平成18年9月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第18454号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年6月22日判決原告A同訴訟代理人弁護士田中裕之青木知己宮村純子被告医療法人社団済安堂同代表者理事長B同訴訟代理人弁護士森山満主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,金1139万2289円及びこれに対する平成13年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,平成13年3月22日から平成14年1月21日まで被告の開設する病院に入通院して右眼に対する診療を受けた(平成13年10月5日には網膜剥離に対する手術を受けた)原告が,その後,平成14年1月25日まで。 に網膜再剥離を生じ,同日に他の病院を受診して,同月31日に同病院で硝子体手術を受けたことに関し,網膜再剥離を生じ,かつ,これに対する硝子体手術が遅れたために,変視症及び視野狭窄の後遺症が残ったと主張した上,そのような事態に至ったのは,被告病院の担当医師において,①平成13年10月3日ないし5日時点,同年11月13日ないし15日時点,同年12月25日時点で,それぞれ,硝子体手術を受けさせるべくその手術ができる医療施設に転送すべき義務,②平成14年1月21日時点で,安静を指示するとともに,入院させ,又は数日間隔での通院を指示して細かな経過観察をすべき義務,③平成13年11月15日時点,平成14年1月21日時点,同月25日時点での説明義務を怠ったためであると主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づいて,後遺症による遺失利益,慰謝料等の損害金及びこれに対す 平成14年1月21日時点,同月25日時点での説明義務を怠ったためであると主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づいて,後遺症による遺失利益,慰謝料等の損害金及びこれに対する民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 以下では,診療契約上の義務(債務)ないし診療上の注意義務(不法行為上の注意義務)を併せて単に「義務」という。 前提事実(証拠原因により認定した事実については,かっこ書で当該証拠原因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者及び診療契約の締結ア被告は,医療法人社団であり,東京都千代田区に「井上眼科病院」を設置するとともに,その分院として東京都江戸川区に「西葛西・井上眼科病院を設置している以下前者の病院を被告本院後者の病院を被」(,「」,「告分院」といい,これらを併せて「被告病院」という。 。)イ原告は,昭和19年5月30日生まれの男性であり,東京都杉並区に居住しているが,平成13年3月22日,右眼の異常を訴えて被告本院を受診し,被告との間で診療契約を締結して,以後,平成14年1月21日まで,被告本院において右眼に対する診療を受けた(以下,この診療を「本 件診療」という。以下の原告の症状や所見及び診療は,すべて右眼に関するものである。また,以下,平成13年3月から平成14年2月までの月(,日については年の記載を省略することがある年の記載のない月日のうち3月から12月までは平成13年であり,1月から2月までは平成14年である。 。)。)ウ本件診療当時,C医師は被告本院に,D医師は被告分院にそれぞれ勤務していた。なお,D医師は,週に1回,被告本院の外来診療も担当していた(証人D医師。 )本件診療を担当したのは主とし 。)。)ウ本件診療当時,C医師は被告本院に,D医師は被告分院にそれぞれ勤務していた。なお,D医師は,週に1回,被告本院の外来診療も担当していた(証人D医師。 )本件診療を担当したのは主としてC医師であった。 (2)網膜剥離について(甲B1ないし10,乙B1ないし3,証人D医師)ア網膜は内境界膜から色素上皮層までの10層から成るが,このうち色素上皮層を除く9層は,神経網膜と呼ばれ,視覚に関わる神経細胞が分布する。この神経網膜が,色素上皮層・脈絡膜から剥がれて,網膜の前方の硝子体中に浮き上がってきたものを網膜剥離という。 網膜剥離は,その発生の原因ないし機序によって裂孔原性網膜剥離と非裂孔原性網膜剥離に分類される(後者は,牽引性網膜剥離と滲出性網膜剥離に分類される。これらのうち最も一般的なものは裂孔原性網膜剥離。)であり,これは,網膜と硝子体の癒着による牽引等によって網膜に裂孔が発生し,その裂孔部分から液化した硝子体が網膜の下に入り込むことによって網膜が剥離するものである(以下,単に網膜剥離というときは,裂孔原性網膜剥離のことを指す。 。)イ網膜剥離の予防又は治療の方法としては,牽引を解除する手技及び裂孔を閉鎖する手技等があり,前者には,強膜の上からシリコン又はスポンジ材を用いて網膜を硝子体に押しつける強膜バックル術(強膜内陥術)と,硝子体の一部を切除する硝子体手術があり後者には光凝固術レーザー,,(光線で網膜を焼く手技,冷凍凝固術等がある。 ) ウ網膜剥離(再剥離を含む)が生じた場合,剥離が黄斑部に及ぶ前に硝。 子体手術を受ければ,普通は変視症や視力低下の後遺症は残らない(視力は術前に黄斑剥離がなければ95%の例で従前のまま維持できるとする文献もある)が,剥離が進行して黄斑部に及んだ後では,硝子体手術を受 子体手術を受ければ,普通は変視症や視力低下の後遺症は残らない(視力は術前に黄斑剥離がなければ95%の例で従前のまま維持できるとする文献もある)が,剥離が進行して黄斑部に及んだ後では,硝子体手術を受。 