平成15(ワ)6022 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成17年9月30日 東京地方裁判所
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判決文本文36,839 文字)

平成17年9月30日判決言渡平成15年(ワ)第6022号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨被告は、原告Aに対し金3963万5104円、原告Bに対し金3833万5104円及びこれらに対する平成14年8月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告が開設する病院において、分娩のために入院していた患者が、女児を分娩したものの、その約2時間後に昏睡状態に陥り、救急車で国立甲病院に搬送後、多臓器不全、DIC(播種性血管内凝固症候群)等に陥って死亡したことにつき、上記病院において大量出血があったにもかかわらず輸液・輸血を怠ったなどの過失があったとして、患者の相続人である原告らが、被告に対し、不法行為(使用者責任)に基づき、損害賠償金の支払を求めた事案である。 1 前提事実次の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(各項目掲記のもの)によって容易に認められる事実である。 (1) 当事者ア Cは、昭和49年生まれの女性であり、原告Aは、本件当時Cの夫であったものであり、原告Bは、原告AとCの間の子である(争いのない事実、甲C1)。 イ被告は、肩書住所地において、産婦人科を専門とするD病院(以下「被告病院」という。)を設置運営している医療法人である(争いのない事実)。 ウ E医師は、被告病院に非常勤で勤務している医師であり、本件の分娩及び分娩後の患 婦人科を専門とするD病院(以下「被告病院」という。)を設置運営している医療法人である(争いのない事実)。 ウ E医師は、被告病院に非常勤で勤務している医師であり、本件の分娩及び分娩後の患者の治療に携わったものである。被告代表者のF医師は、被告病院の院長であり、本件の分娩後の患者の治療に携わったものである。 (2) Cは、平成14年初め頃、近所の産婦人科病院で妊娠と診断され、出産予定日は平成14年8月13日とされた(甲A3)。Cは、Cの実家がある茨城県に里帰りをして出産することとし、平成14年6月19日以降、被告病院に通院を開始した(争いのない事実)。 (3) 同年8月22日、Cは昼過ぎから痛みを覚え、同日17時頃、被告病院に入院した(以下、特に年月日を示さない場合は、平成14年8月22日をいうものとする。)。22時18分、Cは吸引分娩により原告Bを出産したが、翌23日0時12分、意識が混濁し、同日0時15分、刺激に反応しない状態となり、同日0時37分、救急車で国立甲病院に搬送された(争いのない事実)。 (4) Cは、国立甲病院において治療を受けたが、多臓器不全、DICに陥り、同月24日13時15分、急性呼吸循環不全により死亡した(甲A1、争いのない事実)。 2 争点(1) 出血性ショックを看過し、適切な輸液及び輸血を怠った過失の有無(2) 全身状態の管理・観察を怠った過失の有無(3) 高次医療機関への搬送が遅れた過失の有無(4) Cに本件の症状が生じた原因及び救命可能性(5) 損害論(判断の必要がなかった) 3 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は、別紙当事者の主張に記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 事実認定 5) 損害論(判断の必要がなかった) 3 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は、別紙当事者の主張に記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 事実認定(1) 被告病院におけるCの診療経過被告病院における診療経過については、別紙診療経過一覧表(被告病院)中の「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断)」欄及び「検査・処置」欄の記載(ただし、下線部分は除く。)のとおりであることについては、当事者間に争いがなく、その記載及び各項目掲記の証拠(証拠に付記した〔〕内の数字は、当該証拠の頁数を示す。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 21時25分、Cは被告病院の分娩室に入室し、21時30分、分娩室において破水(人工)し、ヴィーンF500mlの投与が開始された。 この頃、導尿により50mlの尿が測定された(乙A1〔9〕)。 イ 22時18分、Cは吸引分娩によって女児を娩出した。 なお、被告は同時刻から子宮底マッサージを開始したと主張するが、証拠(証人E〔39〕)によれば、かかる事実は認められない。 ウ 22時33分、胎盤が娩出され(一部用手剥離)、その際に819グラム(凝血約569グラム、羊水を含めた出血約250グラム)の出血が認められた(乙A1〔27〕、証人E〔6ないし7〕)。 エ 22時35分、子宮収縮を促すためメテナリンを静注し、子宮収縮良好、出血少量となった(乙A1〔22〕)。 オ 22時45分、Cは軽度悪寒、両鼠径部痛を訴えた。 カ 22時55分、Cに軽度顔色不良があり、意識はあるが、血圧70/50、心拍数が微弱となった。 キ 23時03分、モニターを装着 2時45分、Cは軽度悪寒、両鼠径部痛を訴えた。 カ 22時55分、Cに軽度顔色不良があり、意識はあるが、血圧70/50、心拍数が微弱となった。 キ 23時03分、モニターを装着して測定したところ、血圧103/32となり、F医師が来室し、子宮底マッサージを施行したところ、約400グラムの出血が認められた(乙A1〔22、27〕)。 ク 23時06分、血液検査を施行した。血液検査の結果は、ヘモグロビン値(以下「Hb値)という。女性の基準値は12~16とされる。)9.7g/dl、ヘマトクリット値(以下「Ht値」という。女性の基準値は34~42とされる。)28.4%、白血球数20500μ/l、血小板数24200μ/lであった(甲A2〔7〕、乙A1〔29〕)。 なお、分娩前である平成14年8月13日の血液検査の結果は、Hb値11.3g/dl、Ht値34.1%であった(乙A1〔6〕)。 ケ 23時12分、F医師は、その時点で50ml残っていた点滴剤ヴィーンFを取り外し、新たにヴィーンF500ml及び子宮収縮剤のプロスタグランディン2000mmgの点滴を2ないし3秒に1滴のペースで開始した(乙A1〔17、22、28〕、3〔2、3〕、被告代表者F1回目〔4〕)。 コ 23時15分、E医師による縫合が終了した。上記の子宮底マッサージがなされた時点からE医師による縫合が終了する時点までに約150グラムの出血が認められたが、これ以降の出血はごく少量となった(乙A1〔22、27〕、被告代表者F1回目〔35~36〕)。 この頃、両鼠径部痛の訴えがあり、軽度顔色不良であったが、意識は認められた(乙A1〔22〕)。 サ 23時20分頃、F医師は腹部エコーを施行し、胎盤鉗子によって子 6〕)。 この頃、両鼠径部痛の訴えがあり、軽度顔色不良であったが、意識は認められた(乙A1〔22〕)。 サ 23時20分頃、F医師は腹部エコーを施行し、胎盤鉗子によって子宮内容の除去を行った(乙A1〔22〕)。 シ 23時21分、血圧が70/42と低下したため、側管から新たにヴィーンFの点滴静注を指示した(乙A1〔22〕)。 なお、被告病院の看護記録の同時点の欄には「側管より点滴静注指示」との記載があるのみでこれがヴィーンFであるとの記載はない(乙A1〔22〕)が、同看護記録の翌23日0時32分の欄には「(残370ml抜去)ヴィーンF側管のもの残50mlを本ルートとする」との記載があるところ、この記載と同看護記録中に記載された輸液量の内訳を示した表(乙A1〔28〕)とを総合すれば、23時21分において側管から新たにヴィーンF500mlの点滴静注が開始され、同ルートから合計450mlの輸液が行われたと認めることができる。 23時25分、点滴のペースを上げる一方、プロスタグランディンの流量を下げた(乙A1〔22〕)。 23時29分、血圧78/36、心拍数133となり、23時34分、血圧65/32、心拍数134となったため、23時35分、F医師は昇圧剤であるエフェドリン5mgを投与したが、血圧は測定不能でモニターが切れる状態となった。Cから鼠径部痛の訴えがあり、軽度顔色不良であったが、意識は認められた。同時点でのSpO2(動脈血酸素飽和度。基準値は92から98とされる。)の値は98%であった(甲A2〔7〕、乙A1〔22、31〕、被告代表者F1回目〔12ないし13〕)。 ス 23時38分、F医師は経膣超音波測定法により子宮内を確認し、明らかな胎盤の遺残は )の値は98%であった(甲A2〔7〕、乙A1〔22、31〕、被告代表者F1回目〔12ないし13〕)。 ス 23時38分、F医師は経膣超音波測定法により子宮内を確認し、明らかな胎盤の遺残はなく、腹腔内出血も生じていないことを確認し、子宮後壁の微量の出血に対し、子宮内にホルムガーゼ80cmを挿入した(乙A1〔23〕、3〔3〕、証人E〔11〕、被告代表者F1回目〔10ないし12〕)。 セ 23時40分、F医師は、バルーンカテーテルにより尿量を測定し、20mlの尿が認められた。Cは、軽度顔色不良であり、両鼠径部痛を訴えるとともに、横になりたい、足をのばしたい、部屋へ戻りたいと訴えたため、右側臥位にて観察することとした(乙A1〔23〕)。 ソ 23時44分、Cは軽度顔色不良であったが、意識は認められ、寝返りをしていた。血圧が186/103となり、再度血圧の測定を試みたが測定できず、Cに対する刺激を押さえるため、部屋を暗室とした(乙A1〔23〕、被告代表者F1回目〔14〕)。 タ 23時55分、血圧110/50、心拍数154であり、顔色やや不良であったが、鼠径部痛の訴えはなかった。この時点でのSpO2の値は97%であった(乙A1〔23、31〕)。 チ翌23日0時05分、Cはモニターを外した状態で、ストレッチャーで病室に帰室した(乙A1〔22〕)。 この頃、F医師はナースセンターにおいて原告Aに対し、同時点までの経過を説明し、本件の出血が癒着胎盤を剥離したことによること、出血はおさまっているが、場合によれば輸血を行うことなどを説明した(甲A3、被告代表者F1回目〔15ないし19〕)。 ツ同日0時06分、Cに対しモニターを再装着したが、血圧は測定できず、心拍数146であった。