令和6(わ)649 大麻取締法違反

裁判年月日・裁判所
令和6年10月31日 大阪地方裁判所
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判決文本文14,736 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実(令和6年2月28日付け起訴状)の内容本件公訴事実は、「被告人は、みだりに、令和4年8月31日、大阪市a区bc丁目d番e号先路上において、大麻である液体約0.733グラムを所持したものである。」というものである。 第2 当裁判所の判断(なお、月日は特段の記載のない限り、令和4年を指す。) 1 争点等関係証拠によれば、8月31日午後11時29分頃、警察官が公訴事実記載の番地にあるコンビニエンスストア(以下「本件コンビニ」という。)から友人1名と出てきた被告人(当時20歳)に職務質問したこと、この時、被告人が所持していたヴェポライザー(以下「本件ヴェポライザー」という。)に差し込まれたカードリッジ(以下「本件カードリッジ」という。)入り黒色液体約0.733グラム(以下「本件液体」という。)に大麻が含有されていることは容易に認められ、当事者間にも争いがない。 検察官は、職務質問時の被告人の言動を中心に、被告人には、本件液体が大麻を含む違法薬物であるかもしれないといった認識(以下「本件故意」ともいう。)があったと認められる旨主張する。 これに対し、弁護人は、本件液体は合法なCBD(カンナビジオール)だと思っていた旨の被告人の弁解に従い、被告人が本件液体に大麻等の違法成分が入っているかもしれないとの未必的な認識を有していなかったから、被告人には本件故意がなく無罪である旨主張する。 当裁判所は、本件故意を推認、認定するには合理的な疑いが残り、被告人の弁解を排斥できないと判断した。 2 職務質問時の被告人の言動 ⑴ A警察官の証言要旨検察官が依拠する職務質問を行ったA警察官の証言要旨は次のとおりで いが残り、被告人の弁解を排斥できないと判断した。 2 職務質問時の被告人の言動 ⑴ A警察官の証言要旨検察官が依拠する職務質問を行ったA警察官の証言要旨は次のとおりである(以下「A証言」ともいう。)。 ① コンビニから出てきた被告人に声を掛けると、被告人は、一緒にいた友人と異なって、明らかに動揺しているようなそぶりを見せた。「防犯警戒中です。ちょっとよろしいですか。」などと声を掛けると、下を向きながら持っていたリュックサックを気にしている状況であり、落ち着きのない様子だった。所持品検査をしようと思い、被告人を本件コンビニ駐輪場に止まっていた自転車の方まで手招きした。被告人は、「自分のものだ。」と言って、その前籠にリュックサックを入れた。「持ち物の確認いいですか。」などと言って、所持品検査用のビニール袋の中に持ち物を入れるよう言うと、被告人は、財布、酒の瓶等をその袋に入れた。被告人は、全部出し終わったそぶりだったが、右手でズボンの右ポケットを上から触ったりしていたので、ポケットの上から触ってよいかと尋ねたら、被告人は右ポケットの中に手を入れ、後ずさりして、自転車の前を通って回り込み、自分とは自転車を隔てた位置に移動した。自分も自転車の前を通って回り込んで、右手で被告人の左腕を掴んだが、被告人は止まることなく、更に力を入れて、もう一歩大きく歩道側に足を踏み出した。これに対して、自分は、後ろから被告人の右腕と左腕を両腕で掴んだ。すると、被告人は、両腕を左右に振ったり、体を上下にさせて、前屈みになったり、振り払おうとしながら3メートルぐらい移動した。被告人が、ずっと右手をポケットの中に入れながら、更に前屈みになっていたので、「1回座って落ち着け。」などと声掛けすると、被告人は「分かった。」などと言いながら、 としながら3メートルぐらい移動した。被告人が、ずっと右手をポケットの中に入れながら、更に前屈みになっていたので、「1回座って落ち着け。」などと声掛けすると、被告人は「分かった。」などと言いながら、その場にしゃがみ込んだ。「右手をゆっくり出して、中に入ってるものを見せてくれ。」などと言うと、被告人は、「分かった。」と言いながら、右手をポケットの中から抜き出すと、その手は本件カードリッジが付いた 本件ヴェポライザーを握っていた。電子たばこが禁制品である可能性が高いので、被告人に、「預からしてくれるか。