令和5(ワ)13 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年11月13日 宇都宮地方裁判所
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判決文本文18,220 文字)

主文 1 被告は、原告Aに対し、3015万8604円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、1756万0687円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、1756万0687円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告Dに対し、1756万0687円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。 7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求⑴ 被告は、原告Aに対し、4634万2202円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、1815万3440円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は、原告Cに対し、1815万3440円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑷ 被告は、原告Dに対し、1815万3440円及びこれに対する平成31年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求 ⑴ 被告は、原告Aに対し、4634万2202円及びこれに対する令和5年2 月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 ⑵ 支払え。 2 予備的請求 ⑴ 被告は、原告Aに対し、4634万2202円及びこれに対する令和5年2 月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、1815万3440円及びこれに対する令和5年2月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は、原告Cに対し、1815万3440円及びこれに対する令和5年2月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 ⑷ 被告は、原告Dに対し、1815万3440円及びこれに対する令和5年2月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、亡Eが被告を懲戒解雇された後に自殺したことについて、亡Eの相続 人である原告らが、亡Eが自殺したのは、被告の代表取締役や取締役が、業務の遂行に伴う心理的負荷等を過度に蓄積させ心身の健康を損なうことのないように注意する義務を怠ったこと等が原因であると主張して、被告に対し、主位的に、会社法350条又は民法715条1項に基づき、損害賠償金及びこれに対する不法行為の日(亡Eが被告を懲戒解雇された日)から支払済みまで平成29年法律 第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、亡Eと被告との労働契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償金及びこれに対する請求日(訴状送達の日)の翌日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 うつ病エピソードに関する医学的知見(甲44)ICD-10診断ガイドラインによれば、うつ病エピソード(F32)の最も典型的な症状(基本症状)は、抑 害金の支払を求める事案である。 2 うつ病エピソードに関する医学的知見(甲44)ICD-10診断ガイドラインによれば、うつ病エピソード(F32)の最も典型的な症状(基本症状)は、抑うつ気分、興味と喜びの喪失及び易疲労性の三つとされ、他の一般的な症状(一般症状)として、集中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下、罪責感と無価値観、将来に対する希望のない悲観的な見方、 自傷あるいは自死の観念や行為、睡眠障害及び食欲不振があるとされる。 そして、軽症うつ病エピソード(F32.0)の診断には、基本症状のうち少なくとも二つ、一般症状のうち少なくとも二つが存在しなければならず、中等症うつ病エピソード(F32.1)の診断には、基本症状のうち少なくとも二つ、一般症状のうち少なくとも三つが存在しなければならず、重症うつ病エピソード(F32.2)の診断には、基本症状の全てと一般症状のうち少なくとも四つが 存在し、そのうちいくつかが重症でなければならないとされるほか、いずれについても、エピソード全体の持続期間は約2週間が必要とされる。 3 前提となる事実(特に証拠等を掲記しない限り、当事者間に争いがない。)⑴ 当事者等ア原告ら等 亡Eは、昭和42年11月1日生まれの男性であり、平成22年11月1日、被告に入社した(乙2)。原告Aは亡Eの妻であり、原告B、原告C及び原告Dは亡Eの子であり、他に亡Eに相続人はいない。 