令和5年10月26日判決言渡令和4年(ネ)第10113号損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第11507号)口頭弁論終結日令和5年9月28日判決 控訴人(第1審原告) ジュピター有限会社 同訴訟代理人弁護士千且和也 同補佐人弁理士佐藤雄哉同小山田圭佑 被控訴人(第1審被告) 興和株式会社 同訴訟代理人弁護士堺有光子同佐 々 木奏同小島義博同小野寺良文 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由【略語】本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、原判決で使 用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。 第1 事案の要旨本件は、発明の名称を「コンプレッションサポーター」とする本件特許(特許第5133797号)の特許権者である控訴人が、被控訴人による被控訴人各製品の販売が特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し損害賠償等を求める事案である。 第2 当事者の求めた裁判 1 控訴人の請求被控訴人は、控訴人 人が、被控訴人による被控訴人各製品の販売が特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し損害賠償等を求める事案である。 第2 当事者の求めた裁判 1 控訴人の請求被控訴人は、控訴人に対し、100万円及びこれに対する令和3年5月14日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 【請求の法的根拠】 (1) 主位的請求・主請求:不法行為に基づく損害賠償請求(一部請求)・附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達日の翌日)(2) 予備的請求・主請求:不当利得返還請求(一部請求) ・附帯請求:上記(1)の附帯請求に同じ 2 原審の判断及び控訴の提起原審は、被控訴人各製品は本件発明の構成要件Bⅱを充足せず、本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということもできず、また、本件発明は特許法36条6項1号(サポート要件)に違反し特許無効審判により無効 とされるべきものであるとして、控訴人の請求をいずれも棄却する判決をしたところ、控訴人がこれを不服として以下のとおり控訴した。 【控訴の趣旨】(1) 原判決を取り消す。 (2) 上記1と同旨 第3 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張 1 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記2の当審における当事者の補充的主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1(2頁~)、2(6頁)及び第3(6頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、5頁13行目の「折り方」は「織り方」の、18頁3行目の「【0002】」は「【0005】」の誤記であるから、このとおり改める。 2 当審における当事者の補充的主張(1) 構成要件Bⅱの「大腿骨及び 「折り方」は「織り方」の、18頁3行目の「【0002】」は「【0005】」の誤記であるから、このとおり改める。 2 当審における当事者の補充的主張(1) 構成要件Bⅱの「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」の充足性について(争点1-3関係)【控訴人の主張】ア原判決は、被控訴人製品部分2は、これと接触する部分や大腿骨の周囲 筋腱まで圧迫することは一応認められるものの、大腿骨自体までを圧迫するとは認められないとして、構成要件Bⅱの充足を否定した。 しかし、そもそも「大腿骨及び周囲筋腱」は皮膚の内側にあり、それ自体を直接圧迫することはできない。本件発明が側面圧迫領域を設けたのは、「…内側側副靭帯、外側側副靭帯を圧迫し、歩行及び運動における 膝関節機能の向上…」をさせるためであり(本件明細書【0025】)、このような作用効果からすると、構成要件Bⅱの「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫する」とは、大腿骨の周囲の皮膚を圧迫して大腿骨及び周囲筋腱に作用することと解するのが相当である。 なお、大腿骨の膝周辺に大きな筋肉がなく、大腿骨と皮膚が極めて近 接した状態となっていることは、甲15の1、2、甲16の1、2から明らかである。また。膝関節の屈曲伸展運動時には、膝蓋骨が大きく上下動し、皮膚がより一層大腿骨に接近する状態となる(甲29の1、2、甲30)。 イ被控訴人製品部分2の一部である被控訴人製品部分4は、「上方へ連続 して伸びる方向」、すなわち膝関節の屈曲伸展運動の方向に沿って延在 していることにより、膝関節の屈曲伸展運動時に特に強い圧迫力を発揮する。 また、甲23実験によれば、被控訴人製品17と同一の構成である被控訴 屈曲伸展運動の方向に沿って延在 していることにより、膝関節の屈曲伸展運動時に特に強い圧迫力を発揮する。 また、甲23実験によれば、被控訴人製品17と同一の構成である被控訴人製品2を膝に装着すると、被控訴人製品部分2 に相当する領域が大腿骨の外側の皮膚(甲23実験の②部分及び⑥部分。別紙3参照。)に当 接し、その部分を圧迫していることが裏付けられている。 【被控訴人の主張】ア構成要件Bⅱには、「側面圧迫領域」は「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するため」に設けられていると明確に規定されており、本件明細書にも「大腿骨の外側の皮膚を圧迫する」ことをもって「大腿骨を圧迫する」 などという記載はないから、「大腿骨の外側の皮膚を圧迫する」ことをもって「大腿骨を圧迫する」と解することはできない。仮にそのように解釈するとすれば、本件発明は明確性要件(特許法36条6項2号)に違反するものであり、無効である。 イ甲23実験は、①マネキン表面にかかる接触圧を測定しているにすぎず、 大腿骨にかかる圧力を測定できるものではないこと、②被控訴人製品2の通常の着用状態とは異なり、製品を垂直方向に不当に伸長させた状態、すなわち垂直方向に不当に強い張力を加えた状態で測定していること、③測定結果は装着方法によりばらつきが生じ、製品ごとのばらつきもあり得るのに、甲23実験は、それぞれ1個の製品を1回ずつ測定したの みであることから、信用性がない。 