令和7年11月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和7年(ワ)第577号通常実施権の確認請求事件口頭弁論終結日令和7年10月3日判決 原告C同訴訟代理人弁護士中島清治 被告D 主文 1 原告の主位的請求を棄却する。 2 被告は、原告に対し、240万円及びこれに対する令和6年7月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求被告を特許権者とする特許権(特許第5945377号)について、原告が同特許権についての通常実施権を有していることを確認する。 2 予備的請求 主文第2項同旨第2 本判決における略称・本件特許(権) :特許第5945377号の登録特許(権)・ A :A・アトム社 :株式会社アトムジャパン ・ B :B ・本件契約書 :原告、A及び被告との間で作成された平成29年7月8日付け金銭消費貸借契約書(甲1)・本件覚書 :原告、A及び被告との間で作成された平成29年7月8日付け覚書(甲2)・本件製品 :本件特許に係る技術を用いた製品「流体撹拌装置」 第3 事案の概要等 1 原告の請求及び法的根拠本件は、原告が、被告及びAとの間で、本件契約書どおりの内容の金銭消費貸借契約を締結したが、返済期限内に貸金が返還されなかったことを前提に、被告に対し、次の各請求をする事案である。 (1) 主位的請求貸金が返済期限内に支払われなかった場合に本件特許の通常実施権を を締結したが、返済期限内に貸金が返還されなかったことを前提に、被告に対し、次の各請求をする事案である。 (1) 主位的請求貸金が返済期限内に支払われなかった場合に本件特許の通常実施権を原告に譲渡することを本件契約書又は本件覚書において合意したと主張して、原告が本件特許権についての通常実施権を有することの確認請求(2) 予備的請求 消費貸借契約に基づく貸金240万円の返還請求及びこれに対する返済期日より後の令和6年7月8日から支払済みまでの民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求 2 前提事実(争いのない事実及び証拠〔枝番を含む。以下同じ〕により容易に認定できる事実) (1) 当事者等ア原告は、自然人である。 イ被告は、自然人であり、本件特許権をBと共有している(甲4)。 ウ Aは、アトム社の代表取締役である。 (2) 本件契約書の内容等 原告、被告及びAは、平成29年7月8日、要旨、次の内容を含む本件契約 書の各自記名下に押印した(甲1、3、弁論の全趣旨)。 ア貸付金額及び内訳(1条)(ア) 原告の被告及びAに対する貸付金は、合計470万円とし、貸付けをもって本契約は発効する(1項)。 (イ) 原告は、被告及びAの代表としてAに現金を手渡し、被告はこれに予 め同意する(2項)。 (ウ) 470万円の内訳は次のとおりとする(3項)。 a 240万円は、被告への貸付金とする。被告は、本件製品の実施権、製造権及び販売権を担保とする(1号)。 b 230万円は、Aへの貸付金とする。Aは、Aの所有するアトム社の 株式を担保とする(2号)。 イ金利、返済等(2条)被告及びAは、本契約発効から5 担保とする(1号)。 b 230万円は、Aへの貸付金とする。Aは、Aの所有するアトム社の 株式を担保とする(2号)。 イ金利、返済等(2条)被告及びAは、本契約発効から5年後の満了日までに金利を免除した借入金元金の返済を完了する。 ウ特約条項(3条) 被告及びAが期日までに返済できない場合、原告は、1条3項の担保を自己の所有とすることができる。 (3) 本件覚書の内容等原告、被告及びAは、平成29年7月8日、要旨、次の内容が記載された本件覚書を作成し、記名欄に押印した(甲2、3、弁論の全趣旨)。 ア合意内容(1条)被告の本件特許の技術を用いた製品(本件製品)の実施権から得る利益を共有し、国内外において、本件製品の製造、販売事業を共同で「実施権行使」することに合意した。 イ付帯条項(3条) 被告及びAは、上記事業の資金として470万円を原告より借り入れるこ とを合意し、Aは、原告に対して金銭消費貸借契約書を差し入れることに合意した。なお、Aが返済できなかった場合、被告の有する特許実施権を譲渡する。その返済償還期間は5年間とする。 (4) 原告からAへの送金原告は、平成29年7月10日、Aに対し、上記(2)の貸付金として470 万円を振込送金した(甲5)。 3 争点(1) 原告が本件特許の通常実施権を有するか(争点1:主位的請求)(2) 被告が240万円の貸金返還債務を負うか(争点2:予備的請求)第4 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告が本件特許の通常実施権を有するか)について【原告の主張】原告と被告及びAは、平成29年7月8日、本件契約書を内容とする金銭消費貸借 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告が本件特許の通常実施権を有するか)について【原告の主張】原告と被告及びAは、平成29年7月8日、本件契約書を内容とする金銭消費貸借契約を締結し、本件覚書の内容を合意した。本件契約書には、被告が貸金の返済ができなかった場合、本件特許の技術を用いた製品(本件製品)の「実施権 …を担保とする」(1条3項1号)との定めが、本件覚書には、Aが返済できなかった場合には被告の有する本件の「実施権を譲渡する」(3条)との定めがあり、これらの規定の趣旨からすれば、上記契約に係る貸金の返済ができなかった場合、被告は、少なくとも本件特許の通常実施権を原告が有することを許諾していたといえ、その前提として、被告は、本件特許の共有者の同意を得ていた。 