平成27(ヨ)22071 仮処分命令申立事件

裁判年月日・裁判所
平成27年10月26日 東京地方裁判所
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判決文本文21,348 文字)

平成27年(ヨ)第22071号仮処分命令申立事件決定債権者 X 同代理人弁護士前田哲男債務者株式会社有斐閣同代理人弁護士松田政行同齋藤浩貴同池村 聡 主文 債務者は,別紙雑誌目録記載の雑誌の複製,頒布,頒布する目的をもってする所持又は頒布する旨の申出をしてはならない。 理由 第1 事案の概要等 1 申立ての趣旨主文同旨 2 事案の概要本件は,債権者が,自らが編集著作物たる別紙著作物目録記載の雑誌『著作権判例百選[第4版]』(以下「本件著作物」という。)の共同著作者の一人であることを前提に,債務者が発行しようとしている別紙雑誌目録記載の雑誌『著作権判例百選[第5版]』(以下「本件雑誌」という。)は本件著作物を翻案したものであるなどと主張して,本件著作物の①翻案権並びに二次的著作物の利用に関する原著作物の著作者の権利(著作権法28条)を介して有する複製権,譲渡権及び貸与権又は②著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権を被保全権利として,債務者による本件雑誌の複製,頒布,頒布する目的をもってする所持又は頒布する旨の申出(以下,併せて「本件雑誌の複製・頒布等」という。)を差し止める旨の仮処分命令を求める事案である。 3 主要な争点(1) 債権者が本件著作物の著作者の一人であるか(争点1)(2) 本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか(本件雑誌が本件著作物を翻案した 3 主要な争点(1) 債権者が本件著作物の著作者の一人であるか(争点1)(2) 本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか(本件雑誌が本件著作物を翻案した二次的著作物に当たり,本件著作物の同一性保持権を侵害するものとなり得るか)(争点2)(3) 本件著作物は別紙「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト(案)」のとおりの原案(以下「本件原案」という。)を原著作物とする二次的著作物にすぎず,本件著作物において新たに付加された創作的表現が本件雑誌において再製されてはいないということができるか(争点3)(4) 債権者が債務者に対し,本件雑誌の出版に関して,黙示的に,本件著作物の利用を許諾し,著作者人格権を行使しない旨同意したか(争点4)(5) 債権者が他の共同著作者との間で本件雑誌の出版に関する合意を拒むことについて,正当な理由(著作権法65条3項)がなく,信義に反する(同法64条2項)ということができ,かつ,そのことが差止請求に対する抗弁となるか(争点5)(6) 保全の必要性の有無(争点6) 4 当事者の主張本件に関する各当事者の主張は,各主張書面に記載のとおりであるから,これらを引用する。 第2 当裁判所の判断 1 事実関係当事者間に争いのない事実並びに掲記の疎明資料(特に断らない限り書証の枝番の記載は省略する。)及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が一応認められる。 (1) 当事者ア債権者は,昭和34年11月生まれの東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授である。(甲12,審尋の全趣旨)イ債務者は,社会科学・人文科学関係の書籍等を出版する株式会社である。(審 尋の全趣旨)(2) 『著作権判例百選』の性格等ア債務者は,主として大学の法学部生及 2,審尋の全趣旨)イ債務者は,社会科学・人文科学関係の書籍等を出版する株式会社である。(審 尋の全趣旨)(2) 『著作権判例百選』の性格等ア債務者は,主として大学の法学部生及び法科大学院生向けに,各法分野において基本的論点を含む重要な判例(下級審の裁判例を含む。以下同じ。)を100件程度選び,これを原則として見開き2頁で紹介,解説する『判例百選』と銘打った雑誌のシリーズを,雑誌『ジュリスト』の別冊として出版している。 『著作権判例百選』は,『判例百選』シリーズのうち著作権に関する判例を紹介,解説するものであり,本件著作物はその第4版,本件雑誌はその第5版に当たる。 (以上につき,乙5,101,審尋の全趣旨)イ 『著作権判例百選』を含む多くの『判例百選』においては,事実上の慣行として,編者の年齢については原則おおむね70歳まで,判例の解説の執筆者(以下,単に「執筆者」ともいう。)の年齢については原則おおむね65歳までとする方針が採られてきた。(甲19,20,審尋の全趣旨)(3) 本件著作物の内容等本件著作物は,債務者が平成21年12月20日に発行した『著作権判例百選』の第4版であり,著作権に関する判例を113件収録している。その収録判例及び各判例の解説の執筆者は,別紙「著作権判例百選判例変遷表」の「4版判例」欄及び「4版執筆者」欄記載のとおりである。 本件著作物の表紙には,題名の下に続けて「A・X・B・C編」と,債権者を含む4名の氏名に「編」の字を付した表示がされている。また,本件著作物のはしがきにおいては,「第4版においても重要判例については旧版に掲載されている事件も採録しているが,この間の立法や,著作権をめぐる技術の推移等を考慮し,第4版では新たな構成を採用し,かつ収録判例を大幅に入れ替え,113件 第4版においても重要判例については旧版に掲載されている事件も採録しているが,この間の立法や,著作権をめぐる技術の推移等を考慮し,第4版では新たな構成を採用し,かつ収録判例を大幅に入れ替え,113件を厳選し,時代の要求に合致したものに衣替えをした。そして,変化の著しい状況を勘案し,執筆者には学者以外に,多くの裁判官や弁護士等の実務に精通しておられる方にもお願いをし,実務家のニーズにも応えうる内容となるように配慮した。」と記載され た上,はしがきの名義人として上記4名の氏名が連名で表示されている。 なお,債務者のウェブサイトにおいて,本件著作物については,「著者」欄に,上記4名の氏名が「編」の字を付されて表示されている。