イ被告等被告は、各宗葬祭の請負や葬祭用品の販売等を業とする葬儀会社である。 Fは、被告の代表取締役であり、G(以下、Fと併せて「Fら」という。)は、被告の取締役兼顧問社会保険労務士である。(甲5、乙19)⑵ 被告の就業規則等ア被告の就業規則には る。 Fは、被告の代表取締役であり、G(以下、Fと併せて「Fら」という。)は、被告の取締役兼顧問社会保険労務士である。(甲5、乙19)⑵ 被告の就業規則等ア被告の就業規則には、概要、以下の定めがある(乙7)。 (ア)56条(日直・宿直・出張) 会社は必要あるときは、従業員に日直、宿直又は出張させることがある。 (イ)62条(給与)賃金の決定、計算方法、締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項は別に定める「賃金規程」による。 (ウ)73条(懲戒の種類) a 1項柱書き 懲戒は、譴責、減給、出勤停止、昇給停止、降格、諭旨退職及び懲戒解雇の7種類とする。 b 2項懲戒処分の通知は懲戒処分通知書により行う。 (エ)75条(懲戒解雇の事由) 従業員が次の各号の一に該当するときは、懲戒解雇とする。 a ⒁号方法の如何を問わず、職務上知り得た業務上の秘密若しくは会社の秘密を洩らし、又は洩らそうとしたとき。 b ⒃号 会社又は他人の金品を不正に窃取し、持ち出し、又は持ち出そうとしたとき。 c ⒄号業務に関し、不正不当に金品その他を受け取り、受け取ろうとし、又は与え、利益を図ろうとしたとき。 イ被告の賃金規程には、概要、以下の定めがある(甲57)。 (ア)9条(日割計算)3項時間割計算とは、1時間につき基本給及び諸手当の合計額を一給与計算の所定労働時間を173.3時間で除した額とする。 (イ)12条(端数処理) 時間外勤務、休日勤務の勤務時間を算出する場合、給与細目ごとに一給与計算期間の勤務時間を合計し、各々に1時間未満の端数が生じたときは、30分未満はこれを切り捨て、3 イ)12条(端数処理) 時間外勤務、休日勤務の勤務時間を算出する場合、給与細目ごとに一給与計算期間の勤務時間を合計し、各々に1時間未満の端数が生じたときは、30分未満はこれを切り捨て、30分以上はこれを1時間として一給与計算期間の勤務時間を計算する。 ⑶ 被告における顧客の情報漏洩 被告は、Hから、平成30年10月27日、同人の子であるIの葬儀を請け 負ったところ、同月28日までの間に、同人の死因に関する情報が被告から第三者に漏洩した(甲12。以下「本件情報漏洩」という。)。 ⑷ 被告における従業員の不正被告の従業員であったJは、平成30年11月25日に退職するまで、被告が行った葬儀の葬家から余った引き物を買い取るなどの業務に従事していた。 Jは、遅くとも平成29年頃から、実際には、葬家からの引き物の買取り依頼がないにもかかわらず、これがあるかのように装って、被告の事務担当者から、買取り費用名目で金員の交付を受けるということを繰り返した(以下「本件詐欺」という。)。(甲8の3ないし8の5)⑸ 亡Eの懲戒解雇 Fは、亡Eに対し、平成31年4月25日、懲戒解雇するとの意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」という。)。その後、Fが亡Eに送付した懲戒解雇通知書には、亡Eが本件詐欺と本件情報漏洩に関与したことは、就業規則75条14号、同条16号及び同条17号に該当するため懲戒解雇する旨が記載されている(甲10)。 ⑹ 亡Eの自殺亡Eは、令和元年8月21日、自宅駐車場の自車内で、練炭自殺を図り、一酸化炭素中毒によって死亡した(死亡時51歳)。亡Eが遺したメモには、「葬儀はしないでください。」「会社に言いたいことはいっぱいあるけど面倒くさい。」との趣旨の記載があった。(甲1 炭自殺を図り、一酸化炭素中毒によって死亡した(死亡時51歳)。亡Eが遺したメモには、「葬儀はしないでください。」「会社に言いたいことはいっぱいあるけど面倒くさい。」との趣旨の記載があった。(甲1、4、48) 4 主たる争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 亡Eの自殺に関するFらの過失の有無(争点⑴)(原告らの主張)ア Fらが負う注意義務について使用者等が、労働者に強い心理的負荷を与える業務上の出来事を認識し、 又は認識し得たときには、これによる精神障害の発症、ひいては、精神障害 による希死念慮の出現までも当然に認識可能である。そうである以上、Fらは、亡Eに心理的負荷をかけるようなハラスメントに及ばないのは当然のこととして、亡Eの労務管理において、亡Eが過重な労働に従事している場合には、その負担を軽減するための措置を講じるなど、亡Eが業務の遂行に伴う心理的負荷の蓄積等によって心身の健康を害することがないよう配慮す べき注意義務を負っていたというべきである。 イ亡Eの労働時間について平成30年11月から平成31年4月にかけての亡Eの一月当たりの時間外労働時間数がおおむね80時間ないし100時間であることから明らかなとおり、亡Eは、過重な業務を課されて長時間労働を強いられ続けてお り、これは、厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に照らしても、心理的負荷の程度が「強」の出来事といえる。 ウ本件懲戒解雇等について亡Eは、本件詐欺と本件情報漏洩に全くの無関係であったものであるが、Fは、亡Eが本件詐欺に関与していると決めつけ、必要もないのに亡Eに警 察の取調べを受けさせるなどの様々な嫌がらせに及んだ。