尿 場合によれば輸血を行うことなどを説明した(甲A3、被告代表者F1回目〔15ないし19〕)。 ツ同日0時06分、Cに対しモニターを再装着したが、血圧は測定できず、心拍数146であった。尿量20mlが測定されたが、顔色不良蒼白であり、手指の冷感が認められ、胸に手を当て、右側臥位になりうずくまる様子がみられ、看護師から胸が苦しいのかと問われてうなずいていた(乙A1〔25〕)。 テ同日0時07分、Cは「痛い」と訴え、看護師から足が痛いのかと問われ、「胸が痛い」と答えた(乙A1〔25〕)。 同日0時10分、血圧76/49、心拍数141であった。F医師は、Cが胸部痛を訴えているとの報告を受け、Cのベッドをギャッジアップするよう指示した。ベッドを5度ギャッジアップした後、E医師が聴診を行った。Cは胸部痛を訴えたが意識はあり、手を強く握ることができ、ギャッジアップは元に戻された(乙A1〔25〕、被告代表者F1回目〔19〕)。 ト同日0時12分、心拍数133となり、Cは肩呼吸となり意識が混濁し、声かけに反応せず、手を握り返せなくなった。同日0時15分、Cは刺激に全く反応しなくなり、F医師、原告Aの呼びかけに返答しなくなった。F医師はアンビュー、挿管を指示し、同日0時17分、アンビューを施行し、同日0時19分、挿管を施行した(乙A1〔25〕)。 ナ同日0時17分、SpO2の値が46%、続いて39%となり、同日0時20分には45%、同日0時22分には64%となった(乙A1〔31〕)。 ニ同日0時23分、F医師は国立甲病院へ連絡し、救急車を要請したが、同日0時25分、血圧40/26、心拍数54となり、意識はなく、自発呼吸も消失した(乙A1〔26〕)。 ヌ同日0時32分、救急 0時23分、F医師は国立甲病院へ連絡し、救急車を要請したが、同日0時25分、血圧40/26、心拍数54となり、意識はなく、自発呼吸も消失した(乙A1〔26〕)。 ヌ同日0時32分、救急車が到着し、同日0時37分、ヴィーンF500mlを接続し、F医師及び原告Aが同乗して、救急車にて国立甲病院へ搬送した。救急車内においてはアンビューで人工呼吸を行っており、救急車内における測定の結果、Cの脈拍は50から70代、SpO2は80代を示していた(乙A1〔15、20、26〕、被告代表者F1回目〔21ないし23〕、同2回目〔2ないし4〕、原告A〔9〕)。 ネ被告病院は、分娩室のマットに含まれた250グラム及び綿花・ガーゼに含まれた250グラムの血液を含めた最終的な出血量は、羊水約250ccを含めて約1820グラムであると認識している(乙A1〔27〕)。また、被告病院において行われた輸液の総量は、ヴィーンF1030mlであることに当事者間に争いがなく、その内訳は、21時30分から23時12分までが450ml、23時12分から翌23日0時05分までが360ml、0時05分から0時32分までが220mlとなっている(乙A1〔22、26、28〕)。 なお、この点について原告らは、実際には1820グラムより多い出血が生じていたと主張するところ、三鑑定人は、Cが国立甲病院に搬送された直後のHb値が4.3、Ht値が12.4と低く(後記(2)ウ)、50%以上の出血があったような数値であり、1820グラムという出血量とは合わない(鑑定人G〔62〕、同H〔68ないし69〕、同I〔77〕)との意見を述べている。また、国立甲病院における超音波検査の結果によっても、腹腔内からの出血は認められなかったのであるから(後記(2)カ)、上記Hb値及びHt 、同H〔68ないし69〕、同I〔77〕)との意見を述べている。また、国立甲病院における超音波検査の結果によっても、腹腔内からの出血は認められなかったのであるから(後記(2)カ)、上記Hb値及びHt値が正確に測定されたとする限り、1820グラムという出血量の測定が正確ではなかったとの疑いを払拭できない。 しかしながら、他に出血量の測定が誤っていたと認めるに足りる的確な証拠はなく、上記の事実のみをもって被告病院の出血量の測定が誤っていたと断定するには躊躇せざるを得ず、本件におけるCの総出血量は少なくとも約1820グラムであると認められるものの、それを超えてどの程度の出血があったかについては、不明であるというほかない。 (2) 国立甲病院におけるCの診療経過診療経過一覧表(国立甲病院)の「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断)」欄記載の事実中、当事者間に争いのない事実及び各項目掲記の証拠によれば、国立甲病院におけるCの診療経過などは、以下のとおりである(この項の時刻は、特に記載がない限り、平成14年8月23日の時刻を指す。)。 ア 0時50分、Cは挿管された状態のまま、救急車で国立甲病院に来院し、救急室に運ばれた。Cは、心電図上心室性頻脈が生じており、脈は触知しなかったため、救命医は直ちに心臓マッサージを開始し、ボスミンを投与し、徐細動器による救急蘇生を行ったところ、自己脈が再開した。1時頃、Cは貧血著明、瞳孔拡大、対光反射(-)であったため、J医師ら国立甲病院の医師は出血性ショックと考え、心臓マッサージをしながら、Cを救急室から同病院の救急救命センターへ移動させた(甲A2〔24、31、33〕、証人J〔1ないし4〕)。 イ救急救命センターにおいて、Cの右鼠径部から12ゲージダブルのCV をしながら、Cを救急室から同病院の救急救命センターへ移動させた(甲A2〔24、31、33〕、証人J〔1ないし4〕)。 イ救急救命センターにおいて、Cの右鼠径部から12ゲージダブルのCV(中心静脈カテーテル)を挿入し、左鼠径部から16ゲージシングルの動脈ラインを挿入した。CVを挿入したときにCVP(中心静脈圧)の測定を行ったところ、異常は認められず、その後も看護師から異常値の報告がなされたことはなく、J医師も異常値を認めたことはない(甲A2〔33〕、証人J〔4、5、22、23〕)。 ウ同日1時20分頃実施された血液検査の結果は、pH6.937(7.35~7.45が基準値とされる。)、BE-14.2(-3から3が基準値とされる。)とアシドーシスの状態にあった。Hb値は4.3g/dl、Ht値は12.6%であり、人工呼吸開始前のPaCO2(二酸化炭素分圧)は77.5mmHg、PaO2(酸素分圧)は49mmHgであった(甲A2〔7、33〕、A5〔1ないし2〕、証人J〔3、11〕)。 なおF医師は、血液ガス分析器を使用してHb値、Ht値を測定した場合、測定誤差の生じる場合があり、被告病院における検査結果(甲A2〔9〕)が正確な値を示していると陳述する(乙A5)が、F医師が指摘する検査が行われた正確な時刻については明らかでない以上、いずれかの数値が誤っているということはできないし、他にF医師が指摘する検査結果が正確な値であり、上記測定結果が誤っていると認めるに足りる的確な証拠もないから、国立甲病院の診療録に記載されたとおり(甲A2〔33〕)、上記Hb値及びHt値が正確な数値であると認められる。 エ同じ頃実施された血液生化学検査の結果は、AST(基準値は8~38とされる。)3315U/l、ALT(基準値は 甲A2〔33〕)、上記Hb値及びHt値が正確な数値であると認められる。 エ同じ頃実施された血液生化学検査の結果は、AST(基準値は8~38とされる。)3315U/l、ALT(基準値は4~44とされる。)2505U/l、LD(基準値は106~211とされる。)3115U/lであり、いずれも高値を示しており、虚血による肝機能及び心筋の障害が疑われたが、TT(トロンボテスト。基準値は70以上とされる。)は120%と正常値であった(甲A2〔9〕、証人J〔19〕)。 オ 1時40分頃施行された血液検査の結果、人工呼吸開始後のPaO2は322.4mmHg、PaCO2は28.5mmHgであった(甲A2〔7〕)。 国立甲病院の医師らは、輸血としてMAP(赤血球濃厚液)、FFP(新鮮凍結血漿)を投与し、出血傾向が続くため、DICの予防のためにFOYを投与した(甲A2〔34〕、証人J〔8、9〕)。 カ J医師による内診の結果、約140グラムの出血が確認された(甲A2〔41〕、証人J〔49〕)同日2時頃、経腹超音波検査を施行した結果、子宮内膜に遺残はなく、腹腔内出血も認められなかった(甲A2〔36〕、証人J〔39〕)。 その後、脳出血、その他の内臓の出血、腹腔内出血をスクリーニングするためにCT検査を施行した結果、頭部、胸部、骨盤に異常は認められなかった(甲A2〔34〕、証人J〔10〕)。 キ 3時40分頃施行された血液検査の結果、pH7.314、BE-8.7とアシドーシスは改善傾向にあり、Hb値は11.2g/dl、Ht値は30.8%であり、PaO2は409.3mmHg、PaCO2は31.6mmHgであった(甲A2〔7、34〕、証人J〔11〕)。 ク 5時30 傾向にあり、Hb値は11.2g/dl、Ht値は30.8%であり、PaO2は409.3mmHg、PaCO2は31.6mmHgであった(甲A2〔7、34〕、証人J〔11〕)。 ク 5時30分頃から弛緩出血が生じ、1170グラムのサラサラとした血液が一気に出て血圧も50~60台に低下した。アトニン等の子宮収縮剤が投与されたが、さらに760グラムの出血が生じたため、8時頃、出血を止めるために子宮動脈の塞栓術が施行されたが、DICとなっていたため出血傾向は持続した(甲A2〔34、38〕、証人J〔13、14〕)。 ケ翌24日5時頃から血圧が低下し、収縮期血圧40台、心拍数120台の状態がつづき、同日13時15分、Cは急性呼吸循環不全により死亡した(甲A2〔41〕)。 コなお、国立甲病院の救急室内で、F医師はJ医師に対し、羊水塞栓の検査用の血液採取を依頼し、J医師は1時頃と国立甲病院に搬送された約2時間後の2回、採血を行った(証人J〔17〕)。同血液に対する検査の結果、最初の血液は溶血が強く測定不能であったが、搬送の約2時間後に採取した血液からは、亜鉛コプロポルフィリンが63pmol/ml検出された(乙A2)。 また、国立甲病院において採血(同採血は、Cに対する輸血が行われた後に実施されたものであるが、正確な時刻は不明である)された血液に対する検査の結果、シアリルTn抗原が13U/ml検出された(基準値は45U/ml以下)(甲A2〔10、21〕、証人J〔23〕)。 (3) 医学的知見ア輸液について(ア) 産科出血により循環血液量が減少した場合、組織間液が血管内に移動し循環血液量が維持されるが、細胞外液全体が減少するため、細胞外液全体を補う輸液を行う必要がある(甲B5 について(ア) 産科出血により循環血液量が減少した場合、組織間液が血管内に移動し循環血液量が維持されるが、細胞外液全体が減少するため、細胞外液全体を補う輸液を行う必要がある(甲B5〔1059〕)。 (イ) ヴィーンFは細胞外液補充剤であり、細胞外液補充剤は投与されると血管内と細胞間質に約1:3の割合で分布する。