(以上につき,甲1の1ないし1の4,13の1ないし13の3,17,審尋の全趣旨)(4) 本件著作物の発行に至る経緯ア 『著作権判例百選』については,平成13年5月8日に『著作権判例百選[第3版]』(以下,単に「第3版」という。)が発行されていたが,平成20年8月頃,債務者において,その改訂版を出版する企画が決定された。当時,第3版の編者2名は既に70歳を超えていたため,第4版(本件著作物)においては編者の若返りを図ることとなり,債務者雑紙編集部所属の担当者E(以下「E」という。)がA東京大学名誉教授(以下「A 教授」という。)に相談したところ,A 教授,債権者,B 慶應義塾大学大学院法務研究科教授(以下「B 教授」という。)及びC 北海道大学大学院法学研究科教授(以下「C 教授」という。)の4名を編者とすることとなった。また,その際,D 立教大学准教授(当時。現在は早稲田大学教授。以下「D 教授」という。)が編集協力者として加わり,B 教授とD 教授が原案作成の作業に当たることとなった(なお,D 教授は なった。また,その際,D 立教大学准教授(当時。現在は早稲田大学教授。以下「D 教授」という。)が編集協力者として加わり,B 教授とD 教授が原案作成の作業に当たることとなった(なお,D 教授は,当時,「自分が編者という形で参加するには早すぎるが,実質的な作業という形で下働きができるのは光栄である。」という認識で参加した。)。このような方法を採ることについては,債権者も,あらかじめ告げられ,了承した。(甲2の4,7,12,乙1,4,5)イ D 教授は,平成20年10月10日,A 教授の教科書『著作権法』で参照されている判例等を基に,本件著作物に収録する判例の案として109件を選び,上記教科書の構成に従って列挙した「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト(案)」と題するリスト(一覧表)を作成し,このデータを電子メール(以下,単に「メール」という。)に添付してB 教授に送信した。なお,D 教授は,「編者の先生方にご納得いただける原案にしよう」と努めて上記の案を作成し,これを提示するに当たっては,あくまで編集協力者という立場であったことから「ご参考」と いう形で提示した。(乙4,10ないし14)ウ B 教授は,平成20年10月12日,上記イのリストから判例を1件削除した上,個々の判例に執筆者100名を割り当てた案を,上記リストを上書きする形で作成し,このデータをメールに添付してD 教授,A 教授及びE に送信した。(乙2,15,16)エ A 教授は,平成20年10月14日,上記ウのリストに関し,執筆者に関するC 教授及び債権者のコメント並びにA 教授自身のコメントをB 教授に伝え,翌15日にも,執筆者の候補に関する自身のコメントをB 教授に伝えた。(乙17,18)オ B 教授は,平成20年10月17日,上記 債権者のコメント並びにA 教授自身のコメントをB 教授に伝え,翌15日にも,執筆者の候補に関する自身のコメントをB 教授に伝えた。(乙17,18)オ B 教授は,平成20年10月17日,上記エのコメントを受けて,前記ウのリストについて執筆者を変更した案を作成し,このデータをメールに添付してA 教授及びD 教授に送信した。さらに,この案について,翌18日,D 教授がコメントをし,それを受けてB 教授は,判例を1件加え(合計109件),執筆者を修正した(合計108名)案を作成し,このデータをメールに添付してD 教授,A 教授及びE に送信した。(乙19ないし23)カ A 教授は,平成20年10月20日,上記オの案について,B 教授及びA 教授自身も執筆者に加えることを提案するととともに,「まだ適当な者でノミネートされていない方が見つかる可能性も高いと思いますので,結果的に,もう少し増えてもよろしいかと思います。X・C 両先生にも見てもらい,なお執筆に適当な方の推挙をお願いしてみてください。」とコメントしたメールをB 教授,D 教授及びEに送信した。B 教授は,同日,これに従って,判例を1件加えて110件,執筆者を2名加えて110名とした本件原案(乙30)を,別紙「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト(案)」のとおり作成した。同日,A 教授は,B 教授に対し,本件原案について,「それでは,この案をX・C 両教授にも送り,意見を聞いて再修正をいたしましょう。この案をE までお送りください。」と記したメールを送信し,E は,債権者及びC 教授に対し,「D 先生のご協力を得てB 先生が収載判例リ スト案を作成されました。A 先生のご確認も得ましたので,お送り申し上げます。」,「採用予定裁判例の選択にあたっては,百選の旧版の 教授に対し,「D 先生のご協力を得てB 先生が収載判例リ スト案を作成されました。A 先生のご確認も得ましたので,お送り申し上げます。」,「採用予定裁判例の選択にあたっては,百選の旧版のほか,A 先生の体系書における採否などにも目配りしてご検討くださっています。しかしそれでもなお,別のお考えはあろうかと存じます。」「裁判例の追加・削除について,忌憚のないご意見を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。」「また執筆候補者につきましても,新たに加わっていただくべき方,より適切な割り当て,ご遠慮いただいたほうがよい方など,ぜひお教えいただきたく存じます。」「ご意見をいただいて,調整のやりとりをした後,編者会合で決定という段取りを考えております。」と記載するとともに本件原案のデータを添付したメールを送信した。(甲7,8の1,乙26ないし32)キ C 教授は,平成20年10月25日,本件原案の判例の取捨選択について,10項目からなる意見を,B 教授,D 教授,A 教授,債権者及びE に伝え,B 教授は,同月27日,そのうち2つを採用して本件原案の修正案を作成した。(甲7,8の2,乙33ないし35)ク債権者は,平成20年10月27日,執筆者について,特定の実務家1名を削除するとともに別の実務家3名(a 判事,b 弁護士及びc 弁護士)を追加することを内容とする意見を電話でB 教授に伝え,これを受けたB 教授が,1名の削除及び2名の追加について上記意見を反映した案を作成,送信したところ,債権者は,追加されていない実務家の方が優先順位が高いとして再度追加を要請するメールをB 教授に送信した。