判決平成14年1月28日平成12年(ワ)第2647号商標権侵害差止請求事件 主文 1 被告は、その営業活動または営業施設に別紙被告標章目録記載の標章を使用してはならない。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 主文同旨(2) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 原告は,「サンボア」の名称でアルコール飲料を主とする飲食物の提供を業としており,下記商標権を有している。 ア登録番号第3043615号イ出願日平成4年4月20日ウ出願公告日平成6年8月18日エ公告番号平成6年第55180号オ登録年月日平成7年5月31日カ指定役務第42類アルコール飲料を主とする飲食物の提供キ登録商標文字+図形「SAMBOABAR」(別紙原告商標目録記載のとおり。以下「本件商標」という。)(2) 被告は,平成11年6月ころから,神戸市B区C本町6丁目14番4号において,別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)をその店舗の看板類に使用するなどして,原告と同じ形態のパブリックバーを経営し,アルコール飲料を主とする飲食物の提供を行っている。 (3) 被告標章である「ニューサンボア」の要部は「サンボア」であって,「ニュー」という言葉は「サンボア」の付加表示にすぎない。 本件商標は「SAMBOABAR」という英 。 (3) 被告標章である「ニューサンボア」の要部は「サンボア」であって,「ニュー」という言葉は「サンボア」の付加表示にすぎない。 本件商標は「SAMBOABAR」という英字と図形で構成されているが,原告の表示の要部も「SAMBOA」であり,「BAR」はその営業内容を示すものにすぎない。 したがって,両表示の要部は「SAMBOA」または「サンボア」であり,称呼上は全く同一であるから,被告標章の使用は本件商標権を侵害するものである。 (4) よって,原告は,被告に対して,商標法36条1項に基づき,その営業活動または営業施設に被告標章を使用することの差止めを求める。 2 請求原因に対する認否請求原因(1),(2)は認め,(3)は争う。 3(1) 抗弁1-継続的使用権ア不正競争目的の不存在サンボアグループでは,サンボア各店において10年勤めれば,独立してサンボアの看板を出してもよいとの了解ができていた。 訴外甲は,昭和45年頃,北サンボア店において10年間修行をして独立を了解(暖簾分け)され,大阪市A区D町において,ハイボール等のアルコール飲料を扱うニューサンボア店を開店し,営業してきた。 イ地域的範囲サンボアの発祥地は神戸市中央区であり,ここから関西圏へ店舗が拡大され,戦後には神戸サンボア店があったという歴史的経緯や,ニューサンボア店が京阪神地区で販売された飲食店の雑誌で「京都・大阪・神戸」あるいは「関西」の地域版として数年間にわたり夜遊びスポットとして紹介されていること,阪神間という非常に近接した地理的要素や,通勤圏・文化圏の要素も考慮すれば,阪神Cを含む阪神間は同一の地域的範囲内であ は「関西」の地域版として数年間にわたり夜遊びスポットとして紹介されていること,阪神間という非常に近接した地理的要素や,通勤圏・文化圏の要素も考慮すれば,阪神Cを含む阪神間は同一の地域的範囲内であるといえる。少なくとも距離的にきわめて近く,人の移動,経済,文化圏も共通であり,阪神地区と一体的に称せられる地域にも及んでいたと考えるべきである。 ウ被告は,甲から,平成11年4月,被告標章を含むパブリックバーの営業権を譲り受け,同年5月28日から営業を開始した。 エよって,甲は,不正競争の目的なく,被告標章を継続して平成4年4月1日の商標法改正施行時から6か月経過する日の前日である平成4年9月30日においてパブリックバーに使用しており,被告は甲の営業を承継して同一の業務を行っていることから,被告には被告標章について,商標法の一部を改正する法律(平3法65号)附則3条の継続的使用権が認められる。 (2) 抗弁2-権利濫用以下の各事実関係からすれば,原告が被告に対して被告標章の使用差止請求をすることは権利の濫用にあたり許されない。 ア原告は,甲の営業していた「ニューサンボア」を初めとする他のサンボア店が長年にわたって培った信用評価が蓄積され,甲及びその承継者の被告を含めたサンボアグループ全体の共有の資産とも言うべき「サンボア」の標章を承継したものである。 イ原告は,上記事情を認識しながら,本件商標について商標登録の上,甲の承継者である被告を排斥し,蓄積された信用評価を独占しようとしているものである。 ウ甲は「ニューサンボア」を被告に承継させることでこれまでの評価・信用獲得の功績評価に対する報酬ともいうべき対価の受領が可能となったのであり,「ニューサンボア」 しているものである。 ウ甲は「ニューサンボア」を被告に承継させることでこれまでの評価・信用獲得の功績評価に対する報酬ともいうべき対価の受領が可能となったのであり,「ニューサンボア」の承継は保護に値する。 