けても変視症等の後遺症が残る可能性が高く,その手術の時期の遅れは後遺症の程度に影響を及ぼす(なお「黄斑部剥離の期間は,術後視力の回,復に影響を及ぼす。術後視力の回復が期待される黄斑部剥離発生から手術までの期間は明確ではないが,黄斑剥離後5日以内の手術が望ましく,黄。」斑剥離が2か月以上継続した症例では視力の著明な改善は期待できないとする文献もある。 。)エ網膜剥離(再剥離を含む)の発症後手術までの間に剥離が黄斑部に進。 行するのを防止する手段としては,ベッド安静のほか,眼帯又はピンホール眼鏡の装着,頭位の固定等がある。しかし,その発症自体の有無は,安静にしているかどうかで左右されるものではない。 (3)原告の右眼に対する診療の経過(甲A1,3,乙A1,B4,6,証人D医師,原告本人,弁論の全趣旨)ア本件診療の経過は,別紙診療経過一覧表の「年月日「経過「原告の」」症状・所見「診断又は医学的判断「処置・説明等」欄(ただし,下線」」を付した部分を除く)に記載のとおりである。 。 イ上記診療経過のうち主なものを敷衍し,また,他の病院での診療を付け加えると,以下のとおりである(特記しない限り,被告本院における診療である。 。)①平成6,7年ころ,札幌市内の病院で,右眼の網膜が薄くなっていると言われて網膜光凝固術を受けたことがあった。 ②9月20日,前回受診日(9月4日)に指示された受診予定時期を待たず「3日前より右眼がくもって見える。今でも見え方が良くならな, い」と訴えて受診したところ,網膜裂孔及び硝子体出血が った。 ②9月20日,前回受診日(9月4日)に指示された受診予定時期を待たず「3日前より右眼がくもって見える。今でも見え方が良くならな, い」と訴えて受診したところ,網膜裂孔及び硝子体出血が認められた。 ため,網膜光凝固術を受けた。 ③10月3日,前回受診日(9月27日)に指示された受診予定日を待たず,霧視の異常を訴えて受診したところ,硝子体の牽引による旧網膜裂孔の拡大,牽引性網膜剥離及び硝子体出血が認められたため,手術が,,,必要であるとされ10月4日に入院して同月5日に網膜冷凍凝固術強膜バックル術(強膜内陥術)及び輪状締結術を,同月12日に網膜光凝固術をそれぞれ受けて,同月15日に退院した。 ④11月13日,前回受診日(11月8日)に指示された受診予定日を待たず「今朝から右眼にゴミが飛んで濁って見える。視力が低下した,ようだ」と訴えて受診したところ,硝子体出血(出血部位は不明)が。 認められたことから,2日後に受診するよう指示された。 同月15日,C医師の診察を受けたところ,硝子体の牽引による網膜裂孔に残存した網膜血管からの硝子体出血が認められ,硝子体出血を繰り返すようであれば硝子体手術が必要である旨説明された。 ⑤12月18日東京都三鷹市所在の杏林大学医学部付属病院以下杏,(「林大学病院」という)を受診したところ,裂孔下の後極側が少し浮い。 ていると認められたが,引き続き被告本院で経過観察をしてもらうようにと言われた。 ⑥12月25日,D医師の診察を受けたところ(C医師が,同月12日時点で,このままの経過観察でよいか,硝子体手術の必要はないかと,D医師に診察を依頼していた,裂孔の後極両側が少し浮いていると。)認められた。 ⑦1月21日,前回受診日(1月16日)に指示された受診予定日(2月6日)を よいか,硝子体手術の必要はないかと,D医師に診察を依頼していた,裂孔の後極両側が少し浮いていると。)認められた。 ⑦1月21日,前回受診日(1月16日)に指示された受診予定日(2月6日)を待たず「膜が張ったよう(被告の主張)あるいは「カー,」()」()。 テン幕が下りてきたよう原告の主張と異常を訴えて受診した ⑧1月25日,杏林大学病院を受診したところ,網膜剥離(再剥離)が生じて黄斑部に及んでいることが判明し,入院して硝子体手術を受ける必要があるが満床なので待機しているようにと言われ,その後,同病院から連絡を受けて同月30日に同病院に入院し,同月31日に硝子体手術を受けた。 (4)平成13年ないし平成14年1月当時,被告本院では硝子体手術を行う,。 ,ことができなかったが被告分院では硝子体手術を行うことができたなおD医師は,本件診療当時,被告分院において年間約200例ないし250例の硝子体手術を担当するなど,同手術の専門家であった(証人D医師。 ) 本件診療の経過についての当事者の主張被告の主張は別紙診療経過一覧表の「原告の反論等」欄を除くその余の欄に記載のとおりであり,これに対する原告の反論は同一覧表の「原告の反論等」欄に記載のとおりである(同一覧表の「原告の反論等」欄を除くその余の欄のうち下線を付した部分を除くその余の部分については,当事者間に争いがない。 。) 原告の主張(1)原告の後遺症及びその原因ア原告の右眼は,上記のとおり1月31日に硝子体手術を受けたが,変視症及び視野狭窄の後遺症以下原告主張後遺症というが残ったそ(「」。)(の変視症は,右眼の像が,正常眼の約2倍の大きさに,歪んで,しかも左側に大きく傾いて見えるというものである。 。),,, 遺症以下原告主張後遺症というが残ったそ(「」。)(の変視症は,右眼の像が,正常眼の約2倍の大きさに,歪んで,しかも左側に大きく傾いて見えるというものである。 。),,,,イ原告主張後遺症が残ったのは以下のとおり網膜再剥離が生じかつこれに対する硝子体手術が遅れたためである。 (ア)原告は,1月23日「鴨川シーワールド(遊園地)に遊びに行っ,」たが,その夜(夕食時,右眼が半分くらい見えなくなり,同月24日)には,右眼がほとんど見えなくなった。これらのことから,網膜再剥離 が,遅くとも同月23日夜(夕食時)に生じ,同月24日には黄斑部に及んだことがわかる。 (イ)ところで,網膜剥離が生じた場合,剥離が黄斑部に及ぶ前に硝子体手術を受ければ,普通は変視症等の後遺症は残らないが,剥離が黄斑部に及んだ後では,硝子体手術を受けても変視症等の後遺症が残る可能性が高く,その後遺症の程度は手術が遅れれば遅れるほど重くなる。 (ウ)原告の場合,上記(ア)のとおり,硝子体手術を受けたのが,網膜剥離が黄斑部に及んだ後であり,しかも,網膜剥離が黄斑部に及んでから6日以上も経過していたために,原告主張後遺症が残った。すなわち,網膜剥離が黄斑部に及ぶ前に硝子体手術を受けていれば後遺症は残らなかったし,網膜剥離が黄斑部に及んだ後でも,より早期に硝子体手術を受けていれば,後遺症はより軽くて済んだ。 (2)硝子体手術を受けさせるために転送すべき義務の違反ア網膜剥離に対する強膜バックル術と硝子体手術の適応の基準は,次のとおりである(甲B1。 )①裂孔の場所が鋸状縁部にあれば強膜バックル術を,赤道部より後方にあれば硝子体手術を選択し,赤道部にある場合はどちらでも良い。 ②後部硝子体剥離がある場合には,硝子体手術で対応す る(甲B1。 )①裂孔の場所が鋸状縁部にあれば強膜バックル術を,赤道部より後方にあれば硝子体手術を選択し,赤道部にある場合はどちらでも良い。 ②後部硝子体剥離がある場合には,硝子体手術で対応する。 ③硝子体出血を伴うものは,裂孔の原因によっては強膜バックル術で対応できる場合もあるが,術後再発や増殖性硝子体網膜症を起こしやすいため,初回から硝子体手術を選択すべきである。既に強膜バックル術を行った後であれば,硝子体手術を選択する。 イ原告の右眼については,次の(ア)ないし(ウ)の各時点において,各項に掲げる症状等があったのであるから,上記基準に照らして,硝子体手術の適応があり,これを行う必要があった。特に(イ)及び(ウ)の各時点では,被告の主張する「繰り返される再出血」及び「再度の網膜剥離」も生じて いたのであるから,同手術の適応及び必要があったことがより明らかである。 したがって,被告本院の担当医師は,次の(ア)ないし(ウ)の各時点において,原告を硝子体手術が可能な施設に転送すべき義務があった。しかるに,被告本院の担当医師は,上記義務を怠った。 (ア)10月3日ないし5日時点10月3日,硝子体出血が認められ,網膜剥離(裂孔は後極側)と診断された。 (イ)11月13日ないし15日時点上記(ア)の事情に加え,10月5日に強膜バックル術が行われたにもかかわらず,その直後から硝子体の牽引が強く,11月13日には硝子体からの再出血が認められた。 (ウ)12月25日時点上記(ア),(イ)の事情に加え,12月12日には,硝子体の牽引が続いていることが認められ,同月25日には,裂孔が浮いた状態であること,すなわち,網膜剥離が再度起こりつつあることが確認された。 ウ上記義務が尽くされていれば,速やかに硝子体手術を受けることができて,網 いることが認められ,同月25日には,裂孔が浮いた状態であること,すなわち,網膜剥離が再度起こりつつあることが確認された。 ウ上記義務が尽くされていれば,速やかに硝子体手術を受けることができて,網膜再剥離を生ずることはなく,したがってまた,原告主張後遺症は残らなかった。 (3)安静指示及び経過観察の義務違反ア1月21日時点の状況12月25日時点で,網膜再剥離が生ずる可能性は少なくとも10%程度とかなり高かった。現に,1月16日には,C医師も,牽引があって網膜再剥離が生ずる可能性があり要注意であると診断した。しかも,そのわずか5日後の同月21日には,原告が,次回受診予約日の2月6日を待たず「カーテン(幕)が下りてきたよう」と異常を訴えて受診したのであ, り,この症状は,硝子体出血等を原因とする硝子体混濁を示すものであった。 したがって,1月21日時点では,網膜再剥離が生ずる可能性は10%程度よりも更に高く,軽度の運動でも網膜剥離が急激に進行する危険があった。 イ上記ア及び上記(1)イ(イ)によれば,1月21日時点で,被告本院の担,,,,当医師は原告について網膜再剥離が生じてもそれが急激に進行せず初期の段階で硝子体手術を受けられるようにするために,①安静を指示するとともに,②入院させ,又は数日間隔での通院を指示して短期の経過観察をすべき義務を負っていた。 しかるに,C医師は,同日の診療の際,2月6日の受診を指示しただけで,上記義務を怠った。 ウ上記義務が尽くされていれば,原告は,安静に努める(もとより「鴨川シーワールド」に遊びに行くようなことはなかった)とともに,短期の。 間隔で診察を受けることにより,網膜再剥離が生じても,それが急激に進行することはなく,初期の段階で(剥離が黄斑部に及ぶ前に)硝子体手術を受け 」に遊びに行くようなことはなかった)とともに,短期の。 間隔で診察を受けることにより,網膜再剥離が生じても,それが急激に進行することはなく,初期の段階で(剥離が黄斑部に及ぶ前に)硝子体手術を受けることができ,原告主張後遺症が残ることはなかった。 (4)説明義務違反ア11月15日時点の説明義務違反(ア)C医師は,11月15日,原告に対し「また網膜剥離が起きる可,能性があるので,硝子体を取るのが一番良いのです。ただ,当院にはその施設が来年の春ころにならないとできないのです」と説明した。 。 このように被告病院で硝子体手術ができるかどうかに関することを説明する場合には,その対象事項が患者(原告)にとって重要なものであり,しかも,上記のような説明では患者が被告病院では分院も含めて平成14年春ころまで同手術ができないものと誤解する可能性があること から,現在でも被告分院では硝子体手術ができることを説明するなどして,上記のような誤解がないように特に慎重な注意を尽くすべき義務がある。 しかるに,原告が,本件訴訟の提起後まで,被告病院では分院も含めて平成14年春ころまで硝子体手術ができないものと誤解していたことから明らかなとおり,C医師は,上記義務を怠った。 (イ)上記義務が尽くされていれば,原告は,1月25日に杏林大学病院で網膜剥離の再発を宣告された時点で,同病院と被告分院のいずれで硝子体手術を受けるべきかを検討して,直ちに手術を受けられる被告分院を選択することにより,早ければ同月26日に,遅くとも同月27日に,,,は硝子体手術を受けていたはずでありそうすれば原告主張後遺症は生じなかったか,より軽度で済んだはずである。 