そればかりか、Fらは、理由について何ら合 関係であったものであるが、Fは、亡Eが本件詐欺に関与していると決めつけ、必要もないのに亡Eに警 察の取調べを受けさせるなどの様々な嫌がらせに及んだ。そればかりか、Fらは、理由について何ら合理的な説明をしないまま、亡Eを一方的に懲戒解雇し、本件懲戒解雇後も、亡Eが本件詐欺や本件情報漏洩に関与したと決めつけ続けた。これらのFらの一連の言動は、厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に照らしても、心理的負荷の程度が 「強」の出来事といえる。 エ Fらの注意義務違反(過失)について上記のとおり、Fらは、亡Eの長時間労働による心理的負荷の蓄積を漫然と放置し続けたばかりか、亡Eを犯人扱いし続けた末、無実の罪を理由に懲戒解雇するなどして、積極的に亡Eに心理的負荷をかけたものであるから、 Fらが前記アの注意義務に違反したことは明らかであり、両名には亡Eに対 する不法行為が成立する。 よって、Fを代表者とし、Gを被用者とする被告は、会社法350条又は民法715条1項の責任を負う。 (被告の主張)否認ないし争う。 ア亡Eの労働時間について当直勤務の際、従業員は、宿直室で仮眠をとることが認められていたことや、当直勤務では複数人体制が採られていたことからして、当直勤務での不活動仮眠時間については労働時間に当たらない。これを前提とすると、平成30年11月から平成31年4月にかけての亡Eの時間外労働時間数は、一 月当たり7時間ないし55時間程度であってさほど長いものではなく、これによる心理的負荷は強くない。 イ本件懲戒解雇等について亡Eが、本件詐欺に関与し、本件情報漏洩を引き起こしたことを踏まえると、本件懲戒解雇をはじめとするFらの言動による亡Eの心理的負荷はさ れによる心理的負荷は強くない。 イ本件懲戒解雇等について亡Eが、本件詐欺に関与し、本件情報漏洩を引き起こしたことを踏まえると、本件懲戒解雇をはじめとするFらの言動による亡Eの心理的負荷はさほ ど強くない。 ウ Fらの注意義務違反(過失)について原告らが主張する出来事の心理的負荷はいずれも強いものでなく、Fらにおいて、亡Eが精神障害を発症し、自殺に至るということについて予見するのは不可能であったから、過失は認められない。 ⑵ 被告の安全配慮義務違反の有無(争点⑵)(原告らの主張)前記⑴原告らの主張欄記載のとおり、亡Eの自殺について、Fらに過失があることからして、被告が、亡Eとの労働契約に付随して負う安全配慮義務に違反したことは明らかである。 (被告の主張) 否認する。前記⑴被告の主張欄記載のとおり、亡Eの自殺について、Fらに過失はなく、安全配慮義務違反は認められない。 ⑶ Fらの過失等と亡Eの自殺との相当因果関係(争点⑶)(原告らの主張)前記⑴原告らの主張欄記載のとおり、Fらの過失による心理的負荷の程度は 極めて強く、これを原因として、亡Eは、令和元年5月上旬頃、適応障害を発症し、同年8月上旬頃、うつ病エピソードに病態が深まった結果、自殺に至ったものであり、前記⑴原告らの主張欄記載のFらの過失及び前記⑵原告らの主張欄記載の被告の安全配慮義務違反と亡Eの自殺との間には相当因果関係が認められる。 (被告の主張)否認する。亡Eには、抑うつ気分等のうつ病エピソードの基本症状も、集中力と注意力の減退等のうつ病エピソードの一般症状も認められず、亡Eがうつ病エピソードを発症していたとは認められな 主張)否認する。亡Eには、抑うつ気分等のうつ病エピソードの基本症状も、集中力と注意力の減退等のうつ病エピソードの一般症状も認められず、亡Eがうつ病エピソードを発症していたとは認められない。仮に亡Eがうつ病エピソードを発症していたとしても、前記⑴被告の主張欄記載のとおり、平成30年11 月から平成31年4月にかけての亡Eの時間外労働時間数はさほど長くない上、亡Eが本件詐欺に関与し、本件情報漏洩を引き起こしたことからして、本件懲戒解雇等による心理的負荷の程度はさほど強いものでないから、Fらの過失によって、亡Eが、うつ病エピソードを発症したとは認められない。 ⑷ 損害の発生及びその額(争点⑷) (原告らの主張)ア亡Eに発生した損害(ア)死亡逸失利益 6751万8767円基礎収入を889万9740円(本件懲戒解雇前の3か月間の賃金合計額222万4935円に4を乗じた金額)とし、生活費控除率として3 0%を採用し、就労可能年数を16年程度としてこれに相当する中間利息 控除を行うと、死亡逸失利益は、以下の計算式のとおり、6751万8767円となる。 【計算式】基礎収入889万9740円×(1-0.3)×労働能力喪失期間16年間に対応するライプニッツ係数10.838=6751万8767円 (イ)死亡慰謝料 3000万円(ウ)葬儀費用 150万円(エ)合計 9901万8767円イ相続に係る原告らの損害法定相続分に従い、原告Aは2分の1、原告B、原告C及び原告Dは各6 分の1の割合で亡Eの財産をそれぞれ相続した。したがって、原告らの損害は以下のとおりとなる。 (ア)原告Aの損害a 亡Eの損害相 に従い、原告Aは2分の1、原告B、原告C及び原告Dは各6 分の1の割合で亡Eの財産をそれぞれ相続した。したがって、原告らの損害は以下のとおりとなる。 (ア)原告Aの損害a 亡Eの損害相続分 4950万9383円(=9901万8767円×2分の1) b 損益相殺(労災分) 738万0108円c 弁護士費用 421万2927円d 合計 4634万2202円(イ)原告B、原告C及び原告Dの損害a 亡Eの損害相続分各1650万3128円(=9901万8767 円×6分の1)b 弁護士費用各165万0312円c 合計各1815万3440円(被告の主張)いずれも否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実⑴ 被告における当直勤務について被告では、夜間の電話対応等のために、当直勤務が実施されており、その業務内容は、電話対応や夜間の葬儀の依頼への対応(病院からの遺体の搬送等)等であった。当直勤務においては、2、3名の従業員が宿直室にて待機してい たほか、そのサポートのために、自宅待機者が指定されることもあった。(甲13、29ないし32、57、弁論の全趣旨)⑵ 平成31年4月当時の亡Eの労働条件平成31年4月当時、亡Eの労働条件は、以下のとおりであった(甲8の6、甲11、57、乙2)。 ア業務内容ギフト部の責任者として、栃木県鹿沼市a にある被告の工場(以下「a 工場」という。)において、引き物の管理等の業務に従事していた。 イ勤務時間午前8時00分から午後5時00分(休憩時間は午後0時から午後1時) ウ賃金(ア)基本給 32万円(イ)役職手当 7万円( 引き物の管理等の業務に従事していた。 イ勤務時間午前8時00分から午後5時00分(休憩時間は午後0時から午後1時) ウ賃金(ア)基本給 32万円(イ)役職手当 7万円(ウ)教育指導手当 1万円(エ)通勤手当 4100円 (オ)EG当直手当当直勤務1回につき6500円(カ)EG受注手当当直勤務において受注した仕事1件につき4000円エ賃金支払時期当月25日締め・翌月5日払い⑶ 亡Eの本件情報漏洩への関与 本件情報漏洩は、亡Eが、平成30年10月26日の夜、自宅での被告の従 業員との通話の中で、Iの死因に言及したところ、亡Eの通話を聞いていた原告Cが原告Bの妻であるK にこれを伝え、K が自らの友人にこれを伝えたことにより生じたものである(甲9、12、乙5)。 ⑷ 被告における引き物の買取りの流れ被告では、葬家からの引き物の買取りを実施しており、引き物の買取りの一 連の流れは、概要、以下のとおりである(甲8の5、8の6、弁論の全趣旨)。 ア葬家から引き物の買取り依頼を受けた担当者が、被告事務所の事務員に対し、引き物の買取り依頼があった旨伝え、事務員から、4枚複写の引取書の3枚目及び4枚目並びに買取り費用を受け取る。 イ担当者は、葬家に引取書の3枚目に署名させ、引き物と引き換えに、買取 り費用を支払い、引取書の4枚目を控えとして交付する。 ウ担当者は、事務員から、引取書の3枚目と引き換えに、引取書の2枚目を受け取り、引き物と共にa 工場まで持って行くなどして、これらをa 工場の職員に引き渡す。 ⑸ 被告における本件詐欺の調査 ア遅くとも平成29年頃から、Jは、実際には、引き物の買取り依頼がないにもか 工場まで持って行くなどして、これらをa 工場の職員に引き渡す。 ⑸ 被告における本件詐欺の調査 ア遅くとも平成29年頃から、Jは、実際には、引き物の買取り依頼がないにもかかわらず、これがあるかのように装い、被告事務所の事務員から、買取り費用と引取書の交付を受けた後、事務員に対し、葬家の署名のない引取書のみを渡したり、引取書を渡さないまま、引き物はa 工場に直接持って行ったなどと述べたりして、ごまかすことを繰り返すようになった(本件詐欺。 甲8の4ないし8の6)。 イ Jによる買取り費用の請求が多いことを不審に感じた事務員は、平成30年10月上旬頃から、Jが不正を行っていないかについて調査を始めたところ、葬家の署名がない引取書や葬儀の引き物の明細書と整合しない引取書が複数枚あることや、引取書が提出されていないこともあること等が判明した。 その後も、事務員は、調査を進めていたところ、同月26日、Jが過去に買 取り費用を請求した葬家から、買取りの依頼はしていないとの話が出たため、同日中に、Fに対し、Jが不正に及んでいる旨報告した。かかる報告を受けて、Fは、事務員に対し、本件詐欺に関する調査を行うよう指示し、同年11月26日には、鹿沼警察署に対し、本件詐欺について相談した。その後、鹿沼警察署において、本件詐欺に関する捜査が始まり、被告の従業員の取調 べ等が行われ、Jは本件詐欺を自白した。(甲8の3、8の5ないし8の17)⑹ 本件詐欺に関する亡Eへの捜査等ア Jは、被告による本件詐欺の調査の過程で、Fの指示により、本件詐欺の一部で用いた引き物の引取書数枚につき、当該引き物を亡Eに渡した旨及び 渡したとする日付等を記載した。Fは、亡Eに対し、平成30年11月16日、上記 の調査の過程で、Fの指示により、本件詐欺の一部で用いた引き物の引取書数枚につき、当該引き物を亡Eに渡した旨及び 渡したとする日付等を記載した。Fは、亡Eに対し、平成30年11月16日、上記引取書を差し示し、「税務署がサインがないと困ると言ったので。」、「特別なことは何も無いです。」、「日にちだけ入れておいてもらえる。」などと述べて、上記引取書に(Jから)引き物を受け取った旨及びその日付を記載するよう依頼し、これを受けて、亡Eは、その旨記載して署名した。(甲 9、25、52、乙3の1ないし3の3、乙6、被告代表者本人)イ Fは、本件詐欺について、鹿沼警察署から亡Eを出頭させるようにとの指示は受けていなかったにもかかわらず、平成31年4月24日、亡Eに対し、同署で取調べを受け、本件詐欺について本当のことを話すようにと指示した。 