートが閉門して行き場を失った水により水路内の水位は上昇し,TP14.71メートル以上の高さになるとグレーチングからあふれ出すことになる。本件浸水被害においては,桜の園及び排水路のマンホール部分など トが閉門して行き場を失った水により水路内の水位は上昇し,TP14.71メートル以上の高さになるとグレーチングからあふれ出すことになる。本件浸水被害においては,桜の園及び排水路のマンホール部分などの浸水跡から確認した浸水位がTP15.47メートルであったことから,浸水時にTP14.71メートルのグレーチングから水があふれたのは,地下水の浸出水が原因である。 (イ) 大野ゲートの誤操作はなく,閉門されていたことC会社は,大野ゲートを,20日12時30分に全閉し,21日16時に50センチメートル開けるまでは,ゲートを閉じたままであった。このことは,本件各日報,確認書(乙21の1),本件報告書からも明らかである。 すなわち,本件各日報の表題は大野ゲートの点検作業日報ではあるが,大江ゲートと大野ゲートが並んで設けられているため,両者のゲートの開閉が記載されているところ,これによると,大野ゲートは,20日12時30分に閉められた後(自然流下ゲート閉),21日16時に開門される(自然流下ゲート50センチメートル開)まで連続して閉門されている。 この点について,原告は,ゲート操作時点における原記録がないことを理由に,本件各日報の記載の正確性を検証できない旨主張するが,C会社は,本件各日報及び確認書を作成すると,実際の現場において作業時に記載したメモを廃棄しており,現在は存在していない。したがって,一宮市がこれを受け取ったこともない。 (ウ) 地下水湧出説について上記のとおり,C会社の従業員からの聴き取り,大野ゲートの開閉状況の確認,排水作業等に当たっていた関係者からの浸水時の水が比較的きれいであったとの情報等から,本件浸水被害の原因が南派川からの逆流である可能性は低くなった。 実際にも,桜の園周辺の浸水状況を撮影した当時の写真によれば,明らかに澄ん 係者からの浸水時の水が比較的きれいであったとの情報等から,本件浸水被害の原因が南派川からの逆流である可能性は低くなった。 実際にも,桜の園周辺の浸水状況を撮影した当時の写真によれば,明らかに澄んだきれいな水が滞留しているところ,この滞留水に占める降雨流出水の割合は,当該地域の地質が非常に透水性の高い層から成っていることを考慮すると,10パーセント程度であって,濁流水を薄めるには足りないから,上記浸水が南派川からの逆流水によるものとは考え難く,したがって,上昇してきた地下水の噴出が原因である可能性を否定することはできない。 (エ) 建設部長の発言について原告は,市議会において建設部長が,大江排水機場の水位を見ながら操作した点で大野ゲート操作要領との間でそごがあった旨発言したことを根拠に,ゲート操作において南派川の水位を確認しなかったと非難している。 しかしながら,上記操作要領では,南派川の水位がTP13.87メートルで全閉することになっているが,実際は大江排水機場非常運転マニュアルに従って操作していたものであり,これによると,大江排水樋門を開けて排水をすると大野排水路へ逆流する可能性があるため,大野のゲートは全閉にすることになっており,これによって大野のゲートを全閉にしたのであって,上記非難は当たらない。 (2) 争点(2)(本件報告書のずさん性)について(原告)本件報告書の内容は,以下のとおり,ずさんであって本件浸水被害の原因解明に役立たないものであるから,調査会社に委託代金を支払うことは,地方自治法2条14項,地財法4条1項に反し,違法である。 ア調査すべきことを調査していない。 (ア) ゲート操作の事実を調査会社自身で調査,検証していない。 (イ) 住民等の目撃情報を調査,検証していない。 イ基本的な情報を正確に示して し,違法である。 ア調査すべきことを調査していない。 (ア) ゲート操作の事実を調査会社自身で調査,検証していない。 (イ) 住民等の目撃情報を調査,検証していない。 イ基本的な情報を正確に示していない。 (ア) 光明寺方向への排水樋管の存在を無視している。 すなわち,本件報告書は,大野ゲートが閉じていたことを前提にして,降雨流出量と排水管路容量等の関係を詳細に計算し,地下水湧出説を立証しようとしている。しかし,仮に,大野ゲートが閉じていたとしても,大野排水路は,光明寺排水樋管とつながっており,光明寺排水樋管樋門が21日1時30分まで開いていたことから,20日の当該地域の降雨流出水の相当量が光明寺排水樋管樋門に流れていたはずであり,被告の上記計算は無意味なものといわざるを得ない。 この点について,被告は,光明寺排水桶管による流量は少なく,解析に影響を与えないから除外した旨主張する。しかしながら,20日12時30分(ポンプ始動でゲートが閉門された時刻)から21日1時30分(光明寺樋管ゲートが閉じられた時刻)までの13時間に光明寺排水樋管方向に流出した水量は,管径0.6メートル,水路長1500メートル,水位差1メートル(浸水最高水位の水路中心からの相対値2.53メートル等から設定)等によって7400立方メートルと算出したが,この数値は排水樋管容量6300立方メートルを超える量であり,流量が少ないとはいえない。 したがって,光明寺排水樋管による少なからざる流量の存在を認識していなかったのであれば過失があり,認識しながら除外したというのであれば手抜きであり,いずれにしても,本件報告書はずさんである。 (イ) 迂回排水管の接続位置を正確に表示していない。 迂回排水管は,逆流防止装置の東,つまり上流で大野排水路から分岐しているにもかかわらず,本件報告 あり,いずれにしても,本件報告書はずさんである。 (イ) 迂回排水管の接続位置を正確に表示していない。 迂回排水管は,逆流防止装置の東,つまり上流で大野排水路から分岐しているにもかかわらず,本件報告書は,逆流防止装置の付近というあいまいな記述をして,事実を歪めた上,残留物などについての極めて薄弱な根拠をもって,迂回排水管を通じて泥水が逆流した形跡は確認されていないと結論し,河川水の逆流がなかったことを強弁している。 (ウ) ゲート,グレーチング等の重要なTP値を示していない。 ウ推論が論理的でない。 (ア) 大野ゲートの開閉状況について本件報告書は,大野ゲートが本件浸水被害当時閉じていたと結論づけており,その根拠として,①行動記録によると20日12時30分に閉門していること,②本件浸水被害後,施設のモニターは,門扉が閉じていたことを表示していたこと,③門扉頂上には,周辺の洪水を被った場所と同様に泥が溜まっていたこと,④浸水地に泥のほかに漂流物がないことを挙げているが,以下のとおり,いずれも根拠に成り得ず,そのように結論づけることはできない。 a ①について行動記録は,調査会社が作成しており,その記載内容の根拠が明らかでなく,信用できない上に,20日12時30分以後にゲートが開けられることもあり得たのであるから,これを根拠とすべきではない。 b ②について本件浸水被害後のモニターの状況を根拠とするなどは論外であり,実際に,建設部長は,市議会において,災害発生前後4回の時点(20日16時,同21時,21日3時,同5時)におけるモニター確認の事実を明確に述べているが,モニターを確認したとする記録は存在せず,信用できない。仮に,モニターの確認が事実であるとしても,それは,本件浸水被害時におけるゲートの状態を直ちに証明するものではない。 c を明確に述べているが,モニターを確認したとする記録は存在せず,信用できない。仮に,モニターの確認が事実であるとしても,それは,本件浸水被害時におけるゲートの状態を直ちに証明するものではない。 c ③について本件報告書の推論は,ゲートが開いている状態では,門扉の頂上が河川に没する可能性がないことを前提とするが,そのようなことは明らかではない。したがって,門扉頂上の泥は,必ずしもゲートが閉じていたことを証明するものとはいえない。このような推論をするのであれば,開閉時における門扉上端のTP値を明確にすべきである。 実際,原告の推定では,50センチメートル開のときの門扉の頂上の高さは,TP約14.5メートルであり,浸水被害発生時の水位はTP16メートルを超えているから,門扉が50センチメートル開いていたとしても,門扉上端は約4時間河水中にあったことになる。 また,「周辺の洪水を被った場所と同様に泥が溜まっていた」のであれば,現在においてもその痕跡があるはずであるが,そのような痕跡は見当たらず,その前提自体が極めて疑わしい。 d ④について本件報告書は,大野ゲートからの逆流がなかったことの根拠として,浸水地において泥のほかに漂流物が堆積していないことを挙げているところ,大野ゲートの上流およそ100メートルから500メートルにかけて河川敷に雑木林があり,その上流側には,漂流物などが堆積しているが,雑木林から下流には,そのような堆積物がほとんどない。