平成30(行コ)1 原爆症認定申請却下処分取消等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和2年6月22日 広島高等裁判所 その他 広島地方裁判所 平成22(行ウ)29
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判決文本文230,561 文字)

主文 1 原判決中,控訴人A2,控訴人A3(申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分に限る。),控訴人A4(申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分に限る。),控訴人A6(申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分に限る。),控訴人A10(申請疾病を急性心筋梗塞とする部分に限る。)に関する部分を取り消す。 2 厚生労働大臣が平成22年2月23日付けで控訴人A2に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 3 厚生労働大臣が平成22年7月29日付けで控訴人A3に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下 する処分(申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分に限る。)を取り消す。 4 厚生労働大臣が平成22年7月29日付けで控訴人A4に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分(申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分に限る。)を取り消す。 5 厚生労働大臣が平成22年11月26日付けで控訴人A6に対してした原子 爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分(申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分に限る。)を取り消す。 6 厚生労働大臣が平成24年12月14日付けで控訴人A10に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分(申請疾病を急性心筋梗塞とする部分に限る。)を取り消す。 7 控訴人A3,控訴人A4,控訴人A6及び控訴人A10のその余の本件各控訴並びにその余の控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。 8 訴訟費用は,控訴人A2,控訴人A3,控訴人A4,控訴人A6及び控訴人A A3,控訴人A4,控訴人A6及び控訴人A10のその余の本件各控訴並びにその余の控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。 8 訴訟費用は,控訴人A2,控訴人A3,控訴人A4,控訴人A6及び控訴人A10と被控訴人との間では,同各控訴人らと被控訴人の間で生じたものをそれぞれ第1,2審を通じて3分し,その2を同各控訴人らの負担とし,その余 を被控訴人の負担とし,その余の控訴人らと被控訴人との間で生じた控訴費用 は,同控訴人らの負担とする。 事実 及び理由第1章控訴の趣旨第1 原判決中,控訴人らに関する部分を取り消す。 第2 厚生労働大臣が,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基 づき,原判決別紙「被爆実態一覧」記載の各控訴人(ただし,控訴人Bらを除く。)及びA1の各原爆症認定申請に対して行った同別紙中「原処分」欄記載の各却下処分をいずれも取り消す。 第2章事案の概要(以下,特に断らない限り,書証番号は第1事件のものである。)第1 要旨 本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条に該当する者として被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者である控訴人ら(ただし,控訴人Bらを除く。)及びA1(同人は,原審の訴訟係属中に死亡し,控訴人Bらがその地位を承継した。)が,厚生労働大臣に対し,同法11条1項に基づき,同項に定める認定(以下「原爆症認定」という。)の申請 をしたところ,厚生労働大臣から各却下処分(包括して,以下「本件各処分」という。)を受けたため,その取消しを求めた事案である。 原審が控訴人らの各請求をいずれも棄却したので,控訴人らが本件各控訴を提起した。 なお,控訴人らは,原審において,被控訴人に対し,本件各処分が被爆者援 め,その取消しを求めた事案である。 原審が控訴人らの各請求をいずれも棄却したので,控訴人らが本件各控訴を提起した。 なお,控訴人らは,原審において,被控訴人に対し,本件各処分が被爆者援 護法に反する違法行為に当たるとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等として各300万円(ただし,控訴人Bらについては各150万円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めていた。原審は,これらの請求もいずれも棄却したが,控訴人らは不服申立てをしなかった。 第2 法令の定め等 1 被爆者援護制度の概要 被爆者の定義被爆者援護法において,「被爆者」とは,次の各号のいずれかに該当する者であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(被爆者援護法1条)。 1号原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(以下「直接被爆者」と いうことがある。)2号原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間(広島市に投下された原子爆弾〔以下「広島原爆」という。〕については昭和20年8月20日まで,長崎市に投下された原子爆弾〔以下「長崎原爆」という。〕については同月23日まで)内に前号に規定する区域のうち政令で定め る区域内(おおむね爆心地から2km以内の区域)に在った者(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令〔以下「被爆者援護法施行令」という。〕1条2項,3項,別表第二)(以下「入市被爆者」ということがある。)3号前二号に掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後におい て,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者4号前三号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者被 が投下された際又はその後におい て,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者4号前三号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者被爆者健康手帳被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地の都道府県知事 (広島市又は長崎市にあっては,当該市の長〔被爆者援護法49条〕であり,この項及び次項において同じである。)に申請しなければならず,都道府県知事は,同申請に基づいて審査し,申請者が被爆者に該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する(同法2条1項,3項)。 被爆者に対する援護 ア健康管理 都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行い,同診断の結果必要があると認めるときは,当該診断を受けた者に対し,必要な指導を行う(被爆者援護法7条,9条)。 イ医療の給付厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病に かかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病(以下「疾病等」という。)が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(被爆者援護法10条1項)。 上記医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送であり,これら医療の給付は,厚生労働大臣が指定する医療機関(以下「指定医療機関」と いう。)に委託して行う(被 の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送であり,これら医療の給付は,厚生労働大臣が指定する医療機関(以下「指定医療機関」と いう。)に委託して行う(被爆者援護法10条2項,3項)。 上記医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該疾病等が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない(被爆者援護法11条1項)。 ウ一般疾病医療費の支給 厚生労働大臣は,被爆者が,疾病等(上記イの医療の給付を受けることができる疾病等,遺伝性疾病及び先天性疾病等を除く。)につき,都道府県知事が指定する医療機関から上記イに掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関以外の者からこれらの医療を受けたときは,その者に対し,当該医療に要した費用の額を限度として,一 般疾病医療費を支給することができる(被爆者援護法18条1項本文)。 エ医療特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者であって,当該認定に係る疾病等の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する。 上記の者は,医療特別手当の支給を受けようとするときは,上記要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない。 医療特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき13万5400円とする(支給額は,後記ケの規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。現在の額は14万1360円である。)。 医療特別手当の支給は,上記認定を受けた者が同認定の申請をした日の 属する月の翌月から始め,上記要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(被爆者援護法24条)。 オ特別手当の支給都道府県知事は 当の支給は,上記認定を受けた者が同認定の申請をした日の 属する月の翌月から始め,上記要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(被爆者援護法24条)。 オ特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者に対し,その者が医療特別手当の支給を受けている場合を除き,特別手当を支給する。 上記の者は,特別手当の支給を受けようとするときは,上記要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない。 特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき5万円とする(支給額は,後記ケの規定により,平成17年以降ほぼ1年ごとに改定され,現在は5万2200円である。)。 特別手当の支給は,上記認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(被爆者援護法25条)。 カ健康管理手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他 の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響による ものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,その者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合を除き,健康管理手当を支給する。 健康管理手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき3万3300円とする(被爆者援護法27条。支給額は,後記ケの 規定により,平成17年以降ほぼ1年ごとに改定され,現在は3万4770円である。)。 キ保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際爆心地から2kmの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し,こ れらの者が医療特別手当,特別手当,原子爆 保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際爆心地から2kmの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し,こ れらの者が医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当又は健康管理手当の支給を受けている場合を除き,保健手当を支給する。 保健手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき1万6700円(厚生労働省令で定める範囲の身体上の障害〔原子爆弾の傷害作用の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。〕があ る者,配偶者,子及び孫のいずれもいない70歳以上の者であって同居者がいないものは3万3300円)とする(被爆者援護法28条。支給額は,後記ケの規定により,平成17年以降ほぼ1年ごとに改定され,現在はそれぞれ,1万7440円,3万4770円である。)。 クその他の手当等の支給 都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者等に対し,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条),介護手当(同法31条)等を支給する。 ケ手当額の自動改定医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が 平成5年(上記各手当の額の改定の措置が講じられたときは,直近の当該 措置が講じられた年の前年)の物価指数を超え,又は下るに至った場合においては,その上昇し,又は低下した比率を基準として,その翌年の4月以降の当該手当の額を改定するものとし,その改定の措置は,政令で定める(被爆者援護法29条,同法施行令17条)。 2 原爆症認定の手続等 原爆症認定の申請原爆症認定を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事を経由して,厚生労働大 ,同法施行令17条)。 2 原爆症認定の手続等 原爆症認定の申請原爆症認定を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項)。 上記申請書は,①被爆者の氏名,性別,生年月日及び居住地並びに被爆者 健康手帳の番号,②疾病等の名称,③被爆時の状況(入市の状況を含む。),④被爆直後の症状及びその後の健康状態の概要,⑤医療の給付を受けようとする指定医療機関の名称及び所在地等を記載した所定の様式の認定申請書によらなければならない。また,上記申請書には,当該疾病等に係る医師の意見書及び検査成績を記載した書類を添えなければならず,同意見書には,既 往症,現症所見,当該疾病等に関する原子爆弾の放射線起因性等についての医師の意見及びその理由,必要な医療の内容及び期間等を記載すべきものとされている(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則12条)。 審議会等の意見聴取厚生労働大臣は,原爆症認定を行うに当たっては,当該疾病等が原子爆弾 の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかであるときを除き,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなければならない(被爆者援護法11条2項)。上記審議会等は,厚生労働省に置かれた疾病・障害認定審査会である(被爆者援護法施行令9条,厚生労働省組織令132条,133条)。 疾病・障害認定審査会は,委員30人以内で組織されるとともに,必要に 応じて臨時委員及び専門委員を置くことができ,委員,臨時委員及び専門委員は,学識経験のある者のうちから厚生労働大臣が任命する(疾病・障害認定審査会令1条,2 組織されるとともに,必要に 応じて臨時委員及び専門委員を置くことができ,委員,臨時委員及び専門委員は,学識経験のある者のうちから厚生労働大臣が任命する(疾病・障害認定審査会令1条,2条)。同審査会には,被爆者援護法の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会として,原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」という。)が置かれ,医療分科会に属 すべき委員,臨時委員及び専門委員は,厚生労働大臣が指名する(同審査会令5条1項,2項)。 認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき原爆症認定をしたときは,その者の居住地の都道府県知事を経由して,認定書を交付する(被 爆者援護法施行令8条4項)。 3 原爆症認定に関する審査の方針旧審査の方針医療分科会は,平成13年5月25日,以下の内容の「原爆症認定に関する審査の方針」(以下「旧審査の方針」という。)を定め,原爆症認定に係る 審査は,これに定める方針を目安として行うものとした(乙A2)。 ア原爆放射線起因性の判断 判断に当たっての基本的な考え方申請に係る疾病等における原爆放射線起因性の判断に当たっては,原因確率(疾病等の発生が原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると 考えられる確率)及びしきい値(一定の線量以上の放射線に被曝しなければ疾病等が発生しないとされる場合の当該被曝線量。一般に,ある特定の影響が被曝した者の少なくとも1~5%に生ずるのに必要な放射線の線量を表す〔乙C13の21〕。)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,① おおむね50% )を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,① おおむね50%以上である場合には,当該申請に係る疾病の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定し,②おおむね10%未満である場合には,当該可能性が低いものと推定した上で,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案して判断を行う。また,原因確率又はしきい値が設けられていない疾病等に係る 審査に当たっては,当該疾病等には原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別に判断する。 原因確率 原因確率は,白血病,胃がん,大腸がん,甲状腺がん,乳がん,肺がん,肝臓がん,皮膚がん(悪性黒色腫を除く。),卵巣がん,尿路系がん(膀胱がんを含む。),食道がん,その他の悪性新生物及び副甲状腺機能亢進症について,それぞれ,申請者の性別,被曝時年齢及び被曝線量に応じた所定の率とする。 しきい値放射線白内障のしきい値は,1.75シーベルトとする。 原爆放射線の被曝線量の算定申請者の被曝線量は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放射線(誘導放射線)による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を 加えて得た値とする。そして,①初期放射線による被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離(2.5kmまで)の区分に応じた所定の値とし(ただし,被爆時に遮蔽があった場合の初期放射線による被曝線量は,被爆状況により0.5~1を乗じて得た値とする。),②残留放射線による被曝線量は,申請者の被爆地,爆 まで)の区分に応じた所定の値とし(ただし,被爆時に遮蔽があった場合の初期放射線による被曝線量は,被爆状況により0.5~1を乗じて得た値とする。),②残留放射線による被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆 については700mまで,長崎原爆については600mまで)及び爆発 後の経過時間(広島原爆については72時間まで,長崎原爆については56時間まで)の区分に応じた所定の値とし,③放射性降下物による被曝線量は,原爆投下の直後に特定の地域(広島原爆については己斐又は高須〔以下「己斐・高須地区」という。〕,長崎原爆については西山3,4丁目又は木場〔以下「西山地区」という。〕)に滞在し,又はその後, 長期間にわたって当該特定の地域に居住していた場合について,所定の値(広島原爆については0.6~2センチグレイ,長崎原爆については12~24センチグレイ)とする。 イ要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 新しい審査の方針ア新審査の方針の定め医療分科会は,平成20年3月17日,「新しい審査の方針」(以下「新審査の方針」という。)を定めた。原爆症認定に係る審査に当たっては,被爆者援護法の精神に則り,より被爆者救済の立場に立ち,原因確率を改め, 被爆の実態に一層即したものとするため,これに定める方針を目安として行うものとした(乙A1)。新審査の方針は,平成21年6月22日,一部改定された(乙A13)。この内容(改定後のもの)は,以下のとおりである。 放射線起因性の判断 a 積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2km以内に入市した者又は おりである。 放射線起因性の判断 a 積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2km以内に入市した者又は③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2km以内の地点に1週間程度以上滞在した者か ら,放射線起因性が推認される以下の疾病についての申請がある場合 については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する(このような取扱いを受ける疾病につき,以下「積極認定対象疾病」ということがある。)。 悪性腫瘍(固形がんなど)⒝ 白血病 ⒞ 副甲状腺機能亢進症⒟ 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)放射線起因性が認められる心筋梗塞⒡ 放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症(平成21年6月22日改定により付加された。) ⒢ 放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変(同上)この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料がない場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 b それ以外の申請について上記aに該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断する。 要医療性の判断 要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 イ新審査の方針の平成25年改定医療分科会は,平成25年12月16日,新審査の方針を以下のとおり再改定した(以下,「新審査の方針」というときは,特に断 該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 イ新審査の方針の平成25年改定医療分科会は,平成25年12月16日,新審査の方針を以下のとおり再改定した(以下,「新審査の方針」というときは,特に断らない限り,この改定内容を含むものとする。乙A22)。 放射線起因性の判断 放射線起因性の要件該当性の判断は,科学的知見を基本としながら,総合的に実施するものである。特に,被爆者救済及び審査の迅速化の見地から,現在の科学的知見として放射線被曝による健康影響を肯定できる範囲に加え,放射線被曝による健康影響が必ずしも明らかでない範囲を含め,次のように「積極的に認定する範囲」を設定する。 a 積極的に認定する範囲悪性腫瘍(固形がんなど),白血病及び副甲状腺機能亢進症の各疾病については,①被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2km以内に入市した者,③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約 2週間以内の期間に,爆心地から約2km以内の地点に1週間程度以上滞在した者のいずれかに該当する者から申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を原則的に認定する。 ⒝ 心筋梗塞,甲状腺機能低下症及び慢性肝炎・肝硬変の各疾病につ いては,①被爆地点が爆心地より約2km以内である者,②原爆投下より翌日までに爆心地から約1km以内に入市した者のいずれかに該当する者から申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する。 ⒞ 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)については,被爆地点が爆心地より約1.5km以内である者から申請がある 事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する。 ⒞ 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)については,被爆地点が爆心地より約1.5km以内である者から申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,被曝した放射線との関係を積極的に認定する。 これらの場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため, 申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な 資料がない場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 b それ以外の申請について上記aに該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起 因性を総合的に判断する。 要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 第3 前提事実(当事者間に争いがない事実,公知の事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる前提事実) 1 原子爆弾の投下アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)軍は,昭和20年8月6日午前8時15分,広島市に原子爆弾(広島原爆)を投下した。また,アメリカ軍は,同月9日午前11時2分,長崎市に原子爆弾(長崎原爆)を投下した。 2 控訴人らについて 控訴人Bらア A1(昭和4年▲月▲日生の女性)は,広島原爆に係る被爆者援護法1条の被爆者である(被爆時年齢16歳)。 A1は,平成17年3月11日,甲状腺機能低下症及び甲状腺腫瘤(多発性)を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件A1申請」という。) をしたが,厚生労働大臣は,平成18年3月27日,同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健第J1号)をした。 腺腫瘤(多発性)を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件A1申請」という。) をしたが,厚生労働大臣は,平成18年3月27日,同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健第J1号)をした。 A1は,平成18年4月1日同処分がされたことを知り,同年5月9日同処分に対して異議を申し立てたが,平成22年3月18日棄却された(厚生労働省発健J8号)。A1は,同年4月6日異議申立てが棄却されたこと を知った。(乙C1の1・8・10・17) A1は,平成22年10月5日,本件訴えを提起した。 イ A1は,平成26年12月30日死亡した。A1の子である控訴人BらがA1を相続し,本件訴訟上のA1の地位を承継した。 控訴人A2控訴人A2(昭和18年▲月▲日生の男性)は,広島原爆に係る被爆者援 護法1条の被爆者である(被爆時年齢2歳)。 控訴人A2は,平成18年9月4日,甲状腺機能低下症を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A2申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成22年2月23日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J2号)をした。 控訴人A2は,平成22年3月18日同処分がされたことを知り,同年4月6日同処分に対して異議を申し立てた。(乙C2の1・10・12)控訴人A2は,平成22年10月5日本件訴えを提起した。 控訴人A3控訴人A3(昭和7年▲月▲日生の女性)は,広島原爆に係る被爆者援護 法1条の被爆者である(被爆時年齢13歳)。 控訴人A3は,平成20年6月20日,甲状腺機能低下症,狭心症及び高血圧を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A3申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成22年7月29日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J3 甲状腺機能低下症,狭心症及び高血圧を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A3申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成22年7月29日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J3号)をした。 控訴人A3は,平成22年9月1日同処分がされたことを知り,同月21日同処分に対して異議を申し立てた。(乙C8の1・5・7)控訴人A3は,平成23年1月27日本件訴えを提起した。 控訴人A4控訴人A4(昭和16年▲月▲日生の男性)は,広島原爆に係る被爆者援 護法1条の被爆者である(被爆時年齢4歳)。 控訴人A4は,平成20年3月26日,甲状腺機能低下症及び脳梗塞後遺症を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A4申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成22年7月29日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J3号)をした。 控訴人A4は,平成22年9月1日同処分がされたことを知り,同月7日 同処分に対して異議を申し立てた。(乙C9の1・7・9)控訴人A4は,平成23年1月27日本件訴えを提起した。 控訴人A5控訴人A5(昭和10年▲月▲日生の女性)は,広島原爆に係る被爆者援護法1条の被爆者である(被爆時年齢10歳)。 控訴人A5は,平成19年10月30日,甲状腺機能低下症を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A5申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成22年2月23日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J2号)をした。 控訴人A5は,平成22年3月6日同処分がされたことを知り,同年4月 16日同処分に対して異議を申し立てたが,平成23年6月24日棄却された(厚生労働省発健J9号)。(乙C14の1・5・7・11)控訴人A5は 2年3月6日同処分がされたことを知り,同年4月 16日同処分に対して異議を申し立てたが,平成23年6月24日棄却された(厚生労働省発健J9号)。(乙C14の1・5・7・11)控訴人A5は,平成23年8月31日本件訴えを提起した。 控訴人A6控訴人A6(昭和19年▲月▲日生の女性)は,広島原爆に係る被爆者援 護法1条の被爆者である(被爆時年齢1歳)。 控訴人A6は,①平成18年11月9日,脳内出血後遺症,脳梗塞,貧血及び高血圧症を申請疾病とする原爆症認定の申請,②平成20年12月25日,脳出血後遺症,脳梗塞及び甲状腺機能低下症を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下,併せて「本件控訴人A6申請」という。)をした。しかし, 厚生労働大臣は,上記①について平成22年2月23日,上記②について同 年11月26日,各申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J2号,同J4号)をした。 控訴人A6は,上記①について,平成22年3月18日同処分がされたことを知り,同年4月26日同処分に対して異議を申し立て,上記②について,同年12月23日同処分がされたことを知り,平成23年1月19日同処分 に対して異議を申し立てた。しかし,上記①についての異議申立ては,平成23年7月29日棄却された(厚生労働省発健J10号)。(乙C15の1・5・7・11・12・18・20)控訴人A6は,平成23年8月31日本件訴えを提起した。 控訴人A7 控訴人A7(昭和12年▲月▲日生の男性)は,広島原爆に係る被爆者援護法1条の被爆者である(被爆時年齢7歳)。 控訴人A7は,平成20年4月25日,心筋梗塞を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A7申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成22年7月29日 被爆者である(被爆時年齢7歳)。 控訴人A7は,平成20年4月25日,心筋梗塞を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A7申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成22年7月29日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J3 号)をした。 控訴人A7は,平成22年9月1日同処分がされたことを知り,同月16日同処分に対して異議を申し立てたが,平成24年1月27日棄却された(厚生労働省発健J11号)。控訴人A7は,同年2月17日異議申立てが棄却されたことを知った。(第3事件乙C1の1・4・6・10) 控訴人A7は,平成24年8月7日本件訴えを提起した。 控訴人A8控訴人A8(昭和3年▲月▲日生の男性)は,広島原爆に係る被爆者援護法1条の被爆者である(被爆時年齢16歳)。 控訴人A8は,平成21年2月16日,心筋梗塞を申請疾病とする原爆症 認定の申請(以下「本件控訴人A8申請」という。)をしたが,厚生労働大臣 は,平成22年11月26日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J4号)をした。 控訴人A8は,平成22年12月10日同処分がされたことを知り,平成23年2月7日同処分に対して異議を申し立てたが,平成24年2月24日棄却された(厚生労働省発健J12号)。控訴人A8は,平成24年3月6日 異議申立てが棄却されたことを知った。 (第3事件乙C2の1・6・8・14)控訴人A8は,平成24年8月31日本件訴えを提起した。 控訴人A9控訴人A9(昭和5年▲月▲日生の女性)は,広島原爆に係る被爆者援護法1条の被爆者である(被爆時年齢14歳)。 控訴人A9は,平成22年3月25日,甲状腺機能低下症を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A9申請」という。) 原爆に係る被爆者援護法1条の被爆者である(被爆時年齢14歳)。 控訴人A9は,平成22年3月25日,甲状腺機能低下症を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A9申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成23年7月29日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J5号)をした。 控訴人A9は,平成23年8月12日同処分がされたことを知り,同月2 3日同処分に対して異議を申し立てたが,平成24年7月27日棄却された(厚生労働省発健J13号)。控訴人A9は,平成24年8月4日異議申立てが棄却されたことを知った。(第2事件乙C5の1・6・7・12)控訴人A9は,平成25年2月1日本件訴えを提起した。 控訴人A10 控訴人A10(昭和16年▲月▲日生の男性)は,広島原爆に係る被爆者援護法1条の被爆者である(被爆時年齢3歳)。 控訴人A10は,平成24年6月21日,急性心筋梗塞及び白内障(両眼)を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A10申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,同年12月14日同申請を却下する旨の処分(厚 生労働省発健J6号)をした。 控訴人A10は,平成25年1月16日同処分がされたことを知り,同年2月18日同処分に対して異議を申し立てた。 (第2事件乙C7の1・4・5)控訴人A10は,平成25年3月11日本件訴えを提起した。 控訴人A11控訴人A11(大正15年▲月▲日生の男性)は,広島原爆に係る被爆者 援護法1条の被爆者である(被爆時年齢19歳)。 控訴人A11は,平成26年9月18日,右白内障を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A11申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成27年6月15日同申請を却下する旨の 9歳)。 控訴人A11は,平成26年9月18日,右白内障を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件控訴人A11申請」という。)をしたが,厚生労働大臣は,平成27年6月15日同申請を却下する旨の処分(厚生労働省発健J7号)をした。控訴人A11は,平成27年7月15日同処分がされたこ とを知った。(第5事件乙C1・2)控訴人A11は,平成28年1月14日本件訴えを提起した。 控訴人Bらを除く控訴人らの上記各申請は,いずれも新審査の方針の下で審査が行われた。A1の申請は旧審査の方針の下で審査が行われたが,異議申立ては新審査の方針の下で審査された。 3 放射線の危険性,種類及び単位,被曝の態様等放射線の危険性放射線による人の健康に及ぼす危険については,DNAの二重鎖を切断することによるなどと説明されているが,未だ科学的に十分に解明されているとはいえない(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住 民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律1条参照)。 放射線の種類原子爆弾による被曝が問題となる放射線の種類には,アルファ線,ベータ線,ガンマ線及び中性子線がある。なお,物質が放射線を放出する能力のこ とを放射能という。(乙B133,158,159) アアルファ線2個の陽子及び2個の中性子(ヘリウム原子核)から成る粒子線である。 ラジウム,プルトニウム,ラドン等の特定の放射性原子の自然崩壊により発生する。質量が大きく,正の電荷を帯びている。また,物質との相互作用が強く,物質通過中に急速にエネルギーを失うため,透過力は極めて小 さい。空気中では数cm程度しか飛ばず,薄い紙1枚で完全に停止させることができる。 よっ いる。また,物質との相互作用が強く,物質通過中に急速にエネルギーを失うため,透過力は極めて小 さい。空気中では数cm程度しか飛ばず,薄い紙1枚で完全に停止させることができる。 よって,アルファ線被曝により健康影響が現れるのは,アルファ線を放出する物質が体内に摂取されたとき(内部被曝)である。 (乙B60,61)イベータ線 陽子や中性子の約2000分の1の質量を持つ高速度の電子から成る粒子線である。トリチウム,炭素14,ストロンチウム90等の特定の放射性物質の自然崩壊により発生する。負の電荷を帯びている。空気中では数十cmないし数mの距離まで届くが,数mmないし1cmの厚さのアルミニウム板やプラスチック板により,完全に停止させることができる。 アルファ線と同様,健康影響が生じるのは主に内部被曝の場合である。 (乙B60,61)ウガンマ線原子核から放出される電磁波である。コバルト60やセシウム137等の放射性物質の自然崩壊により発生する。質量も電気も持たないため,物 質との相互作用の程度が他の放射線に比べて弱い。物質中を通過する際にエネルギーを失いにくいため,透過力が大きい。(乙B60,61)エ中性子線電気を持たない中性子から成る粒子線である。ウランやプルトニウム等の核分裂により発生する。透過力は大きい。水素の原子核(正の電荷を帯 びた陽子)にぶつかることにより電離を引き起こし,障害を誘発する。吸 収線量が同じであれば,ガンマ線よりも中性子線の方が人体に与える影響は大きい。誘導放射線(後記ア)を発生させる原因となる。(乙B60,61)放射線に関する単位放射線の量は,放射線が物質や人体に及ぼす作用や影響 線よりも中性子線の方が人体に与える影響は大きい。誘導放射線(後記ア)を発生させる原因となる。(乙B60,61)放射線に関する単位放射線の量は,放射線が物質や人体に及ぼす作用や影響の大きさにより評 価され,複数の線量及び単位が定義されて用いられている。 ア照射線量(空気をどれだけ電離できるか)放射線(ガンマ線又はエックス線)について,ある場所における空気を電離する能力を表す線量をいう。単位は,クローン毎キログラム(C/kg)やレントゲン(R)が用いられる。(乙B61,160) イ吸収線量(放射線のエネルギーがどれだけ物質に吸収されたか)放射線が物質と相互作用を行った結果,その物質(人体を含む。)の単位質量当たり吸収されたエネルギーの線量をいう。単位はグレイが用いられ,1グレイは物質1kg中に1ジュールのエネルギー吸収があるときの吸収線量である。かつて吸収線量の単位はラドが用いられており,1グレイ(1 00センチグレイ)は100ラドに等しい(1レントゲンは,概ね0.87ラドに相当する。)。(乙B61,133,160,161)ウ等価線量(ある組織・臓器への影響はどれくらいか)人体に放射線が当たった場合,同一の吸収線量であっても放射線の種類やエネルギーにより受ける影響の程度は異なるところ,条件の異なった放 射線照射により人体が受けるリスク(危険度)を表した線量である。吸収線量の単位をグレイとしたときの等価線量の単位はシーベルトである(1ミリシーベルト=0.001シーベルト)。吸収線量に放射線の種類ごとに定められた放射線荷重係数(ベータ線及びガンマ線は1,アルファ線は20,中性子線はエネルギーにより2.5~約20)を乗じて,その総和と して算出される ーベルト)。吸収線量に放射線の種類ごとに定められた放射線荷重係数(ベータ線及びガンマ線は1,アルファ線は20,中性子線はエネルギーにより2.5~約20)を乗じて,その総和と して算出される。(乙B61,160) エ実効線量(人体が受けるリスクの大きさはどのくらいか)人体が放射線を受けた場合,等価線量が同じであっても,その影響の現れ方は,人体の組織・臓器によって異なるところ,人体の色々な組織に対する影響を合計して評価するための単位として表した線量である。等価線量に組織・臓器ごとに定められた放射線感受性を表す組織荷重係数を乗じ, これらを加え合わせて算出される。単位はシーベルトである。(乙B61,160,161)放射線被曝の態様ア原子爆弾による放射線には,ウラン235(広島原爆)又はプルトニウム239(長崎原爆)が臨界状態に達し爆弾が爆発する直前に瞬時に放出 された放射線で,ガンマ線及び中性子線を主要成分(このうちガンマ線が90%以上)とする初期放射線と,その後放出された残留放射線がある。 残留放射線は,誘導放射線と放射性降下物による放射線に分かれる。誘導放射線は,地上に到達した初期放射線の中性子が,土壌や建築物等を構成する物質中の特定の元素の原子核と反応を起こし(誘導放射化),これに よって生じた放射性物質が放出する放射線である。 また,放射性降下物による放射線は,核分裂生成物(放射性粒子)や分裂しなかった核分裂物質で雨とともに又は単独で地上に降り注いだものが放出する放射線である。放射性降下物は,広島原爆においては爆心地の西側の己斐・高須地区で,長崎原爆においては爆心地の東側の西山地区で多 く観測された。(乙B3〔6・348頁〕,121,133,162) 線である。放射性降下物は,広島原爆においては爆心地の西側の己斐・高須地区で,長崎原爆においては爆心地の東側の西山地区で多 く観測された。(乙B3〔6・348頁〕,121,133,162)イ人の放射線被曝の態様は,人体の外部から放射線を浴びることによる外部被曝と,呼吸,飲食,外傷又は皮膚等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出する放射線による内部被曝に大別される。そして,原爆放射線による外部被曝は,初期放射線によるものと,残留放射線(誘導放射線 と放射性降下物からの放射線)によるものとに分けられる。 よって,原爆被爆者の被曝態様には,初期放射線による外部被曝,放射性降下物からの放射線による外部被曝,誘導放射線による外部被曝,放射性物質を体内に取り込んだことによる内部被曝の4種類があり得ることになる。 原爆放射線及び放射線障害研究に関係する機関等 ア公益財団法人放射線影響研究所(以下「放影研」という。)原爆放射線の健康影響を長期的に調査することを目的として,アメリカ政府(原子力委員会)の資金により昭和22年広島に,昭和23年長崎にそれぞれ設置された原爆傷害調査委員会(ABCC)を前身とする機関であり,昭和50年に日米両政府の合意により財団法人として発足した。 被爆者の受けた放射線量の評価と人体への影響の分析を主要な研究テーマとする。被爆者について,昭和25年に開始された寿命調査集団(開始当初約12万人)における死亡率調査(LifeSpanStudy,LSS),昭和33年に開始された成人健康調査集団(開始当初約2万人で〔甲A45の2〕,2年に1回の健康診断等が行われている。)における健 康調査(AdultHealthStudy,AHS LSS),昭和33年に開始された成人健康調査集団(開始当初約2万人で〔甲A45の2〕,2年に1回の健康診断等が行われている。)における健 康調査(AdultHealthStudy,AHS)等,原爆放射線による健康影響を長期的に調査しており,報告書を取りまとめている(寿命調査集団における死亡率調査の報告書につき,以下「LSS第13報」などといい,成人健康調査集団における健康調査の報告書も同様に,以下「AHS第8報」などという。)。(乙B133) イ原子放射線の影響に関する国際連合科学委員会(UNSCEAR)昭和25年以降に頻繁に行われた核実験による環境影響及び人間への健康影響を世界的に調査するため,昭和30年に国際連合の下に設置された機関であり,日本を含め,アメリカ,イギリス,フランス及びロシア等27か国が加盟している。同委員会は,大気圏内核実験が縮小した後も,世 界中の放射線線源とその影響についての情報・資料を収集し,科学的健全 性を検証した上,毎年国連総会に報告し,数年ごとに詳細な報告書を刊行している。この報告書は,ICRP勧告の科学的基礎資料となる。(乙A54,B1,2,63)ウ国際放射線防護委員会(ICRP)専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織で あり,主委員会のほか,放射線影響,誘導線量等の5つの専門委員会が設けられている。UNSCEAR作成の報告書の知見に基づき,放射線防護基準の勧告を行っている。この勧告は国際的に権威のあるものとされ,国際原子力機関(IAEA)の安全基準や各国の放射線障害防止に関する法令の基礎とされている。(乙A54,B1,2,63) 被曝線量の評価旧審査の方針においては,初期放射線 とされ,国際原子力機関(IAEA)の安全基準や各国の放射線障害防止に関する法令の基礎とされている。(乙A54,B1,2,63) 被曝線量の評価旧審査の方針においては,初期放射線による被曝線量につき,日米合同の研究者グループにより検討され,昭和61年に策定された被曝線量評価体系(DosimetrySystem 1986,DS86)に基づき,爆心地からの距離(2.5kmまで)に応じて算定した値によって推定するも のとしていた(乙A2,6)。 DS86については,その後,日米合同の研究者グループにより再評価が行われ,DS86の基本的な評価方法を踏襲しつつ,これを改良した新たな被曝線量評価体系(DosimetrySystem 2002,DS02)が策定され,平成15年3月日米合同の原爆放射線量評価検討会におい て承認された。(乙B3,6の1)新審査の方針の下においては,DS02により,初期放射線による被曝線量の推定が行われている(乙A6,弁論の全趣旨。DS86及びDS02の評価及びこれに基づく推定線量の正確性については争いがある。)。 4 主な申請疾病の概略 複数の控訴人ら(控訴人Bらを除く。)及びA1に係る申請疾病の概略は,以 下のとおりである。 甲状腺機能低下症ア甲状腺甲状腺は,頸部の前面に存在する蝶々型の臓器であり,右葉と左葉に分かれ,第2ないし第4気管軟骨の高さに位置する峡部で連結している。甲 状腺は甲状腺ホルモンを合成,分泌する。血中に分泌された甲状腺ホルモンが組織と結合することにより,代謝系が活発化し,又は酸素の消費量が増え,熱量の産生が増加し,基礎代謝が亢進する。甲状腺ホルモンには,約98%を占めるT4(サイロキシン),約1.5%を占めるT3( ンが組織と結合することにより,代謝系が活発化し,又は酸素の消費量が増え,熱量の産生が増加し,基礎代謝が亢進する。甲状腺ホルモンには,約98%を占めるT4(サイロキシン),約1.5%を占めるT3(トリヨードサイロニン)がある。甲状腺ホルモンは血中放出後ほとんどが直ちに 血漿蛋白と結合するが,一部は遊離型(freeT4〔FT4〕,freeT3〔FT3〕)として存在する。 甲状腺ホルモンの分泌の調節を行うのは,脳から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)である。 間脳の視床下部からTRHが分泌され,その刺激により脳下垂体前葉から TSHが分泌されて,さらにこのTSHが甲状腺にあるTSH受容体に結合することにより,甲状腺ホルモンが分泌される。甲状腺ホルモンが血中に増え過ぎると,甲状腺ホルモンが下垂体や視床下部に対し,逆にTSHやTRHの分泌を抑えるよう作用し,ネガティブフィードバックが働く仕組みになっている。(甲B4〔文献14〕,乙B87,91,155,17 9,第2事件乙C2の15)イ甲状腺機能低下症概念甲状腺機能低下症は,甲状腺ホルモンの合成が低下して血中の甲状腺ホルモンが減少し,組織に対するホルモン作用が低下して,疲労,寒が り,皮膚乾燥及びむくみ等の様々な臨床症状を示す病態をいう(甲B4 〔文献16〕,乙B88,91,155,C14の14,第2事件乙C2の15)。 原因甲状腺機能低下症の原因は,①甲状腺自体の原因によりホルモンの欠乏を来す病態(原発性甲状腺機能低下症),②視床下部や脳下垂体に異常 があるためこれらからのTSH等の合成,分泌が障害され甲状腺ホルモンの合成が二次的に低下する病態(中枢性〔続発性〕甲状腺機能低下症) 病態(原発性甲状腺機能低下症),②視床下部や脳下垂体に異常 があるためこれらからのTSH等の合成,分泌が障害され甲状腺ホルモンの合成が二次的に低下する病態(中枢性〔続発性〕甲状腺機能低下症)に大きく分けられる。甲状腺機能低下症の95%は原発性である。その原因として最も多いのが慢性甲状腺炎であり,免疫学的異常b)により甲状腺機能が障害を受ける。その他の原因として,甲状腺手術後, 放射線照射後等の甲状腺組織の外因性の損傷が明らかなものがこれに次ぐ。(甲B4〔文献14・16〕,乙B88,C14の14,第2事件乙C2の15) 診断a 一般に,血液検査において,FT4,FT3及びTSHの血中濃度 を測定することにより行われる。FT4及びFT3が低値及びTSHが高値(日本甲状腺学会による甲状腺機能低下症の診断ガイドラインでは,FT4低値及びTSH高値)であれば原発性甲状腺機能低下症,FT4及びFT3が低値並びにTSHも低値(同ガイドラインでは,FT4低値及びTSH低値から正常値)であれば中枢性甲状腺機能低 下症であるとされる(なお,FT3は甲状腺機能低下症が中等度以上に進行した場合に低下するので,軽度の甲状腺機能低下症の診断には適さないとされる。)。他方,臨床症状を欠き,FT4及びFT3ともに正常範囲にあるが,TSHのみ上昇している状態のものは潜在性甲状腺機能低下症とされ,甲状腺機能低下症のうち最も軽いもので,か つ初期のものとされている。このほか,慢性甲状腺炎の経過中に,甲 状腺の炎症性破壊による甲状腺ホルモン過剰状態に続発して,又はヨウ素を過剰に摂取するなどして,一時的な甲状腺機能低下症(一過性甲状腺機能低下症)が生じる場合がある。(甲B4〔文献14・16〕,乙B88,91, 破壊による甲状腺ホルモン過剰状態に続発して,又はヨウ素を過剰に摂取するなどして,一時的な甲状腺機能低下症(一過性甲状腺機能低下症)が生じる場合がある。(甲B4〔文献14・16〕,乙B88,91,155,250,263,C14の14,第2事件乙C2の15) b 原発性甲状腺機能低下症の原因として最も多い慢性甲状腺炎(橋本病)は,びまん性甲状腺腫を示す疾患であり,甲状腺に関する自己抗体である抗TPO(サイロイドペルオキシダーゼ)抗体(抗マイクロゾーム抗体も抗TPO抗体の一種であり,測定法により名称が異なる。)又は抗Tg(サイログロブリン)抗体が大多数の症例で検出される。 自己免疫性甲状腺機能低下症は,これらの自己抗体が甲状腺細胞を破壊することにより発症する。慢性甲状腺炎の70~80%は甲状腺機能が正常であるが,病状が進行すると低下する。(甲B4〔文献14~16〕,乙B88,91,92,155,156,179,250,263,C14の14,第2事件乙C2の15,証人D2〔11頁〕) 疫学甲状腺機能低下症の頻度は,型,性及び年齢によって異なるが,一般論として女性に多く,年齢が高くなるほど頻度も増す(乙B88)。 治療甲状腺機能低下症の治療はチラーヂン等の甲状腺ホルモン製剤を服用 することによる補充療法であり,TSH及びFT4の血中濃度を正常域に保つことを目的として行われる。チラーヂン等の服用により甲状腺機能低下症を根治できるわけではない。(甲B4〔文献14・16〕,乙B88,179,乙C14の14)心筋梗塞,狭心症 ア心臓 心臓は,主に心筋と呼ばれる筋肉で構成され,身体の各部位に血液を運ぶことにより酸素を供給する臓器である。心臓そのものも血液(酸素)を必要とするこ 筋梗塞,狭心症 ア心臓 心臓は,主に心筋と呼ばれる筋肉で構成され,身体の各部位に血液を運ぶことにより酸素を供給する臓器である。心臓そのものも血液(酸素)を必要とすることから,心臓の周りには冠状動脈(冠動脈)が走行しており,心臓に血液(酸素)を供給している。(乙B72,第2事件乙B66)イ心筋梗塞,狭心症 心筋虚血,虚血性心疾患心筋虚血とは,心筋が酸素欠乏(虚血)を来した状態をいい,虚血性心疾患は,心筋の酸素需要と供給の不均衡により引き起こされた心機能障害をもたらす疾患であると定義される。虚血性心疾患は,一過性心筋虚血である狭心症,心筋壊死を伴う心筋梗塞等に分類される。 (乙B74, 第2事件乙B69)心筋梗塞冠動脈の閉塞又は高度の狭窄により血行障害を来し,心筋虚血が一定時間持続した結果,心筋細胞が壊死に陥る疾患である(乙B74,第2事件乙B49,50,69)。 狭心症心筋が一過性に虚血に陥るために生じる胸部又は隣接部に特有の不快感(狭心痛)を主症状とする臨床症候群であり,経過により安定狭心症と不安定狭心症に分類される。不安定狭心症は急性心筋梗塞に至る可能性のある重度の狭心症であり,心筋梗塞と共通の病態があるものとして, 急性冠動脈群と総称される。 (乙B74,94,第2事件乙B48,50,69,70)原因a 心筋梗塞は,冠動脈の粥状硬化による狭窄病変を基礎として閉塞に至るものが大部分である。 狭心症も,冠動脈の狭窄等により生じ,背景には基本的に動脈硬化 病変が存在する。(乙B74,第2事件乙B48,50,70)b 動脈硬化定義・機序動脈硬化は,血管壁の肥厚・硬化・再構築・機能低下を伴う動脈病変の総 には基本的に動脈硬化 病変が存在する。(乙B74,第2事件乙B48,50,70)b 動脈硬化定義・機序動脈硬化は,血管壁の肥厚・硬化・再構築・機能低下を伴う動脈病変の総称であり,粥状硬化,中膜硬化及び細動脈硬化を含む。こ のうち臨床的に最も重要なのは粥状硬化であり,脂質を含む粥腫が内膜に蓄積し,内腔の狭窄,閉塞の原因となる。 動脈硬化は,種々の刺激により血管の内皮が傷害されることに端を発する。内皮が傷害されると,LDLコレステロールが血管の内膜内に侵入する。その結果,血管の内膜に脂質や平滑筋細胞,細胞 外基質等の沈着物の病的集積が起き,粥状の隆起性病変(粥腫〔アテローム〕,アテローム性プラーク〔アテロームと線維組織が混在したもの〕)が形成されて,動脈硬化を来す。その後,徐々に粥腫が肥厚し,血管内腔の狭窄を来した状態で安定型狭心症が生じ得る。急速に粥腫が破綻して血栓のはく離による塞栓ができ,冠動脈の急激 な血流低下が生じると,急性冠動脈群(心筋梗塞,不安定狭心症)が生じ得る。(乙B74,76~79,94,178,第2事件乙B48,50,51,70)⒝ 危険因子血管の内皮を傷害する種々の刺激(物理的刺激,化学的刺激)が 動脈硬化の危険因子である。 血管壁には本来弾力性があり,高血圧の状態が続くことによって血管内皮が引き伸ばされ,この作用が物理的刺激となって,動脈硬化が起こる。また,LDLコレステロールが高い状態では,血管内膜への脂質沈着が促進されること等により,動脈硬化の原因となる。 トリグリセライドが高い状態では,動脈硬化の惹起性が強い物質(レ ムナントリポ蛋白等)の増加が促され,間接的に動脈硬化の進展に寄与するとされる。そして,喫煙については,体内 。 トリグリセライドが高い状態では,動脈硬化の惹起性が強い物質(レ ムナントリポ蛋白等)の増加が促され,間接的に動脈硬化の進展に寄与するとされる。そして,喫煙については,体内に取り込まれたニコチンに血圧を上昇させる作用があるほか,喫煙により発生する活性酸素に血管内皮を傷害する作用,血小板凝集能の亢進により血栓が形成されやすくなる作用もある。血管内皮には血流の圧力によ り常に一定の負荷がかけられているから,時間の経過とともに少しずつ内皮は傷害される。動脈硬化は高齢者ではほとんどの人に多かれ少なかれ生じている。 これらのほか,動脈硬化の危険因子には,肥満,糖尿病,性別(男性に多い。),ストレス,運動不足及び家族歴(遺伝)等がある。(乙 B74,76~84,178〔資料1~8〕,193,194,乙C3の12,第2事件乙B54,69,115の1・2)脳梗塞・脳出血ア定義脳梗塞・脳出血は脳血管障害に分類される。脳血管障害は,脳の一部が 虚血若しくは出血により一過性若しくは持続性の障害を受けるか,脳の血管が病理的変化により一次的に侵される場合,又はこの両者が混在する全ての疾患と定義され,脳梗塞,脳出血及びくも膜下出血等を含むこれらの総称である。脳卒中は脳血管障害と同義で用いられる場合が多いが,脳血管障害には,無症候性脳梗塞等の症状を伴わない疾患が含まれる。脳卒中 は,出血性脳卒中(脳出血及びくも膜下出血)と虚血性脳卒中(脳梗塞)に分類される。 脳梗塞は,脳動脈の狭窄や閉塞により灌流域の虚血が起こり,脳組織が壊死に陥る疾患である。障害部位により様々な局所神経症状(麻痺,感覚障害,構音障害,失語等)を来す。脳血管疾患死亡の半数以上を占めてい る。脳出血は,脳を灌流する血管の破綻に 起こり,脳組織が壊死に陥る疾患である。障害部位により様々な局所神経症状(麻痺,感覚障害,構音障害,失語等)を来す。脳血管疾患死亡の半数以上を占めてい る。脳出血は,脳を灌流する血管の破綻により脳内に出血が生じる病態で あり,脳内血腫の圧迫による局所神経症状及び頭蓋内圧亢進症状を示す。 (甲B38,39,乙B99,180~182,189,乙C15の25・26・28,第2事件乙B71)イ分類・危険因子脳梗塞の臨床病型分類として,アテローム血栓性脳梗塞(頭蓋内及び 頭蓋外の主幹動脈のアテローム硬化病変を原因とする脳梗塞),心原性脳梗塞症(心房細動等の塞栓源となる心疾患があり,心臓内血栓や心臓を経由する栓子を原因とする脳梗塞)及びラクナ梗塞(脳深部の小さい穿通枝病変により1.5cm未満の梗塞巣を来す脳梗塞)がある。アテローム血栓性脳梗塞は,高血圧,脂質異常症,糖尿病及び喫煙等の動脈硬 化の危険因子により,時間的積算(加齢)に伴って血管内中膜に粥腫・プラークが形成され,狭窄部血栓形成,プラーク内出血等による急性血管閉塞等が発端となる。ラクナ梗塞も高血圧を危険因子とする。 脳出血は,その80%が高血圧性脳出血であり,高血圧性細動脈硬化により穿通枝が破綻することにより発症する。(乙B99,180~18 2,乙C15の25・26・28,第2事件乙B71)高血圧は,脳梗塞・脳出血に共通する最大の危険因子である。このほかの危険因子として,脂質異常症,喫煙,肥満及び大量飲酒等がある。 慢性腎臓病(CKD)も,脳卒中の独立した危険因子である。 (乙B83,99,180~182,192~195,乙C3の12,15の27, 第2事件乙B71)高血圧ア定義高血圧とは,繰り返し測っても血圧 脳卒中の独立した危険因子である。 (乙B83,99,180~182,192~195,乙C3の12,15の27, 第2事件乙B71)高血圧ア定義高血圧とは,繰り返し測っても血圧が正常より高い場合(収縮期血圧が140mmHg以上,又は拡張期血圧が90mmHg以上)をいう。 高血圧には,本態性高血圧と二次性高血圧がある。二次性高血圧とは血 圧上昇の原因となる明らかな疾患が存在するものであり,本態性高血圧とはそれ以外の全ての高血圧である。 高血圧症は自覚症状に乏しいが,高血圧の慢性的な持続により,動脈硬化を引き起こす。この動脈硬化は大血管にも小血管にも起こるため,脳卒中(脳梗塞,脳出血)や心筋梗塞等の重篤な疾患を引き起こすリスクが高 くなる。(乙B95~98,289,乙C4の12)イ原因本態性高血圧には,遺伝的な因子及び生活習慣等の環境因子が関与しており,環境因子には,過剰な塩分摂取,肥満,精神的ストレス,自律神経の調節異常,蛋白質・脂質の不適切な摂取及び喫煙等があるとされている。 高血圧の患者数は,年齢層が上がるほどに増加傾向にある。(乙B97,98,289)ウ原発性アルドステロン症副腎(腎臓の上にある小さな内分泌臓器)の腫瘍や両側の副腎全体が肥大する過形成により,ホルモンの一種であるアルドステロンが副腎から過 剰に分泌され,これが腎尿細管に作用してナトリウムの尿への排出が阻害されることにより高血圧を生じさせる疾患である。二次性高血圧の原因疾患である。高血圧症の5~20%程度を占めるとする報告が相次いでいる。 血漿アルドステロン濃度と血漿レニン活性を同時に測定し,カプトプリル負荷試験等の各種試験や局在診断として選択的副腎静脈サンプリングを行 い,高血圧症例 %程度を占めるとする報告が相次いでいる。 血漿アルドステロン濃度と血漿レニン活性を同時に測定し,カプトプリル負荷試験等の各種試験や局在診断として選択的副腎静脈サンプリングを行 い,高血圧症例からのスクリーニング及び確定診断がされる。(乙B180〔1663~1670頁〕,C15の21~24) 脂質異常症(高脂血症)(申請疾病ではないが,その危険因子であり,複数の控訴人らに関連するので,前提事実として掲げる。)ア定義 血液中のLDLコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が基準 値より高く,又はHDLコレステロールが基準値より低い状態のことをいう。LDLコレステロールが140mg/dℓ以上で高LDLコレステロール血症(LDLコレステロールは,検査値がない場合,総コレステロール値から,HDLコレステロール値を減じ,さらにトリグリセライド値を5で除した値を減じることで求められる。),トリグリセライドが150mg /dℓ以上で高トリグリセライド血症,HDLコレステロールが40mg/dℓ未満で低HDLコレステロール血症と診断される。なお,以前は総コレステロール(220mg/dℓ以上)も診断基準とされていたが,LDLコレステロール及びHDLコレステロールの増減を問題とする方がより正確で本質的であるとして,平成19年改訂の日本動脈硬化学会の動脈硬化性 疾患予防ガイドラインにより除外された(LDLコレステロールの計算や参考のために測定はされる。)。また,上記改訂により,「脂質異常症」の用語が用いられるようになったが,かつては高脂血症と呼んでいた。 自覚症状はないが,放置すると全身の血管の動脈硬化が徐々に進行し,これにより心筋梗塞,脳梗塞等の重大な合併症が出現する。 (乙B178〔 語が用いられるようになったが,かつては高脂血症と呼んでいた。 自覚症状はないが,放置すると全身の血管の動脈硬化が徐々に進行し,これにより心筋梗塞,脳梗塞等の重大な合併症が出現する。 (乙B178〔資 料1〕,194,242,243,251,288,C3の11)イ原因脂質異常症の発症要因は,大きく,原発性(遺伝的要因が基盤となる。)と二次性(諸疾患や薬物,食事性要因等によるもの)に分けられる。 脂質異常症の発症には,遺伝的な素因に加えて,過食,摂食パターンの 異常といった不適切な食生活,運動不足及びストレス過多等が重要な役割を果たしている場合が多くあり,生活習慣病として広く知られている。(乙B288,C3の11・12)白内障ア定義,水晶体の構造等 白内障は,水晶体が,蛋白の変性,線維の膨化や破壊により混濁した 状態をいう。混濁の程度,範囲及び部位に応じて,種々の視覚障害を引き起こす。(乙B65,71,乙C5の19)水晶体は,直径約9mm,厚さ約3~4mm,重さ約0.2gで,虹彩と硝子体の間に位置し,瞳孔を通過した光を網膜に結像させる両凸レンズである。水晶体は,水晶体嚢,水晶体上皮,水晶体皮質及び水晶体 核から成る。水晶体嚢は,水晶体の外側を包む膜であり,前面を前嚢,後面を後嚢といい,前嚢と後嚢の接する円形境界部分を赤道部という。 前嚢下には一層の上皮細胞があり,これは後嚢側には存在しない。赤道部前方の上皮細胞は生涯を通じて細胞分裂し,後方に押し出され,赤道部付近で線維細胞に分化する。線維細胞は,細胞質が伸長して絶えず 水晶体内部に移動するが,この移動に従い,線維細胞の細胞核が消失して細胞質のみとなる。内部の線維細胞は互いに接合し,徐々に長さを増す。