亡Eは、同日、同署において、前記アの引取書数枚への署名等について取調 べを受け、Fから税務署に出す書類なので署名するように言われたから署名したなどと供述した。上記取調べの終了後、同署の駐車場において、亡Eは、Fに対し、取調べの内容等について報告したところ、Fは、「お前が選んだことだからどうなっても知らない。」、「署長を含め4人の人と根回しをしていたのに話が違う。」、「a 工場で引き物を受け取ったら共犯だ。」などと怒鳴 りつけた。さらに、Fは、同日午後3時30分頃、仕事中の亡Eに架電し、 「午後警察署に行って、お前のせいで怒られた。」などと述べた。(甲9、22の1、22の2、甲55の1、55の2、甲56、原告A本人)⑺ 本件懲戒解雇の態様等平成31年4月25日、Fらは、被告の本社事務所において、本件詐欺に関する聞取りと称して、亡Eとの面談を行った。この面談において、Fは 1、55の2、甲56、原告A本人)⑺ 本件懲戒解雇の態様等平成31年4月25日、Fらは、被告の本社事務所において、本件詐欺に関する聞取りと称して、亡Eとの面談を行った。この面談において、Fは、亡E との間で、亡Eの本件詐欺への関与の有無について口論となった末、亡Eに対し、口頭で、本件懲戒解雇を通告した。これに対し、亡Eは、会社の鍵と携帯電話を机の上に放り投げて、事務所を立ち去った。(甲19の1、19の2、乙18、19、G証人、被告代表者本人)⑻ 本件懲戒解雇後の亡EとFのやり取り 亡Eが、Fに対し、令和元年5月1日、本件懲戒解雇の理由について確認したところ、Fは、本件情報漏洩と本件詐欺の二つであると答えた。これに対し、亡Eは、平成31年4月25日の面談では本件情報漏洩に関する話は出ていなかったなどと反論した。(甲19の1、19の2)⑼ 本件懲戒解雇に係る解雇予告除外認定申請 被告は、Gを通じて、鹿沼労働基準監督署に対し、令和元年5月7日、本件詐欺と本件情報漏洩への関与は労働者の責めに帰すべき事由に当たるとして、本件懲戒解雇に関する解雇予告除外認定申請をした(甲23)。 ⑽ 本件懲戒解雇後における亡Eの心身不調の訴えア令和元年5月7日、亡Eは、鹿沼労働基準監督署の職員に対し、身に覚え のない解雇等により精神的に変調をきたしており、心療内科への受診も考えているが、労災は適用されるのかなどについて相談した。この際、亡Eは、同署の職員に対し、「もう鬱になってきているところもあるんですけど。」、「気が滅入っていっちゃう。」、「上にもグンッと上がっちゃうようなことがあって、体の方もそういう症状が出てきていたりしているので。」、「今、人 が怖いんですよ。」などと述べたほか すけど。」、「気が滅入っていっちゃう。」、「上にもグンッと上がっちゃうようなことがあって、体の方もそういう症状が出てきていたりしているので。」、「今、人 が怖いんですよ。」などと述べたほか、会話の途中で涙ぐむこともあった。 (甲 24、49の1、49の2、甲50の1、50の2)イ本件懲戒解雇後、亡Eは、鹿沼公共職業安定所を何回か訪れ、雇用保険の受給手続等について相談した。その際、亡Eは、同所の職員に対し、「一家の大黒柱として情けない。」、「夜10時以降一人になった際、発作的にどうしようもない気持ちになる、気分が落ち込む、一人で泣いてしまうことがあ る。」などと述べたほか、窓口で泣いてしまうことも一度あった。また、亡Eは、同所の職員に対し、詐欺容疑に関する問題が解決してから、再就職の準備をするつもりだなどと述べていたほか、同所の職員から、心療内科の受診の有無を確認された際には、心療内科を受診したが、うつ病エピソードとは診断されなかったなどと答えた。(甲51) ⑾ 本件懲戒解雇後の亡Eの生活の変化亡Eは、本件懲戒解雇前は、1週間に1回程度、温泉に行き、4、5時間経ってから帰宅していたところ、本件懲戒解雇後は、1週間に2回程度、温泉に行くようになった一方で、「気分が乗らない。」などと言って、2時間程度で帰ってくるようになった。また、本件懲戒解雇後、亡Eは、食べる量が少なくな ったほか、「詐欺容疑がかかっていると家族に迷惑を掛ける。」、「仕事どうしよう。詐欺容疑かかっているからどうしよう。孫にまでいっちゃっていじめられたりしたらどうしよう。」、「どうしていいか分からない。」などと言って悩む様子を見せるようになった。そして、亡Eは、令和元年8月に入ってから、「おれ死んじゃえばいいのかな。」 いっちゃっていじめられたりしたらどうしよう。」、「どうしていいか分からない。」などと言って悩む様子を見せるようになった。そして、亡Eは、令和元年8月に入ってから、「おれ死んじゃえばいいのかな。」などと言っていたほか、同月20日には、「あい つらまた何か企んでいる。」などと言っていた。(甲48、56、原告A本人)⑿ 労災認定及び保険金の支給ア鹿沼労働基準監督署は、亡Eの労災認定手続において、令和2年8月7日、亡Eは、令和元年5月上旬頃に急性ストレス反応(F43.0)を発症し、同年8月上旬頃には希死念慮を生じ、うつ病エピソード(F32)に病態が 深まり、結果的に自殺企図に至ったと認定した上、本件懲戒解雇は、厚生労 働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に照らし、心理的負荷が「強」と判断されるものであり、業務以外の心理的負荷及び個体側要因は確認されなかったとして、亡Eの急性ストレス反応、うつ病エピソードは業務上の疾病に当たると判断した(甲1)。 