したがって、失血により減少した循環血液量を細胞外液補充剤のみで補うには、失血の3~4倍の量が必要とされている(甲B5〔1061〕、9〔865、891〕)。 (ウ) 膠質液は正常毛細血管壁を通過しない高分子量の物質を含む輸液製剤であり、血管内細胞外液量の増量を図ることができる(甲B5、9)。 イ輸血について(ア) 輸血の適応について、以前は、Hb値10g/dl、Ht値30%以下を目安としていたが、最近では輸血による合併症を考慮して、Hb値8g/dl以下とさらに厳しくする傾向にある。しかしこれはあくまでも目安であって、出血の原因や止血操作が確実に行われているか、さらに出血が持続する可能性があるかなど、ケース・バイ・ケースで対応し輸血すべきであるとする文献がある(甲B1〔285〕(平成6年発表の文献))。 (イ) 実際に輸血を行う場合のポイントは、出血量が2000ml以上の場合、Ht値が25%以下、あるいはHb値が8g/dl以下の場合で、出血が継続している場合や低酸素血症、血管虚脱等が存在する場合と考えられているとする文献がある(甲B7〔180〕(平成15年発表の文献))。 (ウ) 出血量が1000mlを超えた場合には輸液だけでは有効循環血液量が維持できないことが多く、その場合には輸血が唯一最良の治療法となるとする文献がある(甲B6〔170 の文献))。 (ウ) 出血量が1000mlを超えた場合には輸液だけでは有効循環血液量が維持できないことが多く、その場合には輸血が唯一最良の治療法となるとする文献がある(甲B6〔170〕(平成10年の文献))。 (エ) 出血性ショックで循環を維持するために2000ml以上の急速輸液を必要とするときは、輸血が必須となる(甲B9〔865〕)。 ウショックについて(ア) ショックとは、短時間内の急激な出血により循環血液量、静脈還流量、心拍出量が減少し、急性の全身的な末梢循環不全が発生した状態をいう。出血が少量・短時間であれば末梢組織の微小血管系の収縮という代償機構により脳や心臓など重要臓器の血流は保持され回復への過程をとるが、出血が増加し長時間続くと、肺、心、肝、腎、腸管などいわゆるショック臓器の機能不全を惹起し、あるいはショック増悪因子により末梢循環不全が増悪し、細胞レベルの変化、代謝異常を招き、不可逆性ショックとなる(甲B2〔326〕、13〔344〕)。 (イ) 定型的なショックの症状は、蒼白、虚脱、冷汗、心拍数の非触知、呼吸不全である(甲B2〔326〕、3〔293〕、4〔357〕)。 (ウ) ショックの発生をうかがわせる所見としては、収縮期血圧が90以下となること、もしくは血圧が通常より30以上低下することが一般的に指摘されている(鑑定人I〔意見の要旨、1〕)。 (エ) ショックの重症度は出血量に比例し、総循環血液量の約35%~45%(2250ml)の出血であり、収縮期血圧60以下、心拍数140以上、Ht値30%以下の場合、重症ショックと診断される(甲B2〔326〕、3〔294〕、4〔358〕、6〔167〕、10〔332〕、13〔346〕)。 出血であり、収縮期血圧60以下、心拍数140以上、Ht値30%以下の場合、重症ショックと診断される(甲B2〔326〕、3〔294〕、4〔358〕、6〔167〕、10〔332〕、13〔346〕)。 エ羊水塞栓症について(ア) 羊水塞栓症とは、羊水及び胎児成分が母体血中へ流入することによって引き起こされる肺毛細血管の閉塞を原因とする肺高血圧症と、それによる呼吸循環不全を病態とする疾患である(甲B6、14)。 その発症頻度は2~3万分娩に1例とも報告されているが、母体死亡率は60~80%と高率である(甲B4〔367〕、14〔263〕)。 (イ) 羊水塞栓症の発症には、羊水が母体血中へ流入することが必須条件であり、流入した羊水成分は、静脈系、右房、左房、右室、肺動脈を経て肺内の小血管に機械的閉塞をきたすとともに、組織トロンボプラスチンなどのケミカルメディエーターが肺血管の攣縮、血小板・白血球・補体の活性化、血管内皮障害、血管内凝固などをきたし、肺高血圧症、急性肺性心、左心不全、ショック、DICなどを引き起こすとされている(甲B14〔264〕)。 ただし、その明らかな発症原因はアナフィラキシーショック説、肺血管攣縮説、血管内血液凝固による肺血栓説などが考えられているものの、いまだ定説はないとされており、発症原因が複数個考えられると指摘する文献(甲B4〔374〕平成11年発表の文献)も存在する(甲B6〔130〕)。 (ウ) 典型的な症状は、分娩中あるいは分娩後の呼吸困難と血圧の低下であり、重篤なものは引き続き痙攣、呼吸停止、心停止に至るものが従来から指摘されていたが(古典的羊水塞栓症)、それとは別にDICによる大量の子宮出血が初期症状として現れるものもあ 呼吸困難と血圧の低下であり、重篤なものは引き続き痙攣、呼吸停止、心停止に至るものが従来から指摘されていたが(古典的羊水塞栓症)、それとは別にDICによる大量の子宮出血が初期症状として現れるものもある(強出血タイプ羊水塞栓症)(甲B14〔264〕、乙B3〔1343〕)。 (エ) 羊水塞栓症は、臨床症状によりある程度診断は可能であるが、確定診断は死後の部検により初めて確定診断が可能とされており、X線撮影やCTで特異的所見が得られるとは限らない(甲B2〔328〕、6〔132〕、14〔267〕、証人J〔21〕)。 亜鉛コプロポルフィリン(Zn-CP)とシアリルTn抗原(STN)は母体血中には少なく、羊水中に存在する特異物質で、ともに胎娩中に排泄される。これらは母体血中への羊水流入を直接証明する方法といえるが、決して羊水塞栓症の原因物質ではなく、羊水塞栓症例においてもこの両者の値は必ずしも相関するとはいえない。また、羊水が母体血中に流入しただけでは必ずしも羊水塞栓症が発症するという確証もない(甲B4〔371〕、14〔267〕)。 母体血中における亜鉛コプロポルフィリン値の正常上限は1.6pmol/mlとする文献がある(甲B4〔370〕)。 (オ) DIC(播種性血管内凝固症候群)とは、本来は凝血が起こらないはずの血管内において凝固機転の亢進が起こり、全身の微小血管内に多数の血栓が形成される症候群である。血栓の形成により凝固因子が消費され消費性凝固障害となる一方、この血栓を溶解する機序が加わって出血傾向が出現、さらにはこれら病的状態が相まって、臓器に重篤な障害をもたらす。出血した血液はサラサラしており、凝固しにくいのが特徴である(甲B14)。 オ肺塞栓について って出血傾向が出現、さらにはこれら病的状態が相まって、臓器に重篤な障害をもたらす。出血した血液はサラサラしており、凝固しにくいのが特徴である(甲B14)。 オ肺塞栓について肺塞栓症は静脈系に発生または流入した栓子が、肺血管床を閉塞させる状態であり、75~95%以上は骨盤内や下肢の深部静脈血栓が遊離して起こる。産婦人科領域では、血栓や羊水成分、腫瘍組織が主たる栓子である。また閉塞部位、範囲、閉塞状態によって臨床上全く無症状のものから呼吸困難、ショック症状を呈し、死に至るものまで種々である(乙B13)。 全く正常な胸部X線像が得られることも稀ではなく、胸部写真で本症を診断することは不可能である(乙B13)。 2 争点(1)(出血性ショックを看過し、適切な輸液及び輸血を怠った過失の有無)について(1) 上記1(1)の事実及び証拠(鑑定人I、同H、同G〔各意見の要旨〕)によれば、Cは22時55分から血圧低下、顔色不良、悪寒等のショック症状を呈しており、心拍数も高く、23時30分の時点においてもショック指数は1.5を超えており中等症以上のショック状態にあるとともに、この時点で1820グラム以上の出血が生じていたことが認められる。 そして、証拠(鑑定人G〔30〕、同H〔32、33〕、同I〔34、35〕)によれば、ショックに対する措置としては、その原因が何であれ、ショックと診断した段階で急速輸液を実施するのが最も標準的なものであることが認められる。 この点について被告は、23時06分時点のHb値が9.7g/dlであり十分な数値であると主張するが、証拠(甲B5、鑑定人I〔意見の要旨〕)によれば、急速出血の場合にはHb値はさほど低下せず、出血後20分から1時間ほどが経過して 06分時点のHb値が9.7g/dlであり十分な数値であると主張するが、証拠(甲B5、鑑定人I〔意見の要旨〕)によれば、急速出血の場合にはHb値はさほど低下せず、出血後20分から1時間ほどが経過して組織間質液が血管内に分布することによりHb値が低下することが認められるから、23時06分時点のHb値が9.7g/dlであったことをもって、急速輸液の必要性を否定することはできない。 (2) そこで、被告病院において実際に行われた輸液が不適切であったか否かについて検討する。 ア被告は、1時間当たり約1000mlの輸液を実施したと主張し、被告病院の看護記録には23時25分にヴィーンFを全開大で流出させた旨の記載が存在する(乙A1〔22〕)が、それ以降救急車によって国立甲病院に搬送されるまでの間にさらに輸液量を増した形跡はなく、前記1(1)ネのとおり、Cの帰室後搬送を開始するまで27分間の輸液量は220mlであったことからすると、上記のように速度を速めた後も1時間当たりの輸液量は490ml程度であったと認められるし、結果として、被告病院において行われた輸液は、患者が分娩室に入室した21時30分から国立甲病院に搬送するまでの間のヴィーンF1030mlのみであったことについては当事者間に争いがない。 そして、輸液の実施に関する一義的な基準を示すことは困難であるが、証拠(甲B5、9)によれば、一般的にヴィーンFなどの細胞外液系の輸液の場合、出血量の約3倍が必要な輸液量とされていること、鑑定人らも揃って、結果として1820グラムの出血量に対しヴィーンF1030mlの輸液は少なかったことに加え、細胞外液系の輸液のみではなく膠質液の投与が適当であったことを指摘している(鑑定人H、同G、同I〔各意見の要旨〕)ことなどからすれば、被告が に対しヴィーンF1030mlの輸液は少なかったことに加え、細胞外液系の輸液のみではなく膠質液の投与が適当であったことを指摘している(鑑定人H、同G、同I〔各意見の要旨〕)ことなどからすれば、被告が行った輸液については、少なくとも標準的なものとはいえない。 イ(ア) しかし、本件は出産時における出血であるところ、証拠(甲B5〔1060〕、乙B4〔155〕、鑑定人H〔10〕)によれば、妊娠末期の女性の血液量は非妊婦に比べて40%~50%、場合によっては量にして1リットル以上増えている可能性があること、細胞外液量は非妊娠時には約208ml/kgから妊娠後期には約284ml/kgとなることが認められる。 したがって、出産時における母体からの出血については、このような出血に対する予備能を考慮して輸液量の適否を判断する必要がある。 