イ1月21日時点の説明義務違反(ア)上記(3)ア及び上記(1)イ(イ)によれば,1月21日時点で,C医師 ていたはずでありそうすれば原告主張後遺症は生じなかったか,より軽度で済んだはずである。 イ1月21日時点の説明義務違反(ア)上記(3)ア及び上記(1)イ(イ)によれば,1月21日時点で,C医師は,原告に対し,網膜再剥離が生じた場合には剥離が黄斑部に及ぶ前に硝子体手術を受ける機会を与えるため,網膜再剥離が生じた場合に現れる自覚症状(原告の場合,従前の裂孔痕の位置からして右眼の上方から視野欠損の症状が現れること,徐々に欠損範囲が拡大し,視力も低下していくこと等)を具体的に説明し,そのような症状を認識した場合には昼夜の別を問わず直ちに被告病院に連絡して受診すべきことを具体的に指示すべき義務を負っていた。 しかるに,C医師は,同日,簡単な一応の検査をした後,既に予約されていた2月6日に受診するよう指示したにとどまり,上記の具体的な指示,説明をしなかった。 (イ)上記義務が尽くされていれば,原告は,1月23日夜の時点で,同時点の症状が網膜再剥離の症状であると確信することができ,事態が緊 急を要するものであることを認識して,同日中に被告病院の担当医又は宿直医に症状を申告し,早ければ同日中に,遅くとも同月27日までには硝子体手術を受けることができたはずである(実際には,原告は,同月21日の診察で「カーテン(幕)が下りてきたよう」という症状についてC医師から「ゴミが入ったからだ」と説明されていたため,同月23日の症状も同じくゴミが入ったものではないかと考え,事態の緊急性を認識できず,同月24日は1日様子を見るのに費やし,同月25日になってようやく杏林大学病院を受診した。そして,同月23日中に。)硝子体手術を受けることができない場合であっても,同手術を受けるまでの間安静の指示や姿勢の調整,冷凍凝固・光凝固・強膜バックルの位置調整等の く杏林大学病院を受診した。そして,同月23日中に。)硝子体手術を受けることができない場合であっても,同手術を受けるまでの間安静の指示や姿勢の調整,冷凍凝固・光凝固・強膜バックルの位置調整等の処置によって,剥離が黄斑部に及ばず,又は剥離の進行速度,,,を遅らせることができたのであっていずれにせよ原告主張後遺症は発生しなかったか,より軽度で済んだはずである。 仮に上記のような因果関係が認められないとしても,後遺症が生じなかったかより軽度で済んだ相当程度の可能性がある。 ウ1月25日時点の説明義務違反,,,,(ア)C医師は1月25日杏林大学病院のE医師から原告のことで網膜剥離が生じており同月31日に硝子体手術を実施する予定である旨の電話連絡を受けた(このことは,杏林大学病院のカルテの記載(甲A3の90頁の「井上眼科にf/w(経過観察)してもらうようMT(説明」との記載)及び被告本院のカルテの記載(乙A1の15頁)から)して明らかである。 。)したがって,C医師は,原告の診療を続けてきた主治医の立場から,E医師に質問して原告の網膜剥離の状態(特に,剥離が黄斑部に及んでいること)を確認した上,原告に連絡を取って,一刻も早く硝子体手術を行うべきであること,手術が遅れた場合には重篤な後遺症が生ずる危 険性が高いこと,被告分院では翌日にでも硝子体手術を実施できることを説明すべきであり,少なくとも,原告又は杏林大学病院の眼科主治医に対し,被告分院においては翌日にも硝子体手術が可能であることを告げるべきであった。 しかるに,C医師は,上記義務を怠った。 (イ)上記義務が尽くされていれば,原告は,被告分院で硝子体手術を受けることを選択することにより,早ければ1月26日に,遅くとも同月27日には硝子体手術を受けていた ,C医師は,上記義務を怠った。 (イ)上記義務が尽くされていれば,原告は,被告分院で硝子体手術を受けることを選択することにより,早ければ1月26日に,遅くとも同月27日には硝子体手術を受けていたはずであり,そうすれば,原告主張後遺症は,生じなかったか,より軽度で済んだはずである。 (5)損害(アないしオについては10月5日以降に対応するもの)ア治療費63万2955円被告本院及び杏林大学病院における治療費イ入通院雑費3万1500円ウ交通費1万0700円エ休業損害(13か月)386万8042円家事労働に従事しており,女子労働者の全年齢平均賃金額を使用した。 3570500×13÷12=3868042オ入通院慰謝料179万円カ後遺症慰謝料290万円キ逸失利益653万0804円労働能力喪失率を14%として,全労働者62歳の平均賃金額を使用した。 6041000×0.14×7.722=6530804ク上記カ,キにつき,後遺症との間に因果関係が認められず,上記(4)イ(イ)のような相当程度の可能性侵害にとどまる場合の慰謝料200万円ケ弁護士費用100万円 被告の主張(1)転送義務違反について一般論として,本件のようなケースにおける硝子体手術の明確な適応基準はない。硝子体手術は,白内障や不可逆的な網膜剥離を合併させる危険があり,その実施には慎重でなければならない。 裂孔性網膜剥離の手術を行う場合の術式選択(下記ア)は,裂孔の閉鎖のみで対処できるのであれば光凝固術や光冷凍凝固術で対処し,網膜剥離が実,,際に生じ凝固術のみでは対処できないときは手術を考えるがその場合でもより侵襲の少ない強膜バックル術が第1選択であり,それでも対処できない場合に硝子体手術を考慮するというのが一般的である。原 ,,際に生じ凝固術のみでは対処できないときは手術を考えるがその場合でもより侵襲の少ない強膜バックル術が第1選択であり,それでも対処できない場合に硝子体手術を考慮するというのが一般的である。原告主張のような術式選択基準は,ごく最近における一つの考え方にすぎず,平成13年当時の標準的な治療法ではない。 