令和元年11月20日判決言渡令和元年(行コ)第90号自己情報非開示等決定取消等請求控訴事件(原審:大阪地方裁判所平成30年(行ウ)第73号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 A市長が平成28年10月11日付けで控訴人に対してした自己情報非開示等決定(28▲総人第1068号)を取り消す。 3 A市長は,別紙1訂正目録記載1の通知文書中,同目録記載2の訂正前の記載を,同目録記載3の訂正後の記載のとおり訂正する旨の決定をせよ。 第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は,A市議会議員である控訴人が,被控訴人の総務部長及び水道部長(以下「総務部長等」という。)が連名で作成しA市長が保有する被控訴人職員宛ての平成28年8月26日付けの通知文書(別紙1訂正目録記載1の通知文書。 以下「本件通知文書」という。)に記録された控訴人の同市議会における発言 内容(その記載内容は同目録記載2の訂正前の記載のとおり。以下「本件訂正前記載」という。)に係る情報が,A市個人情報保護条例(平成14年条例第▲号。以下「本件条例」という。)にいう自己に関する個人情報(以下「自己情報」という。)に当たることを前提に,控訴人が現実に同市議会において行った発言内容(以下「本件発言」という。)と相違するため,自己情報に事実 の誤りがあるとして,A市長に対し,本件条例18条1項に基づき,本件訂正 前記載を本件発言のとおりに訂正することを求める旨の請求(以下,同項に基づく訂正の請求を「訂正請求」という。)をしたところ,A市長が,同年10月11日付けで,訂正しない旨の自己情報非開示等決定(28▲総人第1 件発言のとおりに訂正することを求める旨の請求(以下,同項に基づく訂正の請求を「訂正請求」という。)をしたところ,A市長が,同年10月11日付けで,訂正しない旨の自己情報非開示等決定(28▲総人第1068号。以下「本件決定」という。)をしたことから,被控訴人に対し,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項所定の処分の取消しの訴えとし て,本件決定の取消しを求めるとともに,同条6項2号所定の義務付けの訴えとして,本件訂正前記載を同目録記載3の訂正後の記載(以下「本件訂正後記載」という。)のとおり訂正することの義務付けを求める事案である。 原審が,上記第1の3記載の請求に係る訴えを却下し,その余の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。 2 前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,原判決3頁7行目の「無給とすること」の後に「(以下「給与減額情報」という。)」を加え,後記3で「当審における控訴人の補充主張」を,後記4で「当審における控訴人の補充主張に対する被控訴人の反論」をそれぞれ付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第2の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における控訴人の補充主張⑴ 本件訂正前記載に係る情報は,本件条例18条1項に規定する「事実の誤り」に該当するから,本件決定を取り消し,被控訴人に対し,本件訂正後記載のとおり訂正することを義務付けるべきである。 ⑵ 本件条例の定める訂正請求の制度の趣旨目的からすれば,「事実の誤り」 とは,自己情報中の事実と客観的な事実とが相違している場合はもとより,一見して相違しているといえなくても,当該自己情報が利用されることにより誤った評価・判断が行われるなどすることを通じて当該自己情報に係る者の権利利益が侵害される相当程度の蓋 している場合はもとより,一見して相違しているといえなくても,当該自己情報が利用されることにより誤った評価・判断が行われるなどすることを通じて当該自己情報に係る者の権利利益が侵害される相当程度の蓋然性が存する場合には,実質的にみて自己情報中の事実と客観的な事実が相違しているといえるから,その場合を も含むというべきである。そして,本件条例が,行政は保有個人情報を利用 目的に必要な範囲内で正確かつ最新なものとすること等に関して必要な措置を講じなければならない(10条,2条1号,8号,9号)としていることからすれば,自ら利用・引用した自己情報の事実と客観的な事実との間に齟齬があることが明らかな場合には,行政の裁量でその内容を訂正しないということはあり得ない。 ⑶ 本件において,被控訴人は,控訴人が「同意書」の有無ではなく「同意」の有無を問題視していることを十分認識していたのに,控訴人から,対象職員の同意を得ることなく当該職員の給与減額情報を提供していた違法性を指摘され,当該職員に謝罪すべきと主張されたため,自らの責任は認めない限度で,控訴人をなだめるため,また,控訴人の指摘に納得をしている素振り を見せるためだけに本件通知文書を発出したが,これは,被控訴人が,対象職員から同意を得ていなかったという問題点を隠ぺいすることが目的であった。したがって,本件訂正前記載に係る自己情報事実と客観的事実の相違は,非常に重要なものといわざるを得ないから,「事実の誤り」があったことは明らかである。 4 当審における控訴人の補充主張に対する被控訴人の反論⑴ 本件条例の定める訂正請求の趣旨目的からすると,当該自己情報が利用されることにより当該個人情報に係る者の権利利益が侵害される相当程度の蓋然性自体が存在しない場合には 主張に対する被控訴人の反論⑴ 本件条例の定める訂正請求の趣旨目的からすると,当該自己情報が利用されることにより当該個人情報に係る者の権利利益が侵害される相当程度の蓋然性自体が存在しない場合には,訂正を認める必要はないのであって,この点を訂正請求の対象となる「事実の誤り」の有無の判断基準にすべきである。 ⑵ 被控訴人は,給与減額情報の提供に同意していなかった可能性があるのは1名の職員のみで,その余の対象職員全員が同意しているものと理解していたが,給与減額情報を職員団体等に提供することに同意していない職員の同情報まで提供してしまう可能性を払拭するため,同情報を職員団体等に提供するに当たっては,対象職員から同意書の提出があることを前提条件とする よう,手続を変更することとしたのであって,事実関係を隠ぺいする目的が なかったことはもとより,事実関係を隠ぺいするためにあえてとっていない対応は何ら存しない。そして,被控訴人は,本件通知文書を発出する前に,控訴人に原案を提示して確認を求めたが,控訴人から,本件訂正前記載において,「同意」の有無ではなく「同意書」の有無と記載されている点が問題である旨の指摘はなかった。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,原判決と同様,控訴人の本件決定の取消しを求める請求は理由がなく,したがって,本件訴えのうち本件通知文書中,本件訂正前記載を本件訂正後記載のとおり訂正する旨の決定を義務付ける請求に係る部分は不適法であるものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2で「当審におけ る控訴人の補充主張に対する判断」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第3の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決9頁15行目の末尾に「諾否の」を加える。 原判決1 る控訴人の補充主張に対する判断」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第3の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決9頁15行目の末尾に「諾否の」を加える。 原判決12頁7行目から8行目の「同意書を取り付けてこなかった点を改めて,当該同意書を取り付ける」を「対象職員の意思を直接確認することな く行われていた点を改めて,被控訴人に同意書を提出させることにより,対象職員の意思の明確化を図る」に改める。 原判決13頁12行目の「一般的に,」から同頁19行目「のであって,」までを「本件通知文書の記載を全体として読めば,本件訂正前記載は,変更前の本件取扱いの下においては,第三者である職員団体等に対する対象職員 の給与減額情報の提供が,被控訴人により,対象職員の意思を直接確認しないまま行われているという本件取扱いの問題点の違法を指摘する趣旨のものと理解するのが通常であると考えられることからすれば,」に改める。 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断⑴ 本件条例の定める訂正請求の制度の趣旨目的は,保有個人情報(自己情報) の内容に事実の誤りがあると認める者に対し,その訂正を請求する権利を保 障することにより,実施機関の保有する誤りのある保有個人情報が利用されることによる個人の権利利益の侵害を防止することと解される。