4 抗弁に対する認否(1)ア抗弁(1)アの事実のうち,甲が北サンボア店に10年間勤務した後に昭和45年頃独立(暖簾分け)して大阪市A区D町にニューサンボア店を開業して営業してきたことは認め,その余は否認する。サンボア各店に従業員として長年勤務していたものが独立を希望する場合にはパブリックバーのスタイルを守り続け,サンボアの名に恥じない経営をすることなどを条件に,グループ全店舗の了解を得た上で,暖簾分けとして,その経営するパブリックバーの標章としてのみ「サンボア」の名称を使用することが許諾されてきた。 同イないしエは否認ないし争う。 イ継続的使用権は,現に使用されている標章を巡る評価,信用,更には取引秩序を保護することを目的として,登録商標の商標権の侵害となるべき行為を例外的に救済するという例外的な制度であるから,その要件は厳格に判断されなければならない。 (ア) 本件では,甲が老齢を原因として大阪市A区D町のパブリックバーを廃業し,店舗を閉鎖したことによって,被告標章を巡る評価や信用は失われており,甲が行っていた業務は完全に終了している。したがって,その後被告がニューサンボアの業務を承継する余地はない。 被告と甲は,被告が神戸市B区において新規に開業する飲食店の経営に関してアドバイザー契約を締結したにすぎず,大阪市A区D町における「ニューサンボア」の業務の承継について合意したのではない。 (イ) また,継続的使用権が認めら 開業する飲食店の経営に関してアドバイザー契約を締結したにすぎず,大阪市A区D町における「ニューサンボア」の業務の承継について合意したのではない。 (イ) また,継続的使用権が認められる地域的範囲は,改正法の施行の日から6月を経過する際,現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内に限定される。 したがって,被告標章について継続的使用権が認められる地域的範囲は,甲が営業を行っていた大阪市A区D町周辺に限られる。 (2) 抗弁(2)アないしウはいずれも否認する。 理由 1 請求原因について(1) 請求原因(1),(2)の事実は当事者間に争いがない。 (2) 本件商標と被告標章の類似性について本件商標は「SAMBOABAR」であり,証拠(甲1ないし3)によれば,指定役務がアルコール飲料を主とする飲食物であること,原告の営業内容がアルコール飲料の提供を主体とする,いわゆるパブリックバーであることが認められ,同認定事実からすれば,「BAR」は営業内容を示すにすぎず,本件商標の要部は「SAMBOA」であるということができる。 また,被告標章は「ニューサンボア」であるが,証拠(甲3,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,ニューサンボアの最初の経営者である甲はサンボアグループの慣習に従い,北サンボア店で10年間修行をしたことによりサンボアの看板を掲げて独立することを了承されたものであること,ニューサンボアの開店以前にサンボアグループの店舗が既に数店舗存在したこと,表面に「SAMBOABAR」,裏面に「NEWSAMBOA」と記載されたマッチ箱をニューサンボア店に置いていたことが認められ,同認定事実からすれ サンボアグループの店舗が既に数店舗存在したこと,表面に「SAMBOABAR」,裏面に「NEWSAMBOA」と記載されたマッチ箱をニューサンボア店に置いていたことが認められ,同認定事実からすれば,「ニュー」という部分は「サンボア」部分の付加表示にすぎず,要部は「サンボア」であるといえる。 そして,両者の要部を比較すると,表記自体は本件商標が英字で記載されているのに対し,被告標章はカタカナで記載されているという相違はあるものの,称呼は同一である。 よって,本件商標と被告標章とは類似していると認められる。 (3) 以上より,請求原因事実はすべて認められる。 2(1) 抗弁1(継続的使用権)についてア(ア) 平成3年法律第65号による商標法の改正によって役務商標の登録制度が導入されたことにより,本来であれば他人の登録役務商標にかかる商標権の効力が及ぶ商標については使用が認められなくなるはずであるが,同制度の施行前から当該役務について使用されている商標について,その商標が従前蓄積してきた既存の評価・信用ないしはこれを基礎として形成された既存の取引秩序を保護する必要性から,平成3年法律第65号商標法改正附則は第3条で継続的使用権を認めた。 もっとも,継続的使用権を有する者が当該商標を使用して事業を拡張することを無制限に許容することは,登録役務商標に係る商標権の効力を過度に弱めることになるため,同条は,地理的観点について,現にその役務に係る業務を行っている範囲内に限定し,いわば現状を維持する限度でその使用を認めることにしたものである。 