そこで,B 教授は,同日,結局債権者の上記意見(1名の削除及び3名の追加)を全て受け容れることとし,これを反映した修正案を作成して,この が高いとして再度追加を要請するメールをB 教授に送信した。そこで,B 教授は,同日,結局債権者の上記意見(1名の削除及び3名の追加)を全て受け容れることとし,これを反映した修正案を作成して,このデータをメールに添付して債権者,A 教授,C 教授,D 教授及びE に送信した。 なお,この執筆者の修正部分は,その後本件著作物の刊行に至るまで変更されることなく,そのまま本件著作物の内容に反映された。(甲1の2,1の3,1の5,7,8の3,12,乙2,38ないし41,審尋の全趣旨)ケ E は,平成20年11月5日,上記クの修正案について,百選の構成(目次) の形にした上で「最終決定のための会合」をお願いしたいとのメールをB 教授,C教授,D 教授,A 教授及び債権者に送信した。その後,「編者会合」の期日が平成21年1月6日と調整される一方,E が,D 教授の助力を得て上記の案を「著作権判例百選[第4版]収載判例一覧(案)」と題する目次の形の一覧表に整えた上,B教授と相談して実務家による関与事件の執筆を回避する観点から執筆者4名を入れ替えた案を作成した。E は,平成20年12月16日,「著作権判例百選[第4版]編者の先生方各位」宛てに上記経緯を説明し,同案(項目リスト案更新版)のデータを添付したメールをB 教授,債権者,C 教授,A 教授及びD 教授に送信した。(甲7,8の4,8の5,乙42ないし49)コ平成21年1月6日,債務者会議室において,編者であるA 教授,債権者,B 教授及びC 教授の4名並びにD 教授が出席し,E を含む債務者の編集部も交えて,編者会合ないし編集会議(以下「本件編者会合」という。)が開催された。ここでは,上記ケの項目リスト案更新版に基づいて意見交換が行われ,その結果,直前に出されていた知財高裁平成2 者の編集部も交えて,編者会合ないし編集会議(以下「本件編者会合」という。)が開催された。ここでは,上記ケの項目リスト案更新版に基づいて意見交換が行われ,その結果,直前に出されていた知財高裁平成20年12月24日判決〔北朝鮮事件〕を追加し,これに伴い1名の執筆者を追加することとなった。このようにして,上記編者4名は,全員一致で,判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立ても含めて決定,確定した(この決定は,その段階では,「最終的な決定」としてされたが,その後一部修正がされる事情が生じたことは後記シないしセのとおり。)。 E は,この日のうちに,ここで確定された内容に従って,「著作権判例百選[第4版]項目一覧表」と題する一覧表を作成し,このデータをメールに添付して上記出席者に送信した。(甲8の6,12,乙1ないし5,50,51,審尋の全趣旨)サ債務者は,執筆依頼用の項目一覧表を作成した上,平成21年1月23日,各執筆者に対し,執筆依頼状を発送した。この執筆依頼状には,「A・X・B・C の4先生に編者をお願いし,構成・収載判例を再検討していただいて,『著作権判例百選[第4版]』として刊行する運びとなりました。」との記載がされていた。(甲8の7,16,乙52,53,審尋の全趣旨) シ執筆依頼状送付後,執筆の辞退や共同執筆の申出等があったことから,平成21年2月25日までに,合計7判例分の執筆者の修正が行われた。これらについては,E から報告があった後,随時,A 教授,債権者,B 教授及びC 教授がメールを通じてそれぞれ意見を述べることにより,その都度修正が決定された。(甲7,8の8,乙54ないし84)スまた,本件編者会合後に知財高裁平成21年1月27日判決(ロクラクⅡ事件控訴審判決)が出たことを受けて れ意見を述べることにより,その都度修正が決定された。(甲7,8の8,乙54ないし84)スまた,本件編者会合後に知財高裁平成21年1月27日判決(ロクラクⅡ事件控訴審判決)が出たことを受けて,同年3月12日,E が「著作権判例百選[第4版]編者の先生方各位」宛てに,「まねきTV事件東京高裁判決や録画ネット事件知財高裁決定の解説中でロクラクⅡ事件について言及してもらうか,いずれかの判決とロクラクⅡ事件知財高裁判決とを差し替えるか」について指示を求める旨のメールを送信した。これに対し,メール上で,C 教授が口火を切って「最終的にはどのような決定であれ先生方のお考えに従う」旨断った上で「まねきTV事件と差し替えるのが穏当かと思う。もう一つ判例を加えるという選択肢もあるかもしれないが,事件数も多く,担当を探すのも大変かもしれない。」旨の意見を述べ,B 教授が「ロクラクⅡ事件を取り上げることに賛成し,自身が解説を執筆してもよい。」旨の意見を述べると,債権者は,「ロクラクⅡ事件を載せた方がよいが,間接侵害の判例の数をこれ以上増やすのはやや行き過ぎの感があるので,既存のものを差し替えるというC 教授の案に賛成する。」旨の意見を表明し,A 教授も「ロクラクⅡ事件をまねきTV事件と差し替えるのがよい。」旨の意見を述べた結果,上記ロクラクⅡ事件知財高裁判決をまねきTV事件東京高裁判決に代えて取り上げ,同判決の解説を依頼していた執筆者に引き続き解説を担当してもらうこととなった。(甲7,8の9,乙85ないし90)セさらに,平成21年3月25日以降,執筆者からの指摘等を契機として,「SMAP大研究」事件及び「Asahi」ロゴマーク事件について,いずれの審級の判決を取り上げるかが問題となり,A 教授,債権者,B 教授及びC 教授がメールを通じてそれ からの指摘等を契機として,「SMAP大研究」事件及び「Asahi」ロゴマーク事件について,いずれの審級の判決を取り上げるかが問題となり,A 教授,債権者,B 教授及びC 教授がメールを通じてそれぞれ意見を述べた結果,取り上げる判決の審級を変更することとなった。 (甲7,乙91ないし100)ソこのようにして本件著作物に搭載する判例及び執筆者が別紙「著作権判例百選判例変遷表」の「4版判例」欄及び「4版執筆者」欄記載のとおり最終的に確定し,平成21年12月20日,本件著作物が発行されるに至った。(甲1,審尋の全趣旨)(5) 本件雑誌の内容,発行予定等ア本件雑誌は,債務者が現在出版しようとしている『著作権判例百選』の第5版であり,著作権に関する判例を116件収録することとされている。その収録判例及び各判例の解説の執筆者は,平成27年4月20日に別紙「著作権判例百選判例変遷表」の「5版判例」欄及び「5版執筆者」欄記載のとおり確定されている。 