かえって、乙12実験によれば、被控訴人製品は②部分及び⑥部分に加わる接触圧が他の部分と比較して高いとは認められず、比較対象サポーターと比較しても同様である。 (2) 構成要件Cの「樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した構成」の充 足性について(争点1-4 圧が他の部分と比較して高いとは認められず、比較対象サポーターと比較しても同様である。 (2) 構成要件Cの「樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した構成」の充 足性について(争点1-4関係) 【被控訴人の主張】原判決は、構成要件Cの「固着」は別材料固着構造のものに限定されるものではないとの解釈を前提に、被控訴人製品17は構成要件Cを充足すると判断したが、以下のとおり誤りである。 ア 「固着」の意義について 本件明細書においては、まず一体編成・織成構造を採用した従来技術の問題点が指摘され(【背景技術】【0002】)、当該問題点を解決することが本件発明の課題であるとされた上で(【発明が解決しようとする課題】【0005】)、その解決方法として、別材料固着構造を採用した手段が示されて(【課題を解決するための手段】【0006】)、 【発明の詳細な説明】に係るその後の記載においても、専ら別材料固着構造に関する説明のみが記載され(【0009】、【0012】、【0023】、【0031】、【0032】、【図4】等)、一体編成・織成構造のサポーターについては全く記載されていないことからすれば、本件特許発明は別材料固着構造を採用したものである。 したがって、構成要件Cは、被控訴人各製品の構成である一体編成・織成構造のサポーターを含まないものと解すべきである。 低伸縮性材料を本体に「固着」させる方法についても、別材料固着構造であることが前提とされていることからすれば、「固着」とは「本体」の表面の一部に本体とは別個の「樹脂より成る低伸縮性材料」を「固着」 したものをいうと解すべきであり、一体編成・織成構造のサポーターにおいて低伸縮領域が本体と元々一体であることは「固着」に含まれない の一部に本体とは別個の「樹脂より成る低伸縮性材料」を「固着」 したものをいうと解すべきであり、一体編成・織成構造のサポーターにおいて低伸縮領域が本体と元々一体であることは「固着」に含まれないと解すべきである。 イ合成繊維が構成要件Cの「樹脂」に含まれないこと原判決は、大辞林(甲17)の記載を根拠として、合成繊維はその材 料が合成樹脂であるから、被控訴人製品17は「樹脂より成る」という ことができる旨判示する(原判決72頁)。 しかし、甲17には「合成繊維が合成樹脂に含まれる」という明示的な記述はなく、他の文献(乙1、2、7~10)や本件明細書の記載を考慮すれば、原判決の判断は誤っている。 【控訴人の主張】 被控訴人製品17は構成要件Cを充足する旨の原判決の判断に誤りはない。 ア被控訴人の主張ア(「固着」の意義について)に対する反論(ア) 本件発明は「別材料固着構造」のサポーターに限定されるものではなく、「一体編成・織成構造」のサポーターも含まれること本件発明は、「上記低伸縮領域は、樹脂より成る低伸縮性材料を本体 に固着した構成を有している」と規定するのみであり、「本体の表面の一部に、本体とは別個の樹脂より成る低伸縮性材料を固着」するとは規定していない。 本件明細書の記載を考慮しても、本件明細書【0002】は、「従来の筒状の伸縮性サポーター」では「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力 を加えることができない」ことを問題としているのに対し、控訴人の主張する「一体編成・織成構造」のサポーターは、各部位の伸縮性の相違によって「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加える」ことができるものであるから、本件発明は「一体編成・織成構造」のサポーターの問題を課題としているわ 織成構造」のサポーターは、各部位の伸縮性の相違によって「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加える」ことができるものであるから、本件発明は「一体編成・織成構造」のサポーターの問題を課題としているわけではない。このことは、本件明細書【0003】 において「一体編成・織成構造」のサポーターが例示されていないことによっても裏付けられる。 また、本件明細書【0031】及び【0032】には、縦糸と横糸などから成る編織構造に熱溶着性樹脂からなる低伸縮性材料を直接熱溶着した場合、編織構造における低伸縮性材料が染み込んだ部位の伸縮性が 制限されて低伸縮領域が形成され、伸縮性等の異なる部位が配置された 編織構造となることが記載されているから、当業者であれば、これらの記載から、編織構造の縦糸及び横糸の伸縮性を局所的に抑えることで低伸縮領域を形成するという「一体編成・織成構造」と同様の技術的思想が開示されていると理解することができ、「本発明においては何れの固着手段を採用しても良い」【0032】との記載とあいまって、本件発 明が被控訴人の主張する「別材料固着構造」のサポーターに限定されないことが容易に理解できる。 そして、本件発明は、「正面吊り領域」や「側面圧迫領域」を備えることによって、「適切に膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定し得る」ことができ、かつ「大腿骨、脛骨及び周囲 筋腱を圧迫することにより関節裂隙部に作用して、痛みを軽減し得る」ものであるから(本件明細書【0020】)、「別材料固着構造」であるか「一体編成・織成構造」であるかは、本件発明の課題を解決する上で何ら関係のない構成である。 (イ) 被控訴人製品17が「低伸縮性材料を本体に固着した構成」を有し ていること るか「一体編成・織成構造」であるかは、本件発明の課題を解決する上で何ら関係のない構成である。 (イ) 被控訴人製品17が「低伸縮性材料を本体に固着した構成」を有し ていること被控訴人製品17は、被控訴人製品部分2(低伸縮領域)のナイロン繊維(低伸縮性材料)が被控訴人製品部分1(本体)に対して固くしっかりとついており、一定の場所に留まって移らない状態であるため(乙14)、「低伸縮性材料を本体に固着した構成」を有している。 