これ正直に何か言ってくれるか。」と言うと、被告人は、すぐにこれを自分に渡して、「CBDです。」っていうふうに答えた。 ② 更に詳しい事情を聞くため、「パトカーで話を聞かせて欲しい。」などと言うと、被告人はこれに応じた。パトカー内で、「持っていたリキッドについて、どこで買ったのか、正直に話してくれるか。」などと聞いたところ、被告人は、最初は、「インターネットの楽天でBっていうところで買った。」などと答えたが、「購入履歴とかあるから、ちゃんと言わないとすぐに分かっちゃうよ。ちゃんとほんまに教えてくれる。」などと言うと、被告人は、ちょっと考えて、「実は、メルカリでペン2本という内容で買いました。」などと答えた。これに対し、「メルカリの購入履歴があると思うんで、携帯で見してくれる。」などと言うと、被告人は、少し携帯を触った後、「やっぱりすいません、Twitter(以下「ツイッター」と片仮名で表記する。)でペン1本買いました。」などと答えた。ペンとは大麻の隠語で、大麻リキッドの電子たばこは、そういう隠語で流通していると認識していた。「ツイッターとかで買うんやったら、大麻っていうのは、当初、分かってながら買ったんじゃないの。」などと質問した とは大麻の隠語で、大麻リキッドの電子たばこは、そういう隠語で流通していると認識していた。「ツイッターとかで買うんやったら、大麻っていうのは、当初、分かってながら買ったんじゃないの。」などと質問した。 これに対する被告人の返答は、被告人の言葉で言うと、「ワンチャンあるかもしれへんと思って買いました。」といったものであった。 ⑵ 検察官の主張検察官は、A証言が信用できるとした上で、被告人が職務質問を受け、所持品検査を求められた際、①ほかの所持品については速やかに取り出したにもかかわらず、本件液体が入った本件カードリッジ付きの本件ヴェポライザーについてはズボンの右ポケットに入れたまま取り出さず、右ポケット付近に手を置いたまま突如としてその場から離れようとし、警察官から腕をつか まれて制止を求められても抵抗するなどしたこと(以下「事実①」ともいう。)は、本件故意を強く推認させるとともに、②本件液体の購入先を2度も変遷させた上、警察官から大麻と分かって買ったのではないかと尋ねられた際、「ワンチャンあるかもしれないと思って買った。」などと答えたこと(以下「事実②」ともいう。)からも、被告人が本件故意を有していたことが認められると主張する。 この点、A証言のうち、被告人自身も、被告人質問で、最初から本件液体を提出しなかったこと、その後、その購入先の説明を変遷させた後、被告人がA警察官に「ワンチャンあるかも。」と言ったことは、いずれも認めるところであることに照らせば、検察官が主張する事実①及び事実②についての外形的・客観的経過としての基本的な事実関係自体についての供述部分は信用できる。 もっとも、本件の公訴提起自体、本件当時の令和4年8月末から1年半後といった大麻の単純所持といった事案に照らして相当長期間が経過した後にされており な事実関係自体についての供述部分は信用できる。 もっとも、本件の公訴提起自体、本件当時の令和4年8月末から1年半後といった大麻の単純所持といった事案に照らして相当長期間が経過した後にされており(本件液体に大麻が含まれている旨の鑑定書も令和4年11月7日には作成されている。)、A警察官が上記⑴の証言をしたのは、それから更に後の本件当時から約1年10か月後である。なお、検察官は、A警察官が、職務質問直後に自ら本件の職務質問状況について捜査報告書(検察官が証拠請求し、その後撤回した令和4年9月1日付け捜査報告書(検察官請求番号甲9))を作成し、また、本件の職務質問については警察官の職務質問の研修・教養時に題材として活用しているから、本件当時の記憶が保持されている旨主張するが、A警察官は、残っていると述べるパトカー内の車載カメラの音声を確認した上で、上記捜査報告書を作成したり、今回の証言をしたものでもなく、また、検察官が指摘する研修・教養の活用機会についてもあくまで捜査機関内において実施されているものである。 以上によれば、上記の基本的な事実関係を超える証言部分、特に職務質問 の相手方である被告人の言動に対するA警察官の捉え方の供述部分については、慎重な検討が求められるべきである。 ⑶ 事実①に関する検討以上の観点から、A証言のうち、まず、被告人がパトカーに乗る前の事実①についての証言をみると、A警察官は、被告人が、職務質問開始時には、もう1名の友人とは異なり、明らかに動揺しているようなそぶりを見せ、下を向きながら持っていたリュックサックを気にしている状況であり、落ち着きのない様子だった、所持品検査用の透明のビニール袋の中に財布、酒の瓶等を入れた際、全部出し終わったそぶりだったと述べるが、このような様子を見せたのは突然 ックサックを気にしている状況であり、落ち着きのない様子だった、所持品検査用の透明のビニール袋の中に財布、酒の瓶等を入れた際、全部出し終わったそぶりだったと述べるが、このような様子を見せたのは突然、警察官に声を掛けられたことによるものとも解する余地が残るし、また、荷物を全部出し終わったそぶりについても、そのそぶりの具体的な内容・言動は示されておらず、A警察官が捜査官として抱いた印象の域を超えるものとはいえない。次に、A警察官は、被告人が後ずさりし自転車の反対側に回り込んだり、被告人が右ポケットに手を入れながら、A警察官からの制止を逃れるために3メートル程度移動したとも供述する。しかし、A証言によっても、このような被告人の動作自体、短時間にとどまり、移動距離もごく短いものであり、執拗な隠匿工作や逃亡を図ろうとしたものとまでは言い切れず、突然の職務質問及びそれに続く所持品検査に対して、被告人が反射的に防御的な姿勢を取ろうとした上の行動といえなくもない。 この点、被告人は、被告人質問で、要旨、「友人とネットカフェに行く前に寄った本件コンビニでお酒とかを買って出たところ、制服を着た警察官が小走り気味で、『ちょっとごめんね。職務質問いいかな。』といきなりぱーって駆け寄って来られた。所持品の提出を求められた当初は、本件液体の存在を認識しておらず、ズボンのポケットから他の所持品を取り出し提出したが、ズボンの中にまだ何かが残っている感じがして、それが本件液体であることに気付いたが、本件液体がCBDであっても、警察官に提出すればしばらく 返ってこなくなるのは嫌だった。」と述べるところ、本件カードリッジ付き本件ヴェポライザーを撮影した捜査復命書(甲8)から見受けられるこれらの大きさ(幅が3~4㎝程度で、高さも本件カードリッジ部分を併せても7㎝程 るのは嫌だった。」と述べるところ、本件カードリッジ付き本件ヴェポライザーを撮影した捜査復命書(甲8)から見受けられるこれらの大きさ(幅が3~4㎝程度で、高さも本件カードリッジ部分を併せても7㎝程度である。)・形状も併せれば、このような職務質問時についての被告人の公判供述の内容が、立て続けに職務質問・所持品検査を求められた被告人の咄嗟の心境・行動として、不自然・不合理なものとまではいえない。 しかも、被告人は、A警察官の声掛けに応じ、自らA警察官に本件カードリッジ付き本件ヴェポライザーを示して、これを手渡したところ、職務質問開始からこれをA警察官に示すまでの時間は僅か2分程度(甲1)であり、被告人自身、これが何かというA警察官からの問いに、CBDである旨即答している。 そうすると、検察官が指摘する事実①についての事実関係が、間接事実として、本件液体が合法とされるCBDではなく大麻等の違法薬物であるかもしれないと思っていたという本件故意の存在を推認させる力(推認力)自体、ないか、あるとしても限定的なものといわざるを得ない。 ⑷ 事実②に関する検討ア次に、被告人がパトカーに乗った後の事実②について検討する。この点、被告人も、被告人質問で、要旨、「大麻と分かってたんじゃないかと聞かれた際、「『ワンチャンあるかも。』と言ってしまった。」と供述するとおり、被告人が、「ワンチャンあるかも。」といった言葉自体を発したことは認められる。 更に、A警察官は、被告人の言葉としては、「ワンチャンあるかもしれへんと思って買いました。」といったものであるという。しかし、A警察官は、同時に、「ワンチャンあるかもっていうような言葉を使っていた。」、「『ワンチャンあるかも。』は、最近の若者言葉なので、ワンチャンっていう言葉は、もしかしたらとか、チャン という。しかし、A警察官は、同時に、「ワンチャンあるかもっていうような言葉を使っていた。」、「『ワンチャンあるかも。』は、最近の若者言葉なので、ワンチャンっていう言葉は、もしかしたらとか、チャンスがあればっていうような意味合 いなので、大麻っていうのを分かっていながら買ったんじゃないかというふうな答えだった。」