平成16(行ク)187 執行停止申立事件(本案・当庁平成16年(行ウ)第294号退去強制令書発付処分取消等請求事件)

裁判年月日・裁判所
平成16年9月22日 東京地方裁判所 警察関係
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判決文本文7,622 文字)

- 1 -主文 申立人Aの申立に基づき、相手方が平成16年6月22日付けで申立人Aに対して発付した退去強制令書に基づく執行は、平成16年9月22日午後3時以降、本案事件(当庁平成16年(行ウ)第294号退去強制令書発付処分取消等請求事件)の第一審判決の言渡しの日から起算して15日後までの間、これを停止する。 申立人Aのその余の申立及び同B並びに同Cの申立をいずれも却下する。 申立費用は、申立人Aについて生じた費用はこれを2分し、その1を申立人Aの負担とし、その余を相手方の負担とし、申立人B及び申立人Cについて生じた費用は同人らの負担とする。 理由 第1申立の趣旨相手方が平成16年6月22日付けで申立人Aに対して発付した退去強制令書に基づく執行は、本案事件(当庁平成16年(行ウ)第294号退去強制令書発付処分取消等請求事件)の判決が確定するまでの間、これを停止する。 第2申立の理由申立人Aは、在留期間を超えて日本に在留していたことから、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)24条4号ロに該当するとの認定を受け、法49条1項に基づき異議の申出を行ったが、同異議の申出に理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け、さらに、相手方から退去強制令書の発付(以下「本件退令発付処分」という。)を受けた者であるが、本案において、申立人Aは日本人女性である申立人Bと約5年間にわたり内縁関係にあり、同女との間に生まれた2歳の男児(申立人C。)を養育していることなどから、申立人Aは法50条1項3号にいう法務大臣が在留を特別に許可すべき事情がある場合に該当するのに、これを看過してなされた本件裁決及び本件退令発付処分は違法であって取り消されるべきであると主張し、申立人らには本- 2 -件退令発付処分による回復困難な損害を すべき事情がある場合に該当するのに、これを看過してなされた本件裁決及び本件退令発付処分は違法であって取り消されるべきであると主張し、申立人らには本- 2 -件退令発付処分による回復困難な損害を避けるために執行停止を求める緊急の必要性があるとして本件申立をした。 相手方は、申立人B及び申立人Cは執行停止の申立適格を欠いているから本件申立は不適法であり、申立人Aについては、執行停止を許さないとする要件である行政事件訴訟法25条3項に定める「本案について理由がないとみえるとき」、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に該当し、かつ、執行停止の要件である同条2項に定める「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当しないから、本件申立は理由がないと主張する。 第3当裁判所の判断 申立人B及び申立人Cの申立について(1)執行停止の申立適格を有するのは、本案訴訟の原告適格を有する者であると解されるところ、本案訴訟において原告適格が認められるのは、当該処分等の取消について法律上の利益を有する者であり(行政事件訴訟法9条)、法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうものと解される。 (2)本案事件は、申立人Aに対する本件裁決及び本件退令発付処分の取消を求めるものであるが、これらの処分の名宛人は申立人Aであるから、これらの処分の存否によって影響を受けるのは申立人Aの法的利益であることは明らかである。そして、法には、異議の申出に対する法務大臣の裁決や入国管理局主任審査官の退去強制令書の発付にあたって、当該外国人の法的利益を超えて、その親族の利益を個別に考慮することを明文で定めた条項はなく、また、これらの条項を個別に解釈しても、実 大臣の裁決や入国管理局主任審査官の退去強制令書の発付にあたって、当該外国人の法的利益を超えて、その親族の利益を個別に考慮することを明文で定めた条項はなく、また、これらの条項を個別に解釈しても、実子や内縁の妻の法的利益を個別に保護したものと解されるものは存在しない。 (3)この点、申立人らは、本件裁決及び本件退令発付処分によって、我が国が批准している市民的及び政治的権利に関する国際規約上保障された家族結合- 3 -権が侵害される関係にあると主張するが、家族結合権なるものが、我が国において確立された権利として認められるかどうかや、その権利の内容がいかなるものであるかは明らかではないといわざるを得ないのであるから、申立人らの主張は失当である。 また、申立人らは、法が在留資格の一類型として「日本人の配偶者」を定めていることから、法は家族結合権を保護していると主張しているが、在留資格の定めが家族結合権を保護するものかどうかはさておき、前述のとおり、法律上保護された利益とは当該根拠法規によって保護された利益をいうのであって、同じ法律の条文の中にあっても、当該処分と関連しない条項をもって根拠法規ということはできないから、申立人らの主張はこの点においてすでに失当である。 (4)実質的にみても、退去強制令書の発付を受ける外国人の配偶者や実子の利益は、結局のところ、当該外国人と家族として共同して生活するという利益であるから、当該外国人の利益と重なり合うもので、これを離れて独自に存在するものではないのであるから、申立権を有する当該外国人の利益として考慮すれば足りるのであって、独自に原告適格を認めるべき必要性に欠けるというべきである。 (5)よって、申立人B、申立人Cの申立はいずれも申立適格を欠くものであるから、不適法であって却下を免れない。 ば足りるのであって、独自に原告適格を認めるべき必要性に欠けるというべきである。 (5)よって、申立人B、申立人Cの申立はいずれも申立適格を欠くものであるから、不適法であって却下を免れない。 執行停止の必要性(行政事件訴訟法25条2項)について(1)送還部分について退去強制令書の送還部分が執行された場合、申立人Aは、その意思に反して本国に送還されることとなり、それ自体が申立人Aにとって重大な損害になる上に、仮に申立人Aが本案事件において勝訴判決を得ても、送還前に置かれていた原状を回復する制度的な保障はないことに加え、申立人A自身が法廷において尋問に応ずることが不可能となって立証活動に著しい支障を来- 4 -し、また、訴訟代理人との間で訴訟追行のための十分な打ち合わせができなくなるなど、申立人Aが本案事件の訴訟を追行することも著しく困難となるおそれがあるものというべきであるから、「回復の困難な損害を避けるための緊急の必要」があるものというべきである。 (2)収容部分についてア一件記録によれば以下の事実を一応認めることができる。 (ア)申立人Aは、昭和▲年(▲年)▲月▲日、中華人民共和国(以下「中国」という。)において出生した中国国籍を有する男性であり、昭和63年6月13日、在留期間を6か月とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。申立人Aは、昭和63年11月21日、東京入国管理局浦和出張所に対し在留期間更新許可申請をし、同日、在留期間を6か月とする在留期間更新許可を受けたが、その後は在留期間の更新手続を経ることなく、約16年間にわたり本邦に在留資格なく在留している(乙1、2)。 (イ)申立人Aは、平成▲年▲月▲日、○の嫌疑で逮捕され、同月26日、○及び○の罪により起訴され、同年5月25日、さいたま地方裁判所越谷支部におい り本邦に在留資格なく在留している(乙1、2)。 (イ)申立人Aは、平成▲年▲月▲日、○の嫌疑で逮捕され、同月26日、○及び○の罪により起訴され、同年5月25日、さいたま地方裁判所越谷支部において○の判決を受けた(同判決は同年6月9日確定した。乙3ないし6)。 (ウ)申立人Aは、平成16年5月24日、法24条4号ロ該当容疑者として東京入国管理局主任審査官から収容令書の発付を受け、同月25日、同令書を執行されて収容場に収容された。申立人Aは、平成16年5月25日違反調査を受け、同月26日及び同年6月2日に違反審査を受け、同年6月2日、東京入国管理局入国審理官によって法24条4号ロに該当するとの認定を受け、同日、特別審理官による口頭審理を請求した。 申立人Aは、特別審理官による口頭審理を経て、平成16年6月17日、認定に誤りはない旨の判定を受けたことから、同日、法務大臣に対して- 5 -異議を申し出た(乙7ないし10、12、13、17ないし19)。 法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局局長は、平成16年6月21日、本件裁決を行い、本件裁決の通知を受けた東京入国管理局主任審査官は、同月22日、申立人Aに本件裁決を告知するとともに、本件退令発付処分を行った(乙24、25)。 申立人Aは、現在、東京入国管理局収容場に収容されている。 (エ)申立人Aは、1986年(昭和61年)に中国でDと結婚し、2人の子どもをもうけた。 