昭和28(う)770 麻薬取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和28年6月26日 東京高等裁判所 棄却
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【DRY-RUN】主    文      本件控訴を棄却する。          理    由  検察官の控訴趣意は別紙記載のとおりである。  そこで検討してみるに、本件控訴事実は「被告人Aは昭和二十一年八月二十一日

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判決文本文3,772 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 検察官の控訴趣意は別紙記載のとおりである。 そこで検討してみるに、本件控訴事実は「被告人Aは昭和二十一年八月二十一日より同二十三年九月二十八日迄の間三条市所在B病院において麻薬小売業者として法定の麻薬取扱者の免許を有していたものであるが、昭和二十三年八月頃業務の目的以外のために自己所有の麻薬ナルコポン末四・九瓦を三条市大字a字b町C方に於いて同人を介しDに譲渡したものである」というのであるところ、一件記録によると、右の事実関係は、被告人が昭和二十三年三月頃同じく薬剤師であつて麻薬取扱者の免許を受けていたCに対し自己のかねてから所有していた公訴事実記載の麻薬を他に売却してくれと依頼して交付し、その後別段催促もせずにいたところ、同年八月になつて同人は右の麻薬をDに売り渡し、その代金を被告人に交付したというのであること、そして被告人及びCの右の所為がその業務の目的以外のためにしたものであることが認められるのであつて、この場合問題となるのは、被告人がCにし他に売却方を依頼して麻薬を交付した昭和二十三年三月頃は麻薬取締規則の施行当時で、同規則によると、被告人のような麻薬取扱者は、たとえその業務の目的以外のためであつても、麻薬を販売し、授与し、使用し又は所持することが許されていたのに対し、その後同年七月十日に同規則に代つて麻薬取締法が施行され、その第三条第一、二項によると、麻薬取扱者であつても、その業務の目的以外のために麻薬を譲り渡す等の行為をすることは禁止され、この禁止に違反すれば処罰を受けるようになつたということ、いいかえればCがDに本件麻薬を売却した当時においてはその譲り渡し行為は違法な行為とされることになつたということである。 原判決は、かかる関係を前提として すれば処罰を受けるようになつたということ、いいかえればCがDに本件麻薬を売却した当時においてはその譲り渡し行為は違法な行為とされることになつたということである。 原判決は、かかる関係を前提として、被告人については同年三月頃麻薬をCに手交した際にその「譲り渡し」の行為が完了しているのであつて同年八月の代金授受の時に「譲り渡し」の行為が完成したとみるべきではない。しかるに被告人の譲り渡し行為は麻薬取締規則施行当時のもので、同規則によればこれを処罰することはできないのだから、結局被告人の行為は罪とならないものである、として無罪を言い渡したのであるが、これに対し、検察官の論旨は、(一)被告人がCに本件麻薬を手交した行為は麻薬取締規則第二十三条にいう「授与」ないしは麻薬取締法第三条にいう「譲り渡し」に該当せず、被告人は手交後においても依然として麻薬の所有権を保有しており、右麻薬については被告人とCとの間に共同所持の関係が存続している、(二)そして、同年七月十日麻薬取締法の施行後は右麻薬の不法所持につき被告人Cともに同法第三条違反の罪が成立する関係にあり、かく解する以上Cがこの麻薬を第三者に売却した行為はCの単独犯行と解することはできず、むしろ被告人の麻薬販売を幇助したものと見るべきである、(三)しかるに原判決は昭和二十三年八月頃被告人が麻薬を他に譲り渡したものではないとして無罪を言い渡したものであつて、右は事実の誤認であるか法令の適用の誤を胃したものであり、破棄を免れない、と主張するのである。 しかしながら、右に摘示した論旨を一読してもわかるとおり、Cが本件麻薬をDに売却した当時右の麻薬に対し被告人とCとの共同所持の関係が成立していたということから直ちにその売却行為が被告人の犯罪行為であるという結論は出てこないのであつて、論旨は肝要な点にお Cが本件麻薬をDに売却した当時右の麻薬に対し被告人とCとの共同所持の関係が成立していたということから直ちにその売却行為が被告人の犯罪行為であるという結論は出てこないのであつて、論旨は肝要な点において論理に飛躍があるといわなければならない。 いやしくも被告人に犯罪ありとしてこれを処罰するためには、そこになんらかの被告人の行為が存在しなければならぬことは当然の事理である。