そして,実施機関は,多種多様な経緯や目的により,個人情報を収集,取得等するとともに,これを公文書に記録して利用しているところ,本件条例において,実施機関は,個人情報の取扱いに当たっては,所掌する事務又は事業の目的達 成に必要な範囲内で適正かつ公正な手段によって行わなければならず(6条1項),実施機関は,保有個人情報の適正な維持管理を図るため,保有個人情報を利用目的に っては,所掌する事務又は事業の目的達 成に必要な範囲内で適正かつ公正な手段によって行わなければならず(6条1項),実施機関は,保有個人情報の適正な維持管理を図るため,保有個人情報を利用目的に必要な範囲内で正確かつ最新なものとすること等に関し必要な措置を講じなければならないものとされている(10条)ことなどからすれば,本件条例18条1項の規定による訂正請求の対象となる「事実の誤 り」とは,自己情報中の事実と客観的な事実とが相違する場合の全てを指すのではなく,(a)当該実施機関における,当該自己情報及び当該自己情報を記録した公文書の作成,取得等の経緯・目的,これらの性質,利用状況等,(b)当該自己情報中の事実と客観的な事実との間の相違の内容,程度等を考慮した上で,当該自己情報が利用されることにより誤った評価・判断が行われる などすることを通じて当該自己情報に係る者の権利利益が侵害される相当程度の蓋然性が存する場合に限られるものと解される。 ⑵ 引用に係る原判決第2の2の前提事実,証拠(甲2,3)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人においては,平成17年12月以降,職員団体等の要請を受けて,職員団体等が対象職員に対して職務専念義務免除をされた結 果無給とされた部分の給与減額相当分を補填する便宜のため,対象職員からその給与減額情報を当該職員団体等に提供することの可否につき直接の意思確認をすることなく,当該職員団体等に対し,給与減額情報を提供する旨の本件取扱いが行われてきたところ,控訴人から,A市議会の平成28年度5月定例会において,多数の各職員の給与の額が本人の同意を得ることなく無 断で被控訴人から第三者に過去何年にもわたって提供されているなどと,本 件取扱いが不適切であるとの指摘がされたこと,被控訴人 おいて,多数の各職員の給与の額が本人の同意を得ることなく無 断で被控訴人から第三者に過去何年にもわたって提供されているなどと,本 件取扱いが不適切であるとの指摘がされたこと,被控訴人においては,本件取扱いについて,職員団体等が給与支給日と同日に給与減額分を補填するためには事前に被控訴人から給与減額情報の提供を受けることが不可欠であることから,当該職員団体等において上記補填の際に上記の点を対象職員に説明等していたであろうし,そうでないとしても,対象職員においてそのこと は理解していたはずであり,それゆえに,職員から何らの異議を受けることもなかったものと理解していたこと,被控訴人は,本件取扱いの下においては,給与減額情報を職員団体等に提供することに同意していない職員に係る情報まで当該職員団体等に提供してしまうおそれがあることから,その可能性を払しょくするために,本件取扱いを変更し,職員団体等へ対象職員の給 与減額情報を提供する前提として,当該職員から被控訴人に対して当該職員団体等へ当該情報を提供することについての同意書が提出されていることを条件とする旨の本件取扱変更を行うことにより,対象職員の意思の明確化を図ることとし,本件取扱変更を被控訴人の職員に対して周知するため,総務部長等連名の本件通知文書を発出したこと,本件通知文書には,本件取扱い の内容ととともに,本件取扱いがされるに至った経緯として,「職員団体等の活動に参加する職員が不利益を受けることがないようにするため,給与支給日と同日に職員団体等が当該職員に対して給与減額相当分を補てんすることができるよう,市が給与の支払事務処理後,速やかに職員団体等に対し,給与減額情報を提供することの要請が職員団体等から市に対して行われ,労 使間で合意したことに基 給与減額相当分を補てんすることができるよう,市が給与の支払事務処理後,速やかに職員団体等に対し,給与減額情報を提供することの要請が職員団体等から市に対して行われ,労 使間で合意したことに基づき,実施している」ものである旨が記載され,それに続けて,本件取扱変更に至る経緯として,その契機となった控訴人の本件発言を本件訂正前記載のとおり要約記載することにより,本件取扱変更の趣旨,目的を明らかにして本件取扱変更についての職員の理解を得ようとしたものであること,以上のとおり認められる。 以上のとおり,本件通知文書は,本件取扱変更を被控訴人の職員に周知す るために作成されたものであり,被控訴人は,本件取扱変更の趣旨,目的を明らかにして本件取扱変更についての職員の理解を得るために,本件取扱変更の契機となった控訴人の本件発言に係る個人情報を本件訂正前記載のとおり要約記載する形で取得,保有したものである。