このことは,大野ゲートに至るまでに,河川水の浮遊物が雑木林によってすき取られたことの表れであると考えられ,しかも,降雨によって薄められているから,泥や漂流物等の堆積物の有無をもって単純に判断することはできない。 (イ) 地下水湧出説について本件報告書の地下水湧出説は,争点(1)についての原告の主張ア ,しかも,降雨によって薄められているから,泥や漂流物等の堆積物の有無をもって単純に判断することはできない。 (イ) 地下水湧出説について本件報告書の地下水湧出説は,争点(1)についての原告の主張ア,ウのとおり,合理的ではなく,虚構である。 (ウ) 逆流防止装置について本件報告書は,逆流防止装置は,逆流によって完全に閉じる構造を有しながら,本件浸水被害時に閉じた形跡がなかったことから,扉を動かすような大きな流れは生じていなかったと推論しているが,閉じた形跡がなかったことについての根拠が示されていない。そうすると,調査の時点で,門扉が土砂によって動かない状態にあったことを理由としていると解さざるを得ないが,このことは,堆積土を排土しない程度の逆流があったことは必ずしも否定できないことを意味する。つまり,本件報告書は,逆流防止装置を経由しない迂回排水管の存在にも触れず,逆流があっても,逆流防止装置によって浸水が防止されるがごとく印象付けようとしたものといえる。 エ根拠の不確かな応急対策提言は,役に立たないばかりか有害である。 (ア) 真の原因を棚上げし,ゲート管理等の必要な改善を妨げる。 (イ) 無用あるいは不適切な対策事業に一宮市の予算を浪費させる。 本件報告書は,大野排水樋管に災害用ポンプを設置することを提案しているが,集中的降雨時の流出水量を根拠に設計すれば十分であるのに,ゲートの誤操作によって発生した浸水量を根拠にポンプを設置すれば,処理必要水量が過大となって一宮市の予算の乱費につながるおそれがある。 また,本件報告書は,逆流防止装置の改良等が必要である旨提言しているが,これは,逆流防止装置に問題があったこと,迂回排水管を通じて河川水の逆流があったことを前提にしたものであるはずで,本件報告書の当該施設に関する調査結果と矛盾している。 が必要である旨提言しているが,これは,逆流防止装置に問題があったこと,迂回排水管を通じて河川水の逆流があったことを前提にしたものであるはずで,本件報告書の当該施設に関する調査結果と矛盾している。 さらに,本件報告書は,桜の里団地への流入防止のための遮水壁の設置を提案しているが,報告書自体が浸水原因を特定できていないのであるから,確かな理由のない思いつきにすぎない。 (被告)原告の主張はすべて争う。 ア本件報告書の概要本件報告書は,本文65頁に各種資料を添付したものであり,その内容は,1業務概要,2業務内容,3浸水当時の状況,4当該地(本件地域)の特徴,5調査結果,6考察ならびに検討から成る詳細なものであり,想定される浸水の要因のうち河川水の逆流については,痕跡が確認されないことと,大野ゲートが閉門されていたことから否定されるとした上,本件浸水被害をもたらした要因として,地下水位(伏流水)の挙動が大きく関与しているが,これ以外に,①事前の降雨の影響により,地盤が飽和状態に近く地下水が河川水位や降雨の影響を敏感に受けやすい状態にあったこと,②例年の月間降水量に相当する豪雨が短期間に集中したこと,③降雨と共に域内にあふれ出した流出水が地盤に浸透し,地下水位の上昇を助長したこと,④河川水位が地盤高よりも上昇したことが複合的に影響していると結論づけているものであって,原告の主張するようなずさんなものではない。 イ原告の主張に対する反論(ア) 調査状況について原告は,本件報告書は目撃情報を調査,検証していない旨主張するが,上記のとおり,本件報告書は,グレーチングから水があふれた原因は,行き場を失った地下水が噴出したことにあると認定している。 (イ) 基本的情報の表示について原告は,本件報告書が論じた地下水湧出説の計算過程に おり,本件報告書は,グレーチングから水があふれた原因は,行き場を失った地下水が噴出したことにあると認定している。 (イ) 基本的情報の表示について原告は,本件報告書が論じた地下水湧出説の計算過程について,大野排水路が光明寺排水樋管につながっていることの認識を欠く無意味なものと主張する。 しかし,もともと大野排水樋管の周辺には,水道水の伏流水を汲む大野水源があり,雑排水で汚したくないため,大野排水路と光明寺排水路をφ(径)600のサイフォンで接続し,黒岩,河田地区の住宅地からの日常の雑排水を光明寺排水路に流しているにすぎない。そして,サイフォンの標高はTP10.3メートル程度であり,大野排水路底のTP12.88メートルと比較すると2.5メートル低いところ,この2.5メートルの高低差の部分には排水が常に溜まっており,泥などの堆積物が溜まりやすい構造となっている。そのため,この日常の雑排水の流量はわずかなもので,無視しても解析に影響しない。 (ウ) 大野ゲートの開閉状況について原告は,①行動記録の根拠が明らかでないこと,②モニターの記録は,建設部長の回答と比較して,信用できないこと,③門扉頂上に泥が溜まっていたことにより,門扉は河川水中にあったとする本件報告書の推論は成り立たないこと,④泥や漂流物の堆積の有無で判断できないことなどを主張する。 しかし,①については,行動記録は,市の建設部の時系列行動メモ及び消防本部の被害及び活動状況等に基づくものであり,根拠を有する。また,②については,モニター記録は,平成16年12月6日付けのC会社からの確認書(乙21の1)に基づくものである。さらに,③については,そのとおりであるが,④については,ごみなどは,雑木林ですき取られることはあっても,泥はすき取られることはなく,実際に,ゲート及びスラブの上 書(乙21の1)に基づくものである。さらに,③については,そのとおりであるが,④については,ごみなどは,雑木林ですき取られることはあっても,泥はすき取られることはなく,実際に,ゲート及びスラブの上面に泥が残存しており,それらが,乾燥してバリバリの状態になっているところから,数時間河川水の中にあったことが明らかである。 (エ) 地下水湧出説について地下水が本件浸水被害に大きく関わりを有する原因となっていることについては,争点(1)についての被告の主張イのとおりである。 なお,原告は,21日0時における,Aグランド,Bグランド及び桜の園に滞留した水位をTP15.02メートルであると主張するが,桜の里団地の南西部の住宅の地盤面は,団地の中で特に低く(TP14.7メートルから14.8メートル),滞留水位TP15.02メートルでは降雨流出水によって20日20時ころ床下浸水が発生することになり,矛盾している。 (オ) 逆流防止装置について原告は,浸水時に排水函渠に扉を動かすような逆流は生じていないとの本件報告書の判断を堆積土を除去した上でのものであると非難するが,調査の際,除去したことはない。 したがって,大野ゲートが全閉していたと判断した本件報告書がずさんであるとはいえない。 (カ) 応急対策提言について原告は,本件報告書が応急対策として逆流防止装置の改良などを提言していることに対し,河川の逆流があったことを前提としており,その推論と矛盾する旨主張するが,提言に係る逆流防止装置は,Aグランド,Bグランド及び桜の園に水を一時的に溜めるための装置であって,大野ゲートのそれではないから,誤解に基づくものである。 第3 当裁判所の判断 1 住民訴訟の対象となる行為について地方自治法242条の2に定める住民訴訟は,公共団体の機関の法規に適合しない行為の 大野ゲートのそれではないから,誤解に基づくものである。 第3 当裁判所の判断 1 住民訴訟の対象となる行為について地方自治法242条の2に定める住民訴訟は,公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める民衆訴訟の一種であって,法律の定める場合において,法律に定める者に限り,提起することができる(行政事件訴訟法42条)ところ,住民監査請求について定める地方自治法242条1項は,住民は,「違法若しくは不当な公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(略)と認めるとき,又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(略)があると認めるときは,……監査委員に対し,監査を求め……ることができる。」と定め,さらに,住民訴訟について定める同法242条の2第1項が,住民は,同法242条1項の規定による請求をした場合において,監査委員の監査の結果等に不服があるときは,「裁判所に対し,同条1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき,訴えをもって次に掲げる請求をすることができる。」