このよう に分化する。線維細胞は,細胞質が伸長して絶えず 水晶体内部に移動するが,この移動に従い,線維細胞の細胞核が消失して細胞質のみとなる。内部の線維細胞は互いに接合し,徐々に長さを増す。このようにしてできた線維細胞のうち,水晶体中央部に位置する古い線維細胞を水晶体核といい,表層の比較的新しい線維細胞を水晶体皮質という。(乙B65,71,204,209,C5の19) イ白内障の原因,分類白内障の原因には先天性と後天性のものがあり,後天性のものとして,老人性,外傷性,併発性,放射線性,内分泌代謝異常性,薬物又は毒物性等がある。白内障の中で最も多いのが加齢による白内障(加齢性白内障)であり,初発年齢には個人差があるが,一般に50歳以上で他に原因を見 いだせないものをいう。 混濁部位による分類として,大きくは,皮質白内障,核白内障,嚢下白内障(前嚢下白内障,後嚢下白内障)に分類され,そのうち皮質,核,後嚢下の各白内障が3主病型とされる。加齢性白内障にあっては,3主病型のうち,皮質混濁及び核混濁の有所見率が高い。(乙B65,67,71, 203,204,C5の19,7の14,13の13・14) 5 疫学・医療統計学の概念相対リスク及び寄与リスクア相対リスク,過剰相対リスクある状況下に置かれたグループと置かれなかったグループとの間である病気に罹患する危険度(リスク)の比を相対リスク(相対危険,相対危険 度ともいう。)といい,相対リスクがどの程度増加するかを表すものを過剰相対リスクという(甲A132,乙B106,166,167,C23,25)。 イ寄与リスクある状況下に置かれたグループと置かれなかったグループにおいて病気 に罹患する頻度の差を寄与リスク(寄与危 甲A132,乙B106,166,167,C23,25)。 イ寄与リスクある状況下に置かれたグループと置かれなかったグループにおいて病気 に罹患する頻度の差を寄与リスク(寄与危険ともいう。)という(乙B166,167)。 P値帰無仮説(グループ間に「差がない」という概念)が正しいとした場合で,得られたデータ結果の差が起こり得る確率を示す値である。統計学上,一般 に,0.05(5%)以下の場合にグループ間に有意な差があるとして,帰無仮説を棄却するとされている。(甲A117,乙B109) 信頼区間得られたグループ間の差がどの程度大きくなり又は小さくなる可能性を示すもので,95%信頼区間は,95%の確率で真の差を含む値の範囲を示す ものである。幅が小さいほど有用なデータとなるとされている(乙B109)。 オッズ比オッズとは,ある事象が起こる確率をその事象が起こらない確率で除した値である。オッズ比とは,二つのオッズの比であり,ある要因が増大することにより発症リスクが増大する割合を示すものである。 (乙B111,167, C23) 線量反応数学的モデルの一つで,反応変数(生物学的測定値又は疫学的集団の統計数)がいかに放射線の量に左右されるかを表すものである。線量に応じて反応の程度が増加するか,減少するか,またその程度が線量の関数としてどれくらい早く変化するかを示す。 一次(線形)線量反応とは,線量と生物学的反応の関係が一本の直線で示される場合を指す(どの線量においても反応が変わる率は同じである。)。二次線量反応とは,線量と生物学的反応の関係が曲線(2次関数)で示される場合を指す(異なる線量では反 的反応の関係が一本の直線で示される場合を指す(どの線量においても反応が変わる率は同じである。)。二次線量反応とは,線量と生物学的反応の関係が曲線(2次関数)で示される場合を指す(異なる線量では反応の変化する率が異なる。)。(弁論の全趣旨)第4 争点及び争点に関する当事者の主張 1 放射線起因性の判断基準(争点1)【控訴人らの主張】あるべき判断基準等ア放射線障害の特徴や被爆者援護法の趣旨等から導かれる基準放射線の人体に対する影響に関する科学的知見や経験則は,未だ確立し たものではない。そして,被曝による疾病の発生過程には多くの要因が複合的に関連している上,放射線障害の症状は他の原因による場合と比較して特異なものではないから,特定の要因による発症の機序の立証は,そもそも極めて困難である。病理学,臨床医学等の観点から,控訴人ら(控訴人Bらを除く。)及びA1の疾病と被曝との間の個別的な因果関係を判断す る方法それ自体に限界が存するのであって,この点に関する立証を厳密に要求することは,被爆者に不可能を強いることにほかならない。 また,被爆者援護法は,国際人道法に違反した原爆投下の被害者である被爆者に対し,国家補償及び社会保障を目的として,その救済を図る特殊な法律であり,このような同法の趣旨に照らし,放射線起因性に関する過 重な立証の負担を控訴人らに負わせるべきではない。 「原子爆弾後障害症治療指針について」(昭和33年8月13日衛発第726号各都道府県知事・広島・長崎市長あて厚生省公衆衛生局長通知)は,治療上の一般的注意として「原子爆弾被爆者に関しては,いかなる疾患又は症候についても一応被爆との関係を考え,その経過及び予防について特別の考慮がはらわれなければならず,原子 省公衆衛生局長通知)は,治療上の一般的注意として「原子爆弾被爆者に関しては,いかなる疾患又は症候についても一応被爆との関係を考え,その経過及び予防について特別の考慮がはらわれなければならず,原子爆弾後障害症が直接間接に核爆 発による放射能に関連するものである以上,被爆者の受けた放射能特にガンマ線及び中性子の量によってその影響の異なることは当然想像されるが,被爆者のうけた放射線量を正確に算出することはもとより困難である。この点については被爆者個々の発症素因を考慮する必要もあり,また当初の被爆状況等を推測して状況を判断しなければならない」と指摘しており, 上記指針の考え方は,放射線の人体に対する影響が未解明な今日においても,なお妥当するものである。 以上のとおり,放射線の人体に対する影響は未解明であり,個別的因果関係の判断自体に限界が存するものである以上,放射線起因性については,医学的,病理学的機序の証明の有無を直接検討するのではなく,放射線被 曝による人体への影響に関する統計学的・疫学的知見も踏まえ,被爆者の被曝状況,その後の行動,生活状況,症状やその発生に至る経緯等の事情を全体的,総合的に考慮して判断すべきである。そして,放射線は,それ自体が,人体に対する極めて重大な障害を及ぼす性質を有していることが明らかである以上,上記指針が正当に指摘するとおり,被爆者において, 「いかなる疾患又は症候についても一応被曝との関係を考え」るべきであって,放射線の影響を否定し得る特段の事情がない限り,放射線起因性は当然に存在するというべきである。 イ新審査の方針の評価被控訴人は,旧審査の方針が依拠していた原因確率論を改め,平成20 年3月17日,新審査の方針を定めた。さらに,被控訴人は,平成25年 うべきである。 イ新審査の方針の評価被控訴人は,旧審査の方針が依拠していた原因確率論を改め,平成20 年3月17日,新審査の方針を定めた。さらに,被控訴人は,平成25年 12月16日,同方針を再改定し,放射線被曝による健康影響が必ずしも明らかでない範囲を含めて積極的に認定する範囲を設定して,高齢化が進んだ被爆者を救済する方向性を鮮明にした。現に,被控訴人は,上記範囲に属する限り,生活習慣や加齢等の他の原因(危険因子)の有無を問わず積極的に放射線起因性を認めているのであり,行政実務と裁判所の法律解 釈に二重基準を持ち込むべきではない。 放射線起因性については,新審査の方針がいう上記積極的に認定する範囲を考慮して検討されなければならず,少なくとも同範囲の疾病は,放射線起因性の推定が働く。そして,新審査の方針は一つの目安であり,爆心地からの距離,経過時間や疾病の範囲を異にし,これらを形式的に充足し ないからといって直ちに放射線起因性を否定すべきではなく,上記アのとおり総合的な考慮に基づき,放射線起因性が判断されなければならない。 ウ他の原因(危険因子)の存在について人体に対する放射線の影響(特に晩発的影響)の特徴は,放射線に特異的な症状を示すものではなく,むしろ一般に見られるのと全く同様の症状を 示すものであり,当該症状が放射線に起因するか否かの見極めは不可能である。そして,疾病の発症に関わる要因は多数存在し,相互に関連し合いながら発症に至る。さらに,疾病の危険因子(高血圧等)それ自体が放射線の影響を受けるとの知見や,交絡因子の影響を除外しても放射線の影響は消失しないとの疫学研究も存在する。 上記ア,イも併せ考慮すると,放射線起因性を争う被控訴人において,申請疾病がもっぱら他の原 響を受けるとの知見や,交絡因子の影響を除外しても放射線の影響は消失しないとの疫学研究も存在する。 上記ア,イも併せ考慮すると,放射線起因性を争う被控訴人において,申請疾病がもっぱら他の原因により発症したとの特段の事情を,具体的根拠をもって立証すべきである。他の原因の可能性を含めた総合評価を行うとしても,被爆者援護法の趣旨等も考慮し,控訴人らに過度な立証の負担を負わせることは相当でない。 被控訴人による被曝線量評価の問題点 ア問題点の概要被控訴人は,DS02に基づき被曝線量評価をしているところ,DS02には,初期放射線量が爆心地から遠距離において実測値より過少となるなどの問題がある(ガンマ線の場合は,1500m以遠において実測値が計算値を系統的に上回っている。)。のみならず,被控訴人は,放射線降下 物による放射線及び誘導放射線といった残留放射線の影響(後記イ)をほとんど考慮しておらず,内部被曝の影響(後記ウ)については無視しているのであり,被控訴人による上記評価は誤っている。これらに加えて,低線量被曝につき,高線量被曝とは異なる機序により人体に大きな影響が生じるという点も否定することができない(後記エ)。 イ残留放射線の危険性原爆放射線に被曝した被爆者には,急性症状を発症した者が多数存在した。その中には,原爆投下後相当期間が経過してから入市した被爆者にも発症例が多くあったのであり,初期放射線の影響のみではこのことを説明することができない。なお,原爆放射線被曝は態様・機序が極めて複雑で あり,被爆者に生じた急性症状は,放射線事故における急性放射線症候群の概念に当てはまらず,原爆放射線の影響以外には説明が困難である。 放射性降下物による放射線a 生成過程等 あり,被爆者に生じた急性症状は,放射線事故における急性放射線症候群の概念に当てはまらず,原爆放射線の影響以外には説明が困難である。 放射性降下物による放射線a 生成過程等原爆容器の内部における核分裂の連鎖反応により,その狭い空間内 に莫大なエネルギーが放出され(原爆の爆発),この時の核分裂生成物から主にベータ線やガンマ線が放出された。さらに,原爆装置とその容器が放出された中性子を吸収して放射性物質となった(誘導放射化)。 広島原爆のウラン235のうち実際に核分裂を起こしたのはほんの一部であり,未分裂のウラン235も自らアルファ線を放出しつつ,異 なる放射性原子に壊変しながらガンマ線やベータ線を放出した。 上記未分裂のウラン235,核分裂生成物及び誘導放射化された原爆容器等から放出された電磁波は,直ちに周囲の空気に吸収され,空気の温度を上昇させ,プラズマ状の空気の塊すなわち火球が形成された。火球は膨脹し,上昇して温度が下がり,様々な放射性物質が放射性微粒子又は「黒いすす」となった。さらに火球が上昇して温度が下 がり,放射性微粒子や「黒いすす」が空気中の水蒸気を吸着して水滴となって,地上に降り注いだ。これらに含まれる中性子は土壌や建造物等に吸収され,誘導放射化が生じた。 b 降下の範囲火球は温度が下がると急激に上昇し,これに伴い,周囲の放射性微 粒子や「黒いすす」を含んだ空気が火球の下に吹き寄せられ,火球とともに上昇して,巨大なキノコ雲が形成された。キノコ雲は,圏界面を突破して成層圏に到達した。また,原爆の熱線により生じた大火災によって上昇気流が発生し,地上の粉塵が上空に巻き上げられた。このような強い上昇気流が発生した周辺において,上昇気流を補填する を突破して成層圏に到達した。また,原爆の熱線により生じた大火災によって上昇気流が発生し,地上の粉塵が上空に巻き上げられた。このような強い上昇気流が発生した周辺において,上昇気流を補填する ために強い下降気流が発生した。これらの結果,「黒いすす」,「黒い雨」が相当広範囲に降下した。 被控訴人は,広島原爆において「黒い雨」を初めとする放射性降下物の影響があるのは,己斐・高須地区に限られるとするが,調査によって,同影響は同地区に限られないことが判明している。上記地区に いなかったとしても放射性降下物の影響を否定することはできない。 誘導放射線被控訴人は,誘導放射化について,爆心地から約600~700m以遠においては初期放射線の中性子がほとんど届かなかったため,誘導放射化はほとんど起こらなかったとか,誘導放射化される原子核は限られ ており,かつそれらの物理学的半減期は短いなどとして,誘導放射線に よる外部被曝の影響を無視しうるとしていた。 しかし,誘導放射化された物質が粉塵となって爆風等により移動したbのとおり空中で誘導放射化された放射性降下物は広範囲に降下したのであるから,上記影響は爆心地から700m以内の地点に限られない。そして,全ての原子核が誘導放射化されるといえる上,物 理学的半減期が短いものは減少が速い反面,単位時間当たりの放射線放出量が大きい。早期に爆心地付近に入った者は,物理学的半減期の短い放射性物質が放出する誘導放射線に被曝した。そして,比較的遅く爆心地付近に入った者についても,比較的物理学的半減期の長い放射性物質に由来する誘導放射線に被曝したのであり,その影響を無視することは できない。 ウ内部被曝の危険性放射線には,生体を透過するときにDNAを傷つける性 比較的物理学的半減期の長い放射性物質に由来する誘導放射線に被曝したのであり,その影響を無視することは できない。 ウ内部被曝の危険性放射線には,生体を透過するときにDNAを傷つける性質があるところ,体内に放射性物質があるときには,細胞の至近距離に線源があることになるから,外部被曝に比べ,内部被曝の影響は格段に大きくなる。また,飛 程の短いアルファ線やベータ線を放出する核種が体内に入ると,この短い飛程で放射線のエネルギーがほとんど細胞に吸収され,これによってDNAの二重らせんが多数破壊されて,細胞の誤った修復によりがん化の原因になるなど大きな影響が生じる。そして,原爆の原料となったウラン,プルトニウムやこれらが核分裂した場合に生じる人工放射性核種は核種ごと に生体内の特定の部位に濃縮される(これに対し,自然界にも存在する放射性核種は,人類の進化の過程で獲得した適応能力によって生体内で濃縮することはない。)。さらに,体内に取り込まれた放射性核種は,その核種の寿命に応じて継続的に放射線被曝を与え,しかも,ある細胞がアルファ線に被曝した場合には,その近傍にある細胞も放射線の影響を受けるバイ スタンダー効果が生じる。 このように,内部被曝は極めて危険かつ有害で,その影響は深刻であって,到底無視することはできない。 エ低線量被曝の危険性低線量被曝の人体影響は未解明な部分も多いが,逆線量率効果(同じ被曝線量であれば,長期にわたり被爆した方が,リスクが上昇する現象)や ゲノム不安定性(被曝により生じた初期の損傷を乗り越え生き残った細胞集団につき,長期間にわたって様々な遺伝的変化が生じる状態が続く現象)等の報告がされており,低線量被曝の危険性も無視することはできない。 オ 性(被曝により生じた初期の損傷を乗り越え生き残った細胞集団につき,長期間にわたって様々な遺伝的変化が生じる状態が続く現象)等の報告がされており,低線量被曝の危険性も無視することはできない。 オまとめ初期放射線のほか,放射性降下物からの放射線及び誘導放射線により, 外部被曝のみならず内部被曝という複雑な機構を通じて,人体にその影響が生じる。残留放射線による放射線量は極めて低く,これに起因する内部被曝の影響は無視しうるなどの主張は暴論である。原爆症認定にあっては,被爆者に現に生じた健康障害(急性症状)をつぶさに把握し,残留放射線による影響も踏まえ,外部被曝・内部被曝いずれの機会も慎重に検討した 上で判断されるべきである。そして,被爆者に個体差があることにも照らすと,低線量被曝であるからといって軽視することはできないというべきである。 【被控訴人の主張】 あるべき認定基準 放射線起因性の有無については,当該被爆者の放射線への被曝の程度(考慮要素①)と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及び程度(考慮要素②)とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に係る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度(考慮要素③) 等を総合的に考慮して,原爆放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病等 又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性があるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。 各考慮要素についてア考慮要素①について放射線被曝と特定の疾病についての疫学的知見の大部分においては, DS02又はDS86により推定計算された放射線被曝線量をもって対象者の被曝 各考慮要素についてア考慮要素①について放射線被曝と特定の疾病についての疫学的知見の大部分においては, DS02又はDS86により推定計算された放射線被曝線量をもって対象者の被曝線量とした上で,被曝線量と相対リスク等との関連性について調査・研究がされている。そのため,当該被爆者につきある程度概括的にでも上記疫学的調査・研究に基づくリスク評価が可能な程度に定量的に放射線被曝の程度を評価することが不可欠である。 そして,DS02は,世界的に支持され,現在においても科学的妥当性を有する原爆初期放射線に係る線量評価体系であり,原爆放射線に関する疫学的知見の大部分はこれを用いて行われているのであって,DS02を用いた線量評価は一般的妥当性を有している。DS02による被曝線量は推定値にとどまるが,この値を上回る例外的事情については, 控訴人らにおいて主張立証すべきであり,その場合には客観的科学的根拠に基づくことが必要である。 残留放射線による被曝線量は,初期放射線による被曝線量に比べてかなり小さな値であり,DS02における線量評価の誤差の範囲内にとどまる。放射性降下物による放射線につき,未分裂の核物質や核分裂生成 物の大半は成層圏に達して上層の気流により広範囲に拡散したから広島市内・長崎市内に降り注いだ放射性降下物は極めて少なかった上,広島原爆において放射性降下物が多く観測された己斐・高須地区でも健康影響は大きくはなく,まして同地区以外の地域においてはおよそ健康に影響を与える程度の有意なものであったとはいえない。誘導放射線につい ても,誘導放射化される原子核は限られており,かつそれらの物理学的 半減期は短いところ,爆心地から約600~700mの地点に至ると,初期放射線の中性子がほと 。誘導放射線につい ても,誘導放射化される原子核は限られており,かつそれらの物理学的 半減期は短いところ,爆心地から約600~700mの地点に至ると,初期放射線の中性子がほとんど届かなくなり,1時間当たりの誘導放射線量はほぼ0.001グレイにまで低減する。内部被曝によるリスクも外部被曝によるリスクも大きさに違いはなく,残留放射線による被曝線量自体が小さい場合,それを内部被曝したからといって,極端にリスク が高まるものではない。残留放射線による被曝線量が比較的高線量となる場合があるとしても,ごく一部の例外的事象にとどまる。 被爆者の残留放射線も含めた被曝の程度については,被曝後の急性期における身体症状の有無及びその内容がその一つの考慮要素となる。 被爆者の当該症状がIAEA及び世界保健機関(WHO)が公表した 急性放射線症候群の臨床症状に合致する場合に,1~8グレイの放射線に被曝した事実を推認する。急性放射線症候群の特徴は,しきい値がある確定的影響(放射線による健康影響のうち,ある一定の線量以上の放射線に被曝すると影響が出るもの)に属し,1グレイ以上の放射線被曝をした場合,48時間以内の前駆期に前駆症状としての食欲低下,嘔吐, 発熱及び下痢等が現れ,被曝後3日から1週間程度で一時的に症状が消失する潜伏期に入り,その後,出血傾向(血液・骨髄障害),脱毛(皮膚障害)及び下痢(消化器障害)等の多様な主症状が現れる。被曝線量に応じて,症状の内容,程度及び発症時期が異なり,出血傾向は約2グレイ以上被曝した場合に生じる。皮膚障害としての脱毛は,約3グレイ以 上の被曝で生じ,頭髪の一部又は少量ずつ抜けることはない。約3グレイの被曝であれば被曝後15日以降に脱毛が生じ,8~12週間後には発毛がみられる 生じる。皮膚障害としての脱毛は,約3グレイ以 上の被曝で生じ,頭髪の一部又は少量ずつ抜けることはない。約3グレイの被曝であれば被曝後15日以降に脱毛が生じ,8~12週間後には発毛がみられる。下痢については,前駆症状としての下痢は4グレイ以上の被曝で生じ,潜伏期に入るとすぐに軽減する。約8グレイの被曝で生じる主症状としての下痢は,腸管内の血管が破綻して大量出血を招く もので,救命可能性はない。 他方で,これらの臨床症状に合致しない場合には,下痢や脱毛等の一定の身体症状が発現したとしても,同症状と放射線被曝との関連性を認める科学的知見は存在しない。また,下痢や脱毛自体は,日常生活においても発現し得るところ,原爆投下当時の衛生環境や栄養状況,あるいは被爆それ自体による精神的影響等からすると,放射線被曝によらなく とも上記症状は十分に起こり得る。このような場合又は身体症状の発現すらなかった場合には,およそ1グレイを超える放射線被曝をしたとは考え難い。 イ考慮要素②について疫学的因果関係は,集団現象としての疾病についての原因を記述するの みであり,現実に当該疾病を発症した個々人について,真に放射線被曝の影響により発症したか否かについては,何ら決定するものではない。疫学的知見に基づき特定の被爆者に対する放射線被曝の影響を考慮する場合も,当該被爆者の当該疾病について,疫学的知見に基づく相対リスク等からどの程度放射線起因性を推認することができるかについては,放射線被曝以 外の要因による発症リスクとの比較の観点も踏まえる必要があるし,そもそも統計学的・疫学的知見を用いるに当たっては,統計学的に有意な関連性,疫学的知見の確実性があることが前提とされなければならない。 ウ考慮要素③について放射 の観点も踏まえる必要があるし,そもそも統計学的・疫学的知見を用いるに当たっては,統計学的に有意な関連性,疫学的知見の確実性があることが前提とされなければならない。 ウ考慮要素③について放射線起因性の有無を判断するについては,放射線被曝と当該疾病等と の関連性のほか,これがある場合において,他の原因(危険因子)が考えられるときは,当該疾病等がいずれに起因して発症したかについて,放射線被曝による当該疾病の発症リスクと他の原因による発症リスクを慎重に比較検討すべきである。そして,特定の結果の発生が他の原因によるものであるか否かが問題となる場合,他の原因の可能性については,因果関係 につき主張立証責任を負う控訴人らが高度の蓋然性をもって否定する必要 がある。 2 控訴人ら(控訴人Bらを除く。)及びA1の原爆症認定要件(放射線起因性及び要医療性)該当性(争点2) A1ア本件A1申請時に甲状腺機能低下症に罹患していたか。 【控訴人Bらの主張】原爆症認定を受けるに際し,被爆者が疾病等に罹患しているか否かは,医師の診断に基づき判断される。検査結果の数値が明らかでなくとも,多数の医師により当該疾病等についての治療がされている場合には,経験則上,当該被爆者において当該疾病等に罹患していると判断されるべ きである。 A1は,平成17年3月11日の本件A1申請時において,医師C1(同医師は「C1クリニック」を開設している。)の診断及び同月10日付け意見書記載のとおり,甲状腺機能低下症に罹患していた。また,C1医師の診断の前に複数の医師がA1にチラーヂンを投与していたこと からすると,A1は甲状腺機能低下症との確定診断を受けていたのであり,長期間診断的治療が続いていたとは考え難い。 また,C1医師の診断の前に複数の医師がA1にチラーヂンを投与していたこと からすると,A1は甲状腺機能低下症との確定診断を受けていたのであり,長期間診断的治療が続いていたとは考え難い。 C1医師は,上記意見書及び健康診断個人票に,平成16年12月13日の甲状腺機能検査に基づき,「チラーヂンS50μg/日服用中にもかかわらず,TSH2.91(0.5-2.5)とやや低下気味でした。」, 「甲状腺機能検査の結果を見ながら薬の増減の指示をしていきます。」などと記載した。C1医師は,チラーヂンの投与にもかかわらず,甲状腺ホルモンの改善(増加)が十分ではないことをもって甲状腺機能が「やや低下気味」と記載したのであり,この時点でA1が慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症に罹患したと診断した。 仮に,A1の甲状腺機能がもともと正常であったのであれば,A1は, それまで通院していたC2病院及び広島鉄道病院においてチラーヂンの投与を受けていたから,平成16年時点では医原性甲状腺機能亢進症になってしまうはずであるが,そのような症状にはなっていない。 A1の平成9年12月10日及び平成23年7月11日の各検査数値はいずれも正常値ではあるが,平成9年12月10日の検査数値はチラ ーヂン投与中の数値である。 平成23年7月11日の数値についても,検査数値は採血時間により変化するため,C1医師は,A1が甲状腺機能低下症ではないと判断せず,同投与を継続しながら経過を見ることとした。同年9月9日の検査数値は,TSHは基準値より低め,FT4は基準値より高めであったた め,C1医師はチラーヂンの投与量を減少させた。その結果,同年11月4日の検査数値は基準値の範囲内となった。被控訴人が主張する生体の恒常性維持機能があ 低め,FT4は基準値より高めであったた め,C1医師はチラーヂンの投与量を減少させた。その結果,同年11月4日の検査数値は基準値の範囲内となった。被控訴人が主張する生体の恒常性維持機能があるのであれば,このような検査数値の変動は生じないはずであるし,そもそも1か月間の休薬と1回の検査数値のみにより症状を判断することはできない(なお,診療録の「チラ1Mのんでな い」との記載は,必ずしもA1が1か月間全くチラーヂンSを服用していなかったことを意味するものではない。)。A1は,平成23年7月11日時点においても甲状腺機能低下症に罹患していたのであり,遡って本件A1申請時においても同様に罹患していた。 【被控訴人の主張】 A1は,平成23年7月11日,同日まで1か月間,チラーヂンSを服用していなかったにもかかわらず(診療録に「チラ1Mのんでない」と自己判断による休薬期間があったとの記載がある。),FT4及びTSHはいずれも正常値であった。A1がその後にチラーヂンSを服用したところ,同年9月9日の検査においては,TSHは異常に低値を示し, FT4は異常に高値を示したことからすれば,A1の甲状腺は,少なく とも同日時点では,正常に機能していた。そして,一般的に甲状腺機能低下症の症状は加齢に伴って増悪すること,チラーヂンSには甲状腺機能の治療効果はないことからすると,A1が本件A1申請をした平成17年3月11日時点においても,甲状腺機能低下症に罹患していたとは考え難い。 医師がチラーヂンSを投与したとしても,診断的治療として行われた可能性があり,必ずしも甲状腺機能低下症の確定診断があったとはいえない。また,甲状腺機能が正常な状態でチラーヂンSが長年にわたり投与されると,生体の恒常性維持機能 としても,診断的治療として行われた可能性があり,必ずしも甲状腺機能低下症の確定診断があったとはいえない。また,甲状腺機能が正常な状態でチラーヂンSが長年にわたり投与されると,生体の恒常性維持機能により,甲状腺は同投与がされた状態で正常値を保とうとする作用が生じる。A1は甲状腺機能低下症に罹 患していなかったが,長年にわたりチラーヂンSを服用していたため,恒常性維持機能により,同服用をしていた状態でも検査数値がほどんど正常範囲内のものとなっていた。 イ甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。 【控訴人Bらの主張】 被爆時の状況,被爆後の行動等A1(当時16歳)は,広島原爆が投下された時,爆心地から約1. 2kmに位置する廣島女学院専門学校の校舎の廊下を歩いていた。校舎は倒壊し,瓦礫の下敷きとなったA1は自力で這い出したが,左眼のまぶたや左手を負傷した。A1は,近くの浅野泉邸(現在の縮景園)に避 難し,夕方になり,救助の船で京橋川の対岸へ渡り,大河町の自宅(爆心地から約3.3km)まで歩いて帰った。その後は,同月15日まで自宅で過ごした。 被爆後に生じた症状(急性症状)等A1は,被爆後約1週間が経過してから頭痛,発熱が出るとともに下 痢や吐き気が続いた。約2週間経過後からは髪を梳く際に多量の毛が抜 け,このような状況が数か月間続いた。 病歴等A1は,昭和26年貧血と診断された。昭和48年に子宮筋腫となり子宮と卵巣を摘出し,平成2年には胆石症となり胆のうを摘出した。平成5年に脳梗塞を発症した。 甲状腺疾患について,平成3年放影研において甲状腺異常とされ,平成4年C1クリニックを受診し,甲状腺腫(多発性腫瘤),慢性甲状腺炎と診断された。その後,C2病院及び広島鉄道病院に 発症した。 甲状腺疾患について,平成3年放影研において甲状腺異常とされ,平成4年C1クリニックを受診し,甲状腺腫(多発性腫瘤),慢性甲状腺炎と診断された。その後,C2病院及び広島鉄道病院において診察及びチラーヂンの投与を受けていたが,平成16年C1クリニックを再診し,慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症と診断され,以後同クリニックに おいてチラーヂンの投与を受けていた。 放射線起因性があることA1は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をした。A1の被曝距離は約1.2kmであり,新審査の方針において,格段に反対すべき事由がない限り,甲状腺機能低下症と 被曝した放射線との関係を積極的に認定するとされている。このことも併せ考慮すると,A1の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。爆心地から約1.2kmの地点において被爆したA1に係るDS02による初期放射線の被曝線量(遮蔽あり)は約1.316 グレイであり,A1に最大限有利に見積もった誘導放射線の被曝線量0. 001グレイを加えても,約1.317グレイにすぎないから,放射線起因性があるとはいえない。 ウ甲状腺機能低下症に要医療性があるか。 【控訴人Bらの主張】 A1は,C1クリニックに定期的に通院し,甲状腺機能低下症の治療薬 であるチラーヂンの投与を受けていたから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 エ甲状腺腫瘤(多発性)に放射線起因性があるか。 【控訴人Bらの主張】 上記イ【控訴人Bらの主張】のとおり,A1は健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をしたのであり,甲状腺腫瘤(多発性)に放射線起因性及び要医療性がある。 【被控訴人の主張】A1が申 上記イ【控訴人Bらの主張】のとおり,A1は健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をしたのであり,甲状腺腫瘤(多発性)に放射線起因性及び要医療性がある。 【被控訴人の主張】A1が申請疾病とした甲状腺腫瘤(多発性)は多結節性甲状腺腫をいう と解される。多結節性甲状腺腫は,健康人にも高頻度でみられる疾患である。その原因には,炎症,過形成,良性腫瘍又は悪性腫瘍があるが,A1の診療録に悪性所見との記載はないから,悪性腫瘍以外によるものと解されるところ,これらの原因と放射線被曝との関連性は何ら明らかでなく,放射線起因性があるとはいえない。 オ甲状腺腫瘤(多発性)に要医療性があるか。 【控訴人Bらの主張】要医療性がある。 【被控訴人の主張】争う。良性の多結節性甲状腺腫は,1年ないし数年に1回の超音波検査 及び甲状腺関連血液検査により経過観察をすれば足りる。このように積極的な治療を伴わず経過観察を受けているにすぎない場合は,要医療性があるとはいえない。 控訴人A2ア甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。 【控訴人A2の主張】 被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A2(当時2歳)は,広島原爆が投下された時,爆心地から約2.7kmの地点に位置する広島市南蟹屋町の木造2階建の自宅建物1階に,両親,養父母及び祖母と一緒にいた。原爆の衝撃波により,屋根瓦が吹き飛び,窓ガラスが割れ,屋根が傾いた。ガラス片が壁に突き刺 さり,天井の一部が崩落していた。控訴人A2は,約4~5m飛ばされ,右耳下に切創を負った。 控訴人A2は,母親に連れられて,自宅敷地内の防空壕に1時間程度避難した。その後,自宅付近が被爆者の避難経路に位 天井の一部が崩落していた。控訴人A2は,約4~5m飛ばされ,右耳下に切創を負った。 控訴人A2は,母親に連れられて,自宅敷地内の防空壕に1時間程度避難した。その後,自宅付近が被爆者の避難経路に位置し多数の被爆者が水を求めてきたため,母親らが給水をし,薬を塗るなどの救護活動を 行った。被爆当日の夕方頃から翌日にかけて,白っぽい灰状のものが大量に降下し,身体に付着した。 控訴人A2は,投下翌日から数日間,親族等の安否を確認するため,南蟹屋町や松原町(広島駅付近)を,母親に付いて歩き回った。控訴人A2は,被爆後も,自宅を修繕してそのまま生活していた。 被爆後に生じた症状(急性症状)等控訴人A2は,被爆して2,3日後から,微熱と下痢が約10日間継続した。なお,控訴人A2は,昭和29年のABCCによる被爆実態調査において急性症状の申告をしなかったが,相当数の被爆者はABCCに自らの急性症状を回答することに躊躇いを感じていたのであり,同申 告がないことをもって急性症状の存在は否定されない。 病歴等控訴人A2は,昭和20年末頃,目やにが出るようになり,屋外では日光がまぶしく目を細めなければならない状態となった。この状態が小学校を卒業する頃まで継続した。また,17,18歳頃まで両まぶたの 部分が腫れていた。控訴人A2は,20代に,眼精疲労,肩こり,腰痛 及び心臓不整脈等が現れ,現在も続いている。 控訴人A2は,昭和60年頃,慢性甲状腺炎により広島市民病院に約3か月間通院して投薬治療を受けた。 控訴人A2は,平成10年心臓病により同病院に通院し,平成15年7月,甲状腺機能低下症によりC1クリニックに通院して,いずれも現 在まで投薬治療を受けている。 このほか,控訴人A2は,平成18年5月 A2は,平成10年心臓病により同病院に通院し,平成15年7月,甲状腺機能低下症によりC1クリニックに通院して,いずれも現 在まで投薬治療を受けている。 このほか,控訴人A2は,平成18年5月,慢性胃炎及び食道静脈瘤により舟入病院に通院し,以後,1年に1回,内視鏡による経過観察中である。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性 疫学研究の結果,甲状腺機能低下症は放射線被曝との間に有意な線量反応関係があり,自己免疫性甲状腺機能低下症についても,放射線被曝との間に一定の関連性が存在するとされている。 甲状腺機能低下症は,新審査の方針においても積極認定対象疾病であるとされた。 放射線起因性があること控訴人A2は,べき相当程度の放射線被曝をした。控訴人A2は被爆時年齢が2歳であり放射線感受性が特に高かった。 甲状腺機能低下症は放射線被曝との間に関連性があり,他の原因も存在しないことからすると,控訴 人A2の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 なお,控訴人A2は,抗甲状腺自己抗体が陰性であり,自己免疫性甲状腺機能低下症(橋本病)ではない。控訴人A2の甲状腺機能低下症は橋本病とは異なる原因である放射線被曝による。 【被控訴人の主張】 被曝の程度 控訴人A2は爆心地から約2.7kmの自宅建物内で被爆しており,DS02による初期放射線の被曝線量(遮蔽あり)は約0.004375グレイと推定され,相当低い。控訴人A2が主張する入市及び灰状のものが付着したとの事実はなく,控訴人A2の母親が被爆者を救護し,控訴人A2が自宅での生活を続けたとしても,残留放射線による被曝線 量も相当低い。そして,控訴人A2には,放射線被曝による急性期の身体症状が発現していない。控訴人A A2の母親が被爆者を救護し,控訴人A2が自宅での生活を続けたとしても,残留放射線による被曝線 量も相当低い。そして,控訴人A2には,放射線被曝による急性期の身体症状が発現していない。控訴人A2の被曝線量は,全体としても相当低く,およそ0.1グレイを上回る放射線に被曝したとは考え難い。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無及び程度低線量の放射線被曝と甲状腺機能低下症との間には関連性が存在しな い。万一,両者の間に一定の関連性が存在するとしても,ごく低線量の放射線被曝から推定される甲状腺機能低下症の発症リスクは相当低い。 なお,控訴人A2は,血液検査において,抗Tg抗体及び抗TPO抗体がいずれも陰性であったが,自己免疫性の甲状腺機能低下症の確定診断は病理検査による必要がある。また,自己抗体の測定は検査キットに よっても差異があるから,控訴人A2の甲状腺機能低下症が自己免疫性である可能性は十分に考えられる。そして,自己免疫性の甲状腺機能低下症と放射線被曝との間に統計学的に有意な関連性があるとする知見は一部に限られるのであり,これらの間に関連性は存在しない。 他の原因(危険因子)の有無及び程度 控訴人A2は,昭和60年(42歳)頃に慢性甲状腺炎に罹患し,平成14年7月(59歳)で甲状腺機能低下症と診断されたところ,60歳を超える男性の約8%は潜在性甲状腺機能低下症であり,その原因は慢性甲状腺炎が最も多いとされている。控訴人A2が甲状腺機能低下症を発症するまでの経過は,一般的な甲状腺機能低下症の発症経過と何ら 相違ない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A2の甲状腺機能低下症が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,加齢に伴い慢性甲状腺炎を発症し,その後,これ 相違ない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A2の甲状腺機能低下症が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,加齢に伴い慢性甲状腺炎を発症し,その後,これが増悪し,甲状腺機能低下症を発症するに至ったと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A2の甲状腺機能低下症に放射線起因性があるとはいえない。 イ甲状腺機能低下症に要医療性があるか。 【控訴人A2の主張】控訴人A2は,現在もC1クリニックを継続的に受診し,チラーヂンS を服用しているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 控訴人A3ア甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。 【控訴人A3の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A3(当時13歳)は,広島原爆が投下された時,爆心地から約2.5kmの地点に位置する広島市舟入南町●丁目の自宅前の路上にいた。被爆により右半身に火傷を負った。 控訴人A3は,自宅玄関前の防空壕に逃げ込み,その後,自宅が半壊して住むことができなかったため,自宅近くの会社(戸田工業)の部屋に1週間程度住まわせてもらった。 被爆後に生じた症状(急性症状)等控訴人A3は,昭和20年8月16日又は同月17日,松山市に避難 することとなり,舟入南町から住吉橋,明治橋及び鷹野橋を経て宇品港 まで歩いた(爆心地から約1.3kmの地点を通過した。)。四国に渡り,旅館に一泊した際,発熱,下痢及び血便の症状が現れた。控訴人A3は赤痢と間違われて隔離病棟に数日間収容されたが,この間脱毛も生じた。 控訴人A3は,その後赤痢でないことが分かり,同年9月半ば過ぎに広島に帰った。 病歴等控訴人A3は,昭和26年頃及 は赤痢と間違われて隔離病棟に数日間収容されたが,この間脱毛も生じた。 控訴人A3は,その後赤痢でないことが分かり,同年9月半ば過ぎに広島に帰った。 病歴等控訴人A3は,昭和26年頃及び昭和37年頃に肝臓病に罹患した。 また,昭和36年卵巣膿腫の手術を受けた。昭和47年頃膝が悪くなり整形外科で投薬治療を受けた。平成元年痔の手術,平成9年腹部大動脈瘤の手術をそれぞれ受け,胆石も見つかった。また,耳鼻科でメヌエル 氏病の診断を受けた。 控訴人A3は,平成10年(当時66歳),甲状腺機能低下症と診断された。 このほか,控訴人A3は,平成14年両膝変形性関節症,変形性脊椎症及び頸椎骨軟化症と診断され,平成22年白内障手術を受けた。 放射線起因性があること控訴人A3は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をした。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性A2り,他の原因は存在しないから,控訴人A3の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】被曝の程度控訴人A3は爆心地から約2.5kmの路上において被爆しており,DS02による初期放射線の被曝線量は約0.0126グレイと推定され,相当低い。また,仮に控訴人A3が広島原爆投下の10日又は11 日後に爆心地から約1.3kmの地点に立ち入っていたとしても,残留 放射線の被曝線量も相当低い。控訴人A3に,放射線被曝による急性期の身体症状が発現したことはなく,下痢及び血便が赤痢によるものであった疑いは排除されない。そうすると,控訴人A3は,全体としてもおよそ0.1グレイを上回る放射線に被曝したとは考え難い。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無及び程度 低線量の放射線被曝と甲状腺機能低下症と すると,控訴人A3は,全体としてもおよそ0.1グレイを上回る放射線に被曝したとは考え難い。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無及び程度 低線量の放射線被曝と甲状腺機能低下症との間に関連性が存在するとしても,その発症リスクは相当低い。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A3は女性であり,平成8年(当時64歳)頃に甲状腺機能低 下症の診断がされたところ(控訴人A3は診断時66歳であったと主張している。),60歳を超えた女性の約15%は甲状腺機能低下症(潜在性のものを含む。)である。控訴人A3が甲状腺機能低下症を発症するまでの経過は,一般的な甲状腺機能低下症の発症経過と何ら相違ない。 総合考慮 上記を総合考慮すると,控訴人A3の甲状腺機能低下症が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,加齢に伴い甲状腺機能低下症を発症するに至ったと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A3の甲状腺機能低下症に放射線起因性があるとはい えない。 イ甲状腺機能低下症に要医療性があるか。 【控訴人A3の主張】控訴人A3は,甲状腺機能低下症と診断されて以来,現在までチラーヂン投与による薬物治療を継続しており,要医療性がある。 【被控訴人の主張】 否認ないし争う。 ウ狭心症に放射線起因性があるか。 【控訴人A3の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等,被爆後に生じた症状(急性症状)等及び病歴 上記ア【控訴人A3の主張】。 狭心症と放射線被曝との関連性疫学研究の結果,狭心症を含む心血管疾患一般と放射線被曝(低線量被曝を含む。)との間に放射線起因性があることが明らかにされているところ,心筋梗塞については新審査の方針において積極認定 曝との関連性疫学研究の結果,狭心症を含む心血管疾患一般と放射線被曝(低線量被曝を含む。)との間に放射線起因性があることが明らかにされているところ,心筋梗塞については新審査の方針において積極認定対象疾病とさ れた。そして,上記疫学研究は,加齢等の危険因子を織り込んでいるほか,高血圧及び脂質異常症それ自体に放射線被曝が関与していることをも明らかにしているのであり,控訴人A3の狭心症が放射線被曝と関係のない高血圧等により発症したとはいえない。 放射線起因性があること 控訴人A3は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の連性があり,他の原因によることも否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A3の狭心症には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】 被曝の程度上記ア 狭心症と放射線被曝との関連性の有無及び程度放射線被曝と狭心症を含む虚血性心疾患との関連性について,危険因子が存在してもなお放射線被曝がその発症に大きく寄与するか否かを判 断し得る科学的知見は確立しておらず,現在の知見においても,1~2 グレイ以下の被曝については,電離放射線と心血管疾患との因果関係を立証するには十分でないと結論付けられている。 他の原因(危険因子)の有無及び程度狭心症は動脈硬化を主因とする生活習慣病であるところ,控訴人A3は65歳頃に狭心症を発症しており,放射線被曝の影響の有無にかかわ らず,狭心症を発症し得る年齢であった。また,控訴人A3には,狭心症の重要な危険因子である高血圧及び脂質異常症が存在していたところ,危険因子の重積により有病率は加速度的に増加する。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A3の狭心症が放射線被曝 により発症した可能性は極めて低く,重積 質異常症が存在していたところ,危険因子の重積により有病率は加速度的に増加する。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A3の狭心症が放射線被曝 により発症した可能性は極めて低く,重積した危険因子の作用により発症するに至ったと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A3の狭心症に放射線起因性があるとはいえない。 エ狭心症に要医療性があるか。 【控訴人A3の主張】 要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 オ高血圧に放射線起因性があるか。 【控訴人A3の主張】 被爆時の状況,被爆後の行動等,被爆後に生じた症状(急性症状)等及び病歴は,上記ア【控訴人A3上記ウ【控訴人A3の主張】高血圧に関与していることが明らかとなっている。 よって,控訴人A3の高血圧には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】 被曝の程度上記ア 高血圧と放射線被曝との関連性の有無及び程度高血圧と放射線被曝との関連性を明確に関連付ける医学的知見は存在しない。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A3は65歳頃に高血圧の診断を受けたところ,60歳以上の女性の約50%以上が高血圧とされている。高血圧は,環境因子や加齢の影響を強く受けるのであり,控訴人A3もその影響を受けた可能性が高い。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A3の高血圧が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,環境因子の作用により発症するに至ったと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A3の高血圧に放射線起因性があるとはいえない。 カ高血圧に要医療性があるか。 【控訴人A3の主張】要医療性がある。 【被控訴人の主 学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A3の高血圧に放射線起因性があるとはいえない。 カ高血圧に要医療性があるか。 【控訴人A3の主張】要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 控訴人A4ア甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。 【控訴人A4の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A4(当時4歳)は,広島原爆が投下された時,爆心地から約 2.5kmの地点に位置する広島市南千田町の自宅近くの畑におり,爆 風により飛ばされ脇腹を強打して負傷した。 控訴人A4は,自宅が倒壊したため,千田町の修道中学校のグラウンドに避難し他の被爆者とともに野宿した。控訴人A4は,昭和20年8月7日,父親に連れられて,帰宅しない姉を捜すために,広島電鉄本社及び広島赤十字病院付近を回り,爆心地から約1.6kmの地点まで接 近した。控訴人A4は,同月8日から同月15日までの間も,同様に連れられて,南千田町,鷹野橋,袋町,紙屋町,八丁堀及び鉄砲町付近まで歩き回り,爆心地から500m以内にまで接近した。控訴人A4は,この頃まで,修道中学校のグラウンドで野宿を続けていた。 被爆後に生じた症状(急性症状)等 控訴人A4は,被爆の2,3日後に,下痢及び発熱が生じた。また,被爆後は,顔色も青白く元気がなくなった。 病歴等控訴人A4は,昭和22年頃小児喘息となった。また,平成11年脳梗塞を発症して入院し,平成13年左膝血管内上皮腫により入院し手術 を受けた。そして,平成17年喘息を発症し,現在も投薬治療中である。 控訴人A4は,平成20年,甲状腺機能低下症を発症した。 放射線起因性があること控訴人A4は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の被曝をした ,平成17年喘息を発症し,現在も投薬治療中である。 控訴人A4は,平成20年,甲状腺機能低下症を発症した。 放射線起因性があること控訴人A4は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の被曝をした。控訴人A4は被爆時年齢が4歳であり放射線感受 性が特に高かった。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性は,上記A2他の原因も存在しないことからすると,控訴人A4の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】 被曝の程度 控訴人A4は,爆心地から約2.5kmの自宅付近の屋外で被爆しており,DS02による初期放射線の被曝線量は約0.0126グレイと推定され,相当低い。また,その後の入市状況は,昭和20年8月7日に爆心地から約1.6~2.5kmの地点付近に約1時間滞在し,同月8日に爆心地付近に入市したにとどまるから,残留放射線の被曝線量も 相当低い。そして,控訴人A4は,放射線被曝による急性期の身体症状も現れなかったのであり,その被曝の程度は,全体としても相当低く,およそ0.1グレイを上回る放射線に被曝したとは考え難い。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無・程度のとおりである。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A4は,66歳頃に自己免疫性甲状腺機能低下症に罹患したところ,控訴人A4が甲状腺機能低下症を発症するまでの経過は,一般的な甲状腺機能低下症の発症経過と何ら相違ない。 総合考慮 上記を総合考慮すると,控訴人A4の甲状腺機能低下症が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,加齢に伴い甲状腺機能低下症を発症するに至ったと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A4の甲状腺機能低下症に放射線起因性があるとはい 曝により発症した可能性は極めて低く,加齢に伴い甲状腺機能低下症を発症するに至ったと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A4の甲状腺機能低下症に放射線起因性があるとはい えない。 イ甲状腺機能低下症に要医療性があるか。 【控訴人A4の主張】控訴人A4は,甲状腺機能低下症と診断された後現在に至るまでチラーヂンの投与を受けて治療を継続しているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】 否認ないし争う。 ウ脳梗塞後遺症(脳梗塞により起こされたもろもろの後遺症状をいうものと解されるため,以下,脳梗塞について検討する。)に放射線起因性があるか。 【控訴人A4の主張】 被爆時の状況,被爆後の行動等,被爆後に生じた症状(急性症状)等及び病歴上記ア【控訴人A4。 脳梗塞と放射線被曝との関連性疫学研究の結果,心筋梗塞等の心疾患と放射線被曝との関連性につい て,しきい値がないことが合理的根拠に基づき明らかにされている。そして,心筋梗塞が新審査の方針において積極認定対象疾病であるとされたところ,脳梗塞は,循環器疾患である点において心筋梗塞と共通するから,しきい値がなく,一般に放射線被曝との関連性がある疾病である。 また,疫学研究において,喫煙,高血圧及び脂質異常症の交絡因子が あっても,脳梗塞と放射線被曝との線量反応関係があり,放射線リスク推定にほとんど影響を及ぼさないとされているほか,かえって,高血圧及び脂質異常症については,それ自体が放射線被曝との関連性があるとされている。 放射線起因性があること 控訴人A4は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をした。控訴人A4は被爆時年齢が4歳であり放射線感受性のとおり脳梗塞は放 連性があるとされている。 放射線起因性があること 控訴人A4は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をした。控訴人A4は被爆時年齢が4歳であり放射線感受性のとおり脳梗塞は放射線被曝との関連性があり,他の原因によることも否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A4の脳梗塞後遺症は放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】 被曝の程度上記ア 脳梗塞と放射線被曝との関連性の有無及び程度脳梗塞については,放射線被曝との関連性が存在しない。放射線被曝の未解明性を考慮し,さらに放射線防護の観点から,循環器疾患のしき い値が0.5グレイ程度まで低い可能性がある点を考慮しても,脳梗塞と放射線被曝との関連性は相当消極的に考えるべきであり,低線量被曝の場合はしきい値を考慮すべきである。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A4は58歳で脳梗塞を発症したところ,脳梗塞の発症年齢と して不自然でない。また,控訴人A4は,20歳頃から1日20~40本の喫煙をしており,脳梗塞発症の約2年前から高血圧症や脂質異常症に罹患していた。高血圧や脂質異常症という危険因子が2個重積することにより,脳卒中のリスクは約2.5倍高くなるとされている。そして,高血圧及び脂質異常症と放射線被曝との間に控訴人A4が主張するよう な関連性はない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A4の脳梗塞が放射線被曝により発症し各危険因子のみにより脳梗塞を発症したと合理的に説明することができる。 よって,控訴人A4の脳梗塞後遺症に放射線起因性があるとはいえない。 エ脳梗塞後遺症に要医療性があるか。 【控訴人A4の主張】控訴人A4は,現在も再発防止のため薬物利用を受 きる。 よって,控訴人A4の脳梗塞後遺症に放射線起因性があるとはいえない。 エ脳梗塞後遺症に要医療性があるか。 【控訴人A4の主張】控訴人A4は,現在も再発防止のため薬物利用を受けているから,要医 療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 控訴人A5ア甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。 【控訴人A5の主張】 被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A5(当時10歳)は,広島原爆が投下された時,広島市東雲町の爆心地から約2.8kmの地点に位置する自宅にいた。当時窓は開いており,控訴人A5は着替えのため上半身裸になっていたところ,意識を失った。控訴人A5は,意識を回復したときタンスの下敷きになっ ていた。背中にはすだれの竹が4,5本刺さり流血しており,胴体にシュミーズを巻いて血止めをしてもらった。控訴人A5は,建物疎開の手伝いのため富士見町付近に行っていた兄を捜すため,裸足で段原,鶴見橋を経て富士見町まで行き,同所付近で兄を捜したが見つからず,稲荷橋,的場町を経て自宅に戻った(被爆直後,爆心地から1.5km以内 の地点に長時間滞在していたことになる。)。その後,控訴人A5は,大洲町のブドウ畑に避難したところ,そこには多数の避難者がいた。食料がなかったためブドウ畑のブドウを食べ,その日はブドウ畑で夜を明かした。 控訴人A5は,昭和20年8月7日,兄の死亡が判明し,葬儀のため 安芸郡熊野町に行き,同日中に自宅に戻った。同月10日に食料の配給がされるまで,屋外に置いてあった防火用のバケツや水槽に溜まった水を飲んでいた。 控訴人A5は,同月7日夕刻から,比治山国民学校の校庭の砂場で死体の焼却作業をし,1週間程度これを続けた。また,火災により損壊し 屋外に置いてあった防火用のバケツや水槽に溜まった水を飲んでいた。 控訴人A5は,同月7日夕刻から,比治山国民学校の校庭の砂場で死体の焼却作業をし,1週間程度これを続けた。また,火災により損壊し た伯父の自宅(爆心地から約2km以内)の片付け作業を,1か月間程 度かけて行った。 控訴人A5の背中の負傷は化膿し,治癒までに約3か月間を要した。 被爆後に生じた症状(急性症状)等控訴人A5は,被爆後発熱した。そして,10日後頃に頭部の脱毛が始まり,その2~3日後には完全脱毛の状態になった。 病歴等控訴人A5は,中学2年生頃,盲腸になり,検査の結果白血球の数値に異常が認められた。31歳頃まで,倦怠感や体調不良のため段原の医療機関に通院し,30代から47歳頃まで,重度の倦怠感等のためC3病院に通院した。43歳頃中国中央病院に2回入院し,47歳頃広島大 学病院(前身の広島大学医学部附属病院についても,以下「広島大学病院」という。)に3回入院した。47歳頃から67歳頃まで,C4内科循環器科医院に通院し,甲状腺機能の異常及び狭心症と診断された。 控訴人A5は,67歳頃から現在まで,C7クリニックに通院しており,甲状腺機能低下症,高血圧,狭心症,糖尿病,変形性関節症及び乾 燥症候群と診断された。C5病院又はC6脳神経外科においてMRI検査を受けている。 放射線起因性があること控訴人A5は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の被曝をした。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性は,上 A2しないことからすると,控訴人A5の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 なお,仮に控訴人A5の甲状腺機能低下症が甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対する放射線治療によるもの ,上 A2しないことからすると,控訴人A5の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 なお,仮に控訴人A5の甲状腺機能低下症が甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対する放射線治療によるものであったとしても,甲状腺機能 低下症も甲状腺機能亢進症も同じ自己免疫性甲状腺疾患である。放射線 が免疫系に影響を与えることが明らかとなっているところ,甲状腺機能低下症のみならず甲状腺機能亢進症にも放射線の影響が考えられる。控訴人A5が甲状腺機能亢進症であったとしても,原爆放射線の影響によるものであり,これに対して放射線治療がされた結果甲状腺機能低下症に罹患したとすれば,放射線起因性はなお否定されない。 【被控訴人の主張】被曝の程度控訴人A5は爆心地から約2.8~3kmの木造平屋建物内で被爆しており,DS02による初期放射線の被曝線量は,遮蔽があることを考慮しなくても約0.00228グレイと推計され,相当低い。また,控 訴人A5がその後入市した事実はなく,むしろ,昭和20年8月16日までは爆心地から遠く離れた安芸郡熊野町で生活をしていたから,残留放射線による被曝の程度はおよそ考慮する必要がない。さらに,控訴人A5は,放射線による急性期の身体症状が現れたなどの事情もないから,全体としての被曝線量も相当低い。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無及び程度のとおり,低線量の放射線被曝と甲状腺機能低下症との間に関連性が存在するとしても,その発症リスクは相当低い。 他の原因(危険因子)の有無及び程度 控訴人A5は,遅くとも66歳までに甲状腺機能低下症に罹患するに至ったものであるが,48歳の時に広島大学病院に入院して甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の放射線治療として放射性ヨード1 び程度 控訴人A5は,遅くとも66歳までに甲状腺機能低下症に罹患するに至ったものであるが,48歳の時に広島大学病院に入院して甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の放射線治療として放射性ヨード131(3ミリキュリー)の投与を受けた。これは約2.442シーベルトの放射線被曝に相当する。上記治療は甲状腺組織を破壊させることによりその機能 を低下させることを目的とするため,同治療を受けたほとんどの患者が 20~30年経過後に甲状腺機能低下症に至る。 控訴人A5の甲状腺機能亢進症と広島原爆による放射線被曝との間に関連性は存在しない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A5の甲状腺機能低下症が 広島原爆の放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,もっぱら放射線治療により発症した医原性甲状腺機能低下症であると考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A5の甲状腺機能低下症に放射線起因性があるとはいえない。 イ甲状腺機能低下症に要医療性があるか。 【控訴人A5の主張】控訴人A5は,現在もC7クリニックを継続的に受診し,チラーヂンを服用しており,要医療性がある。 【被控訴人の主張】 否認ないし争う。 控訴人A6ア高血圧症に放射線起因性があるか。 【控訴人A6の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等 控訴人A6(当時1歳)は,広島原爆が投下された時,爆心地から約2.3kmの地点に位置する広島市愛宕町の木造平屋建物内にいた。同建物は倒壊を免れたものの窓ガラスが粉々になって家の中に散乱した。 控訴人A6は,被爆直後,防空壕に避難した。 控訴人A6は,被爆後,母に背負われて防空壕と自宅を往復し,また, 母は控訴人A6のおしめを洗濯するために,近くの が粉々になって家の中に散乱した。 控訴人A6は,被爆直後,防空壕に避難した。 控訴人A6は,被爆後,母に背負われて防空壕と自宅を往復し,また, 母は控訴人A6のおしめを洗濯するために,近くの川に出かけるのが日 課であった。控訴人A6は,時間は不明であるが,黒い雨に遭ったことがあった。 被爆後に生じた症状(急性症状)等控訴人A6は,被爆後,下痢と発熱に苦しみ,被爆後間もなくして脱毛が生じた。 病歴等控訴人A6は,昭和34年頃貧血でよく倒れていた。昭和37年健康診断で高血圧と診断された。昭和60年,身体の不調を感じて広島大学病院で診察を受けたところ,高血圧と診断され,2か月間入院した。さらに血液検査の結果,造血機能障害と診断されて投薬治療を続けること になった。控訴人A6は,その後も同病院に通院したが,貧血と高血圧のために入退院を約6回繰り返したところ,昭和63年頃入院中に腹痛が起こり,胆石と診断され,胆嚢の全摘手術を受けた。 控訴人A6は,平成10年4月27日に倒れて広島大学病院に救急搬送された。脳卒中(視床部脳内出血)と診断され,左半身が全く動かず 言語障害もあった。その時の後遺症(視床痛)により,顔や手の痛みがある。控訴人A6は,平成18年6月頃,視床痛を和らげるために,広島赤十字・原爆病院でリハビリ治療を受けるようになり,現在も通院治療中である。 控訴人A6は,平成18年7月頃,尿の排泄がしにくくなり,検査し たところ,腎臓が萎縮し,健康体に比べると約半分になっていた。また,同年8月頃,MRI検査の結果脳梗塞と診断され,その後左半身の麻痺が強まった。 控訴人A6は,平成19年,甲状腺機能低下症と診断され,現在も投薬治療中である。 控訴人A6は,平成20 ,同年8月頃,MRI検査の結果脳梗塞と診断され,その後左半身の麻痺が強まった。 控訴人A6は,平成19年,甲状腺機能低下症と診断され,現在も投薬治療中である。 控訴人A6は,平成20年1月,急に食欲がなくなり,腹部が腫れて きたのでエコー検査を受けたところ,腸に水が溜まっていた。同月8日腸閉塞と診断された。現在も投薬治療を続け,薬によって大腸を動かしているが,すぐに水が溜まり薬も排泄してしまうので,薬の量も増え,栄養も十分に摂れない状態が続いている。腎臓病も悪化しており,すぐに脱水症状になるため,その都度点滴治療を受けている。広島大学病院 では,アルドステロン症と診断された。 控訴人A6は,平成21年10月7日,大腸全摘手術を受け,小腸と直腸を繋いでいるが,そのため水分の吸収ができず,腎臓も悪化している。現在も広島赤十字・原爆病院に通院している。 高血圧症と放射線被曝との関連性 上記ウ【控訴人A3被曝が高血圧に関与していることが明らかとなっている。なお,高血圧の放射線起因性は,特定の高血圧症を除外して検討されているものではなく,本態性高血圧症とアルドステロン症による二次性高血圧症を区別することに意味はない。 放射線起因性があること控訴人A6は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をした。 も否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A6の高血圧症には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】被曝の程度控訴人A6は爆心地から約2.3kmの建物内で被爆しており,DS02による初期放射線の被曝線量(遮蔽あり)は約0.01778グレイと推定され,相当低い。また,控訴人A6は,被爆後しばらくの間同 所で生活していたところ,その間,「黒 内で被爆しており,DS02による初期放射線の被曝線量(遮蔽あり)は約0.01778グレイと推定され,相当低い。また,控訴人A6は,被爆後しばらくの間同 所で生活していたところ,その間,「黒い雨」に遭うなどの事実もなく, 残留放射線による被曝線量も相当低い。控訴人A6は,放射線被曝による急性期の身体症状が発現したこともなく,全体としての被曝線量は,0.1グレイを大幅に下回る程度の相当低いものであった。 高血圧症(原発性アルドステロン症)と放射線被曝との関連性の有無及び程度 控訴人A6は,昭和60年ないし昭和63年頃には高血圧症と診断され,平成20年1月頃に原発性アルドステロン症の確定診断を受けたと推測される。