本件雑誌については,B教授,C教授,d上智大学教授及びD教授が編者とされている。(以上につき,甲4,5,14,乙5,審尋の全趣旨)イ債務者は,平成27年11月上旬に,債権者を編者ないし編集著作者として表示しないで本件雑誌を発行する予定である。 債権者は,この発行について反対する意思を有している。なお,前記(2)イの慣行を承知していた債権者は,平成26年9月頃にEから知らされるまで,自らが70歳という年齢に達するにはまだ相当の年月があるにもかかわらず,意に反して『著作権判例百選』の編者から除外され本件雑誌のような改訂版が作成・発行されるとは考えていなかった。(以上につき,甲12,21,乙5,審尋の全趣旨)(6) 本件著作物と本件雑誌との対比等ア判例の選択について 編者から除外され本件雑誌のような改訂版が作成・発行されるとは考えていなかった。(以上につき,甲12,21,乙5,審尋の全趣旨)(6) 本件著作物と本件雑誌との対比等ア判例の選択について本件著作物に収録されていた判例113件のうち97件は同一事件の判例が本件雑誌にも収録されることとなっている(この97件のうち,94件は審級も含めて同一判例がそのまま収録されることとなっており,その余の3件については,平成21年10月以降に最高裁判決が出された事件であり,知財高裁判決から最高裁判決に審級を変更して収録されることとなっている。)。そして,本件雑誌において は,本件著作物には収録されていなかった19件の判例が新たに加えられ,合計116件の判例が収録されることとなっている。この19件のうち,平成17年7月14日言渡しの最高裁判決,平成20年9月24日言渡しの那覇地裁判決及び平成21年3月26日言渡しの大阪地裁判決を除いた16件は,全て本件著作物が刊行された同年12月20日より後に言い渡された判決である。(甲1の3,1の5,4,審尋の全趣旨)イ執筆者の選定及び判例と執筆者の組み合わせについて本件著作物において判例の解説を執筆した執筆者113名(ただし共同執筆者は併せて1名と数える。以下同じ。)のうち93名が本件雑誌においても執筆者となっている。残り20名のうち,10名は,前記(2)イの原則的な上限年齢である65歳に達しており,他の6名は,前記アのとおり収録されなくなった判例の解説執筆者であった者である。 さらに,本件著作物と本件雑誌とでは,判例と執筆者の組み合わせが83件について一致している。なお,第3版と本件著作物とでは,判例と執筆者の組み合わせが一致しているものは1件もない。(甲1の3,1の5,2の3,4,審尋の全 件雑誌とでは,判例と執筆者の組み合わせが83件について一致している。なお,第3版と本件著作物とでは,判例と執筆者の組み合わせが一致しているものは1件もない。(甲1の3,1の5,2の3,4,審尋の全趣旨)ウ判例の収載順序と項目立てについて判例の収載順序については,別紙「著作権判例百選判例変遷表」のとおり,①本件著作物の項目2,3,5,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,40の配列は,本件雑誌の項目2,3,4,5,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,33,34,35,36,37,38,40の配列において,②本件著作物の項目50,51,52,53の配列は,本件雑誌の項目56,57,58,59の配列において,③本件著作物の項目58,59,60,62,63, 64,65,66,67,68,69,70,72,73,74,75,76,77,78,79の配列は,本件雑誌の項目71,72,73,75,76,77,78,79,80,81,82,83,85,86,87,88,89,90,91,92の配列において,④本件著作物の項目80,81,82,84,85,86,88の配列は,本件雑誌の項目41,42,43,45,46,47,49の配列において,⑤本件著作物の項目92,93の配列は,本件雑誌の項目100,101の配列において,⑥本件著作物の項目94,95,96,98,100の配列は,本件雑誌の項目93,94,95,97,99の配列において,⑦本件著作物の項目102,103,104,105,10 ,101の配列において,⑥本件著作物の項目94,95,96,98,100の配列は,本件雑誌の項目93,94,95,97,99の配列において,⑦本件著作物の項目102,103,104,105,106,108の配列は,本件雑誌の項目103,105,106,107,108,110の配列において,⑧本件著作物の項目110,111,112,113の配列は,本件雑誌の項目111,115,116,117の配列において,それぞれ再現されている(①は35件,②は4件,③は20件,④は7件,⑤は2件,⑥は5件,⑦は6件,⑧は4件,合計83件)。 本件著作物及び本件雑誌における分類項目の立て方は,別紙「項目対比表」のとおりである。すなわち,本件著作物の項目立てと本件雑誌の項目立てとは,大項目については,①「著作物」,②「著作権の主体」,③「著作権の内容」,④「著作権の制限」,⑤「権利の取引」,⑥「保護期間」,⑦「侵害と救済」,⑧「国際関係」という項目名及びその順序において共通し,①「著作者人格権」の位置,②「パブリシティ権」という項目の有無及び③「一般不法行為」という項目の有無において相違している。また,小項目については,①大項目「著作物」の中における「総論」,「著作物の例示」,「応用美術等」,「編集著作物・データベース」,「二次的著作物」という項目名及びその順序,②大項目「著作権の主体」の中における「著作者」,「職務著作」,「映画の著作物」という項目名及びその順序,③大項目「権利の取引」の中における「権利譲渡」,「利用許諾」,「共有著作権の行使等」という項目名及びその順序,④大項目「侵害と救済」の中における「損害賠償」,「刑事罰」という項 目名及びその順序において共通し,①大項目「著作権の内容」の中における項目立て(本件著作物では「総論」, 及びその順序,④大項目「侵害と救済」の中における「損害賠償」,「刑事罰」という項 目名及びその順序において共通し,①大項目「著作権の内容」の中における項目立て(本件著作物では「総論」,「各論」とされていたのに対し,本件雑誌では「依拠性」,「類似性」,「支分権」,「みなし侵害」とされている。),②大項目「侵害と救済」の中における上記④以外の項目立て(本件著作物では「差止め等」とされていたのに対し,本件雑誌では「侵害主体」,「差止め」とされ,更に「名誉回復等措置」という項目が加わっている。),③大項目「著作物」の中における「著作物性のない情報の保護」という項目の有無において相違している。