また,強膜バックル術施行後(下記イ及びウ)においては,硝子体からの繰り返される再出血又は再度の網膜剥離が生じた時点で硝子体手術の実施を考えることになる。 ア10月3日ないし5日時点について当該時点においては,強膜バックル術で対応できたのであり,硝子体手術の適応ではない。 イ11月13日ないし15日時点について当該時点では,再度の裂孔は生じておらず,また,同月13日の硝子体出血も,硝子体の牽引による網膜裂孔に残存した網膜血管からの出血と考えられ,原因が明らかなものであり,しかも,同月15日以降の診察においては消退傾向を示していた。したがって,この時点で硝子体手術を実施する必要はない。 ウ12月25日時点について当該時点では,網膜の牽引が認められ,軽微な裂孔が浮いた状態が確認 されたが,裂孔は閉鎖されており網膜剥離の再発には至っていなかった。 また,11月13日にあった硝子体出血は消退していた。そこで,D医師は,剥離が生じ,又は再度の出血が生じたときに硝子体手術を考えるべきと判断した。この判断は適切である。 (2)安静指示及び経過観察の義務違反についてア網膜剥離の可能性がある患者に対し,在宅を許可する以上は,入院や安静の必要はなく,非常識な労作や運動負荷を除いて,日常生活に制限をかけることはない。安静が必要な場合は,安静を指示して経過観察をしたところで,その後通常の生活に戻ったときに網膜剥離が生じる可能性が高いのであって ,非常識な労作や運動負荷を除いて,日常生活に制限をかけることはない。安静が必要な場合は,安静を指示して経過観察をしたところで,その後通常の生活に戻ったときに網膜剥離が生じる可能性が高いのであって,そのような場合は,そもそもその時点で手術をすべきである(手術までの間,手術の前提として入院させるなどして絶対安静を指示することはある。 。)再来院の指示についても,次回受診日を予定しておいて,何らかの変化ないし異常があればすぐに再受診してもらうようにすれば足り,次回の受診を早く予定することに意味はない。たとえ2日後の来院を指示したとしても,翌日に異変があれば予約日を待たずに受診する必要があるからである。 イC医師は,原告に対し,眼球断面図を用いて硝子体の混濁について説明を行った上,何かあったら早めに来院するように指示したのであるから,適切な指示を行ったといえる。 (3)説明義務違反についてア11月15日時点の説明についてC医師は,11月15日,原告に対し,被告本院では平成14年春ころまで硝子体手術ができないことを説明したが,それとともに,硝子体手術が被告分院で行われている旨も説明した。 このような説明を行ったC医師にとって,原告が原告主張のような誤解 をしているなどとは予見できず,同医師に説明義務違反はない。 イ1月21日時点の説明について同日の検査結果では,新たな出血も認められず(新規の出血のためで,はない)硝子体の混濁以外には変化は認められなかったのであるから,12月25日時点よりも網膜再剥離の可能性が高まったということはできない。 また,原告は,1月21日時点までに,3月22日から被告本院を受診して網膜剥離について診療を受けており,10月には強膜バックル術を受け,その後も自ら杏林大学病院の診察を受けているのであるか ない。 また,原告は,1月21日時点までに,3月22日から被告本院を受診して網膜剥離について診療を受けており,10月には強膜バックル術を受け,その後も自ら杏林大学病院の診察を受けているのであるから,網膜剥離の進行と症状については,いずれかの時点で説明を受けていたはずである。したがって,そのような原告に対し,1月21日時点で改めてその症状等について説明をする必要はない。また,網膜剥離の症状は,裂孔の段階では飛蚊症や光視症,剥離が進むと視野欠損という典型的症状はあるものの,実際には症状は多様であるため,症状についての説明はするとしても,結局,何か変化があった場合すぐに受診すべきことを指示することで足りる。 C医師は,1月21日,原告に対し,2月6日の予約日以前であっても何かあったら早めに来院するように指示したのであるから,説明義務違反はない。 ウ1月25日時点の説明について(ア)同日の受診の後,杏林大学病院の担当医からC医師に対し,被告病院における診療経過についての問い合わせと,杏林大学病院で引き受けることになった旨の連絡はあったが,この連絡が,1月25日以降同月31日までの間のいつであったかは不明であるし,C医師は,この連絡の際,原告の網膜剥離が黄斑部にまで及んでいるとは聞いていない。 (イ)C医師は,上記アのとおり,原告に対し被告分院で硝子体手術が可 能であることを説明しているのであって,原告がそうではないと勘違いすることを予見することはできない。 そして,原告の動機はどうあれ,原告が被告病院ではなく杏林大学病院での手術を望む以上は,被告との診療契約は原告によって打ち切られたも同然であって,そうであるにもかかわらずC医師において被告病院の受診を原告に勧めるべき義務はない。 第3当裁判所の判断 転送義務違反の主張につ 上は,被告との診療契約は原告によって打ち切られたも同然であって,そうであるにもかかわらずC医師において被告病院の受診を原告に勧めるべき義務はない。 第3当裁判所の判断 転送義務違反の主張について(1)10月3日ないし5日時点について(術式選択の適否)原告は,前記第2の3(2)アのような硝子体手術の適応基準を主張し,この主張に沿う文献(甲B第1号証)もある。 しかし,甲B第1号証は,本件の平成13年当時から数年を経過した平成17年の発行のものであるし,それ自体,強膜バックル術及び硝子体手術の選択につき「その選択は,術者の考えと経験にゆだねられている。ここで,は筆者の40年の経験から,適応の考え方について述べる」としていて,。 その適応基準が必ずしも確立したものであるとしているわけではない。