申立人Aは、昭和63年に単身で来日し、それ以降、中国の妻に何度か生活費を送金したことはあったものの、中国の家族と同居したことはなかった。申立人Aは、約10年ほど前から中国の妻に離婚を求めていたものの、高額の慰謝料を請求されたことなどから協議離婚は成立せず、平成16年5月10日、申立人Aは中国において離婚を求めて離婚訴 はなかった。申立人Aは、約10年ほど前から中国の妻に離婚を求めていたものの、高額の慰謝料を請求されたことなどから協議離婚は成立せず、平成16年5月10日、申立人Aは中国において離婚を求めて離婚訴訟を提起した。 (オ)申立人Aは、来日後、しばらくの間はアルバイトをしながら日本語学校に通っていたが、同学校を退学した後は、来日費用に充てた借金返済などのためラーメン店などで就労していた。申立人Aは、平成8年12月ころ、申立人Bと知り合い、平成10年9月ころから交際を始め、しばらくして当時の申立人A宅において事実上同居状態となり、平成12年5月1日に申立人Bと前夫との離婚が成立した後は、現在の住居地において、申立人Bと前夫との子であるE(平成7年生まれ、小学校4年生)とともに3人で同居するようになった。 平成12年1月、申立人A及び申立人Bは、ラーメン店を開店したが、しばらくして閉店し、平成13年4月、再びラーメン店を開店したが、申立人Bが申立人Aの子を妊娠したため、平成14年1月にやむなく閉店した。 - 6 -平成▲年▲月▲日、申立人Aと申立人Bとの間に申立人Cが生まれた。 以後、申立人Aが▲で逮捕されるまでの間、申立人らはEとともに、ラーメン店の営業収入によって家族として4人で生活していた。 平成15年2月27日から同年3月3日にかけて、申立人Bは申立人Cを連れて、申立人Aの中国の父親を訪問した(乙11の13、14)。 平成15年6月21日、申立人Aと申立人Bは再びラーメン店を開店し、申立人Bが体調を崩したほかは順調に経営していた。 申立人Aは、平成16年4月22日、申立人Cを認知した(乙21)。 (カ)申立人Bは、○、○、○、○(○の疑い)を患い(甲5、乙11の17、乙33ないし35)、平成▲年▲月ころには、救急車で搬送されたこともあ 平成16年4月22日、申立人Cを認知した(乙21)。 (カ)申立人Bは、○、○、○、○(○の疑い)を患い(甲5、乙11の17、乙33ないし35)、平成▲年▲月ころには、救急車で搬送されたこともあるほか、○や○については日常的にコルセットを使用し、薬を服用して痛みを緩和している状態にある。申立人Aが収容されたことに伴い、申立人Bのみではラーメン店の営業を続けることができず、一時閉店していたが、生活費を捻出する必要がありやむなく現在は再開し、多忙の余り平日は1日2時間程度の仮眠しかとれない生活が続いている。 申立人Bは医師から入院を勧められるほど健康状態が悪化しているにもかかわらず痛み止めを服用しながらラーメン店の営業を行っていることから、申立人Cの面倒は小学生のEがみており、そのために学校を休まざるを得ないこともある。 申立人Bの母親はすでに死亡し、父親は再婚して別の家庭を有しており、援助を期待することができない。申立人Bは前夫(Eの父親)とは交流がない。また、申立人Bには異父兄姉が3人いるが、それぞれに家族がいて生活に余裕はなく、支援は望めない状態にある((エ)ないし(カ)について、甲5、7、乙11の1ないし9、12、14の2、16、17)。 イ上記の事実からすれば、申立人Aと中国の妻子との関係は相当以前から- 7 -希薄なものとなっており、他方、申立人Aは、申立人B、申立人C及びEとともに、約4年以上にわたり(申立人Cについては出生後約2年間)家族として共同生活を送ってきた実態があることが一応認められるところ、申立人Bらの生活を支えていた申立人Aが収容されたことによって、2人の子どもの世話及びラーメン店の営業をすべて申立人Bが負うこととなったが、申立人Bの健康状態が悪化していることから、小学生(4年生)であるEが申立人Cの面 いた申立人Aが収容されたことによって、2人の子どもの世話及びラーメン店の営業をすべて申立人Bが負うこととなったが、申立人Bの健康状態が悪化していることから、小学生(4年生)であるEが申立人Cの面倒をみなければならない事態となっており、申立人Bには他に申立人Aに代わって支援を受けることのできる関係にある者もいないことから、申立人B、申立人C及びEは、著しい窮状に陥り、家族としての生活は崩壊の危機に瀕していることが一応認められる。 そうすると、このまま申立人Aの収容が継続されることになれば、申立人Bは病状がさらに悪化してラーメン店の営業を続けることができなくなり、入院せざるをえなくなる可能性が十分にあり得るし、申立人C及びEは、他に頼るべき親族がいない以上、福祉施設の保護を受けることにならざるを得ず(現時点では、どのような保護を受けることが可能なのか明らかではない。)