とも供述する。このように、A証言は、「ワンチャンあるかも。」といった言葉自体として、どのような内容が被告人から正確に発せられたかについては、自らの解釈(受け止め方)を交えた曖昧なものである。A証言からは、「ワンチャンあるかも。」と言った言葉とともに、そのような認識で「買った。」とまで被告人が、その述語も併せて積極的・明示的に述べたものと断定することまではできない。また、パトカー内の車載カメラの音声も証拠として提出されていない。 そうすると、被告人が「ワンチャンあるかも。」といった言葉を用いた(発した)こと自体は認められるものの、この言葉が本件故意との関係で持つ意味合いについては、その言葉自体の持つ意味内容のみならず、その言葉が被告人から出た時間的・場所的な状況やそれまでの経緯も含めて検討する必要がある。 イまず、「ワンチャンあるかも。」という言葉自体、「もしかしたら。」といった心境を表すものとして、近時、若者を中心にして用いられているものといえるところ、A警察官もそのような意味内容で被告人からのこの言葉を受け止めており、また、被告人も、自らのこの言葉にはそのような意味内容があったことを認めている。そして、この言葉は、被告人が購入先(購入方法)についての説明を変遷させた後に出たものでもあることに照らすと、A警察官として、被告人の「ワンチャンあるかも」といった言葉を「ワンチャンあるかも。」と思って「購入した。」 被告人が購入先(購入方法)についての説明を変遷させた後に出たものでもあることに照らすと、A警察官として、被告人の「ワンチャンあるかも」といった言葉を「ワンチャンあるかも。」と思って「購入した。」という意味合いで受け止めたのは、両者間のやり取りの中で自然な流れともいえる。 しかし、被告人が「ワンチャンあるかも。」といった言葉自体を発したのは、A証言によっても1回のみである。そして、その言葉は、先ほど述べたとおり、「もしかしたら。」といった心境を表すものとして、近時、若者を中心にして用いられているが、その言葉自体、「もしかしたら」と いう可能性の程度(高さ低さ)については、話す相手や事柄、話の流れなどといったシチュエーションによって変わりうるもので、色々な用い方・捉え方があることを否定し得ないものといえるし、印象的(キャッチ―)・感覚的な側面を有することも否定できない。 そして、A警察官は被告人のプライバシーも考えたというが、このような言葉自体が被告人から出たのは、被告人が本件カードリッジ付き本件ヴェポライザーをA警察官に手渡した本件コンビニ駐車場といった公衆の場ではなく、A警察官のみならず他の警察官もいる深夜のパトカー内であった。そして、A証言によれば、A警察官が、パトカー内に入った被告人に対して、具体的な購入先を尋ねるより前に、最初から、「これは大麻リキッドじゃないのか。」などと言って、最初から違法の大麻を所持しているのではないかといった嫌疑を被告人に投げかけた上(この点、A警察官自身、被告人からCBDだと聞かされた際、「うそをついているなと思った。」と供述している。)、被告人が回答する購入先について、順次、「購入履歴とかあるから、ちゃんと言わないとすぐに分かっちゃうよ。」、「メルカリの購入履歴があると思うんで、携 そをついているなと思った。」と供述している。)、被告人が回答する購入先について、順次、「購入履歴とかあるから、ちゃんと言わないとすぐに分かっちゃうよ。」、「メルカリの購入履歴があると思うんで、携帯で見してくれる。」などと言って、被告人の説明に納得しないだけでなく、逆に、被告人の方で被告人の説明の裏付け資料をこの場で示すことまでも求めた結果、被告人がツイッターによる購入である旨回答するに至った段階で、「ツイッターとかで買うんやったら、大麻っていうのは、当初、分かってながら買ったんじゃないの。」と質問したところ、被告人から「ワンチャンあるかも。」といった回答があったにすぎない。 ウまた、被告人から、「ワンチャンあるかも。」といった言葉が最終的に出てきたのは、購入先(購入方法)がツイッターであるという被告人の回答に対してA警察官が更に質問したことによるのだから、このツイッターによる購入方法がどのようなものであったかという点が、「ワンチャンあ るかも。」