と定めていることから,住民訴訟は,同法242条1項に定める違法な公金の支出,財産の取得・管理・処分,契約の締結・履行,債務その他の義務の負担,公金の賦課・徴収を怠る事実,財産の管理を怠る事実を対象としていることが明らかである。 そして,住民訴訟制度は,地方公共団体の執行機関又は職員による地方自治法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところから,これを防止するため,地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として,住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え,もって地方財務行政の適正な運営を確保する 利益を害するものであるところから,これを防止するため,地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として,住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え,もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであることに照らせば,住民訴訟の対象は,上記のような財務会計上の行為又は事実の性質を有するものに限られ,そのような性質を有しないものは,住民訴訟の対象になり得ない(昭和53年3月30日最高裁第一小法廷判決・民集32巻2号485頁,平成2年4月12日最高裁第一小法廷判決・民集44巻3号431頁参照)。 ところで,原告は,本件契約の締結を決定する行為も違法な財務会計行為として本訴の対象とする旨主張するが,同決定行為は,一宮市の代表者としてその事務を統轄する被告から内部的な委任を受けた同市助役が,本件浸水被害の原因調査及び対策のための調査委託を行うとの支出負担行為を決議したものである(乙32,33の1)から,財務会計上の行為である契約に関連し,その準備としてなされたものではあるものの,契約締結の前段階における内部的な意思決定にすぎないから,それ自体は一宮市の財務状況に何らの影響を与えるものではなく,したがって,上記決定行為は財務会計上の行為には当たらないと解するほかない(住民訴訟の趣旨・目的に照らせば,契約の締結自体をその対象とすれば足りる。)。 2 争点(1)(原因調査の必要性)について(1) 市町村は,基礎的な地方公共団体として,当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命,身体及び財産を災害から保護するため,関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て,当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し,及び法令に基づきこれを実施する責務を有する(災害対策基本法5条1項)。そして,市町村が効果的で合理的な防災計画を作成し,それを実 共団体の協力を得て,当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し,及び法令に基づきこれを実施する責務を有する(災害対策基本法5条1項)。そして,市町村が効果的で合理的な防災計画を作成し,それを実施するためには,災害の原因を調査し,具体的にどのような施策を実施するのが適切であるかについて検討を尽くす必要があることはいうまでもない。そのため,市町村自らが災害原因等について調査・検討することができることは当然であるが,事柄の性質によっては,専門的知見を有する外部の団体等に調査・検討を委託することができるし,あるいは,かかる方法がむしろ適切と考えられる場合もあり得る。その場合,市町村は,しかるべき団体等に調査・検討業務を委託する旨の契約を締結することになる。 ところで,地方自治法138条の2は,「普通地方公共団体の執行機関は,当該普通地方公共団体の条例,予算その他の議会の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規程に基づく当該普通地方公共団体の事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し及び執行する義務を負う。」と定めているところ,同法2条14項は,「地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と,地財法4条1項は,「地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない。」とそれぞれ規定している。これらは,いずれも地方公共団体の財政の健全化を確保する趣旨によるものと考えられるところ,地方自治法2条16項,17項の法意に照らすと,単に会計事務担当職員に対して訓示的に事務の在り方を示すにとどまるものではなく,地方公共団体にとって不必要あるいは過大な経費負担をもたらす契約が締結された場合には,当該契約締結行 の法意に照らすと,単に会計事務担当職員に対して訓示的に事務の在り方を示すにとどまるものではなく,地方公共団体にとって不必要あるいは過大な経費負担をもたらす契約が締結された場合には,当該契約締結行為が違法と評価されることがあり得るというべきである。 もっとも,いかなる契約が不必要であるのか,あるいは過大な経費負担をもたらすかは,第一次的には,当該地方公共団体が,意図した行政目的実現の見地から,当該契約の目的,性質,給付内容,締結に至った経緯等を総合的に考慮して判断すべきものであるから,違法であると評価するためには,その裁量権の範囲を逸脱し,あるいはこれを濫用したと認められる場合に限られるというべきである。 (2) かかる見地から,本件契約締結の違法性の有無について検討するに,前記前提事実に証拠(甲2,3,12,乙4,12の1・2,14の5・15,16,17の1ないし3,18,19,20の1ないし3,23の1ないし3,24,31,35)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア浸水地付近の位置関係本件地域は,北を南派川,南を旧堤,西を大野排水樋管及び大江排水樋管に囲まれた区域であり,その東部には住宅地(浅井町黒岩地区及び浅井町河田地区。約31.5ヘクタール)が,その西部には,公園(桜の園,Aグランド及びBグランド等。約9.4ヘクタール),駐車場(約0.6ヘクタール)及び競技場(約2.0ヘクタール)がそれぞれある。 本件地域は,全体的に西側が低く,また,浅井町河田地区(住宅地の西側)内にある桜の里団地においては,南側が低くなっている。 イ本件各ゲートの運用状況(ア) 大野ゲートは,通常は,木曽川新堤と旧堤及び大野排水樋管に囲まれた地域(河田,黒岩,大野の一部地区)に降った雨を大野排水路に集め,これを大野排水樋管を通じて る。 イ本件各ゲートの運用状況(ア) 大野ゲートは,通常は,木曽川新堤と旧堤及び大野排水樋管に囲まれた地域(河田,黒岩,大野の一部地区)に降った雨を大野排水路に集め,これを大野排水樋管を通じて,木曽川(南派川)に流出する(自然流下)ためのゲートである。 大野ゲート操作要領によれば,南派川の水位(外水位)がTP13.00メートル以上に達し,その後も増水するおそれがある場合には,ゲート操作に必要な機械器具等の点検を行い,南派川の逆流が始まった時(TP13.87メートル)は,大江排水機場からの遠隔操作によって,大野ゲートを閉じることとされている。 (イ) 大江ゲートは,大江排水機場から洪水流出量の一部を暗渠形式で木曽川(南派川)に圧送して木曽川に放流するためのゲートである。 そして,大江ゲート管理規程によれば,内水位(機場遊水池)がTP10. 90メートルに達し,さらに上昇するおそれがある場合は,1号ゲートを全開して排水機を始動し,排水機運転中に外水位(ひ管量水標において測定した南派川の水位)がTP17.50メートル又は成戸水位が6.60メートルに達したときは,運転を中止して1号ゲートを全閉し,木曽川(南派川)の洪水が大江排水樋管から逆流するのを防止することとされている。 (ウ) もっとも,大江排水機場においては,上記の定め以外に,非常運転マニュアル(以下「本件マニュアル」という。)が定められており,内水位10.80メートルで,大野ゲートを全閉し,大江ゲートを全開して,1号ないし3号のいずれかの排水ポンプを運転することとされていた。 