内分泌疾患である原発性アルドステロン症であっても,環境因子や加齢に起因する本態性高血圧症であっても,放射線被曝との関連性を明確に関連付ける医学的知見はない。むしろ放射線以外の原因に よるものと考えるのが自然かつ合理的である。 よって,控訴人A6の高血圧症は放射線起因性がない。 イ高血圧症に要医療性があるか。 【控訴人A6の主張】控訴人A6は,通院治療を受けているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 ウ脳出血後遺症(脳出血により起こされたもろもろの後遺症状をいうものと解されるため,以下,脳出血について検討する。)及び脳梗塞に放射線起因性があるか。 【控訴人A6の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等,被爆後に生じた症状(急性症状)等及び病歴上記ア【控訴人A6 脳出血後遺症及び脳梗塞と放射線被曝との関連性 A4り,脳出血及び脳梗塞は, いずれも一般に放射線被曝との関連性がある。 他の原因について高血 記ア【控訴人A6 脳出血後遺症及び脳梗塞と放射線被曝との関連性 A4り,脳出血及び脳梗塞は, いずれも一般に放射線被曝との関連性がある。 他の原因について高血圧,脂質異常症及び慢性腎臓病(CKD)が脳出血及び脳梗塞の危険因子であるとしても,疫学研究の結果,放射線被曝は,高血圧及びA3,慢性炎 症を引き起こし,低線量放射線により直接CKDを発症させることが明らかとなっている。控訴人A6が高血圧症,CKD等の疾病に多数罹患していることは,かえって,放射線の影響を受けていることを裏付けるものである。 放射線起因性があること 控訴人A6は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をしたところ,脳出血及び脳梗塞と放射線被曝との間には関連性がある。 によることも否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A6の脳出血後遺症及び脳梗塞には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】被曝の程度 脳出血後遺症及び脳梗塞と放射線被曝との関連性の有無及び程度 被曝との間で関連性が存在しない。脳出血については,疫学研究の結果により,一定の関連性が認められ得るものの,特に女性について,1. 3グレイ未満の放射線被曝との間の関連性は相当程度慎重に検討されるべきである。 他の原因(危険因子)の有無及び程度 控訴人A6は53歳で脳出血を,61歳で脳梗塞をそれぞれ発症した が,同各疾病の発症年齢として何ら不自然ではない。また,脳出血及び脳梗塞のいずれも高血圧を最大の危険因子とするところ,控訴人A6は,昭和49年頃高血圧を指摘され,特に,昭和62年頃から平成6年頃までの間に,高血圧の加療目的で入退院を繰り返すなど,重度の高血圧症であった。さ れも高血圧を最大の危険因子とするところ,控訴人A6は,昭和49年頃高血圧を指摘され,特に,昭和62年頃から平成6年頃までの間に,高血圧の加療目的で入退院を繰り返すなど,重度の高血圧症であった。さらに,控訴人A6は,脳梗塞が確認される以前から,脂質 異常症及びCKDに罹患していたところ,これらも脳梗塞の発症に寄与し得る危険因子である。脂質異常症及びCKDと放射線被曝との間に控訴人A6が主張する関連性は存在しない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A6の脳出血及び脳梗塞が 放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,各危険因子のみにより脳出血及び脳梗塞を発症したと合理的に説明することができる。 よって,控訴人A6の脳出血後遺症及び脳梗塞につきいずれも放射線起因性があるとはいえない。 エ脳出血後遺症及び脳梗塞に要医療性があるか。 【控訴人A6の主張】控訴人A6は,通院治療を受けているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 オ本件控訴人A6申請時において,貧血に罹患していたか。 【控訴人A6の主張】控訴人A6は,本件控訴人A6申請時,貧血に罹患していた。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。成人女性の場合,ヘモグロビン濃度が11.5g/d ℓ未満の場合を貧血ということが多いが,控訴人A6のヘモグロビン値は1 2.3g/dℓで正常範囲内である。 カ貧血に放射線起因性があるか。 【控訴人A6の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等,被爆後に生じた症状(急性症状)等及び病歴は,上記ア【控訴人A6控訴 人A6は健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をしたから,貧血につき放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 (急性症状)等及び病歴は,上記ア【控訴人A6控訴 人A6は健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をしたから,貧血につき放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 キ貧血に要医療性があるか。 【控訴人A6の主張】要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 ク甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。 【控訴人A6の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等,被爆後に生じた症状(急性症状)等及び病歴上記ア【控訴人A6 放射線起因性があること 控訴人A6被曝をした。控訴人A6は被爆時年齢が1歳であり放射線感受性が特に訴人A2からすると,控訴人A6の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】 被爆の程度上記ア【被控訴人の主張】のとおりである。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無及び程度り,低線量の放射線被曝と甲状腺機能低下症との間に関連性が存在するとしても,その発症リスクは相 当低い。 連性がない。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A6は,平成19年9月25日(当時63歳),チラーヂンSの投与を開始するとの判断がされたところ,同日及び実際にチラーヂンS の処方がされた同年10月2日の各検査結果は,TSHのみ軽度高値であり,FT4は正常範囲内であったから,潜在性甲状腺機能低下症であった。そして,上記処方後の平成22年3月23日の検査結果はTSHが異常低値であり,チラーヂンの過剰投与が疑われ,同日時点でも潜在性甲状腺機能低下症であった可能性が排除されないところ,60歳を超 えた女性の約15%が潜在性甲状腺機能低下症であるとされている。 総合考慮上記を の過剰投与が疑われ,同日時点でも潜在性甲状腺機能低下症であった可能性が排除されないところ,60歳を超 えた女性の約15%が潜在性甲状腺機能低下症であるとされている。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A6の甲状腺機能低下症が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,加齢に伴い潜在性甲状腺機能低下症を発症したと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A6の甲状腺機能低下症につき放射線起因性があるとはいえない。 ケ甲状腺機能低下症に要医療性があるか。 【控訴人A6の主張】控訴人A6は,通院治療を受けているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】 否認ないし争う。 控訴人A7ア心筋梗塞に放射線起因性があるか。 【控訴人A7の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等 控訴人A7(当時7歳)は,広島原爆が投下された時,疎開先の広島県賀茂郡原村にいた。 控訴人A7は,昭和20年8月12日早朝,家族の安否確認等のため,兄G1,姉G2とともに広島市内に向かい,同日午後4時又は午後5時頃(原爆投下から約150時間後),爆心地から約1.8kmの地点に位 置する広島市猿猴橋町にある自宅付近に到着した。崩壊していた自宅付近に家族はおらず,控訴人A7は,付近の京橋町,的場町及び松川町の心当たりのある場所で父G3を捜したが,見つからなかった。控訴人A7は,夜遅くなって牛田町のG3の知人宅を訪ねてG3と再会した。控訴人A7及びその家族は,同月13日から,倒壊した自宅や近所の家屋 の廃材等を集めて自宅跡地に,バラック小屋を作り始めた。夜は防空壕で過ごした。控訴人A7は,G3から,袋町や十日市町の親戚宅に行き,言伝をしたり,食物を届けたり融通して した自宅や近所の家屋 の廃材等を集めて自宅跡地に,バラック小屋を作り始めた。夜は防空壕で過ごした。控訴人A7は,G3から,袋町や十日市町の親戚宅に行き,言伝をしたり,食物を届けたり融通してもらったりするように言われ,急造のバラック小屋で生活している袋町や十日市町の親戚を毎日のように訪ねた。控訴人A7の家族は,食料がなくなり,破裂した水道管から 漏れ出ている水を飲んだり,近辺に散らばって放置されたままとなっていた保存食や乾パン等を拾い集め食べたりするなどした。控訴人A7は,このような生活を,夏休み一杯続け,同月29日頃疎開先の小学校に通うため原村に戻った。そして,同年9月下旬広島の自宅に戻り,以後バラック小屋(自宅)で家族と一緒に生活した。 被爆後に生じた症状(急性症状)等 控訴人A7は,入市して約2週間経過後から,発熱,下痢が始まり,2~3か月間続いた。昭和20年9月から耳鳴りを患い,2年間通院した。同年秋には脱毛の症状が現れた。 病歴等控訴人A7は,昭和29年1月肺浸潤に罹患して3~4か月間通院し, 昭和48年5月胃潰瘍と診断され約1年間通院した。昭和50年8月及び平成4年11月,変形性脊椎症のため,それぞれ約6か月間,約3か月間通院した。 控訴人A7は,平成5年2月,救急搬送されて心筋梗塞と診断され,約1か月間入院した。 控訴人A7は,平成16年2月緑内障(右)手術を,平成17年緑内障(左)手術をそれぞれ受けた。平成24年11月には白内障(右)手術も受けた。 控訴人A7は,平成20年1月胆のう全摘手術を受け,同年4月以降現在まで,心筋梗塞及び緑内障の治療のため,通院を続けている。 心筋梗塞と放射線被曝との関連性心筋梗塞と放射線被曝 た。 控訴人A7は,平成20年1月胆のう全摘手術を受け,同年4月以降現在まで,心筋梗塞及び緑内障の治療のため,通院を続けている。 心筋梗塞と放射線被曝との関連性心筋梗塞と放射線被曝との間に有意な関連性があることは,国際的な認識が確立しており,多数の疫学研究により,0~1グレイの低線量被曝において心疾患に対する影響があることが明らかにされている。線量反応しきい値分析の結果0グレイが最適値であるとする分析もあり,心 筋梗塞と放射線被曝との関連性の程度については,しきい値がないと想定することが合理的である。新審査の方針においても,心筋梗塞は積極認定対象疾病であるとされた。 また,上記心疾患に対する影響は,喫煙及び脂質異常症等の交絡因子を調整してもほとんど変わらないとされている。むしろ,脂質異常症に ついては,それ自体が放射線被曝の影響を受けることが明らかとなって いる。 放射線起因性があること控訴人A7は,べき相当程度の放射線被曝をした。控訴人A7は被爆時年齢が7歳であり放射線感受性が特に高かった。 放射線被曝との関 連性があり,他の原因によることも否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A7の心筋梗塞は放射線起因性がある。 なお,控訴人A7の心筋梗塞の発症年齢は55歳であり,加齢は危険因子として重要でない。控訴人A7の喫煙歴を重視することはできない。 【被控訴人の主張】 被曝の程度控訴人A7は,広島原爆が投下された時,爆心地から20km以上離れた原村にいたため,初期放射線による影響は受けていない。また,控訴人A7は,昭和20年8月12日に入市し,同月14日に原村に戻ったところ,この間の誘導放射線による被曝の程度もごく僅かであった。 た原村にいたため,初期放射線による影響は受けていない。また,控訴人A7は,昭和20年8月12日に入市し,同月14日に原村に戻ったところ,この間の誘導放射線による被曝の程度もごく僅かであった。 そして,控訴人A7には,放射線被曝による急性期の身体症状の発現もなかったから,その被曝線量は,全体としてもおよそ人体に健康影響が及ばない程度のものであった。 心筋梗塞と放射線被曝との関連性の有無及び程度現在の信頼性の高い知見において,少なくとも0.5グレイを下回る 被曝線量についてまで心筋梗塞を含む心疾患と放射線被曝との間の直接的な因果関係があるとはされていない。また,放射線被曝が低線量になればなるほど心筋梗塞の発症リスクは低減するとされている。そうすると,放射線被曝が低線量であった場合には,心筋梗塞発症との間の関連性の程度はより慎重に検討されるべきである。 他の原因(危険因子)の有無及び程度 控訴人A7は,21歳頃から平成5年2月(当時55歳)に心筋梗塞を発症するまでの約34年間,1日20~30本もの喫煙をしていた。 また,控訴人A7は,平成5年4月21日の血液検査の結果,高LDLコレステロール,低HDLコレステロール及び高トリグリセライドが確認され,脂質異常症の治療が開始されたのであり,心筋梗塞を発症した 当時既に脂質異常症が進行していた。脂質異常症と放射線被曝との間に関連性はない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A7の心筋梗塞が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,医学的にも,上記 子のみにより心筋梗塞を発症したと合理的に説明することができる。 よって,控訴人A7の心筋梗塞に放射線起因性があるとはいえない。 イ心筋梗塞に要医療性があるか。 【控訴人A7の主張 上記 子のみにより心筋梗塞を発症したと合理的に説明することができる。 よって,控訴人A7の心筋梗塞に放射線起因性があるとはいえない。 イ心筋梗塞に要医療性があるか。 【控訴人A7の主張】控訴人A7は,治療のために通院しているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 控訴人A8ア心筋梗塞に放射線起因性があるか。 【控訴人A8の主張】 被爆時の状況,被爆後の行動控訴人A8(当時16歳)は,広島原爆が投下された時,爆心地から約4.1kmの地点に位置する広島市南観音町の学徒動員先の三菱重工製缶工場におり,敷地内の事務所から工場に向かって屋外を歩いていた。 控訴人A8は,熱風と爆風に襲われ,咄嗟に両手で頭を覆い地面に伏せ たところ,上方からスレートやガラスの破片等が落下し,右手首を負傷 した。控訴人A8は急いで防空壕に避難した。 控訴人A8は,数時間後大竹市の自宅に帰ることとした。歩いている途中,西大橋(爆心地から約2km)の手前付近において黒い雨が降り始め,しばらくの間全身が濡れた状態となった。控訴人A8は,衣服が焼けて大火傷を負った多数の被爆者とともに歩き,庚午近辺でトラック の荷台に乗せてもらった。廿日市駅でトラックを降りたが,駅構内は被爆者で溢れていた。ようやく乗ることができた汽車も負傷者で立錐の余地もないほどであった。控訴人A8は,2時間程度乗車し,午後7時頃帰宅した。 控訴人A8は,昭和20年8月8日,広島市楠木町(爆心地から約1. 4km)に住んでいた親戚(伯父)の安否確認のため広島市内に向かった。己斐駅で汽車を降り,旭橋(爆心地から約2.5km),西大橋を渡って南下し,午前8時前,伯父も勤務していた三菱重工製缶工場に到着し km)に住んでいた親戚(伯父)の安否確認のため広島市内に向かった。己斐駅で汽車を降り,旭橋(爆心地から約2.5km),西大橋を渡って南下し,午前8時前,伯父も勤務していた三菱重工製缶工場に到着した。伯父が通勤中に被爆したと考えた控訴人A8は,その後同工場を出て,徒歩で天満川沿いの西側堤防を北上し,観音橋を渡り,土橋,十 日市町(爆心地から約0.7km)を経て,横川駅(同1.5km)・楠木町方面に向かった。控訴人A8は,学校,寺社及び川土手等に設けられていた各救護所に立ち寄り,伯父を捜した。救護所には,遺体や瀕死状態の人が並べられており,控訴人A8は,名札を確認したり,身体に触って特徴を確認したりしたが,伯父は見つからず,午後6時過ぎ横川 駅から汽車に乗って帰宅した。 控訴人A8は,同月9日午前7時30分頃横川駅に到着し,徒歩で伯父一家の自宅周辺や三滝の竹藪,焼け落ちた陸軍病院,太田川沿いの大芝公園等を見て回った。午後6時過ぎに横川駅から汽車で帰宅した。 控訴人A8は,同月10日から同月15日までは午前8時から午後1 時頃まで,同月16日から同月18日までは午前8時から午前10時頃 まで,学校の指示で己斐の旭山(黒い雨が激しく降った区域である。)で木材の運搬作業に従事した。 被爆後に生じた症状(急性症状)等控訴人A8は,昭和20年8月15日頃から極度の全身のだるさ,倦怠感に見舞われるようになった。同月下旬頃からは,1日に急に何回も 下痢をするようになり,血便も出た。下痢は同年9月中旬まで続いた。 そして39度の高熱が2日間続き,その後も5日間程度下がらなかった。 同年8月末頃には,歯茎から出血し,手足に紫色の斑点が現れた。 控訴人A8は,被爆後間もなくほとんど寝たままの状態になり,同年9月中 して39度の高熱が2日間続き,その後も5日間程度下がらなかった。 同年8月末頃には,歯茎から出血し,手足に紫色の斑点が現れた。 控訴人A8は,被爆後間もなくほとんど寝たままの状態になり,同年9月中旬頃何とか起き上がれるようになった。 病歴等控訴人A8は,被爆直後からの全身の倦怠感や風邪を引きやすい状態がその後も続き,昭和22年4月に逓信局に就職したものの3か月経過後頃から微熱が続き,倦怠感及び食欲不振にも見舞われ,体力や気力を維持することができず退職を余儀なくされた。また,出血するとなかな か血が止まらず,歯や歯茎も弱くなり,31歳で歯を全て失い,総入れ歯となった。 控訴人A8は,昭和40年頃,急に意識がなくなる症状が出始め,約1年間続いた。昭和47年(当時44歳),虚血性心疾患と診断され,通院治療により症状はいったん治まった。昭和60年頃呼吸が止まり意識 がなくなる症状が1か月間に3回程度生じ,検査の結果異常はなかったが,倦怠感・胃弱は続いた。 控訴人A8は,平成20年9月25日夜(当時79歳),就寝直後に胸が重苦しく呼吸困難となった。同年10月8日,広島市民病院で心筋梗塞と診断され,入院してステントを挿入する治療を受けた。現在も,通 院治療および検査入院を継続している。 心筋梗塞と放射線被曝との関連性について ア【控訴人A7の主張】のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には有意な関連性がある。喫煙及び脂質異常症等の交絡因子の存在は同関連性をほとんど左右せず,かえって,喫煙を除く交絡因子については,それ自体が放射線被曝の影響を受ける。 放射線起因性があること控訴人A8は,健康に影響を及ぼすべき相 連性をほとんど左右せず,かえって,喫煙を除く交絡因子については,それ自体が放射線被曝の影響を受ける。 放射線起因性があること控訴人A8は,健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をした。 放射線被曝との関連性があり,他の原因によることも否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A8の心筋梗塞には放射線起因性がある。 なお,控訴人A8は昭和47年(当時44歳)に虚血性心疾患を発症し,これが平成20年の心筋梗塞の発症に繋がったから,心筋梗塞診断時の年齢(79歳)は危険因子ではない。控訴人A8の心筋梗塞発症当時のトリグリセライド及び総コレステロールはいずれも正常範囲内であり,かかりつけ内科医も経過良好としていた。そして,控訴人A8は昭 和32年(35歳)頃以降喫煙をしていないから,喫煙歴を重視することはできない。 【被控訴人の主張】被曝の程度控訴人A8は,爆心地から約4.1kmと遠距離のしかも屋内におい て被爆した。DS02による初期放射線の被曝線量は,遮蔽があることを考慮しなくても0.0001グレイを更に下回ると推定されるのであり,ごく僅かであった。また,控訴人A8がその後己斐地区を通過した際に放射性降下物が降下したとしても,残留放射線の被曝の程度は低線量にとどまる上,放射線被曝に起因する急性期の身体症状が発現したこ とがなく,昭和47年頃虚血性心疾患に罹患したとの事実が存在しない ことも併せ考慮すると,全体として被曝の程度は低線量であった。 心筋梗塞と放射線被曝との関連性の有無及び程度ア【被控訴人の主張】のとおりであり,放射線被曝が低線量であった場合には,心筋梗塞発症との間の関連性の程度はより慎重に検討されるべきである。 心筋梗塞と放射線被曝との関連性の有無及び程度ア【被控訴人の主張】のとおりであり,放射線被曝が低線量であった場合には,心筋梗塞発症との間の関連性の程度はより慎重に検討されるべきである。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A8は,79歳という高齢になってから心筋梗塞を発症した。 また,控訴人A8は,昭和47年頃以降長年脂質異常症に罹患し,かつ,35歳から63歳まで長期間喫煙をしていた。63歳で禁煙したとしても,喫煙により長期間にわたって血管壁に形成された粥腫が完全に 消失することはないところ,平成20年10月当時,控訴人A8の動脈硬化は既に相当進行していた。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A8の心筋梗塞が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,医学的にも,上記各危険因子の みでこれらを発症したと合理的に説明することができる。 よって,控訴人A8の心筋梗塞に放射線起因性があるとはいえない。 イ心筋梗塞に要医療性があるか。 【控訴人A8の主張】要医療性があることは明らかである。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 控訴人A9ア本件控訴人A9申請時に甲状腺機能低下症に罹患していたか。 【控訴人A9の主張】 控訴人A9は昭和46年C10内科で甲状腺機能低下症と診断され,チ ラーヂンの服用を開始した。その後,平成3年4月26日C9クリニックを受診(初診)し,平成21年7月からはC8クリニックを受診するようになった。控訴人A9は,この間ずっとチラーヂンの服用を続けた。C9クリニックの上記初診時の検査結果は,TSHが異常値(低値),FT4が正常値であり,その後の検査結果も同様であったが,上記服用の影響を受 けたものである。そしてチ チラーヂンの服用を続けた。C9クリニックの上記初診時の検査結果は,TSHが異常値(低値),FT4が正常値であり,その後の検査結果も同様であったが,上記服用の影響を受 けたものである。そしてチラーヂンの処方は,甲状腺機能低下症の確定診断がされていなければ行われない反面,甲状腺機能低下症は治る見込みがなく,同処方は一生続くのであるから,昭和46年上記診断を受けていた控訴人A9は,本件控訴人A9申請時においても甲状腺機能低下症に罹患していた。 なお,控訴人A9のTSHが感度以下に低下してもチラーヂンSの処方が休止されなかったのは,臨床現場において,前医の処方箋を確認することができ,患者に何らの異常が認められない場合には,前医の診断を信頼して薬の処方を継続するとの経験則が存在し,控訴人A9に係る甲状腺機能低下症の診断についても合理的な信頼が生じていたからである。 【被控訴人の主張】控訴人A9は,遅くとも平成3年4月26日以降平成25年9月24日(本件控訴人A9申請がされたのは平成22年3月2日である。)まで,継続して1日50μgのチラーヂンSの投与を受けこれを服用していたところ,この間,TSHはほとんどが異常値(低値)であり,その大部分は測 定可能な範囲(感度)以下を示していた。チラーヂンSの上記投与量は比較的少量であり,上記服用によりTSHの大部分が感度以下に低下したのであるから,控訴人A9の甲状腺機能が正常であった可能性が十分に存在する。このような場合,上記投与を中止して甲状腺機能を検査する必要があるが,控訴人A9についてはされていない。 よって,控訴人A9は,本件控訴人A9申請時点において,甲状腺機能 低下症に罹患していたとはいえない。 イ甲状腺機能低下症に放射線起因性があ 人A9についてはされていない。 よって,控訴人A9は,本件控訴人A9申請時点において,甲状腺機能 低下症に罹患していたとはいえない。 イ甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。 【控訴人A9の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A9(当時14歳)は,広島電鉄家政女学校で寮生活をしてい たところ,広島原爆が投下された時,爆心地から約2.5kmの地点に位置する広島市皆実町の同校木造講堂内にいた。控訴人A9は咄嗟に床に伏せ,怪我や火傷はしなかった。 控訴人A9は,すぐに講堂の外に出た。避難先として指定されていた鈴が峰の実践女学校のある西の山側方向に歩いて避難することになった。 地理が不案内であった控訴人A9は,爆心地方向を避け,爆風で飛び散ったガラスや瓦礫等を踏まないようにして,真っ黒になりながら西広島方面に向かった。日が暮れてから己斐駅(西広島駅)に着き,さらに線路沿いに歩いて実践女学校に向かった。到着した時には午後9~10時になっていた。実践女学校には既に多くの被爆者が避難しており,火傷 等が酷く,死んだように動かない人も多数運ばれてきていた。 控訴人A9は,昭和20年8月27日頃まで,その講堂内で避難生活を送った。避難して2~3日後から同月末頃まで,宮島駅から己斐駅まで往復する広電電車の車掌として働いた。仕事が休みの日等の午後に,広電市内線の線路をたどり,土橋付近まで2,3回同級生を捜しに行っ たが,誰も見つけることはできなかった。 被爆後に生じた症状(急性症状)等控訴人A9は,昭和20年8月末頃,唇や口の中の粘膜が剥がれ口に水もふくめないほどの痛みが生じ,飲食もできなくなったので,安芸高田市の実家に帰った。実家に戻ってからすぐに,頭髪がほとん 性症状)等控訴人A9は,昭和20年8月末頃,唇や口の中の粘膜が剥がれ口に水もふくめないほどの痛みが生じ,飲食もできなくなったので,安芸高田市の実家に帰った。実家に戻ってからすぐに,頭髪がほとんど抜け落 ち,発熱があり,下痢及び血便が1週間程度続いた。その後めまいのす る状態が同年冬を過ぎる頃まで続き,頭髪が男性の短髪程度の長さになるまで1年程度要した。 病歴等控訴人A9は,18歳頃から貧血及びめまいがするようになった。昭和36年頃の健康診断で甲状腺が悪いと言われ,広島大学病院で検査を 受けたが,治療の必要はないとされ,以後通院しなかった。 控訴人A9は,昭和46年頃,C10内科を受診し,甲状腺機能低下症と診断され,以後通院した。平成3年4月からC9クリニックに通院し,平成21年7月からはC8内科に通院している。 放射線起因性があること 控訴人A9健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝をした。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性ア【控訴人A2も存在しないことからすると,控訴人A9の甲状腺機能低下症には放射線起因性がある。 【被控訴人の主張】被曝の程度控訴人A9は爆心地から約2.5kmの木造講堂内で被爆しており,DS02による初期放射線の被曝線量は,遮蔽状況を十分考慮しない場合で約0.005グレイと推定され,実際にはこれを下回ることが見込 まれるのであり,相当低い。また,控訴人A9は,その後爆心地から約1kmの地点に入市したことはなく,残留放射線による被曝の程度も相当低い。さらに,放射線被曝による急性期の身体症状が発現したこともなかったことなどから,全体としての被曝の程度は相当低い。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無及び程度 ,低 相当低い。さらに,放射線被曝による急性期の身体症状が発現したこともなかったことなどから,全体としての被曝の程度は相当低い。 甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性の有無及び程度 ,低線量の放射線被曝と甲状 腺機能低下症との間に関連性が存在するとしても,その発症リスクは相当低い。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A9が仮に41歳頃に甲状腺機能低下症に罹患していたとしても,その年齢及び性別の点から,一般的な甲状腺機能低下症の発症経過 と何ら相違ない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A9の甲状腺機能低下症が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,加齢に伴い甲状腺機能低下症を発症したと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A9の甲状腺機能低下症に放射線起因性があるとはいえない。 ウ甲状腺機能低下症に要医療性があるか。 【控訴人A9の主張】控訴人A9は,チラーヂンの服用を続けているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 控訴人A10についてア急性心筋梗塞に放射線起因性があるか。 【控訴人A10の主張】 被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A10(当時3歳)は,広島原爆が投下された時,爆心地から約3kmの地点に位置する広島市牛田町の自宅におり,飛行機の音がして遮蔽物のない濡れ縁(敷居の外側につけられた軒下の廊下)に踏み出ようとしていた。鴨居に掛けてあった額縁が落下し,控訴人A10は額 に5cm程度の切傷を負って意識を失った。顔面にも火傷を負い,油を 塗り野草による民間治療をした。控訴人A10は,姉に手を引かれて裏山に避難した。裏山には黒い雨が降った。 額 に5cm程度の切傷を負って意識を失った。顔面にも火傷を負い,油を 塗り野草による民間治療をした。控訴人A10は,姉に手を引かれて裏山に避難した。裏山には黒い雨が降った。 控訴人A10は,裏山から戻ると,自宅が全焼していたため,約100m離れた伯父のE1宅(爆心地から約3km)に身を寄せた。E1宅は部分損壊であった。控訴人A10の両親は,当日,広島市基町の陸軍 基町倉庫(爆心地から約1.2km)の作業中に被爆し,意識不明となった。E1夫婦が両名を捜しに行き,リヤカーに乗せてE1宅に運んだ。 そのE1夫婦も,爆心地から約2.3kmの田で農作業の準備中に被爆し,その田に連れてこられていた両名の長男及び二男も被爆した。両名の長女も爆心地から約1.2kmの富士見町で被爆した。 控訴人A10は,近距離被爆をした重症の両親らを含む被爆者少なくとも11名とともにE1宅で共同生活をした。控訴人A10の父親は昭和20年8月8日死亡し,母親は昭和39年頃脳出血で倒れて右半身不随となり,昭和49年4月24日,62歳で死亡した。その余の当時の同居者も,がん,心筋梗塞及び脳梗塞等の疾病に罹患した。 被爆後に生じた症状(急性症状)等控訴人A10は,被爆直後,下痢が続いた。また,幼年時は病弱であり,小学生の頃に腎盂炎を患った。 病歴等控訴人A10の病歴等は以下のとおりである。 平成14年又は15年硬膜下血腫のため,頭蓋骨にドリルで穴を開けて血を抜く手術を受け,平成15年下肢静脈瘤のため,血管40cmを取り除く手術を受けた。同年12月4日不安定狭心症,同月9日狭心症,脂質異常症及び高血圧症と診断され,同月左冠動脈狭窄(#7の狭窄率99%)のためカテーテル治療を受けた。 平成16年3月11日 除く手術を受けた。同年12月4日不安定狭心症,同月9日狭心症,脂質異常症及び高血圧症と診断され,同月左冠動脈狭窄(#7の狭窄率99%)のためカテーテル治療を受けた。 平成16年3月11日腰痛症,2型糖尿病,同年5月24日多発性両 側腎のう胞と診断された。 平成17年2月10日慢性心不全,同年11月15日片頭痛と診断され,また,同年12月2日に白内障(両眼)と診断された。平成18年2月23日慢性胃炎と診断され,同年8月心臓カテーテルを受けた。 平成19年4月25日小脳出血(入院治療を受け,現在も通院治療中 である。),同年5月11日軽度の両側頸動脈狭窄,同年8月11日逆流性食道炎(再発),同年11月15日末梢神経炎,平成20年6月2日めまい症となった。 平成21年3月31日急性心内膜下梗塞(急性心筋梗塞)のため,同年4月1日緊急入院し,以後内服治療中である。同年6月12日陳旧性 脳梗塞と診断された。 平成22年8月11日両肩関節周囲炎,平成23年11月7日急性上気道炎,平成24年7月9日腰椎圧迫骨折となった。 控訴人A10は,同年5月8日左眼の白内障手術を受けた。 急性心筋梗塞と放射線被曝との関連性 ア【控訴人A7の主張】,心筋梗塞と放射線被曝との間には有意な関連性がある。喫煙,高血圧及び脂質異常症等の交絡因子の存在は同関連性をほとんど左右しない。かえって,高血圧及び脂質異常症等の喫煙を除く交絡因子については,それ自体が放射線被曝の影響を受ける。 放射線起因性があること控訴人A10健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝を心筋梗塞は放射線との関連性がある疾病であり,他の原因によることも否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A10の と控訴人A10健康に影響を及ぼすべき相当程度の放射線被曝を心筋梗塞は放射線との関連性がある疾病であり,他の原因によることも否定されること(むしろ促進されること)からすると,控訴人A10の急性心筋梗塞には放射線 起因性がある。 なお,控訴人A10が急性心筋梗塞を発症したのは平成21年3月31日(当時67歳)であるところ,それ以前の平成15年12月には不安定狭心症(#7の狭窄率99%)で血栓が大きくなって閉塞すると心筋梗塞が発症する状態であった。加齢は他の原因として有力でない。また,控訴人A10が高血圧であったとは必ずしもいえず,高血圧の傾向 にあったとしても,心筋梗塞の発症を招く程度の高血圧ではなかった。 血糖値も概ね正常範囲内であった。そして,控訴人A10は,平成15年12月までに32年間禁煙していた。若年時の放射線被曝は動脈硬化との間に関連性があり,脂質異常症も放射線被曝の影響を受ける。以上のとおり,加齢以外の危険因子も放射線起因性を否定する事情とはなら ない。 【被控訴人の主張】被曝の程度控訴人A10は,爆心地から約3kmの地点にある建物内で被爆しており(土壁による遮蔽があった。),DS02による初期放射線の被曝線 量は約0.002グレイ(遮蔽を考慮するとさらに低下する。)とごく僅かであった。 控訴人A10の主張する被爆後の行動(他の被爆者らとの共同生活)等の事実を前提としても,残留放射線による被曝線量もごく僅かであり,控訴人A10は放射線被曝による急性期の身体症状が発現したこともな かったから,その被曝の程度は全体としても相当低線量であった。 急性心筋梗塞と放射線被曝との関連性の有無及び程度ア【被控訴人の主張】り,放射線被曝が低線量であった場合に したこともな かったから,その被曝の程度は全体としても相当低線量であった。 急性心筋梗塞と放射線被曝との関連性の有無及び程度ア【被控訴人の主張】り,放射線被曝が低線量であった場合には,急性心筋梗塞発症との間の関連性の程度はより慎重に検討されるべきである。 他の原因(危険因子)の有無及び程度 控訴人A10が急性心筋梗塞を発症したのは67歳であり,一般に心筋梗塞を十分に発症し得る年齢である。また,控訴人A10は,遅くとも平成10年6月5日に脂質異常症の治療薬が処方され,その後も長年にわたり脂質異常症に罹患していた。控訴人A10は,高血糖,肥満及び高血圧であったほか,20歳頃から約10年間の喫煙歴もあった。上 記各危険因子と放射線被曝との間にはいずれも関連性がない。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A10の急性心筋梗塞が放射線被曝により発症した可能性は極めて低く,医学的にも,上記各危険因子のみでこれらを発症したと合理的に説明することができる。 よって,控訴人A10の心筋梗塞に放射線起因性があるとはいえない。 イ急性心筋梗塞に要医療性があるか。 【控訴人A10の主張】控訴人A10は,医師の指示に従い,通院して診察を受け,検査をし,投薬を受けているから,要医療性がある。 【被控訴人の主張】否認ないし争う。 ウ白内障に放射線起因性があるか。 【控訴人A10の主張】被爆時の状況,被爆後の行動等,被爆後に生じた症状(急性症状)等 及び病歴上記ア【控訴人A10 白内障と放射線被曝との関連性放射線の白内障に対する影響は,現在の国際的な研究結果では,しきい値のない確率的影響(放射線による健康影響のうち,被曝した放射線 量が多いほど影響 A10 白内障と放射線被曝との関連性放射線の白内障に対する影響は,現在の国際的な研究結果では,しきい値のない確率的影響(放射線による健康影響のうち,被曝した放射線 量が多いほど影響の出現する確率が高まるもの)であると解されている。 被控訴人は,しきい値が0.5グレイであると強調するが,かつての旧審査の方針においては,しきい値が1.75シーベルトとされていた。 そして,現在の研究結果によれば,後嚢下混濁のある放射線白内障のほか,若年時の放射線被曝による早発性の加齢性白内障が存在し,被爆後数十年経過後に発症し後嚢下以外の皮質等の部分に混濁が生じた白内 障との間にも放射線被曝との関連性があることが明らかとされている。 新審査の方針においても,放射線白内障は積極認定対象疾病とされている。同方針においては加齢性白内障を除くとされているが,放射線の確率的影響として白内障を考えた場合,純粋な加齢性白内障と区別することは不可能であり,被爆者に生じた皮質等の混濁による白内障も放射 線白内障に当たる。 放射線起因性があること控訴人A10すべき相当程度の放射線被曝をした。そして,放射線被曝との間には関連性があるところ,白内障の発症は63歳よりも前であったこと, 放射線白内障に特徴的な後嚢下混濁があること等も併せ考慮すると,控訴人A10の白内障は放射線起因性がある。 仮に控訴人A10の白内障が加齢性であったとしても,その症状である皮質混濁は放射線に起因して生じたものである。 【被控訴人の主張】 被曝の程度上記ア【被控訴人の主張】のとおりである。 白内障と放射線被曝との関連性の有無及び程度原爆症認定の対象となるのは,被爆者援護法10条1項の文言上,放射線白内障に限られる。 被曝の程度上記ア【被控訴人の主張】のとおりである。 白内障と放射線被曝との関連性の有無及び程度原爆症認定の対象となるのは,被爆者援護法10条1項の文言上,放射線白内障に限られる。 白内障の放射線影響のしきい値について,放射線防護の観点を加味し た上で,0.5グレイであるとするのが国際的な共通認識であり,0. 5グレイ未満の低線量被曝と白内障との間に関連性はない。 また,放射線白内障は,水晶体前嚢直下にある上皮細胞が分裂する際に被曝による障害を受け,変性した細胞が核を持ったまま後嚢中央部である後極に移動して集まることにより,光の直進が妨げられ,後嚢下の 混濁が起こると考えられているところ(被曝により遺伝子が損傷し,細胞分裂・分化の結果,異常な線維細胞が集積して起こるとの知見もある。),少なくとも核混濁及び前嚢下混濁が放射線の影響により生じ得るとの医学的知見は存在しない。後嚢下混濁の所見も,糖尿病白内障に特徴的に生じるほか,加齢性白内障においても,核混濁や皮質混濁と並んで一般 的に生じる。 他の原因(危険因子)の有無及び程度控訴人A10が白内障を発症したのは,一般に66%以上の割合で白内障が認められる60歳代(63歳)である。その所見は両眼前嚢下混濁及び左眼後嚢下の軽度混濁であり,いずれも加齢性白内障においてし ばしばみられる所見である。加えて,控訴人A10は,平成16年3月11日以降高血糖の状態が断続的に続いており,糖尿病により白内障(左眼後嚢下の軽度混濁)が発症した可能性も十分にある。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A10の白内障が放射線被 曝により発症した可能性は極めて低く,加齢及び糖尿病により白内障を発症したと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない 。 総合考慮上記を総合考慮すると,控訴人A10の白内障が放射線被 曝により発症した可能性は極めて低く,加齢及び糖尿病により白内障を発症したと考えて,医学的に何ら不自然不合理ではない。 よって,控訴人A10の白内障に放射線起因性があるとはいえない。 エ白内障に要医療性があるか。 【控訴人A10の主張】 「現に医療を要する状態にある」(要医療性)の解釈 要医療性がある場合とは,疾病等につき,被爆者援護法10条2項に規定する医療の給付を要する状態にある場合をいい,積極的な治療行為を伴う場合に限られず,当該疾病等の予後として悪化や再発が予想され,状況に応じて的確に積極的な治療を行うべく経過観察を受けているときは,「診察」(被爆者援護法10条2項1号)を要する状態にあるとして, 要医療性があるというべきである。被爆者援護法の国家補償的側面に照らすと,被爆者が白内障につき健康診断を受けることができ,一般医療費の支給がされるから問題が生じないということはできない。 白内障治療に関し,医師と患者は,点眼治療にもかかわらず視力の低下が一層進む場合に,やむを得ず眼内レンズ挿入手術を行うことを選択 するのであり,白内障の種類(加齢性白内障か放射線白内障か)や混濁の部位により治療法を選択するのではない。医師は,白内障患者に対し,手術を勧める場合もあれば,経過観察とする場合もある。手術である以上,リスクは一定程度あり,一定の疾患を伴っている場合はそのリスクはさらに増加するし,その効果が100%保障されたものではないこと も伝える。このような結果として手術を選択しない患者や,手術に至るまでの期間の患者に対し,医師は,主として点眼液(カリーユニ点眼液等)を投与する。白内障患者にとって,これらは定 ではないこと も伝える。このような結果として手術を選択しない患者や,手術に至るまでの期間の患者に対し,医師は,主として点眼液(カリーユニ点眼液等)を投与する。白内障患者にとって,これらは定期的な通院治療であり,経過観察である。医療を要するか否かに関する医師の裁量は尊重されるべきであるところ,医師の裁量的判断により上記のような経過観察 が行われている場合には,手術ではなくとも白内障の治療であることに変わりはなく,医療を要する状態にある。 白内障に要医療性があること控訴人A10は,医師の判断により,カリーユニ点眼液の処方を受けながら経過観察を行っていたところ,左眼は平成24年5月に手術を受 けた。右眼についても平成30年2月20日,視力0.02(矯正0. 15)で白内障が確認され,同年4月16日に手術を受けた。それまで続けられてきた経過観察及び点眼に要医療性があったことを裏付ける。 よって,控訴人A10の白内障は,いずれも要医療性がある。 【被控訴人の主張】「現に医療を要する状態にある」(要医療性)の解釈 要医療性がある場合とは,被爆者が,原爆症認定申請時において,積極的な治療(医学的に有効適切なもの)を要する状態にあることをいう。 白内障に対する有効適切な治療法は手術のみであるから,白内障について要医療性があるというためには,原爆症認定申請時において,当該白内障につき手術を要する状態であることが必要である。 右白内障に要医療性があるとはいえないこと控訴人A10は平成24年6月21日に本件控訴人A10申請を行ったところ,同年5月8日,左白内障については手術が行われたのに対し,右白内障については,医師から,軽度なので手術をせずに様子を見る旨を伝えられ,実際,同月9日 6月21日に本件控訴人A10申請を行ったところ,同年5月8日,左白内障については手術が行われたのに対し,右白内障については,医師から,軽度なので手術をせずに様子を見る旨を伝えられ,実際,同月9日時点の控訴人A10の右眼の矯正視力は0. 9とかなり良好であった。また,控訴人A10は,本件控訴人A10申請をした当時及びこれと近接した時点において,カリーユニ点眼液は処方されていなかった(もっとも,同点眼液は放射線白内障の治療のため医学的に有効適切なものではない。)。 よって,控訴人A10の右白内障に要医療性があるとはいえない。 控訴人A11(右白内障に要医療性があるか。)【控訴人A11の主張】アA10の主張】のとおり,要医療性がある場合とは,状況に応じて的確に積極的な治療を行うべく経過観察を受けている場合も含まれる。 イ控訴人A11は,平成19年1月19日,核と後嚢下皮質部分に混濁が あり(このほか黄斑変性も確認された。),両眼白内障(軽度~中等度)と診断された。視力は右0.1,左0.5であり,いずれも手術適応があるとされた。白内障の診察は継続して行われ,平成20年12月には左眼について白内障手術が行われた(点眼液は効果が少ないとして処方されなかった。)。平成27年10月頃から,右白内障の混濁部位に変化はなかった ものの,視力低下がみられ,多少進行傾向にあるとして,同年11月30日進行抑止のためにカリーユニ点眼液の処方が開始された。白内障の治療において水晶体の混濁を除去するには,現在のところ,手術によるほかないが,臨床の現場では,症状の進行抑止のためカリーユニ点眼液が処方されることも多い。控訴人A11の意思によっては,右眼についても手術を 受ける可能性がある。 控訴 ろ,手術によるほかないが,臨床の現場では,症状の進行抑止のためカリーユニ点眼液が処方されることも多い。控訴人A11の意思によっては,右眼についても手術を 受ける可能性がある。 控訴人A11は,平成26年9月18日の本件控訴人A11申請時において,定期的な経過観察がされるにすぎなかったが,状況に応じて的確に積極的な治療を行うべく経過観察を受けていたのであるから,その右白内障に要医療性がある。 【被控訴人の主張】 エのとおりであるところ,控訴人A11の右白内障については,本件控訴人A11申請時において,手術を要する状態にあったとはいえないから,要医療性があるとはいえない。カリーユニ点眼液の投与は放射線白内障の治療に効 果はない上,そもそもその処方が開始されたのは本件控訴人A11申請から1年以上経過した後のことである。 よって,控訴人A11の右白内障につき要医療性があるとはいえない。 3 本件各処分につき行政手続法8条違反があるか。 【控訴人らの主張】 行政手続法8条は,拒否処分をする場合につき理由を示さなければならない と定めているが,被控訴人は,本件各処分をするにつき具体的な理由を付していなかったから,手続上の違法事由が存在する。 【被控訴人の主張】争う。 第3章当裁判所の判断 第1 放射線起因性の判断基準(争点1) 1 放射線起因性の立証の程度等被爆者援護法10条1項,11条1項の規定によれば,原爆症認定の要件として,①被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)のほか,②現に医療を要する疾病等が原子爆弾の放射線に起因するものであるか,又は,上 記疾病等が放射線以外の原子爆弾の傷害作用に起因するものであって,その者の治癒能力が原子爆 こと(要医療性)のほか,②現に医療を要する疾病等が原子爆弾の放射線に起因するものであるか,又は,上 記疾病等が放射線以外の原子爆弾の傷害作用に起因するものであって,その者の治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けているため上記状態にあること(放射線起因性)が必要であると解される。 行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に,その拒否処分の取消訴訟において原告(控訴人)がすべき因果関係の立証の程度は,特別の 定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必 要とすると解すべきである(最高裁判所平成12年7月18日第三小法廷判決・裁判集民事198号529頁参照〔以下「平成12年最判」という。〕)。 被爆者援護法には,同法11条1項の原爆症認定に係る放射線起因性の立証の程度につき特別の定めはされていない。かえって,同法は,給付ごとに支給要件を区別して定めているところ,健康管理手当や介護手当の支給要件につい てはいずれも弱い因果の関係でよい旨を明文で規定していること(同法27条 1項,31条)と対比すれば,原爆症認定については,原爆放射線と疾病等又は治癒能力の低下との間に通常の因果関係があることを要件として定めたものと解するのが相当である。 以上によると,原爆症認定の要件とされている放射線起因性については,控訴人らにおいて,控訴人ら(控訴人Bらを除く。)及びA1が原爆放射線に被曝 件として定めたものと解するのが相当である。 以上によると,原爆症認定の要件とされている放射線起因性については,控訴人らにおいて,控訴人ら(控訴人Bらを除く。)及びA1が原爆放射線に被曝 したことにより,その疾病又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とするものと解すべきである。 控訴人らは,被爆者援護法の趣旨・目的や原爆被害の立証の困難性等を根拠 として,特段の事情がない限り,放射線起因性が存在すると解すべきである旨を主張する。この点につき,控訴人らの指摘する観点を無視することはできないが,そうであるからといって,一般的に訴訟上の因果関係の立証の程度を軽減することは許されないというべきである。放射線起因性の直接的な立証が困難であることは,後記2のとおり放射線起因性の判断をいかに行うかという方 法を検討するに際して考慮することとする。 2 放射線起因性の具体的判断手法放射線起因性の立証の程度は上記1のとおりであるが,人間の身体に疾病が生じた場合に,その発症に至る過程においては,多くの要因が複合的に関連していることが通常であり,特定の要因から当該疾病の発症に至った機序を逐一 解明することには困難が伴う。特に,放射線に起因する疾病は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するとは限らず,放射線に起因しない場合とその症状が同様であることもまま見受けられる上,放射線が人体に影響を与える機序は,科学的にその詳細が解明されてはおらず,長期間にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病の関係についての知見は,統計学的,疫学的解析に よる有意性の確認等の限られたものにとどまっており,これらの 科学的にその詳細が解明されてはおらず,長期間にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病の関係についての知見は,統計学的,疫学的解析に よる有意性の確認等の限られたものにとどまっており,これらの科学的知見に も一定の限界があるところである。 これらからすると,放射線起因性の判断に当たっては,当該疾病の発症に至る医学的又は病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく,当該被爆者の放射線への被曝の程度と,統計学的又は疫学的知見等に基づく申請疾病と放射線被曝との関連性の有無及びその程度とを中心的な考慮要素としつつ,こ れに当該疾病に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度を総合的に考慮して,原子爆弾の放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当であるというべきである。 控訴人らは,低線量被曝の危険性も無視することはできない旨を主張するが, この点についても,被曝の程度,申請疾病と放射線被曝との関連性の有無及びその程度等の枠組みにおいて判断するのが相当である。 3 被曝線量の評価方法新審査の方針における被曝線量の評価方法放射線起因性の判断に当たっては,上記2のとおり,当該被爆者の放射線 への被曝の程度が中心的な考慮要素の一つとなる。厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,原則として,疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならないとされているところ,上記第2章第2の法令の定め等,証拠(乙B1〔18頁〕,2〔15頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,医療分科会は,旧審査の方針の下において,被爆者の被曝線量を,①初期放射線による 被曝線量の値に,②残留放射線(誘導放射線)による被曝線量の値及び 頁〕,2〔15頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,医療分科会は,旧審査の方針の下において,被爆者の被曝線量を,①初期放射線による 被曝線量の値に,②残留放射線(誘導放射線)による被曝線量の値及び③放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とし,④内部被曝による被曝線量は特に考慮していなかったことが認められる。新審査の方針も,このような取扱いの変更に言及するものではなかったから,大枠として同様の評価方法を踏襲していると認められる(乙A6,弁論の全趣旨)。 そこで,以下,現在の新審査の方針の下における医療分科会の具体的な被 曝線量の評価方法を踏まえて,上記①~④の評価方法の合理性を検討し,さらに,これらに関連する⑤遠距離被爆者及び入市被爆者の各被曝線量の評価について検討する。 初期放射線の被曝線量の評価ア初期放射線等 初期放射線とは,原子爆弾のウラン235(広島原爆)又はプルトニウム239(長崎原爆)が臨界状態に達し,爆弾が爆発する直前に,瞬時に放出された放射線であり,その主要成分は,ガンマ線(90%以上)及び中性子線である(上記第2章第3の前提事実〔以下,単に「前提事ア,乙B3〔4頁〕,62)。 なお,原子爆弾のエネルギーは,通常の爆弾と異なり,爆風(後記a)と強烈な熱線(後記b),放射線を伴った。エネルギー分布は,爆風が50%,熱線が35%,放射線が15%であったとされる。爆風,熱線と発生した火災の複合的効果により被害は広範囲にわたり,建物(鉄筋コンクリート建物を含む。)の全壊全焼(灰燼に帰した状態)は爆心地から 半径2kmの区域全体に及び,半壊は同4kmの範囲にまで及んだ。 (乙B3〔3頁〕,121,122)a 爆風爆発と同時に爆発点に数十万気圧という超高 (灰燼に帰した状態)は爆心地から 半径2kmの区域全体に及び,半壊は同4kmの範囲にまで及んだ。 (乙B3〔3頁〕,121,122)a 爆風爆発と同時に爆発点に数十万気圧という超高気圧が発生した。そして空中に生じた火球の表面から衝撃波が発生し,これが先行する爆風 となった。その後強い外向きの爆風が続き,風速は爆心地付近で280m/秒,約3.2kmの地点でも28m/秒であった(台風について,平均風速25m/秒以上の風が吹いているか,吹く可能性がある範囲を暴風域と呼ぶ〔顕著な事実〕。)。外向きの風が吹き止むと,外側から内側に弱い風が吹き込み,爆心地で上昇気流となってキノコ雲の 幹を形成した。(乙B3〔3頁〕,121) b 熱線上記火球は,爆発の瞬間に最高で数百万度に達し,爆心地の地表温度は約3000~4000℃になった。火球から放射された熱線の99%が地上に影響を与え,露出した皮膚での熱線による熱傷は広島原爆では爆心地から約3.5km,長崎原爆では同4kmにまで及んだ。 約1.2km以内で無遮蔽であった者は致命的な熱傷を受けた。 (乙B3〔3頁〕,121)イ DS02DS86の策定原爆被爆者の線量推定方式については,昭和40年,アメリカの研究 者により,T65D(Tentative 1965 Dose)が開発され,放射線による健康影響が量的に評価されるようになった。T65Dはその後約20年間放影研による疫学研究等に使われてきた。しかし,1970年代後半以降,T65Dに対して様々な問題点が指摘されるようになり,日米合同の研究者グループにおいて線量評価方法の検討 が重ねられた。そして,昭和61年,日米合同の原爆放射線量再評価検討委員会において,新しい線 Dに対して様々な問題点が指摘されるようになり,日米合同の研究者グループにおいて線量評価方法の検討 が重ねられた。そして,昭和61年,日米合同の原爆放射線量再評価検討委員会において,新しい線量評価方式として,DS86が策定,発表された。 DS86は,当時の最新の核物理学の理論に基づき,高性能の大型コンピュータを駆使して,爆弾の出力を推定し,ソースタームを実験によ り検証した上,空気中カーマ,遮蔽カーマ及び臓器カーマの計算モデルを統合した線量計算方法であり,被爆者の遮蔽データを入力してその被曝線量を計算するシステムである。上にいうソースタームは,最初に原子爆弾から放出される放射性粒子や量子の個数及びその角度分布とエネルギー分布をいい,カーマとは,吸収線量と似た概念で,電荷を持たな い放射線が物質に照射されたときにその単位質量当たりに発生する荷電 粒子の初期運動エネルギーの総和をいう(乙B61,160)。空気中カーマは,爆弾から空気中を伝播してきた放射線量で,被爆者の周囲の遮蔽を介する前の被曝線量,遮蔽カーマは被爆者の周囲の構造物による遮蔽を考慮した被曝線量,臓器カーマは人体組織による遮蔽も考慮した被曝線量をいう。 DS86の計算値の妥当性は,①ガンマ線につき,被曝した試料(瓦やタイル)に熱を与え,発生した光の量を測定して(熱ルミネッセンス法。光の量が被曝したガンマ線の線量に比例する。),計算値(理論値)と比較することにより,②中性子線につき,原爆の中性子により特定の物質(イオウ,コバルト,ユーロピウム)中に生成された特定の放射性 物質(リン32,コバルト60,ユーロピウム152)の放射線を測定し,この測定値から推定した中性子線量と計算値(理論値)とを比較することにより,それぞれ検証す ム)中に生成された特定の放射性 物質(リン32,コバルト60,ユーロピウム152)の放射線を測定し,この測定値から推定した中性子線量と計算値(理論値)とを比較することにより,それぞれ検証することとされた。検証の結果,上記①について,広島原爆では1000m以遠の地点で測定値が計算値より大きく,近い地点では逆に小さくなり(長崎原爆では関係が逆になった。), 測定値の平均とよい一致を得るためには計算値を約18%大きくする必要があるなどとされたが,T65Dと比較すると,DS86の方が遥かによい一致を示した。上記②については,特に広島原爆において計算値との間に系統的な不一致が見られ,未解決の問題が残るとされた。(甲B1の13,8の4,乙B3〔332,337,343頁〕,4,5の1, 8,13)DS86の発表後は,放影研の疫学研究も,DS86の線量推定に基づいて行われるようになった。ICRPにおいても承認され,放射線防護のリスク評価として世界的に採用されることとなった。(乙B1,2,3〔332,341頁〕,6の1〔ⅴ頁〕)。 旧審査の方針においても,初期放射線による被曝線量について,DS 86により爆心地からの距離(2.5kmまで)に応じて算定した値によって推定するものとしていた(前提事実3)。 DS02の策定DS86には,その発表後も続けて行われた検証により,計算値(理論値)と測定値が一致しない部分があることが認められたため,日米合 同の研究者グループにおいて,上記不一致や不確実性を解消するための方策が検討された。そして,平成14年,DS86の評価方法を基本的に踏襲しつつ,さらに進化した大型コンピュータ及び最新のデータを用いてこれを改良した新たな被曝線量評価体系(DS02)が策定さ ための方策が検討された。そして,平成14年,DS86の評価方法を基本的に踏襲しつつ,さらに進化した大型コンピュータ及び最新のデータを用いてこれを改良した新たな被曝線量評価体系(DS02)が策定され,平成15年,日米合同のDS02に関する原爆放射線量評価検討会にお いて承認された。(甲B8の4,乙B4,5の1〔3,40頁〕,6の1・2,8)DS86からの主な変更点は,広島原爆については,出力が15ktから16ktへ,爆発点の高度が580mから600mへそれぞれ修正され,爆心位置が15m西に移動し,ガンマ線量が10%以内の増加, 中性子線量が爆心地から1~2kmで最大10%の増加とされたことであり,長崎原爆については,爆心位置が3m西に移動し(出力と高度は変化なし),ガンマ線量が約10%の増加,中性子線量が爆心地から1~2kmで10~30%の減少とされたことである。これにより,測定値と計算値との間で全般的に一致度が大きく高まったとされた。 (甲B8の 4,乙B4,5の1・2,6の1〔ⅺ,46頁〕,8〔19頁〕,13)新審査の方針の下においては,DS02の線量評価方式により初期放射線による被曝線量の推定が行われており,ICRPにおいても,放射線リスクの改定にDS02を用いている(前提事実3乙A6,B6の1〔46頁〕,弁論の全趣旨)。 ウ DS02の評価 本件において,審査に用いられるDS02による線量評価方式の評価につき,控訴人らと被控訴人との間で争いがあるので,DS02による線量評価方式の合理性について検討することとする。 上記イのとおり,DS86の被曝線量評価方式は,当時の最新の核物理学の理論に基づき,高性能の大型コンピュータを用いて,被爆者の被 曝に関する諸条件を統合 の合理性について検討することとする。 上記イのとおり,DS86の被曝線量評価方式は,当時の最新の核物理学の理論に基づき,高性能の大型コンピュータを用いて,被爆者の被 曝に関する諸条件を統合して被曝線量を推定したものであり,ICRPにおいて承認され,世界の放射線防護の基本的資料とされるなど,国際的に通用する体系的線量評価方式として取り扱われてきたものである。 DS02は,DS86の評価方法を基本的に踏襲した上で,更に進歩した大型コンピュータ及び最新のデータを用いて,DS86よりも高い精 度で被曝線量の評価を可能にしたものである。そして,この分野に関して,より高次の科学的合理性を備えた線量評価方式は存しないこと(弁論の全趣旨)も併せ考えると,現時点においては,DS02の被曝線量評価方式は,被爆者の初期放射線による被曝線量を高い精度で算定することが可能な相当の科学的合理性を有するものであると評価することが できる。 もっとも,DS02も,DS86と同様に,コンピュータによる計算の結果(理論値)を基礎として策定されたものであるので,初期放射線量の推定値(計算値)は,あくまでも近似的なものにとどまる。現に,DS02の代表的被爆者線量の合計誤差は広島原爆・長崎原爆ともに約 30%であり,合計線量の27~45%の範囲とされている(乙B6の1〔45頁〕・2〔1006頁〕)。また,高濃縮ウラン片を爆圧で圧縮させて核分裂を起こさせるタイプの広島原爆については,核実験を含めて実際に起爆されたのが広島原爆のみであり,その出力は爆発効果の測定と理論的計算によらざるを得ず(乙B4,5の1〔6,9頁〕),計算誤 差は大きいとされるところ,その出力はプラスマイナス2kt(14k tから18kt)の範囲との推定がさ 測定と理論的計算によらざるを得ず(乙B4,5の1〔6,9頁〕),計算誤 差は大きいとされるところ,その出力はプラスマイナス2kt(14k tから18kt)の範囲との推定がされており(乙B6の1〔48,58頁〕),これに伴い放射線量の増減をもたらす可能性があるといえる。 加えて,DS02による計算値と測定値との不一致について,以下のような問題が指摘されている。 a ガンマ線量 DS86において,熱ルミネッセンス法による測定値は,全般的に計算値より7%高かった。広島原爆において,DS86の公表以来,追加の熱ルミネッセンス法による測定が,より精度を上げるため最新の技法を用いて行われた。DS02における再検討の結果,主に出力の変更により全般的な一致度が高まり,中遠距離の一致度はDS86 よりも良好であるとされたが,遠距離では測定値が計算値を上回ることを示唆する若干の例があるとされた(乙B6の1〔35,463頁〕)。 ガンマ線のバックグラウンド線量(土壌,岩石及び建材に含まれる自然放射線核種からのガンマ線及び宇宙線等の試料採取場所で測定された自然放射線)が広島原爆に係る爆心地から約1500m以遠におい て正味の線量測定値の誤差の主要な寄与要因であるとされてはいるものの(乙B6の1〔386,402,463頁〕),遠距離におけるガンマ線量の計算値が過小評価されている可能性はなお完全には排除されない。 b 中性子線量 初期放射線の熱中性子線(運動エネルギーの低い中性子線)量については,DS86によると,コバルト60(物理学的半減期約5.3年),ユーロピウム152(同約13.3年),塩素36(同30万8000年)を対象とした計算値が,爆心地から近距離では測定値よりも大きく,遠距離になるに従って ,コバルト60(物理学的半減期約5.3年),ユーロピウム152(同約13.3年),塩素36(同30万8000年)を対象とした計算値が,爆心地から近距離では測定値よりも大きく,遠距離になるに従って測定値を下回る系統的な不一致があ ると指摘されていたが(甲B8の4,乙B8〔9頁〕),DS02にお いて解析された結果,計算値と測定値の不一致の問題は解決をみたとされた(乙B5の1〔24頁〕,6の1〔26頁〕)。もっとも,コバルト60について,爆心地からの距離約1300m以内で測定値が計算値を上回る地点が存在したほか,約1300m以遠では,測定値が計算値を上回った。その原因については,試料の線量カウントと検出器 のバックグラウンド線量とを区別する際に問題があったと推測されているが(乙B5の1〔47頁〕,6の2〔486頁〕),過小評価の可能性が完全に払拭されているとまではいえない。 以上によると,DS02においても,爆心地から約1300m以遠において初期放射線の被曝線量を過小評価している可能性を完全には否定 することができない。もっとも,初期放射線の測定値と計算値との相違は,主としてバックグラウンド線量との区別が困難であることなどの測定値の不確実性等によるものとされている上(乙B8〔3頁〕),仮に過小評価がありえたとしても,上記認定した誤差の範囲等に照らすと,その値が大きなものであるとは考え難いということができる。 エ小括以上のとおり,初期放射線の被曝線量を推定するに当たって,DS02は相当の科学的合理性を有しており,これによって被曝線量を推定することは合理的であるということができるが,殊に遠距離被爆者の被曝線量推定にDS02を適用する場合には,上記ウにおいて検討したとおり限界が存 する 性を有しており,これによって被曝線量を推定することは合理的であるということができるが,殊に遠距離被爆者の被曝線量推定にDS02を適用する場合には,上記ウにおいて検討したとおり限界が存 することも考慮に入れるべきである。 誘導放射線の被曝線量の評価ア誘導放射線誘導放射線とは,原子爆弾の初期放射線の中性子が地上に到達して,土壌や建築物等を構成する物質の特定の元素の原子核と反応を起こすこと (誘導放射化)によって生じた放射性物質が放出する放射線である(前提 ア)。 DS86の報告書において,DS86により誘導放射線の線量を算定することはできないが(乙B4,13〔22頁〕,223〔22頁〕),爆発直後から無限時間爆心地にとどまり続けた場合の地上1mにおける累積ガンマ線量につき,広島原爆において約80レントゲン(約0.5グレイ),長 崎原爆においては約30~40レントゲン(約0.18~0.24グレイ)と推定された。これは,組織吸収線量に換算すると,広島原爆において約50ラド,長崎原爆において約18~24ラドとなる。線量は,経過時間及び爆心地からの距離により減少するが,特に経過時間において顕著であり,1日後に約3分の1に,1週間後には数%に減少するとされた(乙B 1,2,13〔227,465頁〕)。DS02においては,初期放射線のみ見直しが行われ,誘導放射線については検討されなかった(乙B5の2〔52頁〕,7の1〔150頁〕)。 