の言葉が出て来る契機やその言葉の真意がどのようなものであるかを検討するに当たっては重要であるといえる。しかるに、A警察官は、職務質問開始からその言葉が出て来るより前の段階での二人の動静及びやり取りについては詳細に供述するところ、その中には、被告人から、3年間のカナダでの留学中には大麻を吸ったことがあることや本件リキッドを吸った際には、ハイになるのではなく、きりっとする感じだったと聞かされたことも供述する一方で、このツイッターによる購入方法の点についての供述部分は、「ツイッターで、そうですね。どういうふうに買ったとか、そこまでは、ちょっと今は思い出せないです。」などと曖昧な供述にとどまっている。 そして、A証言の「大麻っていうのは、当初、分かってながら買ったんじゃないの。 すね。どういうふうに買ったとか、そこまでは、ちょっと今は思い出せないです。」などと曖昧な供述にとどまっている。 そして、A証言の「大麻っていうのは、当初、分かってながら買ったんじゃないの。」といった質問内容についても次のとおりいえる。すなわち、被告人は、パトカーに乗る前から本件液体がCBDであるとA警察官に回答していた。そうであれば、本件の職務質問・所持品検査の際に重要なのは、被告人に、単に「大麻」かもしれないとの認識を有していたという嫌疑があるかどうかではなく、違法な大麻成分が含まれているかもしれないとの認識を有していたという嫌疑があるかどうかである。 この点、A警察官も、要旨、「①CBDは、大麻でいうとTH成分を含まず、違法となるTHCとかの成分は入っていないものの、大麻成分を抽出した合法のたばこと認識していた。②大麻リキッドには、TH成分のあるものと、合法であるCBDがある。③そのCBDが大麻に由来する成分、例えば、葉っぱとか茎という、花のTH成分がないものが合法で出回り、それは、厚生労働省の認可を受け、通常インターネットとか正規の店舗で販売されているという認識は持っている。④CBDには、大麻由来のTHC以外の成分が入っている。」などと供述する。 しかし、このように違法なTHC成分(テトラヒドロカンナビノール) を含む大麻成分と合法とされる大麻由来の成分であるCBDの区別があるというA警察官は、弁護人からの、「大麻と分かって買ったというと、『違法な』という言葉は入れないんですか。」といった反対尋問に対して、本件の被告人に対する職務質問の際には、「大麻っていう言葉で十分違法性は伝わるんじゃないでしょうか。」と返答した。そして、A警察官は、「ワンチャンあるかも。」といった被告人の言葉について、「ワンチャン、 の被告人に対する職務質問の際には、「大麻っていう言葉で十分違法性は伝わるんじゃないでしょうか。」と返答した。そして、A警察官は、「ワンチャンあるかも。」といった被告人の言葉について、「ワンチャン、イコールもしかしたら、大麻の違法な成分、これはあるん違うかなっていうのは、被告人から、そういう意味合いで言ってもらったので、本当は大麻、THC成分を吸いたくて、この子は買ったんだなというふうに、認識、確信した。」と述べるに至っている。その上で、被告人に対する職務質問・所持品検査の中で、被告人にTHC成分といった言葉自体を使って質問したかについては、「もちろん、パトカーの中で、もしかしたら私が説明するのにTH成分っていうのは、よく使う言葉なので言ったかもしれないですね。」、「私自身、大麻の指導するときは、必ずTH成分っていうのは口に出して言うことなので、これを言わない、必ず言わなかったって言われると、もしかしたら、この被告人との会話の中でも、これTHって分かって買ってたん違うかとか、そういった言葉は発していたかもしれない。」といった曖昧・不明確なものである。更に、A証言によれば、A警察官自身が当公判廷で証言するに当たって記憶を喚起するのに用いたという前記捜査報告書(検察官請求証拠番号甲9)にも、TH・THC成分という言葉を用いた旨の記載はないというものである。 エ以上によれば、被告人がパトカーに乗ってから「ワンチャンあるかも。」といった言葉が出るまでの被告人にとっての体感時間は15分程度であること(なお、パトカーで警察署へ出発したのは9月1日午前0時02分である。)を考慮しても、その言葉は、被告人から自主的に出たものではなく、深夜の複数の警察官がいるパトカー内といった密室的な環境下で、A 警察官から購入先について、最初から嫌疑 0時02分である。)