また、証拠(甲B5、9)によれば、出血性ショックの治療の基本は、出血源の検索・止血、輸液・輸血であるが、根本的治療として出血原因の止血が重要であるとされており、出血性ショックに対する輸液、輸血による循環管理はいわゆる対症療法であり、止血までの時間かせぎにすぎないと指摘する文献も存在する(甲B5)ところ、上記1(1)コに認定したとおり、23時15分頃にはCの出血はほぼ止まっており、出血源の検索の結果、出血源からの新たな出血は確認されていない。 (イ) 鑑定人H及び同Gは、本件のCの出血量については1820グラムよりも多いのではないかとの認識は有しつつも(鑑定人H〔69〕、同G〔62、102〕)、産科においては大量の出血があったとしても、それが止まっているか否かが大きな問題であるとして、Cの出血が止まった23時15分の時点においては、輸液については翌朝までゆっくり 、同G〔62、102〕)、産科においては大量の出血があったとしても、それが止まっているか否かが大きな問題であるとして、Cの出血が止まった23時15分の時点においては、輸液については翌朝までゆっくり点滴をつないで戻すというぐらいでよいとし(鑑定人G)、直接的には搬送の時期についてではあるが、それまでの状況を踏まえて、被告病院において経過観察するという考えもあり得る旨指摘しており(鑑定人H〔51〕、同G〔52〕)、かかる指摘は、輸液の不足を別個の治療で補う必要がないことを前提としているということができ、K医師も同旨の指摘をしている(乙B19〔2、6〕)。 また、鑑定人Gは、国立甲病院への搬送後における中心静脈圧が正常であったことからして、輸液の不足はうかがわれないとしている(鑑定人G〔28〕)。 その上、鑑定人G及び同Hは、本件でなされた輸液を前提としても、輸液が少なかったことのみを原因としてショックが重篤化したとは考えにくい旨指摘しており(鑑定人G〔31、45、61〕、同H〔70〕)、鑑定人Iも、本件でなされた輸液措置を前提としつつ、本件の経過が出血性ショックで心肺停止した後の回復の状況としては少し悪い旨指摘しており(鑑定人I〔75、83〕)、いずれの鑑定人も、被告病院における出血及び輸液の不足がショック状態の悪化を招いたとの考えに疑問を呈しているということができる。 これらの鑑定人らの指摘は、主として因果関係について言及したものもあるが、それらはまた、因果関係についての疑問から翻って考えると、被告病院による輸液が標準的な量に比べて少なかったものの、出血性ショックに対する治療として不十分とまではいえないとする趣旨をも含むもの解すべきである。 ウ以上の点を勘案すると、被告が行 、被告病院による輸液が標準的な量に比べて少なかったものの、出血性ショックに対する治療として不十分とまではいえないとする趣旨をも含むもの解すべきである。 ウ以上の点を勘案すると、被告が行った輸液について標準的な措置がとられなかったことは前述のとおりであるが、被告病院の輸液措置に過失があったとまではいえない。 (3)アなお、輸血の点について検討するのに、証拠(甲B5、鑑定人H〔33〕)によれば、輸血は輸液によっても血圧が不安定となるか全く血圧の上昇が見られない場合に実施されるところ、上記に認定説示したとおり、本件においては輸液が不十分であるとは言い難いのであるから、輸液の実施に重ねて輸血を実施する義務があるとすることはできない。 鑑定人G及び同Hは、Cの血圧が低下していた時点で輸血の手配をすべきであった(鑑定人G〔29〕、同H〔33〕)旨指摘しているが、かかる鑑定人らの意見は、輸血の実施が必要となった事態に備えた事前の準備としてあらかじめ輸血を手配すべきとしたものであって、被告病院において輸血を実施すべき義務があったとする趣旨ではないと解すべきである。 イまた、Cの出血量ないし血液検査結果に基づいて検討するのに、証拠(甲B5)によれば、日本赤十字社が示した「血液製剤の使用指針」においては、循環血液量の20~50%の出血が生じた場合、細胞外液系の輸液とともにMAP(赤血球濃厚液)を投与するとされていることが認められるが、一方で、証拠(甲B7)によれば、妊娠前に健常であった妊婦の場合、出血量が1500ml以下の場合、循環動態は維持されており速やかな止血により、輸液だけで回復をみることが多いが、2000ml以上の出血をみた場合、輸血が必要であるとする文献も存在しているし、鑑定人Hも、2000グラムの出血 の場合、循環動態は維持されており速やかな止血により、輸液だけで回復をみることが多いが、2000ml以上の出血をみた場合、輸血が必要であるとする文献も存在しているし、鑑定人Hも、2000グラムの出血が生じたとしても輸血をしないで輸液だけでやっていることが多いとの意見を述べている(鑑定人H〔10〕)。 一方、Hb値、Ht値については、証拠(甲B1、7)によれば、実際に輸血を行う決定のポイントは、Ht値が25%以下あるいはHb値が8g/dl以下の場合で、出血が継続している場合や低酸素血症、血管虚脱などが存在する場合と考えられているとする文献が存在する。 そうすると、被告病院におけるCの出血量は必ずしも明確ではないものの、23時06分の時点でのHb値は9.7g/dl、Ht値は28.4%であり、いずれの検査結果についても上記文献の基準を明らかに下回るものではなく、しかも23時15分には出血はほぼ止まっていたのだから、これらを前提とした場合、急速出血の場合にはHb値は徐々に低下することを考慮しても、被告に輸血を実施する義務があったということはできない。 (4) したがって、輸液及び輸血に関する原告らの主張は、いずれも理由がない。 3 争点(2)(全身状態の管理・観察を怠った過失の有無)について(1) 原告らは、被告が血液検査、血液ガス分析、尿量のチェックを頻回に行う義務があったと主張しているところ、鑑定人らは、血液検査はより頻回に行うことができたこと、血液ガス分析を行う必要があったこと及びバルーンカテーテルを早期に挿入し、尿量の確認をすべきであったとの意見を述べている(鑑定人H〔意見の要旨〕、同I〔21〕、同G〔意見の要旨〕)。 しかし、本件全証拠によっても、これらの検査を実施した場合にいか 期に挿入し、尿量の確認をすべきであったとの意見を述べている(鑑定人H〔意見の要旨〕、同I〔21〕、同G〔意見の要旨〕)。 しかし、本件全証拠によっても、これらの検査を実施した場合にいかなる検査結果が判明し、いかなる治療が行われたのかは不明であるといわざるを得ないし、鑑定人もその点については特に意見を述べていないのであるから、鑑定人らの上記意見も、患者の状態を適切に把握する必要性について指摘するにとどまり、治療行為として不十分であったとまで指摘するものではないということができる。 したがって、Cの正確な状態を把握する目的で、被告が上記検査を実施するのが望ましかったとしても、これらを実施しなかったことが過失であるということはできない。 (2) なお、血液検査については、国立甲病院に搬送した直後の血液検査結果(上記1(2)ウ)から翻って考えると、被告病院が23時06分以降に再度血液検査を実施していれば、CのHb値、Ht値が低下していた事実を認識できた可能性が高いと考えられるものの、上記2(3)に判示したとおり、本件においては輸血を実施する前段階としての輸液が不十分であったとはいえないのであるから、仮に被告が、血液検査によってHb値、Ht値が低下していた事実を認識できたとしても、その事実は輸血実施義務の有無について影響を及ぼすものではない。 (3) したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。 4 争点(3)(高次医療機関への搬送が遅れた過失の有無)について鑑定人Gは、本件において結果としてもう少し早く高次医療機関への搬送がなされるべきであった旨の意見を述べている(鑑定人G〔58〕)。しかし、鑑定人H及び同Gは、Cの血圧が上昇しないこととCの出血が止まっていることとの関係において、どの時点で 早く高次医療機関への搬送がなされるべきであった旨の意見を述べている(鑑定人G〔58〕)。しかし、鑑定人H及び同Gは、Cの血圧が上昇しないこととCの出血が止まっていることとの関係において、どの時点で搬送に踏み切るかは難しい問題であり、そのまま様子を見るのもやむを得ないとしている(鑑定人H〔51〕、同G〔52〕)ことからすると、上記意見は本件を事後的に検討した上で、搬送がなされた方が望ましい結果が得られた可能性があるとの結果論を述べたものに過ぎず、実際の診療時点における搬送の必要性について述べたものではないというべきである。 その他、証拠(甲B5)によれば、止血が困難な場合は手術療法が必要であり、自施設で対処不可能な場合は高次医療機関へ搬送する必要があることが認められるものの、本件においては遅くとも23時15分頃にはCの出血は止まっていたのだから、前記1(1)テ、トころの急変以前に高次医療機関へ搬送する必要は認められないし、その後実際に国立甲病院に搬送されるまでの経過は急変に対応するためのやむを得ない措置と認められる。 したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。 5 争点(4)(Cに本件の症状が生じた原因及び救命可能性)について上記2ないし4のとおり、被告病院に過失は認められないから、本来この争点について判断する必要はないが、念のため、以下のとおり判断を示す。 (1) 23時頃のCの症状についてア前記1(1)のCの血圧、心拍数及び身体所見等の状態に照らすと、Cは23時頃までにはショック状態に陥っていたものと認められる。 イ証拠(乙A5)によれば、F医師は被告病院においてDICが発症した事実はなかったと陳述している。また、証拠(甲B13)によれば、DICにおいてはサラサラ に陥っていたものと認められる。 イ証拠(乙A5)によれば、F医師は被告病院においてDICが発症した事実はなかったと陳述している。また、証拠(甲B13)によれば、DICにおいてはサラサラの凝固しにくい血液が流れる特徴があるところ、上記1(1)ウ、コに認定したとおり、Cの胎盤娩出時に凝血が現れたこと、被告病院におけるCの出血は、遅くとも23時15分頃にはほぼ止まっていたことなどの被告病院におけるCの出血傾向に鑑みれば、被告病院においてDICは発症していないと認められる。 そして、鑑定人G及びHは、原因が分からない分娩後の出血も羊水塞栓に含まれているのではないかという指摘をしつつも、被告病院における出血の原因は、基本的には胎盤の用手剥離とその後の弛緩出血によるものと認められ、これにより血圧が低下し心拍数が低下したとして、23時38分頃までは、出血性ショックが生じていたと疑われる(鑑定人G〔3〕、同H〔8〕)旨の意見を述べているところ、他にこれを覆すに足りる的確な証拠はない。 ウしたがって、23時頃までにCに生じた症状の原因は、胎盤の用手剥離とその後の弛緩出血がもたらした出血性ショックである蓋然性が高いというべきである。 (2) 翌23日以降のCの症状についてアその後、翌23日0時17分頃から、Cの血圧は急激に低下し心拍数も低下し、国立甲病院において心肺停止状態に陥り、その後多臓器不全及びDICを発症しているところ、原告らは、これらが上記(1)の出血性ショックが遷延かつ重篤化したものであって、その原因は被告病院における出血性ショックに対する措置が不十分であったことによるものと主張する。 これに対し、三鑑定人は、急変以降の事態が出血性ショックの重篤化によるものとの可能性を全 の原因は被告病院における出血性ショックに対する措置が不十分であったことによるものと主張する。 これに対し、三鑑定人は、急変以降の事態が出血性ショックの重篤化によるものとの可能性を全く否定はできないとしつつも、前記2(2)イ(イ)のとおり、そのように考えるのには無理があり、次のイないしオのとおりの事情からすると、他の原因が加わったことによると考える方がより自然であると指摘している。 イまず、Cが鼠径部及び足の痛み、胸部痛等を訴えているところ、ショックにより血流が遅くなり、まれに鼠径部痛が生じることもあるし、血圧低下が生じた場合、胸部の不快感を訴えることが多く(鑑定人I〔12、13〕)、鼠径部痛については、分娩時の体位によるものである可能性があるものの(鑑定人G〔16〕)、23日0時以降にCに生じた胸部痛については、前記1(1)ツ、テのとおり、痛いとの明確な訴えがあり、しかもそれによってうずくまる姿勢を示しているところからすると、単なる血圧低下に伴う不快感にとどまるものではないと認めるのが相当である。そして、このような明確な胸部痛の生じた数分後に肩呼吸が生じ、意識が混濁していることからすると、胸部痛発生時点で血栓症又は羊水塞栓症が発症したことが強く疑われるところである(鑑定人G〔意見の要旨〕)。 ウ前記1(2)エのとおり、国立甲病院において23日1時20分頃施行された緊急検査の結果、トロンボテストは120%と正常値を示す一方、AST、ALT及びLDの値からは既に多臓器不全の発生がうかがわれたところ、これが出血性ショックの遷延によるものとすると、出血で凝固因子が失われることによってトロンボテストの値ももう少し下がっているはずであるし(鑑定人G〔61、86〕、同H〔72〕、同I〔77〕)、血栓や塞栓がある場合 ョックの遷延によるものとすると、出血で凝固因子が失われることによってトロンボテストの値ももう少し下がっているはずであるし(鑑定人G〔61、86〕、同H〔72〕、同I〔77〕)、血栓や塞栓がある場合でも、それに対する治療が行われていない段階ではトロンボテストの値は正常である(鑑定人G〔86〕)ことからすると、上記トロンボテストの値は、それまでの事態の原因を出血性ショックのみで説明することとは矛盾する一方、血栓症又は羊水塞栓症の関与とは矛盾しないものである。 エ国立甲病院搬送後の血液ガスの状況をみると、23日3時40分頃の血液ガス分析においては、sO2は99.8%となっているところ(甲A2〔7〕)、これによれば、一応全身状態を改善するための必要な酸素濃度があると解される(鑑定人I〔81〕)。 しかし、人工呼吸により100%酸素が送られている場合はPaO2は500mmHg以上になるのが通常であるところ(鑑定人I〔77〕)、23日1時40分頃PaO2は322mmHgで明らかに低く、その後十分な輸液及び輸血がされたにもかかわらず、3時40分の時点でPaO2は409.3mmHgで500mmHgまでは至ってはいない。 このことは循環器的に考えれば、出血性ショックだけでも説明不可能ではないと思われるが、出血性ショックで心肺停止した後の回復の状況としては少し悪く、羊水塞栓などによる肺動脈も含めた全身血管の攣縮が生じていた可能性も否定できないのであり、鑑定人Iは、この点から印象としてはこのような出血性ショック以外の要素の関与があった可能性も感じとれるとしており(鑑定人I〔75、81、83〕)、鑑定人G及び同Hも、前記2(2)イ(イ)のとおり、ほぼ同旨の指摘をしている。 オ前記1(2)コのとおり、国立甲病院 があった可能性も感じとれるとしており(鑑定人I〔75、81、83〕)、鑑定人G及び同Hも、前記2(2)イ(イ)のとおり、ほぼ同旨の指摘をしている。 オ前記1(2)コのとおり、国立甲病院に搬送された2時間後に採取されたCの血液から亜鉛コプロポルフィリンが63pmol/ml検出されているところ、シアリルTn抗原は基準値を下回る値しか検出されなかったことからすると、これらの検査結果のみから羊水塞栓症の発症を断言はできないものの、少なくとも羊水がCの母体血中に流入した事実は認められるし、上記の亜鉛コプロポルフィリンの値が相当に高い(甲B4〔134〕)ことからすると、羊水塞栓症の発症を疑わせるものである(鑑定人G〔意見の要旨〕、同H〔意見の要旨、66〕)。 (3) 原告らの主張についてア原告らは、国立甲病院においてCのX線やCT検査、血液検査、中心静脈圧(CVP)値に異常がなかったことは、肺塞栓ないし羊水塞栓症の発症を明確に否定する事実であると主張し、鑑定人Iも、末梢血管、主要動脈、肺動脈のいずれが閉塞しても、最終的には肺高血圧症という所見が生じるため、CVP値に異常がなければ、肺塞栓はネガティブになると思われる旨の意見を述べている(鑑定人I〔79、80〕)。 しかし、X線、CT、血液検査その他検査結果から肺塞栓ないし羊水塞栓の発症を否定し得る結果が出ているとは認められないし(鑑定人I〔93〕、同H〔95〕)、鑑定人IはCVP値についてはカテーテルが挿入された位置等の問題点もあることを指摘しているところ(鑑定人I〔79〕)、J医師も鼠径部からのCVPが正常であったから肺高血圧がなかったということはできないとしている(証人J〔44〕)こと、鑑定人IはCVP値について上記の意見を述べた後に、羊水塞栓から心 人I〔79〕)、J医師も鼠径部からのCVPが正常であったから肺高血圧がなかったということはできないとしている(証人J〔44〕)こと、鑑定人IはCVP値について上記の意見を述べた後に、羊水塞栓から心臓の左心室の障害を起こすという機序によって致死的状態が生ずることもあるので、CVP値が正常であるとしても羊水塞栓を否定することにはならないとし(鑑定人I〔80〕)、さらに国立甲病院における十分な輸液及び輸血措置の後にも血中酸素濃度の回復が十分でないことから、肺の障害が存在した可能性があるという意見を述べていること(鑑定人I〔81〕)に加え、羊水塞栓症患者の中心静脈圧が正常範囲内であったとする文献も存在すること(甲B6〔132〕)からすると、国立甲病院においてCVP値に異常がなかった事実は、肺に塞栓が存在したことを否定するものではない。 イ原告らは、Cに対する輸血がなされた後の亜鉛コプロポルフィリンの値には信頼性がないと主張するが、証拠(甲B6〔133ないし134〕、被告代表者F2回目〔4ないし5〕)によれば、亜鉛コプロポルフィリンが通常の血中にはなく、光により分解される物質であることが認められるところ、亜鉛コプロポルフィリンが輸血用の血液に含まれているとは考え難く、同値が輸血の実施によって上昇したとは認められず、その他同値の測定結果の信頼性を疑わせるに足りる的確な証拠はない。 ウ原告らは、実際の出血量は1820グラムより多かったのであるから、1820グラムの出血であったことを前提とする鑑定人Hないし鑑定人Gの意見は、出血以外の他の要因を積極的に疑うべき根拠とはならないと主張する。しかし、両鑑定人ともに、1820グラムよりさらに出血が多かった可能性があることを認めつつ(鑑定人H〔68ないし69〕、同G〔62、102〕)、その上 因を積極的に疑うべき根拠とはならないと主張する。しかし、両鑑定人ともに、1820グラムよりさらに出血が多かった可能性があることを認めつつ(鑑定人H〔68ないし69〕、同G〔62、102〕)、その上で出血以外の他の原因が存在するとの意見を述べているのであるから、原告らの主張は採用できない。 (4) 救命可能性について以上のことからすると、Cが国立甲病院における手厚い措置にもかかわらず死に至ったことについては、既に生じていた出血性ショックの遷延及び重篤化という可能性は全くは否定できないものの、これに23日0時すぎに新たに生じた肺塞栓又は羊水塞栓が加わって生じたものとの疑いが払拭できず、むしろ後者の可能性の方が高いものと認められるから、出血性ショックの遷延及び重篤化のみによるものとは認められず、原告らの主張はその前提を欠くこととなる。 そして、上記時点で新たに生じた肺塞栓又は羊水塞栓が死亡の原因となっているとすると、それ以前に大量の輸液をしても、これを阻止し得たとは認められず(鑑定人G〔31、36〕、同H〔33〕、同I〔36〕)、より早期の輸血や十分な全身状態の管理・観察、より早期の高次医療機関への搬送を行ったとしても救命可能性があったとは認められないことは、三鑑定人が一致して認めるところである(鑑定人G〔意見の要旨、101〕、同H〔96〕、同I〔99〕)。 そうすると、被告病院に原告ら主張の過失が認められないことは、前記2ないし4に説示したとおりであるが、仮にこれらの過失があったとしても、それらとCに生じた結果との間には相当因果関係はないこととなる。 6 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの請求は、いずれにしても理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 結果との間には相当因果関係はないこととなる。 6 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの請求は、いずれにしても理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官藤  山  雅行 裁判官大須  賀綾子 裁判官筈井  卓矢(別紙)当事者の主張(1) 争点(1) 出血性ショックを看過し、適切な輸液及び輸血を怠った過失の有無について(原告らの主張)アショックの症状及び判定指針について(ア) 出血性ショックの臨床症状は、①血圧の低下、②心拍数の増加、③悪心・冷感・チアノーゼ、④乏尿または無尿、⑤意識障害・昏睡等である。また、Hb値、Ht値はいずれも低下することが血液検査により確認される。 通常、ショックの重症度は血圧と心拍数の比(血圧の低下により心拍出量は減少するので、これを代償するために心拍数は血圧の低下と反比例して増加する)を指標として判断され、収縮期血圧70mmHg以下、心拍数140/分以上の場合は、高度ショック状態と判定される。またHt値も出血量及びショ これを代償するために心拍数は血圧の低下と反比例して増加する)を指標として判断され、収縮期血圧70mmHg以下、心拍数140/分以上の場合は、高度ショック状態と判定される。