平成14(ワ)621 保証金返還等請求

裁判年月日・裁判所
平成15年10月27日 金沢地方裁判所
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判決文本文13,164 文字)

平成15年10月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成14年(ワ)第621号保証金返還等請求事件口頭弁論終結日平成15年9月1日判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告日本撚糸工業組合連合会は,原告Aに対して金603万0568円及びこれに対する平成14年10月9日より支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告日本撚糸工業組合連合会は,原告Bに対して金552万7008円及びこれに対する平成14年10月9日より支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告日本撚糸工業組合連合会は,原告Cに対して金271万7000円及びこれに対する平成14年10月9日より支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告日本撚糸工業組合連合会は,原告Dに対して金234万2800円及びこれに対する平成14年10月9日より支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告日本撚糸工業組合連合会は,原告Eに対して金194万0800円及びこれに対する平成14年10月9日より支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告日本撚糸工業組合連合会は,原告Fに対して金94万8000円及びこれに対する平成14年10月9日より支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,日本撚糸工業組合連合会(以下「撚糸工連」という。)が,ねん糸生産設備の共同廃棄事業として,ねん糸業者からねん糸生産設備を買い上げ,その際,借入によって調達した設備買上資金の返済のための運用資金の一部として参加ねん糸業者から保証金を預かったが,これを返還できなくなったところ,参加ねん て,ねん糸業者からねん糸生産設備を買い上げ,その際,借入によって調達した設備買上資金の返済のための運用資金の一部として参加ねん糸業者から保証金を預かったが,これを返還できなくなったところ,参加ねん糸業者又は参加ねん糸業者から上記保証金返還請求権を譲り受けた者である原告らが,撚糸工連に対し,(1)保証金返還請求権に基づく保証金の返還を,(2)保証金の返還が困難な事業計画であったのに当然に返還されるように説明して参加ねん糸業者に保証金を預託させたのが撚糸工連の不法行為であるとして,これに基づく損害賠償を求めた事案である。 1 前提事実(争いがないか,証拠[甲1ないし6(各枝番を含む),乙1,2,23]及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる。)(1) 当事者ア撚糸工連は,ねん糸業を営む中小企業者等を組合員とする商工組合を会員とする商工組合連合会であり,ねん糸業に関する指導及び教育,会員の組合員の安定事業に関する制限の総合調整等を目的としている。訴外石川県撚糸工業組合(以下「県撚糸組合」という。)は,石川県を地区とし,ねん糸業を資格事業とする商工組合で,撚糸工連の会員であり,組合員の経営の安定を図り,公正な経済活動の機会を確保するため,組合員の事業活動の調整及び組合員のために必要な共同事業を行うこと等を目的としている。 イ(ア) 原告Aは,昭和60年当時「α」の商号でねん糸業を営んでおり,県撚糸組合の組合員であった。 (イ) 原告Bは,昭和60年当時「β」の商号でねん糸業を営んでおり,県撚糸組合の組合員であった。 (ウ) 原告C,原告D及び原告Eは,昭和60年当時それぞれねん糸業を営んでおり,いずれも県撚糸組合の組合員であった。 (エ) 原告Fは,昭和60年当時ねん糸業を営み,県撚糸組合の組合 (ウ) 原告C,原告D及び原告Eは,昭和60年当時それぞれねん糸業を営んでおり,いずれも県撚糸組合の組合員であった。 (エ) 原告Fは,昭和60年当時ねん糸業を営み,県撚糸組合の組合員であった訴外Gの代表取締役であった。