を考慮しても、その言葉は、被告人から自主的に出たものではなく、深夜の複数の警察官がいるパトカー内といった密室的な環境下で、A 警察官から購入先について、最初から嫌疑を明確に伝えられ、被告人の方でその場で携帯電話を見せて根拠を示すことも求められるような、執拗とも言い得る追及を矢継ぎ早に受け、反射的に1回だけ、このような、「もしかしたら」といった可能性の程度(高低)については色々な捉え方がある印象的(キャッチ―)・感覚的ともいえる言葉が引き出されたものにすぎない。そして、その言葉が出てくる直前の直接的なきっかけとなった被告人が述べたツイッターの購入方法に対しては、A警察官から、更に購入の時期・場所・相手方といった具体的な質問がされたのか、されたのであればどのような質問があり、どのような回答があったのかは明らかでない。 また、予め本件液体がCBDであると述べている被告人に対して、本件で被告人の認識についての嫌疑を検討するについて重要と思われる、THC成分を含むものだと認識していたかどうかといった合法・違法の根拠となる事項について具体的に被告人に示した上で、被告人からその言葉が出てきたものとはいえない。加えて、本件コンビニ駐輪場からパトカー内での一連の場面において、被告人からは、「ワンチャンあるかも。」の言葉以上に、「もしかしたら。」といった認識について、その意味するところの可能性の程度や、そのような認識を抱いたというのであれば、その時期、場所、きっかけなどといった事情がどのようなものかについての説明があったか、あったのであればどのような内容だったかも明らかではない。 オこれに対して、被告人は、被告人質問で、「本件液体を買った際や使った際には、これが違法なものかという不安がよぎったことはない。」と述べた上 たのであればどのような内容だったかも明らかではない。 オこれに対して、被告人は、被告人質問で、「本件液体を買った際や使った際には、これが違法なものかという不安がよぎったことはない。」と述べた上で、「ワンチャンあるかも。」と言った際の状況について、「ワンチャンあるかもって言ってしまった。」、「もしかしたらという意味で使ったと思うが、気が動転しててっていうのもあって、思ってもないことを言った。その圧も結構すごかったというのもあると思うが、僕もそこでちゃんと説明できればよかったなっていうのは思う。圧が強かったというの は、警察官からの『そうやろうみたいな、これは思ってたんちゃうんみたいな。思ってたやろう。』と言われたら、何か『はい』って言った方が早いんかなっと多分思った。」などと述べるところ、このような被告人の説明内容が、これまで検討した上記の「ワンチャンあるかも。」といった言葉が被告人から出てきた時間的・場所的な状況やそれまでの経緯に照らして、不自然・不合理なものとはいえず、むしろ、整合的とも評価できる。 そうすると、事実②についての事実関係が、被告人自身が違法な大麻成分が含まれている可能性を認識していたことを表出させた言動であるとして、本件故意の存在を推認させる力(推認力)は弱いといわざるを得ない(なお、A警察官は、「やっぱりすいません、ツイッターでペン1本買いました。」といった被告人の回答について、ペンは大麻の隠語であるという。しかし、ペン自体、注射器やリキッドを表す隠語とも捉えることができるのであり、大麻等の違法薬物の成分のみを指すものとはいえないから、「ペン」という回答自体が直ちに本件故意を推認させるものとまでいえない。)。 ⑸ 小括以上のとおり、本件故意の存在に対する推認力は、事実①に 物の成分のみを指すものとはいえないから、「ペン」という回答自体が直ちに本件故意を推認させるものとまでいえない。)。 ⑸ 小括以上のとおり、本件故意の存在に対する推認力は、事実①についてはないか、あっても限定的であるし、事実②についても弱いものである。そうすると、このような事実①及び事実②を総合的に考慮しても、本件故意の存在に対する推認力は弱いものにとどまり、強いものとはいえない(なお、事実①に関して、A警察官は、「被告人と一緒にいた友人が、被告人がパトカーに乗る前、「乗ったらあかんで。」と声を掛けた。」とも供述するが、関係証拠によっても、同友人の素性自体、明らかではなく、また、同友人が本件液体の入手や保管について何らかの関与をしていたり、本件液体の情報を得ていたといった事情は窺えないから、この点が本件故意の推認力を押し上げるものとはいえない。)