またHt値も出血量及びショックの重症度の判断指針となっており、Ht値が30%以下の場合は総循環血液量の35%~45%(1750~2250ml)が失われた重症のショック状態と評価される。 (イ) 分娩の際の出血の原因としては、常位胎盤早期剥離、弛緩出血、頚管裂傷、癒着胎盤等があるが、産科においては、500mlを超える分娩時出血(分娩中及び分娩後2時間までの出血)を異常出血とし、出血量が800ml~1000mlに達した場合には輸血を行うべきであるとされている。 イ Cの状態について(ア) 出血量について被告病院のカルテによれば、胎盤が娩出された22日22時33分頃までに、Cは少なくとも850ml程度の出血をしており、分娩時の総出血量は1820mlである。 被告は、出血量は最大でも1000~1400ml程度であると主張しているが、Cが分娩室に入室したのは破水後であり、羊水は既に流出していたのであるから、分娩開始後の羊水量はせいぜい200~300mlであったと考えられるし、CのHt値、Hb値からみても、総循環血液量の35%を超える出血(1500~2000ml)があったと評価されるものである。 そもそも、仮に本件における出血量が被告の主張するとおりであったとしても、出血性ショックを起こす可能性が高い出血量であることは明らかである。 (イ) バイタルサインなどについてCは、22日22時45分頃からは悪寒を訴え、22時55分の時点で、収縮期血圧70、脈拍微弱、顔色不良というショ ことは明らかである。 (イ) バイタルサインなどについてCは、22日22時45分頃からは悪寒を訴え、22時55分の時点で、収縮期血圧70、脈拍微弱、顔色不良というショック状態となった。23時06分には心拍数も123と高度頻脈の状態になっていた。それ以降、Cの心拍数は上昇の一途をたどり、23時55分には154にまで達している。また血圧も、60台から70台を推移している。Ht値は、23時11分には既に28.2%とかなりの貧血状態を示していた。 以上の事実に照らせば、Cは22時55分頃には既に中等度以上の出血性ショック状態にあり、以後その症状は時間の経過と共に悪化していったものである。 被告は、23時55分には血圧が安定したと主張するが、血圧の推移及び心拍数の異常な上昇を見れば、これはその直前の昇圧剤投与による一時的なものにすぎず、安定したといえるものではない。また、出血に対応して直ちに血圧の低下が生じるかのごとき主張をしているが、出血に対して心拍数の増加や末梢血管抵抗の増大等種々の代償機構を働かせることによって血流量や血圧を維持しようとするものである。さらに、血中のHb値、Ht値についても、大量出血の初期にはあまり変化しないとされている。 ウ被告病院が行うべき措置(ア) 被告病院が行うべき輸液措置出血性ショックの治療の基本は、循環血液量の確保と止血である。急速輸液及び輸血に備え、最低2本の太い血管を確保する。輸液の速度を確保し、輸血の際の閉塞を防ぐため、針は18~16ゲージ以上の太い留置針とする。多量の出血により心停止の段階に立ち至ると、救命が困難となるので、出血性ショックの場合、十分な蘇生輸液が行われるかどうかが予後を決定する。そのため輸液は、 針は18~16ゲージ以上の太い留置針とする。多量の出血により心停止の段階に立ち至ると、救命が困難となるので、出血性ショックの場合、十分な蘇生輸液が行われるかどうかが予後を決定する。そのため輸液は、ポンプ装置等を用いて2本のラインから可及的速やかに急速大量投与されなければならない。乳酸化リンゲル等の細胞外液は、輸液量の3分の1程度しか血管内に留まらずに漏出するので、投与量は出血量の3~4倍が必要であり、回復傾向が見られるまで全開で継続する。重症例では2000ml/30分になることもある。輸液は、当初は乳酸化リンゲル、酢酸化リンゲル等の細胞外液を投与するが、ショック状態の改善傾向がみられないときは、膠質浸透圧維持のため血漿代用剤を最大1000ml程度投与する。 Cの出血は23時03分の時点で少なくとも1500ml程度に達しており、異常な出血量であったことに加え、23時10分には血液検査の結果Ht値が30%を下回る重症貧血状態であることが確認されたのであるから、被告としては、輸液とともに速やかに膠質液の投与や輸血を開始すべきであった。 (イ) 被告病院が実際に行った措置本件では、22日22時33分の胎盤娩出の時点、遅くとも23時前後ころには、速やかに複数の血管を確保し、太いゲージの針を留置して、膠質液液などの急速輸液を開始すべきであった。 しかるに被告病院は、Cの大量出血後も、新たな血管確保等の措置をとらず、更に22時55分には明らかな出血性ショックの徴候を示していたにもかかわらず、分娩開始前から施行していた輸液を、従前のルートと針(22Gのものと思われる)を用いて投与を続けたのみであった。 本件では、Cが分娩室に入室した21時30分頃から、プロスタグランディンの投与が開 ら施行していた輸液を、従前のルートと針(22Gのものと思われる)を用いて投与を続けたのみであった。 本件では、Cが分娩室に入室した21時30分頃から、プロスタグランディンの投与が開始される23時12分の間にヴィーンF450mlが入れられているが、異常出血が確認された22時35分からの輸液量は約160mlとみることができる。そして、23時12分から翌23日0時5分に帰室するまでの間の総輸液量は、わずか360mlであるから、結局22時35分の異常出血後に投与された輸液量は、約520mlに過ぎないものである。被告は、23時03分に急速輸液を開始したと主張するが、カルテにはそのような記載はないし、23時25分からは輸液速度600ml/hで輸液したとするが、カルテ上、輸液の速度を上げた旨の記載があるのは23時25分の時点であり、実際の投与量との間に矛盾がある。 被告の輸液の量が不十分であったことは、J医師のほか、3鑑定人とも共通して認めている。 エ輸血について(ア) 輸血の実施基準分娩時に異常出血が見られた時は、急速輸液を直ちに開始すると共に、輸血の手配をし、輸血に備えてクロスマッチテストの準備をする(採血は血管確保の際に行っておく)。輸血実施の目安は1000mlを超える出血である。出血量が1000mlを超える場合や、2000ml以上の輸液を必要とする場合は、輸液だけで循環血液量を維持できないことが多く、その場合には輸血が唯一の治療法となる。従ってリンゲル液及び血漿代用剤の急速大量投与によってもショック状態が改善しない時は、すみやかに輸血を開始する。この場合、2本ある輸液ルートのうちの1本を輸血に用いる。輸血量は出血量に等しい量が必要で、ショックを離脱するまで継続されなければな によってもショック状態が改善しない時は、すみやかに輸血を開始する。この場合、2本ある輸液ルートのうちの1本を輸血に用いる。輸血量は出血量に等しい量が必要で、ショックを離脱するまで継続されなければならない。 (イ) 被告病院が行うべき輸血措置Cは、22時55分には明らかな出血性ショック状態を示していたのだから、遅くともこの時点で輸血の手配をすべきであった。更に、Cの出血は23時03分の時点で既に1500ml程度に達しており、23時10分には血液検査の結果Ht値が30%を下回る重症貧血状態であることが確認されたのだから、被告病院としては、23時10分以降、すみやかに輸血を開始すべき義務があった。 オまとめ被告病院は、ショック症状発現後も出血に対する評価と判断を誤り、Cがショック状態にあることをも十分認識しなかった結果、不十分な輸液を継続したのみで輸血の準備や手配を行わず、適切な時期に輸液及び輸血を実施する義務を怠ったものである。 (被告の主張)ア被告病院実際に行った輸液被告病院においては、Cの出産に当たり、分娩室入室時に、循環血液量及び組織間液の減少時における細胞外液の補給・補正のため、ヴィーンF(酢酸リンゲル液)500mlの点滴投与を開始した。23時03分、出血量が一時的に増加したため、輸液速度を上げた。 その後、午後11時12分、子宮収縮を促すため、ヴィーンF500ml、プロスタグランディン(子宮収縮剤)2000mmgの投与を開始している。さらに、23時25分より、ヴィーンF500mlの輸液速度をほぼ全開で行っている。また、翌23日0時32分、ヴィーンF500mlを急速輸液し、Cを救急車にて搬送している。 輸血を行っていない事実に 時25分より、ヴィーンF500mlの輸液速度をほぼ全開で行っている。また、翌23日0時32分、ヴィーンF500mlを急速輸液し、Cを救急車にて搬送している。 輸血を行っていない事実については認める。 イ出血量がどの程度に達した場合に輸血が開始されるかについては、出血前の患者の貧血の有無とその程度、出血の速度、出血性ショックの有無などの患者背景により異なる。また、患者の体格により循環血液量が異なり、同じ出血量でも患者に与える影響が異なる。本件において、原告らが主張する輸液・輸血をしなかったのは、被告病院において、Cに見られた状態が、以下の事情のため、出血性ショックではないと判断したためである。 (ア) Cの出血について本件分娩時の総出血量は1820gであり、しかも、平成14年8月20日の検診において、羊水ポケットは7.1cmと、この時期の妊婦の羊水量として多めであったこと、分娩予定日付近の羊水量は400~700ml程度といわれていることに鑑みると、羊水を除いたCの出血量は1000~1400g程度であった。 Cに出血が見られたのは、22時33分のE医師による胎盤娩出、一部の用手剥離の際(子宮内に貯留していた血液(胎盤後血腫)及び子宮弛緩によるもの)、23時03分F医師による子宮底マッサージの際であり、その後、23時20分から同38分までの掻爬(子宮内容除去)の際に少量の出血が見られたものであって、断続的なものではなかった。 なお、22時33分の出血は、羊水を含み819gであり、その際の出血というのは、胎盤娩出時に胎盤とともに子宮腔内より出た血液であり、胎盤娩出後の持続的に出血したものではないことから、Cの身体状況に直接に影響を与えるものではないと判断された。 であり、その際の出血というのは、胎盤娩出時に胎盤とともに子宮腔内より出た血液であり、胎盤娩出後の持続的に出血したものではないことから、Cの身体状況に直接に影響を与えるものではないと判断された。 縫合開始後も、Cに出血が見られたが、その量は、通常分娩時に見られる程度の少量のものであった(出血が多量であれば、縫合は困難であるが、本件において出血によって縫合が妨げられた事実はない。)。 (イ) 出血性ショックであれば、出血に応じて血圧の降下が見られるはずであるが、Cの血圧の変化は以下のとおりであった。 22時33分の出血の後、血圧は、22時55分、70/50と低下し、70代の値を示していたものの、23時03分には、103/32まで回復した。