イ評価誘導放射線による外部被曝線量について,旧審査の方針は,広島原爆 において72時間以内に爆心地から700m以内に,長崎原爆においては56時間以内に爆心地から600m以内にそれぞれ入った場合に,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過 は,広島原爆 において72時間以内に爆心地から700m以内に,長崎原爆においては56時間以内に爆心地から600m以内にそれぞれ入った場合に,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過時間の区分に応じた所定の値としていた(乙A2)。これに対し,新審査の方針には誘導放射線による外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会は, 旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,その後に現れたDS02に基づく今中哲二(京都大学原子炉実験所)「DS02に基づく誘導放射線量の評価」(乙B7の1〔150頁〕。以下「今中論文」という。)等も踏まえて線量を算定しているものと認められる(乙A6,弁論の全趣旨)。 今中論文は,DS86による初期放射線(中性子線)の線量評価を前 提に誘導放射能量を計算したGritznerらの研究「原爆が誘発し た土壌の放射化による線量の計算」(乙B29)をDS02に応用することにより,誘導放射線(ガンマ線)による地上1mでの外部被曝線量(空気中組織カーマ)を推定したものである。これによると,広島原爆の爆発直後から無限時間同じ場所に居続けたと仮定したときの放射線量(積算線量)は,爆心地においては120センチグレイ(長崎原爆では57 センチグレイ)であるが,爆心地から離れるとともに速やかに減少し,爆心地から1000mの地点では0.39センチグレイ(同0.14センチグレイ),爆心地から1500mの地点では0.01センチグレイ(同0.005センチグレイ)となったとし,これ以上の距離での誘導放射線被曝は無視して構わないと結論付け,誘導放射線による被曝が問題と なるのは,爆心地から1km以内に1週間以内に入った場合であるとしている(乙B7の1)。 この結果について,その計算過程の 線被曝は無視して構わないと結論付け,誘導放射線による被曝が問題と なるのは,爆心地から1km以内に1週間以内に入った場合であるとしている(乙B7の1)。 この結果について,その計算過程の合理性を疑わせる事情は特に見当たらないこと等に照らすと,医療分科会が新審査の方針において用いている誘導放射線による外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に 基づくものということができる。 しかし,DS02自体の誤差があることから,DS02に基づく誘導放射線量の推定においても,少なくとも同程度の誤差が存在するということができる。また,広島及び長崎の土壌に由来する誘導放射線について,DS86においても,土壌中の放射能活性化 前元素の濃度が測定者によりかなり大きく異なっているとして,計算された放射化が広範には適用できないかもしれないとされていた(乙B13〔220頁〕)。そして,マンガン55及びナトリウム23は,それぞれ中性子の照射により被曝との関連において重要とされる放射性核種であるマンガン56(物理学的半減期約2.6時間)及びナトリウム24 (同約15時間)に誘導放射化されるところ(乙B29〔4頁〕),マン ガン55及びナトリウム23の土壌中の含有量は,同一市内でも測定場所によりかなりの開きがある(乙B13〔220,464頁〕,30〔6頁〕)。そうすると,主体及び場所を異にする測定のうちいずれを基礎とするかにより,誘導放射線の線量も異なり得るということができる。今中論文は,DS86とDS02の地上1mでの放射性核種コバルト60 (物理学的半減期約5.3年)の土壌放射化量の比をそのまま誘導放射線量の比としたところ,推定計算の前提に一定の制約があることは否定することができない。 また,誘導放射線(ガ 核種コバルト60 (物理学的半減期約5.3年)の土壌放射化量の比をそのまま誘導放射線量の比としたところ,推定計算の前提に一定の制約があることは否定することができない。 また,誘導放射線(ガンマ線)の線源は,地表面(土壌)のほかにも,原子爆弾の中性子によって誘導放射化した建物等の建築資材,空気中の 塵埃等もあり得るところ,原子爆弾の爆発時に生じた強烈な爆風(上記)により誘導放射化した土壌等が粉塵となって舞い上がり,遠距離に飛散した可能性がある(乙B20の2〔542項〕)。遠距離における誘導放射線の外部被曝線量が爆心地と同程度に達するとはおよそ考えにくいとしても(乙B20の1〔132項〕),だからといってこれを 軽視してよいともいい難い。そして,被曝の形態としても,外部被曝のほかに内部被曝があり得るところ(イ),今中論文は,誘導放射化された粉塵の吸入に伴う内部被曝線量の簡易な見積りを試みているものの,内部被曝の経路は粉塵の吸入に限られず,飲食物を介しての摂取や傷口に粉塵が付着することによる侵入も想定される(甲A136。 放射線業務を行う事業の事業者に対し,傷創部が汚染された労働者をして速やかに医師の診察又は処置を受けさせることを義務付けた電離放射線障害防止規則44条1項5号参照。放影研も,特に火傷は放射線の人体に対する悪い影響を増加させることが知られているとする〔乙B133〕。)。さらに,今中論文は,爆心地から1000m地点の誘導放射線に よる外部被曝線量(積算線量)は1センチグレイにも満たない(0.3 9センチグレイ)とするが,後記のとおり,初期放射線にほとんど被曝していないいわゆる遠距離被爆者や入市被爆者にも放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果が 9センチグレイ)とするが,後記のとおり,初期放射線にほとんど被曝していないいわゆる遠距離被爆者や入市被爆者にも放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果が複数報告されており,これらの調査結果については,上記の外部被曝線量評価だけでは合理的に説明することが困難である。 これらの点を考慮すると,新審査の方針の下における誘導放射線による被曝線量の評価については,過小評価となっている疑いを否定することができない。そして,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,吉川友章(東京理科大学総合研究所教授)・丸山隆司(放射線影響協会研究参与)「黒い雨の放射線影響に関する意見書」(乙B23〔9頁〕) において,広島原爆については,粉塵の水平スケールが4500mと見積もられていることに照らし,少なくとも爆心地から2250m以内の区域には(同〔11頁〕),誘導放射化物質が一定程度存在していた可能性を考慮に入れる必要がある。かつ,被爆者の個別の被爆状況,被爆後の行動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,誘導放射化された放射性 物質による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性を十分に検討する必要があるというべきである。 放射性降下物による放射線の被曝線量の評価ア放射性降下物による放射線放射性降下物による放射線とは,核分裂生成物(放射性粒子)や分裂し なかった核分裂物質で雨とともに又は単独で地上に降り注いだものが放出する放射線であるア)。 DS86の報告書において,放射性降下物による放射線は,算定のための理想的なデータが存在せず,また,各個人が異なる被曝率の地域でどれくらいの時間過ごしたかについての決定の問題があるなどとして,DS8 6によりその線量を算定する 物による放射線は,算定のための理想的なデータが存在せず,また,各個人が異なる被曝率の地域でどれくらいの時間過ごしたかについての決定の問題があるなどとして,DS8 6によりその線量を算定することはできないとされたが(乙B13〔22, 211頁〕,223〔22頁〕),が示された。 DS02においては,この点は検討されなかった(乙B7の1〔150頁〕)。 イ評価放射性降下物による放射線の外部被曝線量について,旧審査の方針は,原爆投下の直後に特定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって 当該特定の地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値としており,具体的には,広島原爆では己斐・高須地区につき0.6~2センチグレイ,長崎原爆では西山地区につき12~24センチグレイとしていた(乙A2)。これに対し,新審査の方針には,放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会は,旧 審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,DS86の報告書における分析結果等によって同線量を算定・評価しているものと認められる(乙A6,B20の1〔85項〕,弁論の全趣旨)。 放射性降下物については,原子爆弾投下の数日後から複数の測定者が放射線量の測定を行い,これらの調査の結果,己斐・高須地区(広島原 爆の爆心地から約3km北西方向)及び西山地区(長崎原爆の爆心地から約3km東方向)において,それぞれ放射線の影響が比較的顕著に見られることが判明した。これは,初期放射線によるものではなく,原子爆弾の爆発後,風下に位置していた両地区において激しい降雨があり,これによって放射性降下物が降下したことによるものであることが確認 された(甲A78,B8の15,乙B3〔348頁〕,9~12,弁論の 発後,風下に位置していた両地区において激しい降雨があり,これによって放射性降下物が降下したことによるものであることが確認 された(甲A78,B8の15,乙B3〔348頁〕,9~12,弁論の全趣旨)。 そして,DS86の報告書において,昭和20年9月以降に行われた複数の測定結果を総括し,地表1mの高さにおける放射性降下物によるガンマ線の累積的被曝への寄与につき,その影響が最も大きい場所とし て,己斐・高須地区においておそらく1~3レントゲンの範囲,西山地 区においておそらく20~40レントゲンの範囲であるとし,組織吸収線量に換算すると,己斐・高須地区で0.6~2ラド,西山地区で12~24ラドになると結論付けられた(乙B5の2〔62頁〕,13〔21,218,228,465頁〕)。 上記分析は,原子爆弾投下から間もない時期に行われた調査に基づく 複数の調査結果を総括したものであり,その後の調査結果による推定値もこれらと整合するものであること(甲A77の1・2,乙B14の1・2)等も考慮すると,医療分科会が新審査の方針において採用している放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかし,放射性降下物の測定結果については,DS86の報告書においても,風雨の影響を受ける前に測定されなかったこと(広島市は昭和20年9月17日及び同年10月9日に台風に遭い,広島原爆投下後の3か月間に900mmもの大量の降雨があった。),測定場所があまりにも少なかったこと,代表的でない標本が抽出されることが多かったこと 等の事情により,多数の測定の精度やすべての外挿の精度が非常に低いことが強調されている(乙B13〔210,213頁〕)。放射性降下物は,降 と,代表的でない標本が抽出されることが多かったこと 等の事情により,多数の測定の精度やすべての外挿の精度が非常に低いことが強調されている(乙B13〔210,213頁〕)。放射性降下物は,降下時の地理的分布が一様でない上,地表到達後,風や地表水による移動の結果,分布がさらに複雑になるところ(乙B114),原子爆弾投下後数か月以内に行われた複数の測定結果(物理学的半減期の短い放 射性核種から放出される放射線の測定も可能であった。)からは,放射性降下物が相当不均一に存在していたことが推認される(乙B10~12。 特に乙B11〔第1表,第2表〕)。放射性降下物による放射線に起因する外部被曝線量の上記算定方法については,測定精度や測定資料等の制約から一定の限界が存するというべきである。 また,旧審査の方針においては,特定の地域についてのみ放射性降下 物による放射線の外部被曝線量を算定することとされていたが,広島原爆投下後の降雨域は相当に広く,己斐・高須地区以外の地域でも放射性降下物を含む降雨があったとの報告がある(甲A2〔5頁〕,67〔106頁〕,77の1・2,78,乙B14の1・2)。また,己斐・高須地区において降ったとされる「黒い雨」について,不完全燃焼した火災のす すが雨に取り込まれて落下したために雨が黒く見えたのであり,「雨が黒いこと」自体は「放射性降下物を含有していること」を必ずしも意味しないのであり(乙B23),降下物が単独で遠距離まで拡散した可能性もある。そして,DS86の報告書は,放射性降下物によるガンマ線を地表1mの高さで積算するも のであるが,放射性降下物についても,誘導放射線における粉塵の場合と同様に,付着し,又はこれを体内に摂取するなどの様々な形態での外部被曝及び内部 物によるガンマ線を地表1mの高さで積算するも のであるが,放射性降下物についても,誘導放射線における粉塵の場合と同様に,付着し,又はこれを体内に摂取するなどの様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性があることは否定できない。福島第一原子力発電所の事故後に強い放射線源となったホットスポットが同発電所の遠距離地域を含む各所に存在したとの報道がされたこと(公知の事実) からもうかがわれるように,放射性降下物は地表に均一に降下し存在したものではなく,集積して局地的に強い放射線を放出している場合があり得るから,これに接触し,又は摂取するなどして相当量の被曝を引き起こした可能性も考えられる。 これらの点を考慮すると,新審査の方針の下における放射性降下物に よる被曝線量の評価は,過小評価となっている疑いがある。実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,己斐・高須地区以外の地域にも放射性降下物が一定量降下し又は浮遊していた可能性を考慮に入れ,かつ,当該被爆者の被爆後の行動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,放射性降下物による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がな いかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 内部被曝の影響の評価についてア内部被曝とは,呼吸,飲食,外傷又は皮膚等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出する放射線による被曝をいうイ)。 DS86の報告書においては,後記ウのとおり,セシウム137の内部被曝についてのみ言及されている。DS02においては検討されていない (乙B6の1・2,弁論の全趣旨)。 イ旧審査の方針においては,内部被曝による被曝線量は特に考慮されていなかった。新審査の方針の下においても,医療分科会は,旧審査の方針の考え方 れていない (乙B6の1・2,弁論の全趣旨)。 イ旧審査の方針においては,内部被曝による被曝線量は特に考慮されていなかった。新審査の方針の下においても,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,内部被曝による被曝線量を特に考慮していない(乙A6,弁論の全趣旨)。 ウ内部被曝について,昭和44年及び昭和56年に西山地区の住民を対象として,ホールボディカウンター(人間の体内に摂取された放射性物質の量を体外から測定する装置。乙B36〔9頁〕)を用いて,セシウム137(物理学的半減期30.04年)による放射線量を実測し,内部被曝線量の評価が行われた。DS86の報告書は,そのデータを用いて,昭和20 ~60年の40年間に及ぶ内部被曝線量を積算した結果,男性で10ミリレム,女性で8ミリレム(この場合,ミリレムはミリラドに等しい。)と推定されるとした(乙B13〔219,464頁〕)。このほか,広島原爆投下当日に爆心地から1km以内の地点において8時間の片付け作業に従事した場合の内部被曝線量の推定は0.06マイクロシーベルトであるとし て,外部被曝に比べ無視できるレベルであるとする今中論文の報告(乙B7の1〔153頁〕)や,放射性降下物により土壌が最も高濃度に汚染された西山地区を流れる浦上川の水を大量に飲んだとしても,内部被曝線量は障害を起こし得る程度のものではない旨の石榑信人(放射線医学総合研究所)の意見(乙B35)等がある。医療分科会は,このような科学的知見 に基づいて,内部被曝による被曝線量を重視していないものと考えられ, それ自体は相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかし,DS86の報告書においても,物理学的半減期の長いセシウム137からの内部放射線量を復元す ないものと考えられ, それ自体は相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかし,DS86の報告書においても,物理学的半減期の長いセシウム137からの内部放射線量を復元するほか原爆投下後の内部被曝を評価する方法はないとしており,現に,上記実測調査においてもセシウム137以外の放射性物質については測定されていない(乙B13〔219頁〕)。 爆心地付近に限らず局地的に誘導放射化物質や放射性降下物が集積するなどした場合があり得ることも考慮すると,内部被曝線量はおよそ無視し得る程度のものであると評価することには疑問が残る。内部被曝による健康影響は目的とする臓器での蓄積線量が同じであれば外部被曝による健康影響と同等であるとの見解(乙A6,B20の 1〔66項〕,114)がある一方で,内部被曝については,チェルノブイリ原子力発電所事故において,チェルノブイリの子どもに内部被曝が原因と考えられる甲状腺がんが多発したとの実例が存在する(乙B37~40)。 この点につき,同事故においては,放射線による汚染の事実が隠ぺいされたため放射性物質が濃縮された牛乳を長期間摂取したこと,予防剤である ヨウ素剤が使用されなかったことによるとの見解(乙B114)があるが,原爆投下時にはもとより事前に放射線防護の措置は講じられていなかった。 内部被曝との関連において,原子爆弾の爆発に伴い生成される約200種類の放射性核種のうち物理学的半減期が長い放射性核種であるセシウム137(30.04年),ストロンチウム90(28.74年)を考えれば足 り,しかも核種に特有の代謝過程を経て人体から排泄されるから,物理学的半減期を待たずに(生物学的半減期),核種が減衰するなどとの見解(乙B20の1〔175項〕,35)もあるが,チェルノブイ り,しかも核種に特有の代謝過程を経て人体から排泄されるから,物理学的半減期を待たずに(生物学的半減期),核種が減衰するなどとの見解(乙B20の1〔175項〕,35)もあるが,チェルノブイリ原子力発電所事故により問題となった放射性核種の一つであるヨウ素131の物理学的半減期は8.05日と短いこと(乙B37~40)に鑑みると,健康影響を 考慮すべき放射性核種が短半減期のものを含めてほかに存在した可能性も 完全には否定することができない。そして,平成16年3月,原子力安全委員会の放射線障害防止基本専門部会・低線量放射線影響分科会において,核分裂中性子線については同じ被曝線量であれば長期にわたって被曝した場合(低線量率の場合)の方がリスクは上昇するという逆線量率効果,被曝した細胞から隣接する細胞に被曝の情報が伝わるというバイスタンダー 効果,放射線被曝を受けDNAが損傷した細胞が間接的な突然変異を誘発するゲノム不安定性誘導等の可能性が指摘された(甲A138〔18頁〕)。 これらの見解が現状において科学的知見として確立しているとはいえないが(上記指摘においても,低線量リスクへの関わりが明確でないなどと言及されている。),内部被曝の機序について必ずしも科学的に解明・実証さ れていないことに鑑みると,これらの見解が示すところを全く無視することもまた相当でないと考えられる。加えて,後記のとおり遠距離被爆者等に放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じているとの調査結果があり,推定される外部被曝線量だけでは必ずしもこれを十分に説明し得ないことを併せ考慮すると,内部被曝線量が無視し得る程度のも のであるとしてこれを考慮しないとすることには,合理的な疑問を差し挟む余地があるというべきである。 必ずしもこれを十分に説明し得ないことを併せ考慮すると,内部被曝線量が無視し得る程度のも のであるとしてこれを考慮しないとすることには,合理的な疑問を差し挟む余地があるというべきである。 エ以上によると,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,誘導放射化物質及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能 性があるかどうかについても十分に検討する必要がある。その際には,内部被曝による身体への影響には,一時的な外部被曝とは異なる特徴があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである。 遠距離被爆者及び入市被爆者の被曝線量の評価ア遠距離被爆者について 急性症状の発症に関する調査結果 放射線被曝による急性症状に関し,原子爆弾投下後比較的早期に行われた調査の結果は,以下のとおりであった(総括的なものとして,甲B11の19)。 a 日米合同調査団報告書(昭和26年4月19日発行)(乙B127の1・2) 広島・長崎における原爆投下から20日後の生存者(広島6882名,長崎6621名)につき,範囲・距離別,遮蔽(屋外又は日本式建物内,重質な建物内,防空壕又はトンネル内,不明)の別ごとに,急性症状とみられる症状(脱毛,紫斑,喉頭の傷害,壊死性歯肉炎,下痢,嘔吐,発熱等)の発生割合を分析した。 脱毛について,広島原爆の爆心地から1000m以内の屋外又は日本式建物内における被爆者については570名のうち434名(76. 1%)にみられ,距離が遠ざかるに連れて漸減し,1600~2000mにおける同被爆者については1633名のうち145名(8. 9%),2100~2500mにおける同被爆者について うち434名(76. 1%)にみられ,距離が遠ざかるに連れて漸減し,1600~2000mにおける同被爆者については1633名のうち145名(8. 9%),2100~2500mにおける同被爆者については1415名 のうち68名(4.8%),2600~3000mにおける同被爆者については674名のうち16名(2.4%)などであった。下痢(出血性下痢を含まないもの)についても同様の傾向であったが,3100~4000mにおける同被爆者についても548名のうち124名(22.6%)が該当するなど,遠距離においても発症がみられた。 重質な建物内,防空壕又はトンネル内の被爆者で,上記症状がみられた者は顕著に少なかった。 なお,広島原爆の爆心地から2100~2500mにおける脱毛又は下痢があったとした被爆者は,屋外(遮蔽なし)で6.8%であったのに対し,屋外(遮蔽あり)では9.6%,日本式建物内で4.7%, 重質な建物内では8.3%であった。同様に,3100~4000m における同被爆者は,屋外(遮蔽なし)で3.8%であったのに対し,屋外(遮蔽あり)では4.8%,日本式建物内で1.2%,重質な建物内で0%であった。このように若干の例外があるものの,概ね,爆心地からの距離が近く,遮蔽がない地点における被爆者において急性症状を訴える割合が高く,爆心地から遠ざかり,遮蔽が堅固になるに つれ,同割合は低下する傾向にあった(被控訴人は,広島原爆の爆心地から2100~2500mにおける脱毛又は下痢があったとした被爆者の割合につき,屋外(遮蔽なし)又は日本式建物内より重質な建物内が高いことを指摘するが,後者の対象者数は12名中1名にすぎなかったのであり,上記傾向にあったとする評価を左右しない。)。 b 東京帝国大 ,屋外(遮蔽なし)又は日本式建物内より重質な建物内が高いことを指摘するが,後者の対象者数は12名中1名にすぎなかったのであり,上記傾向にあったとする評価を左右しない。)。 b 東京帝国大学医学部診療班の原子爆弾災害調査報告(広島)(甲B11の7・8)東京帝国大学医学部診療班は,昭和20年10月から同年11月にかけて,広島市の各地点において,爆心地から5km圏内における広島原爆の被爆者5120名につき診療及び調査(第1次調査)をした。 同調査において,原子爆弾の放射線により生じたと考えられる脱毛,皮膚溢血斑,口内炎症,白血球減少,下痢,発熱,悪心嘔吐,倦怠感,食思不振その他各種の出血性素因(吐血,下血,血尿,歯齦出血等)のうち,脱毛,皮膚溢血斑及び壊疽性又は出血性口内炎症のうち1症状以上を示したものを放射能傷と定めたところ,全調査例中放射能傷 は909例(うち脱毛は707例)であった。爆心地から1km以内の地域では,放射能傷発生頻度は80%以上を示したが,1km以遠の地域では急激に減少し,2~2.5kmの地域では10%以下であった。 脱毛の距離別発現頻度は,爆心地からの距離が0.6~1kmでは 211例(70.3%),1.1~1.5kmでは257例(27.1%), 1.6~2kmでは134例(9%),2.1~2.5kmでは75例(6.4%),2.6~3kmでは9例(1.7%)であった。 遮蔽状況との関係について,屋内外で脱毛出現率が高いと考えられる距離は,コンクリート内(屋内)が0.1~1km,木造内及び屋内陰が0.6~1.5km,屋外開放が1.1~2.5kmであり, 木造内及び屋外陰は放射線に対してほぼ同程度の防護作用があったと推測されるとした。 脱毛(全例頭髪)は,7例(1 ,木造内及び屋内陰が0.6~1.5km,屋外開放が1.1~2.5kmであり, 木造内及び屋外陰は放射線に対してほぼ同程度の防護作用があったと推測されるとした。 脱毛(全例頭髪)は,7例(1%)を除き,方向性がない脱毛であり,放射線がガンマ線を主とし,散乱線が多いため,方向性がないのは当然とされた。 なお,この調査は,付近居住民の来訪を求めて行われたものが多く,被爆後何らかの障害を自覚した者が余計に集まった傾向があるとしている。 c 於保源作「原爆残留放射能障碍の統計的観察」(甲A112,B6の8,7の20,8の16)(以下「於保論文」という。) 於保源作医師は,昭和32年1月から同年7月まで,広島原爆の爆心地より2km~7kmに及ぶ一定地区に住む被爆者(いずれも広島原爆の投下当時広島市内にいた者で,①原爆直後から3か月以内に爆心地から1km以内の中心地に入らなかった屋内被爆者1878名,②同中心地に出入りした屋内被爆者1018名,③原爆直後から3か 月以内に同中心地に入らなかった屋外被爆者652名,④同中心地に出入りした屋外被爆者398名)の生存者全員(計3946名)を対象に調査を行った(この調査では,原爆放射能障碍及び同熱障碍を受けた者を「有症者」といい,有症者の割合を「有症率」とされた。)。 この調査によれば,上記①の屋内被爆者1878名の被爆距離別有 症率は平均20.2%であったところ,被爆地点1.5~2kmで4 6.7%(うち下痢37.1%,皮粘膜出血18.5%,脱毛16. 7%),2~2.5kmで30.3%(うち下痢20.9%,皮粘膜出血8.1%,脱毛2.1%),2.5~3kmで27.6%(うち下痢18.7%,皮粘膜出血5.9%,脱毛5.4%),3~3.5kmで %),2~2.5kmで30.3%(うち下痢20.9%,皮粘膜出血8.1%,脱毛2.1%),2.5~3kmで27.6%(うち下痢18.7%,皮粘膜出血5.9%,脱毛5.4%),3~3.5kmで19.0%(うち下痢14.8%,皮粘膜出血2.5%,脱毛2.9%), 3.5~4kmで15.7%(うち下痢8.4%,皮粘膜出血2.6%,脱毛0.9%),4~4.5kmで8%(うち下痢4%,皮粘膜出血2%,脱毛3%)などであり,被爆距離別有症率が被爆距離と反比例し,急性原爆症の発現率も爆心地から遠距離になるほど低下しており,その具合はかなり整然としているとした。これに対し,上記②の屋内被爆 者1018名の被曝距離別有症率は平均36.5%であったところ,被爆地点1.5~2kmで44.5%(うち下痢32.6%,皮粘膜出血14.8%,脱毛17.8%),2~2.5kmで43.5%(うち下痢33.3%,皮粘膜出血12.9%,脱毛12.9%),2.5~3kmで41.1%(うち下痢30.3%,皮粘膜出血12.7%, 脱毛6.8%),3~3.5kmで40.8%(うち下痢28.7%,皮粘膜出血9.7%,脱毛8.6%),3.5~4kmで27.9%(うち下痢21.5%,皮粘膜出血4.0%,脱毛4.0%),4~4.5kmで18.9%(うち下痢11.7%,皮粘膜出血2.7%,脱毛1.8%)などであり,上記①と比較して,被爆距離別有症率が被爆 距離の延長に従って低下せず,急性原爆症の発現率も整然と低下していないとした。上記③の屋外被爆者については上記①と同様の傾向が,上記④の屋外被爆者は上記②と同様の傾向があったとした。 d 調来助(長崎医科大学外科第一教室教授)ほかは,昭和20年10月から同年12月までの3か月間に,長崎原爆の被爆者(生存者)5 傾向が,上記④の屋外被爆者は上記②と同様の傾向があったとした。 d 調来助(長崎医科大学外科第一教室教授)ほかは,昭和20年10月から同年12月までの3か月間に,長崎原爆の被爆者(生存者)5 748名を対象として,爆心地からの距離及び被爆時の環境(遮蔽状 況)等と脱毛との関係等につき調査し,距離別脱毛の頻度は爆心地からの距離とともに低下し(1~1.5kmで25.8%,1.5~2kmで8.9%,2~3kmで3.2%,3~4kmで1.8%),環境別脱毛の頻度は,屋外開放が最も高く(20%),屋内(コンクリート)(15.5%),同(木造)(11.1%),屋外(陰)(8.6%), 壕内(2.7%)の順に低下したと報告した。なお,死亡者333名の調査も行われたが,脱毛に至らないまま死亡した例が近距離,屋外開放で多く認められるとした。(「長崎ニ於ケル原子爆弾災害ノ統計的観察(抄録)」甲B1の5)eDalePrestonほか(放影研)は,広島原爆の被爆者5 万8500名,長崎原爆の被爆者2万8132名に関して,昭和22年以降の約10年間に入手した資料に基づき,脱毛と爆心地からの距離に関する分析を行い,爆心地から2km以内での脱毛の頻度が爆心地に近いほど高く,爆心地からの距離とともに急減したなどと報告し,3km以遠では放射線以外の要因を反映している可能性があるとした (「原爆被爆者における脱毛と爆心地からの距離との関係」甲A113,乙B128)。 f 横田賢一(長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設資料収集保存部資料調査室)ほかは,被爆者手帳を持つ長崎原爆の被爆者から無作為抽出した3000名を対象として,原爆被爆者調査に係る調査票 に基づき急性症状(特に脱毛)の距離別発症率等に関する分析を 集保存部資料調査室)ほかは,被爆者手帳を持つ長崎原爆の被爆者から無作為抽出した3000名を対象として,原爆被爆者調査に係る調査票 に基づき急性症状(特に脱毛)の距離別発症率等に関する分析を行い,被爆直後に行われた日米合同調査団(上記a)や長崎医科大学外科第一教室(上記d)の各調査と同様の結果であったと報告した。この報告において,脱毛や皮下出血は放射線以外の要因では起こりにくいと考えられているものの,放射線を要因とするものか否かを判断するに はさらに詳細な調査が必要であるとしていた。(「長崎原爆における被 爆距離別の急性症状に関する研究」甲B8の8)横田賢一ほかは,さらに,対象を長崎原爆の被爆者1万2905名として,同様に調査票(そのほとんどが昭和35年以降の約10年間に記載されたものである。)に基づき,遮蔽状況も考慮した分析を行ったが,被爆直後に行われた上記各調査と同様の結果であったと報告し た(「被爆状況別の急性症状に関する研究」乙B129)。 そして,横田賢一ほかは,急性症状の発現における地形遮蔽(長崎市の地形は山や丘等の起伏が多い。)の影響を検討するため,急性症状の情報が得られた長崎原爆の被爆者のうち,遮蔽地域で被爆した1601名と無遮蔽地域で被爆した1715名の計3316名を対象とし て,急性症状の発現頻度等を調査し,発現頻度及び程度のいずれについても,遮蔽地域と無遮蔽地域との間で有意差があったと報告した(「長崎原爆の急性症状発現における地形遮蔽の影響」甲B8の9)。 g 厚生省公衆衛生局は,昭和40年11月に健康調査を受けた広島原爆・長崎原爆の被爆者9042人を対象として,被爆後2か月以内の 身体異常の発現率に関する調査を行い,近距離で被爆した者ほど発現率が高く,爆心 生局は,昭和40年11月に健康調査を受けた広島原爆・長崎原爆の被爆者9042人を対象として,被爆後2か月以内の 身体異常の発現率に関する調査を行い,近距離で被爆した者ほど発現率が高く,爆心地からの距離との間に密接な関係がみられると報告した(乙B52〔資料30〕)。 判断 の各調査結果からは,脱毛や皮下出血(紫斑)が生じたとする 者が,概ね,爆心地から1.5~2kmの地点で被爆した者については10%前後,2km以遠で被爆した者についても数%以上存在し,かつ,これらの症状(特に脱毛)を生じたとする者の割合が,爆心地からの距離や遮蔽の有無に応じて減少するといった共通する傾向があることを読み取ることができる。これらの症状の全てとはいえないまでも,その相 当部分は放射線被曝による急性症状であると認めるのが自然かつ合理的 である。 これに対し,被控訴人は,一般的な医学的知見として,放射線被曝による急性放射線症候群のしきい値につき,出血傾向は約2グレイ,脱毛は約3グレイであるなどと主張し,これと同旨の意見書等(乙B20の1〔47項〕・2〔108項〕,32の1〔12,15頁〕・2〔18,2 7頁〕,50,51)も存在する。この点につき,2グレイは,広島原爆において,DS02により,爆心地から1.1~1.2kmにおける初期放射線の被曝線量と推定される数値であり,同様に3グレイは,1~1.1kmにおける同被曝線量と推定される数値である(乙B6の1〔195頁〕,第2事件乙B67)。長崎原爆の場合は,それぞれ,1.3~ 1.4km,1.2~1.3kmにおける同被曝線量と推定される数値である(乙B6の1〔201頁〕,第2事件乙B67)。また,DS86及び今中論文により算出される誘導放射線及び放射性降下物か 1.4km,1.2~1.3kmにおける同被曝線量と推定される数値である(乙B6の1〔201頁〕,第2事件乙B67)。また,DS86及び今中論文により算出される誘導放射線及び放射性降下物からの放射線による外部被曝線量は,最大でも百数十センチグレイ程度である(乙B7の1,13〔22,227頁〕)。そうすると,被控訴人が主張する 上記知見によれば,爆心地から1.5km以遠において出血傾向,脱毛及び下痢といった放射線被曝による急性症状が生じることはほとんどないはずであるが,これに反して,各調査結果のとおり現実には少なくない割合の急性症状が報告されている。被控訴人は,精神的影響や衛生環境及び栄養状態の悪化等の放射線被曝以外の要因で発症したと 考えられる旨を主張し,これに沿う証拠(乙B171~173)もある。 爆心地からの距離及び遮蔽の有無により急性症状の発現頻度に相違が存在すること,相当多数の者に対する調査の結果として同様に上記傾向が示されたことのほか,放射線被曝以外の要因が少なくとも相対的に考えにくいとされる脱毛についてもそれ以外の下 痢等の症状と同様の傾向が表れたこと等の事情に照らすと,症状及び経 過が,被控訴人が主張する急性放射線症候群の特徴(第2章第4の1【被とは一致しないとしても,実際に現れた急性症状のすべてを放射線被曝以外の原因に求めることは,社会通念上,合理性に欠けるといわざるを得ない(甲A95〔34頁〕,126〔4頁〕。 平成12年最判も,「放射線による急性症状の一つの典型である脱毛につ いて,DS86としきい値理論を機械的に適用する限りでは発生するはずのない地域で発生した脱毛の大半を栄養状態又は心因的なもの等放射線以外の原因によるものと断ずることには,ちゅうちょを覚えざるを いて,DS86としきい値理論を機械的に適用する限りでは発生するはずのない地域で発生した脱毛の大半を栄養状態又は心因的なもの等放射線以外の原因によるものと断ずることには,ちゅうちょを覚えざるを得ない。」と説示する。)。この点につき,被控訴人の上記主張する急性放射線症候群は,確かに,原爆被爆者に対する医療調査の結果も踏まえてで きた概念であると認められるが(乙B140の1・2,146の1・2,第2事件乙B131),IAEAが平成10年に公表したレポート「放射線傷害の診断と処置」(乙B150)において,「急性放射線症候群の診断と処置」については「外部被曝」の章に記載されており,主として外部被曝を受けた場合が想定されていることがうかがわれる。これに対し, 原爆による放射線被曝の態様は,上記説示のとおり,誘導放射化された粉塵等及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性があるかどうかについても十分に検討する必要があるように,外部被曝と内部被曝の複合的な要素がある。被爆者に発現した急性症状と急性放射線症候群との関係について,放射線被曝の態様を必ずしも同一とす るものではないのではないかとの疑問を差し挟む余地があり,少なくとも,急性放射線症候群の上記特徴に当てはまる症状でなければ放射線被曝に起因するものではない,ということはできない。そして,複数の調査結果に基づいて行った上記認定のとおり,脱毛や下痢等の症状の相当部分は放射線被曝による急性症状とみるのが相当であり,当該症状を発 症した被爆者において健康を害する程度の放射線被曝をした可能性を相 当程度推認させるものというべきである。 ところで,初期放射線の被曝線量は,爆心地から2km以遠においては1グレイにも達しないと認められるとこ る程度の放射線被曝をした可能性を相 当程度推認させるものというべきである。 ところで,初期放射線の被曝線量は,爆心地から2km以遠においては1グレイにも達しないと認められるところ(乙B6の1,第2事件乙B67),外部被曝による急性放射線症候群としての出血傾向や脱毛のしきい値が上記のとおり2~3グレイ程度とされていることを参酌すると, 爆心地から1.5km以遠にみられる脱毛等の症状につき,初期放射線による外部被曝が主たる原因であると理解することもまた困難であり,誘導放射化した大量の粉塵等や放射性降下物から発せられる放射線による外部被曝及び内部被曝をしたことが相当程度寄与していたものと見るのが合理的であると考えられる。 なお,被控訴人は,急性症状に関する情報の不確かさについて注意すべきである旨を主張し,横田賢一ほか「長崎原爆被爆者の急性症状に関する情報の確かさ」は,急性症状に関し,被爆直後の調査と被爆から15~20年後の調査における被爆者の回答の一致率は安定していなかったなどと指摘する(乙B58)。急性症状があったか否かの認定について は,原爆投下から長い年月が経過し,現在の生存被爆者の多くが若年であったこと等の事情が存在する本件の性質上,立証の困難性に十分配慮すべきであり,客観的証拠がないことの一事をもって認定できないとすることは相当な態度であるとはいえないが,その一方で,上記指摘があることを踏まえ,回答内容に一貫性があるか否か等にも留意し,慎重に 行う必要があるというべきである。 イ入市被爆者について 急性症状の発症に関する調査結果原子爆弾投下時には広島市内又は長崎市内におらず,その後に市内に入った者(いわゆる入市被爆者)についても,以下のとおり,脱毛等の 急性症状 者について 急性症状の発症に関する調査結果原子爆弾投下時には広島市内又は長崎市内におらず,その後に市内に入った者(いわゆる入市被爆者)についても,以下のとおり,脱毛等の 急性症状があったとする調査結果がある。 a 於保論文於保源作医師は,昭和32年1月から同年7月まで,広島原爆の爆心地より2km~7kmに及ぶ一定地区に住む者のうち広島原爆投下の当時広島市内にいなかった非被爆者で,原爆投下直後から3か月以内に入市した者(629名)を対象に調査を行った。このうち原爆投 下直後から3か月以内に入市したが爆心地から1km以内の中心地に入らなかった者(104名)では有症者(原爆放射能障碍及び同熱障碍を受けた者)はいなかったが,上記同様に入市し中心地に出入りした者525名中有症者は230名で,有症率は43.8%であった。 原爆投下直後から20日以内に中心地に出入りした者の有症率が高く, また,中心地滞在時間が4時間以下の場合は有症率が低いが,10時間以上の場合は有症率が高いとした。 この525名の中には,広島県安佐郡安佐町の消防団員120名が含まれていた。強壮な壮年ないし中年から成る団体であり,各々の生活環境がほぼ等しく,入市の日時,作業地及び作業目的等が一定して いたため,残留放射能障害の調査に適した症例とされた。同消防団は,昭和20年8月7日及び8日のそれぞれ午前8時に入市して横川町(爆心地から約1.5km)から爆心地を経て山口町(同約1km)に至る間に被爆者の救助と道路疎開作業を行った。団員の中にはその後も引き続いて5日間以上中心地付近で人探しその他の作業に従事し た者もいた。作業は午後4時に打ち切って帰町した。作業中に河川の水を飲用する者はいなかった。団員中,帰町して1~5 の中にはその後も引き続いて5日間以上中心地付近で人探しその他の作業に従事し た者もいた。作業は午後4時に打ち切って帰町した。作業中に河川の水を飲用する者はいなかった。団員中,帰町して1~5日後に発熱,下痢,粘血便,皮膚粘膜の出血,全身衰弱等を来し臥床するに至った者が多数に上ったが,その家族(広島市内に入らなかった者)には同様の病気に罹った者はいなかった。 b 広島市「広島原爆戦災誌第1編総説」中の「残留放射能による 障害調査概要」(甲A118)原爆投下直後に広島市に入って救護活動を行った部隊の将兵400名を対象として広島市が昭和44年に行った調査において,うち233名から回答があった。このうち,①安芸郡江田島幸の浦基地(爆心地から約12km)の部隊(201名)は,昭和20年8月6日に基 地から舟艇により宇品に上陸し,正午前に広島市内に進出して,直ちに活動を開始し,負傷者の安全地帯への集結を行った。同日夜から翌7日早朝にかけて中央部へ進出し,主として大手町・紙屋町・相生橋付近,元安川で活動した。その後も活動を続け,同月12日又は13日に基地に帰還した。他方,②豊田郡忠海基地(爆心地から約50k m)の部隊(32名)は,同月7日朝から広島市周辺(東練兵場,大河,宇品その他主要道路沿い等)の負傷者の多数集結場所において救援を行った。上記各部隊の主な作業の具体的内容は,死体の収容と火葬,遺骨の埋葬,負傷者の収容と搬送,道路・建物の清掃,収容所での看護等であった。 出動中の症状として,2日目(同月8日)頃から下痢患者が多数続出した。また,軍医の診断によれば,基地帰投直後の症状として,白血球3000以下がほとんど全員に及び,下痢患者が出て,発熱する者,点状出血,脱毛の症状の者が少数 目(同月8日)頃から下痢患者が多数続出した。また,軍医の診断によれば,基地帰投直後の症状として,白血球3000以下がほとんど全員に及び,下痢患者が出て,発熱する者,点状出血,脱毛の症状の者が少数ながらあった。さらに,回答者のうち,復員後に経験した症状として,120名が白血球減少,80 名が脱毛,55名が嘔吐,24名が下痢を挙げた。 cNHK広島局・原爆プロジェクト・チーム『ヒロシマ・残留放射能の四十二年〔原爆救援隊の軌跡〕』(特に,加藤寛夫・渡辺忠章〔放影研〕「賀北部隊工月中隊の疫学的調査」)(甲A119,B11の38,乙B115) 原爆が投下されて間もなく,広島県賀茂郡北部地区在郷の陸軍予 後備兵役の軍人の一部に召集令が発せられ,二中隊総勢200名余りの広島地区第14特設警備隊(通称「賀北部隊」)が編成された。 その隊員の一部99名(工月中隊)は,昭和20年8月7日昼頃,爆心地付近の西練兵場(爆心地から約500m)に到着し(先発隊7名は同月6日深夜にすでに到着していた。),同月7日から同月1 5日まで,第1・第2陸軍病院や大本営跡(爆心地から約500m~1km)等において,負傷者の救護や死体の処理等に当たっていた。 ⒝ DS86により推定した残留放射線による被曝線量は,線量が最も大きい先発隊7名については,最大11.8ラド,最小2.1ラ ド,平均5.1ラドであり,先発隊を含めた全隊員平均で1.3ラドと推定された(丸山隆司〔放射線医学総合研究所〕の物理的計算による。)。 ⒞ 原爆投下42年後に行われた生存者に対する面接又は電話による調査において,急性症状(脱毛,歯齦出血,皮膚の点状出血,口内 炎,嘔吐・下痢等の胃腸障害等)があったと答えた者は32名であった。このうち,下痢, 後に行われた生存者に対する面接又は電話による調査において,急性症状(脱毛,歯齦出血,皮膚の点状出血,口内 炎,嘔吐・下痢等の胃腸障害等)があったと答えた者は32名であった。このうち,下痢,歯齦出血及び口内炎等は,被爆直後の栄養障害や過酷な肉体労働,精神的ストレス等の異常環境要因によることも十分考えられるとして,症状の重症度(脱毛の場合,その範囲が頭髪の3分の2以上,3分の2から4分の1,4分の1以下)・経 過期間等により,確実なものと不確実なものとに分けることとされた。この結果,放射線被曝に起因することがほぼ確実な急性症状があったと思われる者は,脱毛6名(うち3分の2以上頭髪が抜けた者が3名),歯齦出血5名,口内炎1名,白血球減少症の見られた者2名であり,このうち2名は脱毛と歯齦出血の両方の症状が現れて いた。 上記加藤・渡辺「賀北部隊工月中隊の疫学的調査」は,同様の症状は,放射線被曝以外の栄養障害,種々のストレスによっても起こり得るとしつつ,これらが仮に放射線被曝による急性症状であるとすれば,低い推定線量によっても同症状が現れた者が存在したことになるところ,特殊環境下における人体の放射線に対する抵抗性の 低下によるとも考えられ,飲食物による内部被曝の影響の可能性も否定しきれないなどとした。 ⒟ なお,死亡追跡調査も行われ,昭和20年8月から昭和62年5月までの総死亡率(27.3%)は,同期間の日本全国の平均死亡率(26.7%)と差異はなく,がんの死亡率を比較しても同様で あった。 判断 これらの各調査結果によれば,原爆投下時には広島市内にいなかった者で,原爆投下直後に爆心地付近に入った入市被爆者についても,放射線被曝による急性症状とみられる脱毛,下痢及び発熱等といった症状 判断 これらの各調査結果によれば,原爆投下時には広島市内にいなかった者で,原爆投下直後に爆心地付近に入った入市被爆者についても,放射線被曝による急性症状とみられる脱毛,下痢及び発熱等といった症状が 一定の割合で生じており,爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほどその発現頻度が高いという傾向があると認められる。このような傾向に照らすと,上記のような症状の多くは,誘導放射線又は放射性降下物からの放射線による外部被曝及び内部被曝の影響によるものとみるのが自然であって,上記症状のすべてが放射線被曝以外の原因に よるものと理解することは困難というべきである。 ウ被控訴人の主張について 被控訴人は,入市被爆者としては最も多くの放射線被曝をしているとされる賀北部隊工月中隊について,物理学的推定法としてDS86等を用いて得られた推定被曝線量と,生物学的線量推定法と して隊員の末梢血10mℓの染色体分析の結果が,その最大値,最小値, 平均値のいずれにおいても整合的であったこと,放射性降下物が最も強く残留したとされる西山地区の住民についても物理学的推定法による被曝線量と生物学的線量推定法(染色体異常頻度)による被曝線量とが整合的に得られたことを指摘する。 しかし,染色体異常頻度による推定法については,放射線によって誘 発される染色体異常に不安定型異常と安定型異常があるところ,放射線被曝後長時間経過した調査の場合には安定型異常を指標とするのが適しているとされるが,その識別が難しいという問題(不安定型異常は時間の経過とともに体内から失われるから,被曝後長期間経過した場合に適切でないとされる。)がある。また,染色体検査は,試料(血液)の入 手は容易であるものの,細胞分化に関わる問 不安定型異常は時間の経過とともに体内から失われるから,被曝後長期間経過した場合に適切でないとされる。)がある。また,染色体検査は,試料(血液)の入 手は容易であるものの,細胞分化に関わる問題があるとされる。すなわち,血液リンパ球は生涯にわたって骨髄幹細胞から作られ続けるので,被曝後何十年も経過した後で観察している血液リンパ球は均一な集団ではなく,少なくともその一部は被曝した時点ではもっと未分化の細胞であった可能性があり,どれだけの割合の細胞がどの段階で被曝したか を知る手立てがなく,よって,被曝後長期間を経た後の血液リンパ球における染色体異常のデータから,放射線の被曝線量を推測するための理論の立てようがないとされる。推定被曝線量に対して染色体異常頻度が幅広い分散(ばらつき)を示した調査結果もあるのであり(乙B116〔64頁の③〕),上記整合的であったとの調査結果をもって,入市被爆 者の被曝線量や放射性降下物による放射線の被曝線量が,健康被害がおよそ生じない程度の低線量であったということはできない。(乙B116,117)被控訴人は,約3km以上の遠距離被爆者について,生物学的線量推定法である歯エナメル質を用いた電子スピン共鳴法(ESR法)による 被曝線量の測定を行ったところ,遠距離被爆者の大多数が浸透力の大き い残留放射線によって大きな線量(例えば1Gy)を受けたという主張を支持しなかったと結論付けられているとも指摘する。 しかし,ESR法は測定試料(歯)の入手の点で問題があるとされるところ(乙B116,117),被控訴人が上記指摘する平井裕子(放影研)ほか「歯エナメル質の電子スピン共鳴法による解析は大部分の遠距 離被爆者が多量の放射線に被曝したことを示唆しない」における測定も, 乙B116,117),被控訴人が上記指摘する平井裕子(放影研)ほか「歯エナメル質の電子スピン共鳴法による解析は大部分の遠距 離被爆者が多量の放射線に被曝したことを示唆しない」における測定も,49名の被爆者から提供された56本の大臼歯という限られた資料に基づくものにすぎない。診断用歯科X線の被曝の可能性や内部被曝が検出されていない可能性もうかがわれる(乙B117,119の1・2,120)。 被控訴人は,賀北部隊工月中隊の総死亡率及びがん死亡率調査では日本全国の統計と有意な差が認められなかった,寿命調査集団(LSS)のうちの原爆投下後1か月以内の早期入市者4512名について白血病以外の全部位のがんによる死亡率が調査されたが増加が認められなかったなどとして,残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物からの放射線) による外部被曝及び内部被曝によって健康影響を及ぼすほどの被曝が存在する根拠はないと主張する。 しかし,賀北部隊工月中隊の死亡率調査の結果については,その考察において,早期入市者に死亡に至らない種々の疾病・障害があった可能性についてさらに追究する必要がある旨が指摘されている(甲A119, B11の38,乙B115)。早期入市者の上記調査(LSS第9報)についても,原爆投下の当日又は翌日に1000m以内(広島原爆)又は1200m以内(長崎原爆)に入市した者(調査においてa群と分類)は191名に過ぎず,その考察において,集団の規模が小さいとされている上,慎重に長期観察を継続することが重要であることが明らかとさ れている(乙B126〔18,23頁〕)。 以上のとおり,遠距離被爆者及び入市被爆者の被曝線量は極めて低いとし,およそ健康被害が生じる程度のものでなかった旨の被控訴人の主張は れている(乙B126〔18,23頁〕)。 以上のとおり,遠距離被爆者及び入市被爆者の被曝線量は極めて低いとし,およそ健康被害が生じる程度のものでなかった旨の被控訴人の主張は採用することができない。 エ小括遠距離被爆者及び入市被爆者に生じた脱毛,下痢及び発熱等については, それらが放射線被曝以外の原因によっても生じ得るものであり,急性放射線症候群の特徴に当てはまらなかったとしても,そのことのみをもっておよそ放射線被曝の影響によるものではないとすることはできず,むしろ有意な放射線被曝をした場合が存在すると考えるべきである。そして,これらの場合,被爆状況(爆心地からの距離,遮蔽の状況等)や被爆後の行動 内容(入市被爆者にあっては入市の時期,場所,滞在時間等)をより慎重に考慮することを要するということができる。 まとめ新審査の方針の下での被曝線量の算定方法は,科学的合理性を肯定することができるものの,初期放射線に関してはシミュレーションに基づく推定値 であることや測定精度の問題等から一定の限界が存することに十分留意する必要がある上,誘導放射線及び放射性降下物による放射線について,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価となっている疑いを否定することはできない。そうすると,DS02等により算定される被曝線量は,あくまでも初期放射線に関する一応の 目安とするにとどめるのが相当であり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動内容及び被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性があるかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 4 主な申請疾病等に関する知見及び放射線被曝との の行動内容及び被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性があるかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 4 主な申請疾病等に関する知見及び放射線被曝との関連性 甲状腺機能低下症 ア一般的知見のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,甲状腺機能低下症に関し,以下の一般的知見が存在することが認められる。 診断基準甲状腺機能低下症の診断において,FT4,FT3及びTSHの血中 濃度が測定される(FT4,TSHの測定は必須とされる。)。基準値につき,各文献及び医療機関等において,以下のとおり定められている。 (乙B88,91,101,155,179,C14の14,18の13,証人D2)a 「病気がみえるVol.3代謝・内分泌疾患」(平成18年11月1 日第1版第3刷発行)(乙B91,155)FT4 0.7~1.7ng/dℓFT3 2.5~4.5pg/mℓTSH 0.34~3.5μU/mℓ平成23年7月28日第2版第9刷発行の第2版(第2事件乙C2 の15)においても同じである。 b 「今日の臨床検査2005-2006」(平成17年7月10日第9版第2刷発行)(乙B101)TSH 0.5~5.00μIU/mℓ(ECLIA法),0.38~3.64μIU/mℓ(CLIA法) c 「今日の臨床検査2013-2014」(平成25年4月20日第13版発行)(乙C18の13)FT4 0.90~1.70ng/dℓ(ECLIA法)FT3 2.30~4.30pg/mℓ(ECLIA法)TSH 0.500~5.00μU/mℓ(ECLIA法),0.3 8~3.64μU/mℓ(CLIA法) d 東京大学医学 T3 2.30~4.30pg/mℓ(ECLIA法)TSH 0.500~5.00μU/mℓ(ECLIA法),0.3 8~3.64μU/mℓ(CLIA法) d 東京大学医学部附属病院検査部「血液検査の参考基準値表(主要検査項目のみ)」(平成23年6月改訂)(乙B102。健康な成人の検査値から,その95%が含まれる範囲を示すものである。)FT4 0.82~1.63ng/dℓFT3 2.10~3.80pg/mℓ TSH 0.38~4.31μU/mℓe 今泉美彩(放影研)ほか「日本人高齢者の潜在性甲状腺機能低下症における顕性甲状腺機能低下症への進展リスク」(平成23年)(乙C14の12)TSH 0.45~4.5mIU/ℓ f 検査項目レファレンス/総合検査案内(株式会社エスアールエルホームページ・平成24年9月5日印刷)(乙C14の13)TSH 0.500~5.00μIU/mℓ(ECLIA法) 疫学甲状腺機能低下症は,年齢とともに原因である慢性甲状腺炎の発生数 が累積するため,加齢により増加する。慢性甲状腺炎の発生に最も関係の深い抗TPO抗体陽性の頻度は成人で約5%,高齢の女性では約15%とされている。潜在性甲状腺機能低下症の頻度もこれに近く,成人女性で約8%,同男性で約3.5%であるが,60歳を超えると,女性では約15%,同男性では約8%が潜在性甲状腺機能低下症であるとさ れる。(乙B88,263,第2事件乙B68)このほか,人間ドックや検診結果において,顕性甲状腺機能低下症の発見率は0.5~0.69%であり,潜在性甲状腺機能低下症は3.3~6.1%で発見され,女性にやや多く,加齢で上昇したとの報告(乙B このほか,人間ドックや検診結果において,顕性甲状腺機能低下症の発見率は0.5~0.69%であり,潜在性甲状腺機能低下症は3.3~6.1%で発見され,女性にやや多く,加齢で上昇したとの報告(乙B179〔資料2,3〕)や,顕性甲状腺機能低下症の頻度は男性で0. 24~0.40%,女性で0.70~0.85%であるが,潜在性甲状 腺機能低下症を含めると,男性で0.68~3.6%,女性で2.97~5.9%であるとの報告(乙B89)もある。 治療等a 甲状腺ホルモン製剤の投与による対症療法であり,少量の甲状腺ホルモン製剤の投与から開始し,血中のFT4,TSH濃度を正常域に 保つように投与量を調整する(甲B4〔文献14・16〕,乙B88,179,証人D2〔12・19・36頁〕)。 b 甲状腺ホルモン製剤として,作用時間が長く,効果発現が緩徐なチラーヂン等のT4製剤がある。 チラーヂンSの半減期は,正常者で6~7日,甲状腺機能低下症罹 患者で9~10日である。 チラーヂンS錠の用法及び用量は,成人の場合,通常,25~400μgを1日1回経口投与する。一般に,投与開始時には25~100μgとし,維持量を100~400μgとすることが多く,年齢及び症状により適宜増減することとされる。(甲B4〔文献14・16〕, 乙B179〔資料4〕,C14の15)c 甲状腺機能低下症は大部分が永続的(非可逆性甲状腺機能低下症)であり,甲状腺ホルモン製剤は生涯服用する例が多い。しかし,自己免疫性慢性甲状腺炎(橋本病)を原因とする甲状腺機能低下症の中には,甲状腺機能低下症から回復し(可逆性甲状腺機能低下症),甲状腺 ホルモン製剤を長期間服用した後服用を中止できる例がある。また,一過性甲状腺機能低下症に )を原因とする甲状腺機能低下症の中には,甲状腺機能低下症から回復し(可逆性甲状腺機能低下症),甲状腺 ホルモン製剤を長期間服用した後服用を中止できる例がある。また,一過性甲状腺機能低下症においては,甲状腺ホルモン製剤を投与せず様子を見ることとされる。(甲B4〔文献14・16〕,乙B179〔資料8〕)d 潜在性甲状腺機能低下症の場合 甲状腺ホルモンが正常であるため治療を行うかどうかは議論がある が,TSHが10μU/mℓを超えるような場合は,甲状腺ホルモンの補充療法を行うとの複数の知見がある。 治療をせずに経過観察をした場合,顕性の甲状腺機能低下症になる率は,抗甲状腺自己抗体が陽性のものは年4.3%,陰性のものは年2.6%であるとする報告がある。(甲B4〔文献14〕,13〔63 頁〕,48〔4頁〕,乙B89,証人D1〔第2回・22頁〕,証人D2〔13頁〕)イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性関連性に関する知見掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,甲状腺機能低下症と放射線被 曝との関連性について,以下の知見が存在することが認められる。 a 伊藤千賀子(広島原爆被爆者健康管理所)「原爆被爆者の甲状腺機能に関する検討」(甲B4〔文献5,6〕)(以下「伊藤報告」という。)昭和59年4月から同年11月末までに一般検診を受診した広島原爆の直接被爆者9159名(爆心地から1.5km以内の近距離被爆 者群6112名〔男性1983名,女性4129名〕,3km以遠の対照群3047名〔男性994名,女性2053名〕)について甲状腺機能の調査を行った。 甲状腺機能低下症の頻度は,男女とも近距離被爆者群(男性1.22%,女性7.08%)が対照群(男性0.35%,女性1.18%) 〔男性994名,女性2053名〕)について甲状腺機能の調査を行った。 甲状腺機能低下症の頻度は,男女とも近距離被爆者群(男性1.22%,女性7.08%)が対照群(男性0.35%,女性1.18%) よりも有意に高かった。また,被曝線量(T65Dによる推定値)との関係は,1~99ラド群が男性1.03%,女性6.23%であったのに対し,200ラド以上群において,男性3.67%,女性7. 76%と有意に高率であった。 さらに,甲状腺機能低下症症例における抗マイクロゾーム抗体陽性 率(陽性の場合は慢性甲状腺炎があるとされる。)は,男女ともに近距 離被爆者群(男性16.4%,女性25.3%)では対照群(男性88.9%,女性63.3%)に比して著しく低率であった。一般に,後天性の原発性甲状腺機能低下症の多くは慢性甲状腺炎による甲状腺組織の傷害によるところ,近距離被爆者の甲状腺機能低下症の発症機序はこれとは異なる機序が推測されるが,調査対象とした甲状腺機能 低下症の多くは軽症例(潜在性甲状腺機能低下症)であったこと,被曝線量との間に線量反応関係が示唆されたことのほか,甲状腺組織は放射線感受性が高いことを併せ考えると,加齢現象の促進による可能性も否定することができず,被爆者の甲状腺機能に関する詳細な検討が必要であるとした。 b 井上修二・長瀧重信ほか(放影研・長崎大学医学部第一内科)「長崎原爆被爆者における甲状腺疾患の調査」(甲B4〔文献7〕)(以下「井上・長瀧論文」という。)昭和59年10月から長崎のAHS集団1745名(直接被爆者。 DS86による推定線量は,0ラド群974名,1~49ラド群27 9名,50~99ラド群208名,100ラド以上群284名であった。)を対象に行った甲状腺疾患の発生 団1745名(直接被爆者。 DS86による推定線量は,0ラド群974名,1~49ラド群27 9名,50~99ラド群208名,100ラド以上群284名であった。)を対象に行った甲状腺疾患の発生頻度に関する調査において,被爆者全体の甲状腺機能低下症の発生頻度は4.5%であり,0ラド群の2.5%と比して有意な増加が認められた。被曝線量別では,1~49ラド群においてのみ0ラド群に比して有意な発生頻度の増加(6. 1%)が認められた。橋本病によるものも,被爆者全体で2.2%であり,0ラド群の0.6%と比して有意な増加が認められ,被曝線量別では,これも1~49ラド群においてのみ有意な発生頻度の増加(3.6%)が認められた。 cAHS第7報(原爆被爆者における癌以外の疾患の発生率,195 8-86年)(甲B1の30,4〔文献9〕,乙C12の17) 甲状腺疾患を,非中毒性甲状腺腫結節,びまん性甲状腺腫,甲状腺中毒症,慢性リンパ球性甲状腺炎及び甲状腺機能低下症のうち一つ以上が存在するものと定義した上,これと被曝線量(DS86による推定値)との関係に有意な正の線量反応が見られ,1グレイ当たりの相対リスク1.30,P値<0.0001,95%信頼区間1.16~ 1.47であったとした。特に若年被爆者でリスクの増加が見られ,被爆時年齢50歳の1グレイ当たりの相対リスク1.03に対し,同20歳では1.24であった。被曝放射線量が0.001グレイ以上の被爆者における甲状腺疾患の寄与リスクは約16%と推定され,これはがん以外の疾患では最も高いものの1つであった。 調査結果を踏まえ,若年者の甲状腺が電離放射線の影響に敏感であることが示されたが,甲状腺疾患の過剰リスクは数十年の追跡期間中不変であったことから,AH 疾患では最も高いものの1つであった。 調査結果を踏まえ,若年者の甲状腺が電離放射線の影響に敏感であることが示されたが,甲状腺疾患の過剰リスクは数十年の追跡期間中不変であったことから,AHS集団の甲状腺異常を引き続き観察する必要があるとした。 d 長瀧重信(長崎大学医学部第一内科),柴田義貞(放影研)ほか「長 崎原爆被爆者における甲状腺疾患」(甲B4〔文献3〕,44の1)(以下「長瀧・柴田論文」という。米国医師会雑誌に掲載されたものである〔乙B151〕。)昭和59年10月から昭和62年4月までに長崎のAHS集団2587名(男性1001名,女性1586名。うちDS86による線 量推定が可能な者は1978名であり,男性752名,女性1226名であった。)を対象に行った甲状腺疾患の調査において,甲状腺切除手術等の病歴のない甲状腺機能低下症である特発性甲状腺機能低下症が43名に認められ,抗体陽性が27名,陰性が16名であった。 うち22名は潜在性甲状腺機能低下症であった。抗体陽性特発性甲状 腺機能低下症(自己免疫性甲状腺機能低下症)の有病率について,0. 7±0.2シーベルトで最大レベルに達する上に凸の線量反応関係が示された。 抗体陽性特発性甲状腺機能低下症と被曝線量との関係は,慢性甲状腺炎等の潜在的な自己免疫性甲状腺障害に起因すると考えられ,この推論を裏付けると思われる複数の調査(頭頸部に放射線治療を受けた 者の慢性甲状腺炎の有病率が有意に高い,悪性リンパ腫の治療を受けた患者における放射線関連の甲状腺機能低下症の頻度が免疫抑制剤による化学療法を併用すると有意に低下するなど)が存在するとした。 そして,自己免疫性甲状腺機能低下症の有病率の増加に関する初めての研究であるとともに,頻度のピーク 甲状腺機能低下症の頻度が免疫抑制剤による化学療法を併用すると有意に低下するなど)が存在するとした。 そして,自己免疫性甲状腺機能低下症の有病率の増加に関する初めての研究であるとともに,頻度のピークに達する線量ががんよりも低い 約0.7シーベルトであることから,比較的低線量の放射線被曝が甲状腺に及ぼす影響をさらに研究する必要があることを強く示唆するものであるとした。 eAHS第8報(原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,1958-1998年)(甲B1の31,4〔文献12〕,7の16,11 の40,乙B183,216〔文献3〕,C12の18)甲状腺疾患における1シーベルト当たりの相対リスク(推定線量はDS86による。)は1.33(P値<0.0001,95%信頼区間1.19~1.49)であり,放射線被曝のリスクは20歳未満で被爆した者において顕著に増大した。1シーベルト当たりの相対リスク は1.54(P値<0.0001,95%信頼区間1.33~1.81)であった。 f 今泉美彩(放影研)ほか「被爆55-58年後の広島・長崎の原爆被爆者における甲状腺結節と自己免疫性甲状腺疾患の放射線量反応関係」(甲B44の6,乙B152の1~3)(以下「今泉論文」という。) 平成12年3月から平成15年2月までに広島・長崎のAHS集団 4091名に甲状腺検査を行い,うち胎内被爆者,入市被爆者及び推定線量が不明な者を除いた3185名(平均年齢71歳,男性1023名,女性2162名。DS02による甲状腺被曝線量平均値0.449シーベルト,中央値0.087シーベルト)を対象として甲状腺疾患の線量反応を解析したところ,抗甲状腺自己抗体陽性率は,抗 TPO抗体⒝及び抗Tg抗体⒞個々 による甲状腺被曝線量平均値0.449シーベルト,中央値0.087シーベルト)を対象として甲状腺疾患の線量反応を解析したところ,抗甲状腺自己抗体陽性率は,抗 TPO抗体⒝及び抗Tg抗体⒞個々の陽性率も含め,甲状腺被曝放射線量に関連していなかった(P値はそれぞれ0.20,⒝が0. 91,⒞が0.52であった。)。抗甲状腺自己抗体陽性甲状腺機能低下症(有病率3.2%)も同放射線量とは関連していなかった(1シーベルト当たりの過剰オッズ比0.01〔P値=0.92〕)。なお, 同陰性甲状腺機能低下症も,同様に関連していなかった(同過剰オッズ比0.17〔P値=0.31〕)。別に解析された若年被爆者においても同様であった(抗甲状腺自己抗体陽性,同甲状腺機能低下症と同放射線量との関係につき,同過剰オッズ比は,それぞれ-0.17〔P値=0.11〕,-0.09〔P値=0.72〕であった。)。 長瀧・柴田論文との違いについて,調査集団を拡大したこと,抗甲状腺自己抗体やTSHの測定レベルに対する診断技術が異なっていること,時間の経過に伴い対象者の線量分布が変化したこと(寿命の中央値は被曝放射線量1グレイ当たり約1.3年の割合で減少し,高線量に被曝した被爆者の割合が減少するとともに,がんリスクも被曝 放射線量に依存するため重度の甲状腺がん患者が早期死亡により除外された可能性があり,特に高線量被爆者に生存による偏りがある。),いずれの研究においても1回の血清検査のみを基礎に診断されたこと(血清検査結果は時間の経過により変化する。)