そして,「現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内」とは,従前からその商標を使用して事業を行 現状を維持する限度でその使用を認めることにしたものである。 そして,「現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内」とは,従前からその商標を使用して事業を行っている場所のみならず,その場所においてその商標を使用して事業を行ってきたことにより蓄積されてきた既存の評価・信用,ないしはこれを基礎として形成された既存の取引秩序が及ぶと認められる地域をも含むと解するのが相当である。 (イ) そこで本件について検討すると,証拠(甲3,乙2ないし7,9,16ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a サンボアグループでは,サンボア各店において10年間勤めれば独立してサンボアの看板を出してもよいとの了解ができていた。甲は,北サンボア店において10年間修行をして独立を了解され,昭和45年頃,大阪市A区D町においてハイボールなどのアルコール飲料を扱うニューサンボア店を開店した。 b ニューサンボア店では,営業用として,表面に「SAMBOABAR」,裏面に「DOJIMASAMBOA」,「KYOTOSAMBOA」,「NORTHSAMBOA」,「SOUTHSAMBOA」,「NEWSAMBOA」と記載されたマッチ箱を製作して営業用に使用してきた。 c ニューサンボア店は,昭和53年10月27日,大阪市A区商店会総連合から,大阪市優良店舗コンクールにおいて優秀な成績をおさめたとして表彰された。 d ニューサンボア店は,少なくとも平成2年以降,「Meets」,「ぴあ’sNIGHT」,「夜遊びマニュアル」などの飲食店の紹介雑誌で紹介されるほどに有名な店舗となっていた。飲食店の紹介雑誌で紹介される際には,「旧 ア店は,少なくとも平成2年以降,「Meets」,「ぴあ’sNIGHT」,「夜遊びマニュアル」などの飲食店の紹介雑誌で紹介されるほどに有名な店舗となっていた。飲食店の紹介雑誌で紹介される際には,「旧D町」,「大阪キタ」にある店舗として紹介されていた。 飲食店の紹介雑誌では,地域区分として「大阪キタ」のほか,「大阪ミナミ」,「京都」,「神戸」の分類がされるのが一般的である。 (ウ) 前記認定事実からすれば,甲が被告標章を使用して事業を行ってきたことにより平成4年9月30日の時点で蓄積されていた評価・信用,ないしはこれを基礎として形成されていた取引秩序は,バーという業種も考慮すれば,大阪市A区を中心とする,いわゆる「大阪キタ」と呼ばれる地域の範囲には及んでいたものの,その範囲に限られるというべきである。 被告は,甲からニューサンボア店の営業権を譲り受け,神戸市B区C本町において営業を継続している旨主張するが,前記のとおり,同所は「現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内」に該当するとはいえず,継続的使用権は認められない。 イよって,その余の点について判断するまでもなく,被告の継続的使用権に関する主張は理由がない。 (2) 抗弁2(権利濫用)について前記認定のとおり,被告に被告標章について継続的使用権が認められない以上,被告は商標権者である原告の許諾なくして本件商標に類似した被告標章の承継を受けこれを使用することは許されず,原告が,被告に対し,商標権に基づき使用差止請求を行うことは正当な権利の行使である。そして,証拠(甲5)によれば,本件差止請求訴訟の提起が原告を含めたサンボアグループの総意に基づいて提起された事実が認められ, に対し,商標権に基づき使用差止請求を行うことは正当な権利の行使である。そして,証拠(甲5)によれば,本件差止請求訴訟の提起が原告を含めたサンボアグループの総意に基づいて提起された事実が認められ,原告が,原告以外の他店舗がサンボアの名前についてバーとしての信用評価を高めた成果を独占しようとしているとの被告主張の事実を認めることはできず,その他被告主張の事情に鑑み総合的に判断しても,原告に付与されるべき商標権によって受ける利益を侵害してまで,自ら本件商標の評価・信用を高めるための努力をしたというような事実も認められない被告に対して被告商標の承継及び被告の同標章の使用を認めるべき必要性があるとは認めることはできない。したがって,原告に権利の濫用があると認めることはできない。 よって,この点に関する被告の主張も理由がない。 3 結語以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用し,仮執行宣言はこれを付するのは相当でないから付さないこととし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部裁判長裁判官前坂光雄 裁判官永田眞理 裁判官窪田俊秀 裁判官 窪田俊秀
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