訴外Gは,昭和61年ころ解散し,撚糸工連に対する後記保証金返還請求権を原告Fに譲渡した。 (以下,原告Fを除く原告ら及び訴外Gを「原告らねん糸業者」という。)(2) 事実経過ア撚糸工連は,構造的な不況状態にあるねん糸業界において,企業の零細過多と過剰設備の存在が企業間に激しい過当競争をもたらし,操業度の低下によるコストアップが企業の体質を益々脆弱なものにしており,過剰設備処理を行い,企業間の過当競争を緩和することが事態改善につながるとの認識から,昭和53年度から昭和55年度にかけて過剰設備の廃棄事業を行ったが,その後,ねん糸業界を取り巻く内外の環境が著しく悪化したため,更に昭和60年,ねん糸生産設備の共同廃棄事業に取り組むこととした。そして,絹用ねん糸機を対象とした「60年度絹(1次)共同廃棄事業」(以下「本件絹廃棄事業」という。)及び一般ねん糸機を対象とした「60年度一般(1次)共同廃棄事業」(以下「本件一般廃棄事業」という。以下,本件絹廃棄事業及び本件一般廃棄事業を合わせて「本件共同廃棄事業」という。)を計画した。本件共同廃棄事業の実施計画(以下「本件実施計画」という。)の概要は以下のとおりである(乙1,2)。 (ア) 撚糸工連が,必要資金の90パーセントについて,中小企業事業団から設備共同廃棄事業融資制度を利用したいわゆる高度化無利子融資(以下「本件高度化融資」という。)を受け,会員商工組合の組合員(以下「参加組合員」という。)からねん糸生産設備の買上げを行い,買上げ代金から, 共同廃棄事業融資制度を利用したいわゆる高度化無利子融資(以下「本件高度化融資」という。)を受け,会員商工組合の組合員(以下「参加組合員」という。)からねん糸生産設備の買上げを行い,買上げ代金から,本件絹廃棄事業においては32.7パーセントを,本件一般廃棄事業においては35.9パーセントをそれぞれ控除し(以下「控除金」という。),その残金を参加組合員に支払う。参加組合員は,撚糸工連に対し,事務手数料として,買上げ代金の3パーセントに相当する金員を支払う。 (イ) 参加組合員は,買上げ代金受領後16年間,ねん糸業を廃業する者についてはねん糸業を営なまないこと,ねん糸業の事業規模を縮小する者についてはねん糸機の増設をしないこと等の義務を負い(以下「本件遵守義務」という。),これを遵守するための保証として,買上げ代金の10%に相当する金銭を撚糸工連に預託する(以下「保証金」という。)。参加組合員が本件遵守義務に違反したときは,参加組合員は,撚糸工連に対し,買上げ代金に金利を付して返還する義務を負うほか,保証金が没収される。 (ウ) 撚糸工連は,①控除金,②保証金及び③買い上げたねん糸生産設備のくず鉄代金を原資とし,これを16年間にわたって商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)の商工債券で運用し,その運用益及び①③の金銭で本件高度化融資の返済を行う。 イ原告A,原告C,原告D及び原告Eは本件絹廃棄事業に,原告B及び訴外Gは本件一般廃棄事業に,それぞれ参加することとし,昭和60年5月17日ころ,それぞれが所有するねん糸生産設備を撚糸工連に売却した(以下「本件各売買契約」という。)。その買上げ代金額は,原告Aが6030万5680円,原告Bが5527万0080円,原告Cが2717万円,原告Dが2342万8000円,原告E を撚糸工連に売却した(以下「本件各売買契約」という。)。その買上げ代金額は,原告Aが6030万5680円,原告Bが5527万0080円,原告Cが2717万円,原告Dが2342万8000円,原告Eが1940万8000円,訴外Gが948万円であった。なお,本件各売買契約には,売主は,売却価格の10パーセントに相当する保証金を撚糸工連に預託する旨の条項(14条1項,以下「保証金預託条項」という。),売主が16年間本件遵守義務を遵守したときは撚糸工連は保証金を返還する旨の条項(14条2項,以下「保証金返還条項」という。)及び撚糸工連が本件高度化融資の返済を完了できない時は,その不足額を参加規模に応じて県撚糸組合から徴収し(15条1項),県撚糸組合は,これを参加組合員から徴収する(同条2項),撚糸工連及び県撚糸組合は,前2項の手続に代えて,保証金をもってこれにあてることができる(同条3項)旨の各条項(以下「保証金充当条項」という。)があった。原告らねん糸業者は,同年10月8日ころ,保証金預託条項に基づき,それぞれ以下の金額を保証金として撚糸工連に対し預託した(以下「本件各保証金」という。)