イ鹿沼労働基準監督署は、亡Eの本件懲戒解雇前の3か月間(平成31年1 月26日から同年4月25日まで)の労働時間について、別紙賃金計算表に記載のとおりに認定し、被告の就業規則及び賃金規程に基づき、上記期間の賃金総額を222万4935円と算定して、原告Aに対し、令和元年8月から令和7年8月にかけて、葬祭給付として合計119万3400円を、遺族補償年金として合計2049万3457円をそれぞれ支給した(甲2、15、 57、70)。 2 原告らの会社法350条に基づく損害賠償請求の成否に関する判断⑴ 亡Eの自殺に関するFの過失の有無(争点⑴)についてア Fが負う注意義務について被告の代表取締役として、亡Eを指揮監 社法350条に基づく損害賠償請求の成否に関する判断⑴ 亡Eの自殺に関するFの過失の有無(争点⑴)についてア Fが負う注意義務について被告の代表取締役として、亡Eを指揮監督する立場にあったと認められる Fは、亡Eに強い心理的負荷を与える業務上の出来事を認識し、又は認識し得たときには、これらによるうつ病エピソード等の精神障害の発症、ひいては、うつ病エピソード等の精神障害による希死念慮の出現も予見可能であったといえ、亡Eが業務の遂行に伴う心理的負荷の蓄積等によって心身の健康を害することがないよう配慮すべき注意義務を負っていたというべきであ る。 イ亡Eの労働時間について(ア)亡Eが日中の勤務の際に用いていたタイムカードと当直勤務の際に用いていたタイムカードの各記載(甲6の1ないし6の3)等に照らすと、亡Eの平成31年1月26日から同年4月25日にかけての労働時間につ いては、別紙賃金計算表に記載のとおりと認めるのが相当である(甲57)。 これに対し、被告は、当直勤務では宿直室内で仮眠することも認められていたこと等からして、当直勤務の不活動仮眠時間は労働時間に当たらないと主張し、Fらもこれに沿う証言・供述をする。しかしながら、亡Eは、労働契約に基づく義務として、宿直室における待機と依頼等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられていたものであり、当直勤務には 2、3名の従業員が従事していたとの事情(認定事実⑴)を踏まえても、上記期間に亡Eが従事した合計15回の当直勤務において、少なくとも9件の仕事の受注に至っていること(認定事実⑵ウ(カ)、甲11、57)等からして、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなど、実質的に上記のような義務付けがされていなかっ おいて、少なくとも9件の仕事の受注に至っていること(認定事実⑵ウ(カ)、甲11、57)等からして、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなど、実質的に上記のような義務付けがされていなかったとはおよそ認め難いか ら、被告の上記主張を採用することはできない。 (イ)このように、亡Eは、平成31年1月26日から同年4月25日にかけて、月間100時間前後にも上る時間外労働をしており、これに伴う心理的負荷の強い状況が常態化していたとみることができる。 ウ本件懲戒解雇等について (ア)まず、亡Eの本件詐欺への関与の有無について検討するに、亡Eはこれを否認していた上(甲9)、本件全証拠に照らしても、亡Eが本件詐欺に関与したことを窺わせる事情は見当たらないから、亡Eは本件詐欺に関与していなかったと認めるのが相当である。 これに対し、被告は、亡Eが本件詐欺に係る引取書に(Jから)引き物 を受領した旨を記載したこと等から、亡Eの本件詐欺への関与は明らかであると主張する。しかしながら、上記引取書の作成状況(認定事実⑹ア)や警察官の取調べでの亡Eの供述内容(認定事実⑹イ)からして、亡Eは、上記引取書に記載の引き物をJから実際に受け取ったかどうかについて精査することなく、Fに言われるがまま、上記のとおり記載したにすぎな いといわざるを得ないというべきであるから、上記引取書の記載を信用す ることはできず、そのほか被告が縷々指摘する事情を考慮しても、亡Eの本件詐欺への関与が裏付けられているとはおよそいい難い。したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 (イ)以上を前提に、本件懲戒解雇に関するFの一連の言動による心理的負荷の程度について検討すると、Fは、亡Eを欺いてあたかも亡Eが本件詐欺 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 (イ)以上を前提に、本件懲戒解雇に関するFの一連の言動による心理的負荷の程度について検討すると、Fは、亡Eを欺いてあたかも亡Eが本件詐欺 に関与したかのような証拠を作成した上で(認定事実⑹ア)、亡Eに警察官の取調べを受けさせたものの、その意に反して亡Eが取調べにおいて本件詐欺への関与を否定する供述をしたと知るや、亡Eを怒鳴りつけ(認定事実⑹イ)、その翌日、唐突に本件懲戒解雇に及んだものであり(認定事実⑺)、かかるFの一連の言動は、亡Eからしてみれば、いわれのない犯 罪嫌疑をかけられた末、自らの弁明を一切聞き入れられることなく、一方的に懲戒解雇されたというものにほかならず、これによる亡Eの心理的負荷は極めて強かったものといえる。 これに対し、被告は、①Fは、本件詐欺について、鹿沼警察署から亡Eを出頭させるよう指示を受けたため、亡Eに出頭するよう指示したにすぎ ず、上記取調べの終了後に亡Eを怒鳴ったこともない、②亡Eは、本件情報漏洩に関与しており、これを理由の一つとする本件懲戒解雇による心理的負荷はさほど強くないなどと主張する。