イ被控訴人の主張イ(合成繊維が構成要件Cの「樹脂」に含まれないこと)に対する反論前記ア(ア)のとおり、本件発明は、サポーターの構成材料の取捨選択や特性によって発明の目的及び効果を達成するものではなく、本体に正面吊り領域及び側面圧迫領域を設けることによって発明の目的及び効果を 達成するものであるから、合成樹脂と合成繊維とを厳密に区別する理由 はない。 (3) 均等侵害の成否について(争点1-5関係)【控訴人の主張】仮に、本件発明を被控訴人の主張する「別材料固着構造」のものに限定解釈し、その結果、「別材料固着構造」を有しない「一体編成・織成構造」 であるとされる被控訴人製品17が本件特許発明の技術的範囲に文言上属さないとしても、以下のとおり、本件発明と被控訴人製品17の構成とは均等である。 ア第1要件について本件発明の課題は、「膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝 関節を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供すること」であるところ、当該課題は、低伸縮領域であるほぼU字型の「正面吊り領域」が「膝蓋靭帯を圧迫」すると共に、「膝蓋骨を吊り上げ」て「大腿四頭筋の機能を補助」することで解決されるものである 提供すること」であるところ、当該課題は、低伸縮領域であるほぼU字型の「正面吊り領域」が「膝蓋靭帯を圧迫」すると共に、「膝蓋骨を吊り上げ」て「大腿四頭筋の機能を補助」することで解決されるものである(本件明細書【0010】、【0011】)。このことから、本件発明の本質的部分 は、「低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型に、本体正面に設けた正面吊り領域」を備えるという構成である。 そして、上記課題は「別材料固着構造」を有していなくても解決可能であるため、被控訴人の主張する「別材料固着構造」は本件発明の本質的 部分ではない。 イ第2要件について本件発明の「低伸縮性領域」を「本体」に対して「別材料固着構造」ではなく「一体編成・織成構造」により一体としても、本件発明の課題を解決することができるから、置換可能性がある。 ウ第3要件について 本件発明の出願日(平成20年7月3日)時点において、「一体編成・織成構造」によって局所的に「低伸縮領域」を形成することは、公知文献(特許第2761468号公報〔甲25〕、特開2007-332469号公報〔甲26〕、特開2001-79026号公報〔甲27〕、特開2002-266125号公報〔甲28〕)の記載にあると おり、当業者にとって技術常識であったから、本件発明の「低伸縮性領域」を「本体」に対して「別材料固着構造」ではなく、「一体編成・織成構造」により一体とすることは、被控訴人製品17の製造の時点において、当業者が容易に想到することができたものであり、置換容易性がある。 エ第5要件について(ア) 本件明細書【0002 体とすることは、被控訴人製品17の製造の時点において、当業者が容易に想到することができたものであり、置換容易性がある。 エ第5要件について(ア) 本件明細書【0002】は、「従来の筒状の伸縮性サポーター」では「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができない」ことを問題としているのに対し、「一体編成・織成構造」のサポーターは、各部位の伸縮性の相違によって「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加 える」ことができるものであるから、本件明細書【0002】の記載は、「一体編成・織成構造」のサポーターについての記載ではなく、これを意識的に除外したものではない。このことは、本件明細書【0003】において「一体編成・織成構造」のサポーターが例示されていないことにも裏付けられている。 (イ) 本件明細書には、「一体編成・織成構造」の構成が含まれると当業者が認識し得る記載はあるが、「一体編成・織成構造」の態様については記載されておらず、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた場合(最高裁平成29年3 月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)には当たらな い。 (ウ) したがって、均等の第5要件における特段の事情があるとはいえない。 【被控訴人の主張】ア均等侵害が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中のい かなる部分が対象製品と「異なる部分」であるかを特定した上で、当該部分が均等侵害に係る5要件を充たす必要があるが、控訴人の主張は、被控訴人各製品と本件発明の構成がいかなる点で相違するのかが明らかではなく、主張自体失当で 「異なる部分」であるかを特定した上で、当該部分が均等侵害に係る5要件を充たす必要があるが、控訴人の主張は、被控訴人各製品と本件発明の構成がいかなる点で相違するのかが明らかではなく、主張自体失当である。 イ控訴人が構成要件Cの「樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した」 という構成がないものとして均等侵害を主張しているとしても、本件明細書には、一体編成・織成構造について全く開示がないばかりか、本件明細書【0002】には、一体編成・織成構造のサポーターでは本件発明の課題を解決できないと明記されている。 したがって、上記相違点が本件発明の非本質的部分であるとも(第1 要件)、置き換えても本件発明の目的を達成できるとも(第2要件)、置換えが容易であるとも(第3要件)いえない。 また、一体編成・織成構造については、本件発明から意識的に除外されたものであるから、均等の第5要件における特段の事情が認められる。 (4) サポート要件違反について(争点2-4関係) 【控訴人の主張】原判決は、本件発明が別材料固着構造のほか一体編成・織成構造を含むとの解釈を前提に、本件明細書等には一体編成・織成構造のサポーターに係るサポート要件を満たす記載がないと判断した。しかし、そのクレーム解釈は正当であるものの、サポート要件の充足性の判断は、以下のとおり誤りで ある。 ア本件明細書【0002】に記載された課題は、「サポーター本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式」の「従来の筒状の伸縮性サポーター」では、サポーターの装着部位全体に対する圧迫力や押圧力を変化させることしかできないた を変え、或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式」の「従来の筒状の伸縮性サポーター」では、サポーターの装着部位全体に対する圧迫力や押圧力を変化させることしかできないた め、「任意の箇所」を押圧することができないという課題であって、被控訴人及び原判決がいう「一体編成・織成構造」のサポーターが「必要な押圧を欠く」という課題ではない。 