(以上につき,甲1の2,1の3,1の5,4,審尋の全趣旨)エ本件雑誌の作成方法等について本件雑誌は,本件著作物の改訂版として作成が進められた。 債務者は,平成27年4月10日頃,本件雑誌における解説の執筆を依頼した執筆者で本件著作物において同一の判例の解説を担当していた者に対し,同解説のPDFファイル及びテキストファイルを送信し,PDFファイルを印刷して朱字を入れる方法やテキストファイルを修正する方法で本件雑誌の原稿を作成してもらえれば幸いである旨告げた。(甲13,乙3,審尋の全趣旨) 2 被保全権利について(1) 著作者性(争点1)についてア本件著作物が創作性を有する編集著作物であることは当事者間に争いがないが,この著作物について,債権者は,自らとA教授,B教授及びC教授の4名を著作者とする共同著作物である旨主張し,債務者は,B教授及びD教授の2名を著作者とする共同著作物である旨主張しており,債権者が著作者の一人であるか否かが争点となっているため,以下,この点について検討する。 イまず,前記1(3)で認定したと ,B教授及びD教授の2名を著作者とする共同著作物である旨主張しており,債権者が著作者の一人であるか否かが争点となっているため,以下,この点について検討する。 イまず,前記1(3)で認定したとおり,本件著作物では,①表紙において,「A・X・B・C編」と表示され,②はしがきにおいて,これら4名が,「この間の立法や,著作権をめぐる技術の推移等を考慮し,第4版では新たな構成を採用し,かつ収録判例を大幅に入れ替え,113件を厳選し,時代の要求に合致したものに衣替えを した」主体として表示されている。上記①のような,氏名に「編」を付する表示(編者の表示)は,その者が編集著作物の著作者であることを示す通常の方法であるとみられる(この点は,氏名に「著」を付する表示すなわち著者の表示が言語の著作物の著作者を示す通常の方法であるのと同様と解される。)ところ,本件著作物における上記②の表示をも併せ考慮すると,本件著作物には,その公衆への提供の際に,債権者を含む上記4名が編集著作者名として通常の方法により表示されているものであることは明らかというべきである。したがって,著作権法14条により,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者(編集著作者)と推定される。 なお,債務者は,前記1(3),(4)のとおり,これまで債権者を本件著作物の「編者」として扱ってきたものであるが,「編」と表示されている者(「編」者)が著作権法上の編集著作者とは異なる場合も少なくないなどと主張する。しかしながら,そのような場合も存するとしても,だからといって,編者の表示が上記のとおり編集著作者名を示す通常の方法であることを直ちに否定することはできず,これを否定するに足りるほどの社会的事実を示す的確な疎明資料はない。 ウそこで,上記イの判断を前提に,本件において,債 とおり編集著作者名を示す通常の方法であることを直ちに否定することはできず,これを否定するに足りるほどの社会的事実を示す的確な疎明資料はない。 ウそこで,上記イの判断を前提に,本件において,債権者が本件著作物の編集著作者であるとの推定を覆す事情が疎明されているか否かについて検討する。 前記1(4)で認定した事実によると,①債権者は,執筆者について,特定の実務家1名を削除するとともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案してその旨の意見を述べ,これがそのまま採用されて,本件著作物に具現されていること,②本件著作物については,当初から債権者ら4名を編者として『判例百選[第4版]』を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ,編集協力者として関わったD教授の原案作成作業も,編者の納得を得られるものとするように行われ,本件原案については,債権者による修正があり得るという前提でその意見が聴取,確認されたこと,③このような経緯の下で,債権者は,編者としての立場に基づき,本件原案やその修正案の内容について検討した上,最終的に,本件編者会合に出席し,他の編者と共に,判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当 てを項目立ても含めて決定,確定する行為をし,その後の修正についても,メールで具体的な意見を述べ,編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定,再確定していくやりとりに参画したことを指摘することができる。そして,執筆者の執筆する解説は,本件著作物の素材をなしているところ,その執筆者の選定については,とりわけ実務家を含めると選択の幅が小さくないこと,債権者が推挙した当該3名の人選がありふれているなどともいえないことに照らせば,債権者による上記①の素材の選択には創作性があるというべきである。その上,上記③の確定行 めると選択の幅が小さくないこと,債権者が推挙した当該3名の人選がありふれているなどともいえないことに照らせば,債権者による上記①の素材の選択には創作性があるというべきである。その上,上記③の確定行為の対象となった判例,執筆者及び両者の組み合わせの選択並びにこれらの配列には,もとより創作性のあるものが多く含まれているところ,債権者が編者としての確定行為によりこれに関与したとみられるのである。そうすると,上記①ないし③を総合しただけでも(その余の債権者主張事実の有無について認定・判断するまでもなく),他の共同著作者の範囲はともかくとして,債権者が本件著作物の編集著作者の一人であるとの評価を導き得るところ,本件において,前記イの推定を覆す事情が疎明されているということはできない。 したがって,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者の一人であるというべきである。 (2) 翻案該当性ないし直接感得性(争点2)についてア前記1(5),(6)で認定した事実によると,①判例の選択については,本件著作物の収録判例と本件雑誌の収録判例とで97件が一致しており(そのうち94件は審級も含めて全く同一であり,3件は審級のみ異なり対象事件が同一である。),割合的には,本件著作物の収録判例113件のうち約86%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌の収録判例116件のうち約84%を占めていること,②執筆者(執筆者の執筆する解説)の選択については,本件著作物における執筆者と本件雑誌における執筆者とで93名が一致しており,割合的には,本件著作物の執筆者113名のうち約82%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌の執筆者117名のうち約79%を占めていること,③判例と執筆 者(執筆者の執筆する解説)の組み合わせの選択に 筆者113名のうち約82%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌の執筆者117名のうち約79%を占めていること,③判例と執筆 者(執筆者の執筆する解説)の組み合わせの選択については,本件著作物における組み合わせと本件雑誌における組み合わせとで83件が一致しており,割合的には,本件著作物における判例と執筆者の組み合わせ113件のうち約73%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌における判例と執筆者の組み合わせ117件のうち約71%を占めていること,④判例及びその解説(以下,併せて「判例等」という。)の配列については,本件著作物の判例等と本件雑誌の判例等とで合計83件の配列(順序)が一致しており,割合的には,本件著作物の判例等113件のうち約73%の判例等の配列(順序)が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌の判例等117件のうち約71%を占めていること,⑤判例等の配列を位置付ける項目立てについても,本件著作物の大項目及び小項目の立て方と本件雑誌の大項目及び小項目の立て方とでその大半が一致していることを指摘することができる。そうすると,本件著作物と本件雑誌とで判例等の選択及び配列が全体として類似していることは明らかであって,本件著作物の判例等の選択・配列の大部分が本件雑誌にも維持されていることが確認できるとともに,本件雑誌の判例等の選択・配列を見たときに本件著作物のそれに由来する上記各一致部分の全部又は一部を優に感得することができる。 そして,本件著作物及び本件雑誌に掲載される判例と執筆者の執筆する解説が編集著作物たる本件著作物及び本件雑誌の素材であるところ,その表現(素材の選択又は配列)の選択の幅(個性を発揮する余地)を考えると,『判例百選』の性格上,判例の選択や判例等の配列に係る選択 る解説が編集著作物たる本件著作物及び本件雑誌の素材であるところ,その表現(素材の選択又は配列)の選択の幅(個性を発揮する余地)を考えると,『判例百選』の性格上,判例の選択や判例等の配列に係る選択の幅はある程度限られるものの,執筆者の選択すなわち誰が執筆する解説を載せるかという選択の幅は決して小さくない上,どの判例の解説の執筆者として誰を選ぶかに係る選択の幅は極めて広いというべきである。そうすると,上記①ないし⑤で指摘した,本件著作物と本件雑誌とで表現(素材の選択又は配列)上共通する部分には,創作性を有する表現部分が相当程度あるものということができる(なお,編集著作物における素材の選択及び配列に係る上記各一致部分の組み合わせ全体に創作性を認めることもできると考えられる。)。 以上の事情を総合すれば,本件著作物と本件雑誌とで創作的表現が共通し同一性がある部分が相当程度認められる一方,本件雑誌が,新たに付加された創作的な表現部分により,本件著作物とは別個独立の著作物になっているとはいい難い。 このように検討したところによると,本件雑誌の表現からは,本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。 イそして,前記1で認定したとおり,本件雑誌が本件著作物の改訂版として作成されているものであることなどに照らすと,編集著作物たる本件雑誌が本件著作物に依拠して編集されたことは明らかである。 ウ以上によれば,編集著作物たる本件雑誌を創作する行為は,本件著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想を創作的に表現することにより,これに接する者が本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為,すなわち つつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想を創作的に表現することにより,これに接する者が本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為,すなわち本件著作物の翻案に該当し,本件雑誌は本件著作物を原著作物とする二次的著作物に該当する。 また,他人の著作物を素材として利用しても,その表現上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は,原著作物の同一性保持権を侵害しないと解すべきであるが(最高裁平成6年(オ)第1028号同10年7月17日第二小法廷判決・判時1651号56頁等参照),本件雑誌における本件著作物の利用は,このような同一性保持権侵害の要件をも満たすということができる。 (3) 本件著作物を本件原案の二次的著作物とする主張の当否(争点3)について債務者は,本件著作物は本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとした上で,二次的著作物の著作権者が権利を主張できるのは新たに付加された創作的部分に限られるところ,本件著作物において本件原案に新たに付加された創作的表現が本件雑誌において再製されているとは認められない旨主張する。 しかしながら,前記1で認定した事実に前記(2)で説示したところを総合すると,本件原案は,最終的な編集著作物たる雑誌『著作権判例百選[第4版]』の完成 に向けた一連の編集過程の途中段階において準備的に作成された一覧表の一つであり,まさしく原案にすぎないものであって,その後編者により修正,確定等がされることを当然に予定していたものであったことは明らかであり,実際,本件原案作成後,その予定どおり,債権者を含む編者によりその修正等がされ,最終的に編集著作物の素材の選択・配列が確定されて本件著作物として完成されるに至ったものである。