しかるに、麻薬取締法施行後被告人とCとの共同所持の関係が成立しているというのは一つの状態を意味するにすぎず、それ自体はなんらの行為でもない。それにもかかわらずCがその麻薬を他に売却したことによつて被告人の犯罪が成立するという論旨の理論構成は、刑法の大原則に反するものである。所論はその限りにおいて採ることができない。 思うに、本件の問題は、昭和二十三年八月頃Cが本件の麻薬をDに売却した事実からまず出発すべきであるが、右の売却行為は麻薬取締法上いかなる行為に該当するのであろうか。この点については結局麻薬取締法第三条第一項にいわゆる「譲り渡し」の意義が問題となるわけであつて、それにはこれを所有権移転行為の意に解する説と単なる占有の移転行為と解する説とが考えられる。しかるに最高裁判所昭和二十六年(あ)第三六三四号同二十七年四月十七日第一小法廷判決(刑事判例集第六巻四号六七八頁)は「麻薬の売却方を依頼して他人に交付することは、麻薬取締法第三条にいわゆる麻薬の譲渡にあたる」と判示しているのであつて、この判断は明らかに「譲り渡し」を占有の移転の意に解しているものと見なければならない。けだし売却方を依頼し交付するような場合には所有権はまだ依頼者に留保されているのが一般であるから、所有権移転説を採る以上はかかる場合にはまだ「譲り渡し」が完成したことにならない筋合だからである。そこで、かよ 却方を依頼し交付するような場合には所有権はまだ依頼者に留保されているのが一般であるから、所有権移転説を採る以上はかかる場合にはまだ「譲り渡し」が完成したことにならない筋合だからである。そこで、かような判例の解釈に従つて考えてゆくと、麻薬の売却方を依頼しこれを被依頼者に交付すればそれだけで「譲り渡し」の罪が成立するとともに、被依頼者がこれをさらに他に売却して交付すれば、その際さらにその被依頼者自身の「譲り渡し」の罪が成立することになる。これは占有移転説を採る以上当然の帰結で、これを本件について見れば、Cが本件麻薬をDに売却交付した所為は、C自身の「譲り渡し」に該当するのである(論旨は、Cの所為は、幇助だというが、それは論旨が所有権移転説を前提としているからで、なるほど所有権移転説をとれば所有者でない者は正犯たりえないから従犯だというほかはないであろう。しかしこの前提は当裁判所の採るところではない。)それゆえ、原判決が同年八月には被告人の「譲り渡し」の行為は存在せず、被告人のそれは同年三月に完了していると判示したのは、(厳密にいうとその当時は麻薬取締法は施行されておらず、従つて「譲り渡し」という同法上の概念をそこに使用したのはやや語弊があるけれども)正当であるといわなければならない。もつとも、それでは被告人はCの右「渡し」につき無関係なのかと問われればもとよりそうではない。すでに認定したところからして明らかなように、Cが麻薬をDに譲り渡したのは被告人の依頼によるものであり、Cは被告人の依頼によつて右麻薬の譲渡を決意したもの<要旨>であるから、その依頼行為は観念上教唆をもつて目すべきものであろう。しかしながら、被告人がCに対し</要旨>売却方を依頼したのは前述のように同年三月頃のことで、被告人自身が麻薬を売却してもCがこれを売却してもそれ 依頼行為は観念上教唆をもつて目すべきものであろう。しかしながら、被告人がCに対し</要旨>売却方を依頼したのは前述のように同年三月頃のことで、被告人自身が麻薬を売却してもCがこれを売却してもそれは禁ぜちれていなかつた時の出来ごとである。罪とならない時代の行為が後に至つて処罰せらるべきでないことは日本国憲法第三十九条の明定するところであつて教唆犯といえどもその処罰はあくまで教唆行為そのものに由来するのである以上、被告人の右の所為は罪とならないものといわなければならない。教唆犯が正犯の行為を俟つて成立するということを理由としてこの場合も被告人の処罰を肯定するがごときは、明らかに従属性理論を誤解したものである。そして、本件においては、被告人は前記の依頼をした後なんらの催促もしないでそのままにしていたというのであつてみれば、麻薬取締法施行後においては被告人の行為としてはなんら処罰に値するものがないというほかはない。強いていうならば麻薬取締法施行後Cに対し売却の委託を取り消さなかつたという不作為が問題となるわけであるが、この不作為をCの譲渡に対する加担行為と解することはなお疑問であるのみならず、被告人がCを介して麻薬を譲り渡したという本件訴因はいずれにしても認められないことに帰するので、原判決が被告人に対し無罪を言い渡したのは結局正当であるというべきである。論旨は理由がない。 以上の次第であるから、刑事訴訟法第三百九十六条に従い本件控訴を棄却することとし主文のとおり判決する。 (裁判長判事大塚今比古判事山田要治判事中野次雄)

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