ウ本件浸水被害の発生平成16年10月20日から同月21日未明にかけて,近畿東海地方を横断した台風23号による降雨は,20日20時過ぎにはおおむね終息したが,桜の里団地においては,21日0時30分,床下浸水が発 の発生平成16年10月20日から同月21日未明にかけて,近畿東海地方を横断した台風23号による降雨は,20日20時過ぎにはおおむね終息したが,桜の里団地においては,21日0時30分,床下浸水が発生し,同日2時30分には床上浸水の被害が生じた。 エ一宮市における予報,警報等の状況(時系列)(ア) 10月20日 7時52分暴風警報発令消防本部内に災害対策本部設置11時45分大雨・洪水警報発令23時55分大雨・暴風警報解除(イ) 10月21日 4時15分洪水警報解除6時20分災害対策本部解散オ目撃情報等(ア) 平成17年8月7日の浸水原因調査等に関する地元説明会に出席した住民に対するアンケート調査によれば,「水はどこから流れてきたか。」との問いに対して,「団地南のグレーチング。一番南東で50㎝くらい吹き上げていた。」,「南側排水路」,「排水路のグレーチングから吹き上げていた。」などと回答するものがあった。 (イ) 21日の排水作業等に当たっていた一宮市消防本部消防署職員及び同市建設部維持課職員の中には,浸水時における水は,河川水とは違って比較的きれいであったと述べた者がいた。 カ C会社に対する聴き取り調査等一宮市は,10月22日に,聴き取り調査等を行ったところ,C会社の担当者は,20日12時30分から21日16時まで,大野ゲートを全閉していた旨供述し,本件各日報を一宮市に提出した。また,C会社は,一宮市に対し,同月27日,20日付け大江排水機場点検日報(1)及び(2)を提出した。 提出された本件各日報及び大江排水機場点検日報の内容は,次のとおりである。 (ア) 本件各日報の内容 C会社は,一宮市に対し,同月27日,20日付け大江排水機場点検日報(1)及び(2)を提出した。 提出された本件各日報及び大江排水機場点検日報の内容は,次のとおりである。 (ア) 本件各日報の内容a 10月20日付け日報には,次の記載がある。 通常時欄開度計50(cm)緊急対処欄日時 12時30分操作閉水位外水位12(m)状況放流ゲート開。自然流下ゲート閉b 10月21日付け日報には,次の記載がある。 通常時欄開度計50(cm)緊急対処欄日時 2時30分操作閉水位外水位16.3(m)状況放流ゲート閉。自然流下ゲート閉自動日時 16時操作開水位外水位13.8(m)状況放流ゲート閉。自然流下ゲート50cm開自動(イ) 大江排水機場点検日報(記事欄)の内容12:00 大江台風接近大雨警報の為,緊急出動12:30 自然流下ゲート全閉,放流ゲート全開,管理ゲート閉13:00 外水位12.18m,内水位10.73m,3号ポンプ運転開始15:30 外水位12.64m,内水位10.65m,1号ポンプ運転開始16:00 3号ポンプ停止18:00 3号ポンプ運転開始21:00 3号ポンプ運転停止22:30 3号運転,1号停止0:00 1号運転,3号停止0:30 00 3号ポンプ停止18:00 3号ポンプ運転開始21:00 3号ポンプ運転停止22:30 3号運転,1号停止0:00 1号運転,3号停止0:30 1号停止,3号運転2:00 2号運転2:30 2号停止,3号運転停止キモニター表示の確認一宮市の建設部職員は,10月22日,遠隔操作で大野ゲートが閉門するかを確認したところ,正常に作動し,大江排水機場の監視盤,大野ゲートの開度計,モニター表示が正常であることを確認した。 ク浸水地の実地調査10月24日に当時の建設部維持課長及び建設部公園緑地課長らが,Aグランド,Bグランド及び桜の園を調査したところ,Aグランド及びBグランドの新堤法尻周辺並びに桜の園の緑地帯付近に湧水跡のような穴が約70箇所存在しているのを確認した。 ケ調査会社の業務,実績調査会社は,昭和32年設立の株式会社であって,地質調査及び環境調査,自然災害に係るリスクの調査,解析,予測,診断等を業務として行っており,平成13年の東海水害,平成10年の茨城県那珂川の水害等の河川災害の調査を担当している。 (3) 上記認定事実を基に,本件浸水被害が大野ゲートの誤操作に起因することが明らかであって,原因調査の必要性がなかったかについて判断する。 ア本件地域の降雨を集水する大野排水路は,大野排水樋管及び大野ゲートを通じて南派川に接続されているところ,本件台風による影響で,南派川の外水位が上昇していたから,本件浸水被害の原因を推測するに当たり,南派川からの逆流による可能性を考慮すべきことは当然というべきである。もっとも,本件浸水被害直後に行われたC会社の担当者に対する聴き取り調査からは,大野ゲートが全閉されていた旨の申述が得られていたこと,本件各日報に記 る可能性を考慮すべきことは当然というべきである。もっとも,本件浸水被害直後に行われたC会社の担当者に対する聴き取り調査からは,大野ゲートが全閉されていた旨の申述が得られていたこと,本件各日報に記載された大野ゲート(自然流下ゲート)の開閉状況も,10月20日12時30分に閉門され,21日16時に開門(50センチメートル)されるまで,一貫して閉じられていた(20日12時30分の操作欄の「閉」は大野ゲートの操作を示し,21日2時30分の操作欄の「閉」は大江ゲート(放流ゲート)のそれを示している。)とされており,上記申述と符合していたこと,排水作業等に従事していた者から,浸水した水は,濁流である河川水とは異なって比較的きれいであったとの申述を得ていたこと,10月22日に大江排水機場における遠隔操作で本件各ゲートが開閉するかを確認したところ,正常に作動したこと,Aグランド及びBグランドにおける新堤法尻周辺,桜の園緑地帯付近に地下からの湧水跡のような穴が約70箇所存在していたこと,一宮市が桜の里団地の南に設置されたグレーチングから水が噴出していたとの住民からの目撃情報を入手したのは,平成17年8月7日の地元説明会におけるアンケート調査からであること,これらを総合すれば,一宮市が,本件契約締結当時において,南派川からの逆流の可能性が全くないとはいえないものの,それ以外の原因によって本件浸水被害が発生した可能性が高いと判断したことは,合理的であったというべきである。 そうすると,本件浸水被害が南派川からの逆流によることが明らかであったとはいえないから,一宮市において,本件浸水被害の原因を正確に把握し,その防止のために必要で有効な対策を検討すべく,浸水被害の原因調査を専門に扱う調査会社にその原因等の調査を依頼する必要性があったと判断することができる 市において,本件浸水被害の原因を正確に把握し,その防止のために必要で有効な対策を検討すべく,浸水被害の原因調査を専門に扱う調査会社にその原因等の調査を依頼する必要性があったと判断することができる。 イこの点について,原告は,①桜の里団地南東のグレーチングからの噴出の原因は,河川水の逆流しか考えられないこと,②大野ゲートが全閉されていたと判断する根拠がないこと,③地下水湧出説には合理的根拠がないこと,④建設部長が水位を確認せずにゲートの操作をしたことを認めていることなどを理由に,本件契約締結の必要性はなかった旨主張する。 しかしながら,原告がその主張の根拠として挙げる点は,そのほとんどが本件契約締結以後(しかも本件報告書の提出後)に収集した資料に基づくものであって,上記判断を覆すものとはいえない上に,以下のとおり,個別的にも,本件契約締結の必要性の欠如を基礎づけるものとはいい難い。 (ア) グレーチングからの噴出について原告は,桜の園やグランドの方が低地であるから,そこであふれ出た水がより高地にある桜の里団地のグレーチングで噴出するはずがない旨主張するところ,確かに,桜の里団地と桜の園等の間に指摘の高低差が存在することを所与の条件として静的に考察すれば,低地で浸出した水が高地で噴出することは考えにくいといわねばならない。 しかしながら,一般に,排水管の流出容量を超える水が排水管に流入した場合には,行き場を失った水がグレーチングから噴出する事態が考えられるところ,前記認定のとおり,本件地域は,東から西に流れる木曽川及び南派川の左岸にあって,全体的に東側から西側にかけて低くなっているから,本件地域に降った雨水は,地表面のものも地中に浸透したものも,さらには上流からの伏流水も,東側から西側に向かって移動していくと推測できる。そのため,木曽 的に東側から西側にかけて低くなっているから,本件地域に降った雨水は,地表面のものも地中に浸透したものも,さらには上流からの伏流水も,東側から西側に向かって移動していくと推測できる。そのため,木曽川下流方向への流出容量を超える流入が生じた場合(上記のとおり,大野ゲートが閉門された状態では,流出容量はわずかなものになると予想される。)