。なお,これと引き換えに原告らねん糸業者が撚糸工連から受領した「保証金預り証書」には,「(保証金の返還額は)売買契約書第15条3項の規定により保証金の全部又は一部をもって同項の不足額の負担にあてた場合は,その金額を控除した金額とする。」との記載があった(甲1の1ないし4,甲2の1,2,甲3の1,甲4の1ないし4,甲5の1,2,甲6の1,2)。 ① 原告A 603万0568円② 原告B 552万7008円③ 原告C 271万7000円④ 原告D 234万2800円⑤ 原告E 194万08 603万0568円② 原告B 552万7008円③ 原告C 271万7000円④ 原告D 234万2800円⑤ 原告E 194万0800円⑥ 訴外G 94万8000円ウ原告らねん糸業者は,本件共同事業参加後16年間にわたって本件遵守義務を遵守した。 エ平成13年9月,撚糸工連は,原告らねん糸業者に対し,本件各保証金について,①商工債券の運用が,近年の低金利により計画どおりの運用益が得られなかったこと,②支払源泉所得税の還付金も商工債券で運用する予定であったが,租税特別措置法の改正により,昭和60年4月1日から平成2年3月31日及び平成5年4月1日から平成9年3月31日に還付を受けるべき国税の還付がいずれも4年間据え置かれ,同期間中還付金の運用ができなかったことから,本件高度化融資の返済金が不足する事態となり,本件各保証金を本件高度化融資の返済に充てることとしたので,本件各保証金を原告らに返還できない旨の通知を行った(甲1の5,甲2の2,甲3の2,甲4の5,甲6の3,甲7)。 オ本件共同廃棄事業と同時期に,日本絹人繊織物工業組合連合会が,本件共同廃棄事業とほぼ同様の枠組みで「化合繊長繊維織物用織機共同廃棄事業」(以下「絹人繊共同廃棄事業」という。)を実施したが,これについては,保証金のうち29.5パーセントが参加組合員に返還された。 2 当事者の主張(1) 原告らの主張ア保証金返還請求本件各売買契約に基づき,原告らは撚糸工連に対し,預託した本件各保証金の返還を求める。 イ不法行為に基づく損害賠償請求次の事情に照らすと,撚糸工連が原告らねん糸業者を本件共同廃棄事業に参加させ,本件各保証金を は撚糸工連に対し,預託した本件各保証金の返還を求める。 イ不法行為に基づく損害賠償請求次の事情に照らすと,撚糸工連が原告らねん糸業者を本件共同廃棄事業に参加させ,本件各保証金を預託させたのは,不法行為に当たり,これによって原告らねん糸業者は,各保証金額と同額の損害を被った。 (ア) 本件実施計画は,極めてずさんなものであり,参加組合員から預託を受けた保証金を返還することが極めて困難であったのにも関わらず,撚糸工連は,原告らねん糸業者に対し,あたかも保証金の返還が当然実現するかのごとく説明して,本件共同廃棄事業への参加を勧誘した。 a 撚糸工連は,本件実施計画において,5年満期の利付商工債券の金利を年6.7パーセントと予想し,運用原資の予想金利を年6.7パーセントとしていた。他方で,本件実施計画では,5年経過後から毎年本件高度化融資の分割返済が予定されていたから,その返済原資分は,金利の低い1年満期の割引商工債券で運用するか,つなぎ資金を借り入れるしか方法がなく,その分,運用原資全体の金利予想は5年満期の利付商工債券の予想金利を下回ることが明らかであった。 b 本件実施計画では,当初運用原資には「昭和60年度税法改正に伴う源泉税還付繰越し措置による所要資金0.5%に相当する所要原資を含む」とされているが,所要資金を0.5パーセントとして算出した根拠が明らかでない。 c 絹人繊共同廃棄事業では,本件共同廃棄事業と同様に,低金利や租税特別措置法の改正等の事態に直面しながらも,保証金の一部の返還を実現した。その事業計画(以下「絹人繊事業計画」という。)は,本件実施計画とは異なり,一部の資金を金利の低い割引商工債券での運用を前提にし,昭和60年度租税特別措置法の一部改正に伴う源泉税還付繰越措置等 た。その事業計画(以下「絹人繊事業計画」という。)は,本件実施計画とは異なり,一部の資金を金利の低い割引商工債券での運用を前提にし,昭和60年度租税特別措置法の一部改正に伴う源泉税還付繰越措置等による所要資金を0.7パーセントと見ていて,これらと対比すると,本件実施計画のずさんさが浮き彫りになる。 (イ) 撚糸工連には,原告らねん糸業者に対し,本件各保証金が返還されないリスクについて十分に説明を行う義務があった。