に起因するとした。 判断 a 上のとおり,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性を肯定 する疫学的知見が存在している。そして,平成21年6月22日付けで改定された新審査の方針 とした。 判断 a 上のとおり,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性を肯定 する疫学的知見が存在している。そして,平成21年6月22日付けで改定された新審査の方針において,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」が積極認定対象疾病に付加され(乙A13),さらに平成25年12月16日付けで再改定された新審査の方針は,一定の被爆者につき,格段に反対すべき事由がない限り,甲状腺機能低下症と 放射線被曝との関係を積極的に認定すべきものとしている(乙A22。 抗甲状腺自己抗体の陽性・陰性で区別されていない。)。 以上を考慮すると,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,抗甲状腺自己抗体の陽性・陰性を問わず,一定程度までの低線量域も含めて,一般的に肯定することができるというべきである。 b 被控訴人の主張について被控訴人は,伊藤報告は,非被爆者,爆心地から1.5~3kmにおける直接被爆者を対象としておらず,統計学的解析がされていない上,近距離被爆者の甲状腺機能低下症の発症機序について慢性甲状腺炎による甲状腺組織の傷害(自己免疫性甲状腺機能低下症) 以外のもの,すなわち自己免疫性でない甲状腺機能低下症の機序によるものと推測するにすぎず,自己免疫性甲状腺機能低下症と放射線被曝との関係を明らかにしたものではない旨を主張する。確かに,1.5km以内の近距離被爆者群と3km以遠の対照群との比較では被曝線量と甲状腺機能低下症との関係が科学的な意味において厳 密に確かめられるとはいえないとしても,一定の傾向をうかがい知ることは可能であるといえる。また,甲状腺機能低下症の具体的な機序が未解明であるとしても,線量反応関係があることを示唆する調査結果となった事実は存在するのであり,こ としても,一定の傾向をうかがい知ることは可能であるといえる。また,甲状腺機能低下症の具体的な機序が未解明であるとしても,線量反応関係があることを示唆する調査結果となった事実は存在するのであり,この結果それ自体に不自然不合理な点は特段見当たらない。 ⒝ 被控訴人は,井上・長瀧論文及び長瀧・柴田論文について,有病 率の調査は調査時点で偶然当該疾病に罹患している場合や完治している場合等もあり交絡因子やバイアスが介在しやすいこと,長瀧・柴田論文の報告は「上に凸の線量反応」が示されたという特殊な内容であるところ,その再現性を検証するために行われた今泉論文における調査結果とは整合しないことなどを主張する。しかし,甲状 率の調査に指摘に係る交絡因子等が介在しやすいとは必ずしもいえない。また,今泉論文において,長瀧・柴田論文における調査結果との間で違いが生じた理由が検討されているのであり,少なくとも同調査結果を積極的に否定するものではない。今泉論文の発表後に 行われた研究の結果(乙B153,154,254)も,いずれも今泉論文の結論に沿うものであるが,同様に,長瀧・柴田論文の調査結果を積極的に否定するものとまではいえない。長瀧重信・井上修二ほか「甲状腺機能低下症に関する意見書」(乙B151)は,長瀧・柴田論文における現象及び統計学的な結果自体は,今泉論文等 を踏まえても当然正しいとしている。結局のところ,今泉論文は,長瀧・柴田論文によっては線量反応関係が放射線被曝と関係して発生したものと断定することまではできないとしながら,推論の可能性までは排除していないのであって,民事訴訟における証明の概念が自然科学的な証明とは異なることにも鑑みると,今泉論文等によ っても,上記aのとおり認定判断することが妨 いとしながら,推論の可能性までは排除していないのであって,民事訴訟における証明の概念が自然科学的な証明とは異なることにも鑑みると,今泉論文等によ っても,上記aのとおり認定判断することが妨げられるとはいえない。 ⒞ 被控訴人は,AHS第7報及び第8報は,いずれも,甲状腺疾患全体を対象としたものであり,甲状腺機能低下症を対象としたことを明確かつ正確に定義して分析されたものではないから,放射線起 因性の判断材料とすることはできない旨を主張する。確かに,AH S第7報及び第8報が甲状腺疾患全体の線量反応関係を検討したものであり,甲状腺機能低下症のみについて解析をした場合に異なる結果が出る余地があることは否定できない。しかし,これらの報告は,低線量の放射線被曝が甲状腺に対して一定の傷害作用を有することを示唆するものということができ,その限りにおいては,甲状 腺機能低下症と低線量の放射線被曝との関連性を検討する上で意味を持つというべきである。 ⒟ 被控訴人は,ICRPは,甲状腺機能低下症を起こす甲状腺に対する線量は25~30グレイ程度(分割照射)であると推定しており,核実験の際にはこれより低い線量でも甲状腺機能低下症が生じ た例が報告されているが,それでも最低で4グレイとされていること(乙B90)を指摘するが,上記イの各調査結果によると,上記4グレイ以上の放射線被曝でなければ甲状腺機能低下症との関連性が存在しないということはできない。 被控訴人の上記各主張は,いずれも採用することができない。 虚血性心疾患(心筋梗塞,狭心症)ア一般的知見前提事実のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,心筋梗塞,狭心症に関し,以下の一般的知見が存在することが認められる。 疫学 虚血性心疾患(心筋梗塞,狭心症)ア一般的知見前提事実のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,心筋梗塞,狭心症に関し,以下の一般的知見が存在することが認められる。 疫学 心筋梗塞,狭心症を含む心疾患は生活習慣病の一つであり,高血圧性を除いた心疾患は,死因の2位(平成22年度全死亡の15.8%,平成23年度全死亡の15.6%)を占めている(乙B190)。 心筋梗塞の発症は40歳代から徐々に増加し,70歳~74歳でピークとなる。すなわち,厚生労働省平成26年度患者調査では,5歳ごと に年齢を区切った場合の患者数が,60~64歳で約1万6000人と 1万人を超え,65~69歳で約2万5000人,70~74歳で約2万7000人とピークとなり,75~79歳で約2万4000人と減少に転じた(乙B178〔資料4〕)。虚血性心疾患では高齢者の発症が圧倒的に多く,70歳以降でピークとなる(同〔資料3〕)。 危険因子(乙B178) 心筋梗塞も狭心症も,冠動脈の動脈硬化病変を基礎とするため,動脈硬化の原因となる血管の内皮細胞を傷害する種々の刺激が心筋梗塞及び狭心症の危険因子となる。 a 喫煙喫煙本数と危険度との関係 1日の喫煙本数に応じて冠動脈疾患の危険度が高まる。 虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)は,喫煙者の虚血性心疾患の相対危険度が,非喫煙者に対して男性で1. 73,女性で1.90であり,冠動脈イベントの発症リスクが喫煙者は非喫煙者の1.6倍であったとする(乙B178〔資料3〕)。 また,NIPPONDATE80は,19年間の追跡調査の結果,1日2箱以上の喫煙者において,心筋梗塞につき4倍を超える相対危険度があり,喫煙と心筋梗塞との間の関 る(乙B178〔資料3〕)。 また,NIPPONDATE80は,19年間の追跡調査の結果,1日2箱以上の喫煙者において,心筋梗塞につき4倍を超える相対危険度があり,喫煙と心筋梗塞との間の関連性は特異的に強いとする(甲B23,乙B83,178〔資料5〕)。祖父江友孝(国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部)は,喫煙と虚 血性心疾患死亡のハザード比は,男性で2.2(95%信頼区間1. 8~2.7)であり,喫煙本数との量反応関係が認められ,喫煙開始年齢が若いほどリスクが高いとした(甲B25)。国立循環器病研究センターのホームページには,喫煙は動脈硬化性疾患の発症を促す強力な因子であり,1日20本以上の喫煙者は,虚血性心疾患の 発生が50~60%も高くなるとする記事が掲載されている(乙B 78)。厚生労働省研究班は,男性の虚血性心疾患の発症リスクについて,1日の喫煙本数が14本以下の喫煙者は非喫煙者の2.3倍,15~34本の喫煙者は3倍,35本以上の喫煙者は4.4倍となったなどとする報告をまとめた(乙B82)。 ⒝ 禁煙の効果 禁煙すると,虚血性心疾患の発症リスクは低下する。国立循環器病研究センターのホームページには,循環器疾患では禁煙の効果が比較的早く現れ,禁煙して約2年で心筋梗塞の発症危険度は喫煙者の半分に,5年経過後には非喫煙者とほぼ同程度に減少するとする記事が掲載されている(甲B24)。祖父江友孝は,男性において禁 煙後約5年で全循環器疾患の死亡リスクの減少がみられ,約10年で非喫煙者のリスクと同じレベルに達したとした(甲B25)。日本動脈硬化学会は,非喫煙者の冠動脈疾患による死亡率を1とした場合,毎日喫煙した群の死亡率は1.76,1~4年以下の禁煙者群は1.47, で非喫煙者のリスクと同じレベルに達したとした(甲B25)。日本動脈硬化学会は,非喫煙者の冠動脈疾患による死亡率を1とした場合,毎日喫煙した群の死亡率は1.76,1~4年以下の禁煙者群は1.47,5年以上の禁煙者群は1.31であると紹介している (乙B178〔資料7〕)。このほか,D3医師(D5診療所所長)は2年以上の禁煙により心筋梗塞の発症率は非喫煙者と差がなくなる旨の意見(甲B59。甲B13〔25頁〕,22も概ね同旨)を述べる一方,D4医師(大分大学循環器内科臨床検査診断学講座准教授)は,喫煙により長年にわたり形成された血管の粥腫は禁煙によ っても消滅することはない旨の意見(乙B178,証人D4〔29頁〕)を述べている。 喫煙本数と禁煙年数との関係につき,1日1~19本喫煙した者が10年以上禁煙した場合の虚血性心疾患による死亡リスクは0. 99と非喫煙者に相当するまでに低下したが,1日20本以上喫煙 した者は禁煙期間が10年を経過しても同リスクはなお35%高い とする研究結果や,同様に虚血性心疾患の死亡リスクについて,禁煙期間が5年以上となれば,4年以下の場合(1.15)と比較してリスクは減少するが(0.9),禁煙までに20万本喫煙していた場合にはその減少率は小さく(4年以下で2.1,5年以上で1. 82),禁煙効果はそれまでの喫煙量が深く関与しているとする研究 結果がある(第2事件乙B113〔448頁〕)。 b 高血圧血圧水準と虚血性心疾患との間には,血圧値の上昇に従い虚血性心疾患の発症リスクが高まる量依存関係が存在する。 NIPPONDATE80は,虚血性心疾患死亡の相対危険度につ き,収縮期血圧120~139mmHg群に対する同180mmHg以上群では3.05,拡 発症リスクが高まる量依存関係が存在する。 NIPPONDATE80は,虚血性心疾患死亡の相対危険度につ き,収縮期血圧120~139mmHg群に対する同180mmHg以上群では3.05,拡張期血圧70~79mmHg群に対する同100~109mmHg群では3.92,同110mmHg以上群では4.75であったとする(乙B178〔資料3〕)。また,高血圧治療ガイドライン2014は,至適血圧と比較した場合の心血管病死亡の ハザード比(BMI,総コレステロール及び喫煙等を調整したもの)は,40~64歳の中壮年者においてⅠ度高血圧で3前後,Ⅱ度高血圧で5前後であり,65~74歳の前期高齢者においてⅠ度高血圧で2前後,Ⅱ度高血圧で2~3であって),冠動脈疾患死亡のうち59%が至適血圧を超える血圧高値に起因 する死亡と評価されるなどとする(乙B193〔10頁の図1-4〕)。 c 脂質異常症高LDLコレステロール血症,高トリグリセライド血症,低HDLコレステロール血症はいずれも虚血性心疾患の危険因子であり,うちLDLコレステロールが最も動脈の粥状硬化と関連が強いが,トリグ リセライド及びHDLコレステロールも独立した危険因子である。 (乙 B178〔資料1〕,194,243,251,288,C3の11)虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)は,冠動脈疾患の発生率につき,LDLコレステロール80mg/dℓ未満群に対し,80~99mg/dℓ群では1.35倍,100~119mg/dℓ群では1.66倍,120~139mg/dℓ群では2.15倍, 140mg/dℓ以上群では2.8倍と増加し,トリグリセライド値(一般成人において,男性88~110mg/dℓ,女性63~105mg/dℓ)が15 ,120~139mg/dℓ群では2.15倍, 140mg/dℓ以上群では2.8倍と増加し,トリグリセライド値(一般成人において,男性88~110mg/dℓ,女性63~105mg/dℓ)が150mg/dℓを超えると冠動脈疾患の発症率が3.7倍と急激に上昇したとする(乙B178〔資料3〕)。また,NIPPONDATE80も,冠動脈疾患による死亡の相対危険度について,総 コレステロール160~179mg/dℓ群に対し,200~219mg/dℓ群では1.4倍,220~239mg/dℓ群では1.6倍,240~259mg/dℓ群では1.8倍,260mg/dℓ以上群では3.8倍になるとし,特に男性では,総コレステロール,LDLコレステロールの上昇に伴い,冠動脈疾患の発症率・死亡率が連続的に 上昇するとする(乙B194,243)。 d 糖尿病(耐糖能異常)空腹時血糖値が126mg/dℓ以上,75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dℓ以上,随時血糖値が200mg/dℓ以上のいずれかが,別の日に行った検査で2回以上確認された場合,又は これらが1回確認され,かつ血糖コントロールの指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c)が6.5%以上(国際標準のNGSP値。 平成24年3月までは日本糖尿病学会のJDS値で6.1%以上)の場合等に,糖尿病と診断される(乙B288,C4の9・11,7の16,第2事件乙B110)。 虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)は,糖 尿病患者の初回虚血性心疾患発症率が年に5/1000人で健常者の発症率(年に1.6/1000人)と比べて有意に高率であり,脳梗塞を加えた心血管疾患の発症に対する相対危険につき,空腹時血糖1 尿病患者の初回虚血性心疾患発症率が年に5/1000人で健常者の発症率(年に1.6/1000人)と比べて有意に高率であり,脳梗塞を加えた心血管疾患の発症に対する相対危険につき,空腹時血糖120mg/dℓ以上の糖尿病患者につき有意な危険率の上昇を認めるとする。また,糖尿病の診断に至る前の耐糖能異常者の心血管疾患(脳 卒中を含む。)の危険率が正常耐糖能者の1.9倍であり,心血管イベントの発症率につき,空腹時血糖75mg/dℓ群に対し,110mg/dℓ群の相対危険率が1.33であるなどとする(乙B178〔資料3〕)。 e 肥満 体内の脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり,内臓脂肪型の肥満は,脂質異常症,高血圧等の生活習慣病の要因となり,動脈硬化性疾患を早期に発症させる。肥満の判定は,BMI(体重kg/身長m2)で行われる。判定基準は,普通体重18.5以上25未満,肥満(1度)25以上30未満,肥満(2度)30以上35未満等であり,統計的 に最も病気にかかりにくい標準値は22であるとされる(乙C10の10)。 虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)は,BMI25以上では22に対し健康障害が相対危険度で約2.2であり,また,BMI20以上24未満群(中央値22)を基準としたとき2 4~27.9群(中央値27)において高血圧,低HDLコレステロール血症及び高トリグリセライド血症に関するオッズ比が2を超えたなどとして,BMI25のレベルからの体重管理が必要であるとしている。(乙B178〔資料3・11〕)f 危険因子の重積 冠動脈疾患の危険因子が重積すると,心筋梗塞の死亡危険度が加速 度的に高くなる。 NIPPONDATE80は,肥満,高血糖 B178〔資料3・11〕)f 危険因子の重積 冠動脈疾患の危険因子が重積すると,心筋梗塞の死亡危険度が加速 度的に高くなる。 NIPPONDATE80は,肥満,高血糖,高コレステロール及び高血圧等の危険因子が3,4個重積すると,心筋梗塞は同因子のない人に比べて8倍高くなるとする(甲B23,乙B83,178〔資料5〕)。国立循環器病研究センターのホームページにも,動脈硬化の 5つの危険因子は高血圧,高脂血症(脂質異常症),喫煙,肥満及び糖尿病であり,うち高血圧,高脂血症及び喫煙が3大危険因子であって,これらは相互に関係し,重積により雪だるま式に心疾患のリスクが高まるとする記事が掲載されている(乙B78)。 イ心筋梗塞,狭心症と放射線被曝との関連性 関連性に関する知見掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,心筋梗塞,狭心症及びこれらの危険因子である動脈硬化と放射線被曝との関連性について,以下の知見が存在することが認められる。 aLSS 第11報第3部(改訂被曝線量(DS86)に基づく癌以外の死因による死亡率,1950-85年)(甲B1の29,14,乙B216〔文献1〕)昭和25年から昭和60年までの循環器疾患による死亡1万1164例(推定線量はDS86による。)について,心疾患(この調査 において脳卒中以外の循環器疾患をいう。)による死亡例4962名の死亡率は,全期間を通じて被曝線量との有意な傾向を示した(放射線量0グレイを1とした場合の相対リスクは,0.01~0.05グレイで1.03,0.1~0.19グレイで0.96,0.5~0.99グレイで1.18,1~1.99グレイで0.95,2~ 2.99グレイで1.32,3~3.99グレイで1.45であっ レイで1.03,0.1~0.19グレイで0.96,0.5~0.99グレイで1.18,1~1.99グレイで0.95,2~ 2.99グレイで1.32,3~3.99グレイで1.45であっ た。)。また,昭和41年から昭和60年までの後期において,被爆時年齢が低い群(40歳未満)では,循環器疾患全体の死亡率及び心疾患の死亡率は,いずれも線量と有意な関係(線量反応曲線は純粋な二次又はしきい値線量を1.5グレイと仮定した場合の線形―しきい値型)を示した。心疾患のうち最も死亡数が多い冠状動脈性 心疾患の死亡率も,同一の期間及び被爆時年齢区分の心疾患と同じ傾向を示した(放射線量0グレイを1とした場合の相対リスクは,0.01~0.49グレイで1.35,0.5~0.99グレイで1.25,1~1.99グレイで0.92,2~2.99グレイで2.57,3グレイ以上で2.38であった。)。特に若年被爆者群 において循環器系の疾患による死亡率の増加がみられることから,その放射線感受性が高いことが示唆されるとした。 なお,死因は死亡診断書に基づいて分類しており(以下のLSSにおいても同様である。),信頼性には限界があるとしている。 ⒝ 第12報第2部(がん以外の死亡率:1950-1990年)(甲 B1の18,15,乙B216〔文献1〕)昭和25年から平成2年までの心疾患による死亡例6826名(推定線量はDS86による。)につき,1シーベルト当たりの推定過剰相対リスクは0.14(P値〔片側検定〕=0.003,90%信頼区間0.05~0.22)で,そのうち冠状動脈性心疾患(2 362名)の同推定過剰相対リスクは0.06(90%信頼区間-0.06~0.2),高血圧性心疾患(1199名)の同推定過剰相対リスクは0.21 5~0.22)で,そのうち冠状動脈性心疾患(2 362名)の同推定過剰相対リスクは0.06(90%信頼区間-0.06~0.2),高血圧性心疾患(1199名)の同推定過剰相対リスクは0.21(90%信頼区間0~0.45)であった。 調査結果を踏まえて,心疾患を含むがん以外の複数の疾患(消化器疾患,呼吸器疾患等)についても,低線量域(例えば0.5シー ベルト)における関連性の程度は不明であるが,放射線被曝の影響 はもはや最も高い線量域に限られず(調査期間の初期にみられた健康な被爆者の存在の影響によるU字型線量反応が時間の経過により線形反応に移行している。),脳卒中・心疾患の過剰リスクは,心臓血管疾患共通の放射線影響を反映している可能性があり,このような影響に関する機序が解明されていないからといって,機序が存在 しないという意味ではないと考えられるなどとされた。 ⒞ 第13報(固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率:1950-1997年)(甲B1の19,7の11,16,乙B216〔文献1〕)昭和43年から平成9年までの心疾患による死亡例4477名 (推定線量はDS86による。)について,有意な過剰リスクが認められ,1シーベルト当たりの推定過剰相対リスクは0.17(P値=0.001,90%信頼区間0.08~0.26)であった(なお,対象期間を昭和43年から平成9年に限定したのは,一般集団より健康であった近距離被爆者の存在による影響を考慮したことに よる。)。 調査結果を踏まえ,統計的に,原爆被爆者において心疾患を含むがん以外の複数の疾患の死亡率が,1シーベルト以下の線量域を含め,線量の上昇とともに増加した,低線量における線量反応の形状については著しい不確実性があり,特に約0.5シーベ 爆者において心疾患を含むがん以外の複数の疾患の死亡率が,1シーベルト以下の線量域を含め,線量の上昇とともに増加した,低線量における線量反応の形状については著しい不確実性があり,特に約0.5シーベルト以下で はリスクの存在を示す直接的証拠はほとんどないが,調査結果はこの線量範囲でも線形性に矛盾しないことから,心疾患を含むいくつかの疾患に放射線の影響が存在する可能性が示唆されるなどとした。 ⒟ 第14報(1950-2003年:がんおよびがん以外の疾患の概要)(甲B49の1・2,乙B186の1~3) 昭和25年から平成15年までに循環器系疾患で死亡した1万9 054名(推定線量はDS02による。)における1グレイ当たりの過剰相対リスクは,0.11(90%信頼区間0.05~0.17)であり,リスクの増加が示されたが,因果関係については今後の研究が必要であるとした。 bAHS第8報(原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,19 58-1998年)(甲B1の31,4〔文献12〕,7の16,11の40,乙B183,216〔文献3〕,C12の18)40歳未満で被爆した人の心筋梗塞に有意な二次線量反応関係を認め(1シーベルト当たりの相対リスク1.25,P値=0.049,95%信頼区間1~1.69),二次モデルで,放射線被曝の寄 与リスクは16%であった(推定線量はDS86による。)。比較的高い放射線被曝がアテローム性硬化病変の誘発に関与していることが考えられるほか,被爆者のコレステロールが非被爆者より有意に高く,若年被爆者の血圧傾向にも同じ傾向が見られること(同ⅰ)から,これらが若年被爆者の心筋梗塞の発生率上昇の 理由であるかもしれないとした。 なお,虚血性心疾患全体では,1シーベ に高く,若年被爆者の血圧傾向にも同じ傾向が見られること(同ⅰ)から,これらが若年被爆者の心筋梗塞の発生率上昇の 理由であるかもしれないとした。 なお,虚血性心疾患全体では,1シーベルト当たりの相対リスクは1.04(P値=0.47,95%信頼区間0.94~1.14)であり,同様に心筋梗塞(全年齢)では,1.11(P値=0.38,95%信頼区間0.9~1.46)であり,いずれも関連性は 認められなかった。 ⒝ 喫煙と飲酒の影響が出ないようにこれらの因子を調整した場合,心筋梗塞を発症する相対リスクは,1.12(P値=0.48,95%信頼区間0.84~1.60)であり,40歳未満の被爆者においても,1シーベルト当たり1.17(P値=0.14,95% 信頼区間0.97~1.56)であって,放射線被曝との間に統計 学的に有意な関連性は示されなかった。 c 清水由紀子ら(放影研)「放射線被曝と循環器疾患のリスク:広島,長崎の被爆者データより,1950-2003」(甲B19の1・2,乙B187の1・2,216〔文献2の1・2〕)(以下「清水論文」という。イギリスの著名医学雑誌BMJに掲載されたものである。) LSS集団の8万6611名(DS02により0~3グレイの被曝線量が推定されており,うち86%の被曝線量は0.2グレイ未満である。)のうち,昭和25年から平成15年までの間に,8463名が心疾患で死亡した。心疾患の1グレイ当たりの過剰相対リスクは0.14(P値<0.001,95%信頼区間0.06~0. 23)であった。被曝線量との関係は線形モデルが最も適合し,低線量被曝領域でも過剰リスクがあることが示唆されたが,0~0. 5グレイの線量範囲では統計的に有意ではなかった。しき 0.06~0. 23)であった。被曝線量との関係は線形モデルが最も適合し,低線量被曝領域でも過剰リスクがあることが示唆されたが,0~0. 5グレイの線量範囲では統計的に有意ではなかった。しきい値線量の最良推定値は0グレイであり,95%信頼限界はおよそ0.5グレイであった。 なお,心筋梗塞(死亡例1735名)に限った場合,1グレイ当たりの過剰相対リスクは0(P値>0.5,95%信頼区間-0. 15~0.18)であった。また,心筋梗塞を含む虚血性心疾患(死亡例3252名)については,1グレイ当たりの過剰相対リスクは0.02(95%信頼区間-0.1~1.5)であるが,P値は0. 5超であり,有意な関連は示されなかった。ただし,死因は死亡診断書に基づくものであるところ,広いカテゴリの死因は正確であるが,詳しい分類の鑑別診断の精度は貧弱であり,剖検報告との一致率は,虚血性心疾患69%,高血圧性心疾患(死亡例922名)22%などであったとする。病名そのものではない心不全(心臓の機 能不全を意味する概念)による死亡例も,2983名であったとさ れ,研究の限界又は不確かさであるとしている。 調査結果を踏まえ,中等度の線量(主に0.5~2グレイ)において心疾患リスクを上昇させるかもしれないことについての強力な証拠となったが,0.5グレイ以下の線量では同リスクの上昇との関連は明確ではなく,長期間のフォローアップが必要であるとした。 ⒝ 喫煙,飲酒,教育,職業,肥満及び糖尿病の交絡因子を調整しても,心疾患の放射線リスク評価に対して重要な変化がもたらされなかったとした。 ⒞ BMJは,清水論文を,0.5グレイ以下では統計的に有意ではなかったが,主に0.5~2グレイの中線量被曝で心疾患が増加す 疾患の放射線リスク評価に対して重要な変化がもたらされなかったとした。 ⒞ BMJは,清水論文を,0.5グレイ以下では統計的に有意ではなかったが,主に0.5~2グレイの中線量被曝で心疾患が増加す る可能性を示唆し,この関係は,生活スタイル,人口統計学その他の健康因子,誤診等の交絡因子を考慮しても,論理的に強固であることを明らかにしたものであると紹介した(甲B46)。 d 高橋郁乃ほか(放影研)「LSS集団における心疾患死亡率,1950-2008」(甲B62,乙B239の1・2) LSS集団について,昭和25年から平成20年までの異なる期間におけるいくつかの心疾患サブタイプの死亡率を調査した。虚血性心疾患の1グレイ当たりの過剰相対リスクは,どの一期間又は全期間をみてもゼロと有意に異なることはなかった。心筋梗塞とその他の虚血性心疾患の両方についても線量反応関係は認められなかった。ただし, サブタイプへの分類により統計的検出力が低下すること,早期治療により疾患の自然経過に影響を与え,ひいては死因にも影響することを,調査の限界として指摘している。 eSarahC.Darbyら「放射線関連心疾患:最近の知見と将来展望」(甲B51の1・2,乙B283の1~3)(以下「Sar ah論文」という。) 心疾患の死亡率につき,両性の8400名を超える心疾患死亡において,被曝線量に応じて増加が確認されたが(1グレイ当たり14%,95%信頼区間6~23%),約0.5グレイ未満の被曝線量でのリスク増加は明らかではなかった,いつ死亡率の増加が始まったかは不明であるが,被爆後50年が経過してもリスクが減少したという示唆は ないとした。 f 動脈硬化との関連 グレイ未満の被曝線量でのリスク増加は明らかではなかった,いつ死亡率の増加が始まったかは不明であるが,被爆後50年が経過してもリスクが減少したという示唆は ないとした。 f 動脈硬化との関連性赤星正純(放影研)「原爆被爆者の動脈硬化・虚血性心疾患の疫学」(甲B18,乙B216〔文献4〕)(以下「赤星報告」という。)放射線被曝と心血管疾患との関連につき,心筋梗塞の危険因子で ある大動脈弓石灰化が被爆放射線量と関連していること,さらに動脈硬化及び心血管疾患の危険因子である高血圧(後記ⅰ),高脂血症(後記ⅱ)及び炎症(後記ⅲ)に対しても,放射線被曝が関与していること等の研究結果があり,これらを介して被爆者の動脈硬化が促進され,心血管疾患の増加に繋がったことが考えられると報告し た。 ⅰ 佐々木英夫(放影研)ほか「原爆被爆者の血圧に対する加齢および放射線被曝の影響」(第2事件乙B108の1・2)(以下「佐々木論文」という。)AHS集団9411名(男性3362名,女性6049名。腎 臓,心臓弁膜,動脈又は内分泌腺疾患の者を除外した。推定線量はDS86による。)を対象とし,被曝群(被曝線量1グレイ)と非被曝群(同0グレイ)との血圧を比較した。測定回数は1から14回で中央値は9回であり,喫煙の影響を補正した。この結果,①昭和15年に生まれ,1グレイの原爆放射線に被曝した40歳 男性は,非被曝男性よりも平均収縮期血圧レベルが約1.0mm Hg(95%信頼区間0.6~1.5mmHg),平均拡張期血圧レベルが約0.8mmHg(同0.2~1.2mmHg)それぞれ高く,②明治33年に生まれ同様に被曝した70歳男性は,非被曝男性よりも平均収縮期血圧レベルが1.2mmHg(同0. 6~1. 拡張期血圧レベルが約0.8mmHg(同0.2~1.2mmHg)それぞれ高く,②明治33年に生まれ同様に被曝した70歳男性は,非被曝男性よりも平均収縮期血圧レベルが1.2mmHg(同0. 6~1.8mmHg),平均拡張期血圧レベルが1.0mmHg(同 0.5~1.4mmHg)それぞれ低かった。男女間で放射線影響に有意差はみられなかった。 調査結果を踏まえ,収縮期血圧及び拡張期血圧の縦断的傾向のいずれについても,小さいが統計的に有意な電離放射線の影響が認められたとした上で,若年者と高齢者との相違について,加齢 現象(特に動脈壁弾性の低下)との関連性を考慮すべきであり,若年における放射線被曝が動脈血管を変化させ,末梢血管抵抗を引き起こしたとの仮説を立てることができるなどとした。 ⅱ F.LennieWongほか(放影研)「被爆者における血清総コレステロール値の継時的変化における放射線の影響」(乙B 244,274,第2事件乙B107の1・2)(以下「Wong論文」という。)AHSにおいて昭和33年から昭和61年までに収集したデータに基づき,血清総コレステロール(TC)の継時的変化における放射線の影響について調査した。明治43年,大正9年,昭和 5年及び昭和15年に広島及び長崎で生まれた被爆者(DS86による推定被曝線量2グレイ)と非被爆者のTCが比較された。 この結果,非被爆者に比べて被爆者はTCの高値を示した。放射線被曝による増加は女性がより大きく,女性で放射線の影響が全般にみられたのに対し,男性では若年被爆者でのみ明らかであっ た。年齢が70歳以上では平均TCの違いは消失した。この現象 が自然経過なのか人為的なものであるかは不明であるが,1グレイ当たりのTCの増加(年齢別の最大 でのみ明らかであっ た。年齢が70歳以上では平均TCの違いは消失した。この現象 が自然経過なのか人為的なものであるかは不明であるが,1グレイ当たりのTCの増加(年齢別の最大値)は,女性(昭和5年生の52歳)において,2.5mg/dℓ(95%信頼区間1.6~3.3mg/dℓ)(広島),2.3mg/dℓ(同1.5~3.1mg/dℓ)(長崎)であり,男性(昭和15年生の29歳)におい ては,1.6mg/dℓ(同0.4~2.8mg/dℓ)(広島),1.4mg/dℓ(同区間0.3~2.6mg/dℓ)(長崎)であった。喫煙の影響を考慮しても,TCと放射線の関係に影響は認められなかった。 調査結果を踏まえ,被曝の影響に性差があり女性で影響が大き いことは放射線被曝によるホルモンの変化があることを示唆するとし,また,被曝に伴うTC値の上昇は被爆者でみられる冠動脈性疾患の増加を部分的に説明するとした。 ⅲ 林奉権ほか(放影研)「原爆被爆者における炎症応答マーカーの放射線量依存的上昇」(甲A151,B60の9,乙B277の1・ 2)(以下「林論文」という。)平成7年3月から平成9年4月までにAHS集団453名から得た血液資料につき,いずれも炎症マーカーである血漿中の反応性蛋白質(CRP)及びインターロイキン6(IL-6)を測定した。CRPの基準値は,成人で0.3mg/dℓ以下であり(乙 B281),冠動脈疾患との関係につき,0.07mg/dℓ以下であれば危険が非常に低い群であり,0.2mg/dℓ以上であれば危険が高いとの知見がある(乙B280)。非被爆者群のCRP値は0.05mg/dℓ(95%信頼区間0.041~0.061mg/dℓ)であり,0.005~1.5グレ あり,0.2mg/dℓ以上であれば危険が高いとの知見がある(乙B280)。非被爆者群のCRP値は0.05mg/dℓ(95%信頼区間0.041~0.061mg/dℓ)であり,0.005~1.5グレイ被爆者群で0.0 59mg/dℓ(同0.048~0.072mg/dℓ),1.5グ レイを超える被爆者群で0.093mg/dℓ(同0.074~0. 116mg/dℓ)であった(P値<0.001)。推定放射線量1グレイ当たり約31%有意に上昇し(P値=0.0001),年齢,性別,肥満度及び心筋梗塞の既往歴の要因を補正しても,1グレイ当たり約28%の有意な上昇を示した(P値=0.000 2)。IL-6も,1グレイ当たり9.3%(P値=0.0003)上昇していた(多重補正後の上昇率9.8%〔P値=0.0007〕)。これらの上昇は,末梢血リンパ球集団中のCD4⁺ヘルパーT細胞の割合の減少に比例していた。 調査結果を踏まえ,原爆放射線への被曝が被爆者の炎症活性を 有意に亢進させる明らかな兆候が血液中に認められることを示すものであり,原爆被爆者に心臓血管疾患その他のがん以外の疾患のリスクが上昇していることの説明の一助となると考えられるとした。 ⒝ 井上典子(広島市医師会臨床検査センター)「原爆被爆者と心血管 疾患」(甲B17,乙B216〔文献8〕)昭和62年から平成15年までに原爆検診を受診した40歳から79歳までの被爆者1万6335名につき,直接被爆群(爆心地からの距離2km未満,同2km以上)及び入市他群に分類し,大動脈脈波速度(PWV)の測定結果を解析したところ(伝播速度が大 きいほど大動脈の動脈硬化が強い。),放射線被曝と動脈硬化の関連があり,特に被爆時年齢が10歳未満男性の び入市他群に分類し,大動脈脈波速度(PWV)の測定結果を解析したところ(伝播速度が大 きいほど大動脈の動脈硬化が強い。),放射線被曝と動脈硬化の関連があり,特に被爆時年齢が10歳未満男性の近距離直接被爆群に関連性が強いとの結果であったとした。 ⒞ 山田美智子ほか(放影研)「動脈硬化の有病率と原爆放射線被曝との関係について」(乙B246,273の1・2)(以下「山田論文」 という。) 広島原爆の被爆者1804名に対し,単純胸部撮影による大動脈弓の石灰化と超音波検査による総頸動脈の内膜中膜肥厚(IMT)を調査した上,可能性のある交絡因子を調整して,動脈硬化性変化と放射線被曝との関連について検討した。 被曝線量1グレイに対する大動脈弓石灰化のオッズ比は男性で1. 3(95%信頼区間1.05~1.53),女性で1.31(同1. 13~1.51)であり,放射線量が大動脈の動脈硬化有病率を助長すると評価した。頸動脈のIMTは放射線量によって有意に変化せず(P値=0.18),影響を認めなかった。 なお,0.005グレイ以上0.5グレイ未満の比較的低線量で は対照群(0.005グレイ未満)と比較して大動脈弓石灰化に対して有意な影響はなかった。0.5グレイ以上の比較的高線量群のオッズ比は男性1.63(P値=0.02),女性1.48(P値=0.007)であった。 ⒟ Sarah論文 放射線による虚血性心疾患(coronaryarterydisease)の機序について,他の原因によるアテローム性動脈硬化による虚血性心疾患と本質的に同じであり,筋繊維芽細胞の内膜での増殖,脂肪を貪食したマクロファージによるプラークの形成によって血栓症 isease)の機序について,他の原因によるアテローム性動脈硬化による虚血性心疾患と本質的に同じであり,筋繊維芽細胞の内膜での増殖,脂肪を貪食したマクロファージによるプラークの形成によって血栓症が引き起こされる可能性があるとした。 楠洋一郎ほか(放影研)「心筋梗塞を有する原爆被爆者血液中のCD4T細胞比率の低下」(甲B60の4)免疫学的研究により,原爆被爆者における長期間のT細胞免疫異常,特にCD4T細胞の減損が明らかとされている。CD4T細胞の割合を測定した被爆者1006名のうち18名に心筋梗塞の既往 があったところ,①CD4T細胞の割合は放射線量の増加に伴い有 意に低下した,②心筋梗塞の既往はCD4T細胞比率の低い例において有意に高かったことから,被爆者の心筋梗塞がCD4T細胞の減損と関連している可能性が示唆されるとした(関連する研究報告として,楠洋一郎ほか〔放影研〕「心筋梗塞の既往歴を有する原爆被爆者の黄色ブドウ球菌毒素に対するT細胞の応答能低下とナイーブ CD4T細胞の減損」〔甲A152〕等がある。)。 ⒡ 原爆放射線の人体影響改訂第2版(楠洋一郎,林奉権)(乙B278)被爆者の免疫及び炎症応答に関する調査結果を概観し,以下のとおり検討した。 被爆者の免疫系に放射線被曝に関連した変化が観察される。変化は,Tリンパ球を中心とする適応免疫の低下と活性化された自然免疫によると考えられる軽度な炎症状態である。その機序はほとんど不明であるが,放射線被曝に関連してみられる免疫系の変化の多くは加齢に伴って免疫機能が衰退していく様相(免疫老化)と類似し ており,被爆者では過去の放射線被曝により免疫老化が促進されている可能性が示唆される。 連してみられる免疫系の変化の多くは加齢に伴って免疫機能が衰退していく様相(免疫老化)と類似し ており,被爆者では過去の放射線被曝により免疫老化が促進されている可能性が示唆される。 被爆者の免疫系で観察される被曝線量依存性の変化の大部分は1グレイ当たり数%と小さいように思われ,僅かな免疫系の異常のために特定の疾患に罹患するという筋書きは描きにくいかもしれない。 しかし,その僅かな異常が数十年継続する場合に,被爆者集団にしばしば観察される疾患のリスクを増加させたかもしれないと考えることは可能である。放射線による免疫老化の促進という仮説を支持する知見が蓄積されれば,放射線被曝で加齢関連疾患のリスクが高くなる機序を一部説明できるかもしれない。 国際的な知見 この点に関するUNSCEAR及びICRPにおける国際的な知見は,以下のとおりである。 aUNSCEAR報告書2006年報告書(甲B58〔文献2〕,乙B86の1・2)「放射線治療に伴う心臓に対する高線量被曝に関連し,循環器疾 患のリスクは増加するが,心臓への線量がより低くなった新たな治療技術はそのリスクを大幅に低下させた。今日まで,致死的な心臓血管疾患と1~2グレイ以下の範囲の線量の関連性を示した証拠は日本における原爆被爆の生存者の解析のみであり,その他の調査では1~2グレイ以下の被曝線量においての致死的な心臓循環器疾患 のリスクに関する明確な証拠は示されていない。現在ある科学的データには一貫性のある疫学的データやもっともな生物学的メカニズムの説明が欠けており,電離放射線と心血管疾患の因果関係を立証するには十分でない。」,「放射線により循環器疾患が発生するリスクを評価しようとする際には,喫煙や 的データやもっともな生物学的メカニズムの説明が欠けており,電離放射線と心血管疾患の因果関係を立証するには十分でない。」,「放射線により循環器疾患が発生するリスクを評価しようとする際には,喫煙や,遺伝子,コレステロール値を はじめとして,多数のリスク因子を考慮する必要がある。1~2グレイ以下の被曝線量に関連するリスクにおいて,相対的に小さいリスクの増加があることは分かったが,死亡率のみの疫学的調査が循環器疾患と1~2グレイ以下の線量の放射線被曝との関連の可能性や特性を解明するために寄与するかどうかは定かでない。」などと報 告した。 ⒝ 2010年報告書(甲B34,50,乙B142,216〔文献10〕)「放射線被曝に関連した致死的な心血管疾患の過剰リスクを示す唯一の明確な証拠は,心臓への線量が約1~2グレイ未満では,原 爆被爆者のデータから得られている。」,「本委員会のレビューは,約 1~2グレイ未満の線量の被曝と心血管疾患及びその他の非がん疾患の過剰発生との間の直接的な因果関係についての結論を下すことはできなかった。これらの疾患の低線量における線量反応関係の形状はまだ明らかでない。」,「1~2グレイ未満の線量,またはるかに低い線量の場合においても,非がん疾患のリスクが増加することを 示す最近の疫学調査からの新たな証拠がある。しかしながら関連するメカニズムはいまだ不明瞭で,低線量におけるリスク推定には問題が残る。」などと報告した。 bICRP声明・勧告声明(乙B188の1・2) ICRPは,平成23年4月21日,「不確実性は残るものの,循環器疾患のしきい吸収線量は,心臓や脳に対しては,0.5グレイ程度まで低いかもしれないことを医療従事者は認識 B188の1・2) ICRPは,平成23年4月21日,「不確実性は残るものの,循環器疾患のしきい吸収線量は,心臓や脳に対しては,0.5グレイ程度まで低いかもしれないことを医療従事者は認識させられなければならない。いくつかの複雑な介入を行う間に患者の被曝線量がこの程度まで達してしまう可能性はある。したがって,こうした状況 の最適化には特に重点が置かれるべきである。」などとする声明を承認した。 ⒝ 2012年勧告(甲B40の1・2,58〔文献5〕,乙B216〔文献11〕,238の1・2,240,241,272)ICRPは,2012年勧告において,心疾患と低線量被曝との 関係につき,「最近更新された原爆被爆者データの分析によると(清水論文),心疾患の推定しきい線量は0グレイとされ,95%信頼区間の上限は0.5グレイであった。しかしながら,0~0.5グレイの範囲を通して,線量反応関係は統計学的に有意ではなく,低線量の情報が不十分であることを示している。」などとした。また,実 質的なしきい線量という用語を,特定の観察可能な影響が放射線に 被曝した個人のうち1%だけに現れるために必要な放射線の量と定義し,ほとんどの先進国において循環器疾患の死亡率が自然ベースラインで30~50%であり病因を放射線被曝とその他に区別するのが困難で,しきい線量の存在及びその値も不明であるが,1グレイ当たりの過剰相対リスク約0.1は原爆被爆者研究に特に当ては まるもっともな数値であると考えられるとした上で,多くの疫学研究を統合したリスク計算によると,「約0.5グレイの線量により約1%の被曝した個人に循環器疾患が発症する結果をもたらす可能性がある」と推定した。そして,「0.5グレイ以下の線量域における,いかなる を統合したリスク計算によると,「約0.5グレイの線量により約1%の被曝した個人に循環器疾患が発症する結果をもたらす可能性がある」と推定した。そして,「0.5グレイ以下の線量域における,いかなる重症度や種類の循環器疾患リスクも,依然として不確実で あることが強調されるべきである。」などとする。放射線に起因する心臓に対する影響については,「特に低線量被曝後において炎症過程を含んでいる。高線量被曝後では,明らかに毛細血管の数が減少し,虚血,心筋壊死や線維化へとそのうち進行し,大血管においてアテローム硬化が促進され,心機能の低下や致死的なうっ血性心不全に 至る。」などとしている。 なお,清水論文のほか,佐々木論文,Wong論文,山田論文及び林論文がレビューの対象とされている。 判断 a 心筋梗塞 関連性の有無心筋梗塞については,関する各疫学的知見が存在する。これらの中には,一部に他と整合しないものが含まれてはいるものの,調査の限界として指摘されている内容も踏まえて総合的に検討すると,上記関連性を肯定する知 見が集積しているとみることができる。依然として仮説の段階では あるものの,機序に関する知見についても集積されつつある状況にあるといえる(上掲したもののほか,楠洋一郎ほか〔放影研〕「原爆放射線が免疫系に及ぼす長期的影響:半世紀を超えて」は,免疫学的観点から,原爆放射線がT細胞ホメオスタシスを攪乱する,長期にわたる炎症を誘発して疾患の発生に繋がったなどとする複数の仮 説を提示している〔甲A158〕。)。 国際的知見としても認められるに至っている。そして,平成19年12月17日付け「原爆症認定の在り方に関する検討会報告」(乙A6)において,心筋梗塞については,原爆被爆者を対象と 〔甲A158〕。)。 国際的知見としても認められるに至っている。そして,平成19年12月17日付け「原爆症認定の在り方に関する検討会報告」(乙A6)において,心筋梗塞については,原爆被爆者を対象とした疫学調査のみならず,動物実験を含む多くの研究結果により,一定以上 の放射線量との関連があるとの知見が集積してきており,認定疾病に追加する方向でしきい値の設定等の検討を行う必要があるとしており,これを受け,平成20年3月17日付けで定められた新審査の方針は,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」を積極認定対象疾病とした(乙A1)。さらに平成25年12月16日付けで再改定さ れた新審査の方針は,一定の被爆者につき,格段に反対すべき事由がない限り,心筋梗塞と放射線被曝との関係を積極的に認定すべきものとしている(乙A22)。 以上を考慮すると,心筋梗塞と放射線被曝との関連性については,これを一般的に肯定することができる。 なお,被控訴人は,LSS及びAHSにおいて放射線被曝との関連性が示唆されているのは,あくまで心疾患又は循環器疾患のリスクにとどまっており,心筋梗塞という疾病分類についての関連性を肯定するものではない旨を主張する。確かに,LSSは,いずれも死亡診断書に基づき心疾患又は循環器系疾患と分類された死因につ いてリスク推定を行っており,より狭いカテゴリである心筋梗塞に ついてリスク評価を行っているものではないが,心疾患のカテゴリに含まれる疾患のうち心筋梗塞だけが他と傾向を異にすることを認めるに足りる証拠はない(AHS第8報は,40歳未満で被爆した人の心筋梗塞について報告している。)。同様に,被控訴人は,清水論文も,心疾患について放射線被曝との関連性を指摘したもので, 心筋梗塞に限った場 証拠はない(AHS第8報は,40歳未満で被爆した人の心筋梗塞について報告している。)。同様に,被控訴人は,清水論文も,心疾患について放射線被曝との関連性を指摘したもので, 心筋梗塞に限った場合,1グレイ当たりの過剰相対リスクは0であるなどと分析していると指摘するが,高血圧性心疾患に分類されているもののうち相当数が虚血性心疾患又は心筋梗塞である可能性がある上,心不全のカテゴリには相当数の虚血性心疾患又は心筋梗塞が含まれていると考えるのが自然であり(甲B13〔96頁〕),心 疾患のうち虚血性心疾患及び心筋梗塞については放射線被曝との間に関連性がないとみることは相当ではないというべきである。 ⒝ 関連性の程度上記各知見からすると,高線量の被曝ほど関連性を肯定する方向で考えるべきであり, 中~低線量被曝の場合,0.5グレイが一応の有力な目安であることは否定することができない。この点につき,放射線被曝と心筋梗塞発症との関係についてのD1医師ほかの補充意見書(甲B46)及びD3医師の意見書(甲B58)が各引用するJ.H.Hendry「しきい値線量と循環器疾患リスク」(甲B47の3の1・2) は,Littleら「低線量電離放射線被曝による循環器疾患の系統的レビュー及びメタ解析並びに潜在的な人口死亡率の推計」を引用し,0.5グレイ未満又は1日10ミリグレイ未満の被曝後にいくつかの種類の循環器疾患のリスクが陽性となる可能性について言及する(乙B269の1・2)。しかし,上記引用に係る論文には, 解析対象としたピアレビュー(査読)文献の選択に偏りがあること, 原爆被爆者のほか放射線と循環器疾患の罹患又は死亡に関わる7集団が対象とされているところ,うち少数集団である旧ソビエト社会主義共和国連邦のマ ー(査読)文献の選択に偏りがあること, 原爆被爆者のほか放射線と循環器疾患の罹患又は死亡に関わる7集団が対象とされているところ,うち少数集団である旧ソビエト社会主義共和国連邦のマヤック核技術施設(乙B58〔文献2・371頁〕)における作業者の研究が過剰相対リスク推定値を高めていること等の複数の疑義が呈されている(乙B270)。ICRPの知見と して採用されたとも認められないのであり,その信用性は懐疑的に評価せざるを得ない。また,控訴人らが指摘するとおり,ICRP2012年勧告は,清水論文を引用して,心疾患全体に対する過剰相対リスクにつき,0~1グレイの線量反応関係が有意であったとする部分があるが,その直前の部分で「0~0.5グレイに限定す ると線量反応関係は有意ではなかった」としているのであり(甲B47の5の1・2),心疾患の放射線リスクが0.5グレイ以下の線量域においても有意であるとの国際的認識が確立しているということはできない。他方で,上記3原爆被爆者が内部被曝を含めた複合的な被曝を受けたことをも考慮すると,0. 5グレイを僅かでも下回った場合に一律に関連性を否定すべきと考えることもまた相当性を欠くというべきであって(なお,清水論文は,しきい値線量の最良の予想は0グレイであるとしている。),この点は,上記2説示のとおり,他の原因(危険因子)も併せた総合考慮において判断するのが相当である。 b 狭心症の各知見が存在するところ,心筋梗塞について,上記aのとおり,放射線被曝との関連性を一般的に肯定することができる。 そして,前提事実のとおり,狭心症と心筋梗塞との違いは心筋虚血が一過性か,心筋壊死を伴うかにより分類されるところ,その 原因が基本的に冠動脈の動脈硬化による 一般的に肯定することができる。 そして,前提事実のとおり,狭心症と心筋梗塞との違いは心筋虚血が一過性か,心筋壊死を伴うかにより分類されるところ,その 原因が基本的に冠動脈の動脈硬化によることも共通している。この点 からすると,狭心症を心筋梗塞と殊更に区別すべき合理的な理由は見当たらないというべきであり,狭心症についても,一般的に,心筋梗塞と同程度の関連性を認めることができる。 脳梗塞,脳出血ア一般的知見 前提事実のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,脳梗塞,脳出血に関し,以下の一般的知見が存在することが認められる。 疫学脳卒中(脳血管疾患)は,生活習慣病の一つであり,国民の死因の上位(平成22年度全死亡の10.3%,平成23年度全死亡の9.9%) を占めている(乙B190)。 脳梗塞,脳出血ともに,患者は40歳代から増加し,70歳代と80歳代でピークとなる(乙B191)。 危険因子a 高血圧 高血圧は脳梗塞,脳出血に共通の最大の危険因子である。血圧値と脳卒中発症率は直線的な正の相関関係にあり,血圧が高いほど脳卒中の発症率は高くなる。脳卒中治療ガイドライン2009は,収縮期血圧160mmHg以上の患者の脳梗塞の発症リスクが3.46倍,拡張期血圧が95mmHg以上では3.18倍であったなどとする(乙 C15の27)。脳卒中治療ガイドライン2015は,3~5年の5~6mmHgの拡張期血圧の下降により脳卒中の発症率が42%減少したなどとして,血圧を収縮期血圧140mmHg未満,拡張期血圧90mmHg未満(糖尿病の合併がある場合はそれぞれ130mmHg未満,80mmHg未満)に降圧することを強く推奨している。(乙B 178〔 て,血圧を収縮期血圧140mmHg未満,拡張期血圧90mmHg未満(糖尿病の合併がある場合はそれぞれ130mmHg未満,80mmHg未満)に降圧することを強く推奨している。(乙B 178〔資料13〕,192,193) b 喫煙喫煙も,脳梗塞,脳出血の危険因子である。脳卒中治療ガイドライン2015は,男性において1日20本以上の喫煙が脳梗塞の危険因子であるとする報告や,ラクナ梗塞又はアテローム血栓性脳梗塞の危険因子であるとの報告があるとしている。また,同ガイドラインは, 40~59歳の男性喫煙者において,脳卒中発症の相対危険度につき,全脳卒中1.27(95%信頼区間1.05~1.54),脳梗塞1. 66(同1.25~2.20),脳出血0.72(同0.49~1.07)であったとし,喫煙本数の増加とともに脳卒中の発症が増える関係があるとする(乙B192)。NIPPONDATE80も,1日2 箱以上の男性喫煙者において,脳卒中の相対危険度は2.2倍であったとする(甲B23,乙B83,178〔資料5〕)。祖父江友孝は,喫煙と脳卒中死亡のハザード比は,男性で1.3(95%信頼区間1. 1~1.4)であり,喫煙開始年齢が若いほどリスクが高いとした(甲B25)。 c 脂質異常症脂質異常症は,脳梗塞の危険因子である。脳卒中治療ガイドライン2015においては,LDLコレステロールが1mmol/L(38. 6mg/dℓ)低下すると脳卒中の発症が14~17%低下したとする。 また,動脈硬化との関連が強いアテローム血栓性脳梗塞につき血清総 コレステロールと脳梗塞発症リスクが相関し,血清総コレステロール値が高い場合に虚血性脳卒中の発症リスクが高まる傾向にあるものの,有意ではなく,血圧と比較 いアテローム血栓性脳梗塞につき血清総 コレステロールと脳梗塞発症リスクが相関し,血清総コレステロール値が高い場合に虚血性脳卒中の発症リスクが高まる傾向にあるものの,有意ではなく,血圧と比較すると重要性は低いとする(乙B192)。 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版は,冠動脈疾患より弱い関連であるものの,高トリグリセライド血症は脳梗塞のリスクであ るとする報告が多いとし,150㎎/dℓを高トリグリセライド血症の スクリーニング基準とする(乙B194)。 d 慢性腎臓病(CKD)CKDは,腎臓に何らかの異常所見が見いだされるか,又は糸球体濾過量(GFR。日常診療では,血清クレアチニン〔Cr〕と年齢,性別に基づき,GFR推算式により計算されるeGFR〔推定GFR〕 が用いられる。乙B195)が60mℓ/分/1.73㎡未満の腎機能低下が3か月以上持続するものと定義される。高血圧はCKDの発症リスクを上昇させる。 CKDは,脳卒中の危険因子である。脳卒中治療ガイドライン2015は,疫学研究において,CKDの女性の脳卒中のリスクは1.8 5倍又は1.51倍であったなどとし,女性では特に脳梗塞の有意なリスク因子であるとする。(乙B192,195,261)e 危険因子の重積循環器疾患の危険因子が重積すると,脳卒中の死亡危険度も高くなる。NIPPONDATE80は,高血圧等の危険因子が3,4個重 積すると,脳卒中は同因子がない人に比べて5倍高くなるとする(甲B23,乙B83,178〔資料5〕)。 イ脳梗塞,脳出血と放射線被曝との関連性関連性に関する知見掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,脳梗塞,脳出血と放射線被 曝との関連性につき,以下の知見が存 3,178〔資料5〕)。 イ脳梗塞,脳出血と放射線被曝との関連性関連性に関する知見掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,脳梗塞,脳出血と放射線被 曝との関連性につき,以下の知見が存在することが認められる。 aLSS第11報第3部(改訂被曝線量(DS86)に基づく癌以外の死因による死亡率,1950-85年)(甲B1の29,14,乙B216〔文献1〕) 昭和25年から昭和60年までの循環器疾患(脳卒中,心疾患) による死亡例1万1164名(推定線量はDS86による。)について,脳卒中の死亡例6202名では,死亡率と被曝線量との有意な関連は示されなかった。しかし,昭和41年から昭和60年までの後期において,被爆時年齢が低い群(40歳未満)では,循環器疾患全体の死亡率及び脳卒中の死亡率は,いずれも被曝線 量と有意な関係(線量反応曲線は純粋な二次又はしきい値線量を1.5グレイと仮定した場合の線形―しきい値型)を示した。 ⒝ 第12報第2部(がん以外の死亡率:1950-1990年)(甲B1の18,15,乙B216〔文献1〕)脳卒中(死亡数7859名)の1シーベルト当たりの推定過剰 相対リスク(推定線量はDS86による。)は0.09(P値〔片側検定〕=0.02,90%信頼区間0.02~0.17)であり,そのうち脳出血(死亡数3687名)の同推定過剰相対リスクは0.03(90%信頼区間-0.06~0.14),脳梗塞(死亡数1611名)の同推定過剰相対リスクは0.07(90%信 頼区間-0.09~0.25)であった。 と同じく,がん以外の複数の疾患について,低線量域(例えば0.5シーベルト)における関連性の程度は不明であるが,放射線被曝の影響はもはや最も高い線量域に限られない 0.09~0.25)であった。 と同じく,がん以外の複数の疾患について,低線量域(例えば0.5シーベルト)における関連性の程度は不明であるが,放射線被曝の影響はもはや最も高い線量域に限られない。調査期間の初期にみられた健康な被爆者 の存在の影響によるU字型線量反応が時間の経過により線形反応に移行している。脳卒中・心疾患の過剰リスクは,心臓血管疾患共通の放射線影響を反映している可能性があり,このような影響に関する機序が解明されていないからといって,機序が存在しないという意味ではないと考えられるなどとされた。 ⒞ 第13報(固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率:19 50-1997年)(甲B1の19,7の11,16,乙B216〔文献1〕)昭和43年から平成9年までの脳卒中による死亡例3954名について,有意な過剰リスクが認められ,1シーベルト当たりの推定過剰相対リスク(推定線量はDS86による。)は0.12(P 値=0.01,90%信頼区間0.02~0.22)であった。 調査結果を踏まえ,統計的に,原爆被爆者において脳卒中を含むがん以外の複数の疾患の死亡率が,1シーベルト以下の線量域を含め,線量の上昇とともに増加していることを示す強力な統計的証拠がある,低線量における線量反 応の形状については著しい不確実性があり,特に約0.5シーベルト以下ではリスクの存在を示す直接的証拠はほとんどないが,調査結果はこの線量範囲でも線形性に矛盾しないことから,脳卒中を含むいくつかの疾患に放射線の影響が存在する可能性が示唆されるなどとした。 ⒟ 第14報(1950-2003年:がんおよびがん以外の疾患の概要)(甲B49の1・2,乙B186の1~3) bAHS第8報(原爆被爆 する可能性が示唆されるなどとした。 ⒟ 第14報(1950-2003年:がんおよびがん以外の疾患の概要)(甲B49の1・2,乙B186の1~3) bAHS第8報(原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,1958-1998年)(甲B1の31,4〔文献12〕,7の16,11 の40,乙B183,216〔文献3〕,C12の18)昭和33年から平成10年までの,くも膜下出血,脳内出血,脳実質外動脈の狭塞(症)及び狭窄(症),脳動脈の狭塞(症)の脳血管疾患(国際疾病分類〔ICD〕コードによる。AHS第8報6頁の表3中の「脳卒中Ⅰ」)の症例数531例について,1シーベルト当たりの 相対リスク(推定線量はDS86による。)は1.05(P値=0.5 2,95%信頼区間0.90~1.25)であった。急性の診断名不明確の脳血管疾患を加えた場合(上記表中の「脳卒中Ⅱ」)の症例数729例についても,同様に相対リスクは1.06(P値=0.43,95%信頼区間0.92~1.23)であり,いずれも放射線量との有意な関係は認められなかった。なお,上記各相対リスクは飲酒及び 喫煙の影響を考慮しない場合であるが,考慮した場合の結果も同様であった。 c 高橋郁乃(放影研)ほか「広島・長崎の原爆被爆者の致死的・非致死的脳卒中と放射線被曝の関連についての前向き追跡研究(1980-2003年)」(甲B42,乙B184の1・2,185)(清水論文 と同様,BMJに掲載された。)AHS集団の被爆者9515名(男性34.8%)を対象として,放射線被曝(推定線量はDS02による。)と脳卒中発生との関連につき,昭和55年から24年間追跡調査を行った。症例数235名の出血性脳卒中,607名の虚血性脳卒中(脳梗 性34.8%)を対象として,放射線被曝(推定線量はDS02による。)と脳卒中発生との関連につき,昭和55年から24年間追跡調査を行った。症例数235名の出血性脳卒中,607名の虚血性脳卒中(脳梗塞)が確認された。放射 線量と出血性脳卒中との関連(年齢,血圧及び喫煙等の危険因子を調整した後のもの)について,男性では被曝線量が0.05グレイ未満群から2グレイ以上群に上昇するに伴い,直線的な線量反応関係で増加し(1万人中年11.6人から同29.1人に増加,P値=0.009),1グレイ未満群においてもしきい値のない発生率の増加が認め られた(P値=0.004)。女性は,1.3グレイ以上では,被曝線量の増加に伴いリスクは増加したが(1.3~2.2グレイ群で1万人中年20.3人,2.2グレイ以上群で同48.6人。P値=0. 002),1.3グレイ未満ではリスクの増加は認められないとされた(95%信頼区間0.5~2.3)。 放射線量と虚血性脳卒中のリスクには関連が認められなかった。 調査結果を踏まえ,放射線被曝線量の増加に伴い,男女ともに出血性脳卒中のリスクが増加したが,女性におけるその影響はしきい値1. 3グレイ未満では明らかでないと総括した。 d 清水論文LSS集団の8万6611名()のうち,昭和2 5年から平成15年までの間に,9622名が脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,その他)で死亡した。1グレイ当たりの過剰相対リスクについて,脳梗塞(死亡数2659名)は0.04(P値>0.5,95%信頼区間-0.1~0.2),脳出血(死亡数4060名)は0.05(P値=0.36,95%信頼区間-0.0 6~0.17),くも膜下出血(死亡数461名)は0.3(P値=0.09, 5,95%信頼区間-0.1~0.2),脳出血(死亡数4060名)は0.05(P値=0.36,95%信頼区間-0.0 6~0.17),くも膜下出血(死亡数461名)は0.3(P値=0.09,95%信頼区間-0.04~0.76),その他(死亡数2442名)は0.16(P値=0.04,95%信頼区間0.01~0.34)であり,脳卒中全体では0.09(P値=0.02,95%信頼区間0.01~0.17)であった。 被曝線量との関係について,線量範囲のより低い部分に対しては明白なリスクが示されなかった。過剰リスクが生じない低線量領域に無視できないしきい値が存在するかもしれず,しきい値線量の95%信頼区間の上限は2グレイであり,最良の推定は0.5グレイであったが,しきい線量が存在しない可能性もある。被爆時年齢6 0歳未満の被爆者は同60歳以上の被爆者に対して1グレイ当たりの過剰相対リスクが高率ではあったが,被爆時年齢と過剰相対リスクとの間には統計学的な有意差はなかった。 調査結果を踏まえ,心疾患と同様に,中等度の線量(主に0.5~2グレイ)において脳卒中リスクを上昇させるかもしれないこと についての最も強力な証拠となったが,0~0.5グレイの線量で は統計学的に有意でなく同リスクの上昇との関連は不明確であり,長期間のフォローアップが必要であるとした。 ⒝ 心疾患と同様に,喫煙,飲酒,教育,職業,肥満及び糖尿病の交絡因子を調整しても,脳卒中の放射線リスク評価に対して重要な変化がもたらされなかったとした。 ⒞ BMJは,清水論文を,0.5グレイ以下では統計的に有意ではなかったが,主に0.5~2グレイの中線量被曝で心疾患とともに脳卒中が増加する可能性が示唆され,この関係は,生活スタイル,人口統計 ⒞ BMJは,清水論文を,0.5グレイ以下では統計的に有意ではなかったが,主に0.5~2グレイの中線量被曝で心疾患とともに脳卒中が増加する可能性が示唆され,この関係は,生活スタイル,人口統計学その他の健康因子,誤診等の交絡因子を考慮しても,論理的に強固であることを明らかにしたものであると紹介した(甲B 46)。 eUNSCEAR及びICRPにおける各国際的知見 のとおり(ただし,心疾患を含む循環器疾患に関するものである。)。 判断 脳梗塞,脳出血については,を肯定する疫学的知見が存在しているということができる。心筋梗塞との間でその機序及び危険因子を共通にする部分があることも併せ考慮すると,脳梗塞,脳出血と放射線被曝との間に一般的な関連性があることが認められる。ただし,脳梗塞,脳出血は新審査の方針において積極認 定対象疾病であるとはされておらず,その発生部位が心筋梗塞と異なり,上記の疫学的知見における相対リスクの大きさの相違等も勘案すると,心筋梗塞と同程度の関連性まで認めることはできない。 高血圧ア一般的知見 前提事実のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,高血圧に 関し,以下の一般的知見が存在することが認められる。 疫学高血圧は,日本における有病者が,治療を受けていない者まで含めれば約4300万人いると言われるほど患者数の多い疾病である。年齢層が上がるほど増加傾向にある。平成18年国民健康・栄養調査の結果に よると,男性は50代(約59.2%),女性は60代(約57.6%)で高血圧の有病者が50%を超え,70歳以上になると,男性では約71.4%,女性では約73.1%が高血圧であった(乙B98)。その後の調査でも同 50代(約59.2%),女性は60代(約57.6%)で高血圧の有病者が50%を超え,70歳以上になると,男性では約71.4%,女性では約73.1%が高血圧であった(乙B98)。その後の調査でも同様の傾向である。(乙B193) 分類 高血圧治療ガイドライン2009(乙C4の12,第2事件乙B109)において,成人における血圧値の分類(単位はmmHg)は以下のとおりとされている。 a 正常域血圧(収縮期,拡張期)至適血圧 <120かつ<80 正常血圧 <130かつ<85正常高値血圧 130~139又は85~89b 高血圧(収縮期,拡張期)Ⅰ度高血圧(軽症) 140~159又は90~99Ⅱ度高血圧(中等症) 160~179又は100~109 Ⅲ度高血圧(重症) ≧180又は≧110原発性アルドステロン症原発性アルドステロン症は,副腎の腫瘍や過形成等によりアルドステロンが過剰に分泌されることによる疾患であるところ,その作用により高血圧を生じさせるほか,アルドステロン自体が脳出血,脳梗塞及び腎 不全等を促すホルモンであり,脳心血管疾患を起こしやすい病気である とされ,本態性高血圧の患者群と比較して,脳卒中の発症率が4.2倍であるなどの報告がある(乙C15の23)。上記腫瘍及び過形成の成因は不明である。 原発性アルドステロン症による高血圧は,変動が比較的少なく,治療抵抗性高血圧である。また,食塩感受性高血圧(食塩摂取により血圧上 昇を来し,減塩により血圧が低下する。)の代表疾患である。 血圧のコントロールとともに,片側副腎腫瘍に対する副腎摘出などの外科的処置又は薬物療法により,脳心血管疾患の合併を防ぐ必要がある。 (乙B180,C15 り血圧が低下する。)の代表疾患である。 血圧のコントロールとともに,片側副腎腫瘍に対する副腎摘出などの外科的処置又は薬物療法により,脳心血管疾患の合併を防ぐ必要がある。 (乙B180,C15の21~24)イ放射線被曝との関連性 関連性に関する知見掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,高血圧と放射線被曝との関連性につき,以下の知見が存在することが認められる。ただし,いずれも,本態性高血圧と二次性高血圧を区別して検討された知見ではない。 a 佐々木論文 b 赤星報告佐々木論文を引用し,血圧に及ぼす放射線被曝の影響について,昭和5年以降に生まれた若年被爆者において,加齢に伴う収縮期血圧及び拡張期血圧の経過が上方に偏位していることから,特に若年被爆者 において高血圧と診断される人の割合が高くなっていることが推測されると報告した。 