そうであるところ,上記事実によれば,本件取扱変更の要点は,被控訴人と職員団体等との合意のみに 基づいて行ってきた本件取扱いの下においては,自らの給与減額情報を職員団体等に提供することに同意していない職員に係る情報まで当該職員団体等に提供してしまうおそれがあったことから,その可能性を払しょくするため対象職員の意思の明確化を図ることとして,職員団体等に対する給与減額情報の提供の前提として対象職員から被控訴人に対する同意書の提出を条件と することに改めることにあるということができる。そして,本件通知文書の記載を全体として読めば,本件訂正前記載は,変更前の本件取扱いの下においては,対象職員とは別の第三者である職員団体等に対する当該職員の給与減額情報の提供が,被控訴人により,対象職員の意思を直接確認しないまま,職員団体等との 件訂正前記載は,変更前の本件取扱いの下においては,対象職員とは別の第三者である職員団体等に対する当該職員の給与減額情報の提供が,被控訴人により,対象職員の意思を直接確認しないまま,職員団体等との合意に基づいて行われているにすぎないという,本件取扱い の問題点の核心部分が,端的かつ明瞭に表現されているということができるのであって,「職員が直接市へ同意書を提出していない状態で」や「第三者である職員団体等へ」という表現に鑑みても,本件通知文書の読者は,本件訂正前記載が上記のような本件取扱いの問題点の違法を指摘する趣旨のものと理解するのが通常であって,対象職員の同意書を取り付けてこなかった手 続の違法を指摘するにすぎない趣旨のものと理解するとは考え難いというべきである。そうであるとすれば,本件訂正前記載と本件発言とは,引用に係る原判決第3の1において説示するとおり,その根本部分において共通する一方で,相違点は大きくないものということができる。さらに,引用に係る原判決第3の1において認定するとおり,本件通知文書やこれに記録され た本件訂正前記載は,本件取扱変更を被控訴人職員に周知する目的以外で利 用されることは予定されていなかったことが認められる。 ⑶ 上記認定の本件通知文書の作成の経緯・目的,同文書の性質,利用状況等,本件訂正前記載と本件発言との間の相違の内容,程度等を考慮すれば,当該自己情報が利用されることにより誤った評価・判断が行われるなどすることを通じて当該自己情報に係る者の権利利益が侵害される相当程度の蓋然性が 存するとは認められないというべきである。 したがって,本件訂正前記載に係る情報については,訂正請求の対象となる「事実の誤り」を認めることはできない。 控訴人は,被控訴人は,控訴人が「同意書 存するとは認められないというべきである。 したがって,本件訂正前記載に係る情報については,訂正請求の対象となる「事実の誤り」を認めることはできない。 控訴人は,被控訴人は,控訴人が「同意書」の有無ではなく「同意」の有無を問題視していることを十分認識していたにもかかわらず,控訴人から違 法性を指摘され,対象職員から同意を得ていなかったという問題点を隠ぺいし,自らの責任を認めず,控訴人をなだめる等のため,本件通知文書を発したものであって,本件訂正前記載に係る自己情報事実と客観的事実との相違は非常に重要なものである旨主張するが,上記において認定説示したところからすれば,その前提事実を欠くものとして,採用することができず,控 訴人のその余の主張も,いずれも,採用することができない。 3 結論以上によれば,控訴人の本件決定の取消しを求める請求は理由がなく,したがって,本件訴えのうち,本件通知文書中,本件訂正前記載を本件訂正後記載のとおり訂正する旨の決定をすることの義務付けを求める部分は不適法である から,これと同旨の原判決は相当である。 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官西川知一郎 裁判官長谷部幸弥 裁判官善元貞彦 (別紙1)訂正目録 1 通知文書平成28年総人第1040号平成28年8月26日付けA市総務部長B及び水 道部長C連名の「職員団体等の活動等に係る職務専念義務免除に伴い減額される給与情報の提供について(通知)」と題する文書 2 訂正前の記載先日,職員 年8月26日付けA市総務部長B及び水 道部長C連名の「職員団体等の活動等に係る職務専念義務免除に伴い減額される給与情報の提供について(通知)」と題する文書 2 訂正前の記載先日,職員が直接市へ同意書を提出していない状態で,第三者である職員団体等へ当該職員の給与減額情報を提供することは違法ではないのかとの指摘が市民 の方からありました。 3 訂正後の記載先日,市が直接職員から同意を得ていない状態で,第三者である職員団体等へ当該職員の給与減額情報を提供することは違法ではないのかとの指摘が市民の方からありました。 以上
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