却って,証拠(乙B1(平成16年発行の「標準眼科学,証人D医師)によ」)れば,少なくとも平成13年当時においては,硝子体手術には白内障や不可逆的な網膜剥離を合併させる危険があることから,その実施には慎重でなければならず,網膜剥離に対する原則的な(第1選択の)治療法はより侵襲の少ない強膜バックル術であるとするのが一般的であった(最初から硝子体手術が行われるようになったのは,最近の2,3年のことである)ことが認。 められる。 したがって,10月3日ないし5日時点において,被告本院の担当医師が強膜バックル術を選択したことが不適切であったということはできず,原告を硝子体手術が可能な施設に転送する義務があったということもできない。 (2)11月13日ないし15日時点及び1月21日時点について(再手術の必要)証拠(乙B1,4,6,証人D医師)及び弁論の全趣旨によれば,本件において,被告病院の医師は,硝子体からの繰り返される再出血又は再度の網 日ないし15日時点及び1月21日時点について(再手術の必要)証拠(乙B1,4,6,証人D医師)及び弁論の全趣旨によれば,本件において,被告病院の医師は,硝子体からの繰り返される再出血又は再度の網膜剥離が生じた時点で硝子体手術を考慮すべきであり,それをもって足りたと認められるので,原告主張の各時点においてこのような事情があったか否かを検討する。 なお,原告の主張する硝子体手術の適応基準は,その根拠とする文献(甲B第1号証)によれば,網膜剥離が生じている場合に,強膜バックル術と硝子体手術のいずれを行うべきかの術式選択に関してのものであると認められるところ,11月13日ないし15日時点及び1月21日時点においては,仮に網膜剥離が生じているとすれば,それだけで上記の「再度の網膜剥離が生じた」場合として硝子体手術を考慮すべきであるので,上記の基準による独立の検討はしない。 ア11月13日ないし15日時点について(,),前記前提事実(3)に証拠乙A1B6及び弁論の全趣旨を併せると11月13日には硝子体出血が認められたが,これは,新たな硝子体出血としては10月5日の強膜バックル術後初めてのものであったし,11月15日には消退傾向であったことが認められる。したがって,11月13日ないし15日時点で「硝子体からの繰り返される再出血」があったということはできない。また,後記イのとおり12月25日時点においても網膜剥離の状態ではなかったのであるから,11月13日ないし15日時点で「再度の網膜剥離」は生じていなかったと認められる。 したがって,11月13日ないし15日時点で,原告が硝子体手術を要する状態であったとはいえず,原告主張の転送義務を認めることもできない。 イ12月25日時点について前記前提事実(3)に証拠(乙A1,B4 1月13日ないし15日時点で,原告が硝子体手術を要する状態であったとはいえず,原告主張の転送義務を認めることもできない。 イ12月25日時点について前記前提事実(3)に証拠(乙A1,B4,証人D医師)を併せると,12月25日には,以前の裂孔の部分が少し浮いていたが,新たに裂孔は生,。 ,じておらず網膜剥離の状態にはなかったことが認められるしたがってこの時点で「再度の網膜剥離が生じた」ということはできない。また,11月13日以降12月25日までの間に硝子体出血が繰り返していたと認めるに足りる証拠もない。 なお,前記前提事実(3)のとおり,原告は12月18日に杏林大学病院を受診したが,その際,同病院においても「裂孔下の後極側が少し浮い,てる」ことを認めたものの,被告病院での経過観察を続けてよいとの判断をしたのであり,このことからしても,その当時の段階で原告が硝子体手術を要する状態であったとは考え難い。 したがって12月25日時点で,原告が硝子体手術を要する状態であっ,たとはいえず,原告主張の転送義務を認めることもできない。 11月15日時点の説明義務違反及び1月25日時点の説明義務違反の各主張について(1)前記前提事実(3)イ⑧のとおり,原告は,1月25日,杏林大学病院を受診したところ,網膜剥離(再剥離)が生じて黄斑部に及んでいることが判明し,入院して硝子体手術を受ける必要があるが満床なので待機しているよう,,,にと言われその後同病院から連絡を受けて同月30日に同病院に入院し同月31日に同病院で硝子体手術を受けたものである。 (2)11月15日時点の説明義務違反の主張について上記のとおりであるところ,原告は,前記第2の3(原告の主張)の(4)ア(ア)のような説明義務が尽くされていれば,上記のとおり1月25日 である。 (2)11月15日時点の説明義務違反の主張について上記のとおりであるところ,原告は,前記第2の3(原告の主張)の(4)ア(ア)のような説明義務が尽くされていれば,上記のとおり1月25日に杏林大学病院で網膜剥離が生じているから硝子体手術を受ける必要があると言われた時点で,被告病院(分院)を選択することにより,早ければ同月26 日に,遅くとも同月27日に硝子体手術を受けたはずであり,そうすれば,原告主張後遺症は,生じなかったか,より軽度で済んだはずであると主張する。 しかしながら,仮に,硝子体手術が同月31日と遅くなったために後遺症が生じ,又はより重度になった(同月26日又は同月27日に硝子体手術を受けていれば,後遺症が生じず,又はより軽度で済んだ)といえるとして。 も,そのような事態は,原告の受診した杏林大学病院が自らの判断と責任において決めた診療方針により生じたものというべきであって,原告主張のようなC医師の説明義務違反との間に法的な因果関係を認めることはできない。 なお,仮に同月26日又は同月27日に硝子体手術を受けたとしても,同月25日時点で既に網膜剥離が黄斑部にまで及んでいたことに照らすと,少なくとも,原告主張のような後遺症が生じなかったという蓋然性を肯定することはできない。 (3)1月25日時点の説明義務違反の主張について上記(1)のとおり,原告は,1月25日に杏林大学病院を受診して,同病院で硝子体手術を受けることに決めたものである。 