cAHS第8報(原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,1958-1998年)(甲B1の31,4〔文献12〕,7の16,11の40,乙B183,216〔文献3〕,C12の18) 高血圧に対する放射線影響(推定線量はDS86による。)は線形の 線量反応モデルでは明瞭ではなかったが(P値=0.15),理論的な二次モデルでは有意であった(1シーベルト当たりの相対リスク1. 03,P値=0.028,95%信頼区間1~1.06)。高血圧発症率が特に2シーベルト以上の被爆者において放射線量に伴い上昇したとした。 喫煙・非喫煙の別では,非喫煙被爆者において高血圧のリスク上昇(1シーベルト当たりの相対リスク1.04,P値=0.07)が考えられる根拠があったが,喫煙被爆者ではその根拠は存在しなかった(1シーベルト当たりの相 別では,非喫煙被爆者において高血圧のリスク上昇(1シーベルト当たりの相対リスク1.04,P値=0.07)が考えられる根拠があったが,喫煙被爆者ではその根拠は存在しなかった(1シーベルト当たりの相対リスク1)。 判断 ,高血圧については,若年被爆者につき一定の線量以上の放射線被曝との関連性が存在することを示唆する各疫学的知見があるということができる。しかし,1グレイ未満の被曝にとどまる場合の疫学的知見は明らかでない上,上記各知見によっても,血圧上昇の程度に対する放射線被曝の影響は限定的であること,喫煙被爆者においては さらに関連性が低い可能性があることを考慮する必要があるというべきである。 この点に関し,C11医師は,血圧上昇の程度の些少性が問題ではなく,対象被爆者全員に長期間にわたって血圧上昇が認められたことが重大である旨の意見を述べるが(甲A3〔309頁〕),関連性の有無とそ の程度は別個の問題である上,高血圧の場合,上昇の程度とこれが危険因子となる疾病の発症リスクには強い量依存関係があるのであるから(い。上記意見は採用することができない(C11医師は,脂質についても同旨の意見を述べるが,同様である。)。また,D3医師は,国民の健 康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針(平成24年7月1 0日号外厚生労働省告示第430号。いわゆる健康日本21〔第2次〕)において,収縮期血圧0.12mmHgの低下でも統計的に大きな意味があることが示されているとの意見を述べるが(甲B62),健康日本21(第2次)の目標設定の考え方で示されているのは,高血圧につき収縮期血圧4mmHg低下,脂質異常症につき高コレステロール血症者の 割合25%減少,40歳以上の禁煙希望者において全て禁煙及び 1(第2次)の目標設定の考え方で示されているのは,高血圧につき収縮期血圧4mmHg低下,脂質異常症につき高コレステロール血症者の 割合25%減少,40歳以上の禁煙希望者において全て禁煙及び糖尿病有病率の増加抑制の4つの危険因子に係る目標が達成された場合に,虚血性心疾患(男性13.7%,女性10,4%)及び脳血管疾患(男性15.7%,女性8.3%)が減少するというもので(甲B71),収縮期血圧0.12mmHgの低下のみをもって大きな意味があることが示 されているとはいえない。上記意見も採用することができない。 脂質異常症(高脂血症)脂質異常症と放射線被曝との関連性について,Wong論文が存在し,赤星報告は,同論文を引用して,加齢に伴うコレステロール経過は全ての被爆時年齢において,被爆者では上方に偏在している とした。 これらによると,脂質異常症についても,一定の線量以上の放射線被曝との関連性が存在することを示唆する疫学的知見があるということができる。 しかし,2グレイ未満の被曝にとどまる場合の疫学的知見は明らかでない上,上記知見によっても,血清総コレステロール上昇の程度に対する放射線の影 響が限定的であることを考慮する必要があるというべきである。 白内障ア加齢性白内障に関する一般的知見前提事実のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,加齢性白内障に関し,以下の一般的知見が存在することが認められる。 加齢と有所見率 加齢性白内障の初発年齢には個人差があるものの,水晶体混濁の有所見率は,加齢に伴い増加し,一般に50歳以上からみられるとされる。 科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究(平成14年3月)は,初期混濁 のの,水晶体混濁の有所見率は,加齢に伴い増加し,一般に50歳以上からみられるとされる。 科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究(平成14年3月)は,初期混濁を含めた有所見率につき,50歳代で37~54%,60歳代で66~83%,70歳代で8 4~97%,80歳以上で100%であったと報告した(乙B67〔7頁〕,C5の1,7の14)。近時の所見として,標準眼科学(平成22年3月15日第11版発行)は,初期白内障例は40歳代で約30%であるが80歳代では100%であり,進行例はそれぞれ1%,60%であるとする(乙B71〔70頁〕,C13の14〔70頁〕)。 混濁部位加齢性白内障にあっては,皮質,核,後嚢下混濁の3主病型のうち,皮質混濁及び核混濁の有所見率が高い。後嚢下白内障は,上記2病型と比べると有所見率は低いが,ステロイド白内障,糖尿病白内障等において多くみられるほか,加齢性白内障でもよく見られる。前嚢下混濁は, 副病型ではあるが,加齢性白内障にしばしば見られる。 (乙B71〔70,74頁〕,204〔250,254頁〕,C13の14〔70,74頁〕)原因水晶体を構成する蛋白の加齢変性による混濁が原因であるが,変性の機序については不明な点も多い。 細胞内のアミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝障害の結果生じたキノン体(キノイド物質)が,水晶体を構成する水溶性蛋白の一つであるαクリスタリンに結合し,これを変性させ,不溶性蛋白に移行させることで,混濁が生じるというキノイド説があったが(乙B208,210,211,213,C5の17・18,6の2),近時では,水溶性 及び不溶性蛋白の総量変化,増殖帯における上皮細胞異常,遺伝,水及 び電 ノイド説があったが(乙B208,210,211,213,C5の17・18,6の2),近時では,水溶性 及び不溶性蛋白の総量変化,増殖帯における上皮細胞異常,遺伝,水及 び電解質バランスの崩壊,抗酸化物質の減少による酸化障害等の多因子が複合することにより発症するとされる(乙B71〔70頁〕,C13の14〔70頁〕,204〔238頁〕,C5の19〔213頁〕)。 治療等治療法は,薬物療法と手術療法に分けられる。 薬物療法は,水晶体の代謝改善,変性抑制を目的として行われるもので,混濁を改善させる効果はなく,進行を遅延させるのみとされる(乙B71〔71頁〕,203,204〔251頁〕,C13の13・14〔71頁〕)。カリーユニ点眼液(一般名ピレノキシン)は,添付文書上の効能・効果は初期加齢性白内障と記載されている。その薬効は,加齢性白 内障の発生機序につきキノイド説を前提に,キノン体よりも水晶体の水溶性蛋白と親和性の強いカリーユニを投与することで,キノン体が水晶体の水溶性蛋白に結合するのを阻害して水晶体蛋白の変性を防止するというものである。(乙B208,210,213,C5の17・18,6の2) 視力を改善させるには,手術療法を要する。方法は,疾患,基礎疾患及び症例の背景等を考慮して慎重に決定される。第一選択とされる術式は,水晶体超音波乳化吸引術及び眼内レンズ挿入術であり,超音波で混濁した水晶体核を乳化,破砕し,水晶体を除去した上,前嚢・水晶体嚢内に人工の眼内レンズを挿入する(乙B203,206〔224頁〕,C5の1 9〔217頁〕,13の12〔224頁〕・14〔76頁〕)。手術に要する時間は約10~30分であり,日帰り手術がごく一般的である(乙C13の13,第5事件乙B5)。 224頁〕,C5の1 9〔217頁〕,13の12〔224頁〕・14〔76頁〕)。手術に要する時間は約10~30分であり,日帰り手術がごく一般的である(乙C13の13,第5事件乙B5)。 加齢性白内障に限らず,白内障の手術適応時期について,一般的に,矯正視力が0.5以下(新聞が読みにくくなる視力)で日常生活に不便を感 じていれば手術適応となるといわれるが(甲B28,乙B204〔252 頁〕),視力の必要度が患者の社会生活により異なり,混濁の程度と視力が一致しないことがあるため,視力検査の数値及び混濁の程度のみにより一概に手術適応の時期を決めることはできない(乙B203)。標準眼科学(平成22年3月15日第11版発行)は,急速に白内障が進行する外傷性白内障等を除いては,視力低下の状態及び患者が必要とする視力の 程度によって決めればよいとする(乙B71〔75頁〕,C13の14〔75頁〕)。 イ放射線白内障に関する一般的知見(原爆白内障に関する知見を含む。) 放射線白内障掲記の証拠によると,放射線白内障に関し,以下の一般的知見が存在 することが認められる。 a 定義・特徴放射線被曝により生じる白内障である。水晶体は,上皮細胞において生涯を通じて細胞分裂が生じるが,放射線による影響を受けやすいのは細胞分裂が盛んな部位であるため,人体の中で最も放射線感受性 が高い組織の一つである(甲B3の4,27の1・2,29,乙B68〔150頁〕,206,第2事件甲B40)。 放射線白内障には,以下のような特徴があるとされている。 電離放射線の種類に関係なく,どの放射線でも,水晶体に同じような形態学的変化が起こる。 ⒝ 水晶体に同じ吸収線量が照射されたときには,放射線の種類によ 下のような特徴があるとされている。 電離放射線の種類に関係なく,どの放射線でも,水晶体に同じような形態学的変化が起こる。 ⒝ 水晶体に同じ吸収線量が照射されたときには,放射線の種類によって障害の程度に強弱がある。 ⒞ 照射された線量が大きいほど,白内障発生までの潜伏期は短く,白内障の程度は強い。 ⒟ 幼若な個体ほど変化が強いが,放射線に対する感受性には個体差 もある。 混濁は水晶体の後極部で後嚢下に初発する。斑点状又は円板状混濁を形成し,一部は拡大してドーナツ形となる。これを細隙灯顕微鏡で見ると,混濁の表面は顆粒状で,多色性反射(色閃光)が見られることがある。混濁は後嚢下とその少し前方に位置するものに分かれ,二枚貝様の混濁を形成する。 このような初期にみられる所見は放射線白内障に特徴的なものであるが,加齢性白内障でも後嚢下から混濁が始まるものもあるから,鑑別が必要である。 ⒡ 放射線白内障は,加齢性白内障と異なり,多くは進展しない(停在性)。(乙B66,68〔156頁〕) ⒢ 放射線白内障の治療は,加齢性白内障と同様,手術以外にはない(証人D1〔第1回・51頁〕,弁論の全趣旨)。 b 発生機序放射線白内障の発生について,分裂を起こしやすい水晶体前嚢下の上皮細胞は,正常に分裂して成熟すれば,核を失って後極に移動し透 明な水晶体線維を形成するところ,水晶体に放射線が当たって細胞増殖帯で細胞が障害されると,変性した細胞が膨化し,核を持ったまま後嚢の内側を正常な細胞よりもゆっくりと後極に移動して,後極部の後嚢下に変性した細胞が集まり,水晶体混濁を形成するという機序で説明されていた(乙B66,68〔151頁〕)。 しかし,最 嚢の内側を正常な細胞よりもゆっくりと後極に移動して,後極部の後嚢下に変性した細胞が集まり,水晶体混濁を形成するという機序で説明されていた(乙B66,68〔151頁〕)。 しかし,最近では,放射線白内障で水晶体混濁が発生する原因は,上皮細胞のゲノムの遺伝子の変異によって生じた水晶体の線維蛋白の異常にあるとされている(甲B3の10〔13頁〕)。すなわち,放射線被曝により生じた遺伝子の損傷や誤修復により,細胞の分裂・分化に異常が生じ,その結果,透明度を失い混濁・白濁した水晶体線維細 胞が後嚢下に移行して一定の数以上に集積した結果であると考えられ ている(乙B213)。 c しきい値ICRP勧告は,放射線白内障は,確定的影響の疾病であり,しきい値が存在するとする(乙B69)。 原爆白内障 原爆白内障(原爆放射線の後障害としての白内障)の臨床像は,原爆以外の放射線によって生じた白内障と極めて類似しているとされる。 原爆白内障の診断基準として,①後極部後嚢下にあって色閃光を呈する限局性の混濁,又は,後極部後嚢下よりも前方に点状又は塊状混濁があること,②近距離直接被曝歴があること,③併発白内障を起こす可能 性のある眼疾患がないこと,④原爆以外の電離放射線の相当量を受けていないことの4条件を指摘する知見がある。(乙B68〔151頁〕)また,原爆白内障は,通常は,被曝して数か月後から数年後に発症する。被曝線量が高くなるほど発症率も高く,重篤になる傾向があり,発症時期も早くなるが,軽症例の潜伏期は遷延するとされている。治療に つき,混濁が増強して日常生活に支障がある程度まで視力が低下した場合に加齢性白内障と同様の手術を行ったところ,手術後の経過に異常は認めなかったとする報告がある。 遷延するとされている。治療に つき,混濁が増強して日常生活に支障がある程度まで視力が低下した場合に加齢性白内障と同様の手術を行ったところ,手術後の経過に異常は認めなかったとする報告がある。(乙B68〔153,156頁〕)ウ白内障と放射線被曝との関連性 関連性に関する知見 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,白内障と放射線被曝との関連性につき,以下の知見が存在することが認められる。 aAHS 第7報(原爆被爆者における癌以外の疾患の発生率,1958-86年)(甲B1の30,4〔文献9〕,乙C12の17) 昭和33年から昭和61年までのAHS対象者(推定線量はDS 86による。)において,白内障の発生率に放射線の影響があることは示唆されなかった(1グレイ当たりの相対リスク1.05,P値=0.1495,95%信頼区間0.99~1.12)。被爆時年齢が20歳以下の集団において過剰リスクが昭和33年から昭和43年までの最初の10年間のみに見られたが,昭和33年以前に放射 線白内障になった患者を含むことに起因している可能性があるとされ,年齢層の高い集団では過剰リスクは見られなかった。 調査結果を踏まえ,被爆以降の13年間に白内障発生に関する影響が減衰したか消滅したことが示唆され,被爆後長期間が経過して新しい症例が発生するとは思われないなどとされた。 ⒝ 第8報(原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,1958-1998年)(甲B1の31,4〔文献12〕,7の16,11の40,乙B183,216〔文献3〕,C12の18)昭和33年から平成10年まで,白内障の症例数3484例について,有意な正の線形線量反応関係があるとされた。1シーベルト 当たりの 11の40,乙B183,216〔文献3〕,C12の18)昭和33年から平成10年まで,白内障の症例数3484例について,有意な正の線形線量反応関係があるとされた。1シーベルト 当たりの相対リスク(推定線量はDS86による。)は1.06(P値=0.026,95%信頼区間1.01~1.11)であった。 放射線のリスクが調査時年齢(P値<0.001)と経過観察期間(ただし,P値=0.09である。)により有意に変動し,直近10年において1シーベルト当たりの相対リスクが1.08に上昇した。 水晶体混濁は60歳以降に急増した。調査時年齢が60歳以下と60歳超の間の線量反応の異質性が検討されたところ,放射線被曝の影響は,若年群において1シーベルト当たりの相対リスクが1.16(P値=0.009,95%信頼区間1.04~1.32)と有意であったが,高齢群では同相対リスクが1.03(P値=0.2 4,95%信頼区間0.98~1.09)と有意でなかった。 調査結果を踏まえ,若年被爆者における水晶体混濁に対する放射線被曝の影響が増加し,長期潜伏期間を伴う相対リスクが上昇しているとし,放射線療法後及び宇宙飛行士における宇宙放射線への被曝後に,遅延性の水晶体変化が検出されたとの近時の研究結果とも一致するとした。 b 津田恭央(長崎大学医学部眼科学教室)ほか「原爆被爆者における眼科調査」(甲B2の4,3の3)(以下「津田報告」という。)AHS対象者のうち被爆時の年齢が13歳未満の者全員及び昭和53年~55年に眼科調査(2回目の調査)を受けた者につき,被曝後55年が経過した平成12年~14年に眼科調査(3回目の調査)が 行われた(なお,1回目の調査は,昭和38年から昭和39年にかけて行われた。)。DS86 2回目の調査)を受けた者につき,被曝後55年が経過した平成12年~14年に眼科調査(3回目の調査)が 行われた(なお,1回目の調査は,昭和38年から昭和39年にかけて行われた。)。DS86により被曝線量が推定されている873名について解析した結果,1シーベルトでの皮質混濁のオッズ比が1.29(95%信頼区間1.12~1.49),後嚢下混濁のオッズ比が1. 41(同1.21~1.64)であり,有意な関連性が認められた。 紫外線,糖尿病,ステロイド治療及び炎症等の中間危険因子を調整した場合でも,オッズ比はそれぞれ1.34(同1.16~1.52),1.36(同1.17~1.58)であり,有意性に変化はなかった(いずれもP値<0.001)。 調査結果を踏まえ,小児期に被曝すると,①かなり遅れて放射線白 内障(後嚢下混濁)が発症することがあること,②皮質混濁(加齢性白内障)が早期に現れることがあることが確認され,原爆被爆者の被曝と水晶体所見の関係において,遅発性の放射線白内障及び早発性の加齢性白内障に有意な相関があると総括した。 c 皆本敦(広島大学医学部眼科学教室)ほか「原爆被爆者における白 内障」(甲B27の1・2)(以下「皆本論文」という。) 上記bのデータにつき,混濁の程度を水晶体混濁分類システム(LOCSⅡ)により等級化して解析した。LOCSⅡは,細隙灯及び徹照法写真を用いて,核,皮質及び嚢下白内障の混濁の程度を分類するものであり,観察者間の同一再現性が確保される(乙207の1・2)。 その結果,1シーベルト当たりのオッズ比は,皮質混濁について1. 29(95%信頼区間1.12~1.49),後嚢下混濁について1. 41(同1.21~1.64)であり,放射線量と皮質及び後嚢下混濁との有意 1シーベルト当たりのオッズ比は,皮質混濁について1. 29(95%信頼区間1.12~1.49),後嚢下混濁について1. 41(同1.21~1.64)であり,放射線量と皮質及び後嚢下混濁との有意な相関が示されたとした。 d中島栄二(放影研)ほか「原爆被爆者における白内障有病率の統計解析,2000-2002」(甲B2の6)(以下「中島報告」と いう。)皆本論文のデータが解析された。皮質混濁及び後嚢下混濁に対する最良のモデルではいずれも線量効果が有意であった。皮質混濁は,都市,性別及び被爆時年齢に関わりなく,1シーベルト当たりのオッズ比が1.28(P値=0.001,95%信頼区間1.11~ 1.48)であった。後嚢下混濁は,被爆時年齢10歳の男女における1シーベルト当たりのオッズ比が1.5(P値<0.001,95%信頼区間1.28~1.76)であり,線量効果が被爆時年齢の上昇とともに減少した(同年齢5歳のオッズ比1.67,同年齢20歳のオッズ比1.22。P値=0.06)。しきい値は,皮質 混濁が0.2シーベルト(95%信頼区間0~1.4シーベルト),後嚢下混濁が0シーベルト(95%信頼区間0~0.8シーベルト)であり,いずれも95%信頼区間の下限が0シーベルトより大きくないため,しきい値が存在するとはいえないとした。 ⒝ 中島栄二ほか「2000-2002年の原爆白内障データの再解 析:閾値解析」(乙B112)(以下「中島論文」という。) 上記cのデータにつき,統計学的に最適のモデルを得るため,DS02を使用してしきい値モデルの適合度を分析した。 皮質白内障において,しきい値線量の点推定値(統計学的に最も確からしい推定値)は0.6シーベルト 学的に最適のモデルを得るため,DS02を使用してしきい値モデルの適合度を分析した。 皮質白内障において,しきい値線量の点推定値(統計学的に最も確からしい推定値)は0.6シーベルト(90%信頼区間<0~1. 2シーベルト)であり,有意な線量効果が認められ(P値=0.0 02),シーベルト当たりのオッズ比は1.3(95%信頼区間1. 1~1.53)であった。後嚢下混濁において線量しきい値の点推定値は0.7シーベルト(90%信頼区間<0~2.8シーベルト)であり,同様に有意な線量効果が認められ(P値<0.001),シーベルト当たりのオッズ比は被爆時年齢10歳で1.44(95% 信頼区間1.19~1.73)であり,線量効果は被爆時年齢の上昇とともに有意に減少した(P値=0.022)。 調査結果を踏まえ,730名の被爆者において皮質白内障と後嚢下混濁のしきい値の90%信頼区間の下限が0シーベルトであり,しきい値が0シーベルトより大きいと結論付けることはできないと された。 国際的な知見この点に関するUNSCEAR及びICRPにおける国際的な知見は,以下のとおりである。 aUNSCEAR(2010年報告書)(乙B142〔17頁〕) 「最近の研究によって白内障の罹患の増加が,低線量放射線被ばくに関連している可能性を示唆していることも記す。目の水晶体におけるそのような異常の誘発は,高線量被ばくの影響として何年にもわたって認識されてきた。循環器疾患と同様に,本委員会はこの分野における新たな知見の監視とレビューを継続するつもりである。」と報告さ れた。 bICRP2007年勧告(乙B69)放射線白内障のしきい値(1%発生率の推定値)は,1.5グレイ 見の監視とレビューを継続するつもりである。」と報告さ れた。 bICRP2007年勧告(乙B69)放射線白内障のしきい値(1%発生率の推定値)は,1.5グレイとしていた。 ⒝ 2012年勧告(乙B141の1・2,143,C20の1・2) 「放射線防護を目的として勧告される急性のしきい線量は,現在の値から0.5シーベルトという値に引き下げられるべきであると,エビデンスの重みを踏まえて判断せざるを得ない。これは,検査で見つかるような混濁が白内障に進行するという性質や,思春期直後に比して子どもの水晶体の放射性感受性がより高い傾向にあるとい う警告に従ったものであって,今後さらなる評価が必要である。」,「いくつかのしきい値計算において,95パーセント信頼区間の下限に0線量を含むものがあるが,ひとつの損傷された祖先となる水晶体上皮細胞が白内障を引き起こしうるとの直接的な証拠はなく,それゆえ,放射線起因性のある水晶体白内障は,今もなお,小さく てもしきい線量のある組織反応(確定的影響)であると考えられている。」として,放射線白内障のしきい値につき,放射線防護の観点を加味して0.5シーベルトに引き下げつつも,なおしきい値が存在するとしている。 なお,皆本論文及び中島論文がレビューの対象とされている。 エ判断 白内障について,上記イ,ウのとおり,放射線被曝との関連性を肯定する知見が集積されている。放射線白内障については,旧審査の方針においても,放射線との関連が明らかな疾病であるとされていたところ(乙A6),平成20年3月17日付け新審査の方針において,加齢性白内障 を除き,積極認定対象疾病であるとされ(乙A1),平成25年12月1 6日 疾病であるとされていたところ(乙A6),平成20年3月17日付け新審査の方針において,加齢性白内障 を除き,積極認定対象疾病であるとされ(乙A1),平成25年12月1 6日付けで改定された新審査の方針においては,放射線白内障(加齢性白内障を除く。)につき,被爆地点が爆心地から約1.5km以内の場合には,格段に反対すべき事由がない限り,放射線被曝との関係を積極的に認定すべきものとされた(乙A22)。また,皮質混濁(加齢性白内障)についても,上記イ,ウのとおり,従前,放射線白内障(原爆白内障) の特徴とされてきた後嚢下混濁とは混濁の部位が異なるもの,放射線被曝がこれを早発させることに関する疫学的知見が複数存在する。そして,発症の時期についても,被爆後数十年経ってからの発症についても関連性があることを明らかにした知見が存在する(昭和33年から昭和61年までを対象としたAHS第7報と,平成10年までを対象とした同第 8報の間で,報告及び考察の内容が全く異なっている。)。 放射線白内障については,しきい値0.5シーベルトの確定的影響とすることが現在における国際的な知見ではある。しかし,同しきい値につき,ICRPの2007年勧告において1.5グレイであったものが,2012年勧告で0.5シーベルトに引き下げられた。 dのと おり,しきい値が存在したとしても0.5シーベルトより小さいか,しきい値が存在しない可能性を示唆させる疫学的知見も存在する。 定することができる。 ここで,放射線被曝と関連性を肯定することのできる白内障は,①混 濁部位につき,放射線白内障の特徴とされてきた後嚢下混濁に限らず,皮質混濁の所見が認められる場合も含まれる。また,②発症時期につき,被爆後数十年が経過してから発症し とのできる白内障は,①混 濁部位につき,放射線白内障の特徴とされてきた後嚢下混濁に限らず,皮質混濁の所見が認められる場合も含まれる。また,②発症時期につき,被爆後数十年が経過してから発症した白内障であっても,放射線被曝との関連性を肯定することができる場合も存在する。そして,③被曝線量との関係につき,しきい値が存在しない可能性を示唆させる疫学的知見 も存在する。上記①~③によると,当該被爆者に生じた白内障につき, 放射線白内障の特徴に一致しないからといって,又は想定される被曝線量が0.5シーベルトに満たないからといって,直ちに放射線被曝との間の関連性を肯定できないとすることは相当でない。当該被爆者に生じた白内障と放射線被曝との関連性については,一方で加齢性白内障が加齢に伴い高頻度で発症することにも鑑みつつ,その具体的症状や推移を 慎重に観察し,放射線白内障の特徴と合致するか,被曝が原因の早発の加齢性白内障として矛盾しないか等を検討して判断する必要があるというべきである。 オ被控訴人の主張について被控訴人は,白内障の放射線影響が確定的影響で,そのしきい線量が 0.5シーベルトであることは国際的知見である旨を主張する。 しかし,ICRPにおいても,しきい値が2007年勧告では1.5グレイとしていたところ,2012年勧告において,子どもの水晶体の放射性感受性が高いことなどを考慮して0.5シーベルトに引き下げ,今後さらなる評価が必要であるとしており,被控訴人 の指摘する国際的知見が確定したものとまではいえない。UNSCEARの2010年報告においても,最近の研究によって白内障の罹患の増加が,低線量放射線被曝に関連している可能性を示唆しているとしており,低線量被曝と白内障の関連性を否定 とまではいえない。UNSCEARの2010年報告においても,最近の研究によって白内障の罹患の増加が,低線量放射線被曝に関連している可能性を示唆しているとしており,低線量被曝と白内障の関連性を否定していない。 被控訴人は,津田報告,皆本論文及び中島論文は,低線量被曝との関 連性につき,ICRP等の国際的知見を上回る科学的知見であるとはいえないなどと主張する。 しかし,被控訴人の指摘する国際的知見が確定したものとまでいえな皆本論文及び中島論文は,いずれもICRP2012年勧告においてレビューの対象とされたほか(上 ,厚生労働省の委託調査研究としてされた業務上疾病に関す る医学的知見の収集に係る調査研究の報告書において,いずれも「国際的な活動として取り組まれ信頼性の高い文献」として扱われているのであり(甲B30),科学的知見として考慮に値する論文であるということができる。そして,津田報告及び中島報告も,中島論文等と同様の調査データを対象として分析したものであり,同調査は科学的に問題のない 方法等でされたものと推認することができる。そうすると,これらの論文及び報告は,いずれも科学的知見として考慮することができるというべきである。 なお,被控訴人は,津田報告につき,調査対象疾病の定義付けが曖昧で,「遅発性」,「早発性」の内容も明らかでない上,そもそも同報告が用 いた解析方法であるロジスティック回帰分析モデルによれば発症までの時間は考慮されないから,加齢性白内障の「早発」又は放射線白内障の「遅発」の結論を導き出すことはできない旨を主張する。しかし,津田報告は,被爆後数十年が経過した時点において,被爆者に生じた皮質混濁又は後嚢下混濁につき,それぞれのオッズ比により放射線被曝と有意 な関係があ 導き出すことはできない旨を主張する。しかし,津田報告は,被爆後数十年が経過した時点において,被爆者に生じた皮質混濁又は後嚢下混濁につき,それぞれのオッズ比により放射線被曝と有意 な関係があることを示したものであり,そのこと自体は明確な内容になっている。津田報告は,これらの内容を示した知見の限度で不適切なものであるということはできない。 よって,被控訴人の上記各主張はいずれも採用することができない。 第2 控訴人ら(控訴人Bらを除く。)及びA1に関する放射線起因性及び要医療性 (争点2)について 1 A1 認定事実掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等 A1(当時16歳)は,昭和20年8月1日頃,広島市上流川町の廣 島女学院専門学校に入学した。A1は,同月6日広島原爆が投下された当時,爆心地から約1.2km離れた同校の校舎(木造一部鉄骨3階建)内におり,講堂での礼拝を終えて廊下を歩いていたところ,強い光を感じ,気づいた時は校舎の下敷きとなっていた。A1は自力で這い出し,左まぶた及び左手を負傷していたが,校舎は瓦礫となり周囲は火の海と なっていたため,浅野泉邸(現在の縮景園)に避難した。 A1は,同日夕方に,救助船で京橋川の対岸(東側)に渡り,東練兵場(爆心地から約1.7km)の救護所に負傷した友人を送り届けた後,大河町の自宅(同約3.3km)に帰った。(甲C1,1の2,乙C1の1〔19,24頁〕・10) A1は,昭和20年8月15日まで自宅で過ごし,翌16日から重傷を負った母親が大竹市内の病院に入院するのに付き添った。 A1は,被爆の約1週間経過後から頭痛や発熱が現れ,吐き気や下 A1は,昭和20年8月15日まで自宅で過ごし,翌16日から重傷を負った母親が大竹市内の病院に入院するのに付き添った。 A1は,被爆の約1週間経過後から頭痛や発熱が現れ,吐き気や下痢も生じた。脱毛も数か月間続いた。(甲C1,乙C1の1〔19,24頁〕・10) イ申請疾病等(基準値及び所見はいずれも放影研及び各医療機関による。 控訴人Bら以外の控訴人らについても,特に断らない限り,以下同じである。)A1の放影研における甲状腺機能検査の結果は,以下のとおりであった。 a 昭和60年8月19日TSHが4.3μU/mℓ(基準値8μU/mℓ以下)であり,T4,T3ともにいずれも基準値内であった(乙C1の20)。 b 昭和62年8月12日TSHが3.2μU/mℓ(基準値0.6~5.1μU/mℓ)であ り,T4,T3ともにいずれも正常範囲内であった(乙C1の4〔3 0頁〕・20)。 c 平成元年7月26日TSHが2.4μU/mℓ(基準値0.6~5.1μU/mℓ)であり,T4,T3ともにいずれも正常範囲内であった(乙C1の4〔30頁〕・20)。 A1は,平成3年,放影研において甲状腺の異常を指摘され,平成4年6月15日(当時63歳),C1クリニックを受診し,C12医師(広島大学名誉教授)の診察を受けた(甲C1の4,乙C1の1〔20頁〕・19〔13頁〕)。 甲状腺機能検査の結果は,FT4が1.78ng/dℓ(基準値0.7 1~1.85ng/dℓ),FT3が4.36pg/mℓ(同3.05~5. 35pg/mℓ),TSHが2.73μU/mℓ(同0.46~3.7μU/mℓ)であった(乙C1の1〔27頁〕)。 A1は,甲状腺内に多発性の腫瘤が認め ,FT3が4.36pg/mℓ(同3.05~5. 35pg/mℓ),TSHが2.73μU/mℓ(同0.46~3.7μU/mℓ)であった(乙C1の1〔27頁〕)。 A1は,甲状腺内に多発性の腫瘤が認められるとして,結節性甲状腺腫と診断された(診療録に,甲状腺に結節〔Nodule〕があると記 載された。)。また,慢性甲状腺炎の所見も示しているとされ,同日チラーヂンSを処方されて,その服用を開始した。(乙C1の1〔20頁〕・19〔13,14頁〕)A1は,平成4年11月16日,C1クリニックにおいて甲状腺機能検査を受けた。その結果は,FT4が1.78ng/dℓ(基準値0.7 1~1.85ng/dℓ),FT3が4.95pg/mℓ(同3.05~5. 35pg/mℓ),TSHが0.15μU/mℓ(同0.46~3.7μU/mℓ)であった。(乙C1の19〔13頁〕) A1は,脳梗塞を発症したため,平成5年3月23日を最後に,C1クリニックを受診しなくなった(甲C1)。 A1は,その後,C1クリニック以外の医療機関(C2病院,広島鉄 道病院)を受診し,チラーヂンSの処方を受けていたところ,平成9年12月10日(当時68歳),C2病院において受けた甲状腺機能検査の結果は,FT4が1.8ng/dℓ,FT3が3.1pg/mℓ,TSHが1.79μU/mℓであった(乙C1の1〔20頁〕・4〔31頁〕・19〔15頁〕)。 aA1は,平成16年6月9日(当時75歳),C1クリニックを再受診し,C1医師の診察を受けた。A1は,この当時,1日50μgのチラーヂンSを服用していた。直近(同年5月19日)の他院における甲状腺機能検査の結果は,FT4が1.37ng/dℓ(基準値0. 97~1.72ng/dℓ),FT3 。A1は,この当時,1日50μgのチラーヂンSを服用していた。直近(同年5月19日)の他院における甲状腺機能検査の結果は,FT4が1.37ng/dℓ(基準値0. 97~1.72ng/dℓ),FT3が2.5pg/mℓ(同2.1~4. 2pg/mℓ),TSHが2.28μU/mℓ(同0.54~4.54μU/mℓ)であった。C1クリニックにおいて,抗TPO抗体及び抗Tg抗体の検査がされたところ,いずれも陽性であり,慢性甲状腺炎と診断された。 また,A1は,同日,甲状腺腫瘤の診察のため,エコー検査を受け た。(乙C1の1〔20頁〕・19〔13,15頁〕)bA1は,平成16年6月23日,C1クリニックにおいて,甲状腺腫瘤の精査のため,エコー検査及び細胞診(穿刺吸引細胞診)を受けた。この結果,良性の甲状腺腫があるとされ,甲状腺腫瘤(多発性)と診断された。 A1は,以降,概ね半年ないし1年の間隔を空けて,エコー検査又は細胞診を受けていた。(乙C1の10〔4頁〕,19〔13,16~22頁〕)A1は,平成16年12月13日,C1クリニックにおいて甲状腺機能検査を受けた。その結果は,FT4が1.47ng/dℓ(基準値1. 2~1.7ng/dℓ),FT3が2.86pg/mℓ(同2.4~3.9 pg/mℓ),TSHが2.91μU/mℓ(同0.5~2.5μU/mℓ)であった。C1医師は,TSHの検査数値について,チラーヂンSを1日50μg服用中であるにもかかわらず,甲状腺機能がやや低下気味である旨を平成17年3月10日付け意見書に記載した。 また,C1医師は,同意見書に,必要な医療の内容として,定期的な 診察及び甲状腺剤の服用と記載したが,甲状腺腫瘤(多発性)に関する治療行為は記載しなかった。C1医 10日付け意見書に記載した。 また,C1医師は,同意見書に,必要な医療の内容として,定期的な 診察及び甲状腺剤の服用と記載したが,甲状腺腫瘤(多発性)に関する治療行為は記載しなかった。C1医師は,健康診断個人票にも,甲状腺腫瘤(多発性)に関する治療行為については記載していない。(乙C1の1〔20,21頁〕・19〔16頁〕)本件A1申請(平成17年3月11日)に直近の同年2月16日にさ れた甲状腺機能検査の結果は,FT4が1.62ng/dℓ,FT3が3. 2pg/mℓ,TSHが2.82μU/mℓであった(乙C1の19〔16頁〕)。 A1がC1クリニックにおいて受けた平成23年7月11日の甲状腺機能検査の結果は,FT4が1.11ng/dℓ(基準値1.0~1.6 ng/dℓ),FT3が2.48pg/mℓ(同2.4~3.9pg/mℓ),TSHが3.72μU/mℓ(同0.5~4.0μU/mℓ)であった(この項の検査数値につき,基準値は同じである。)。A1は,同日まで約1か月間,チラーヂンSを服用していなかった(同日受診時の診療録には,「チラ1Mのんでない」との記載がある。)。同日,チラーヂンSの投与 量が,3日間で3.5錠(1日1.5錠,1錠,1錠のサイクル)から毎日1.5錠に変更された。 同様に,同年9月9日の甲状腺機能検査の結果は,FT4が1.62ng/dℓ,FT3が2.97pg/mℓ,TSHが0.054μU/mℓであり,TSHが過度に低下していた。これを受けて,チラーヂンSの 投与量が,従前の3日間で3.5錠に戻された。同年11月4日の同結 果は,FT4が1.35ng/dℓ,FT3が2.64pg/mℓ,TSHが1.32μU/mℓであった。(甲C1の4,乙C1の19〔5,20,21頁 錠に戻された。同年11月4日の同結 果は,FT4が1.35ng/dℓ,FT3が2.64pg/mℓ,TSHが1.32μU/mℓであった。(甲C1の4,乙C1の19〔5,20,21頁〕) A1申請時に甲状腺機能低下症に罹患していたか。)について ア甲状腺機能低下症の一般的知見(上記前提に,上記の各事実によると,A1がチラーヂンSの服用を開始する以前の昭和60年8月19日,昭和62年8月12日,平成元年7月26日及び平成4年6月15日の各検査数値は,いずれも甲状腺機能が低下していたことを示すものとは認められない。その後, A1はチラーヂンSの服用を続け,遅くとも平成16年6月9日以降は1日50μgのチラーヂンSを服用していたところ),本件A1申請時まで,その影響を排除した方法で甲状腺機能検査がされたことがあったとは認められず,甲状腺機能低下症の診断基準を満たした検査結果は存在しない(乙B179〔資料1〕)。 控訴人Bらは,平成16年12月13日のTSHの検査数値2.91μU/mℓにつき,異常値である旨を主張し,C1医師は上記数値につき,基準値0.5~2.5μU/mℓを上回る旨の控訴人Bらの主張に沿う意見書を作成した(乙C1の1)。TSHの基準値は医療機関等により一致しておらず,例えば,健康な成人の検査数値の95%が含まれる 範囲であるという東京大学医学部附属病院におけるTSHの基準値は0. 38~4.31μU/mℓであるが,C1医師の採用した上記基準値は,東京大学医学部附属病院の基準値はもとより,上の基準値と比較しても上限値が相当に低く抑えられており,その根拠は不明である(C1クリニックのその他の受診時の検査において採用された基 準値も他の医療機関のそれと近 病院の基準値はもとより,上の基準値と比較しても上限値が相当に低く抑えられており,その根拠は不明である(C1クリニックのその他の受診時の検査において採用された基 準値も他の医療機関のそれと近似する。)。上記2.91μU/mℓは,他の 医療機関のいずれの基準値によっても正常範囲内であり,異常値であるとはいい難い。かえって,本件A1申請後の平成23年7月11日,チラーヂンSを1か月間服用しない状態で甲状腺機能検査が行われ,その結果が,FT4,FT3及びTSHのいずれも正常範囲内であったところ。 「チラ1Mのんでない」との診療録の記載について,C1医師は意味がは っきりしないと陳述書に記載するが〔甲C1の4〕,このように認めるほかない。),甲状腺機能低下症の患者が1か月間チラーヂンSを服用しない場合には甲状腺の機能低下を示す数値となるのが通常であること(上記第1証人D2〔15,52頁〕)からすると,同日時点でA1が甲状腺機能低下症に罹患していたとは認められず,甲状腺機能低下症は大 部分が永続的(非可逆性甲状腺機能低下症)であることに照らすと,本件A1申請時においてA1が甲状腺機能低下症に罹患していたことについては合理的な疑問があるというべきである。 イ控訴人Bらの主張について控訴人Bらは,本件A1申請時においてA1が甲状腺機能低下症に罹患 していた旨を主張し,①C1医師が甲状腺機能低下症であると診断し,同医師を含む多数の医師によりその治療がされていたこと,②A1の甲状腺機能が正常であったのであれば,チラーヂンSの服用により医原性甲状腺機能亢進症になるはずであるところ,そうなっていないこと,③平成23年9月9日の検査数値がTSHは低値,FT4は高値であったところ,チ ラーヂンSの投与量を減 ーヂンSの服用により医原性甲状腺機能亢進症になるはずであるところ,そうなっていないこと,③平成23年9月9日の検査数値がTSHは低値,FT4は高値であったところ,チ ラーヂンSの投与量を減少させたことにより同年11月4日の検査では基準値の範囲内になったのであり,被控訴人が上記②の根拠と主張する生体の恒常性維持機能によりこのような数値の変化を説明することはできず,A1には当てはまらないことをそれぞれ指摘する。これに沿う証拠としてC11医師の意見(甲B9)及びD1医師の意見(甲B48,甲C1の3・ 7・8,証人D1〔第2回・30頁〕)がある。 上記①について,控訴人Bらは,C1医師においてチラーヂンSの服用によっても甲状腺ホルモンの改善(増加)が十分でなかったことを指摘するが,上記アのとおりC1医師の引用する基準値自体の根拠が明らかでない。また,複数の医師が治療していたからといって,診断基準を満たさないにもかかわらず,A1が甲状腺機能低下症に罹患していたと認めること はできない。この点につき,D1医師も,「(平成4年6月15日)当時,甲状腺機能の正常者に対し,何故甲状腺ホルモン剤の投与を開始したかは定かではない。」と述べている(甲C1の7)。また,D1医師は,いずれ甲状腺機能低下症となるとの見立ての下,チラーヂンSの投与が開始されたと思われる旨の意見も述べているが(甲C1の8),治療的診断としてさ れる可能性が否定できないとしても,このような投与が一般にされているとの医学的知見を認めるに足りる証拠はない。 上記②について,甲状腺を含む内分泌腺の疾患を専門とするD2医師(日本医科大学内分泌糖尿病代謝内科学教授)は,生体が恒常性を維持し,甲状腺においてチラーヂンSが服用された状態で正常値を保とうと 。 上記②について,甲状腺を含む内分泌腺の疾患を専門とするD2医師(日本医科大学内分泌糖尿病代謝内科学教授)は,生体が恒常性を維持し,甲状腺においてチラーヂンSが服用された状態で正常値を保とうとする生体 反応のため,甲状腺機能が正常な人が長期間にわたり徐々にチラーヂンSを服用した場合にはFT4の増加やTSHの低下を来さない旨の意見(乙B179,証人D2〔18頁〕)を述べる。同意見は,甲状腺がんの治療としてTSHを0.5mU/ℓまで抑制させるにつき,個人差があるものの,かなり多量の甲状腺ホルモン(T4)製剤を服用しない限りはTSHが低 下せず,50μg程度の同製剤の投与では,TSHが抑制される人はほとんどいなかったとの研究結果(乙B179〔資料5〕)の裏付けがあり,採用することができる。この点につき,控訴人Bらは,同研究結果は上記意見の裏付けとはならない旨を主張する。確かに,A1に甲状腺がんの既往はなく,この点においては上記研究と前提が一致しない。しかし,甲状腺 ホルモン及び甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌状況において両者の間 に相違があることを認めるに足りる証拠はなく,生体の恒常性維持機能の作用をみるという点で基盤的な共通性があるのであり,上記意見の裏付けとすることが相当でないとはいえない。そして,A1は長期間にわたりチラーヂンSを服用し,その量50μgも少なめであったこと(上記第1のから,生体の恒常性維持機能により,甲状腺機能亢進症に罹 患しなかったとの説明は合理的である。 上記③についても,平成23年9月9日の検査数値につき,TSHが異常値(低値)及びFT4が同(高値)となったことについて,その約2か月前である同年7月11日にチラーヂンSの投与量を増やしたことによるとの説明は合理 成23年9月9日の検査数値につき,TSHが異常値(低値)及びFT4が同(高値)となったことについて,その約2か月前である同年7月11日にチラーヂンSの投与量を増やしたことによるとの説明は合理的である。控訴人Bらは, 生体の恒常性維持機能によっては検査数値の変化を説明することができず,A1に同機能は当てはまらない旨を主張するが,上記生体の恒常性維持機能が,短期間におけるチラーヂンSの投与量の変動にも対応可能なものであることを認めるに足りる証拠はない。また,控訴人Bらは,A1が平成4年6月15日にチラーヂンSの服用を開始し,同年11月16日の検査 においてはTSHの検査数値が低下していること(上記から,同様に,上記維持機能はA1に当てはまらない旨も主張するが,同服用開始から同検査まで僅か5か月間しか経過しておらず,未だ同機能が作用する条件が満たされていなかった可能性がある。 上記各指摘はいずれも採用することができない。 ウよって,争点2Bらの主張は理由がない。 争点2イ(甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。),ウ(甲状腺機能低下症に要医療性があるか。)についていずれも判断を要しない。 争点2エ(甲状腺腫瘤〔多発性〕に放射線起因性があるか。)について ア被曝の程度 A1は,爆心地から約1.2kmの木造建物内で初期放射線に被爆をしたところその被曝線量は,DS02によれば,約1.316グレイと推定される(乙C1の18)。 そして,A1において,廣島女学院専門学校から避難先に移動し,その後帰宅するまでの間に,誘導放射化された粉塵や放射性降下 物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸を通じ,又は左手等の傷口を介して,上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性も高い 先に移動し,その後帰宅するまでの間に,誘導放射化された粉塵や放射性降下 物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸を通じ,又は左手等の傷口を介して,上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性も高いというべきである。 A1には急性症状とみられる脱毛等の症状も現れた。 そうすると,A1は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 イ甲状腺腫瘤(多発性)と放射線被曝との関連性 甲状腺腫瘤に関する医学的知見a 甲状腺が腫大した状態を甲状腺腫といい,頸部超音波検査又は画像検査において甲状腺に腫瘤性病変が認められる。 甲状腺腫を来す疾患(甲状腺腫瘍)として,びまん性甲状腺腫と結 節性甲状腺腫がある。結節性甲状腺腫は,腫瘍又は局所の炎症であるが,大部分は腫瘍であり,過形成,良性腫瘍及び悪性腫瘍がある。しばしば多発して多結節性甲状腺腫となる。 甲状腺腫を有する人の割合は,1000人中15~84人であり,うち結節性甲状腺腫は7~26人に存在したとする過去の疫学研究や, 最近の精密検査において,40歳以上の健康な成人のうち17%に何らかの甲状腺疾患があり,そのうち4.5%に結節性甲状腺腫があったとの報告がある。東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科のホームページには,健康な人でも詳しく調べれば10人中約3人の割合で甲状腺内にしこりがみつかるが,その多くは線種様甲状腺腫という良 性のもの(過形成の結節性甲状腺腫に分類される。)であるとの記載が ある。 良性の甲状腺腫の大部分は心配する必要がないとされるが,悪性のしこりが若干生じやすいとされている。また,良性の甲状腺腫であっても,大きくなって自覚症状を伴うこともあり,場合によっては経過観 る。 良性の甲状腺腫の大部分は心配する必要がないとされるが,悪性のしこりが若干生じやすいとされている。また,良性の甲状腺腫であっても,大きくなって自覚症状を伴うこともあり,場合によっては経過観察のため定期的に医療機関を受診する必要がある。なお,稀に見つ かる悪性腫瘍(甲状腺がん)についても,ごく一部の例外を除く大部分はおとなしい性質であり,他の臓器のがんと比べて治療成績が良好であるとされる。 治療方法について,細胞診で良性の多結節性甲状腺腫と診断された場合,他の所見から濾胞がんの可能性が高いもの,圧迫症状があるも の,美容上患者が希望するもの,縦隔に進展するものを除き,大部分は手術対象とならず,1ないし数年に1回の超音波検査と甲状腺関連血液検査で経過観察をすれば足りるとされている。(乙B103,218,219)bA1の申請疾病である甲状腺腫瘤(多発性)とは, b及び上記aによると,良性の多結節性甲状腺腫と解される。 結節性甲状腺腫(多結節性甲状腺腫)と放射線被曝との関連性原爆放射線被曝と結節性甲状腺腫(多結節性甲状腺腫)との関連性につき,①被爆時年齢20歳以下で100ラド以上の被爆者477名と0ラドの被爆者501名について比較検討したところ,結節性甲状腺腫が 被爆群で13例,対照群で3例であり,被爆群において有意に高率であった,②長崎原爆における西山地区の住民180名及び対照群800名について比較検討したところ,結節性甲状腺腫が西山地区の住民で4. 74%と対照群の1.13%に対し有意に高率であり,被曝線量が高いほど増加し,また,被爆時年齢が20歳以下群に有意に高かったとの各 報告がある(甲A139〔資料6〕,B1の32)。このほか,放射線の 外部照射に に高率であり,被曝線量が高いほど増加し,また,被爆時年齢が20歳以下群に有意に高かったとの各 報告がある(甲A139〔資料6〕,B1の32)。このほか,放射線の 外部照射による甲状腺良性腫瘍の発生率はがんの3倍以上であるなどとする報告(甲A139〔資料6〕,B1の32・33)や,良性結節の1シーベルト当たりの線形過剰オッズ比が1.53(P値<0.001,95%信頼区間0.76~2.67)であり,若年被爆者で甲状腺結節のリスクが高いとする報告(今泉論文)もある。 これらによると,結節性甲状腺腫及び多結節性甲状腺腫と放射線被曝との関連性を一般的に認めることができる。 ウ判断A1は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。多結節性甲状腺腫と放射線被曝との関連性については, 一般的に肯定することができるところ,A1の多結節性甲状腺腫は,その考慮しても,原爆放射線に被曝したことによって発症したものとみるのが合理的である。 よって,本件A1申請に係る甲状腺腫瘤(多発性)については,放射線起因性が認められる。 ア要医療性の判断基準について のとおり,A1は,良性の多結節性甲状腺腫につき,経過観察を受けていたものと認められる。 被爆者援護法の規定等に照らせば,経過観察を受けている被爆者が同 法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるためには,当該経過観察自体が治療行為を目的とする現実的な必要性に基づいて行われているといえること,すなわち,経過観察の対象とされている疾病が,類型的に悪化又は再発のおそれが高く,その悪化又は再発の状況に応じて的確に治療行為をする必要があることから当該経過観察が て行われているといえること,すなわち,経過観察の対象とされている疾病が,類型的に悪化又は再発のおそれが高く,その悪化又は再発の状況に応じて的確に治療行為をする必要があることから当該経過観察が 行われているなど,経過観察自体が,当該疾病を治療するために必要不 可欠な行為であり,かつ,積極的治療行為(治療適応時期を見極めるための行為や疾病に対する一般的な予防行為を超える治療行為をいう。以下同じ。)の一環と評価できる特別の事情があることを要するものと解するのが相当である。 そして,上記特別の事情があるといえるか否かは,経過観察の対象と されている疾病の悪化又は再発の医学的蓋然性の程度や悪化又は再発による結果の重大性,経過観察の目的,頻度及び態様,医師の指示内容その他の医学的にみて当該経過観察を必要とすべき事情を総合考慮して,個別具体的に判断すべきである(最高裁判所令和2年2月25日第三小法廷判決・裁判所時報1742号1頁。以下「令和2年最判」という。)。 イ判断る必要がないとされているのであり,悪化の医学的蓋然性が高いとはいえない(現に,A1の多結節性甲状腺腫がその後進行して悪化したことをうかがわせる証拠はない。)。また,悪性のしこりが生じるなどして甲状腺が んの罹患に至ったとしても,その治療成績は良好であるとされていることからすると,悪化による結果が重大であるとまではいえない上,必要とされる経過観察の頻度は1ないし数年に1回で足りるとされている。そして,A1の多結節性甲状腺腫に対し,不定期にエコー検査及び細胞診を行う以上に具体的な治療がされていたものとは認められず,多結節性甲状腺腫に 関する積極的治療行為の一環として経過観察が必要である旨の特別の指示がされたことをうかが 定期にエコー検査及び細胞診を行う以上に具体的な治療がされていたものとは認められず,多結節性甲状腺腫に 関する積極的治療行為の一環として経過観察が必要である旨の特別の指示がされたことをうかがわせる事情も見当たらない。 以上の事情を総合考慮すると,A1の多結節性甲状腺腫に対する経過観察について,上記特別の事情があると認めることはできない。 そうすると,A1の甲状腺腫瘤(多発性)に要治療性があるとはいえな Bらの主張は採用することができない。 まとめ本件A1申請に係る甲状腺機能低下症は罹患の事実が認められず,甲状腺腫瘤(多発性)については要医療性の要件を満たしていたとは認められない。 2 控訴人A2認定事実 証拠(甲C2,C2の3,控訴人A2本人のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A2(当時2歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された当時,養父母,祖母及び父母とともに,爆心地から約2.7km離れ た広島市南蟹屋町の自宅建物(木造2階建て)の1階にいた(乙C2の6)。自宅が傾き,窓ガラスが吹き飛んで割れたが,控訴人A2はかすり傷を負うにとどまった。 被爆後,控訴人A2及びその家族は,自宅前の防空壕に避難したが,しばらく経過した後,自宅に戻った。控訴人A2宅では当時大衆食堂を 経営していたところ,その前が避難経路となっていたこともあり(甲C2の2),火傷を負った多数の被爆者が水を求めて訪れた。控訴人A2の家族のうち3名はかなり酷い傷を負い,控訴人A2の両親は,控訴人A2を含む家族を温品の避病院に避難させた。控訴人A2の両親は,その後すぐに引き返し,自宅前の空き地に倒れていた被爆者に応急手当て 2の家族のうち3名はかなり酷い傷を負い,控訴人A2の両親は,控訴人A2を含む家族を温品の避病院に避難させた。控訴人A2の両親は,その後すぐに引き返し,自宅前の空き地に倒れていた被爆者に応急手当てを 施し,青崎病院に運んだ。控訴人A2の両親は,被爆当日の夜,おむすびをもって避病院に行ったが,そのとき灰のようなものが降ってきたので,夏布団を被った。控訴人A2の両親は,3日又は4日ごとに夜同病院に食事を持って行った。(甲C2の5,乙C2の1〔75頁〕・12〔別添3〕) 控訴人A2の家族は,その後自宅建物を修理して住み続けた(甲C2 の5,乙C2の1〔71,75頁〕)。 控訴人A2は,昭和29年1月25日,ABCCによる検診を受けたが,発熱,下痢等の急性症状については,いずれも「NONE(なし)」と回答した(その余の選択肢は,「MILD〔軽度〕」,「MODERATE〔中等度〕」,「SEVERE〔強度〕」,「NOT-STATED〔言及 なし〕」であった。)(乙C2の16〔1枚目〕)。 イ申請疾病等控訴人A2は,昭和60年(当時42歳)頃,広島市民病院において,甲状腺が腫れていると診断され,投薬治療を受けたことがあった。 控訴人A2は,平成15年7月(当時60歳)に甲状腺機能低下症と 診断され,チラーヂンSの投与が開始された(乙C2の17〔3頁〕)。 控訴人A2は,平成20年5月29日,平成22年8月31日及び平成23年5月31日に自己免疫性甲状腺機能低下症に関する血液検査を受けたが,いずれも,抗TPO抗体及び抗Tg抗体ともに陰性であるとの結果であった(乙C2の17〔1頁〕,証人D2〔45頁〕)。 ウ事実認定の補足説明控訴人A2は,原爆投下の翌日以降数日間,南蟹屋町や も,抗TPO抗体及び抗Tg抗体ともに陰性であるとの結果であった(乙C2の17〔1頁〕,証人D2〔45頁〕)。 ウ事実認定の補足説明控訴人A2は,原爆投下の翌日以降数日間,南蟹屋町や松原町(広島駅付近)に母親に付いて立ち入った旨を主張し,これに沿う陳述書(甲C2,2の3)及び控訴人A2の供述(5,11頁)がある。 しかし,控訴人A2自身は当時の状況を記憶しているわけではなく(甲 C2,控訴人A2本人〔1頁〕),被爆当時の状況を母親から聞いて書いたという控訴人A2の被爆者健康手帳交付申請書(乙C2の1〔75頁〕)には,上記主張と同旨の事実は記載されておらず,かえって,控訴人A2の母親の被爆者健康手帳交付申請書(甲C2の5)に,控訴人A2の両親は,控訴人A2を避難させた後,松原町方面に人捜しに行ったとの 記載がある。控訴人A2の被爆者健康手帳交付申請手続に際し,同人の 被爆の事実に係る各証明書を作成したF1及びF2も,控訴人A2が広島駅付近等に立ち入ったことまで同各証明書に記載しているものではない(乙C2の1〔76,77頁〕)。各所において爆風と火災により建物が破壊され,道路が瓦礫の山となるなどしていた危険な状況下にあって(乙C2の15),控訴人A2の母親が当時2歳の控訴人A2を背負い歩 き回ったとの内容それ自体も自然であるとはいい難い。控訴人A2の上記供述については,母親自身の経験との混同が生じている可能性があり,採用することができない。 控訴人A2は,原爆投下の2,3日後から,微熱と下痢が約10日間継続した旨を陳述書(甲C2)に記載し,同旨の供述(7頁)をする。 しかし,同供述の内容は,る。この点につき,控訴人らが主張するように,被爆者がABCCに対して嫌悪,反発の感情を 10日間継続した旨を陳述書(甲C2)に記載し,同旨の供述(7頁)をする。 しかし,同供述の内容は,る。この点につき,控訴人らが主張するように,被爆者がABCCに対して嫌悪,反発の感情を持っていたとしても,控訴人A2は,被爆の事実それ自体は隠さず申告していたのであり(乙C2の16),急性症状の有無についてのみあえて虚偽の回答をしなければならなかった理由は具 体的に明らかではない。このことに照らし,上記供述は採用することができない。 ア被曝の程度控訴人A2の被曝線量は,初期放射線につき,爆心地から約2.7k mの木造建物内で被爆をしたとして,DS02によれば,約0.004375グレイと推定される(乙C2の14)。 しかし,控訴人A2は被爆時2歳と極めて若年であり放射線感受性が高かったといえるが,爆心地から約2.7kmの自宅から防空壕,温品の避病院への移動中に誘導放射化された粉塵や放射性降下物の微粒子を 含む粉塵等に接触し,呼吸を通じ,又は傷口を介して,上記粉塵等を体 内に取り込むなどした可能性がある。また,控訴人A2は,被爆者の救護に当たった両親が持参したおむすびを食べ,その後は自宅に住み続け,誘導放射化された粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等を,飲食を通じて体内に取り込むなどした可能性も否定することができない。 そうすると,控訴人A2は,健康に対する影響があり得る程度の線量 の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 これに対し,被控訴人は,控訴人A2がおよそ0.1グレイを上回る被曝をしたとは考え難い旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でないというべきである。被控訴人の上記 A2がおよそ0.1グレイを上回る被曝をしたとは考え難い旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でないというべきである。被控訴人の上記主張は,採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性控訴人A2の申請疾病は甲状腺機能低下症であるところ,上記第1の4のとおり,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができる。 被控訴人は,控訴人A2の甲状腺機能低下症は自己免疫性であることが 十分に考えられると主張する。D2医師は意見書(乙B179)に同旨の記載をし,自己免疫性の甲状腺機能低下症であっても違和感はないと証言のとおり,3回の血液検査の結果,抗甲状腺自己抗体がいずれも陰性であったのであり,血液検査の精度に合理的な疑問を差し挟むべき事情があるとは認められない(D2医師も,平成 23年5月31日の血液検査について,おそらくは最新の方法により行われたと思う旨を証言している〔46頁〕。)。控訴人A2の甲状腺機能低下症が自己免疫性であったとは認め難い。被控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ他の原因(危険因子) 控訴人A2は,60歳頃に甲状腺機能低下症を発症したと推認されると ころ(上記),好発年齢で発症したといえるが,女性に多い疾病であること及びその頻度等の疫学的知見()によると,控訴人A2と同年代の男性の多くが甲状腺機能低下症を発症するということはできない。 なお,仮に控訴人A2の甲状腺機能低下症が自己免疫性であり,その経 過が一般的な症例と比較して特異な点が見当たらないとしても,上記疫学的知見に照らし,なお加齢の点を重く いうことはできない。 なお,仮に控訴人A2の甲状腺機能低下症が自己免疫性であり,その経 過が一般的な症例と比較して特異な点が見当たらないとしても,上記疫学的知見に照らし,なお加齢の点を重くみることは相当でない。 エ判断控訴人A2は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性につい ては,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができるところ,控訴人A2が,被爆時2歳と極めて若年であり,放射線に対する感受性が高かったといえること等も併せ考慮すれば,控訴人A2の甲状腺機能低下症発症時の年齢を考慮しても,放射線に被曝したことによって甲状腺機能低下症を発症したものとみるのが合理的であるということができる。 よって,本件控訴人A2申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性があると認められる。 甲状腺機能低下症に要医療性があるか。)について控訴人A2は,本件控訴人A2申請時において,チラーヂンSを服用しており(乙C2の1〔72頁〕),当該治療が必要な状態が続いていたといえる から,本件控訴人A2申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性があると認められる。 まとめ本件控訴人A2申請に係る甲状腺機能低下症については,放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められる。同申請を却 下した処分は違法であり,争点3につき判断するまでもなく,その取消しを 求める控訴人A2の請求は理由がある。 3 控訴人A3認定事実証拠(甲C8,控訴人A3本人のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等控訴 がある。 3 控訴人A3認定事実証拠(甲C8,控訴人A3本人のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A3(当時13歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された当時,母親とともに,爆心地から約2.5km離れた広島市舟入南町の自宅前の路上にいた。 控訴人A3は,玄関前の防空壕に入ったが,右半身(首,顔,手,腿 等)に熱傷を負っていた。 控訴人A3の自宅は壊れて住むことのできない状態となったことから,控訴人A3の家族は,その日の夜以降,近所の会社の建物を間借りして仮住まいとした。 控訴人A3の熱傷は,被曝後,化膿してケロイド状となり,ピンセッ トで膿を除去してもらっていた。(乙C8の1〔482~486,490頁〕・7)控訴人A3は,昭和20年8月16日頃,姉のいる松山市に避難することになった。舟入南町から宇品港まで,住吉橋(爆心地から約1.5km),明治橋及び鷹野橋(同約1.3km)を経由して歩いた(甲C8 の2・3)。 控訴人A3は,四国に渡り,途中の旅館に1泊した時,発熱し下痢をして血便が出るようになり,赤痢にかかっているとして隔離病棟に入れられたが,髪の毛も抜けるようになった。 控訴人A3は,数日して退院したが,松山市には行かず四国の親戚宅 で養生した後,同年9月中下旬頃広島に帰り,補修が進んだ自宅で生活 した(乙C8の1〔482~486頁〕)。 イ ABCCに対する回答等控訴人A3は,昭和30年6月3日に行われたABCCの被爆状況調査に対し,昭和20年9月に下痢(血性,非血性ともに中等度)があったと回答したが,その余の症状はなかったと回答した。原爆による火傷 について, ,昭和30年6月3日に行われたABCCの被爆状況調査に対し,昭和20年9月に下痢(血性,非血性ともに中等度)があったと回答したが,その余の症状はなかったと回答した。原爆による火傷 について,右顔面,右首筋,右肩,右手及び右足に中等度の火傷を受け,油等を塗って治療したが化膿し,現在も痒く,瘢痕が残っている旨を回答した。(乙C8の9)控訴人A3は,昭和31年4月10日に行われたABCCの被爆状況調査に対し,昭和20年8月下旬から下痢(血性が中等度,非血性が強 度)が始まったほか,発熱(中等度)も同時期に始まり,脱毛については発症時期が不明であるが,10分の1以下の程度(軽度)で生じていたと回答した(下痢について,赤痢と間違えて隔離されたとした。)。また,同様に,原爆によって,顔,首,肩,腕及び大腿部のいずれも右側に火傷を負い,特に首が酷かったこと,約4か月間化膿し,瘢痕とケロ イドがある旨を回答した。(乙C8の10)控訴人A3は,昭和32年6月21日,被爆者健康手帳の交付を申請した。昭和41年7月7日に交付された同手帳には,被爆当時の外傷・熱傷の状況として,「右半身(首,顔,手,腿等)熱傷首,肩等ケロイド状態残る」,被爆当時の急性症状(概ね6か月以内)として,「火傷化 膿しウミが当分続く血便が出て髪の毛が抜ける」と記載された(乙C8の1〔490,491頁〕)。 ウ申請疾病等甲状腺機能低下症控訴人A3は,平成8年頃,甲状腺機能低下症と診断された。控訴人 A3は,同年8月18日(当時64歳),C13循環器科・心臓血管外科 を初診し,遅くとも平成9年以降,同循環器科・心臓血管外科等においてチラーヂンSの投与を受け,内服を開始した(乙C8の1〔493,494頁〕)。平成1 C13循環器科・心臓血管外科 を初診し,遅くとも平成9年以降,同循環器科・心臓血管外科等においてチラーヂンSの投与を受け,内服を開始した(乙C8の1〔493,494頁〕)。平成10年1月20日の血液検査の結果,FT4が1.23ng/dℓ,FT3が2.36pg/mℓ,TSHが0.24μU/mℓであり,TSHのみ基準値(0.47~4.07μU/mℓ)を下回って いるとされた(甲C8の4・5,乙C8の1〔496頁〕)。 狭心症控訴人A3は,平成9年9月3日,C13循環器科・心臓血管外科において心臓カテーテル検査を受けたところ,冠動脈の枝の一つである前下行枝に狭窄が認められ,同月(当時65歳)頃までに狭心症を発症し た(乙C8の1〔487,493,494,497~500頁〕)。 高血圧控訴人A3は,平成8年8月(当時64歳),C13循環器科・心臓血管外科において心臓カテーテル検査を受けたところ,腹部大動脈瘤が発見され,腹部大動脈瘤人工血管置換術が行われた。この際の高血圧の持 続と心エコーにより心負荷(左室肥大)が認められたことから,本態性高血圧と診断された。 控訴人A3は,平成20年6月11日,収縮期血圧が158mmHg,拡張期血圧が92mmHgであった(甲C8の4・5,乙C8の1〔488,493,494,497頁〕)。 脂質異常症控訴人A3は,平成20年6月11日,LDLコレステロールが83mg/dℓ,HDLコレステロールが42mg/dℓ,トリグリセライドが218mg/dℓであり,原爆症認定申請(平成20年6月20日)のころ,トリグリセライド値が基準値を大きく上回っていた(乙C8の1 〔493,498頁〕)。同傾向は,このころ始まったものではなく,平 成 症認定申請(平成20年6月20日)のころ,トリグリセライド値が基準値を大きく上回っていた(乙C8の1 〔493,498頁〕)。同傾向は,このころ始まったものではなく,平 成9年8月18日の検査時のトリグリセライド値は,すでに236mg/dℓであった。