。 ⑹ 警察官調書の内容本件では、前述の職務質問・所持品検査について、被告人の警察官調書(令和4年9月1日付け。乙4)が作成されており、それには、「パトカー内で『CBDやと思うけどワンチャンあるかも。』と言った。」という供述以外にも、㋐「ポケットの中のものも出すように言われたときに、『右ポケットに入っているCBDリキッドがもしかしたら大麻の成分が入っている。これが警察官にバレたら、逮捕されるかもしれない。』と考えて、警察官から逃げようと思ったが、すぐにバレて逃げることはできなかった。」などと述べる箇所がある。これに対して、被告人は、被告人質問では、逃げようとしたことはなく、取調べで、㋐のようなことを口にしたこともない旨述べているところ、同供述調書内の㋐の供述については、ポケット内にある所持品の提出も求められた段階でそのような気持ちがどのようにして生じたかとい はなく、取調べで、㋐のようなことを口にしたこともない旨述べているところ、同供述調書内の㋐の供述については、ポケット内にある所持品の提出も求められた段階でそのような気持ちがどのようにして生じたかといった根拠については同供述調書内で何ら具体的に語られておらず、㋐の供述が出るに至った経過(やり取り)や根拠は示されていない。むしろ、㋐の供述自体も、被告人としては、所持していたものは、あくまで「CBDリキッド」であるとして述べている。 また、同供述調書には、㋑「公式サイトで買っていなくて、ツイッターで知り合った知らない男から買っているので、もしかすると大麻の成分が入っているかも知れないのです。」といった供述部分もある。しかし、同供述調書全体を見ても、そのような大麻成分が入っているかもしれないといった認識が、いつの時点で生じていたものを指しているのかは判然とせず、被告人がこの点を明確に区別しないまま、捜査官の指摘する点はそうかもしれないと思い、特段反論・説明せずにいたところ、捜査機関側に、入手時点あるいは入手後にそのような認識を有しており、本件の職務質問を受ける時点では既に本件故意を有しているかのよう捉えられ、上記㋐、㋑の内容の供述調書が作成された可能性は否定できない。 このような同供述調書の内容を見れば、同供述調書が、検察官が主張する事実①及び事実②といった一連の間接事実の本件故意に対する推認力をそう補強するものとはいえないし、ましてや、同供述調書内の供述に、本件故意を直接認める内容の自白調書としての信用性を認めることもできない。 3 購入先(購入方法)等についての被告人の供述について⑴ 検察官は、被告人が公判で述べる本件液体の購入状況(かつて知人から教えてもらったアカウントの相手のツイッターにアクセスし、その後、テレグ 3 購入先(購入方法)等についての被告人の供述について⑴ 検察官は、被告人が公判で述べる本件液体の購入状況(かつて知人から教えてもらったアカウントの相手のツイッターにアクセスし、その後、テレグラムで連絡を取り合った上で大阪市f区内の公園内で、現金と引き換えにチャック付きビニール袋入りの液体カードリッジ2本(本件液体を含む。)を購入した。)等からも、被告人が本件液体が大麻を含む違法薬物であるかもしれないことを十分認識していた旨主張する。 ⑵ この点についての被告人の公判供述は次のとおりである。ⓐ15歳から18歳までカナダに留学していた際、タイ人の友人と電子たばこを吸った際に、突然、同友人から、今吸ったのは実は大麻だと言われたことがあった。ⓑ帰国後、スケボー仲間から、『CBDの結構効果があるやつがある。』と言われ、ツイッターのアカウントを教えてもらったことがあるが、その後、楽天ショッピングでCBDを約7000円で買って使っていたが、効能を感じづらくなったり、フレーバー(味)にも少し飽きた。ⓒそこで、ツイッターで上記アカウントに連絡した。ツイッターには高濃度のCBDというハッシュタグが付いていて、2本注文したら、1万4000円だった。上記連絡先の指示に従いダウンロードしたテレグラムを通じて連絡を取り、gのC裏にあるマンション併設の公園みたいな所で、男に1万4000円を支払い、透明なチャック付きビニール袋に入ったリキッド2本を受け取ったが、その内容量を見ると結果的に1万4000円は高かった。不安っていうか、居心地悪いみたいな気持ちになったが、買った時には、これが違法なものとは全く思わなかった。