また、本件発明が圧迫力の程度に関して規定していないことからみても、上記の「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができない」 との記載は、「押圧力」の程度ではなく、圧迫・押圧する「箇所」を課題として捉えた記載と解するべきである。 イ本件明細書には、編織構造の縦糸及び横糸に熱溶着性樹脂を溶着させて伸縮性を制限することにより低伸縮領域を形成することが明記されており(【0031】、【0032】)、「…本発明においては何れの固着 手段を採用しても良い。」(【0032】)とも記載されているから、これらの記載から、当業者であれば、編織構造の縦糸及び横糸の伸縮性を局所的に抑えることで低伸縮領域を形成するという技術的思想が開示されていると理解することができ、この技術的思想は「一体編成・織成構造」にも当てはまる。また、本件特許の出願時点において、「一体編 成・織成構造」によって局所的に「低伸縮領域」を形成することは、当業者にとって技術常識であった(甲25~28)。そうすると、当業者であれば、出願時の技術常識に照らし、「一体編成・織成構造」のサポーターが本件発明の課題を解決できると認識することが可能であった。 【被控訴人の主張】 構成要件Cは、被控訴人製品17の構成である一体編成・織成構造を 含むものではないが、仮に含むと 発明の課題を解決できると認識することが可能であった。 【被控訴人の主張】 構成要件Cは、被控訴人製品17の構成である一体編成・織成構造を 含むものではないが、仮に含むと解釈するのであれば、本件発明がサポート要件に違反する旨の原判決の認定判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所は、被控訴人各製品は本件発明の構成要件Cを充足せず、被控訴人各製品が本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということもで きないから、控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。 2 本件発明の内容61頁17行目冒頭から62頁7行目末尾までを次のように改めるほかは、原判決「事実及び理由」第4の1(49頁~)に記載のとおりであるから、こ れを引用する。 「(2) 上記(1)の各記載によれば、本件明細書等には。本件発明に関し、次のような開示があることが認められる。 ア本件発明は、伸縮性素材から成り膝部に着用し得る形態の本体と、本体よりも伸縮性の低い低伸縮領域との伸縮性の相違により膝関節部及び 周囲筋腱をサポートするコンプレッションサポーターに関するものである(【0001】)。 イ従来技術では、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させていたが、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができないとい う問題があった(【0002】)。先行特許文献に記載された逆U字型のパッドを備える構成では、膝蓋骨を吊り上げて大腿四頭筋の機能を補助することができず、縦方向と横方向の伸長率を変化させてずれにくくする構成はサポーター本来の機能とは関係がないという問題があった(【0003】)。 では、膝蓋骨を吊り上げて大腿四頭筋の機能を補助することができず、縦方向と横方向の伸長率を変化させてずれにくくする構成はサポーター本来の機能とは関係がないという問題があった(【0003】)。 ウ本件発明は、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節 を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供することを発明の課題とし(【0005】)、この課題を解決する手段として、本件発明の構成要件A~Cの構成を採用した(【0006】)。 エこれにより、本件発明は、適切に膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定し得るコンプレッションサポーターを提供 するという効果を奏する(【0020】)。 (3) なお、本件明細書【0005】に「他の課題」として記載されている「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫することにより、関節裂隙部に作用して、痛みを抑制することを可能にする」については、これを具体的に説明する記載が、課題を解決するための手段(【0016】、【0018】)、 発明を実施するための最良の形態(【0027】)のいずれにおいても、本件発明(請求項1)の構成に含まれない「背面圧迫領域」を具備した場合の作用効果として記載されていることから(請求項3等には「背面圧迫領域」の文言がある。)、本件発明に係る課題として開示されているとは認め難い。」 3 被控訴人各製品の構成要件充足性(争点1-1~4)(1) 構成要件A及び構成要件Bⅰについて被控訴人製品17が構成要件A及び構成要件Bⅰを充足することについては、原判決「事実及び理由」第4の2(1)(62頁~)及び(2)(65頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 構成要件Bⅱの「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫する とについては、原判決「事実及び理由」第4の2(1)(62頁~)及び(2)(65頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 構成要件Bⅱの「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」の充足性について(争点1-3関係)ア上記(1)の認定に、争いのない被控訴人製品17の構成(前記引用に係る原判決「事実及び理由」第2の1〔前提事実〕(4)ア、イ)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人製品部分4は、構成要件Bⅱの「低伸縮 領域として…上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上方へ連続 して伸びる方向に、本体両側面に設けた」領域に相当し、大腿骨の周囲筋腱を圧迫するものと認められる。 