しかし、23時03分の出血による血圧の低下は見られなかった。その後、23時21分、血圧が70/42と低下し、23時29分、78/36、23時34分、65/32、66/32となったため、23時38分、エフェドリン(昇圧剤)を投与した後、23時44分、血圧は186/33と急激に上昇し、その後である23時53分、64/31と急激に低下したものの、23時55分には、110/55と安定した(なお、Cに呼吸苦が生じた後も血圧の上昇が見られている。)。 以上のとおり、Cの血圧は、出血の如何に関わらず変動しており、また、昇圧剤投与後、昇圧剤による血圧上昇だけでは考えられない推移を辿っている。 (ウ) 分娩時から帰室までの間、Cの意識は清明であり、全く正常で会話を通常どおり行うことができた。 (エ) 出血性ショックであれば、出血源の止血が必要であるが、癒着胎盤が存在するも、癒着は軽度であり、用手剥離後、検査において胎盤の遺残がなかった。また、薬剤に どおり行うことができた。 (エ) 出血性ショックであれば、出血源の止血が必要であるが、癒着胎盤が存在するも、癒着は軽度であり、用手剥離後、検査において胎盤の遺残がなかった。また、薬剤によって十分な子宮収縮が得られ、子宮腔からの出血は速やかに減少しており、搬送時までの子宮腔よりの出血は極微量なものであった。また、超音波断層法によっても腹腔内出血は認められなかった。 (オ) 平成14年8月13日の検診においてCのHb値は11.3g/dlと、この時期の妊婦としては十分な数値であり、これに対して23時11分のHb値は9.7g/dlであり、変化が大きくなかった。 ウ以上のため、被告病院は、Cには出血性ショックはないものと判断したため、原告ら主張の出血性ショックの治療方法として輸血は行わなかったものである。 また、輸液量に関しても、1時間あたり約1000mlを実施しており、Cに急変がなければ、その後も同程度の輸液速度をもって、輸液を実施しうることから、これまでの臨床経験に基づき、輸液量も十分であると判断したものである。 (2) 争点(2)(全身状態の管理・観察を怠った過失の有無)(原告らの主張)ショック時に不可欠なのは、経時的・継続的なバイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数、脈拍、体温、尿量等)のチェックと血液検査、生化学検査等による全身状態の把握である。特にHb値、Ht値は、出血初期にはあまり変化しないので、輸液を行いながら頻回に測定して貧血の程度をチェックしなければならない。そして、これらの検査結果をもとにショックの重症度や出血の程度、輸血の必要性等を正確に判断し、その後の治療方針を決定することが求められる。具体的には、収縮期血圧100以上、脈圧30mgHg以上、中心静脈圧(CVP)3~1 果をもとにショックの重症度や出血の程度、輸血の必要性等を正確に判断し、その後の治療方針を決定することが求められる。具体的には、収縮期血圧100以上、脈圧30mgHg以上、中心静脈圧(CVP)3~10cmH2O、尿量30ml/時以上、Ht値30%以上を指標として監視を続け、この状態が安定的に確保されるまで、輸液・輸血と全身状態の管理を続けるべきであり、症状が悪化した場合には、適切な措置を迅速に取れるよう準備する必要があった。 したがって、被告は、22時33分にCに大量出血が見られた直後から、Cの血圧・心拍数・脈拍等を繰り返し測定し、ショックの徴候を早期に発見するよう努めるとともに、バルーンカテーテルによる尿量管理、血液検査、血液ガス分析を頻回に行って、出血量及び貧血状態を正確に把握し、症状が悪化した場合には、適切な措置を迅速に取れるよう準備する必要があった。しかるに被告病院は、血液検査を23時過ぎ頃の時点で1回行ったのみであり、その後は1度も検査を行わなかった。国立甲病院のHb値、Ht値から考えて、継続的にHb値、Ht値の測定を行っていれば、被告病院がCのHb値、Htがその後低下の一途をたどり、極端な貧血状態に陥っていったのを当然知り得たはずである。結果、被告は23時55分にはCの状態が回復したものと軽信し、バイタルサインの測定を打ち切ってCを帰室させた。こうした被告の過失により、Cは適切な治療を施されず、不可逆的なショック状態に立ち至ったものである。 (被告の主張)被告は、争点(1)で述べたとおりにCの症状を判断し対応したことにより、その症状を羊水塞栓症と判断できなかったものであるが、羊水塞栓症の発生頻度は低く、本件で見られた症状はその典型的な発現パターンをとっていなかったことからすると、羊水塞栓症と判断することは困難で より、その症状を羊水塞栓症と判断できなかったものであるが、羊水塞栓症の発生頻度は低く、本件で見られた症状はその典型的な発現パターンをとっていなかったことからすると、羊水塞栓症と判断することは困難であり、被告の行った全身状態の管理と評価に過失はない。また、被告が、23時11分以降、Hb値、Ht値の測定を行っていない理由は、その後、Cに多量の出血が見られておらず、また、翌23日0時05分、帰室後、急変しているためである。 (3) 争点(3)(高次医療機関への搬送が遅れた過失の有無)について(原告らの主張)被告病院は、Cの血圧が安定しないことを認識しながら、その原因については不明であると考えていたのであるから、Cのショックに対応するため、遅くとも23時30分の時点では、高次医療機関への搬送を考慮すべきであった。 しかるに被告病院は、高次医療機関への搬送を全く考慮しなかったものであり、もし23時30分の時点で搬送の措置が取られ、Cが迅速・適切な処置を受けていれば、Cが不可逆的なショック状態に陥ることは避けられたはずである。 (被告の主張)争点(2)について述べたとおり、本件では羊水塞栓症との判断は困難であるから、被告がCの帰室後の症状から羊水塞栓症を疑って転院措置を行ったことに誤りはない。 (4) 争点(4)(Cに本件の症状が生じた原因及び救命可能性について)(原告らの主張)ア出血性ショック出血性ショックとは、出血により循環血液量が急激に減少することにより、急性の全身的な抹消循環不全が発生した状態をいうものである。Cのショック症状は、胎盤娩出時に見られた多量の出血直後から始まり、その症状も悪寒、血圧低下、脈拍の亢進、顔色不良等、いわゆる血液減少性ショックに典型的な症状が徐々に が発生した状態をいうものである。Cのショック症状は、胎盤娩出時に見られた多量の出血直後から始まり、その症状も悪寒、血圧低下、脈拍の亢進、顔色不良等、いわゆる血液減少性ショックに典型的な症状が徐々に進行するという経過をたどっている。このような出血とショック症状発現の時間的関係、その後の症状の推移に鑑みれば、Cのショック症状は、胎盤娩出時に始まった出血に起因するものであると考えるのが最も自然でかつ合理的である。本件においては、国立甲病院の医師らも、Cの症状は出血性ショックによるものと判断しているし、鑑定人Iは、Cの症状は出血性ショックによるものである可能性が最も高いという見解を示している。 鑑定人Hは、妊産婦は出血に対する予備能が高くなっているので、通常1800ml程度の出血では、本件のような重篤な状態に立ち至ることは考えにくいとするが、これは異常出血があった場合には早期に相当量の輸液や膠質液の投与が行われることを当然の前提としたものであり、本件のように極めて不十分な量の輸液しか行われていない場合には、循環不全の進行によってショックが重篤化することは何ら不思議ではない。また、本件ではHb値、Ht値に照らし、実際の出血量は1820mlより多かったと考えられることからしても、出血性ショックとして十分説明しうる。 被告は出血性ショック発症後1時間程度で、本件ほど重篤な肝機能の悪化が見られることはないと主張するが、Cの出血性ショックは22時45分頃から始まっていたのであるから、国立甲病院に転院した時点で多臓器不全が始まっていたとしても何ら矛盾するものではない。 なお、鑑定人Gは国立甲病院転送直後のCのTT値がDICの徴候を示していなかったことに疑問を呈しているが、通常の大量出血では出血性ショック状態が2、3時間遷延し ら矛盾するものではない。 なお、鑑定人Gは国立甲病院転送直後のCのTT値がDICの徴候を示していなかったことに疑問を呈しているが、通常の大量出血では出血性ショック状態が2、3時間遷延し、多臓器不全とならない限り、重篤なDICには陥らないとされているから、特に問題とすべき所見ではない。 イ DIC先行型羊水塞栓症ではないこと羊水塞栓を発症すると、血液凝固因子が費消されるため、急性の呼吸不全・ショック症状に引き続き、DICに陥るのが一般的である。22時35分以降に見られたCの出血が、羊水塞栓症によるDICの発症に起因するものであるとすれば、23時03分以降も当然かなりの量の出血が持続したはずであるし、血液の性状は凝固性に乏しいもののはずである。しかし、本件における出血の大部分は、胎盤娩出時の819gとF医師による子宮底マッサージの際に観察された550g(いずれも相当量の凝血を含む)であり、以後、著明な出血傾向の持続は見られないのであるから、被告病院におけるCの出血は、羊水塞栓に起因するDICではない。したがって、本件はDIC先行型の羊水塞栓症ではない。 なお、H、鑑定人Gは、本件の出血はDICによるものではないが羊水塞栓が原因であることが否定できないとするが、羊水塞栓症が出血を引き起こすメカニズムは上記のとおりであるから、DIC様の出血を伴わない羊水塞栓はそれ自体論理矛盾であり、乙B7号証に示されている診断基準とも一致しない。 ウ肺塞栓ないし羊水塞栓症ではないこと鑑定人Hと鑑定人Gは、当初のCのショック症状は出血性のものであり、本件の経過を出血性ショックとして説明することも十分可能であるとする一方で、出血性ショックに血栓症又は羊水塞栓症など別の要因が加わっている可能性が否定でき 当初のCのショック症状は出血性のものであり、本件の経過を出血性ショックとして説明することも十分可能であるとする一方で、出血性ショックに血栓症又は羊水塞栓症など別の要因が加わっている可能性が否定できないとする。しかし、常識的に考えても、出血性ショック発症後に、別の閉塞性疾患を更に発症する可能性は、確率的に極めて低いことが明白であり、鑑定人G、鑑定人Hの見解の根拠は、鑑定人質問においても明確に示されたとは到底言い難い。 被告は、呼吸困難や胸部痛を訴えていたことについて、羊水塞栓の典型的な症状であるとするが、いかなる原因によるものであれ、心肺停止直前のショック状態に陥った場合、患者が呼吸困難や胸部痛を訴えるのは当然であって、これをもって羊水塞栓を裏付ける症状とすることはできない。鑑定人Gが指摘する胸痛及びSpO2の低下も、鑑定人Iが指摘するように、出血性ショックによる循環不全の進行の結果とみることができる。 