ⓓ今回買ったCBDは4回、使ったが、使った時も、これが違 法なものかもしれないという不安がよぎったことはなかった。ⓔ大麻にはCBDとT った時には、これが違法なものとは全く思わなかった。ⓓ今回買ったCBDは4回、使ったが、使った時も、これが違 法なものかもしれないという不安がよぎったことはなかった。ⓔ大麻にはCBDとTHCがあって、THCは法律で禁止されているが、CBDは合法なものだと認識していた。 ⑶ しかし、検察官が上記⑴で指摘し、被告人が上記⑵で述べる本件で所持していたという本件液体の購入方法(時期、場所、方法、値段、購入相手)については、客観的証拠関係による裏付けや第三者供述による支えは何ら見当たらない。そもそも、被告人自身にとって不利な内容を述べるものだからといって、このような信用性に関する裏付けや支えが何らないまま上記⑴のような検察官主張の事実が積極的に存在するものとして、直ちにこれを事実認定の基礎とすることには慎重な姿勢が求められる。 そして、法律上は違法とされないCBDだからといっても、必ずしも事実上も、検察官が指摘するように、正規の店舗や販売網を通じて、正規の商品としてパッケージされているものばかりが流通しているとまではいえない。 仮に、本件液体の購入方法等が被告人が供述するとおりのものだったとしても、そのような取引自体が、名目上は違法とされないCBDの取引といいながら、売買当事者間では実質は大麻の違法成分を含むかもしれないとする取引としか考えられないものなどと捉えて、被告人には大麻を含む違法薬物であるかもしれないといった本件故意があったと強く推認させるものとはいえない。 また、購入時に不安感ないし居心地の悪さを感じたという点も、せいぜい購入に当たって生じた漠然とした危惧感にとどまり、その危惧感自体の対象が購入物の成分自体の違法性に向けられたものというだけに足りる証拠も見当たらない。 そうすると、仮に、被告人が述べる本件液体の購入先 に当たって生じた漠然とした危惧感にとどまり、その危惧感自体の対象が購入物の成分自体の違法性に向けられたものというだけに足りる証拠も見当たらない。 そうすると、仮に、被告人が述べる本件液体の購入先(購入方法)を検討しても、それが、本件故意の存在を推認させる力(推認力)は限定的である。 ⑷ そして、そもそも、本件の職務質問の端緒は、A警察官らが、被告人では なく、被告人と一緒にいた男性が単にきょろきょろと見回しながら本件コンビニに入っていく様子を不審に思ったことによるものであって、職務質問・所持品検査中、被告人において、大麻等の違法薬物の使用を窺わせるような身体的特徴と見られるような不審・異常な具体的な言動・様子は指摘されていない。また、ほかに、関係証拠によっても、被告人の居宅・立ち回り先や携帯電話等から、大麻等の違法薬物の使用・所持に関連するような物品や関係者との連絡等が確認されたという立証は何らされておらず、被告人に大麻等の違法薬物との結びつきを窺わせるような事情も認められない。 本件故意がなかった旨の被告人の公判供述を排斥することはできない。 4 結論以上によれば、検察官が主張する事実関係を踏まえて関係証拠を総合的に検討しても、本件故意が強く推認されるものではなく、被告人の公判供述及び警察官調書の供述の内容を併せ考慮しても、被告人の弁解を排斥することはできず、本件故意を認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 したがって、被告人に対する本件公訴事実についてはその証明が不十分であって、犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする(求刑懲役1年2月、大阪地方検察庁で保管中の大麻液体(カードリッジ入り)1個(同庁令和5年領第11261号符号1)の没収)。 するから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする(求刑懲役1年2月、大阪地方検察庁で保管中の大麻液体(カードリッジ入り)1個(同庁令和5年領第11261号符号1)の没収)。 令和6年10月31日大阪地方裁判所第8刑事部 裁判官角田康洋

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