イそこで、構成要件Bⅱの「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」の意義について検討する。 本件発明が皮膚の上から着用するコンプレッションサポーターに関す るものであることに加え、特許請求の範囲(請求項1)の記載、「側面圧迫領域」の作用効果についての本件明細書【0014】の記載(「大腿骨12及び周囲筋腱を圧迫するために…設けた側面圧迫領域…は内側側副靭帯及び外側側副靭帯を圧迫し、歩行及び運動における膝関節機能向上の効果がある。」〔【0025】にもほぼ同じ記載がある。〕)に 照らせば、「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」とは、「側面圧迫領域」が皮膚の上から大腿骨を圧迫する趣旨であることは明らかである。 これに反する被控訴人の主張は、上記認定に照らし、採用できない。また、上記のように解したからといって、本件発明が明確性要件(特許法 36条6項2号)に違反するもの は明らかである。 これに反する被控訴人の主張は、上記認定に照らし、採用できない。また、上記のように解したからといって、本件発明が明確性要件(特許法 36条6項2号)に違反するものではない。 ウそして、弁論の全趣旨によれば、被控訴人製品部分4について、被控訴人製品17と被控訴人製品2は同じ構成を有すると認められるところ、証拠(甲15の1、2、甲23、乙12)によれば、被控訴人製品2の被控訴人製品部分4に相当する部分は、皮膚と大腿骨の間に厚い組織が ない別紙3図面の②及び⑥の部分を、少なくとも③、⑤、⑦、⑩の部分より強く圧迫していること、上記②及び⑥の部分は皮膚の表面と大腿骨が近接しており厚い組織はなく、したがって、皮膚の上からの押圧により大腿骨を両側から挟む形で容易に圧迫できることが認められる。 エこれに対し、被控訴人は、甲23実験の結果に信用性がない旨主張する。 しかし、被控訴人が主張する適切な実験方法により行われた乙12実験 の結果(乙12・4頁~、16頁)においても、マネキンを使用した追試実験の結果は、②及び⑥の部分の接触圧が④の部分に次いで高く、被験者3名の測定結果の平均値をみても、②及び⑥の部分の接触圧は、④及び⑧の部分とほぼ同程度で、③、⑤、⑦、⑩の部分の接触圧より高いものであったことが認められるから、被控訴人の主張は、上記ウの認定 を左右するものではない。 オしたがって、被控訴人製品部分2は、皮膚の上から大腿骨を圧迫する「側面圧迫領域」に相当するから、被控訴人製品17は「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」との構成を有しており、構成要件Bⅱを充足するものと認められる。 (3) 構成要件C るから、被控訴人製品17は「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」との構成を有しており、構成要件Bⅱを充足するものと認められる。 (3) 構成要件Cの「樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した構成」の充足性について(争点1-4関係)ア 「樹脂より成る低伸縮性材料」の意義について(ア) 構成要件Cの「樹脂」が天然樹脂ではなく合成樹脂を意味することは、本件明細書の記載及び弁論の全趣旨から明らかである。 そして、大辞林(甲17)には、合成樹脂については「建築用材・各種部品・食器などに用いられる合成高分子化合物の総称」、合成繊維については「合成高分子化合物を、種々の方法で紡いで繊維としたもの」とあり、「合成樹脂」と「合成繊維」は項目を分けて説明されている一方で、一般的な用例として「合成樹脂」が「合成繊維」を含むとする記 載はない。 そして、一般的な国語辞典よりは技術用語としての用例に踏み込んでいると解される辞典も含めて更に検討すると、「合成樹脂」の説明として、デジタル大辞泉(乙1)では「合成高分子化合物のうち、繊維およびゴムを除いたものの総称」、世界大百科事典第2版(乙2)では「合 成高分子物質のうちで、合成繊維と合成ゴムを除いた、成形品」、化学 大辞典3(乙7)では「合成高分子物質の中で繊維、ゴムとして利用される以外のものを総称する。」とあり、「合成樹脂」に「合成繊維」は含まれない旨が明確に記述されている。 なお、化学大辞典6(乙9)の「ナイロン」の項目では、「歴史」の説明箇所でナイロン繊維についての説明が、「用途」の説明箇所で「生 産の大部分は…繊維として…衣料用…などの工業用に用いられる。」と なお、化学大辞典6(乙9)の「ナイロン」の項目では、「歴史」の説明箇所でナイロン繊維についての説明が、「用途」の説明箇所で「生 産の大部分は…繊維として…衣料用…などの工業用に用いられる。」との説明があるが、「性質」の説明箇所では「プラスチックに用いられるナイロンの性質を次表に示す。」、「ナイロン繊維の性質はポリアミド合成繊維の項を参照」と分けて説明されている。また、化学大辞典8(乙10)では、「ポリエステル」の項目では「アルコールとの重縮合 により得られる高分子化合物の総称。…現在工業的に重要なものには次のようなものがある。(1)アルキド樹脂 (2)不飽和ポリエステル樹脂(3)ポリエステル系合成繊維 (4)マレイン酸樹脂」と説明され、また、「ポリエステル系合成繊維」と「ポリエステル樹脂」はそれぞれ別の項目で説明されている。 これらの辞書、辞典類の記載によれば、合成樹脂と合成繊維はいずれも高分子化合物であり、合成繊維は合成樹脂を材料とすると認められるものの、「合成樹脂」という用語の一般的な意義としては、合成繊維を含まないとみるのが相当である。 (イ) また、本件明細書には、「本発明において、上記低伸縮領域は低伸縮 性材料を本体に固着一体化することによって構成されている。低伸縮性材料としては、例えばナイロン、ポリエステル、ウレタンなどの樹脂材料を使用することができ、特にはウレタン系の樹脂材料が適している。」(【0012】)、「上記の本体20は、綿、毛、アクリル、ポリエステル、ナイロンなどを素材とする非伸縮性繊維及びゴムなどの伸縮素材 又はその他の伸縮性繊維などを使用して…編織したものである。」 (【0022】)、「図示の例の場合、本体20は綿糸及び合成繊維糸を周方 とする非伸縮性繊維及びゴムなどの伸縮素材 又はその他の伸縮性繊維などを使用して…編織したものである。」 (【0022】)、「図示の例の場合、本体20は綿糸及び合成繊維糸を周方向に伸縮性を持つように編織したもので、低伸縮性材料34はウレタン系樹脂材料のフィルムより成る多層構造を有し…」(【0032】)と記載されており、本体を形成する素材に合成繊維が含まれることが開示される一方で、低伸縮領域を形成する「低伸縮性材料」につい ては「樹脂材料」と記載され、この「樹脂材料」に合成繊維が含まれるとする記載はない。