そうである以上,被告病院(C医師)としては,以後においては,原告の診療(硝子体手術)に関して,杏林大学病院から協力を求められるなどの特段の事情がない限り,特に義務は負わないというべきところ,本件全証拠を検討してみても,上記特段の事情があったと認めるに足りる証拠はない。 なお, 術)に関して,杏林大学病院から協力を求められるなどの特段の事情がない限り,特に義務は負わないというべきところ,本件全証拠を検討してみても,上記特段の事情があったと認めるに足りる証拠はない。 なお,原告は,C医師が,1月25日に,杏林大学病院のE医師から,原告に網膜剥離が生じており同月31日に硝子体手術を実施する予定である旨の連絡を受けたことを前提として,同月25日時点におけるC医師の説明義務違反を主張するが,その前提を欠くことは以下のとおりである。 すなわち,原告の主張する杏林大学病院の診療録(甲A3)中の「井上眼 科にf/w(経過観察)してもらうようMT(説明」との記載は,前記前)提事実(3)イ⑤の12月18日の受診の際に医師が原告に対して説明したこ,()とを記載したものであることが明らかであるし被告本院のカルテ乙A1中の「Telにて問い合わせあり」以下の記載(15頁)も「1/31,Vitrectomy(注・硝子体手術)となったとのこと(E先生より報告あり」)として硝子体手術が1月31日に行われることが記載されていることからして,その日程が決まった後,すなわち,同月25日から待機していて同月30日の入院が決まった後,したがってまた,同月25日よりも遅く同月30日に近い日のことであると解されるなお同月30日に近い日に連絡があっ(,,,たとするとその時点で被告分院において硝子体手術を実施しようとしても同月31日よりも早くなったとの蓋然性を肯定することはできない。他。)に,本件全証拠を検討してみても,1月25日時点で杏林大学病院の医師から被告病院に何らかの連絡があったと認めるに足りる証拠はない。 1月21日時点における義務違反の主張について(1)前記前提事実に証人D医師の証言及び弁論の全趣旨を併せると,1月 大学病院の医師から被告病院に何らかの連絡があったと認めるに足りる証拠はない。 1月21日時点における義務違反の主張について(1)前記前提事実に証人D医師の証言及び弁論の全趣旨を併せると,1月21日時点で,原告には近い将来において網膜再剥離が生ずる可能性があったし,C医師もそのことを認識していたことが認められる。 (2)安静指示及び経過観察の義務違反の主張についてア原告は,上記のとおりであったことから,1月21日時点で,C医師には,原告について,網膜再剥離が生じても,それが急激に進行せず,初期の段階で硝子体手術を受けられるようにするために,①安静を指示するとともに,②入院させ,又は数日間隔での通院を指示して短期の経過観察をすべき義務があったとし,その義務が尽くされていれば,原告は,網膜再剥離が生じても,それが急激に進行することはなく,初期の段階(剥離が黄斑部に及ぶ前の段階)で硝子体手術を受けることができた旨主張する。 イ上記②の点について 前記前提事実(2)によれば,本件のような網膜再剥離については,その発生をできる限り早期に発見した上,できる限り早期に硝子体手術を実施することが肝要であるといえる。 しかしながら,1月21日時点では,未だ網膜再剥離は生じておらず,近い将来において網膜再剥離が生ずる可能性があるという状態であったところ,証拠(甲B4,証人D医師)によれば,このような場合,1週間に1回程度の受診を指示するとともに,それ以前でも何か異常ないし変化があれば受診するようにと指示することによって経過観察をするのが通常であることが認められ,上記可能性が高いからといって,その発生を早期に発見するために予め入院させてまで経過観察をすべきとする医学的知見は見当たらない。 また,本件では,1月21日の受診から4日後の同月25 ことが認められ,上記可能性が高いからといって,その発生を早期に発見するために予め入院させてまで経過観察をすべきとする医学的知見は見当たらない。 また,本件では,1月21日の受診から4日後の同月25日には,杏林大学病院を受診して,既に網膜再剥離が生じて黄斑部に及んでいたことが判明したというのであるから,仮にC医師が同月21日時点で数日後の来院を指示していたとしても,より早期の発見につながったとはいえない。 ウ上記①の点について前記前提事実(2)に弁論の全趣旨を併せると本件のような網膜剥離再,(剥離)が生じた場合,できる限り早期に硝子体手術を実施することが肝要であり,その手術までの間は安静を保つなどして剥離が黄斑部に及ばないようにその進行を防止することが肝要であると認められる。 しかしながら,未だ網膜再剥離が生じていない時点で安静を指示すべきとする医学的知見は見当たらず,むしろ,前記前提事実(2)エのとおり,網膜剥離(再剥離)の発症自体を安静にすることで防止することはできないのであるから,上記のような進行防止のためには,異常ないし変化が生じたときに速やかに受診させて網膜剥離(再剥離)の診断を下すことこそが重要であって,その診断の時点で手術までの間の安静を指示することで 足りると解されるのであり,1月21日時点で原告の主張する安静指示義務を認めることはできない。 (3)説明義務違反の主張について,,()ア前記前提事実のとおり原告は1月21日時点では網膜剥離再剥離は生じていなかったが,杏林大学病院を受診した同月25日時点では,既に網膜剥離(再剥離)が生じて黄斑部にまで及んでいた。 上記のとおりであるところ,原告は,その間の経緯について,1月23,「」(),(),日鴨川シーワールド遊園地に遊びに 点では,既に網膜剥離(再剥離)が生じて黄斑部にまで及んでいた。 上記のとおりであるところ,原告は,その間の経緯について,1月23,「」(),(),日鴨川シーワールド遊園地に遊びに行ったがその夜夕食時右眼が半分くらい見えなくなり,同月24日には,右眼がほとんど見えな,()()くなったのであり網膜剥離再剥離は遅くとも同月23日夜夕食時に生じた(同月24日には剥離が黄斑部に及んだ)と主張した上,そう。 