には,地表付近が比較的軟弱な桜の園等において地下水が湧出することがあり得るほか,さらに流入量が増加して湧出量を上回る事態となった場合には,桜の園等の地下に滞留した水が桜の里団地方向に拡大し,これに木曽川上流方向から流入してきた地下水及び地表を流れる雨水が合流すれば,桜の園の地盤面より高地に位置するとしても,桜の里団地にあるグレーチングから水の噴出現象が生ずる可能性を否定することはできない。 さらに,原告は,降雨流出水(2万5000立方メートル)から,光明寺方向への流出水量及び排水管容量を控除して,20日24時の時点での当該地域の水位を推測した上,Aグランド,桜の園,桜の里団地は一衣帯水の状態にあって,同じ速さで水位が上昇したと考えられるから,地下から湧出した水が桜の里団地のグレーチングから噴出することはあり得ない旨主張するところ,このような推論の正当性を認めるに足りる証拠は存在しない。 したがって,原告の主張するように,河川水の逆流以外の要因によって桜の里団地にあるグレーチングからの噴出が生じ得ないと断定することはできないから,本件浸水被害の原因が大野ゲートの誤操作であることが明らかであるとはいえない。 (イ) 大野ゲートの開閉状況について原告は,この点について,①本件各日報はねつ造である,②大野ゲート操作時点の原記録がない,③被告提出の陳述書(乙22)が連名で作成されており,信用性等がないなどと主張する 野ゲートの開閉状況について原告は,この点について,①本件各日報はねつ造である,②大野ゲート操作時点の原記録がない,③被告提出の陳述書(乙22)が連名で作成されており,信用性等がないなどと主張する。 なるほど,本件各日報は「大野排水樋管樋門点検作業日報」と題する書面であるにもかかわらず,大野ゲートの状況だけでなく大江ゲート(放流ゲート)の状況についても記載していると解することは,やや不自然な印象を与えることは否定できないが,両ゲートは並んで設置されており,いずれも大江排水機場から遠隔操作することができるところ,これらの管理業務はすべてC会社に委託されていることに照らせば,両ゲートの状況を一括して記載する事務処理方法も不合理なものといえず,原告の主張するように,上記の記載がねつ造されたものと判断することは相当でない。 かえって,大野ゲート操作要領,大江ゲート管理規程及び本件マニュアルによれば,通常,大江ゲートは全閉されているのに対し,大野ゲートは開門された状態にあるが,外水位が13.87メートル(大野ゲート操作要領)ないしは内水位が10.80メートル(本件マニュアル)に達したときに大野ゲートは全閉されること,大江ゲートは,内水位がTP10.90メートル(大江ゲート管理規程)ないしはTP10.80メートル(本件マニュアル)に達したときに全開されるが,外水位がTP17.50メートル又は成戸水位が5.80メートルに達したときは全閉されることとなっていたところ,両日付けの本件各日報及び大江排水機場点検日報に記載された水位に照らせば,20日の12時30分に外水位が12メートルとなった時点で,開門されていた大野ゲート(自然流下ゲート)が閉じられるのに対して,大江ゲート(放流ゲート)は開かれていたこと,21日2時30分に外水位が16.3メートルとなっ に外水位が12メートルとなった時点で,開門されていた大野ゲート(自然流下ゲート)が閉じられるのに対して,大江ゲート(放流ゲート)は開かれていたこと,21日2時30分に外水位が16.3メートルとなった時点で,開けられていた大江ゲートが閉じられ,大野ゲートと共に閉門されたこと,同日16時に外水位が13.8メートルとなった時点で大野ゲートが50センチメートル開門したのに対し,大江ゲートは閉じられたままであったこと,以上の状況は,上記の操作運用基準に合致するものとして理解することができ,C会社の社員5名の連記による陳述書(乙22)もこのことを裏付けている。 また,一宮市において南派川の外水位が上昇した段階で大野ゲートが閉門されていた可能性が高いと判断したのは,本件各日報のほか,大野ゲートや大江ゲートの管理状況,これらの操作運用基準,目撃情報,浸水が解消した後の調査結果などの総合的検討に基づくものであり,操作時点の原記録が存在しないことや,被告提出の陳述書の信用性いかんによって覆るものではないから,この点に関する原告の主張も採用できない。 (ウ) 地下水湧出説の合理性について上記認定事実のとおり,大野ゲートの誤操作による河川水の逆流の可能性が低いことに加え,浸水時における水が比較的きれいであったとの一宮市消防本部職員らの目撃情報や,桜の園等における実地調査の際に確認された約70個の穴の存在などを総合すれば,原告の指摘する事実を斟酌したとしても(原告は,上記穴はモグラの穴にすぎないと主張するが,後記のとおり,穴から水の流れ出た痕跡が確認されるなどの事情を考慮すれば,モグラの生息跡を介して水が湧出した可能性を否定できない。),地下水湧出説の可能性を否定することはできない。 (エ) 建設部長の発言について証拠(甲3)によれば,建設部長は,市議会に を考慮すれば,モグラの生息跡を介して水が湧出した可能性を否定できない。),地下水湧出説の可能性を否定することはできない。 (エ) 建設部長の発言について証拠(甲3)によれば,建設部長は,市議会において「大江排水樋管のゲートの操作関係につきましては,2つの規則がございまして,上位のものにつきましては,大野排水樋管の要領というものがございます。その下に実際のマニュアルといいますか,現実に運用をしておりますものがございまして,その中で,やはり要領の部分に少し符合しない部分がございましたものですから,そういう点が少し問題があったというふうに考えております。……一応,操作要領におきましては,ゲートの閉じるタイミングといいますか,そういう水位が決まっておりまして,南派川の外水位が13.87メートルというのが要領で定まっております。今回は,堤内地側の大江排水機場の水位を見ながら操作いたしましたものですから,そういう点でそごがあったということでございます。」と発言しているところ,これによれば,C会社が大野ゲート操作要領によらずに上記マニュアル(内水位10.80メートルで大野ゲートを全閉とする。)に従って操作したと述べているのであるから,大野ゲートが遠隔操作によって閉められていた可能性を否定する根拠とならないことが明らかである。 ウ以上の検討結果によれば,本件契約締結時において,本件浸水被害の原因が明らかであったとはいえず,一宮市が,調査会社に原因調査を委託し,有効な対策を検討する必要があると判断したことには合理性が存するというべきであるから,本件契約の締結行為が前記裁量権を逸脱・濫用するものであって地方自治法2条14項又は地財法4条1項に違反するとは到底認められない。 3 争点(2)(本件報告書のずさん性)について(1) 地方自治法(平成16 締結行為が前記裁量権を逸脱・濫用するものであって地方自治法2条14項又は地財法4条1項に違反するとは到底認められない。 3 争点(2)(本件報告書のずさん性)について(1) 地方自治法(平成16年法律第57号による改正後のもの)232条の4第1項は,「出納長又は収入役は,普通地方公共団体の長の政令で定めるところによる命令がなければ,支出をすることができない。」と,同第2項は,「出納長又は収入役は,前項の命令を受けた場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ,支出をすることができない。」とそれぞれ規定し,これを受けた同法施行令160条の2第1号は,当該支出負担行為に係る債務が確定した後に発せられる支出命令が上記の命令に該当する旨定めている。そして,地方自治法232条の4第2項にいう「債務が確定していることを確認」するとは,支払義務が有効に発生し,これを履行すべき状態になっているかどうかを審査,確認することを意味すると解されるから,基となる支出負担行為が法令等に違反していないことを前提として(同項前段),納入されるべき物品,役務が履行済みであるか(例外として地方自治法232条の5第2項,同法施行令161条ないし163条),金額の算定に誤りがないかなどが審査,確認されることになる。 したがって,支出負担行為が双務契約の締結である場合には,出納長又は収入役は,原則として,当該契約に基づいて発生した債務の本旨に従った反対給付(民法415条)が履行済みであるかどうかを審査,確認する職務上の義務を負担しているから,そのような反対給付が履行されたと評価できないにもかかわらず支出が行われた場合には,当該支出は違法として,これを行った者が損害賠償責任を負うこ どうかを審査,確認する職務上の義務を負担しているから,そのような反対給付が履行されたと評価できないにもかかわらず支出が行われた場合には,当該支出は違法として,これを行った者が損害賠償責任を負うことがあり得るほか,そのような支出命令を発した普通地方公共団体の長も,地方自治法232条の4第2項に違反するものとして,損害賠償責任を負うことがあり得るというべきである。 