原告は、同月10日、Aに対し、上記契約に基づき、貸付金合計470万円を振込送金したが、その合意内容からして、このうち240万円は被告に対する貸付けであった。しかし、被告は、上記貸金を、返済期限である令和4年7月8日までに返済しなかった。 よって、原告は、本件特許の通常実施権を有する。 【被告の主張】 否認ないし争う。 被告は、原告から貸付けを受けておらず、貸付けを受ける必要性もない。原告の指摘する金銭消費貸借契約はA及びアトム社のためのものである。 また、本件特許の通常実施権の許諾について本件特許の共有者の同意はないから、上記契約は無効である。 2 争点2(被告が240万円の貸金返還債務を負うか)について【原告の主張】原告は、被告及びAとの間で、本件契約書の内容の金銭消費貸借契約を締結し、Aに対して貸付金470万円を振込送金したが、その合意内容からして、このうち240万円は )について【原告の主張】原告は、被告及びAとの間で、本件契約書の内容の金銭消費貸借契約を締結し、Aに対して貸付金470万円を振込送金したが、その合意内容からして、このうち240万円は、被告に対する貸付けである。そして、Aは、数日後、被告に対 し、240万円を交付した。 被告は、返済期限である上記契約の締結日から5年後の令和4年7月8日を経過しても貸付金240万円(被告分)を返済しない。 よって、被告は、240万円の貸金返還義務を負う。 【被告の主張】 否認ないし争う。 上記1【被告の主張】のとおり、被告は、240万円の貸付けを受けておらず、Aから240万円を受け取ったこともない。 第5 当裁判所の判断 1 争点1(原告が本件特許の通常実施権を有するか)について 原告は、本件契約書(1条3項)及び本件覚書(3条)の定めから、被告が、本件契約書記載の貸付金の返済を怠った場合、被告が本件特許の通常実施権を許諾したこととなる旨主張する。 本件特許権は共有に係るものであるところ(甲4)、「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について…他人に通常実施権を許諾することが できない」(特許法73条3項)から、被告が、本件特許権の通常実施権を許諾す る場合には、共有者Bの同意を得る必要がある。しかし、本件において、本件特許権の通常実施権の許諾について、共有者Bの同意があったと認めるに足りる証拠はない。 以上から、本件契約書及び本件覚書の解釈の詳細を検討するまでもなく、本件特許権の共有者Bの同意があったと認めることができない以上、原告が本件特許 権の通常実施権を有すると認めることはできない。 2 争点2(被告が240万円の貸金返還債務を負うか)について 本件特許権の共有者Bの同意があったと認めることができない以上、原告が本件特許 権の通常実施権を有すると認めることはできない。 2 争点2(被告が240万円の貸金返還債務を負うか)について(1) 本件契約書の被告の記名下にある印影は被告が自らの意思で押印したものである(甲1、3、弁論の全趣旨)から、本件契約書は真正に成立したものと推定され(民事訴訟法228条4項)、原告と被告及びAとの間で、本件契約書 の内容どおりの金銭消費貸借契約が成立したものと認められる。 そして、本件契約書(甲1)によれば、原告から被告及びAに対する貸付金の合計は470万円であるが、そのうち240万円は被告に対するもの、残りの230万円はAに対するものと定められるとともに、これら貸付金の授受については、原告がAに対して全額を交付し、被告に対する貸付分もAが被告に 代わって受領するものとすることが合意内容に含まれており、これに被告も承諾したものと認められる。その後、原告は、平成29年7月10日、上記契約に基づく貸付金として470万円をAに振込送金した(甲5、弁論の全趣旨)が、このうち240万円は、被告の上記承諾のもとで、被告に対する貸付金の分が、原告からAに対して交付され、Aが被告に代わって受領したものと認め られるから、原告及び被告間の法律関係としては、被告に対する貸付金の交付は行われたものと評価するほかなく、その結果、被告は、遅くとも同日から5年の期間の満了日である令和4年7月10日を期限(本件契約書1条1項、5条)とし、自らを借主とする貸付金240万円を返還する義務を負った。 以上によれば、被告は、原告に対し、上記金銭消費貸借契約に基づき240 万円の貸金返還債務を負っているものと認められる。 する貸付金240万円を返還する義務を負った。 以上によれば、被告は、原告に対し、上記金銭消費貸借契約に基づき240 万円の貸金返還債務を負っているものと認められる。 (2) これに対し、被告は、本件契約書に記載された被告への貸付金240万円を受領しておらず、貸付けはA及びアトム社のためであって被告が貸付けを受ける必要はなかったなどと主張する。 しかしながら、上記金銭消費貸借契約の内容に照らせば、上記検討のとおり、原告及び被告間の法律関係としては、被告も承諾のもと、原告からAに対する 金銭の交付をもって、原告から被告に対する貸付金の交付と評価するほかなく、被告の貸金返還義務を発生させる事実関係として不足するところはない。仮に、被告がAから240万円を受領していないとすれば、その点でA及び被告間の債権債務上の問題が別途生じ得るものではあるものの、被告の原告に対する貸金返還義務を否定する事情とはならず、上記被告の主張は採用できない。 第6 結論よって、原告の主位的請求は理由がないから棄却し、予備的請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 松川充康 裁判官 阿波野右起 裁判官 島田美喜子 島田美喜子
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