しかしながら、①証拠(甲9、22の1、22の2、甲55の1、55の2)によれば、亡Eの取調べに関与した警察官自身がもともと亡Eを取り調べる予定はなかったと亡E や原告A等に述べていた事実が認められ、また、②仮に、Fが、本件懲戒解雇に際して、その理由の一つとして本件情報漏洩を挙げていたとしても、本件情報漏洩の態様・時期(認定事実⑶)等に照らし、本件懲戒解雇の主たる理由が本件詐欺への関与にあることは明らかであって、本件情報漏洩への関与を理由に亡Eへの心理的負荷の強さに直ちに影響が生じるとは いい難いというべきであるから、被告 らし、本件懲戒解雇の主たる理由が本件詐欺への関与にあることは明らかであって、本件情報漏洩への関与を理由に亡Eへの心理的負荷の強さに直ちに影響が生じるとは いい難いというべきであるから、被告の上記各主張を採用することはでき ない。 エ Fの注意義務違反(過失)以上によれば、Fは、前記アの注意義務に違反し、亡Eの長時間労働による心理的負荷の蓄積を放置し続けたばかりか、本件懲戒解雇をしたことにより自ら積極的に心理的負荷をかけたものというべきであるから、代表取締役 の職務を行うについて過失がある。 ⑵ Fの過失と亡Eの自殺との相当因果関係(争点⑶)についてア亡Eが精神障害を発症していたか否か前記⑴説示のとおり、亡Eは、うつ病エピソードの発症要因となり得る恒常的な長時間労働や本件懲戒解雇を理由とする強度の心理的負荷を抱えて いたところ、本件懲戒解雇後は、周囲に対し、「気が滅入っていっちゃう。」、「夜10時以降一人になった際、発作的にどうしようもない気持ちになる、気分が落ち込む、一人で泣いてしまうことがある。」、「どうしていいか分からない。」などと抑うつ気分を訴えていたほか、「一家の大黒柱として情けない。」、「おれ死んじゃえばいいのかな。」などと自己評価・自信の低下や希死 念慮を窺わせる発言をしていたものである(認定事実⑽ア、イ、⑾)。さらに、本件懲戒解雇後の亡Eには、「気分が乗らない。」などと言って、本件懲戒解雇前よりも早めに外出先から戻るようになったり、食べる量が少なくなったりするなどの興味と喜びの喪失、活動性の減退、食欲不振等の症状が見られたこと(認定事実⑾)も踏まえると、遅くとも、亡Eが希死念慮を窺わ せる発言をするようになった令和元年8月上旬頃には、亡Eは、うつ病 どの興味と喜びの喪失、活動性の減退、食欲不振等の症状が見られたこと(認定事実⑾)も踏まえると、遅くとも、亡Eが希死念慮を窺わ せる発言をするようになった令和元年8月上旬頃には、亡Eは、うつ病エピソードを発症していたものと認められる。 これに対し、被告は、亡Eには、うつ病エピソード患者にみられる症状はなく、現に、本件懲戒解雇後に受診した心療内科において、うつ病エピソードと診断されていないなどと主張するものの、上記のとおり、本件懲戒解雇 後の亡Eにはうつ病エピソードを基礎づける複数の兆候がみられる上、仮に、 亡Eが心療内科を受診し、うつ病エピソードと診断されなかったことがあったとしても、その受診日や、亡Eが医師にどのような症状を訴えていたかについては証拠上明らかでなく、被告の主張をもって上記認定判断は左右されない。 イ亡Eの自殺とFの過失との相当因果関係 前記ア説示のとおり、亡Eは、遅くとも令和元年8月上旬頃にうつ病エピソードを発症したものであるところ、前記⑴説示のとおり、亡Eは、それ以前に恒常的な長時間労働や本件懲戒解雇を理由とする強度の心理的負荷を抱えており、その後も、亡Eには本件詐欺の嫌疑をかけられていたことについて強く思い悩んでいた様子がみられたこと(認定事実⑾)、被告での業務 やFによる言動以外に心理的負荷がかかる原因は見当たらず、そのほか亡Eにうつ病エピソードを発症するような個別的要因も見当たらないこと等を踏まえると、亡Eが、うつ病エピソードを発症した主要な原因は、被告の業務における上記の心理的負荷であったと認めるのが相当である。 その上で、亡Eが同月21日に自殺したといううつ病エピソードを発症し た後の経過に照らせば、亡Eは、うつ病エピソードにより、正常な認識や行為選択能力、 的負荷であったと認めるのが相当である。 その上で、亡Eが同月21日に自殺したといううつ病エピソードを発症し た後の経過に照らせば、亡Eは、うつ病エピソードにより、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまらせる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥り、自殺に至ったものと認められる。 そうすると、亡Eは、被告の業務における心理的負荷が主たる要因となって自殺に至ったものと認められ、したがって、代表取締役の職務を行うに当 たり、亡Eの長時間労働による心理的負荷の蓄積を放置し続け、更に本件懲戒解雇により自ら積極的に心理的負荷をかけたというFの過失と、亡Eの自殺との間には相当因果関係があると認められる。 ⑶ 損害の有無及びその額(争点⑷)についてア原告Aの損害額 (ア)亡Eの死亡逸失利益 6751万7522円 平成31年4月当時の亡Eの労働条件は、認定事実⑵のとおりであるところ、証拠(甲57)によれば、これを前提とする本件懲戒解雇前の3か月間(平成31年1月26日から同年4月25日まで)の亡Eの賃金総額は、合計222万4935円(認定事実⑿イ)を下回ることはないと認められる。