もっとも,どの程度の給付が債務の本旨に従った履行に当たるかは,かかる債務を発生させた当該契約の趣旨・目的,その内容等によって定まるというべきところ,これらに照らして客観的な見地から債務の本旨に従った履行と見られる給付行為がなされた場合には,給付行為に瑕疵が存在していた場合に損害賠償等を請求し得ることは格別,反対給付の履行がなされたものとして扱うべきものである。そして,当該契約の趣旨・目的,内容等について最も熟知し,関心を抱いていると考えられるのは債権者であるから,上記のような給付行為がなされたか否かについては,当該債権者の判断が重視されるべきことは当然であり,したがって,本件のように普通地方公共団体が発注者である場合には,反対給付が履行済みとの判断が明らかに不合理である場合に限って,当該支出命令,支出行為が違法となり得ると解される(なお,本件では,市長は補助職員である建設部長に支出命令を委任していることから,指揮監督上の義務を尽くさなかったことに故意過失が存する場合に限り,市長である個人は損害賠償責任を負担することになる。)。 (2) そこで,以上の見地から,本件報告書が本件契約の本旨に照らして明らかにずさんな内容のものであるかについて検討するに,前記前提事実に証拠(乙4,25の1・2,27の1・2,31,33の2)を総合すれば,以下の各事実が認められる。 ア本件契約の内容 に照らして明らかにずさんな内容のものであるかについて検討するに,前記前提事実に証拠(乙4,25の1・2,27の1・2,31,33の2)を総合すれば,以下の各事実が認められる。 ア本件契約の内容一宮市は,平成16年11月4日,調査会社との間で,業務委託料1260万円,履行期間同月5日から平成17年3月18日(同年1月31日付けの変更契約により,終期は同年3月30日に延長された。)の約定をもって,本件契約を締結した。 本件契約には,特記仕様書が添付されており,そこには,以下の条項(抜粋)が定められている。 第2条(業務目的)本業務は,一宮市浅井町大野地内外において,2004年10月20日未明に台風23号の通過に伴って発生した浸水被害の原因を究明し,今後の域内の浸水被害の再発防止を検討することを目的とする。 第4条(業務内容)本業務は,下記に示す業務内容に基づき実施するものとする。 (1) 資料収集整理本業務の目的・内容を把握した上で,浸水被害の原因究明に必要な下記の情報を収集整理する。 ・既存ボーリング資料(地質,地盤の水理特性)・井戸台帳,広域地下水調査資料(地下水利用と地下水位)・空中写真,古地図,土地条件図など(地表地質や地形情報)・被災履歴,築堤履歴,排水構造物資料(構造物調査)(2) 現地調査当該地盤の地表・地質構成ならびに工学的特性の把握,さらに地下水位観測のための観測井戸を設置するため,以下の調査を実施する。 ①試掘調査(表層の透水性・客土の層厚確認) 10箇所②調査ボーリング(φ86㎜)1箇所(@30m)  計30m・観測井戸設置計30m・標準貫入試験(1m毎) 25回・現場透水試験 5回③ボーリング(掘削径φ m・観測井戸設置計30m・標準貫入試験(1m毎) 25回・現場透水試験 5回③ボーリング(掘削径φ86㎜)3箇所(@10m)延べ30m・観測井戸設置 3箇所(@10m)延べ30m(3) 地下水位観測地下水位と河川水位の関係を把握するために,水位観測井戸と直近の木曽川(南派川)を対象に水位を測定する。 観測には自動水位記録器を用いて10分毎に水位を自動収録する。 ・観測地点:公園内4地点(観測井戸)+河川1地点=計5地点・観測方法:自動水位記録器を使用・収録間隔:10分毎・観測期間:2ケ月(2005年1月中旬~3月中旬)(4) 考察ならびに検討浸水被害の原因究明ならびに対策検討に必要な,以下の事項についてとりまとめを行う。 ①当該地の地質ならびに水理特性資料調査ならびにボーリング結果により,河川縦断方向ならびに横断方向の地質断面図を作成する。 地下水を胚胎する帯水層の区分ならびに分布状況,さらにはそれぞれの帯水層の水理特性を整理する。 ②地下水変動状況観測した河川水位ならびに地下水位を降雨データと併せて経時変化図として整理する。そして,以下の状況について考察する。 ・地下水位分布について(河川水位との関係,経年的な変動量,水源との影響関係など)・地下水の流動について(流動方向,河川水位の変動に対する影響,水源との関係など)・降雨と地下水位との関係について(降雨時の変動状況,流出量との関係)など③原因究明ならびに対策検討調査によって判明した浸水被害の原因となる要因を分析し,以降の継続調査の必要性ならびに調査・解析手法について提案を行う。 また,洪水時に必要な応急対策について提案する。 第12条(成果品)成果品 討調査によって判明した浸水被害の原因となる要因を分析し,以降の継続調査の必要性ならびに調査・解析手法について提案を行う。 また,洪水時に必要な応急対策について提案する。 第12条(成果品)成果品は,完成届とともに下記によるものを提出し,市監督員の承認を得なければならない。 ・報告書(A4版金文字製本) 3部・概要版(A4版金文字製本) 3部平易な文章,簡単な図で記述したもの・土質標本 1式・電子媒体(CD-ROM) 1枚・その他一宮市が必要と認めた資料  1式イ本件報告書の内容(ア) 概要本件報告書は,1.業務概要,2.業務内容,3.浸水当時の状況,4.当該地の特徴,5.調査結果,6.考察ならびに検討の6項目から成る本文65頁と,これに添付された資料(旧地形図,室内透水試験データ,地質柱状図,現場透水試験データ,降水量データ,水位観測データ,現場記録写真)99頁によって構成されている。その記載内容の概要は,以下のとおりである。 (イ) 業務概要その業務目的として,本件契約書添付の特記仕様書記載と同じ内容が記載されているほか,調査方針として,以下の記載がある。 「浸水被害の要因として,①河川水位上昇に伴う基盤漏水,②伏流水による地下水位上昇,③連続降雨による地下水位の上昇,④内水氾濫(地表水の流末処理不足),⑤河川水の逆流などが挙げられる。 これら要因のなかから,浸水被害の原因を究明し,今後の対策などを検討するためには,まず当該地の地盤状況ならびに地下水位状況といった基礎的な資料(データ)が必要である。」このような調査方針を受けて,①資料収集整理,②現地調査(試掘調査,調査ボーリング),③地下水位観測(観測井戸設置,地下水位観測),④考察・検討(当該地の地質状況ならびに水理特性, が必要である。」このような調査方針を受けて,①資料収集整理,②現地調査(試掘調査,調査ボーリング),③地下水位観測(観測井戸設置,地下水位観測),④考察・検討(当該地の地質状況ならびに水理特性,地下水位変動状況,浸水原因究明ならびに対策検討)を実施した。 (ウ) 業務内容調査会社は,本件浸水被害の原因を究明するため,地形概要,地質概要,水理特性についての文献や既存資料を収集整理した上,地盤の表層の透水性等を確認するため10箇所の試掘調査を行い,地質構造並びに透水性の把握等のための調査ボーリングや,地下水位観測用の井戸を設置するための観測井戸設置用ボーリング4箇所などの現地調査を実施し,さらに地下水位と河川(南派川)水位の関係を把握するために,公園内5地点と河川1地点に自動水位記録器を設置して,平成17年1月から3月末までの2か月間にわたって水位を測定した。 (エ) 浸水当時の状況a 降雨状況本件地域に近い一宮観測所の降雨記録によれば,平成16年は例年より降水量が多く,同年9月にも月間降水量は400ミリを超えていたところ,降り始め(19日0時)からの総降水量は194ミリで,20日9時から20時に141ミリの降雨が集中し,同日19時に最大1時間降水量28ミリを記録するなど,本件浸水被害時においては,前月より多くの雨があったところへ,例年の月間降水量相当の雨が集中した特異的な降雨条件にあったと考えられる。 b 河川水位大野ゲートで観測された河川水位(外水位)は,当初TP12.0メートル程度で安定していたが,20日9時ころから上昇を始め,21日0時から最高水位(TP16.56メートル)を示す同日3時までに急上昇し,その後低下している。河川水位が本件地域の地盤高(おおむねTP15メートル)より高い水位を示したのは,21日0時から9時ま 日0時から最高水位(TP16.56メートル)を示す同日3時までに急上昇し,その後低下している。河川水位が本件地域の地盤高(おおむねTP15メートル)より高い水位を示したのは,21日0時から9時までの約9時間に及ぶ。なお,大野ゲートの設置された堤防での河川水位の痕跡はTP16.63メートルを示しており,観測結果と同様であった。 また,木曽川上流の犬山観測所及び下流の笠松観測所における河川の水位も検討すると,上流の影響は早く本件地域に到達し,下流に伝わるのは遅い傾向があると考えられる。 