そう とは明らかであり,実際,本件原案作成後,その予定どおり,債権者を含む編者によりその修正等がされ,最終的に編集著作物の素材の選択・配列が確定されて本件著作物として完成されるに至ったものである。そうすると,本件においては,その完成の段階で,債権者を共同著作者の一人に含む共同著作物が成立したとみるのが相当である一方,途中の段階で本件原案が独立の編集著作物として成立したとみた上で本件著作物について本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとすることは相当ではない。 したがって,債務者の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。 (4) 黙示の許諾ないし同意の有無(争点4)について債務者は,『判例百選』が改版と編者の変動を所与の前提とする性質の出版物であることを根拠として,債権者が,編者への就任の際,債務者に対し,本件雑誌のような改訂版の出版に関して,黙示的に,本件著作物の利用を許諾し,著作者人格権を行使しない旨同意したものと主張する。 しかしながら(債務者が,その主張に係る債権者の黙示的な許諾ないし同意につき,他の共同著作者との合意(著作権法65条2項,64条1項)に基づくものである旨主張しているのか否かは,必ずしも明確でないが,この点はひとまず措くとして),前記1で認定した事実によると,『著作権判例百選』においては,事実上の慣行として,編者の年齢については原則おおむね70歳までとする方針が採られてきたところ,債権者は,これを前提に,自らが70歳という年齢に達するにはまだ相当の年月があるにもかかわらず,意に反して『著作権判例百選』の編者から除外され本件雑誌のような改訂版が作成・発行されるとは考えていなかったというのである。そうすると,『判例百選』が債務者の上記主張のとおりの性質を有するからといって,債権者がその改訂版の出 の編者から除外され本件雑誌のような改訂版が作成・発行されるとは考えていなかったというのである。そうすると,『判例百選』が債務者の上記主張のとおりの性質を有するからといって,債権者がその改訂版の出版に対する許諾ないし同意をしたと推認する ことは困難である。そして,本件においては,債務者は,債権者から,そうした許諾ないし同意に関する合意書面を何ら徴していないことがうかがわれるところ,他に,債権者の上記許諾ないし同意の事実を示す的確な疎明資料は見当たらない。 したがって,本件において,債権者が債務者の主張するような黙示的な許諾ないし同意をしたとは一応にせよ認めることができない。 (5) 著作権法64条2項,65条3項に基づく主張の当否(争点5)について債務者は,仮に前記(4)で債権者の許諾等が認められなかったとしても,また,仮に前記(1)で債権者が主張するとおり本件著作物の編集著作権者がA教授,債権者,B教授及びC教授の4名であったとしても,①これら4名のうち債権者を除く3名は,本件雑誌の出版に関して,債務者に対し,本件著作物の利用を許諾し,著作者人格権を行使しない旨同意しており,債権者のみが,他の共同著作者との間で本件雑誌の出版の許諾等に関する合意を拒んでいるものとみられるところ,②債権者が他の著作者との間でこのような合意を拒むことについては,正当な理由(著作権法65条3項)がなく,かつ,信義に反する(同法64条2項)ものであり,③このことは,本件差止請求に対する抗弁となる旨主張する。 しかしながら,債務者は,債権者が拒んでいる(成立を妨げている)という合意につき,「本件雑誌の出版の許諾等に関する合意」とするのみで,本件著作物の他の共同著作者が債権者に対して具体的にいかなる内容及び条件の合意を求めているというのか明らかにし 立を妨げている)という合意につき,「本件雑誌の出版の許諾等に関する合意」とするのみで,本件著作物の他の共同著作者が債権者に対して具体的にいかなる内容及び条件の合意を求めているというのか明らかにしていないし,他の共同著作者が債権者に対して合意(意思表示)を求める裁判を提起しているなどの事情があるともうかがわれないところであるから,現時点において,「本件雑誌の出版の許諾等に関する合意」が成立していないことに関して,債権者がその「合意の成立を妨げている」と直ちに認めることは,困難というべきである。 また,著作権法65条2項は「共有著作権は,その共有者全員の合意によらなければ,行使することができない。」と規定しているところ,同条3項は,その「合意」の成立を妨げることができるかについて,「各共有者は,正当な理由がない限 り,同条2項の合意の成立を妨げることができない。」旨定めているにすぎないのであるから,仮に上記「正当な理由」がなかったとしても,直ちに同条2項所定の「合意」の成立が擬制されることになるものではないし,同法64条1項は「共同著作物の著作者人格権は,著作者全員の合意によらなければ,行使することができない。」と規定しているところ,同条2項は,その「合意」の成立を妨げることができるかについて,「共同著作物の各著作者は,信義に反して同条1項の合意の成立を妨げることができない。」旨定めているにすぎないのであるから,仮に上記「信義に反」すると認められたとしても,直ちに同条1項所定の「合意」の成立が擬制されることになるものではない。 そうすると,債権者以外の本件著作物の共同著作者が債務者に許諾等をしたとしても,それは,著作権法64条1項,65条2項所定の「全員の合意」によらないでしたものというほかはないから,有効な許諾等ということ すると,債権者以外の本件著作物の共同著作者が債務者に許諾等をしたとしても,それは,著作権法64条1項,65条2項所定の「全員の合意」によらないでしたものというほかはないから,有効な許諾等ということはできないし,上記合意の成立がされたものと擬制したり有効な許諾等がされたものと同視することもできず,他に,同法64条2項,65条3項の規定に基づく債務者の上記①・②の主張内容のみをもって,債権者の債務者に対する本件差止請求に対する抗弁たり得る(上記③)とする法的根拠は見当たらない。 したがって,債務者の上記主張は,採用することができない。 (6) 小括以上によれば,債務者が本件雑誌を作成してこれを複製又は頒布する行為は,債権者の翻案権(著作権法27条)並びに二次的著作物の利用に関する原著作物の権利(同法28条)を介して有する複製権(同法21条),譲渡権(同法26条の2)及び貸与権(同法26条の3)を侵害するものというべきであり,作成された本件雑誌を債務者が頒布の目的をもって所持し,又は頒布する旨の申出をする行為は,著作権法113条1項2号により著作権を侵害する行為とみなされる。 また,前記1(5)イのとおり,本件雑誌については債権者の氏名を表示せずに出版することが予定されているところ,債務者が本件雑誌を頒布して公衆に提供するに 当たり,編者ないし編集著作者として債権者の氏名を表示しないことは,債権者の氏名表示権(著作権法19条1項後段)を侵害するものである。さらに,既に認定,説示した債権者の意思や本件雑誌による本件著作物の変更の程度等に照らすと,本件雑誌は,債権者の意に反して本件著作物を改変したものといわざるを得ないから,債務者が本件雑誌を作成してこれを複製することは,債権者の同一性保持権(同法20条1項)を侵害するも 程度等に照らすと,本件雑誌は,債権者の意に反して本件著作物を改変したものといわざるを得ないから,債務者が本件雑誌を作成してこれを複製することは,債権者の同一性保持権(同法20条1項)を侵害するものというべきであり,作成された本件雑誌を債務者が頒布し,頒布の目的をもって所持し,又は頒布する旨の申出をする行為は,著作権法113条1項2号により著作者人格権を侵害する行為とみなされる。 そして,前記1(5)で認定した事実によると,債務者は,本件雑誌の複製・頒布等をするおそれがあると一応認められるから,これにより,債権者の上記著作権又は著作者人格権を侵害するおそれがあるというべきである。 したがって,著作権法112条1項,117条1項により,債権者は,債務者に対し,上記著作権又は著作者人格権に基づき,本件雑誌の複製・頒布等の差止めを請求することができると解されるところ,本件申立てに対する仮処分命令の被保全権利としては,著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権の存在を認める。 3 保全の必要性(争点6)について前記1(5)で認定した事実によると,債務者は,間もなく平成27年11月上旬には本件雑誌を発行しようとしているというのである。そして,前記2で説示したとおり,本件雑誌の複製・頒布等により債権者の著作者人格権が侵害される関係にあることからすれば,本件については,民事保全法23条2項所定の「争いがある権利関係について債権者に生ずる急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に該当する(保全の必要性がある)というべきである。 これに対し,債務者は,仮に本件雑誌の出版の事前差止めが認められた場合,債務者の表現の自由という観点のみならず,本件雑誌のために原稿を執筆した100名を超える執筆者の表現の自由という観点からも深刻 これに対し,債務者は,仮に本件雑誌の出版の事前差止めが認められた場合,債務者の表現の自由という観点のみならず,本件雑誌のために原稿を執筆した100名を超える執筆者の表現の自由という観点からも深刻な問題が生じる旨主張し,E の陳述書(乙5)等には,『著作権判例百選』の改訂を待つ学生を中心とした多くの読者への影響に関する懸念も記載されている。しかしながら,我が国の著作権法においては,著作者人格権の侵害又は侵害のおそれがあればその差止めを請求することができるという法制が採られている(同法112条1項)以上,上記の観点から保全の必要性を否定することは困難であるといわざるを得ないし,一件記録に現れた諸事情を総合してみても,上記判断を覆すことはできない。 4 結論以上の次第で,本件申立ては理由があるから,債権者に代わり第三者弁護士前田哲男に債務者のため300万円の担保を立てさせて,主文のとおり決定する。 平成27年10月26日 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官嶋末和秀 裁判官笹本哲朗 裁判官天野研司 (別紙)雑誌目録 雑誌名著作権判例百選[第5版](別冊ジュリスト226号)発行所債務者 (別紙)著作物目録 雑誌名著作権判例百選[第4版](別冊ジュリスト198号)発行所債務者発行年平成21年 (別紙)項目対比表 本件著作物本件雑誌Ⅰ 著作物(1)総論(6判例)(2)著作物の例示(8判例)(3)応用美術等(6判例 21年 (別紙)項目対比表 本件著作物本件雑誌Ⅰ 著作物(1)総論(6判例)(2)著作物の例示(8判例)(3)応用美術等(6判例)(4)編集著作物・データベース(5判例)(5)二次的著作物(2判例)(6)著作物性のない情報の保護(1判例)Ⅱ 著作権の主体(1)著作者(4判例)(2)職務著作(4判例)(3)映画の著作物(4判例) Ⅲ 著作権の内容(1)総論(2判例)(2)各論(14判例) Ⅳ 著作権の制限(12判例)Ⅴ 権利の取引(1)権利譲渡(4判例)(2)利用許諾(2判例)Ⅰ 著作物(1)総論(4判例)(2)著作物の例示(9判例)(3)応用美術等(7判例)(4)編集著作物・データベース(5判例)(5)二次的著作物(2判例) Ⅱ 著作権の主体(1)著作者(4判例)(2)職務著作(5判例)(3)映画の著作物(4判例)Ⅲ 著作者人格権(11判例)Ⅳ 著作権の内容(1)依拠性(1判例)(2)類似性(10判例)(3)支分権(4判例)(4)みなし侵害(1判例)Ⅴ 著作権の制限(14判例)Ⅵ 権利の取引(1)権利譲渡(4判例)(2)利用許諾(2判例) (3)共有著作権の行使等(2判例)Ⅵ 保護期間(3判例)Ⅶ 著作者人格権(9判例)Ⅷ パブリシティ権(3判例)Ⅸ 侵害と救済(1)差止め等(10判例) (2)損害賠償(7判例) (3)みなし侵害(1判例)(4)刑事罰(1判例) Ⅹ 国際関係(3判例)(3)共有著作権の行使等(2判例)Ⅶ 保護期間(3判例) Ⅷ 侵害と救済(1)侵害主体(7判例) )みなし侵害(1判例)(4)刑事罰(1判例) Ⅹ 国際関係(3判例)(3)共有著作権の行使等(2判例)Ⅶ 保護期間(3判例) Ⅷ 侵害と救済(1)侵害主体(7判例)(2)差止め(3判例)(3)損害賠償(6判例)(4)名誉回復等措置(2判例) (5)刑事罰(1判例)Ⅸ 一般不法行為(2判例)Ⅹ 国際関係(3判例)

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