その他、本件明細書には、低伸縮領域を形成する「樹脂」又は「樹脂より成る低伸縮性材料」が合成繊維を含むことを示唆する記載は見当たらない。 (ウ) 以上の「合成樹脂」の一般的な意義及び本件明細書の記載によれば、 構成要件Cの「樹脂より成る低伸縮性材料」は合成繊維を含まないと解される。 イ 「樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した」の意義について上記アのとおり「樹脂より成る低伸縮性材料」は合成繊維を含まないと解されるから、「固着」についても、本体の一部に低伸縮性の合成繊 維を編み込むことや、本体に用いる合成繊維の織り方や編み方を変えることによって、本体の一部に設けることは含まないと解される。 「固着」に関する本件明細書の記載(【0012】、【0031】、【0032】)をみても、これと異なる解釈をすべき根拠となる記載は見当たらない。 また、本件明細書の【背景技術】【0002】に「本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力…)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている」従来のサポーターについて「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を 織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力…)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている」従来のサポーターについて「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。」と記載されていることは、本件発 明がこの従来技術と異なる方式であることを示唆するものであり、「固 着」についての上記解釈を裏付けるものといえる。 ウ被控訴人製品17について(ア) 被控訴人は、被控訴人製品17の構成は「一体編成・織成構造」(部分によって織り方や編み方を変化させることにより、伸縮性等の異なる部位を配置した構造)である旨主張し、これに沿う報告書(乙 14)を提出するところ、控訴人は特に争っていない。 (イ) そうすると、被控訴人製品部分2は、「樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した」低伸縮領域に相当するとはいえないから、被控訴人製品17の構成は、構成要件Cを充足しない。 なお、被控訴人の開設するウェブサイトにおける商品説明(甲7)に は、「伸縮率の異なる3種類のナイロン繊維を採用。様々な編み方を組み合わせ、立体的に縫製しました。」という記載があることから、被控訴人製品17の「低伸縮領域」である被控訴人製品部分2は、本体の他の部分より伸縮性の低いナイロン繊維(合成繊維)を用いている可能性も窺われるが、仮にそうであるとしても、上記判断は左右されない。 エ原審及び当審における控訴人の主張に対する判断(ア) 控訴人は、「樹脂」の意義について、本件明細書【0012】に低伸縮性材料の例として「ナイロン」が記載され、大辞林(甲17)に合成繊維の説明として「ナイロン・テトロン・ビニロンなど」と記載されていることから、「樹脂」には合成 ついて、本件明細書【0012】に低伸縮性材料の例として「ナイロン」が記載され、大辞林(甲17)に合成繊維の説明として「ナイロン・テトロン・ビニロンなど」と記載されていることから、「樹脂」には合成繊維が含まれる旨主張する(原判決2 1頁)。 しかし、本件明細書【0012】は、「樹脂材料」として「ポリエステル、ウレタンなど」とともに「ナイロン」を例示したものであり、本件明細書の他の記載と併せると、合成繊維が含まれるかという点について、本体を形成する素材と低伸縮性領域を形成する「樹脂素材」を区別 していることは、前記ア(イ)に判示のとおりである。 (イ) また、控訴人は、本件発明は構成材料の取捨選択や特性によって発明の効果等を達成するものではないから、合成樹脂と合成繊維を厳密に区別すべきではない旨主張する(前記第3の2(2)【控訴人の主張】イ)。 しかし、控訴人の上記主張は、後記の均等論においてはともかく、文言侵害に係る上記アの認定判断を左右するものではない。 (ウ) 控訴人は、「固着」の意義について、本件特許の特許請求の範囲には表面の一部に固着すると限定する規定はない、本件明細書【0032】に記載された熱溶着による手段は「一体編成・織成構造」と固着の態様が同様である、あるいは同様の技術的思想が開示されている旨主張する(原判決20頁~、前記第3の2(2)【控訴人の主張】ア (ア))。 しかし、「樹脂」及び「樹脂より成る低伸縮性材料」が合成繊維を含まないことからすれば、本件特許の特許請求の範囲の規定は前記イのとおり解される。 また、本件明細書【0032】の「さらに、本体20の材質と低伸縮 性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を用いる場合には直接本 許の特許請求の範囲の規定は前記イのとおり解される。 また、本件明細書【0032】の「さらに、本体20の材質と低伸縮 性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を用いる場合には直接本体20に低伸縮性材料34を熱溶着する手段も選択し得る周知の事項である。」との記載は、「一体編成・織成構造」を開示するものとはいえない。なお、熱溶着と「一体編成・織成構造」の技術的思想が共通するか否かは、文言侵害に係る上記アの認定判断を左右するものでは ない。 (エ) 控訴人は、本件発明は「別材料固着構造」に限定されるものではなく、「一体編成・織成構造」のサポーターも含まれる旨主張する(原判決20頁~、前記第3の2(2)【控訴人の主張】ア(ア))。 しかし、本件発明が「別材料固着構造」に限定されるとの被控訴人の 主張を採らずとも、被控訴人製品17の構成が構成要件Cを充足しない と解すべきことは、上記ア、イに判示のとおりである。 控訴人は、上記(イ)、(ウ)の主張を含め、「一体編成・織成構造」のサポーターが構成要件Cを充足する旨をるる主張するが、いずれも上記認定判断を左右するものではない。 オそして、弁論の全趣旨によれば、少なくとも被控訴人製品部分2の構成 は、被控訴人各製品に共通するものと認められるから、被控訴人各製品は、本件発明の構成要件Cを充足せず、その文言上、本件発明の技術的範囲に属するとはいえないことになる。 