被告は、本件においては羊水塞栓→DIC→多臓器不全という推移をたどったので羊水塞栓であると主張するもののようであるが、出血性ショックの場合、大量出血それ自体が消費性凝固障害であるDICの誘引となるものであり、多臓器不全が必ず先行するわけではなく、どちらが先であるかの議論には何の意味もない。 鑑定人Gは、肺塞栓症である可能性が最も疑われるとするが、本件ではCに血栓が生じていたことを裏付ける証拠はない。 Cが鼠頚部痛を訴えたことについては、妊婦は分娩時に分娩台に固定され、戴石位という体位をとるため、Cについてもこの体位によるものである可能性は否定できない。現にE医師も、鼠頚部痛は分娩時の体位によるものと判断しているし、23時40分の時点でCは固定体位を解かれて仰臥位となったところ、その後は鼠頚 についてもこの体位によるものである可能性は否定できない。現にE医師も、鼠頚部痛は分娩時の体位によるものと判断しているし、23時40分の時点でCは固定体位を解かれて仰臥位となったところ、その後は鼠頚部痛はないと答えていることからすると、体位の影響である可能性が高い。また、鑑定人Iも「鼠頚部痛をショックの所見の一つとしてとらえることも可能」と指摘しているし、そもそも閉塞が両方の足に、同時に、同一の部位に生じるなど医学常識的にも確率的にも考え難い。 羊水塞栓症ないし肺血栓塞栓症は、肺血管床が物理的に閉塞され、心肺の血液循環が阻害される結果、肺における血液ガス交換機能が障害される疾患である。もしCが羊水塞栓症ないし肺血栓塞栓症を発症していたとすれば、輸血や酸素吸入等を行っても、循環状態の改善は極めて困難だったはずである。したがって、国立甲病院での治療により、Cの循環状態が回復し、すみやかな酸素化が実現されたことは、羊水塞栓症の発症を否定するものである。さらに、国立甲病院で行われたX線、CT検査、血液検査、中心静脈圧(CVP)を含む循環動態所見において、Cには羊水塞栓に特有の肺高血圧、肺梗塞の症状は確認されず、8月23日2時過ぎに行われた胸部CT検査でも肺野に異常は見られなかった。国立甲病院の医師も、原告らに対し、「蘇生措置の結果、すみやかに血液循環が回復したことからみて、羊水塞栓の可能性は考えにくい」と説明している。 被告は、Cの血液中から亜鉛コプロポルフィリンの値が高値に検出されていることを羊水塞栓の根拠の1つとするが、血中にシアリルTn抗原又は亜鉛コプロポルフィリンのマーカーが存在する事実は、羊水が母体血中に流入したことを推測させるものではあっても、正常分娩の場合でも羊水成分の母体血中への流入は認められるのであるから シアリルTn抗原又は亜鉛コプロポルフィリンのマーカーが存在する事実は、羊水が母体血中に流入したことを推測させるものではあっても、正常分娩の場合でも羊水成分の母体血中への流入は認められるのであるから、血中の亜鉛コプロポルフィリンの値は羊水塞栓の証明となるものではない。このことは鑑定人Hも認めるところである。しかも、本件においては、検出された亜鉛コプロポルフィリンの値は、国立甲病院へ搬送後2時間の血清中の値であって、既にCに対し大量の輸血が実施されて以降のものであるから、信頼性は存しない。なお、CのシアリルTn抗原値の検査結果は陰性であった。 エ救命可能性について本件においては、明らかに重症のショック状態を呈していた23時30分頃には、急速輸液だけではなく輸血も開始していれば、循環不全状態を改善して、致命的な結果に至るのを避けることは十分s可能だった。 (被告の主張)ア羊水塞栓症について羊水塞栓症とは、羊水および胎児成分(胎便、扁平上皮細胞、ムチンなど)が母体血中へ流入することによって引き起こされる「肺毛細血管の閉塞を原因とする肺高血圧症と、それによる呼吸循環障害」を病態とする疾患である。羊水中の化学物質による肺血管の攣縮、アナフィラキシーショック、高サイトカイン血症などが病因とされている。その発症頻度は2~3万分娩例に1例と報告されており、母体死亡率は60~80パーセントと高率である。典型的症状は分娩中あるいは分娩後の呼吸困難と血圧低下であり、重篤なものは引き続き呼吸停止、心停止に至るものである。近年の妊産婦死亡原因の第1位は産科的肺塞栓症であり、産科的肺塞栓症には羊水塞栓症と肺血栓塞栓症がある。中でも羊水塞栓症は死亡率が高い(60から80パーセント)と言われている。近年診断法の進歩が見ら 近年の妊産婦死亡原因の第1位は産科的肺塞栓症であり、産科的肺塞栓症には羊水塞栓症と肺血栓塞栓症がある。中でも羊水塞栓症は死亡率が高い(60から80パーセント)と言われている。近年診断法の進歩が見られ、従来弛緩出血とされていた症例の中に、羊水塞栓症による死亡例が存在することも明らかとなってきたものである。 最近の診断法において、羊水塞栓症は、確定羊水塞栓症(肺病理で羊水成分が証明されたもので主に死後診断である。)と臨床的羊水塞栓症とに分類されている。 臨床的羊水塞栓症は、剖検できなかった例か、あるいは救命された例で、以下の基準を満たすものをいう。 1 妊娠中または分娩後12時間以内に発症した場合 2 以下の症状・疾患(1つ以上)に対し集中的な医学治療が行われた場合(1)心停止(2)分娩後2時間以内の原因不明の大量出血(1500ml以上)(3)播種性血管内凝固症候群(4)呼吸不全 3 観察された所見や症状が他の疾患で説明できない場合これらの診断基準に適合するものはたとえ肺病理診断がなくとも、臨床的には羊水塞栓症と診断される。 また、周術期肺塞栓について実施した調査結果(原因血栓127症例、ガス13症例、脂肪9症例、羊水4症例、腫瘍3症例)において、初発症状と徴候は、呼吸困難、血圧低下、チアノーゼ、頻脈、右心不全、意識障害、胸痛、心停止で、徐脈、下肢浮腫、咳嗽、喀血は少数であると言われている。 羊水塞栓症について、現在2つのタイプが存在するといわれており、その一つが、古典的羊水塞栓症(強度の呼吸困難を伴い重得なショック状態に陥っ 肢浮腫、咳嗽、喀血は少数であると言われている。 羊水塞栓症について、現在2つのタイプが存在するといわれており、その一つが、古典的羊水塞栓症(強度の呼吸困難を伴い重得なショック状態に陥った症例:突然の胸内苦悶、不穏状態、チアノーゼ、呼吸困難、咳、痙攣発作)を呈する病変であり、もう一つは、強出血タイプ羊水塞栓症といい、分娩後弛緩出血様の強出血(軽度の呼吸困難と強出血を伴い、ショックに陥った症例)を呈する病変である。 イ出血性ショックとの相違点等について羊水塞栓症においては、胸部痛を伴う呼吸苦が見られるのに対し、出血性ショックではそれが見られない。 羊水塞栓症で、突然死を免れた場合、発症後に血管内血液凝固症候群(DIC)が発生し,多臓器障害に陥るのに対し、出血性ショックの場合、出血によって、循環血液量が減少し、多臓器不全を来し、その結果、DICが発症するものである。 羊水塞栓症においては、亜鉛コプロポルフィリン、シアリルTn抗原の高値が見られるのに対し、出血性ショックにおいては、その限りではない。 ウ Cに見られた臨床症状Cは、22時45分、軽度の悪寒、両鼠頚部痛を訴え、22時55分、血圧が70/50となり、その後、血圧の低下が見られている。前記の調査結果に見られる初発症状と徴候とも合致している。 また、本件においては、翌23日0時06分、Cは、呼吸が速くなり、そして、胸を手に当て、右側臥位になり、うずくまり、そして、同07分、「胸が痛い」と訴え、以後、Cは胸部痛を訴えていたものである。この点は、出血性ショックには見られないものであり、羊水塞栓症の典型的症状の一つである。 そして、翌23日1時20分過ぎには、既に出血傾向が見られており、以後、 痛を訴えていたものである。この点は、出血性ショックには見られないものであり、羊水塞栓症の典型的症状の一つである。 そして、翌23日1時20分過ぎには、既に出血傾向が見られており、以後、DICが発現している。そして、国立甲病院において、転院後間もなく実施された生化学検査の結果から、肝機能の著しい悪化が見られている(TP(血清総タンパク)2.2、ALB1.6、AST(GOT)3315、ALT(GPT)2505)(甲A1〔9〕)。Cの肝機能は、特に異常はなかったものであるが、このような肝機能の著しい悪化が見られている。出血性ショックの場合、その発症後1時間程度で、これほど重篤な肝機能の悪化が見られることはない。これは、この時点において、CにDICの徴候が見られていたと考えられる。 また、鑑定人Gは、出血が多くなって凝固因子が体外に出れば、当然トロンボテストの値が下がるはずであるが、国立甲病院における緊急検査の結果トロンボテスト120パーセントという値は、本件の原因が出血のみではないことの現れであるとしている。 さらに、鑑定人Iも、Hb値から見ると外から見ていなくても羊水塞栓などのウージングの可能性があり、羊水塞栓の場合、DICが出てくる場合は出血が始まる時間から210分ぐらいであるとすると、初めからDICがなかったからといって羊水塞栓の出血は否定できないとしている。 しかも、本件においては、国立甲病院への搬送後、同病院において阻害Cより採取された中心静脈血につき、分析の結果、亜鉛コプロポルフィリン63pmol/ml(cutoff 1.6pmol/ml)との異常高値が検出されている。 エ従って、Cに対し、0時05分に古典的羊水塞栓症が生じたか、又は22時33分に強出血タイプ羊水塞栓症が mol/ml(cutoff 1.6pmol/ml)との異常高値が検出されている。 エ従って、Cに対し、0時05分に古典的羊水塞栓症が生じたか、又は22時33分に強出血タイプ羊水塞栓症が生じたと認められる。 オ救命可能性Cの死亡原因は、単なる出血性ショックではなく、羊水塞栓症であった蓋然性が極めて高いというべきであるから、本件においては救命は困難であったといわざるを得ない。 (5) 争点(5)(損害論)について(原告らの主張)ア逸失利益 4167万0208円Cは昭和49年生まれの家事従事者であったところ、逸失利益は以上のとおりとなる。 イ慰謝料Cの精神的苦痛に対する慰謝料は金2200万円、原告A及び原告Bについて各金300万円が相当である。 ウ葬儀関係費用原告Aは、Cの葬儀を主宰したところ、これにより支出した葬儀費用のうち金120万円は、本件と相当因果関係のある損害である。 エ弁護士費用上記損害額の約一割に相当する、原告Aにつき360万円、原告Bにつき350万円は、本件と相当因果関係のある損害である。 オ合計原告A及び原告Bは、Cの損害賠償請求権を各2分の1の割合で相続した。これらと原告ら固有の損害賠償請求権を合計すると、以下のとおりとなる。 原告A 3963万5104円原告B 3833万5104円(被告の主張)争う。 (別紙)診療経過一覧表(被告病院及び国立甲病院)(省略) 病院及び国立甲病院)

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