、その場合、2歳の幼児にすぎない申立人Cに対する影響は甚大であると考えられるが、申立人Aが身柄を収容されている現状においては、上記のような生活状況を立て直すための対策を講ずることはもちろん、そのための相談さえも容易には行えない状態にあるものといわざるを得ないのであるから、家族としての生活が完全に崩壊する危険も高いものというべきである。 ところで、実子である申立人Cを含む家族を扶養し、養育すべきことは、申立人Aにとっては法律上当然に負担すべき義務であることはいうまでもないが、同時に、幼い幼児を含む家族を扶養することで家族としての関係が失われないように努めることは申立人A自身の利益でもあるというべきであり、かつ、前述のとおり、容易に回復しがたい状況の下でそのような- 8 -利益を失うことは、申立人B、申立人C及びEにとってはもとより、本来同人らを扶養すべき立場にある申立人A あるというべきであり、かつ、前述のとおり、容易に回復しがたい状況の下でそのような- 8 -利益を失うことは、申立人B、申立人C及びEにとってはもとより、本来同人らを扶養すべき立場にある申立人A自身にとっても、容易に回復することが困難な損害に該当するものといわざるを得ない。 以上によれば、申立人Aについては、収容が継続されることにより回復困難な損害が生じることが認められる。 ウなお、相手方は、退去強制令書に基づく収容の目的は、単に送還のための身柄の確保のみならず、被退去強制者を隔離してその在留活動を禁止するところにあるから、申立人Aが収容によって受ける不利益は本件退令発付処分に通常随伴して発生する範囲内の支障にすぎないと主張する。しかし、上記のとおり、申立人Aについては、収容によって本邦における在留活動が阻害されるのみならず、同人が本邦において約4年間にわたって築いてきた家族の窮状を放置せざるをえなくなり、家族関係を喪失するという重大な不利益を被るのであるから、相手方の主張を前提としても、申立人Aが受ける損害を、収容によって法が予定した不利益にすぎないということはできない。 エよって、申立人Aについては、収容部分についても、回復困難な損害を避けるための緊急の必要があり、執行停止の必要性があるというべきである。 「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条3項)の要件に該当するか否かについて申立人Aは、日本人である申立人Cを扶養しており、今後も扶養すべき立場にある者であること、日本人である申立人Bと内縁関係にあり、中国の妻との離婚が成立すれば婚姻する予定であることなどを主張して、申立人Aには在留特別許可が付与されるべき特別の事情があると主張しているところ、2の(2)アにおいて記載した事情に照らせば、在留特別許 の妻との離婚が成立すれば婚姻する予定であることなどを主張して、申立人Aには在留特別許可が付与されるべき特別の事情があると主張しているところ、2の(2)アにおいて記載した事情に照らせば、在留特別許可を与えるかどうかについては法務大臣に広い裁量権があることを考慮したとしても、本案における審理を尽- 9 -くしていない現段階において、このような主張が理由のないものということはできない。 よって、申立人Aの申立は、本案について理由がないとみえるときには該当しない。 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(行政事件訴訟法25条3項)に該当するかどうかについて相手方が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとして主張するところは、執行停止による一般的な影響をいうものであって具体性がなく、本件において、本件退令発付処分に基づく送還及び収容の執行を停止すると公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとの事情をうかがわせる疎明はない。 結論 よって、申立人Aの申立については主文1項記載の限度で理由があるからこれを認容し、申立人Aのその余の申立は理由がなく、また、申立人B及び申立人Cの申立は不適法であるから、それぞれ却下することとし、申立費用の点について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条、65条1項を適用して、主文のとおり決定する。 平成16年9月22日東京地方裁判所民事第3部裁判長裁判官鶴岡稔彦- 10 -裁判官新谷祐子裁判官今井理

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