しかるに撚糸工連は,原告らねん糸業者に対し,本件高度化融資の返済計画を示すことなく,返済原資の金額,その運用方法,運用による予測金利等の説明も十分にはしなかった。 ウよって,原告らは撚糸工連に対し,本件各売買契約に基づく保証金返還として,または民法709条に基づく損害賠償として,請求の趣旨記載の各金額及びこれらに対する保証金返還の期限であり,不法行為の後である平成14年10月9日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 (2) 撚糸工連の主張ア保証金返還請求について本件各売買契約において,原告らねん糸業者と撚糸工連とは,撚糸工連が本件高度化融資の返済を完了できないときは,保証金をこれに充てる場合があることを合意していた。そして,次のとおり,本件高度化融資を返済できない事態となり,撚糸工連が,約定に従って,保証金をこれに充てたため,原告らの保証金返還請求権は消滅した。 (ア) 撚糸工連と中小企業事業団は,本件高度化融資の返済について,4年間は返済を猶予し,5年目から16年目まで分割返済をする旨合意した。そして撚糸工連は,運用原資を商工中金の5年満期の利付商工債券で運用することとし,年利6.7パーセントの運用利益を予想した。他方,その実績は,昭和60 年目から16年目まで分割返済をする旨合意した。そして撚糸工連は,運用原資を商工中金の5年満期の利付商工債券で運用することとし,年利6.7パーセントの運用利益を予想した。他方,その実績は,昭和60年10月から平成2年9月までが6.1パーセント,平成2年10月から平成7年9月までが8.0パーセントであったのに対し,平成7年10月から平成12年9月までは1.9パーセントに止まり,当初の見込みに全く及ばなかった。 (イ) 撚糸工連は,国税庁通達に基づき,毎事業年度の収支がゼロとなる経理処理をすることにより,償還差益に対する支払源泉所得税の還付を毎年受け,この還付金についても運用する予定であったが,租税特別措置法の改正により,昭和60年4月1日から平成2年3月31日まで及び平成5年4月1日から平成9年3月31日までの各支払源泉所得税につき,各事業年度終了後速やかに受けるべき還付が各々4年間据え置かれ,据置期間中の運用益が得られなかった。 (ウ) これらの予想し得なかった事情の変化に対し,撚糸工連は,平成6年10月以降,経済産業省等関係機関と折衝の上,本件高度化融資の分割返済を行わず,この返済資金の運用利息を撚糸工連が留保し再運用した。その後,本件高度化融資の返済は,返済可能期限まで延長された。 しかし,それでも最終期限の平成13年9月末において,返済資金が不足し,参加組合員からの預かり保証金全額を本件高度化融資の返済に充当することを必要とする事態となったものである。 イ不法行為に基づく損害賠償請求について撚糸工連が原告らねん糸業者を本件共同廃棄事業へ参加させた行為が原告らねん糸業者に対する不法行為となるのは,本件実施計画に根幹的な瑕疵があり,保証金が返還されないことがねん糸生産設備の売買契約段階において既に確定的であった場 本件共同廃棄事業へ参加させた行為が原告らねん糸業者に対する不法行為となるのは,本件実施計画に根幹的な瑕疵があり,保証金が返還されないことがねん糸生産設備の売買契約段階において既に確定的であった場合に限られると解するべきである。しかるに,原告らの主張は枝葉末節的な事実の指摘にとどまっており,仮にそれらの事実が認められるとしても,撚糸工連の行為が不法行為になるものではない。 なお,原告らの主張事実に対する具体的な反論は次のとおりである。 (ア) 本件実施計画の内容について昭和60年当時,過去16年間の利付商工債券の利回り実績は年平均で7.569パーセントであったから,撚糸工連が今後の運用予想を年6.7パーセントと見込んだのは妥当であった。なお,本件高度化融資の返済のためにつなぎ資金の借入が予定されていたことは原告ら主張のとおりであるが,このつなぎ資金は,5年満期の利付商工債券の金利と同一利率で借入が可能であったから,このことが運用予想に影響を与えるものではなかった。 (イ) 原告らは,絹人繊事業計画と比して本件実施計画がずさんであると主張するが,絹人繊共同廃棄事業において29.5パーセントの保証金返還がなされたのは,絹人繊共同廃棄事業が本件共同廃棄事業より数か月早く実施されたことによって資金運用利率に差異が生じたこと,撚糸工連の会計年度末が9月であるのに対し,日本絹人繊織物工業組合連合会の会計年度末が3月であったため,同連合会は撚糸工連よりも6か月早く源泉税の還付を受けることができたこと,絹人繊共同廃棄事業においては,控除金の割合が本件絹共同廃棄事業よりも4.3パーセント,本件一般共同廃棄事業よりも1.1パーセント高く,運用原資が多かったこと等が原因であり,絹人繊事業計画よりも本件実施計画がずさんであったとい 控除金の割合が本件絹共同廃棄事業よりも4.3パーセント,本件一般共同廃棄事業よりも1.1パーセント高く,運用原資が多かったこと等が原因であり,絹人繊事業計画よりも本件実施計画がずさんであったということはない。 (ウ) 撚糸工連が,本件実施計画について十分な説明をしなかった事実はない。 ねん糸生産設備の売買契約書や保証金預り証書の記載により,保証金返還がなされないことがあり得ることの説明がなされ,原告らは,この記載内容を認識していた。 3 争点(1) 原告らの保証金返還請求の当否(2) 原告らの不法行為の主張の当否第3 当裁判所の判断 1 原告らの保証金返還請求の当否(争点(1))(1) 第2の1の事実に証拠(乙3,4,5,6,17)を総合すると,次の事実が認められる。 ア撚糸工連は,昭和60年9月25日,中小企業事業団から,本件高度化融資として,本件絹廃棄事業のために44億0397万9000円,本件一般廃棄事業のために,79億7396万4000円をそれぞれ借り入れた。その返済は,4年間据え置き,5年目から16年目まで12回年賦との約定であり,返済金額は,本件絹廃棄事業のための借入金については,5年目から7年目まで毎年借入額の48分の1,8年目から10年目まで毎年24分の1,11年目から13年目までは毎年12分の1,14年目から16年目までは毎年16分の3,本件一般廃棄事業のための借入金については,5年目から8年目までは毎年24分の1,9年目から12年目までは毎年12分の1,13年目から16年目までは毎年8分の1とされていた。 イ撚糸工連は,控除金,保証金及びくず鉄代金で形成された運用原資を,原則として5年満期の利付商工債券で,運用残余期間が5年未満となった場合は1年満期の割引商工債券で行うこととし,利付商工 ていた。 イ撚糸工連は,控除金,保証金及びくず鉄代金で形成された運用原資を,原則として5年満期の利付商工債券で,運用残余期間が5年未満となった場合は1年満期の割引商工債券で行うこととし,利付商工債券の運用予想金利を年6.7パーセントと見込み,運用原資全体の運用予想金利も年6.7パーセントと見込んだ。また,国税庁通達により,毎事業年度の収支が零になるように経理処理を行うことで,運用利息への課税を回避した上,運用利息に対する支払源泉所得税の還付を毎年受け,この還付金についても運用原資とすることを予定し,5年目以降の分割返済資金は,つなぎ融資を借入れて捻出することとした。そして,運用原資を年6.7パーセントの複利で運用できることを前提に必要原資を算出し(その結果,必要原資は,本件一般共同廃棄事業については41億0594万6000円,本件絹共同廃棄事業については27億9112万8000円となった。),これを確保するために控除金割合を前記のとおり決定した。その結果,当初運用原資は,本件一般共同廃棄事業については41億5087万2000円と,本件絹共同廃棄事業については28億2389万7000円となった。これは,上記必要原資額よりも,本件一般共同廃棄事業においては4492万6000円,本件絹共同廃棄事業においては3276万9000円それぞれ多額であった。撚糸工連は,昭和60年度税法改正に伴う源泉税還付繰越し措置による所要資金を運用原資全体の0.5パーセントと見込んだが,上記当初運用原資は,これを考慮してもなお多額であった。 ウところが,本件共同廃棄事業における上記返済計画は,次の事情により,予定が大幅に狂うこととなった。 (ア) 予想に反した低金利時代となり,これが続いた。運用の根幹であった5年満期の利付商工債券の利回り実績は,昭和60年10 業における上記返済計画は,次の事情により,予定が大幅に狂うこととなった。 (ア) 予想に反した低金利時代となり,これが続いた。運用の根幹であった5年満期の利付商工債券の利回り実績は,昭和60年10月から平成2年9月までが年6.1パーセント,同2年10月から平成7年9月までが年8.0パーセントであったものの,同年10月から平成12年9月までが年1.9パーセントとなり,想定していた年平均6.7パーセントに到底及ばなかった。 (イ) 昭和60年及び平成5年の租税特別措置法の改正により,昭和60年4月1日から平成2年3月31日まで及び平成5年4月1日から平成9年3月31日までの各支払源泉所得税につき,各事業年度終了後速やかに実施される予定であった還付がそれぞれ4年間ずつ据え置かれることとなった。 エ撚糸工連は,中小企業事業団に対し,平成6年9月の分割返済金までは予定どおりの返済をしたものの,上記の事情の変化により,その後の返済ができなくなった。撚糸工連が経済産業庁等関係省庁と折衝した結果,平成7年には返済猶予の特例措置(平成7年2月8日企庁第88号)が実施され,更に平成10年には,償還期限延長の特例措置(平成10年12月21日企庁第5号)が実施され,返済期限が撚糸工連において完済できるまで延長されることとなった。そして,本件共同廃棄事業が開始されて16年が経過した平成13年9月末において,本件一般廃棄事業にかかる借入金については9億7616万5325円の,本件絹廃棄事業にかかる借入金については7億2277万6243円の各不足金が生じる結果となり,預かり保証金全額(本件一般廃棄事業については8億7936万9394円,本件絹廃棄事業については4億8933万2405円)を返済に充てても,なお,本件一般廃棄事業にかかる借入金については9679万59 り保証金全額(本件一般廃棄事業については8億7936万9394円,本件絹廃棄事業については4億8933万2405円)を返済に充てても,なお,本件一般廃棄事業にかかる借入金については9679万5931円が,本件絹廃棄事業にかかる借入金については2億3344万3838円が不足した。 オそこで,撚糸工連は,本件各売買契約の保証金充当条項にもとづき,本件各保証金全額を本件高度化融資の返済に充てることとした。 (2) 以上の事実によれば,本件各保証金は,その全額が中小企業事業団からの本件高度化融資の返済に充てられ,原告らの保証金返還請求権は消滅したというべきである。 2 原告らの不法行為の主張の当否(1) 原告らは,撚糸工連が原告らねん糸業者を本件共同廃棄事業計画に参加させ,本件各保証金を預託させたことが不法行為に当たると主張するので検討する。 一般に,一方当事者(以下「X」という。)が他方当事者(以下「Y」という。)に契約締結を勧め,これによってYが契約を締結した結果,Yが予想した利益を得ることができなかったり,予想しなかった損失を被る結果となったとしても,その勧誘が詐欺,強迫,その他違法な態様によってなされた場合は格別,そうでなくYが自由な意思で契約を締結したものである限り,契約を勧誘し,締結したXの行為が不法行為と評価されることは,原則としてないと解せられる。もっとも,契約内容の理解の難易,X及びYの地位,立場,能力等によっては,XがYに契約内容を理解できる程度まで説明する義務が生じる場合があるというべきであるし,XがYに対し,契約締結によってYに一定の利益が生じるであろうこと又は損失が生じないであろうことを予想,説明した場合において,Yがその説明内容を検証することが事実上困難である場合には,その説明内容が合理的な推論に基づくことが てYに一定の利益が生じるであろうこと又は損失が生じないであろうことを予想,説明した場合において,Yがその説明内容を検証することが事実上困難である場合には,その説明内容が合理的な推論に基づくことが要請されるというべきであって,Xが上記の説明義務に違反したり,明らかに合理性を欠く推論に基づく説明をした場合には,その契約の勧誘及び締結行為が違法と評価される余地があるというべきである。 (2) そこで,本件においてこれを検討する。 ア原告らは,本件実施計画が,極めてずさんであり,参加組合員から預託を受けた保証金を返還することが極めて困難であったと主張し,具体的には,①運用原資全体の運用金利予想を5年満期の利付商工債券の予想金利と同率としたこと,②昭和60年度租税特別措置法の一部改正に伴う源泉税還付繰越し措置等による所要資金を運用原資全体の0.5パーセントと評価したことを指摘する。 なるほど,撚糸工連は,本件共同廃棄事業の一環として本件各売買契約を締結し,本件各売買契約には,原則的な事態として保証金返還条項が,例外的な事態として保証金充当条項がそれぞれもうけられていたから,撚糸工連は,原告らねん糸業者に対し,特段の事情のない限り保証金が返還されるであろうとの予想を説明したというべきである。