その後,控訴人A3は,平成9年中3回,平成10年中12回,平成11年中11回,平成12年中13回,平成13年中11回,平成14年中9回,平成15年中6回,平成16年中7回,平成17年中7回,平成18年中7回,平成19年中6回,平成20年中6回, 以上11年間に合計99回の検査を受けたが,同値が正常範囲にあったのは,平成10年4月8日(120mg/dℓ),同年6月29日(131mg/dℓ),同年12月8日(125mg/dℓ),平成11年12月9日(137mg/dℓ),平成12年1月6日(109mg/dℓ),同年2月3日(148mg/dℓ),同年10月4日(116mg/dℓ), 平成13年3月16日(134mg/dℓ),同年9月7日(104mg/dℓ),同年10月5日(148mg/dℓ),同年11月2日(124mg/dℓ),平成14年3月22日(139mg/dℓ),平成16年4月15日(138mg/dℓ),同年7月13日(118mg/dℓ),平成18年12月19日(144mg/dℓ)の合計15回であり,多くの 検査結果は基準値を大きく上回るものであった。(甲C8の5)エ事実認定の補足説明被控訴人は,控訴人A3に急性症状がなかった旨を主張する。この点にのとおり,控訴人A3は,昭和30年6月3日のABCCの被爆状況調査に対しては,発熱及び脱毛がなかった旨を回答し た。しかし,控訴人A3は,その翌年の昭和31年4月10日の同調査においては,発 とおり,控訴人A3は,昭和30年6月3日のABCCの被爆状況調査に対しては,発熱及び脱毛がなかった旨を回答し た。しかし,控訴人A3は,その翌年の昭和31年4月10日の同調査においては,発熱及び脱毛があったと回答し,被爆者健康手帳の交付申請に際しても脱毛があったと申告していた(上記A3において,昭和30年6月3日の上記調査に対して上記回答をしたのは,火傷が右半身の相当部分に及び,瘢痕が残る重いものであった一方, 発熱及び脱毛は火傷に比べて症状が軽く,相対的に印象が薄かったからで あることが推測される。控訴人A3は,それから間もない時期の調査等に際しては,発熱及び脱毛があったと回答しているところ,回答内容を変更したことにつき意図的なものであることをうかがわせる事情は見当たらないのであり,同各症状が現れたと認定することができる。また,控訴人A3は,被爆後生じた下痢についても,ABCCに対して赤痢によるもので あったとは一度も回答していないのであり(上記イ),赤痢によるものであったとは認められない(赤痢ではなかったと母親から聞いたことはないのかとの問いに対し,赤痢ではなく下痢の症状が出たことを何年も経過して知った旨の控訴人A3本人の供述〔15頁〕は,母親から赤痢ではないのに下痢の症状が出た旨を聞いたことを含意するものと解される。)。 争点 )についてア被曝の程度控訴人A3の被曝線量は,初期放射線につき,爆心地から約2.5kmの地点で直接被爆をしたとして,DS02によれば,約0.0126グレイと推定される(乙C8の8)。 しかし,控訴人A3は被爆時13歳と若年であり放射線感受性が高いと考えられるところ,右半身に中等度の火傷を負い,化膿してケロイド状になった部分から,誘導 グレイと推定される(乙C8の8)。 しかし,控訴人A3は被爆時13歳と若年であり放射線感受性が高いと考えられるところ,右半身に中等度の火傷を負い,化膿してケロイド状になった部分から,誘導放射化された粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等を体内に取り込んだ可能性は高いというべきである。被爆後に爆心地から自宅と同程度の距離にある建物で間借りをしていた間に, 上記粉塵を,呼吸又は飲食を通じて体内に取り込むなどした可能性も否定することができない。 そして,控訴人A3に,被爆後,発熱,脱毛及び下痢の症状が現れたことも併せ考慮すると,控訴人A3は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当 である。 なお,控訴人A3が昭和20年8月16日頃に爆心地から約1.3kmの地点に立ち入ったことは,原爆投下後の経過日数や滞在時間を考慮すると,その際に有意な被曝を受けたとは認められない。 これに対し,被控訴人は,控訴人A3がおよそ0.1グレイを上回る被曝をしたとは考え難い旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射 性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でないというべきである。被控訴人の上記主張は,採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性控訴人A3の申請疾病の一つは甲状腺機能低下症であるところ,上記第のとおり,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性につ いては,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができる。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A3は,64歳頃に甲状腺機能低下症を発症したと推認されるところ(上記),好発年齢で発症したといえる。また,女性に多い疾患であるところ),控訴人A3 できる。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A3は,64歳頃に甲状腺機能低下症を発症したと推認されるところ(上記),好発年齢で発症したといえる。また,女性に多い疾患であるところ),控訴人A3は女性であり,これらの 危険因子を有していたということができる。 エ判断以上のとおり,控訴人A3は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定するこ とができるところ,控訴人A3は,被爆時13歳と若年であり,放射線に対する感受性が高かったといえる。そうすると,控訴人A3の性別及び甲状腺機能低下症発症時の年齢を考慮しても,放射線被曝の影響が否定されるとはいい難く,放射線に被曝したことにより発症したものとみるのが合理的であるということができる。 よって,本件控訴人A3申請に係る甲状腺機能低下症については,放射 線起因性があると認められる。 争点 )について控訴人A3は,本件控訴人A3申請時において,チラーヂンSを服用しており(乙C8の1〔487頁〕),当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,控訴人A3申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性があ ると認められる。 争点 )についてア被曝の程度認定説示のとおりである。 イ狭心症と放射線被曝との関連性 控訴人A3の申請疾病の一つは狭心症であるところ,上記のとおり,狭心症と放射線被曝との間には一般的な関連性があることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)高血圧及び脂質異常症は狭心症の危険因子である b,c)。控訴人A3が狭心症を発したのは平成9年9月ころであるが,その当時,本態 連性があることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)高血圧及び脂質異常症は狭心症の危険因子である b,c)。控訴人A3が狭心症を発したのは平成9年9月ころであるが,その当時,本態性高血圧と診断され(上記として治療が開始された(甲C8の6)こと,当時及びその後の控訴人A3のトリグリセライド値及びその推移(上記)からすると,その相当以前から,高血圧及び脂質異常症に罹患し,継続していたとの疑いが存 する。また,控訴人A3が狭心症を発した65歳頃はその好発年齢である。 エ判断控訴人A3は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものであり,狭心症と放射線被曝との関連性については,一般的に肯 定することができるが,控訴人A3が狭心症を発したころ本態性高血圧, 脂質異常症に罹患しており,その症状が相当以前から継続していた疑いがあり,65歳ころが狭心症の好発年齢でもあることも併せ考慮すると,被曝時若年であったとしても,控訴人A3において,放射線被曝により狭心症を発したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件控訴人A3申請に係る狭心症については,放射線起因性があるとは認められない。 要医療性があるか。)について判断を要しない。 高血圧に放射線起因性があるか。)について ア被曝の程度 認定説示のとおりである。 イ高血圧と放射線被曝との関連性控訴人A3の申請疾病の一つは高血圧であるところ,イのとおり,高血圧と放射線被曝との間の関連性があることを示唆する疫 学的知見があるものの,その程度は限定的であることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A3が高血圧を発症した時期は具体 り,高血圧と放射線被曝との間の関連性があることを示唆する疫 学的知見があるものの,その程度は限定的であることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A3が高血圧を発症した時期は具体的に明らかでないものの,診断されたのは64歳以降である。 り,60歳女性の過半数が高血圧であるなど患者数の多い疾病であり,多 くは生活習慣を原因として発症する控訴人A3については本態性高血圧の診断を受ける相当以前から高血圧に罹患し継続していたとの疑いがある。 エ判断控訴人A3は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝 したものと認められる。しかし,高血圧と放射線被曝との間に関連性があ るとしてもその程度は限定的なものと考えられるところ,控訴人A3の放射線被曝が高血圧を発症させる程度に高線量であったとは認め難い。高血圧が生活習慣に起因するものであり,控訴人A3の年齢も併せ考慮すると,もっぱら生活習慣によって発症したものとみるのが合理的であるということができる。 よって,本件控訴人A3申請に係る高血圧について,放射線起因性があるとは認められない。 判断を要しない。 まとめ 本件控訴人A3申請に係る狭心症及び高血圧については放射線起因性の要件を満たさないが,甲状腺機能低下症については放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められる。上記申請を却下した処分のうち,申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分は違法である(この点に限っては,争点3につき判断するまでもない。)。 4 控訴人A4認定事実証拠(甲C9の1,控訴人A4本人のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被曝時の状況,被爆後の るまでもない。)。 4 控訴人A4認定事実証拠(甲C9の1,控訴人A4本人のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被曝時の状況,被爆後の行動等 控訴人A4(当時4歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された当時,爆心地から約2.5km離れた広島市南千田町の自宅建物(木造平屋建て)そばの畑で遊んでいた。同建物が遮蔽となった。控訴人A4は,爆風で飛ばされて,手に軽い怪我をした。 控訴人A4は,自宅が全壊したため,南千田町の修道中学校のグラウ ンドに野宿し,昭和20年8月15日,賀茂郡西条町の母親の実家に転 居するまで,野宿生活を続けた。(乙C9の1〔117,122,123頁〕・9)控訴人A4は,昭和20年8月7日家族とともに,帰宅せず行方不明となっていた姉を捜すため,自ら歩きあるいは父親に背負われて市内の各収容所を訪ねて回り,同日午前8時頃から午前9時頃までの約1時間, 広電本社前(爆心地から約2km)及び広島赤十字病院(同約1.6km)付近に赴いた(甲C9の3,乙C9の12の1・2)。 控訴人A4は,同月8日も同様に姉の行方を捜した。広電本社前,広島赤十字病院付近からさらに爆心地に接近し,鷹野橋(爆心地から約1. 3km),袋町富国生命ビル暁部隊収容所(同約0.5km),紙屋町(同 約0.4km),八丁堀(同約0.9km),鉄砲町(同約1km)及び浅野泉邸収容所(同約1.5km)方面を回ったが,姉を見つけることはできなかった(甲C9の2,乙C9の1〔122~124頁〕)。 控訴人A4は,被爆後6か月が経過するまでに,下痢,発熱及び貧血の症状が現れた。これらの症状は,約5か月間続いた。(乙C9の1〔1 24頁〕) の2,乙C9の1〔122~124頁〕)。 控訴人A4は,被爆後6か月が経過するまでに,下痢,発熱及び貧血の症状が現れた。これらの症状は,約5か月間続いた。(乙C9の1〔1 24頁〕)イ申請疾病 甲状腺機能低下症控訴人A4は,平成19年3月28日(当時66歳)の血液検査の結果,FT4(ECLIA法)が1.03ng/dℓ,FT3(同)が2.2p g/mℓ,TSH(同)が19.17μIU/mℓであり,FT3が基準値(2.5~3.9pg/mℓ)を下回り,TSHが基準値(0.34~5. 60μIU/mℓ)を大きく超えていた。控訴人A4は,同年9月頃甲状腺機能低下症を指摘され,遅くとも同月26日以降,チラーヂンSの投与を受けていた。(乙C9の1〔134頁〕・11) また,控訴人A4は,平成19年11月16日,甲状腺エコー検査を受 けたところ,甲状腺が腫大しているとして,慢性甲状腺炎と診断された。 平成22年11月24日及び平成23年4月12日には,それぞれ,抗甲状腺自己抗体の検査も行われたが,いずれも抗Tg抗体が異常値(高値)であった。(乙C9の11)脳梗塞 控訴人A4は,平成11年8月9日(当時58歳)に自宅で左半身麻痺を発症し,救急搬送され,CT及びMRI検査の結果,脳梗塞と診断された。その後,同年11月2日まで入院して治療を受けた。(乙C9の1〔117,120,133,138頁〕・13)。 ウ生活状況 喫煙控訴人A4は,昭和36年(当時20歳)頃,喫煙を開始し,その後,平成11年に脳梗塞を発症するまで,1日1箱から2箱のたばこを吸っていた(乙C9の13〔1頁〕)。 高血圧・脂質異常症(高脂血症) a 控訴人A4は,平成9年(当時56歳)頃, その後,平成11年に脳梗塞を発症するまで,1日1箱から2箱のたばこを吸っていた(乙C9の13〔1頁〕)。 高血圧・脂質異常症(高脂血症) a 控訴人A4は,平成9年(当時56歳)頃,高血圧症と診断され,降圧薬を内服していた(乙C9の13〔1頁〕)。 b 控訴人A4は,平成9年9月1日に受けた健康診断の結果,血圧は収縮期血圧が120mmHg,拡張期血圧が80mmHgであったが,総コレステロールが272mg/dℓ,トリグリセライドが471mg /mℓであり,高脂血症と診断された。控訴人A4は,平成10年3月9日にも健康診断を受けたが,血圧は収縮期血圧が130mmHg,拡張期血圧が80mmHgであり,トリグリセライドが228mg/dℓであって(なお,総コレステロールは健康診断個人票に記載がない。),前回同様,高脂血症と診断された(乙C9の14)。 c 平成11年8月9日の脳梗塞発症時の控訴人A4の血圧は,収縮期 血圧200mmHg,拡張期血圧100mmHgであった。また,総コレステロールは298mg/dℓ,トリグリセライドは82mg/dℓであった。(乙C9の13〔2,4,5頁〕)エ事実認定の補足説明 控訴人A4は,昭和20年8月9日から同月15日までの間も,爆心地 付近に入市して姉を捜した旨を主張し,これに沿う証拠として,本件控訴人A4申請に係る認定申請書(乙C9の1〔117頁〕),被爆者健康手帳交付申請書(同〔123頁〕),被爆証明書(同〔128,129頁〕)及び陳述書(甲C9の1)がある。しかし控訴人A4は,尋問において,姉を捜しに行ったのは同月7日及び同月8日の2日間だけであり,それ 以降は父だけが捜しに行った旨を供述した(4頁)のであり,上記陳述書等の記載を 1)がある。しかし控訴人A4は,尋問において,姉を捜しに行ったのは同月7日及び同月8日の2日間だけであり,それ 以降は父だけが捜しに行った旨を供述した(4頁)のであり,上記陳述書等の記載を採用することはできず,ほかに上記主張を認めるに足りる証拠はない。 控訴人A4の症状のほか,嘔吐及び脱毛があった旨供述する(6,15,27頁)。しかし,上記供述を裏付ける証拠はない。か えって,昭和48年3月13日付けで控訴人A4が母親から聞いて作成したとする被爆者健康手帳交付申請書に,被爆時又はその後6か月までの間に現れた症状につき,「はらくだし」,「発熱」及び「血が少なくなった」に該当すると記載された一方,「毛が抜けた」に該当するとは記載されなかった(乙C9の1〔124頁〕)。また,本件控訴人A4申請に係 る平成20年3月26日付け認定申請書に,被曝後半年間の症状について,下痢,発熱及び血が少なくなった等の症状が出たようである旨を記載したが,嘔吐及び脱毛については記載していない(乙C9の1〔117頁〕)。これらに照らし,上記供述は信用することができない。 放射能起因性があるか。)について ア被曝の程度 控訴人A4の被曝線量は,初期放射線につき,爆心地から約2.5kmの地点で直接被爆をしたとして,DS02によれば,約0.0126グレイと推定される。さらに,爆心地から約1.5kmの地点に原爆投下の翌日に行き,その後永遠に滞在した場合の誘導放射線による被曝線量が0.000016グレイ,同0.5kmの地点に翌々日(原爆投下 から50時間後)に行き,その後永遠に滞在した場合の誘導放射線による被曝線量が約0.01グレイであるとの計算結果がある。(乙C9の10)しかし,控訴人A4は被爆時4 地点に翌々日(原爆投下 から50時間後)に行き,その後永遠に滞在した場合の誘導放射線による被曝線量が約0.01グレイであるとの計算結果がある。(乙C9の10)しかし,控訴人A4は被爆時4歳と極めて若年であり放射線感受性が高いといえる上,翌日に爆心地から約1.6km付近にまで接近し,さ らに翌々日には爆心地から約0.4km付近にまで接近したのであって,この間に,手の傷口や呼吸等を介して,誘導放射化された粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等を体内に取り込んだ可能性は高い。被爆後の野宿生活をしていた間に,上記粉塵等を,呼吸又は飲食を通じて体内に取り込むなどした可能性も否定することができない。 そして,控訴人A4に,被爆後,下痢や発熱等の症状が現れたことも併せ考慮すると,控訴人A4は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 これに対し,被控訴人は,控訴人A4がおよそ0.1グレイを上回る被曝をしたとは考え難い旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射 性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でないというべきである。被控訴人の上記主張は,採用することができない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性控訴人A4の申請疾病の一つは甲状腺機能低下症であるところ,上記第のとおり,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性につ いては,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができる。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A4は,66歳頃に甲状腺機能低下症を発症したと推認されるところ,好発年齢で発症したといえる。しかし,女性に多い疾患であること等の疫学的知見()によると,控訴人A4と同年代の男性の多 控訴人A4は,66歳頃に甲状腺機能低下症を発症したと推認されるところ,好発年齢で発症したといえる。しかし,女性に多い疾患であること等の疫学的知見()によると,控訴人A4と同年代の男性の多くが甲状腺機能低下症を発症するということはでき ない。 エ判断控訴人A4は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができるとこ ろ,控訴人A4は,被爆時4歳と極めて若年であり,放射線に対する感受性が高かったといえる。そうすると,控訴人A4の甲状腺機能低下症発症時の年齢を考慮しても,放射線に被曝したことにより発症したものとみるのが合理的であるということができる。 よって,本件控訴人A4申請に係る甲状腺機能低下症については,放射 線起因性があると認められる。 要医療性があるか。)について控訴人A4は,本件控訴人A4申請時において,チラーヂンSを服用しており(乙C9の1〔119,133頁〕),当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件控訴人A4申請に係る甲状腺機能低下症については, 要医療性があると認められる。 放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度 認定説示のとおりである。 イ脳梗塞と放射線被曝との関連性 控訴人A4の申請疾病の一つは脳梗塞後遺症であるところ,脳梗塞と放 射線被曝との間には,上記イのとおり,心筋梗塞と比較すると相対的に程度が低いものの,一般的な関連性があることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)上記第1の4a~c,eのとおり,脳梗塞について,最大の危険因子が高血圧であるほか, と比較すると相対的に程度が低いものの,一般的な関連性があることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)上記第1の4a~c,eのとおり,脳梗塞について,最大の危険因子が高血圧であるほか,喫煙及び脂質異常症も危険因子であり, 加齢とともに発症率が増加し,危険因子が重積することによりリスクが急激に高まるとされているところ,控訴人A4は,平成9年頃には高血圧症と診断され,降圧薬を内服していたが,平成10年3月9日から脳梗塞を発症した平成11年8月9日までの間に血圧が急激に上昇し,最大の危険因子である高血圧)。また,控 訴人A4は,脳梗塞の発症まで約38年の長期にわたり,1日1~2箱もそして,控訴人A4は,平成9年9月1日及び平成10年3月9日の各健康診断において,高脂血症と診断され,平成9年9月1日のトリグリセライド及び平成11年8月9日の総コレステロールは当時の基準値を相当 b,c)。 控訴人A4は,以上のとおり,脳梗塞の発症時,危険因子が重積していた。 控訴人A4は,高血圧及び脂質異常症に放射線被曝がそれぞれ関与している旨を主張するが,この点については,の とおり,いずれも関連性の存在を示唆する疫学的知見があるものの,その程度は限定的であると認められる(高血圧について,控訴人A4は喫煙者であるから,より一層限定的に考慮する必要がある。)。 また,控訴人A4は,喫煙,高血圧及び脂質異常症は疫学研究に織り込み済みであり,放射線被曝によるリスク推定にほとんど影響を及ぼさ ない旨も主張 のように,喫煙等の交絡因子が放射線リスク評価に重要な変化をもたらさなかったとする疫学研究がある(なお,高血圧は,清水論文にいう交絡因子に含まれているとは認められない。)。しかし,疫 のように,喫煙等の交絡因子が放射線リスク評価に重要な変化をもたらさなかったとする疫学研究がある(なお,高血圧は,清水論文にいう交絡因子に含まれているとは認められない。)。しかし,疫学は,人間集団における疾病罹患と死亡の分布,発生要因及び制御要因を研究する学問で,公衆衛生の分野において,定義された人間集団や地域社会における 健康問題を理解し説明しようとするものであり(乙B169,第2事件乙B80),交絡因子の調整も,一般的な疫学的因果関係の判断のために行われるものである。そして,喫煙,高血圧及び脂質異常症の程度も個々人により異なるのであるから,疫学的知見を個々人の疾病の原因にそのまま当てはめることはできない。控訴人A4の上記主張は採用すること ができない。 エ判断控訴人A4は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められ,脳梗塞と放射線被曝との間に一定程度の関連性があると認められる。 しかし,控訴人A4は,脳梗塞の最大の危険因子である高血圧のほか,複数の危険因子が重積しており,これにより発症リスクが増大していたと考えられ,もっぱら生活習慣に基づき脳梗塞を発症した可能性があると合理的に考えることができる。控訴人A4の被曝の程度が特に高いとみるべき事情もないのであり,被爆時年齢が極めて若年で,脳梗塞発症時の年齢 も発症のピークに達していなかったこと等の事情を考慮しても,控訴人A4において放射線被曝により脳梗塞を発症したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件控訴人A4申請に係る脳梗塞後遺症については,放射線起因性があるとは認められない。 判断を要しない。 まとめ本件控訴人A4申請 とはできない。 よって,本件控訴人A4申請に係る脳梗塞後遺症については,放射線起因性があるとは認められない。 判断を要しない。 まとめ本件控訴人A4申請に係る脳梗塞後遺症については放射線起因性の要件を満たさないが,甲状腺機能低下症については放射線起因性及び要医療性の要件をいずれも満たしていたものと認められる。上記申請を却下した処分のう ち,申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分は違法である(この点に限っては,争点3につき判断するまでもない。)。 5 控訴人A5認定事実証拠(甲C14,C14の2,控訴人A5本人のほか,掲記したもの)及 び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A5(当時10歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された当時,爆心地から約2.8~3km離れた広島市東雲町の自宅建物(木造平屋建て)の中にいた。控訴人A5は,衣服を着替えていたとこ ろであり,ガラスの破片により背部に軽い怪我をした。 控訴人A5は,その後,大洲町(爆心地から約3km超)のブドウ畑に逃げ込み,食べ物がなかったのでブドウを食べるなどして過ごした。 (甲C14の3・4・8,乙C14の1〔87,92頁〕・20)控訴人A5の兄は,上記投下の当時,鶴見橋付近(爆心地から約1. 5km)で建物疎開の作業に従事していたところ(甲C14の3,乙C14の21),昭和20年8月7日に死亡した。控訴人A5は,母親とともに父親の実家のある安芸郡熊野町に行って葬儀を執り行い,同実家に同月16日まで住んでいた。父親が軍隊から帰って来たので,同日以降,倒壊を免れていた東雲町の自宅に戻って生活した。(乙C14の1〔87 頁〕) に行って葬儀を執り行い,同実家に同月16日まで住んでいた。父親が軍隊から帰って来たので,同日以降,倒壊を免れていた東雲町の自宅に戻って生活した。(乙C14の1〔87 頁〕) イ ABCCに対する回答等控訴人A5は,昭和30年2月10日に行われたABCCの被爆状況調査に対し,発熱,下痢及び脱毛等の症状は全く現れなかったと回答した(乙C14の20)。 控訴人A5は,平成14年以降,概ね毎年2回(2月と8月)に健康 診断を受けていた。控訴人A5は,原爆によると思われる急性症状(概ね6か月以内)につき,平成14年2月4日から平成22年8月5日までの健康診断において,発熱及び脱毛はいずれも「無」,下痢は平成16年8月5日から平成18年8月3日までの健康診断において「有」,その余の同診断においては「無」と回答していた。 しかし,控訴人A5は,平成23年2月16日から平成24年2月2日までの健康診断においては,発熱,下痢及び脱毛のいずれについても,「有」と回答した。そして,控訴人A5は,同年8月22日から平成26年8月19日の健康診断においては,脱毛だけが「有」と,平成27年2月5日から平成28年2月4日の同診断においては,いずれも「無」 と回答した。(乙C14の23・24)ウ申請疾病等甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対する放射線治療控訴人A5は,昭和54年末(当時44歳)頃,前頸部腫脹を指摘され,甲状腺機能検査を受けたところ,バセドウ病と診断され,昭和55 年7月14日(当時45歳)から内服治療(メルカゾール)が開始された。しかし,控訴人A5は,1か月に数日程度服用を忘れるなどして,甲状腺機能はコントロールできていなかった。 控訴人A5は,昭和58年6月(当時48歳 歳)から内服治療(メルカゾール)が開始された。しかし,控訴人A5は,1か月に数日程度服用を忘れるなどして,甲状腺機能はコントロールできていなかった。 控訴人A5は,昭和58年6月(当時48歳),広島大学病院に入院し,バセドウ病に対する放射線治療(アイソトープ治療)として,3ミリキ ュリーの放射性ヨード131の投与を受けた(約2.442シーベルト の放射線被曝に相当する〔乙B236〕。)。(乙C14の18)甲状腺機能低下症の発症控訴人A5は,平成13年頃(遅くとも平成14年1月5日〔当時66歳〕まで),甲状腺機能低下症を発症し,チラーヂンSの投与を受けた(乙C14の1〔96頁〕・19)。 エ事実認定の補足説明控訴人A5は,広島原爆の投下当日,兄を捜すために鶴見橋方面に行き爆心地に接近した旨を主張し,これに沿う証拠として,陳述書(甲C14,14の2)及び控訴人A5本人の供述(3,15,28頁)がある。そして,控訴人A5は,平成27年9月10日付け陳述書(甲C1 4の2)を提出するまで,爆心地への接近に関する主張及び陳述書の提出をしていなかった理由として,被爆後の行動に関する事実が重要であるとは知らなかったためである旨説明する(控訴人A5本人〔18頁〕)。 この点につき,控訴人A5は,本件控訴人A5申請に係る平成19年10月30日受付の認定申請書(乙C14の1〔87頁〕)及び平成22 年4月15日付け異議申立書(乙C14の7)には,上記接近について記載しておらず,平成23年8月31日付け訴状にも同接近の事実は記載していなかった。しかし,家族のことやその後住んでいた場所等については上記認定申請書等に記載されていた。本訴提起のための訴状の作成に当たり,控訴人A5は,被爆後の行動の け訴状にも同接近の事実は記載していなかった。しかし,家族のことやその後住んでいた場所等については上記認定申請書等に記載されていた。本訴提起のための訴状の作成に当たり,控訴人A5は,被爆後の行動の重要性について理解の深い 代理人から詳細な聴取を受けたはずであり,爆心地に接近した事実が重要であるとは知らなかったとの説明は容易に首肯し難い。上記供述等を採用することはできず,このほか上記主張を認めるに足りる証拠はない。 また,控訴人A5は,昭和20年8月7日に広島市の自宅に戻った旨を主張する。しかし,控訴人A5は,上記認定申請書に,「8月16日ま では父の実家安芸郡熊野町出来庭に住んでいました。父が戦地(香川県 宅間航空隊)からかえりましたので広島市東雲町2組で生活しました。」と明確に記載したのであって,その内容は自然で具体的であり,信用することができる。その後,控訴人A5は,昭和20年8月8日に自宅に戻った(上記異議申立書),同月7日に戻った(上記訴状)などと記載を変遷させたが,これらの変遷に首肯するに足りる理由があるとは認め難 く,相対的に信用性が劣るものと評価せざるを得ない。上記主張も採用することができない。 控訴人A5は,発熱及び脱毛の急性症状があった旨を主張する。これに沿う証拠として,陳述書(甲C14)及び控訴人A5本人の供述(7,19頁)がある。また,控訴人A5は,ABCCの被爆状況調査の際, 真実の急性症状を回答するのにためらいを覚えた旨を主張し,急性症状に関する質問をされなかった旨を供述(甲C14の2,控訴人A5本人〔21頁〕)する。 しかし,控訴人A5は,ABCCに対し,発熱及び脱毛はなかった旨の回答をした),平成14年以降平成22年まで の間,健康診断の際,脱毛及び 甲C14の2,控訴人A5本人〔21頁〕)する。 しかし,控訴人A5は,ABCCに対し,発熱及び脱毛はなかった旨の回答をした),平成14年以降平成22年まで の間,健康診断の際,脱毛及び発熱はなかった旨の回答をしたのであり(同いて上記ためらいがあったことは想定し難い。健康診断における回答の内容(同)についても変遷が大きく,控訴人A5が主張し供述する急性症状に関する記憶は相当程度曖昧になっているとの合理的疑いを差し挟む余 地がある。上記供述は採用することができず,このほかに控訴人A5に急性症状があったとの主張を認めるに足りる証拠はない。 放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度控訴人A5の被曝線量は,初期放射線につき,爆心地から約2.8km の地点にある木造建物内で被爆したとすると,それぞれDS02により推 定される同約2.7km地点の被曝線量約0.004375グレイを下回り,同約3km地点の被曝線量約0.001596グレイを上回る範囲となる(乙C2の14,14の17)。 そして,控訴人A5は,昭和20年8月6日に爆心地に接近した事実は認められず,急性症状が現れたとも認められない。その後,控訴人A5は, 同月16日まで安芸郡熊野町で生活していたのであり,残留放射線又は放射性降下物の放射線による有意な外部被曝・内部被曝をする機会があったとも認め難い。 以上によると,DS02による線量が推定値であり過小評価となった可能性があることを考慮したとしても,控訴人A5の全体としての被曝線量 は,相当に低いと評価せざるを得ない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性控訴人A5の申請疾病は甲状腺機能低下症であるところ,上記第1の4のと ,控訴人A5の全体としての被曝線量 は,相当に低いと評価せざるを得ない。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性控訴人A5の申請疾病は甲状腺機能低下症であるところ,上記第1の4のとおり,甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができる。 ウ他の原因(危険因子)医原性甲状腺機能低下症の可能性a 被控訴人は,控訴人A5が甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対する放射線治療(アイソトープ治療)として,放射性ヨード131の投与を受けたことから,医原性の甲状腺機能低 下症である可能性がある旨を主張する。 掲記の証拠によると,甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に関し,以下の医学的知見が存在することが認められる。 病態等甲状腺自体の活動が亢進し,そのため甲状腺における甲状腺ホル モンの合成,分泌が高まっている病態を甲状腺機能亢進症といい, 代表的な疾患がバセドウ病である。発症頻度について,1000人中0.6~3人程度で男女比は1対3~5と女性に多く,20~30歳代の頻度が高いとする報告や,女性では200~300人に1人の割合で発症し,以前にバセドウ病と診断されて治療歴がある者を含めると,女性における頻度は50人に1人の割合となるとの報 告もある。 バセドウ病は,自己免疫異常の関与により甲状腺において過剰な甲状腺ホルモンが合成,分泌される疾患で,びまん性の甲状腺腫があり,甲状腺ホルモンの過剰により,いらいら,発汗過多及び眼球突出等の様々な臨床症状が生じる。代表的な臓器特異的自己免疫疾 患であり(ただし,自己免疫性甲状腺炎ではない。),発症機序の中心はTSH受容体に対する自己抗体である。(乙B2 発汗過多及び眼球突出等の様々な臨床症状が生じる。代表的な臓器特異的自己免疫疾 患であり(ただし,自己免疫性甲状腺炎ではない。),発症機序の中心はTSH受容体に対する自己抗体である。(乙B250,255,256,257の1・2)⒝ 放射線ヨード治療バセドウ病について,自己免疫機序そのものに対する根本的治療 は確立していない。抗甲状腺薬により甲状腺ホルモン合成を抑制する薬物療法(数年間の投与が必要となることが多い。),手術療法のほか,内科的治療が困難な中等度の機能亢進症の中年以降の患者に対する放射線ヨード治療(アイソトープ治療)がある。 放射線ヨード治療は,甲状腺グラム当たりの吸収線量として80 ~100グレイとなる放射性ヨウ素131を経口投与し,ベータ線により甲状腺の細胞を破壊縮小して過剰のホルモン合成を抑制する治療法である。投与1,2週間後に放射性甲状腺炎が生じることがある。晩発性の甲状腺機能低下症の頻度は高く,10年後で40~70%に達するとされる。日本核医学分科会腫瘍・免疫核医学研究 会・「放射性ヨード内用療法」委員会・「甲状腺RI治療」委員会編 「バセドウ病の放射性ヨード内用療法に関するガイドライン(改訂第3版)」は,放射性ヨード治療の副作用について,同治療の目的は亢進した甲状腺の機能を低下させることであるから,同治療後に生じる甲状腺機能低下は副作用ではなく治療効果と捉えるのが的確であるとする(乙B179〔資料7・19頁〕)。(乙B255,256) D2医師は,控訴人A5の甲状腺機能低下症について,甲状腺機能亢進症のアイソトープ治療による医原性の甲状腺機能低下症であると考えられる旨の意見を述べている(乙B179,証人D2〔20頁〕)。 b これに対 A5の甲状腺機能低下症について,甲状腺機能亢進症のアイソトープ治療による医原性の甲状腺機能低下症であると考えられる旨の意見を述べている(乙B179,証人D2〔20頁〕)。 b これに対し,控訴人A5は,被控訴人の上記主張を争うとともに,甲状腺機能亢進症自体に,放射線被曝の影響が考えられるから,甲状 腺機能亢進症の存在をもって放射線起因性を否定することができない旨を主張する。 確かに,AHS第7報及び第8報は,甲状腺疾患と放射線被曝との間に有意な関連性があるとしており,この中に甲状腺機能亢進症が含まれている可能性は否定することができ ない。しかし,甲状腺機能亢進症(バセドウ病)について現時点において放射線被曝との間の統計的に有意な関連性が認められるとした知見は見当たらない。かえって,今泉論文は,3185名の被爆者(上を調査した結果,バセドウ病(有病率1.2%)の線形過剰オッズ比が0.49(P値=0.1,95%信頼区間-0. 06~1.69)であり放射線被曝との間に統計的に有意な関連性が認められないとする結果を報告する(今泉美彩ほか「小児期に被曝した原爆被爆者における被曝62-65年後の甲状腺機能異常と自己免疫性甲状腺疾患」〔乙B254〕の報告内容も同様である。)。また,放射線の非確率的影響(確定的影響)についてまとめたICRPの報告 書(乙B90,252)に,放射線と関連のある疾患としてバセドウ 病は記載されていない。UNSCEARの2000年報告書付属書(乙B253の1・2)においても,放射線被曝によって甲状腺機能亢進症のリスクが増加しなかったとされている。発生機序についても,自己免疫性という限度において共通性はあるものの,抗体が病態そのものに影響を与えると考 ・2)においても,放射線被曝によって甲状腺機能亢進症のリスクが増加しなかったとされている。発生機序についても,自己免疫性という限度において共通性はあるものの,抗体が病態そのものに影響を与えると考えられているバセドウ病に対し(),甲 状腺機能低下症の原因として最も多い慢性甲状腺炎では,甲状腺細胞にアポトーシスが生じると考えられているのあって(乙B91,92,155,257の1・2),相違しているといえる。放射線被曝との関連性があるとは直ちには認め難く,仮にあるとしても,その程度はかなり限定的なものと考えざるを得ない。 その他控訴人A5は,66歳頃に甲状腺機能低下症を発症したと推認される),発症時にある程度高齢であったといえる。また,A5は女性であり,これらの危険因子を有していたということができる。 エ判断控訴人A5の被曝線量は全体としてもかなり低い。甲状腺機能低下症と放射線被曝との間には一般的な関連性があると認められるが,控訴人A5は,甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の治療として投与された放射性ヨードの影響を受けて甲状腺機能低下症を発症したとの合理的な疑いがある。 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)と放射線被曝との間に仮に関連性があるとしてもかなり限定的であると判断されるところ,控訴人A5の上記被曝線量は,甲状腺機能亢進症の発症に影響を与えるものとは考え難い。仮に甲状腺機能低下症が医原性でないとしても,被曝の程度,性別及び発症年齢等を総合的に考慮すると,被爆時年齢が若年であったとしても,控訴人 A5において広島原爆の放射線被曝により甲状腺機能低下症を発症したこ とを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件控訴人A5申請に係る甲状腺機能低下 A5において広島原爆の放射線被曝により甲状腺機能低下症を発症したこ とを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件控訴人A5申請に係る甲状腺機能低下症について放射線起因性があるとは認められない。 争点 イ(甲状腺機能低下症に要医療性があるか。)について判断を要しない。 まとめ本件控訴人A5申請に係る甲状腺機能低下症は放射線起因性の要件を満たさない。 6 控訴人A6 認定事実 証拠(甲C15,控訴人A6本人のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A6(当時1歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された当時,爆心地から約2.3km離れた広島市愛宕町の控訴人A6の母 の実家建物(木造平屋建て)にいた。控訴人A6は,すぐに自宅の庭に設けていた防空壕に避難した。 控訴人A6は,被爆の後,母親が実家近くの川に洗濯に行ったり,田舎まで買い出しに行ったりする際,いつも背負われて一緒に出歩いていた。 控訴人A6は,被爆後約半年の間,下痢及び発熱の症状があった。 イ申請疾病控訴人A6は,昭和49年(当時30歳)頃,検診で高血圧を指摘された(乙C15の38)。この頃の血圧は,収縮期血圧が160~170mmHg程度であった(乙C15の39〔1,8,32頁〕)。 控訴人A6は,昭和62年(当時42歳),検診で血圧が収縮期血圧1 80~190mmHg,拡張期血圧120~130mmHgと高値であったので,同年12月23日,広島大学病院第一内科を受診した。同日の血圧は,収縮期血圧224mmHg,拡張期血圧132mmHgであり,入院して精査するこ ,拡張期血圧120~130mmHgと高値であったので,同年12月23日,広島大学病院第一内科を受診した。同日の血圧は,収縮期血圧224mmHg,拡張期血圧132mmHgであり,入院して精査することになった。昭和63年1月4日外来受診時の血圧も,収縮期血圧208mmHg,拡張期血圧118mmHgであっ た。(乙C15の39〔8,24頁〕)控訴人A6は,昭和63年1月8日,広島大学病院第一内科に入院した。入院中,常塩,減塩及び増塩による血圧の変動を観察するとともに,血漿レニン活性等が測定され,二次性高血圧の可能性が検討された。常塩後,減塩後及び増塩後の各血圧(収縮期血圧/拡張期血圧)は,それ ぞれ138/93,131/80,158/98mmHg(平均108,97,118mmHg)であった。控訴人A6は,血圧が塩化ナトリウム(NaCl)の量に依存しており,二次性高血圧の可能性も除外されたことから,本態性高血圧(食塩依存性高血圧)であると診断された。 そして,今後は食事において食塩を制限することが血圧を低く保つため に必要で,肥満もあるため体重を減らすこと(当時の身長157cm,体重70kg)も大事であるなどと指導され,同年2月5日退院した(乙C15の1〔329頁〕,乙C15の39〔7~9,13頁〕)。 控訴人A6は,広島大学病院第一内科を外来受診していたところ,昭和63年5月頃,血圧のコントロールが不良(収縮期血圧180~22 0mmHg,拡張期血圧100~140mmHg)であるとして,入院を勧められたが,自己の都合で入院しなかった。 控訴人A6は,昭和63年12月26日(当時44歳),急性気管支炎の加療及び高血圧コントロールの目的で広島大学病院第一内科に入院した(2回目)。入院中,カルシウム拮抗薬の投与のほ 入院しなかった。 控訴人A6は,昭和63年12月26日(当時44歳),急性気管支炎の加療及び高血圧コントロールの目的で広島大学病院第一内科に入院した(2回目)。入院中,カルシウム拮抗薬の投与のほか,約31%の肥満 があるため,カロリー制限(1250kcal)及び減塩(7g)をし たところ,外来受診時の血圧(収縮期血圧200~220mmHg,拡張期血圧110~140mmHg)が徐々に低下して,それぞれ160~180mmHg,100~110mmHgとなった。カルシウム拮抗薬に有意な血圧降下の効果が認められた。控訴人A6は,他の薬剤の効果を確認するため外来受診を継続することとして,平成元年2月1日退 院した。 なお,血液検査において,ヘモグロビンが10.7g/dℓ(女性の基準値12g/dℓ以上〔乙C15の32〕,11~16g/dℓ〔乙C15の33〕又は11.3~15.5g/dℓ〔乙B102〕),MCV(赤血球の平均の大きさ)が82.6fℓ(同基準値80~100fℓ),MCH (赤血球1個に含まれるヘモグロビンの量)が27.4pg(同基準値27~34pg)であったところ(乙C15の33),子宮筋腫等を疑わせる症状がなく,鉄欠乏性貧血として加療がされた。退院時のヘモグロビンは11.0g/dℓであった。(乙C15の39〔3,4,24,27~29頁〕) 控訴人A6は,平成元年6月頃から血圧が収縮期血圧200mmHg,拡張期血圧130mmHgと上昇したため,同年8月1日から同年9月18日まで,広島大学病院第一内科に入院した(3回目)。カルシウム拮抗薬の投与により,投与前の血圧(収縮期血圧170mmHg,拡張期血圧110mmHg)が徐々に低下し,それぞれ130~140mmH g,90~100mm 内科に入院した(3回目)。カルシウム拮抗薬の投与により,投与前の血圧(収縮期血圧170mmHg,拡張期血圧110mmHg)が徐々に低下し,それぞれ130~140mmH g,90~100mmHgと落ち着いた。控訴人A6は,平成元年9月18日,胆のう摘出術のため同病院第二外科に転科し,同年10月24日退院した。同病院第一内科入院中のヘモグロビンは,12.4(同年8月25日)~13.4g/dℓ(同月2日)であった。(乙C15の39〔31~36頁〕) 控訴人A6は,平成元年11月以降,広島大学病院第一内科を外来受 診していたが,血圧につき,収縮期血圧は190mmHg以上,拡張期血圧は110mmHg以上などと高い状態が続き,平成2年9月27日,高血圧治療目的で同科に入院した(4回目)ところ,食事制限,減塩及び薬物投与の結果,収縮期血圧160mmHg程度,拡張期血圧100mmHg程度までコントロールされ,同年10月29日退院した。入院 中のヘモグロビンは,10.9g/dℓ(同月22日)~11.2g/dℓ(同月1日)であった。(乙C15の39〔37~49頁〕)控訴人A6は,広島大学病院第一内科の外来受診を継続していた。平成3年以降変動が大きいが,概ね,収縮期血圧が170mmHg以上,拡張期血圧が110mmHg以上と,依然として血圧が高く,平成4年 以降は胸痛を感じるようになった。そこで,控訴人A6は,平成4年7月31日,虚血性心疾患の精査及び血圧コントロールの目的で同科に入院した(5回目)。心臓カテーテルが実施され,狭心症と診断された。また,鉄欠乏性貧血があるとされ,鉄剤が処方された結果,同年8月31日,ヘモグロビンは9.9g/dℓとなった。血圧は,収縮期血圧が14 0~150mmHg程度 が実施され,狭心症と診断された。また,鉄欠乏性貧血があるとされ,鉄剤が処方された結果,同年8月31日,ヘモグロビンは9.9g/dℓとなった。血圧は,収縮期血圧が14 0~150mmHg程度,拡張期血圧が100mmHg程度で安定し,同年9月7日退院した。(乙C15の39〔52~70,73~78頁〕)控訴人A6は,その後も概ね,収縮期血圧が180mmHg以上,拡張期血圧が110mmHg以上と血圧が高く,平成6年9月16日,血圧コントロール及び悪性腫瘍精査のため,広島大学病院第一内科に入院 した(6回目)。入院時の血圧は収縮期血圧182mmHg,拡張期血圧114mmHgであったが,減塩(7g)により1週間後にはそれぞれ160mmHg,90mmHgに低下し,降圧薬の内服開始によりそれぞれ140mmHg,80mmHg台で良好にコントロールされるようになった。悪性腫瘍の所見はなく,同年10月13日退院となった。入 院中のヘモグロビンは,11.5g/dℓ(同月6日)~12.6g/d ℓ(同年9月19日)であった。(乙C15の39〔67,71,72,82~90頁〕)控訴人A6は,広島大学病院第一内科の外来受診を継続していたが,依然として,収縮期血圧が180mmHg以上,拡張期血圧が110mmHg以上と血圧が高い状態が続いていた。 控訴人A6の平成9年10月1日(当時53歳)の総コレステロールは,253mg/dℓであった。血清クレアチニン0.75mg/dℓから推算されるeGFRは62.8であった。ヘモグロビンは,12.8g/dℓ(平成7年1月25日)等であり,異常値を示したことはなかった。(乙C15の39〔84,91~108頁〕)。 控訴人A6は,平成10年4月27日(当時53歳),突然 ンは,12.8g/dℓ(平成7年1月25日)等であり,異常値を示したことはなかった。(乙C15の39〔84,91~108頁〕)。 控訴人A6は,平成10年4月27日(当時53歳),突然呂律が回らなくなり,立ち上がろうとした時に,ふらつき及び左半身下肢の脱力を認めて,転倒した。広島大学病院第一内科に救急搬送され,緊急入院となった(7回目)。入院時の血圧は,収縮期血圧220mmHg,拡張期血圧110mmHgと高く,頭部CTにより右視床に出血巣の存在が確 認され,脳出血と診断された。止血剤等の静脈注射がされたところ,症状が改善したため,今後血圧をコントロールすることにより再出血を予防することとして,同年6月3日退院した。左不全麻痺及び視床痛が残存し,独歩は可能であるものの,跛行のため長距離の歩行は難しいとされた。(乙C15の39〔109~114,138頁〕) 控訴人A6は,広島大学病院第一内科の外来受診を継続していた。血圧は,変動が大きいものの,概ね,収縮期血圧が140mmHg以上,拡張期血圧が90mmHg以上であり,以前の測定値と比べて低めにコントロールされていた。 控訴人A6は,平成11年3月17日(当時54歳)の血液検査の結 果,クレアチニンは0.76mg/dℓであり,推算されるeGFRは6 1.6であった。同様に,平成12年3月15日(当時55歳),クレアチニン0.83mg/dℓから推算されるeGFRは55.7であり,総コレステロールは237mg/dℓであった。(乙C15の39〔117~125頁〕)控訴人A6は,平成13年2月19日(当時56歳),広島大学病院放 射線部において頭部単純MRI検査を受けたところ,古い出血巣のほか,両大脳白質等の広範囲に虚血性病変を示唆す ~125頁〕)控訴人A6は,平成13年2月19日(当時56歳),広島大学病院放 射線部において頭部単純MRI検査を受けたところ,古い出血巣のほか,両大脳白質等の広範囲に虚血性病変を示唆する高信号域が認められたとして,多発性脳梗塞,陳旧性右視床出血と診断された。血圧は,収縮期血圧が120~150mmHg程度,拡張期血圧が70~90mmHg程度までにコントロールされていたが,徐々に上昇するようになった。 (乙C15の39〔125~136,141頁〕)控訴人A6は,平成15年8月27日(当時59歳)の血液検査の結果,クレアチニンは0.79mg/dℓであり,推算されるeGFRは57.6であった。同様に,平成16年2月9日の同検査の結果,クレアチニン0.77mg/dℓから推算されるeGFRは59.2であった。 また,総コレステロールは,平成16年8月25日は279mg/dℓ,平成17年1月14日は232mg/dℓであったが,正常範囲内を示したこともあった。(乙C15の39〔137頁〕)控訴人A6は,血液検査において原発性アルドステロン症の疑いがあるとして,平成17年1月13日(当時60歳),広島大学病院第一内科 に入院した(8回目)。入院時の血圧は収縮期血圧154mmHg,拡張期血圧66mmHgであった。同月18日の血液検査の結果,クレアチニンは0.79mg/dℓであり,推算されるeGFRは57.3であった。また,総コレステロールは232mg/dℓであった。 控訴人A6は,入院中に各種試験及び副腎静脈サンプリング(前提事 を受け,原発性アルドステロン症(アルドステロン産生腺種) と確定診断された。そして,治療の第一選択は腫瘍摘出手術であるが,血圧コントロールが良好であり,画像上明 グ(前提事 を受け,原発性アルドステロン症(アルドステロン産生腺種) と確定診断された。そして,治療の第一選択は腫瘍摘出手術であるが,血圧コントロールが良好であり,画像上明らかな線種が指摘されないことから,自宅での血圧観察を続けることになり,同年2月9日退院した。 その後,控訴人A6の血圧は低下し,平成18年後半以降,収縮期血圧は100~110mmHg程度,拡張期血圧は60~70mmHg程 度でそれぞれ推移するようになった。 (乙C15の1〔343,344頁〕・39〔138~148頁〕)控訴人A6は,平成18年4月21日(当時61歳),広島赤十字・原爆病院放射線科において頭部単純MRI検査を受けたところ,深部白質を中心に高信号域が広がり,慢性虚血が推測されるとされ,右視床出血 後遺症,多発性脳梗塞と診断された。 平成19年4月9日(当時62歳)の頭部単純MRI検査では,新たな狭窄や動脈瘤は認められないとされ,右視床出血後ラクナ梗塞と診断された。(乙C15の1〔330,331,340頁〕・40)控訴人A6が平成18年4月24日に受けた血液検査の結果,ヘモグ ロビンは12.3g/dℓであり,同様に,同年7月7日は11.4g/dℓ,平成20年10月28日は12.2g/dℓであった。控訴人A6は,平成7年以降,鉄剤の服用をしていない。(乙C15の1〔329,330,345頁〕・12〔357頁〕)控訴人A6は,平成18年7月7日(当時62歳),広島赤十字・原爆 病院腎臓内科において,腎不全が認められるとされ,尿蛋白は陰性であったが両腎ともに軽度の萎縮があった(乙C15の40)。 広島大学病院腎臓内科においては,平成19年10月15日,腎機能には問題がないとされた(乙C15の39〔 が認められるとされ,尿蛋白は陰性であったが両腎ともに軽度の萎縮があった(乙C15の40)。 広島大学病院腎臓内科においては,平成19年10月15日,腎機能には問題がないとされた(乙C15の39〔145頁〕)。 控訴人A6は,平成19年9月25日(当時63歳),広島赤十字・原 爆病院において,甲状腺機能検査を受けたところ,FT4が0.73n g/dℓ(基準値0.70~1.48ng/dℓ),FT3が1.66pg/mℓ(同1.71~3.71pg/mℓ),TSHが6.87μU/mℓ(同0.35~4.94μU/mℓ)とFT3及びTSHが異常値であり,チラーヂンSの投与が開始された(甲C15の3,乙C15の36)。 控訴人A6は,平成19年10月2日,広島赤十字・原爆病院におい て,再度甲状腺機能検査を受けたところ,FT4が0.70ng/dℓ,FT3が1.61pg/mℓ,TSHが7.6μU/mℓであった。(乙C15の12〔357,372頁〕)控訴人A6は,チラーヂンSを1日50μg服用していたところ,平成22年3月23日,広島赤十字・原爆病院において受けた甲状腺機能 検査の結果は,FT4が1.31ng/dℓ,FT3が2.76pg/mℓ,TSHが0.12μU/mℓであった(乙C15の12〔370,371頁〕)。 ウ生活習慣控訴人A6は,これまでに喫煙をしたことはない。病歴要約(乙C15 の39〔138頁〕)には,平成17年2月時点において,日本酒1日1合40年間の飲酒歴,1日5本以上50年間の喫煙歴があったとする記載があるが,第一内科外来カルテ(乙C15の39〔1頁〕),退院時所見(同〔32頁〕)ほかに同旨の記載はなく,控訴人A6も否定する供述(19頁)をしていること 本以上50年間の喫煙歴があったとする記載があるが,第一内科外来カルテ(乙C15の39〔1頁〕),退院時所見(同〔32頁〕)ほかに同旨の記載はなく,控訴人A6も否定する供述(19頁)をしていることから,上記喫煙歴に関する記載は誤記と認められる。 エ事実認定の補足説明控訴人A6は,被爆当時の記憶はなく,被爆時の状況,被爆後の行動に関する供述は全て母親からの伝聞に基づくものであるが(控訴人A6本人〔1頁〕),急性症状に関し,脱毛があったとする点以外は一貫性があり(脱毛があったとする点は,異議申立書〔乙C15の20〕に記載がなく,一 貫性があるとはいい難い。),その内容も不自然な部分はなく,信用性を減 殺すべき客観的証拠の存在も認められないから,上記アのとおり認定することができる。黒い雨に遭ったことは,控訴人A6が尋問において否定する供述をしているから(4頁),認めることはできない。 放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度 控訴人A6の被曝線量は,初期放射線につき,爆心地から約2.3kmの木造建物内で被爆したとして,DS02によれば,約0.01778グレイと推定される(乙C15の30)。 しかし,控訴人A6は,被爆時1歳と極めて若年であり放射線感受性が高いと考えられるところ,被爆後の行動や,下痢及び発熱の症状が現 れたことも併せ考慮すると,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 これに対し,被控訴人は,控訴人A6がおよそ0.1グレイを上回る被曝をしたとは考え難い旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でな いというべきである。被控訴 A6がおよそ0.1グレイを上回る被曝をしたとは考え難い旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でな いというべきである。被控訴人の上記主張は,採用することができない。 イ高血圧症と放射線被曝との関連性控訴人A6の申請疾病の一つは高血圧症であるところ,イのとおり,高血圧と放射線被曝との間の関連性があることを示唆する疫学的知見があるものの,その程度は限定的であることが認められる。 なお,高血圧につき,本態性高血圧と二次性高血圧に区別して,放射線被曝との関連性を検討した知見は見当たらない。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A6は原発性アルドステロン症と診断されたのであり,控訴人A6の高血圧は二次性である。原発性アルドステロン症の原因 は副腎の病変(腫瘍又は過形成)であり,その成因は不明であるとされる 。 エ判断以上のとおり,控訴人A6は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。しかし,その高血圧が本態性であれ二次性(原発性アルドステロン症)であれ,放射線被曝との間に関連性 があるとしてもその程度は限定的なものと考えられるところ,控訴人A6の放射線被曝が高血圧を発症させる程度に高線量であったとは認め難い。 よって,本件控訴人A6申請に係る高血圧症については,放射線起因性があるとは認められない。 )について 判断を要しない。 争点 ウ(脳出血後遺症及び脳梗塞にそれぞれ放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度 認定説示のとおりである。 イ脳出血及び脳梗塞と放射線被曝との関連性控訴人A6の申請疾病に脳出血後遺症及び脳梗塞があるとこ 性があるか。)についてア被曝の程度 認定説示のとおりである。 イ脳出血及び脳梗塞と放射線被曝との関連性控訴人A6の申請疾病に脳出血後遺症及び脳梗塞があるところ,脳出血及び梗塞と比較すると相対的に程度が低いものの,一般的な関連性があることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A6は,当初,本態性高血圧と診断され,高血圧の加療目的による入院を繰り返し,外来受診も継続していたところ,高血圧の程度も非常に高く,期間もかなり長期に及んだのであり,脳出血及び脳梗塞(ラクナ梗塞)に共通する最大の危険因子 があった。また,控訴人A6の原発性アルドステロン症も,脳出 血及び脳梗塞の危険因子である)。他方,控訴人A6は,腎不全(CKD)があったが,その程度は軽度ないし中等度の腎機能の低下にすぎず,脳卒中(女性では特に脳梗塞)の危険因子としてさほど重くみることはできない。脂質異常症も同様であり,総コレステロールが基準値を上回ることがあった ものの,重くみることは相当でない。 なお,控訴人A6は,慢性腎臓病(CKD)及び脂質異常症に放射線被曝が関与している旨を主張する。CKDについて,世羅至子(放影研)ほか「原爆被爆者における慢性腎臓病と心血管疾患危険因子との関連」(甲B47の9,乙B259,260)は,慢性腎臓病と放射線量との間に関連 があり(1グレイ当たりのオッズ比1.29,P値=0.038,95%信頼区間1.01~1.63),重度腎機能障害(ただし,対象者が16人と少数であった。)にあっては強い関連がある(1グレイ当たりのオッズ比3.19,P値<0.001,95%信頼区間1.63~6.25)などと報告する。しかし,上記説示のとおり (ただし,対象者が16人と少数であった。)にあっては強い関連がある(1グレイ当たりのオッズ比3.19,P値<0.001,95%信頼区間1.63~6.25)などと報告する。しかし,上記説示のとおり,控訴人A6のCKDは軽度ない し中等度の腎機能低下にすぎず,脳出血及び脳梗塞の危険因子として有力なものとは考えられない。脂質異常症についても関連性の存在を示唆する疫学的知見があるものの,その程度は限定的であると認められる上,控訴人A6の総コレステロール値からすると,上記危険因子として有力であるということはできない。 エ判断控訴人A6は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。しかし,控訴人A6は,脳出血及び脳梗塞の最大の危険因子である高血圧症に罹患していたのであり,その程度及び期間を考慮すると,高血圧症が脳出血及び脳梗塞の発症に大きく寄与したものと して重く考えざるを得ない(控訴人A6の高血圧それ自体の放射線起因性 が否定されることは,A6の被曝線量が高いとまでは評価できないことや放射線被曝との関連性の程度に照らすと,控訴人A6は,もっぱら高血圧等の他の原因により脳出血及び脳梗塞を発症した可能性があると合理的に考えることができる。被爆時年齢が極めて若年であったこと等の事情を考慮しても,控訴人A6において放射 線被曝により脳出血及び脳梗塞を発症したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件控訴人A6申請に係る脳出血後遺症及び脳梗塞については,いずれも放射線起因性があるとは認められない。 争点 後遺症及び脳梗塞にそれぞれ要医療性があるか。)につ いていずれも判断を要しない。 争点 オ(本件控訴人A6申請 梗塞については,いずれも放射線起因性があるとは認められない。 争点 後遺症及び脳梗塞にそれぞれ要医療性があるか。)につ いていずれも判断を要しない。 争点 オ(本件控訴人A6申請時において貧血に罹患していたか。)について控訴人A6は,貧血に罹患している旨を主張する。 しかし,控訴人A6のヘモグロビンは,のとおりであり,控訴人A6は,以前に鉄欠乏性貧血の診断及び治療を受けたことがあったものの,貧血を申請疾病とする本件控訴人A6申請時(平成18年11月9日)においては,ヘモグロビンの値が貧血の基準値を満たしているとは認められない。広島大学病院のC14医師は,上記申請に係る認定申請書に添 付された意見書(乙C15の1〔329頁〕)に,疾病等の名称として貧血と記載し,その説明として,ヘモグロビンが11.6g/dℓと軽度に低値であるが鉄剤の内服なしに維持することができている旨を記載するところ,上記11.6g/dℓも,東京大学医学部附属病院検査部「血液検査の参考基準値表(主要検査項目のみ)」(平成23年6月改訂)(乙B102)による基準範 囲(11.3~15.5g/dℓ)内の値であり,同記載によっても罹患の事 実は認められない。このほか,同事実を認めるに足りる証拠はない。 要医療性があるか。)についていずれも判断を要しない。 争点 ク(甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。)について ア被曝の程度 認定説示のとおりである。 イ甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性控訴人A6の申請疾病の一つは甲状腺機能低下症であるところ,上記甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性 については,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができる 曝との関連性控訴人A6の申請疾病の一つは甲状腺機能低下症であるところ,上記甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性 については,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができる。 被控訴人は,控訴人A6は潜在性甲状腺機能低下症であるとした上,潜在性甲状腺機能低下症と放射線被曝との間に関連性はない旨を主張する。 しかし,控訴人A6のチラーヂン投与前におけるFT4,FT3及びFT3及びTSHがいずれも異常値であFT4も,同aの基準値を満たさない。),控訴人A6は顕性甲状腺機能低下症に罹患していたと認められる。被控訴人の上記主張は前提を欠き,採用する ことができない。 ウ他の原因(危険因子)控訴人A6は,63歳頃に甲状腺機能低下症を発症したと推認されるところ(上記),好発年齢で発症したといえる。また,女性に多い疾患控訴人A6は女性であり,これらの 危険因子を有していたということができる。 エ判断控訴人A6は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については,一定程度の低線量域も含めて,一般的に肯定することができるところ,控訴人A6は,被爆時1歳と極めて若年であり,放射線に対する感受 性が高かったといえる。そうすると,控訴人A6の性別及び甲状腺機能低下症を発した年齢を考慮しても,放射線被曝の影響が否定されるとはいい難く,放射線に被曝したことにより発症したものと見るのが合理的であるということができる。 よって,本件控訴人A6申請に係る甲状腺機能低下症については,放射 線起因性があると認められる。 争点 )について控訴人A6は,申請疾病を甲状腺機能低下症と とができる。 よって,本件控訴人A6申請に係る甲状腺機能低下症については,放射 線起因性があると認められる。 争点 )について控訴人A6は,申請疾病を甲状腺機能低下症とする本件控訴人A6申請時(平成20年12月15日)において,チラーヂンSを服用しており(乙C15の12〔356・357頁〕),当該治療が必要な状態が続いていたとい えるから,本件控訴人A6申請に係る甲状腺機能低下症については,要医療性があると認められる。 まとめ本件控訴人A6申請に係る貧血については罹患していたとは認められず,高血圧症,脳出血後遺症及び脳梗塞についてはいずれも放射線起因性の各要 件を満たさないが,甲状腺機能低下症については放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められる。上記申請を却下した処分のうち,申請疾病を甲状腺機能低下症とする部分は違法である(この点に限っては,争点3につき判断するまでもない。)。 7 控訴人A7 認定事実 証拠(第3事件甲C16の1,控訴人A7本人のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等 控訴人A7(当時7歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された当時,爆心地から約30km離れた広島県賀茂郡原村にいた。