c 浸水当時の情報桜の里団地の住民からの通報情報,大江排水機場における大野ゲート操作状況,消防ポンプ車による排水状況等をまとめた行動記録を表にまとめ,Aグランド,Bグランド,桜の園及び桜の里団地の平均地盤高と浸水水位の差に浸水面積を乗じて,総浸水量を4万3100立方メートルと算出した。 d 降雨の流出水による影響20日12時30分以降(大野ゲート閉門後)21日1時までの間に,本件地域に降雨が流入する地域(上流域)からの降雨の総流出量を約2万5000立方メートルと算出した。また,降雨場所から側溝などまでの流入時間は一般的に5分程度であり,側溝の平均流速は毎分30ないし60メートルであるとされているから,上流域から本件地域(最長約1.2キロメートル)への流達時間は45分となること,排水管路の総容量を約6300立方メートルと算出した。 これらによると,降雨によって公園などにあふれ出した流出量は約1万9000立方メートル(約2万5000立方メートルから排水管路の総容量約6300立方メートルを控除した量)であるが,これは浸水量約4万3000立方メートルの半分以下であること,流達時間は降雨終了1時間後であるはずであるのに,浸水が始まったのは降雨がおおむね終了した 約6300立方メートルを控除した量)であるが,これは浸水量約4万3000立方メートルの半分以下であること,流達時間は降雨終了1時間後であるはずであるのに,浸水が始まったのは降雨がおおむね終了した20日20時から4時間後に当たる21日0時30分であり,しかも,排水活動によって排水された総量はわずか4200立方メートルであるにもかかわらず,21日15時30分には全排水が完了していることなどから,本件地域内への降雨の流出水(内水氾濫)のみで,今回の浸水現象を説明することは困難であり,別の要因が関与していると判断できる。 e 浸出量と浸透量そこで,地盤の浸出量と浸透量について検討を行ったところ,浸水第一報から2時間後に床上浸水通報が寄せられていることから,その間に浸水水位が0.30メートル高くなったと仮定すると,その浸出量は1万5000立方メートルとなり,1分間に12万5000リットルの水が浸出したことになり,これが地盤より浸出したとすると,公園未舗装部1平方メートル当たり1分間約4リットルの浸出水が発生したことになる。また,排水活動,浸水水位の経緯からも,本件地域は,1分間に4リットル程度の浸出・浸透現象を生じ得る地盤であると考えられる。 f 排水施設の状況さらに,浸水水位を調査し,本件地域内の排水施設の水位跡から本件浸水被害における最高水位が,TP15.43メートルないしTP15.57メートルであること,Bグランドの平均浸水水位はTP15.31メートル,桜の園,Aグランド及び桜の里団地の平均浸水水位はTP15.47メートルであることが確認された。 そして,大野ゲートの開閉状況については,①行動記録によると,20日12時30分に閉門しており,これは大江排水樋管から排水を行うため運用規定に則って行われたものであること,②本件浸水被害後, れた。 そして,大野ゲートの開閉状況については,①行動記録によると,20日12時30分に閉門しており,これは大江排水樋管から排水を行うため運用規定に則って行われたものであること,②本件浸水被害後,施設のモニターは,大野ゲートが閉じていたと表示していたこと,③そのモニターの表示は,調査したところ正常に作動していたこと,④大野ゲートの門扉頂上に泥が残存していたから浸水当時門扉は河川水の中にあったこと,以上から,本件浸水被害当時大野ゲートは閉門していたといえる。 また,逆流防止装置について,①開閉扉式の逆流防止装置の桝内(つまり大野ゲート側)の水位もTP15.47メートルであって桜の園で確認された水位と一致していること,②開閉扉は自由に動いていたこと,③仮に土砂が堆積していたとしても,逆流が生じる場合には,函渠内で流速が速まり,それによって堆積土は排土され,門扉は閉まること,④浸水時に閉じた形跡がなかったことなどから,浸水時に排水函渠において扉を動かすような大きな流れは生じていないと判断できる。 桜の園及び桜の里団地の南側に域内の流出水を処理する排水路が設置されていること,排水路の天端にはグレーチングが数箇所設けられているが,排水路の天端よりも街路の方が低いため,排水路が満杯になると,流出水があふれることが知られていること,本件浸水被害時においても,グレーチングから水が噴き出ていたとの証言が得られていることなどから,上記排水路を流下する降雨流出水の流量が多くなると,グレーチングや側溝を通して桜の園や桜の里団地内に流れ出やすい状況にあると考えられる。 さらに,Bグランドの迂回排水管(逆流防止装置の付近から分岐し,桜の園,Aグランド,Bグランドを順次経由して大野排水樋管に接続する。)及びその開口蓋,Bグランドを調査し,泥水が逆流した形跡はなか 。 さらに,Bグランドの迂回排水管(逆流防止装置の付近から分岐し,桜の園,Aグランド,Bグランドを順次経由して大野排水樋管に接続する。)及びその開口蓋,Bグランドを調査し,泥水が逆流した形跡はなかったことが確認された。 g まとめ平成16年は過去最高の台風上陸数を記録し,浸水前月に当たる9月の月間降水量は400ミリを超えていた。そこへ例年の月間降水量に相当する総降水量194ミリの降雨が重なり,浸水被害が生じた。 浸水時の河川水位は,降雨が集中するころから上昇を始め,水位が堤内地盤を超えた21日0時30分に浸水第一報が寄せられ,その2時間後に床上浸水通報があり,さらに1時間後の同日3時に水位はピークに達した。水位がピークを示したのは降雨終了7時間後であり,水位が堤内地盤高さを超えた時間は約9時間にも及ぶ。このように時系列的には,河川水位の上昇と被害報告が一致している。 また,当該地と上下流側の観測所の水位波形記録より,当該地付近の河川水位の特徴として,上流の影響は早く到達するが,下流に伝わるのは遅い傾向がある。 大野ゲート閉門後の降雨に対する流出量を算出した結果,公園などにあふれ出た流量は,総浸出量の半分にも満たない。また降雨到達時間は1時間程度であるが,浸水第一報が寄せられたのは降雨終息4時間後であった。また排水活動以上に浸水水位が低下していることなどから,降雨の流出水つまり内水氾濫(地表水の排水機能低下)のみで今回の浸水現象を説明することは困難であり,別の要因も関与していると判断できる。 浸水当時の行動記録を基に,地盤より浸出及び浸透が生じたとしてその試算を行ったところ,浸出量と浸透量が同程度の値を示す結果が得られた。浸水当時,当該地の排水管路は閉じられた状態にあり,これ以外に水の供給及び提供先がないことから,地盤より浸出及び 生じたとしてその試算を行ったところ,浸出量と浸透量が同程度の値を示す結果が得られた。浸水当時,当該地の排水管路は閉じられた状態にあり,これ以外に水の供給及び提供先がないことから,地盤より浸出及び浸透が生じたと考えられる。また,河川水の逆流については,排水施設状況から,①浸水当時大野ゲートは閉門していたこと,②河川水が逆流すると水が引いた後は,浸水域全体に泥の堆積や流木などの残留物の形跡が残るはずであるが,Bグランド内及び排水管の枡内でこれらの形跡は確認されていないこと,③公園入口付近に設けられた逆流防止装置は,逆流が生じた場合には完全に閉じる構造を有しているが,浸水時に閉じた形跡を残していない,つまり,浸水当時,扉を動かすような大きな流れは生じていないこと,以上から,本件浸水被害当時に,排水管路を通じた河川水の逆流は生じていないと考えられる。 これまでのことから,河川水の逆流は要因として否定され,内水氾濫のみでの説明は困難である。しかしながら,降雨状況として非常に厳しい条件にあり,時系列的にも河川水位の上昇と被害報告が一致すること,行動記録から試算される地盤からの浸出及び浸透量が同程度であることから,降雨及び河川水位の影響を受けた地下水位の挙動が,浸水要因に大きく関与しているものと想定される。 そこで,浸水原因を究明するために,当該地を含む広範囲の地盤状況,地下水位状況について調査を実施することになった。 (オ) 当該地の特徴収集整理された資料によれば,本件地域は,木曽川扇状地(犬山扇状地)の扇端部に位置し,旧低水路に囲まれた旧中洲に分類される。旧地形図によれば,本件地域の南側の旧堤は江戸時代に築堤された「御囲い堤」であり,昭和初期まで新堤は連続していなかったことから,旧堤が洪水防禦を担っていた。北側の新堤は,昭和50年代に下 類される。旧地形図によれば,本件地域の南側の旧堤は江戸時代に築堤された「御囲い堤」であり,昭和初期まで新堤は連続していなかったことから,旧堤が洪水防禦を担っていた。