そして,撚糸工連が,運用原資の運用金利予想を根幹的な運用方法である5年満期の利付商工債券の予想金利6.7パーセントと同率としたことについては,運用原資の一部はそれよりも利率が低いと考えられる1年満期の割引商工債券での運用が予定されていたし,つなぎ資金の借入も予定されていたことを考慮すると,撚糸工連が原告らねん糸業者に対してした説明の根拠となった推論は緻密さにかけるということはできる。 しかしながら,証拠(乙21)によると,昭和43年2月から昭和60年1月 れていたことを考慮すると,撚糸工連が原告らねん糸業者に対してした説明の根拠となった推論は緻密さにかけるということはできる。 しかしながら,証拠(乙21)によると,昭和43年2月から昭和60年1月までの利付商工債券の金利平均が約7.05パーセントであったことが認められ,この事実に照らせば,5年満期の利付商工債券の予想金利を6.7パーセントとしたのは,若干の余裕を見た数値ということができる。加えて,当初の運用原資額が,源泉税還付繰越し措置による所要資金0.5パーセントを見込んだ上ではあるものの,計算上の必要原資額よりも本件一般廃棄事業においては4492万6000円,本件絹廃棄事業においては3276万9000円も多額であったこと等,計画自体に一定程度の余裕を持たせていたことを考慮すると,撚糸工連が原告らねん糸業者に対し,特段の事情のない限り保証金が返還されるであろうことを説明したことが,明らかに合理性を欠く推論に基づくとまで認めることができない。 なお,源泉税還付繰越し措置による所要資金を当初運用原資の0.5パーセントと見込んだことについては,これが明らかに合理性を欠くと認めるに足る証拠はない。 イ撚糸工連が本件各保証金を返還できない事態になった原因は,撚糸工連が主張するとおり,本件各売買契約締結当時予想できなかった低金利が長期にわたって続いたこと及び昭和60年に続いて平成5年にも租税特別措置法の改正により,支払源泉所得税の還付が4年間据え置かれる結果になったことにあると認めるべきである。本件共同廃棄事業とほぼ同時期に実施された絹人繊共同廃棄事業においては保証金の一部が参加組合員に返還されたところ,証拠(乙22)によると,絹人繊事業計画において,運用予想金利が本件実施計画よりも控えめに設定された(5年満期の利付商工債券が6.7パーセ 棄事業においては保証金の一部が参加組合員に返還されたところ,証拠(乙22)によると,絹人繊事業計画において,運用予想金利が本件実施計画よりも控えめに設定された(5年満期の利付商工債券が6.7パーセント,1年満期の割引商工債券が6.0パーセントとされ,それを総合して全体の運用予想金利が算定された)ことがその一因であったと認められる(それ故,絹人繊共同廃棄事業においては,控除金の割合が37パーセントと,本件共同廃棄事業よりも高く決められた)が,上記のとおり,本件共同廃棄事業を開始した当時において,撚糸工連がした運用金利予想が明らかに合理性を欠くとまでは認められないから,絹人繊共同廃棄事業において保証金の一部が参加組合員に返還された事実は,上記認定判断を左右しない。 ウ原告らは,撚糸工連は原告らねん糸業者に対し,本件各保証金が返還されないリスクについて十分な説明を行わなかったと主張するが,本件各契約書には保証金充当条項があったから,原告らねん糸業者は,本件保証金が返還されないことがあり得ることは認識していたと推認できる。本件高度化融資の返済資金の捻出方法の詳細について撚糸工連が原告らねん糸業者に対して説明したと認めるに足る証拠はないが,他方,原告らねん糸業者が上記捻出方法の詳細について撚糸工連に説明を求めたことを認めるに足る証拠もない。原告らねん糸業者がいずれもねん糸業を営む商人であることに鑑みれば,原告らねん糸業者から説明を求められる前に,撚糸工連において,上記捻出方法の詳細を説明する義務があったとまでは認めがたい。 エよって,撚糸工連が原告らねん糸業者を本件共同廃棄事業に参加させ,本件各保証金を預託させたことが不法行為に当たると認めることはできない。 3 以上によれば,本件保証金の返還を求める原告らの請求及び不法行為に基づく損害賠 らねん糸業者を本件共同廃棄事業に参加させ,本件各保証金を預託させたことが不法行為に当たると認めることはできない。 3 以上によれば,本件保証金の返還を求める原告らの請求及び不法行為に基づく損害賠償を求める原告らの請求はいずれも理由がないから,失当としてこれらを棄却するべきである。 金沢地方裁判所第二部裁判長裁判官井戸謙一裁判官野村賢裁判官村山智英

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