控訴人A7 は,当時,母G4及び姉G2とともに縁故疎開していた。(第3事件乙C1の1〔159,168頁〕)控訴人A7は,父G3,姉G5及び兄G1との連絡が取れなかったところ,G1は,昭和20年8月11日,広島の様子を知らせるため,原村を訪れた。控訴人A7は,翌12日,G1に連れられて,G2とともに,早 朝原村を出発 姉G5及び兄G1との連絡が取れなかったところ,G1は,昭和20年8月11日,広島の様子を知らせるため,原村を訪れた。控訴人A7は,翌12日,G1に連れられて,G2とともに,早 朝原村を出発し,徒歩で広島市内に向かった(G4は寝込んでいたため同行することができなかった。)。同日午後5時頃に同市猿猴橋町(爆心地から約1.8km)の自宅があった場所(自宅は壊れて瓦礫が散乱していた。)に到着し,その後,避難所となっていた近くの信用金庫において,G3及びG5と会った。その夜は,牛田新町(爆心地から約2.5km) のG3の知人宅に宿泊した。(第3事件甲C16の2,同事件乙C1の1〔150,153,158,159,161,162,166,168~174頁〕)控訴人A7は,昭和20年8月13日,G2とともに,同人の同級生を見舞うため,宇品町にある広島県立広島第二高等女学校(爆心地から約 3.3km)を訪れ(第3事件乙C16の12),同日夜は信用金庫に泊まった。 控訴人A7は,同月14日,G1,G5及びG2とともに,疎開先の原村に戻った。 (第3事件乙C1の1〔162,167,169~173頁〕)イ申請疾病 控訴人A7は,平成5年1月頃から呼吸が苦しくなり,又は負荷がか かると胸が締めつけられることが2~3分続くようなことがあった。そして,控訴人A7は,同年2月27日(当時55歳),急性心筋梗塞を発症し,広島市民病院に救急搬送され,即日入院した。入院中に,血栓溶解療法及び経皮的冠動脈形成術を受け,同年3月25日退院した。(第3事件乙C1の1〔154,155頁〕,16の11〔1~29頁〕) 控訴人A7は,平成11年2月23日(当時61歳)にも,広島市民病院において経皮的冠動脈形成術 同年3月25日退院した。(第3事件乙C1の1〔154,155頁〕,16の11〔1~29頁〕) 控訴人A7は,平成11年2月23日(当時61歳)にも,広島市民病院において経皮的冠動脈形成術を受けた(第3事件乙C1の1〔154頁〕)。 ウ生活習慣喫煙 控訴人A7は,昭和32年(当時20歳)頃から数十年もの間,1日20~30本もの喫煙をしていた。控訴人A7は,平成5年心筋梗塞を発症して入院中あり,平成19年5月時点でも,1日3~4本の喫煙をしていた。(第3事件乙C16の11〔3,27,36,37,40頁〕) 脂質異常症(高脂血症)控訴人A7は,平成5年4月21日に受けた血液検査の結果,総コレステロールが328mg/dℓ,LDLコレステロールが248.4mg/dℓ(計算により算出),HDLコレステロールが32mg/dℓ,トリグリセライドが238mg/dℓであり,高脂血症と診断された。治療薬 メバロチンの処方が開始され,同年8月11日には同シンレスタールも追加処方されるようになった。しかし,平成11年2月23日に2回目の経皮的冠動脈形成術を受けるまでの間,トリグリセライドは基準値上限程度にまで低下したが,総コレステロール及びLDLコレステロールはいずれも異常値(高値)が続き,基準値を大幅に上回ることもあった (平成10年5月27日は,総コレステロールが291mg/dℓ,LD Lコレステロールが224.8mg/dℓ〔計算により算出〕であった。)。 HDLコレステロールもずっと異常値(低値)であった。(第3事件乙C16の11〔28,29,33,69,70,73~75頁〕)エ事実認定の補足説明控訴人A7は,昭和20年8月13日以降,毎日のように袋町や十日 もずっと異常値(低値)であった。(第3事件乙C16の11〔28,29,33,69,70,73~75頁〕)エ事実認定の補足説明控訴人A7は,昭和20年8月13日以降,毎日のように袋町や十日 市町の親戚を訪ねるなどしていたのであり,同月14日に原村に戻ったことはなかった旨を主張する。これに沿う証拠として,認定申請書(第3事件乙C16の1〔150~153頁〕),異議申立書(同事件乙C1の6),陳述書(同事件甲C16の1)及び控訴人A7本人の供述がある。 しかし,G2は,自身及び控訴人A7の各被爆者手帳交付申請手続に 係る広島市による入市者面接聴取において,入市した日につき,昭和20年8月12日から同月14日までの3日間であり,入市日を覚えている理由につき,終戦の前日に広島市内から原村に帰ったところ,3日間同市内にいたので,逆算すると同月12日に入市したこととなるとし,同行者につき,G1及び控訴人A7と3人で終始行動を共にしたと回答 した。また,G2は,「8/14に姉G5,弟,兄G1と4人で帰った(帰りはリヤカーを引いて帰った)」,「8/15に疎開先で人より終戦を聞いた(玉音放送は聞いていない)」などとも回答した(第3事件乙C1の1〔170,171頁〕)。これらの回答内容は具体的であり何ら不自然な点は見受けられない。控訴人A7は,上記回答中の昭和20年8月14 日に帰ったとする場所は広島市猿猴橋町の自宅(跡地のバラック)である旨を主張する。しかし,控訴人A7と終始行動を共にしていたG2が同月15日に疎開先で終戦を聞いたとの上記回答と整合しない。広島市は,上記各申請手続に係る審査として,G5からも事情を聴取したところ,G5も,G2及び控訴人A7がG1に連れられて疎開先から広島市 内に帰って来て,数日 聞いたとの上記回答と整合しない。広島市は,上記各申請手続に係る審査として,G5からも事情を聴取したところ,G5も,G2及び控訴人A7がG1に連れられて疎開先から広島市 内に帰って来て,数日間市内に滞在したと述べたのであって(第3事件 乙C1の1〔173頁〕),G2の上記回答と整合する一方で,控訴人A7の上記供述等とそぐわない。控訴人A7の入市後の行動につき,同月14日までの行動は,G2の同級生を含む控訴人A7以外の第三者が関与して作成された証拠による裏付けがあるが(同〔166~174頁〕),同月15日以降の行動に関しては,控訴人A7の供述及びその記憶に基 づき本件控訴人A7申請以降に作成されたもの以外の証拠は存在していない。そして,控訴人A7の主張及び供述によれば,同人は,同月13日以降爆心地にかなり近接した地区を何度も通行し,相生橋の欄干に腐乱した死体が引っ掛かっているのを目撃したなど極めて衝撃的な経験をしたというのであるが(第3事件甲C16の2,控訴人A7本人〔10 頁〕),自身の被爆者健康手帳交付申請書(平成元年7月14日付け)中の,初めて入市した日を除く最初の2日間の経過を記載するよう指定された欄に,同月12日(初めて入市した日)及び同月13日の経過として,いずれもG2の上記回答に沿う内容を記載し,同月14日の経過については何ら記載しなかったのであり(第3事件乙C1の1〔161, 162頁〕),同月13日以降,控訴人A7が上記主張するような行動をとっていなかったことをうかがわせる。これらからすると,上記とおり,控訴人A7は,同月14日に原村に戻ったと認めることができるのであり,これに反する控訴人A7の供述等の証拠は採用することができない。 控訴人A7は,発熱,下痢等の急性 ると,上記とおり,控訴人A7は,同月14日に原村に戻ったと認めることができるのであり,これに反する控訴人A7の供述等の証拠は採用することができない。 控訴人A7は,発熱,下痢等の急性症状があった旨も主張し,これに沿う供述をする(第3事件甲C16の1,控訴人A7本人〔13,21頁〕)。 しかし,控訴人A7自身が作成した被爆者健康手帳交付申請書において,6か月以内に現れた症状につき,「発熱」,「下痢」,「脱毛」といった 選択肢があるにもかかわらず,「なにもなかった」を選択しているのであ り(第3事件乙C1の1〔159頁〕),これに反する控訴人A7の上記主張は採用し難い。なお,この点につき,控訴人A7は,被爆者健康手帳交付申請書の作成をG2に代行してもらったため,G2の誤った記憶に基づき記載された旨を主張する。しかし,本件控訴人A7申請に係る認定申請書の控訴人A7の自署(第3事件乙C1の1〔150頁〕)と上 記交付申請書における同人名義の署名は,その各筆跡がよく似ている。 これと対比してG2の筆跡を検討すると,同人の自署(同〔165,169頁〕)においては,例えば「新」の13画目がほぼ垂直に下ろされ,終点が止められているのに対し,上記交付申請書に記載された「G2」(同〔162頁〕)中の「新」の13画目は,左に反れて払うような記載 がされている。上記交付申請書が控訴人A7でなくG2により作成されたとは考え難い。加えて,直接被爆者でなければ申請できないと思って交付を申請してこなかったが,健康に不安を感じて強い思いをもって上記交付申請書を提出した(第3事件乙C1の1〔158頁〕)という控訴人A7が,上記症状の有無に関心を払わずにG2に任せ切りにしていた とも考え難く,控訴人A7において自ら上 強い思いをもって上記交付申請書を提出した(第3事件乙C1の1〔158頁〕)という控訴人A7が,上記症状の有無に関心を払わずにG2に任せ切りにしていた とも考え難く,控訴人A7において自ら上記交付申請の手続ができなかったことをうかがわせる事情も見当たらない。上記のとおり,上記交付申請書は控訴人A7が自ら作成したものと認めることができる。このほか,控訴人A7は,本人尋問において脱毛があった旨の供述をした(14頁)が,同控訴人の訴状及び陳述書(第3事件甲C16 の1)のいずれにも脱毛の記載がなく,主張,陳述と供述の変遷につき首肯するに足りる説明はない。以上を総合すると,控訴人A7に急性症状があったとの主張は採用することができない。 放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度 控訴人A7は,広島原爆投下の当時,爆心地から約30kmも離れた原 村にいたのであり,初期放射線による被曝をしたとは認められない。そして,控訴人A7が入市したのは上記投下から6日が経過した後の昭和20年8月12日夕方から同月14日までの実質的に2日間程度にすぎず,この間に,爆心地付近に接近したとも認められない。被爆後の急性症状がなかったことも併せ考慮すると,控訴人A7の被爆線量はごく微量にすぎず, 人体に健康影響が及ぶ程度に達していたといえるかは,極めて懐疑的に考えざるを得ない。 イ心筋梗塞と放射線被曝との関連性控訴人A7の申請疾病は心筋梗塞であるところ,のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には一般的な関連性があることが 認められる。 ウ他の原因(危険因子) 上記第1の4のとおり,心筋梗塞につき,その原因である動脈硬化との関連が深い,喫煙及び脂 曝との間には一般的な関連性があることが 認められる。 ウ他の原因(危険因子) 上記第1の4のとおり,心筋梗塞につき,その原因である動脈硬化との関連が深い,喫煙及び脂質異常症が危険因子であり,加齢とともに発症率が増加し,危険因子が重積することにより, リスクが急激に高まるとされている。 控訴人A7は,心筋梗塞を発症した当時,20歳頃からの長期に及ぶ1日20~30本もの喫煙歴があり,脂質異常症の程度も,正常範囲から大幅に逸脱する重度のものであった。 控訴人A7は,心筋梗塞の発症時,危険因子が重積している状態であ った。 控訴人A7は,喫煙の影響は,禁煙により比較的短期間に非禁煙者と同程度まで解消する旨を主張するが,そもそも控訴人A7は,心筋梗塞を発症するまで禁煙していないのであり,採用することができない。 また,控訴人A7は,脂質異常症に放射線被曝が関与している旨を主 張するが,があるものの,その程度は限定的であると認められる。 そして,控訴人A7は,喫煙及び脂質異常症は疫学研究に織り込み済みであり,放射線被曝によるリスク推定ににほとんど影響を及ぼさないであり採用することがで きず,長年にわたる喫煙歴があるなど個別具体的な事例において当該疾病が他の危険因子によって発症したものとみることが否定されるべきものではない。 エ判断そもそも控訴人A7は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射 線に被曝したとは認め難い。心筋梗塞は,一般的に放射線被曝との関連性がある疾病であるものの,控訴人A7において,心筋梗塞の発症に影響を与える程度の放射線に被曝したといえるかどうかは疑問がある。むしろ,控訴人A7が心筋梗塞の危険因子を重積的 的に放射線被曝との関連性がある疾病であるものの,控訴人A7において,心筋梗塞の発症に影響を与える程度の放射線に被曝したといえるかどうかは疑問がある。むしろ,控訴人A7が心筋梗塞の危険因子を重積的に有していたこと(控訴人A7の脂質異常症は,その被曝線量の程度からすると,放射線被曝との関連性 の存在を肯定するとしても,これにより引き起こされたとは認め難い。)に照らすと,発症年齢が比較的低年齢であったことを考慮しても,もっぱら他の原因により発症した可能性を合理的に否定することができず,控訴人A7において放射線被曝により心筋梗塞を発症したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件控訴人A7申請に係る心筋梗塞については,放射線起因性があるとは認められない。 争点 イ(心筋梗塞に要医療性があるか。)について判断を要しない。 まとめ 本件控訴人A7申請に係る心筋梗塞は放射線起因性の要件を満たさない。 8 控訴人A8認定事実証拠(第3事件甲C17の1・3,控訴人A8本人)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等 控訴人A8(当時16歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された当時,学徒動員で爆心地から約4.1km離れた広島市南観音町の三菱重工の製缶工場内にいた。工場の窓ガラスが割れ,屋根や外壁のスレートが飛び散ったが,怪我はしなかった。(第3事件乙C2の1〔633,634,641,644頁〕・8) 控訴人A8は,各自で避難するようにとの指示が出たことから,西大橋(爆心地から約2.2km),旭橋(同約2.4km)を渡り,己斐方面に逃れた。その後,庚午付近でトラック 644頁〕・8) 控訴人A8は,各自で避難するようにとの指示が出たことから,西大橋(爆心地から約2.2km),旭橋(同約2.4km)を渡り,己斐方面に逃れた。その後,庚午付近でトラックに乗せてもらい,廿日市駅から汽車に乗って,午後7時頃,大竹市内の自宅に帰り着いたが,その途中黒い雨を浴びた。 (第3事件甲C17の2,同事件乙C2の1〔634, 644頁〕・8)控訴人A8は,昭和20年8月8日午前8時頃上記製缶工場に出勤すると,己斐の旭山に行くよう指示されたが,広島市楠木町(爆心地から約1.4km)在住の伯父家族の安否が気がかりで,旭山には行かず,その安否を確認することとした。伯父も当時三菱重工の購買部に動員さ れており,控訴人A8は,伯父が通勤途中に被爆したものと考え,楠木町に向かい,途中,観音橋(同約1.7km),十日市町(同約0.7km),横川橋(同約1.2km)を通過して救護所を巡り,瀕死の人に触れるなどして伯父を探した。控訴人A8は,午後6時頃,横川駅(同約1.7km)から汽車に乗って自宅に帰った。 控訴人A8は,昭和20年8月9日も同様に,伯父を捜して,横川駅 を起点に伯父一家の自宅周辺や付近の救護所等を訪ねたが,同月10日から同月18日までは,午前中を中心に,かねて指示を受けていた旭山で木材運搬の作業に従事した。旭山は黒い雨の降った地域である。(第3事件甲C17の2,6,同事件乙C2の1〔635頁〕・7) 控訴人A8は,昭和20年8月下旬以降,全身のだるさ,血便,下痢 及び39度前後の発熱等の症状が現れた。これらの症状はそれぞれ約5日間続いた。(第3事件乙C2の1〔636頁〕)イ申請疾病控訴人A8は,平成20年9月25日(当時79歳),心 便,下痢 及び39度前後の発熱等の症状が現れた。これらの症状はそれぞれ約5日間続いた。(第3事件乙C2の1〔636頁〕)イ申請疾病控訴人A8は,平成20年9月25日(当時79歳),心筋梗塞を発症した。控訴人A8は,同月29日にC15内科胃腸科を受診し,C15医師 の診察を受けたところ,心筋梗塞の所見がみられたため,精査のため広島市民病院を紹介された。 控訴人A8は,平成20年10月8日広島市民病院に入院し,カテーテル検査を受けたところ,右冠動脈が99%,左冠動脈が75%,それぞれ閉塞していた。同月9日に経皮的冠動脈形成術が施行された。同月15日 に広島市民病院を退院し,以降,C15内科胃腸科で内服による通院治療を受けている。(第3事件乙C2の1〔639,648,653頁〕,17の17〔1頁〕)ウ生活習慣等喫煙 控訴人A8は,昭和47年(当時35歳)頃から約28年間,1日15~25本程度の喫煙をしていた(第3事件乙C17の17〔4頁〕)。 脂質異常症(高脂血症)控訴人A8は,昭和47年頃高脂血症と診断された(第3事件乙C17の17〔3頁〕・18〔18頁〕)。 控訴人A8は,平成10年8月26日,健康管理手当の支給を申請す るため,広島市民病院を受診した。血液検査の結果,総コレステロールが246mg/dℓ,LDLコレステロール158.4mg/dℓ(計算により算出),HDLコレステロールが47mg/dℓ,トリグリセライドが203mg/dℓであり,同月31日,ローコールが処方された(第3事件乙C17の18〔10,17,18頁〕)。 控訴人A8は,平成12年1月29日,風邪の症状を訴えて広島市民病院を受診した。血液検査の結果は,総コレステロールが231 ールが処方された(第3事件乙C17の18〔10,17,18頁〕)。 控訴人A8は,平成12年1月29日,風邪の症状を訴えて広島市民病院を受診した。血液検査の結果は,総コレステロールが231mg/dℓ,LDLコレステロール138.4mg/dℓ(計算により算出),HDLコレステロールが41mg/dℓ,トリグリセライドが258mg/dℓであった(第3事件乙C17の18〔10,17頁〕)。同年4月22 日,内服薬(エパデール)の処方が開始された(第2事件乙C7の20,第3事件乙C17の18〔15頁〕)。 以降,心筋梗塞の発症までの間,LDLコレステロール及びHDLコレステロールは,それぞれ一時的に基準範囲を上回り,又は下回ることがあったが,その程度はわずかであり,概ね基準範囲内にコントロール されていた。しかし,トリグリセライドは,一時的に基準範囲内となったことがあるものの,平成14年以降は概ね200mg/dℓを上回る値で推移し,平成19年7月17日には315mg/dℓとなって,同年11月22日に内服薬(トライコア)が追加処方された。なお,同年10月21日から心筋梗塞発症までは基準範囲内であった。(乙B178,第 3事件C17の18〔6,8~11,14頁〕) 動脈硬化の進行控訴人A8は,平成20年10月10日,足関節上腕血圧比検査を受けた。同検査の正常値は1.0~1.3であり,0.9以下の場合,主幹動脈の狭窄・閉塞が示唆され,0.91~0.99の場合,脳心血管 リスクの観点でのボーダーラインとされる(乙B178〔資料9〕)。検 査の結果,右足の値は1.19であったが,左足の値は0.69であった。この結果に基づき,入院診療録に,右下肢閉鎖性動脈硬化症の疑いとの病名(左下肢閉鎖 (乙B178〔資料9〕)。検 査の結果,右足の値は1.19であったが,左足の値は0.69であった。この結果に基づき,入院診療録に,右下肢閉鎖性動脈硬化症の疑いとの病名(左下肢閉鎖性動脈硬化症の誤記と解される。)が記載された。 (第3事件乙C2の1〔662頁〕,17の17〔7,10頁〕)平成21年4月15日及び同年12月14日に受けた足関節上腕血圧 比検査も,左足の値は0.7であった。 (第3事件乙C2の1〔668頁〕,17の17〔13,16頁〕)エ事実認定の補足説明控訴人A8は,広島原爆投下の当時,工場の外(屋外)にいた旨を主張し,これに沿う証拠として,陳述書(第3事件甲C17の1)及び控 訴人A8本人の供述がある。しかし,控訴人A8は,昭和48年2月5日付け被爆者健康手帳交付申請書(第3事件乙C2の1〔644頁〕)に,「屋内」又は「屋外」の選択肢がある被爆の状況欄につき「屋内」に該当するとした上で,さらに「木造」,「コンクリート」又は「石造」から選択することとされた部分に「スレート」と記載したのであり,屋外に いたとの上記主張は採用することができない。控訴人A8は,上記申請書に「屋根外壁のスレートが飛散りました」と記載したことから,外壁等が見える場所である屋外で被爆したとも主張するが,ガラスが割れた窓を通して屋内からも外壁等の飛散状況が見えた,又は屋外に出た後に同状況を見たことが推測されるのであり,同記載によって控訴人A8が 被爆時に屋外にいたとはいえない。控訴人A8が上記当時に負傷したとの主張も,上記申請書に,「けがは有りませんでした。」と明記したことから,採用することができない。 他方,被控訴人は,控訴人A8が黒い雨を浴びた事実,昭和20年8月8日以降に入市した事実 たとの主張も,上記申請書に,「けがは有りませんでした。」と明記したことから,採用することができない。 他方,被控訴人は,控訴人A8が黒い雨を浴びた事実,昭和20年8月8日以降に入市した事実及び急性症状があった事実を否認する。しか し,控訴人A8は,広島原爆の投下後,帰宅するまでの間に,黒い雨が 降った地域を通過して帰宅している。被控訴人は,入市及び急性症状につき,上記申請書に各記載がないことを指摘するが,同申請書は,書式上,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和32年法律第41号)2条1号の直接被爆者に該当するとして行う申請の場合(被爆者援護法制定附則3条1号,4条参照),入市及び急性症状の各記載を 求めていなかったのであるから,同各記載がないからといって,入市及び急性症状の各事実がなかったとはいえない。黒い雨を浴び,入市し,急性症状が生じた事実に関する控訴人A8の主張及び供述は,平成21年2月16日に本件控訴人A8申請がされた時点から概ね一貫しており,その内容も具体的で特段不自然な点が見当たらないことからすると,こ れを信用することができる。 控訴人A8は,昭和47年頃虚血性心疾患と診断された旨を主張し,これに沿う証拠として,C15医師が作成した意見書及び健康診断個人票(第3事件乙C2の1〔639,640頁〕),控訴人A8本人の供述(14頁)がある。 しかし,C15内科胃腸科における平成10年8月26日の診療録に,既往症として,控訴人A8が昭和47年頃に虚血性心疾患に罹患していたとの趣旨の記載があるとは認められない(乙C17の18〔18頁〕)。 また,控訴人A8が平成20年10月8日心筋梗塞の検査を受けるために広島市民病院を受診した際に作成した問診票にも,既往症として,昭 の趣旨の記載があるとは認められない(乙C17の18〔18頁〕)。 また,控訴人A8が平成20年10月8日心筋梗塞の検査を受けるために広島市民病院を受診した際に作成した問診票にも,既往症として,昭 和47年頃盲腸,同年頃から高脂血症,平成20年6月前立腺炎の各記載はあるものの,昭和47年頃虚血性心疾患に罹患したとは記載していない(乙C17の17〔3頁〕)。虚血性心疾患の疾病としての重大性(前に鑑みると,控訴人A8が真実虚血性心疾患に罹患していたとしたら,このことを心筋梗塞の検査に当たる医師に申告しなか ったとは考え難い。これらの記載と相反するC15医師の上記意見書等 及び控訴人A8の供述は信用することができず,上記主張は採用することができない。 控訴人A8は,1日5本程度の喫煙をしていたが,昭和32年(当時35歳)頃に禁煙した旨を主張する。確かに,平成20年10月8日の広島市民病院の外来診療録(第3事件乙C17の17〔2頁〕)には,こ れに沿う記載がある。しかし,平成21年4月中旬ころ作成の退院時サマリー(同〔4頁〕)には,「過去に25本/日×28年。」との記載があるほか,控訴人A8自ら,35歳頃から喫煙を始め,1日15~20本程度吸っていた旨を供述した(15,22頁)のであり,上記主張は採用することができない。 ア被曝の程度 控訴人A8の被曝線量は,初期放射線につき,DS02によれば,約0.0001グレイを下回ると推定され(第3事件乙C2の15),初期放射線による被曝線量は相当に低いということができる。 しかし,控訴人A8は,被爆時年齢が16歳と若年であり放射線感受性が高かったところ,広島原爆の投下当日に黒い雨を浴びており,また, による被曝線量は相当に低いということができる。 しかし,控訴人A8は,被爆時年齢が16歳と若年であり放射線感受性が高かったところ,広島原爆の投下当日に黒い雨を浴びており,また,昭和20年8月8日から同月18日まで,爆心地付近に入市して救護所等を回り,又は黒い雨が降った地域において作業に従事しており,この間に,呼吸等を介して誘導放射化された粉塵や放射性降下物の微粒子を 含む粉塵等を体内に取り込んだ可能性は高い。 そして,控訴人A8に,被爆後,下痢や発熱等の症状が現れたことも併せ考慮すると,控訴人A8は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 これに対し,被控訴人は,控訴人A8の被曝の程度は全体としても低 線量であった旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射性降下物に よる外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でないというべきである。被控訴人の上記主張は,採用することができない。 イ心筋梗塞と放射線被曝との関連性控訴人A8の申請疾病は心筋梗塞であるところ,のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には一般的な関連性があることが 認められる。 ウ他の原因(危険因子) fのとおり,心筋梗塞について,その原因である動脈硬化との関連が深い,喫煙及び脂質異常症が危険因子であり,加齢とともに発症率が増加し,危険因子が重積することにより, リスクが急激に高まるとされている。 控訴人A8が心筋梗塞を発症したのは79歳であったところイ),そのピーク年齢も超えるような年齢で発症したものであった(上記。また,控訴人A8は,昭和47年頃に高脂血症と診断され,平成12年4月以降,内服薬を が心筋梗塞を発症したのは79歳であったところイ),そのピーク年齢も超えるような年齢で発症したものであった(上記。また,控訴人A8は,昭和47年頃に高脂血症と診断され,平成12年4月以降,内服薬を服用し,LDLコレステロール及 びHDLコレステロールはいずれも概ね正常範囲内に保たれるようになったが,トリグリセライドは依然として相当に高い状態が継続していた。控訴人A8は,現に,心筋梗塞の発症時既に主幹動脈の狭窄・閉塞が示唆される状態であった。 そして,控訴人A8は,35歳頃から約28年間にもわたる喫煙歴が あり,喫煙本数も相当に多い。禁煙の効果について,上記るところ,控訴人A8が禁煙してから心筋梗塞を発症するまで約16年が経過していた一方で,それまでの喫煙量もかなりの程度に達していたのであるから,禁煙により,喫煙の影響はある程度小さくなっていたとはいえ,無視できる程度に低下 していたとみることは相当でない。 控訴人A8は,心筋梗塞の発症時,危険因子が重積している状態であった。 控訴人A8は,脂質異常症に放射線被曝が関与している旨を主張する存在するとしても,その程度は限定的であると認められる上,トリグリ セライドの上昇に関する知見は見当たらない。 喫煙及び脂質異常症の存在が放射線被曝によるリスク推定にほとんど影響を及ぼさない旨の控訴人A8の主張を採用することができないこと エ判断 控訴人A8は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。心筋梗塞と放射線被曝との関連性については,一般的に肯定することができる。 しかし,控訴人A8は,79歳という好発年齢のピークも過ぎたような高齢で心筋梗塞を発症したところ,脂質異常症 と認められる。心筋梗塞と放射線被曝との関連性については,一般的に肯定することができる。 しかし,控訴人A8は,79歳という好発年齢のピークも過ぎたような高齢で心筋梗塞を発症したところ,脂質異常症(高トリグリセライド血症) の状態が長期間継続しており,主幹動脈の狭窄・閉塞が示唆される状態であった。長期間にわたる多量の喫煙の影響も無視することはできない。そうすると,控訴人A8は,もっぱら加齢及び生活習慣に基づき心筋梗塞を発症した可能性があると合理的に考えることができる。被爆時年齢が若年であったこと等の事情を考慮しても,控訴人A8において放射線被曝によ り心筋梗塞を発症したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたものということはできない。 よって,本件控訴人A8申請に係る心筋梗塞については,放射線起因性があるとは認められない。 争点2要医療性があるか。)について 判断を要しない。 まとめ本件控訴人A8申請に係る心筋梗塞は放射線起因性の要件を満たさない。 9 控訴人A9認定事実掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア控訴人A9は,昭和46年,C10内科において甲状腺機能低下症と診断され,以降甲状腺ホルモン薬を投与された(第2事件乙C5の1〔226頁〕)。 イ控訴人A9は,平成3年4月26日以降,C9クリニックに通院し,1日当たりチラーヂンS50μgの投与を受けた。 これ以降の甲状腺機能検査の結果,概ね,TSHは0.1以下と異常値(低値)であり,FT4,FT3はいずれも正常範囲内又は異常値(高値)であった。(乙B179〔別紙2〕,第2事件C5の17〔238~245頁〕)ウ控訴人A9は,平成21年7 0.1以下と異常値(低値)であり,FT4,FT3はいずれも正常範囲内又は異常値(高値)であった。(乙B179〔別紙2〕,第2事件C5の17〔238~245頁〕)ウ控訴人A9は,平成21年7月28日からC8クリニックに通院し,C 8医師の診察を受けるようになり,引き続き,1日当たりチラーヂンS50μgの投与を受けた。本件控訴人A9申請は平成22年3月25日にされたところ,平成21年11月25日の甲状腺機能検査の結果,TSHは0.01μU/mℓ以下,FT4は0.83ng/dℓ,FT3は3.53pg/mℓであり(第2事件乙C5の18〔6頁〕),平成22年2月26日 の同結果も,TSHは0.01μU/mℓ以下,FT4は0.83ng/dℓ,FT3は3.1pg/mℓであった(同〔11頁〕)。その後も同様に,TSHは異常値(低値)であるが,FT4,FT3はいずれも正常範囲内であった(乙B179〔別紙2〕,第2事件乙C5の18)。 エ C8医師は,本件控訴人A9申請に際して添付された,平成22年3月 24日作成の意見書に,1日チラーヂンS50μg投与でFT4,FT3 はいずれも正常域であると記載し,同日付け健康診断個人票に,同年2月26日の検査結果(上記ウ)を記載した(ただし,TSHは0.01μU/mℓと記載した。)(第2事件乙C5の1〔226,227頁〕)。 また,C8医師は,本件控訴人A9申請に係る照会に対し,平成23年1月21日作成の「原爆症認定申請照会に対する回答事項」と題する書面 において,治療を開始する前の甲状腺ホルモン検査結果はC8クリニックにはない(昭和46年C10内科で甲状腺機能低下症と診断された)旨を記載した(第2事件乙C5の1〔235頁〕)。 A9申請時に甲状腺機能低下 する前の甲状腺ホルモン検査結果はC8クリニックにはない(昭和46年C10内科で甲状腺機能低下症と診断された)旨を記載した(第2事件乙C5の1〔235頁〕)。 A9申請時に甲状腺機能低下症に罹患していたか。)について アの各事実によると,控訴人A9が本件控訴人A9申請時に甲状腺機能低下症に罹患している根拠となる検査数値は存在しない。 イ控訴人A9は,昭和46年に甲状腺機能低下症と診断され,その後長期間にわたる通院及びチラーヂンSの服用の経過から,甲状腺機能低下症に罹患していたことが明らかである旨を主張し,これに沿う証拠としてD1 医師の意見(甲B48,第2事件甲C5の3,証人D1〔第2回・47頁〕)がある。 ,FT4,FT3はいずれも概ね正常範囲内又は異常値(高値)であり,TSHのみが異常値(低値)であったことからすると,チラーヂンSの服用が必要であるどころか,逆に過剰投与の疑い があることをうかがわせる(甲B48,乙B179,証人D1〔第3回・9頁〕,証人D2〔19頁〕)。上記通院及び経過の事実は,控訴人A9が甲状腺機能低下症に罹患していたことを基礎付けるものではない。この点について,控訴人A9は,チラーヂンSの処方は確定診断がされていなければ行われず,一度確定診断がされたら一生その処方が続く旨を主張するが, 甲状腺ホルモン製剤の服用を中止することができる場合や一過性甲状腺機 能低下症の場合もあるのであるから,必ずしもそのようにはいえない。控訴人A9は,主治医であるC8医師において,前医の診断を信頼し,そのまま従前の処方を継続するとの臨床現場の経験則に従い,チラーヂンSの投与を継続した旨を主張する。しかし,上記各場合である可能性があるところ,上記検査数値が明らかに おいて,前医の診断を信頼し,そのまま従前の処方を継続するとの臨床現場の経験則に従い,チラーヂンSの投与を継続した旨を主張する。しかし,上記各場合である可能性があるところ,上記検査数値が明らかになって もなお従前の処方を継続するとの経験則があるとは認められない。むしろ,D1医師(証人D1〔第2回平成28年9月21日実施・9,62頁〕)及びD2医師(乙B179,証人D2〔34頁〕)の各意見が一致するとおり,チラーヂンSの投与量を休止し又は減らし,FT4,FT3及びTSHの変化を観察するのが通常であるとうかがわれる。控訴人A9は,甲状腺機 能低下症であるとしたC10内科の診断につき特に疑うべき事情はないとも主張するが,上記検査数値の経過に照らし,合理的な疑いを差し挟む余地があるというべきである。D1医師は,チラーヂンSの過剰投与になっている可能性があるとしつつ,甲状腺機能低下症であるとみてよい旨を供述するが(第2回・48頁),的確な根拠を伴っていないというほかはない。 ウよって,控訴人A9が本件控訴人A9申請時に甲状腺機能低下症に罹患していたとは認められない。 争点 (甲状腺機能低下症に放射線起因性があるか。),同ウ(甲状腺機能低下症に要医療性があるか。)についていずれも判断を要しない。 まとめ本件控訴人A9申請に係る甲状腺機能低下症は罹患の事実が認められない。 10 控訴人A10 認定事実証拠(第2事件甲C7の1・12,控訴人A10本人のほか,掲記したも の)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A10(当時3歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された時,爆心地から約3km の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア被爆時の状況,被爆後の行動等控訴人A10(当時3歳)は,昭和20年8月6日広島原爆が投下された時,爆心地から約3km離れた広島市牛田町の自宅(木造平屋建て)に姉弟と一緒にいた。自宅建物の土壁が遮蔽となった。(第2事件乙C7の1〔54,68頁〕・6・23) 控訴人A10は,その際,火傷はしなかったが,額に1か所,ガラスの破片による外傷を負った(第2事件乙C7の23)。 控訴人A10は,その後,裏山に避難したが,戻ってくると自宅は焼失していた。そこで,自宅から約100m離れた伯父E1宅に避難した。 (第2事件乙C7の1〔68頁〕・25の1~3) 控訴人A10の父E2及び母E3は,原爆投下の当日,朝から広島市基町の陸軍倉庫(爆心地から約1.2km)で作業に従事中(第2事件甲C7の25の1,同7の26,第4事件乙C20の11)被爆した。 E3とE2は避難の途中動けなくなったが,E1夫婦に見つけられ,同人宅に避難することができた。しかし,E2は2日後の昭和20年8月 8日に死亡した。 控訴人A10は,その両親・E1夫婦・姉弟のほか,5名のいとことともに,E1宅で共同生活を送った。広島原爆が投下された当時,E1夫婦とその子ども2名(当時5歳,3歳)はともに爆心地から約2.3kmの地点におり,当時12歳の子どもは同約1.2kmの地点にいた。 (第2事件甲C7の4・20・28)控訴人A10は,その後約3年間,E1宅に居住した。 控訴人A10は,下痢等の急性症状はなかった(第2事件乙C7の23)。 イ申請疾病等 急性心筋梗塞 a 控訴人A10は,平成15年12月3日(当時62歳 人A10は,下痢等の急性症状はなかった(第2事件乙C7の23)。 イ申請疾病等 急性心筋梗塞 a 控訴人A10は,平成15年12月3日(当時62歳)夜,急に胸痛がしたため,C16クリニックを受診した。同月4日,同クリニックから紹介された広島市民病院循環器内科を受診し,入院することとなった。控訴人A10は,同科において不安定狭心症と診断され,心臓カテーテルによる検査・治療を受けた。(第2事件乙C7の13〔3 94頁〕・15〔7,8,40,41頁〕)b 控訴人A10は,平成21年3月31日(当時67歳)夕方,胸痛が現れ持続するため,同年4月1日広島市民病院循環器内科を受診し,同日入院して心臓カテーテルによる検査を受けた。この時経皮的冠動脈形成術が試みられたが,ガイドワイヤーが通過せず取り止められた。 ただし,末梢の血管の病変であり,心機能に影響はないと判断された。 控訴人A10は,急性心内膜下梗塞(急性心筋梗塞)と診断され,C16クリニックでの経過観察を続けることとされて,同月6日退院した。(第2事件乙C7の13〔394,414,443~445,481頁〕・15〔46頁〕) 白内障a 控訴人A10は,定期的にC18眼科医院を受診していたところ,平成17年8月26日(当時63歳),初めて左眼水晶体前嚢下混濁の所見が認められた。もっとも,この時点では,白内障とは診断されず,何ら治療もされなかった。控訴人A10の視力は,右0.6(矯正視 力1.5),左1.0(同1.5)であった(第2事件乙C7の10〔1,18頁〕)。 b 控訴人A10は,平成17年12月2日(当時64歳),白内障と診断され(診療録に「老人性白内障」と記載された。),以降,カリーユ (同1.5)であった(第2事件乙C7の10〔1,18頁〕)。 b 控訴人A10は,平成17年12月2日(当時64歳),白内障と診断され(診療録に「老人性白内障」と記載された。),以降,カリーユニ点眼液が処方されるようになった。控訴人A10の視力は,右0. 5(矯正視力1.5),左0.8(同1.5)であった(第2事件乙C 7の10〔1,5,18頁〕)。 c 控訴人A10は,平成22年5月6日(当時68歳),左眼の視力が0.7(矯正視力0.8)と低下し,平成23年春頃(当時69歳)から,左眼の視力障害を自覚するようになった。 控訴人A10は,平成24年2月4日(当時70歳),視力が右0. 1(矯正視力0.8),左0.5(矯正不可)であった。控訴人A10は,左白内障の手術を受けることを希望し,同月21日,同手術を目的として,C18眼科医院から広島市民病院眼科を紹介された。控訴人A10の白内障の所見は,両眼の前嚢下混濁及び左眼後嚢下の軽度混濁があり,病名は加齢性白内障(両眼)とされた。(第2事件乙C7 の10〔1,25,27,32頁〕)d 控訴人A10は,平成24年3月1日,広島市民病院眼科を受診し,担当のC17医師に対し,2~3年前から見えにくい旨を述べた。 控訴人A10は,同年5月7日上記病院に入院し,同月8日,左白内障手術(超音波摘出,眼内レンズ挿入)を受けた。手術時間は10 分であった。控訴人A10の左眼の手術後診断名は,皮質性加齢性白内障とされた。上記手術後の視力は,右0.15(矯正視力0.9),左0.8(同1.0)となった。控訴人A10は,同月10日退院し,C18眼科医院での経過観察を続けることとなった。 なお,右白内障に関して,C17医師から,同月7日,控訴人A1 0に対 ),左0.8(同1.0)となった。控訴人A10は,同月10日退院し,C18眼科医院での経過観察を続けることとなった。 なお,右白内障に関して,C17医師から,同月7日,控訴人A1 0に対し,「右の白内障は軽いので手術をせず様子を見ましょう。」と伝えられた。(第2事件乙C7の10〔33,34頁〕・13〔167,491,507,522,545頁〕)e 控訴人A10は,平成24年8月29日(当時70歳),右眼の視力が0.1(矯正視力0.8)と低下したが,手術はせずに経過観察を 続けることとした(第2事件乙C7の10〔1頁〕)。 控訴人A10は,平成30年2月20日(当時76歳),右眼の視力が0.02(矯正視力0.15)となり,同年4月16日,白内障手術を受けた(第2事件甲C7の29)。 控訴人A10は,平成29年9月8日,前立腺がんを申請疾病とする原爆症認定を受けた(第2事件甲C7の25の1~5)。 ウ生活習慣控訴人A10は,昭和36年(当時20歳)に喫煙を始め,20代前半には1日25本程度吸っていたが,その後,1日20本程度に減らし,昭和46年(当時30歳)に完全に禁煙した(乙C7の13〔397,499頁〕)。 血液検査等の結果a 総コレステロール等控訴人A10は,平成15年8月28日,血液検査を受けたところ,その結果は,総コレステロールが240mg/dℓ,LDLコレステロールが158mg/dℓ(計算により算出),HDLコレステロールが 45mg/dℓ,トリグリセライドが185mg/dℓであり,HDLコレステロールを除き,いずれも正常範囲外であった(第2事件乙C7の21〔4頁〕)。控訴人A10は,同年12月9日,C16クリニック 45mg/dℓ,トリグリセライドが185mg/dℓであり,HDLコレステロールを除き,いずれも正常範囲外であった(第2事件乙C7の21〔4頁〕)。控訴人A10は,同年12月9日,C16クリニックにおいて脂質異常症と診断され,治療薬メバロチンの処方が開始された。平成16年3月11日の血液検査の結果は,総コレステロー ルが196mg/dℓ,LDLコレステロールが130mg/dℓ,HDLコレステロールが50mg/dℓ,トリグリセライド80mg/dℓであり,いずれも正常範囲内となった。その後平成21年4月1日の心筋梗塞の発症に至るまで,LDLコレステロールは平成19年7月13日(142mg/dℓ)を除き正常範囲であり(なお,同日,脂質 異常症治療薬エパデール〔第2事件乙C7の20〕が追加処方された。), HDLコレステロールは平成20年4月17日,同年12月5日及び平成21年3月10日に39mg/dℓであったほか,いずれも正常値であった。他方,トリグリセライドは,メバロチンの処方開始以降しばらくは正常範囲内であったが,平成19年1月25日,159mg/dℓとなった以降異常値(同年5月1日は192mg/dℓに上昇し た。)を示し,上記エパデールの処方が開始された後,正常値(146mg/dℓ)を示したことがあったものの,再度上昇し,平成21年3月10日には209mg/dℓを示した。 平成21年4月1日の血液検査の結果は,LDLコレステロールが111mg/dℓ,HDLコレステロールが48mg/dℓ,トリグリ セライドが174mg/dℓであった。 (第2事件乙C7の13〔58,381,382,473頁〕・15〔8,17,34~36〕・21〔4頁〕)b 血糖値等控訴人A10は,平成16年3月1 イドが174mg/dℓであった。 (第2事件乙C7の13〔58,381,382,473頁〕・15〔8,17,34~36〕・21〔4頁〕)b 血糖値等控訴人A10は,平成16年3月11日の血液検査の結果,血糖が 214mg/dℓ(異常値),ヘモグロビンA1cが5.6%であり,糖尿病と診断された。しかし,その後心筋梗塞の発症に至るまで,血糖について,125mg/dℓ(平成19年5月1日),120mg/dℓ(平成21年3月10日)などと異常値を示すこともあったが,概ね正常範囲内であり,ヘモグロビンA1cも6%を上回ったことはな かった。 平成21年4月1日の血液検査の結果は,血糖が206mg/dℓ,ヘモグロビンA1cが6.2%であった。(第2事件乙C7の13〔58,381,473頁〕,15〔1,34~36頁〕)。 c 血圧 控訴人A10の血圧は,平成15年8月31日から同年9月8日ま で,収縮期血圧は130mmHg未満,拡張期血圧は同日を除き90mmHg未満(同日は99mmHg)であり,不安定狭心症を発症した同年12月4日,収縮期血圧は140mmHg,拡張期血圧は88mmHgであった。同月9日,高血圧症の治療薬アムロジピンの処方が開始された。その後急性心筋梗塞の発症に至るまで,平成19年4 月25日の小脳出血の発症時を除き,拡張期血圧が90mmHgを上回ることが数回あったが,収縮期・拡張期ともに,概ね正常域血圧を保っていた。(第2事件乙C7の13〔16,239,254,259,270~274,276,280,295頁〕・15〔8~23頁〕・21〔5~9頁〕,22〔3,6~9頁〕) 肥満控訴人A10は,急性心筋梗塞を発症した平成21年4月当時,身長174c 270~274,276,280,295頁〕・15〔8~23頁〕・21〔5~9頁〕,22〔3,6~9頁〕) 肥満控訴人A10は,急性心筋梗塞を発症した平成21年4月当時,身長174cm,体重76kgで,BMIは25.1であった。平成19年5月8日から平成21年4月1日までの間,BMIは,測定年月日により一定していないが,25前後で推移していた。(第2事件乙C7の13 〔292,409頁〕・22〔1・2・4・5頁〕)エ事実認定の補足説明控訴人A10は,被爆時,濡れ縁に出ていたのであり,土壁で遮蔽されておらず,顔面に火傷を負った旨及び急性症状として下痢が続いた旨を主張し,これに沿う証拠として陳述書(第2事件甲C7の1)及び控訴人A 10本人の供述(4,9,14,16頁)がある。 しかし,控訴人A10に係るABCC調査票(第2事件乙C7の23)につき,昭和24年8月8日調査において,控訴人A10の被爆時の位置として,「軒下」の選択肢があるのに,「木造建物の内部」に該当すると記載されたほか,昭和32年3月4日調査においても,遮蔽の状態として, 「日本式木造平家建内にて土壁にて遮蔽さる」と記載されたことに照らし, 控訴人A10が上記投下時に濡れ縁に出ていたとは認められない。同様に,ABCCの同調査に係る調査票には,原爆火傷及び火災火傷につきいずれも「None」と記載され,発熱,下痢等の症状についても全て「None」に該当するとの記載がされたのであり,これらと異なる控訴人A10の上記供述等がより信用性が高いと認めるべき事情はない。よって,同供 述等は採用することができず,このほか,上記主張を認めるに足りる証拠はない。 控訴人A10は,ABCC調査票の上記各記載はE3からの聴取に基づ 用性が高いと認めるべき事情はない。よって,同供 述等は採用することができず,このほか,上記主張を認めるに足りる証拠はない。 控訴人A10は,ABCC調査票の上記各記載はE3からの聴取に基づくところ,安易に信用することができない旨を主張し,E3が被爆により重傷を負ったにもかかわらず,同人の説明に基づいて作成された控訴人A 10に係るABCC調査票にE3に関して「症状なし健康」と記載されたこと(昭和32年3月4日調査),同様にE3が控訴人A10のために作成した昭和32年5月31日付け被爆者健康手帳交付申請書(第2事件乙C7の1〔67,68頁〕)にも,申立人E3の「被爆地」を控訴人A10とともにいたかのように「広島市牛田町」 と誤り,控訴人A10の爆心地からの距離も2.3kmと誤って申請したことを指摘する。 しかし,E3に対する昭和30年8月31日調査に基づき作成された同人に係るABCC調査票(第2事件甲C7の4)には,E3が被爆時に裂傷を負い,顔に原爆火傷もあったことが記載されており,控訴人A10に 係るABCC調査票におけるE3に関する「症状なし健康」との記載はあくまで昭和32年3月4日の調査時におけるものと解される(なお,E3〔被爆時33歳〕は,昭和38年〔51歳〕頃脳出血となり,昭和49年4月24日〔62歳〕死亡したが〔第2事件甲C7の12・20〕,上記調査時にE3の健康に問題があったことはうかがえない。)。また,E3に 係るABCC調査票(昭和24年8月10日調査)には,E3が被爆時に 爆心地から1232mの地点にいたとの記載がされており,これは,控訴人A10の被爆地からの距離として被爆者健康手帳交付申請書に記載された2.3kmとも真実の爆心地からの距離約3kmとも異なって 爆心地から1232mの地点にいたとの記載がされており,これは,控訴人A10の被爆地からの距離として被爆者健康手帳交付申請書に記載された2.3kmとも真実の爆心地からの距離約3kmとも異なっているから,E3が上記申請時に控訴人A10とともに被爆したと認識していたとは解し難い。E3は,上記申請書に牛田東(申請時)の地図を添付して控訴人 A10の被爆地を図示していることから,その爆心地からの距離の記載を誤ったにすぎないものと認められる。また,上記控訴人A10の被爆者健康手帳交付申請書の申立人E3の被爆地が牛田町とされたのは,「被爆地」住所記載欄と誤った可能性がある。ABCCのE3に対する調査に関して検討するに,E3は,昭 和24年8月10日にされたE3に対する調査の際,E2とともに被爆した際の模様,その後のE2の様子,E1夫婦に助けられるまでの二人の行動等を,詳細かつ具体的に迫真性をもって述べており(第2事件甲C7の4),記憶が良好であったことがうかがわれる。以上を総合すると,控訴人A10の被爆状況及び急性症状がなかったことに関する控訴人A10に係 るABCC調査票(第2事件乙C7の23)の上記各記載につき信用性を減殺させるべき事情があるとはいえない。控訴人A10の上記主張はいずれも採用することができない。 争点2急性心筋梗塞に放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度 控訴人A10の被曝線量は,初期放射線につき,爆心地から約3kmの地点で直接被爆したとして,DS02による屋外の推定線量約0.002グレイをさらに下回ると推定される(第2事件乙C7の8)。 しかし,控訴人A10は被爆時3歳と極めて若年であり放射線感受性が高いと考えられる上,原爆の投下当日から,両親を含む複数の 02グレイをさらに下回ると推定される(第2事件乙C7の8)。 しかし,控訴人A10は被爆時3歳と極めて若年であり放射線感受性が高いと考えられる上,原爆の投下当日から,両親を含む複数の近距離 被爆者とともに共同生活を送っており,同人らに付着していた,誘導放 射化された粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等に接触し,呼吸を通じ,又は額の傷口を介して,上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性は高い。また,誘導放射化された粉塵や放射性降下物の微粒子を含む粉塵等を,飲食を通じて体内に取り込むなどした可能性も否定することができず,残留放射線及び放射性降下物による放射線に相当程度被爆 したものと認められる。控訴人A10につき急性症状とみられる症状が生じなかったとしても,控訴人A10は,健康に対する影響があり得る程度の放射線に被曝した事実を認めるのが相当である。 これに対し,被控訴人は,控訴人A10の被曝線量は全体としても相当低い旨を主張するが,誘導放射化された物質や放射性降下物による外 部被曝や内部被曝を軽視している点において相当でないというべきである。被控訴人の上記主張は採用することができない。 イ心筋梗塞と放射線被曝との関連性控訴人A10の申請疾病の一つは急性心筋梗塞であるところ,上記第1のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には一般的な関連性 があることが認められる。 ウ他の原因(危険因子)について 硬化との関連が深い,喫煙,高血圧,脂質異常症,糖尿病及び肥満が危険因子であり,加齢とともに発症率が増加し,危険因子が重積すること により,リスクが急激に高まるとされている。 控訴人A10は,67歳で急性心筋梗塞を発症しており,発症 症,糖尿病及び肥満が危険因子であり,加齢とともに発症率が増加し,危険因子が重積すること により,リスクが急激に高まるとされている。 控訴人A10は,67歳で急性心筋梗塞を発症しており,発症のピーク年齢には達しないものの,心筋梗塞の好発年齢であった(上記第1のなお,ともに急性冠動脈群に分類される不安定狭心症の発症年齢は,62歳であった。)。 被控訴人は,控訴人A10に,喫煙,高血圧,脂質異常症,糖尿病及 び肥満があったと主張する。 しかし,喫煙について,控訴人A10は,20歳から約10年間の喫煙歴があるが,その後禁煙しており,喫煙の影響はかなりの程度小さくなっていたとみるのが相当である。また,高血圧及び糖尿病(耐糖能異常)については,検査結果からみて,いずれもその程度は 軽度であったといえ,肥満についても,BMIがわずかに基準値を上回っていた程度にすぎない。ただし,脂質異常症のうちトリグリセライドについては,基準値を上回る値(高トリグリセライド血症)で推移していた。 控訴人A10は,以上の限度で,急性心筋梗塞の発症時,危険因子が 重積している状態であった。 控訴人A10は,高血圧及び脂質異常症等に放射線被曝が関与してい射線被曝との間に関連性が存在するとしても,その程度は限定的であると認められる上,トリグリセライドの上昇に関する知見は見当たらない。 高血圧及び脂質異常症等の存在が放射線被曝によるリスク推定にほとんど影響を及ぼさない旨の控訴人A10の主張を採用することができな なお,控訴人A10は,糖尿病(耐糖能異常)にも放射線被曝が関与する旨を主張するが,膵臓は放射線感受性の低い臓器であると考えられ ている上,関連性を示す疫学 用することができな なお,控訴人A10は,糖尿病(耐糖能異常)にも放射線被曝が関与する旨を主張するが,膵臓は放射線感受性の低い臓器であると考えられ ている上,関連性を示す疫学的知見も見当たらず(第2事件乙B111,112),採用することができない。 エ判断控訴人A10は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。急性心筋梗塞と放射線被曝との関連性について は,一般的に肯定することができる。 そして,控訴人A10は,67歳というその好発年齢で急性心筋梗塞を発症したところ,喫煙,高血圧,糖尿病(耐糖能異常)及び肥満の各危険因子は,その程度等に照らすと,同発症に寄与した度合いを重くみることはできない。加えて,控訴人A10が,被爆時3歳と極めて若年で被爆したことも併せると,心筋梗塞発症時の年齢及び脂質異常症(高トリグリセ ライド血症)があったことを考慮しても,控訴人A10において,放射線に被曝したことによって急性心筋梗塞を発症したものとみるのが合理的であり,高度の蓋然性が証明されたということができる。 よって,本件控訴人A10申請に係る急性心筋梗塞については,放射線起因性があると認められる。 要医療性があるか。)について控訴人A10は,本件控訴人A10申請時において,内服薬を服用しており(第2事件乙C7の1〔55頁〕),当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件控訴人A10申請に係る心筋梗塞については,要医療性があると認められる。 白内障に放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度 とおりである。 イ白内障と放射線被曝との関連性控訴人A10の申請疾病の一つは白内障(両眼)で 白内障に放射線起因性があるか。)についてア被曝の程度 とおりである。 イ白内障と放射線被曝との関連性控訴人A10の申請疾病の一つは白内障(両眼)であるところ,上記第 ,その具体的症状や推移(放射線白内障の特徴と合致するか,被曝が原因の早発の加齢性白内障として矛盾しないか等)を慎重に観察して判断する必要があるというべきである。 ウ他の原因(危険因子)のとおり,加齢性白内障につき,60歳代では 初期混濁を含む有所見率が66~83%であるところ,後嚢下混濁は,加 齢性白内障において,皮質白内障,核白内障と比べて有所見率は低いものの3主病型の一つであるとされる。また,前嚢下混濁は,加齢性白内障の主病型ではないものの,副病型の中でしばしば見られる混濁であるとされている。 控訴人A10は,63歳で初めて左眼に前嚢下混濁の所見が認められ, 64歳で白内障と診断されたのであり,このことは,加齢性白内障の所見及び発症年齢と整合的であって,放射性白内障の特徴とは合致しない。控訴人A10は,平成24年2月時点において両眼の前嚢下混濁のほか左眼の後嚢下の軽度混濁が認められたものの(同c),この点も,加齢性白内障の所見と矛盾するところはない。発症年齢及び症状は, 他の原因(放射線被曝によらない加齢性白内障の可能性)として十分に考慮する必要があるというべきである。 なお,控訴人A10が糖尿病(耐糖能異常)であったとしてもその程度は軽微であったから(上記b),危険因子として特段考慮することは相当でない。 エ判断控訴人A10は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められ,白内障と放射線被曝との間には,所見及び発症 して特段考慮することは相当でない。 エ判断控訴人A10は,健康に対する影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められ,白内障と放射線被曝との間には,所見及び発症時期に関して一定の関連性があると認められる。しかし,控訴人A10の白内障については,左眼に後嚢下混濁があるもののその発症時期の点におい て放射線白内障の特徴に合致しておらず(後嚢下混濁のほか上記関連性に関する知見が集積している皮質混濁の所見はない。),かえって加齢性白内障の所見に整合的である上,発症年齢の点でみても早発の加齢性白内障であるとはいい難い。控訴人A10の白内障は加齢性白内障であると認めるのが相当であり,放射線被曝により白内障を発症したこと(混濁が発生し, 症状が進行したこと)を是認し得る高度の蓋然性が証明されたものという ことはできない。 よって,本件控訴人A10申請に係る白内障については,放射線起因性があるとは認められない。 判断を要しない。 まとめ本件控訴人A10申請に係る白内障については放射線起因性の要件を満たさないが,急性心筋梗塞については放射線起因性及び要医療性の各要件をいずれも満たしていたものと認められる。上記申請を却下した処分のうち,申請疾病を急性心筋梗塞とする部分は違法である(この点に限っては,争点3 につき判断するまでもない。)。 11 控訴人A11 認定事実証拠(第5事件甲C2のほか,掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア事実経過控訴人A11は,平成19年1月19日,C19眼科医院のC19医師の診察を受けた。控訴人A11の視力は,右0.1(矯正不能) の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。 ア事実経過控訴人A11は,平成19年1月19日,C19眼科医院のC19医師の診察を受けた。控訴人A11の視力は,右0.1(矯正不能),左0. 5(同)であった。 C19医師は,両眼とも,軽度から中等度の白内障であり,核と後嚢 下部分に混濁があるとともに,萎縮型加齢黄斑変性(後記イ)があると診断した(第5事件甲C1の2,同事件乙C3)。 C19医師は,控訴人A11の視力低下に対する影響は,白内障よりも黄斑変性の方が明らかに大きい状態であったことから,白内障については経過観察をすることとし,白内障のための点眼液の処方もしなかっ た。(第5事件甲C1の1) 控訴人A11は,平成20年6月4日,視力が右0.2,左0.5であり,両白内障について手術を希望した。C19医師は,中電病院眼科を紹介した。(第5事件甲C1の1)中電病院眼科の医師は,その後,控訴人A11を診察し,視力は右0. 1,左0.3であった。そして,確実に視力が回復するとはいえないが, 左眼のみ白内障手術をすることを提案した。控訴人A11は,平成20年12月19日,左白内障の手術を受けた。(第5事件甲C1の2)しかし,控訴人A11の左眼の視力は回復せず,平成26年9月6日の視力は,0.1(矯正不可)であった(第5事件乙C1)。 控訴人A11の右眼の視力は,平成26年9月6日,0.1であり, 本件控訴人A11申請をした同月18日当時,萎縮型加齢黄斑変性のため,相当低下していた(第5事件乙B15,同事件C1,3)。 C19医師は,本件控訴人A11申請に係る被控訴人からの照会に対し,控訴人A11の右白内障については,手術する可能性はあるとしつつも,萎 していた(第5事件乙B15,同事件C1,3)。 C19医師は,本件控訴人A11申請に係る被控訴人からの照会に対し,控訴人A11の右白内障については,手術する可能性はあるとしつつも,萎縮型加齢黄斑変性があるため,手術の予定はない旨の回答をし た(第5事件乙C3)。 C19医師は,平成27年11月30日,控訴人A11に対し,白内障の進行を抑えるためとして,カリーユニ点眼液を処方するようになった(第5事件乙C4)。 C19医師は,控訴人A11の右白内障の状態(混濁の程度,部位) のみを前提とすると,初診時から医学的には手術適応があるとの意見を述べている。 イ加齢黄斑変性に関する医学的知見黄斑とは,網膜の中心にある直径1.5~2mmの部分の名称であり,その中心は中心窩といい,見ているところからの光が当たる部位である。 黄斑が障害されると,網膜が正しく働かなくなり,視力の低下等が生じ る。(第5事件乙B2〔6,150頁〕,10,11)加齢黄斑変性は,加齢に伴い,網膜の裏打ちに当たる部分にある色素上皮細胞の異常によって直接的又は間接的に黄斑が障害される疾病である。変視症(中心部が歪んで見える。),視力低下,中心暗点(中心が見えなくなる。)及び色覚異常の症状がある。萎縮型と滲出型がある。 萎縮型では色素上皮細胞が萎縮し,視細胞が変性して,視力が低下する。広範囲に生じるため症状は軽くない。現在のところ,治療方法はない。(第5事件乙B2〔153頁〕,3〔161頁〕,10~12) 判断 ア要医療性の判断基準 A11は,右白内障につき,経過観察を受けていたものと認められる。 。 また,現に医療を 0~12) 判断 ア要医療性の判断基準 A11は,右白内障につき,経過観察を受けていたものと認められる。 。 また,現に医療を要する状態にあるかどうかは,医療特別手当の支給 が認定申請日の属する月の翌月に遡って支給すべきものとされていること(被爆者援護法24条4項)から,原爆症認定申請時を基準に判断すべきであると解するのが相当である。 イ判断控訴人A11の右白内障は,放射線白内障又は原爆放射線により早発し た加齢性白内障であるところ,そのいずれであっても,白内障の視力障害を改善するための治療方法は,手術以外にはない白内障に対する経過観察も手術適応の有無を判断することを目的とするものと認められる。そして,当該手術適応の有無の判断においては,日常生活におけ る支障があるか否かという患者の主観的な側面が重視されていること(同 との医学的必要性は認められるとしても,これが放射線白内障又は早発の加齢性白内障に対する積極的治療行為の一環であるとまではいえないし,控訴人A11の同各白内障に関する積極的治療行為の一環として経過観察が必要である旨の特別の指示が担当医からされたことをうかがわせる事情 も見当たらない。そもそも,控訴人A11の右白内障については,加齢黄の悪化の状況に応じて的確に治療行為をする必要があることから経過観察が行われているともいい難い。 以上の事情を総合考慮すると,控訴人A11の右白内障に対する経過観 察について,経過観察自体が右白内障を治療するために必要不可欠な行為であり,かつ,積極的治療行為の一環と評価できる特別の事情があると認めることはできない。 これに対し,控訴人A11は,加齢黄斑変性に罹患し て,経過観察自体が右白内障を治療するために必要不可欠な行為であり,かつ,積極的治療行為の一環と評価できる特別の事情があると認めることはできない。 これに対し,控訴人A11は,加齢黄斑変性に罹患していたという偶然の事情により要医療性がないと判断するのは不合理である旨を主張する。 しかし,医療特別手当については,健康管理手当や特別手当とは異なり,現に医療を要する状態にあることによって余儀なくされている入通院雑費や栄養補給等の特別の出費を補うこと等により生活の面の配慮をするという,特別の生活上あるいは健康上の状態に対して手当を支給する目的が含まれていると解すべきであり(令和2年最判参照),その理由が何であれ, 手術適応にない以上,上記特別の事情があるということはできない。また,控訴人A11は,カリーユニ点眼液が処方されていると主張するが,要医療性は,本件控訴人A11申請時である平成26年9月18日を基準に判断すべきであるところ,同処方が開始されたのは平成27年11月30日 ものではない。この点を措いても,カリーユニ点眼液は,加齢性白内障の 成因についてキノイド説(上記第1の4抑止を目的と障の治療は手術以外にはないのであるから,上記処方をもって,同各白内障に対する治療が現に行われていると認めることはできない。 まとめ よって,本件控訴人A11申請に係る右白内障については要医療性の要件を満たさない。 12 争点3(本件各処分につき行政手続法8条違反があるか。)について本件控訴人A2申請に対する処分,本件控訴人A3申請,本件控訴人A4申請及び本件控訴人A6申請に対する各処分(以上3名につきいずれも申請疾病 を甲状腺機能低下症とする部分)及び本件控訴人A10申請に対する処分(うち申 処分,本件控訴人A3申請,本件控訴人A4申請及び本件控訴人A6申請に対する各処分(以上3名につきいずれも申請疾病 を甲状腺機能低下症とする部分)及び本件控訴人A10申請に対する処分(うち申請疾病を急性心筋梗塞とする部分)を除く本件各処分につき,検討する。 行政手続法8条1項本文の規定によりどの程度の理由を提示すべきかは,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容 等を総合考慮して決すべきであり(同法14条1項についての最高裁判所平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照),原爆症認定の申請を却下する処分については,疾病・障害認定審査会に諮問された場合にはその審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性のいずれの要件を欠くものとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であるところ, 本件各処分に係る通知書の理由の記載からは,原爆症認定の要件が示された上で,疾病・障害認定審査会における審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性を欠くものとされたことが明らかである(乙C1の8,8の5,9の7,14の5,15の5・18,第2事件乙C5の6,同事件乙C7の4,第3事件乙C1の4,同事件乙C2の6,第5事件乙C2)。そうすると,本件 各処分が行政手続法8条に違反するものとはいえない(なお,本件A1申請及 び本件控訴人A9申請に対する処分について,被控訴人は,処分理由とは異なる理由を追加主張したが,この追加主張が許されることにつき,最高裁判所昭和53年9月19日第三小法廷判決・集民125号69頁,最高裁判所平成11年11月19日第二小法廷判決・民集53巻8号1862頁各参照 を追加主張したが,この追加主張が許されることにつき,最高裁判所昭和53年9月19日第三小法廷判決・集民125号69頁,最高裁判所平成11年11月19日第二小法廷判決・民集53巻8号1862頁各参照。)。 13 結論 控訴人A2の請求は理由があり,原判決中控訴人A2に関する部分は相当でないから,同部分を取り消し,その請求を認容することとする。また,控訴人A3,控訴人A4及び同A6の各請求は申請疾病をいずれも甲状腺機能低下症とする部分に限り,控訴人A10の請求は申請疾病を急性心筋梗塞とする部分に限り,それぞれ理由があり,原判決中同各控訴人に係る同各部分は相当でな いから,同各部分を取り消した上,同各部分に係る各請求を認容し,原判決中同各部分を除く部分は相当であるから,その余の本件各控訴をいずれも棄却することとする。その余の控訴人らの請求はいずれも理由がなく,原判決中同控訴人らに関する部分は相当であるから,同控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却することとする。 よって,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部 裁判長裁判官三木昌之 裁判官冨田美奈 裁判官長丈博は,てん補により署名押印することができない。 裁判長裁判官三木昌之

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