4 均等侵害の成否について(争点1-5関係)(1) 均等の第1要件(非本質的部分)について ア特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決 件(非本質的部分)について ア特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって、特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技 術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。 そして、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定さ れるべきである。その結果、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定せざるを得ないこととなる。 ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合 には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の 従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである(知財高裁平成28年3月25日判決・判例タイムズ1430号152頁参照)。 イ本件明細書に記載された従来技術、発明の課題及び課題を解決するための手段は、以下のとおりである(前記引用に係る補正後の原判決「事実 及び理由」第4の1(2)のとおりであるが、再掲する。)。 (ア) 従来技術では、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで患部に対する圧迫、押圧の強度を 原判決「事実 及び理由」第4の1(2)のとおりであるが、再掲する。)。 (ア) 従来技術では、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させていたが、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができないという問題があった(【0002】)。先行特許文献に記載された逆U字 型のパッドを備える構成では、膝蓋骨を吊り上げて大腿四頭筋の機能を補助することができず、縦方向と横方向の伸長率を変化させてずれにくくする構成はサポーター本来の機能とは関係がないという問題があった(【0003】)。 (イ) 本件発明は、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節 を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供することを発明の課題とし(【0005】)、この課題を解決するための手段として、本件発明の構成要件A~Cの構成を採用した(【0006】)。 (ウ) これにより、本件発明は、適切に膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定し得るコンプレッションサポーターを提供 するという効果を奏する(【0020】)。 ウ控訴人は、本件明細書の記載に基づき、本件発明の課題は「膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供すること」であり、当該課題は、低伸縮領域であるほぼU字型の「正面吊り領域」が「膝蓋靭帯を圧迫」すると共に 「膝蓋骨を吊り上げ」て「大腿四頭筋の機能を補助」することで解決さ れるものであり(【0010】、【0011】)、このことから、本件発明の本質的部分は、「低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝蓋骨の下部を取り囲むほぼ り(【0010】、【0011】)、このことから、本件発明の本質的部分は、「低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型に、本体正面に設けた正面吊り領域」を備えるという構成(構成要件Bⅰ)であると主張する。 エしかし、本件特許の出願前に頒布された乙4文献には、別紙4「乙4文献の記載」の事項が記載されている(乙4及びその訳文)。 これらの記載から、乙4文献には、伸縮性材料からなり着脱容易な膝サポータ(第1の1)であって、シリコーン材料、ゴムなどの弾性材料から形成され、膝蓋骨用開口部の横及び下から膝蓋骨の下部を取り囲み、 下部膝蓋靭帯の上に位置するU字形状パッドを備え付けることにより(第1の1、2、第2の1、3)、下部膝蓋靭帯の領域に押圧力を生じさせ、膝蓋骨の負荷を軽減するもの(第2の2、4)が開示されていると認められる。 なお、上記「パッド」は、伸縮性材料からなり着脱容易な膝サポータに おいて、シリコーン材料、ゴムが例示される弾性材料から形成され、これが位置する領域に押圧力を生じさせるものであるから、上記伸縮性材料より伸縮性が低いと認められる。 また、乙4文献には、膝蓋骨を保持又は「吊り上げ」ることは明記されていないが、本件発明においても「膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋を補 助する」のは「膝蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型に、本体正面に設けた正面吊り領域」であり(構成要件Bⅰ、本件明細書【0006】)、この「正面吊り領域」は、「本発明においては、低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫するために、膝蓋骨17の下部を取り囲むほぼU字型…に、本体正面に設けた正面吊り領域を具備している。低伸縮領域である正面 この「正面吊り領域」は、「本発明においては、低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫するために、膝蓋骨17の下部を取り囲むほぼU字型…に、本体正面に設けた正面吊り領域を具備している。低伸縮領域である正面 吊り領域を、ほぼU字型に形成することにより、膝蓋骨を吊り上げ、大 腿四頭筋を補助するものである。」(【0010】)、「膝蓋靭帯15を圧迫するために本体正面に設けた正面吊り領域22を具備する。正面吊り領域22は、膝蓋骨17の下部を取り囲む湾曲部を有するほぼU字型…に設けられており、膝蓋骨17の下部を取り囲む湾曲部を有することにより、前述のように膝蓋骨17を吊り上げ、大腿四頭筋に好適な作 用を及ぼすものである。」