北側の新堤は,昭和50年代に下流部を閉めきり,かさ上げが行われたが,それまでは高さも低かったことから,本件地域は,洪水時に河川水を一時的に貯留する遊水池として機能していたと考えられ,もともと水の集まりやすい条件にあったが,新堤の築堤後の現在も,同様の条件にある。 また,地質断面図等の資料によれば,帯水層である砂礫層の厚さが,本件地域の上流・下流では15メートル未満であるが,本件地域は15ないし20メートルと厚いことから,上流から流入した地下水が流れ込みやすく,下流へは流れにくい傾向があり,これらの地層の面からも本件地域の地下は,水が集まりやすい条件を有している。 そして,一宮気象水象観測所で観測された地下水位の月平均変動によると,年間の水位変動は,夏から秋にかけて上昇し,冬場には低下するなど,季節変動を有していること,第一礫層の地下水位分布状況によると,本件地域の等地下水位線は,地形線と同様に扇状を呈しており,扇頂から扇端部の方向が河川縦断方向と同じであることから,河川水位が地下水位に及ぼす影響は,横断方向よりも縦断方向の方が大きい傾向にあると考えられる。 (カ) 調査結果a 湧水跡調査湧水跡と思われる穴が70箇所確認されたことから,石膏を流し込んでこれらを調査し,Bグランド堤防法尻付近の穴から水の流れ出た痕跡が確認されるなどしたため,モグラの生息跡を介して水が出入りした結果形成されたものと考えられる。 b 試掘調査,調査ボーリング及び地下水位観測上記の各調査の結果,本件地域の表層は,層厚0.5メートル未満と薄く分布し,高い透水性(透水係数毎秒0.001センチメート 形成されたものと考えられる。 b 試掘調査,調査ボーリング及び地下水位観測上記の各調査の結果,本件地域の表層は,層厚0.5メートル未満と薄く分布し,高い透水性(透水係数毎秒0.001センチメートル以上)を有していること,その下には,玉石混じりの砂礫より成る第一礫層が20メートル程度分布するが,同層も透水性が高いこと,その下には細粒土から成る熱田層が6ないし7メートル分布し,その透水性は,第一礫層より2オーダー程度低いこと,その下には,玉石混じりの砂礫より成る第二礫層が分布し,その透水性は,第一礫層と同程度と判断されること,河川水位は地下水位より高く,地下水位も上流から下流方向へ低くなっていることなどが確認された。 (キ) 考察ならびに検討a 本件浸水被害の原因の考察上記の調査結果によれば,河川水位と地下水位の明瞭な連動性について検討することや,降雨と地下水位の明瞭な関係を見いだすことは困難であり,継続的な観測が必要である。もっとも,本件地域は,水が流れやすく,水の浸透及び浸出が容易な地盤から成り,その地下水は,河川の上流域からの涵養を含めた広域地下水の問題としてとらえる必要があるといえる。 これらの結果を総合すれば,本件浸水被害のメカニズムは,基本的には,地下水位の挙動が大きく関与しているが,これ以外に,①事前の降雨の影響より,地盤が飽和状態に近く,地下水位が河川水位や降雨の影響を敏感に受けやすい状態にあったこと,②例年の月間降水量に相当する豪雨が短時間に集中したこと,③降雨とともに域内にあふれ出した流出水が地盤に浸透し,地下水位の上昇を助長したこと,④河川水位が地盤高よりも上昇したこと,これらの事柄が複合したことにより生じたものと考えられる。 b 洪水時の応急対策の提案観測期間中の河川水位と降雨状況からは,地下水位と河川 上昇を助長したこと,④河川水位が地盤高よりも上昇したこと,これらの事柄が複合したことにより生じたものと考えられる。 b 洪水時の応急対策の提案観測期間中の河川水位と降雨状況からは,地下水位と河川水位及び降雨の詳細な関係は把握できなかったため,引き続き地下水位観測を行う必要があり,早期に効果的な対策を講ずることは困難である。そこで,今後の予想される浸水に対する応急対策について検討・提案を行う。 (a) 桜の里団地への流入防止のための遮水壁の設置地下水位の上昇に伴い,Aグランド及び桜の園公園の未舗装部1平方メートル当たり毎分4リットルの水が継続して浸出することになるため,この浸出水を,桜の園及びAグランドに一時的に貯留すべく,公園と団地との境に,今回の浸水水位TP15.47メートル以上の遮水壁を設置することが望ましい。 (b) 災害用ポンプの設置上記の一時貯留可能な水量を上回る浸出水については,Bグランドに排水貯留するために,毎秒0.5立方メートルの排水能力を有する災害用ポンプを設置する。 (c) Bグランドの排水桝のかさ上げと逆流防止弁の設置Bグランドと桜の園はφ600ミリの迂回排水管でつながっているため,Bグランドから桜の園への逆流を防止するために,迂回排水管の開口部をかさ上げするとともに,排水管に逆流防止弁を設置することが必要である。 (d) 桜の園及び桜の里排水溝の天端の開口部を閉鎖桜の里団地と桜の園は,南側に配置された排水管路でつながっていることから,浸出水がこの排水管路を通じて桜の里団地に流出することを防ぐため,この排水管路の天端に設けられた開口部(桝)を閉鎖する必要がある。 (e) 逆流防止装置の改良桜の園入口の南西端に設置された逆流防止装置は,逆流水の流速により閉じる構造となっているが,より確実に,人為的にも開閉 天端に設けられた開口部(桝)を閉鎖する必要がある。 (e) 逆流防止装置の改良桜の園入口の南西端に設置された逆流防止装置は,逆流水の流速により閉じる構造となっているが,より確実に,人為的にも開閉できるように改良する必要がある。 (f) ソフト対策大野ゲートの操作及び災害対策への機敏な対応についてのマニュアルの整備並びに関係機関への支援要請を含めた緊急連絡体制の検討が必要である。 ウ調査会社は,平成17年3月31日,本件報告書等を一宮市に提出したところ,同市は,検査員(副主監)によって完成検査を実施し,その結果,設計書及び仕様書のとおり施行されたものと認められたので,同年4月7日,建設部長が本件支出命令を発出し,同月15日,一宮市収入役Eにより,上記業務委託代金が調査会社に支払われた。 (3) 上記認定事実を基に,本件報告書の提出が本件契約に基づく給付行為と評価できるかについて検討する。 ア上記認定事実によれば,本件契約は,本件浸水被害の原因を究明し,今後の浸水被害の再発防止を検討することを目的として,資料収集整理,現地調査,地下水位観測,考察等を行うことを委託する内容であるところ,本件報告書によれば,調査会社は,本件契約書の特記仕様書に従い,地形概要,地質概要等の資料を収集整理し,地盤の表層の透水性等を確認するため10箇所の試掘調査を行い,地質構造等を確認するため調査ボーリングを実施し,地下水位観測用に4箇所の観測井戸を設置し,同井戸を用いて2か月間にわたって地下水位と河川水位の関係を調査し,本件浸水被害当時の資料(降雨データ,河川水位,行動記録,浸水状況)を整理し,これらの結果に基づいて,本件浸水被害の原因を考察し,対策を検討していることが明らかである。そして,資料の収集からその評価,これに基づく推論,結論の提示のどの過程に 位,行動記録,浸水状況)を整理し,これらの結果に基づいて,本件浸水被害の原因を考察し,対策を検討していることが明らかである。そして,資料の収集からその評価,これに基づく推論,結論の提示のどの過程においても,何らの不合理性を見いだせないから,本件契約に基づく債務の本旨に従った給付行為を行ったものと判断するのが相当である。 イこの点について,原告は,①ゲート操作や住民の目撃情報について調査していないこと,②光明寺排水管路の存在,迂回排水管の接続位置,ゲート等の重要なTP値を正確に示していないこと,③大野ゲートの開閉状況,地下水湧出説,逆流防止装置の状況についての推論が論理的でないこと,④応急対策提言が役に立たないことなどを理由に,本件報告書がずさんなものである旨主張する。 しかしながら,原告の指摘する本件報告書の問題点は,要するに,本件浸水被害が大野ゲートの誤操作(開門)による南派川からの逆流に起因するとの原告の主張を裏返して述べたものにすぎないところ,本件報告書は,各種の根拠を示して大野ゲートが閉鎖されていたと推論しつつ,多方面からの検討結果を基に,本件浸水被害が,地下水位の挙動を中心に,それ以外の複数の要因が複合的に影響し合って発生したものと結論づけており,その過程に何ら不合理な点は見いだせないことは前記のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。 ウよって,本件報告書が明らかにずさんなものであるとは到底いえないから,業務委託費について発出された本件支出命令及び本件支出がいずれも違法でないことは明らかである。 4 以上の次第で,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄 裁判官舟橋恭子 裁判官片山博仁別表省略

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