であるにもかかわらず受診が同月25日と遅れたのは,同月21日時点において,C医師が,原告に対し,網膜再剥離が生じた場合に現れる自覚症状を説明するとともに,そのような症状を認識した場合には直ちに受診するよう指示すべき義務を怠ったからである旨主張するものである。 イところで,前記前提事実に証拠(甲A5,乙B4,6,証人D医師,原),,(。)告本人を併せると原告はその右眼の網膜の疾患網膜剥離を含むにつき,平成13年3月から平成14年1月21日まで被告本院で診療を受け,その間,何らかの異常ないし変化があったときは,次回受診予約日を待たず,速やかに受診していたのであり,少なくとも,例えば12月25日にD医師の診察を受けた際には,同医師から,何か変化があった場合はすぐに来院するようにという趣旨のことを言われたことが認められる。 これらの事実によれば,1月21日時点でも,原告は,何らかの異常ないし変化があったときは,予約受診日を待つことなく速やかに受診すべきことを十分に認識していたし,C医師においても,原告にはそのような認識があると考えていたことが推認され,この推認を覆すに足りる証拠はな い。 ウ上記イによれば,1月21日時点で,C医師が,原告に対し,改めて,網膜再剥離発症の際の自覚症状の説 にはそのような認識があると考えていたことが推認され,この推認を覆すに足りる証拠はな い。 ウ上記イによれば,1月21日時点で,C医師が,原告に対し,改めて,網膜再剥離発症の際の自覚症状の説明や,その症状があったときには直ちに受診するようにとの指示をしなかったとしても,特に義務違反があるということはできない。 しかも,仮に1月21日時点においてC医師が原告主張のような説明及び指示をしていたとしても,原告の受診が同月25日よりも前になったとは認め難い。その理由は,次項のとおりである。 エ原告本人は,1月21日から同月25日までの間の経緯について上記アの主張に沿う供述をする。 しかしながら,証拠(甲A3)によれば,原告は,1月25日に杏林大学病院を受診した際「右眼が5日前くらいから上方の方から見えにくく,なってきた。大体の物の形は分かるが,下方の一部しか見えない。見えない部分(灰色)が下に下がってきた。1月21日,右眼の上方に雲のような物が見え,井上眼科を受診したが,硝子体混濁のみと言われた」など。 と訴えていたことが認められるのであって,遊園地に遊びに行った1月23日の夜に右眼が半分くらい見えなくなったという上記供述とは必ずしも一致しない。 そして,前記のとおり,原告は,従前から,何らかの異常ないし変化が生じたときには,次回受診予定日を待たず,速かにその異常ないし変化を訴えて被告本院を受診していたのであって,そのような原告が,1月23日に右眼が半分くらい見えなくなったという重大な異常ないし変化が生じたにもかかわらず,1日様子を見て,同月25日まで病院を受診しなかったというのは,容易に想定し難い。 ,,「()この点につき原告本人は同月21日の診察においてカーテン幕が下りてきたよう」と異常を訴えたのに対しC医師か 月25日まで病院を受診しなかったというのは,容易に想定し難い。 ,,「()この点につき原告本人は同月21日の診察においてカーテン幕が下りてきたよう」と異常を訴えたのに対しC医師から「ゴミが入ってい るからだ」と言われていたために,同月23日に右眼が半分くらい見えなくなった時にも同様であろうと考えて様子を見ることにした旨供述する。 しかし,①原告の陳述書(甲A4)中には,同月23日のことについて,「夕食を食べているとき,突然,右目の視界の半分くらいが見えなくなってしまいました」との記載があるし,原告本人の供述中にも,同月23日のことについて「上記陳述書の記載からすると)それまでの自覚症状,(とはかなり違った症状をそのときに覚えたと考えますけど,よろしいです。」,「。」,かという被告代理人の質問に対しそうですと答える部分があり,「」,これらは上記のように同様であろうと考えてというのとは異なるし②事後的客観的にみても,前記のとおり同月21日に原告の訴えた症状は「カーテン(幕)が下りてきたよう(原告の主張)又は「膜が張ったよ」う(被告の主張)というものであって,同日時点では硝子体混濁はあっ」たが網膜剥離は生じていなかったこと(乙A1,証人D医師)や同月25日に杏林大学病院を受診した際に「1月21日,右眼の上方に雲のような物が見え」と訴えたこと(甲A3)を併せ考えると,同月21日時点での症状は「右眼が半分くらい見えなくなった」のと同種の視野欠損の症状,ではなかったものと解されるから,上記のように「同月23日に右眼が半分くらい見えなくなった時にも同様であろうと考えて様子を見ることにした」という供述部分は信用することができない。 結局,上記のような原告本人の供述は直ちに採用することができず, 「同月23日に右眼が半分くらい見えなくなった時にも同様であろうと考えて様子を見ることにした」という供述部分は信用することができない。 結局,上記のような原告本人の供述は直ちに採用することができず,むしろ,前記前提事実に上記指摘の点を併せると,原告に網膜再剥離が生じて視野欠損が現れたのは,1月23日よりも遅く,同月25日に近い時点であったことが窺われる。 そうとすると,1月21日時点においてC医師が原告主張のような説明及び指示をしていたとしても,原告の受診が同月25日よりも前になったとは認め難い。 以上の次第で,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきであるから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部貝阿彌誠裁判長裁判官片野正樹裁判官西田祥平裁判官
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