(【0023】)というものである。 オ以上の乙4文献の開示事項を考慮すると、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところは、出願時の従来技術に照らし客観的にみて不十分というべきである。 そして、乙4文献記載の従来技術をも参酌すると、従来技術に「膝関 節の任意の箇所に必要な押圧を加える」ことができないという問題があり、「膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供する」という課題が未解決であったということはできず、少なくとも、従来技術と比較した本件発明の貢献の程度は大きいものではないと評価せざるを得ない。 以上によれば、本件発明の本質的部分は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものと認めるのが相当であり、少なくとも、樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した低伸縮領域の構成を定める構成要件Cは本件発明の作用効果に直結する部分であって、その本質的部分に含まれるというべきである。 り、少なくとも、樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した低伸縮領域の構成を定める構成要件Cは本件発明の作用効果に直結する部分であって、その本質的部分に含まれるというべきである。 カそうすると、上記3のとおり、被控訴人各製品は、構成要件Cを充足しないから、本件発明の本質的部分を備えていないこととなり、均等の第1要件を充足するとは認められない。 (2) したがって、被控訴人各製品については、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとしてその技 術的範囲に属すると認めることはできない。 5 結論以上によれば、控訴人の請求を全部棄却した原判決はその結論において相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官宮坂昌利 裁判官 本吉弘行 裁判官頼晋一 別紙1 略語一覧(略語) (意味)・本件特許 :控訴人を特許権者とする特許第5133797号・本件発明 :本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明・本件明細書 :本件特許に係る明細書 ・本件明細書等 :本件明細書及び本件特許の願書に添付された図面・被控訴人各製品 :原判決別紙被告製品目録記載1~20の各製品・被控訴人製品2 :原判決別紙被告製品目録記載2の製品 書 ・本件明細書等 :本件明細書及び本件特許の願書に添付された図面・被控訴人各製品 :原判決別紙被告製品目録記載1~20の各製品・被控訴人製品2 :原判決別紙被告製品目録記載2の製品・被控訴人製品17:原判決別紙被告製品目録記載17の製品・被控訴人製品部分2:別紙2「被控訴人製品17の構成」の実線で囲むU字型の 領域(2)・被控訴人製品部分4:別紙2「被控訴人製品17の構成」の点線で囲む領域(4)(被控訴人製品部分2の一部)・甲23実験 :膝用サポーターの機能等に関する事実実験公正証書(甲23)記載の実験 ・乙12実験 :実験結果報告書(乙12)記載の実験・一体編成・織成構造:サポーターを織り上げ、又は、編み上げるに当たり、部分によって織り方や編み方を変化させることにより、伸縮性等の異なる部位を配置した構造(被控訴人の主張)・別材料固着構造:膝を筒状に覆うサポーター本体の表面の一部に、本体とは別の 低伸縮性材料を熱溶着、接着、縫着等によって固着し、伸縮性等の異なる部位を配置した構造(被控訴人の主張)・被控訴人特許 :被控訴人を特許権者とする特許第5165123号(甲12)・乙4文献 :西ドイツ特許公開公報第3416231号(乙4)以上 別紙2 被控訴人製品17の構成 以上 別紙3 ※甲23事実実験公正証書10頁の膝断面図を添付 別紙4 乙4文献の記載 第1 特許請求の範囲 1 伸縮性材料からなり、着脱容易な膝サポータであって、…膝蓋骨のための開口部と、この開口部を囲むパッドと、を備えた膝サポータにおいて、前記 開口部(3) 献の記載 第1 特許請求の範囲 1 伸縮性材料からなり、着脱容易な膝サポータであって、…膝蓋骨のための開口部と、この開口部を囲むパッドと、を備えた膝サポータにおいて、前記 開口部(3)を囲む前記パッド(4)は、大腿骨膝蓋骨間滑り軸受の荷重を軽減する押圧力が膝蓋靭帯に生じるように形成されていることを特徴とする、膝サポータ。 2 前記パッド(4)は、前記開口部(3)をU字形状に取り囲み、前記U字形状は上方に開いていることを特徴とする、請求項1に記載の膝サポータ。 第2 1 本発明による膝サポータの好ましい実施形態によれば、パッドは膝蓋骨用開口部をU字形状に取り囲み、そのU字形状は上向きに開口している。特にパッドは、膝サポータに組み込まれた弾性のU字要素であり、そのU字要素は、膝蓋骨用開口部を横及び下から囲んでいる。 2 膝蓋骨用開口部を囲むパッドがU字形状で上向きに開いていることによって、下部膝蓋靭帯への圧力が高まり、それによって膝蓋骨の負荷軽減が達成される。これによって、膝関節を屈曲させたときの膝蓋骨滑り軸受への押圧力も軽減される。 3 U字要素は通常、上記したように、弾性材料から形成されている。弾性材 料は、当業者に知られており、その際、シリコーン材料、ゴム等は、単に例として挙げられるに過ぎない。本発明による膝サポータの場合、U字要素の形状をしたパッドが膨らみとして形成され、その膨らみの凸面が体に対して丸く盛り上がっている場合、特に有利である。 上記の効果を得るためには、パッドを形成する膨らみの主要体積が下部膝蓋 靭帯の上に位置していることが好ましく、これによって最適な圧力をかけるこ とができる。 膝蓋靭帯へのパッドの押圧力は、膝サポータの製造時にあらかじめ設定しておく 積が下部膝蓋 靭帯の上に位置していることが好ましく、これによって最適な圧力をかけるこ とができる。 膝蓋靭帯へのパッドの押圧力は、膝サポータの製造時にあらかじめ設定しておくことができる。 4 膝蓋骨用開口部3は、上向きの開口を有するU字形状のパッド4によって囲まれており、それによって、下部膝蓋靭帯の領域に押圧力が生じる。膝蓋 骨用開口部に隣接する上部領域に膨らみがないことによって、上部膝蓋靭帯に圧力がかからず、その結果、膝蓋骨の角度の調整及び軟骨領域の負荷軽減を下方から達成することができる。 【図】 以上
▼ クリックして全文を表示