そうすると、亡Eの基礎収入は、1年当たり889万9740円 (=222万4935円×4)と算出される。 そして、亡Eの死亡逸失利益の算定においては、生活費控除率を30%、就労可能年数を死亡時51歳から67歳までの16年間として算定するのが相当であるから、亡Eの死亡逸失利益は、以下の計算式のとおり、6751万7522円(小数点以下四捨五入)と認めるのが相当である。 【計算式】基礎収入889万9740円×(1-0.3)×ライプニッツ係数10. 8378(イ)死亡慰謝料 751万7522円(小数点以下四捨五入)と認めるのが相当である。 【計算式】基礎収入889万9740円×(1-0.3)×ライプニッツ係数10. 8378(イ)死亡慰謝料 2800万円前記⑵のとおり、亡Eは、Fの一連の言動等によって極めて強い心理的 負荷をかけられ、これにより、うつ病エピソードを発症し、自殺するに至ったものであり、亡Eが被った精神的苦痛は極めて甚大である。そのほか亡Eの死亡時の年齢、生活状況及び家族構成等本件に現れた一切の事情に照らすと、亡Eの死亡慰謝料は、2800万円と認めるのが相当である。 (ウ)葬儀費用 150万円 証拠(甲33ないし40)及び弁論の全趣旨によれば、Fの過失と相当因果関係のある亡Eの葬儀費用は、150万円と認める。 (エ)損益相殺的調整原告Aは、葬祭給付として、合計119万3400円の支給を受けたところ(認定事実⑿イ)、これは葬儀費用の補填を目的とするものであるか ら、前記(ウ)の葬儀費用(元本)から控除するのが相当である。したが って、亡Eの損害残元本は、9582万4122円(=6751万7522円+2800万円+(150万円―119万3400円))となる。 他方、原告Aは、遺族補償年金として、合計2049万3457円の支給も受けたところ(認定事実⑿イ)、これは労働者の業務上の死亡によってもたらされる被扶養利益の喪失を補填することを目的とするものであ るから、亡Eの被扶養者であり、遺族補償年金の受給権者である原告Aが相続した亡Eの損害賠償請求権のうち死亡逸失利益に係る部分の元本から控除するのが相当である。 (オ)小括原告Aは、法定相続分に従って、前記(エ)の損害残元 給権者である原告Aが相続した亡Eの損害賠償請求権のうち死亡逸失利益に係る部分の元本から控除するのが相当である。 (オ)小括原告Aは、法定相続分に従って、前記(エ)の損害残元本9582万4 122円の2分の1に相当する4791万2061円の損害賠償請求権を相続したところ、ここから原告Aの遺族補償年金の支給額2049万3457円(<亡Eの死亡逸失利益の相続分3375万8761円(=6751万7522円×2分の1))を控除すると、その残額は、2741万8604円となる。 そして、原告Aが本件訴訟の提起・追行を同訴訟代理人弁護士らに委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の内容や経過その他諸般の事情を踏まえると、Fの過失と相当因果関係がある弁護士費用は、274万円と認める。 したがって、原告Aの損害額は、3015万8604円と認められる。 イ原告B、原告C及び原告Dの各損害額原告B、原告C及び原告Dは、法定相続分に従って、前記ア(エ)の損害残元本の6分の1に相当する1597万0687円(=9582万4122円×6分の1)の損害賠償請求権をそれぞれ相続した。 そして、同原告らが本件訴訟の提起・追行を同訴訟代理人弁護士らに委任 したことは当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の内容や経過その他諸般 の事情を踏まえると、Fの過失と相当因果関係がある弁護士費用は、それぞれ159万円と認める。 したがって、同原告らの損害額は、それぞれ1756万0687円と認められる。 ⑷ まとめ 以上によれば、被告は、会社法350条に基づく損害賠償債務として、原告Aに対し、3015万8604円及びこれに対する遅延損害金の、原 56万0687円と認められる。 ⑷ まとめ 以上によれば、被告は、会社法350条に基づく損害賠償債務として、原告Aに対し、3015万8604円及びこれに対する遅延損害金の、原告B、原告C及び原告Dに対し、各1756万0687円及びこれに対する遅延損害金のそれぞれ支払義務を負う。 なお、原告らが選択的に請求する民法715条に基づく損害賠償請求と予備 的に請求する債務不履行に基づく損害賠償請求の各認容額は、いずれも上記認容額を上回ることはないと認められる。 3 結論よって、原告らの主位的請求は、原告Aについては、3015万8604円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告B、原告C及 び原告Dについては、各1756万0687円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し(なお、仮執行免脱宣言は、相当でないからこれを付さない。)、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 宇都宮地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官本多哲哉 裁判官岡田真生 裁判官加藤潤也

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